(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058916
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】切削インサート及び刃先交換式回転切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20220405BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/10 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017387
(22)【出願日】2022-02-07
(62)【分割の表示】P 2017238138の分割
【原出願日】2017-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 由幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇人
(72)【発明者】
【氏名】當麻 昭次郎
(57)【要約】
【課題】加工面精度を確保しつつ、加工効率を高められること。
【解決手段】板状のインサート本体15と、インサート本体15に形成された切れ刃部4と、を備え、切れ刃部4は、インサート本体15の中心軸C方向の先端部に配置され、中心軸C方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成された底切れ刃11と、インサート本体15の径方向の外端部に配置され、径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成された外周切れ刃9と、底切れ刃11と外周切れ刃9とを接続する接続刃13と、を有し、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径が、切れ刃部4の刃径Dの1/2以上であり、かつ、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径の少なくともいずれかが、刃径Dの1/2よりも大きく、すくい面19を正面に見て、刃径中心点と、接続刃13の刃長の中心を通る仮想直線は、中心軸Cに対して角度αで交差し、角度αは、10°≦α<45°である。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のインサート本体と、
前記インサート本体に形成された切れ刃部と、を備え、
前記切れ刃部は、
前記インサート本体の中心軸方向の先端部に配置され、前記中心軸方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成された底切れ刃と、
前記インサート本体の前記中心軸に直交する径方向の外端部に配置され、前記径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成された外周切れ刃と、
前記底切れ刃と前記外周切れ刃とを接続する接続刃と、を有し、
前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径が、前記切れ刃部の刃径の1/2以上であり、かつ、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径の少なくともいずれかが、前記刃径の1/2よりも大きく、
前記切れ刃部のすくい面を正面に見て、前記インサート本体の前記中心軸方向の先端から基端側へ向けて前記刃径の1/2の距離に位置する前記中心軸上の点である刃径中心点と、前記接続刃の刃長の中心を通る仮想直線は、前記中心軸に対して角度αで交差し、
前記角度αは、10°≦α<45°である、切削インサート。
【請求項2】
板状のインサート本体と、
前記インサート本体に形成された切れ刃部と、を備え、
前記切れ刃部は、
前記インサート本体の中心軸方向の先端部に配置され、前記中心軸方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成された底切れ刃と、
前記インサート本体の前記中心軸に直交する径方向の外端部に配置され、前記径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成された外周切れ刃と、を有し、
前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径が、前記切れ刃部の刃径の1/2以上であり、かつ、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径の少なくともいずれかが、前記刃径の1/2よりも大きく、
前記切れ刃部のすくい面を正面に見て、前記底切れ刃のうち前記径方向の外側部分と、前記外周切れ刃のうち前記中心軸方向の先端側部分とは、仮想直線を対称軸として、互いに線対称形状に形成され、
前記仮想直線は、前記中心軸に対して角度αで交差し、
前記角度αは、10°≦α<45°である、切削インサート。
【請求項3】
板状のインサート本体と、
前記インサート本体に形成された切れ刃部と、を備え、
前記切れ刃部は、
すくい面と、
前記インサート本体の中心軸方向の先端部に配置され、前記中心軸に直交する径方向に沿うように延び、前記中心軸方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成された底切れ刃と、
前記インサート本体の前記径方向の外端部に配置され、前記中心軸方向に沿うように延び、前記径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成された外周切れ刃と、を有し、
前記すくい面のうち、前記底切れ刃の前記中心軸方向の基端側に隣接する部分は、前記底切れ刃のすくい面部分であり、前記底切れ刃のすくい面部分は平面状であり、
前記すくい面のうち、前記外周切れ刃の径方向内側に隣接する部分は、前記外周切れ刃のすくい面部分であり、前記外周切れ刃のすくい面部分は平面状であり、
前記底切れ刃のすくい面部分と前記外周切れ刃のすくい面部分は、同一平面上に形成され、
前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径が、前記切れ刃部の刃径の1/2以上であり、かつ、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径の少なくともいずれかが、前記刃径の1/2よりも大きく、
前記底切れ刃の前記中心軸回りの回転軌跡は、前記中心軸方向の先端側へ向けて膨出する凸レンズ形状をなし、前記外周切れ刃の前記中心軸回りの回転軌跡は、径方向外側へ向けて膨出するバレル形状をなし、
前記外周切れ刃の曲率半径が、前記底切れ刃の曲率半径よりも大きい、切削インサート。
【請求項4】
中心軸回りに回転させられる工具本体と、
前記工具本体の前記中心軸方向の先端部に装着される請求項1~3のいずれか一項に記載の切削インサートと、を備える、刃先交換式回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び刃先交換式回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1の刃先交換式ボールエンドミル(刃先交換式回転切削工具)が知られる。この刃先交換式ボールエンドミルの切削インサートの切れ刃は、円弧状である。切れ刃は、工具先端から径方向外端までの刃長全域にわたって、一定の曲率半径を有する。切れ刃の曲率半径は、工具刃径(直径)の1/2である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の刃先交換式回転切削工具では、加工面精度を確保しつつ、加工効率を高める点に改善の余地があった。
【0005】
上述の事情に鑑み、本発明は、加工面精度を確保しつつ、加工効率を高められる切削インサート、及びこれを用いた刃先交換式回転切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の切削インサートは、板状のインサート本体と、前記インサート本体に形成された切れ刃部と、を備え、前記切れ刃部は、前記インサート本体の中心軸方向の先端部に配置され、前記中心軸方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成された底切れ刃と、前記インサート本体の前記中心軸に直交する径方向の外端部に配置され、前記径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成された外周切れ刃と、前記底切れ刃と前記外周切れ刃とを接続する接続刃と、を有し、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径が、前記切れ刃部の刃径の1/2以上であり、かつ、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径の少なくともいずれかが、前記刃径の1/2よりも大きく、前記切れ刃部のすくい面を正面に見て、前記インサート本体の前記中心軸方向の先端から基端側へ向けて前記刃径の1/2の距離に位置する前記中心軸上の点である刃径中心点と、前記接続刃の刃長の中心を通る仮想直線は、前記中心軸に対して角度αで交差し、前記角度αは、10°≦α<45°であることを特徴とする。
