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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058635
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】大腸癌の検出及び処置方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20220405BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220405BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220405BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220405BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220405BHJP
   C07K 14/71 20060101ALN20220405BHJP
   C07K 14/745 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
G01N33/543 545A
G01N33/53 D
G01N27/62 V
C07K14/47
C07K14/71
C07K14/745
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022004846
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2017529836の分割
【原出願日】2015-12-10
(31)【優先権主張番号】62/090,800
(32)【優先日】2014-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517189777
【氏名又は名称】ウイスコンシン・アルムニ・リサーチ・ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イバンシク,メラニー・メイ
(72)【発明者】
【氏名】サスマン,マイケル・リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ダブ,ウイリアム・フランクリン
(72)【発明者】
【氏名】アービング,エイミー・アン
(72)【発明者】
【氏名】プライマン,ジェニファー・キャスリーン
(72)【発明者】
【氏名】ハットリン,エドワード・レオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シャオディ
(72)【発明者】
【氏名】ヘゲマン,アドリアン・ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】レイチェルダーファー,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ケネディー,グレゴリー・ディー
(72)【発明者】
【氏名】ピックハート,ペリー・ジェイ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大腸癌の患者又は大腸癌を発症し易いかも知れない患者における低侵襲性の同定、診断及び治療的介入のために有用な方法、試薬ならびに診断及び予後マーカーを提供する。
【解決手段】癌性又は前-癌性結腸病変を有する患者の同定方法であって、(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関して患者からの生体試料をアッセイし、ここでタンパク質バイオマーカーは表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、などであり;(b)生体試料における1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定し;そして(c)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸病変のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を結腸病変を有すると同定することを含んでなる方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌性又は前-癌性結腸病変を有する患者の同定方法であって:
(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関して患者からの生体試料をアッセイし、ここでタンパク質バイオマーカーは表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、ジペプチジルペプチダーゼ4、ペプチダーゼインヒビター16、凝固因子V、C-反応性タンパク質、Rho-GDP解離インヒビター1イソ型A、ヘモペキシン、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]、トロンボスポンジン-4、コラーゲンアルフア-1(l)鎖、カドヘリン-2又はビトロネクチンであり;
(b)生体試料における1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定し;そして
(c)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸病変のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を結腸病変を有すると同定する
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
病変が前-癌性状態を含む請求項1の方法。
【請求項3】
病変が異形成組織、異常陰窩又は良性ポリープを含む請求項2の方法。
【請求項4】
病変がポリープ形成を含む請求項1の方法。
【請求項5】
ポリープが腺腫である請求項4の方法。
【請求項6】
ポリープが癌腫である請求項4の方法。
【請求項7】
癌腫がステージ1、ステージ2、ステージ3又はステージ4と分類される請求項6の方法。
【請求項8】
生体試料中の1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを、ステージ1、ステージ2、ステージ3又はステージ4癌腫を有する患者における該1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーの参照レベルと比較することにより、癌腫をステージ1、ステージ2、ステージ3又はステージ4と同定することをさらに含んでなる請求項6の方法。
【請求項9】
生体試料が血液、血清、血漿、尿、便又は唾液である請求項1の方法。
【請求項10】
(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに相同性を有する1種もしくはそれより多い合成ペプチドを選択し;
(b)合成ペプチドを生体試料と合わせ;そして
(c)組み合わせを物理的分離法に供する
ことを含んでなる方法により生体試料をアッセイする請求項1の方法。
【請求項11】
配列番号1から配列番号91までのいずれかに従う1種もしくはそれより多いペプチドから合成ペプチドを選択する請求項10の方法。
【請求項12】
表2に挙げられている1種もしくはそれより多いペプチドから合成ペプチドを選択する請求項10の方法。
【請求項13】
物理的分離法が液体クロマトグラフィーである請求項10の方法。
【請求項14】
合成ペプチドを同位体標識する請求項10の方法。
【請求項15】
1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルの決定が生体試料中のタンパク質バイオマーカーの濃度の絶対的定量を含む請求項1の方法。
【請求項16】
アッセイ段階が免疫学的アッセイを含む請求項1の方法。
【請求項17】
該免疫学的アッセイが酵素-結合イムノソルベントアッセイを含む請求項16の方法。
【請求項18】
決定段階が質量分析を含む請求項1の方法。
【請求項19】
結腸中にポリープ形成を有すると同定される患者に処置を施す段階をさらに含んでなる請求項1の方法。
【請求項20】
結腸中にポリープ形成を有すると同定される患者に大腸内視鏡検査を行う段階をさらに含んでなる請求項1の方法。
【請求項21】
方法が非-侵襲性である請求項1の方法。
【請求項22】
1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーが少なくともEGFR、LRG1、ITIH4及びF5を含む請求項1の方法。
【請求項23】
1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーが少なくともDPP4、LRG1、ITIH4、VTN、HPX、EGFR及びF5を含む請求項1の方法。
【請求項24】
1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーが少なくともEGFR、LRG1、ITIH3、ITIH4、DPP4、PI16、F5、CRP及びARHGDIAを含む請求項1の方法。
【請求項25】
1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーが少なくともLRG1、F5、VTN、MMP7、MMP10、CD44、ITIH3、ITIH4、HPX、CFI、SOD3及びCOL 1A1を含む請求項1の方法。
【請求項26】
(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関して患者からの生体試料をアッセイし、ここでタンパク質バイオマーカーは表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、ジペプチジルペプチダーゼ4、ペプチダーゼインヒビター16、凝固因子V、C-反応性タンパク質、Rho-GDP解離インヒビター1イソ型A、ヘモペキシン、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]、トロンボスポンジン-4、コラーゲンアルフア-1(l)鎖、カドヘリン-2及びビトロネクチンであり;
(b)生体試料における1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定し;そして
(c)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸におけるポリープ形成のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を大腸内視鏡検査を必要とすると同定する
ことを含んでなる大腸内視鏡検査に関する必要性を決定するための患者のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子的に提出されたテキストファイルの記載
本明細書に添えて電子的に提出されるテキストファイルの内容は、引用することによりそれらの全体が本明細書の内容となる:配列表(Sequence Listing)のコンピュータ読み取り可能フォーマットコピー(ファイル名:14-1895-WO_SeqList_ST25.txt、データの記録日:2015年12月10日、ファイルサイズ 21KB)。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、大腸癌の患者(individuals)又は大腸癌を発症し易いかも知れない患者における低侵襲性の同定、診断及び治療的介入のために有用な方法、試薬ならびに診断及び予後マーカーを提供する。本発明の特定の態様は、プロテオーム及びトランスクリプトームスクリーン中に存在する血清バイオマーカーを用い、それは大腸癌を発症しているかも知れない患者を同定し、特により侵襲性の診断方法(大腸内視鏡検査のような)に関する決定のための他の指標がない患者において、そのための根拠を提供する。さらなる特定の態様は、本明細書に提供される方法において用いるための血清バイオマーカーのパネルを提供する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の記載
