IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ OATアグリオ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059334
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】溶出が抑制された農薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 47/24 20060101AFI20220406BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220406BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20220406BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
A01N47/24 C
A01P7/04
A01N25/04
A01N25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167000
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】310022224
【氏名又は名称】OATアグリオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】住吉 隼斗
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC01
4H011BB13
4H011BC06
4H011DA02
4H011DA14
4H011DD01
4H011DF02
(57)【要約】
【課題】農薬化合物の初期の溶出が抑制され、播種同時処理に使用可能な農薬組成物を提供すること。
【解決手段】
(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤、並びに
(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物
を含む、溶出が抑制された農薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤、並びに
(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物
を含む、溶出が抑制された農薬組成物。
【請求項2】
前記(A)溶剤が、芳香族カルボン酸エステル及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の農薬組成物。
【請求項3】
前記(A)溶剤が、安息香酸エステル及びO-アシルクエン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の農薬組成物。
【請求項4】
前記(A)溶剤が、安息香酸ベンジルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の農薬組成物。
【請求項5】
前記(A)溶剤が、O-アセチルクエン酸トリブチルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の農薬組成物。
【請求項6】
前記(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物が、カーバメート系殺虫化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の農薬組成物。
【請求項7】
前記(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物が、ベンフラカルブである、請求項1~6のいずれか一項に記載の農薬組成物。
【請求項8】
前記農薬組成物が粒状である、請求項1~7のいずれか一項に記載の農薬組成物。
【請求項9】
(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物を、(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、粒状農薬組成物。
【請求項10】
ベンフラカルブを、沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、ベンフラカルブの溶出抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶出が抑制された農薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
就農人口が減少し、かつ高齢化している近年の農業環境において、作物の栽培管理における農作業の省力化が求められている。
従来、水稲分野における粒剤の処理技術として、移植3日前から移植当日に農業従事者自らが施用する方法を中心に、多数の殺虫剤又は殺菌剤及びこれらの混合粒剤が商品化され、普及してきた。
しかしながら、これらの技術における粒剤施用時期が田植え直前の繁忙期と重なり、農業従事者、特に中規模又は大規模経営の農業従事者にとって前記粒剤施用作業がかなりの労働負担となることから、さらなる省力化技術が切望されていた。
【0003】
このような状況下において、近年急速に普及している処理技術は、育苗箱粒剤の播種同時処理技術である。当該技術は、一連の播種工程の中で同時に育苗箱粒剤が処理されることより、画期的な防除手段として位置付けられている。
一方、一般的な農薬製剤は、有効成分である農薬化合物が製剤の中から短期間で溶出することが多いため、播種同時処理に用いることは難しい。
【0004】
そこで、農薬製剤中の有効成分の溶出を抑制する各種方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
特許文献1には、農薬活性成分、1種類の熱可塑性物質及び無機系希釈担体からなる農薬粒剤を、(i)混合工程、(ii)混練工程、及び(iii)押出工程を通して製造する方法において、該熱可塑性材料の凝固点以上、融点未満の温度で、押出造粒を行う農薬粒剤の製造方法が記載されている。
特許文献2には、粉状農薬組成物が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる被覆粒状農薬組成物が記載されている。
しかしながら、これらの方法では、有効成分の初期の溶出抑制が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-252702号公報
【特許文献2】特開2013-049721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、農薬化合物の初期の溶出が抑制され、播種同時処理に使用可能な農薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の溶剤に特定の農薬化合物を溶解させて担体に含浸させることで、農薬化合物の初期の溶出が抑制されることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0009】
項1.
(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤、並びに
(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物
を含む、溶出が抑制された農薬組成物。
項2.
前記(A)溶剤が、芳香族カルボン酸エステル及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の農薬組成物。
項3.
前記(A)溶剤が、安息香酸エステル及びO-アシルクエン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の農薬組成物。
項4.
前記(A)溶剤が、安息香酸ベンジルである、項1~3のいずれか一項に記載の農薬組成物。
項5.
前記(A)溶剤が、O-アセチルクエン酸トリブチルである、項1~3のいずれか一項に記載の農薬組成物。
項6.
前記(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物が、カーバメート系殺虫化合物である、項1~5のいずれか一項に記載の農薬組成物。
項7.
