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▶ ダイアボンド工業株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059289
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】含フッ素重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20220406BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20220406BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20220406BHJP
   C08L 27/20 20060101ALI20220406BHJP
   C08L 29/10 20060101ALI20220406BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220406BHJP
   C09D 123/04 20060101ALI20220406BHJP
   C09D 123/10 20060101ALI20220406BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20220406BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220406BHJP
【FI】
C08L27/12
C08L27/18
C08L27/16
C08L27/20
C08L29/10
C08K5/00
C09D123/04
C09D123/10
C09D127/12
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166941
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】591158690
【氏名又は名称】ダイアボンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】守屋 雅博
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BD121
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002BE041
4J002EA016
4J002EA026
4J002EB116
4J002EN026
4J002FD206
4J002GH00
4J038CB031
4J038CB091
4J038CD111
4J038CD121
4J038CD131
4J038JA01
4J038JA11
4J038KA06
4J038MA06
4J038MA09
4J038NA24
(57)【要約】
【課題】媒体中にて含フッ素重合体が膨潤していることが防止され、含フッ素重合体が媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を提供する。
【解決手段】(A)含フッ素重合体と、前記(A)含フッ素重合体を溶解する(B)媒体と、を含み、前記(B)媒体が、分散凝集パラメータδ、極性凝集パラメータδおよび水素結合凝集パラメータδの各成分に基づく溶解度パラメータの、極性凝集パラメータδが1.10未満、水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を、前記(B)媒体中に15質量%以上含み、下記式(1)
RED=R/Ra・・・(1)
(式(1)中、Rは(A)含フッ素重合体の相互作用半径を表し、RaはRa={4×(δD1-δD2+(δP1-δP2+(δH1-δH21/2で表される溶解指数であり、(A)含フッ素重合体の、分散凝集パラメータをδD1、極性凝集パラメータをδP1、水素結合凝集パラメータをδH1と表し、(B)媒体の分散凝集パラメータをδD2、極性凝集パラメータをδP2、水素結合凝集パラメータをδH2と表す。)で算出されるRED値が1.0未満である含フッ素重合体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)含フッ素重合体と、前記(A)含フッ素重合体を溶解する(B)媒体と、を含み、
前記(B)媒体が、分散凝集パラメータδ、極性凝集パラメータδおよび水素結合凝集パラメータδの各成分に基づく溶解度パラメータの、極性凝集パラメータδが1.10未満、水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を、前記(B)媒体中に15質量%以上含み、
下記式(1)
RED=R/Ra・・・(1)
(式(1)中、Rは(A)含フッ素重合体の相互作用半径を表し、RaはRa={4×(δD1-δD2+(δP1-δP2+(δH1-δH21/2で表される溶解指数であり、(A)含フッ素重合体の、分散凝集パラメータをδD1、極性凝集パラメータをδP1、水素結合凝集パラメータをδH1と表し、(B)媒体の分散凝集パラメータをδD2、極性凝集パラメータをδP2、水素結合凝集パラメータをδH2と表す。)で算出されるRED値が1.0未満である含フッ素重合体組成物。
【請求項2】
前記第1の媒体の、極性凝集パラメータδが0.10以下、水素結合凝集パラメータδが1.8以下である請求項1に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項3】
前記(B)媒体が、フッ素系溶媒を含有しない請求項1または2に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項4】
