(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058723
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】レーザーファセットの現場の外からの状態調整(ex-situ conditioning)及びこれを使用して形成された表面安定化デバイス
(51)【国際特許分類】
H01S 5/028 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
H01S5/028
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022008234
(22)【出願日】2022-01-21
(62)【分割の表示】P 2019080693の分割
【原出願日】2019-04-22
(31)【優先権主張番号】15/996,614
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519146787
【氏名又は名称】ツー-シックス デラウェア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】II-VI Delaware,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】アブラム ヤクボヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン スース
(57)【要約】 (修正有)
【課題】レーザーファセットの外からの(ex-situ)状態調整及びこれを使用して形成された表面安定化デバイスを提供する。
【解決手段】ミラーファセットを有する端面発光レーザーダイオード10が、表面安定化被覆22及び24を含み、表面安定化被覆は、表面安定化層を形成するために使用される絶縁性材料を状態調整するために、外からの(ex-situ)処理を使用して状態調整される。状態調整は、外部エネルギー源(レーザー等)32を利用して、所与の線量で表面安定化層の厚み全体を状態調整する照射を行う。この外からの(ex-situ)レーザー処理を、レーザーダイオードの両方のファセットを覆う層に適用して、ファセットのオーバーレイ全体を安定化させる。この外からの(ex-situ)処理は、デバイスがまだバー形状であるうちに行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面発光レーザーダイオードのファセットを表面安定化させる方法であって、
a)反応チャンバ内で、前記端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセット表面上に1つ又は複数の表面安定化層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップと、
b)前記端面発光レーザーダイオードを前記反応チャンバから取り出すステップと、
c)前記所定の厚さにわたって前記ファセット被覆を状態調整するのに十分な時間の間、前記ファセット被覆をエネルギー源を用いて照射するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ステップc)を行うことにおいて、前記ファセット被覆を照射するためにレーザー源が利用されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、ステップc)を行うことにおいて、前記ファセット被覆を照射するためにフラッシュランプが利用されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、ステップc)を行うことにおいて、前記ファセット被覆を照射するために電子ビームが利用されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記方法は、個々のデバイスにダイシングされる前のレーザーダイオードのバーに適用されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記1つ又は複数の表面安定化層は、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される材料からなることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、パルスエネルギー源が使用されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、CWエネルギー源が使用されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、ステップa)を行うことにおいて、ステップc)の照射を予備形成するのに先立って、各表面安定化層の上に被覆層を付着させることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記被覆層は、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、シリコン酸化物、シリコン窒化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、及び酸化タンタルからなる群から選択される材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
端面発光レーザーダイオードであって、
動作波長で光を生成するために、導波路構造体が上に形成された半導体基板と、
前記導波路構造体の対向する面上に形成された、一対のへき開されたファセットと、
前記一対のへき開されたファセットを覆うように形成された、所定の厚さの表面安定化層において、前記表面安定化層は前記所定の厚さにわたって完全に状態調整されている、表面安定化層と、
前記表面安定化層のうちの少なくとも1つの上に直接的に形成された反射被覆層と、