大腸癌は近代国家における癌関連罹患率及び死亡率の主要な原因であり、発展途上世界において頻度が増しつつある(非特許文献1)。現局性大腸癌の初期の検出は、多くの場合にポリープ切除又は外科手術による完治に導くが、初期検出の様式(modality)は現在、感度及び特異性において限られており、スクリーニング推奨への患者アドヒアランスが低く、胃腸病専門臨床医の能力に負担を強いている(place a strain)(非特許文献2;非特許文献3)。現在推奨されているスクリーニング法(大腸内視鏡検査、CTスキャン又は便潜血反応検査)は非-特異的であり得るか、最も初期の手術可能な病変に関して非感受性であり得るか、又は高度に侵襲性であり得る(非特許文献4;非特許文献5)。対照的に、血液又は血清試料に基づく検出様式はもっとずっと広い患者のコンプライアンス及び臨床的適用範囲(coverage)を達成することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jemal et al.著,CA Cancer J Clin 2011,61,(2),69-90
【非特許文献2】Hopchik著,Gastroenterol Nurs 2013,36,(4),289-90
【非特許文献3】Kriza et al.著,Eur J Radiol 2013,82,(11),e629-36
【非特許文献4】Leng et al.著,J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2008,63,(8),879-84
【非特許文献5】Burt et al.著,J Natl Compr Canc Netw 2013,11,(12),1538-75
【発明の概要】
【0005】
発明の概略
本発明は、大腸癌の患者又は大腸癌を発症し易いかも知れない患者における低侵襲性の同定、診断及び治療的介入のために有用な方法、試薬ならびに診断及び予後マーカーを提供する。ある態様において、本発明は血清バイオマーカーならびに大腸癌のスクリーニング、検出、監視、処置及び予後評価の方法を含むこれらの血清バイオマーカーの使用方法を提供する。他の態様は、大腸癌の患者又は大腸癌を発症し易いかも知れない患者における低侵襲性の同定、診断及び治療的介入のために有用な合成ペプチドを提供する。
【0006】
1つの側面において、結腸における癌性又は前-癌性病変を有する患者の同定方法を本明細書に提供し、その方法は:(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関して患者からの生体試料をアッセイし、ここでタンパク質バイオマーカーは表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン(leucine-rich
alpha-2 glycoprotein)、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3(inter-alpha trypsin inhibitor heavy chain 3)、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、ジペプチジルペプチダーゼ4、ペプチダーゼインヒビター16、凝固因子V、C-反応性タンパク質、Rho-GDP解離インヒビター1イソ型A、ヘモペキシン、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]、トロンボスポンジン-4、コラーゲンアルフア-1(l)鎖、カドヘリン-2又はビトロネクチンであり;(b)生体試料における1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定し;そして(c)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸におけるポリープ形成のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を結腸の病変を有すると同定することを含んでなる。
【0007】
特定の態様において、本開示の方法により同定され且つ処置される病変は結腸における前-癌性状態を含む。例えば本開示の態様は、結腸における異形成、異常陰窩又は良性ポリープの同定方法を提供する。
【0008】
いくつかの態様において、本開示の方法により同定される病変はポリープ形成を含む。特定の態様において、ポリープは腺腫又は癌腫である。他の態様において、癌腫はステージ1、ステージ2、ステージ3又はステージ4として分類される。さらに別の態様において、本開示の方法は癌腫をステージ1、ステージ2、ステージ3又はステージ4癌腫として同定するために有用である。
【0009】
特定の態様において、方法は生体試料、例えば制限ではなく血液、血漿又は血清について行われる。
【0010】
他の態様において:(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに相同性を有する1種もしくはそれより多い合成ペプチドを選択し;(b)合成ペプチドを生体試料と合わせ;そして(c)組み合わせを物理的分離法に供することを含んでなる方法により生体試料をアッセイする。特定の態様において、物理的分離法は液体クロマトグラフィーである。他の特定の態様において、合成ペプチドを同位体標識する。さらに別の特定の態様において、アッセイ段階は酵素結合イムノソルベントアッセイのような免疫学的アッセイを含む。
【0011】
他の態様において、決定段階は質量分析を含む。
【0012】
他の態様において、方法はさらに、結腸におけるポリープ形成を有すると同定される患者に処置を施す段階を含む。さらに別の態様において、方法はさらに、結腸におけるポリープ形成を有すると同定される患者に大腸内視鏡検査を行う段階を含む。他の態様において、方法は非-侵襲性である。
【0013】
別の側面において、(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関して患者からの生体試料をアッセイし、ここでタンパク質バイオマーカーは表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、ジペプチジルペプチダーゼ4、ペプチダーゼインヒビター16、凝固因子V、C-反応性タンパク質、Rho-GDP解離インヒビター1イソ型A、ヘモペキシン、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]、トロンボスポンジン-4、コラーゲンアルフア-1(l)鎖、カドヘリン-2及びビトロネクチンであり;(b)生体試料における1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定し;そして(c)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸におけるポリープ形成のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を大腸内視鏡検査を必要とすると同定することを含んでなる大腸内視鏡検査に関する必要性を決定するための患者のスクリーニング方法を本明細書において提供する。
【0014】
さらに別の態様において、大腸内視鏡検査又はポリープ切除法によるさらなる評価又は処置を含むがこれらに限られないさらなる臨床的評価又は処置から利益を得る患者の同定方法を提供する。他の態様において、外科手術-後又はポリープ切除-後の患者の監視を提供する。さらに別の態様において、開示される方法は、化学予防薬又は化学治療薬への患者の反応性を監視するために有用である。
【0015】
さらに、現存する大腸スクリーニング、診断、予後及び処置法の有用性を強化することができる方法を提供する。従って本明細書で開示されるある種の態様は、大腸内視鏡検査、S状結腸鏡検査、CTスキャン又は便潜血反応検査、便免疫化学的検査及び他の便に基づくスクリーニング又は診断法を含むがこれらに限られない当該技術分野において既知の他の方法との組み合わせにおいて有用である。
【0016】
大腸癌及び前癌性状態のスクリーニング、診断、予後及び処置への用途を含むがこれらに限られない臨床的用途を有するタンパク質バイオマーカーも本明細書に提供する。ある種の態様において、タンパク質バイオマーカーは表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、ジペプチジルペプチダーゼ4、ペプチダーゼインヒビター16、凝固因子V、C-反応性タンパク質、Rho-GDP解離インヒビター1イソ型A、ヘモペキシン、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]、トロンボスポンジン-4、コラーゲンアルフア-1(l)鎖、カドヘリン-2又はビトロネクチンあるいは予後、診断又は処置に有用なそれらのいずれかの組み合わせを含む。
【0017】
ある種の態様において、本明細書に開示されるタンパク質バイオマーカーのサブセットから成るタンパク質バイオマーカーのパネルを提供する。特定の態様において、(a)タンパク質バイオマーカーのパネルのレベルに関して患者からの生体試料をアッセイし;(b)生体試料におけるタンパク質バイオマーカーのパネルのレベルを決定し;そして(c)パネル中の1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸におけるポリープ形成のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を大腸内視鏡検査を必要とすると同定することを含んでなる方法を提供する。いくつかの態様において、少なくともバイオマーカー:LRG1、F5、VTN、MMP7、MMP10、CD44、ITIH3、ITIH4、HPX、CFI、SOD3及びCOL1A1を含んでなるタンパク質バイオマーカーのパネルを提供する。他の態様において、少なくともバイオマーカー:EGFR、LRG1、ITIH4及びF5を含んでなるタンパク質バイオマーカーのパネルを提供する。さらに別の態様において、少なくともバイオマーカー:DPP4、LR
G1、ITIH4、VTN、HPX、EGFR及びF5を含んでなるタンパク質バイオマーカーのパネルを提供する。さらにもっと別の態様において、少なくともバイオマーカー:EGFR、LRG1、ITIH3、ITIH4、DPP4、PI16、F5、CRP及びARHGDIAを含んでなるタンパク質バイオマーカーのパネルを提供する。
【0018】
本発明のこれらの及び他の特徴及び利点は、添付の請求項と一緒に理解される以下の本発明の詳細な記載からさらに十分に理解されるであろう。請求項の範囲はそこにおける詳述により定義され、本記述中に示される特徴及び利点の特定の議論により定義されないことが注目される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面の簡単な記述
図1】標的化定量的プロテオミクス実験のワークフローを示す図。適した同位体標識された参照標準を、酵素消化の前にタンパク質抽出物中に添加する(spiked)。ペプチドを逆-相クロマトグラフィーによりクロマトグラフィー的に分離し、続いて三連四重極型質量分析計(QQQ-MS)を用いる直列する分析を行い、そこで標的化前駆体及びフラグメントイオン質量(トランジション体(transitions))を選択する。内因性フラグメントイオン及び参照標準フラグメントイオンの抽出されたイオンのクロマトグラム面積を比較することにより定量を行う。そのような標的化定量的プロテオミクス法は選択反応モニタリング(SRM)又は多重反応モニタリング(MRM)法としても既知である。
図2】標的化分析のためのペプチドの選択のための基準を示す図。ペプチドを標的化分析に用いるために、“Tier 1”基準を満たさねばならない。“Tier 2”基準は、標的化質量分析アッセイにおいて内因性ペプチドが可視である機会を最大にする。“Tier 3”基準は複数の種における標的化分析のために考慮されるべきである。
図3】ApcPirc/+ラットモデル(“Pircラット”)における正常な結腸組織及び腫瘍組織における遺伝子発現プロファイリングの選ばれた結果を示すグラフ。Agilent Whole Genome Microarrayにより、正常な組織と比較して腫瘍において上方調節された遺伝子転写産物が同定された。これらの候補は:1)腫瘍中のmRNA発現レベルにおける5-倍かもっと高い上方調節を示す、2)既知の又は予測される分泌タンパク質をコードする、及び3)ヒト結腸癌にいくつかの既知の生物学的有意性を有する遺伝子を表す。
図4】選択反応モニタリング質量分析実験(SRM-MS)確認スクリーニングのために選ばれた候補のまとめ。SRM-MSを用い、これらのタンパク質のそれぞれからのペプチドの内因性形態をF1-Pircラットの血清において定量可能なレベルで同定することに成功した。