前記第1の溶媒が、アルカン及びシクロアルカンからなる群から選択された少なくとも1種の有機溶媒である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項5】
前記第1の溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、2,2,4-トリメチルペンタン、トリエチルアミン、ナフテンおよびヘキサフルオロベンゼンからなる群から選択された少なくとも1種の有機溶媒である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項6】
前記(A)含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンとプロピレンとフッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンとエチレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位を有する共重合体からなる群から選択された少なくとも1種の共重合体である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項7】
前記(A)含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体であり、テトラフルオロエチレンの割合が40モル%以上70モル%以下、プロピレンの割合が30モル%以上60モル%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【請求項8】
コーティング剤用である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の含フッ素重合体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体が媒体に溶解した含フッ素重合体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素系ゴム等の含フッ素重合体は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐候性等の特性に優れていることから、種々の用途に使用されている。
【0003】
フッ素系ゴム等の含フッ素重合体の用途として、例えば、部材に耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐候性等の特性を付与するために、部材の表面に塗布するコーティング剤や塗料が挙げられる。耐熱性や耐候性等の特性を付与するためのフッ素ゴム塗料組成物として、(a)フッ素ゴム、(b)加硫剤、(c)有機溶剤、及び(d)水を含む組成物であって、該組成物の全体量を基準として(d)成分を0.5~20質量%含有する組成物が提案されている(特許文献1)。特許文献1では、フッ素ゴム塗料組成物の粘度が安定し、可使時間が長くなるだけではなく、長期の保存安定性が得られる。
【0004】
また、優れた塗膜外観を得ることができるフッ素ゴム塗料組成物として、フッ素ゴム溶液及び加硫剤からなるフッ素ゴム塗料用組成物であって、前記フッ素ゴム溶液は、フッ素ゴムを良溶剤及び増粘剤からなる溶剤組成物に溶解させたものであり、前記フッ素ゴム塗料用組成物は、更に、消泡有機液体からなるものであるフッ素ゴム塗料用組成物が提案されている(特許文献2)。
【0005】
一方で、フッ素系ゴム等の含フッ素重合体がコーティング剤として使用される場合、含フッ素重合体の塗膜の均一化、含フッ素重合体の塗工性等の点から、含フッ素重合体が有機溶媒等の媒体に十分に溶解している含フッ素重合体組成物の状態にて部材に塗布することが重要である。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2のフッ素ゴム塗料組成物では、フッ素ゴムを溶解または分散させて塗料化する媒体中でフッ素ゴムが膨潤、沈殿する傾向があり、媒体へのフッ素ゴムの溶解が十分ではなく、媒体へのフッ素ゴムの溶解性を改善する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-12813号公報
【特許文献2】特開2006-70132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、媒体中にて含フッ素重合体が膨潤していることが防止され、含フッ素重合体が媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1](A)含フッ素重合体と、前記(A)含フッ素重合体を溶解する(B)媒体と、を含み、
前記(B)媒体が、分散凝集パラメータδ、極性凝集パラメータδおよび水素結合凝集パラメータδの各成分に基づく溶解度パラメータの、極性凝集パラメータδが1.10未満、水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を、前記(B)媒体中に15質量%以上含み、
下記式(1)
RED=R/Ra・・・(1)
(式(1)中、Rは(A)含フッ素重合体の相互作用半径を表し、RaはRa={4×(δD1-δD2+(δP1-δP2+(δH1-δH21/2で表される溶解指数であり、(A)含フッ素重合体の、分散凝集パラメータをδD1、極性凝集パラメータをδP1、水素結合凝集パラメータをδH1と表し、(B)媒体の分散凝集パラメータをδD2、極性凝集パラメータをδP2、水素結合凝集パラメータをδH2と表す。)で算出されるRED値が1.0未満である含フッ素重合体組成物。
