(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059096
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】ノイズキャンセル信号生成装置および方法、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20220406BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20220406BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
G10K11/178 140
H04R1/10 104Z
H04R1/10 104E
H04R1/02 102B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019026704
(22)【出願日】2019-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121131
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082131
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 義雄
(72)【発明者】
【氏名】牧野 堅一
(72)【発明者】
【氏名】浅田 宏平
(72)【発明者】
【氏名】板橋 徹徳
【テーマコード(参考)】
5D005
5D017
5D061
【Fターム(参考)】
5D005BA13
5D005BB08
5D017AE11
5D061FF02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アクティブノイズキャンセリングシステムのノイズ低減性能を向上させるノイズキャンセル信号生成装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】ノイズキャンセル信号生成装置は、参照センサ13と、ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカ14と、スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタ131のフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリ76と、センサにより取得された信号を用いてメモリから第2の情報を取得し、取得した第2の情報により得られるフィルタ係数と、参照センサにより取得された参照信号とに基づいてノイズキャンセル信号yを生成するノイズキャンセルプロセッサとを備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリと、
センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセルプロセッサと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項2】
前記第1の情報は、前記スピーカから前記ノイズキャンセルポイントまでの間の伝達特性である
請求項1に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項3】
前記ノイズキャンセルポイントは、ユーザの耳位置である
請求項1に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項4】
前記スピーカは車載スピーカである
請求項1に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項5】
前記センサにより取得された信号は音声信号である
請求項2に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項6】
前記センサは、ユーザの耳に装着されたデバイスに設けられている
請求項5に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項7】
前記メモリは、互いに異なる複数の前記相対位置ごとに、前記第1の情報と前記第2の情報を対応付けて記録し、
前記ノイズキャンセルプロセッサは、前記センサにより取得された音声信号に基づいて前記第1の情報を算出し、算出された前記第1の情報に対応付けられた前記第2の情報を前記メモリから取得する
請求項6に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項8】
前記センサにより取得された信号はユーザの耳位置を示す信号である
請求項2に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項9】
前記メモリは、互いに異なる複数の前記耳位置ごとに、前記耳位置に対応付けて前記第2の情報を記録する
請求項8に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項10】
前記第2の情報は、前記参照センサから前記ノイズキャンセルポイントまでの間の仮想的な伝達特性であり、
前記ノイズキャンセルプロセッサは、前記第1の情報と前記第2の情報に基づいて前記フィルタ係数を算出する
請求項2に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項11】
前記第2の情報は、前記フィルタ係数である
請求項2に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項12】
前記参照センサはマイクロホンである
請求項1に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項13】
前記参照センサは加速度センサである
請求項1に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項14】
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置が、
センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、
取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ノイズキャンセル信号生成方法。
【請求項15】
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置を制御するコンピュータに、
センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、
取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ステップを含む処理を実行させるプログラム。
【請求項16】
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得する取得部と、
取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセルプロセッサと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項17】
前記取得部は、外部の装置との無線通信を行って前記第2の情報を取得する
請求項16に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項18】
前記取得部は、前記センサにより取得された信号に基づいて算出された前記第1の情報を前記外部の装置に送信し、前記第1の情報の送信に応じて前記外部の装置から送信されてきた前記第2の情報を受信する
請求項17に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
【請求項19】
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置が、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得し、
取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ノイズキャンセル信号生成方法。
【請求項20】
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置を制御するコンピュータに、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得し、
取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ステップを含む処理を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ノイズキャンセル信号生成装置および方法、並びにプログラムに関し、特に、ノイズ低減性能を向上させることができるようにしたノイズキャンセル信号生成装置および方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカからノイズを打ち消す音を発生させてノイズ低減を行うアクティブノイズキャンセリング(ANC(Active Noise Cancelling))が各種実現されており、特にヘッドホンにANC機能を搭載することは近年非常にポピュラーになってきている。
【0003】
ところが、ヘッドホン装着時にはヘッドホンが耳を塞いでしまうため、ノイズ以外の聴きたい音も低減されてしまったり、オーバーイヤーのヘッドホン等においてヘッドホン装着による圧迫感や不快感が生じてしまったりする。これらのことはヘッドホン装着に起因するものである。
【0004】
このようなユーザの耳を覆うように装着されるヘッドホンに対して、装着時にユーザの耳穴の部分が塞がれない耳穴開放型デバイスがある。
【0005】
耳穴開放型デバイスの特徴は、耳穴開放型デバイスで再生する音だけでなく、周囲の音もユーザが聴取することができることである。
【0006】
耳穴開放型デバイスでは、音の再生のための構造物でユーザの耳穴近傍が塞がれないので、ユーザの周囲の音は音響的に透過と見なすことができる。
【0007】
そのため、通常のイヤホンを装着していない環境と同様に、周囲の音がユーザにそのまま聞こえており、それに対してパイプ形状やダクト形状の構造物を通じて目的とする音声情報や音楽も同時に再生されるので、双方の音を聴取することができる。
【0008】
このような特徴を有しているため、耳穴開放型デバイスによれば、上述のヘッドホン装着に起因するノイズ以外の音の低減や圧迫感、不快感などを改善することができる。
【0009】
しかし、耳穴開放型デバイスでは低い周波数の音を再生することが難しく、耳穴開放型デバイス単体でのANC実現は困難であった。
【0010】
ところで、自動車等においては、エンジン音だけでなく、ロードノイズを参照センサから取得し、スピーカからキャンセル音を発生させてノイズをキャンセルさせるフィードフォワード方式のANCが実現されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、このようなロードノイズやエンジン音を、車載スピーカを用いてキャンセルすれば、低周波数帯において、耳穴開放型デバイス単体でのANCよりも良好なノイズ低減性能を得ることができる。
【0012】
しかし、車室内のある一点でノイズ制御を行う点制御のANCでは制御エリアが狭いため、ユーザが動くと耳までの伝達特性が変化してノイズ低減がされなくなってしまう。すなわち、十分にノイズを低減させることは困難である。
【0013】
そこで、波面制御や境界音場制御を用いて、ある閉空間内でノイズを低減する方法も考えられるが、そのような方法では非常に多数のスピーカが必要となるため、特に乗用車などの狭い空間での用途では現実的ではない。
