(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059094
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】処理装置、判定方法、制御プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 33/493 20060101AFI20220406BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
G01N33/493 B
G06N3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019025830
(22)【出願日】2019-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】瓜生 英尚
(72)【発明者】
【氏名】秦 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】右田 王介
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA18
2G045AA25
2G045CB03
2G045FA19
2G045JA01
2G045JA03
2G045JA04
2G045JA07
(57)【要約】
【課題】所定の疾病の患者をより容易に特定するための処理装置を実現する。
【解決手段】処理装置(1)は、対象者の尿沈渣画像を取得する取得部(11)と、当該尿沈渣画像を分割することにより複数の分割画像を生成する分割部(12)と、上記複数の分割画像の少なくとも何れかを学習済みニューラルネットワークに入力し、当該ニューラルネットワークの出力値を参照して当該分割画像に所定の疾病の特徴を示す要因が含まれるか否かを判定する判定部(13)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の尿沈渣画像を取得する取得部と、
当該尿沈渣画像を分割することにより複数の分割画像を生成する分割部と、
前記複数の分割画像の少なくとも何れかを学習済みニューラルネットワークに入力し、当該ニューラルネットワークの出力値を参照して当該分割画像に所定の疾病の特徴を示す要因が含まれるか否かを判定する判定部と
を備えることを特徴とする処理装置。
【請求項2】
前記ニューラルネットワークの出力値は、前記分割画像にマルベリー小体が含まれているか否かと相関を有しており、
前記判定部は、
前記ニューラルネットワークの出力値が、前記分割画像にマルベリー小体が含まれていることを示している場合に、前記分割画像にファブリー病の特徴を示す要因が含まれていると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記学習済みニューラルネットワークに入力される前記分割画像の少なくとも何れかの背景色の色相を補正する補正部を更に備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の処理装置。
【請求項4】
対象者の尿沈渣画像を取得する取得部と、
当該尿沈渣画像から複数の分割画像を生成する分割部と、
前記複数の分割画像の少なくとも何れかを教師情報として、前記分割画像に所定の疾病の特徴を示す要因が含まれるか否かを示す出力値を出力するニューラルネットワークを学習させる学習部と
を備えることを特徴とする処理装置。
【請求項5】
前記学習部は、
前記分割画像にファブリー病の特徴を示す要因としてマルベリー小体が含まれるか否かに応じて前記ニューラルネットワークの出力値が異なるように、前記ニューラルネットワークを学習させる
ことを特徴とする請求項4に記載の処理装置。
【請求項6】
前記学習部は、
前記所定の疾病に陽性である対象者の尿沈渣画像から生成された分割画像であって、前記所定の疾病の特徴を示す要因が含まれない分割画像を教師情報として前記ニューラルネットワークを学習させる
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の処理装置。
【請求項7】
前記学習部は、
前記所定の疾病に陽性または陰性である対象者の尿沈渣画像から生成された分割画像であって、線対称変換が施された分割画像を教師情報として前記ニューラルネットワークを学習させる
ことを特徴とする請求項4から6までの何れか1項に記載の処理装置。
【請求項8】
前記分割部は、
前記尿沈渣画像から無作為に選択した領域をトリミングして前記分割画像とする
ことを特徴とする請求項4から7までの何れか1項に記載の処理装置。
