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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059127
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】バフ研磨用乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220406BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220406BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220406BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166668
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 豊仁
(72)【発明者】
【氏名】高島 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 昭夫
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA06
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB01
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158ED03
3C158ED08
3C158ED12
3C158ED21
3C158ED26
(57)【要約】
【課題】自動車等の板金補修塗装作業で使用されるバフ研磨用乳化組成物であって、バフ研磨による研磨性に優れ、かつ、バフ研磨前に生じたペーパー傷の除去性にも優れて良好な美観性を達成するものを提供すること。
【解決手段】水、潤滑油、有機溶剤、研磨粒子、及び界面活性剤を含有する、バフ研磨用乳化組成物。前記潤滑油が不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂を含み、前記有機溶剤がグリコールエーテル系溶媒を含み、前記研磨粒子が、平均粒子径が0.5~5μmの酸化第二錫粒子と、平均粒子径が5~20μmのアルミナ粒子を含み、前記バフ研磨用乳化組成物中の前記酸化第二錫粒子の含有量が12~20重量%及び前記アルミナ粒子の含有量が15~40重量%であり、前記アルミナ粒子の含有量が前記酸化第二錫粒子の含有量よりも多い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、潤滑油、有機溶剤、研磨粒子、及び界面活性剤を含有する、バフ研磨用乳化組成物であって、
前記潤滑油が、不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂を含み、
前記有機溶剤が、グリコールエーテル系溶媒を含み、
前記研磨粒子が、平均粒子径が0.5~5μmの酸化第二錫粒子と、平均粒子径が5~20μmのアルミナ粒子を含み、
前記バフ研磨用乳化組成物中の前記酸化第二錫粒子の含有量が12~20重量%及び前記アルミナ粒子の含有量が15~40重量%であり、かつ、前記アルミナ粒子の含有量が前記酸化第二錫粒子の含有量よりも多い、バフ研磨用乳化組成物。
【請求項2】
前記バフ研磨用乳化組成物中の前記グリコールエーテル系溶媒の含有量が0.3~10重量%である、請求項1に記載のバフ研磨用乳化組成物。
【請求項3】
前記グリコールエーテル系溶媒が、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートである、請求項1又は2に記載のバフ研磨用乳化組成物。
【請求項4】
前記不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂が、ひまし油である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバフ研磨用乳化組成物。
【請求項5】
前記潤滑油が、グリセリン及び流動パラフィンをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のバフ研磨用乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バフ研磨用乳化組成物に関する。より具体的には、自動車等の板金補修時の塗装作業において、上塗り塗装後に塗膜を平滑化するために行うバフ研磨工程で研磨剤として使用される乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の板金補修時の塗装作業においては、上塗り塗装後にペーパー水研ぎ及びバフ研磨を施し、新車の塗り肌と同程度まで塗膜の平滑化を行っている。特に、バフ研磨では、最終的に目視で研磨部分が判別できない程度まで高度に仕上げ磨きすることが求められている。
【0003】
一般的なバフ研磨では、粗研磨工程でウールバフを使用して、ペーパーによるゴミ・ブツの除去跡(ペーパー傷)を磨いて修復し、同時に周辺の塗り肌を磨いて整えた後、次の仕上げ研磨工程でスポンジバフを使用して、粗研磨工程の磨き跡(バフ目)を修復し、目視では認識できないレベルまで高度に仕上げている。
【0004】
特許文献1では、バフ粗研磨工程とバフ仕上げ工程の両方に研磨剤として使用できる乳化組成物であって、界面活性剤を含まず、平均粒子径が1~5μmの研磨粒子2~20質量%、潤滑油1~9質量%、灯油、軽油、オクタメチルシクロテトラシロキサン又はデカメチルシクロペンタシロキサン2~20%、増粘安定化剤0.1~2.0質量%、及び水49.0~94.9質量%を含む組成物が記載されている。
【0005】
