(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058797
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】シート状電気信号伝達生地及びシート状電気信号伝達生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20220405BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20220405BHJP
D04B 1/18 20060101ALI20220405BHJP
D06H 7/02 20060101ALI20220405BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20220405BHJP
A41D 13/12 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
D04B1/00 A
D04B1/14
D04B1/18
D06H7/02
B32B5/24
A41D13/12 181
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012652
(22)【出願日】2022-01-31
(62)【分割の表示】P 2017235780の分割
【原出願日】2017-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕右
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真人
(57)【要約】
【課題】美観を損なうことなく規則正しく配線することができ、必要に応じて一部の配線を他の配線と異なる方向に分離して配線できるシート状ハーネス生地を提供する。
【解決手段】衣料用生地に装着されるシート状
電気信号伝達生地1であって、導電糸2yで編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域2が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸3yを地糸に用いて編成された絶縁性編地領域3を挟んで並設され、前記導電性編地領域2は少なくとも前記導電糸2y
が1コース以上編成されて構成さ
れ、前記導電性編地領域2の端部でコース方向に編成された前記導電糸2yに前記絶縁糸3yが添え糸編み編成され
るとともに、複数の導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って切り離し可能な分離糸がそれらの間の絶縁性編地領域3に編成され、前記絶縁糸3yが交絡部で熱融着または熱合着されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣料用生地に装着されるシート状電気信号伝達生地であって、
導電糸で編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで並設され、
前記導電性編地領域は少なくとも前記導電糸が1コース以上編成されて構成されるとともに、前記導電性編地領域の端部でコース方向に編成された前記導電糸に前記絶縁糸が添え糸編み編成されるとともに、
前記複数の導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って切り離して、切り離した導電性編地領域の其々を所望の配線経路に沿わせることを可能とする分離糸がそれら間の前記絶縁性編地領域に編成され、
前記絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着されているシート状電気信号伝達生地。
【請求項2】
前記分離糸は、隣接する導電性編地領域の間の絶縁性編地領域にカットボス編で編成されている請求項1記載のシート状電気信号伝達生地。
【請求項3】
前記分離糸が熱溶融性繊維糸で構成され、前記絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着される際に前記分離糸が熱溶融することで分離可能に構成されている請求項1または2記載のシート状電気信号伝達生地。
【請求項4】
衣料用生地に装着されるシート状電気信号伝達生地の製造方法であって、
少なくとも導電糸が1コース以上編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで並設され、前記導電性編地領域の端部でコース方向に編成された前記導電糸に前記絶縁糸が添え糸編み編成されるように、前記導電性編地領域と前記絶縁性編地領域をウエール方向に編成する編地編成ステップと、
前記編地編成ステップで編成された編地をヒートセットして前記絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着するヒートセットステップと、
必要に応じて前記導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って分離すべく前記絶縁性編地領域を切り離す分離ステップと、