【請求項9】
前記分割部は、
前記尿沈渣画像において、前記所定の疾病の特徴を示す要因と推定される対象の中心位置を設定し、当該中心位置を含む領域をトリミングして前記分割画像とする
ことを特徴とする請求項4から7までの何れか1項に記載の処理装置。
【請求項10】
前記ニューラルネットワークの教師情報として用いられる前記分割画像の少なくとも何れかの背景色の色相を補正する補正部を更に備える
ことを特徴とする請求項4から9までの何れか1項に記載の処理装置。
【請求項11】
装置によって実行される所定の疾病に関する判定方法であって、
対象者の尿沈渣画像を取得する取得ステップと、
当該尿沈渣画像を分割することにより複数の分割画像を生成する分割ステップと、
前記複数の分割画像の少なくとも何れかを学習済みニューラルネットワークに入力し、当該ニューラルネットワークの出力値を参照して当該分割画像に所定の疾病の特徴を示す要因が含まれるか否かを判定する判定ステップと
を含むことを特徴とする判定方法。
【請求項12】
請求項1に記載の処理装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部、前記分割部および前記判定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の疾病に関する処理装置、所定の疾病に関する判定方法、制御プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ライソゾーム酵素の障害によるファブリー病等のライソゾーム病は種々の治療法が確立されている。ファブリー病は、glycosphingolipid代謝経路の先天的な異常によるものであり、無治療であれば透析が必要となる腎不全、心不全、脳梗塞をはじめとすると脳血管障害等の原因となり得るが、疾患の早期発見により適切な治療を開始すれば臓器障害を防ぎ健康寿命を延ばすことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Fabry disease defined: baseline clinical manifestations of 366 patients in the Fabry Outcome Survey”、[online]、Wiley Online Library、[2019年1月10日検索]、インターネット(URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1365-2362.2004.01309.x)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ファブリー病等の所定の疾病においては、臨床症状が非特異的であり、患者の特定が困難であるという問題がある。例えばファブリー病の診断につながる検査法として、酵素活性測定、基質蓄積の測定および遺伝子検査等が挙げられるが、これらは検査実施機関が限られ、そもそも診断を疑わなければ検査自体が実施されない。このため初診から診断までに長期間を要することが多い。また,患者の絞り込みを行わずにこれらの検査を実施することは、医療コストが嵩むため,ほぼ不可能である。
【0005】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、所定の疾病の患者をより容易に特定するための処理装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る処理装置は、対象者の尿沈渣画像を取得する取得部と、当該尿沈渣画像を分割することにより複数の分割画像を生成する分割部12と、上記複数の分割画像の少なくとも何れかを学習済みニューラルネットワークに入力し、当該ニューラルネットワークの出力値を参照して当該分割画像に所定の疾病の特徴を示す要因が含まれるか否かを判定する判定部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、所定の疾病の患者をより容易に特定するための処理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態1に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】尿沈渣画像および分割画像の一例を示す図である。
【
図6】ニューラルネットワークの一例を示す概念図である。
【
図7】尿沈渣画像およびマルベリー小体が含まれるか否かを示す情報の一例を示す図である。
【
図8】実施形態2に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】マルベリー小体が含まれる尿沈渣画像の一例を示す図である。