特許文献2では、研磨粒子5~60質量%、潤滑油1~10質量%、有機溶剤10~60質量%、界面活性剤0.1~10質量%、増粘剤0.1~2.0質量%及び水を含む水性乳化研磨組成物において、研磨粒子として、平均粒子径0.5~5μmでかつ真密度が5~9の金属酸化物と、平均粒子径が10~100μmでかつ真密度が2~4の金属酸化物を併用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-19242号公報
【特許文献2】特許第5401008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バフ研磨のうちバフ粗研磨工程では、良好な研磨性を達成すると同時に、ペーパー水研ぎにより生じたペーパー傷をバフ研磨によって十分に除去することで、ペーパーで研がれた箇所と研がれていない箇所との外観上の差を低減して良好な美観性も達成することが求められる。しかし、研磨性と研磨後の美観性を両立することは必ずしも容易ではない。
【0008】
一般的に、自動車補修用の塗膜には、汎用性の高い補修塗膜と、高級車向けの自己修復性耐すり傷塗膜がある。このうち、自己修復性耐すり傷塗膜専用に調製されている研磨剤は、仕上がり性を重視しており、他の研磨剤と比較すると研磨後の美観性が良好である。
【0009】
しかしながら、自己修復性耐すり傷塗膜専用の研磨剤を、汎用性の高い補修塗膜に使用した場合、該塗膜を焼き付けた時の条件によっては十分に研磨できないという問題があった。特に、所定条件よりも短い時間や低い温度で焼き付けをした、いわゆる甘焼きの場合に十分な研磨ができないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、自動車等の板金補修塗装作業で使用されるバフ研磨用乳化組成物であって、バフ研磨による研磨性に優れ、かつ、ペーパー傷の除去性にも優れて良好な美観性を達成するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の潤滑油と、特定の有機溶剤を配合し、さらに特定の2種類の研磨粒子を特定の量で配合してなる乳化組成物が、バフ研磨による研磨性に優れると共に、研磨後に良好な美観性も達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、水、潤滑油、有機溶剤、研磨粒子、及び界面活性剤を含有する、バフ研磨用乳化組成物であって、前記潤滑油が、不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂を含み、前記有機溶剤が、グリコールエーテル系溶媒を含み、前記研磨粒子が、平均粒子径が0.5~5μmの酸化第二錫粒子と、平均粒子径が5~20μmのアルミナ粒子を含み、前記バフ研磨用乳化組成物中の前記酸化第二錫粒子の含有量が12~20重量%及び前記アルミナ粒子の含有量が15~40重量%であり、かつ、前記アルミナ粒子の含有量が前記酸化第二錫粒子の含有量よりも多い、バフ研磨用乳化組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、自動車等の板金補修塗装作業で使用されるバフ研磨用乳化組成物であって、バフ研磨による研磨性に優れ、かつ、ペーパー傷の除去性にも優れて良好な美観性を達成するものを提供することができる。本発明の好適な実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、バフ粗研磨工程における研磨剤として使用することができるものであり、自己修復性耐すり傷塗膜と、汎用の補修塗膜の双方に対して効果を発揮することができる。特に焼き付け条件が甘い汎用の補修塗膜に対しても、優れた研磨性と良好な美観性を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の一実施形態は、少なくとも、水、潤滑油、有機溶剤、研磨粒子、及び界面活性剤を含有するバフ研磨用乳化組成物に関する。以下、各成分について説明する。
【0016】
(潤滑油)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、潤滑油を含み、潤滑油として、少なくとも、不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂を含むものである。これにより、バフ研磨用乳化組成物が示す研磨性と、研磨後の美観性の双方を良好なものとすることができる。当該油脂としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂は、不飽和脂肪酸の炭素数が18であるものが好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数が18であるトリグリセリドを含む油脂は、一般に天然の植物性油脂類に多く含まれている。炭素数が18の不飽和脂肪酸は、オレイン酸(分子内の不飽和二重結合数が1)、リシノール酸(分子内の不飽和二重結合数が1及び水酸基数が1)、リノール酸(分子内の不飽和二重結合数が2)、リノレン酸(分子内の不飽和二重結合数が3)のいずれかであり、それぞれ、オレイン酸トリグリセリド、リシノール酸トリグリセリド、リノール酸トリグリセリド、リノレン酸トリグリセリドとして存在する。
【0018】
オレイン酸トリグリセリドは、通常、オリーブ油(70~80%含有)、なたね油(ローエルシック/60~70%含有)、サフラワー油(ハイオレイック/70~80%含有)、ひまわり油(ハイオレイック/80~90%含有)、茶実油(80~90%含有)、アーモンド油(60~70%含有)、アボカド油(60~70%含有)、落花生油(50~60%含有)、ハト麦油(50~60%含有)などに多く含まれ、その他、パーム油、こめ油、ごま油、とうもろこし油、綿実油、ボラージシード油、大豆油、あまに油、ぶどう油などにも含まれ、わずかではあるが、やし油、ヒマシ油、桐油などにも含まれている。
【0019】
リシノール酸トリグリセリドはヒマシ油(80~90%含有)に多く含まれている。
【0020】
