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特開2022-59283新規in vitro皮膚感作性試験法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059283
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】新規in vitro皮膚感作性試験法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/49 20060101AFI20220406BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220406BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20220406BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20220406BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20220406BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220406BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C12N15/49
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/6897
C12Q1/70
C12N15/53
C12N7/01
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166922
(22)【出願日】2020-10-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 日本動物実験代替法学会第32回大会 プログラム・講演要旨集、表紙、第14、31、131頁及び奥付 (2) 日本動物実験代替法学会第32回大会 プログラム・講演要旨集、表紙、第14、31、131頁 (3) Toxycology、第439巻、第152476-152482頁(2020年) (4) 一般財団法人化学物質評価研究機構のホームページ https://www.cerij.or.jp/ 令和2年6月1日掲載の、第25回化学物質評価研究機構研究発表会、研究発表1 (5) 国立大学法人山口大学大学院連合獣医学研究科学位論文要旨
(71)【出願人】
【識別番号】000173566
【氏名又は名称】一般財団法人 化学物質評価研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100156889
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 京子
(72)【発明者】
【氏名】武吉 正博
(72)【発明者】
【氏名】前田 洋祐
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QA20
4B063QQ22
4B063QR57
4B063QR68
4B063QR80
4B063QS28
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BB37
4B065CA28
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高精度かつ簡便なin vitro皮膚感作性試験法を提供する。
【解決手段】皮膚感作性をin vitroで試験する方法であって、下記工程(1)~(4):(1)抗酸化反応エレメントによって制御されるホタルルシフェラーゼ遺伝子を有する抗酸化反応測定用レポーター遺伝子及びウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を用い、前記ホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス及び前記ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルスで二重に感染させたヒトケラチノサイト細胞株を提供する工程、(2)前記細胞株に被験物質を曝露させる工程、(3)ホタルルシフェラーゼ活性を測定する工程、(4)ウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定する工程からなる、皮膚感作性試験方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚感作性をin vitroで試験する方法であって、
下記工程(1)~(4):
(1)抗酸化反応エレメント(antioxidant response element:ARE)によって発現が制御されるホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子及びウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を用い、
前記ホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス、及び
前記ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス
で二重に感染させたヒトケラチノサイト細胞株を提供する工程、
(2)前記細胞株に被験物質を曝露させる工程、
(3)ホタルルシフェラーゼ活性を測定する工程、
(4)ウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定する工程
からなる、皮膚感作性試験方法。
【請求項2】
前記(1)工程のホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子が、レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号1で表される配列から調製される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)工程のホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子が、
レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号2で表される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(1)工程のウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子が、
ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有し、そして、その上流にチミジンキナーゼ(TK)プロモーターを有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(1)工程のホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子が、
レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号2で表される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有するものであり、