図5A】ある時間経過に及んで示される血清中のタンパク質バイオマーカー発現を示すグラフ。
図5B】大腸腫瘍負荷の関数として示される血清中のタンパク質バイオマーカー発現を示すグラフ。
図6A】バイオマーカーEGFRの受診者操作特性(Receiver Operator Characteristic)(ROC)分析を示し、F1-Pircラット血清における腫瘍の検出のためのタンパク質バイオマーカーとしての診断的有用性を示しているグラフ。
図6B】バイオマーカーLRG1の受診者操作特性(ROC)分析を示し、F1-Pircラット血清における腫瘍検出のためのタンパク質バイオマーカーとしての診断的有用性を示しているグラフ。
図6C】バイオマーカーITIH4の受診者操作特性(ROC)分析を示し、F1-Pircラット血清における腫瘍検出のためのタンパク質バイオマーカーとしての診断的有用性を示しているグラフ。
図6D】バイオマーカーITIH3の受診者操作特性(ROC)分析を示し、F1-Pircラット血清における腫瘍検出のためのタンパク質バイオマーカーとしての診断的有用性を示しているグラフ。
図7】F1-Pircラットからの血清における腫瘍検出のための表皮成長因子受容体(EGFR)、ロイシン-リッチアルファ-2-グリコプロテイン(LRG1)、インター-アルファトリプシンインヒビター、重鎖H4(ITIH4)及び凝固因子V(F5)から成るパネルのROC分析を示すグラフ。
図8】動物モデルにおいて同定されるバイオマーカーが大腸癌のヒト又は結腸癌の前癌段階のヒトに関して予測し、診断し、及び予後を決定する能力を決定するヒト臨床研究の設計を示す図。
図9A-9J】健康な(「対照」)群及び前癌性(ステージ0)又は癌性(ステージ1-3)]結腸病変を有する患者から成るヒト集団において研究された、示されるバイオマーカーに関する結果を示すグラフ。上のパネルは、合成参照標準に対して評価される患者群において観察されるバイオマーカーレベルの棒プロットを示す。内因性ペプチド対合成ペプチド参照標準の比としてデータを表す。患者群は健康な患者(対照)あるいはステージ0、ステージ1、ステージ2又はステージ3病変を有する患者を含む。平均(“Avg”)癌はステージ0-3を合わせて含む。“n-”の値は各郡中の患者の数を示す。エラーバーは平均生物学的標準誤差を示す。下のパネルは、結腸病変(ステージ0-3及び合された平均)を有する患者において観察されるバイオマーカー発現レベル対健康な対照患者における同じバイオマーカー発現レベルの比の棒プロットを示す。各棒は、対照患者及び結腸病変を有する患者の間の示されるバイオマーカーの倍変化(fold change)を示す。定量された比を各棒プロットに関して、各比に関する両側t検定(2-tailed t-tests)からのP-値と共に示す。
図10】既知の腺腫を有する12人の患者における相対的なCol 1a1バイオマーカー発現レベルを示すグラフ。上のパネルは、ポリープ除去の前(“pre-poly”)及びポリープ除去から3-4週間後の発現を示す。下のパネルは、ポリープ除去後のCol 1a1バイオマーカーデータにおける倍-変化として同じデータを示す。
図11】LRG1及びITIH3に関する正常な発現レベルに向かうポリープ切除-後の復帰を示すグラフ。これらのグラフにおける患者1及び2はそれぞれ3個の成長中の腺腫を有した。棒グラフは、内部参照標準と内因性血清ペプチドの間の面積比を示す。
【0020】
発明の詳細な記述
本発明において引用するすべての出版物、特許及び特許出願は、引用することによりそれらの内容がすべての目的のために明らかに本明細書の内容となる。
【0021】
結腸の癌性又は前癌性病変を有する患者の同定及び処置のための非-侵襲性方法を本明細書に提供する。本明細書で用いられる「病変」は、結腸の異常な領域を指し、異形成、異常陰窩ならびに良性又は癌性ポリープを含む。
【0022】
本明細書で用いられる「ポリープ」は、大腸癌の4つのステージのいずれかにおいて存在するポリープあるいは前癌性状態のポリープを指す。本明細書で用いられる場合、「大腸癌」は、American Joint Committee on Cancer(AJCC)によりTNMシステム(組織学的性質(T)、近くのリンパ節における腫瘍の存在(N)及び転移拡散(M)を評価する)に従って分類されるステージ1からステージ4の範囲の4つのステージのいずれかから成る悪性の状態を指す(Gunderson,L.L.et al.著,J Clin Oncol 2010,28,(2),264-71;Greene,F.L.著,Bull Am Coll Surg 2002,87,(7),13-5)。(表1)。
【0023】
【表1】
【0024】
本明細書で用いられる場合、「前-癌性状態」は人に結腸癌の傾向を持たせる(dispose)前-浸潤性、前-転移性病変を有する患者を指す。例には異形成、異常陰窩の存在及び腺腫の存在が含まれる。AJCCは、腺腫を“Tis”のT-ステージにより前-癌性ポリープ(「ステージ0」)として正式に特性化しており、ここで“is”は非浸潤性癌腫(carcinoma in situ)を示す。Tis腺腫は腸壁の浸潤なく大腸粘膜中に位置するポリープにより特徴付けられる。(表1)。
【0025】
いくつかの態様において、患者の結腸における病変の臨床的ステージの分析方法を提供する。本明細書で用いられる場合、「ステージ」又は「ステージング」は、結腸における癌性又は前-癌性病変の進行及び重度を記述するために用いられる1つもしくはそれより多い臨床的な分類システムを指す。大腸腫瘍のステージは、腸壁、所属リンパ節(regional lymph nodes)及び隣接組織中への腫瘍浸潤の位置及びレベルを記述する。
【0026】
本開示の態様と関連して用いられる腫瘍ステージングシステムの排他的ではない例はTNMシステム(Gunderson,L.L.et al.著,J Clin Oncol 2010,28,(2),264-71;Greene,F.L.著,Bull Am Coll Surg 2002,87,(7),13-5)(表1)である。TNMシステムにおいて、ステージ1及び2はリンパ節の浸潤又は転移がなく(N0 M0)、それぞれT1又はT2及びT3又はT4のT-ステージを有する。ステージ1病変は粘膜下及びおそらく筋肉層中に進んでいる(passed into)。ステージ2病変は漿膜に浸潤し、腸壁を介して成長しているかも知れないが近隣のリンパ節に浸潤していない。ステージ3病変は非常に複雑で3つの細分類を有するが、いずれかのT-ステージ及びいくつか又は多くの近隣リンパ節の浸潤を有することで広く特徴付けられ得る。悪性転移性結腸癌を構成するステージ4はいずれのT及びN分類も有し得るが、他の器官、最も普通には肝臓に転移している。(表1)。
【0027】
当該技術分野における熟練者は、本開示の方法と関連して有用な別のステージングシステムを認識するであろう。他のステージングシステムの例にはDukeの分類システム(Dukes,C.E.著,Journal of Pathological Bacteriology 1932,35:323)及びAstler-Coller分類システム(Astler V.B and Coller F.A.著,Ann Surg 1954,139:846)が含まれる。
【0028】
いくつかの態様において、患者の結腸における病変の臨床的悪性度を分析するための方法を提供する。本明細書で用いられる場合、「腫瘍悪性度」は、腫瘍細胞が正常な結腸組織細胞に分化した程度を記述する組織学的評価を指す。現在の腫瘍悪性度分類は結腸癌分類のTNM指針の一部であり、G1からG4の範囲がある。G1と評価される細胞は組織学的に最も健康な結腸組織細胞のように見える。G2と評価される細胞は中程度に分化しており、G3と評価される細胞はあまり分化しておらず、G4細胞は分化していない。より高い悪性度の細胞はより急速に成長する傾向があり、癌処置の方法に影響し得る。いくつかの態様において、本明細書に提供されるタンパク質バイオマーカー及び方法は細胞分化のレベル(腫瘍悪性度)を評価するために用いられ得、患者処置戦略に影響を与えることができる。
【0029】
1つの特定な側面において、結腸におけるポリープ形成を有する患者の同定方法を本明細書に提供し、その方法は(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関して患者からの生体試料をアッセイし;(b)生体試料における1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定し;そして(c)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸におけるポリープ形成のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を結腸におけるポリープ形成を有すると同定することを含んでなる。適したタンパク質バイオマーカーには表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、ジペプチジルペプチダーゼ4、ペプチダーゼインヒビター16、凝固因子V、C-反応性タンパク質、Rho-GDP解離インヒビター1イソ型A、ヘモペキシン、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]、トロンボスポンジン-4、コラーゲンアルフア-1(l)鎖、カドヘリン-2、ビトロネクチン、マルターゼグルコアミラーゼ、イソシトレートデヒドロゲナーゼ、ピルベートキナーゼm2、ビタミンD結合タンパク質、CD44抗原、CEACAM5、カテプシンB(cathespin B)、血清アミロイドP、フェチュインB、マトリリシン、補体因子1、ヘパリン補因子2、スルフヒドリルオキシダーゼ1、トロンボスポンジン4及び受容体-型チロシン-タンパク質ホスファターゼmuが含まれる。
【0030】
【表2】
【0031】
別の側面において、本方法の実施に有用なバイオマーカーとしてインター-アルファ-トリプシンインヒビター、重鎖H3(ITIH3)及び重鎖4、イソ型1(ITIH4)を提供する。インター-アルファトリプシンインヒビターは細胞外マトリックス上のヒアルロン酸の共有結合及び安定化に含まれる(Chen,L.et al.著,J Biol Chem 1994,269,(45),28282-7)。ヒアルロナンは、結腸ポリープ及び腫瘍の成長と共に寸法が増加することが知られている大きな上皮グリコサミノグリカン複合体である(Misra,S.et al.著,Connect Tissue Res 2008,49,(3),219-24)。さらに、ITIH3はヒト胃癌患者の血漿中で上方調節されることが以前に同定されており、結腸癌における転移及び腫瘍浸潤活性の予防において予測される役割を有する(Misra,S.et al.著,Connect Tissue Res 2008,49,(3),219-24;Chong,P.K.et al.著,J Proteome Res 2010,9,(7),3671-9)。
【0032】
さらに、本方法の実施に有用なバイオマーカーとして表皮成長因子受容体(EGFR)を提供する。EGFRは劣った腫瘍予後に関係があるとされる(Lieto,E.et al.著,Ann Surg Oncol 2008,15,(1),69-79)。
【0033】
本方法の実施に有用なバイオマーカーとして炎症反応に含まれるある種の酵素を提供する。アルファ-1-アンチトリプシン1-5はプロテアーゼインヒビターであり、それは炎症酵素の放出から組織を保護するのを助け、多くの場合に急性炎症反応の間に濃度が上昇する(Foell,D.et al.著,Gut 2009.58,(6),859-68)。このタンパク質は、ヒト結腸癌患者からの便試料中及び血清中で上昇したレベルで同定された(Foell,D.et al.著,Gut 2009.58,(6),859-68;Ward,D.G.et al.著,Br J Cancer 2006,94,(12),1898-905)。ロイシン-リッチアルファ-2-グリコプロテイン(LRG1)及びフェチュイン-Bは急性期反応及び炎症において役割を果たすと思わ
れる(Hsu,S.J.et al.著,Genome 2004,47,(5),931-46;Shirai,R.et al.著,Biochem Biophys Res Commun 2009,382,(4),776-9)。LRG1は複数のマウスの研究において上方調節を示し、ヒト結腸癌患者の血漿において上方調節されることが示された(Hung,K.E.et al.著,Cancer Prev Res(Phila)2009,2,(3),224-33;Chong,P.K.et al.著,J
