(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059176
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】保護装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/08 20060101AFI20220406BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
B23Q11/08 A
B23Q11/00 N
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166748
(22)【出願日】2020-10-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(74)【代理人】
【識別番号】100184631
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 隆
(72)【発明者】
【氏名】山崎 太
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶輔
【テーマコード(参考)】
3C011
【Fターム(参考)】
3C011BB11
3C011BB14
(57)【要約】
【課題】保護体の下端部に沿って設けられた溝体内に切屑が堆積するのを防止できる保護装置を提供する。
【解決手段】移動体の移動路を外部から隔て、且つ移動体の移動方向に順次接続された複数の保護体13,14,15を備える。一方端側の保護体15は保護すべき領域の所定端部12aに連結され、他方端側の保護体13は移動体に連結される。複数の保護体13,14,15は全体として移動体の移動により伸縮するように構成される。上部が開口し、且つ流路を形成する溝35aを有する溝体35を備える。溝体35は、各保護体13,14,15の下方に、又は当該保護体13,14,15の下端部が上部開口から溝35a内に入り込んだ状態となるように、当該複数の保護体13,14,15に沿って配設される。また、溝体35には、溝35a内に液体を吐出するノズル38が設けられ、ノズル38には液体供給源40から加圧液体が供給される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に移動する移動体の移動路を外部から隔てるように、且つ前記移動体の移動方向に順次連続するように接続された複数の保護体を備え、一方端側に配設される保護体は保護すべき領域の所定端部に連結されるとともに、他方端側に配設される保護体は前記移動体に連結され、複数の保護体は全体として前記移動体の移動によって伸縮するように構成された保護装置において、
上部が開口し、且つ流路を形成する溝を備えた構造体であって、前記各保護体の下端面との間に所定の間隔を有するように該保護体の下方に、又は該保護体の下端部が上部開口から前記溝内に入り込んだ状態となるように、該複数の保護体に沿って配設された構造体と、
前記構造体に接続され、該構造体の溝内に液体を吐出するノズルと、
前記ノズルに加圧液体を供給する液体供給源とを設けて構成したことを特徴とする保護装置。
【請求項2】
前記構造体は、展伸された状態にある前記各保護体の下面全域に対応するように、該保護体に沿って配設されるとともに、少なくとも前記一方端方向における端部に溝を堰き止める側壁が設けられ、
前記ノズルは、前記構造体の側壁に設けられていることを特徴とする請求項1記載の保護装置。
【請求項3】
前記側壁は、少なくとも一部が前記他方端側に向けた下り傾斜面となっていることを特徴とする請求項2記載の保護装置。
【請求項4】
前記ノズルは、下方に向けて液体を吐出するように設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の保護装置。
【請求項5】
前記構造体の溝は、その横断面形状がU字状又はV字状であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定方向に移動する移動体の移動経路を外部から隔てる保護装置に関し、より詳しくは、前記移動体の移動路を外部から隔てるように前記移動体に連結された保護体を備えた保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記保護装置の一般的な態様として、下記特許文献1に開示される工作機械用のカバー体が知られている。このカバー体は、工作機械の移動体の送り機構を、ワークの加工中に発生する切屑や、加工に際して使用されるクーラントから保護(カバー)するもので、工作機械のベッド又は移動体の所定位置に取り付けられる固定カバー片(保護体)と、この固定カバー片と工作機械の移動体との間において伸縮可能に装着される複数枚の可動カバー片(保護体)とを備えている。
【0003】
