(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059378
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂系組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20220406BHJP
【FI】
C08G59/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167078
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000242002
【氏名又は名称】北興化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大賀 将範
(72)【発明者】
【氏名】大橋 賢治
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AD08
4J036DC31
4J036GA04
4J036GA23
4J036JA07
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】速硬化性と良好な貯蔵安定性を有する熱硬化性樹脂系組成物および熱硬化性樹脂系硬化物を提供すること。
【手段】熱硬化性樹脂、ジシアンジアミド、熱硬化性樹脂用硬化促進剤からなる熱硬化性樹脂系組成物であって、熱硬化性樹脂用硬化促進剤が、下記の一般式(5)等で表される、ホスホニウムカチオンと有機酸のアニオン残基からなるホスホニウム塩、および当該熱硬化性樹脂系組成物を硬化させた熱硬化性樹脂系硬化物。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、ジシアンジアミド、熱硬化性樹脂用硬化促進剤からなる熱硬化性樹脂系組成物であって、熱硬化性樹脂用硬化促進剤として、下記の一般式(1)
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一または異なって、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。)で表されるホスホニウムカチオンと、
下記の一般式(2)から一般式(4)で表される有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸のアニオン残基からなるホスホニウム塩を含むことを特徴とするを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂系組成物。
【化2】
(式中、R
5は、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。)
【化3】
(式中、X、Yは、同一または異なって、それぞれメチレン基、イミノ基、酸素原子を示し、Zはジメチルメチレン基、カルボニル基を示す。)
【化4】
(式中、Aは、カルボニル基、スルホニル基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R1~R4が、同一または異なって、ブチル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、ベンジル基、メトキシメチル基、および、カルボキシエチル基から選ばれる置換基である請求項1に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R1~R4が全てフェニル基である請求項1に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R1~R4が全てブチル基である請求項1に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項5】
前記一般式(2)が酢酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸からなる群から選ばれる1種の有機酸であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項6】
前記一般式(3)がメルドラム酸、ジメドン、バルビツール酸からなる群から選ばれる1種の有機酸であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項7】
前記一般式(4)がフタルイミド、サッカリンからなる群から選ばれる1種の有機酸であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、および、イソシアネート樹脂から選ばれる1種または2種以上の熱硬化性樹脂である、請求項1~7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物を硬化して得られる熱硬化性樹脂系硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速硬化性と良好な貯蔵安定性を有する熱硬化性樹脂系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂系組成物は、優れた機械的、化学的および電気的性質を有する成形体等が得られるため、半導体素子の絶縁封止材料、プリント基板材料、塗料、航空機や自動車の複合材料等に広く使用されている。
【0003】
例えば繊維強化複合材料の製造には、強化繊維に熱硬化性樹脂系組成物を含浸したシート状の中間基材(プリプレグ)が汎用され、プリプレグを積層、加熱して硬化させる方法で成形体が得られる。特にプリプレグ用の熱硬化性樹脂系組成物は、室温で貯蔵可能など、その取り扱いが容易であることが好ましい。そのため熱硬化性樹脂系組成物の貯蔵安定性は重要である。
【0004】
その熱硬化性樹脂系組成物において、エポキシ樹脂を熱硬化性樹脂とし、ジシアンジアミドを硬化剤とする熱硬化性樹脂系組成物が、取り扱いが容易であるため好適に用いられている。しかし、前記の熱硬化性樹脂系組成物は、硬化に長時間を要することが知られている。
【0005】
熱硬化性樹脂系組成物に成分として含まれる硬化促進剤は、添加することによって、熱硬化性樹脂系組成物の硬化を促進させるほかに、その成形体である硬化物の接着性、耐熱性など諸特性にも影響を与えるため、適する硬化促進剤の選択は極めて重要である。
【0006】
そのような状況下にあって、硬化促進能力と貯蔵安定性のバランスに優れた熱硬化性樹脂系組成物を与える熱硬化性樹脂用の硬化促進剤が求められている。しかし、硬化促進能力と貯蔵安定性はトレードオフの関係になりやすく、これらを同時に満たすことは困難であった。