前記分離ステップで分離された導電性編地領域を所望の配線経路に沿うように配置した状態で、エラストマシートでラミネートするラミネートステップと、
を含むシート状電気信号伝達生地の製造方法。
【請求項5】
前記編地編成ステップは、前記複数の導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って切り離すことを可能とする分離糸がそれら間の前記絶縁性編地領域にカットボス編で編成される分離糸編成ステップを含む請求項4記載のシート状電気信号伝達生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用生地に装着されるシート状電気信号伝達生地及びシート状電気信号伝達生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運動活動に参加している個体のパフォーマンスを効果的に追跡して管理するためのモニタリング用として、ハーネスを含むセンサ衣服を提供することを目的とするセンサ衣服が開示されている。
【0003】
当該センサ衣服は布地部分と、布地部分とつながっている装置保持要素と、布地部分とつながっている伸縮性ハーネスを備えて構成され、伸縮性ハーネスは導電性要素を含み、導電性要素が装置保持要素に対する第1終端点、及び第2終端点を備えて構成されている。
【0004】
伸縮性ハーネスは布地部分とつながっている第1層と、第1層とつながっている第2層とを含み、導電性要素がハーネスガイド部分となる第1層と第2層の間に配置されている。第1層または第2層は熱可塑性ポリウレタン層で構成され、導電性要素は金属織物メッシュ、伸縮性導電性ファイバー、導電性ポリマーなどで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の伸縮性ハーネスは、細線状の導電性要素を個別に所望の形状となるようにヒートプレスの底板上に例えばピンを用いて固定してヒートプレスする必要があり、製造に非常な手間を要するという問題や、複数本の導電性要素をハーネスガイド部分に挟まれるように所定間隔で規則正しく配列するのは非常に困難で、外観上の美観を損なうという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、上述の問題に鑑み、美観を損なうことなく規則正しく配線することができ、必要に応じて一部の配線を他の配線と異なる方向に分離して配線できるシート状電気信号伝達生地及びシート状電気信号伝達生地の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明によるシート状電気信号伝達生地の第一の特徴構成は、衣料用生地に装着されるシート状電気信号伝達生地であって、導電糸で編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで並設され、前記導電性編地領域は少なくとも前記導電糸が1コース以上編成されて構成されるとともに、前記導電性編地領域の端部でコース方向に編成された前記導電糸に前記絶縁糸が添え糸編み編成されるとともに、前記複数の導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って切り離して、切り離した導電性編地領域の其々を所望の配線経路に沿わせることを可能とする分離糸がそれら間の前記絶縁性編地領域に編成され、前記絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着されている点にある。
【0009】
ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域に、導電糸を用いて少なくとも1コース以上編成された細幅帯状の導電性編地領域が挟まれるようにして編み立てられて、規則正しく配列された複数本の導電性編地領域が形成される。当該導電性編地領域の端部でコース方向に編成された導電糸に絶縁糸が添え糸編み編成され、複数の導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の間の絶縁性編地領域の一部に分離糸が編成される。絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着されることにより、隣接配置された細幅帯状の導電性編地領域の間の絶縁性編地領域が切断された場合でも、絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着されているために、両切断エッジに解れが生じることなく、細幅帯状の導電性編地領域を形状安定した状態で任意の配線方向に姿勢変更することが容易くできるようになる。しかも、分離糸の編成領域を挟んで隣接する導電性編地領域が容易く切り離され、切り離された導電性編地領域の其々を所望の配線経路に沿わせることが可能となるので、配線の自由度が確保できる。
【0010】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記分離糸は、隣接する導電性編地領域の間の絶縁性編地領域にカットボス編で編成されている点にある。
【0011】