また、本発明の一態様の切削インサートは、板状のインサート本体と、前記インサート本体に形成された切れ刃部と、を備え、前記切れ刃部は、前記インサート本体の中心軸方向の先端部に配置され、前記中心軸方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成された底切れ刃と、前記インサート本体の前記中心軸に直交する径方向の外端部に配置され、前記径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成された外周切れ刃と、を有し、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径が、前記切れ刃部の刃径の1/2以上であり、かつ、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径の少なくともいずれかが、前記刃径の1/2よりも大きく、前記切れ刃部のすくい面を正面に見て、前記底切れ刃のうち前記径方向の外側部分と、前記外周切れ刃のうち前記中心軸方向の先端側部分とは、仮想直線を対称軸として、互いに線対称形状に形成され、前記仮想直線は、前記中心軸に対して角度αで交差し、前記角度αは、10°≦α<45°であることを特徴とする。
また、本発明の一態様の切削インサートは、板状のインサート本体と、前記インサート本体に形成された切れ刃部と、を備え、前記切れ刃部は、すくい面と、前記インサート本体の中心軸方向の先端部に配置され、前記中心軸に直交する径方向に沿うように延び、前記中心軸方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成された底切れ刃と、前記インサート本体の前記径方向の外端部に配置され、前記中心軸方向に沿うように延び、前記径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成された外周切れ刃と、を有し、前記すくい面のうち、前記底切れ刃の前記中心軸方向の基端側に隣接する部分は、前記底切れ刃のすくい面部分であり、前記底切れ刃のすくい面部分は平面状であり、前記すくい面のうち、前記外周切れ刃の径方向内側に隣接する部分は、前記外周切れ刃のすくい面部分であり、前記外周切れ刃のすくい面部分は平面状であり、前記底切れ刃のすくい面部分と前記外周切れ刃のすくい面部分は、同一平面上に形成され、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径が、前記切れ刃部の刃径の1/2以上であり、かつ、前記底切れ刃の曲率半径及び前記外周切れ刃の曲率半径の少なくともいずれかが、前記刃径の1/2よりも大きく、前記底切れ刃の前記中心軸回りの回転軌跡は、前記中心軸方向の先端側へ向けて膨出する凸レンズ形状をなし、前記外周切れ刃の前記中心軸回りの回転軌跡は、径方向外側へ向けて膨出するバレル形状をなし、前記外周切れ刃の曲率半径が、前記底切れ刃の曲率半径よりも大きいことを特徴とする。
また、本発明の一態様の刃先交換式回転切削工具は、中心軸回りに回転させられる工具本体と、前記工具本体の前記中心軸方向の先端部に装着される上述の切削インサートと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加工面精度を確保しつつ、加工効率を高められる切削インサート及び刃先交換式回転切削工具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態の刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
【
図5】第1実施形態の切削インサートを示す斜視図である。
【
図6】切削インサート(板面基準)を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図7】切削インサート(すくい面基準)を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図8】第1実施形態の切削インサートの変形例を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図9】(a)本発明の切削インサート及び刃先交換式回転切削工具で切削した加工面のピックフィードのピッチ及びカスプハイトを示す図、(b)従来のボールエンドミルで切削した加工面のピックフィードのピッチ及びカスプハイトを示す図である。
【
図10】本発明の第2実施形態の刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
【
図14】第2実施形態の切削インサートを示す斜視図である。
【
図15】切削インサート(板面基準)を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図16】切削インサート(すくい面基準)を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図17】第2実施形態の切削インサートの変形例を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図18】本発明の第3実施形態の刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
【
図22】第3実施形態の切削インサートを示す斜視図である。
【
図23】切削インサート(板面基準)を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図24】切削インサート(すくい面基準)を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図25】第3実施形態の切削インサートの変形例を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。
【
図26】本発明の第4実施形態の刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
【
図27】第4実施形態の切削インサートを示す斜視図である。
【
図28】本発明の第5実施形態の刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
【
図29】第5実施形態の切削インサートを示す斜視図である。
【
図30】本発明の第6実施形態の刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
【
図31】第6実施形態の切削インサートを示す斜視図である。
【
図32】本発明の第7実施形態の刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。
【
図33】第7実施形態の切削インサートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る切削インサート5A及びこれを備えた刃先交換式回転切削工具6Aについて、
図1~
図9を参照して説明する。なお、実施形態の説明に用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、要部となる部分を拡大、強調、抜粋して示す場合がある。
【0010】
本実施形態の刃先交換式回転切削工具6Aは、被削材に対して、正面削り加工(平面加工)や側面削り加工(立壁面加工)を含む複数種類の切削加工を施すことができる。刃先交換式回転切削工具6Aは、特に、加工面の仕上げ加工や中仕上げ加工等において優れた加工面精度を得ることができる。
【0011】
図1~
図4に示されるように、刃先交換式回転切削工具6Aは、工具本体1と、切削インサート5Aと、を備える。工具本体1は、円柱状をなし、中心軸C回りに回転させられる。切削インサート5Aは、工具本体1の中心軸C方向の両端部のうち、一方の端部(先端部)2に装着される。工具本体1の一方の端部2には、取付座(インサート取付座)3が形成される。取付座3には、切削インサート5Aが着脱可能に取り付けられる。
【0012】
切削インサート5Aは、板状のインサート本体15と、インサート本体15に形成された切れ刃部4と、を備える。切れ刃部4は、底切れ刃11と、外周切れ刃9と、接続刃13と、を有する。底切れ刃11、外周切れ刃9及び接続刃13は、インサート本体15の周縁部に配置される。
【0013】
実施形態の説明では、工具本体1の中心軸Cが延びる方向、つまり中心軸Cに沿う方向を、中心軸C方向と呼ぶ。中心軸C方向のうち、工具本体1の取付座3から、工具本体1の取付座3とは反対側の端部(他方の端部)へ向かう方向を、基端側と呼ぶ。基端側は、
図2及び
図3における上方である。中心軸C方向のうち、工具本体1の取付座3とは反対側の端部から、取付座3へ向かう方向を、先端側と呼ぶ。先端側は、
図2及び
図3における下方である。
中心軸Cに直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに接近する向きを径方向の内側と呼び、中心軸Cから離れる向きを径方向の外側と呼ぶ。
中心軸C回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。周方向のうち、切削時に工具本体1が回転させられる向きを工具回転方向Rと呼び、これとは反対の回転方向を、反工具回転方向と呼ぶ。
