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特開2022-59386板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置
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  • 特開-板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059386
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 38/04 20060101AFI20220406BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20220406BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20220406BHJP
   B21B 37/18 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
B21B38/04 B
B21C51/00 K
B21B37/00 261C
B21B37/18 110Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167093
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小梶 智也
(72)【発明者】
【氏名】吉成 有介
(72)【発明者】
【氏名】小玉 開
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124BB07
4E124CC01
4E124CC02
4E124EE12
4E124GG10
(57)【要約】
【課題】圧延中に放射線で板厚を測定する際に、コスト増加を招くことなく、板厚の測定精度を向上させることができる板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置を提供すること。
【解決手段】板厚算出方法は、板材を圧延する圧延機の出側または入側に設けられた放射線板厚計によって、板材の板厚を測定する板厚測定ステップと、板材の材料特性を入力変数とし、放射線板厚計において板材の板厚を算出する際に用いるパラメータを出力変数として、過去の材料特性およびそれに対する過去のパラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の予測ステップと、予測したパラメータに基づいて板材の板厚を算出する板厚算出ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材を圧延する圧延機の出側または入側に設けられた放射線板厚計によって、前記板材の板厚を測定する板厚測定ステップと、
前記板材の材料特性を入力変数とし、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いるパラメータを出力変数として、過去の前記材料特性およびそれに対する過去の前記パラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記材料特性を入力することによって、圧延対象の板材について前記パラメータを予測する予測ステップと、
予測した前記パラメータに基づいて前記板材の板厚を算出する板厚算出ステップと、
を含む板厚算出方法。
【請求項2】
前記パラメータは、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いる密度補正値を変更するための、前記放射線板厚計の測定器差であり、
前記板厚算出ステップは、予測した前記測定器差によって前記密度補正値を変更し、変更後の密度補正値を用いて前記板材の板厚を算出する、
請求項1に記載の板厚算出方法。
【請求項3】
前記パラメータは、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いる密度補正値であり、
前記板厚算出ステップは、予測した前記密度補正値を用いて前記板材の板厚を算出する、
請求項1に記載の板厚算出方法。
【請求項4】
前記板材の材料特性として、前記板材の寸法、温度、実績成分および圧延設定のうちの少なくとも一つを含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の板厚算出方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の板厚算出方法によって算出された板材の板厚に基づいて、圧延時のおける次パスの圧下設定を行うことにより、前記板材の板厚を制御する、板厚制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の板厚制御方法を用いて板材の板厚を制御しつつ、圧延機によって前記板材を圧延する、板材の製造方法。
【請求項7】
板材を圧延する圧延機の出側または入側に設けられ、前記板材の板厚を測定する放射線板厚計と、
前記板材の材料特性を入力変数とし、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いるパラメータを出力変数として、過去の前記材料特性およびそれに対する過去の前記パラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記材料特性を入力することによって、圧延対象の板材について前記パラメータを予測し、予測した前記パラメータに基づいて前記板材の板厚を算出する制御部と、