[2]前記第1の媒体の、極性凝集パラメータδが0.10以下、水素結合凝集パラメータδが1.8以下である[1]に記載の含フッ素重合体組成物。
[3]前記(B)媒体が、フッ素系溶媒を含有しない[1]または[2]に記載の含フッ素重合体組成物。
[4]前記第1の溶媒が、アルカン及びシクロアルカンからなる群から選択された少なくとも1種の有機溶媒である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の含フッ素重合体組成物。
[5]前記第1の溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、2,2,4-トリメチルペンタン、トリエチルアミン、ナフテンおよびヘキサフルオロベンゼンからなる群から選択された少なくとも1種の有機溶媒である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の含フッ素重合体組成物。
[6]前記(A)含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンとプロピレンとフッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンとエチレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位を有する共重合体からなる群から選択された少なくとも1種の共重合体である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の含フッ素重合体組成物。
[7]前記(A)含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体であり、テトラフルオロエチレンの割合が40モル%以上70モル%以下、プロピレンの割合が30モル%以上60モル%以下である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の含フッ素重合体組成物。
[8]コーティング剤用である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の含フッ素重合体組成物。
【0010】
本明細書中、「(A)含フッ素重合体を溶解する(B)媒体」とは、25℃、1013ヘクトパスカル(1.0気圧)の条件下にて、(A)含フッ素重合体を溶解する(B)媒体を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の含フッ素重合体組成物の態様によれば、極性凝集パラメータδが1.10未満、且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を、前記(B)媒体中に15質量%以上含み、(A)含フッ素重合体と(B)媒体の溶解度パラメータから算出される溶解指数Raに対する(A)含フッ素重合体の相互作用半径Rの値が1.0未満であることにより、媒体にて含フッ素重合体が膨潤していることが防止され、含フッ素重合体が媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を得ることができる。従って、本発明の含フッ素重合体組成物では、含フッ素重合体の沈殿の発生が防止されている。
【0012】
本発明の含フッ素重合体組成物の態様によれば、第1の媒体の、極性凝集パラメータδが0.10以下、水素結合凝集パラメータδが1.8以下であることにより、媒体での含フッ素重合体の膨潤発生がより確実に防止され、含フッ素重合体がより確実に媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の含フッ素重合体組成物について、詳細を説明する。本発明の含フッ素重合体組成物は、(A)含フッ素重合体と、前記(A)含フッ素重合体を溶解する(B)媒体と、を含み、前記(B)媒体が、分散凝集パラメータδ、極性凝集パラメータδおよび水素結合凝集パラメータδの各成分に基づく溶解度パラメータの、極性凝集パラメータδが1.10未満、水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を、前記(B)媒体中に15質量%以上含み、下記式(1)
RED=R/Ra・・・(1)
(式(1)中、Rは(A)含フッ素重合体の相互作用半径を表し、RaはRa={4×(δD1-δD2+(δP1-δP2+(δH1-δH21/2で表される溶解指数であり、(A)含フッ素重合体の、分散凝集パラメータをδD1、極性凝集パラメータをδP1、水素結合凝集パラメータをδH1と表し、(B)媒体の分散凝集パラメータをδD2、極性凝集パラメータをδP2、水素結合凝集パラメータをδH2と表す。)で算出されるRED値が1.0未満である。
【0014】
<(A)含フッ素重合体>
(A)成分である含フッ素重合体は、フッ素を含むモノマーを構成単位として含む重合体であれば、特に限定されず、例えば、フッ素系ゴムが好ましい。フッ素系ゴムとしては、例えば、テトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンとプロピレンとフッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位を有する共重合体等のテトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM)フッ素系ゴム;テトラフルオロエチレンとエチレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体等のテトラフルオロエチレン-エチレン系フッ素系ゴム;フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体等のフッ化ビニリデン系(FKM)フッ素系ゴム;テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位を有する共重合体等のテトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系(FFKM)フッ素系ゴム等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