を含むことを特徴とする端面発光レーザーダイオード。
【請求項12】
請求項11に記載の端面発光レーザーダイオードにおいて、前記反射被覆層は、前記表面安定化層と共に完全に状態調整されていることを特徴とする端面発光レーザーダイオード。
【請求項13】
請求項11に記載の端面発光レーザーダイオードにおいて、前記表面安定化層は、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにそれらの酸化物及び窒化物、からなる群から選択されるレーザー照射された材料を含むことを特徴とする端面発光レーザーダイオード。
【請求項14】
請求項11に記載の端面発光レーザーダイオードにおいて、前記反射被覆層は、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、シリコン酸化物、シリコン窒化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、及び酸化タンタルからなる群から選択される材料で形成されることを特徴とする端面発光レーザーダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザーデバイスに関し、より詳細には、現場の外からの(ex-situ)処理を使用して状態調整されたミラーファセットを有する端面発光レーザーダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
高出力半導体レーザーダイオードは光通信技術において重要な構成要素になってきている、というのも、とりわけ、そのようなレーザーダイオードは、ファイバーポンピング(光信号の増幅)及び他の高出力用途に使用することができるからである。大抵の場合、長寿命、信頼性の高い安定した出力、高出力、高い電気光学効率、及び高いビーム品質などの特徴が一般的に望まれる。最新の高出力レーザーダイオードの長期間にわたる信頼性のための1つの鍵は、レーザーキャビティの対向するミラーを形成するようにへき開されたレーザーファセットの安定性に依存する。
【0003】
レーザーファセットの物理的な劣化は、光、電流、及び熱によって推し進められることのある複雑な反応であり、これは出力の低下をもたらし、深刻な場合には、ミラー表面自体の壊滅的な光損傷(COD)に至る。これらの問題に対処しCODの可能性を最小限に抑えるために、IBMによって開発され「E2表面安定化」と呼ばれる処理が使用されてきた。M.Gasserらに対して公布された「Method for Mirror Passivation of Semiconductor Laser Diodes」と題されたIBMの米国特許(特許文献1)に記載されているように、このE2処理は、むき出しのファセット(ミラー)の表面上の被覆としてシリコン(又は場合によってはゲルマニウム若しくはアンチモン)の層を付着させることを含む。被覆の存在は、表面安定化層として機能し、ミラーファセットの界面と反応する可能性のある不純物の拡散を防止する。
【0004】
現在のレーザーダイオードは比較的に高い電力で動作し、付着されたこれらの従来技術による表面安定化層は、破損し、ミラー表面の損傷を引き起こすことがあることが判明している。従って、赤外高出力レーザーダイオード用の安定したミラーを得るために、表面安定化層を「状態調整する」ことが今では標準的な慣例になっている。現在行われているように、状態調整は、付着したままの非晶質の表面安定化層の内部に結晶構造を形成し、表面安定化層とミラーファセットとの間に安定した界面を形成するように、長時間の間(例えば、数十~数百時間)低い電流レベルでレーザーダイオードを動作させることを必要とする極めて時間のかかる処理である。この状態調整処理に必要とされる時間に加えて、状態調整はデバイス毎に行われる必要があり、製造プロセスの時間及び費用を更に拡大させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,063,173号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明は、レーザーファセットの状態調整に必要とされる時間を短縮する必要性に対処する。本発明は、レーザーデバイスに関し、より詳細には、従来の低電流動作方式の代わりに「現場の外からの(ex-situ)」照射処理を使用して状態調整されたミラーファセット表面安定化被覆を有する端面発光レーザーダイオードに関する。
【0007】
本発明の教示及び原理によれば、ファセット表面安定化層として使用される材料を照射するために、外部エネルギー源が利用される。表面安定化層は、好ましくは絶縁性(又は低導電性)であるべきである。とりわけ、表面安定化層は、シリコン、ゲルマニウム、又はアンチモンなどの材料を使用して形成されることがある。照射処理自体は、従来技術の「バーンイン」状態調整処理に必要とされた長い時間に比べて、わずか数秒間又は数分間しかかからない。
【0008】
外部エネルギー源は、レーザー、フラッシュランプ、電子ビーム、又は他の適切な放射源を含むことがある。エネルギー源は、CW又はパルス方式のいずれかで動作することがあり、表面安定化層は、表面安定化材料の層の厚さ全体を状態調整するのに十分な照射線量で照射される。この現場の外からの(ex-situ)状態調整処理は、レーザーダイオードのファセットに適用され、好ましくはデバイスがバー形状である間(即ち、ダイシングされる前)に行われる。しかしながら、本発明の現場の外からの(ex-situ)状態調整処理は、ダイシングされた後の個々のデバイスに適用されてもよく、個々の取り付けられていないダイか、又は取り付けられたダイ(例えば、カード、キャリア、又はサブマウントに取り付けられたデバイス)のいずれかに現場の外からの(ex-situ)状態調整を行うことでもよいことを、理解されたい。
【0009】