【0007】
硬化時間を短くするために、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンが用いられているが(特許文献1参照)、硬化促進能力が不十分であった。また、硬化促進能力の強い硬化促進剤としてイミダゾール類も用いられているが(特許文献2、3参照)、熱硬化性樹脂系組成物の室温での貯蔵安定性が悪いという問題があった。また、その貯蔵安定性の改善の目的で、イミダゾール類をマイクロカプセル化して用いる技術も知られているが(特許文献4参照)、カプセル化の処理工程が必要であり、またカプセル成分が異物として残留するという問題があった。硬化促進能力と貯蔵安定性のバランスがよい硬化促進剤として、TPP-SCN(特許文献5参照)やTPTP(特許文献6参照)が挙げられるが、満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08-012858号公報
【特許文献2】特開2005-255793号公報
【特許文献3】特開2005-281488号公報
【特許文献4】特開2000-323193号公報
【特許文献5】特開2010-083941号公報
【特許文献6】特開2011-079942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術に伴う問題点を解決しようとするものである。すなわち、速硬化性と良好な貯蔵安定性を有する熱硬化性樹脂系組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような状況に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、ある特定のホスホニウム化合物を硬化促進剤として配合した場合に、速硬化性と良好な貯蔵安定性を有する熱硬化性樹脂系組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
〔1〕熱硬化性樹脂、ジシアンジアミド、熱硬化性樹脂用硬化促進剤からなる熱硬化性樹脂系組成物であって、熱硬化性樹脂用硬化促進剤として、下記の一般式(1)
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一または異なって、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。)で表されるホスホニウムカチオンと、
下記の一般式(2)から一般式(4)で表される有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸のアニオン残基からなるホスホニウム塩を含むことを特徴とするを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂系組成物。
【化2】
(式中、R
5は、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。)
【化3】
(式中、X、Yは、同一または異なって、それぞれメチレン基、イミノ基、酸素原子を示し、Zはジメチルメチレン基、カルボニル基を示す。)
【化4】
(式中、Aは、カルボニル基、スルホニル基を示す。)
〔2〕前記一般式(1)において、R
1~R
4が、同一または異なって、ブチル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、ベンジル基、メトキシメチル基、および、カルボキシエチル基から選ばれる置換基である〔1〕に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔3〕前記一般式(1)において、R
1~R
4が全てフェニル基である〔1〕に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔4〕前記一般式(1)において、R
1~R
4が全てブチル基である〔1〕に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔5〕前記一般式(2)が酢酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸からなる群から選ばれる1種の有機酸であることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔6〕前記一般式(3)がメルドラム酸、ジメドン、バルビツール酸からなる群から選ばれる1種の有機酸であることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔7〕前記一般式(4)がフタルイミド、サッカリンからなる群から選ばれる1種の有機酸であることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔8〕前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、および、イソシアネート樹脂から選ばれる1種または2種以上の熱硬化性樹脂である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔9〕〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物を硬化して得られる熱硬化性樹脂系硬化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホスホニウム塩を含む熱硬化性樹脂系組成物は、従来の硬化促進剤を用いた場合に比べ、速硬化性と良好な貯蔵安定性を有するため有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、置換もしくは非置換の炭化水素基とは、炭素数が1~16の炭化水素基であって、置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基、及び置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を含む。なお、炭化水素基が置換基を有する場合、炭化水素基の炭素数には、置換基に含まれる炭素数は含まれないものとする。
【0014】