【0014】
工具本体1の先端部2の取付座3には、切削インサート5Aがその中心軸(インサート中心軸)を工具本体1の中心軸Cに一致させた姿勢で配置される。つまり工具本体1の中心軸Cと、切削インサート5Aの中心軸とは、互いに同軸に配置される。したがって、上述した方向の定義は、切削インサート5Aにおいても同様に適用される。切削インサート5Aを示す
図5~
図8等においては、切削インサート5Aの中心軸を、工具本体1の中心軸Cと同じ符号Cを用いて表す。
【0015】
具体的には、切削インサート5Aにおいて、中心軸C方向のうち、底切れ刃11から、インサート本体15の底切れ刃11とは反対側の端部へ向かう方向が、基端側である。中心軸C方向のうち、インサート本体15の底切れ刃11とは反対側の端部から、底切れ刃11へ向かう方向が、先端側である。
中心軸Cに直交する方向が径方向である。径方向のうち、中心軸Cに接近する向きが径方向の内側であり、中心軸Cから離れる向きが径方向の外側である。
中心軸C回りに周回する方向が周方向である。周方向のうち、切れ刃部4の後述するすくい面19が向く方向が工具回転方向Rであり、これとは反対の回転方向が、反工具回転方向(工具回転方向Rとは反対側)である。
【0016】
工具本体1は、例えば鋼材等により形成される。工具本体1の基端部は、図示しない工作機械の主軸に取り付けられる。主軸が回転駆動されることで、工具本体1は、中心軸C回りの工具回転方向Rに回転させられる。主軸とともに工具本体1は、中心軸C方向、径方向及びこれらの複合方向等に移動させられる。これにより、刃先交換式回転切削工具6Aは、金属材料等からなる被削材に対して、切削インサート5Aの切れ刃部4で転削加工(ミーリング加工)を施す。なお、本実施形態の刃先交換式回転切削工具6Aは、例えば4~6軸の多軸制御のマシニングセンタ等の工作機械に用いることがより好ましい。
【0017】
図1~
図4において、取付座3は、工具本体1の先端部2に形成されたスリット状のインサート挿入溝7と、インサート挿入溝7に挿入した切削インサート5Aを固定する固定用ネジ8と、を備える。
【0018】
インサート挿入溝7は、工具本体1の先端面に開口し、工具本体1の径方向に延びて工具本体1の外周面にも開口している。インサート挿入溝7は、工具本体1の先端面から基端側へ向けて窪み、工具本体1を径方向に貫通するスリット状である。インサート挿入溝7の基端部に位置して先端側を向く溝底面は、基端側へ向けて凹となるV字状である。
【0019】
工具本体1の先端部2にインサート挿入溝7を形成したことにより、先端部2は2つに分割されて、先端部2には一対の先端半体部(半割り片)が形成される。先端部2には、一方の先端半体部を貫通して他方の先端半体部内まで延びるネジ孔が形成されている。ネジ孔のうち、一方の先端半体部に形成された孔部分の内径は、他方の先端半体部に形成された孔部分の内径よりも大きい。他方の先端半体部に形成されたネジ孔の孔部分の内周面には、固定用ネジ8の雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成される。ネジ孔のうち、少なくとも一方の先端半体部に形成された孔部分は、貫通孔である。本実施形態の例では、一方の先端半体部及び他方の先端半体部の各孔部分が、それぞれ貫通孔である。
【0020】
切削インサート5Aは、例えば超硬合金等により形成される。切削インサート5Aは、工具本体1よりも硬度が高い。工具本体1の取付座3に取り付けられた切削インサート5Aは、その切れ刃部4が、工具本体1の先端側及び径方向外側に突出して配置される。
図5~
図7に示されるように、本実施形態の切削インサート5Aは、中心軸Cを対称軸として表裏反転対称(180°回転対称)に形成される。
【0021】
本実施形態の例では、インサート本体15が、五角形板状である。インサート本体15の厚さ方向を向く一対の板面を、符号16、17で示す。インサート本体15には、インサート本体15を厚さ方向に貫通するネジ挿通孔18が形成されている。ネジ挿通孔18は、一方の板面16と他方の板面17とに開口する。切削インサート5Aを工具本体1の取付座3に装着し固定する際に、ネジ挿通孔18には固定用ネジ8が挿通される。
【0022】
切れ刃部4は、インサート本体15における中心軸C方向の先端部及び径方向の外端部に配置される。切れ刃部4は、すくい面19と、すくい面19に交差する逃げ面と、すくい面19と逃げ面との交差稜線に形成される切れ刃と、を有する。
前記切れ刃は、上述した底切れ刃11、外周切れ刃9及び接続刃13を含む。前記切れ刃は、全体として略L字状に形成される。外周切れ刃9、底切れ刃11及び接続刃13に対して、すくい面19の後述するすくい面部分10、12、14、及び、逃げ面の逃げ面部分がそれぞれ隣接配置される。
【0023】
本実施形態の切削インサート5Aは、2枚刃の切削インサートであり、外周切れ刃9、底切れ刃11及び接続刃13を備えた前記切れ刃の組を、中心軸Cを中心として、180°回転対称に2組有している。
【0024】
図6(a)~(c)及び
図7(a)~(c)に示されるように、底切れ刃11は、インサート本体15の中心軸C方向の先端部に配置される。底切れ刃11は、中心軸C方向の先端側へ向けて凸となる円弧状に形成される。底切れ刃11は、径方向に沿うように延びる。底切れ刃11は、いわゆる「レンズ」と呼ばれる凸円弧形状の切れ刃である。
【0025】
底切れ刃11の径方向の外端Aは、接続刃13に接続する。底切れ刃11は、径方向の外端(接続点)Aから径方向の内側へ向かうにしたがい、中心軸C方向の先端側へ向けて傾斜して延びる。底切れ刃11における、径方向に沿う単位長さあたりの中心軸C方向へ向けた変位量(つまり径方向に対する傾き)は、該底切れ刃11の径方向の外端Aから径方向内側へ向かうにしたがい徐々に小さくなり、径方向の内端においてゼロとなる。
【0026】
切れ刃部4の切れ刃全長のうち、底切れ刃11の径方向内端は、中心軸C方向の最先端に位置している。本実施形態では、底切れ刃11の径方向内端が、中心軸C上に配置されている。底切れ刃11の径方向内端(中心軸C方向の最先端)における接線(不図示)は、中心軸Cに垂直な平面(水平面)上を延びる。
【0027】
切削インサート5Aを工具本体1の取付座3(インサート挿入溝7)に装着して、刃先交換式回転切削工具6Aを中心軸C回りに回転させると、底切れ刃11の回転軌跡は、先端側へ向けて膨出する凸レンズ形状をなす。具体的に、底切れ刃11の中心軸C回りの回転軌跡は、球面状である。つまり、底切れ刃11の回転軌跡は、球体の外周面部分(球面の部分)をなすように形成される。
【0028】
本実施形態の例では、
図7(b)に示されるように、底切れ刃11の軸方向すくい角(アキシャルレーキ)が、0°である。ただしこれに限定されるものではなく、底切れ刃11の軸方向すくい角は、正の値(ポジティブ角)や負の値(ネガティブ角)であってもよい。また、
図6(c)及び
図7(c)に示されるように、底切れ刃11の径方向すくい角(中心方向すくい角。ラジアルレーキ)は、0°である。
【0029】
図6(a)及び
図7(a)に示されるように、切れ刃部4の工具回転方向Rを向くすくい面19のうち、底切れ刃11の中心軸C方向の基端側に隣接する部分は、底切れ刃11のすくい面部分12である。本実施形態の例では、底切れ刃11のすくい面部分12が平面状である。
【0030】
インサート本体15において中心軸C方向の先端側を向く先端面のうち、底切れ刃11の反工具回転方向に隣接する部分は、底切れ刃11の逃げ面部分である。底切れ刃11の逃げ面部分は、先端側へ向けて凸となる曲面状をなしている。底切れ刃11の逃げ面部分は、該底切れ刃11から反工具回転方向へ向かうにしたがい中心軸C方向の基端側へ向けて傾斜しており、これにより底切れ刃11には逃げ角が付与されている。
【0031】
図6(a)~(c)及び
図7(a)~(c)に示されるように、外周切れ刃9は、インサート本体15の径方向の外端部に配置される。外周切れ刃9は、径方向の外側へ向けて凸となる円弧状に形成される。外周切れ刃9は、中心軸C方向に沿うように延びる。外周切れ刃9は、いわゆる「バレル」と呼ばれる凸円弧形状の切れ刃である。
【0032】
外周切れ刃9の中心軸C方向の先端Bは、接続刃13に接続する。外周切れ刃9は、中心軸C方向の先端(接続点)Bから基端側へ向かうにしたがい、径方向外側へ向けて傾斜して延びる。外周切れ刃9における、中心軸C方向に沿う単位長さあたりの径方向へ向けた変位量(つまり中心軸C方向に対する傾き)は、該外周切れ刃9の中心軸C方向の先端Bから基端側へ向かうにしたがい徐々に小さくなる。
【0033】
切れ刃部4の切れ刃全長のうち、外周切れ刃9の中心軸C方向の基端は、径方向の最外端に位置している。
切削インサート5Aを工具本体1の取付座3に装着して、刃先交換式回転切削工具6Aを中心軸C回りに回転させると、外周切れ刃9の回転軌跡は、径方向外側へ向けて膨出するバレル形状(樽形状)をなす。
【0034】
本実施形態の例では、
図7(b)に示されるように、外周切れ刃9の軸方向すくい角(ねじれ角に相当)が、0°である。ただしこれに限定されるものではなく、外周切れ刃9の軸方向すくい角は、正の値や負の値であってもよい。また、外周切れ刃9の径方向すくい角は、0°である。ただしこれに限定されるものではなく、外周切れ刃9の径方向すくい角は、正の値や負の値であってもよい。