前記(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物が、ベンフラカルブである、項1~6のいずれか一項に記載の農薬組成物。
項8.
前記農薬組成物が粒状である、項1~7のいずれか一項に記載の農薬組成物。
項9.
さらに、(C)固体担体を含む、項1~8のいずれか一項に記載の農薬組成物。
項10.
(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物を、(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、粒状農薬組成物。
項11.
ベンフラカルブを、沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、粒状農薬組成物。
項12.
ベンフラカルブを、沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、ベンフラカルブの溶出抑制剤。
項13.
前記溶剤が安息香酸ベンジル又はO-アセチルクエン酸トリブチルである、項12に記載のベンフラカルブの溶出抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、農薬化合物の初期の溶出が抑制され、播種同時処理に使用可能な農薬組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の農薬組成物について詳細に説明する。
【0012】
農薬組成物
本発明に使用できる溶剤は、(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、及び、lоgPが3.8以上である溶剤(以下、この溶剤を「(A)溶剤」という場合がある。)である。前記(A)溶剤は、(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物を溶解することができる溶剤である。
【0013】
(A)溶剤の沸点は、通常300℃以上であり、好ましくは300℃以上400℃以下であり、より好ましくは320℃以上350℃以下である。
【0014】
(A)溶剤の25℃における水溶解度は、通常0.01ppm以上170ppm以下であり、好ましくは0.1ppm以上50ppm以下であり、より好ましくは1ppm以上20ppm以下である。
【0015】
(A)溶剤のlogPは、通常3.8以上であり、好ましくは3.8以上15以下であり、より好ましくは3.9以上10以下であり、さらに好ましくは4.0以上5.0以下である。
【0016】
前記(A)溶剤として、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0017】
芳香族カルボン酸エステルとして、安息香酸エステル、ナフタレンカルボン酸エステル等のエステル基を1個有する芳香族カルボン酸エステル;フタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テレフタル酸エステル等のエステル基を2個有する芳香族カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0018】
エステル基として、置換基を有していてもよいアルキル基等が挙げられる。置換基を有していてもよいアルキル基には、無置換の(置換基を有しない)アルキル基、及び置換基を有するアルキル基が含まれる。
【0019】
アルキル基としては、特に限定はなく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル等の炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキルが挙げられる。なお、本明細書において、「n-」とはノルマルを、「s-」とはセカンダリーを、「t-」とはターシャリーを示す。
【0020】
置換基としては、特に限定はなく、例えば、ハロゲン原子、C1~6アルコキシ基、C6~10アリール基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、特に限定はなく、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
1~6アルコキシ基としては、特に限定はなく、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシ等が挙げられる。
6~10アリール基としては、特に限定はなく、例えば、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
【0021】
置換基を有するアルキル基としては、例えば、クロロメチル、2-クロロエチル等のハロゲン原子を有するアルキル基;例えば、メトキシメチル、2-メトキシエチル等のC1~6アルコキシ基を有するアルキル基;ベンジル、フェネチル等のC6~10アリール基を有するアルキル基(アリールアルキル基又はアラルキル基ともいう。)等が挙げられる。
置換基を有するアルキル基としては、C6~10アリール基を有するアルキル基が好ましい。
【0022】
エステル基としては、無置換のアルキル基、及びC6~10アリール基を有するアルキル基が好ましい。
【0023】
安息香酸エステルとして、安息香酸アルキル(例えば、安息香酸2-エチルヘキシル、安息香酸ベンジル、安息香酸フェネチル等)等が挙げられる。
ナフタレンカルボン酸エステルとしては、ナフタレンカルボン酸アルキル(例えば、2-ナフタレンカルボン酸ブチル等)等が挙げられる。
フタル酸エステルとしては、フタル酸ジアルキル(例えば、フタル酸ジブチル等)等が挙げられる。