本発明において、置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であっても、直鎖状又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基として具体的には、アルキル基としてメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチル-2-メチルブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基等の飽和脂肪族炭化水素基や、アルケニル基として、アリル基、ビニル基等、アルキニル基として、エチニル基、ブチニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0015】
本発明において、置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基は、脂環式炭化水素基であってもよい。また、脂環式炭化水素基は脂環式飽和炭化水素基であっても、脂環式不飽和炭化水素基であってもよい。脂環式炭化水素基として具体的には、シクロアルキル基として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の脂環式飽和炭化水素基や、シクロアルケニル基として、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の脂環式不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0016】
本発明において、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基は単環又は多環の芳香族炭化水素基であってもよい。芳香族炭化水素基として具体的には、アリール基としてフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等を挙げることができる。
【0017】
本発明において、脂肪族炭化水素基に置換してもよい置換基としては、炭素数1~4のアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、水酸基、カルボキシ基、アシル基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基を有する脂肪族炭化水素基としては、具体的にアルコキシ置換アルキル基として、メトキシメチル基、エトキシメチル基等や、アリール置換アルキル基としてベンジル基等を挙げることができる。
【0018】
本発明において、芳香族炭化水素基に置換してもよい置換基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、水酸基、カルボキシ基、アシル基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基を有する芳香族炭化水素基としては、具体的にアルキル基置換アリール基としてトリル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、t-ブチルフェニル基等や、アルコキシ基置換アリール基として、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、n-ブトキシフェニル基、t-ブトキシフェニル基等が挙げられる。
【0019】
脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が置換基を有する場合、置換基の位置及び置換基の数は特に制限されない。また2以上の置換基を有する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
本発明は、熱硬化性樹脂と、ジシアンジアミドと、熱硬化性樹脂用硬化促進剤とを少なくとも含む、熱硬化性樹脂系組成物である。
さらなる本発明は、さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を含む、熱硬化性樹脂系組成物である。以下、これらを「本発明の熱硬化性樹脂系組成物」ということがある。
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物の成分である熱硬化性樹脂、ジシアンジアミド、熱硬化性樹脂用硬化剤、および熱硬化性樹脂用硬化促進剤について次に説明する。
【0022】
<熱硬化性樹脂用硬化促進剤>
本発明の熱硬化性樹脂系組成物で熱硬化性樹脂用硬化促進剤として使用するホスホニウム塩は、下記の一般式(1)
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一または異なって、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。)で表されるホスホニウムカチオンと、
下記の一般式(2)から一般式(4)で表される有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸のアニオン残基からなるホスホニウム塩が挙げられる。
【化2】
(式中、R
5は、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。)
【化3】
(式中、X、Yは、同一または異なって、それぞれメチレン基、イミノ基、酸素原子を示し、Zはジメチルメチレン基、カルボニル基を示す。)
【化4】
(式中、Aは、カルボニル基、スルホニル基を示す。)
【0023】
《ホスホニウムカチオン》
一般式(1)のホスホニウムカチオンにおけるR1~R4は、同一または異なって、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。
【0024】
一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンにおいて、R1~R4で示される置換基としては、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基であり、硬化性の観点から炭素数1~12が好ましく、炭素数1~6がより好ましい。炭化水素基として前記の置換基が挙げられ、具体的にはエチル基、プロピル基、n-ブチル基、オクチル基、ドデシル基、アリル基、シクロヘキシル基、メトキシメチル基、ベンジル基、カルボキシエチル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基が好ましく、特にn-ブチル基、ベンジル基、メトキシメチル基、カルボキシエチル基、フェニル基が好ましい。
【0025】