【
図10】マルベリー小体が含まれていない尿沈渣画像の一例を示す図である。
【
図11】尿沈渣画像および分割画像の一例を示す図である。
【
図12】尿沈渣画像および分割画像の一例を示す図である。
【
図13】分類された分割画像の一例を示す図である。
【
図14】データベースの更新処理の一例を示す図である。
【
図15】実施例に係る受信者操作特性曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。ただし、本実施形態に記載されている構成は、特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図7を参照して説明する。本実施形態においては、所定の疾病に関する判定を行う処理装置が行う処理の一例について説明する。以下、一例として、所定の疾病はファブリー病であるものとして説明するが、これに限定されず、尿沈渣画像によって検査が可能なその他の疾病であってもよい。
【0011】
〔1.処理装置1の構成〕
図1は、本実施形態に係る処理装置1の機能ブロック図である。
図1に示す通り、処理装置1は、制御部10および記憶部20を備えている。
【0012】
制御部10は、処理装置1全体を統括する制御装置であって、取得部11、分割部12、判定部13、補正部14および学習部15としても機能する。また、制御部10は、図示しないニューラルネットワーク機構を有している。なお、このニューラルネットワークは、例えばCNN(Convolutional Neural Network)であってもよいし、LSTM(Long short-term memory)等であってもよい。
【0013】
取得部11は、ファブリー病に罹患しているか否かの検査の対象となる対象者の尿沈渣画像、又はニューラルネットワークの学習に使用される尿沈渣画像を取得する。また、取得部11が尿沈渣画像を取得する取得元は、特定の場所に限定されず、例えば記憶部20または外部サーバ等であってもよい。また、ファブリー病に罹患しているか否かの検査の対象となる対象者、およびニューラルネットワークの学習に用いられる尿沈渣画像の提供元となる対象者のことを、以下単に、対象者と呼称することもある。
【0014】
分割部12は、取得部11が取得した尿沈渣画像から、当該尿沈渣画像以下の解像度である分割画像を生成する。分割部12による処理例の詳細については後述する。
【0015】
判定部13は、ニューラルネットワークの出力値を参照して、対象となる分割画像にファブリー病の特徴を示す要因が含まれるか否かを判定する。換言すれば、ニューラルネットワークは、入力された分割画像にファブリー病の特徴を示す要因が含まれるか否かを示す出力値を出力する。また、以下の説明においては、当該要因としてマルベリー小体を例に挙げて説明するが、必ずしもそうでなくともよい。即ち、本実施形態に係るニューラルネットワークの出力値は、分割画像にマルベリー小体が含まれているか否かと相関を有しており、判定部13は、ニューラルネットワークの出力値が、分割画像にマルベリー小体が含まれていることを示している場合に、当該分割画像にファブリー病の特徴を示す要因が含まれていると判定する。これにより、マルベリー小体の有無によって分割画像にファブリー病の特徴を示す要因が含まれるか否かを判定できる。また、本明細書においてマルベリー小体(mulberry bodies)には、マルベリー細胞(mulberry cells)も含まれるものとする。
【0016】
補正部14は、分割部12が生成した分割画像の背景色の色相を補正する処理を行う。また、上述した背景色の色相の補正には、分割画像に含まれるマルベリー小体等の色相の補正も含まれるものとしてもよい。なお、別の態様として、補正部14が尿沈渣画像に対する補正を行い、そののちに分割部12が補正後の尿沈渣画像から分割画像を生成する構成でもよい。また、分割画像の背景色の補正は必須ではなく、補正を行わない場合、制御部10は、必ずしも補正部14として機能せずともよい。また、補正部14による分割画像の背景色の色相の補正には、分割画像の背景色の明度および彩度を補正する処理も含まれていてもよい。
【0017】
学習部15は、取得部11が取得した尿沈渣画像であって、ニューラルネットワークの学習に使用される尿沈渣画像から分割部12が生成した分割画像を教師情報として、ニューラルネットワークを学習させる処理を行う。なお、制御部10がニューラルネットワークを学習させる構成は必須ではなく、当該構成においては、制御部10は、必ずしも学習部15として機能せずともよい。
【0018】