を備える板厚算出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の板厚算出装置によって算出された板材の板厚に基づいて、圧延時のおける次パスの圧下設定を行うことにより、前記板材の板厚を制御する、板厚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲージメータモデルを用いて板厚制御を行う従来の厚板圧延では、実測の板クラウンおよび板厚情報を用いて、ロールプロフィールモデルおよびゲージメータモデルの学習を行い、次パスの圧下設定を行うことにより、精度のよい板厚制御を実現している(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-185624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、板材の板厚を、γ線等を利用した放射線板厚計によって測定しているが、γ線は温度等によって誤差が生じる。そのため、γ線による板厚測定を行って板厚の制御を行う場合、一般的には、γ線による測定値を板材(厚鋼板)の温度等に応じて補正する必要があった。
【0005】
しかしながら、補正すべき真の値は、合金の成分系や温度等の板材の材料特性によって異なるため、材料特性(例えば板厚、鋼種、鋼板温度等)を細かく設定すると、メンテナンスコストが大きくなる。そのため従来は、γ線による測定が外れる前提で、狙いの板厚を厚く、または薄く持たせることにより対策を講じていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、圧延中に放射線で板厚を測定する際に、コスト増加を招くことなく、板厚の測定精度を向上させることができる板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板厚算出方法は、板材を圧延する圧延機の出側または入側に設けられた放射線板厚計によって、前記板材の板厚を測定する板厚測定ステップと、前記板材の材料特性を入力変数とし、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いるパラメータを出力変数として、過去の前記材料特性およびそれに対する過去の前記パラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記材料特性を入力することによって、圧延対象の板材について前記パラメータを予測する予測ステップと、予測した前記パラメータに基づいて前記板材の板厚を算出する板厚算出ステップと、を含む。
【0008】
また、本発明に係る板厚算出方法は、上記発明において、前記パラメータが、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いる密度補正値を変更するための、前記放射線板厚計の測定器差であり、前記板厚算出ステップが、予測した前記測定器差によって前記密度補正値を変更し、変更後の密度補正値を用いて前記板材の板厚を算出する。
【0009】
また、本発明に係る板厚算出方法は、上記発明において、前記パラメータが、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いる密度補正値であり、前記板厚算出ステップが、予測した前記密度補正値を用いて前記板材の板厚を算出する。
【0010】
また、本発明に係る板厚算出方法は、上記発明において、前記板材の材料特性として、前記板材の寸法、温度、実績成分および圧延設定のうちの少なくとも一つを含む。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板厚制御方法は、上記の板厚算出方法によって算出された板材の板厚に基づいて、圧延時のおける次パスの圧下設定を行うことにより、前記板材の板厚を制御する。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板材の製造方法は、上記の板厚制御方法を用いて板材の板厚を制御しつつ、圧延機によって前記板材を圧延する。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板厚算出装置は、板材を圧延する圧延機の出側または入側に設けられ、前記板材の板厚を測定する放射線板厚計と、前記板材の材料特性を入力変数とし、前記放射線板厚計において前記板材の板厚を算出する際に用いるパラメータを出力変数として、過去の前記材料特性およびそれに対する過去の前記パラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記材料特性を入力することによって、圧延対象の板材について前記パラメータを予測し、予測した前記パラメータに基づいて前記板材の板厚を算出する制御部と、を備える。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板厚制御装置は、上記の板厚算出装置によって算出された板材の板厚に基づいて、圧延時のおける次パスの圧下設定を行うことにより、前記板材の板厚を制御する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る板厚算出方法および板厚算出装置によれば、予め構築した予測モデルを用いて、板材の板厚を算出する際に用いるパラメータを予測し、当該パラメータに基づいて板材の板厚を算出することにより、圧延中に放射線で板厚を測定する際に、コスト増加を招くことなく、板厚の測定精度を向上させることができる。