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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059120
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】炭素基金属複合材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/88 20060101AFI20220406BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C04B41/88 V
C04B35/52
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166656
(22)【出願日】2020-10-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】515243372
【氏名又は名称】アドバンスコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木義夫
(72)【発明者】
【氏名】北村仁
(72)【発明者】
【氏名】渡辺健司
(57)【要約】
【課題】 Al4C3の発生を抑制することができ、かつ高熱伝導率、低電気比抵抗および高靭性値である炭素基金属複合材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の炭素基金属複合材の製造方法は、炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させる工程であって、アルミニウムとケイ素とアルミニウムおよびケイ素以外の金属成分とを含み、ケイ素は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満である工程を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させる工程であって、前記アルミニウム合金は、アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含み、前記ケイ素は、前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満である工程を含む、炭素基金属複合材の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、900℃以下で溶融される、請求項1に記載の炭素基金属複合材の製造方法。
【請求項3】
前記炭素成形体は、2000℃以上の不活性雰囲気で焼成したものである、請求項1または2に記載の炭素基金属複合材の製造方法。
【請求項4】
炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させた、炭素基金属複合材であって、
前記アルミニウム合金は、アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含み、前記ケイ素は、前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満である、炭素基金属複合材。
【請求項5】
前記溶融アルミニウム合金は、900℃以下で溶融されている、請求項4に記載の炭素基金属複合材。
【請求項6】
前記炭素成形体は、2000℃以上の不活性雰囲気で焼成されている、請求項4に記載の炭素基金属複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトなどの炭素質材料からなる炭素成形体およびアルミニウム合金を用いて製造される炭素基金属複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素質材料、たとえばグラファイト系の材料は、軽量であり、かつ高熱伝導性、高電気伝導性、耐熱性および耐薬品性などに優れている。また、このような材料は、容易に加工ができ、安価で大量に生産でき、入手が容易なことから、工業材料として多方面に使用されている。
【0003】
最近では、炭素質材料、特にグラファイト系材料に金属等の特性を付与した複合材料の研究開発が進められ、実用化もされている。このような複合材料には、グラファイトにAl合金を含浸した複合材料、炭素繊維とプラスチックを複合化したCFRPおよび炭素質材料とセラミックスを複合化したCMC等がある。
【0004】
その中で、炭素質材料とアルミニウム合金との複合材料の開発が進められている。このような複合材料を製造する方法の一つとして、炭素成形体の気孔部にアルミニウム合金を含浸させる方法が実用化されている。
【0005】