【0035】
図6(a)及び
図7(a)に示されるように、切れ刃部4の工具回転方向Rを向くすくい面19のうち、外周切れ刃9の径方向内側に隣接する部分は、外周切れ刃9のすくい面部分10である。本実施形態の例では、外周切れ刃9のすくい面部分10が平面状である。
【0036】
インサート本体15において径方向外側を向く外周面のうち、外周切れ刃9の反工具回転方向に隣接する部分は、外周切れ刃9の逃げ面部分である。外周切れ刃9の逃げ面部分は、径方向外側へ向けて凸となる曲面状をなしている。外周切れ刃9の逃げ面部分は、該外周切れ刃9から反工具回転方向へ向かうにしたがい径方向内側へ向けて傾斜しており、これにより外周切れ刃9には逃げ角が付与されている。
【0037】
図6(a)~(c)及び
図7(a)~(c)に示されるように、接続刃13は、インサート本体15の先端外周部に配置される。接続刃13は、底切れ刃11と外周切れ刃9とを接続する。接続刃13は、底切れ刃11の径方向の外端Aと、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端Bとを繋ぐ。接続刃13は、先端外周側へ向けて凸となる円弧状の部分13aを有する。本実施形態の例では、円弧状の部分13aが、接続刃13の刃長全域にわたって形成される。接続刃13は、凸円弧形状の切れ刃である。
【0038】
接続刃13の径方向内端は、底切れ刃11の径方向の外端(接続点)Aに接続する。接続刃13は、接続点Aから径方向外側へ向かうにしたがい、中心軸C方向の基端側へ向けて傾斜して延びている。接続刃13における、径方向に沿う単位長さあたりの中心軸C方向へ向けた変位量(つまり径方向に対する傾き)は、接続点Aから径方向外側へ向かうにしたがい徐々に大きくなる。
【0039】
接続刃13の中心軸C方向の基端は、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端(接続点)Bに接続する。接続刃13は、接続点Bから中心軸C方向の先端側へ向かうにしたがい、径方向内側へ向けて傾斜して延びている。接続刃13における、中心軸C方向に沿う単位長さあたりの径方向へ向けた変位量(つまり中心軸C方向に対する傾き)は、接続点Bから先端側へ向かうにしたがい徐々に大きくなる。
【0040】
本実施形態では、接続刃13が1つの円弧状の部分13aによって形成されている。接続刃13の径方向の内端と、底切れ刃11の径方向の外端とは、接続点Aにおいて接する。つまり、接続刃13の径方向の内端と、底切れ刃11の径方向の外端とは、接続点Aにおいて共通の接線を有して互いに接続する。接続刃13の中心軸C方向の基端と、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端とは、接続点Bにおいて接する。つまり、接続刃13の中心軸C方向の基端と、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端とは、接続点Bにおいて共通の接線を有して互いに接続する。
【0041】
切削インサート5Aを工具本体1の取付座3に装着して、刃先交換式回転切削工具6Aを中心軸C回りに回転させると、接続刃13の回転軌跡は、中心軸C方向の先端側へ向かうにしたがい縮径するテーパ筒状をなす。
【0042】
本実施形態の例では、
図7(b)に示されるように、接続刃13の軸方向すくい角が、0°である。このため、接続刃13と底切れ刃11との接続点Aにおける接続刃13の軸方向すくい角が、0°である。また、接続刃13と外周切れ刃9との接続点Bにおける接続刃13の軸方向すくい角が、0°である。ただしこれに限定されるものではなく、接続刃13の軸方向すくい角は、正の値や負の値であってもよい。
図6(c)及び
図7(c)に示されるように、接続刃13の径方向すくい角は、0°である。ただしこれに限定されるものではなく、接続刃13の径方向すくい角は、正の値や負の値であってもよい。
【0043】
図6(a)及び
図7(a)に示されるように、切れ刃部4の工具回転方向Rを向くすくい面19のうち、接続刃13の径方向内側かつ基端側に隣接する部分は、接続刃13のすくい面部分14である。本実施形態の例では、接続刃13のすくい面部分14が平面状である。
【0044】
インサート本体15において板面16、17同士を接続する周面のうち、接続刃13の反工具回転方向に隣接する部分は、接続刃13の逃げ面部分である。接続刃13の逃げ面部分は、先端外周側へ向けて凸となる曲面状をなしている。接続刃13の逃げ面部分は、該接続刃13から反工具回転方向へ向かうにしたがい中心軸C方向の基端側かつ径方向内側へ向けて傾斜しており、これにより接続刃13には逃げ角が付与されている。
【0045】
図7(a)、(c)において、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径は、切れ刃部4の刃径Dの1/2以上であり、かつ、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径の少なくともいずれかが、刃径Dの1/2よりも大きい。なお、上記「刃径D」とは、切れ刃部4の外径であり、最大直径である。つまり刃径Dは、切れ刃部4を中心軸C回りに回転させて得られる回転軌跡の直径である。本実施形態では、切れ刃部4の刃径Dを、工具刃径Dと呼ぶ場合がある。
つまり、底切れ刃11の曲率半径をX、外周切れ刃9の曲率半径をYとすると、下記I及びIIのいずれかの関係が成り立つ。
〔I〕
X≧1/2D、Y>1/2D
〔II〕
X>1/2D、Y≧1/2D
【0046】
本実施形態では、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径が、ともに刃径Dの1/2よりも大きい。これを上記のX、Y、Dを用いて表すと、
X>1/2D、Y>1/2D
である。
【0047】
本実施形態では、底切れ刃11の曲率半径と、外周切れ刃9の曲率半径とが、互いに同一である。なお本実施形態の例では、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径が、それぞれ工具刃径Dと等しい。つまり、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径が、外周切れ刃9を中心軸C回りに回転させて得られる回転軌跡の外径に等しい。これを上記のX、Y、Dを用いて表すと、
X=Y、X=D、Y=D
である。
【0048】
接続刃13(の円弧状の部分13a)の曲率半径は、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径よりも小さい。つまり、接続刃13の曲率半径をZとすると、下記の関係が成り立つ。
X>Z、Y>Z
【0049】
本実施形態では、接続刃13の曲率半径が工具刃径Dの1/2よりも小さい。つまり、
1/2D>Z
である。
本実施形態の例では、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径に対して、接続刃13の曲率半径が、1/3以下である。つまり、
1/3X≧Z、1/3Y≧Z
である。なお本実施形態の例では、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径が工具刃径Dに等しいので、
1/3D≧Z、1/3D≧Z
である。
【0050】
図6(a)及び
図7(a)に示されるように、本実施形態では、すくい面19のうち、底切れ刃11のすくい面部分12、外周切れ刃9のすくい面部分10及び接続刃13のすくい面部分14が、同一平面上に形成されている。つまり、切れ刃部4の切れ刃のすくい面19全体が、1つの平面により形成されている。
【0051】
図7(a)に示されるように、すくい面19を正面に見て、底切れ刃11のうち径方向の外側部分と、外周切れ刃9のうち中心軸C方向の先端側部分とは、仮想直線VLを対称軸として、互いに線対称形状に形成される。仮想直線VLは、インサート本体15の中心軸C方向の先端から基端側へ向けて工具刃径Dの1/2の距離に位置する中心軸C上の点である刃径中心点O1と、接続刃13の円弧中心点O2と、を通る直線である。仮想直線VLは、接続点A、Bから等しい距離に位置する。仮想直線VLは、接続刃13と直交し、該接続刃13の刃長の中心を通る。
【0052】
仮想直線VLは、中心軸Cに対して角度αで交差し、刃径中心点O1から径方向の外側へ向かうにしたがい中心軸C方向の先端側へ向けて延びている。上記「角度α」は、仮想直線VLと中心軸Cとが交差して形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度を指す。
本実施形態では、角度αが、45°よりも大きい。角度αは、例えば、45°<α≦55°である。そして底切れ刃11の刃長が、外周切れ刃9の刃長よりも長くされている。なお、角度αは、45°よりも小さくてもよい。この場合、角度αは、例えば、10°≦α<45°である。そして外周切れ刃9の刃長が、底切れ刃11の刃長よりも長くされる。
また、角度αの大きさに係わらず、接続刃13の刃長は、底切れ刃11の刃長及び外周切れ刃9の刃長よりも短くされる。
【0053】
なお、本実施形態の例では、底切れ刃11のすくい面部分12、外周切れ刃9のすくい面部分10及び接続刃13のすくい面部分14が、互いに同一平面上に形成されていることから、上記「すくい面19を正面に見て」は、底切れ刃11のすくい面部分12を正面に見て、外周切れ刃9のすくい面部分10を正面に見て、及び、接続刃13のすくい面部分14を正面に見て、と同義である。