そして、前記各カバー片の後端縁に対し、工作機械の移動体の送り機構を構成する案内レール及びボールねじ又はリニアモータの固定子の少なくとも一つの部品の上方を覆うように、補助固定カバー片と複数枚の補助可動カバー片の各後端縁が取り付けられ、また、前記可動カバー片と一体に移動して伸縮される補助カバーが備えられる。
【0004】
斯くして、このカバー体によれば、カバーの内側に補助固定カバー片及び複数枚の補助可動カバー片よりなる補助カバーを装着しているので、移動体を往復動する送り機構の各種部品に対する粉塵侵入を二重に防止できるとともに、部品点数を減少して、工作機械に対するカバー体の取付作業を迅速かつ容易に行うことが可能とのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の工作機械では、ワークの加工中に生じた切屑が、カバー体を構成する複数の可動カバー片及び固定カバー片の上に落下し、また、加工に際して使用されるクーラントが、これら複数の可動カバー片及び固定カバー片の上に降り注がれる。そして、このような状況の中、前記移動体の移動に応じて複数の可動カバー片が相互間での摺動を伴いながら移動して、各可動カバー片が相互に重なり合うように移動することで収縮し、一方、各可動カバー片が互いに引き伸ばされるように移動することで展伸する。
【0007】
一般的に、このような各可動カバー片の接続部分には、弾性を有するシール部材が配設されており、このシール部材によって、前記切屑やクーラントが内部に侵入するのが防止されている。
【0008】
ところが、上述した従来のカバー体では、比較的大きな切屑については、上記のシール部材により、これが内部に侵入するのを効果的に防止し得るものの、比較的小さな切屑や、粉体状の切屑の場合には、上記のシール部材では、これらが内部に侵入するのを完全には防止することができず、可動カバー片の移動に伴って当該シール部分から可動カバー片の裏側に切屑が侵入するという問題があった。
【0009】
そして、可動カバー片の裏側に侵入した切屑は、当該可動カバー片の下端部に沿って、該下端部を受容するように配設された溝体内に落下し、当該溝体内に落下した切屑等は、可動カバー片の移動によって固定カバー片側に押し寄せられた状態で堆積する。
【0010】
斯くして、このようにして溝体内に切屑が堆積されると、この堆積物が抵抗となって、可動カバー片の移動に障害を生じるとともに、延いては可動カバー片が塑性変形する、或いは、この塑性変形に起因してカバー片が破損するという問題を生じる。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、前記保護装置を構成する保護体の下端部に沿って設けられた溝体内に、切屑が堆積するのを防止することができる保護装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、
所定方向に移動する移動体の移動路を外部から隔てるように、且つ前記移動体の移動方向に順次連続するように接続された複数の保護体を備え、一方端側に配設される保護体は保護すべき領域の所定端部に連結されるとともに、他方端側に配設される保護体は前記移動体に連結され、複数の保護体は全体として前記移動体の移動によって伸縮するように構成された保護装置において、
上部が開口し、且つ流路を形成する溝を備えた構造体であって、前記各保護体の下端面との間に所定の間隔を有するように当該保護体の下方に、又は当該保護体の下端部が上部開口から前記溝内に入り込んだ状態となるように、当該複数の保護体に沿って配設された構造体と、
前記構造体に接続され、当該構造体の溝内に液体を吐出するノズルと、
前記ノズルに加圧液体を供給する液体供給源とを設けて構成した保護装置に係る。
【0013】
この保護装置によれば、順次連続するように接続され、移動体の移動によって伸縮するように構成された複数の保護体により、当該移動体の移動路が外部から隔てられる。したがって、例えば、前記外部において、加工により切屑が生じたり、或いは、加工に使用されるクーラントが飛散したとしても、前記保護体によって、切屑やクーラントが移動体の移動路内に侵入するのが抑制される。
【0014】
また、前記保護体の下部領域には、上部が開口し、且つ流路を形成する溝を備えた構造体が、各保護体の下端面との間に所定の間隔を有するように当該保護体の下方に、又は当該保護体の下端部が上部開口から前記溝内に入り込んだ状態となるように、当該複数の保護体に沿って配設されており、この構造体の溝内には、液体供給源から供給された加圧液体が、当該構造体に接続されたノズルから吐出され、当該溝内を流通する。
【0015】
斯くして、本発明によれば、仮に、比較的小さな切屑や粉体状の切屑が、各保護体の接続部から当該保護体の裏側に侵入して、前記構造体の溝内に落下することがあっても、当該溝内には液体が流通しているので、溝内に落下した切屑はこの液体によって流され、当該溝内から外部に流出される。これにより、溝内に切屑が堆積するのが防止され、溝内に切屑が堆積することによって、保護体の移動に障害を生じ、延いては保護体が塑性変形する、或いは、この塑性変形に起因して保護体が破損するといった事態が生じるのを防止することができる。