Proteome Res 2010,9,(7),3671-9;Shirai,R.et al.著,Biochem Biophys Res Commun 2009,382,(4),776-9);Ladd,J.J.et al.著,Cancer Prev Res(Phila)2012,5,(4),655-64)。
【0034】
LRG1は結腸癌のヒト及びネズミモデルの血液において上方調節される急性期反応タンパク質である(Ivancic,M.M.et al.著,J Proteome Res 2013,12,(9),4152-66;Chong,P.K.et al.著,J Proteome Res 2010,9,(7),3671-9;Ladd,J.J.et al.著,Cancer Prev Res(Phila)2012,5,(4),655-64;Ivancic,M.M.et al.著,Cancer Prev Res 2014,55,7(11);1160-9)。研究はこのタンパク質が潰瘍性大腸炎の患者の血清においても上方調節されることを示し、LRG1が腸疾患の全身的指標(systemic indicator)でもあり得ることを示唆している(Serada,S.et al.著,Inflamm Bowel Dis 2012,18,(11),2169-79)。1つの研究は、LRG1がALK1-SMAD 1,5及び8との相互作用を介するTGF-β経路によるシグナリングを介して内皮細胞形成を促進し、かくして血管新生状態を誘導することを示した(Wang,X.et al.著,Nature 2013,499,(7458),306-11)。腫瘍浸潤及び転移の基本的な属性の1つである血管新生は腫瘍形成中の非常に初期に引き起こされ得る(Hanahan,D.et al.著,Cell 2011,144,(5),646-74)。他の研究は、血漿におけるLRG1の循環レベルが大腸癌を診断し、結腸、直腸S状結腸移行部及び直腸内の局所的腫瘍限局(regional tumor localization)を同定するために有用であり得ることを示した(Surinova,S.et al.著,EMBO Mol Med 2015,7,1153-1165;Surinova,S.et al.著,EMBO Mol Med 2015,7,1166-1178)。
【0035】
本方法の実施に有用なバイオマーカーの1つとしてマルターゼ-グルコアミラーゼ(MGAM)も提供する。MGAMはデンプン異化における最終段階を触媒するために必要な腸タンパク質である(Real,F.X.et al.著,Int J Cancer 1992,51,(2),173-81;Young,G.P.et al.著,J Gastroenterol Hepatol 1992,7,(4),347-54)。ヒト結腸上皮上のMGAM発現を正常な上皮上の発現と比較する免疫組織化学的研究は、この酵素の発現の低下を示した(Real,F.X.et al.著,Int J Cancer 1992,51,(2),173-81;Young,G.P.et al.著,J Gastroenterol Hepatol 1992,7,(4),347-54)。MGAMは腸に非常に特異的であるが、1個の貫膜パス(transmenbrane pass)及び細胞内に非常に小さいドメインを有する非常に大きな(1827アミノ酸)タンパク質である(Sim,L.et al.著,J Mol Biol 2008,375,(3),782-92)。酵素の刷子縁活性は完全に細胞の外部に局在する。かくしてこのタンパク質は血液中に放出され得る。
【0036】
さらに本方法の実施に有用なバイオマーカーの1つとしてコラーゲン-1 1(I)型
アルファ1(COL 1A1)を提供する。癌研究において下方調節されたCOL 1A1が以前に報告され、それは発癌性形質転換の一部として役割を果たすと考えられる(Sengupta ,P.et al.著,J Biol Chem 2005,280,(22),21004-14)。その多くの機能の中で、COL 1A1は結腸癌の初期ステージに構成的に活性な経路である古典的WNTシグナリング経路の正の調節物質である(Medici,D.et al.著,Matrix Biol 2010,29,(3),161-5)。COL 1A1及びLRP5発現は通常、骨基質形成において連結しており、骨疾患において誤調節される。LRP5はWNTシグナリング経路におけるfrizzled受容体との共同受容体である。
【0037】
本方法の実施に有用なバイオマーカーの1つとして凝固因子V(F5)も提供する。F5は活性化凝固因子X(Xa)のための補因子であり、それはプロトロンビンを切断して、血液凝固に肝要である活性トロンビンタンパク質を形成するのを助ける(Davie,E.W.et al.著,Biochemistry 1991,30,(43),10363-70)。止血における障害(perturbation)は、結腸癌患者における実証されている(documented)合併症としての静脈血栓塞栓症と共に、通常観察される癌の副作用である(Falanga,A.et al.著,J Thromb
Haemost 2013,11,(2),223-33;Alcalay,A.et
al.著,J Clin Oncol 2006,24,(7),1112-8)。フィブリノゲン、F5及び他の凝固因子のような血液凝固物質(coagulants)は結腸癌患者においてレベルが上昇した(Paspatis,G.A.et al.著,Pathophysiol Haemost Thromb 2002,32,(1),2-7;Vossen,C.Y.et al.著,J Clin Oncol 2011,29,(13),1722-7)。さらに、F5は第5因子ライデン凝固疾患(Factor V Leiden coagulation disease)とのその関連に関して最も知られている。第5因子ライデンはR506Q突然変異を含む一塩基多型(single nucleotide polymorphism)(SNP)により引き起こされる。この突然変異は活性化プロテインC抗凝固タンパク質がF5に結合する能力を低下させる。活性化プロテインCとF5の間の正常な相互作用はF5の分解に導く。しかしながらこの相互作用の不在下で、F5レベルは上昇し、過剰な凝固を引き起こす。第5因子ライデン突然変異に関してホモ接合である患者は大腸癌に関してほとんど6-倍増加した危険を示す(Vossen,C.Y.et al.著,J Clin Oncol 2011,29,(13),1722-7)。最近のバイオマーカー研究は、F5が転移性大腸癌に対して限局性大腸癌を区別するための血漿マーカーであり得ることを示した(Surinova,S.et al.著,EMBO Mol Med 2015,7,1153-1165)。
【0038】
別の側面において、本方法の実施に有用なバイオマーカーの1つとしてビトロネクチン(VTN)を提供する。ビトロネクチンは細胞接着及び拡散を促進することが示されており、悪性腫瘍(tumor malignancy)において示されている(Felding-Habermann,B.et al.著,Curr Opin Cell Biol 1993,5,(5),864-8)。このタンパク質はまた、いくつかのセルピンセリンプロテアーゼインヒビターへの結合を介して、末端細胞溶解性補体経路(terminal cytolytic complement pathway)中に含まれるいくつかのタンパク質の膜-傷害効果を阻害する(Milis,L.;Morris,C.A.et al.著,Clin Exp Immunol 1993,92,(1),114-9)。補体因子B、補体C5及び補体C4-Bを含むネズミモデルにおけるいくつかの補体因子の大きく且つ一貫した上方調節は、ビトロネクチンがこれらの上方調節されたタンパク質の傷害効果を部分的に軽減できたことを示唆している。ビトロネクチンは、結腸、直腸S状結腸移行部及び直腸内の局所的腫瘍限局に関するマーカーでもあり得
る(Surinova,S.et al.著,EMBO Mol Med 2015,7,1153-1165)。
【0039】
さらに、本方法の実施に有用なバイオマーカーとしてカテプシンB及びEを提供する。カテプシンEは胃アスパルチルプロテアーゼであり、それは胃の粘膜生産性上皮細胞上に最も高いレベルで見出される(Caruso,M.et al.著,Virchows Arch 2009,454,(3),291-302)。それは通常胃癌において上方調節される。カテプシンBは結腸腫瘍細胞の表面上で、血漿中で高められた量で同定され、以前に負の結腸癌予後に結び付けられた(Hung,K.E.et al.著,Cancer Prev Res(Phila)2009,2,(3),224-33;Cavallo-Medved.D.et al.著,Neoplasia 2003,5,(6),507-19)。プロテアーゼインヒビター(及び本方法の実施に有用なバイオマーカー)であるアルファ-2-マクログロブリンは、これらの2つのカテプシンと相互作用することが示された(Shibata,M.et al.著,Eur J Biochem 2003,270,(6),1189-98;Mason,R.W.著,Arch
Biochem Biophys 1989,273,(2),367-74)。
【0040】
本発明のある側面は、タンパク質バイオマーカーに関して生体試料をアッセイすることを提供し、ここでアッセイ段階は生体試料から所望のペプチドを抽出し、抽出されたペプチド混合物を分離することを含む。特定の態様において、問題の生物学的材料からタンパク質を抽出し、単離されるタンパク質を、プロテアーゼを用いて酵素的に消化し、ペプチドフラグメントを生成させる。逆-相クロマトグラフィーを用い、複合ペプチド混合物をクロマトグラフィーにより分離する。特定の態様において、逆相クロマトグラフィーは高pH逆相クロマトグラフィーである。あるいはまた、オフラインイオン交換クロマトグラフィー又は高pH逆-相クロマトグラフィーを用いて、複合ペプチド混合物をクロマトグラフィーにより分離する。さらに、当該技術分野における熟練者は、本方法の態様の実施のために他の抽出及び分離法が適していることを認識するであろう。
【0041】
特定の態様において、酵素消化の前に安定な同位体標識された標準をタンパク質抽出物に添加する。参照標準は、相対的又は絶対的定量のために用いられ得る(Yocum,A.K.and Chinnaiyan,A.M.著,Brief Funct Genomic Proteomic 2009,8,(2),145-57)。通常の絶対的定量法はAQUA(絶対的定量(Absolute QUAntification)を示す)として知られる。AQUAペプチドは、既知の濃度で試料中に添加される重い安定な同位体アミノ酸以外は、配列において内因性ペプチドと同一である。かくしてAQUAペプチドと比較すると、内因性ペプチドの正確な濃度を決定することができる(Gerber,S.A.et al.著,Proc Natl Acad Sci USA 2003,100,(12),6940-5)。安定な同位体-標識されたペプチドの正確な濃度が未知の場合、ペプチドを既知の比率で試料中に添加し、相対的な定量のために用いることができる。それぞれ安定な同位体標識されたタンパク質(PSAQ)又はコンカテマー(QconCAT)を用いて、全タンパク質として又は合成の連結されたトリプシンペプチドとして参照標準を生体内で作ることもできる(Kaiser,S.E.et al.著,Nat Methods 2011,8,(8),691-6,130)。
【0042】
本明細書で開示される特定の態様は、低いレベルの内因性ペプチドを分解し(resolve)、定量的ピーク積分のためにピークの形を最適化するように最適化された逆-相クロマトグラフィーを用いる。例えばある態様において、HPLC系はNanoflex
cHiPLC系が備えられたEksigent Nano 2D LCである。ペプチドを捕獲し、逆-相勾配でクロマトグラフィー的に溶離するために用いられるC18マイクロ流体チップ(microfluidic chips)を、場合によりNanofl
ex系に備えることができる。さらに、ピーク分解能への温度の効果を最適化するためにカラムヒーターを、場合によりNanoflex系に備えることができる。
【0043】
特定の態様において、本明細書に提供される方法は、共-溶離される種の数を変え、局在する試料の複雑さを低下させることにより、低含量の内因性ペプチドを同定するために最適化されたクロマトグラフィーの勾配長を用いる。従って特定の態様において、本発明の方法はクロマトグラフィー分離のために90-分の有効勾配長を提供する。