リノール酸トリグリセリドは通常サフラワー油(ハイリノール/70~80%含有)、ぶどう油(70~80%含有)、月見草油(70~80%含有)、クルミ油(60~70%含有)、ひまわり油(50~60%含有)、大豆油(50~60%含有)、綿実油(50~60%含有)、とうもろこし油(50~60%含有)、小麦胚芽油(50~60%含有)などに多く含まれ、その他、ローズヒップ油、ボラージシード油、こめ油、ごま油、落花生油、ハト麦油、なたね油、あまに油、パーム油などにも含まれ、わずかではあるが、オリーブ油、桐油、ヒマシ油、やし油などにも含まれている。
【0021】
リノレン酸トリグリセリドは通常桐油(80~90%含有)、あまに油(50~60%含有)、えごま油(55~65%含有)、しその実油(60~70%含有)などに多く含まれ、その他、ローズヒップ油、ボラージシード油、クルミ油などにも含まれ、わずかではあるが、なたね油、月見草油、大豆油、こめ油、とうもろこし油、ひまし油などにも含まれている。
【0022】
この内、リシノール酸トリグリセリドを含む油脂が好ましく、ひまし油が特に好ましい。
【0023】
前記不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂の配合量は、適宜設定することができるが、研磨性と研磨後の美観性を両立する観点から、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち0.1~10重量%が好ましく、0.5~6.0重量%がより好ましく、1.0~3.0重量%がさらに好ましい。
【0024】
前記潤滑油は、前記不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂に加えて、グリセリン及び流動パラフィンをさらに含むことが好ましい。流動パラフィンとは、炭素原子数が20以上のアルカンを主成分とするパラフィンのうち常温で液状のものを指す。流動パラフィンは1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
グリセリンと流動パラフィンの配合比率は、適宜設定することができるが、重量比で10:90~50:50が好ましく、20:80~40:60がより好ましい。
また、不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂と、グリセリン及び流動パラフィンの合計との配合比率(油脂量:(グリセリン量+流動パラフィン量)は、5:95~30:70が好ましく、10:90~20:80がより好ましい。
【0026】
前記不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含む油脂、グリセリン、及び、流動パラフィンの合計配合量は、適宜設定することができるが、研磨性と研磨後の美観性を両立する観点から、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち3.0~30重量%が好ましく、5.0~20重量%がより好ましく、8.0~15重量%がさらに好ましい。
【0027】
(有機溶剤)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、有機溶剤を含み、有機溶剤として、少なくとも、グリコールエーテル系溶媒を含むものである。該グリコールエーテル系溶媒を、後述する酸化第二錫粒子及びアルミナ粒子と併用することで、研磨性と、研磨後の美観性を両立することが可能になる。
【0028】
グリコールエーテル系溶媒としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル、ジエチレングリコールモノへキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルへキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルへキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル等が挙げられる。グリコールエーテル系溶媒は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。このうち、エチレングリコールエーテル系溶媒又はプロピレングリコールエーテル系溶媒が好ましく、エチレングリコールエーテル系溶媒がより好ましく、ジエチレングリコールエーテル系溶媒がさらに好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが特に好ましい。
【0029】
グリコールエーテル系溶媒の配合量は、適宜設定することができるが、研磨性と研磨後の美観性を両立する観点から、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち0.3~10重量%であることが好ましく、0.4~5.0重量%がより好ましく、0.5~1.0重量%がさらに好ましく、0.5~0.8重量%がより更に好ましい。
【0030】
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、有機溶剤としてグリコールエーテル系溶媒のみを含有するものであってもよいし、グリコールエーテル系溶媒に加えて、他の有機溶剤を含有するものであってもよい。
【0031】
他の有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、灯油、ソルベントナフサ、工業用揮発油等の石油系脂肪族溶剤、ノナン、デカン、ドデカン等のノルマルパラフィン、イソパラフィン、ナフテン等の飽和脂肪族炭化水素(部分的に不飽和結合を有するモノエン、ジエン類も含む)、ショウノウ油、テレピン油、パイン油等のテルペン系溶剤、ピネン、ジペンテン等のテルペン類等が挙げられる。
【0032】
(研磨粒子)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、研磨粒子として、少なくとも、酸化第二錫粒子と、アルミナ粒子を含む。酸化第二錫粒子はアルミ粒子よりも比重が大きいため、酸化第二錫粒子は研磨の初期に研磨能力を発揮し、研磨の後半には酸化第二錫粒子とアルミ粒子の双方が研磨に寄与すると考えられる。
【0033】