前記ホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子配列を挿入したレンチウイルスを用いて感染させ、かつ、前記ウミシイタケルシフェラーゼレポーター遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルスで感染させた、ヒトケラチノサイト細胞株を提供することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(1)で提供される細胞株が、ヒトケラチノサイト細胞株が生存できない濃度の抗生物質である、50μg/mLのハイグロマイシンBゴールド及び2.5μg/mLのピューロマイシンの存在下においても増殖可能な安定細胞株である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(4)の後に、
工程(5)下記式
被験物質のnRLU=(ARE活性を示すホタルルシフェラーゼ活性)/(生細胞数を示すウミシイタケルシフェラーゼ活性)
によりnRLUを算出し、そして、下記式
nAA=(被験物質のnRLU)/(溶媒対照の平均nRLU)
により、皮膚感作性評価指標がnAA値として算出される、請求項1乃至6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(5)の後に、
工程(6)陰性対照物物質の最適カットオフ値を求めて皮膚感作性の判定を行う、請求項1乃至7に記載の方法。
【請求項9】
レポーター遺伝子であって、
レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号2で表される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有することを特徴とする、レポーター遺伝子。
【請求項10】
請求項9に記載のレポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス。
【請求項11】
請求項10に記載のレンチウイルス、及び、
細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス、
の2つのウイルスに二重に感染させたヒトケラチノサイト細胞。
【請求項12】
請求項11に記載のヒトケラチノサイト細胞株の安定細胞株。
【請求項13】
ヒトケラチノサイト細胞株が生存できない濃度の抗生物質である、50μg/mLのハイグロマイシンBゴールド及び2.5μg/mLのピューロマイシンの存在下においても増殖可能な、請求項12に記載の安定細胞株。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度かつ簡便なin vitro皮膚感作性試験法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚感作の結果生じるアレルギー性接触皮膚炎は、労働衛生上に、及び環境衛生上に共通する問題である。ゆえに、皮膚感作性を評価することは化学物質の安全性評価において重要である。化学物質の皮膚での接触感作性のリスクを動物で予測する試験法としては、モルモットを用いる皮膚感作性試験(OECD TG406)やマウスを用いる局所リンパ節試験(LLNA:Local Lympho Node Assay、OECD TG429)がある。この[H-メチル]-チミジン取込量を測定するLLNA以外にも、放射性同位元素(RI)を用いずATP量を測定するLLNA:DA(OECD TG442A)やブロモデオキシウリジン量を測定するLLNA:BrdU-ELISA(OECD TG442B)がある。このように、現在、OECDからガイドラインとして公表されている試験法は、動物を用いたin vivoの試験法が用いられてきた。
近年は、EUにおける欧州化学品規制では、安全性評価は、コンピューターを用いた定量的構造活性相関(QSAR:Quantitative Structure-Activity Relationship)モデルやin vitro試験等による代替法が推奨されており、さらに、動物実験により安全性が評価された成分を含んだ化粧品の輸入及び販売も禁止された(2013年3月全面施行)。そのため、動物を用いない化学物質の皮膚感作性を評価する代替法の開発が強く求められている。そして、化学物質の安全性評価のための動物試験の使用を縮小し減少させるために尽力が行われてきた。
【0003】
現在のところ、化学物質の感作性を評価するために開発された非動物性試験法の殆どは、OECDにより推奨されている皮膚感作性のAOPにおける4つのキーイベントのいずれかをカバーするものである。即ち、皮膚感作性のAdverse outcome pathway(AOP)には、以下の4つのキーイベント(KE)、KE-1:内因性皮膚タンパク質へのハプテンの結合、KE-2:ケラチノサイトの活性化、KE-3:樹状細胞の活性化、そしてKE-4:T細胞活性化が存在し、それらの評価方法が、近年確立された。現在、多くの非動物試験法は、これらの4つのキーイベントの一つをカバーする化学物質の感作性評価の方法として開発されている。
【0004】
ARE-Nrf2ルシフェラーゼ試験法は、感作性発現機序における第二のイベント(KE-2)であるケラチノサイトおける炎症反応及びNrf2-Keapl-ARE pathway(Keap1:Kelch-like ECH-associated protein1)を利用した試験法であり、化学物質の感作性を判断する上で重要な情報を与えるものであり、OECD TG442Dとして国際的に標準化されている。
しかし、この方法は、予測精度が十分でない点と、試験において細胞生存率を個別に測定する必要があり、操作が煩雑である。
【0005】
非特許文献1により、Nrf2-Keap1-ARE経路を応用した一過性発現系によるin vitro皮膚感作性試験代替法が報告された。
しかし、非特許文献1の試験方法は、実験のたびに化学薬品による遺伝子導入が必要となることに加え、遺伝子導入に1週間程度の期間を要する。また用いる細胞数や遺伝子導入効率の変動がある。さらに、2種類のプラスミドにそれぞれ導入効率の影響を受けるため、改良の余地があるといえる。
【0006】
非特許文献2は、医療機器における感作性物質を検出するためのARE-Nrf2を介したレポーター遺伝子アッセイ、即ち、ARE-Nrf2を介した転写活性のためのNanoLuc及び細胞毒性のためのホタルルシフェラーゼ系を報告した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】前田洋祐ら、日本動物実験代替法学会第30回大会プログラム・講演要旨集、第150頁(2017年11月23-25日)
【非特許文献2】E.Mertlら、Molecular Biology Reports、第46巻、第5089-5102頁(2019年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、KE-2に対応する試験法、ケラチノセンス(登録商標)アッセイ及びLuSensは、OECD TG442Dとして承認されており(OECD、2018年)、そして、この目的のために広く使用されている。
しかしながら、これらのアッセイは、予備試験のための用量を決定するための別個の細胞毒性試験を必要とし、本試験は、これにより計算された細胞生存率が50%となる濃度(IC50)に基づいて行われるか、又は細胞生存率が75%の濃度(CV75)の用量において行う手順が必要となる。