記憶部20は、各種データを格納する記憶装置である。また、記憶部20は、制御部10が有するニューラルネットワーク機構における処理を規定するパラメータセットを格納する。また、ニューラルネットワークの学習とは、制御部10が記憶部20に格納された上記パラメータセットの値を更新することを意味する。
【0019】
なお、本実施形態1において説明する対象者の検査に係る処理と、後述する実施形態2において説明するニューラルネットワークの学習に係る処理とは、別々の処理装置1によって実行される構成でもよい。即ち、例えば前者の処理が、第1の処理装置1によって実行され、後者の処理が、第2の処理装置1によって実行される構成でもよい。
【0020】
また、処理装置1が備える各部材は単数であることに限定されず、複数の当該部材を備える構成でもよい。また、各部材における上述した処理の一部が、他の部材によって実行されてもよい。また、処理装置1が、外部の装置と通信する機能を有し、各部材における上述した一部の処理が、当該外部の装置によって実行される構成でもよい。
【0021】
〔2.処理の流れ〕
対象者がファブリー病に罹患しているか否かの検査に係る処理の流れについて、
図1~
図7を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【0022】
ステップS101において、取得部11は、対象者の尿沈渣画像を取得する。
図3(A)は、取得部11が取得する尿沈渣画像の一例を示す図である。また、画像中央付近の対象物31は、マルベリー小体の一例である。
【0023】
ステップS102において、分割部12は、取得部11が取得した尿沈渣画像を分割することにより複数の分割画像を生成する。
図3(B)は、分割画像が生成した分割画像の一例を示す図である。ここで、
図3(B)は、1枚の尿沈渣画像を分割することにより生成された16枚の分割画像を示している。なお、分割部12が1枚の尿沈渣画像から生成する分割画像の枚数は16枚であることに限定されず、例えば6枚(縦2枚×横3枚)などであってもよい。
【0024】
ステップS103において、補正部14は、分割部12が生成した分割画像であって、後述するステップS104において学習済みのニューラルネットワークに入力される分割画像の少なくとも何れかの背景色の色相を補正する処理を行う。これにより、より明瞭に補正された分割画像を判定に用いることができる。なお、本明細書において、ニューラルネットワークが学習済みであるとは、以後当該ニューラルネットワークの学習が行えないことを意味しない。
図4(A)は、補正部14による補正が施される前の分割画像の一例を示す図である。また、
図4(B)は、補正部14による補正後の分割画像の一例を示す図である。
図4(A)及び
図4(B)に示すように、補正部14による処理の前後においては分割画像の色相が互いに異なり得る。なお、補正部14は、例えば、色相の偏りを補正するために分割画像のRGB(Red, Green, Blue)値を均一にする処理を行ってもよい。
図5(A)は、補正部14による補正が施される前の分割画像におけるRGB値のヒストグラムの一例を示している。ここで、
図5(A)および
図5(B)のヒストグラムの横軸は、色相の広がりを示しており、縦軸は対応する色の度合いを示している。また、
図5(B)は、補正部14による補正が施された後の分割画像におけるRGB値のヒストグラムの一例を示している。上述した処理により、尿沈渣画像ごとのRGB値の偏りを均一にすることができる。なお、分割画像の色相の補正が行われない場合、本ステップS103における処理は省略される。
【0025】
ステップS104において、制御部10は、分割画像をニューラルネットワークに入力する。
図6は、ニューラルネットワークの一例を示す概念図である。ニューラルネットワーク60の入力層61におけるそれぞれのノードには、例えば、補正部14による補正が施された分割画像の各画素の画素値を示す情報が入力され、中間層62における処理を経たのち、出力層63において分割画像にマルベリー小体が含まれているか否かを示す出力値が出力される。
【0026】
ステップS105において、判定部13は、ニューラルネットワークの出力値を参照して、分割画像にマルベリー小体の少なくとも一部が含まれているか否かを判定する。また、制御部10は、判定部13の判定結果を参照して、マルベリー小体が含まれる尿沈渣画像または分割画像を抽出する。
図7(A)は、ニューラルネットワークに入力された分割画像が構成する元の尿沈渣画像の一例を示している。また、
図7(B)は、制御部10が生成した情報であって、当該尿沈渣画像を構成する分割画像のそれぞれにおいて、マルベリー小体が含まれるか否かを示す情報の一例を示している。