【0054】
図7(a)に示されるすくい面19の正面視において、ネジ挿通孔18の孔中心は、仮想直線VL上に位置している。具体的に、すくい面19の正面視においてネジ挿通孔18の孔中心は、仮想直線VLと中心軸Cとの交点である刃径中心点O1上に配置されている。
【0055】
以上説明した本実施形態の切削インサート5A及び刃先交換式回転切削工具6Aは、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径が、切れ刃部4の刃径Dの1/2以上であり、かつ、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径の少なくともいずれかが、刃径Dの1/2よりも大きいので、下記の作用効果を奏する。
【0056】
本実施形態によれば、従来のボールエンドミルやラジアスエンドミルに比べて、被削材の加工面精度を良好に維持しつつも、加工時間を短縮して加工効率を向上できる。
具体的に、従来のボールエンドミルにおいては、切れ刃が、工具先端から径方向外端までの刃長全域にわたって、一定の曲率半径を有する。また、切れ刃の曲率半径は、工具刃径(外径。直径)の1/2である。このため、ボールエンドミルでは、刃径の1/2(半径)の大きさに応じて、所定のカスプハイト値以下となるようにピックフィードを設定し、切削加工が行われる。また、ラジアスエンドミルの場合は、被削材の傾斜した加工面や曲面などを切削加工する際にコーナーR切れ刃が使用されるが、該コーナーR切れ刃の曲率半径は、一般にボールエンドミルの切れ刃の曲率半径よりも小さい(工具刃径が同一の場合)。このため、ラジアスエンドミルのピックフィードは、ボールエンドミルのピックフィードよりも小さくなる。
【0057】
これに対し、本実施形態では、底切れ刃11及び外周切れ刃9の各曲率半径が工具刃径Dの1/2以上であり、かつ、底切れ刃11及び外周切れ刃9の各曲率半径のうち1つ以上が、工具刃径Dの1/2よりも大きい。したがって、従来のボールエンドミルで加工した加工面の挽き目のカスプハイトと同等のカスプハイトを得るにあたって(つまり所定のカスプハイト値以下とするにあたって)、本実施形態によればピックフィード(加工ピッチ)を大きく設定できる。
なお、本実施形態の例では、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径が、工具刃径Dと等しい。したがって、従来のボールエンドミルに比べて、ピックフィードを約1.4倍近い値に設定することができる。
【0058】
ここで、
図9(a)、(b)を参照して、本実施形態と従来例のピックフィードの違いについて説明する。
図9(a)は、本実施形態の切削インサート5A及び刃先交換式回転切削工具6Aで切削した被削材Wの加工面(加工痕)の断面を拡大して表しており、
図9(b)は、従来のボールエンドミルで切削した被削材Wの加工面の断面を拡大して表している。図中において、符号Pはピックフィードのピッチ(加工ピッチ)であり、符号CHはカスプハイトである。
図9(a)、(b)に示されるように、カスプハイトCHを互いに同一に設定した場合には、
図9(a)の本実施形態の方が、ピックフィードの加工ピッチPを大きくできる。
【0059】
本実施形態によれば、カスプハイトCHを小さく抑えつつ、ピックフィード(加工ピッチP)を大きく設定できる。これにより、加工面に加工痕として付与される凹凸(スカラップ)の数を減らすことができ、加工面精度を高めることができる。また、ピックフィードを大きくした分、ツールパス長さ(総加工長さ)を削減することができて、加工時間を短縮することが可能になる。
【0060】
本実施形態の切削インサート5Aを装着した刃先交換式回転切削工具6Aと、従来例のボールエンドミルとを用いて、実際に被削材(S50C)の切削試験を行ってみたところ、工具刃径、切削速度、送り量及びカスプハイト(スカラップハイト)を互いに同一に設定した場合、本実施形態は従来例に比べて、加工時間が約30%も削減された。また、加工面の算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzは、本実施形態が従来例に比べて両方ともに小さい値となり、加工面精度に優れていることが確認された。
【0061】
以上より本実施形態によれば、加工面精度を確保しつつ、加工効率を高めることができる。
【0062】
また本実施形態では、切れ刃部4が、底切れ刃11と外周切れ刃9とを接続する接続刃13を有するので、底切れ刃11及び外周切れ刃9の各切れ刃形状の自由度が増す。つまり、底切れ刃11と外周切れ刃9とを直接繋ぐ必要がないため、切削加工の種類に合わせて、底切れ刃11及び外周切れ刃9の、それぞれの曲率半径や刃長等の切れ刃形状の自由度が大きく確保される。
【0063】
また、接続刃13が設けられることにより、底切れ刃11と外周切れ刃9との接続部分に尖った角部が形成されることを抑制できる。これにより、切れ刃部4のチッピング等が抑えられる。
【0064】
また本実施形態では、接続刃13が、先端外周側へ向けて凸となる円弧状の部分13aを有する。したがって、この接続刃13を用いて、例えば曲率半径の小さな3次元曲面形状の加工面の切削など、底切れ刃11及び外周切れ刃9とは異なる種類の切削加工に対応できる。
【0065】
また本実施形態では、底切れ刃11の曲率半径と、外周切れ刃9の曲率半径とが、互いに同一であるので、底切れ刃11で被削材を切削して加工面に付与される挽き目(加工目、加工痕)と、外周切れ刃9で被削材を切削して加工面に付与される挽き目とを、互いに同じ性状にすることができる。
【0066】
具体的には、底切れ刃11で切削する加工面のカスプハイトと、外周切れ刃9で切削する加工面のカスプハイトとを同等にするにあたって、いずれも同一のピックフィード(加工ピッチ)で加工することができる。これにより、底切れ刃11による挽き目と、外周切れ刃9による挽き目とを、互いに揃えることができる。そして被削材全体にわたって、同じ品質とされた加工面を得ることができる。つまり、底切れ刃11と外周切れ刃9のいずれを使用した切削加工の場合においても、被削材の加工面の性状を一定に揃えることができる。
【0067】
被削材の加工面の性状を一定に揃えることができるので、加工面の面粗さや光沢等を、加工面全体に均等にすることができる。つまり、加工面全体としての表面性能や見栄えを均一化できる。これにより、仕上げ加工や中仕上げ加工において、加工の高精度化に有利な効果を得ることができる。
【0068】
また本実施形態では、底切れ刃11の中心軸C回りの回転軌跡が球面状であり、この回転軌跡は、球体の外周面部分(球面の部分)のように形成される。したがって、例えば、被削材に正面削り加工(平面加工)を施すときに、ピックフィード(加工ピッチ)を大きく設定できるという上述の効果が安定して得られる。
【0069】
また本実施形態では、すくい面19を正面に見て、底切れ刃11のうち径方向の外側部分と、外周切れ刃9のうち中心軸C方向の先端側部分とが、仮想直線VLを対称軸として、互いに線対称形状に形成される。
したがって、例えば、被削材に正面削り加工(平面加工)を施すときに、底切れ刃11で切削することにより被削材の加工面に付与される挽き目と、被削材に側面削り加工(立壁面加工)を施すときに、外周切れ刃9で切削することにより被削材の加工面に付与される挽き目とを、同じ性状に仕上げやすい。
【0070】
また本実施形態のように、角度αが45°よりも大きく、底切れ刃11の刃長が外周切れ刃9の刃長よりも長くされると、例えば、被削材に主に正面削り加工(平面加工)を施す切削時などにおいて、加工効率を顕著に高められる。そして、角度αが55°以下であるので、外周切れ刃9の刃長が短くなり過ぎることを抑制できる。
【0071】
また、角度αが45°よりも小さく、外周切れ刃9の刃長が底切れ刃11の刃長よりも長くされると、例えば、被削材に主に側面削り加工(立壁面加工)を施す切削時などにおいて、加工効率を顕著に高められる。そして、角度αが10°以上であるので、底切れ刃11の刃長が短くなり過ぎることを抑制できる。
【0072】
また本実施形態では、切れ刃部4のすくい面19のうち、底切れ刃11のすくい面部分12、外周切れ刃9のすくい面部分10及び接続刃13のすくい面部分14が、同一平面上に形成されている。このため、切れ刃全長にわたって、軸方向すくい角や径方向すくい角が概ね変化しない。
一般のエンドミル等では、切れ刃部のすくい面のうち、底切れ刃のすくい面部分及び外周切れ刃のすくい面部分等は、互いに異なる平面や曲面により形成されている。そして、各切れ刃同士の接続点は、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、軸方向すくい角や径方向すくい角が変化する。このため、切削加工時には、切れ刃同士の接続点近傍での切削負荷が大きくなりやすい。
【0073】
そこで本実施形態のように、底切れ刃11のすくい面部分12、外周切れ刃9のすくい面部分10及び接続刃13のすくい面部分14を、同一平面上に形成することとすれば、底切れ刃11と接続刃13との接続点A、及び、外周切れ刃9と接続刃13との接続点Bにおいても、切れ刃のすくい面は1つの平面によって形成されることになる。