分離すべき導電性編地領域の長さに対応して分離糸の編成長さを調整しておけば、過不足なく切り放すことができる。
【0012】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記分離糸が熱溶融性繊維糸で構成され、前記絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着される際に前記分離糸が熱溶融することで分離可能に構成されている点にある。
【0013】
熱融着または熱合着による解れ止め処理と、導電性編地領域の分離が効率的に行なえる。
【0014】
本発明によるシート状電気信号伝達生地の製造方法の第一の特徴構成は、衣料用生地に装着されるシート状電気信号伝達生地の製造方法であって、少なくとも導電糸が1コース以上編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで並設され、前記導電性編地領域の端部でコース方向に編成された前記導電糸に前記絶縁糸が添え糸編み編成されるように、前記導電性編地領域と前記絶縁性編地領域をウエール方向に編成する編地編成ステップと、前記編地編成ステップで編成された編地をヒートセットして前記絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着するヒートセットステップと、必要に応じて前記導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って分離すべく前記絶縁性編地領域を切り離す分離ステップと、前記分離ステップで分離された導電性編地領域を所望の配線経路に沿うように配置した状態で、エラストマシートでラミネートするラミネートステップと、を含む点にある。
【0015】
編地編成ステップでは、少なくとも導電糸が1コース以上編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで並設され、導電性編地領域の端部でコース方向に編成された導電糸に絶縁糸が添え糸編み編成されるように、導電性編地領域と絶縁性編地領域がウエール方向に編成される。ヒートセットステップで編地がヒートセットされることにより絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着して解れ止め効果が発現する。分離ステップでは、必要に応じて導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って分離すべく絶縁性編地領域が切り離され、配線先に応じて自由な経路での配線が可能になり、ラミネートステップで、導電性編地領域が所望の配線経路に沿うように配置された状態で、エラストマシートによりラミネートされる。ラミネートされた編地は形状が安定しているので、衣料用生地の接合目的箇所に正確かつ容易に位置決めすることができ、容易く接合することができる。
【0016】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記編地編成ステップは、前記複数の導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部をコース方向に沿って切り離すことを可能とする分離糸がそれら間の前記絶縁性編地領域にカットボス編で編成される分離糸編成ステップを含む点にある。
【0017】
分離すべき導電性編地領域の長さに対応して分離糸の編成長さを調整しておけば、過不足なく切り放すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、美観を損なうことなく規則正しく配線することができ、必要に応じて一部の配線を他の配線と異なる方向に分離して配線できるシート状電気信号伝達生地及びシート状電気信号伝達生地の製造方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(a)は本発明によるシート状
電気信号伝達生地の平面視の説明図、(b)はシート状
電気信号伝達生地の要部説明図、(c)はシート状
電気信号伝達生地の切断部の要部説明図
【
図2】(a)はシート状
電気信号伝達生地の表面要部写真、(b)は同裏面要部写真、(c)は一部が切断されたシート状
電気信号伝達生地の要部写真
【
図3】(a)から(e)はシート状
電気信号伝達生地の製造方法の説明図
【
図4】シート状
電気信号伝達生地の衣料用生地への装着方法の説明図
【
図6】(a),(b)はシート状
電気信号伝達生地の要部拡大写真
【
図7】(a)は他の例のシート状
電気信号伝達生地の説明図、(b)はシート状
電気信号伝達生地を衣料に装着した状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明によるシート状
電気信号伝達生地及びシート状
電気信号伝達生地の製造方法を、図面に基づいて説明する。
[シート状
電気信号伝達生地]
図1(a)に示すように、シート状
電気信号伝達生地1は、衣料用生地に装着されるシート状