イソフタル酸エステルとしては、イソフタル酸ジアルキル(例えば、イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル等)等が挙げられる。
テレフタル酸エステルとしては、テレフタル酸ジアルキル(例えば、テレフタル酸ジブチル等)等が挙げられる。
【0024】
芳香族カルボン酸エステルとしては、安息香酸エステル及びイソフタル酸エステルが好ましく、安息香酸ベンジルがより好ましい。
【0025】
脂肪族カルボン酸エステルとして、パルミチン酸エステル、オレイン酸エステル、ステアリン酸エステル等のエステル基を1個有する脂肪族カルボン酸エステル;
セバシン酸エステル、アジピン酸エステル、マレイン酸エステル等のエステル基を2個有する脂肪族カルボン酸エステル;
クエン酸エステル等のエステル基を3個有する脂肪族カルボン酸エステル;
O-アシルクエン酸エステル等のエステル基を4個有する脂肪族カルボン酸エステル等が挙げられる。
ここで、アシル基としては、特に限定なく、例えば、アセチル、n-プロパノイル、イソプロパノイル、n-ブチリル、イソブチリル、s-ブチリル、t-ブチリル等の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状アシル基が挙げられる。
【0026】
パルミチン酸エステルとして、パルミチン酸アルキル(例えば、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチル等)等が挙げられる。
オレイン酸エステルとして、オレイン酸アルキル(例えば、オレイン酸メチル等)等が挙げられる。
ステアリン酸エステルとしては、ステアリン酸アルキル(例えば、ステアリン酸エチル等)等が挙げられる。
セバシン酸エステルとして、セバシン酸ジアルキル(例えば、セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)、セバシン酸ジブチル等)等が挙げられる。
アジピン酸エステルとして、アジピン酸ジアルキル(例えば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル等)等が挙げられる。
マレイン酸エステルとして、マレイン酸ジアルキル(例えば、マレイン酸ビス(2-エチルヘキシル等)等が挙げられる。
クエン酸エステルとして、クエン酸トリアルキル(例えば、クエン酸トリブチル、クエン酸トリヘキシル等)等が挙げられる。
O-アシルクエン酸エステルとして、O-アシルクエン酸トリアルキル(例えば、O-アセチルクエン酸トリブチル、O-ブチリルクエン酸トリヘキシル等)等が挙げられる。
【0027】
脂肪族カルボン酸エステルとしては、O-アシルクエン酸エステルが好ましく、O-アセチルクエン酸トリブチルがより好ましい。
これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
前記(A)溶剤の農薬組成物中の濃度は、特に限定されるものではない。取扱い性、生物活性等の観点から、前記(A)溶剤の濃度は、通常、0.01~50質量%程度、好ましくは0.1~30質量%程度、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0029】
本発明に使用できる化合物は、(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物である。農薬化合物は、20℃における水溶解度が8ppm以下であれば特に制限はなく、例えば、殺虫、殺菌、殺ダニ、殺線虫、除草、及び植物成長調整の作用を有する化合物が挙げられる。
【0030】
前記(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物として、例えば、ベンフラカルブ、アラニカルブ、カルボスルファン等のカーバメート系殺虫化合物;
フィプロニル等のフェニルピラゾール系殺虫化合物;
クロラントラニリプロール等のジアミド系殺虫化合物;
トルフェンピラド、テブフェンピラド等のピラゾールカルボキサミド系殺虫化合物;
シフルメトフェン、シエノピラフェン等のβ-ケトニトリル系殺ダニ化合物;
アゾキシストロビン等のストロビルリン系殺菌化合物;
イソチアニル等のチアジアゾールカルボキサミド系殺菌化合物;
チフルザミド等のチアゾールカルボキサミド系殺菌化合物;
ベンゾフェナップ、ピラゾレート等のピラゾール系除草化合物等が挙げられ、ベンフラカルブが好ましい。
【0031】
これらの農薬化合物は、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。あるいは、該農薬化合物と、他の農薬活性成分、例えば、農園芸用殺虫剤成分、除草剤成分、農園芸用殺菌剤成分、植物生物調節剤成分等と混合して用いることもできる。
【0032】
前記(B)農薬化合物の農薬組成物中の濃度は、特に限定されるものではない。取扱い性、生物活性等の観点から、前記(B)農薬化合物の濃度は、通常、0.01~50質量%程度、好ましくは0.1~30質量%程度、より好ましくは0.5~10質量%である。
【0033】
前記(A)溶剤の配合量は、前記(B)農薬化合物1質量部に対して、(A)溶剤を通常0.1~20質量部程度、好ましくは0.5~10質量部程度である。
【0034】
本発明の農薬組成物は、前記(A)溶剤及び前記(B)農薬化合物以外の成分を加えずにそのまま使用してもよいが、通常は液体状、固体状、ガス状等の各種担体と混合して使用され、固体担体と混合することが好ましい。
【0035】
本発明の農薬組成物には、更に必要に応じて、界面活性剤又はその他の農薬用補助剤を添加してもよい。
製剤の形態としては、例えば、乳剤、水和剤、ドライフロアブル剤、フロアブル剤、水溶剤、粒剤、微粒剤、顆粒剤、粉剤、塗布剤、スプレー用製剤、エアゾール製剤、マイクロカプセル製剤、燻蒸用製剤、燻煙用製剤等が挙げられ、粒剤が好ましい。本発明の農薬組成物、及び前記各種担体、添加剤等を含む農薬組成物は、各種製剤形態に製剤化して用いることができる。