本発明の1つ又は複数の実施形態による端面発光レーザーダイオードのファセットを表面安定化させる現場の外からの(ex-situ)例示的な方法は、以下のステップを含む、即ち、a)反応チャンバ内で、端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセットの表面上に表面安定化材料の1つ又は複数の層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップ、b)反応チャンバからレーザーダイオードを取り出すステップ、c)所定の厚さにわたってファセット被覆を状態調整するのに十分な時間の間、エネルギー源からのビームでファセット被覆を照射するステップ、を含む。代替の方法では、照射するステップを行う前に表面安定化層の上に外側被覆層を付着させることがある(従って、表面安定化層と被覆層との組み合わせを完全に状態調整し、安定化させる)。
【0010】
本発明の別の実施形態は、動作波長で光を生成するために導波路構造体が上に形成された半導体基板と、導波路構造体の対向する面上に形成された一対のへき開されたファセットと、この一対のへき開されたファセットを覆うように形成された所定の厚さの表面安定化層と、表面安定化層のうちの少なくとも1つの上に直接的に形成された反射被覆と、を含む端面発光レーザーダイオードの形態を取る。なお、表面安定化層は、所定の厚さにわたって完全に状態調整される。
【0011】
本発明の他の更なる実施形態及び態様が、以下の考察の過程で、添付の図面を参照することにより、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、端面発光半導体レーザーダイオードの概略平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の1つ又は複数の実施形態による、レーザーダイオード表面安定化層の現場の外からの(ex-situ)状態調整を行うための例示的な構成を示す。
【
図3】
図3は、現場の外からの(ex-situ)状態調整、この場合には、表面安定化層及びその上に重なる被覆層の完全な状態調整/安定化を行うための、代替の構成を示す。
【
図4】
図4は、一組のプロットを含み、本発明による現場の外からの(ex-situ)状態調整を使用することによりCODが改善されたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下で詳細に説明するように、本発明は、レーザーダイオードの露出したファセット上の被覆として使用される表面安定化層を完全に状態調整するための、現場の外からの(ex-situ)処理の利用に関する。現場の外とは、ここでは、本発明の原理に従って行われるような状態調整(即ち、外部エネルギー源を使用することによりもたらされる状態調整)と、レーザーダイオードデバイス自体の動作により達成される従来技術による「現場での」状態調整(通常、長時間にわたり低電流レベルで行われる)との相違を強調するために使用される。本発明の目的のために、「完全に状態調整する」という語句は、主に、表面安定化層を含む材料(例えば、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン)を、その層の厚み全体にわたって状態調整することを意味する。「完全に状態調整する」とは、本発明の目的のために、表面安定化層とその表面安定化層の上に重なる標準的な被覆層との両方(並びにそれらの間の全ての界面、即ち表面安定化フィルム-チップ界面など)を含む、ファセットの重ね合わせ全体の、現場の外からの(ex-situ)安定化を行うものとして、説明することもできる。
【0014】
以下で考察するように、本発明の現場の外からの(ex-situ)方式は、(個々のデバイスにダイシングする前の)レーザーダイオードのバーに対して状態調整を行うことを可能にし、従って、従来技術のプロダクト毎の方式に比べて、処理効率が大幅に改善される。更に、本発明の現場の外からの(ex-situ)処理は、実行するのに、処理される寸法/面積に応じて、従来のデバイス毎の状態調整方式で必要とされた数時間ではなく、せいぜいわずか数秒間又は数分間しかかからない。
【0015】
ここで図を参照すると、例示的なレーザーダイオードが、
図1の平面図に概略的に図示されている。レーザーは、前面ファセット12及び対向する背面ファセット14を有する半導体光電子チップ(又は「バー」)10内に形成されている。バー10は、垂直構造(詳細には図示せず)を含んでおり、この垂直構造は通常、GaAs基板上にエピタキシャルに堆積された、AlGaAs、GaAs、及び関連するIII-V族半導体材料、の層から構成される。しかしながら、本発明の範囲内で、他の材料の組み合わせも可能であることは勿論である。
【0016】
これらのデバイスの商業生産では、多数のそのようなバーが単一のGaAsウェハ上に同時に形成され、その後ウェハは天然のへき開面に沿ってへき開されて、
図1に示すように、前面ファセット12及び背面ファセット14、並びに垂直に配置された側面16、18を有する多数の別個のバー10を形成する。ウェハ上で行われる半導体処理は、ファセット12、14の間にこれらのファセットに垂直に延びる導波路構造体20も形成する。大抵の場合、導波路構造体20はリッジ導波路であるが、他の構成も可能である(例えば、高出力用途に好まれることがある、埋め込みヘテロ構造導波路)。多くの高出力用途について、導波路構造体20は、広域レーザーを形成するために、レージング波長よりも実質的に大きな幅を有することがある。
【0017】
製造プロセスの一部として、へき開されたファセット12、14は、従来のE2表面安定化処理にかけられる。即ち、バー10は反応チャンバに装填され、表面安定化材料が所定の厚さまで付着されて、ファセット12及び14のミラー表面上に被覆をもたらす。表面安定化材料は、絶縁性(又は低導電性)であることが必要であり、好ましくはシリコン、ゲルマニウム、又はアンチモンを含んでおり、またこれらの材料の酸化物又は窒化物を含むこともある。付着されたままの材料は、