電気信号伝達生地1であり、導電糸2yでコース方向に編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域2が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸3yを地糸に用いてコース方向に編成された絶縁性編地領域3を挟むようにウエール方向に繰返し編成されたヨコ編地10で構成されている。当該シート状
電気信号伝達生地1は、衣料用生地に装着された状態で細幅帯状の導電性編地領域2のそれぞれが測定器と電気的に接続される信号線や給電線として機能する。
【0021】
図1(b)には、ヨコ編地10の編組織が例示されている。この例では、ヨコ編地10は、絶縁糸3yで編成された地組織に導電糸2yが2コース隣接して添え編みされた編地を熱処理することにより、絶縁糸3yが交絡部で熱融着または熱合着されている。
図1(b)中、ハッチングされた糸が導電糸2yである。
【0022】
図1(c)には、このようなヨコ編地10の絶縁性編地領域3を導電性編地領域2の長手方向、つまりコース方向に切断した例が示されている。細幅帯状の導電性編地領域2が地組織から遊離し、遊離した細幅帯状の導電性編地領域2を衣料用生地上の任意の位置に這わせることができる。
【0023】
なお、
図1(c)では、導電性編地領域2に隣接して残された地糸であるポリウレタン糸が1コース未満となる位置で切断されているが、より一層解れ難くするために導電性編地領域2に隣接して複数コース以上、好ましくは3コース以上ポリウレタン糸のコースを残して切断する方が好ましい。
【0024】
当該導電性編地領域2の端部つまり絶縁性編地領域3との境界部でコース方向に編成された導電糸2yに絶縁糸3yが添え糸編み編成され、絶縁糸3yが交絡部で熱融着または熱合着されることにより、隣接配置された細幅帯状の導電性編地領域2の間の絶縁性編地領域3が切断された場合でも、絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着されており、両切断エッジで解れが生じることなく、細幅帯状の導電性編地領域を形状安定した状態で任意の配線方向に姿勢変更することが容易くできるようになる。
【0025】
当該導電性編地領域2は、絶縁糸3yで編成された地組織に1コース以上カットボス編で編成されていてもよく、その場合導電糸2yのコース方向の端部で数ループを添え編み編成するような構成であってもよい。なお、カットボス編は、編地本体を編成する過程で、フロート編の開始位置で任意の糸の糸入れをしてコース方向への編み込みを開始し、また同一コース上におけるフロート編の終了位置で任意の糸の糸抜けをし、直ちに糸切りを行う編み方である。
【0026】
つまり、シート状電気信号伝達生地1は、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸3yを地糸に用いて編成された絶縁性編地領域3に、導電糸2yを用いて少なくとも1コース以上編成された細幅帯状の導電性編地領域2が挟まれるようにして編み立てられていればよい。
【0027】
「ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸3yを地糸に用いて編成」とは、ポリウレタン弾性糸の裸糸からなる絶縁糸3yを主たる地糸に用いて編成することを意味し、主たる地糸とは地糸を構成する糸の80wt%超を意味する。
【0028】
また、導電糸2yを連続して2コース編成すると、配線の電気抵抗値を低くして電圧降下を抑制でき、配線の断線に対する堅牢度が向上する。もちろん2コース以上の複数のコース数連続して編成してもよく、規則正しく配列された複数本の導電性編地領域2が形成される。
上述したように、細幅帯状の導電性編地領域2が信号伝達線、給電線、接地線として機能し、絶縁性編地領域3が導電性編地領域2間の短絡を回避するための絶縁被覆として機能する。
【0029】
図2(a)には、導電糸2yで2コース連続して編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域2が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸3yを地糸に用いて8コース連続して編成された絶縁性編地領域3を挟むようにウエール方向に繰返し編成されたヨコ編地10の表面の写真が示され、
図2(b)には、その裏面の写真が示されている。なお、本明細書では、表面とは添え編により導電糸2yが現れる側の面をいう。
【0030】
図2(c)に示すように、隣接する導電性編地領域2の間の絶縁性編地領域3を導電性編地領域2の長手方向に沿って切断することにより、各導電性編地領域2を所望の配線経路に沿って自由に配することができる。
【0031】
複数の導電性編地領域2のうち隣接する導電性編地領域2の一部を切り離す分離糸がそれら間の絶縁性編地領域3にカットボス編で編成されていることが好ましい。分離すべき導電性編地領域2の長さに対応して分離糸の編成長さを調整しておけば、過不足なく切り放すことができる。分離糸として水溶性繊維糸、熱溶融性繊維糸、薬液溶解性繊維糸などが例示できる。
【0032】