これらの含フッ素重合体のうち、耐熱性にさらに優れる点から、テトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体が好ましく、テトラフルオロエチレンの割合が40モル%以上70モル%以下且つプロピレンの割合が30モル%以上60モル%以下であるテトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体がより好ましく、テトラフルオロエチレンの割合が45モル%以上65モル%以下且つプロピレンの割合が35モル%以上55モル%以下であるテトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体が特に好ましい。
【0016】
含フッ素重合体が媒体に溶解されている本発明の含フッ素重合体組成物を得るには、含フッ素重合体の溶解度パラメータと相互作用半径(R)に応じて、所定の溶解度パラメータを有する媒体が選択される必要がある。選択される媒体についての詳細は、後述する。
【0017】
含フッ素重合体の溶解度パラメータとしては、ハンセン溶解度パラメータ(Hansen Solubility Parameters:HSP)を使用する。ハンセン溶解度パラメータは、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかという溶解性を表す指標であり、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散凝集パラメータである分散力項δ、極性凝集パラメータである極性項δおよび水素結合凝集パラメータである水素結合項δの3次元に拡張して3次元空間に示したものである。分散力項δはファンデルワールス力による効果、極性項δは双極子モーメント力の効果、水素結合項δは水素結合力の効果を示す。ハンセン溶解度パラメータは、分散凝集パラメータδ、極性凝集パラメータδおよび水素結合凝集パラメータδの各成分に基づく溶解度パラメータである。
【0018】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)というソフトを用いて算出することができる。コンピュータソフトウエアHSPiPには、HSP距離を計算する機能と様々な重合体と溶媒もしくは非溶媒のハンセン溶解度パラメータを記載したデータベースが含まれている。各重合体の純溶媒および良溶媒と貧溶媒の混合溶媒に対する溶解性を調べ、HSPiPソフトにその結果を入力し、D:分散力項、P:極性項、H:水素結合項、R:相互作用半径を算出する。従って、重合体として含フッ素重合体を用いることで、HSPiPソフトにて、含フッ素重合体の分散凝集パラメータδD1、極性凝集パラメータδP1、水素結合凝集パラメータδH1を特定でき、また、含フッ素重合体の相互作用半径(R)を特定できる。また、コンピュータソフトウエアHSPiPのデータベースに登録されている重合体に関してはその値を、登録されていない重合体に関しては、コンピュータソフトウエアHSPiPを用いてその化学構造からの推算値を採用することができる。
【0019】
<(B)媒体>
(B)成分である媒体は、含フッ素重合体を溶解する媒体である。本発明の含フッ素重合体組成物では、含フッ素重合体は、液相の媒体に溶解している。(B)成分である媒体としては、例えば、有機溶媒等が挙げられる。
【0020】
本発明の含フッ素重合体組成物では、下記式(1)
RED=Ra/R・・・(1)
(式(1)中、Rは(A)含フッ素重合体の相互作用半径(ハンセン球の半径)を表し、RaはRa={4×(δD1-δD2+(δP1-δP2+(δH1-δH21/2で表される含フッ素重合体のHSPと溶媒のHSPの間の距離であり、(A)含フッ素重合体の、分散凝集パラメータをδD1、極性凝集パラメータをδP1、水素結合凝集パラメータをδH1と表し、(B)媒体の分散凝集パラメータをδD2、極性凝集パラメータをδP2、水素結合凝集パラメータをδH2と表す。)で算出されるRED(Relative Energy Difference)値が1.0未満である。式(1)中のRaは、物質(本発明では、(A)成分である含フッ素重合体)の溶解度パラメータと媒体(本発明では、(B)成分である媒体)の溶解度パラメータとの距離を求める式である。すなわち、Raは、(A)含フッ素重合体と(B)媒体の溶解度パラメータから算出される溶解指数である。また、Raに対するRの比率であるRED値は、物質(本発明では、(A)成分である含フッ素重合体)が媒体(本発明では、(B)成分である媒体)に溶解するか否かの指標である。一般的には、RED値が1.0未満であると、物質の相互作用半径の内部に媒体のHSPが位置することとなり、物質が媒体に溶解する可能性が高いことになる。
【0021】
しかしながら、(A)成分である含フッ素重合体は、媒体に溶解する可能性が高いことになるRED値が1.0未満の条件に基づいて媒体を選択しただけでは、媒体に十分溶解しない。
【0022】