アルミナ粒子は、酸化第二錫粒子よりも平均粒子径が大きいものを選択する。具体的には、酸化第二錫粒子の平均粒子径は0.5~5μmであることが好ましく、1~5μmがより好ましく、3~5μmがさらに好ましい。アルミナ粒子の平均粒子径は5~20μmであることが好ましく、6~15μmがより好ましく、7~12μmがさらに好ましい。粒子径が小さすぎると十分な研磨力を得ることができず、逆に粒子径が大きすぎると、研磨傷が生じやすく、研磨後の美観性が低下する傾向がある。尚、本願でいう平均粒子径は、50%体積平均粒子径を指す。
【0034】
前記バフ研磨用乳化組成物には、前記アルミナ粒子が、前記酸化第二錫粒子の含有量よりも多く配合される。具体的には、酸化第二錫粒子の配合量は、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち12~20重量%であり、13~18重量%であることが好ましく、14~17重量%であることがさらに好ましい。また、前記アルミナ粒子の配合量は、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち15~40重量%であり、18~35重量%が好ましく、20~30重量%がより好ましい。配合量が少なくすぎると十分な研磨力を得ることができず、逆に配合量が多すぎると、組成物中に粒子を均一に分散させることが困難となったり、研磨傷が生じやすく、研磨後の美観性が低下する傾向がある。
【0035】
以上のとおり、比較的大粒径のアルミナ粒子を、酸化第二錫粒子よりも多く配合し、更に上述したグリコールエーテル系溶媒を溶媒として併用することで、研磨性と、研磨後の美観性を両立することが可能になる。
【0036】
(界面活性剤)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、乳化物の安定性を向上させるために界面活性剤を含有する。界面活性剤としては特に限定されず、非イオン性界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤のいずれであってもよい。1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
好ましい界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル又はポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルが挙げられる。この界面活性剤を使用すると、研磨後の塗膜に光沢を付与することができる。なかでも、脂肪酸部分がオレイン酸であることが望ましい。
【0038】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル又はポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルとしては、例えば、レオドールTW-O106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)、レオドールTW-O320(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート)、レオドール430(テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット)以上花王株式会社、TO-106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)、TO-30(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート)、GO-430(テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット)(以上、日光ケミカルズ株式会社製)などが挙げられる。
【0039】
界面活性剤の配合量は適宜設定することができるが、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち0.1~5.0重量%であることが好ましく、0.5~4.0重量%がより好ましい。
【0040】
(シリコーンオイル)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、バフ研磨時の潤滑性を高める滑性や展延性に優れた成分として、シリコーンオイルを含有することが好ましい。シリコーンオイルは1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
シリコーンオイルとしては特に限定されないが、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイル等が挙げられる。このうち、ジメチルシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイルが好ましく、環状ジメチルシリコーンオイルがより好ましい。
【0042】
シリコーンオイルの配合量は適宜設定することができるが、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち0.1~5.0重量%であることが好ましく、0.5~4.0重量%がより好ましい。
【0043】
(増粘剤)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、該組成物に必要な粘性を付与すると同時に、研磨粒子の分散安定性や有機溶剤の乳化安定性を向上させるため、増粘剤を含有することが好ましい。増粘剤は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
増粘剤としては、市販のものを使用することができるが、なかでも、会合型アルカリ可溶性アクリルポリマーが好ましく、特にアクリル酸とアクリル酸エステルを共重合させた会合型アルカリ可溶性アクリルポリマーが好ましい。該ポリマーは、比較的微量の添加で効果を得ることができ、研磨作用に悪影響を及ぼしにくい。また、中性付近で安定な調剤が可能である。これらは、適当なアルカリ剤と組み合わせて中和することにより、研磨用乳化組成物全体を低粘度液状、高粘度液状、ペースト状に自由に調整することができる。