【0016】
本発明において、前記構造体は、展伸された状態にある前記各保護体の下面全域に対応するように、該保護体に沿って配設されるとともに、少なくとも前記一方端方向における端部に溝を堰き止める側壁が設けられ、前記ノズルは、前記構造体の側壁に設けられているのが好ましい。このような態様によれば、構造体の端部側壁に設けられたノズルから吐出された液体は、構造体の溝内を他方に向けて流通し、仮に、切屑が溝内に落下する場合には、切屑はこの液体によって、他方に向けて流されて、外部に流出される。
【0017】
また、この場合に、前記側壁は、少なくともその一部が前記他方端側に向けた下り傾斜面を有しているのが好ましい。このようにすれば、ノズルから吐出された液体は、この下り傾斜面に案内されて流下し、溝の底部に沿って流通する。したがって、ノズルから吐出された液体は、乱れを生じることなく、溝内を滑らかに流通する。
【0018】
また、本発明において、前記ノズルは下方に向けて液体を吐出するように設けられているのが好ましい。このようにすれば、ノズルから吐出される液体が前記保護体に衝突するのを抑制することができ、当該保護体との衝突によって液体が周囲に飛散するのを抑制することができる。
【0019】
また、本発明において、前記構造体の溝は、その横断面形状がU字状又はV字状を有しているのが好ましい。このようにすれば、液体を溝底部に沿って流通させることができ、この態様においても、液体が前記保護体に衝突するのを抑制することができ、当該保護体との衝突によって液体が周囲に飛散するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、比較的小さな切屑や粉体状の切屑が、各保護体の接続部から当該保護体の裏側に侵入して、構造体の溝内に落下することがあっても、当該溝内には液体が流通しているので、溝内に落下した切屑はこの液体によって流され、当該溝内から外部に流出される。これにより、溝内に切屑が堆積するのが防止され、溝内に切屑が堆積することによって、保護体の移動に障害を生じ、延いては保護体が塑性変形する、或いは、この塑性変形に起因して保護体が破損するといった事態が生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る保護装置を備えた工作機械の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る保護装置を被保護側から見た裏面図であって、
図1における矢示B方向の裏面図である。
【
図4】本実施形態に係る保護体部の動作を説明するための説明図である。
【
図5】
図1において、C部を矢示B方向から見た斜視図である。
【
図6】
図1において、D部を矢示B方向から見た斜視図であり、溝体の長手方向に沿った断面図でもある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示すように、本例の工作機械1は、横型のマシニングセンタであって、ベッド2、コラム3、主軸頭5、テーブル7及び保護装置10などを備えている。尚、工作機械1の全体を示す
図1及び
図2では、本実施形態において主要な構成となる要素のみを図示している。
【0023】
前記ベッド2は、直線状をした第1ベッド2a、及びこの第1ベッド2aに直交するように連結された同じく直線状をした第2ベッド2bから構成され、全体として平面視T字形状を備えている。前記テーブル7は前記第2ベッド2b上に配設され、ガイドレール8に案内されて前記第1ベッド2aに対して進退、即ち、水平な矢示Z軸方向に移動するように設けられている。
【0024】
前記コラム3は、前記第1ベッド2a上に配設され、ガイドレール4に案内されて、前記Z軸と水平に直交する矢示X軸方向に移動するように設けられている。また、前記主軸頭5は、主軸6を回転自在に支持し、前記X軸及びZ軸に直交する鉛直なY軸方向に移動可能に前記コラム3に保持されている。斯くして、主軸頭5はX軸-Y軸平面内で移動する。
【0025】
図1~
図6に示すように、前記保護装置10は、保護体部11、4つのパンタグラフ機構20,21,22,23、溝35aを備えた構造体としての溝体35、及びクーラント供給装置40などから構成される。そして、前記保護体部11は、コラム3及び主軸頭5の移動路を外部、即ち、本例では加工領域から隔てるように、第1ベッド2a上に立設されている。尚、言うまでもないことであるが、本例における加工領域は、前記テーブル7が設けられた前記第2ベッド2bより上側の領域である。
【0026】
図1及び
図3に示すように、前記保護体部11は、門型をした固定板12、この門型の固定板12の内側に設けられるそれぞれ矩形をした保持板13、スライド板14,15,16,17、並びに固定板25及びスライド板26,27,28,29,30,31などから構成される。前記固定板12は、所定の間隔を空けて立設される2つの垂直部12a,12cと、この垂直部12a,12cを連結するようにこれらの上部に設けられた水平部12bとから構成される。
