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特開2022-59387板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置
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  • 特開-板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置 図1
  • 特開-板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059387
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/18 20060101AFI20220406BHJP
【FI】
B21B37/18 110Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167094
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小梶 智也
(72)【発明者】
【氏名】野辺 亮太
(72)【発明者】
【氏名】小玉 開
(72)【発明者】
【氏名】吉成 有介
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124AA18
4E124BB02
4E124CC01
4E124CC02
4E124EE14
4E124GG07
(57)【要約】
【課題】ロール噛み込み時におけるロール開度を適切な値に設定することができる板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置を提供すること。
【解決手段】板厚制御方法は、板材の目標板厚に基づいて、圧下シリンダの位置を制御することにより、板材の板厚を制御する板厚制御方法であって、板材の前パスの噛み抜け側端部の板厚に関連する第一のパラメータを入力変数とし、板材の今パスの噛み込み側端部の板厚に関連する第二のパラメータを出力変数として、過去の第一のパラメータおよびそれに対する過去の第二のパラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の第一のパラメータを入力することによって、圧延対象の板材について第二のパラメータを予測する予測ステップと、予測した第二のパラメータに基づいて板材が圧延ロール間に噛み込まれる際のロール開度を設定するロール開度設定ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材が圧延ロール間に噛み込まれた後、前記板材の目標板厚に基づいて、圧下シリンダの位置を制御することにより、前記板材の板厚を制御する板厚制御方法であって、
前記板材の前パスの噛み抜け側端部の板厚に関連する第一のパラメータを入力変数とし、前記板材の今パスの噛み込み側端部の板厚に関連する第二のパラメータを出力変数として、過去の前記第一のパラメータおよびそれに対する過去の前記第二のパラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記第一のパラメータを入力することによって、圧延対象の板材について前記第二のパラメータを予測する予測ステップと、
予測した前記第二のパラメータに基づいて前記板材が前記圧延ロール間に噛み込まれる際のロール開度を設定するロール開度設定ステップと、
を含む板厚制御方法。
【請求項2】
前記第一のパラメータは、前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗であり、
前記第二のパラメータは、今パスの噛み込み側端部の変形抵抗である、
請求項1に記載の板厚制御方法。
【請求項3】
前記第一のパラメータは、前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗であり、
前記第二のパラメータは、今パスの噛み込み荷重である、
請求項1に記載の板厚制御方法。
【請求項4】
前記第一のパラメータは、前パスの噛み抜け荷重であり、
前記第二のパラメータは、今パスの噛み込み側端部の変形抵抗である、
請求項1に記載の板厚制御方法。
【請求項5】
前記第一のパラメータは、前パスの噛み抜け荷重であり、
前記第二のパラメータは、今パスの噛み込み荷重である、
請求項1に記載の板厚制御方法。
【請求項6】
前記入力変数として、前記前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗に加えて、前記板材の材料特性および前パスの噛み抜け荷重のうちの少なくとも一つを含む、請求項2に記載の板厚制御方法。
【請求項7】
前記板材の材料特性として、前記板材の寸法、温度、実績成分および圧延設定のうちの少なくとも一つを含む、請求項6に記載の板厚制御方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の板厚制御方法を用いて板材の板厚を制御しつつ、圧延機によって前記板材を圧延する、板材の製造方法。
【請求項9】
板材を噛み込んで圧延する圧延ロールを有する圧延機と、
前記板材が前記圧延ロール間に噛み込まれた後、前記板材の目標板厚に基づいて、圧下シリンダの位置を制御することにより、前記板材の板厚を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記板材の前パスの噛み抜け側端部の板厚に関連する第一のパラメータを入力変数とし、前記板材の今パスの噛み込み側端部の板厚に関連する第二のパラメータを出力変数として、過去の前記第一のパラメータおよびそれに対する過去の前記第二のパラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記第一のパラメータを入力することによって、圧延対象の板材について前記第二のパラメータを予測し、予測した前記第二のパラメータに基づいて前記板材が前記圧延ロール間に噛み込まれる際のロール開度を設定する、