一般式(1)のホスホニウムカチオンとしては、テトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラキス(4-メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(4-メトキシフェニル)ホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラキス(メトキシメチル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(カルボキシエチル)ホスホニウムカチオン、テトラベンジルホスホニウムカチオン、フェニルトリス(4-メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、フェニルトリス(4-メトキシフェニル)ホスホニウムカチオン、フェニルトリブチルホスホニウムカチオン、フェニルトリス(メトキシメチル)ホスホニウムカチオン、フェニルトリス(カルボキシエチル)ホスホニウムカチオン、フェニルトリベンジルホスホニウムカチオン、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムカチオン、(4-メトキシフェニル)トリフェニルホスホニウムカチオン、ブチルトリフェニルホスホニウムカチオン、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムカチオン、(カルボキシエチル)トリフェニルホスホニウムカチオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムカチオン等が挙げられる。
【0026】
具体的にはテトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムカチオン、(4-メトキシフェニル)トリフェニルホスホニウムカチオン、ブチルトリフェニルホスホニウムカチオン、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムカチオン、(カルボキシエチル)トリフェニルホスホニウムカチオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムカチオンが好ましい。
【0027】
特にテトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、ブチルトリフェニルホスホニウムカチオン、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムカチオン、(カルボキシエチル)トリフェニルホスホニウムカチオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムカチオンがより好ましい。
【0028】
《有機酸のアニオン残基(共役塩基)》
有機酸から外れるプロトンの箇所としては、得られるアニオン残基(共役塩基)が最も安定に存在しうる箇所と推定される。分子内水素結合を形成することがあるため、どのプロトンが外れるかを推定することは困難であるが、NMR測定により推定できることがある。
【0029】
一般式(2)で表される有機酸においてR5は、炭素数1~16の置換もしくは非置換の炭化水素基を示す。
【0030】
一般式(2)で表される有機酸におけるR5として、炭素数1~16の置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基は、前記例示が挙げられ、具体的には、炭素数1~16の直鎖状アルキル基、シクロヘキシル基等が好ましく、脂肪族炭化水素基に置換してもよい置換基としては、前記例示が挙げられ、具体的には、アリール基、水酸基、カルボキシ基等が好ましい。
【0031】
一般式(2)で表される有機酸におけるR5として、炭素数1~16の置換基を有してもよい芳香族炭化水素基は、前記例示が挙げられ、具体的には、フェニル基等が好ましく、芳香族炭化水素基に置換してもよい置換基としては、前記例示が挙げられ、具体的には、炭素数1~4のアルキル基、アリール基、水酸基、カルボキシ基等が好ましい。
【0032】
一般式(2)で表される有機酸として具体的には、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0033】
一般式(3)で表される有機酸においてX、Yは、同一または異なって、それぞれメチレン基、イミノ基、酸素原子を示し、Zはジメチルメチレン基、カルボニル基を示す。
【0034】
一般式(3)で表される有機酸として具体的には、メルドラム酸、ジメドン、バルビツール酸等が挙げられる。
【0035】
一般式(4)で表される有機酸においてAは、カルボニル基、スルホニル基を示す。
【0036】
一般式(4)で表される有機酸として具体的には、フタルイミド、サッカリン等が挙げられる。
【0037】
上記のホスホニウムカチオンと有機酸のアニオン残基との塩は本明細書の記載に基づき、公知の方法により容易に製造できる。
【0038】
例えば、有機酸のアルカリ金属塩を常法で合成(溶媒は、水、メタノール等)した後、その有機酸のアルカリ金属塩1モルに対してテトラ置換ホスホニウムハライドを1モル仕込み反応させることにより塩形成する方法等が挙げられる。この場合、テトラ置換ホスホニウムハライドと有機酸のアルカリ金属塩をそれぞれ単独もしくは2種類以上を使用して上記塩を形成させてもよい。2種類以上を混合する場合は、2種類以上のテトラ置換ホスホニウムハライドおよび有機酸のアルカリ金属塩同士を先に混合した後に、テトラ置換ホスホニウム塩を形成させてもよいし、2種類以上のテトラ置換ホスホニウム塩を混合してもよい。
【0039】
また、テトラ置換ホスホニウムヒドロキシド1モルに対して有機酸を1モル用いて中和することにより塩を形成してもよい。
【0040】
得られた反応物から純度の高い結晶を析出させ、未反応の原料および副生する無機塩を除去すること等を目的に、得られた反応物を水、アルコール系有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン系有機溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等)、エーテル系有機溶媒(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等)、無極性溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等)およびこれらの混合溶媒で洗浄、再結晶精製してもよい。
【0041】
なお、上記テトラ置換ホスホニウムハライド、テトラ置換ホスホニウムヒドロキシド、有機酸、および溶媒はいずれも市販されているものを使用してもよい。
【0042】
これらの方法により得られるホスホニウム塩は、通常は、ホスホニウムカチオンと有機酸のアニオン残基との1:1(モル比)塩が主成分であり、一般式(5)~(7)で示される。
【化5】