図7(B)に示す例においては、ベクトルの成分値「0」に対応する分割画像には、マルベリー小体が含まれておらず、成分値「1」に対応する分割画像には、マルベリー小体が含まれている。つまり
図7に示す例に基づいて制御部10がマルベリー小体の含まれる尿沈渣画像を抽出する場合、何れかの成分値について値「1」を有するベクトルに対応する尿沈渣画像を抽出すればよい。換言すれば、制御部10は、全ての成分値が0であるベクトルに対応する尿沈渣画像には、マルベリー小体は含まれていないと判定してもよい。なお、分割画像にマルベリー小体が含まれるか否かを示す情報は、例えば成分値を0又は1とする行列式で表現されてもよい。なお、制御部10は、抽出した尿沈渣画像等を、図示しないディスプレイ(表示部)に表示させてもよい。
【0027】
また、以降の工程としては、例えば医師等が、抽出された尿沈渣画像または分割画像を精査して対象者がファブリー病であるか否かの診断を行ってもよいし、判定部13が、ステップS105の判定結果に基づいて対象者がファブリー病であるか否かの判定を行ってもよい。なお、医師等は、処理装置1によってファブリー病の疑いがあると判定された対象者に対して、遺伝子検査その他の診断法も用いて、対象者がファブリー病であるか否かの確定診断を行ってもよい。すなわち、処理装置1は、医師等がファブリー病であるか否かの確定診断を行う際に利用可能な、補助的な情報(例えば、ファブリー病の疑いがある対象者のスクリーニング結果)を提示する装置と捉えることもできる。
【0028】
上述したように、本実施形態に係る処理装置1は、対象者の尿沈渣画像を取得する取得部11と、当該尿沈渣画像を分割することにより複数の分割画像を生成する分割部12と、前記複数の分割画像の少なくとも何れかを学習済みニューラルネットワークに入力し、当該ニューラルネットワークの出力値を参照して当該分割画像に所定の疾病の特徴を示す要因が含まれるか否かを判定する判定部13とを備えている。上記の構成によれば、所定の疾病の患者をより容易に特定するための処理装置1を実現できる。
【0029】
なお、処理装置1によってファブリー病の疑いがあると判定されるか、医師等によってファブリー病であるとの確定診断を下された対象者に対して、ファブリー病の治療を行ってもよい。典型的なファブリー病の治療方法としては、野生型又は改変型のαガラクトシダーゼAを投与する酵素補充療法、これら酵素をコードするベクターを投与する遺伝子療法、αガラクトシダーゼAのシャペロン分子の投与、これら治療法の組合せ等が挙げられる。
【0030】
なお、処理装置1を用いた検査を受ける対象者は特に限定されないが、一例では、1)蛋白尿等の比較的軽度の腎機能異常が認められる対象者、2)原因不明の心肥大のある対象者、3)年齢50才以下の臓器障害のない対象者から選択される、少なくとも一つの条件を満たす対象者に限定することもできる。さらに、多くが症状は軽度かほとんどなく酵素活性検査では異常が検出できない若年成人の女性ヘテロ患者を検出することも期待される。
【0031】
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した事項についての重複する説明を繰り返さない。本実施形態においては、処理装置が備える学習部が、ニューラルネットワークを学習させる処理の一例について説明する。本実施形態においても一例として、所定の疾病はファブリー病であるものとして説明するが、これに限定されず、尿沈渣画像によって検査が可能なその他の疾病であってもよい。
【0032】
〔1.処理装置1の構成〕
本実施形態においても実施形態1と同様に
図1に示す構成を用いる。
【0033】
〔2.処理の流れ〕
学習部15がニューラルネットワークを学習させる処理の流れについて、
図8~
図12を参照して説明する。
図8は、本実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【0034】
ステップS201において、取得部11は、対象者の尿沈渣画像を取得する。ここで、本ステップS201において取得部11が取得する尿沈渣画像の何れの箇所にマルベリー小体が含まれているか、或いは含まれていないかは既知であるものとする。ここで、
図9の各画像は、ファブリー病に陽性である対象者の尿沈渣画像であって、マルベリー小体が含まれる尿沈渣画像の一例を示している。また、
図10の各画像は、ファブリー病に陰性である対象者の尿沈渣画像であって、マルベリー小体が含まれていない尿沈渣画像の一例を示している。
【0035】
ステップS202において、分割部12は、取得部11が取得した分割画像から複数の分割画像を生成する。なお、本ステップS202において、分割部12は、尿沈渣画像から無作為に選択した領域をトリミングした画像を分割画像としてもよい。ここで、