【0014】
本技術は、このような状況に鑑みてなされたものであり、フィードフォワード方式のANCにおけるノイズ低減性能を向上させることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本技術の第1の側面のノイズキャンセル信号生成装置は、参照センサと、ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリと、センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセルプロセッサとを備える。
【0016】
本技術の第1の側面のノイズキャンセル信号生成方法またはプログラムは、参照センサと、ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリとを備えるノイズキャンセル信号生成装置のノイズキャンセル信号生成方法またはプログラムであって、センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するステップを含む。
【0017】
本技術の第1の側面においては、参照センサと、ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリとを備えるノイズキャンセル信号生成装置において、センサにより取得された信号が用いられて前記メモリから前記第2の情報が取得され、取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号が生成される。
【0018】
本技術の第2の側面のノイズキャンセル信号生成装置は、参照センサと、ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得する取得部と、取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセルプロセッサとを備える。
【0019】
本技術の第2の側面のノイズキャンセル信号生成方法またはプログラムは、参照センサと、ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカとを備えるノイズキャンセル信号生成装置のノイズキャンセル信号生成方法またはプログラムであって、前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得し、取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するステップを含む。
【0020】
本技術の第2の側面においては、参照センサと、ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカとを備えるノイズキャンセル信号生成装置において、前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報が、センサにより取得された信号に基づいて取得され、取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号が生成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】フィードフォワード方式のANCについて説明する図である。
【
図2】フィードフォワード方式のANCについて説明する図である。
【
図3】耳穴開放型デバイスの構成について説明する図である。
【
図4】参照センサの取り付け位置について説明する図である。
【
図5】フィードフォワード方式のANCについて説明する図である。
【
図6】参照点から制御点までの伝達特性について説明する図である。
【
図7】伝達特性の事前測定について説明する図である。
【
図8】伝達特性の事前測定について説明する図である。
【
図9】ANC動作中の伝達特性の測定について説明する図である。
【
図10】ANC動作中のANCフィルタの更新について説明する図である。
【
図12】事前測定処理を説明するフローチャートである。
【
図13】ANC処理を説明するフローチャートである。
【
図14】ANC動作中のANCフィルタの更新について説明する図である。
【
図16】ANC処理を説明するフローチャートである。
【
図18】ANC処理を説明するフローチャートである。
【
図19】伝達特性の事前測定について説明する図である。
【
図20】伝達特性の事前測定について説明する図である。
【
図21】ANC動作中のANCフィルタの更新について説明する図である。
【
図22】伝達特性の補間について説明する図である。
【
図24】ANC処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本技術を適用した実施の形態について説明する。
【0023】
〈第1の実施の形態〉
〈ANCについて〉
本技術は、ヘッドホンのように耳を塞ぐことなく、ユーザの両耳位置を制御点としてスピーカからノイズキャンセル信号を出力することによりフィードフォワード方式のANCを行いつつ、ユーザの動きに制御点を追従させてユーザの耳位置で十分なノイズ低減性能を得ることができるようにするものである。
【0024】
なお、以下においては、本技術を自動車(車両)に適用する場合を例として説明するが、本技術は、自動車に限らず、鉄道や船舶、航空機などの移動体全般に適用可能である。
【0025】
まず、
図1を参照してフィードフォワード方式のANCの基本原理について説明する。
【0026】
図1においてnは、所定のノイズ源から発せられたノイズ音であるノイズ信号を示しており、vはユーザの耳の位置におけるノイズ音であるノイズ信号を示している。すなわち、ユーザの耳の位置においてユーザにより知覚されるノイズ音がノイズ信号vである。
【0027】
特に、この例では図中のPはノイズ源からユーザの耳位置までの間の伝達特性を示しており、ノイズ信号vは伝達特性Pとノイズ信号nを用いて次式(1)に示すように表すことができる。
【0028】
【0029】
一方でノイズ信号nは参照センサにより取得され、その結果として参照信号xが得られる。ここではノイズ源から参照センサまでの間の伝達特性がGで表されている。また、参照センサの位置は参照点とも呼ばれている。
【0030】
フィードフォワード方式のANCでは、参照センサで得られた参照信号xに対して、ノイズキャンセリングのためのANCフィルタHを用いたフィルタ処理が行われ、ノイズ信号vをキャンセルするためのノイズキャンセル信号yが生成される。
【0031】
すなわち、ノイズキャンセル信号yは、ユーザの耳位置においてノイズ信号vを低減(キャンセル)させるためのキャンセル音をキャンセルスピーカから出力させるためのオーディオ信号であり、ノイズキャンセル信号y=Hxにより求めることができる。
【0032】
このノイズキャンセル信号yに基づいてキャンセル音を出力するキャンセルスピーカは、二次音源と呼ばれている。
【0033】
さらに、
図1においてSは、キャンセルスピーカからユーザの耳位置までの間の伝達特性を表している。
【0034】
この伝達特性Sを用いると、キャンセルスピーカから出力され、ユーザの耳位置に到達したキャンセル音の信号、すなわちノイズキャンセル信号はSy=SHxとなる。
【0035】
したがって、このノイズキャンセル信号SHxと、上述の式(1)とから次式(2)が満たされる場合、ノイズ信号vが完全にノイズキャンセル信号SHxによってキャンセルされることになる。
【0036】
【0037】
ここで、参照信号xは、ノイズ信号nと伝達特性Gを用いてx=Gnと表すことができるので、ノイズ源から参照点への伝達特性Gが既知であれば、次式(3)が満たされればよいことになる。すなわち、次式(3)を計算することでノイズキャンセルフィルタであるANCフィルタHを得ることができる。
【0038】
【0039】
このような基本原理を利用して、耳穴開放型デバイスに内蔵されたマイクロホンを用いて耳位置を制御点としたANCを実現した様子を
図2に示す。
【0040】
図2に示す例では、車室内にいるユーザU11の右耳に耳穴開放型デバイス11-1が装着されており、ユーザU11の左耳には耳穴開放型デバイス11-2が装着されている。
【0041】
また、耳穴開放型デバイス11-1および耳穴開放型デバイス11-2には、周囲の音を取得するセンサとして、制御点マイクロホン12-1および制御点マイクロホン12-2が設けられている。
【0042】
特に、ここでは、ユーザU11の各耳穴の位置、すなわち制御点マイクロホン12-1や制御点マイクロホン12-2の位置が、ノイズキャンセリングの対象となるノイズキャンセルポイントである制御点とされる。
【0043】
なお、以下、耳穴開放型デバイス11-1および耳穴開放型デバイス11-2を特に区別する必要のない場合、単に耳穴開放型デバイス11とも称する。
【0044】
また、以下、制御点マイクロホン12-1および制御点マイクロホン12-2を特に区別する必要のない場合、単に制御点マイクロホン12とも称することとする。
【0045】
さらに、ユーザU11がいる車室内には、参照点に配置された参照センサ13-1および参照センサ13-2が設けられている。以下、参照センサ13-1および参照センサ13-2を特に区別する必要のない場合、単に参照センサ13とも称することとする。
【0046】
その他、ユーザU11がいる車室内には、車室内で固定された車載用のスピーカ14-1およびスピーカ14-2が配置されており、これらのスピーカ14-1およびスピーカ14-2がキャンセルスピーカとして用いられる。
【0047】
すなわち、制御点では、ノイズ源NS11から発せられるノイズ音が、スピーカ14-1およびスピーカ14-2から出力されたキャンセル音によりキャンセルされる。
【0048】
以下、スピーカ14-1およびスピーカ14-2を特に区別する必要のない場合、単にスピーカ14とも称することとする。
【0049】
耳穴開放型デバイス11は、ユーザU11の耳に装着可能なデバイスであれば、どのようなものであってもよいが、例えば耳穴開放型デバイス11として、
図3に示す構成のものを用いることができる。なお、
図3において
図2における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0050】
図3では、耳穴開放型デバイス11はユーザU11の耳に装着された状態となっている。
【0051】
この例では耳穴開放型デバイス11は、音を出力するスピーカ41を有しており、スピーカ41により出力された音は、管状の音導部42を通って出力孔43から出力される。
【0052】
また、耳穴開放型デバイス11には、外耳道の入り口付近と係合するリング状の保持部44が設けられており、その保持部44のリング内側の位置に支持部材によって制御点マイクロホン12が固定されている。
【0053】
さらに、例えば
図2に示したノイズ源NS11から発せられるノイズ音がロードノイズである場合には、参照センサ13として加速度センサを用いることができる。
【0054】
そのような場合、例えば
図4に示す各位置に参照センサ13を取り付けるようにすることが考えられる。
【0055】
図4において図中、上側には車両VC11を上方から見た図が示されており、図中、下側には車両VC11を側方から見た図が示されている。
【0056】
この例では、車両VC11の助手席の位置が制御点CP11-1および制御点CP11-2とされている。特に、制御点CP11-1および制御点CP11-2の位置は、それぞれ助手席に座るユーザの右耳および左耳の位置となっている。
【0057】
これらの制御点CP11-1および制御点CP11-2の位置は、
図2に示した耳穴開放型デバイス11-1および耳穴開放型デバイス11-2の配置位置に対応する。
【0058】
