(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058786
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】水溶性イガイ抽出物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/618 20150101AFI20220405BHJP
A61K 38/01 20060101ALI20220405BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220405BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220405BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220405BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220405BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220405BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220405BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220405BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220405BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220405BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220405BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20220405BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220405BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220405BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20220405BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20220405BHJP
C07K 1/12 20060101ALI20220405BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20220405BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
A61K35/618
A61K38/01
A61K38/17
A61P1/00
A61P1/02
A61P1/04
A61P3/04
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/10
A61P11/00
A61P11/06
A61P17/06
A61P19/02
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P27/16
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P35/00
A61P37/08
A61P43/00 105
A23L33/18
A23L33/17
C07K1/12
C07K1/14
C07K14/435
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022011637
(22)【出願日】2022-01-28
(62)【分割の表示】P 2018501848の分割
【原出願日】2016-03-23
(31)【優先権主張番号】706298
(32)【優先日】2015-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NZ
(71)【出願人】
【識別番号】517335721
【氏名又は名称】ザ・ニュージーランド・インスティチュート・フォー・プラント・アンド・フード・リサーチ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】マーシャル,スーザン・ネレット
(57)【要約】 (修正有)
【課題】必要とする対象において炎症を低減させる、イガイ全身粉末および/または脂質抽出物に付随する欠点を被らない、薬効を有する水溶性イガイ抽出物を提供する。
【解決手段】水溶性イガイ抽出物、特に固体を基準にして少なくとも約45重量%のペプチドを含む、水溶性イガイ抽出物による。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性イガイ抽出物。
【請求項2】
固体を基準にして少なくとも約45重量%のペプチドを含む、請求項1に記載の水溶性イガイ抽出物。
【請求項3】
固体を基準にして約45重量%~約65重量%のペプチドを含む、請求項1に記載の水溶性イガイ抽出物。
【請求項4】
ペプチドの90重量%超が、5kDa未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物。
【請求項5】
固体を基準にして約5重量%以下の脂質を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物。
【請求項6】
前記イガイが、ミドリイガイ(GSM)、ムラサキイガイおよびリブ状イガイを含む群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物。
【請求項7】
水溶性イガイ抽出物を生成する方法であって、
(a)1つまたは複数のタンパク質分解酵素を使用して、イガイ材料の水性懸濁液を加水分解するステップと、
(b)加水分解混合物中の該酵素を変性させるステップと、
(c)不溶性材料を加水分解混合物から除去して、水溶性イガイ抽出物をもたらすステップと
を含む方法。
【請求項8】
前記タンパク質分解酵素が、わずかに酸性からほぼ中性のpH最適値を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質分解酵素が、パパイン、Alcalase、Enzidase FPおよびEnzidase Neutralを含む群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記イガイ材料が、新鮮なイガイ全身、イガイ粉末およびイガイ超臨界残留物を含む群から選択される、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記イガイが、ミドリイガイ、ムラサキイガイおよびリブ状イガイを含む群から選択される、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項7から11のいずれか一項に記載の方法によって生成される水溶性イガイ抽出物。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項14】
請求項1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の摂取可能な賦形剤を含む栄養補助食品組成物。
【請求項15】
食品組成物、食品添加物組成物、健康補助食品または医療食品である、請求項14に記
載の栄養補助食品組成物。
【請求項16】
必要とする対象において炎症を低減させる方法であって、該対象に、治療有効量の請求項1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法。
【請求項17】
必要とする対象において炎症と関連する状態を予防、治療または管理する方法であって、該対象に、治療有効量の請求項1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法。
【請求項18】
前記炎症と関連する状態が、喘息、脳炎、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性疾患、線維症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、関節リウマチおよび変形性関節症を含む関節炎、乾癬、多発性筋痛、腱炎、滑液包炎、喉頭炎、歯肉炎、胃炎、耳炎、セリアック病、憩室炎、アテローム性動脈硬化症、心臓病、肥満症、糖尿病、癌ならびにアルツハイマー病を含む群から選択される、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年3月24日に出願されたニュージーランド仮出願第706298号に基づく優先権を主張するものであり、当該仮出願は参照により本明細書に組み込まれる。
1.発明の分野
本発明は、水溶性イガイ抽出物、それらを含む組成物ならびに栄養補助食品および医薬用途におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
貝、特にイガイは、健康を維持する化合物に富んでいることが知られている。貝抽出物は、世界市場において、確立された栄養補助食品のカテゴリーである。
【0003】
貝の幾つかの抽出物は、抗炎症効果および他の薬物効果を有し、その効果は、多くの場合、脂質画分から生じると主張されている。炎症は、関節炎、アテローム性動脈硬化症および癌を含む多種多様な状態と関連付けられる。炎症の現行医療は、アスピリンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)に非常に大きく依存しており、その多くが、望ましくない副作用を有する。したがって、副作用がより少ない栄養補助食品の貝調製物が、非常に望ましい。