また、本発明に係る板厚制御方法および板厚制御装置によれば、板材の板厚を制御よく制御することができる。また、本発明に係る板材の製造方法によれば、板厚不良のない優れた板材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る板厚制御装置の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る板厚算出装置を実現するためのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る板厚算出方法において、予測モデルに入力する入力変数の一例を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例であり、本発明手法における、放射線板厚計の測定器差の予測精度を示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施例であり、従来手法における、板材のMn含有量に対する放射線板厚計の測定器差の予測誤差を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例であり、本発明手法における、板材のMn含有量に対する放射線板厚計の測定器差の予測誤差を示すグラフである。
図7図7は、本発明の実施例であり、従来手法と本発明手法とにおける、放射線板厚計の測定器差のバラつきを比較したグラフである。
図8図8は、本発明の実施例であり、従来手法と本発明手法とにおける、冷間狙い厚精度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
〔板厚制御装置〕
本発明の実施形態に係る板厚制御装置の構成について、図1を参照しながら説明する。板厚制御装置1は、圧延機10と、油圧シリンダ20と、ロードセル30と、放射線板厚計40と、板厚制御部50と、サーボアンプ60と、サーボ弁70と、を備えている。
【0019】
圧延機10は、板材Sを圧延する上下一対のワークロール11と、ワークロール11を補強する上下一対のバックアップロール12と、を備えている。なお、実施形態における板材Sとしては、例えば厚鋼板等が挙げられる。
【0020】
油圧シリンダ20は、ワークロール11のロール開度(ロールギャップ)を調節するためのものである。油圧シリンダ20は、サーボ弁70の制御に基づいて、ワークロール11およびバックアップロール12の位置を移動させることにより、ロール開度を調整する。
【0021】
ロードセル30は、圧延機10の圧延荷重を検出するためのものである。ロードセル30は、ワークロール11およびバックアップロール12にそれぞれ設置されている。また、ロードセル30は、検出した圧延荷重を、板厚制御部50に対して出力する。
【0022】
放射線板厚計40は、搬送される板材Sの板厚を測定するためのものである。放射線板厚計40は、圧延機10の入側(すなわち板材Sの搬送方向における上流側)または出側(すなわち板材Sの搬送方向における下流側)に設置されている。また、放射線板厚計40は、測定した板材Sの板厚を、板厚制御部50に対して出力する。
【0023】
放射線板厚計40としては、例えばγ線板厚計、X線板厚計等が挙げられるが、実施形態では、放射線板厚計40がγ線板厚計であることを前提に説明を行う。γ線板厚計では、後記するように、γ線の検出電流からγ線板厚算出式(下記式(1)参照)を利用して、板材Sの板厚を算出する。
【0024】
板厚制御部50は、ロードセル30から入力される圧延荷重、放射線板厚計40から入力される板材Sの板厚等の情報に基づいて、ロール開度を算出する。そして、板厚制御部50は、算出したロール開度を、サーボアンプ60に対して出力する。これにより、ロール開度に基づく信号がサーボアンプ60からサーボ弁70へと出力され、サーボ弁70によって、油圧シリンダ20の圧力油量が制御されることにより、ロール開度が調整される。
【0025】
板厚制御部50は、後記する板厚算出方法によって算出された板材Sの板厚に基づいて、圧延時における次パスの圧下設定を行うことにより、板材Sの板厚を制御する。
【0026】
なお、実施形態に係る板厚制御装置1は、板材Sを製造する装置としても機能する。この場合、板厚制御装置1は、前記した板厚制御方法を用いて板材Sの板厚を制御しつつ、圧延機10によって板材Sを圧延する。
【0027】
〔板厚算出装置〕
本発明の実施形態に係る板厚算出装置を実現するためのハードウェア構成の一例について、図2を参照しながら説明する。板厚算出装置100は、情報処理装置101と、入力装置102と、出力装置103と、を備えている。
【0028】
情報処理装置101は、パーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の装置によって構成されており、RAM111、ROM112およびCPU113を備えている。RAM111は、CPU113が実行する処理に関する処理プログラムや処理データを一時的に記憶し、CPU113のワーキングエリアとして機能する。
【0029】
ROM112は、本発明の実施形態に係る板厚算出方法を実行する制御プログラム112aと、情報処理装置101全体の動作を制御する処理プログラムや処理データを記憶している。
【0030】