図11は、
図11(A)に示す尿沈渣画像から、分割部12が
図11(B)のように無作為に選択した領域をトリミングして分割画像91とする例を示している。また、分割部12は、
図11(B)に示すように、互いに重複する複数の領域を選択してもよい。これにより、分割部12は、尿沈渣画像を単純に分割する場合よりも、ニューラルネットワークの学習に用いる分割画像をより多く生成することができる。
【0036】
なお、本ステップS202において、分割部12は、取得部11が取得した尿沈渣画像において、マルベリー小体と推定される対象の中心位置を設定し、当該中心位置を含む領域をトリミングして分割画像としてもよい。これにより、分割部12は、マルベリー小体と推定される対象が面積比で1/4以上含まれる分割画像を生成することができる。
図12(A)は、分割部12がマルベリー小体と推定される対象にマーキングを行い、中心位置101を設定した例を示している。また、
図12(B)は、分割部12が設定した中心位置101を含む領域をトリミングして分割画像102とした例を示している。
【0037】
ステップS203において、補正部14は、分割部12が生成した分割画像であって、ニューラルネットワークの教師情報として用いられる分割画像の少なくも何れかの背景色の色相を補正する処理を行う。これにより、より明瞭に補正された分割画像をニューラルネットワークの学習に用いることができる。なお、補正部14は、例えば、色相の偏りを補正するために分割画像のRGB値を均一にする処理を行ってもよい。また、分割画像の色相の補正が行われない場合、本ステップS203における処理は省略される。
【0038】
ステップS204において、学習部15は、分割部12が生成した分割画像の少なくとも何れかを教師情報として、分割画像にファブリー病の特徴を示す要因としてマルベリー小体が含まれるか否かに応じてニューラルネットワークの出力値が異なるように、ニューラルネットワークを学習させる。これにより、ニューラルネットワークを用いた判定であって、分割画像にマルベリー小体が含まれるか否かについての判定の精度を向上させることができる。
【0039】
また、本ステップS204において、学習部15は、ファブリー病に陽性である対象者の尿沈渣画像から生成された分割画像であって、マルベリー小体が含まれない分割画像を教師情報としてニューラルネットワークを学習させてもよい。これにより、分割画像にマルベリー小体が含まれるか否かの判定についての特異度を向上させることができる。ここで、特異度とは、疾病に陰性である対象者を、陰性であると正しく判定できる精度を意味する。例えば、陰性である対象者320名について、検査結果がそのうちの318名が陰性であり、2名が陽性であることを示している場合、当該検査の特異度は、99.4パーセントとなる。つまり特異度の高い検査において、陽性であると判定された対象者は、当該疾病に陽性である確率が高いと言える。換言すれば、特異度の高い検査は、陰性であるにも関わらず陽性と判定される偽陽性が少ない結果となる。また、感度とは、疾病に陽性である対象者を、陽性であると正しく判定できる精度を意味する。例えば、陽性である対象者の全員について検査結果が陽性であることを示している場合、当該検査の感度は、100パーセントとなる。つまり感度の高い検査において、陰性であると判定された対象者は、当該疾病に陰性である確率が高いと言える。換言すれば、感度の高い検査は、陽性であるにも関わらず陰性であると判定される偽陰性が少ない結果となる。特に、ファブリー病は、患者の特定が困難であり、陰性である対象者が陽性であると診断されることが多い疾病である。また、ファブリー病は、発症から治療までに急を要する急性期疾患ではないこと、および遺伝病の一種であるため血縁者の一人でも陽性であることが分かれば、他の陽性の血縁者も発見しやすいことからも、陽性か陰性かの判定においては特に特異度が高い方がより望ましい。
【0040】
また、本ステップS204において、学習部15は、ファブリー病に陽性または陰性である対象者の尿沈渣画像から生成された分割画像であって、線対称変換が施された分割画像を教師情報としてニューラルネットワークを学習させてもよい。これにより、学習部15は、より多くの分割画像を用いてニューラルネットワークを学習させることができる。特に、ファブリー病に陽性である対象者の尿の検体数が少ない場合には有効である。ここで、線対称変換とは画像上の全ての画素を任意の直線について対称となる位置に移す変換を意味する。即ち線対称変換が施された画像は、元の画像から鏡写しとなった画像であるとも言える。なお、分割画像に線対象変換を施す処理は、制御部10が行ってもよいし、分割部12が線対称変換の施された分割画像を生成するものとしてもよい。