【0004】
貝の多くの栄養補助食品調製物について説明されている。かかる調製物の実際の化学組成は、
(a)貝の種、その年齢、およびそれが成長した環境条件を含む原材料、ならびに
(b)調製物を得るのに使用するプロセス-例えば、ある特定の種類の化合物を選択的に除外、保持、破壊または変化させるステップは、最終調製物の化学構成に影響を及ぼすであろう
を含む多くの要因に依存する。
【0005】
これまで、貝の栄養補助食品調製物は、動物全身の抽出物またはその材料の脂質画分に焦点を合わせてきた。凍結乾燥させた材料の超臨界CO2抽出は、商標名Lyprinol(商標)で販売されているものなどのイガイ脂質抽出物、特にミドリイガイ(green-shelled mussel)脂質抽出物を生成するのに広く使用されている。
【0006】
しかしながら、イガイ全身粉末は不溶性であり、一般的に、不快な「魚のような」風味を有することから、イガイ全身粉末は多くの食品中に含ませるのに適していない。イガイ脂質抽出物もまた不溶性であり、「魚のような」風味/匂いは、酸化によって悪化する可能性があり、それは、多くの標準的な食品加工工程中に起きる可能性が高い。それらは概して、不快な臭いおよび風味を隠すために脂質充填カプセルとして投与されなくてはならない。
【0007】
したがって、相当するイガイ全身粉末および/または脂質抽出物に付随する欠点を被らない、薬効を有する水溶性イガイ抽出物を提供すれば、有利であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる抽出物を提供すること、または公衆に有用な選択を少なくとも提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
3.発明の概要
一態様では、本発明は、水溶性イガイ抽出物を提供する。
一実施形態では、水溶性イガイ抽出物は、固体を基準にして少なくとも約45重量%のペプチド、好ましくは低分子量ペプチドを含む。
【0010】
一実施形態では、水溶性イガイ抽出物は、固体を基準にして約45重量%~約65重量%のペプチド、好ましくは固体を基準にして約50重量%~約60重量%のペプチドを含む。
【0011】
一実施形態では、ペプチドの90重量%超、好ましくは95重量%超が、5kDa未満である。
一実施形態では、ペプチドの75重量%超、好ましくは80重量%超が、2kDa未満である。
【0012】
一実施形態では、ペプチドの35重量%超、好ましくは40重量%超が、1kDa未満である。
一実施形態では、水溶性イガイ抽出物は、固体を基準にして約5重量%以下の脂質を含む。
【0013】
一実施形態では、水溶性イガイ抽出物は、抗炎症活性を有する。
別の態様では、本発明は、水溶性イガイ抽出物を生成する方法であって、
(a)1つまたは複数のタンパク質分解酵素を使用して、イガイ材料の水性懸濁液を加水分解するステップと、
(b)加水分解混合物中の酵素を変性させるステップと、
(c)不溶性材料を加水分解混合物から除去して、水溶性イガイ抽出物をもたらすステップと
を含む方法を提供する。
【0014】
一実施形態では、加水分解混合物は、酵素の変性後にpH4に調節される。
一実施形態では、水溶性イガイ抽出物は、精製および/または濃縮される。
一実施形態では、イガイは、ミドリイガイ(greenshell mussel)(またはモエギイガ
イ(green-lipped mussel))(GSM)-ペルナ・カナリキュラス(Perna canaliculus)、ムラサキイガイ(blue mussel)-ミチラス・エデュリス(Mytilus edulis)、およ
びリブ状イガイ(ribbed mussel)(マオリ語名コパコパ(kopakopa))-アウラコミア
・アトラ・マオリアナ(Aulacomya atra maoriana)を含むが、これらに限定されない群
から選択される。好ましくは、イガイは、GSMである。
【0015】
一実施形態では、イガイ材料は、新鮮なイガイ全身である。別の実施形態では、イガイ材料は、新鮮なイガイ全身を乾燥することによって生成されるイガイ粉末である。別の実施形態では、イガイ材料は、イガイ粉末または他のイガイ材料の超臨界流体抽出によって生成されるイガイ超臨界残留物(supercritical marc)である。
【0016】
別の態様では、本発明は、本発明の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の摂取可能な賦形剤を含む栄養補助食品組成物を提供する。
一実施形態では、栄養補助食品組成物は、マルトデキストリンおよび/または酸化防止剤を含む。
【0017】
一実施形態では、栄養補助食品組成物は、食品組成物、食品添加物組成物、健康補助食
品または医療食品を含む。
別の態様では、本発明は、本発明の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
一実施形態では、医薬組成物は、経口投与剤形、好ましくは粉末を含む。
別の態様では、本発明は、必要とする対象において炎症を低減させる方法であって、対象に、治療有効量の本発明の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、必要とする対象において炎症と関連する状態を予防、治療または管理する方法であって、対象に、治療有効量の本発明の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法を提供する。
【0020】
一実施形態では、炎症と関連する状態は、慢性状態である。
一実施形態では、炎症と関連する状態は、喘息、脳炎、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性疾患、線維症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、関節リウマチおよび変形性関節症を含む関節炎、乾癬、多発性筋痛、腱炎、滑液包炎、喉頭炎、歯肉炎、胃炎、耳炎、セリアック病、憩室炎、アテローム性動脈硬化症、心臓病、肥満症、糖尿病、癌ならびにアルツハイマー病を含む群から選択される。
【0021】
一実施形態では、炎症と関連する状態は、炎症性TNFαおよび/またはIL-1βのレベルを増加させる。
一実施形態では、本発明の水溶性イガイ抽出物は、経口投与される。
【0022】
これより、本発明の実施形態は、図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
4.図面の簡単な説明
【
図1】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に関する陽性(デキサメタゾン)および陰性(ジメチルスルホキシド、DMSO)アッセイ対照を示すグラフである。
【
図2】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対するGSM残留物粉末由来の水溶性抽出物の効果を示すグラフである。
【
図3】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対するGSM全身粉末由来の2つの水溶性抽出物の効果を示すグラフである。2つの酵素の組合せを、タンパク質加水分解に関して試験した。
【
図4】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対する新鮮なムラサキイガイ全身由来の水溶性抽出物の効果を示すグラフである。
【
図5】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対する新鮮なGSM全身由来の水溶性抽出物(脱脂ステップを伴う)の効果を示すグラフである。
【
図6】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対する新鮮なコパコパ全身由来の水溶性抽出物の効果を示すグラフである。
【
図7】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に関する陽性(デキサメタゾン)および陰性(DMSO)アッセイ対照を示すグラフである。
【
図8】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対するGSM残留物粉末由来の水溶性抽出物の効果を示すグラフである。
【
図9】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対するGSM全身粉末由来の2つの水溶性抽出物の効果を示すグラフである。
【
図10】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対する新鮮なムラサキイガイ全身由来の水溶性抽出物の効果を示すグラフである。
【
図11】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対する新鮮なGSM全身由来の水溶性抽出物(脱脂ステップを伴う)の効果を示すグラフである。
【
図12】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対する新鮮なコパコパ全身由来の水溶性抽出物の効果を示すグラフである。
【
図13】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対するGSM残留物粉末由来の水溶性抽出物(パイロット規模)の効果を示すグラフである。
【
図14】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対するGSM残留物粉末由来の水溶性抽出物(パイロット規模)の効果を示すグラフである。
【