また、既存の標準化試験ではいくつかの物質において偽陰性もしくは偽陽性を示す精度上の問題があった。
そして、さらなる信頼性のある効果的な体系的試験法の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
簡便で正確度の良い試験方法にするために、発明者らは鋭意研究の結果、二重のルシフェラーゼ系を採用する手法を試み本発明に至った。即ち、第1のルシフェラーゼを用いることにより抗酸化反応エレメント(antioxidant response element:ARE)-Nrf2を介した転写活性を評価し、そして第2のルシフェラーゼを細胞毒性の同時評価に使用し、そしてARE-Nrf2を介した転写活性をルシフェラーゼ系の細胞毒性試験から得られる生細胞数を用いて標準化し、これを化学物質の皮膚感作性を評価に適用することを試み本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、
<1> 皮膚感作性をin vitroで試験する方法であって、
下記工程(1)~(4):
(1)抗酸化反応エレメント(antioxidant response element:ARE)によって発現が制御されるホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子及びウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を用い、
前記ホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス、及び
前記ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス
で二重に感染させたヒトケラチノサイト細胞株を提供する工程、
(2)前記細胞株に被験物質を曝露させる工程、
(3)ホタルルシフェラーゼ活性を測定する工程、
(4)ウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定する工程
からなる、皮膚感作性試験方法。
<2> 前記(1)工程のホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子が、レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号1で表される配列から調製される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有することを特徴とする、<1>に記載の方法。
<3> 前記(1)工程のホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子が、
レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号2で表される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有することを特徴とする、<1>に記載の方法。
<4> 前記(1)工程のウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子が、
ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有し、そして、その上流にチミジンキナーゼ(TK)プロモーターを有することを特徴とする、<1>に記載の方法。
<5> 前記(1)工程のホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子が、
レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号2で表される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有するものであり、
前記ホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子配列を挿入したレンチウイルスを用いて感染させ、かつ、前記ウミシイタケルシフェラーゼレポーター遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルスで感染させた、ヒトケラチノサイト細胞株を提供することを特徴とする、<1>に記載の方法。
<6> 前記工程(1)で提供される細胞株が、ヒトケラチノサイト細胞株が生存できない濃度の抗生物質である、50μg/mLのハイグロマイシンBゴールド及び2.5μg/mLのピューロマイシンの存在下においても増殖可能な安定細胞株である、<1>に記載の方法。
<7> 前記工程(4)の後に、
工程(5)下記式
被験物質のnRLU=(ARE活性を示すホタルルシフェラーゼ活性)/(生細胞数を示すウミシイタケルシフェラーゼ活性)
によりnRLUを算出し、そして、下記式
nAA=(被験物質のnRLU)/(溶媒対照の平均nRLU)
により、皮膚感作性評価指標がnAA値として算出される、<1>乃至<6>に記載の方法。
<8> 前記工程(5)の後に、
工程(6)陰性対照物物質の最適カットオフ値を求めて皮膚感作性の判定を行う、<1>乃至<7>に記載の方法。
<9> レポーター遺伝子であって、
レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子を有し、
その上流に、配列番号2で表される配列を有するプロモーターを有し、そして、
その上流にエンハンサーとして配列番号3で表される抗酸化反応エレメント(ARE)を有することを特徴とする、レポーター遺伝子。
<10> <9>に記載のレポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス。
<11> <10>に記載のレンチウイルス、及び、
細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス、
の2つのウイルスに二重に感染させたヒトケラチノサイト細胞。
<12> <11>に記載のヒトケラチノサイト細胞株の安定細胞株。
<13> ヒトケラチノサイト細胞株が生存できない濃度の抗生物質である、50μg/mLのハイグロマイシンBゴールド及び2.5μg/mLのピューロマイシンの存在下においても増殖可能な、<12>に記載の安定細胞株。
である。
【0011】
用語の説明
本発明における「被験物質」とは、特に限定されるものではなく、化粧品、医薬、医療用具、生活用品等としての、ヒトその他生物に用いられ、皮膚と接触する可能性のある全ての化学物質が対象である。
本発明における、「皮膚感作性」とは、遅延性過敏反応のひとつであり、化学物質による過剰な免疫反応により皮膚にかぶれが起こる現象をいう。
本発明における「LLNA」とは、「ローカルリンフノードアッセイ(Local Lympho Node Assay)」を指し、OECD TG(経済協力開発機構試験法ガイドライン)429に記載の皮膚感作・局所リンパ節試験をいう。
「ケラチノセンス(登録商標)」とは、Givaudan社(ジボダン社、ヴェルニエ、スイス国)の開発したOECD TG(経済協力開発機構試験法ガイドライン)442Dに記載の皮膚感作性予測に用いるin vitro試験であるARE-Nrf2 ルシフェラーゼ試験法をいう。
「LuSens」とは、BASF社(ルートヴィヒスハーフェン・アム・ライン、ドイツ国)の開発したOECD TG(経済協力開発機構試験法ガイドライン)442Dに記載の皮膚感作性予測に用いるin vitro試験であるARE-Nrf2 ルシフェラーゼ試験法をいう。