【0044】
高い特異性を達成するために、参照標準のペプチドアミノ酸配列はタンパク質バイオマーカーに独特である(Lange,V.et al.著,Mol Syst Biol 2008,4,222)。良いクロマトグラフィーピークの形、適切なイオン化及び最適のフラグメント化を達成するために、ペプチドの長さは約6-20アミノ酸に保たれる(Picotti,P.et al.著,Nature 2013,494,(7436),266-70;Elias,J.E.et al.著,Nat Methods 2005,2,(9),667-75;Kirkpatrick,D.S.et al.著,Methods 2005,35,(3),265-73)。ある態様において、最も強いフラグメントイオンを与えるようにペプチド衝突エネルギーを最適化し、与えられるサイクル時間に及んで限られた数のトランジション体のみが分析されるようにスケジューリング法を実施する。当該技術分野における熟練者は、スケジューリングが、特定のイオンに関するシグナルを最大にするために滞留時間(トランジション体が分析される時間の長さ)を延長する能力が有することを認識するであろう。1つの態様において、5-7分のスケジューリング枠(window)が選ばれ、本方法において用いられるペプチドのための1.5-秒のサイクル時間内に少なくとも20ミリ秒かもしくはそれよれ長い滞留時間を生ずる。あるいはまた、種々の長さのスケジューリング枠も包含される。
【0045】
参照標準としての安定な同位体の使用は、同じ分析内で2種かもしくはそれより多い試料を直接比較し、かくして標識なしの方法において観察される実験から実験への変動(run-to-run variability)に関連する問題を取り除くことができるようにする。標的タンパク質バイオマーカーに独特のこれらの標準は、標的内因性ペプチドバイオマーカーからそれを区別するために重い安定な同位体標識されたアミノ酸を含有する。さらに、これらの参照標準は、複雑なタンパク質消化物中に複数の類似のペプチド配列が存在する場合に正しい問題のペプチド異性体を同定することを助ける能力も有し、かくしてアッセイの特異性に寄与する(Banack,S.A.et al.著,Toxicon 2010,56,(6),868-79)。
【0046】
ある態様において、質量分析を用いて生体試料中の1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定する。特定の態様において、選択反応モニタリング質量分析(SRM-MS)を用いてタンパク質バイオマーカーのレベルを決定する。他の態様において、スペクトラルカウンティング(spectral counting)、アイソバリックマスタギング(isobaric mass tagging)又はイオンモビリティー質量分析を含むがこれらに限られない他の定量的質量分析法を用いて、生体試料中の1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定する。
【0047】
さらなる態様において、1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーの絶対濃度を決定する。いくつかの態様において、SRM-MSをAQUA法と組み合わせて用い、1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーの絶対濃度を決定する。
【0048】
他の態様において、特許請求される方法の決定段階は質量分析法に代わる手段を用いる。例えばある態様において、当該技術分野に既知の日常的な免疫測定法を用いてタンパク質バイオマーカーのレベルを決定する。そのような免疫測定法には酵素-結合イムノソル
ベントアッセイ(ELISA)、タンパク質アレー(protein arrays)、ウエスターンブロッティング(Western blotting)、フローサイトメトリー細胞選別、免疫組織化学、免疫細胞化学又はイムノサイトメトリーが含まれるがこれらに限られない。本開示の方法のいくつかの態様において、決定段階はマイクロ流体チップに基づくELISAs又はウエスターンを含むがこれらに限られない日常的な免疫測定法への変形を含む。
【0049】
さらに別の態様において、本開示の方法の決定段階は電気泳動による定量を用いる。例えばいくつかの態様において、決定段階は、制限ではなく一次元又は二次元電気泳動あるいはキャピラリー電気泳動を含む。当該技術分野における熟練者は本開示の実施に適したさらに別の定量的電気泳動法を認識するであろう。
【0050】
さらに別の態様において、通常のタンパク質定量法により生体試料中の1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定する。例えばある態様において、制限ではなくUV-VIS分光分析法、ブラッドフォード法(Bradford)、BCA又はローリーアッセイ(Lowry assay)を用いて1種もしくは複数種のバイオマーカーのレベルを決定する。いくつかの態様において、1種もしくは複数種のバイオマーカーのレベルの決定は、生体試料からバイオマーカーを精製した後に行われる。
【0051】
他の態様において、本開示の決定段階は、生体試料を1つもしくはそれより多くのクロマトグラフィー定量法に供することを含む。液体クロマトグラフィー法の例にはカチオン交換、アニオン交換、逆-相及びサイズ排除クロマトグラフィーが含まれる。当該技術分野における熟練者は、クロマトグラフィーピークの下の面積が生体試料中に存在するバイオマーカーの相対的な量を表すものであることを認識するであろう。
【0052】
1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーの発現レベルが結腸におけるポリープ形成のない患者において検出される発現レベルと異なる場合に、患者は結腸におけるポリープ形成を有すると同定される。ある態様において、結腸におけるポリープ形成のない患者のレベルは、ポリープ形成又は結腸癌を有していなかった以前に検査された患者からのタンパク質マーカーのデータベースに由来する。あるいはまた、患者の生体試料中で異なって発現されるバイオマーカーのレベルを、癌又は前癌のない患者からの生体試料に相対的に測定する。
【0053】
本明細書で用いられる場合、「異なって発現される」は、2つもしくはそれより多くの生体試料において決定されるバイオマーカーの間の、あるいは生体試料において決定されるバイオマーカーとバイオマーカー参照標準の間の比較を指し、ここで測定されるバイオマーカーの発現レベルは比較される生体試料の間で、あるいは生体試料と参照標準の間で異なる。いくつかの態様において、異なる発現は、比較されるバイオマーカーレベルにおける上昇を含む。他の態様において、異なる発現は、比較されるバイオマーカーレベルにおける低下を含む。さらに別の態様において、異なる発現は、比較されるバイオマーカーにおける時間を経ての変化を含む。さらにもっと別の態様において、異なる発現は、比較されるバイオマーカーにおける患者の結腸中に存在するポリープ又は腫瘍の異なるステージの間の変化を含む。さらに別の態様において、異なる発現は、比較されるバイオマーカーにおける患者の結腸中に存在する病変の処置の間の変化を含む。
【0054】
態様において、患者の結腸における病変の存在又はステージを決定するために、本開示の1種もしくは複数種のバイオマーカーの異なる発現を用いる。特定の態様において、異なる発現は、生体試料中の1種もしくは複数種のバイオマーカーのレベルにおける参照生体試料からの、あるいはバイオマーカー参照標準からの変動を含む。いくつかの態様において、1種もしくは複数種のバイオマーカーにおける対応する参照量からの約10%、約
20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%又は約90%の変動は、患者の結腸における病変の存在又はステージの指標である。別の態様において、1種もしくは複数種のバイオマーカーにおける対応する参照量からの約2-倍、約4-倍、約8-倍、約10-倍、約20-倍、約40-倍、約80-倍又は約100-倍の変動は、患者の結腸における病変の存在又はステージの指標である。
【0055】
ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ又はウシから集められた生体試料中の1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルの決定方法を提供する。本明細書で用いられる場合、「生体試料」は患者から単離される生物学的材料から成り、血液、血清、組織、血漿又は血球を含むがこれらに限られない。
【0056】
特に、本開示の方法に有用なバイオマーカーは、時には腫瘍又は腺腫又はポリープ細胞から離れて起こっている体の反応を含む。主な例には肝臓で生産される急性-期及び炎症反応タンパク質が含まれる。急性期、炎症及び免疫反応は、腫瘍の存在への通常の反応として同定されており(Mantovani,A.et al.著,Nature 2008,454,(7203),436-44;215)、細胞接着は癌転移に関連する重要な機能を表す。インター-アルファ-トリプシンインヒビターのようなヒアルロナン-結合タンパク質は、このグリコサミノグリカンの成長中の腫瘍への生体輸送を与える。これらは癌への全身的な反応に関連して本明細書に提示されるほんのいくつかの例である。従って当該技術分野における熟練者は、本発明の生体試料が腫瘍及び非-腫瘍細胞の両方に由来することを認識するであろう。さらに当該技術分野における熟練者は、本発明の生体試料が場合により血液、血清、血漿、組織、腹水液、尿及び糞便を含むがこれらに限られない広範囲の材料から単離され得ることを認識するであろう。
【0057】
本開示の態様は、一次診断機構として大腸内視鏡検査を用いる日常的なスクリーニングの代わりとなる感度及び特異性を有する大腸癌に関する生体試料に基づく検査を与える。スクリーニング方法の態様は、高-処理量の標的化質量分析法を用い、それは多くのタンパク質マーカーを1回の定量的スクリーニングアッセイに多重化する(multiplexes)。
【0058】
特定の態様において、SRM-MSを用いる大腸癌に関する生体試料に基づく検査は、有利なことにバイオマーカー当たりのコストの減少、バイオマーカーパネル分析における処理量の増加の可能性及び向上した感度及び特異性を与える。
【0059】
ある態様は、前癌性又は癌性状態の存在に関する日常的な集団のスクリーニングのための方法を与える。これらの方法は、診断目的に有用な血液及び他の材料の日常的な収集を含む。さらに、ある態様において、大腸内視鏡検査又はポリープ切除法の間に、又はそれらと同時に本発明の生体試料を得る。さらに別の態様において、大腸内視鏡検査又はポリープ切除法の後に周期的に本発明の態様の生体試料を得る。さらに別の態様において、大腸内視鏡検査の前に生体試料を得、タンパク質バイオマーカーのレベルを決定し、大腸内視鏡検査の必要な患者を同定する。
【0060】
本方法の態様は、患者集団の日常的なスクリーニングに有用である。本方法は、主に現存するスクリーニング法が侵襲性であり、高価であり且つ農村部で利用不可能なために、適格な(eligible)患者の現存するスクリーニング推奨とのコンプライアンスが低い場合に特に有利である。さらに本方法の態様は、大腸癌に関する高められた危険因子(例えば家族歴)を呈しないか、あるいは本方法でなければ現存するスクリーニング又は診断法の必要を示されないであろう患者集団のスクリーニングに有用である。
【0061】
さらに別の態様において、大腸内視鏡検査又はポリープ切除法によるさらなる評価又は
処置を含むがこれらに限られないさらなる臨床的評価又は処置から利益を得るであろう患者の同定のための方法を提供する。他の態様において、外科手術-後又はポリープ切除-後の患者の監視を提供する。さらに別の態様において、本方法は化学予防薬又は化学治療薬への患者の反応性の監視に有用である。
【0062】
さらに、現存する大腸スクリーニング、診断、予後及び処置法の診断的及び予後的有用性を強化することができる方法を提供する。従って本明細書に開示されているある態様は、大腸内視鏡検査、CTスキャン又は便潜血反応検査を含む当該技術分野に既知の他の方法との組み合わせにおいて有用である。
【0063】
さらなる側面において、開示は患者における大腸病変の決定のためのキットを目的とする。キットは本開示の1種もしくは複数種のバイオマーカーを検出するための1種もしくはそれより多い検出試薬を含み、場合により癌性又は前-癌性大腸病変の存在又は不在と関連する1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関する1組の標準値を含むことができる。