特許文献1には、炭素質マトリックスと該炭素質マトリックス中に分散された金属成分とからなる炭素基金属複合材であって、(1)炭素質マトリックスの気孔の90体積%以上が、前記金属成分により置換され、(2)前記金属成分の含有量が、前記炭素基金属複合材全体積基準で35%以下である、炭素基金属複合材が記載されている。特許文献1では、たとえば体積気孔率が5~35%の炭素質材料に、アルミニウムまたはマグネシュウム等の金属溶湯を高圧プレスで含浸することが提案されている。
【0006】
特許文献2には、黒鉛結晶を含む炭素粒子または炭素繊維を含む炭素成形体に、アルミニウム、銅、銀または該金属の合金を熔湯鍛造により加圧含浸させることにより製造された、炭素基金属複合材からなる炭素基金属複合材板状成形体が記載されている。
【0007】
特許文献3には、ケイ素を10%以上含んだAl合金を含有するカーボン複合材料製の放電加工用電極材料が記載されている。特許文献3には、ケイ素を10%以上含んだAl合金を、カーボン基材にHIP法または溶湯鍛造法によって含浸させ、放電加工用電極材料を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-203973号公報
【特許文献2】特開2001-58255号公報
【特許文献3】特開2004-209610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、炭素質材料にアルミニウム材料を高圧で含浸させる方法が実用化されている。しかし、この方法には、以下の問題点が指摘されている。
【0010】
炭素成形体にアルミニウム溶湯を含浸する工程において、次のような化学反応により複合材料中にAl4C3が生成する場合がある。
3C+4Al→Al4C3
【0011】
生成したAl4C3は、空気中の水分またはその他の水分と以下のような化学反応を起こすことがある。この化学反応により、複合体の表面および内部の組織の一部が崩壊して複合体の機能が著しく劣化するおそれがある。
Al4C3+12H2O→4Al(OH)3+3CH4
【0012】
特許文献3には、ケイ素を10%以上含むAl合金を使用することによって、アルミニウムとカーボンとの反応性を低下させ、Al4C3の発生を抑制することが記載されている(段落[0006])。しかし、ケイ素がAl4C3の発生を抑制するメカニズムについては記載されていない。
【0013】
一方、アルミニウム合金の流動性を向上するために用途に応じてケイ素を添加することは、これまでにも行われており、ケイ素成分を約12%含有したAC3A合金は、鋳造用合金として使用されている。しかしながら、ケイ素含有量が多くなると、熱伝導率が低く、電気比抵抗値が高くなったり、靭性値が低下して耐衝撃性が低下したりすることがある。そのため、用途によってはSiの添加量が多いと目的の特性が得られない場合がある。炭素質材料にAl合金を含浸させる場合にも、用途によっては、ケイ素の含有量が高いと所望の特性値が得られない場合がある。特許文献3に記載されているケイ素を12%含有するアルミニウム合金では、必要な良好特性を確保することができない。
【0014】
本発明は、Al4C3の発生を抑制することができ、かつ高熱伝導率、低電気比抵抗および高靭性値などの特性を確保できる炭素基金属複合材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、Al4C3の発生を抑えつつケイ素含有量を特性に応じて適正化したアルミニウム合金を使用することにより、高品質の炭素基金属複合材を製造できることを見出した。
【0016】
まず、使用するアルミニウム合金について検討した。上述したように、炭素質材料のカーボンとアルミニウム合金のアルミニウム成分が反応してAl4C3が生成する(3C+4Al→Al4C3)。また、アルミニウム合金中にケイ素成分を含めることにより、
Al4C3+3Si→4Al+3SiC
の反応がさらに進み、Al4C3の発生を抑制することができる。
【0017】
通常、アルミニウム合金には、用途に応じて、または鋳造性の改善のため、Si、Mg、Fe、CuおよびTi等の金属、並びにCaおよびSr等のアルカリ土類金属を添加する。このような合金では、鋳造した後の冷却時に、Siと金属との金属間化合物、たとえばAlSi、Mg2Si、FeSiおよびSiCu等が生成される。本発明者らは、これらの生成物が生成することによりアルミニウム合金中のケイ素成分が消費され、実質的なSi成分量が低下することに想到した。そして、アルミニウム合金中のケイ素成分量が低下しすぎることにより、Al4C3が発生しやすくなってしまうことに想到した。
【0018】
本発明者らは、Al4C3の発生を抑える実質的なケイ素成分量を見出した。鋳造後の冷却時に、ケイ素成分は、アルミニウム合金中のアルミニウム以外のその他の金属成分と金属間化合物生成して消費されるが、ケイ素成分が他の金属成分の3倍重量%、望ましくは4倍重量%以上含まれていれば、Al4C3の発生を効果的に防止できることを見出した。すなわち、アルミニウムおよびケイ素以外のMg、FeおよびTi等の金属成分の総重量の3倍以上の重量%、望ましくは4倍以上の重量%のケイ素成分を含むアルミニウム合金を使用することにより、Al4C3の発生を効果的に防止できることを見出した。