CPU113は、ROM112内に記憶されている制御プログラム112aおよび処理プログラムに従って情報処理装置101全体の動作を制御する。
【0031】
入力装置102は、キーボード、マウスポインタ、テンキー等の装置によって構成され、情報処理装置101に対して各種情報を入力する際に操作される。出力装置103は、表示装置や印刷装置等によって構成され、情報処理装置101の各種処理情報を出力する。
【0032】
〔板厚算出方法〕
前記した板厚算出装置100による板厚算出方法について説明する。ここで、従来の板厚算出方法を用いた板厚制御では、板厚の算出精度を向上させるために、板材Sの圧延中に放射線板厚計40(γ線板厚計)の測定結果をフィードバックし、狙いの板厚となるように制御している。放射線板厚計40では、下記式(1)に示すγ線板厚算出式を用いて、γ線の検出電流から板厚を算出する。
【0033】
【数1】
【0034】
上記式(1)において、Tは板厚、μは線吸収係数、lnは自然対数、Iは基準線量、Iはγ線の検出電流、Cは吸収カーブ補正量、Cρはγ線の密度補正値、Cは相互干渉補正量、である。また、上記式(1)における密度補正値Cρは、下記式(2)により算出することができる。
【0035】
【数2】
【0036】
上記式(2)において、Cρはγ線の密度補正値、A,Bは補正項、Ceqはカーボン等量、μ’は質量密度係数、ρ’は合金密度、μ・ρは線吸収係数、αは線膨張係数、θは平均温度、である。従来の板厚算出方法を用いた板厚制御では、以下の表1に示すように、上記式(2)のパラメータのほとんどが、予め設定されたテーブル値となっている。
【0037】
【表1】
【0038】
なお、上記式(2)では、カーボン等量Ceqを考慮しているが、板材Sの成分に依らずに一定であり、変態点が考慮されていない。そのため、熱間で用いられる放射線板厚計40と、冷間で用いられるレーザ板厚計との間に測定器差(すなわちレーザ板厚計による正確な測定値に対する放射線板厚計40の測定器差)が発生し、板材Sの板厚のバラつきが発生していた。
【0039】
そこで、実施形態に係る板厚算出方法では、以下の表2に示すような説明変数を学習データとして用いて、レーザ板厚計の測定値に対する放射線板厚計40の測定器差の予測モデルを構築し、その予測結果に基づいて、上記式(2)の密度補正値Cρを変更(補正)する。
【0040】
【表2】
【0041】
上記の表2において、「説明変数」とは、予測モデルの学習の際に入力する入力変数のことを、「区分」とは説明変数の属性のことを示している。また、「区分:成分」とは、板材Sに含まれる実績の成分量のことを示している。
【0042】
図3は、表2の説明変数のより具体的な一例を示しており、縦軸が説明変数の項目、横軸が各説明変数の効果、すなわち予測モデルの精度に対する影響度を示している。同図に示した説明変数のうち、「スラブ寸法_長、スラブ寸法_幅、スラブ寸法_厚」は、表2の「スラブ寸法」に対応している。また、「圧延命令寸法_幅、圧延命令寸法_長、圧延命令寸法_厚」は、表2の「圧延寸法」に対応している。また、「スラブ実貫重量」は、表2の「重量」に対応している。
【0043】
また、図3に示した説明変数のうち、「上表面計算温度」は、表2の「予定表面温度」に対応している。また、「目標温度」は、表2の「予定平均温度」に対応している。また、「ベンダー圧力設定_上、ベンダー圧力設定_下」は、表2の「ベンダー圧力設定」に対応している。また、「上ER_径」は、表2の「BUR径」に対応している。また、「下WR_径」は、表2の「WR径」に対応している。また、「実績鋼種符号」は、板材Sの鋼種を成分系ごとにカテゴライズしたものであり、表2の「成分」に区分される。
【0044】
実施形態に係る板厚算出方法では、上記式(2)に示した密度補正値Cρを、下記式(3)によって変更し、変更後の密度補正値C’ρを用いて、上記式(1)の板厚Tを算出する。
【0045】
【数3】
【0046】
上記式(3)において、C’ρは変更後の密度補正値、Cρは変更前の密度補正値、Xは放射線板厚計40(γ線板厚計)で測定した出側厚、ΔXは予測モデルによって予測した測定器差(予測値)、である。
【0047】
以下、実施形態に係る板厚算出方法の具体的な処理手順について説明する。板厚算出方法では、モデル生成ステップと、板厚測定ステップと、予測ステップと、板厚算出ステップと、を行う。なお、上記のステップのうち、モデル生成ステップは、予め一度のみ実施すればよい。すなわち、モデル生成ステップによって一旦予測モデルを生成した後は、板厚算出方法として板厚測定ステップ、予測ステップおよび板厚算出ステップのみを実施すればよい。また、実施形態に係る板厚算出方法の各ステップは、前記した情報処理装置101のCPU113が主体となって実行される。
【0048】
モデル生成ステップでは、板材Sの材料特性を入力変数とし、放射線板厚計40において板材Sの板厚を算出する際に用いるパラメータを出力変数として、過去の材料特性およびそれに対する過去の前記パラメータから、予測モデルを生成する。
【0049】
前記した「板材Sの材料特性」としては、例えば前記した表1および図3に示した、板材Sの寸法、温度、実績成分および圧延設定等が挙げられる。また、前記した「パラメータ」としては、例えば上記式(3)における放射線板厚計40の測定器差ΔX、変更後の密度補正値C’ρ等が挙げられる。
【0050】