【0041】
上述したように、本実施形態に係る処理装置1は、対象者の尿沈渣画像を取得する取得部11と、当該尿沈渣画像から複数の分割画像を生成する分割部12と、前記複数の分割画像の少なくとも何れかを教師情報として、前記分割画像に所定の疾病の特徴を示す要因が含まれるか否かを示す出力値を出力するニューラルネットワークを学習させる学習部15とを備える。上記の構成によれば、所定の疾病の患者をより容易に特定するためのニューラルネットワークを学習させることができる処理装置1を実現できる。
【0042】
(画像データベースの作成例)
制御部10は、ニューラルネットワークの学習処理において学習部15が教師情報として用いる分割画像のデータベースを、例えば記憶部20に作成してもよい。
図13は、尿沈渣画像71から分割部12が分割した分割画像91であって、教師情報として用いられる分割画像91を、学習部15がクラスタリング処理によって分類した処理を示している。ここで、分割画像72は、マルベリー小体の可能性がある対象を含む分割画像を示している。また、分割画像73は、マルベリー小体の可能性がある対象を含むか否かの判別が困難な分割画像を示している。また、分割画像74は、マルベリー小体の可能性がある対象が含まれていない分割画像を示している。このように分類された分割画像を医師等が確認して、マルベリー小体が含まれるか否かのタグ付けを行う。ここで、マルベリー小体が含まれるか否かのタグ付けとは、マルベリー小体が含まれるか否かを示す情報が、対象となる分割画像に関連付けられる処理を意味する。なお、分割画像91を分類する処理についても、例えば医師等が手動で行ってもよい。また、例えば分割画像73のように、マルベリー小体が含まれるか否かが判別できない分割画像については、タグ付けおよびデータベースへの格納は行われずともよい。また、補正部14による、尿沈渣画像の背景色の色相を補正する処理が、分割部12による処理よりも先に尿沈渣画像71に施されてもよいし、分割画像72~74に行われてもよい。
【0043】
また、
図14は、尿沈渣画像の色相が補正されたのちに、教師情報となる分割画像が記憶部20に格納される処理を示している。ここで、尿沈渣画像81は、ファブリー病に陽性である対象者の尿沈渣画像を示している。尿沈渣画像82は、背景色の色相の補正処理が施された当該尿沈渣画像を示している。分割画像83は、ファブリー病に陽性である対象者の尿沈渣画像に由来する分割画像であって、マルベリー小体が含まれるものとしてタグ付けされた分割画像を示している。分割画像84は、ファブリー病に陽性である対象者の尿沈渣画像に由来する分割画像であって、マルベリー小体が含まれないものとしてタグ付けされた分割画像を示している。尿沈渣画像85は、ファブリー病に陰性である対象者の尿沈渣画像を示している。尿沈渣画像86は、背景色の色相の補正処理が施された当該尿沈渣画像を示している。分割画像87は、ファブリー病に陰性である対象者の尿沈渣画像に由来する分割画像であって、マルベリー小体が含まれていないものとしてタグ付けされた分割画像を示している。
図14に示すように、制御部10は、タグ付けがなされた分割画像83、84及び87をデータベースに格納して当該データベースを更新してもよい。なお、データベースに格納される分割画像には、必ずしも背景色の色相の補正処理が施されていなくともよい。また、分割画像84と分割画像87とは、互いに異なる種類の分割画像としてタグ付けされてもよいし、共にマルベリー小体が含まれないものとして区別されずに同じ種類の分割画像としてタグ付けされてもよい。
【0044】
<実施形態1及び2に係る付記事項>
上述した学習部15によるニューラルネットワークの学習処理の具体的構成は、本実施形態を限定するものではなく、例えば、以下のような機械学習的手法の何れかまたはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0045】
・サポートベクターマシン(SVM: Support Vector Machine)
・クラスタリング(Clustering)
・帰納論理プログラミング(ILP: Inductive Logic Programming)
・遺伝的アルゴリズム(GP: Genetic Programming)
・ベイジアンネットワーク(BN: Baysian Network)
・ニューラルネットワーク(NN: Neural Network)