図1で表面安定化層22、24として示されている。本発明の現場の外からの(ex-situ)状態調整処理を使用することができるのは、工程のこの時点である。
【0018】
本発明の1つ又は複数の実施形態によれば、表面安定化層22、24の状態調整は、
図2に示すように、外部システム30によって行われる。外部システム30は、通常は可視範囲(例えば、532nm)であるがUV又はIRビームを含むこともある、ビーム34を生成するためのエネルギー源32を含む。エネルギー源32は、CW又はパルスモードのいずれかで放射することができる。
図2に図示した特定の実施形態では、エネルギー源32からのビーム34は、その後集束レンズ36を通過し、レーザーダイオード・バー10の活性領域の上に覆い被さる表面安定化層22の一部38に沿って走査する。レーザーダイオード・バー10は、従来のサブマウント固定具40上に取り付けられることがあり、エネルギー源32からの放射に対して移動されることがあり、その結果、集束したビームが、表面安定化層22の横方向の範囲にわたって走査することになる。エネルギー源32は、表面安定化材料の所望の均一な状態調整を生み出すのに十分なエネルギーで放射線を発することができる、任意の放射源を含むことがある。とりわけ、エネルギー源32は、レーザー源、フラッシュランプ、電子ビーム源、又は表面安定化層22をその厚さ全体にわたって状態調整するのに十分なエネルギーでビームを生成する任意の他のシステムを含むことがある。
【0019】
やはり
図2に示される分光計42は、状態調整処理を監視するのに利用されることがある。例えば、表面安定化層22からの散乱/方向転換された放射線を、従来の手段を使用して分光計42内で分析して、完全な状態調整が達成された時点を判定することができる。一旦、監視信号が横ばい状態になると、外部エネルギーシステムは不活性化されることがある。
【0020】
レーザーダイオードの反対側の端面に沿って表面安定化層24を完全に状態調整するために、これと同じ現場の外からの(ex-situ)放射処理を使用することができることを理解されたい。実際、両方のファセットを同時に状態調整するシステムを構成することも可能である。この現場の外からの(ex-situ)放射処理によってもたらされる状態調整により、表面安定化層の厚み全体にわたって表面安定化材料が均一に状態調整されることが、判明している。これは、デバイスを活性化し低電流レベルで状態調整を行う従来技術の処理に比べて明確な利点である。従来技術の処理は、時には表面安定化材料の部分的で不均一な状態調整を招くことが判明している。
【0021】
上述のように、表面安定化層と反射被覆層の両方がレーザーファセット上に設けられた後で本発明の状態調整処理を行うことも可能である。
図3は、例示的なレーザーダイオードを図示しており、これは、
図1に示した構成と構造が似ているが、この場合には、表面安定化層22の上に第1の被覆層26を、表面安定化層24の上に第2の被覆層28を付着させるように更に処理されている。大抵の場合、被覆層26、28としてシリコン窒化物が使用される。他の適切な被覆材料としては、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、シリコン酸化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、及び酸化タンタルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
図1の実施形態と同様に、エネルギー源32を使用して、レーザーダイオード構造体を完全に状態調整し安定化させるように、被覆層26と下にある表面安定化層22の両方を照射する。照射を受けて、被覆層と表面安定化層の両方の構造体は、デバイスを安定化させ、その結果、必要とされる高いCODレベルを生み出すようになる態様で変化する。例えば、被覆材料としてシリコン窒化物が使用される場合、シリコン窒化物は照射中は(結晶化とは対照的に)非晶質のままであるが、窒化物材料内の原子配位は変化する。同時に、この照射は表面安定化層を結晶化させ、表面安定化層とチップとの間に界面を形成する。
【0023】
従って、本発明のこの
図3の実施形態によれば、「完全に状態調整する」という語句は、被覆層を構造的に変化させ、表面安定化層を結晶化させ、レーザーチップと表面安定化層との間に界面を生成することを意味する。従って、本発明の現場の外からの(ex-situ)状態調整処理は、これらの層におきた変化のおかげでレーザーダイオード自体を「安定化させる」ものとして捉えることができる。
【0024】
本発明に従って形成されたデバイスのCOD電流を、従来のバーンイン処理を使用したデバイスと比較した。「COD電流」は、レーザーファセットが壊滅的な光損傷を経験する電流として定義されることを、思い起こされたい。
図4は、この比較の結果を示す。とりわけ、
図4は、従来のE2処理のみにかけられた(いかなる処理後の状態調整もしていない)デバイスについて、電流の関数としてCODパワーを示している一組のプロットIを含んでいる。プロットIIは、同じ従来技術のE2処理と、続けてデバイスを低電流/電力レベルで動作させる従来の「現場での」状態調整処理とを行うことによって生成されたデバイスに関連している。明らかに、これらの状態調整されたデバイスの性能は、はるかに高いCODレベルで、第1のグループの性能を上回った。プロットIIIは、本発明に従って形成されたデバイスに関連している、即ち、表面安定化層の完全な状態調整をもたらすために、現場の外からの(ex-situ)状態調整処理を使用している。とりわけ、
図4に示した結果は、
図3に関連して上述した実施形態に従って形成されたデバイスから得られたものであり、現場の外からの(ex-situ)状態調整処理を、被覆層と表面安定化層の両方を安定化させるために行ったものである。
【0025】