また、この例では、車両VC11における前方の4つの位置RC11-1乃至位置RC11-4と、車両VC11における後方の4つの位置RC11-5乃至位置RC11-8との合計8個の各位置が参照センサ13の配置位置とされている。
【0059】
具体的には、位置RC11-1および位置RC11-3は、右前サスペンション位置および左前サスペンション位置であり、位置RC11-2および位置RC11-4は、右前車体メンバ位置および左前車体メンバ位置である。
【0060】
位置RC11-5および位置RC11-8は、右後サスペンション車体接続点位置および左後サスペンション車体接続点位置であり、位置RC11-6および位置RC11-7は、右後サスペンション位置および左後サスペンション位置である。
【0061】
なお、以下、位置RC11-1乃至位置RC11-8を特に区別する必要のない場合、単に位置RC11とも称することとする。
【0062】
各位置RC11に参照センサ13としての加速度センサが取り付けられる場合、その加速度センサにより測定(取得)された加速度等を示す信号が参照信号xとなる。換言すれば、参照センサ13により参照信号xが取得される。特に、この例では参照信号xは各位置RC11で観測されるノイズ源NS11からのロードノイズに応じた信号となる。
【0063】
また、ここでは参照センサ13が加速度センサである例について説明したが、参照センサ13は、ノイズ源NS11からのノイズ音を含む周囲の音を収音するマイクロホンなどであってもよい。参照センサ13としてマイクロホンが用いられる場合、参照信号xは参照センサ13による収音で得られた音声信号となる。
【0064】
図2の説明に戻り、ノイズ源NS11から発せられるノイズ信号nがキャンセル対象とされるとすると、ノイズ源NS11からユーザU11の耳位置、すなわち制御点にある制御点マイクロホン12までの間の伝達特性が上述の伝達特性Pである。この伝達特性Pは1次伝達特性と呼ばれている。
【0065】
また、ノイズ源NS11からのノイズ信号nは参照センサ13で取得(測定)され、その結果得られた参照信号xに対してANCフィルタHを用いたフィルタ処理が行われる。
【0066】
そして、キャンセルスピーカであるスピーカ14から、フィルタ処理により得られたノイズキャンセル信号yに基づくキャンセル音が出力される。これにより、制御点であるユーザU11の左右の各耳位置では、ノイズ源NS11から発せられてユーザU11の耳位置へと到達したノイズ信号vがキャンセル音によってキャンセルされる。
【0067】
なお、このときのキャンセル音が伝搬される、スピーカ14からユーザU11の耳位置までの間の伝達特性Sは2次伝達特性と呼ばれている。
【0068】
このようなフィードフォワード方式のANCでは、ANCフィルタHが常に同じである固定フィルタとされている場合、ユーザU11が頭部の位置を動かすと1次伝達特性と2次伝達特性、すなわち伝達特性Pと伝達特性Sは変化する。
【0069】
そのため、ユーザU11が頭部を動かすとノイズキャンセル信号yによるノイズ低減量、すなわちノイズ信号vを低減させるノイズ低減性能が変化してしまう。
【0070】
一方、制御点マイクロホン12が内蔵された耳穴開放型デバイス11は、ユーザU11の耳部分に装着されて固定されているため、ユーザU11が頭部を動かしても制御点マイクロホン12と耳位置の相対的な位置関係は変化しない。
【0071】
したがって、ユーザU11が頭部を動かしたときでも、1次伝達特性と2次伝達特性をユーザU11の耳位置の変化に追従させることができれば、ノイズキャンセル信号yによるノイズ低減量、すなわちノイズ低減性能を一定に保つことが可能である。
【0072】
例えば
図1に示した状態からユーザU11が頭部を動かすと、
図5に示すようにノイズ源NS11から、制御点であるユーザU11の耳位置までの間の1次伝達特性が伝達特性Pから伝達特性P’へと変化する。これにより、ユーザU11の耳位置でのノイズ信号vもノイズ信号v’へと変化する。
【0073】
また、ユーザU11が頭部を動かすと、キャンセルスピーカであるスピーカ14から、制御点であるユーザU11の耳位置までの間の2次伝達特性も伝達特性Sから伝達特性S’へと変化する。
【0074】
したがって、ユーザU11の頭部の動きに追従したANC効果を得るためには、ANCフィルタを上述の式(3)に示したANCフィルタHから、次式(4)に示すように伝達特性P’および伝達特性S’から得られるANCフィルタH’へと変更すればよい。
【0075】
【0076】
ここで、例えば
図6に示すように参照センサ13の位置である参照点から、ユーザU11の耳位置である制御点までの間の仮想的な伝達特性Mを導入することを考える。なお、
図6において
図2における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0077】
図6に示す例では制御点マイクロホン12の配置位置が制御点となっており、参照点から制御点までの間の伝達特性が伝達特性Mとされている。
【0078】
この場合、制御点にある制御点マイクロホン12によりノイズ源NS11からのノイズ信号を収音(観測)することで、ノイズ源NS11から制御点へと到達したノイズ信号vを得ることができる。以下では、制御点マイクロホン12で収音することで得られた音声信号(観測信号)をマイク信号vと称することとする。
【0079】
このようなマイク信号vと参照信号xとは、v=Mxの関係を有している。さらにノイズ信号v=Mxの関係と、上述の式(1)および参照信号x=Gnの関係から、M=PG-1を得ることができる。
【0080】
上述の式(3)から分かるように、伝達特性S、伝達特性P、および伝達特性Gを得ることができればANCフィルタHを求めることができる。
【0081】
ここで2次伝達特性である伝達特性Sについては、キャンセルスピーカであるスピーカ14から所定の測定音を出力し、その測定音を制御点に配置された制御点マイクロホン12で観測(収音)することにより測定可能である。
【0082】
これに対して伝達特性Pや伝達特性Gについては、ノイズ源NS11の位置が固定されていないので、それらの伝達特性Pや伝達特性Gを直接測定することは困難である。
【0083】
しかし、式(3)におけるPG-1に対応する伝達特性Mについては、参照センサ13、および制御点マイクロホン12によって、参照信号xおよびマイク信号vを測定したうえで、実稼働TPA(Transfer Path Analysis)などの手法によって同定することができる。
【0084】
伝達特性Mが同定されると、M=PG-1の関係と上述した式(3)とから得られる次式(5)を計算することによりANCフィルタHを求めることができる。
【0085】
【0086】
また、上述したようにユーザU11の頭部が動くと伝達特性Sが変化して伝達特性S’となるが、この伝達特性S’も伝達特性Sと同様にしてANCの動作中であっても測定が可能である。すなわち、キャンセルスピーカであるスピーカ14から所定の測定音を出力し、その測定音を制御点であるユーザU11の耳位置に配置された制御点マイクロホン12で観測(収音)することにより伝達特性S’を測定することができる。
【0087】
これに対して、伝達特性Mについては直接測定することは困難である。
【0088】
すなわち、伝達特性Mは、対象となるノイズ(ノイズ音)のみが存在している環境下で参照点と制御点(ユーザの耳位置)での信号を取得して同定するなど、間接的な方法によってのみ得ることができる。そのため、様々な音が存在するANCの使用状態で伝達特性Mを測定することは困難である。
【0089】
〈本技術について〉
そこで、本技術では、以下の3つのステップSTP1乃至ステップSTP3の処理を行うことで、ユーザU11の頭部の動きに追従したフィードフォワード方式のANCを実現することができるようにした。
【0090】
以下、ステップSTP1乃至ステップSTP3の処理について説明する。
【0091】
(ステップSTP1)
ANCを動作させる前に、ユーザの頭部の可動範囲における参照点から制御点までの間の伝達特性M、および2次伝達特性である伝達特性Sを事前測定によって求め、それらの伝達特性Mと伝達特性Sを対応付けてデータベースに保存しておく
【0092】
(ステップSTP2)
ANCの動作中に測定により2次伝達特性である伝達特性S’を求める
【0093】
(ステップSTP3)
ステップSTP1で生成されたデータベースから、ステップSTP2で得られた伝達特性S’に最も近い伝達特性Sを検索し、検索により得られた伝達特性Sに対応付けられた伝達特性Mを用いてANCフィルタHを更新する
【0094】
ここで、
図7乃至
図10を参照して、上述のステップSTP1乃至ステップSTP3の処理について、より具体的に説明する。
【0095】
なお、
図7乃至
図10において
図2における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。また、
図7乃至
図10において互いに対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0096】
まず、ステップSTP1では、2次伝達特性である伝達特性Sの測定にあたり、その測定と同時に参照点から制御点までの間の伝達特性Mの同定も同時に行って、それらの伝達特性Sと伝達特性Mとを対応付ける必要がある。
【0097】
したがって、ANCにおけるターゲット(対象)となるノイズが車両外で発生するロードノイズである場合には、伝達特性Mの同定を行うためにロードノイズが存在する環境下で2次伝達特性である伝達特性Sを測定する必要がある。
【0098】
そこで、例えば
図7に示すように、ロードノイズと無相関なホワイトノイズなどの測定信号を用いて、適応アルゴリズムにより伝達特性Sを同定するようにしてもよい。
【0099】
図7に示す例では、ノイズ源NS11からはノイズ信号nとしてロードノイズが発せられている。また、キャンセルスピーカであるスピーカ14からは、ロードノイズとは無相関なホワイトノイズなどの測定信号に基づく測定音が出力される。
【0100】
そして、参照センサ13がロードノイズを観測することで得られた参照信号xと、制御点マイクロホン12がロードノイズ等を収音することで得られたマイク信号vとが同定部71に供給される。なお、伝達特性Mの同定には、可能な限り測定音が出力されていないタイミングで得られたマイク信号vが用いられる。
【0101】
同定部71では、参照センサ13から供給された参照信号xと、制御点マイクロホン12から供給されたマイク信号vとに基づいて、実稼働TPA等により伝達特性Mが同定される。
【0102】
さらに、フィルタ処理部72乃至フィルタ係数更新部74により伝達特性Sの測定(同定)が行われる。
【0103】
具体的には、フィルタ処理部72は、フィルタ係数更新部74から供給された伝達特性S、より詳細には伝達特性Sを付加するためのフィルタを構成するフィルタ係数に基づいて、供給されたホワイトノイズなどの測定信号に対してフィルタ処理を行う。フィルタ処理部72は、フィルタ処理により得られたフィルタ信号を演算部73に供給する。
【0104】
演算部73は、制御点マイクロホン12から供給されたマイク信号vから、フィルタ処理部72から供給されたフィルタ信号を減算することで差分信号を生成し、その差分信号をフィルタ係数更新部74へと供給する。なお、伝達特性Sの測定には可能な限り、測定音のみが含まれ、ロードノイズが含まれていないタイミングのマイク信号vが用いられる。
【0105】
ここでは、参照センサ13での測定と、制御点マイクロホン12での収音とは略同時に行われるが、伝達特性Mの同定と伝達特性Sの測定のそれぞれに適したマイク信号vが得られるように、適切に測定音の出力や収音のタイミングが調整される。
【0106】