板厚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延機(以下、単に「圧延機」という)の圧下量を調整して板材(例えば厚鋼板)の板厚を制御する圧延方法が知られている。圧延中の板材の端部(先端部、尾端部)は、過冷等により、板材の定常部(端部以外の部分)とは荷重の挙動が異なる。荷重が急激に変動すると、AGC(自動板厚制御)の油圧シリンダが追従できず、端部の板厚が定常部に比べて厚くなる。
【0003】
板材の端部の板厚が定常部に比べて厚くなることを抑止するため、従来は、板材が圧延機のワークロールに噛み込む際の油圧シリンダの沈み込みの補正に加えて、板材が圧延機のワークロールに噛み込まれる前およびワークロールに噛み込まれてから所定時間αが経過するまでの間に、ロール開度を設定ロール開度から補正量γだけ閉めこむ制御を行っている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-18237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、補正量γは、板材の寸法に応じてテーブル値で与えられており、メンテナンスコストが大きい。また、設定した補正量γが不適切であると、板材の板厚不良が発生する可能性もあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ロール噛み込み時におけるロール開度を適切な値に設定することができる板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板材の圧延方法は、板材が圧延ロール間に噛み込まれた後、前記板材の目標板厚に基づいて、圧下シリンダの位置を制御することにより、前記板材の板厚を制御する板厚制御方法であって、前記板材の前パスの噛み抜け側端部の板厚に関連する第一のパラメータを入力変数とし、前記板材の今パスの噛み込み側端部の板厚に関連する第二のパラメータを出力変数として、過去の前記第一のパラメータおよびそれに対する過去の前記第二のパラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記第一のパラメータを入力することによって、圧延対象の板材について前記第二のパラメータを予測する予測ステップと、予測した前記第二のパラメータに基づいて前記板材が前記圧延ロール間に噛み込まれる際のロール開度を設定するロール開度設定ステップと、を含む。
【0008】
また、本発明に係る板材の圧延方法は、上記発明において、前記第一のパラメータが、前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗であり、前記第二のパラメータが、今パスの噛み込み側端部の変形抵抗である。
【0009】
また、本発明に係る板材の圧延方法は、上記発明において、前記第一のパラメータが、前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗であり、前記第二のパラメータが、今パスの噛み込み荷重である。
【0010】
また、本発明に係る板材の圧延方法は、上記発明において、第一のパラメータが、前パスの噛み抜け荷重であり、前記第二のパラメータが、今パスの噛み込み側端部の変形抵抗である。
【0011】
また、本発明に係る板材の圧延方法は、上記発明において、前記第一のパラメータが、前パスの噛み抜け荷重であり、前記第二のパラメータが、今パスの噛み込み荷重である。
【0012】
また、本発明に係る板材の圧延方法は、上記発明において、前記入力変数として、前記前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗に加えて、前記板材の材料特性および前パスの噛み抜け荷重のうちの少なくとも一つを含む。
【0013】
また、本発明に係る板材の圧延方法は、上記発明において、前記板材の材料特性として、前記板材の寸法、温度、実績成分および圧延設定のうちの少なくとも一つを含む。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板材の製造方法は、上記の板材の圧延方法を用いて板材を圧延する。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る板材の圧延装置は、板材を噛み込んで圧延する圧延ロールを有する圧延機と、前記板材が前記圧延ロール間に噛み込まれた後、前記板材の目標板厚に基づいて、圧下シリンダの位置を制御することにより、前記板材の板厚を制御する制御部と、を備え、前記制御部が、前記板材の前パスの噛み抜け側端部の板厚に関連する第一のパラメータを入力変数とし、前記板材の今パスの噛み込み側端部の板厚に関連する第二のパラメータを出力変数として、過去の前記第一のパラメータおよびそれに対する過去の前記第二のパラメータから生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記第一のパラメータを入力することによって、圧延対象の板材について前記第二のパラメータを予測し、予測した前記第二のパラメータに基づいて前記板材が前記圧延ロール間に噛み込まれる際のロール開度を設定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る板厚制御方法および板厚制御装置によれば、板材の圧延中のロール開度設定において、材料ごとに異なる端部荷重の挙動を予測し、その予測結果に基づいて、ロール噛み込み時におけるロール開度を適切な値に設定することができる。