本発明に従って形成されたデバイスは、従来技術のCODレベルよりも幾分か高いCODレベルを示すことが、観察される。これは明らかに本発明の1つのゴールであるが、完全な状態調整を(個別のデバイスレベルの代わりに)レーザーバー全体に対して行うことができるという事実もまた重要であり、従来技術と比べた大きな改善点である。更に、本発明の現場の外からの(ex-situ)状態調整処理は、標準的なバーンイン処理よりも桁違いに効率的であり、低電流レベルのバーンインのために必要とされた数十~数百時間という時間と比べると、せいぜい数秒間又は数分間で構造体を完全に状態調整/安定化させることができる。
【0026】
要約すると、本発明の処理は、標準的なE2表面安定化層(並びに、存在する場合には上に重なる被覆層も)を均一に完全に状態調整し、従来技術で見られたような垂直方向及び横方向の状態調整の不均一さを解消することが、分かった。本発明の処理は、バーンインなしでミラー損傷が発生する電流レベル(即ち、COD電流/光パワー)を最大化することが分かった。これにより、チップ動作によってチップトレーニングを行うという従来技術の必要性が解消される。製造ロット内のCOD電流の分布が減少することも分かった。
【0027】
更に、上述のように、バーレベルで(即ち、チップに分離する前に)レーザーファセットの現場の外からの(ex-situ)完全な状態調整を行うことが可能である。これにより、大量生産する状況において好まれるように、短時間で多数のバーを完全に状態調整することが可能になる。実際、本発明の方式は、過去の特定の状況でそうであったように、顧客がデバイスに対して何らかの状態調整工程を行う必要性も解消している。
【0028】
本発明の原理は、その趣旨又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化されることもあることを、理解されたい。説明した実施形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定するものではないとみなされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の説明によるのではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の均等物の意味するところ及びその範囲内に該当する全ての変更は、請求項の範囲内に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0029】
10 レーザーダイオード・バー
12 前面ファセット
14 背面ファセット
16 側面
18 側面
20 導波路構造体
22 表面安定化層
24 表面安定化層
26 被覆層
28 被覆層
30 外部システム
32 エネルギー源
34 ビーム
36 集束レンズ
38 表面安定化層22の一部
40 サブマウント固定具
42 分光計
【手続補正書】
【提出日】2022-01-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面発光レーザーダイオードのファセットを表面安定化させる方法であって、
a)反応チャンバ内で、前記端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセット表面上に1つ又は複数の表面安定化層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップであって、前記1つ又は複数の表面安定化層は、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される材料を含むものであるステップと、
b)前記端面発光レーザーダイオードを前記反応チャンバから取り出すステップと、
c)前記所定の厚さ全体にわたって結晶構造を形成して前記ファセット被覆を完全に状態調整するまで十分な時間の間、前記ファセット被覆を外部のエネルギー源を用いて照射するステップと、を含み、
前記外部のエネルギー源が、前記厚さ全体にわたって完全に状態調整するのに十分なエネルギーを提供するものであることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ステップc)を行うことにおいて、前記ファセット被覆を照射するためにレーザー源が利用されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、ステップc)を行うことにおいて、前記ファセット被覆を照射するためにフラッシュランプが利用されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、ステップc)を行うことにおいて、前記ファセット被覆を照射するために電子ビームが利用されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記方法は、個々のデバイスにダイシングされる前のレーザーダイオードのバーに適用されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、パルスエネルギー源が使用されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、CWエネルギー源が使用されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、ステップa)を行うことにおいて、ステップc)の照射を予備形成するのに先立って、各表面安定化層の上に被覆層を付着させることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記被覆層は、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、シリコン酸化物、シリコン窒化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、及び酸化タンタルからなる群から選択される材料を含むことを特徴とする方法。
【外国語明細書】