これにより、接続点A、Bを挟んだ切れ刃の両側において、軸方向すくい角や径方向すくい角が大きく変化するようなことが抑えられ、接続点A、Bにおいて切れ刃が屈曲するようなことも抑えられる結果、接続点A、B近傍に大きな切削負荷が作用することが抑制される。したがって、接続刃13と底切れ刃11との接続部分、及び、接続刃13と外周切れ刃9との接続部分における刃先強度が顕著に高められ、工具寿命が延長する。
【0074】
また、底切れ刃11のすくい面部分12、外周切れ刃9のすくい面部分10及び接続刃13のすくい面部分14が、同一平面上に形成されていると、切削インサート5Aの製造が容易である。また、これらのすくい面部分10、12、14同士の間(接続部位)に凹部(谷部)等が形成されないことから、切削加工時における切屑の引っ掛かり等が抑制されて、切屑排出性が高められる。
【0075】
また本実施形態では、すくい面19を正面に見て、ネジ挿通孔18の孔中心が仮想直線VL上に位置しているので、底切れ刃11を用いた切削加工時においても、外周切れ刃9を用いた切削加工時においても、切削インサート5Aをネジ挿通孔18(固定用ネジ8)回りに回転させようとする力が抑えられる。
【0076】
具体的には、底切れ刃11を用いた切削加工時においては、該底切れ刃11が受ける切削抵抗の切れ刃法線方向成分が、ネジ挿通孔18の孔中心に向かうように作用する。また、外周切れ刃9を用いた切削加工時においては、該外周切れ刃9が受ける切削抵抗の切れ刃法線方向成分が、ネジ挿通孔18の孔中心に向かうように作用する。このため、固定用ネジ8で固定された切削インサート5Aを、該固定用ネジ8回りに回転させようとする力が緩和されて、取付座3に対する切削インサート5Aの微振動(回転微振動)が抑制される。
【0077】
これにより、被削材の加工面の性状が安定して、高精度加工を良好に維持することができる。特に、被削材の3次元形状の構成部分に対して、該構成部分の外面に沿った工具軌跡でフライス加工を行う、いわゆる面沿い加工による仕上げ加工や中仕上げ加工において、高精度化に有利な効果を得ることができる。
また、接続刃13を用いた切削加工時においては、該接続刃13が受ける切削抵抗の切れ刃法線方向成分が、ネジ挿通孔18の孔中心に向かうように作用する。したがって、接続刃13を用いた切削加工時においても、上述と同様の作用効果を奏する。
【0078】
なお、本実施形態の切削インサート5A及び刃先交換式回転切削工具6Aを多軸制御のマシニングセンタ等の工作機械に用いた場合には、本実施形態による作用効果がより格別顕著なものとなる。上記多軸制御とは、例えば4~6軸の制御を指す。多軸制御であることで、互いに傾斜が異なる複数の加工面同士を、より均等な性状に加工しやすくなる。この場合、例えばタービンブレードのような複雑な3次元曲面を有する被削材であっても、高精度に安定して切削加工を施すことができる。
【0079】
具体的に、従来のボールエンドミルを3軸制御の切削加工方法で用いた場合には、加工面精度と加工効率を両方ともに高めることは困難であった。
本実施形態の切削インサート5A及び刃先交換式回転切削工具6Aによれば、5軸制御による加工機に対応可能であり、外周切れ刃(バレル切れ刃)9、底切れ刃(レンズ切れ刃)11を組み合わせて使用することによって、高能率加工、高精度加工を同時に実現することが可能となった。
例えば、工具軸を傾斜して加工することによって、外周切れ刃(バレル切れ刃)9を使用するときは、被削材の勾配を有する傾斜面において、加工ピッチを大きく設定して高能率な加工条件を設定すること、及び、高品位な仕上げ面を得ることが可能になる。
また、底切れ刃(レンズ切れ刃)11を使用するときも、外周切れ刃(バレル切れ刃)9と同様に、被削材曲面を高品位な仕上げ面とすることができる。
さらに、3軸制御の加工機で使用する場合であっても、外周切れ刃(バレル切れ刃)9を使用することで、垂直な立壁に近い勾配面を、または底切れ刃(レンズ切れ刃)11を使用することで平坦な面に近い被削材曲面を、加工ピッチを大きく設定した条件で加工することができるなどの特徴を有する。
【0080】
図8(a)~(c)は、本実施形態の切削インサート5Aの変形例を表している。この変形例では、
図8(b)に示されるように、外周切れ刃9の軸方向すくい角が、正の値を有する。底切れ刃11の軸方向すくい角が、正の値を有する。接続刃13の軸方向すくい角が、正の値を有する。また、底切れ刃11と接続刃13との接続点Aにおける接続刃13の軸方向すくい角が、正の値を有する。外周切れ刃9と接続刃13との接続点Bにおける接続刃13の軸方向すくい角が、正の値を有する。このように、外周切れ刃9の軸方向すくい角、底切れ刃11の軸方向すくい角及び接続刃13の軸方向すくい角が、すべてポジティブ角である。
【0081】
この変形例では、外周切れ刃9の軸方向すくい角、接続刃13の軸方向すくい角及び底切れ刃11の軸方向すくい角が、すべて同一の角度βである。角度βは、例えば、0°<β≦15°である。また、切れ刃部4の切れ刃の刃長全域にわたって、すくい面19が1つの平面により形成される。
【0082】
この変形例によれば、切れ味が高められ、切削加工時に生じた切屑が効率よく工具先端から基端側へと送られて、切屑排出性がよい。すくい面19上において切屑の流れが安定し、切屑排出性が良好に維持される。切削速度を高めることができ、加工能率が向上する。なお、角度βを15°以下とすることにより、刃先強度を確保でき、チッピング等を抑制できる。
【0083】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る切削インサート5B及びこれを備えた刃先交換式回転切削工具6Bについて、
図10~
図17を参照して説明する。
なお、第2実施形態では、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略し、主として異なる点について説明する。
【0084】
図10~
図16に示されるように、本実施形態の切削インサート5B及び刃先交換式回転切削工具6Bは、前述の実施形態とは、切れ刃部4の切れ刃の構成等が異なる。
本実施形態では、外周切れ刃9の曲率半径が、底切れ刃11の曲率半径よりも大きい。つまり、底切れ刃11の曲率半径をX、外周切れ刃9の曲率半径をYとすると、
Y>X
である。
【0085】
また、接続刃13(の円弧状の部分13a)の曲率半径は、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径よりも小さい。つまり、接続刃13の曲率半径をZとすると、下記の関係が成り立つ。
Y>X>Z
【0086】
また本実施形態では、切れ刃の刃長が、接続刃13、底切れ刃11、外周切れ刃9の順に大きくなる。図示の例では、底切れ刃11の刃長に対して、外周切れ刃9の刃長が2倍以上である。
【0087】
以上説明した本実施形態の切削インサート5B及び刃先交換式回転切削工具6Bによれば、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
また本実施形態では、外周切れ刃9の曲率半径が、底切れ刃11の曲率半径よりも大きいので、外周切れ刃9で切削する加工面のカスプハイトと、底切れ刃11で切削する加工面のカスプハイトとを同等にするにあたって、底切れ刃11よりも外周切れ刃9においてピックフィード(加工ピッチ)を大きく設定できる。したがって、例えば被削材に主に側面削り加工(立壁面加工)を施す切削時などにおいて、加工効率を顕著に高められる。
【0088】
図17(a)~(c)は、本実施形態の切削インサート5Bの変形例を表している。この変形例では、
図17(b)に示されるように、外周切れ刃9の軸方向すくい角が、正の値を有する。底切れ刃11の軸方向すくい角が、正の値を有する。接続刃13の軸方向すくい角が、正の値を有する。つまり、外周切れ刃9の軸方向すくい角、底切れ刃11の軸方向すくい角及び接続刃13の軸方向すくい角が、すべてポジティブ角である。
この変形例によれば、切れ味が高められ、切削加工時に生じた切屑が効率よく工具先端から基端側へと送られて、切屑排出性がよい。切削速度を高めることができ、加工能率が向上する。
【0089】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る切削インサート5C及びこれを備えた刃先交換式回転切削工具6Cについて、
図18~
図25を参照して説明する。
なお、第3実施形態では、第1、第2実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略し、主として異なる点について説明する。
【0090】
図18~
図24に示されるように、本実施形態の切削インサート5C及び刃先交換式回転切削工具6Cは、前述の実施形態とは、切れ刃部4の切れ刃の構成等が異なる。
本実施形態では、底切れ刃11の曲率半径が、外周切れ刃9の曲率半径よりも大きい。つまり、底切れ刃11の曲率半径をX、外周切れ刃9の曲率半径をYとすると、
X>Y
である。
【0091】
また、接続刃13(の円弧状の部分13a)の曲率半径は、底切れ刃11の曲率半径及び外周切れ刃9の曲率半径よりも小さい。つまり、接続刃13の曲率半径をZとすると、下記の関係が成り立つ。
X>Y>Z
【0092】
また本実施形態では、切れ刃の刃長が、接続刃13、外周切れ刃9、底切れ刃11の順に大きくなる。図示の例では、外周切れ刃9の刃長に対して、底切れ刃11の刃長が2倍以上である。