(式中、R
1~R
5は、前記と同意である。)
【化6】
(式中、R
1~R
4、X、Y、Zは、前記と同意である。)
【化7】
(式中、R
1~R
4、Aは、前記と同意である。)
【0043】
本発明のホスホニウム塩を含む熱硬化性樹脂用硬化促進剤を成分として含有する熱硬化性樹脂系組成物は、速硬化性と良好な貯蔵安定性を有する。
【0044】
さらに、ホスホニウム塩が熱硬化性樹脂用硬化剤と均一化し難い場合等は、均一化を容易にすること等を目的として、ホスホニウム塩をあらかじめ熱硬化性樹脂用硬化剤と反応させて得たマスターバッチを、熱硬化性樹脂用硬化促進剤として用いてもよい。
【0045】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤は、上記ホスホニウム塩の他に、効果に影響しない限り、熱硬化性樹脂用硬化促進剤に通常使用される溶剤、充填剤、添加剤等をさらに含んでもよい。
【0046】
なお、本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤は、上記ホスホニウム塩の他に、適宜熱硬化性樹脂の硬化促進剤を併用して使用してもよい。
【0047】
一般式(5)で表されるホスホニウム塩の代表的な例を表1に、一般式(6)で表されるホスホニウム塩の代表的な例を表2に、一般式(7)で表されるホスホニウム塩の代表的な例を表3にまとめて例示するが、これらに限定されるものではない。
【0048】
なお、表中の次の記載は、下記の通りの官能基を示す。Me:メチル基、Bu:ブチル基、CH3(CH2)6:ヘプチル基、CH3(CH2)8:ノニル基、CH3(CH2)10:ウンデシル基、CH3(CH2)16:ヘプタデシル基、MeOCH2:メトキシメチル基、HOOC(CH2)2:カルボキシエチル基、Bn:ベンジル基、HOOCCH=CH:カルボキシエテニル基、2-HOOCC6H10:2-カルボキシシクロヘキシル基、Ph:フェニル基、4-MeC6H4:4-メチルフェニル基、4-MeOC6H4:4-メトキシフェニル基、2-HOOCC6H4:2-カルボキシフェニル基、2,4-(HOOC)2C6H3:2,4-ジカルボキシフェニル基、2,4,5-(HOOC)3C6H2:2,4,5-トリカルボキシフェニル基、CH2:メチレン基、CMe2:ジメチルメチレン基、NH:イミノ基、C=O:カルボニル基、S(=O)2:スルホニル基、O:酸素原子
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げられる。
【0058】
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する汎用的なエポキシ樹脂を用いることが可能であり、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類および/またはナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒の存在下で縮合または共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換または非置換のビフェノール、スチルベン系フェノール類等をエポキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂;フェノール類および/またはナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等をエポキシ化したフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸類のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型またはメチルグリシジル型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレンおよび/またはメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;フェノール類および/またはナフトール類とジシクロペンタジエンから合成される、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂のグリシジルエーテル;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;ジフェニルメタン型エポキシ樹脂;硫黄原子含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0059】
これらのエポキシ樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶剤や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
【0060】
マレイミド樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のマレイミド基を有する汎用的なマレイミド樹脂を用いることが可能であり、例えば、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N’-1,3-フェニレンジマレイミド、2,2’-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ポリフェニルメタンマレイミド等が挙げられる。
【0061】
これらのマレイミド樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶媒や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
【0062】
シアネート樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のシアネート基を有する汎用的なシアネート樹脂を用いることが可能であり、例えば、1,3-ジシアナトベンゼン、1,4-ジシアナトベンゼン、1,3,5-トリシアナトベンゼン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、1,3-ジシアナトナフタレン、1,4-ジシアナトナフタレン、1,6-ジシアナトナフタレン、1,8-ジシアナトナフタレン、2,6-ジシアナトナフタレン、2,7-ジシアナトナフタレン、1,3,6-トリシアナトナフタレン、4,、4’-ジシアナトビフェニル、ビス(4-シアナトフェニル)メタン、2,2’-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナトフェニル)エーテル、ビス(4-シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアナトフェニル)スルホン、2,、2’-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、ノボラック樹脂をシアネート化したフェノールノボラック型シアネート樹脂等が挙げられる。