【0064】
さらに本開示は;a)本開示の生体試料中の1種もしくは複数種のバイオマーカーの量を決定するための手段、b)患者の結腸中に存在する病変の存在又はステージを決定するべく段階a)で決定される量を参照量と比較するための手段を含んでなる、上記で言及した本開示の方法を実施するために適したキットに関する。いくつかの態様において、キットは本開示の方法を実施するための使用説明書を含む。
【0065】
本明細書で用いられる場合、「キット」という用語は、適切には個別に又は1つの容器内で与えられる上記の手段の集合を指す。容器は、やはり適切には本開示の方法を実施するための使用説明書を含む。
【0066】
本開示は、結腸中の癌性又は前癌性病変を有する患者を同定するため;あるいは大腸癌腫をステージ1、ステージ2、ステージ3又はステージ4癌腫と同定するため;あるいは結腸中にポリープ形成を有すると同定される患者に一定期間の(a coruse of)処置を決定し、施すため、あるいは大腸内視鏡検査に関する必要性を決定するために患者をスクリーニングするための、前に挙げたキットの使用にも関する。
【0067】
本発明を以下の実施例においてさらに記述し、実施例は請求項に記載される本発明の範囲を制限しない。
【0068】
以下の実施例は本発明及び種々のその使用の特定の態様の例である。それらは説明目的のためのみに示され、本発明を制限すると理解されるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0069】
実施例
【実施例0070】
Apc Pirc/+ ラットマイクロアレー及び長期間分析(longitudinal analysis)
動物交配及び管理(maintenance)。雌のラットにおける発情周期による混同の可能性を取り除くために、雄のラットのみをマイクロアレー及びプロテオミクス研究に用いた。実験の間ずっと、12:12時間の明:暗サイクルを保持し、概日サイクルの故の変動を抑制するために4-時間の枠内にラットをすべて解剖した。雌のACIApc+/-ラット(Harlan)を雄のF344N/TacコアイソジェニックApcPirc/+
(Pirc)ラット(WFDの実験室で開発され、現在はTaconicを介して商業的
に入手可能である)に交配することにより、F1世代(ACIxF344)-ApcPirc/+ラットを形成した(Amos-Landgraf,J.M.et al.著,Proc
Natl Acad Sci USA 2007,104,(10),4036-41)。これらの“F1-Pirc”ラットは、標準的なコアイソジェニックF344N/T
ac-Pircラットと比較して向上した腫瘍多様性(multiplicity)及び腫瘍発生までの減少した時間を示す。97-日令のF1-Pircラットの1つの群をマ
イクロアレー研究に用いた。追加の2つの群、F1-Pirc及び(ACIXF344)
1APC+/-“F1-野生型”コホートをプロテオミクス研究のために60日令から13
5日令まで長期間追跡した。
【0071】
マイクロアレーラットコホート。マイクロアレー実験は、MIAME Guidelines(Branzma,A.et al.著,Nat Genet 2001,29,(4),365-71)により推奨される命名法、記述及びデータ共有に従う。データはNCBI’s Gene Expression Omnibus(Edgar,R.et al.著,Nucleic Acids Res 2002,30,(1),207-10)に寄託されており、GEO Series受け入れ番号GSE54035を介して入手可能(accessible)である。腫瘍において異なって発現された転写産物のレベルを測定するために、4個のF1-Pircラットからの10個の結腸腫瘍試料及
び4個の匹敵する(matched)正常な組織試料からRNAを単離した。腫瘍の四分の一を収穫することにより、腫瘍試料を得た。正常な腸組織の収集のために、円刃刀(scalpel blade)を用いて遠位結腸の管腔表面を穏やかに削り取った。正常な組織の収集のために、腫瘍の周りの最低で2mmの障壁が必要であった。
【0072】
Low Input Quick Ampキット(Agilent Technologies)を用い、製造者の指示に従って全RNA(100ng)をCy3染料で標識した。ラットのコホートからの正常な組織から収集されたRNAをCy5染料で標識した。試料を均等に分配し、Agilent 4x44k Whole Genomeマイクロアレーにハイブリッド形成させた。インキュベーションに続き、Agilent High-Resolution Microarray Scanner上で、20ビットデータフォーマットを用いて3μmの解像度でアレーを走査した。Agilent Feature Extraction version 10.7を用いてファイルを抽出した。次いで分析のためにデータをGenome Suiteソフトウェア(Partek)中にインポートした。5%に等しいかもしくはそれより小さい偽発見率(false discovery rate)(FDR)を以て5-倍に等しいかもしくはそれより大きい異なる発現の基準を用い、正常な結腸組織と腫瘍組織の間で異なって発現された遺伝子のリストを作成した。
【0073】
長期間ラットコホート。14のF1-Pirc及び10のF1-野生型ラットに60及び90日令に内視鏡検査を受けさせ、生体内で結腸腫瘍の多様性及び成長パターンを決定した。次いで135日にラットを犠牲にし、全腸腫瘍多様性を決定した。60、90及び135日令に各動物から血液を集めた。内視鏡検査のために、3%イソフルランを用いて動物に麻酔をかけ、腹側を下にして無菌の外科手術野に置いた。温食塩水で結腸を洗って(flushed)便を除去し、且つ潤滑を与えた。2回の内視鏡検査実施(visits)の各回に腫瘍を調べ、両方の実施において見られる腫瘍に3つのスコア:成長中、静止(static)又は後退(regressing)の1つを与えた。3人の目隠しされた観察者の少なくとも2人の間の一致に基づいて、各腫瘍に関して合意スコアを形成した。135日令に犠牲にした後、ホルマリン-固定された小腸及び結腸中の腫瘍を、Olympus解剖顕微鏡上で10倍の倍率で数えた。
【実施例0074】
液体クロマトグラフィー選択反応モニタリング質量分析
タンパク質候補選択。2つの戦略を用いて標的化質量分析のための血清タンパク質を選択した。第1に、マイクロアレー研究において結腸腫瘍中で上方-調節された転写産物に対応するタンパク質候補を選択した。3つの基準を用いてこれらの候補を称した:0.05偽発見率まで選別(filtering)した後に正常な組織と比較して結腸新生物中で少なくとも5-倍上方調節されたRNAレベルを有するもの;分泌されることが予測されるか又は既知のタンパク質(Edgar,R.et al.著,Nucleic Acids Res 2002,30,(1),207-10);及び結腸癌に生物学的有意性を持つ可能性のあるタンパク質(Vogelstein,B. et al.著,Science 2013,339,(6127),1546-58)。候補選択の第2の戦略は、以前に記載されている通り(Ivancic,M.M.et al.著,J Proteome Res 2013,12,(9),4152-66)、野生型と比較されるApcMin/+マウスの血清からの定量的プロテオームデータを用いた。異なって発現さ
れる血液タンパク質の同定の機会を増すために、両方の検出戦略において浮かび上がった2つのタンパク質候補を選択した。
【0075】
標的化分析のための合成ペプチド。3層選択法(three tiered selection process)を用いてペプチドを設計し、合成した。(図2)。層1選択基準は配列の独特性(Altschul,S.F.et al.著,J Mol Biol 1990,215,(3),403-10)、長さ、相対的疎水性(Yang,F.et al.著,Expert Rev Proteomics 2012,9,(2),129-34)ならびに既知の翻訳-後修飾の不在(分析のために修飾が標的化されていなければ)を含んだ。
【0076】
層2選択基準は、組織内ショットガンプロテオミクス研究から集められた非標的化データならびに酵母、マウス及びヒトからのプロテオームデータを保存しているPeptideAtlasのようなオープンソース質量分析リポジトリ中に見出さされるデータを含むプロテオタイプ的(proteotypic)ペプチド配列の適切性を示す実験的質量分析データを含んだ(Deutsch,E.W.et al.著,EMBO Rep 2008,9,(5),429-34)。これらのデータベース中で日常的に同定されるペプチドは、より大きな標的化分析において同定される機会を有する。これらの質量分析データ資源は、酵素消化の間に切断され損ないがちなペプチドを有するタンパク質も同定することができる。層2基準は三連四重極型計測器上における標的化SRM分析のために良いペプチドの同定のための予測的アルゴリズムも含んだ。例えばSRMAtlasは、SRM分析のためのプロテオタイプ的ペプチドの選択を助けるために、予測的アルゴリズムPABSTを用いる。PABSTは、ペプチドを酵母、マウス又はヒトに関するSRM-MS実験におけるそれらの有用性に関して採点するために理論的データ及び実験的データの両方を用いる。
【0077】
層3基準は異種間有意性を有するペプチドの設計に関連する。標的化されるペプチドは実験モデル種のプロテオーム内で独特でなければならないが、ヒトにおけるオルソロガスタンパク質に同一で、かくしてヒトにおいて有用な方法及び試薬への動物データの外挿を容易にもしなければならない。
【0078】
第1の反復で、ラットトランスクリプトーム候補から61のペプチドを選択した(下記の実施例3)。調べられた61中の9つのペプチドはさらなるスクリーニング基準を満たした。2回目のスクリーニングにおいて、30のペプチドが選択され、調べられ、27がさらなるスクリーニング基準を満たした。ペプチドの完全なリストを表2に与える。
【0079】
【表3-1】
【0080】
【表3-2】
【0081】
【表3-3】
【0082】
ペプチド選択の後、1つの重い標識された安定な同位体アミノ酸を含有する、問題の標的を定める(targeting)それぞれのペプチドの合成形態を合成した。このペプチドを絶対的定量分析に用いることができるか、あるいはそれを相対的定量分析に用いることができる。下記の実施例における態様は、未精製合成参照標準を既知の希釈係数(dilution factors)で試料中に添加して、相対的定量を用いる。血清のよ
うな複雑な混合物においては、種々のタンパク質からの複数のアイソバリック(isobaric)ペプチドが類似の溶離時間にピークを生ずるであろう。重い参照標準は、内因性ペプチドの正しい保持時間及びトランジション体順序(transition order)を同定するのを助け、かくして正しくないペプチドの定量を防ぐことができる。それぞれの選択されたバイオマーカー候補に独特の同位体標識されたペプチド参照標準を、UW-Madison Biotechnology Centerのペプチド合成コア施設により合成し、各参照ペプチドにおいて少なくとも1個の13C及び15N標識されたアミノ酸を導入した。(表2)。
【0083】
試料収集。Early Detection Research Network(Tuck,M.K.et al.著,J Proteome Res 2009,8,(1),113-7)により公開された標準的な操作法に従って、血液試料を集め、処理し、保存した。約1.5mlの血液を眼窩後洞からProtein LoBind管(Eppendorf)中に集めた。1日の中の血液収集のための時点を研究全体に及んで(across the study)制御し、すべての血液試料を2-時間の枠内に集めた。血液を室温で30-60分間放置して凝固させてから1,200gにおいて20分間室温で遠心分離した(Eppendorf 5415c)。次いで無菌のLoRetention Dualfilterピペットチップ(Eppendorf)を用いて血清を新しいProtein LoBind管に移し、使用まで-80℃で凍結した。
【0084】
試料調製。10kDa MWCO Amicon Centriprepユニットを用い、1500gにおいて4℃で1時間、血清を5mLの20%アセトニトリル/80%Milli-Q H2Oで5回洗浄し、続いて凍結乾燥した。ネズミの研究のために、4.