本発明の含フッ素重合体組成物では、(B)成分である媒体は、所定の溶解度パラメータを有する(b1)第1の媒体を含んでいる。(b1)成分である第1の媒体の溶解度パラメータとしては、含フッ素重合体と同じく、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を使用する。本発明の含フッ素重合体組成物では、第1の媒体は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)のうち、極性凝集パラメータδが1.10未満、水素結合凝集パラメータδが1.9以下の媒体である。また、本発明の含フッ素重合体組成物では、(b1)成分である第1の媒体は、(B)成分である媒体中に15質量%以上含まれている。
【0023】
上記したHSPiPソフトにて、有機溶媒等の媒体の極性凝集パラメータδ、水素結合凝集パラメータδを特定できるので、上記したHSPiPソフトを用いることで極性凝集パラメータδが1.10未満、水素結合凝集パラメータδが1.9以下である第1の媒体を選択することができる。また、コンピュータソフトウエアHSPiPのデータベースに登録されている溶媒に関してはその値を採用することができる。
【0024】
上記から、本発明の含フッ素重合体組成物では、RED値が1.0未満の条件だけではなく、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下である第1の媒体が、(B)成分である媒体中に15質量%以上含まれていることが必要である。
【0025】
本発明の含フッ素重合体組成物では、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を、(B)成分である媒体中に15質量%以上含み、(A)含フッ素重合体の相互作用半径Rに対する(A)含フッ素重合体と(B)成分である媒体の溶解度パラメータから算出される溶解指数Raの値が1.0未満であることにより、(B)成分である媒体にて含フッ素重合体が膨潤していることが防止され、含フッ素重合体が(B)成分である媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を得ることができる。従って、本発明の含フッ素重合体組成物では、含フッ素重合体の沈殿の発生が防止されている。
【0026】
第1の媒体としては、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の媒体であれば、特に限定されないが、(B)成分である媒体での含フッ素重合体の膨潤発生がより確実に防止され、含フッ素重合体がより確実に媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を得る点から、第1の媒体の極性凝集パラメータδについては1.00以下が好ましく、0.50以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.10以下が特に好ましい。また、含フッ素重合体の膨潤発生がより確実に防止され、含フッ素重合体がより確実に媒体に溶解している点から、第1の媒体の水素結合凝集パラメータδについては1.8以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.5以下が特に好ましい。第1の媒体の極性凝集パラメータδの下限値は低いほど好ましく、0が特に好ましく、水素結合凝集パラメータδについても下限値は低いほど好ましく、0が特に好ましい。
【0027】
なお、第1の媒体は、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の媒体であれば、分散凝集パラメータδは、特に限定されず、例えば、14.0~18.0の範囲が挙げられる。
【0028】
(B)成分である媒体中における第1の媒体の含有量の下限値は、15質量%である。第1の媒体の含有量の下限値は、RED値を1.0未満に確実に維持しつつ、(B)成分である媒体での含フッ素重合体の膨潤発生がより確実に防止され、含フッ素重合体がより確実に(B)成分である媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を得る点から、18質量%が好ましく、20質量%が特に好ましい。一方で、(B)成分である媒体中における第1の媒体の含有量の上限値は、(B)成分である媒体での含フッ素重合体の膨潤発生が確実に防止され、含フッ素重合体が確実に(B)成分である媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を得る点から、55質量%が好ましい。第1の媒体の含有量の上限値は、RED値を1.0未満に確実に維持しつつ、(B)成分である媒体での含フッ素重合体の膨潤発生がより確実に防止され、含フッ素重合体がより確実に(B)成分である媒体に溶解している含フッ素重合体組成物を得る点から、50質量%がより好ましく、45質量%が特に好ましい。
【0029】
第1の溶媒としては、例えば、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アルカン、シクロアルカンが挙げられる。