【0063】
これらのシアネート樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶媒や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
【0064】
イソシアネート樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する汎用的なイソシアネート樹脂を用いることが可能であり、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のポリイソシアネートと、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオールとの反応で得られる末端イソシアネート基オリゴマーの末端イソシアネート基を、フェノール類、アルコール類等でブロックしたイソシアネート樹脂等が挙げられる。
【0065】
これらのイソシアネート樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶媒や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
【0066】
<ジシアンジアミド>
ジシアンジアミドは室温で固体であり、熱硬化性樹脂系組成物中に溶解することなく分散し、融点近傍の温度に達すると溶解して急激に反応を開始する潜在性熱硬化性樹脂用硬化剤の一種である。
【0067】
本発明におけるジシアンジアミドは、粒状もしくは粉末状に粉砕されたものを用いる。粒状もしくは粉末状のジシアンジアミドを、熱硬化性樹脂系組成物中に均一分散させて用いることが望ましい。粒状もしくは粉末状のジシアンジアミドが均一分散されず凝集体が存在すると、硬化反応に偏りが生じて均一な樹脂硬化物は得られない。
【0068】
市販されているジシアンジアミドは粒状もしくは粉末状であり、本発明にそのまま使用することができる。
【0069】
なお、本発明において、ジシアンジアミドは他の熱硬化性樹脂用硬化剤と区別するため、本発明記載の熱硬化性樹脂用硬化剤にジシアンジアミドは含まれないものとする。
【0070】
<熱硬化性樹脂用硬化剤>
熱硬化性樹脂用硬化剤(以下「硬化剤」いうこともある)としては、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂系組成物の主剤として用いる熱硬化性樹脂以外の熱硬化性樹脂を、熱硬化性樹脂用硬化剤として使用してもよい。
【0071】
フェノール樹脂系硬化剤としては、特に限定されず、一般に硬化剤として使用される1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する汎用的なフェノール樹脂を用いることが可能であり、例えば、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換または非置換のビフェノール等の1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類および/またはナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等から合成されるノボラック型フェノール樹脂;フェノール類および/またはナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレンおよび/またはメタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;フェノール類および/またはナフトール類とジシクロペンタジエンから合成される、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂;トリフェニルメタン型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0072】
アミン系硬化剤としては、特に限定されず、汎用的な芳香族アミン、脂肪族アミン等を用いることが可能であり、例えば、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン等の脂肪族ポリアミン、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン等の脂環式ポリアミン、N-アミノエチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノ-2-メチルプロピル)ピペラジン等のピペラジン型のポリアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート、ポリオキシテトラメチレンビス(p-アミノベンゾエート)等が挙げられる。
【0073】
酸無水物系硬化剤としては、特に限定されず、汎用的な酸無水物を用いることが可能であり、例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、3-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1-メチルノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、5-メチルノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、ノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、1-メチルナジック酸無水物、5-メチルナジック酸無水物、ナジック酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、3-メチルテトラヒドロフタル酸無水物、4-メチルテトラヒドロフタル酸無水物、およびドデセニルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0074】
ベンゾオキサジン系硬化剤としては、特に限定されず、汎用的なベンゾオキサジン樹脂を用いることが可能であり、例えばビスフェノールFとホルムアルデヒドとアニリンを反応させて得られるF-a型ベンゾオキサジン樹脂、ジアミノジフェニルメタンとホルムアルデヒドとフェノールを反応させて得られるP-d型ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。