図15】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対する加水分解されていないGSM残留物粉末の効果を示すグラフである。
【
図16】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるIL-1βの阻害に対する加水分解されていないGSM全身粉末の効果を示すグラフである。
【
図17】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対する加水分解されていないGSM残留物粉末の効果を示すグラフである。
【
図18】TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞におけるTNFαの阻害に対する加水分解されていないGSM全身粉末の効果を示すグラフである。
【
図19】水溶性抽出物PAR58のLC-MS分析によって生じる正のプロダクトイオンベースクロマトグラムである。
【
図20】加水分解されていないGSM残留物粉末のLC-MS分析によって生じる正のプロダクトイオンベースクロマトグラムである。
【
図21】加水分解されていないGSM全身粉末のLC-MS分析によって生じる正のプロダクトイオンベースクロマトグラムである。
【
図22】水溶性抽出物PAR58のLC-MS分析によって生じる負のプロダクトイオンベースクロマトグラムである。
【
図23】加水分解されていないGSM残留物粉末のLC-MS分析によって生じる負のプロダクトイオンベースクロマトグラムである。
【
図24】加水分解されていないGSM全身粉末のLC-MS分析によって生じる負のプロダクトイオンベースクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
5.発明の詳細な説明
5.1定義
本明細書中で使用する場合、「a」または「an」は、明らかに別記されない限り、少なくとも1つを意味する。
【0025】
本明細書中で使用する場合、「約」という用語は、その用語により修飾される値の上下10%以内の値を指す。
「を含んでいる」という用語は、本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、「で少なくとも部分的に構成される」ことを意味する。「を含んでいる」という用語を含む本明細書および特許請求の範囲における記述を解釈する場合、各記述におけるこの用語の後にくる特徴以外の他の特徴もまた存在することができる。「を含む」および「を含んだ」などの関連用語は、同様に解釈するべきである。
【0026】
本明細書中で使用する場合、「治療有効量」という用語は、対象に対する療法の投与の状況において、状態の重篤性、持続期間、または1つもしくは複数のその症状を低減または改善するのに、状態の進行を予防するのに、状態の退行を引き起こすのに、状態の再発
、発達または発症を予防するのに、あるいは別の療法の予防的もしくは治療的効果を増強または改良するのに十分な量を意味する。
【0027】
本明細書中で使用する場合、「管理する」、「管理している」および「管理」という用語は、対象に対する療法の投与の状況において、状態の治癒をもたらさないが、対象が療法から得る有益な効果を指す。例えば、状態の管理は、状態の悪化を予防することを含む。
【0028】
本明細書中で使用する場合、「予防する」、「予防している」および「予防」という用語は、対象に対する療法の投与の状況において、療法の投与に起因する状態の再発、発症もしくは発達の予防または阻害を指す。
【0029】
本明細書中で使用する場合、「治療する」、「治療」および「治療している」という用語は、対象に対する療法の投与の状況において、療法の投与に起因する、状態の進行、重篤性および/もしくは持続期間の低減もしくは改善、または1つもしくは複数のその症状の改善を指す。
【0030】
本明細書中で使用する場合、「水溶性」という用語は、材料に適用する場合、その材料が、少なくとも45%(w/v)溶解度を有することを意味する。
本明細書において、特許明細書、他の外部文書または他の情報源について言及している場合、これは概して、本発明の特徴を考察するための状況を提供する目的のためである。具体的に別記されない限り、かかる外部文書に関する言及は、かかる文書またはかかる情報源が、いかなる権限においても、従来技術であるか、または当該技術分野における一般常識の一部を成すことを認めると解釈されるべきではない。
【0031】
本明細書中の記載では、本出願の特許請求の範囲の範囲内ではない主題について言及されてもよい。その主題は、当業者によって容易に特定可能であるはずであり、本出願の特許請求の範囲で規定される本発明を実施するのを補助し得る。
5.2 本発明の水溶性イガイ抽出物を生成する方法
本発明の水溶性イガイ抽出物は、以下に記載するように、従来の加工処理技法を使用して容易に調製される。
【0032】
本発明は、水溶性イガイ抽出物を生成する方法であって、
(a)1つまたは複数のタンパク質分解酵素を使用して、イガイ材料の水性懸濁液を加水分解するステップと、
(b)加水分解混合物中の酵素を変性させるステップと、
(c)不溶性材料を加水分解混合物から除去して、水溶性イガイ抽出物をもたらすステップと
を含む方法を提供する。
【0033】
「イガイ」という用語は、本明細書中で使用する場合、海洋ファミリーであるイガイ科(Mytilidae)の食用二枚貝を指す。一実施形態では、本発明の方法で使用するイガイは
、ニュージーランドイガイである。
【0034】
一実施形態では、イガイは、GSM、ムラサキイガイおよびコパコパを含むが、これらに限定されない群から選択される。好ましくは、イガイはGSMである。
一実施形態では、イガイ材料は、「新鮮な」イガイ「全身」である。これは、イガイの貝殻、足およびひげの除去後に残る材料を収集することによって得ることができる。別の実施形態では、イガイ材料は、乾燥イガイ粉末である。これは一般的に、通常凍結乾燥によって新鮮なイガイ全身を乾燥させること、および粉末へと粉砕することによって得られ
る。
【0035】
別の実施形態では、イガイ材料は、イガイ超臨界残留物である。「残留物」という用語は一般的に、植物または動物材料などの生物学的材料の抽出後に残存する有機材料を指す。本明細書中で使用する場合、「超臨界残留物」という用語は、超臨界流体抽出後に残存する有機材料を意味する。
【0036】
本明細書中で使用する場合、「イガイ超臨界残留物」という用語は、イガイ肉またはイガイ粉末の超臨界流体抽出後に残存する有機材料を意味する。
一実施形態では、イガイ材料は、イガイ超臨界残留物、好ましくはGSM超臨界残留物である。
【0037】
上記方法の第1のステップでは、イガイ材料の水性懸濁液を、1つまたは複数のタンパク質分解酵素を用いて加水分解する。
加水分解は、使用する酵素または酵素系用に最適化した条件下で、イガイ材料の水性懸濁液をタンパク質分解酵素(複数可)とともにインキュベートすることによって実行する。通常、pHは、約5.5~約8に調節すべきである。任意選択で、酸化防止剤、例えば、Oxyless Uを水性懸濁液に添加することができる。
【0038】
水性懸濁液は通常、使用する酵素系に応じて、約30~約65℃へ、1~24時間加熱する。概して、イガイ材料を、冷水中で懸濁して、混合物を所要温度へ加熱する。しかしながら、イガイ材料は、代わりにすでに加熱された水中で懸濁することもできる。
【0039】
加水分解中、イガイ材料中に存在するタンパク質は、低分子量ペプチドへ加水分解される。加水分解は、適切な分子量範囲のペプチドを送達するために、酵素的に実施しなくてはならない。例えば酸による化学的な加水分解は、非選択的である。理論により拘束されないが、本発明の水溶性イガイ抽出物の抗炎症特性は、存在する特定の低分子量ペプチド中に存在すると考えられる。これらのペプチドを破壊するか、またはそれらの形成を妨げる加工処理ステップは、抽出物の抗炎症活性を変更することになる。
【0040】
タンパク質分解酵素は、任意の種類、例えば、エンド、エキソプロテアーゼ/ペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、システインプロテアーゼ等であり得る。一実施形態では、タンパク質分解酵素はそれぞれ、わずかに酸性からほぼ中性のpH最適値を有する。一実施形態では、タンパク質分解酵素は、非動物酵素である。
【0041】
適切なタンパク質分解酵素として、パパイン、Alcalase(サブチリシン)、Enzidase FP(コウジカビ変種(Aspergillus oryzae var.)の選択株に由来す
るエンド/エキソペプチダーゼ)およびEnzidase Neutral(バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)の非遺伝子修飾株の制御発酵に由来するメタロ中性エンドペプチダーゼ)が挙げられる。
【0042】
一実施形態では、タンパク質分解酵素は、パパイン、Enzidase FP、Enzidase Neutral、Alcalase等を含む群から選択される。
一実施形態では、タンパク質分解酵素は、パパインおよびEnzidase FPを含む。
【0043】
別の実施形態では、タンパク質分解酵素は、Alcalase、Enzidase NeutralおよびEnzidase FPを含む。
加水分解中のイガイ材料の水性懸濁液の温度は、酵素を分解するか、またはその活性を
阻害するほど熱くするべきではない。加水分解の持続期間は、使用する酵素(複数可)の活性およびイガイ材料に依存する。
【0044】
加水分解ステップは、酵素(複数可)とイガイ材料との間の接触を最適化するために、攪拌しながら実施する。
加水分解が完了した後、酵素を変性させる。一実施形態では、加水分解混合物を、タンパク質分解酵素(複数可)を変性させるのに十分な条件下で加熱する。一実施形態では、加水分解混合物は、約80℃~約95℃で、約30~約40分間加熱する。別の実施形態では、加水分解混合物は、約80℃~約95℃で、約20~約40分間加熱する。