本明細書における「ヒトデータ」とは、Tzutzuyら,「LuSens:A keratinocyte based ARE reporter gene assay for use in integrated testing strategies for skin sensitization hazard identifications」,Toxicology in vitro,第28巻,1482-1497頁(2014年)に記載されたヒトでの結果を指す。
【0012】
本発明の皮膚感作試験法は、下記(1)~(4)の工程を有することを特徴とする。
即ち、
皮膚感作性をin vitroで試験する方法であって、
下記工程(1)~(4):
(1)抗酸化反応エレメント(antioxidant response element:ARE)によって発現が制御されるホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子及びウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を用い、
前記ホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス、及び
前記ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス
で二重に感染させたヒトケラチノサイト細胞株を提供する工程、
(2)前記細胞株に被験物質を曝露させる工程、
(3)ホタルルシフェラーゼ活性を測定する工程、
(4)ウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定する工程
からなる。
さらに、工程(5)及び(6)を有し得る。
工程(5):下記式
被験物質のnRLU=(ARE活性を示すホタルルシフェラーゼ活性)/(生細胞数を示すウミシイタケルシフェラーゼ活性)
によりnRLUを算出し、そして、下記式
nAA=(被験物質のnRLU)/(溶媒対照の平均nRLU)
により、皮膚感作性評価指標をnAA値として算出する。
工程(6)陰性対照物物質の最適カットオフ値を求めて皮膚感作性の判定を行う。
【0013】
次に、本発明の方法の各工程について述べる。
【0014】
工程(1):抗酸化反応エレメント(antioxidant response element:ARE)によって発現が制御されるホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子及びウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を用い、
前記ホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するARE活性測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルス及び前記ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を有する細胞生存率測定用レポーター遺伝子を挿入したレンチウイルスで二重に感染させたヒトケラチノサイト細胞株を提供する工程は、本発明のアッセイのための細胞株の確立の工程である。
【0015】
本発明に用いる二重ルシフェラーゼ系のヒトケラチノサイト細胞株は、ARE活性測定用レポーター遺伝子(ARE-AUG-Luc(ホタルルシフェラーゼ))と細胞生存率測定用レポーター遺伝子(TK-Luc(ウミシイタケルシフェラーゼ))をそれぞれの配列を保有するレンチウイルスを作成し、ヒトケラチノサイトに二重に感染させた細胞株をスクリーニングすることにより安定発現株としたものを用いる。
【0016】
宿主細胞は、不死化正常ヒトケラチノサイトを使用する。本発明の好ましい態様において、例えば、PHK 16-0b(JCRB細胞バンク、大阪、日本)細胞株を使用するが、これに限定されるものではない。
当該不死化正常ヒトケラチノサイト、PHK 16-0bをHKGS(サーモフィッシャーサイエンスK.K.マサチューセッツ州、米国)サプリメントを添加したEpi-Life培地(サーモフィッシャーサイエンスK.K.マサチューセッツ州、米国)中に5%CO存在下37℃の加湿環境下にて培養を行う。
【0017】
本発明によるARE活性測定用レポーター遺伝子を有するレンチウィルスベクター作製用プラスミドにおいて、下記の操作を行なう。
α2U-グロブリンプロモーター(AUG)及び抗酸化反応エレメント(ARE:5’-TGGTCGCAAGGTGTGCAAGCTGCTGAGTCACCCTGACTGCATCAACCCCAGGAGCT―3’)によって発現が制御されるホタルルシフェラーゼ遺伝子配列を、pLVSINに挿入し、pLVSIN-ARE-AUG-Lucを作製する。
【0018】
上記ARE活性測定用レポーター遺伝子(ARE-AUG-Luc)は、AUG-Luc配列を有するプラスミドを用いた公知の方法に基づき調製される。Takehoshi Mら、Arch Toxicology、第77巻、第5号、第274-9頁(2003年)が参照され、例えば、下記配列番号1に記載の配列:
【表1】
及び配列番号2に記載の配列:
【表2】
が挙げられ参照されるが、これに限定されるものではない。
【0019】
他方で、上記と同様の方法で、細胞生存率測定用レポーター遺伝子を有するレンチウィルスベクター作製用プラスミドの作製について、下記の操作を行なう。
TKプロモーター及びウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(TK-rLuc)をpLVSINに挿入しpLVSIN-TK-rLucを作製する。
【0020】
本発明の好ましい態様において使用される上記細胞生存率測定用レポーター遺伝子(TK-Luc)は、プロメガ社のpRL-TK Vector(製品番号:E2241)のTKプロモーター及びウミシイタケルシフェラーゼの配列を使用するが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の好ましい態様において、レンチウイルスベクターは、例えば、ハイグロマイシン、ピューロマイシンなどの抗生物質耐性遺伝子を含むpLVSIN及びpLentiviral High Titer Pacaging Mix(タカラバイオ株式会社、滋賀、日本)を用いて作製するが、これに限定されるものではない。
【0022】
ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むpLVSIN-ARE-AUG-Luc又はピューロマイシン耐性遺伝子を含むpLVSIN-TK-rLucは、TransIT(登録商標)-293トランスフェクション導入試薬(タカラバイオ株式会社、滋賀、日本)を用いて、接着性の細胞であるLenti-X(登録商標)293T(タカラバイオ株式会社、滋賀、日本)にpLentiviral High Titer Pacaging Mixと同時遺伝子導入する。その後、5%CO存在下37℃の加湿環境下において48時間培養し、この培養液を収集する。そしてDISMIC-25ASフィルター(0.44μm、東洋ろ紙株式会社、東京、日本)を用いて培養液をろ過し細胞残屑を除去し、このろ液をレンチウィルスベクターとして感染に使用するものとする。
【0023】