【0075】
これらの硬化剤は、単独で、または2種類以上を混合して使用することができ、有姿でそのまま使用してもよく、適宜溶剤や添加材等を添加し、硬化剤組成物として使用することもでき、市販品を使用してもよい。
【0076】
<熱硬化性樹脂系組成物>
本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、熱硬化性樹脂、ジシアンジアミド、熱硬化性樹脂用硬化促進剤からなり、さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を含んでいてもよい。また、効果に影響しない限り、熱硬化性樹脂系組成物に通常使用される溶剤、充填剤、添加剤等をさらに含んでもよい。
【0077】
熱硬化性樹脂系組成物は、線膨張率を小さくするために、公知の各種無機充填剤を含有することができる。無機充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム等が挙げられる。これらの無機充填剤は、シランカップリング剤等のカップリング剤で表面処理してもよい。
【0078】
その他、熱硬化性樹脂系組成物に、イオントラップ剤、離型剤、カーボンブラック等の顔料等を添加してもよく、熱硬化性樹脂以外の樹脂を含むこともできる。
【0079】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物中のジシアンジアミドの含有量は、0.5重量部より少ないと、硬化反応時間が長くなりガラス転移温度Tgが低下する場合があり、20重量部より多いと、硬化反応時間が短くなり硬化反応時のジシアンジアミドの溶解が不十分となる場合があるため、熱硬化性樹脂100重量部に対して0.5~20重量部であることが好ましく、硬化物性をより厳密に考慮すれば、かかる含有量を5~10重量部とすることが更に好ましい。
【0080】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物中のホスホニウム塩の含有量は、0.5重量部より少ないと、組成物の硬化力を十分に発揮できない場合があり、10重量部より多いと、組成物の貯蔵安定性が悪くなる場合があるため、熱硬化性樹脂100重量部に対して0.5~10重量部であることが好ましく、硬化性をより厳密に考慮すれば、かかる含有量を0.7~5重量部とすることが更に好ましい。さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を使用する場合、硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂中の反応性基当量(例えばエポキシ樹脂であれば、樹脂中のエポキシ当量)と、ジシアンジアミド+硬化剤の当量との当量比を考慮して、一般的には、反応性基当量と、ジシアンジアミド+硬化剤の当量との当量比が1.0:0.9~1.0:1.2となるようにする。
【0081】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物をプリプレグに用いる場合、各成分が有機溶媒中に溶解または分散されたワニスの状態とすることが好ましい。
【0082】
ワニスを製造する場合に用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、市販品を使用してもよい。
【0083】
熱硬化性樹脂系組成物の調製方法は特に制限されず、前記各成分を均一に混合することにより調製できる。好ましい調製方法として、熱硬化性樹脂、ジジアンジアミド、熱硬化性樹脂用硬化促進剤とを温度20~150℃程度で均一に攪拌混合する方法を挙げることができ、場合によっては上記ワニスの製造に用いられる溶媒として例示された溶媒を用いてもよい。また、熱硬化性樹脂用硬化剤を加える場合、硬化剤、硬化促進剤の混合物を加熱後、冷却し、続いてジシアンジアミド、熱硬化性樹脂と混合し、加熱後、冷却することが好ましい。
【0084】
硬化剤と硬化促進剤の混合物を加熱することにより、硬化剤の粘度を低下させ、撹拌・混合を容易にし、硬化剤と硬化促進剤が均一に分散される。
【0085】
硬化剤と硬化促進剤の混合物は熱硬化性樹脂、ジシアンジアミドと混合する前に、予め冷却することにより正確に計量でき、取り扱いが容易になる。
【0086】
硬化促進剤が硬化剤に均一化し難い場合は、硬化促進剤を硬化剤の一部に高濃度で加熱溶解後、冷却して得られるマスターバッチを硬化促進剤として用いてもよい。このマスターバッチは、硬化剤への溶解性が比較的良好となる。なお、ジシアンジアミドは通常、マスターバッチに使用しない。
【0087】
また、熱硬化性樹脂、ジシアンジアミド、硬化剤、および硬化促進剤の各成分は、各混合工程において一度に混合してもよく、または複数回に分けて少しずつ混合してもよい。また、上記溶剤や添加剤、無機充填剤等を混合する場合も、同様に、任意の時期に一度または複数回に分けて混合することができる。
【0088】
なお、硬化剤と硬化促進剤との混合や熱硬化性樹脂、ジシアンジアミドとの混合の際は、均一に攪拌・混合することを容易とするため、ロール、ニーダー、ビーズミル、ミキサー等の混練機等を用いてもよい。
【0089】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させることが可能であり、また良好な貯蔵安定性を有する。
【0090】
<熱硬化性樹脂系硬化物>
本発明において熱硬化性樹脂系硬化物とは、熱硬化性樹脂系組成物を、熱硬化性樹脂系組成物に応じた特定の条件下で加熱することによって熱硬化性樹脂の流動性がなくなり、硬化した固形物のことをいう。以下、本発明の熱硬化性樹脂系組成物を硬化した固形物を「本発明の熱硬化性樹脂系硬化物」ということがある。
【0091】
本発明の熱硬化性樹脂系硬化物は、上記した本発明の熱硬化性樹脂系組成物を、通常の熱硬化性樹脂系組成物の硬化の条件下で加熱することで得ることができる。通常硬化温度100~250℃程度で硬化時間30秒~15時間加熱により得ることができ、適宜条件を変更することも可能である。
【実施例0092】
以下に本発明の熱硬化性樹脂系組成物を実施例および試験例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
<実施例1>