【0019】
本発明者らは、次にアルミニウム合金の溶融および鋳造の温度について検討した。アルミニウム合金の温度が高いと、カーボンとアルミニウムが反応し、以下のような反応が促進される:3C+4Al→Al4C3。本発明者らは、900℃以下ではこれらの反応を抑えることができることを見出した。
【0020】
本発明者らは、さらに炭素質材料の前処理温度について検討した。アルミニウム合金の含浸に供する炭素質材料は、完全にグラファイト化されずに一部アモルファス炭素が残っている場合、アモルファス炭素は、グラファイト化された炭素よりアルミニウムと反応してAl4C3を発生させやすくなる。本発明者らは、炭素質材料を2000℃以上の不活性雰囲気で熱処理し、完全にグラファイト化した後に使用することにより、Al4C3の発生を抑制できることを見出した。
【0021】
上記知見より、Al4C3の発生を抑制し、かつケイ素成分を特性に応じて適正化したアルミニウム合金を含浸した炭素基複合材料の開発に至った。
【0022】
本発明は、炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させる工程であって、アルミニウム合金は、アルミニウムとケイ素とアルミニウムおよびケイ素以外の金属成分とを含み、ケイ素は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満である工程を含む、炭素基金属複合材の製造方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、上記製造方法において、炭素成形体に、900℃以下で溶融した前記アルミニウム合金を加圧含浸させる製造方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、上記製造方法において、炭素成形体は、2000℃以上の不活性雰囲気で焼成したものである、製造方法を提供する。
【0025】
さらに、本発明は、炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させた炭素基金属複合材であって、アルミニウムとケイ素とアルミニウムおよびケイ素以外の金属成分とを含み、ケイ素は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満である、炭素基金属複合材を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の炭素基金属複合材の製造方法であれば、Al4C3の発生を効果的に抑制することができる。また、本発明の製造方法であればケイ素i含有量が高くないため、高熱伝導率、低電気比抵抗および高靭性などの特性を確保できる複合材料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の炭素基金属複合材の製造方法は、炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させる工程を含む。
【0028】
炭素基金属複合材は、炭素質材料と金属材料とを複合化した材料である。本明細書において、炭素基金属複合材は、多孔質である炭素成形体の微細な孔にアルミニウム合金が含浸することにより複合化された材料を含む。
【0029】
本発明に用いる炭素成形体は、天然黒鉛、人工黒鉛およびカーボンなどの粒または繊維等の炭素質材料を加圧成形等により成形したものであることができる。炭素成形体は、たとえばグラファイトの押出材、CIP材、モールド材、繊維状カーボンを高温処理した材料および勇気樹脂を不活性雰囲気で焼成して炭素化した材料などであることができる。
【0030】
炭素成形体は、熱処理することによりグラファイト化(黒鉛化)したものであることが望ましい。たとえば、炭素成形体は、2000℃以上、好ましくは2500℃以上、より好ましくは3000℃以上の不活性雰囲気で焼成することによりグラファイト化することができる。グラファイト材料であっても、たとえば天然黒鉛は大部分がグラファイト化されているが、一部アモルファス炭素のまま残っている場合がある。また、タールピッチまたはフェノール樹脂等のバインダーを用いて成形された材料には、添加したバインダーが完全にグラファイト化されずにアモルファス炭素のまま残っている場合がある。その場合でも、非酸化雰囲気で2000℃以上の熱処理を行うことにより、完全にグラファイト化することができる。アモルファス炭素は、Al合金と複合化する際にAlと反応してAl4C3を発生しやすくさせるおそれがあるが、熱処理を行うことにより、Al4C3の発生を抑制することができる。
【0031】
本発明に用いるアルミニウム合金は、少なくともアルミニウム(Al)およびケイ素(Si)を含む合金である。アルミニウム合金は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属を含有する。アルミニウム合金に含有されうる金属には、たとえばマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)等の遷移金属、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、等のアルカリ土類金属等があげられる。