具体的には、有機溶媒としては、例えば、ヘキサン(n-ヘキサン;分散凝集パラメータδが14.9、極性凝集パラメータδが0、水素結合凝集パラメータδが0)、ヘプタン(n-ヘプタン;分散凝集パラメータδが15.3、極性凝集パラメータδが0、水素結合凝集パラメータδが0)、シクロヘキサン(分散凝集パラメータδが16.8、極性凝集パラメータδが0、水素結合凝集パラメータδが0.2)、メチルシクロヘキサン(分散凝集パラメータδが16.0、極性凝集パラメータδが0、水素結合凝集パラメータδが1.0)、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン(分散凝集パラメータδが14.8、極性凝集パラメータδが0.1、水素結合凝集パラメータδが0.1)、2,2,4-トリメチルペンタン(分散凝集パラメータδが14.1、極性凝集パラメータδが0、水素結合凝集パラメータδが0)、トリエチルアミン(分散凝集パラメータδが15.5、極性凝集パラメータδが0.4、水素結合凝集パラメータδが1.0)、シクロペンタン(分散凝集パラメータδが16.4、極性凝集パラメータδが0、水素結合凝集パラメータδが1.8)等のナフテン、ヘキサフルオロベンゼン(分散凝集パラメータδが16.0、極性凝集パラメータδが0、水素結合凝集パラメータδが0)等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(B)成分である媒体は、RED値を1.0未満とするために、(b1)成分である第1の媒体以外に、他の媒体、すなわち、(b2)成分である第2の媒体を含んでいてもよい。(b2)成分である第2の媒体は、極性凝集パラメータδが1.10以上および/または水素結合凝集パラメータδが1.9超の媒体である。従って、(B)成分である媒体は、(b1)成分である第1の媒体と(b2)成分である第2の媒体からなる混合物、(b1)成分である第1の媒体と(b2)成分である第2の媒体とを含む混合物でもよい。
【0031】
RED値が1.0未満であれば、第2の媒体の種類は、特に限定されず、極性凝集パラメータδが1.10以上または水素結合凝集パラメータδが1.9超の有機溶媒が挙げられる。具体的には、例えば、メチルエチルケトン(分散凝集パラメータδが16.0、極性凝集パラメータδが9.0、水素結合凝集パラメータδが5.1)、酢酸エチル(分散凝集パラメータδが15.8、極性凝集パラメータδが5.3、水素結合凝集パラメータδが7.2)、メチルイソブチルケトン(分散凝集パラメータδが15.3、極性凝集パラメータδが6.1、水素結合凝集パラメータδが4.1)、アセトン(分散凝集パラメータδが15.5、極性凝集パラメータδが10.4、水素結合凝集パラメータδが7.0)、シクロヘキサノン(アノン)(分散凝集パラメータδが17.8、極性凝集パラメータδが8.4、水素結合凝集パラメータδが5.1)、1,4-ジオキサン(分散凝集パラメータδが17.5、極性凝集パラメータδが1.8、水素結合凝集パラメータδが9.0)、メチルアクリレート(分散凝集パラメータδが15.3、極性凝集パラメータδが6.7、水素結合凝集パラメータδが9.4)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(分散凝集パラメータδが15.6、極性凝集パラメータδが5.6、水素結合凝集パラメータδが9.8)等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
なお、第2の媒体の分散凝集パラメータδは、特に限定されず、第1の媒体の分散凝集パラメータδと重複していてもよい。第2の媒体の分散凝集パラメータδとしては、例えば、14.0~18.0の範囲が挙げられる。
【0033】
極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下である第1の媒体が15質量%以上含まれていれば、(B)成分である媒体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、特に限定されない。(B)成分である媒体のHSPとしては、例えば、分散凝集パラメータδについては、14.0~18.0が好ましく、14.5~16.5が特に好ましい。極性凝集パラメータδについては、3.5~8.0が好ましく、4.0~7.5が特に好ましい。水素結合凝集パラメータδについては、3.0~6.5が好ましく、3.5~6.2が特に好ましい。(B)成分である媒体中におけるフッ素系溶媒の含有量は、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、コストを抑える等の点から、フッ素系溶媒を含有しない、すなわち、0質量%が特に好ましい。
【0034】
(B)成分である媒体の、含フッ素重合体組成物中における配合量は、特に限定されず、用途等に応じて適宜選択可能であるが、例えば、含フッ素重合体がより確実に(B)成分である媒体に溶解しつつ、含フッ素重合体組成物の塗工性を確実に得、また、含フッ素重合体の有する特性を含フッ素重合体組成物に確実に付与する点から、50質量%以上90質量%以下が好ましく、45質量%以上85質量%以下が特に好ましい。
【0035】
含フッ素重合体組成物の粘度は、特に限定されないが、塗工性の点から、200mPa・s以上100000mPa・s以下が好ましく、300mPa・s以上50000mPa・s以下が特に好ましい。上記した含フッ素重合体組成物の粘度は、20℃における粘度である。
【0036】
含フッ素重合体組成物の態様としては、例えば、ペースト状、糊状等が挙げられる。
【0037】
本発明の含フッ素重合体組成物の用途としては、特に限定されず、例えば、部材の表面に耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐候性等の特性を付与するためのコーティング剤用等が挙げられる。
【0038】
本発明の含フッ素重合体組成物では、(A)含フッ素重合体と(B)媒体以外に、必要に応じて、任意成分として各種の添加剤を配合してもよい。各種の添加剤としては、例えば、可塑剤、耐候安定剤、充填剤、揺変性付与剤、貯蔵安定性向上剤(脱水剤)、接着付与剤、着色剤等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【実施例0039】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【0040】