【0036】
本発明の農薬組成物は、必要により固体担体を含むことができ、固体担体を含むことが好ましい。
固体担体として、通常、農薬粒剤において用いられる固体担体を使用することができる。固形状担体は、前記(B)農薬化合物を前記(A)溶剤に溶解させた溶液を担持して固体化し、農薬組成物を粒剤化することができる。
本発明の農薬組成物が固体担体を含む場合には、本発明の農薬組成物の全質量に対して40~95質量%程度が好ましく、60~90質量%程度がより好ましい。
【0037】
固体担体としては、非反応性で、かつ、農薬を放出できるような多孔質の担体が挙げられ、例えば、クレー、カオリンクレー、フバサミクレー、カオリン、珪藻土、ベントナイト、酸性白土等の粘土類、タルク類、セラミック、セライト、石英、硫黄、活性炭、炭酸シリカ、水和シリカ、炭酸カルシウム、石膏等の無機鉱物;ドロマイト質石灰石と木材粉塵をベースとした化学担体、セルロース系繊維、木質繊維顆粒、破砕したトウモロコシの穂軸、破砕したピーナッツ殻、砂、粒状の窒素/リン/カリウム(NPK)肥料等が挙げられる。
固体担体の吸水率としては、例えば、吸水率が1~40%、好ましくは10~30%、より好ましくは15~25%である。中でも、固体担体としては、セルロース系繊維(紙繊維)が好ましく、約18~20%の吸水率の紙繊維が好ましい。固体担体には、さらに、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン等が含まれていてもよい。
これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。これらの担体は2~100メッシュの範囲であることが好ましく、10~100メッシュの範囲であることがより好ましく、10~30メッシュの範囲であることがさらに好ましい。その形態は、粒状、粉末、細粒、微粒等であればよく、粒状が好ましい。
固体担体として、以下の市販品を使用することができる。
ドロマイト質石灰石と木材粉塵をベースとした化学担体としては、例えば、アンダーソンズ・インク(Andersons,Inc)から入手可能なディー・ジー・ライト(DG Lite、商標)等が挙げられる。
セルロース系繊維としては、例えば、カダント・グランテック・インク(Kadant GranTek,Inc)から入手可能なバイオダック(Biodac、登録商標、pH7.0~7.5の中性)等が挙げられる。
木質繊維顆粒としては、例えば、サイクル・グループ・インク(Cycle Group,Inc)から入手可能なエコグラニュール(EcoGranule、商標)等が挙げられる。
破砕したトウモロコシの穂軸としては、例えば、アンダーソンズ・インク(Andersons,Inc)から入手可能なベッドオーコブス(bed-o’cobs、登録商標)、又は、マウント・プラスキ・プロダクツ・インク(Mt.Pulaski Products,Inc)から入手可能なマイゾルブ(Maizorb、登録商標)等が挙げられる。
【0038】
液体担体としては、例えば、水、アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の酸アミド類;ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルスルホキシド、大豆油、綿実油等の植物油等が挙げられる。
【0039】
ガス状担体としては、一般に噴射剤として用いられているものを使用することができる。このようなガス状担体としては、例えば、ブタンガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス等が挙げられる。
【0040】
本発明の粒状農薬組成物には、さらに、例えば、界面活性剤、安定化剤、着色剤、香料等の農薬用補助剤を含有してもよい。これらの農薬用補助剤を添加する場合には、本発明の農薬組成物の全質量に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0041】
界面活性剤の具体例として、例えば、ボリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン界面活性剤;アルキルベンゼンスルホネート、アルキルスルホサクシネート、アルキルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート、アリルスルホネート、リグニン亜硫酸塩等の陰イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0042】
安定化剤としては、例えば、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、BHA(2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールと3-tert-ブチル-4-メトキシフェノールとの混合物)等のフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、紫外線吸収剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油等のエポキシ化植物油、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、流動パラフィン、エチレングリコール等が挙げられる。安定化剤を農薬組成物に配合する場合、その配合量としては、農薬組成物全質量に対して、例えば、3質量%以下、好ましくは0.1~2質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。
【0043】