【0045】
一実施形態では、加水分解されたイガイ材料の水性懸濁液は、任意選択で、酵素を変性させる前に脂質を除去するように処理することができる。脂質除去は、当該技術分野で公知の任意の方法を使用して、例えば遠心分離または化学的な抽出などの物理的な技法を使用して達成し得る。
【0046】
化学的な抽出では、加水分解されたイガイ材料の水性懸濁液から水を除去して、次にそれを、脂質画分が可溶性である溶媒と接触させる。続いて、脱脂生成物(イガイ残留物)を水中に再懸濁して、加水分解酵素を変性させる。
【0047】
別の実施形態では、加水分解されたイガイ材料の水性懸濁液を凍結乾燥させて、粉末を形成し、それを有機溶媒ですすいで、脂質を除去する。使用することができる溶媒の例として、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、酢酸エチルおよびジメチルホルムアミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
別の実施形態では、加水分解されたイガイ材料の水性懸濁液を乾燥させて、CO2またはCO2/エタノールなどの超臨界溶媒で抽出して、脂質画分を除去する。続いて、脱脂生成物(イガイ残留物)を水中に再懸濁して、加水分解酵素を変性させる。
【0049】
イガイ材料は、脂質をかなり多く含んでいる場合には、任意選択の脱脂ステップを使用してもよい。イガイ材料が低脂質含有量を有する場合(例えば、ムラサキイガイの新鮮な全身または粉末)、またはイガイ残留物が使用される場合、脱脂ステップは省略することができる。
【0050】
加水分解酵素の変性後に、微生物腐敗を防止するために、混合物のpHを約3.5~約4.2、好ましくは約4に調節してもよい。リン酸(phosphorinic acid)、クエン酸ま
たは塩酸などの薬剤を使用して、pHを調節することができる。
【0051】
次に、加水分解混合物中に存在する不溶性材料を除去して、本発明の水溶性イガイ抽出物をもたらす。
不溶性材料は、当該技術分野で公知の任意の方法によって除去することができる。一実施形態では、不溶性材料は、加水分解混合物を遠心分離すること、および上清を回収することによって除去する。
【0052】
概して、pHは、不溶性材料の除去前に調節するが、後者が殻の断片を含有する場合、この不溶性材料は、酸による殻の可溶化を防止するためにまず除去されるべきである。
本発明の水溶性イガイ抽出物は、例えば、活性炭との接触により、望ましくない色彩および/または匂いに寄与する不純物を除去するように処理してもよい。炭は、容器中に含有されて、生成物をそれに通すことができる。あるいは、カーボン、残存する微粉および脂質残渣は、珪藻土でコーティングされたフィルタープレスまたは等価物を使用して除去することができる。
【0053】
水溶性イガイ抽出物はまた、存在する水の幾らかまたは全てを除去することによって濃縮してもよい。
一実施形態では、水溶性イガイ抽出物を乾燥させて、粉末状抽出物をもたらす。乾燥は、凍結乾燥を含む当該技術分野で公知の任意の技法を使用して実施することができる。
【0054】
マルトデキストリンおよび酸化防止剤などの作用物質を、本発明の水溶性イガイ抽出物に添加してもよい。
実施例1~実施例8は、本発明の水溶性イガイ抽出物を生成する方法について記載する。
5.3 本発明の水溶性イガイ抽出物
上述の本発明の方法は、ペプチド、特に低分子量ペプチドに富んでいる水溶性イガイ抽出物を生成する。本明細書中で使用する場合、「低分子量ペプチド」という用語は、重量が5kDaまたはそれ未満であるペプチドを意味する。
【0055】
抽出物は、苦みを伴わない許容される風味を有する。抽出物は、寒冷沈降反応を伴わずに凍結させることができる。イガイ抽出物の粉末溶解性の特徴は、乾燥保管時に変化しない。
【0056】
本発明の水溶性イガイ抽出物は主に、ペプチド、特に低分子量ペプチドを含む。実施例1~実施例8で生成された抽出物の分子量プロファイルからわかるように、抽出物中に存在する90%を上回るペプチドが、5kDaよりも小さい。
【0057】
本発明の水溶性イガイ抽出物は、本発明の水溶性GSMイガイ抽出物、ならびにGSM残留物および全身粉末の出発材料に関して実行したLC-MS分析の結果を示す
図19~
図24からわかるように、加水分解されていない出発材料よりも多くの化合物を含む。
【0058】
一実施形態では、水溶性イガイ抽出物は、固体を基準にして少なくとも約45重量%のペプチド、好ましくは低分子量ペプチドを含む。
別の実施形態では、水溶性イガイ抽出物は、固体を基準にして少なくとも約45重量%~約65重量%のペプチド、好ましくは約50重量%~約60重量%のペプチドを含む。
【0059】
一実施形態では、ペプチドの90重量%超、好ましくは95重量%超が、5kDa未満である。
一実施形態では、ペプチドの75重量%超、好ましくは80重量%超が、2kDa未満である。
【0060】
一実施形態では、ペプチドの35重量%超、好ましくは40重量%超が、1kDa未満である。
幾つかの炭水化物材料、脂質ならびに他の材料および鉱物もまた、存在し得る。
【0061】
抽出物のペプチド含有量は、その濃縮によって影響を受けないままであるように、存在する「固体」に基づいて算出される。抽出物中に存在する「固体」は、水を含む存在するあらゆる溶媒が除去される場合に残存する材料を構成する。存在する「固体」として、ペプチド、炭水化物および脂質ならびに任意の他の非溶媒材料が挙げられる。
【0062】
本発明の抽出物の溶解度は、少なくとも45%(w/v)である。溶解度は、水を抽出物で飽和させること(比1:1)、遠心分離すること、続いて得られた上清を乾燥させて、溶解した重量を確かめることによって決定することができる。
【0063】
一実施形態では、本発明の水溶性イガイ抽出物は、乾燥粉末である。
抽出物中に存在するペプチドの重量%は、マルトデキストリンおよび酸化防止剤などの抽出物に添加される固体賦形剤を排除して算出される。
【0064】
一実施形態では、本発明は、固体を基準にして少なくとも約45重量%のペプチドを含む水溶性イガイ抽出物であって、ペプチドの90重量%超が5kDa未満である、水溶性イガイ抽出物を提供する。
【0065】
別の実施形態では、本発明は、固体を基準にして約50重量%~約60重量%のペプチドを含む水溶性イガイ抽出物であって、ペプチドの95重量%超が5kDa未満である、水溶性イガイ抽出物を提供する。
5.4 本発明の水溶性ペプチド抽出物の使用
炎症は、生物体の生理学を変更させる分子および細胞シグナルの複雑な生物学的カスケードを含むプロセスである。急性炎症が、身体的傷害または感染後に身体を保護し癒す一方で、慢性炎症は、多くの変性疾患において重要な役割を果たす変化をもたらす。慢性炎症は主として、単球および長命のマクロファージによって媒介される。マクロファージは、IL-1、IL-6ファミリー、TNFαおよびプロスタグランジンを含む化学的媒介物質を放出する。これらの媒介物質は、他の炎症誘発性サイトカインのアップレギュレーションを誘発する。IL-1、IL-6およびTNFαは、静止細胞よりも炎症細胞において、より高レベルで見出される主要な炎症性バイオマーカーである。
【0066】
細菌または外来粒子の貪食は、呼吸性バーストと呼ばれる好中球による酸素の取込みの増加と関連付けられる。この期間中、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシド陰イオン、一重項酸素および過酸化水素などの活性酸素種(ROS)が生成される。これらの種は、侵入している微生物および寄生虫を死滅させる。
【0067】
栄養補助食品は、IL-1およびTNFαなどの炎症誘発性サイトカインの発現を阻止すること、ROS生成酵素活性を阻害すること、またはROS捕捉能を増加させることを含む幾つかのメカニズムを介して、炎症プロセスを阻害または低減することができる。
【0068】
実施例9に提示するように、本発明の水溶性イガイ抽出物は、炎症の公知のマーカーに対して活性であることが見出され、したがって、炎症を低減または予防すると考えられる。表10および表11に示すように、示した活性は、全身粉末または残留物などの加水分解されていない出発イガイ材料の抗炎症活性よりも数倍高い。
【0069】
一態様では、本発明は、必要とする対象において炎症を低減させる方法であって、対象に、治療有効量の本発明の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法を提供する。
別の態様では、本発明は、必要とする対象において炎症と関連する状態を予防、治療または管理する方法であって、対象に、治療有効量の本発明の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法を提供する。
【0070】
別の態様では、本発明は、必要とする対象において炎症を低減させるための医薬の製造における本発明の水溶性イガイ抽出物の使用を提供する。
別の態様では、本発明は、必要とする対象において炎症と関連する状態を予防、治療または管理するための医薬の製造における本発明の水溶性イガイ抽出物の使用を提供する。
【0071】
本発明はまた、必要とする患者において炎症を低減させることにおける使用のための本発明の水溶性イガイ抽出物を提供する。
本発明はまた、必要とする患者において炎症と関連する状態を予防、治療または管理することにおける使用のための本発明の水溶性イガイ抽出物を提供する。
【0072】
一実施形態では、炎症と関連する状態は、慢性状態である。
別の実施形態では、炎症と関連する状態は、炎症性マーカーTNFαおよび/またはIL-1βのレベルを増加させる。
【0073】