上記のPHK 16-0bは、ARE-AUG-Luc又はTK-rLucを有するレンチウイルスベクターそれぞれに感染させた細胞は、不死化正常ヒトケラチノサイトPHK 16-0bが生存できない濃度の抗生物質、50μg/mLのハイグロマイシンBゴールド(インビボゲン社、カリフォルニア州、米国)及び2.5μg/mLのピューロマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、マサチューセッツ州、米国)の存在下7日間培養し、安定発現株の特定を行う。
【0024】
作成したARE-AUG-Luc及びTK-rLucの安定発現株は、PHK 16-0bが生存できない濃度の抗生物質、50μg/mLのハイグロマイシンBゴールド(インビボゲン社、カリフォルニア州、米国)及び2.5μg/mLのピューロマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、マサチューセッツ州、米国)の存在下においても増殖可能な細胞と特定される。
【0025】
本発明の方法によるアッセイを行うために、本発明の細胞株は、取り扱い説明書及びその他の試薬とともにキットを構成し得る。よって本発明は、ARE活性測定用レポーター遺伝子(ARE-AUG-Luc(ホタルルシフェラーゼ))及び細胞生存率測定用レポーター遺伝子(TK-rLuc(ウミシイタケルシフェラーゼ))を含む細胞株を含むキットもまた提供し得る。
【0026】
工程(2):前記細胞株に被験物質を曝露させる工程は、例えば、以下の手技が挙げられるがこれに限定されるものではない。
被験物質は、溶媒に溶解し、細胞培養液を用いて適切な濃度に希釈する必要がある。例えば、被験物質を、200mMを最大濃度とし公比2において段階希釈し、そして細胞培養液を用いて50倍に希釈する。
細胞は、96穴マイクロプレート(#136102、サーモフィッシャーサイエンティフィック社、マサチューセッツ州、米国)のウェルに、培地100μL中にウェル当たり20000個の細胞となるよう播種し、そして24時間の前培養を行った。
上記の前培養の後、被験物質100μLを添加しそして24時間培養する。
【0027】
工程(3):ホタルルシフェラーゼ活性を測定する工程は、例えば、以下の手技が挙げられるがこれに限定されるものではない。
培養液をウェルから除去し、そして50μLの第1のDual-Glo(登録商標)試薬(プロメガ社、ウィスコンシン州、米国)をウェルに添加し、試薬の添加10分後の室温下での化学発光をプレートリーダー(ARVO X2、パーキンエルマー社、ウォルサム、米国)を用いて測定する。
【0028】
工程(4):ウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定する工程は、例えば、以下の手技が挙げられるがこれに限定されるものではない。
第1のDual-Glo(登録商標)試薬添加後、50μLの第2のDual-Glo(登録商標)ストップ及びGlo(登録商標)試薬(プロメガ社、ウィスコンシン州、米国)を同一ウェルに添加し、10分後に室温下での化学発光を、プレートリーダーを用いて測定する。
【0029】
工程(5):nAAの算出工程
生細胞数により標準化したRLU値(nRLU)は、各ウェルのARE活性を示すホタルルシフェラーゼ活性のRLU値を、同一ウェルの生細胞数を示すウミシイタケルシフェラーゼ活性のRLU値で除すことにより算出される。本発明で用いる新規な評価パラメーター:生細胞数で標準化したARE活性(nAA)は、以下の通り算出される。
【0030】
本発明の試験結果を評価するにあたり、例えば、被験物質のnRLUは、
nRLU=(ARE活性を示すホタルルシフェラーゼ活性)/(生細胞数を示すウミシイタケルシフェラーゼ活性)
として求められるが、評価指標はこれに限定されるものではない。
【0031】
nAA=(被験物質のnRLU)/(溶媒対照の平均nRLU)
【0032】
また、細胞生存率を、下記式を用いてウミシイタケルシフェラーゼ活性値を用いて算出する。
【0033】
細胞生存率(%)={(被験物質中のrLucのRLU)/(溶媒対照中のrLucの平均RLU)}×100
【0034】
工程(6):陰性対照物物質の最適カットオフ値を求めて皮膚感作性の判定を行う。
感作性物質と非感作性物質との鑑別のための最適カットオフ値
アッセイを、各被験物質について3回行い、各アッセイの最大nAA値を測定し、そして各被験物質の平均最大nAA及び標準偏差(SD)を算出する。
例えば、後述の試験結果によれば、最適カットオフ値は、非感作性物質の最高平均nAA+2SDを超え、LLNAの結果及びヒトデータとの一致率が最も高い値として決定され得る。
そして、被験物質のnAAがカットオフ値を超えた場合に、陽性と判定する。
【0035】
本発明の方法によるアッセイにより得られたnAA値の計算結果を後述の表2に纏める。その結果、表中の下から9物質、即ち、非感作性物質9物質のnAA値の最大値は0.85乃至1.32の範囲であり、そして感作性物質19物質の値は1.75乃至26.42の範囲であった。
【0036】
現在のOECD ARE-Nrf2ルシフェラーゼアッセイであるケラチノセンス(登録商標)及びLuSensは、WST-8アッセイ及びMTTアッセイのようにミトコンドリア還元酵素の活性に基づく細胞毒性試験を使用しており、実際の細胞状態を反映し得なくても第1の用量設定目的のためにこれらを用いる。
【0037】
これに対し、本発明の方法は、本目的のために二重ルシフェラーゼアッセイ、即ち、ホタルルシフェラーゼ系及びウミシイタケルシフェラーゼ系を採用しており、AREを介した転写活性の生細胞数による標準化のためにルシフェラーゼ系による細胞毒性試験を適用した。即ち、ウミシイタケルシフェラーゼ活性の結果は、細胞の転写活性において化学物質の影響を受け、そしてこのアッセイの結果は、ARE-Nrf2を介した転写活性における化学物質の実際の効果を反映し得るであろう。
本目的のために、発明者らは、新しいパラメーターnAAを採用した。ウミシイタケルシフェラーゼ活性系の細胞毒性試験を用いて測定した実際の細胞条件により標準化されたARE-Nrf2を介した転写活性は、本アッセイ系における転写活性のある細胞の実際の転写活性を得ることができることが考えられるためである。
【0038】
本発明の方法によるnAAの算出結果によれば、非感作性物質のnAA値の最大値は0.85乃至1.32の範囲であり、そして感作性物質の範囲は1.75乃至26.42の範囲であった。これを用いて、非感作性物質と感作性物質を鑑別する最適カットオフ値を決定するために、ヒトデータ又はLLNAからの結果に対する本発明の方法によるアッセイ結果の一致率を算出し、そして、非感作性物質の最大nAA+2SDを超える最小nAAを最適カットオフ値として決定した。
その結果、最適対象カットオフ値はnAA≧1.6と決定され、これは非感作性物質から得られた最大nAA+2SD(=約1.57)を超えるものである。一方、LLNA及びヒトデータに対する判定結果の一致率(%)は、それぞれ96.4及び100.0であった(表3)。
【0039】
本発明の方法、ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensを用いた場合のLLNA又はヒトデータに対する正確度(%)、感度(%)及び特異度(%)結果の比較においても、本発明による方法のアッセイ系は、LLNAに対する正確度(%)、感度(%)及び特異度(%)はそれぞれ96.4、95.0及び100.0であり、そしてヒトデータに対するものはすべて100と良好である。
【0040】