また、モデル生成ステップでは、例えば回帰森、回帰木、ランダムフォレスト、DBM(Deep Boltzmann Machine)、ニューラルネットワーク(特にディープラーニング)、勾配ブースティング、勾配ブースティング回帰木(Extreme Gradient Boosted Trees Regressor with early stopping)、勾配ブースティング回帰木のAVG Blender、Elastic Net回帰等の機械学習の手法により、予測モデルを生成する。予測モデルの学習方法としては、回帰森を用いることが好ましい。
【0051】
続いて、板厚測定ステップでは、放射線板厚計40によって、板材Sの板厚を測定する。続いて、予測ステップでは、モデル生成ステップで生成した予測モデルに対して、圧延対象の板材Sの材料特性を入力することによって、当該圧延対象の板材Sについて、前記パラメータ(測定器差ΔX、変更後の密度補正値C’ρ等)を予測する。
【0052】
続いて、板厚算出ステップでは、予測ステップで予測したパラメータに基づいて、板材Sの板厚を算出する。例えば予測ステップにおいて、放射線板厚計40の測定器差ΔXを予測した場合、板厚算出ステップでは、上記式(3)により、予測した測定器差ΔXによって密度補正値Cρを変更する。そして、上記式(1)の密度補正値Cρの代わりに、変更後の密度補正値C’ρを用いて、板材Sの板厚Tを算出する。
【0053】
また、予測ステップにおいて、変更後の密度補正値C’ρを予測した場合、板厚算出ステップでは、上記式(1)の密度補正値Cρの代わりに、予測した変更後の密度補正値C’ρを用いて、板材Sの板厚Tを算出する。実施形態に係る板厚算出方法では、以上の手順により、板材Sの板厚Tを精度よく算出することができる。
【0054】
〔実施例〕
本発明に係る板厚算出方法の実施例について、図4図8を参照しながら説明する。
【0055】
図4は、本発明に係る板厚算出方法(以下、「本発明手法」という)を実施した際の、放射線板厚計40の測定器差の予測精度を示すグラフである。同図において、横軸は測定器差の実績値、縦軸は本発明に係る板厚算出方法の予測ステップで予測した測定器差の予測値である。同図に示すように、本発明に係る板厚算出方法による測定器差の予測精度は良好であることがわかる。また、測定器差の実績値と予測値との最小二乗誤差(RMSE:Root Mean Square Error)は、「34.3μm」であった。
【0056】
続いて、図5は、従来手法を実施した際の、板材S(例えば厚鋼板)のMn含有量に対する放射線板厚計40の測定器差の予測誤差を示している。また、図6は、本発明手法を実施した際の、板材SのMn含有量に対する放射線板厚計40の測定器差の予測誤差を示している。図5および図6において、横軸はMn含有量(実績値)、縦軸は測定器差の予測誤差(測定器差の実績値-予測値)である。
【0057】
図5の従来手法では、Mn含有量が増加するにつれて、予測誤差が大きくなるのに対し、図6の本発明手法では、Mn含有量にかかわらず、予測誤差が小さいことがわかる。すなわち、本発明手法では、板材Sの成分による予測誤差が低減していることがわかる。
【0058】
続いて、図7は、従来手法と本発明手法とにおける、放射線板厚計40の測定器差のバラつき(標準偏差σ)を示している。同図に示すように、従来手法の測定器差のバラつきが「53.1μm」であるのに対して、本発明手法の測定器差のバラつきは「37.1μm」である。従って、本発明手法を用いることにより、測定器差のバラつきが低減できることがわかる。
【0059】
続いて、図8は、従来手法と本発明手法とにおける、冷間狙い厚精度を示している。なお、「冷間狙い厚精度」とは、熱間圧延後における目標板厚に対する、レーザ板厚計による実測板厚の精度のことを示している。同図に示すように、従来手法の測定器差の冷間狙い厚精度が「58.8μm」であるのに対して、本発明手法の冷間狙い厚精度は「49.8μm」である。従って、本発明手法を用いることにより、冷間狙い厚精度を約15%向上できることがわかる。
【0060】
以上説明した実施形態に係る板厚算出方法および板厚算出装置100によれば、予め構築した予測モデルを用いて、板材Sの板厚を算出する際に用いるパラメータを予測し、当該パラメータに基づいて板材Sの板厚を算出することにより、圧延中に放射線で板厚を測定する際に、コスト増加を招くことなく、板厚の測定精度を向上させることができる。また、実施形態に係る板厚算出方法および板厚算出装置100によれば、板材Sの成分や温度による放射線板厚計40の測定器差(板厚較差)を予測し、学習するようにしたので、成分系や温度ごとに細かい指示をせずとも、精度よく放射線(例えばγ線)の密度を補正することができる。
【0061】
また、本発明に係る板厚制御方法および板厚制御装置1によれば、板材Sの板厚を制御よく制御することができる。また、本発明に係る板材Sの製造方法によれば、板厚不良のない優れた板材Sを製造することができる。
【0062】
以上、本発明に係る板厚算出方法、板厚制御方法、板材の製造方法、板厚算出装置および板厚制御装置について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
1 板厚制御装置
10 圧延機
11 ワークロール
12 バックアップロール
20 油圧シリンダ
30 ロードセル
40 放射線板厚計
50 板厚制御部
60 サーボアンプ
70 サーボ弁
100 板厚算出装置
101 情報処理装置
102 入力装置
103 出力装置
111 RAM
112 ROM
112a 制御プログラム
113 CPU
S 板材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8