本発明により予防、治療または管理することができる、炎症と関連する状態の例として、喘息、脳炎、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性疾患、線維症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、関節リウマチおよび変形性関節症を含む関節炎、乾癬、多発性筋痛、腱炎、滑液包炎、喉頭炎、歯肉炎、胃炎、耳炎、セリアック病、憩室炎、アテローム性動脈硬化症、心臓病、肥満症、糖尿病、癌ならびにアルツハイマー病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明はまた、必要とする対象において、炎症性マーカーTNFαおよび/またはIL-1βのレベルを減少させる方法であって、対象に、治療有効量の本発明の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法を提供する。
【0075】
炎症と関連する状態の予防、治療または管理を必要とする対象は、かかる状態と診断されたか、かかる状態の危険性があるか、またはかかる状態から回復した対象である。対象は、遺伝的および/または環境的要因のため、状態にかかりやすい可能性があり、および/または状態の危険性があり得る。
【0076】
一実施形態では、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。別の実施形態では、対象は、ペットまたはウマである。
本発明の水溶性イガイ抽出物の投与は、医薬組成物または栄養補助食品組成物を介し得る。
【0077】
一態様では、本発明は、本発明の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の摂取可能な賦形剤を含む栄養補助食品組成物を提供する。
一実施形態では、本発明の栄養補助食品組成物は、食品組成物、食品添加物組成物、健康補助食品または医療食品組成物である。
【0078】
「摂取可能な」という用語は、本明細書中で使用する場合、一般的に、動物およびヒトによる摂取に適切であるか、またはそれに関して政府の規制機関により認可されていることを意味する。
【0079】
「食品」という用語は、本明細書中で使用する場合、加工処理されるか、半加工処理されるか、または未加工の任意の物質を意味し、それは、ヒトを含む動物による摂取を意図し、飲料およびチューインガムを含むが、これらに限定されない。本発明の食品組成物は、食品と組み合わせた本発明の水溶性イガイ抽出物を含む。
【0080】
「食品添加物」という用語は、本明細書中で使用する場合、通常はそれ自体で食品として摂取されず、技術的な目的で食品に添加される任意の物質を指す。例は、天然および人工甘味料、着色料、硬化およびピクリング剤、香味料、乳化剤、脂質代替物、安定剤、膨張剤、潤滑剤、保湿剤、防腐剤、安定化剤および増粘剤である。本発明の食品添加物組成物は、1つまたは複数の食品添加物と組み合わせた本発明の水溶性イガイ抽出物を含む。
【0081】
「健康補助食品」という用語は、本明細書中で使用する場合、下記成分:ビタミン、ミネラル、ハーブ、代謝産物、抽出物等のうちの1つまたは複数を含む、食事を補うことを意図する製品を指す。健康補助食品は通常、食事の単独の品目として使用されることを意図しておらず、任意の食品と無関係に摂取することができる。本発明の健康補助食品は、
1つまたは複数の健康補助食品と組み合わせた本発明の水溶性イガイ抽出物を含む。
【0082】
「医療食品」という用語は、本明細書中で使用する場合、医師の監視下で摂取されるか、または経腸投与されるように配合される食品を指す。医療食品は、特徴的な栄養要件を有する状態の食事管理を意図している。医療食品の例として、単一指定栄養食品、経口補水液および代謝障害の食事管理における使用を意図する製品が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医療食品組成物は、医療食品と組み合わせた本発明の水溶性イガイ抽出物を含む。
【0083】
一実施形態では、本発明の栄養補助食品組成物は、食品組成物である。本発明の水溶性抽出物は、心地良い匂いと風味がするので、食品組成物としての使用に特に適しており、したがって食品に直接添加することができる。他のイガイ生成物とは異なり、それは、カプセル化する必要がない。実施例11は、本発明の2つの水溶性抽出物中に存在する揮発性有機化合物の分析について記載する。表13および表14に示す結果は、心地良い風味の組成物と一致する。
【0084】
一実施形態では、食品組成物は、パン、ピザ生地、ケーキ、マフィン、ドーナッツ、ビスケット、トルティーヤ、ラップ、ナン、麺およびパスタを含むが、これらに限定されないベーカリー製品である。
【0085】
別の実施形態では、食品組成物は、牛乳、フルーツジュース、スムージー、ヨーグルト、スープおよびソフトドリンクを含む液体食品である。本発明の水溶性イガイ抽出物はまた、インスタントスープ、飲料、プディングおよびケーキミックスなどの乾燥ミックスに添加することができる。
【0086】
一態様では、本発明は、本発明の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
「薬学的に許容される」という用語は、本明細書中で使用する場合、動物、特にヒトにおける使用に関して政府の規制機関により認可されていることを意味する。
【0087】
「賦形剤」という用語は、本明細書中で使用する場合、本発明の水溶性イガイ抽出物が、ともに保管、輸送または投与されるビヒクル、担体、希釈剤、補助剤、安定化剤または充填剤を含む。適切な賦形剤は、薬学の当業者に周知であり、デンプン(およびマルトデキストリンなどのその誘導体)、グルコース、ショ糖、小麦粉、シリカゲル、グリセロール、塩化ナトリウム、水、アスコルビン酸およびエタノールが挙げられるが、これらに限定されない。特定の賦形剤が、本発明の医薬組成物への組込みに適しているかどうかは、剤形を投与する方式に依存するであろう。
【0088】
本発明の医薬組成物は、非経口、経口、鼻腔内、局所、経皮、経粘膜および直腸を含むが、これらに限定されない任意の適切な経路によって投与することができる。
剤形の組成および形状は通常、用法に応じて様々である。剤形の例として、錠剤、カプセル剤、丸剤、ペレット剤、液体を含有するカプセル剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、分散剤、坐剤、点鼻薬(nasal sprays)または吸入剤、ゲル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、液剤およびエリキシル剤が挙げられるが、それらに限定されない。
【0089】
一実施形態では、本発明は、経口投与剤形の本発明の水溶性イガイ抽出物を提供する。それらの投与の容易さのため、栄養補助食品組成物としても、医薬組成物としても、経口投与剤形が好ましい。典型的な経口投与剤形は、本発明の乾燥水溶性イガイ抽出物を、固体経口投与剤形における使用に適した少なくとも1つの賦形剤と組み合わせることによって調製される。続いて、生成物は、望ましい剤形に成形される。
【0090】
かかる賦形剤として、希釈剤、造粒剤、湿潤剤、懸濁化剤、充填剤、潤滑剤、結合剤および崩壊剤が挙げられるが、これらに限定されない。
結合剤の例として、コーンスターチ、ジャガイモデンプンまたは他のデンプン、ゼラチン、アラビアおよびグァーなどのゴム、アルギン酸ナトリウム、粉末状トラガカント、セルロースならびにカルボキシメチルセルロース、予めゼラチン化させたセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよび微結晶性セルロースを含むその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。充填剤の例として、タルク、炭酸カルシウム顆粒または粉末、微結晶性セルロース、粉末状セルロース、デキストレート、カオリン、マンニトール、ソルビトールおよびデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。崩壊剤は、水性環境に曝露されると、確実に錠剤を崩壊させる。例として、寒天、炭酸カルシウム、アルギン酸、クロスカルメロースナトリウム、微結晶性セルロース、予めゼラチン化させたデンプン、クレイおよびゴムが挙げられるが、これらに限定されない。潤滑剤として、ステアリン酸カルシウム、軽油、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、硬化植物油および寒天が挙げられるが、これらに限定されない。湿潤剤として、レシチンおよびステアリン酸ポリオキシエチレンが挙げられるが、これらに限定されない。懸濁化剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロースおよびアルギン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
錠剤は、圧縮または成形によって調製することができる。本発明の経口用の剤形はまた、チューイング錠剤、硬質ゼラチンカプセル剤または軟質ゼラチンカプセル剤を含む。経口投与用の液体調製物は、液剤、シロップ剤または懸濁液を含むが、これらに限定されず、使用前の水または別の適切なビヒクルによる再構成用の乾燥製品として提供されてもよい。
【0092】
炎症と関連する状態の予防、治療または管理において有効である本発明の水溶性イガイ抽出物の量は、疾患または状態の性質および重篤性、および抽出物が投与されるべき経路、ならびに対象の年齢、体重、性別および既往歴などの対象に特異的な要因により様々である。
【0093】