適応アルゴリズムを実現するフィルタ係数更新部74は、供給された測定信号と、演算部73から供給された差分信号とに基づいて伝達特性S、より詳細には伝達特性Sを付加するためのフィルタを構成するフィルタ係数を更新し、更新後のフィルタ係数をフィルタ処理部72に供給する。このとき、フィルタ係数更新部74は、差分信号が無音信号(ゼロ信号)となるようにフィルタ係数の更新を行う。
【0107】
このようなフィルタ係数を更新する処理が複数回行われ、その処理が収束すると、最終的に伝達特性Sが測定(推定)により得られたことになる。フィルタ処理部72は、最終的に得られたフィルタ係数を伝達特性Sとして出力する。
【0108】
以上の処理によって伝達特性Mと伝達特性Sとが得られると、それらの伝達特性Mと伝達特性Sが対応付けられて記録制御部75によりデータベースとしてメモリ76に記録(格納)される。例えばメモリ76は、ハードディスク等の不揮発性の記録媒体とされる。
【0109】
このようにして対応付けられた伝達特性Mと伝達特性Sは、耳穴開放型デバイス11を装着しているユーザの頭部が所定位置にある場合における伝達特性Mと伝達特性Sのセットである。
【0110】
したがって、ユーザの頭部の可動範囲内の位置ごとに伝達特性Mと伝達特性Sを求め、それらの伝達特性Mと伝達特性Sを対応付けてメモリ76に記録しておけば、ユーザの任意の頭部位置におけるANCフィルタHを得ることができる。
【0111】
本技術では、スピーカ14と、ノイズキャンセルポイントである制御点、すなわちユーザの耳位置との相対的な位置関係が変化することが考慮され、互いに異なる複数の相対的な位置関係ごとに伝達特性Mと伝達特性Sが求められてメモリ76に格納される。
【0112】
データベースを生成するためのブロックである制御点マイクロホン12、参照センサ13、スピーカ14、同定部71、フィルタ処理部72、演算部73、フィルタ係数更新部74、記録制御部75、およびメモリ76により測定装置が実現される。
【0113】
その他、例えば
図8に示すように、TSP(Time Stretched Pulse)を用いて伝達特性Sを測定し、さらにその測定結果に対して十分な回数の同期加算を行うことでロードノイズの影響を無くすようにしてもよい。
【0114】
図8に示す例では、スピーカ14からは、TSP測定信号に基づく測定音が出力される。そして、伝達特性算出部101では、TSP測定信号と、制御点マイクロホン12から供給されたマイク信号vとに基づいて伝達特性Sが求められ、同期加算部102に供給される。
【0115】
同期加算部102は、逐次、伝達特性算出部101から供給された複数の伝達特性Sを同期加算し、その結果得られた伝達特性を最終的な伝達特性Sとして記録制御部75に供給する。
【0116】
記録制御部75は、同定部71から供給された伝達特性Mと、同期加算部102から供給された伝達特性Sとを対応付けてメモリ76に記録させる。
【0117】
以上のようにして伝達特性Mと伝達特性Sが事前に得られると、その後、実際にANCを行うことができるようになり、ANCの動作中にはステップSTP2が行われる。
【0118】
すなわち、ステップSTP2では、ユーザの頭部の移動に応じて、2次伝達特性である伝達特性S’の測定が行われる。
【0119】
伝達特性S’の測定においては、ANCが動作中であることを考慮すると、できるだけユーザの邪魔にならない信号を用いることが望ましい。
【0120】
そこで、例えばANC動作中において、車載スピーカがキャンセルスピーカとして用いられており、つまりスピーカ14が車載スピーカであり、そのスピーカ14によって音楽等のコンテンツが再生されている場合には、
図9に示すようにして伝達特性S’を同定するようにしてもよい。
【0121】
図9の例では、ノイズ源NS11から発せられるロードノイズと、車載スピーカであり、キャンセルスピーカとしても用いられるスピーカ14により再生される音楽等のコンテンツのコンテンツ信号とが無相関であると仮定できるものとする。
【0122】
この場合、
図7においては2次伝達特性(伝達特性S)の測定に測定信号を用いていたが、
図9に示すようにANC動作中における伝達特性S’の測定では、測定信号の代わりにコンテンツ信号を用いるようにすることができる。すなわち、コンテンツ信号を用いて、適応アルゴリズムによって2次伝達特性である伝達特性S’を同定することができる。
【0123】
なお、伝達特性S’の同定には測定信号を用いてもよいが、ここではコンテンツ信号が用いられて伝達特性S’の同定が行われるものとする。
【0124】
具体的には、
図9に示す例では、参照センサ13で得られた参照信号xがフィルタ処理部131に供給される。
【0125】
フィルタ処理部131は、保持しているANCフィルタHを構成するフィルタ係数に基づいて、参照センサ13から供給された参照信号xに対してフィルタ処理を行い、その結果得られたノイズキャンセル信号yを演算部132に供給する。
【0126】
演算部132は、フィルタ処理部131から供給されたノイズキャンセル信号yと、供給されたコンテンツ信号とを加算し、スピーカ14に供給する。スピーカ14は、演算部132から供給された信号に基づいて音を出力する。
【0127】
これにより、制御点においては、コンテンツ信号に基づくコンテンツが再生されるとともに、ノイズキャンセル信号yに基づくキャンセル音によってロードノイズがキャンセルされる。
【0128】
また、フィルタ処理部72乃至演算部73では、
図7における場合と同様の処理が行われて伝達特性S’が測定(同定)される。但し、ここでは測定信号ではなくコンテンツ信号が用いられて伝達特性S’の同定が行われる。
【0129】
なお、ここでは伝達特性S’の同定にコンテンツ信号そのものが用いられる、つまりコンテンツ信号そのものが測定信号として用いられる例について説明したが、コンテンツ信号に基づいて測定信号が生成されるようにしてもよい。
【0130】
そのような場合、コンテンツ信号に基づいて、特定の周波数帯域ごとに聴覚のマスキング閾値が算出される。そして、測定音がユーザの邪魔にならないように、すなわちユーザに聞こえないように、各周波数帯域の成分(帯域信号)がマスキング閾値よりも小さくなる信号が測定信号とされる。
【0131】
ステップSTP2の処理が行われ、伝達特性S’が得られると、続いてステップSTP3の処理が行われる。
【0132】
具体的には、例えば
図10に示すように、伝達特性S’に基づいてANCフィルタHが更新され、ANCフィルタH’とされる。
【0133】
図10に示す例では、ステップSTP2の処理において得られた伝達特性S’が、フィルタ処理部72から検索部151およびANCフィルタ算出部152に供給される。
【0134】
検索部151は、メモリ76に対応付けられて記録されている伝達特性Mと伝達特性Sのなかから、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’に最も近い伝達特性Sに対応付けられている伝達特性Mを検索する。
【0135】
そして検索部151は、検索により得られた伝達特性Mをメモリ76から取得して(読み出して)ANCフィルタ算出部152に供給する。
【0136】
これにより、ANCフィルタ算出部152には、現時点におけるユーザの頭部(耳)の位置、すなわち制御点の位置に対応する伝達特性S’と伝達特性Mが供給されることになる。
【0137】
検索部151では、制御点マイクロホン12で得られたマイク信号vから算出された伝達特性S’をキーとして伝達特性Mが検索されるので、マイク信号vが用いられて伝達特性Mが取得されるということができる。
【0138】
ANCフィルタ算出部152は、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’と、検索部151から供給された伝達特性Mとに基づいて上述した式(5)の計算を行い、ANCフィルタH’を算出する。
【0139】
ANCフィルタ算出部152は、算出したANCフィルタH’をフィルタ処理部131に供給し、ANCフィルタHを更新させる。
【0140】
フィルタ処理部131は、ANCフィルタ算出部152からANCフィルタH’が供給されるとき、更新前のANCフィルタHと、新たに供給されたANCフィルタH’とに基づいて補間処理等を行い、更新前後で滑らかにANCフィルタHを遷移させることが好ましい。これにより、適切にANCフィルタHが更新される。
【0141】
そして、フィルタ処理部131では、更新されたANCフィルタH’が用いられてANCの動作が行われる。すなわち、フィルタ処理部131は、ANCフィルタH’のフィルタ係数に基づいて、参照センサ13から供給された参照信号xに対してフィルタ処理を行い、その結果得られたノイズキャンセル信号yを演算部132に供給する。
【0142】
演算部132は、フィルタ処理部131から供給されたノイズキャンセル信号yと、供給されたコンテンツ信号とを加算し、スピーカ14に供給する。スピーカ14は、演算部132から供給された信号に基づいて音を出力する。
【0143】
以上のようにすることで、ANC動作中にユーザが頭部を動かした場合でも、適切なANCフィルタH’を得ることができる。したがって、本技術によればフィードフォワード方式のANCであっても、制御点において対象となるノイズ音を十分に低減させることができる。換言すれば、ノイズ低減性能を向上させることができる。
【0144】
なお、
図7を参照して説明した事前の伝達特性Sの測定時と、
図9を参照して説明したANC動作中における伝達特性S’の測定時とで、制御点マイクロホン12、参照センサ13、スピーカ14、フィルタ処理部72、演算部73、およびフィルタ係数更新部74として同じものが用いられてもよいし、異なるものが用いられてもよい。
【0145】
〈ANCシステムの構成例〉
次に、以上において説明した、本技術を適用したANCシステムについて説明する。
【0146】
図11は、本技術を適用したANCシステムの一実施の形態の構成例を示す図である。なお、
図11において
図10における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0147】
図11に示すANCシステム181は、例えばユーザが乗車する自動車に設けられたノイズキャンセル信号生成装置や、ユーザに装着される耳穴開放型デバイスなどから構成される。ANCシステム181は、自動車のロードノイズをキャンセル対象のノイズ音としてフィードフォワード方式のANCを行う。
【0148】
ANCシステム181は参照センサ13、ノイズキャンセル部191、スピーカ14、制御点マイクロホン12、無線通信部192、無線通信部193、およびメモリ76を有している。
【0149】
この例では、例えば制御点マイクロホン12および無線通信部192がユーザに装着される耳穴開放型デバイスに設けられている。
【0150】
これに対して、例えば参照センサ13、ノイズキャンセル部191、スピーカ14、無線通信部193、およびメモリ76は自動車に設けられている。
【0151】
ANCシステム181では、これらの参照センサ13、ノイズキャンセル部191、スピーカ14、無線通信部193、およびメモリ76によって、ANCを実現するノイズキャンセル信号生成装置が構成されている。
【0152】
ノイズキャンセル部191は、例えばノイズキャンセルプロセッサなどからなり、フィルタ処理部131、演算部132、フィルタ処理部72、演算部73、フィルタ係数更新部74、検索部151、およびANCフィルタ算出部152を有している。
【0153】
例えば、ノイズキャンセルプロセッサがプログラムを実行することで、ノイズキャンセル部191の各部が実現される。
【0154】
無線通信部192は、制御点マイクロホン12から供給されたマイク信号vを無線通信によりノイズキャンセル信号生成装置に送信する。
【0155】
また、ノイズキャンセル信号生成装置の無線通信部193は、無線通信部192により送信されたマイク信号vを受信し、演算部73に供給する。
【0156】