6mmx100mmのマウスMARSカラム(Agilent Technologies)を用い、製造者の案に従って、主な血液タンパク質(アルブミン、トランスフェリン及びIgG)を再可溶化された血清の2mgのアリコートから除去した。(ヒト試料の調製は下記の実施例4に記載される。)カラムにより保持されないタンパク質を集め、濃縮し、以前に記載されている通りに三塩化酢酸を用いて沈殿させた((Ivancic,M.M.et al.著,J Proteome Res 2013,12,(9),4152-66)。再可溶化された試料につき、Pierce(登録商標) BCAタンパク質濃度アッセイを、製造者の指示に従って行った(Thermo Fisher Sceintific)。
【0085】
各試料からの血清タンパク質の100μgのアリコートにシステイン残基の還元及びアルキル化を経させ、続いてシーケンシング等級(sequencing grade)のブタトリプシン(Promega)を1:50のトリプシン-タンパク質比で用いて消化した。還元及びアルキル化の前に、各標的内因性ペプチドの安定な同位体標識されたペプチド参照標準を血清タンパク質試料に加えた。トリプシン消化は37℃で終夜行われた。得られるペプチドを、SPEC C18 Pipette Tips(Agilent Technologies)上で製造者の指示に従って脱塩した。真空遠心を用いて溶離ペプチドを乾燥した。
【0086】
LC-SRM-MS法。合成ペプチドを0.1%ギ酸、5%アセトニトリル及び水中で1μg/μlの内因性ペプチドの濃度に再可溶化した。ナノフレックスcHiPLCが備えられたNanoLC ultra 2D(Eksigent)を用いて液体クロマトグラフィー分離を行った。マイクロ流体チップは、120Åの細孔寸法におけるC18 3μm樹脂を有する75μm直径15cm長さのカラムであり、cHiPLC系の温度を37℃に設定した。300nl/分の流量における90分の勾配を以下の通りに適用した:開始条件を水中の0.1%ギ酸(緩衝液A)の97%及びアセトニトリル中の0.1%ギ酸(緩衝液B)の3%に設定し、30分までに直線的に15%Bに上昇させた。60分ま
でに緩衝液Bを35%に直線的に上昇させ、次いで50%Bへのもっと急な勾配を85分まで適用した。90分に勾配を開始条件に切り替えて戻した。5500QTrap(AbSciex)中にペプチドを直接溶離させた。ペプチド前駆体をQ1において選択し、続いてq2においてフラグメント化させ、続いてQ3において各ペプチドに関して上位(top)3-4つのトランジション体を監視した。すべてのQ1及びQ3の質量を単位分解能(unit resolution)において測定した。滞留時間を最大にするために、1.5秒のサイクル時間と共に5-分のスケジューリング枠を適用した。方法の展開及びピークの分析は、Skylineソフトウェアを用いて行われた。
【0087】
データ処理。質量分析結果をSkyline中にインポートし、ピークを積分した。3回の技術的反復に及ぶ最も強いトランジション体の平均ピーク面積を用いて各ペプチドを評価した。各タンパク質に関し、F1-Pirc/F1-野生型の平均比をペプチドのそれぞれに関して計算した。正規分布を仮定して両側スチューデントのt検定を用い、P-値を得た。
【0088】
個々のレベルにおける及びパネルとしての血清タンパク質マーカーの診断的能力を、JROCFITウェブに基づく計算機(Johns Hopkins University School of Medicineウェブサイトに与えられたEng J.,ROC analysis:web-based calculator for ROC
curvesを参照されたい)を用いるReceiver Operator Characteristic(ROC)分析により、14のF1-Pirc及び10のF1-野生型動物の同じテストセットを用いて決定した。データフォーマット2(信頼度格付けを用いる二値応答(binary response))を合計3つの格付けカテゴリーと共に用いた:1=低い信頼度;2=中度の信頼度;及び3=高い信頼度。最初に各タンパク質を個々のタンパク質としてのその診断的能力に関して格付けた。次に個々のROC分析に基づいて選ばれる4つの特定のタンパク質の群をパネルとしてのその診断的可能性に関して評価した。単独のタンパク質及びパネルのROC分析のさらなる詳細を下記に記載する。
【0089】
プロテオミクスにおいて、相対的定量は多くの場合に1つの生物学的状態(例えば癌)の別の生物学的状態(例えば癌なし)への比較から誘導される倍変化の使用に頼っている。ほとんどの研究者は、分析されているデータに関して任意に定義される閾発現変化を指定する。最近、タンパク質上方調節に関する合理的な閾指定がSerangと共同研究者により定義された(Serang,O.et al.著,J Proteome Res
2013,12,(10),4556-65)。彼らは1.2-倍変化が定量されているタンパク質が上方調節されていると考えるのに合理的なカット-オフであると決定した。ROC分析は陽性又は陰性の試験を決定するために定量的なカットオフに頼っているので、ROC分析において陽性又は陰性の結果を指定するための枠としてSerang et al.により設定される指針が用いられた。
【0090】
タンパク質を、2つの探索(discovery)研究(トランスクリプトーム/プロテオーム)に基づいて上方調節されていると予測されるもの又は下方調節されていると予測されるものに分けた。表3及び4は、各タンパク質発現比に関して指定される信頼度格付け(1-3)(www.jrocfit.org上の分析フォーマット2、信頼度格付けを用いる二値応答により必要とされる)を示す。LRG1、F5、VTN、MMP7、MMP10、CD44、ITIH3、ITIH4、HPX及びCFIは、探索データに基づいて上方調節されると予測された。従ってそれらのタンパク質格付けは1.2-倍閾値に基づいた(Serang,O.et al.著,J Proteome Res 2013,12,(10),4556-65)。1.2の発現閾値より低いが、低い信頼度を以て1.16-1.19カテゴリーにおいて上方調節されるタンパク質は、ROC分析に
おいて偽の陰性の可能性を減じると思われる。
【0091】
【表4】
【0092】
Serangと共同研究者による研究は、下方調節に関して合理的に有意であると思われる倍-変化値を設定しなかった。従って、0.86かもしくはもっと低い発現比を合理的な下方調節に関するカットオフとして設定した。0.86の閾値より高いが、0.87-0.89の発現比を有するタンパク質は信頼度の低いレベルを以て下方調節されると考えられ、分析中への偽の陰性の導入を避ける。タンパク質に関して下記に示される下方調節カットオフを用いた。
【0093】
【表5】
【0094】
パネルとしての候補のROC分析。ネズミモデルは、EGFR、LRG1、ITIH4及びF5がそれらの個々のROC分析及びそれらの野生型の濃度における低い変動により決定される最も高い診断的可能性を有することを示した(下記の実施例3を参照されたい)。従ってこれらの4つのタンパク質をパネルとしてROC分析のために選択した。パネルとしてのEGFR、LRG1、ITIH4及びF5に関する3回の異なる分析を、上記の格付けシステムを用いるこれらのタンパク質に関する個々の陽性の数に基づいて行った。第1の分析は最も厳格でなく、パネル中の4つの中の1つのタンパク質のみが異なる発現を示すことを必要とした。第2及び第3の分析は、それぞれ少なくとも2つ及び3つの陽性の値を必要とした。単独のタンパク質を用いる分析と同様に、JROCFIT上でフォーマット2(信頼度格付けを用いる二値応答)を用いた。パネル中の陽性のマーカーの数に基づいて信頼度格付けを指定した。表5-7は調べられた3つの厳格度レベルのそれぞれに関して用いられる格付けである。
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【実施例0098】
血清バイオマーカーは結腸癌のネズミモデルにおける腫瘍形成を予測する
トランスクリプトーム及びプロテオーム探索研究はF1-Pircラットにおける確認
のためのタンパク質バイオマーカー候補を同定した。合計で928のマイクロアレープローブは、F1-Pircラットからの正常な結腸組織と腫瘍の間で少なくとも5-倍異な
って発現された。全体の中で543のプローブは腫瘍組織中でより高度に発現されたが、残りの415のプローブは正常な組織においてより高度に発現された。この研究の目的のために、腫瘍において上方調節されたプローブのみを考慮した。遺伝子産物が分泌され、公開文献に基づいて結腸癌に生物学的有意性を有する可能性があると示唆されているものを選択することにより、プローブのリストは12のトランスクリプトーム候補(15の合計プローブ)に狭まった(図3)。SRM-MS法展開の間に、12のトランスクリプトーム候補の中の5つ及び11のプロテオーム候補の中の9つに関する内因性タンパク質が
可視であり、質量分析により定量可能であった。(表1も参照されたい)。確認のために選ばれた12のタンパク質の最終的なリストは、F1-Pircラット腫瘍トランスクリ
プトーム分析から3つの候補、ApcMin/+マウス血清プロテオーム研究から7つを含み
、2つの探索戦略の間でCFI及びLRG1が共有された(図4)。
【0099】
時間を経てのタンパク質発現は腫瘍多様性における増加と合致する異なる発現を明らかにする。定量的プロテオミクスは、MMP7、LRG1、ITIH4、VTN、HPX及びF5タンパク質が時間を経て向上する血清中のレベルを示すことを明らかにした。(図5,表8)。F1-Pircラットにおける平均EGFR発現は以前のプロテオミクス探
索研究において観察される通り、135日に有意に下方調節された(Ivancic,M.M.et al.著,J Proteome Res 2013,12,(9),4152-66)。全体として、7つのタンパク質は腫瘍-保有Pircラットにおいて血清のレベルにおける有意な変化を示した。
【0100】
【表9】
【0101】
60、90及び135-日の時点に、F1-Pircラットはそれぞれ2±2、7±4
及び19±5の結腸腫瘍と平均された。(表9)。小腸に関する腫瘍カウントは135日の最終時点に解剖してのみ得られ、平均で13±6の腫瘍であった。大腸内視鏡検査により監視される26の結腸腫瘍の中で、21(81%)は成長しており、4つ(15%)は
沈静しており、そして1つは後退していた。野生型ラットと比較される発現変化の大きさは一般に腫瘍負荷に比例した。(図5B)。
【0102】
【表10】
【0103】
タンパク質候補は大腸癌及び前癌性状態の検出のために診断的及び予後的有用性を有する。腸腫瘍の存在を同定する各バイオマーカーの診断的能力を2つの方法で評価した。第1にF1-野生型ラットと比較されるF1-Pircラットにおける平均タンパク質発現の比の統計的有意性を決定した。(表8)。MMP7、LRG1、ITIH4、VTN、HPX、EGFR及びF5の平均面積比はそれぞれ135日までに有意に変化した(p<0.05)。F5を除くこれらのタンパク質のそれぞれは90日までにも有意な変化を示した。F1-Pircラットからの結腸ポリープの公開されている組織学的総説は、腫瘍の
大半が調べられた時間範囲内で非浸潤性の腺腫であることを示し(Amos-Landgraf,J.M.et al.著,Proc Natl Acad Sci USA 2007,104,(10),4036-41)、かくして異なって発現するタンパク質が初期の腺腫ステージにポリープを同定する可能性を有し得ることを示唆した。さらに、60日においてタンパク質発現変化がないことは、90及び135-日の時点に検出される変化が直接的又は間接的にポリープの存在のためであり、Apc突然変異の腫瘍外効果の故ではないことの信頼度を向上させる。
【0104】
次いでROC分析を用いて、14のF1-Pirc及び10のF1-野生型ラットの群の中で初期結腸新生物を診断する各タンパク質の可能性を評価した。表8は、60、90及び135日における各タンパク質バイオマーカーの感度、特異性及び曲線下面積(AUC)をまとめている。(図6も参照されたい)。p-値による分析と同様に、AUCsは60日におけるより高い90及び135日における診断的可能性を示し、腫瘍負荷の増加と共に感度が上昇する。最も予測的なタンパク質はLRG1及びEGFRであり、それらは135日においてそれぞれ1つ及び0の偽の陰性を有した。これらのタンパク質は非常に少ない偽の陽性も有し(それぞれ1つ及び2つ)、この場合も血清中での発現におけるそれらの変化が腫瘍-特異的であることを示している。135日の時点に感度及び特異性を示す他のタンパク質の中にMMP7、ITIH4及びHPX、MMP10及びSD44が
ある。
【0105】