概して、炎症と関連する状態の急性治療で使用される剤形は、慢性状態の治療で使用されるよりも大量の水溶性イガイ抽出物を含む。同様に、非経口投与剤形は、経口投与剤形よりも少ない水溶性イガイ抽出物を含有し得る。特定の剤形の配合は、薬学の当業者によって容易に理解される。本発明者らは、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Allen等、第22版.ISBN 978-0-85711-062-6を参照している。
【0094】
当業者は、in vitroまたは動物モデル試験から得られる用量応答曲線から有効量を予測することができる。概して、本発明の水溶性イガイ抽出物の有効量は、1日を通して、1日1回用量としてまたは分割用量として、1日当たり約100mg~約3000mgである。
【0095】
これより、本発明の様々な態様を、下記の実施例を参照して非限定的に説明する。
【実施例0096】
6.実施例
6.1 材料および方法
Oxyless Uは、Naturex(アヴィニョン、フランス)から調達した。マルトデキストリン(Maltrin 100または150)は、New Zealand
Starch(オークランド、NZ)製であった。Celite HyFloおよびC
elite 545は、Imerys Filtration Minerals Inc.(サンノゼ、カリフォルニア、米国)製であった。Enzidaseパパイン6000L、Enzidase FPおよびEnzidase Neutralは、Zymus(オークランド、NZ)製であった。Alcalaseは、Novozymes(バウスベア、デンマーク)製であった。
【0097】
他の化学物質および試薬は全て、標準的な研究室供給品であった。
サイズ排除HPLC設定
カラム:Yarra(商標)3μm SEC-2000(Phenomenex)。
試料調製:
1.リン酸ナトリウム緩衝液pH6.8 100mL中に、10mg/mLの濃度で凍結乾燥させた抽出物試料を溶解させる。
【0098】
2.リン酸緩衝液中の試料4部および10%SDS1部の比で、溶液を希釈して、最終濃度2%SDSを得る。
3.50℃で5分間加熱する。
【0099】
4.13000rpmで5分間遠心分離する。
5.バイアルへ上清を充填して、HPLCを行う。
ペプチドのSE-HPLCに対する操作条件:
【0100】
【0101】
6.2 本発明の水溶性抽出物を生成するためのイガイの抽出
様々なイガイ供給源を、以下に提供する実施例に従って加工処理した。プロセスおよび試料コードを以下の表1に概要する。
【0102】
【0103】
実施例1:ミドリイガイ超臨界残留物の抽出(GSM残留物抽出物)PAR15
凍結乾燥させたミドリイガイの超臨界CO2抽出から生じた残留物(160g)を、水600ml中に懸濁した。Oxyless U酸化防止剤(0.25g)を添加した。パパイン(5ml)を添加して、混合物を振とう水浴中で1時間、55℃に加熱した。次に、Enzidase FP(0.5g)を添加して、振とう水浴中で55℃にて、さらに1時間、加水分解を続けた。
【0104】
加水分解混合物を、90℃でさらに30分間加熱して、55℃に冷却し、続いて10000rpmで30分間遠心分離した後、上清(565ml)を回収した。リン酸を用いて、上清のpHをpH4に調節した。活性炭を添加した(2g)。上清を、珪藻土を使用したSeitz 900フィルターボード(プレコート(Celite HyFlo)20g+ボディーフィード(Celite 545)20g)に通して濾過した。濾液を回収して(510ml)、溶解するまでマルトデキストリン(27.2g)およびOxyless U酸化防止剤(0.25g)と混合した。得られた溶液を凍結乾燥させて、固体生成物(GSM残留物抽出物)126.2gを得た。
【0105】
GSM残留物抽出物は、完全に水溶性であり、心地良い風味を伴っていた。出発超臨界CO2残留物中に存在する固体の60%を回収した。
同じ酵素系を使用して(PAR13、19および30)、一度Enzidase FPをAlcalaseで置き換えて(PAR12)、手順を数回繰り返した。
【0106】
SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表2に示す。
【0107】
【0108】
実施例2:新鮮なミドリイガイ全身の抽出(新鮮なGSM全身の抽出物)PAR37
ミドリイガイ由来の均質化した肉(500g)を、水400ml中に懸濁した。Oxyless U酸化防止剤(0.25g)を添加した。Alcalase(2.5ml)およびEnzidase Neutral(2.5ml)を添加して、混合物を振とう水浴中で3時間、60℃に加熱した。次に、Enzidase FP(0.125g)を添加して、振とう水浴中で60℃にて、さらに1時間、加水分解を続けた。
【0109】
加水分解混合物を、95℃でさらに40分間加熱して、55℃に冷却し、続いて10000rpmで30分間遠心分離した後、上清(795ml)を回収した。リン酸を用いて、上清のpHをpH4に調節した。活性炭を添加した(2g)。上清を、珪藻土を使用したSeitz 900フィルターボード(プレコート20g+ボディーフィード20g)に通して濾過した。濾液を回収して(750ml)、溶解するまでマルトデキストリン(27.2g)およびOxyless U酸化防止剤(0.25g)と混合した。得られた溶液を凍結乾燥させて、固体生成物(新鮮なGSM全身の抽出物)を得た。
【0110】
新鮮なGSM全身の抽出物は、完全に水溶性であった。貝原料中に存在する固体の56%を回収した。SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表3に示す。
【0111】
【0112】
実施例3:GSM全身粉末の抽出(GSM全身粉末の抽出物)PAR36
凍結乾燥させた粉末状ミドリイガイ(160g)を、水600ml中に懸濁した。Oxyless U酸化防止剤(0.25g)を添加して、pHを6.0~8.0に調節した。Alcalase(2.5ml)およびEnzidase Neutral(2.5m
l)を添加して、混合物を振とう水浴中で3時間、60℃に加熱した。次に、Enzidase FP(0.125g)を添加して、振とう水浴中で60℃にて、さらに1時間、加水分解を続けた。
【0113】
加水分解混合物を、95℃でさらに40分間加熱して、55℃に冷却し、続いて10000rpmで30分間遠心分離した後、上清(590ml)を回収した。リン酸を用いて、上清のpHをpH4に調節した。活性炭を添加した(2g)。上清を、珪藻土を使用したSeitz 900フィルターボード(プレコート20g+ボディーフィード20g)に通して濾過した。濾液を回収して(550ml)、溶解するまでマルトデキストリン(27.2g)およびOxyless U酸化防止剤(0.25g)と混合した。得られた溶液を凍結乾燥させて、固体生成物(GSM全身粉末の抽出物)を得た。
【0114】
GSM全身粉末の抽出物は、完全に水溶性であった。出発イガイ材料中に存在する固体の66%を回収した。
AlcalaseおよびEnzidase Neutralをパパインで置き換えて(PAR36a)、プロセスを繰り返した。
【0115】
SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表4に示す。
【0116】
【0117】
実施例4:新鮮なムラサキイガイ全身の抽出(新鮮なムラサキイガイ全身の抽出物)PAR40
ムラサキイガイ由来の均質化した肉(516g)を、水300ml中に懸濁した。Oxyless U酸化防止剤(0.25g)を添加した。pHを6.0~8.0に調節して、続いてAlcalase(2.5ml)およびEnzidase Neutral(2.5ml)を添加して、混合物を振とう水浴中で3時間、60℃に加熱した。次に、Enzidase FP(0.125g)を添加して、振とう水浴中で60℃にて、さらに1時間、加水分解を続けた。
【0118】
加水分解混合物を、95℃でさらに30分間加熱して、55℃に冷却し、続いて10000rpmで30分間遠心分離した後、上清(746ml)を回収した。リン酸を用いて、上清のpHをpH4に調節した。活性炭を添加した(2g)。上清を、珪藻土を使用したSeitz 900フィルターボード(プレコート20g+ボディーフィード20g)に通して濾過した。濾液を回収して(700ml)、溶解するまでマルトデキストリン(27.2g)およびOxyless U酸化防止剤(0.25g)と混合した。得られた溶液を凍結乾燥させて、固体生成物(新鮮なムラサキイガイ全身の抽出物)を得た。
【0119】
新鮮なムラサキイガイ全身の抽出物は、完全に水溶性であった。貝原料中に存在する固
体の83%を回収した。SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表5に示す。
【0120】
【0121】
実施例5:脱脂ステップを含む新鮮なGSM全身の抽出(新鮮なGSM全身の脱脂した抽出物)PAR41
GSM由来の均質化した肉(507g)を、水400ml中に懸濁した。Oxyless U酸化防止剤(0.25g)を添加した。pHを6.5~8.0に調節して、続いてAlcalase(2.5ml)およびEnzidase Neutral(2.5ml)を添加して、混合物を振とう水浴中で3時間、60℃に加熱した。次に、Enzidase FP(0.125g)を添加して、振とう水浴中で60℃にて、さらに1時間、加水分解を続けた。
【0122】
続いて、加水分解された材料(890ml)を凍結乾燥させて、粉末100gを回収した。粉末を冷アセトン(3×250ml)ですすいで、脂質を除去した。すすぎの間に紙に通して濾過することによって、粉末を回収した。最終的な脱脂粉末を窒素下で乾燥させた。
【0123】