【0032】
アルミニウムおよびケイ素以外の金属成分は、1種類の金属であることもできるし、複数種類の金属であることもできる。また、複数種類の金属成分が含有される場合、それぞれの金属を任意の割合で含有していてもよい。
【0033】
本発明に用いるアルミニウム合金は、アルミニウム合金中のアルミニウムおよびケイ素以外の金属成分(以下、その他の金属成分という)の総重量%に対して3倍以上の重量%のケイ素を含む。すなわち、その他の金属成分が1重量%含有される場合、ケイ素は、アルミニウム合金中に3重量%以上含有される。この量のケイ素を含有することにより、Al4C3の発生を効果的に防止することができる。また、アルミニウム合金に含有されるケイ素は、アルミニウム合金の総重量%に対し10重量%未満である。このような量でケイ素を含有することにより、高熱伝導率、低電気比抵抗および高靭性値の複合材料を得ることができる。
【0034】
本発明における炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させる工程では、一般的な溶湯鍛造法あるいは高圧鋳造法等を用いることができる。加圧含浸させる工程では、たとえば、炭素成形体と溶融アルミニウム合金とを接触させ、所定の圧力をかけて一定時間放置する。
【0035】
加圧含浸させる工程において、アルミニウム合金は、900℃以下、好ましくは800℃以下がであることができる。900℃以下で溶融したアルミニウム合金を炭素成形体に加圧含浸させることにより、Al4C3発生をさらに抑制することができる。
【0036】
加圧含浸させる工程において、炭素成形体と溶融アルミニウム合金とを接触させた後にかける圧力は、使用する炭素成形用粉末の粒度や体積率等に応じて10~150MPaで行うことができる。たとえば、加圧含浸させる工程は、体積率70%の炭素成形体を用いる場合、80~120MPaであることができる。または、体積率50%の炭素成形体を用いる場合には60~100MPaであることができる。また、加圧含浸させる工程において、加圧保持時間は、適切な時間を選択することができ、たとえば1秒~20分、たとえば1分~10分であることができる。
【0037】
本発明の製造方法は、加圧含浸させる工程の前に、炭素成形体を予熱する工程を含んでもよい。予熱する工程では、特に限定されないが、炭素成形体を200~800℃で予熱することができる。大気中において800℃以上では炭素成形体が酸化劣化する恐れがあり好ましくない。
【0038】
加圧含浸させる工程の手順の一例を示す。予め200~700℃に予熱した金型内に炭素成形体を設置する。次いで、アルミニウム合金の溶湯を金型内に流し込む。なお、炭素成形体の底部下まで溶湯アルミニウム合金が流れるように、金型の底部に複数の凸部を設け、複数の凸部上に炭素成形体を載置してもよい。この場合、金型の底部から炭素成形体を浮かした状態で設置することができ、炭素成形体の底部下まで溶湯アルミニウム合金を回り込ませることが可能になる。これにより、炭素成形体の全方位から溶湯アルミニウム合金を炭素成形体の内部に含浸させることができる。
【0039】
次いで、アルミニウム合金の溶湯を金型内に定量流し込んだ後、プレス機のパンチによってアルミニウム合金の溶湯を10~150MPaで加圧する。このとき、加圧力により、アルミニウム合金の溶湯が炭素成形体の多孔質に含浸される。
【0040】
金型内に流し込んだアルミニウム合金の溶湯の形状が維持できるまでプレス機にて加圧を続ける。プレス機による加圧力および加圧速度は、使用される炭素成形体およびアルミニウム合金に応じて適切に調整することができる。
【0041】
次いで、上記加圧含浸後に温度が200~300℃程度まで低下したところで、炭素基金属複合材を金型から取り出す。
【0042】
取り出した炭素基金属複合材は、フライス、研磨およびNC加工等によって目的の形状に加工することができる。
【0043】
このように本発明の炭素基金属複合材の製造方法では、炭素成形体の多孔質に溶湯アルミニウム合金を含浸させる含浸工程を有しているので、炭素成形体のポーラスな構造を介して溶湯アルミニウム合金が充填し、均一な含浸が可能になる。
【0044】
また、本発明は、炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させることにより製造された、炭素基金属複合材を提供する。本発明の炭素基金属複合材において、アルミニウム合金は、少なくともアルミニウム(Al)およびケイ素(Si)を含む合金である。アルミニウム合金は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属を含有する。アルミニウム合金に含有され得る金属は、たとえばマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)およびニッケル(Ni)等の重金属、並びにカルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属等を含む。アルミニウムおよびケイ素以外の金属成分は、1種類の金属であることもできるし、複数種類の金属であることもできる。また、複数種類の金属成分が含有される場合、それぞれの金属を任意の割合で含有していてもよい。