なお、ここでは説明を簡単にするため、制御点が1つである場合のANCシステム181のシステム構成について説明するが、実際にはユーザの左右の各耳の位置が制御点とされる。そのような場合、制御点ごとに制御点マイクロホン12が設けられ、それらの制御点ごとにANC処理が行われる。また、実際には参照センサ13も複数設けられる。
【0157】
〈事前測定処理の説明〉
続いて、
図7を参照して説明した測定装置と、
図11に示したANCシステム181により行われる処理の流れについて説明する。
【0158】
まず、測定装置は、事前に伝達特性Sと伝達特性Mを求めて記録しておく事前測定処理を行う。この事前測定処理は、上述したステップSTP1の処理に対応するものである。
【0159】
以下、
図12のフローチャートを参照して、測定装置により行われる事前測定処理について説明する。
【0160】
ステップS11においてスピーカ14は、参照センサ13の測定対象と無相関な測定信号、またはロードノイズと無相関な測定信号に基づいて測定音を出力する。
【0161】
ステップS12において参照センサ13および制御点マイクロホン12は測定を行う。
【0162】
すなわち、参照センサ13は、ロードノイズに対応する加速度を測定し、その結果得られた参照信号xを同定部71に供給する。また、制御点マイクロホン12は周囲の音を収音し、その結果得られたマイク信号vを同定部71や演算部73に供給する。
【0163】
ステップS13において同定部71は、参照センサ13から供給された参照信号xと、制御点マイクロホン12から供給されたマイク信号vとに基づいて、実稼働TPA等により伝達特性Mを同定し、得られた伝達特性Mを記録制御部75に供給する。
【0164】
ステップS14においてフィルタ処理部72乃至フィルタ係数更新部74は、伝達特性Sを測定する。
【0165】
すなわち、フィルタ処理部72は、フィルタ係数更新部74から供給された伝達特性Sのフィルタ係数に基づいて、供給された測定信号に対してフィルタ処理を行い、その結果得られたフィルタ信号を演算部73に供給する。
【0166】
また、演算部73は、制御点マイクロホン12から供給されたマイク信号vと、フィルタ処理部72から供給されたフィルタ信号とから差分信号を生成し、フィルタ係数更新部74に供給する。
【0167】
フィルタ係数更新部74は、供給された測定信号と、演算部73から供給された差分信号とに基づいて伝達特性Sのフィルタ係数を更新し、フィルタ処理部72に供給する。
【0168】
フィルタ処理部72乃至フィルタ係数更新部74は、これらの処理を繰り返し行うことで伝達特性Sを求める。フィルタ処理部72は、最終的に得られた伝達特性Sを記録制御部75に供給する。
【0169】
ステップS15において記録制御部75は、同定部71から供給された伝達特性Mと、フィルタ処理部72から供給された伝達特性Sとを対応付けてメモリ76に供給し、データベースとして記録させる。
【0170】
測定装置では、ユーザの頭部の可動範囲内の各位置に制御点マイクロホン12(制御点)を移動させながら、それらの位置ごとに以上のステップS11乃至ステップS15の処理が行われる。
【0171】
そして、ユーザの頭部の可動範囲内の位置ごとに伝達特性Mと伝達特性Sが対応付けられてメモリ76に記録されると、事前測定処理は終了する。
【0172】
以上のようにして測定装置は、ANCの動作前に、事前に伝達特性Mと伝達特性Sを求めてメモリ76に記録する。このようにすることで、ユーザの任意の頭部位置におけるANCフィルタHを得ることができるようになり、ノイズ低減性能を向上させることができる。
【0173】
〈ANC処理の説明〉
また、任意のタイミングでフィードフォワード方式のANCの実行が指示されると、ANCシステム181は上述のステップSTP2およびステップSTP3に対応するANC処理を行う。以下、
図13のフローチャートを参照して、ANCシステム181により行われるANC処理について説明する。
【0174】
ステップS41において参照センサ13および制御点マイクロホン12は測定を行う。
【0175】
すなわち、参照センサ13はロードノイズに対応する加速度を測定し、その結果得られた参照信号xをフィルタ処理部131に供給する。
【0176】
制御点マイクロホン12は周囲の音を収音し、得られたマイク信号vを無線通信部192に供給する。無線通信部192は、制御点マイクロホン12から供給されたマイク信号vを無線通信により送信する。また、無線通信部193は、無線通信部192により送信されたマイク信号vを受信し、演算部73に供給する。
【0177】
ステップS42においてフィルタ処理部72乃至フィルタ係数更新部74は、伝達特性S’を測定する。すなわち、ステップS42では、
図12のステップS14と同様の処理が行われて伝達特性S’が測定される。
【0178】
測定により伝達特性S’が得られると、フィルタ処理部72は得られた伝達特性S’を検索部151およびANCフィルタ算出部152に供給する。
【0179】
ステップS43において検索部151は、メモリ76に記録されている伝達特性Mのなかから、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’に最も近い伝達特性Sに対応付けられている伝達特性Mを検索し、その結果得られた伝達特性MをANCフィルタ算出部152に供給する。
【0180】
ステップS44においてANCフィルタ算出部152は、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’と、検索部151から供給された伝達特性Mとに基づいて上述した式(5)の計算を行ってANCフィルタH’を算出することで、ANCフィルタHを更新する。ANCフィルタ算出部152は、更新後のANCフィルタH’をフィルタ処理部131に供給する。
【0181】
ステップS45においてフィルタ処理部131は、ANCフィルタ算出部152から供給されたANCフィルタH’のフィルタ係数に基づいて、参照センサ13から供給された参照信号xに対してフィルタ処理を行うことでノイズキャンセル信号yを生成し、演算部132に供給する。演算部132は、フィルタ処理部131から供給されたノイズキャンセル信号yと、供給されたコンテンツ信号とを加算し、スピーカ14に供給する。
【0182】
ステップS46においてスピーカ14は、演算部132から供給された信号に基づいて音を再生する。これにより、スピーカ14によってコンテンツの音が再生されるとともに、キャンセル音によってノイズ音であるロードノイズがキャンセルされる。すなわちコンテンツの再生と同時にノイズ低減が実現される。
【0183】
ステップS47においてANCシステム181は、処理を終了するか否かを判定する。例えばユーザ等の操作によって、ANC動作の停止が指示された場合、処理を終了すると判定される。
【0184】
ステップS47において、まだ処理を終了しないと判定された場合、処理はステップS41に戻り、上述した処理が繰り返し行われる。
【0185】
これに対して、ステップS47において処理を終了すると判定された場合、ANCシステム181の各部は、ANCのための動作を停止させ、ANC処理は終了する。
【0186】
以上のようにしてANCシステム181は、リアルタイムで伝達特性S’を測定するとともに、測定により得られた伝達特性S’と、事前に求めておいた伝達特性Mとに基づいて適切なANCフィルタH’を求め、ノイズ音を低減させる。このようにすることで、フィードフォワード方式のANCにおけるノイズ低減性能を向上させることができる。
【0187】
〈第1の実施の形態の変形例1〉
〈ANCについて〉
なお、以上においてはANC動作中に得られた伝達特性S’と、その伝達特性S’に対応する伝達特性Mとに基づいてANCフィルタH’を算出する例について説明した。
【0188】
しかし、これに限らず、伝達特性Sと、その伝達特性Sから得られるANCフィルタHとを対応付けて記録しておき、ANC動作中においては、伝達特性S’に最も近い伝達特性Sに対応付けられて記録されているANCフィルタHを読み出して用いるようにしてもよい。
【0189】
そのような場合、例えば
図14に示すようにメモリ76に伝達特性SとANCフィルタHとが対応付けられてデータベースとして記録される。なお、
図14において
図10における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0190】
図14に示す例では、上述のステップSTP1において、ユーザU11の頭部の可動範囲内の位置ごとに伝達特性Mと伝達特性Sが求められ、さらにそれらの伝達特性Mと伝達特性Sに基づいて上述の式(5)の計算が行われ、ANCフィルタHが求められる。
【0191】
そして、このようにしてユーザU11の頭部の可動範囲内の位置ごとに伝達特性M、伝達特性S、およびANCフィルタHが求められると、それらのうちの伝達特性SとANCフィルタHが位置ごとに対応付けられてメモリ76に記録される。
【0192】
したがって、
図14の例ではANCの動作中において、
図10に示した例のように式(5)の計算を行わなくても、メモリ76を参照して、伝達特性S’に対応するANCフィルタHを検索するだけで、更新後のANCフィルタH’を得ることができる。
【0193】
すなわち、この場合、検索部151は、メモリ76に対応付けられて記録されている伝達特性SとANCフィルタHのなかから、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’に最も近い伝達特性Sに対応付けられているANCフィルタHを検索する。
【0194】
そして、検索部151は、検索により得られたANCフィルタHを、更新後のANCフィルタH’としてメモリ76から読み出してフィルタ処理部131に供給する。
【0195】
このように、メモリ76から直接、ANCフィルタH’を読み出すことで、ANCの動作中におけるANCフィルタHを求める演算を省略することができ、その分だけ演算量を少なくすることができるだけでなく、ユーザU11の頭部の移動に対する追従性能も向上させることができる。
【0196】
〈ANCシステムの構成例〉
このように測定により得られる伝達特性S’に対応するANCフィルタH’を直接、メモリ76から読み出す場合、ANCシステムは
図15に示すように構成される。なお、
図15において
図11における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0197】
図15に示すANCシステム211は参照センサ13、ノイズキャンセル部191、スピーカ14、制御点マイクロホン12、無線通信部192、無線通信部193、およびメモリ76を有している。
【0198】
また、ANCシステム211では、ノイズキャンセル部191はフィルタ処理部131、演算部132、フィルタ処理部72、演算部73、フィルタ係数更新部74、および検索部151を有している。
【0199】
このANCシステム211の構成は、ANCフィルタ算出部152が設けられていない点でANCシステム181と異なり、その他の点ではANCシステム181と同じ構成となっている。但し、メモリ76では、伝達特性Sに対応付けられてANCフィルタHが記録されている。
【0200】
検索部151は、メモリ76に記録されているANCフィルタHのなかから、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’に最も近い伝達特性Sに対応付けられているANCフィルタHを検索し、フィルタ処理部131に供給する。
【0201】
〈ANC処理の説明〉
次に、
図16のフローチャートを参照して、ANCシステム211によるANC処理について説明する。
【0202】
なお、ステップS101およびステップS102の処理は、
図13のステップS41およびステップS42の処理と同様であるので、その説明は省略する。但し、ステップS102では、フィルタ処理部72は、得られた伝達特性S’を検索部151に供給する。