脱脂粉末を、水400ml中に再懸濁して、95℃で40分間加熱して、続いて55℃に冷却した。次に、加水分解された水性懸濁液を、10000rpmで30分間遠心分離した後、上清(415ml)を回収した。リン酸を用いて、上清のpHをpH4に調節した。活性炭を添加した(2g)。上清を、珪藻土を使用したSeitz 900フィルターボード(プレコート20g+ボディーフィード20g)に通して濾過した。濾液を回収して(375ml)、溶解するまでマルトデキストリン(27.2g)およびOxyless U酸化防止剤(0.25g)と混合した。得られた溶液を凍結乾燥させて、固体生成物(新鮮なGSM全身の脱脂した抽出物)を得た。
【0124】
新鮮なGSM全身の脱脂した抽出物は、完全に水溶性であった。貝原料中に存在する固体の55%を回収した。SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表6に示す。
【0125】
【0126】
実施例6:GSM超臨界残留物の工場規模の抽出(工場GSM残留物抽出物)PAR43
Oxyless U酸化防止剤(80g)を、冷(19℃)水(500L)に添加した。パパイン(200g)を、続いて凍結乾燥させたミドリイガイの超臨界CO2抽出から生じる残留物(50.0kg)をその中で攪拌させた。混合物を55℃に加熱して、2時間消化させた。次に、Enzidase FP(160g)を添加して、55℃でさらに1.5時間、加水分解を続けた。
【0127】
加水分解混合物を、80~88℃でさらに20分間加熱して、60℃に冷却し、続いて液体-スラッジ分離器に通して遠心分離した(2回)後、上清(450L)を回収した。リン酸を用いて、上清のpHを4に調節した。活性炭を添加した(200g)。上清を、珪藻土を使用したフィルタープレス(プレコート6.0kg+ボディーフィード6.0kg)に通して濾過した。濾液を回収して(500L)、溶解するまでマルトデキストリン(7.0kg)およびOxyless U酸化防止剤(80g)と混合した。得られた溶液を凍結乾燥させて、添加物を除く固体(GSM残留物抽出物)24.0kgを得た。
【0128】
GSM残留物抽出物は、完全に水溶性であり、心地良い新鮮な海の風味を伴っていた。出発超臨界CO2残留物中に存在する固体の50%を回収した。
SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表7に示す。
【0129】
【0130】
実施例7:新鮮なコパコパ全身の抽出(新鮮なコパコパ全身の抽出物)PAR45
均質化したコパコパ肉(501g)を、水400ml中に懸濁した。Oxyless U酸化防止剤(0.25g)を添加した。pH(6)は調節しなかった。パパイン(5ml)を添加して、混合物を振とう水浴中で2時間、55℃に加熱した。次に、Enzidase FP(0.5g)を添加して、振とう水浴中で55℃にて、さらに1.5時間、加水分解を続けた。
【0131】
加水分解混合物を、95℃でさらに30分間加熱して、55℃に冷却し、続いて10000rpmで30分間遠心分離した後、上清(720ml)を回収した。リン酸を用いて、上清のpHを4に調節した。活性炭を添加した(2g)。上清を、珪藻土を使用したSeitz 900フィルターボード(プレコート(Celite HyFlo)20g+ボディーフィード(Celite 545)20g)に通して濾過した。濾液を回収して(575ml)、マルトデキストリンおよびOxyless U酸化防止剤と混合した。得られた溶液を凍結乾燥させて、固体生成物(新鮮なコパコパ全身の抽出物)を得た。
【0132】
新鮮なコパコパ全身の抽出物は、完全に水溶性であった。コパコパ原料中に存在する固体の55%を回収した。
SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表8に示す。
【0133】
【0134】
実施例8:GSM残留物粉末の抽出(パイロット規模)PAR58
Oxyless U(24g)を冷水150Lに添加した。パパイン(500mL)(Zymus Enzidaseパパイン6000L)を連続的に攪拌しながら添加した。GSM超臨界残留物(15.0kg)を添加して、懸濁液を50℃で15時間加熱した。Enzidase FP(50g)を添加して、55℃でさらに2時間、加水分解を続けた。
【0135】
次に、懸濁液を、80℃で20分間加熱した後、冷却した。
液体-スラッジ分離器に通して、懸濁液を遠心分離して、プロセス中に、活性炭60gを添加した。上清を再び回収して、リン酸を用いて、そのpHを4に変化させた。上清を液体スラッジ分離器に通して遠心分離した。最終的な上清を回収した(95L)。マルトデキストリン(2.4kg)およびOxyless U(24g)を添加して、溶解するまで混合した。
【0136】
続いて、本発明の水溶性抽出物を凍結乾燥させて、水溶性固体生成物を得た。イガイ残留物中に存在する固体の69%を回収した。風味は心地良かった(おいしかった)。
手順は、同じ酵素系(パパイン500mL)を使用して繰り返し、50℃で21時間消化し、続いて55℃でさらに2時間、Enzidase FP45gで加水分解)した(PAR63)。
【0137】
超臨界GSM残留物中に存在する固体の83%を回収した。生成物は水溶性であり、心地良いおいしい風味を有した。
SE-HPLCにより分析される場合の生成物の分子量プロファイルを以下の表9に示す。
【0138】
【0139】
PAR58の近似組成を、GSM残留物出発材料の近似組成と比較した。試料を、103℃で16時間乾燥させた(重量測定)。AOAC 945.15、第19版。灰分は、マッフル炉600℃、6時間における着火によって決定した(重量測定)。AOAC 942.05、第19版。総窒素は、デュマ燃焼を使用して決定した。AOAC 992.
15、第19版。総タンパク質は、総窒素×6.25に基づいて算出した。AOAC 992.15、第19版。総タンパク質の値はまた、6.75のファクターに基づいても与えられる(これは、かなりの水が、ペプチド結合に付加されている高度に加水分解されたタンパク質により適している)。脂質は、Bligh,E.G.、&Dyer,W.J.(1959年)、「A rapid method of total lipid extraction and purification」、Can.J.Biochem.and Physiol.、37巻(8)、911~917頁の方法を使用して決定した。
【0140】
以下の表10は、結果を示す。
【0141】
【0142】
値は、いかなる添加物も含まない凍結乾燥させた材料のg/100gである。
6.3 本発明の水溶性抽出物の抗炎症特性
実施例9:本発明の水溶性抽出物による単球THP-1細胞におけるTLR4(LPS)刺激IL-1βおよびTNFα分泌の阻害
IL-1βおよびTNFαは、炎症性応答の重要な媒介物質である。それらは、侵入している微生物および外傷に対する身体の自然防御を調節する事象のカスケードを開始させる。正常な条件下では、これらの炎症誘発性サイトカインは、局在性であり、短命である。しかしながら、慢性炎症性条件下では、それらの発現は延長され、ある特定の状況では、身体全体にわたって広がる。これが、炎症誘発性応答を永続させて、免疫細胞の異常な漸増および活性化の基礎となる。
【0143】
したがって、慢性炎症性状態においてIL-1βおよびTNFα発現および生物学的活性を制限することにより、慢性炎症が抑制される。さらに、様々な免疫細胞が、慢性炎症中にIL-1βおよびTNFαを発現することが知られている。しかしながら、それらの発現に関する誘因は、非常に多様であり、それらは、侵入している微生物に対する異常な免疫細胞シグナル伝達の結果である。
【0144】
自然防御系の一部として、ヒトは、異物を認識して、適切な細胞防御プロセスを誘発するToll様受容体(TLR)として公知の群を含む複雑な細胞表面マーカーを発達させてきた。
【0145】
単球免疫細胞においてTLR4を活性化する細菌リガンドを、IL-1βおよびTNFαの発現をアップレギュレートするのに利用して、慢性炎症性状態においてこれらの炎症誘発性サイトカインの発現を抑制する際のイガイ抽出物の効率を探究した。
方法:10%FBS(ウシ胎児血清)を含有するRPMI(ロズウェルパーク記念研究所)培地中で増殖させた単球細胞株THP-1(2×106個の細胞/mL)を、哺乳動物
細胞培養条件下で、TLR4-リポ多糖[LPS](0.5~50ng/mL)ともに6時間インキュベートした。上清を収集して、市販のELISAを使用して、IL-1βおよびTNFα生成に関して測定した。最適用量のTLR4(最大生理活性のおよそ70%)を使用して、IL-1βおよびTNFα分泌に対するイガイ抽出物の効果を調べた。公知の免疫抑制剤であるデキサメタゾン(0.001~10μMまたは0~3.925μg/mL)を使用して、このバイオアッセイを確証した。
【0146】
慢性炎症性シナリオにおいてIL-1βおよびTNFαの発現を減弱させる際のイガイ抽出物の有効性を評価した。THP-1細胞を最初に、最適用量のTLR4で30分間刺激して、IL-1βおよびTNFα発現のアップレギュレーションを誘起した。次に、イガイ抽出物(通常、1~100μg/mL)を添加して、細胞とともにさらに6時間インキュベートした。続いて、培養培地を収集して(細胞を遠沈させることによって)、ELISAによりIL-1βおよびTNFα分泌に関して測定した。データは、サイトカインpg/mLとして算出し、TLR4刺激IL-1βまたはTNFα分泌の阻害パーセントとして提示した。
【0147】
結果を
図1~
図18に示す。試験した本発明の水溶性抽出物は全て、抗炎症活性を示した(
図1~
図14)。
図15~
図18は、加水分解されていないイガイ材料を上述のアッセイで試験した対照実験の結果である。
【0148】
図15および
図16は、TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞中におけるIL-1βの阻害に対するGSM残留物粉末およびGSM全身粉末の効果を示す。
図17および
図18は、TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞中におけるTNFαの阻害に対する同じ材料の効果を示す。