【0027】
前記保持板13は、主軸頭5が挿通されるように内側が矩形にくり貫かれた枠状の板材であり、この枠内に、前記固定板25及びスライド板26,27,28,29,30,31が設けられている。また、門型をした固定板12と保持板13との間には左右に空間が形成されており、右側の空間には前記スライド板14,15が配設され、左側の空間にはスライド板16,17が配設されている。
【0028】
前記スライド板14,15は、X軸方向にスライド可能に前記固定板12の水平部12bに吊下されており、第2ベッド2b側から第1ベッド2a側に向けた方向において、固定板12の垂直部12a、スライド板15、スライド板14、保持板13の順に配置されている。そして、スライド板14,15は、相互間での摺動を伴いながら、相互に重なり合うようにスライドし、また、スライド板14は保持板13との間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドし、同様に、スライド板15は固定板12の垂直部12aとの間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドする。
【0029】
また、固定板12の垂直部12a、スライド板15,14及び保持板13は、上下に設けられた2つのパンタグラフ機構20,21によって連結されており、このパンタグラフ機構20,21の作用によって、保持板13及びスライド板14,15は同調してX軸方向に移動し、互いに重なり合う方向にスライドすることで収縮し、互いに引き伸ばされる方向にスライドすることで展伸する。
【0030】
同様に、前記スライド板16,17は、X軸方向にスライド可能に前記固定板12の水平部12bに吊下されており、第2ベッド2b側から第1ベッド2a側に向けた方向において、固定板12の垂直部12c、スライド板17、スライド板16、保持板13の順に配置されている。そして、スライド板16,17は、相互間での摺動を伴いながら、相互に重なり合うようにスライドし、また、スライド板16は保持板13との間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドし、同様に、スライド板17は固定板12の垂直部12cとの間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドする。
【0031】
また、固定板12の垂直部12c、スライド板17,16及び保持板13は、上下に設けられた2つのパンタグラフ機構22,23によって連結されており、このパンタグラフ機構22,23の作用によって、保持板13及びスライド板16,17は同調してX軸方向に移動し、互いに重なり合う方向にスライドすることで収縮し、互いに引き伸ばされる方向にスライドすることで展伸する。
【0032】
斯くして、コラム3及び主軸頭5がX軸プラス方向に移動する場合には、保持板13と固定板12の垂直部12aとの間が展伸され、保持板13と固定板12の垂直部12cとの間は収縮される(
図4参照)。一方、コラム3及び主軸頭5がX軸マイナス方向に移動する場合には、保持板13と固定板12の垂直部12aとの間が収縮され、保持板13と固定板12の垂直部12cとの間は展伸される。
【0033】
前記固定板25は前記主軸頭5が挿通された状態で当該主軸頭5に固定されている。この固定板25と保持板13との間には上下に空間が形成されており、上側の空間には前記スライド板26,27,28が配設され、下左側の空間にはスライド板29,30,31が配設されている。
【0034】
前記スライド板26,27,28は、Y軸方向にスライド可能に配設されており、第2ベッド2b側から第1ベッド2a側に向けた方向において、スライド板26、スライド板27、スライド板28、固定板25の順に配置されている。そして、スライド板26,27は、相互間での摺動を伴いながら、相互に重なり合うようにスライドし、同様に、スライド板27,28は、相互間での摺動を伴いながら、相互に重なり合うようにスライドする。また、スライド板28は固定板25との間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドし、同様に、スライド板26は保持板13との間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドする。
【0035】
また、図示は省略するが、固定板25、スライド板28,27,26及び保持板13は、パンタグラフ機構によって連結されており、このパンタグラフ機構の作用によって、固定板25及びスライド板28,27,26は同調してY軸方向に移動し、互いに重なり合う方向にスライドすることで収縮し、互いに引き伸ばされる方向にスライドすることで展伸する。