【0203】
ステップS103において検索部151は、メモリ76に記録されているANCフィルタHのなかから、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’に最も近い伝達特性Sに対応付けられているANCフィルタHを検索する。
【0204】
そして、検索部151は、検索により得られたANCフィルタHを、更新後のANCフィルタH’としてメモリ76から読み出してフィルタ処理部131に供給する。
【0205】
このようにしてANCフィルタH’が得られると、その後、ステップS104乃至ステップS106の処理が行われてANC処理は終了するが、これらの処理は
図13のステップS45乃至ステップS47の処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0206】
以上のようにしてANCシステム211は、リアルタイムで伝達特性S’を測定するとともに、測定により得られた伝達特性S’に基づいて適切なANCフィルタH’を読み出し、ノイズ音を低減させる。
【0207】
このようにすることで、フィードフォワード方式のANCにおけるノイズ低減性能を向上させることができる。特に、この場合には、ANC動作中にANCフィルタH’を求める演算が不要であるので、より少ない演算量でかつ迅速にANCを行うことができる。
【0208】
〈第1の実施の形態の変形例2〉
〈ANCシステムの構成例〉
さらに、以上においてはノイズキャンセル信号生成装置のメモリ76に伝達特性Mと伝達特性Sが対応付けられたデータベースが記録(保持)されている例について説明したが、データベースがクラウドサーバ等の外部の装置に記録されているようにしてもよい。
【0209】
そのような場合、ANCシステムは、例えば
図17に示すように構成される。なお、
図17において
図11における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0210】
図17に示すANCシステム251は参照センサ13、ノイズキャンセル部191、スピーカ14、制御点マイクロホン12、無線通信部192、無線通信部193、および無線通信部261を有している。
【0211】
また、ANCシステム251では、ノイズキャンセル部191はフィルタ処理部131、演算部132、フィルタ処理部72、演算部73、フィルタ係数更新部74、およびANCフィルタ算出部152を有している。
【0212】
このANCシステム251の構成は、検索部151が設けられておらず、新たに無線通信部261が設けられている点でANCシステム181と異なり、その他の点ではANCシステム181と同じ構成となっている。
【0213】
無線通信部261は、伝達特性S’、すなわちマイク信号vに基づいて、伝達特性Mを取得する取得部として機能する。すなわち、無線通信部261は、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’が含まれ、伝達特性Mの送信を要求する送信要求を無線通信により図示せぬサーバへと送信する。
【0214】
サーバには、伝達特性Mと伝達特性Sが対応付けられたデータベースが保持されており、サーバは、無線通信部261により送信された送信要求を受信すると、その送信要求に含まれている伝達特性S’に対応する伝達特性Mを送信してくる。なお、無線通信部193がサーバとの無線通信を行い、伝達特性Mを取得するようにしてもよい。
【0215】
無線通信部261は、サーバから送信された伝達特性Mを受信し、受信された伝達特性MをANCフィルタ算出部152に供給する。
【0216】
ANCフィルタ算出部152は、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’と、無線通信部261から供給された伝達特性Mとに基づいてANCフィルタH’を算出し、フィルタ処理部131に供給する。
【0217】
なお、ここでは無線通信部261が、送信要求に応じて送信されてきた伝達特性Mを受信することで、伝達特性Mを取得する例について説明したが、
図14における場合と同様に、伝達特性S’に対応するANCフィルタH’をサーバから取得するようにしてもよい。
【0218】
そのような場合、無線通信部261は、送信要求に応じてサーバから送信されてきたANCフィルタH’を受信してフィルタ処理部131に供給する。
【0219】
〈ANC処理の説明〉
次に、
図18のフローチャートを参照して、ANCシステム251によるANC処理について説明する。
【0220】
なお、ステップS131およびステップS132の処理は、
図13のステップS41およびステップS42の処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0221】
但し、ステップS132では、フィルタ処理部72は、得られた伝達特性S’を無線通信部261およびANCフィルタ算出部152に供給する。
【0222】
ステップS133において無線通信部261は、伝達特性Mを取得する。
【0223】
すなわち、無線通信部261は、フィルタ処理部72から供給された伝達特性S’を含む送信要求を無線通信により図示せぬサーバへと送信する。すると、サーバからは、データベースから検索された、伝達特性S’に最も近い伝達特性Sに対応付けられている伝達特性Mが送信されてくる。
【0224】
無線通信部261は、サーバから送信された伝達特性Mを受信し、受信された伝達特性MをANCフィルタ算出部152に供給する。
【0225】
伝達特性Mが取得されると、その後、ステップS134乃至ステップS137の処理が行われてANC処理は終了するが、これらの処理は
図13のステップS44乃至ステップS47の処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0226】
但し、ステップS134では、ステップS132で得られた伝達特性S’と、ステップS133で取得された伝達特性Mとが用いられてANCフィルタH’が求められる。
【0227】
以上のようにしてANCシステム251は、リアルタイムで伝達特性S’を測定するとともに、測定により得られた伝達特性S’に基づいて伝達特性Mを取得し、得られた伝達特性Mと伝達特性S’からANCフィルタH’を求める。
【0228】
このようにすることで、フィードフォワード方式のANCにおけるノイズ低減性能を向上させることができる。
【0229】
〈第2の実施の形態〉
〈ANCについて〉
さらに、ANCシステムにおいてユーザの頭部位置、特に頭部における耳の位置を特定可能である場合、以下の3つのステップSTP1’乃至ステップSTP3’の処理を行うことでも、ユーザの頭部の動きに追従したフィードフォワード方式のANCを実現することができる。
【0230】
(ステップSTP1’)
ANCを動作させる前に、ユーザの頭部の可動範囲におけるユーザの左右の各耳の位置を示す耳位置座標情報、参照点から制御点までの間の伝達特性M、および2次伝達特性である伝達特性Sを事前測定によって求め、それらの耳位置座標情報、伝達特性M、および伝達特性Sを対応付けてデータベースとして保存しておく
【0231】
(ステップSTP2’)
ANCの動作中に測定によりユーザの耳の位置を示す耳位置座標情報を求める
【0232】
(ステップSTP3’)
ステップSTP1’で生成されたデータベースから、ステップSTP2’で得られた耳位置座標情報に最も近い耳位置座標情報を検索し、検索により得られた耳位置座標情報に対応付けられた伝達特性Sと伝達特性Mを用いてANCフィルタHを更新する
【0233】
ここで、耳位置座標情報により示されるユーザの耳の位置は、ノイズキャンセルポイントである制御点の位置である。ユーザの耳位置を示す耳位置座標情報は、例えば3次元直交座標系の座標や球座標系の座標など、どのような情報であってもよい。
【0234】
また、データベースでは、ユーザの左右の耳ごとに耳位置座標情報、伝達特性S、および伝達特性Mが対応付けられて記録される。
【0235】
耳位置座標情報を求める方法としては、例えば以下のような方法が考えられる。
【0236】
すなわち、1つの方法として、例えばユーザの頭部に加速度センサや角速度センサ、磁気センサなどの位置測定センサを装着し、位置測定センサによってユーザ頭部の動きを検出する方法が考えられる。例えば、これらの位置測定センサは、制御点近傍に配置するようにしてもよい。
【0237】
この方法では、位置測定センサの出力信号の積算値に基づいて、ユーザの頭部位置、より詳細にはユーザの左右の各耳の位置を示す耳位置座標情報が左右の耳ごとに算出される。
【0238】
このとき、位置測定センサの出力信号の積算による誤差の蓄積を防ぐため、ユーザの頭部や耳の絶対的な位置を検出するための赤外線センサ等と、上述の位置測定センサとを併用してもよい。
【0239】
また、耳位置座標情報を求める他の方法として、例えばカメラ、すなわちイメージセンサによりユーザの頭部を撮影し、撮影により得られた撮影画像に対する画像解析によってユーザの左右の耳の位置を特定する方法も考えられる。
【0240】
そのような場合、より正確な耳位置座標情報を得ることができるように、ユーザの耳部分に、その耳の位置を示すマーカを装着するようにしたり、ユーザの耳部分に装着された耳穴開放型デバイスの位置を画像認識(画像解析)により特定し、その特定された位置をユーザの耳の位置としたりしてもよい。
【0241】
さらに、複数のカメラによりユーザの頭部を同時に撮影し、それらのカメラごとに得られた撮影画像を用いてユーザの耳の位置を特定することで、より正確に耳の位置を特定できるようにしてもよい。
【0242】
その他、制御点であるユーザの耳位置近傍にGPS(Global Positioning System)モジュール等を位置測定センサとして設け、そのGPSモジュール等により耳位置座標情報を取得するようにしてもよい。
【0243】
また、ステップSTP1’においては、必ずしも
図8を参照して説明したように参照点から制御点までの間の伝達特性Mと、2次伝達特性である伝達特性Sとを同時に測定する必要はなく、
図19および
図20に示す手順で耳位置座標情報と各伝達特性とを別々に対応付けたデータベースを構築してもよい。
【0244】
なお、
図19および
図20において、
図8における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0245】
まず、
図19に示すように、何らかの方法によりユーザの左右の耳の位置を示す耳位置座標情報が測定により求められるとともに、その耳位置座標情報により示される位置における伝達特性Sが測定により求められる。
【0246】
この例では、スピーカ14がTSP測定信号に基づいて出力した測定音が制御点マイクロホン12で収音され、その結果得られたマイク信号vと、TSP測定信号とに基づいて伝達特性算出部101により伝達特性Sが求められる。
【0247】
さらに、そのようにして得られた複数の伝達特性Sに対して同期加算部102で同期加算が行われ、最終的な2次伝達特性である伝達特性Sとされる。なお、伝達特性Sは左右の耳ごとに求められる。
【0248】
そして、得られた伝達特性Sと、耳位置座標情報とが記録制御部75により対応付けられてメモリ76に記録される。
【0249】
また、
図20に示すように、
図19における場合と同様にしてユーザの左右の耳の位置を示す耳位置座標情報が測定により求められる。
【0250】
同時に、同定部71において、参照センサ13で得られた参照信号xと、制御点マイクロホン12で得られたマイク信号vとに基づいて、実稼働TPAなどにより伝達特性Mが同定される。
【0251】
伝達特性Mが得られると、測定により得られた耳位置座標情報と、伝達特性Mとが記録制御部75により対応付けられてメモリ76に記録される。
【0252】