【0149】
以下の表10は、アッセイにおいて100μg/mLで適用した場合の、TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞中におけるIL-1βの阻害に対する様々なGSM生成物の効果を示す。凍結乾燥させた生成物は、アッセイへの添加に先立って、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれか中に再懸濁した。
【0150】
各列では、値1を割り当てた可溶性抽出物の効果(最も高い阻害)と比較して、結果を表している。
【0151】
【0152】
以下の表11は、アッセイにおいて100μg/mLで適用した場合の、TLR4(LPS)刺激単球THP-1細胞中におけるTNFαの阻害に対する様々なGSM生成物の効果を示す。凍結乾燥させた生成物は、アッセイへの添加に先立って、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれか中に再懸濁した。
【0153】
各列では、値1を割り当てた可溶性抽出物の効果(最も高い阻害)と比較して、結果を表している。
【0154】
【0155】
6.4 本発明の水溶性抽出物の分析
実施例10:GSM残留物、全身粉末および本発明の水溶性抽出物のLC-MS分析
方法
各試料を割り当て、ボルテックスを用いて0.5%ギ酸水溶液中で混合して、極性構成成分を溶解させたが、以下の表12に示すように、幾つかの試料は、幾らか溶解されていない固体を維持した。
【0156】
【0157】
LC-MSシステムは、Thermo Electron Corporation(サンノゼ、CA、米国)のFinnigan Surveyor MSポンプ、Thermo Accela Openオートサンプラー(DLWを伴うPAL HTC-xt)、検出器を加えたFinnigan Surveyor PDA、およびThermaSphere TS-130カラムヒーター(Phenomenex、トーランス、CA、米国)で構成されていた。
【0158】
各調製抽出物の2μL分取量を、流速200μl/分で30℃にて維持した水性順相クロマトグラフィー(Cogent(商標)Diamond-Hydride(商標)、4μm、100Å、150×2.1mm、MicroSolv(商標)Technologies Corporation、USA)によって、水中の0.1%ギ酸(A)およびアセトニトリル中の0.1%ギ酸(B)で構成される移動相を用いて分離させた。勾配を適用した:0~2分、5%A;30~39.5分、90%A;40~45分、5%A。
【0159】
データは、前駆物質質量に対し負および正のモードでのエレクトロスプレーイオン化(ESI)を用い、MSに対するプロダクトイオンの範囲m/z100~2000amuで、API-MS(LTQ、2D線形イオントラップ、Thermo-Finnigan、サンノゼ、CA、米国)によって獲得した。
【0160】
結果を
図19~
図24に示す。本発明の水溶性抽出物のLS-MSクロマトグラム(図
19および
図22)は、出発イガイ材料のLC-MSクロマトグラム(
図20、
図21、
図23および
図24)で見られるよりも多くのピークを伴うより複雑な組成を示す。
実施例11:水溶性GSM抽出物の固相マイクロ抽出-GC-MS分析
イガイ抽出物PAR58およびPAR63における揮発性有機化合物を、改変したTuckey、DayおよびMillerの方法(Tuckey,N.P.L.、Day,J.R.、およびMiller,M.R.(2013年)、固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフィー-質量分析法を使用した冷蔵保管中のNew Zealand Greenshell(商標)イガイ(ペルナ・カナリキュラス)中の揮発性化合物の決定、Food
Chemistry、136巻(1)、218~223頁)を使用して、SPME-GC-MSによって分析した。凍結乾燥させた抽出物の試料(1.20g)を、セルフシールのセプタムを取り付けた20mLのガラスバイアル中に入れた。各抽出物に対し、2つのバイアルを調製して、各バイアルを二重反復で分析した。バイアルを40℃で4分間、攪拌しながらインキュベートした後、85μmのカルボキセンポリ(ジメチルシロキサン)でコーティングしたSPMEファイバー(Supelco、ベルフォント、PA、米国)を使用して20分間、揮発性物質を吸着させた。各分析操作に先立って、および各分析操作の間に、ブランクファイバー試料を流して、きれいなベースラインを確保した。吸着した揮発性物質をGC-MSによって分析した。GC-MSシステムは、GCMS-QP2010質量分析ユニット(島津、京都、日本)と連結させ、またAOC-5000自動インジェクター(PAL、CTC Analytics、ツヴィンゲン、スイス)を備えたGC-2010ガスクロマトグラフで構成されていた。GC-MS分析に関する条件は、下記の通りであった:注入温度250℃;スプリットレスモード;インジェクターにおける2分の脱着;Rtx-5Sil MSキャピラリーカラム-30m×0.25mm ID×0.25μmフィルム厚(Restek、ベルフォント、PA、米国);炉温度プログラム:開始50℃、1分間保持、160℃まで10℃/分で増加、250℃まで40℃/分で増加、250℃で1分間保持;Heキャリアガス、流速1.90mL/分;MS検出器温度、260℃。ピークは、質量スペクトルデータベース(Wiley 7.0ライブラリー、Wiley、ニューヨーク、NY、米国)との比較によって同定した。結果を以下で表13および表14に示す。
【0161】
【0162】
【表16】
本発明の態様には、以下のものも含まれる。
態様1
水溶性イガイ抽出物。
態様2
固体を基準にして少なくとも約45重量%のペプチドを含む、態様1に記載の水溶性イガイ抽出物。
態様3
固体を基準にして約45重量%~約65重量%のペプチドを含む、態様1に記載の水溶性イガイ抽出物。
態様4
ペプチドの90重量%超が、5kDa未満である、態様1から3のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物。
態様5
固体を基準にして約5重量%以下の脂質を含む、態様1から4のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物。
態様6
前記イガイが、ミドリイガイ(GSM)、ムラサキイガイおよびリブ状イガイを含む群から選択される、態様1から5のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物。
態様7
水溶性イガイ抽出物を生成する方法であって、
(a)1つまたは複数のタンパク質分解酵素を使用して、イガイ材料の水性懸濁液を加水分解するステップと、
(b)加水分解混合物中の該酵素を変性させるステップと、
(c)不溶性材料を加水分解混合物から除去して、水溶性イガイ抽出物をもたらすステップと
を含む方法。
態様8
前記タンパク質分解酵素が、わずかに酸性からほぼ中性のpH最適値を有する、態様7に記載の方法。
態様9
前記タンパク質分解酵素が、パパイン、Alcalase、Enzidase FPおよびEnzidase Neutralを含む群から選択される、態様7に記載の方法。態様10
前記イガイ材料が、新鮮なイガイ全身、イガイ粉末およびイガイ超臨界残留物を含む群から選択される、態様7から9のいずれか一項に記載の方法。
態様11
前記イガイが、ミドリイガイ、ムラサキイガイおよびリブ状イガイを含む群から選択される、態様7から10のいずれか一項に記載の方法。
態様12
態様7から11のいずれか一項に記載の方法によって生成される水溶性イガイ抽出物。態様13
態様1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
態様14
態様1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物および1つまたは複数の摂取可能な賦形剤を含む栄養補助食品組成物。
態様15
食品組成物、食品添加物組成物、健康補助食品または医療食品である、態様14に記載の栄養補助食品組成物。
態様16
必要とする対象において炎症を低減させる方法であって、該対象に、治療有効量の態様1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法。
態様17
必要とする対象において炎症と関連する状態を予防、治療または管理する方法であって、該対象に、治療有効量の態様1から6のいずれか一項に記載の水溶性イガイ抽出物を投与することを含む方法。
態様18
前記炎症と関連する状態が、喘息、脳炎、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性疾患、線維症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、関節リウマチおよび変形性関節症を含む関節炎、乾癬、多発性筋痛、腱炎、滑液包炎、喉頭炎、歯肉炎、胃炎、耳炎、セリアック病、憩室炎、アテローム性動脈硬化症、心臓病、肥満症、糖尿病、癌ならびにアルツハイマー病を含む群から選択される、態様17に記載の方法。
前記炎症と関連する状態が、喘息、脳炎、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性疾患、線維症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、関節リウマチおよび変形性関節症を含む関節炎、乾癬、多発性筋痛、腱炎、滑液包炎、喉頭炎、歯肉炎、胃炎、耳炎、セリアック病、憩室炎、アテローム性動脈硬化症、心臓病、肥満症、糖尿病、癌ならびにアルツハイマー病を含む群から選択される、請求項16に記載の使用。