【0036】
同様に、前記スライド板29,30,31は、Y軸方向にスライド可能に配設されており、第2ベッド2b側から第1ベッド2a側に向けた方向において、スライド板29,スライド板30、スライド板31、固定板25の順に配置されている。そして、スライド板29,30は、相互間での摺動を伴いながら、相互に重なり合うようにスライドし、同様に、スライド板30,31は、相互間での摺動を伴いながら、相互に重なり合うようにスライドする。また、スライド板31は固定板25との間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドし、同様に、スライド板29は保持板13との間で摺動を伴いながら重なり合うようにスライドする。
【0037】
また、同じく図示を省略しているが、固定板25、スライド板31,30,29及び保持板13は、パンタグラフ機構によって連結されており、このパンタグラフ機構の作用によって、固定板25及びスライド板31,30,29は同調してY軸方向に移動し、互いに重なり合う方向にスライドすることで収縮し、互いに引き伸ばされる方向にスライドすることで展伸する。
【0038】
斯くして、主軸頭5がY軸プラス方向に移動する場合には、スライド板26,27,28は収縮され、スライド板20,30,31は展伸される。一方、主軸頭5がY軸マイナス方向に移動する場合には、スライド板26,27,28は展伸され、スライド板20,30,31は収縮される。
【0039】
前記溝体35は、上部が開口し、且つ流路を形成する溝35aを備えた構造体であり、その横断面形状はほぼU字形状を有している。そして、この溝体35は、前記固定板12の垂直部12a,12c、並びに前記保持板13及び前記スライド板14,15,16,17の下端部が、上部開口から前記溝35a内に入り込んだ状態となるように配設されるとともに、その両端部がそれぞれ前記固定板12の垂直部12a,12cの下端部に連結された状態となっている。
【0040】
また、溝体36の両端部には、溝35aを堰き止めるための側壁36,37が設けられている。この側壁36,37は、それぞれ上部が鉛直部36a,37aを成し、下部が相手方に向けて下り傾斜となった傾斜部36b,37bを成している。そして、各鉛直部36a,37aには、ノズル体38,39が当該鉛直部36a,37aをそれぞれ貫通し、その吐出口が下方に向いた状態で前記溝35内に位置するように固設されている。また、各ノズル体38,39には、工作機械1の加工領域内にクーラントを供給するクーラント供給装置40から加圧されたクーラントが供給される。
【0041】
また、前記溝体35の底面には、その長手方向中央付近に2つの排出口35b,35cが形成されており、この排出口35b,35cは、適宜流路を介して第1ベッド2aの正面に開口する流出口45に連通している。
【0042】
斯くして、前記クーラント供給装置40から前記ノズル体38,39に供給されたクーラントは、当該ノズル体38,39の吐出口から、その下方に位置する前記側壁36,37の傾斜部36b,37bに向けて吐出され、当該傾斜部36b,37bに沿って流通した後、溝35内を流通して前記排出口35b,35cから排出され、前記第1ベッド2aの正面に開口した流出口45から第2ベッド2bに流出される。
【0043】
尚、第2ベッド2bには、加工によって生じた加工屑や、加工領域内に供給されたクーラントを回収するための開口が形成されており、前記流出口45から第2ベッド2bに流出したクーラントは、この開口を通して、前記クーラント供給装置40に還流される。
【0044】
以上の構成を備えた本例の工作機械1によれば、前記保護装置10の保護体部11により、コラム3及び主軸頭5の移動路が加工領域から隔てられているので、当該加工領域内において、加工によって切屑が生じたり、或いは、加工時に供給されたクーラントが飛散したとしても、前記保護体部11により、当該切屑やクーラントがコラム3及び主軸頭5の移動路内に侵入するのが防止される。
【0045】
また、前記主軸頭5がX軸方向に移動する場合、これに伴って、保持板13と固定板12の垂直部12aとの間、及び保持板13と固定板12の垂直部12cとの間が伸縮されるが、この伸縮部に形成される摺接部分、具体的には、保持板13とスライド板14との間、スライド板14とスライド板15との間、固定板12の垂直部12aとスライド板15との間、保持板13とスライド板16との間、スライド板16とスライド板17との間、固定板12の垂直部12cとスライド板17との間に形成される摺接部分から、それぞれの裏側に、比較的小さな切屑や粉体状の切屑が侵入して、下方に落下することがある。
【0046】