このとき、既に伝達特性Sが得られている場合には、耳位置座標情報と、伝達特性Sと、伝達特性Mとが対応付けられて記録されるようにしてもよい。
【0253】
このようにすれば、左右の各耳について、互いに異なる複数の耳位置ごとに、耳位置座標情報と伝達特性Sと伝達特性Mとが対応付けられたデータベースが得られることになる。
【0254】
以上のようにして耳位置座標情報、伝達特性S、および伝達特性Mが得られると、ANC動作中には、例えば
図21に示すようにして適切なANCフィルタHを得ることができる。なお、
図21において
図10における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0255】
図21に示す例では、ANC動作中に
図19や
図20における場合と同様にしてユーザの左右の耳の位置を示す耳位置座標情報が測定により求められる。
【0256】
そして検索部151は、得られた耳位置座標情報に基づいてデータベースの検索を行う。すなわち、検索部151は、メモリ76に記録されている伝達特性Mと伝達特性Sのなかから、現時点のユーザの耳の位置を示す耳位置座標情報に最も近い耳位置座標情報に対応付けられている伝達特性Sおよび伝達特性Mを検索し、ANCフィルタ算出部152に供給する。
【0257】
ANCフィルタ算出部152は、検索部151から供給された伝達特性Sと伝達特性Mに基づいて上述した式(5)の計算を行い、ANCフィルタH’を算出する。
【0258】
この例では、検索で得られた伝達特性Sと伝達特性MからANCフィルタH’を算出することができるので、ANC動作時には制御点マイクロホン12で得られるマイク信号vは不要となる。
【0259】
なお、
図21を参照して説明した例において、ANC動作中に伝達特性S’を得ることができる場合には、その伝達特性S’をキーとしてデータベースで検索を行い、伝達特性Sと伝達特性Mを得るようにしてもよい。
【0260】
この場合、何らかの理由により耳位置座標情報を得ることができなかったとしても、ANC動作中に得られた伝達特性S’から適切な伝達特性Sと伝達特性Mを読み出すことができ、それらの伝達特性Sと伝達特性MからANCフィルタH’を得ることができる。
【0261】
また、
図14に示した例と同様に、耳位置座標情報とANCフィルタHを対応付けてデータベースとしてメモリ76に記録しておくようにしてもよい。
【0262】
さらに、ノイズキャンセル信号生成装置が耳位置座標情報を含む送信要求をサーバに送信し、耳位置座標情報に応じた伝達特性Sと伝達特性Mや、ANCフィルタHをサーバから取得するようにしてもよい。
【0263】
なお、耳位置座標情報と伝達特性Sや伝達特性Mの対応付けにあたっては、耳位置座標情報の解像度がユーザの頭部の可動範囲において十分であることが望ましい。
【0264】
しかし、測定に十分に時間がかけられない場合など、所望の解像度が得られない場合には、測定で求めたデータを補間して十分な解像度を確保するようにしてもよい。
【0265】
例えば
図22に示すように、音源の位置がpであり、測定点の位置がaおよびbであり、位置aと位置bの間の位置がcであるとする。
【0266】
特に、ここでは位置cは、位置aと位置bから等距離の位置となっている。すなわち、位置cは、位置aと位置bを結ぶ線分の中点の位置となっている。
【0267】
さらに、位置pから、位置a、位置b、および位置cのそれぞれまでの距離がra、rb、rcであるとする。
【0268】
そのような場合に、所定の時刻tにおいて、測定により位置pから位置aまでの伝達特性、および位置pから位置bまでの伝達特性としてga(t)およびgb(t)が得られたとする。
【0269】
このとき、所定のディレイ(遅延時間)をτaおよびτbとして、ある伝達特性g0(t)と伝達特性ga(t)の間に以下の式(6)に示す線形ディレイの関係があり、同様に伝達特性g0(t)と伝達特性gb(t)の間に以下の式(7)に示す線形ディレイの関係があるとする。
【0270】
【0271】
【0272】
このような式(6)および式(7)に示す線形ディレイの関係があるときには、位置pから位置cまでの伝達特性gc(t)についても伝達特性g0(t)を用いた近似を行うことができる。
【0273】
例えば位置pに対応する音源位置の座標が既知であるような2次伝達特性である伝達特性Sについては、音源位置から測定点までの距離raや距離rb、距離rcを計算により求めることができる。
【0274】
例えば
図22に示す例では、位置pが2次音源であるスピーカ14の配置位置に対応し、位置aや位置b、および位置cが制御点に対応する。
【0275】
また、ここでは線形ディレイの関係がある、つまり音源からの距離とディレイとの関係が比例関係であることから、以下の式(8)が成立する。
【0276】
【0277】
したがって、これらの距離と線形ディレイの関係を用いれば、ディレイτaおよびディレイτbから位置cについてのディレイτcを求めることができ、次式(9)により伝達特性gc(t)の近似値を求めることができる。
【0278】
【0279】
このように位置aおよび位置bについて、測定により伝達特性Sが求められていれば、補間処理によって位置cの伝達特性Sを求めることができる。また、伝達特性Mについても、同様の補間処理によって所望の制御点の伝達特性Mを求めることができる。
【0280】
なお、音源の位置pから、測定点の位置aや位置b、位置cまでの距離raや距離rb、距離rcが未知である1次伝達特性(伝達特性P)の場合、ディレイτaやディレイτbを直接求めることはできない。
【0281】
しかし、ノイズ源である位置pから、測定点である位置aや位置bまでの距離が十分に長い場合には、次式(10)が成立する。
【0282】
【0283】
また、ディレイτaとディレイτbの時間差をτabとする。なお、この時間差τabは、音源(位置p)と測定点(位置a,位置b)との位置関係によって、τab=τa-τbまたはτab=τb-τaとなる。
【0284】
このとき、伝達特性ga(t)と伝達特性gb(t)との間に次式(11)に示す関係が成立する場合には、以下の式(12)により伝達特性gc(t)の近似値を求めることができる。
【0285】
【0286】
【0287】
なお、
図19や
図20を参照して説明したデータベースの構築時に、伝達特性Sの測定と伝達特性Mの同定とが同時に行われない場合、伝達特性Sと伝達特性Mのそれぞれに対応する測定点、すなわち制御点の座標(耳位置座標情報)の不一致が生じることがある。
【0288】
そのような場合、伝達特性Sと伝達特性Mについて、実際に測定された制御点近傍のいくつかの位置について、上述した補間処理によって伝達特性Sや伝達特性Mを求めれば、伝達特性Sと伝達特性Mの制御点の不一致を解消することができる。すなわち、各耳位置座標情報(制御点)について、適切な伝達特性Sと伝達特性Mを得ることができる。
【0289】
また、ここでは線形ディレイ等を利用した補間処理について説明したが、その他、線形補間など、補間処理としてどのような処理を行うようにしてもよい。
【0290】
〈ANCシステムの構成例〉
次に、
図21を参照して説明したように、耳位置座標情報をキーとしてデータベースの検索を行うANCシステムの構成例について説明する。
【0291】
そのような場合、ANCシステムは、例えば
図23に示すように構成される。なお、
図23において
図11における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0292】
図23に示すANCシステム301は参照センサ13、ノイズキャンセル部191、スピーカ14、耳位置座標情報取得部311、無線通信部192、無線通信部193、およびメモリ76を有している。
【0293】
また、ANCシステム301では、ノイズキャンセル部191はフィルタ処理部131、演算部132、検索部151、およびANCフィルタ算出部152を有している。
【0294】
このANCシステム301の構成は、制御点マイクロホン12、フィルタ処理部72、演算部73、およびフィルタ係数更新部74が設けられておらず、新たに耳位置座標情報取得部311が設けられている点でANCシステム181と異なり、その他の点ではANCシステム181と同じ構成となっている。
【0295】
特に、ANCシステム301では、耳位置座標情報取得部311および無線通信部192がユーザの耳部分に装着された耳穴開放型デバイスに設けられている。
【0296】
また、残りの参照センサ13、ノイズキャンセル部191、スピーカ14、無線通信部193、およびメモリ76は自動車に設けられており、これらのブロックによってノイズキャンセル信号生成装置が構成されている。
【0297】
耳位置座標情報取得部311は、例えば制御点であるユーザの耳位置近傍に設けられた加速度センサや角速度センサ、磁気センサなどの位置測定センサからなり、ユーザの頭部の動きを検出(測定)することで耳位置座標情報を取得する。すなわち、耳位置座標情報取得部311は、位置測定センサの出力信号の積算値に基づいて耳位置座標情報を算出する。
【0298】
耳位置座標情報取得部311は、測定により得られた耳位置座標情報を無線通信部192に供給する。なお、耳位置座標情報取得部311は、GPSモジュールやカメラなどから構成されるようにしてもよい。
【0299】
無線通信部192は、耳位置座標情報取得部311から供給された耳位置座標情報を無線通信によりノイズキャンセル信号生成装置に送信する。
【0300】
また、ノイズキャンセル信号生成装置の無線通信部193は、無線通信部192により送信された耳位置座標情報を受信し、検索部151に供給する。
【0301】
検索部151は、メモリ76に記録されている伝達特性Mと伝達特性Sのなかから、無線通信部193から供給された耳位置座標情報に最も近い耳位置座標情報に対応付けられている伝達特性Sおよび伝達特性Mを検索し、ANCフィルタ算出部152に供給する。
【0302】
ANCフィルタ算出部152は、検索部151から供給された伝達特性Sと伝達特性Mに基づいて上述した式(5)の計算を行い、ANCフィルタH’を算出する。
【0303】
〈ANC処理の説明〉
次に、
図24のフローチャートを参照して、ANCシステム301によるANC処理について説明する。
【0304】
ステップS161において参照センサ13は測定を行う。
【0305】
すなわち、参照センサ13はロードノイズに対応する加速度を測定し、その結果得られた参照信号xをフィルタ処理部131に供給する。
【0306】
ステップS162において耳位置座標情報取得部311は、ユーザの頭部の動きを検出することで耳位置座標情報を取得し、無線通信部192に供給する。
【0307】
無線通信部192は、耳位置座標情報取得部311から供給された耳位置座標情報を無線通信により送信し、無線通信部193は、無線通信部192により送信された耳位置座標情報を受信して検索部151に供給する。
【0308】
ステップS163において検索部151は、無線通信部193から供給された耳位置座標情報に基づいて伝達特性Sおよび伝達特性Mを検索する。
【0309】
すなわち、検索部151は、メモリ76に記録されている伝達特性Mと伝達特性Sのなかから、無線通信部193から供給された耳位置座標情報に最も近い耳位置座標情報に対応付けられている伝達特性Sおよび伝達特性Mを検索する。
【0310】
検索部151は、検索の結果得られた伝達特性Sおよび伝達特性Mをメモリ76から読み出してANCフィルタ算出部152に供給する。
【0311】
伝達特性Sおよび伝達特性Mが検索されると、その後、ステップS164乃至ステップS167の処理が行われてANC処理は終了するが、これらの処理は
図13のステップS44乃至ステップS47の処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0312】