【0093】
以上説明した本実施形態の切削インサート5C及び刃先交換式回転切削工具6Cによれば、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
また本実施形態では、底切れ刃11の曲率半径が、外周切れ刃9の曲率半径よりも大きいので、底切れ刃11で切削する加工面のカスプハイトと、外周切れ刃9で切削する加工面のカスプハイトとを同等にするにあたって、外周切れ刃9よりも底切れ刃11においてピックフィード(加工ピッチ)を大きく設定できる。したがって、例えば被削材に主に正面削り加工(平面加工)を施す切削時などにおいて、加工効率を顕著に高められる。
【0094】
図25(a)~(c)は、本実施形態の切削インサート5Cの変形例を表している。この変形例では、
図25(b)に示されるように、外周切れ刃9の軸方向すくい角が、正の値を有する。底切れ刃11の軸方向すくい角が、正の値を有する。接続刃13の軸方向すくい角が、正の値を有する。つまり、外周切れ刃9の軸方向すくい角、底切れ刃11の軸方向すくい角及び接続刃13の軸方向すくい角が、すべてポジティブ角である。
この変形例によれば、切れ味が高められ、切削加工時に生じた切屑が効率よく工具先端から基端側へと送られて、切屑排出性がよい。切削速度を高めることができ、加工能率が向上する。
【0095】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る切削インサート5D及びこれを備えた刃先交換式回転切削工具6Dについて、
図26及び
図27を参照して説明する。
なお、第4実施形態では、第1~第3実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略し、主として異なる点について説明する。
【0096】
図26及び
図27に示されるように、本実施形態の切削インサート5D及び刃先交換式回転切削工具6Dは、前述の実施形態とは、切れ刃部4の切れ刃の構成等が異なる。
図27において本実施形態では、接続刃13が、直線状の部分13bを有する。本実施形態の例では、直線状の部分13bが、接続刃13の刃長全域にわたって形成される。底切れ刃11の径方向の外端(接続点A)と外周切れ刃9の中心軸C方向の先端(接続点B)とは、接続刃13を構成する1つの直線状の部分13bを介して接続する。接続刃13は、直線形状の切れ刃である。
【0097】
接続刃13は、底切れ刃11に接続する該接続刃13の径方向の内端(接続点A)から径方向の外側へ向かうにしたがい、中心軸C方向の基端側へ向けて傾斜して延びている。接続刃13は、外周切れ刃9に接続する該接続刃13の中心軸C方向の基端(接続点B)から先端側へ向かうにしたがい、径方向内側へ向けて傾斜して延びている。
【0098】
接続刃13が、径方向及び中心軸C方向に対して傾斜する角度は、該接続刃13の刃長全域にわたって一定である。接続刃13は、底切れ刃11に対して、該底切れ刃11との間に鈍角の角部を形成するように接続点Aで繋がる。接続刃13は、外周切れ刃9に対して、該外周切れ刃9との間に鈍角の角部を形成するように接続点Bで繋がる。
【0099】
本実施形態では、底切れ刃11の曲率半径と、外周切れ刃9の曲率半径とが、互いに同一である。また、底切れ刃11の刃長と、外周切れ刃9の刃長とが、互いに同一である。接続刃13の刃長は、底切れ刃11の刃長及び外周切れ刃9の刃長よりも短い。
【0100】
以上説明した本実施形態の切削インサート5D及び刃先交換式回転切削工具6Dによれば、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
また本実施形態では、接続刃13が、直線状の部分13bを有する。したがって、この接続刃13を用いて、例えば、従来のボールエンドミル等では高精度な加工が難しかった被削材の平面フライス加工(仕上げ加工)を行うことができる。つまり、接続刃13が、挽き目をなくすための仕上げ刃としての機能を有する。このため本実施形態によれば、様々な切削加工への対応が可能となる。
【0101】
なお、本実施形態の例では、接続刃13が直線状の部分13bを1つ有するので、直線状の部分13bの刃長を大きく確保でき、この直線状の部分13bを切削加工に用いる場合の送り量を増大できて、平面フライス加工が効率よく行える。
【0102】
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係る切削インサート5E及びこれを備えた刃先交換式回転切削工具6Eについて、
図28及び
図29を参照して説明する。
なお、第5実施形態では、第1~第4実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略し、主として異なる点について説明する。
【0103】
図28及び
図29に示されるように、本実施形態の切削インサート5E及び刃先交換式回転切削工具6Eは、前述の実施形態とは、切れ刃部4の切れ刃の構成等が異なる。
図29において本実施形態では、接続刃13が、直線状の部分13bを複数有する。底切れ刃11の径方向の外端(接続点A)と外周切れ刃9の中心軸C方向の先端(接続点B)とは、接続刃13を構成する複数の直線状の部分13bを介して接続する。具体的には、底切れ刃11の径方向の外端と、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端とが、2つの直線状の部分13bを介して繋がる。
【0104】
複数の直線状の部分13b同士は、接続点A、B間において、互いに異なる向きに延び、互いに連続して形成されている。
複数の直線状の部分13bのうち、底切れ刃11に接続する直線状の部分(第1の直線状の部分)13bは、接続点Aから径方向の外側へ向かうにしたがい中心軸C方向の基端側へ向けて傾斜して延びている。複数の直線状の部分13bのうち、外周切れ刃9に接続する直線状の部分(第2の直線状の部分)13bは、接続点Bから先端側へ向かうにしたがい径方向内側へ向けて傾斜して延びている。
【0105】
第1の直線状の部分13bにおける径方向の単位長さあたりの中心軸C方向へ向けた変位量(つまり径方向に対する傾き)は、接続点A、B同士を結ぶ図示しない仮想線分の前記変位量よりも小さい。
第2の直線状の部分13bにおける径方向の単位長さあたりの中心軸C方向へ向けた変位量は、前記仮想線分の前記変位量よりも大きい。
第1の直線状の部分13bにおける径方向の単位長さあたりの中心軸C方向へ向けた変位量は、第2の直線状の部分13bの前記変位量よりも小さい。
【0106】
本実施形態において、複数の直線状の部分13b(第1の直線状の部分13b及び第2の直線状の部分13b)は、前記仮想線分よりも工具の先端外周側に配置される。すくい面19を正面に見て、隣り合う直線状の部分13b同士が接続する角部は、工具の先端外周側へ向けて凸となる鈍角をなすように形成される。本実施形態では、第1の直線状の部分13bの刃長と、第2の直線状の部分13bの刃長とが、互いに同一である。
接続刃13のすくい面部分14は、1つの平面により形成されている。つまり、複数の直線状の部分13bの各すくい面部分は、同一平面上に形成される。
【0107】
以上説明した本実施形態の切削インサート5E及び刃先交換式回転切削工具6Eによれば、前述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
また本実施形態では、接続刃13が、直線状の部分13bを複数有するので、それぞれの直線状の部分13bを用いることにより、様々な仕上げ加工等に対応可能である。
【0108】
また本実施形態では、第1の直線状の部分13bの刃長と、第2の直線状の部分13bの刃長とが、互いに同一であるので、第1の直線状の部分13bを用いた仕上げ加工と、第2の直線状の部分13bを用いた仕上げ加工とで挽き目を揃えることができる。したがって、複数の直線状の部分13bで別々に切削することにより被削材の加工面に付与される挽き目同士が、互いに同じ性状となる。
【0109】
また本実施形態では、接続刃13が、互いに異なる切れ刃形状の部分(第1、第2の直線状の部分13b)を有しつつも、接続刃13のすくい面部分14は、1つの平面により形成されている。このため、接続刃13に作用する切削負荷の局部的な集中を抑えて刃先強度を確保でき、かつ、切屑排出性が高められる。
【0110】
<第6実施形態>
次に、本発明の第6実施形態に係る切削インサート5F及びこれを備えた刃先交換式回転切削工具6Fについて、
図30及び
図31を参照して説明する。
なお、第6実施形態では、第1~第5実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略し、主として異なる点について説明する。
【0111】
図30及び
図31に示されるように、本実施形態の切削インサート5F及び刃先交換式回転切削工具6Fは、前述の実施形態とは、切れ刃部4の切れ刃の構成等が異なる。
図31において本実施形態では、接続刃13が、直線状の部分13bを3つ有する。底切れ刃11の径方向の外端(接続点A)と外周切れ刃9の中心軸C方向の先端(接続点B)とは、3つの直線状の部分13bを介して接続する。
【0112】