本発明の方法によれば、ケラチノセンス(登録商標)又はLuSensにおいて偽陰性であった化学物質である安息香酸フェニルにおいても、明白な陽性の結果が得られ、そしてLuSensにおいて偽陽性であったサリチル酸メチルにおいて、AREを介した転写活性、nAAを用いることにより陰性の結果が得られた(図2及び3)。さらに、二重ルシフェラーゼ系レポーター遺伝子アッセイ(Mertlら、非特許文献2)に報告された偽陰性のメチルブロモグルタロニトリルもまた、本発明の方法において陽性の結果を得られた(図4乃至7)。
【0041】
これらの結果は、化学物質の皮膚感作性の予測精度に関し、本発明の方法が、他の3つの試験法と比較して優れた改善を達成できたことを示している。
【0042】
また、本発明の方法は、二重ルシフェラーゼアッセイ系を用いることにより、AREを介した転写活性及び細胞生存率を同時測定可能になったことから予備試験が不要となり、さらに化学物質の曝露時間も半分に短縮されたことから、他の2つのOECD試験方法、ケラチノセンス(登録商標)又はLuSensよりも簡便で短時間の操作が可能であることが示された。
さらにまた、本試験方法は、血清フリーのEpi-Life培地を使用するため、アッセイ系はまた動物福祉上の観点からも利点を有する。このことはまた、比較的反応性の高い化学物質、とりわけ血清タンパク質との反応により偽陰性を示す物質の適正な評価に寄与できる。(Otakeら、Toxicology,第393巻、第9-14頁(2018年))。
【0043】
非特許文献1の方法は、一過性発現系のために実験の度に化学薬品による遺伝子導入が必要となるのに対し、本発明の方法は、ウイルスをゲノム上に安定的に組み込んでいるためその都度の遺伝子導入が不要となる。
また、非特許文献1の方法では遺伝子導入に用いる化学薬品は細胞毒性があるため、遺伝子導入のために多くの細胞を用意する必要があるが、本発明の方法においては試験に必要な細胞数のみで良い。
さらにまた、非特許文献1においては遺伝子導入効率が変わるためにデータのばらつきが生じる点に対し、本発明の方法は安定したデータの取得が可能である。データの安定性については上述の通りである。
そして、本発明の方法によれば、nAAによる高精度な皮膚感作性評価が可能となり、従来の方法で偽陰性、偽陽性であった化学物質も正確に判定可能となった。
【発明の効果】
【0044】
本発明の方法によれば、さらにnAAの分類基準の最適化のために、金属、混合物、医薬品及び植物抽出物を含む広範囲の化学物質への適応及び再現性を確認することで種々の試験に適用可能であり、結論として、本発明による新規のARE-Nrf2系皮膚感作性スクリーニングアッセイは、皮膚感作性AOPのKE-2におけるin vitro皮膚感作性試験法の簡便で高精度な方法を提供可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の皮膚感作試験法による桂皮アルデヒドの細胞毒性試験の結果を示す図である(図中、白丸はミトコンドリア還元酵素の活性を指標とした細胞生存率を表し、黒丸はrLucの活性を指標とした細胞生存率を表す。)。
図2】本発明の皮膚感作試験法による安息香酸フェニルの試験結果を示す図である(図中、白丸は細胞生存率を表し、黒丸は誘導倍率を表す。)。
図3】本発明の皮膚感作試験法による安息香酸フェニルの試験結果を示す図である(図中、白丸は細胞生存率を表し、黒丸はnAAを表す。)。
図4】本発明の皮膚感作試験法によるサリチル酸メチルの試験結果を示す図である(図中、白丸は細胞生存率を表し、黒丸は誘導倍率を表す。)。
図5】本発明の皮膚感作試験法によるサリチル酸メチルの試験結果を示す図である(図中、白丸は細胞生存率を表し、黒丸はnAAを表す。)。
図6】本発明の皮膚感作試験法によるメチルジブロモグルタロニトリルの試験結果を示す図である(図中、白丸は細胞生存率を表し、黒丸は誘導倍率を表す。)。
図7】本発明の皮膚感作試験法によるメチルジブロモグルタロニトリルの試験結果を示す図である(図中、白丸は細胞生存率を表し、黒丸はnAAを表す。)。
【実施例0046】
材料と方法
本発明の試験に使用した化学物質(以下、被験物質とする)を、表1に一覧する。下記の皮膚感作性物質19物質及び非感作性物質9物質を含む全28の化学物質を、各試験方法の評価実験に用いた。試験したすべての化学物質は、ジメチルスルホキシド(DMSO、富士フイルム和光純薬株式会社、大阪、日本)に溶解した。
【0047】
表1.試験に用いた化学物質一覧.
【表3】
P: 陽性, N: 陰性
1: 東京化成工業株式会社., 2: 富士フイルム和光純薬株式会社, 3:DB-ALM, 2013, 4: ICCVAM, 2009, 5: Tzutzuy et al., 2014
【0048】
(実施例1)
本発明のアッセイのための細胞株の樹立
不死化正常ヒトケラチノサイト、PHK 16-0b(JCRB細胞バンク、大阪、日本)細胞株を、宿主細胞として使用した。当該細胞をHKGS(サーモフィッシャーサイエンスK.K.マサチューセッツ州、米国)サプリメントを添加したEpi-Life培地(サーモフィッシャーサイエンスK.K.マサチューセッツ州、米国)中に5%CO存在下37℃の加湿環境下にて培養した。
α2U-グロブリンプロモーター(配列番号2)(武吉ら、2003年)及び抗酸化反応エレメント(ARE:5’-TGGTCGCAAGGTGTGCAAGCTGCTGAGTCACCCTGACTGCATCAACCCCAGGAGCT―3’)により発現が制御されるホタルルシフェラーゼ遺伝子配列をpLVSIN(タカラバイオ株式会社、滋賀、日本)に挿入し、pLVSIN-ARE-AUG-Lucを作製した。
TKプロモーター及びウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(rLuc)をpLVSINに挿入しpLVSIN-TK-rLucを作製した。
【0049】
レンチウイルスベクターを次の方法で作製した。
pLVSIN-ARE-AUG-Luc又はpLVSIN-TK-rLucのそれぞれについてを、TransIT(登録商標)-293トランスフェクション試薬(タカラバイオ株式会社、滋賀、日本)を用いて、接着性の細胞であるLenti-X(登録商標)293T(タカラバイオ株式会社、滋賀、日本)に、pLentiviral High Titer Packaging Mix(タカラバイオ株式会社、滋賀、日本)と同時に遺伝子導入し、5%CO存在下37℃の加湿環境下において48時間培養した。次に、この培養液を収集しそしてDISMIC-25ASフィルター(0.44μm、東洋ろ紙株式会社、東京、日本)を用いてろ過し細胞残屑を除去し、ろ液を感染に使用するレンチウイルスベクターとして得た。
【0050】
上記のPHK 16-0bを、ARE-AUG-Luc又はTK-rLucを有するレンチウイルスベクターそれぞれに感染させ、そして、感染させた細胞を50μg/mLのハイグロマイシンBゴールド(インビボゲン社、カリフォルニア州、米国)及び2.5μg/mLのピューロマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、マサチューセッツ州、米国)の存在下7日間培養し、生存し増殖した細胞を次のアッセイに用いた。
【0051】
(実施例2)
本発明のアッセイ
全ての被験物質を、200mMを最大とし、公比2において段階希釈し、その後細胞培養液を用いて50倍希釈した。
細胞を、96穴マイクロプレート(#136102、サーモフィッシャーサイエンティフィック社、マサチューセッツ州、米国)のウェルに、培地100μLにウェル当たり20000個の細胞となるよう播種し、そして5%CO存在下37℃の加湿環境下において24時間の前培養を行った。