【0045】
このような増粘剤としては、例えば、プライマルRM-4、プライマルRM-5、プライマルTT-615、プライマルTT-935、プライマルTT-950(以上ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社)、カーボポール981、カーボポール934、カーボポールETD2020、カーボポールEZ-1、カーボポールUltrez10、カーボポールUltrez21、PEMULENTR-1、PEMULEN TR-2(以上BFGoodrich社)等が挙げられる。
【0046】
アルカリ剤の種類は特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モルホリン等が挙げられる。
【0047】
他の増粘剤を使用することもできる。このような増粘剤としては特に限定されず、例えば、ウレタン変性ポリエーテル、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム等の多糖類が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。バフ研磨用乳化組成物の増粘安定性が良好であることから、増粘剤としては、ウレタン変性ポリエーテルが好ましい。
【0048】
増粘剤の配合量は適宜設定することができるが、前記バフ研磨用乳化組成物全体のうち0.1~8.0重量%であることが好ましく、0.5~5.0重量%がより好ましい。
【0049】
(他の任意成分)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、任意に、ワックス類、防錆剤、防腐剤、凍結防止剤、色素、香料などの添加剤を適宜含有してもよい。
【0050】
(用途)
本実施形態に係るバフ研磨用乳化組成物は、液状から高粘度ペースト状まで任意の状態に調整することができる。該乳化組成物は、自動車等の板金補修時の塗装作業後のバフ研磨において、例えばバフに付着させて、塗膜を平滑化するために使用することができる。バフ研磨のうち、粗研磨工程と仕上げ研磨工程のいずれで使用してもよいが、特に粗研磨工程で好適に使用することができる。尚、前記乳化組成物を付着させたバフは、通常、ポリッシャーにセットして塗膜を研磨する。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0052】
(性能評価)
まず、片面2コート・ベース・クリヤー仕上げ(クリヤーはnaxマルチエコ(3:1)20LXクリヤー;日本ペイント社製)の試験片を準備した。焼き付け条件は、70℃で30分焼き付け後、25℃・12時間の自然乾燥とした。これをLX甘焼きの試験片とした。
また、自己修復性耐すり傷塗膜の試験片を準備した。焼き付け条件は、70℃で50分焼き付け後、25℃・24時間の自然乾燥とした。これをTS固焼きの試験片とした。
次に、#2000ペーパー(スーパーバフレックスグリーンK-2000;コバックス社製)で各試験片の下半分を縦横各2往復させた(即ち、同じ箇所を4回通過)。
得られた試験片のペーパー研磨を行った箇所と、行っていない箇所それぞれについて、初期光沢値(20°)を光沢度計(Rhopoint IQ;コニカミノルタ社製)を用いて測定し、5点平均値を算出した。
定量評価機(石原ケミカル社製)に試験片をセットした。
ウールバフ(ウールバフB-8;石原ケミカル社製)に研磨剤(各実施例、比較例又は参考例の乳化組成物)を1g付着させた。付着方法は、均等に3点の液付着を行って、液を塗り広げた。
ポリッシャーにウールバフをセットし、開始位置から終了位置までを1往復として、5往復動かした。回転数は回転数表示で900rpm、作動時の速度は約20cm/秒で、荷重はポリッシャーの自重(約2kg)であった。
研磨後の試験片表面の20°光沢値を、ペーパー研磨を行った箇所と、行っていない箇所それぞれについて、前記光沢度計を用いて測定した。5点平均値を算出し、代表値とした。
【0053】
ペーパー研磨を行っていない箇所でバフ研磨を行う前の20°光沢値を「A」とし、ペーパー研磨を行っていない箇所でバフ研磨を行った後の20°光沢値を「B」とし、ペーパー研磨とバフ研磨の双方を行った箇所の20°光沢値を「C」とする。
バフ研磨による研磨性を示す数値として、光沢差「A-B」を算出した。当該光沢差「A-B」の数値が大きいほど、研磨性に優れていることを意味する。
一方、バフ研磨による、ペーパー傷の除去性、即ち研磨後の美観性を示す数値として、光沢差「B-C」を算出した。当該光沢差「B-C」の数値が小さいほど、ペーパー傷の除去性に優れており、研磨後の美観性が良好であることを意味する。
参考例1の市販の研磨剤が示す研磨性及び研磨後の美観性と比較して、各評価項目でおよそ同等又は良好な結果が得られたものを〇と評価し、いずれかの評価項目で大きく劣る結果が得られたものを×と評価した。
結果を表1~3に示す。
【0054】
(参考例1)
市販のバフ研磨剤(FMCマイスター1(研磨用);石原ケミカル社製)を用いた。
【0055】
(実施例1)
以下に示す各成分を混合・乳化させて、水性乳化組成物を得た。
水 43.60重量%
界面活性剤 0.75重量%
グリセリン(精製グリセリン)4.00重量%
流動パラフィン 7.00重量%
環状シリコーンオイル(TSF404;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)1.00重量%
ひまし油(精製ヒマシ油カクコウイチ;伊藤製油社製)1.50重量%
イソパラフィン 2.00重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)0.50重量%
ウレタン変性ポリエーテル(シックナー665T;サンノプコ社製)4.60重量%
酸化第二錫粒子(SH;日本化学産業社製、平均粒子径5μm)15.00重量%