すくい面19を正面に見て、3つの直線状の部分13bは、接続点A、B間において、互いに異なる向きに延びる。3つの直線状の部分13bには、底切れ刃11に接続する直線状の部分(第1の直線状の部分)13bと、外周切れ刃9に接続する直線状の部分(第2の直線状の部分)13bと、第1の直線状の部分13bと第2の直線状の部分13bとの間に位置してこれらを接続する直線状の部分(第3の直線状の部分)13bと、が含まれる。第3の直線状の部分13bは、第1の直線状の部分13bとの接続点から径方向外側へ向かうに従い中心軸C方向の基端側へ向けて傾斜して延びている。
【0113】
第3の直線状の部分13bにおける径方向の単位長さあたりの中心軸C方向へ向けた変位量(つまり径方向に対する傾き)は、第1の直線状の部分13bの前記変位量よりも大きく、第2の直線状の部分13bの前記変位量よりも小さい。本実施形態では、第3の直線状の部分13bの前記変位量と、接続点A、B同士を結ぶ図示しない仮想線分の前記変位量とが、互いに同一である。つまり、第3の直線状の部分13bと前記仮想線分とは、互いに平行である。
【0114】
本実施形態において、複数の直線状の部分13b(第1~第3の直線状の部分13b)は、前記仮想線分よりも工具の先端外周側に配置される。すくい面19を正面に見て、隣り合う直線状の部分13b同士が接続する角部は、工具の先端外周側へ向けて凸となる鈍角をなすように形成される。
【0115】
第1の直線状の部分13bと第3の直線状の部分13bとの接続点(角部)、及び、第2の直線状の部分13bと第3の直線状の部分13bとの接続点(角部)は、前記仮想線分よりも工具の先端外周側に配置される。本実施形態では、第1の直線状の部分13bの刃長と、第2の直線状の部分13bの刃長と、第3の直線状の部分13bの刃長とが、互いに同一である。
【0116】
以上説明した本実施形態の切削インサート5F及び刃先交換式回転切削工具6Fによれば、前述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
また本実施形態では、第1の直線状の部分13bの刃長と、第2の直線状の部分13bの刃長と、第3の直線状の部分13bの刃長とが互いに同一であるので、第1の直線状の部分13bを用いた仕上げ加工と、第2の直線状の部分13bを用いた仕上げ加工と、第3の直線状の部分13bを用いた仕上げ加工とで挽き目を揃えることができる。
【0117】
なお、第3の直線状の部分13bの刃長を、第1、第2の直線状の部分13bの刃長とは異なる長さにしてもよい。つまり、第3の直線状の部分13bの刃長が、第1、第2の直線状の部分13bの刃長より長くてもよいし、短くてもよい。この場合、より多様な加工形態への対応が可能となる。
【0118】
<第7実施形態>
次に、本発明の第7実施形態に係る切削インサート5G及びこれを備えた刃先交換式回転切削工具6Gについて、
図32及び
図33を参照して説明する。
なお、第7実施形態では、第1~第6実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略し、主として異なる点について説明する。
【0119】
図32及び
図33に示されるように、本実施形態の切削インサート5G及び刃先交換式回転切削工具6Gは、切れ刃部4が接続刃13を備えていない点等で、前述の実施形態とは構成が異なる。
【0120】
本実施形態では、底切れ刃11と外周切れ刃9とが、直接接続される。底切れ刃11の径方向の外端(接続点A)と、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端(接続点B)とが、直接接続している。底切れ刃11の径方向の外端と、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端とが、接続刃13を介さずに互いに直接的に繋がる。
【0121】
接続点Aは、底切れ刃11において外周切れ刃9に接続する端点であり、接続点Bは、外周切れ刃9において底切れ刃11に接続する端点である。接続点Aと接続点Bとは、互いの位置が一致する。本実施形態では、接続点Aと接続点Bとの間に、接続刃13が形成されていない。このため、切れ刃部4のすくい面19は、接続刃13のすくい面部分14を有していない。そして、すくい面19のうち、底切れ刃11のすくい面部分12及び外周切れ刃9のすくい面部分10が、同一平面上に形成されている。また、切れ刃部4の逃げ面は、接続刃13の逃げ面部分を有していない。
底切れ刃11の径方向の外端と、外周切れ刃9の中心軸C方向の先端とが接続する角部は、工具の先端外周側へ向けて凸となる鈍角をなすように形成される。
【0122】
以上説明した本実施形態の切削インサート5G及び刃先交換式回転切削工具6Gによれば、前述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
また本実施形態では、底切れ刃11と外周切れ刃9とが、直接接続される。このため、底切れ刃11の刃長及び外周切れ刃9の刃長を長く(最長に)設定することが可能になる。このため、カスプハイトを小さく抑えつつ、ピックフィードの加工ピッチを増大できる。したがって、加工面精度を良好に維持しつつ、加工効率を高められる。
【0123】
また、接続刃13、接続刃13のすくい面部分14及び接続刃13の逃げ面部分が形成されていない分、切削インサート5Gの製造を簡素化できる。
【0124】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0125】
前述の実施形態では、切削インサート5A~5Gのインサート本体15が五角形板状をなしているとしたが、これに限定されない。インサート本体15は、例えば五角形板状以外の多角形板状等の板状であってもよい。
また、切削インサート5A~5Gのインサート本体15がネジ挿通孔18を有しているとしたが、ネジ挿通孔18を有していなくてもよい。この場合、切削インサート5A~5Gは、工具本体1の取付座3に対して、例えばクランプ機構等により装着される。
【0126】
また、第1~第3実施形態では、接続刃13が、1つの円弧状の部分13aを有しており、この円弧状の部分13aが接続刃13の刃長全域にわたって形成されているが、これに限定されない。接続刃13の部分(一部)に、円弧状の部分13aが形成されていてもよい。また接続刃13が、複数の円弧状の部分13aを有していてもよい。この場合、複数の円弧状の部分13a同士は、曲率半径及び刃長等が互いに異なっていてもよい。
【0127】
また、第5実施形態では、接続刃13に直線状の部分13bが2つ設けられ、第6実施形態では、接続刃13に直線状の部分13bが3つ設けられるとした。これらの構成に代えて、接続刃13に直線状の部分13bが4つ以上設けられてもよい。
また、接続刃13が、円弧状の部分13aと、直線状の部分13bとを有していてもよい。接続刃13は、円弧状の部分13a及び直線状の部分13b以外の切れ刃形状の部分を有していてもよい。
また、前述の実施形態では、接続刃13が切れ刃の機能(切削機能)を有するが、これに限定されない。接続刃13は、切削機能を有さないみせかけの刃であってもよい。
【0128】
また、第1~第6実施形態では、すくい面19のうち、底切れ刃11のすくい面部分12、外周切れ刃9のすくい面部分10及び接続刃13のすくい面部分14が、同一平面上に形成される例を挙げた。また、第7実施形態では、すくい面19のうち、底切れ刃11のすくい面部分12及び外周切れ刃9のすくい面部分10が、同一平面上に形成される例を挙げた。本発明はこれらの構成に限定されるものではなく、例えば、すくい面部分10、12、14が、同一曲面(凸曲面、凹曲面)上に形成されていてもよい。あるいは、すくい面部分10、12、14が、互いに異なる平面や曲面により形成されていてもよい。
【0129】
なお、前述の実施形態において、切削インサート5A~5Gの基体(インサート本体15)の材質は、炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)を含む超硬合金の他に、例えば、サーメット、高速度鋼、炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、及びこれらの混合体からなるセラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、多結晶ダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素からなる硬質相と、セラミックスや鉄族金属などの結合相とを超高圧下で焼成する超高圧焼成体を用いることも可能である。
また、工具本体1は、例えば、SKD61等の合金工具鋼で製造する場合の他、SKD61等の合金工具鋼と超硬合金とを接合し形成したものを用いることも可能である。
【0130】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の切削インサート及び刃先交換式回転切削工具は、加工面精度を確保しつつ、加工効率を高められる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0132】
1 工具本体
2 先端部
4 切れ刃部
5A~5G 切削インサート
6A~6G 刃先交換式回転切削工具
9 外周切れ刃
11 底切れ刃
13 接続刃
13a 円弧状の部分
13b 直線状の部分
15 インサート本体
C 中心軸
D 切れ刃部の刃径
X 底切れ刃の曲率半径
Y 外周切れ刃の曲率半径
β 角度(軸方向すくい角)