前培養の後、被験物質100μLを添加しそして5%CO存在下37℃の加湿環境下において24時間培養した。
培養液をウェルから除去し、50μLの第1のDual-Glo(登録商標)試薬(プロメガ社、ウィスコンシン州、米国)をウェルに添加し、試薬の添加10分後の室温下における化学発光をプレートリーダー(ARVO X2、パーキンエルマー社、ウォルサム、米国)を用いて測定し、ホタルルシフェラーゼの活性を測定した。第1のDual-Glo(登録商標)試薬添加後、50μLの第2のDual-Glo(登録商標)ストップ及びGlo(登録商標)試薬(プロメガ社、ウィスコンシン州、米国)を同一ウェルに添加し、10分後に室温下における化学発光を、プレートリーダーを用いて測定し、ウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。
【0052】
生細胞数により標準化したRLU値(nRLU)は、各ウェルのARE活性を示すホタルルシフェラーゼ活性のRLU値を、同一ウェルの生細胞数を示すウミシイタケルシフェラーゼ活性のRLU値で除すことにより算出される。
【0053】
被験物質のnRLU=(ARE活性を示すホタルルシフェラーゼ活性)/(生細胞数を示すウミシイタケルシフェラーゼ活性)
として求めた。
【0054】
そして、生細胞数で標準化したARE活性(nAA)を、下記式を用いて算出した。
【0055】
nAA=(被験物質のnRLU)/(溶媒対照の平均nRLU)
【0056】
誘導倍率を、下記式を用いてホタルルシフェラーゼ活性の算出に用いた。
【0057】
誘導倍率=(被験物質のLucのRLU)/(溶媒対照のLucの平均RLU)
【0058】
また、細胞生存率を、下記式を用いてウミシイタケルシフェラーゼ活性値を用いて算出した。
【0059】
細胞生存率(%)={(被験物質中のrLucのRLU)/(溶媒対照中のrLucの平均RLU)}×100
【0060】
アッセイを、各被験物質について3回行い、各アッセイの最大nAA値を測定し、そして各被験物質の平均最大nAA及び標準偏差(SD)を算出した。
【0061】
感作性物質と非感作性物質との鑑別のための最適カットオフ値
最適カットオフ値は、上述の試験方法による結果からは、非感作性物質の最高平均nAA+2SDを超える最も高い補正後の結果(%)の値を以下の通り決定した。
【0062】
本発明のアッセイの結果
本発明のアッセイにおけるnAA値の計算結果を表2に纏める。その結果、表中の下から9物質、即ち、非感作性物質9物質のnAA値の最大値は0.85乃至1.32の範囲であり、そして感作性物質19物質の値は1.75乃至26.42の範囲であった。
【0063】
表2. 本発明のアッセイの結果の概要.
【表4】
【0064】
nAAの暫定カットオフ値を1.2から0.1きざみで2.0まで設定し、各暫定カットオフ値を用いて得た感作性判定結果と、LLNAの結果及びヒトデータに対する一致率を表3に示す。
【0065】
表3.本発明のアッセイの最適カットオフ値の決定.
【表5】
太字:最適カットオフ基準
【0066】
表3のとおり、非感作性物質と感作性物質を鑑別するための最適な対象カットオフ値を1.6と決定した。これは、非感作性物質のnAA(1.32)+2SD(=1.57)を超える値である。ヒトデータ及びLLNAの結果に対して、それぞれ100.0及び96.4の一致率(%)を示した。
【0067】
比較例
ミトコンドリア還元酵素活性及びウミシイタケルシフェラーゼ活性に基づく細胞毒性試験の比較
OECD TG442Gの陽性対照物質である桂皮アルデヒド(富士フイルム和光純薬株式会社、大阪、日本)を、ケラチノセンス(登録商標)アッセイ及びLuSensにおいて採用されるミトコンドリア還元酵素活性に基づく細胞毒性試験をOECD TG442Dに基づき行い、その結果を、同物質のrLucの転写活性に基づく細胞毒性試験と比較した。
この試験において、Cell Counting Kit-8(CCK-8、同仁堂社、大阪、日本)を用いたWST-8アッセイを、従来のMTTアッセイと同様の原理を用いる細胞毒性テストに基づくミトコンドリ還元酵素活性として行った。
桂皮アルデヒドを、20mMを最大とし、公比2において段階希釈し、そして細胞培養液を用いて50倍希釈した。細胞を、平板のウェル当たり20000個の細胞となるよう、培地100μL中に播種し、そして24時間の前培養を行った。前培養の後、被験被験物質100μLを添加しそして24時間培養した。
培養終了後に、培養液を各ウェルから除去し、そして次に細胞培養液で5倍に希釈したCCK-8を各ウェル添加した。5%CO存在下37℃の加湿環境下で1時間インキュベーションしたのち、450nmにおける吸光度を、プレートリーダー(ARVO X2、パーキンエルマー社、ウォルサム、米国)を用いて測定した。細胞生存率は、下記式を用いて算出した。
【0068】
細胞生存率(%)=(被験ウェルの吸光度)/(溶媒対照の平均吸光度)×100
【0069】
その後、ミトコンドリア還元酵素活性に基づく細胞毒性試験の結果を本発明による方法において言及したrLucに基づくアッセイの結果と比較した。IC50値を、統計ソフトウエア(グラフパッドプリズム(Graphpad PRISM)バージョン6.02、グラフパッドソフトウエア社、カルフォルニア州、米国)を用いて計算した。
【0070】
<結果>
ミトコンドリア還元酵素活性及びウミシイタケルシフェラーゼ活性に基づく細胞毒性試験の比較
OECD TG442Dの陽性対照物質桂皮アルデヒドを、WST-8アッセイを用いた細胞毒性試験及び、rLucの転写活性に基づく細胞毒性試験に供し、両試験法の結果を比較し、図1に示す。rLucの転写活性に基づく細胞毒性試験において、この被験物質のIC50値を61.9μMと算出され、そして200μMにおけるこの細胞生存率は0.9%であった。しかし、WST-8アッセイにおけるIC50値は、200μMにおけるこの細胞生存率は>50%であったため、200μMより高く評価された。
【0071】
本発明の方法によるアッセイ、ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensの予測精度
本発明の方法によるアッセイの感度(LLNA又はヒトデータにおける陽性に対する本発明の方法によるアッセイにおける陽性結果の百分率)、特異度(LLNA又はヒトデータにおける陰性に対する本発明の方法によるアッセイにおける陰性結果の百分率)、及び正確度(補正後の予測値の総合的な百分率)を、クーパー(Cooper)統計量(Cooperら、1979年)に基づき算出した。ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensの性能パラメーターも同様に算出した。
【0072】
本発明の方法によるアッセイ、ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensにおいて得られた結果を表4に一覧し、そして、本発明の方法によるアッセイ、ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensのLLNA又はヒトでの試験結果に対する正確度、感度及び特異度の計算結果を表5及び表6に一覧する。
【0073】
表4.本発明による方法、ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensによる結果の概要.