自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり錬太郎ARE-310)専用のプラスチックカップに、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂のjER828EL(エポキシ当量186、三菱ケミカル社製)100重量部、ジシアンジアミド(東京化成工業製)8重量部、テトラブチルホスホニウムラウレート(化合物番号5-43)(以下、「TBPLA」という)2重量部を入れ、オーブンで40℃に加温した。これをARE-310にセットし、2000rpmで1分攪拌、さらに1分脱泡し、熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0094】
<実施例2>
TBPLA2重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムハイドロジェンヘキサヒドロフタレート(化合物番号5-95)(以下、「TBP-3S」という)2重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0095】
<実施例3>
TBPLA2重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムフタルイミド(化合物番号7-4)(以下、「TBP-フタルイミド」という)2重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0096】
<実施例4>
TBPLA2重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムジメドン塩(化合物番号6-17)(以下、「TBP-ジメドン」という)2重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0097】
<実施例5>
TBPLA2重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムサッカリド(化合物番号7-17)(以下、「TBP-サッカリド」という)2重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0098】
<比較例1>
TBPLA2重量部に代えて、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート(以下、「TPP-SCN」という)2重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0099】
<比較例2>
TBPLA2重量部に代えて、トリ-p-トリルホスフィン(以下、「TPTP」という)4重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0100】
<比較例3>
TBPLA2重量部に代えて、トリフェニルホスフィン(以下、「TPP」という)4重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0101】
<比較例4>
TBPLA2重量部に代えて、2-エチル-4-メチルイミダゾール(以下、「2E4MZ」という)0.8重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0102】
<比較例5>
TBPLA2重量部を省く以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0103】
[硬化性試験]
熱硬化性樹脂系組成物の常法の硬化性評価方法として、EIMS T-901に準拠したゲル化時間測定法、JIS K 6910に準拠した示差走査熱量測定法、JIS K 6300-2に準拠したトルク計測法が挙げられるが、本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、JIS K 6910に準拠した示差走査熱量測定法により、硬化性を評価した。示差走査熱量測定法は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、試料を加熱し測定で算出される発熱量によって、その硬化性の優劣を評価するものである。熱硬化性樹脂系組成物の硬化反応は発熱反応であり、発熱量が大きいほど、付加重合による架橋形成がより進行し、硬化性が良好といえる。
【0104】
以下に試験及び評価方法を記す。
得られた熱硬化性樹脂系組成物を、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DSC7020)を用い、窒素気流下で、測定温度範囲30℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件下測定した。発熱量が大きいほど、硬化性は良好であり、DSCを用いて測定したときの発熱量が150J/g以上であれば、硬化性は良好と言えるが、好ましくは175J/g以上であり、より好ましくは200J/g以上である。
【0105】
[貯蔵安定性試験]
熱硬化性樹脂系組成物の貯蔵安定性は、常法の貯蔵安定性評価方法により測定・評価することができるが、本発明では、示差走査熱量測定法で算出される発熱量を、熱硬化性樹脂系組成物調製直後と25℃下7日間貯蔵後で比較し、発熱量保持率を以て、貯蔵安定性を評価した。
【0106】
以下に試験及び評価方法を記す。
得られた熱硬化性樹脂系組成物を、25℃7日間貯蔵し、再度DSC測定を行った。貯蔵安定性が劣る熱硬化性樹脂系組成物は、25℃貯蔵中に硬化反応(発熱反応)が進行し、一定期間貯蔵後のDSC発熱量が小さくなる傾向にある。そのため、本実施例に記載の熱硬化性樹脂系組成物において、25℃7日後貯蔵した後のDSC発熱量保持率が80%以上であれば、貯蔵安定性は良好であるが、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。
したがって、調製直後と25℃7日後の発熱量を比較し、DSC発熱量保持率が90%以上のものは○、80~90%のものは△、80%以下のものは×とした。
結果を、表4、5に示した。
【0107】
【0108】
【0109】
表4、5に示すように、本発明にかかる熱硬化性樹脂系組成物は、DSC発熱量が大きく、25℃7日後の発熱量保持率が高い。
【0110】
すなわち、本発明のホスホニウム塩を含む熱硬化性樹脂系組成物は、従来の硬化促進剤を用いた場合に比べ、速硬化性と良好な貯蔵安定性を有するため有用である。
本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、速硬化性と貯蔵安定性に優れているため、例えば、各種の小型の電気・電子部品や半導体部品の樹脂封止、繊維強化複合材料、また積層板等用途のフィルム、シートなどの分野においても極めて有用である。