絶縁性編地領域3に編成された分離糸3yの編成領域を挟んで隣接する導電性編地領域2が容易く分離され、分離された導電性編地領域を形状安定した状態で任意の配線方向に姿勢変更することが容易くできるようになる。例えば、分離糸として水溶性繊維糸を用いた場合には、精練時に分離糸が水に溶解して導電性編地領域2が分離される。分離糸として熱溶融性繊維糸を用いた場合には、熱溶融させることにより導電性編地領域2が分離される。分離糸として薬液溶解性繊維糸を用いた場合には、薬液に浸漬することにより分離糸が薬液に反応して導電性編地領域2が分離される。
【0033】
[シート状
電気信号伝達生地の製造方法]
図3(a)から(e)には、シート状
電気信号伝達生地の製造方法の一例が示されている。
シート状
電気信号伝達生地の製造方法は、編地編成ステップと、ヒートセットステップと、分離ステップと、ラミネートステップと、接合ステップと、を備えて構成されている。
【0034】
図3(a)に示すように、編地編成ステップでは、少なくとも導電糸2y
が1コース以上編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域2が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸3yを地糸に用いて編成された絶縁性編地領域3を挟んで並設され、導電性編地領域2の端部でコース方向に編成された導電糸2yに絶縁糸が添え糸編み編成されるように、導電性編地領域2と絶縁性編地領域3がウエール方向に編成される。絶縁性編地領域3の幅方向中央部に所定長さにわたって分離糸4が絶縁糸3に代えて編み込まれる。
【0035】
図3(b)に示すように、ヒートセットステップでは、編地編成ステップで編成された編地10がヒートセットされて絶縁糸3yが交絡部で熱融着または熱合着され、解れ止め加工される。例えば、160℃で10分乾熱処理されることにより低融点のポリウレタン弾性糸が熱融着または熱合着される。
【0036】
図3(c)に示すように、ヒートセット処理された編地10は精練ステップで所定温度に加熱された湯槽に浸漬されて油分などの不純物が除去される。分離糸4が水溶性繊維糸で構成されている場合には、このとき同時に分離ステップが実行され、分離糸4が水溶することにより導電性編地領域2のうち隣接する導電性編地領域2の一部が分離され切込み5が形成される。分離ステップは必要に応じて実行されればよく、常に実行されるものではない。また、分離糸4が水溶性繊維糸以外の糸を採用する場合には、精練ステップとは別に分離ステップが実行される。
【0037】
図3(d)に示すように、ラミネートステップでは、分離ステップで分離された導電性編地領域2が所望の形状になるように配置された状態で、エラストマシートの一例であるポリウレタンシート6,7でラミネートされて、
図3(e)に示すシート状
電気信号伝達生地1が出来上がる。ポリウレタン弾性糸との接着強度が大きくなる等の観点でエラストマシートにポリウレタンシートを用いることが好ましい。
【0038】
接合ステップでは、ラミネートステップでラミネートされたシート状電気信号伝達生地1が衣料用生地100の所望位置にヒートセット処理、好ましくはヒートプレス処理などにより固定される。つまり、導電性編地領域2及び絶縁性編地領域3で構成される編地10がポリウレタンシートでラミネートされ、衣料用生地に接合可能に構成される。編地10がポリウレタンシートでラミネートされることにより、仮に細幅帯状の導電性編地領域2が個別に切り放された状態であっても全体として形状安定性を備えるようになり、衣料用生地の接合目的箇所に正確かつ容易に位置決めすることができ、容易く接合することができる。
【0039】
図4を参照して、上述したラミネートステップ及び接合ステップを詳述する。
ラミネート処理に用いられる上側のポリウレタンシート6は、例えば融点200℃のポリウレタン製の保護層6Aの下面にホットメルト接着剤層6Bが形成され、編地10に形成された切欠きに対応する位置に同様の切欠きが形成されるとともに、編地10に形成された導電性編地領域2のうち、外部機器との信号接続部に対応する両端部がポリウレタンシート6で被覆されないように、導電性編地領域2に双方向で両端が短くなるように形成されている(
図3(e)参照。)。
【0040】
ホットメルト接着剤として、例えば、ポリウレタン系ホットメルト樹脂、ポリエステル系ホットメルト樹脂、ポリアミド系ホットメルト樹脂、EVA系ホットメルト樹脂、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、湿気硬化型ウレタン系ホットメルト樹脂、反応型ホットメルト樹脂等が挙げられる。中でも反応型ホットメルト樹脂は、接着強度が高く、しかも短時間での接着が可能な点で特に好ましい。
【0041】
ラミネート処理に用いられる下側のポリウレタンシート7は、例えば融点200℃のポリウレタン製の保護層7Aの下面にホットメルト接着剤層7Bが形成され、さらに離型フィルム8が設けられている。
【0042】
上下のポリウレタンシート6,7の間に上述した編地10を挟んで、プレス機にかけて約120℃加熱することにより、ホットメルト接着剤層6Bが溶融して編地10がラミネート処理される。
【0043】
次に、ラミネート処理されたシート状電気信号伝達生地1の離型フィルム8を剥離して、衣料用生地100の所望位置に配置した後に、プレス機にかけて約120℃加熱するもとによりシート状電気信号伝達生地1が衣料用生地100に接合固定される。