また、上述したように、ニューラルネットワークを用いる場合、畳み込み処理を含む畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)を用いてもよい。より具体的には、ニューラルネットワークに含まれる1又は複数の層(レイヤ)として、畳み込み演算を行う畳み込み層を設け、当該層に入力される入力データに対してフィルタ演算(積和演算)を行う構成としてもよい。またフィルタ演算を行う際には、パディング等の処理を併用したり、適宜設定されたストライド幅を採用したりしてもよい。
【0046】
また、ニューラルネットワークとして、数十~数千層に至る多層型又は超多層型のニューラルネットワークを用いてもよい。
【0047】
〔変形例〕
尿沈渣画像は、ニューラルネットワークに当該尿沈渣画像に由来する情報が入力される前に、又は、ニューラルネットワークの学習に使用される前に、分割部12によって必ずしも分割されずともよい。或いは、分割部12が1枚の尿沈渣画像から同じ解像度の1枚の分割画像を生成するものと解してもよい。また、尿沈渣画像が分割されない上記の構成において、制御部10は、必ずしも分割部12として機能せずともよい。
【0048】
〔ソフトウェアによる実現例〕
処理装置1の制御ブロック(特に取得部11、分割部12、判定部13、補正部14および学習部15)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0049】
後者の場合、処理装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0051】
尿検体に関しては、陰性検体として成人の非ファブリー病患者の男女合わせて217名から採取した検体を使用した。また医師による診断の結果、ファブリー病の確定診断の得られている成人男性2名、女性1名から各々の尿検体を複数回採取し,計14の陽性検体を得た。採取した尿検体を遠沈後に尿沈渣標本を作成し、尿沈渣画像を得た。
【0052】
学習済みニューラルネットワークを用いて尿沈渣画像中にマルベリー小体が含まれるか否かの判定を行った。
【0053】
上述した補正部14による補正に相当する処理が全く施されていない、そのままの色相の尿沈渣画像をニューラルネットワークの学習に用いた場合、当該ニューラルネットワークによる判定結果は、感度が約67パーセント、特異度が70~80パーセント前後となった。
【0054】
また、
図5を参照して上述した処理であって、RGB(Red, Green, Blue)値を均一にする処理が施された尿沈渣画像をニューラルネットワークの学習に用いた場合、当該ニューラルネットワークによる判定結果は、感度が約96パーセント、特異度が約95パーセントとなった。また、尿路系の癌に罹患した対象者であって、ファブリー病に罹患していない対象者の尿沈渣画像であって、マルベリー小体と紛らわしい細胞成分が多く含まれる尿沈渣画像64枚を対象として当該ニューラルネットワークを用いた判定を行った結果、マルベリー小体が含まれると判定された尿沈渣画像が30枚であり、含まれていないと判定された尿沈渣画像が34枚であった。
【0055】
また、背景色の補正処理に加え、ノイズを除去する処理が施された尿沈渣画像をニューラルネットワークの学習に用いた場合、当該ニューラルネットワークによる判定結果は、感度が100パーセント、特異度が約99.4パーセントとなった。また、尿路系の癌に罹患した対象者であって、ファブリー病に罹患していない対象者の尿沈渣画像であって、マルベリー小体と紛らわしい細胞成分が多く含まれる尿沈渣画像64枚を対象として当該ニューラルネットワークを用いた判定を行った結果、マルベリー小体が含まれると判定された尿沈渣画像が16枚であり、含まれていないと判定された尿沈渣画像が48枚であった。各モデルごとの受信者操作特性(英 Receiver Operating Characteristic, ROC)曲線は,
図15に示すとおりである。
図15において、破線41は、そのままの色相の尿沈渣画像をニューラルネットワークの学習に用いたモデルにおける判定結果に対応する。また、破線42は、RGB値を均一にする処理が施された尿沈渣画像をニューラルネットワークの学習に用いたモデルにおける判定結果に対応する。また、破線43は、背景色の補正処理に加え、ノイズを除去する処理が施された尿沈渣画像をニューラルネットワークの学習に用いたモデルにおける判定結果に対応する。破線41~43に対応するモデルの性能を示すROC曲線下面積(AUC: area under the curve)はそれぞれ0.666, 0.957, 0.997であり,背景色の補正処理に加え、ノイズを除去する処理が施された尿沈渣画像をニューラルネットワークの学習に用いたモデルの性能がもっとも良好であることが確認できた。