但し、ステップS164では、ステップS163で得られた伝達特性Sと伝達特性Mが用いられてANCフィルタH’が求められる。
【0313】
以上のようにしてANCシステム301は、耳位置座標情報に基づいて伝達特性Sおよび伝達特性Mを取得し、ANCフィルタH’を求める。このようにすることで、フィードフォワード方式のANCにおけるノイズ低減性能を向上させることができる。
【0314】
なお、ANCシステム301においても、ANCシステム251における場合と同様に、無線通信により外部の装置(サーバ)から伝達特性Sおよび伝達特性Mを取得するようにしてもよい。
【0315】
そのような場合、無線通信部261が耳位置座標情報を含む送信要求をサーバに送信し、その送信要求に応じてサーバから送信されてくる伝達特性Sおよび伝達特性Mを受信するようにすればよい。
【0316】
さらに、以上においてはANCシステムを自動車に適用する例について説明したが、本技術は、自動車に限らず、鉄道や船舶、航空機などの移動体全般に適用可能である。具体的には、例えば本技術は、鉄道や航空機の座席に設置するANCとしての用途や、屋内の安楽椅子に設置して屋外の騒音を低減する用途などにも有用である。
【0317】
〈コンピュータの構成例〉
ところで、上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータにインストールされる。ここで、コンピュータには、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータや、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどが含まれる。
【0318】
図25は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【0319】
コンピュータにおいて、CPU(Central Processing Unit)501,ROM(Read Only Memory)502,RAM(Random Access Memory)503は、バス504により相互に接続されている。
【0320】
バス504には、さらに、入出力インターフェース505が接続されている。入出力インターフェース505には、入力部506、出力部507、記録部508、通信部509、及びドライブ510が接続されている。
【0321】
入力部506は、キーボード、マウス、マイクロホン、撮像素子などよりなる。出力部507は、ディスプレイ、スピーカなどよりなる。記録部508は、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる。通信部509は、ネットワークインターフェースなどよりなる。ドライブ510は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリなどのリムーバブル記録媒体511を駆動する。
【0322】
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU501が、例えば、記録部508に記録されているプログラムを、入出力インターフェース505及びバス504を介して、RAM503にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
【0323】
コンピュータ(CPU501)が実行するプログラムは、例えば、パッケージメディア等としてのリムーバブル記録媒体511に記録して提供することができる。また、プログラムは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供することができる。
【0324】
コンピュータでは、プログラムは、リムーバブル記録媒体511をドライブ510に装着することにより、入出力インターフェース505を介して、記録部508にインストールすることができる。また、プログラムは、有線または無線の伝送媒体を介して、通信部509で受信し、記録部508にインストールすることができる。その他、プログラムは、ROM502や記録部508に、あらかじめインストールしておくことができる。
【0325】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0326】
また、本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0327】
例えば、本技術は、1つの機能をネットワークを介して複数の装置で分担、共同して処理するクラウドコンピューティングの構成をとることができる。
【0328】
また、上述のフローチャートで説明した各ステップは、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【0329】
さらに、1つのステップに複数の処理が含まれる場合には、その1つのステップに含まれる複数の処理は、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【0330】
さらに、本技術は、以下の構成とすることも可能である。
【0331】
(1)
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリと、
センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセルプロセッサと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置。
(2)
前記第1の情報は、前記スピーカから前記ノイズキャンセルポイントまでの間の伝達特性である
(1)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(3)
前記ノイズキャンセルポイントは、ユーザの耳位置である
(1)または(2)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(4)
前記スピーカは車載スピーカである
(1)乃至(3)の何れか一項に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(5)
前記センサにより取得された信号は音声信号である
(2)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(6)
前記センサは、ユーザの耳に装着されたデバイスに設けられている
(5)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(7)
前記メモリは、互いに異なる複数の前記相対位置ごとに、前記第1の情報と前記第2の情報を対応付けて記録し、
前記ノイズキャンセルプロセッサは、前記センサにより取得された音声信号に基づいて前記第1の情報を算出し、算出された前記第1の情報に対応付けられた前記第2の情報を前記メモリから取得する
(6)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(8)
前記センサにより取得された信号はユーザの耳位置を示す信号である
(2)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(9)
前記メモリは、互いに異なる複数の前記耳位置ごとに、前記耳位置に対応付けて前記第2の情報を記録する
(8)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(10)
前記第2の情報は、前記参照センサから前記ノイズキャンセルポイントまでの間の仮想的な伝達特性であり、
前記ノイズキャンセルプロセッサは、前記第1の情報と前記第2の情報に基づいて前記フィルタ係数を算出する
(2)乃至(9)の何れか一項に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(11)
前記第2の情報は、前記フィルタ係数である
(2)乃至(9)の何れか一項に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(12)
前記参照センサはマイクロホンである
(1)乃至(11)の何れか一項に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(13)
前記参照センサは加速度センサである
(1)乃至(11)の何れか一項に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(14)
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置が、
センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、
取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ノイズキャンセル信号生成方法。
(15)
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を記録するメモリと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置を制御するコンピュータに、
センサにより取得された信号を用いて前記メモリから前記第2の情報を取得し、
取得した前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ステップを含む処理を実行させるプログラム。
(16)
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得する取得部と、
取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセルプロセッサと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置。
(17)
前記取得部は、外部の装置との無線通信を行って前記第2の情報を取得する
(16)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(18)
前記取得部は、前記センサにより取得された信号に基づいて算出された前記第1の情報を前記外部の装置に送信し、前記第1の情報の送信に応じて前記外部の装置から送信されてきた前記第2の情報を受信する
(17)に記載のノイズキャンセル信号生成装置。
(19)
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置が、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得し、
取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ノイズキャンセル信号生成方法。
(20)
参照センサと、
ノイズキャンセル信号に基づく音を出力するスピーカと
を備えるノイズキャンセル信号生成装置を制御するコンピュータに、
前記スピーカとノイズキャンセルポイントとの相対位置が変化することを考慮して求められた第1の情報に基づいて計算されたノイズキャンセルフィルタのフィルタ係数を得るための第2の情報を、センサにより取得された信号に基づいて取得し、
取得された前記第2の情報により得られる前記フィルタ係数と、前記参照センサにより取得された参照信号とに基づいて前記ノイズキャンセル信号を生成する
ステップを含む処理を実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0332】
11-1,11-2,11 耳穴開放型デバイス, 12-1,12-2,12 制御点マイクロホン, 13-1,13-2,13 参照センサ, 14-1,14-2,14 スピーカ, 76 メモリ, 151 検索部, 152 ANCフィルタ算出部, 181 ANCシステム, 191 ノイズキャンセル部