実施例で使用する成分は、以下の通りである。
(A)含フッ素重合体
含フッ素重合体として、下記フッ素ゴムを使用した。
AFLAS 400E;テトラフルオロエチレンとプロピレンガスを原料モノマーとして乳化重合法により合成したテトラフルオロエチレンとプロピレンに基づく繰り返し単位を有する共重合体(FEPM系フッ素ゴム)、分散凝集パラメータδが15.0、極性凝集パラメータδが5.2、水素結合凝集パラメータδが6.3、AGC株式会社。
【0041】
(B)媒体
使用する媒体は以下の通りである。
(b1)第1の媒体
Hex(Nh):n-ヘキサン
Hep:n-ヘプタン
Ch:シクロヘキサン
Mch:メチルシクロヘキサン
HMN:2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン
TMP:2,2,4-トリメチルペンタン
CP:シクロペンタン
Hfb:ヘキサフルオロベンゼン
TEA:トリエチルアミン
【0042】
(b2)第2の媒体
Ac:アセトン
Mek:メチルエチルケトン
Ea:酢酸エチル
Mibk:メチルイソブチルケトン
Mac:メチルアクリレート
Anone:シクロヘキサノン
1,4-dio:1,4-ジオキサン
PGMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0043】
第1の媒体と第2の媒体以外の媒体
Ben:ベンゼン
DIPB:m-ジイソプロピルベンゼン
TOP:トリオクチルホスフィン
Btf:ベンゾトリフルオリド
Butylace:n-ブチルアセテート
Tlu:トルエン
【0044】
上記した各媒体について、分散凝集パラメータδ、極性凝集パラメータδ、水素結合凝集パラメータδを下記表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
上記した各媒体をのうち、所定の媒体を所定割合配合し、混合して、(B)成分である媒体を調製した。(B)成分である媒体の調製に使用した各媒体の配合割合(質量部)、(B)成分である媒体の分散凝集パラメータδ、極性凝集パラメータδ及び水素結合凝集パラメータδを下記表2~7に示す。
【0047】
(B)成分である媒体45質量部に含フッ素重合体であるフッ素ゴム5質量部を添加して、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製、「ペイントシェーカー」)を用いて、室温(25℃)にて、混合時間70分の条件にて混合処理をして含フッ素重合体組成物を作製した。作製した含フッ素重合体組成物のRED値を下記表2~7に示す。
【0048】
評価項目
溶解性
(B)成分である媒体と含フッ素重合体との混合処理後、24時間静置してから、含フッ素重合体組成物を目視にて観察し、含フッ素重合体が溶解しているか否かを評価した。溶解性の評価結果を下記表2~7に示す。なお、表2~7中、含フッ素重合体が溶解している場合は「1」、含フッ素重合体が溶解しておらず、含フッ素重合体の膨潤、沈殿現象が認められる場合には、「0」と表記した。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
上記表1~7に示すように、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を、(B)成分である媒体中に15質量%以上含み、含フッ素重合体と(B)成分である媒体の溶解度パラメータから算出される溶解指数Raに対する含フッ素重合体の相互作用半径Rの値が1.0未満である実施例の含フッ素重合体組成物では、いずれも、媒体中にて含フッ素重合体が膨潤、沈殿していることが防止され、含フッ素重合体が媒体に溶解した含フッ素重合体組成物を得ることができた。
【0056】
従って、実施例の含フッ素重合体組成物では、優れた塗工性が得られ、含フッ素重合体の塗膜を均一化できることが判明した。上記から、実施例の含フッ素重合体組成物をコーティング剤として部材に塗工することで、部材に耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐候性等の特性を付与できることが判明した。
【0057】
一方で、上記表1~7に示すように、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体を含んでいない比較例の含フッ素重合体組成物、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体の含有量が(B)成分である媒体中に15質量%未満である比較例の含フッ素重合体組成物、極性凝集パラメータδが1.10未満且つ水素結合凝集パラメータδが1.9以下の第1の媒体の含有量が(B)成分である媒体中に15質量%以上であるが、溶解指数Raに対する含フッ素重合体の相互作用半径Rの値が1.0以上である比較例の含フッ素重合体組成物では、いずれも、媒体中にて含フッ素重合体が膨潤、沈殿し、含フッ素重合体が媒体に溶解した含フッ素重合体組成物を得ることができなかった。
【0058】
従って、比較例の含フッ素重合体組成物では、塗工性が得られず、含フッ素重合体の塗膜を均一化できないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の含フッ素重合体組成物は、媒体中にて含フッ素重合体が膨潤していることが防止され、含フッ素重合体が媒体に溶解している含フッ素重合体組成物なので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、コーティング剤の分野で利用することができる。