【表6】
P:陽性,N: 陰性
1: DB-ALM, 2013, 2: Tzutzuy et al., 2014
【0074】
表5.本発明による方法、ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensの予測精度の比較.
【表7】
【0075】
表6.本発明による方法、ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensの予測精度の比較.
【表8】
【0076】
表5及び表6から、本発明に係る方法のLLNAに対する正確度、感度及び特異度は、それぞれ96.4%、95.0%及び100.0%と算出され良好な結果を得た。
ケラチノセンス(登録商標)のLLNAに対するものは、それぞれ89.3%、85.0%及び100.0%と算出され、そしてヒトデータに対するものは、それぞれ92.2%、89.5%及び100.0%と算出された。
LuSensのLLNAに対するものは、それぞれ89.3%、90.0%及び87.5%と算出され、そして、ヒトデータに対するものは、それぞれ92.9%、94.7%及び88.9%と算出された。
【0077】
本発明の試験の結果、本発明の方法は、正確度(%)、感度(%)及び特異度(%)において、上記のとおり優れた方法であることが示された。
また、本発明の方法では安息香酸フェニル及びオイゲノールの結果は明らかに陽性と示された(これらは、ケラチノセンス(登録商標)又はLuSensにおいて偽陰性であった。表4参照)。
ケラチノセンス(登録商標)及びLuSensの両試験法において偽陰性となった安息香酸フェニルは、誘導倍率による評価では、細胞生存率が減少するにつれ誘導倍率も減少し偽陰性となったが、生細胞数で補正したnAAでは濃度依存的な増加が認められ正しく陽性と示された。
これらの事実は、予測精度に関し、従来の同様の方法と比較して、nAAを用いて達成されたより良い改善を示している。
【0078】
結果より、ミトコンドリア還元酵素活性及びウミシイタケルシフェラーゼ活性に基づく細胞毒性試験結果の比較において、桂皮アルデヒドのIC50値を61.9μMと算出し、そして200μMにおける細胞生存率を細胞毒性試験に基づくrLuc活性において0.9%とした。
しかしながら、WST-8アッセイにおけるIC50値は200μM以上と評価された(図1)。
以上から、既存のアッセイ法では50%以上の細胞生存率をクリアしている200μMの用量ではrLucは殆ど活性が認められない結果となった。
同じエンドポイントであるARE依存性のレポーター遺伝子においても同様の影響を及ぼしている可能性が考えられ、rLucを指標とした細胞毒性評価の方が、化学物質がARE依存性の遺伝子発現に与える影響を正しく評価可能であると考えられた。
【0079】
本明細書中の参考文献は以下を参照のこと。
・Cooper,J.A. Saracci,R. and Cole,P.(1979).Describing the validity of carcinogen screening tests, Br. J. Cancer. 39,87.
・DB-ALM(INVITTOX).(2013).Protocol 155.
・Mertl E, Riegel E, Gl&uuml;ck N, Ettenberger-Bornberg G, Lin G, Auer S, Haller M, Wlodarczyk A, Steurer C, Kirchnawy C, Czerny T.(2019). A dual luciferase assay for evaluation of skin sensitizing potential of medical devices. Molecular Biology Reports. 46,5089-5102.
・European Union(EU).(2013). Ban on Animal Testing.
・Kinber,I., Basketter,D.A. Gerberick,G.F., Ryan,C.A., and Dearman,R.J., 2011. Chemical allergy: Translating biology into hazard Characterization. Toxicol. Sci. 120,238-268.
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・OECD(2018). Key event based test guideline 442D. In vitro skin sensitization assays addressing the AOP key event on keratinocyte activation OECD guidelines for the testing of chemicals.
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・Roger E, Graham E, Andreas N.(2010). Performance of a novel keratinocyte-based reporter cell line to screen skin sensitizers in vitro. Toxicology and Applied Pharmacology 245, 281-290.
・The Interagency Coordinating Committee on the Validation of Alternative Methods
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・Takeyoshi M, Kuga N and Yamasaki K.(2003). Development of a high-performance reporter plasmid for detection of chemicals with androgenic activity. Arch Toxicol. 77(5);274-9
・Tzutzuy R, et al. (2014). LuSens: A keratinocyte based ARE reporter gene assay for use in integrated testing strategies for skin sensitization hazard identification. Toxicology in Vitro 28, 1482-1497.
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発発明の方法は、種々の化粧品、医薬品、生活用品その他の製品に対する皮膚感作性試験に適用可能であり、より簡便で高精度な方法を提供可能とするものである。
【0081】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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