【0045】
また、本発明の炭素基金属複合材において、アルミニウム合金は、アルミニウム合金中のアルミニウムおよびケイ素以外の金属成分(その他の金属成分ともいう)の総重量%に対して3倍以上の重量%のケイ素を含む。すなわち、アルミニウム合金中にアルミニウムおよびケイ素以外の金属成分が1重量%含有される場合、ケイ素は、アルミニウム合金中に3重量%以上含有される。このような量でケイ素を含有することにより、Al4C3の発生を効果的に防止することができる。また、アルミニウム合金に含有されるケイ素は、アルミニウム合金の総重量%に対し10重量%未満である。このような量でケイ素を含有することにより、高熱伝導率、低電気比抵抗および高靭性値の複合材料を得ることができる。
【0046】
炭素成形体は、熱処理することによりグラファイト化(黒鉛化)したものであることができる。たとえば、炭素成形体は、2000℃以上、好ましくは2500℃以上、より好ましくは3000℃以上の不活性雰囲気で焼成することによりグラファイト化することができる。グラファイト材料であっても、たとえば天然黒鉛は大部分がグラファイト化されているが、一部アモルファス炭素のまま残っている場合がある。また、タールピッチまたはフェノール樹脂等のバインダーを用いて成形および熱処理された材料には、添加したバインダーが完全にグラファイト化されずにアモルファス炭素のまま残っている場合がある。その場合でも、熱処理を行うことにより、完全にグラファイト化することができる。アモルファス炭素は、Al合金と複合化する際にAlと反応してAl4C3を発生させるおそれがあるが、熱処理を行うことにより、Al4C3の発生を抑制することができる。
【0047】
本発明の炭素基金属複合材は、上述した製造方法により製造することができる。本発明の炭素基金属複合材は、炭素成形体に、900℃以下で溶融したアルミニウム合金を加圧含浸させることにより製造されたものであることができる。また、本発明の炭素基金属複合材は、2000℃以上の不活性雰囲気で焼成した炭素成形体に、溶融アルミニウム合金を加圧含浸させることにより製造されたものであることができる。
【0048】
本発明の炭素基金属複合材は、Al4C3をほとんど含まないか、あるいは全く含まないため、その機能が劣化しにくい材料である。また、本発明の炭素基金属複合材は、アルミニウム合金に含まれるケイ素の含有量が10重量%未満であるため、高熱伝導率、低電気比抵抗および高靭性値を有する。そのため、本発明の炭素基金属複合材は、たとえば放熱基板および電子部品を搭載したパッケージなどに利用することができる。
【実施例0049】
(複合体中のAl4C3の有無の確認方法)
実施例および比較例において作製した複合体中のAl4C3の有無は、X線回折法および促進法の二つの方法により確認した。
【0050】
X線回折法では、X線回折装置で複合体表面の結晶鉱物を同定することにより、Al4C3の有無を確認した。
【0051】
(実施例1)
アルミニウム合金は、ケイ素6.7%を含有し、アルミニウムおよびケイ素以外の金属としてFe-0.37%、Cu-0.10%、Mn-0.13%およびMg-0.28%を含む合計1.02%の金属を含有するものを使用した。すなわち、ケイ素の重量は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属の総重量の約6.6倍であった。
【0052】
炭素成形体は、市販のグラファイト材(嵩密度1.72g/cm3、気孔率21%、熱伝導率210W/mK、灰分0.03%)を使用した。このグラファイト材は、約3000℃で焼成したものである。
【0053】
該グラファイト材を160×200×250mmに切り出し、電気炉内にて700℃で保持した後、300℃に予熱した350mmΦ×500深さの溶湯鍛造金型に設置した。これに750℃で溶解したアルミニウム合金を注湯し、上からパンチで100MPaの加圧力を10分間保持し、取り出しまで30分間放置した。被加圧体か炭素基金属複合材を切り出し、X線回折法によりAl4C3の有無を確認した結果、Al4C3は確認されなかった。
【0054】
(実施例2)
アルミニウム合金は、ケイ素5.0%を含有し、アルミニウムおよびケイ素以外の金属としてFe-0.68%、Cu-0.14%、Mn-0.23%およびMg-0.03%を含む合計1.40%の金属を含有するものを使用した。すなわち、ケイ素の重量は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属の総重量の約3.6倍であった。