アルミナ粒子(B153[水酸化アルミニウム粒子、日本軽金属社製、平均粒子径12μm、給油量28mL/100g]を焼成したもの、平均粒子径12μm)20.00重量%
防腐剤 0.05重量%
合計 100重量%
【0056】
(実施例2)
アルミナ粒子として、アルミナ粒子(B103[水酸化アルミニウム粒子、日本軽金属社製、平均粒子径7μm、給油量32mL/100g]を焼成したもの、平均粒子径7μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0057】
(実施例3)
アルミナ粒子として、アルミナ粒子(BW103[水酸化アルミニウム粒子、日本軽金属社製、平均粒子径12μm、低ソーダ品]を焼成したもの、平均粒子径12μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0058】
(比較例1)
アルミナ粒子として、アルミナ粒子(BF013[水酸化アルミニウム粒子、日本軽金属社製、平均粒子径1μm、給油量47mL/100g]を焼成したもの、平均粒子径1μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0059】
(比較例2)
アルミナ粒子として、アルミナ粒子(B703[水酸化アルミニウム粒子、日本軽金属社製、平均粒子径3μm、給油量41mL/100g]を焼成したもの、平均粒子径3μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0060】
(比較例3)
アルミナ粒子として、アルミナ粒子(B303[水酸化アルミニウム粒子、日本軽金属社製、平均粒子径23μm、給油量27mL/100g]を焼成したもの、平均粒子径23μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
表1より以下のことが分かる。実施例1~3は、TS塗膜(自己修復性耐すり傷塗膜)の固焼きと、LX塗膜(汎用の塗膜)の甘焼きの双方に対して、研磨性に優れると共に、研磨後の美観性が良好であった。一方、比較例1~3は、平均粒子径が小さすぎる又は大きすぎるアルミナ粒子を用いたものであり、いずれも、LX塗膜の甘焼きの場合に、研磨性は良好であったが、研磨後の美観性が十分ではなかった。
【0063】
(実施例4)
アルミナ粒子の配合量を25.00重量%に変更し、水を減量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0064】
(実施例5)
アルミナ粒子の配合量を30.00重量%に変更し、水を減量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0065】
(比較例4)
アルミナ粒子の配合量を5.00重量%に変更し、水を増量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0066】
(比較例5)
アルミナ粒子の配合量を15.00重量%に変更し、水を増量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0067】
(比較例6)
酸化第二錫粒子の配合量を5.00重量%に変更し、水を増量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0068】
(比較例7)
酸化第二錫粒子の配合量を10.00重量%に変更し、水を増量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0069】
(比較例8)
酸化第二錫粒子の配合量を20.00重量%に変更し、水を減量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0070】
【表2】
【0071】
表2より以下のことが分かる。実施例4及び5は、実施例1と同様、LX塗膜(汎用の塗膜)の甘焼きに対して、研磨性に優れると共に、研磨後の美観性が良好であった。一方、比較例4はアルミナ粒子の配合量が少なく、比較例6及び7は酸化第二錫粒子の配合量が少なく、また、比較例5及び8はアルミナ粒子と酸化第二錫粒子の配合量が同量のもので、いずれも、研磨性は良好であったが、研磨後の美観性が十分ではなかった。
【0072】
(実施例6)
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの配合量を0.75重量%に変更し、水を減量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0073】
(実施例7)
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの配合量を1.00重量%に変更し、水を減量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0074】
(実施例8)
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの配合量を5.00重量%に変更し、水を減量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0075】
(比較例9)
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを配合せず、水を増量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0076】
(比較例10)
ひまし油を配合せず、水を増量して全体量を100重量%に調整した以外は実施例1と同様にして水性乳化組成物を得た。
【0077】
【表3】
【0078】
表3より以下のことが分かる。実施例6~8は、実施例1と同様、LX塗膜(汎用の塗膜)の甘焼きに対して、研磨性に優れると共に、研磨後の美観性が良好であった。一方、比較例9はグリコールエーテル系溶媒を配合しなかったもの、比較例10はひまし油を配合しなかったもので、いずれも、研磨性は良好であったが、研磨後の美観性が十分ではなかった。