着色剤としては、例えば、ローダミンB、ソーラーローダミン等のローダミン類;黄色4号、青色1号、赤色2号等の色素等が挙げられる。
【0044】
香料としては、例えば、アセト酢酸エチル、エナント酸エチル、桂皮酸エチル、酢酸イソアミル等のエステル系香料;カプロン酸、桂皮酸等の有機酸系香料;桂皮アルコール、ゲラニオール、シトラール、デシルアルコール等のアルコール系香料;バニリン、ピペロナール、ペリルアルデヒド等のアルデヒド類;マントール、メチルβ-ナフチルケトン等のケトン系香料;メントール等が挙げられる。
【0045】
本発明の農薬組成物は、(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、lоgPが3.8以上である溶剤、及び(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物、必要により固体担体、さらに必要により農薬用補助剤を混合することにより得られる。本発明の農薬組成物が固体担体を含む場合には、市販の固体担体を使用することもできるし、農薬組成物を製造する際に、別途原料から造粒した固体担体を使用してもよい。
【0046】
農薬組成物が粒状の場合には、(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物、及び必要により農薬用補助剤を、(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体、好ましくは粒状担体に含浸させることにより、粒状農薬組成物を製造することができる。あるいは、前記(B)農薬化合物、前記(A)溶剤、固体担体、及び必要により農薬用補助剤を混合した後、押し出して粒状とする押出造粒法により粒状農薬組成物を製造することもできる。
得られた粒状農薬組成物の形態は、球状の粒剤であることが好ましい。球状の粒剤の平均粒径は、好ましくは0.5~10mm程度、より好ましくは0.5~2mm程度であり、10mm以上であってもよい。
【0047】
本発明の農薬組成物は、(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、lоgPが3.8以上である溶剤、及び(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物を含むので、農薬化合物の溶出を抑制することができる。
【0048】
本発明の農薬組成物は、主として、有用植物周辺部の土壌に施用することができる。土壌施用する方法として、例えば、土中混和処理、土壌散布方法等が挙げられる。
【0049】
本発明の農薬組成物は、広く農園芸上栽培されている各種作物に有効に作用する。特にイネ、コムギ、トウモロコシ等の単子葉類の栽培作物、及びインゲンマメ、ダイズ、トマト、ジャガイモ、ナス、キュウリ等の双子葉類の栽培植物に対して有効である。
【0050】
本発明の農薬組成物は、前記植物に対して、施用後一定期間農薬化合物の溶出が抑制され、一定期間が経過した後、農薬活性成分の溶出を開始する、いわゆる徐放化機能を有している。これにより、農薬組成物が必要な時期までは溶出されず、適切な時期が来た時点ではじめて農薬活性成分を溶出し、さらに必要な期間溶出を持続させることができる。本発明の農薬組成物は、このような徐放化機能を有することにより、播種同時処理に使用することが可能となる。
【0051】
特に、本発明の農薬組成物が粒状である場合、イネ種子の播種時に、例えば、育苗箱内に施用する際に適用することが好ましい。この場合、粒状農薬組成物の施用量は、通常約10~100g/箱、好ましくは約20~70g/箱、より好ましくは約50g/箱程度である。
【0052】
本発明には、(B)20℃における水溶解度が8ppm以下である農薬化合物を、(A)沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、粒状農薬組成物が包含される。また、ベンフラカルブを、沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、粒状農薬組成物も、本発明に包含される。
【0053】
本発明は、さらに、ベンフラカルブを、沸点が300℃以上であり、25℃における水溶解度が0.01ppm以上170ppm以下であり、lоgPが3.8以上である溶剤に溶解した溶液を、固体担体に含浸させてなる、ベンフラカルブの溶出抑制剤を包含する。当該ベンフラカルブの溶出抑制剤において、前記溶媒は、安息香酸ベンジル又はO-アセチルクエン酸トリブチルであることが好ましい。
【実施例0054】
以下、本発明の農薬組成物を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下において、単に「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0055】
実施例1
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及び安息香酸ベンジル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製、紙繊維47~53質量%、カオリン28~34質量%、及び炭酸カルシウム14~20質量%含み、10~30メッシュのものを85%以上含む)84.5部に含浸させることで実施例1の粒剤を得た。
【0056】
実施例2