【0044】
[シート状
電気信号伝達生地1の衣料用生地への接合]
図5には、ラミネート処理されたシート状
電気信号伝達生地1の一例の写真が示されている。絶縁性編地領域3を挟んで6本の導電性編地領域2が並設された基端RAに対して、先端FE側では絶縁性編地領域3が切断されて各導電性編地領域2が分離され、衣料用生地100の目的部位に向けて分岐するように配設されている。各導電性編地領域2の長さは配設に必要な長さで切断されている。
【0045】
図6(a)には、
図5に示したシート状
電気信号伝達生地1が衣料用生地100に接合された写真が示されている。符号11は、1本の導電性編地領域2の先端側に接続された電極パッドである。また、
図6(b)には、
図5中、破線の円領域に対応する部位の写真が示されている。この例では、導電性編地領域2の先端側にポリウレタンシート6で被覆されていない円形の剥き出し部10Aが示されている(図中、白色の円で囲まれた部位参照。)。
【0046】
図7(a)には、上述したシート状
電気信号伝達生地1の他の例が示されている。図示されていないが、細幅帯状の導電性編地領域2の幅方向両端には絶縁性編地領域3が形成されている。導電性編地領域2の先端側にはラミネートされていない円形の剥き出し部10Aが形成されている。
【0047】
図7(b)には、当該シート状
電気信号伝達生地1が筋肉をサポートすることで運動機能を支援するコンプレッションタイプのパンツ200の肌面側に熱融着された状態が示されている。この様な衣服は、例えばポリウレタン糸を混用した天竺編(平編)、リブ編(ゴム編、フライス編)、パール編、デンビー編(トリコット編)、アトラス編、コード編、あるいはそれらの変化組織などの編地で構成することができる。
【0048】
シート状電気信号伝達生地1に配された導電性編地領域2の基端RA側が、身生地に形成されたスリットを介して表面側に取り出されて、ウェアラブルデバイスを接続するためのコネクタCNが配され、先端FE側に形成された剥き出し部10Aを覆うように電極パッド13,14が配置されている。
【0049】
[導電糸の構成]
導電糸2yとして、樹脂繊維や天然繊維、或いは金属線等を芯として、この芯に湿式や乾式のコーティング、メッキ、真空成膜、その他の適宜被着法を用いて金属成分を被着させた金属被着線(メッキ線)を使用するのが好適である。芯には、モノフィラメントを採用することも可能ではあるが、モノフィラメントよりもマルチフィラメントや紡績糸のほうが好ましい。
【0050】
芯に被着させる金属成分には、例えばアルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト等の純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮等を使用することができる。本実施形態ではナイロンやポリエステルで構成されるマルチフィラメントに銀メッキした糸が用いられている。導電糸の繊度は33dtex~400dtexが好ましい。特には70dtex~300dtexが好ましい。導電糸2yとして芯糸に金属成分を被着させた金属メッキ糸を用いる例を説明したが、例えば、日本新素材株式会社製のシルベルンZAG(登録商標)などにように、天然繊維や合成繊維に銀イオンを付着させた銀イオン糸を用いることも可能である。
【0051】
[電極パッドの構成]
電極パッド13,14は、上述した導電糸2yを用いて編成または織成した布帛で構成することができ、伸縮性の導電糸のように、ポリウレタンのような弾性糸を芯糸にして、上述した導電糸2yを芯糸に巻きつけて被覆したカバリング糸を用いて編成または織成することにより衣料を構成する身生地の伸縮に伴って伸縮するようになる点で好ましい。なお、電極パッド13,14の構成は、特に限定されるものではなく、公知の電極用材料を適宜用いることができることはいうまでもない。
【0052】
[絶縁性編地領域の構造]
上述したシート状電気信号伝達生地1を構成する編地について説明する。ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸3yを地糸に用いて編成される地組織として、平編、ゴム編、スムース編、パール編又はそれらの変化組織(例えば、ミラノリブや段ボールニットなど)のヨコ編地を採用することができる。製編には丸編機に限らず横編機などを使用することができる。
【0053】
導電性編地領域2及び絶縁性編地領域3にフライス編を採用し、絶縁性編地領域3に画定される切断部に平編などのシンプルな編組織を採用すると、切断処理が容易になる。また導電性編地領域2及び絶縁性編地領域3と比較して切断部で細い糸を採用してもよい。更には、導電性編地領域2及び絶縁性編地領域3と比較して切断部では度目を極端に粗くしてもよい。切断処理の目印となるように、切断部を目視し易い色糸で製編しておいてもよい。
【0054】
さらに、ヨコ編地に限らず、タテ編みで編成される組織(トリコット編、ラッシェル編、ミラニーズ編など)を採用することも可能である。
【0055】