タンパク質パネルは初期-ステージ結腸腺腫の同定に関する高い感度及び特異性を有する。最も初期の腺腫の検出に関する全体的な感度を向上させるために、いくつかのタンパク質をパネルとしてのそれらの予測能力に関して分析した。LRG1、ITIH4、EGFR及びF5はF1-Pircラットにおいて有意な異なる発現を示し、時間を経てのF1-野生型タンパク質濃度における変動が最も少ない(15%かもしくはそれより少ない)ので、それらを選んだ。図7及び表10は、結腸ポリープを有するラットを同定するためのこのパネルの感度及び特異性を強調している。パネル中の1つのタンパク質のみが陽性の結果を示すことを必要とするように陽性の診断に関する閾値を設定した場合に感度は最高であった。重要なことに、60及び90日において、4つのタンパク質のパネルを用いて感度は向上した。パネルは60日において偽の陰性の数を6(ITIH4のみ)から4に減少させ、さらに90日においてそれを5(LRG1のみ)から2に減少させた。最大で10の試料中の2つ(20%)が60、90及び135日において偽の陽性を示した。
【0106】
【表11】
【0107】
陽性の診断のためのもっと厳格な基準は、2つかもしくはそれより多くのタンパク質が陽性の結果を示さなければならないことである。この基準を用い、予測通り偽の陽性の数は減少し、偽の陰性の数は有意に増加した。主な目的は高い感度で且つ偽の陰性なしで結腸腫瘍の存在を検出することであるので、複数の陽性のマーカーにおける同時の変化を必要とするのは逆効果である。従って偽の陰性の数を最小にすることを目的として、個々の又はパネルにおける各タンパク質の感度及び特異性を理解するためにROC分析法を用いた。AUC値は感度及び特異性測定が等しく重要であることを仮定する(Grund,B.and Sabin,C.著,Curr Opin HIV AIDS 2010,5,(6),473-9)。従って、考慮下にあるマーカーのより良い評価のために、感度及び特異性の値の両方(表10)が本方法に包含される。
【実施例0108】
血清バイオマーカーはヒト結腸癌患者における臨床的結果を予測する
バイオマーカー候補及び選択。動物モデルにおいて同定され、確認されたペプチドを用い、ヒトにおける標的化プロテオーム分析を行った。40より多くの候補タンパク質のリストを、腫瘍-保持マウス及びラットにおける血液タンパク質の長期間研究により同定し
た(上記の実施例3)(Ivancic,M.M.et al.著,J Proteome Res 2013,12,(9),4152-66;Ivancic,M.M.et
al.著,Cancer Prev Res 2014,55,7(11);1160-9)。これらのマーカーのいくつかは、動物及びヒトにおいて行われた他の結腸癌バイオマーカー探索研究と重複する(Hung,K.E.et al.著,Cancer Prev Res(Phila)2009,2,(3),224-33;Chong,P.K.et al.著,J Proteome Res 2010,9,(7),3671-9;Ladd,J.J.et al.著,Cancer Prev Res(Phila)2012,5,(4),655-64;Surinova,S.et al.著,EMBO Mol Med 2015,7,1153-1165)。これらの研究のすべてからのタンパク質の候補リストは、ヒト集団におけるバイオマーカースクリーニングのために30のタンパク質に削減された。複数のバイオマーカー研究に及んで重複するタンパク質及び公開文献に基づいて結腸癌に生物学的有意性の可能性を有するタンパク質の選択に重点を置く。(表11)。
【0109】
【表12】
【0110】
患者集団。臨床的研究の設計を図8に示す。ヒト患者から集められた血清試料を4つの異なるカテゴリーに分けた:(1)ポリープのない対照(n=23)、成長中の腺腫からのポリープ切除(2)-前及び(3)-後(n=14)ならびに(4)非-転移性結腸癌(ステージ1-3)(n=20)。炎症性腸疾患及び転移性結腸癌の歴史を有する患者をこの研究から排除した。ポリープのない対照群内の患者を大腸内視鏡検査によりそのように確かめた。外科手術的切除の時点に取り出された腫瘍からの病理学結果から非-転移性
癌の群内の腫瘍ステージングを行った。既知の成長中の腺腫を有する患者を、コンピュータ断層撮影(CT)コロノグラフィー(computed tomography(CT)colonography)を用いる彼らのポリープの長期間分析により同定した。最初の患者の訪問においてポリープを同定し、三次元寸法を測定した。ポリープの体積が5-年の追跡訪問において成長していると同定されたら、患者を研究に入れ、血液を集め、ポリープを取り出した。約1ヵ月後に、ポリープ切除-後の2回目の血液-採取のために患者を戻らせた。ポリープ切除又は外科手術の前に血液採取を受けたすべての患者を、標準的な大腸内視鏡検査又は結腸切除準備のための指針に従って絶食させた(Wexner,S.D.et al.著,Gastrointest Endosc 2006,63,(7),894-909)。ポリープ切除-後の群において、患者の約半分を手術(procedure)の前に終夜絶食させた。Hsieh et al.により行われたプロテオームプロファイリングを受ける試料のための種々の収集法を評価する研究において、絶食及び非-絶食血清の間の差は最小であった(Hsieh,S.Y.et al.著,Proteomics 2006,6,(10),3189-98)。かくして非-絶食患者の試料が明らかに絶食試料と異なってふるまわなければ、すべてを研究に含める。患者の増加(accruals)を表12に示す。
【0111】
【表13】
【0112】
試料調製。血清試料を室温で解凍し、最低で30分間室温で放置し、4-時間枠内にすべての試料を処理した。上位6つの最も豊富なタンパク質(アルブミン、IgG、IgA、トランスフェリン、ハプトグロビン及びアンチトリプシン)の免疫枯渇を、4.6x100mmのAgilent Multi-Affinity Removal Columnを用い、製造者の指示に従って行った。要約すると、血清の60μlのアリコートを400μlのAgilent Buffer A中に可溶化し、ろ過し、フォトダイオードアレー検出器が備えられたWaters 1740 HPLC上に注入した。215nm及び280nmの両方の波長を監視した。低-存在量のタンパク質を含有する素通り画分及び結合高存在量タンパク質画分の両方を集めた。低存在量タンパク質を濃縮し、上記の実施例2に記載した通りに三塩化酢酸タンパク質沈殿を用いて沈殿させた。再可溶化された試料につき、Pierce(登録商標)BCAタンパク質濃度アッセイを製造者の指示に従って行った(Thermo Fisher Sceintific)。上記の実施例2に記載した通りに安定な同位体標識された参照標準の存在下でトリプシンを用いて血清タンパク質の100μgのアリコートを消化し、SPEC C18 固相抽出チップ(Agilent)を用いて製造者の指示に従って脱塩した(Ivancic,M.M.et al.著,Cancer Prev Res 2014,55,7(11);1160-9)。
【0113】
質量分析アッセイ。37℃に設定されたNanoflex cHiPLCが備えられた
NanoLC Ultra 2D HPLC(Eksigent)を用いる逆相クロマトグラフィーにより、2μgのペプチド試料のクロマトグラフィー分離を行った。上記の実施例2に詳細に記載した通りに、ペプチド分離のために90-分の勾配を用い、続いて5500QTrap質量分析計(AbSciex)中に直接溶離させた。ペプチド前駆体を四重極1(Q1)において選択し、q2においてフラグメント化させ、Q3における監視のために上位3-4つのトランジション体を選択した。すべてのQ1及びQ3の質量を単位分解能において測定した。2-秒のサイクル時間と共に7-分のスケジューリング枠を適用した。方法の展開及びピークの分析は、Skylineソフトウェアを用いて行われた(MacLean,B.et al.著,Bioinformatics 2010,26,(7),966-8)。
【0114】
データ処理及び分析。質量分析結果をSkyline中にインポートし、ピークを積分した。参照標準及び内因性トランジション体からのすべてのピーク面積を、AuDITアルゴリズムを用いて評価し、最低の変動係数を有するトランジション体を同定した(Abbatiello,S.E.et a.著,Clin Chem 2010,56,(2),291-305)。3回の技術的反復に及ぶ最低の変動を有するトランジション体の平均ピーク面積を用いてペプチドの量を評価した。各タンパク質に関する(癌/対照)の比を得ることにより、タンパク質発現における相対的な変化を決定した。成長中の腺腫試料を、ポリープのない対照の群及びそれらと対を成すポリープ切除-後の試料の両方と比較した。正規分布を仮定する両側スチューデントのt検定を用い、タンパク質発現変化における有意性を評価した。p-値が0.05より小さい又はそれに等しい場合に変化は有意であると考えられた。
【0115】
血清バイオマーカーはヒト結腸癌における診断的及び予後的有用性を有する。いくつかのバイオマーカーの血清レベルは癌発生率及び患者研究における結果と関連した。(図9A-J,表13)。EGFR、DPP4及びPI16は、腺腫を有する患者及びステージ1-3の結腸癌にある患者において下方-調節され、ARHGDIA(RhoDG1)は腺腫及び初期ステージ癌を有する患者において下方-調節された。LRG1、ITIH3、ITIH4、F5及びCRPは、結腸癌を有する患者において上方-調節された。(表10,統計的に有意な差をボールド体で示す)。
【0116】
【表14】
【0117】
ポリープ切除-前及び-後の予後的関連性を有する血清バイオマーカー。成長中の腺腫を有する患者からの対をなすポリープ切除-前及び-後の血清試料を比較して、タンパク質発現における変化を評価した。3つの成長中の腺腫を有する2人の患者を用い、これらのバイオマーカーがポリープ切除-前及び-後の試料を区別する能力を比較した。ポリープ切除-後の血液採取は、ポリープの除去から21日後(患者1)及び30日後(患者2)に行われた。
【0118】
LRG1、ITIH3、APCS、SERPIND1、THBS4及びF5はすべてポリープ切除-前及び-後の試料の間で発現における差を示した。これらの6つのタンパク質の中で、LRG1及びITIH3タンパク質は癌を有するヒトにおいて上方調節された。(表13)。LRG1及びITIH3は両方の患者試料においてポリープ切除-後に発現レベルの低下を示した(図11)。Col 1a1は、ポリープ除去後にこのタンパク質の発現における一貫した統計的に有意な増加を示した(図10)。
【0119】
【表15-1】
【0120】
【表15-2】
【0121】
【表15-3】
【0122】
本発明を詳細に且つその特定の態様に言及することにより記載してきたが、添付の請求項において定義される本発明の範囲から逸脱することなく修正及び変化が可能であることが明らかであろう。さらに特定的に、本発明のいくつかの側面は本明細書で特に有利であると同定されるが、本発明は必ずしも本発明のこれらの特定の側面に制限されないことが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
図9H
図9I
図9J
図10
図11
【配列表】
2022058635000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-01-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌性又は前-癌性結腸病変を有する患者の同定方法であって、
(a)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーに関して患者からの生体試料をアッセイし、ここでタンパク質バイオマーカーは表皮成長因子受容体、ロイシン-リッチアルフア-2グリコプロテイン、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖3、インター-アルファトリプシンインヒビター重鎖4、ジペプチジルペプチダーゼ4、ペプチダーゼインヒビター16、凝固因子V、C-反応性タンパク質、Rho-GDP解離インヒビター1イソ型A、ヘモペキシン、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ[Cu-Zn]、トロンボスポンジン-4、コラーゲンアルフア-1(l)鎖、カドヘリン-2又はビトロネクチンであり;
(b)生体試料における1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルを決定し;そして
(c)1種もしくは複数種のタンパク質バイオマーカーのレベルが結腸病変のない患者において検出されるレベルと異なる場合、患者を結腸病変を有すると同定する
ことを含んでなる方法。
【外国語明細書】