クレー(商品名:みやき珪石クレー、株式会社三養基興業所製)89.47部、ポリビニルアルコール(商品名:PVA-JP-24S、日本酢ビ・ポバール株式会社製)1.5部、ベントナイト(商品名:クニゲルV1、クニミネ工業株式会社製)3部及び焼成珪藻土(商品名:ラヂオライト#200、昭和化学工業株式会社製)6部を混合し、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:ニューコール291PG、日本乳化剤株式会社製)0.03部を分散させた水25部を加えて混練した後に、ドームグラン(機種名:DG-L1、不二パウダル株式会社製)を用いて押出造粒した。整粒した後に80℃で3時間乾燥し、固体担体(核粒)を得た。次にベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及び安息香酸ベンジル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を核粒84.5部に含浸させることで実施例2の粒剤を得た。
【0057】
実施例3
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びO-アセチルクエン酸トリブチル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで実施例3の粒剤を得た。
【0058】
実施例4
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びO-アセチルクエン酸トリブチル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を実施例2で製造した固体担体(核粒)84.5部に含浸させることで実施例4の粒剤を得た。
【0059】
実施例5
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びイソフタル酸ビス-2-エチルヘキシル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで実施例5の粒剤を得た。
【0060】
実施例6
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びセバシン酸ビス-2-エチルヘキシル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで実施例6の粒剤を得た。
【0061】
実施例7
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びクエン酸トリブチル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで実施例7の粒剤を得た。
【0062】
実施例8
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びパルミチン酸イソプロピル(商品名:エキセパールIPP、花王株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで実施例8の粒剤を得た。
【0063】
比較例1
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びアジピン酸ジイソブチル(商品名:ビニサイザー40、花王株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで比較例1の粒剤を得た。
【0064】
比較例2
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びO-アセチルクエン酸トリエチル(東京化成工業株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで比較例2の粒剤を得た。
【0065】
比較例3
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びトリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(商品名:トリメックスT-08、花王株式会社製)8部を混合した。得られた溶液を粒状セルロース(商品名:バイオダック(登録商標)10/30、Kadant GranTek社製)84.5部に含浸させることで比較例3の粒剤を得た。
【0066】
比較例4
ベンフラカルブ原体7.5部(OATアグリオ株式会社製)及びアセトン(和光純薬株式会社製)38部を混合した。得られた溶液を粒状軽石(商品名:カガライト(登録商標)K-2、カガライト工業株式会社製)92.5部に含浸させた後に、80℃で乾燥してアセトンを揮発させることで比較例4の粒剤を得た。
【0067】
実施例1~8及び比較例1~3に用いた溶剤の物性を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例1~8及び比較例1~4で得られた粒剤を用いて、以下の溶出試験を実施した。
【0070】
有効成分の溶出試験
1Lビーカーに水道水1000gを量り取り、実施例1~8及び比較例1~4で得られた粒剤をそれぞれ130mg加えた後にラップをかけて密閉し、20℃の恒温器(機種名MIR-553、三洋電機株式会社製)に静置した。高速液体クロマトグラフィー(機種名ELITE LaChrom、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて水中の有効成分濃度を経時的に測定し、計算式(1)によって溶出率を算出した。結果を表2に示す。
【0071】
【数1】
【0072】
【表2】
【0073】
<結果>
一般的な水稲移植栽培における育苗期間は播種から3~4週間である。育苗期間に製剤からの有効成分の溶出が多いと、薬害が発生する可能性がある。表2より、実施例1~8の粒剤は比較例1~4の粒剤と比較して、有効成分の溶出が抑制されていることがわかった。
したがって、本実施例の粒剤は、播種同時処理に適用可能と考えられる。そして、本実施例の粒剤をイネに対する播種同時処理に使用した場合には、薬害の発生が、比較例の粒剤に比べて軽減されることが期待できる。