本例の保護装置10では、前記固定板12の垂直部12a,12c、並びに前記保持板13及び前記スライド板14,15,16,17の下端部が前記溝35a内に入り込んだ状態となるように溝体35が設けられるとともに、クーラント供給装置40から溝35a内にクーラントが供給され、その両端の側壁36,37部から中央の排出口35b,35cに向けてクーラントが流通するように構成されているので、上記のようにして裏側に侵入して下方に落下した切屑は、溝体35の溝35a内に回収された後、当該溝35a内を流通するクーラントにより押し流されて、前記排出口35b,35cから排出され、この後、前記流出口45を通して第2ベッド2bに流出され、第2ベッド2bに形成された開口を通して適宜回収される。
【0047】
以上により、溝35a内に切屑が堆積するのが防止され、溝35a内に切屑が堆積することによって、前記スライド板14,15,16,17の移動に障害を生じ、延いてはスライド板14,15,16,17が塑性変形する、或いは、この塑性変形に起因してスライド板14,15,16,17が破損するといった事態が生じるのを防止することができる。
【0048】
また、本例では、各ノズル体38,39は、その吐出口から下方に向けてクーラントを吐出するように設けられているので、ノズル体38,39から吐出されたクーラントがスライド板14,15,16,17の下端部に衝突するのを抑制することができ、これらとの衝突によってクーラントが周囲に飛散するのを抑制することができる。
【0049】
また、前記側壁36,37の下部がそれぞれ相手方に向けた下り傾斜の傾斜部36b,37bとなっているので、各ノズル体38,39の吐出口から吐出されたクーラントは、この傾斜部36b,37bの傾斜面に案内されて流下し、溝35aの底部に沿って流通する。したがって、ノズル体38,39から吐出された液体は、乱れを生じたり、周囲に飛散することなく、溝35a内を滑らかに流通する。
【0050】
また、本例では、前記構体35の横断面形状をU字状としているので、クーラントを溝35aの底部に沿って流通させることができ、これによっても、クーラントがスライド板14,15,16,17の下端部に衝突するのを抑制することができ、これらとの衝突によってクーラントが周囲に飛散するのを抑制することができる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何ら上例のものに限定されるものではない。
【0052】
例えば、前記側壁36,37の双方にノズル体38,39をそれぞれ設けたが、このような態様に限られるものでは無く、側壁36,37のいずれか一方にノズル体を設けた態様としても良い。この場合、前記溝体35に形成する排出口は、ノズル体を設けない側の側壁の近傍に形成するのが好ましい。
【0053】
また、上例では、前記ノズル体38,39は、その吐出口が下方に向けてクーラントを吐出するように構成されているが、このような態様に限られるものでは無く、クーラントがスライド板14,15,16,17の下端部に直接衝突しない範囲で、相手方に向けて斜め下方にクーラントを吐出するように構成されていても良い。
【0054】
また、上例では、前記側壁36,37を、上部の鉛直部36a,37a及び下部の傾斜部36b,37bから構成したが、このような態様に限られるものでは無く、クーラントの流れに支障がなければ、鉛直部36a,37aのみとしても良く、或いは傾斜部36b,37bのみとしても良い。また、傾斜部36b,37bは平面に限られるものでは無く、所定の曲率で湾曲させた湾曲面としても良い。
【0055】
また、上例では、前記固定板12の垂直部12a,12c、並びに前記保持板13及び前記スライド板14,15,16,17の下端部が前記溝35a内に入り込んだ状態となるように溝体35を配設したが、これに限られるものでは無く、溝体35を固定板12の垂直部12a,12c、保持板13及びスライド板14,15,16,17の下方に配設した態様としても良い。このようにすれば、前記ノズル体38,39から水平方向にクーラントを吐出させても、当該クーラントがスライド板14,15,16,17の下端部と衝突するのを回避することができる。
【0056】
また、上例では、前記構体35の横断面形状をU字状としたが、これに限られるものでは無く、横断面形状をV字状としても良い。このようにしても同様の効果が奏される。
【0057】
また、本例では、保護装置10を横型のマシニングセンタに適用したが、当該保護装置10を適用可能な工作機械は、これに限定されるものでは無く、当然のことながら、特段の不都合を生じない限り、他のあらゆる工作機械に対しても適用することができる。
【0058】
繰り返しになるが、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 工作機械
2 ベッド
3 コラム
5 主軸頭
6 主軸
10 保護装置
11 保護体部
12 固定板
13 保持板
14,15,16,17 スライド板
20,1,22,23 パンタグラフ機構
25 固定板
26,27,28,29,30,31 スライド板
35 溝体
35a 溝
36,37 側壁
36a,37a 鉛直部
36b,37b 傾斜部
38,39 ノズル体
40 クーラント供給装置