【0055】
炭素成形体は、市販のグラファイト材(嵩密度1.80g/cm3、気孔率33%、熱伝導率210W/mK、灰分0.03%)を使用した。このグラファイト材は、約3000℃で焼成したものである。
【0056】
実施例1と同じ方法により、グラファイト材を予熱し、アルミニウム合金を加圧含浸した。得られた複合体について、X線回折によりAl4C3の有無を確認した結果、Al4C3は確認されなかった。
【0057】
(実施例3)
アルミニウム合金は、実施例1と同じものを使用した。
【0058】
炭素成形体は、市販のグラファイトの押出材(嵩密度1.73、気孔率21%、熱伝導率186W/mK)を使用した。このグラファイト材は、約3000℃で焼成したものである。
【0059】
実施例1と同じ方法により、グラファイト材を予熱し、アルミニウム合金を加圧含浸した。得られた複合体について、X線回折法によりAl4C3の有無を確認した結果、Al4C3は確認されなかった。
【0060】
キセノンフラッシュ(Netzsch LFA447)を使用し、JIS R1611:2010を準拠した熱伝導率測定を行った。結果は、389W/mKであった
【0061】
(比較例1)
アルミニウム合金は、ケイ素0.15%を含有し、アルミニウムおよびケイ素以外の金属としてFe-0.28%、Cu-0.009%、Mn-0.003%、Mg-0.0%およびZn-0.002%を含む合計0.33%の金属を含有するものを使用した。すなわち、ケイ素の重量は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属の総重量の約0.45倍であった。
【0062】
炭素成形体は、実施例1と同じものを使用した。
【0063】
実施例1と同じ方法により、グラファイト材を予熱し、アルミニウム合金を加圧含浸して複合体を鋳造した。得られた複合体について、X線回折法を行った結果、Al4C3の存在を示すAl4C3ピークが見られた。
【0064】
(比較例2)
アルミニウム合金は、ケイ素6.8%を含有し、アルミニウムおよびケイ素以外の金属としてFe-0.37%、Cu-1.O%、Mn-0.13%、Mg-4.52%およびZn-0.08%を含む合計5.91%の金属を含有するものを使用した。すなわち、ケイ素の重量は、アルミニウムおよびケイ素以外の金属の総重量の約1.1倍であった。
【0065】
炭素成形体は、実施例1と同じものを使用した。
【0066】
実施例1と同じ方法により、グラファイト材を予熱し、アルミニウム合金を加圧含浸して複合体を鋳造した。得られた複合体についてX線回折法を行った結果、Al4C3の存在を示す微小のAl4C3ピークが見られた。
【0067】
(比較例3)
アルミニウム合金は、実施例1と同じものを使用した。
【0068】
炭素成形体は、実施例1で使用したグラファイト材を1mm以下に粉砕し、フェノール樹脂をグラファイト材に対して10%添加してプレス成形し、800℃の窒素雰囲気で焼成した成形体を使用した。
【0069】
実施例1と同じ方法により、グラファイト材を予熱し、アルミニウム合金を加圧含浸して複合体を鋳造した。得られた複合体についてX線回折法を行った結果、Al4C3の存在を示す小さなピークが見られた。
【0070】
比較例3では、炭素成形体に用いたフェノール樹脂から生成したアモルファス炭素によりAl4C3が生成されたと思われる。
【0071】
(比較例4)
アルミニウム合金および炭素成形体は、実施例1と同じものを使用した。
【0072】
鋳造温度を900℃にした点以外は、実施例1と同じ方法を用いて複合体を作製した。得られた複合体についてX線回折法を行った結果、Al4C3のピークが見られた。
【0073】
(比較例5)
アルミニウム合金は、ケイ素11.8%を含有し、アルミニウムおよびケイ素以外の金属としてFe-0.72%、Cu-0.12%、Mn-0.13%、Mg-0.51%およびZn-0.08%を含む合計1.56%の金属を含有するものを使用した。すなわちケイ素の重量は、アルミニウムおよびケイ素の金属の総重量の約7.6倍であった。
【0074】
炭素成形体は、実施例3と同じものを使用した。
【0075】
実施例1と同じ方法により、グラファイト材を予熱し、アルミニウム合金を加圧含浸した。得られた複合体について、X線回折法によりAl4C3の有無を確認した結果、Al4C3は確認されなかった。
【0076】
実施例3と同じ方法により、キセノンフラッシュ(Netzsch LFA447)を使用し、JIS R1611:2010を準拠した熱伝導率測定を行った。結果は、361W/mKであった実施例3と比較して、シリコンの含有重量%が多いため、熱伝導率に悪い影響が出たと考えられる。
【0077】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、高熱伝導率、低電気比抵抗および/または高靭性値を有する炭素基金属複合材の製造に好適に利用可能である。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基金属複合材の製造方法であって、
炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させる工程であって、前記アルミニウム合金は、アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含み、前記ケイ素は、前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満である工程を含み、
前記炭素基金属複合材は、X線回折においてAl 4 C 3 ピークを有さない、
炭素基金属複合材の製造方法(ただし、前記溶融アルミニウム合金が、AC4CまたはAC4Aである場合を除く)
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、900℃以下で溶融される、請求項1に記載の炭素基金属複合材の製造方法。
【請求項3】
炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させた、炭素基金属複合材であって、
前記アルミニウム合金は、アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含み、前記ケイ素は、前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満であり、
前記炭素基金属複合材は、X線回折においてAl 4 C 3 ピークを有さない、
炭素基金属複合材(ただし、前記溶融アルミニウム合金が、AC4CまたはAC4Aである場合を除く)
【請求項4】
前記溶融アルミニウム合金は、900℃以下で溶融されている、請求項4に記載の炭素基金属複合材。
【請求項5】
炭素基金属複合材におけるAl 4 C 3 の発生を抑制する方法であって、
アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含むアルミニウム合金において、前記ケイ素が前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満となるように前記アルミニウム合金を調製する工程を含む、方法。
【請求項6】
前記溶融アルミニウム合金を900℃以下で溶融する工程をさらに含む、請求項6に記載の炭素基金属複合材。
【手続補正書】
【提出日】2021-09-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基金属複合材の製造方法であって、
炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させる工程であって、前記アルミニウム合金は、アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含み、前記ケイ素は、前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満である工程を含み、
前記炭素基金属複合材は、X線回折においてAl4C3ピークを有さない、
炭素基金属複合材の製造方法(ただし、前記溶融アルミニウム合金が、AC4CまたはAC4Aである場合を除く)。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、900℃以下で溶融される、請求項1に記載の炭素基金属複合材の製造方法。
【請求項3】
炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させた、炭素基金属複合材であって、
前記アルミニウム合金は、アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含み、前記ケイ素は、前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満であり、
前記炭素基金属複合材は、X線回折においてAl4C3ピークを有さない、
炭素基金属複合材(ただし、前記溶融アルミニウム合金が、AC4CまたはAC4Aである場合を除く)。
【請求項4】
前記溶融アルミニウム合金は、900℃以下で溶融されている、請求項3に記載の炭素基金属複合材。
【請求項5】
炭素成形体に溶融アルミニウム合金を加圧含浸させた炭素基金属複合材を製造する方法におけるAl4C3の発生を抑制する方法であって、
アルミニウムとケイ素と前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分とを含むアルミニウム合金において、前記ケイ素が前記アルミニウムおよび前記ケイ素以外の金属成分の総重量%の3倍以上かつ総重量の10重量%未満となるように前記アルミニウム合金を調製する工程を含む、方法。
【請求項6】
前記溶融アルミニウム合金を900℃以下で溶融する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法