なお、解れ止め機能を実現するための熱融着材料または熱合着材料としてポリウレタン弾性糸を好適に用いることができる。熱融着材料と熱合着材料との差異は、半溶融状態からの冷却により生じる結合力の強弱によって区別すればよく、結合力が強い(熱融着)ものは熱融着材料とし、これよりも結合力が弱い(合着)ものは熱合着材料とする。この区別は明確とは言えず曖昧模糊とした部分を含むが、要はヒートセットによって導電糸の交差部を含めて結合できる材料であればよい。
【0056】
具体的には、熱融着材料の代表例として、融点が90℃から120℃の範囲の低融点のポリウレタン糸で70dtex~300dtexの繊度のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを用いることが好ましい。絶縁糸としてポリウレタンを単独で用いてもよいし、「芯糸」にポリウレタンを用い「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。このようなカバリング糸を採用することで、シート状電気信号伝達生地1に撥水性、耐食・防食性、カラーリング等の機能を付与させることができる。また触感(肌触り)の向上や伸びの制御にも有用である。なお、ポリウレタン弾性糸に代えて熱可塑性のエラストマー材料で構成される繊維糸を採用することも可能である。
【0057】
熱合着材料として、ポリウレタンウレア弾性繊維のような圧縮変形特性を備えた弾性糸を用いることが可能である。ヒートセット加工等の加熱によりポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維と相手糸との接触点でポリウレタンウレア弾性繊維の圧縮変形が発生し、ポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維への相手糸の固着が生じるため、編地からのポリウレタンウレア弾性繊維や相手糸が抜けにくくなり、カールやほつれが抑制された編地を得ることができる。
【0058】
このような地組織に対して、導電糸2yの混用方法として、既に説明した添え編(プレーティング編)以外に、インレイ、引き揃え、フロート編、交編、又は複合糸の少なくとも一つから選択される形態を採用することができる。少なくとも、導電性編地領域2の端部でコース方向に編成された導電糸2yに絶縁糸3yが添え糸編み編成されていればよく、導電性編地領域2と絶縁性編地領域3とが交互に編成される編地であってもよい。
【0059】
[分離糸の構成]
水溶性分離糸として、例えばPVA(ニチビ社製のソルブロンシリーズ等)を好適に用いることができ、熱溶融性分離糸として、例えば低融点ポリウレタン(日清紡社製のモビロンシリーズ等)を好適に用いることができ、薬液溶融性分離糸として、例えばギ酸によって溶出除去可能なナイロンを好適に用いることができる。
【0060】
以下、シート状電気信号伝達生地の別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、導電性編地領域2及び絶縁性編地領域3が編成された編地をラミネート処理して、接着剤を介して衣料用生地に接合固定した例を説明したが、導電性編地領域2及び絶縁性編地領域3で構成される編地10に、熱可塑性樹脂でなる接着剤が含浸され、衣料用生地にヒートセット処理、好ましくはヒートプレス処理により接合可能に構成されていてもよい。接着剤として例えば溶媒中に低融点ポリウレタン粒子が分散された溶液を用いることができ、ヒートセットされた後の編地に含浸させてもよい。
【0061】
導電性編地領域及び絶縁性編地領域で構成される編地に熱可塑性樹脂でなる接着剤が含浸されていると、編地を衣料用生地に沿わせた状態で加熱することにより、編地に含浸された熱可塑性樹脂が溶融して編地と衣料用生地とが接合されるので、接着の際に編地に接着剤を塗布するような工程が不要になる。
【0062】
この場合、シート状電気信号伝達生地の製造方法は、少なくとも導電糸が1コース以上編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで並設され、導電性編地領域の端部でコース方向に編成された導電糸に絶縁糸が添え糸編み編成されるように、導電性編地領域と絶縁性編地領域をウエール方向に編成する編地編成ステップと、編地編成ステップで編成された編地をヒートセットして絶縁糸が交絡部で熱融着または熱合着するヒートセットステップと、ヒートセットステップでヒートセットされた編地に熱可塑性樹脂でなる接着剤を含浸させる接着剤含浸ステップと、必要に応じて導電性編地領域のうち隣接する導電性編地領域の一部を分離すべく前記絶縁性編地領域を切り離す分離ステップと、分離ステップで分離された導電性編地領域を所望の形状になるように衣料用生地の所望位置に配置した状態で、ヒートセットして編地を衣料用生地に接合する接合ステップと、を備えて構成される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によるシート状電気信号伝達生地は、体温、心拍数、心電図、筋電図などの生体情報を計測するウェアラブルデバイス用の衣服に、信号伝達配線部材として広く活用される。
【符号の説明】
【0064】
1:シート状電気信号伝達生地
2:導電性編地領域
2y:導電糸
3:絶縁性編地領域
3y:絶縁糸
4:分離糸
5:切込み
10:編地