また、本発明に係る板材の製造方法によれば、板厚不良のない優れた板材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施形態に係る板厚制御装置の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る板厚制御装置の制御部を実現するためのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る板厚制御装置において、予測モデルに入力する入力変数の一例を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例であり、従来手法における、板材の端部の変形抵抗の予測精度を示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施例であり、本発明手法における、板材の端部の変形抵抗の予測精度を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例であり、従来手法を用いた場合の噛み込み荷重と、本発明手法を用いた場合の噛み込み荷重とを比較したグラフである。
図7図7は、本発明の実施例であり、従来手法を用いた場合の板材の端部の板厚と、本発明手法を用いた場合の板材の端部の板厚とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
〔板厚制御装置〕
本発明の実施形態に係る板厚制御装置の構成について、図1を参照しながら説明する。板厚制御装置1は、圧延機10と、油圧シリンダ(圧下シリンダ)20と、ロードセル30と、板厚制御部50と、サーボアンプ60と、サーボ弁70と、を備えている。
【0020】
圧延機10は、板材Sを圧延する上下一対のワークロール(圧延ロール)11と、ワークロール11を補強する上下一対のバックアップロール12と、を備えている。なお、実施形態における板材Sとしては、例えば厚鋼板等が挙げられる。
【0021】
油圧シリンダ20は、ワークロール11のロール開度(ロールギャップ)を調節するためのものである。油圧シリンダ20は、サーボ弁70の制御に基づいて、ワークロール11およびバックアップロール12の位置を移動させることにより、ロール開度を調整する。
【0022】
ロードセル30は、圧延機10の圧延荷重を検出するためのものである。ロードセル30は、ワークロール11およびバックアップロール12にそれぞれ設置されている。また、ロードセル30は、検出した圧延荷重を、板厚制御部50に対して出力する。
【0023】
板厚制御部50は、板材Sがワークロール11に噛み込まれた後、自動板厚制御(Automatic Gauge Control:AGC)を行う。すなわち、ロードセル30で検出された圧延荷重に基づいて、板材Sの目標板厚からの板厚偏差がゼロとなるように、油圧シリンダ20の位置を制御して板材Sの板厚を制御する。
【0024】
板厚制御部50は、具体的には、ロードセル30から入力される圧延荷重等の情報に基づいて、ロール開度を算出する。そして、板厚制御部50は、算出したロール開度を、サーボアンプ60に対して出力する。これにより、ロール開度に基づく信号がサーボアンプ60からサーボ弁70へと出力され、サーボ弁70によって、油圧シリンダ20の圧力油量が制御されることにより、ロール開度が調整される。
【0025】
板厚制御部50を実現するためのハードウェア構成の一例について、図2を参照しながら説明する。板厚制御部50は、情報処理装置51と、入力装置52と、出力装置53と、を備えている。
【0026】
情報処理装置51は、パーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の装置によって構成されており、RAM511、ROM512およびCPU513を備えている。RAM511は、CPU513が実行する処理に関する処理プログラムや処理データを一時的に記憶し、CPU513のワーキングエリアとして機能する。
【0027】
ROM512は、本発明の実施形態に係る板厚制御方法を実行する制御プログラム512aと、情報処理装置51全体の動作を制御する処理プログラムや処理データを記憶している。
【0028】
CPU513は、ROM512内に記憶されている制御プログラム512aおよび処理プログラムに従って情報処理装置51全体の動作を制御する。
【0029】
入力装置52は、キーボード、マウスポインタ、テンキー等の装置によって構成され、情報処理装置51に対して各種情報を入力する際に操作される。出力装置53は、表示装置や印刷装置等によって構成され、情報処理装置51の各種処理情報を出力する。
【0030】
なお、実施形態に係る板厚制御装置1は、板材Sを製造する装置としても機能する。この場合、板厚制御装置1は、前記した板厚制御方法を用いて板材Sの板厚を制御しつつ、圧延機10によって板材Sを圧延する。
【0031】
〔板厚制御方法〕
前記した板厚制御装置1による板厚制御方法について説明する。ここで、最終的な板材の形状(板厚)に影響を及ぼす圧延機10による仕上げ圧延パスのロール開度は、下記式(1)によって決定することができる。
【0032】
【数1】
【0033】
上記式(1)において、Sはロール開度、hは出側厚、Sm’はミル縦伸び、Seはミル横伸び、Rwはロールウェア、Scrはクラウン、Sはゼロ調整時のロール開度、Offはオフセット項、Wdteはロール摩耗、exepはロール膨張、gmhoはGM補正項、βはベンダー補正項、Pbはベンダー圧、Kbはベンダーミル定数、である。また、上記式(1)の「Sm’-Se」はミル伸びと呼ばれる。このミル伸びは、板材Sがワークロール11に噛み込む際の、噛み込み荷重から算出される。また、噛み込み荷重は、下記式(2)により求めることができる。
【0034】
【数2】
【0035】
上記式(2)において、P0は噛み込み荷重、bは板幅、ldは接触弧長、kfは端部の変形抵抗、Qpは圧下力関数、である。
【0036】
従来は、上記式(2)の変形抵抗kfを、従来の実績データからの単純回帰により人手で計算していたため、メンテナンスコストが大きかった。また、設定した変形抵抗kfの値が不適切であると、ロール開度の設定に不備が生じ、板材の板厚不良が発生する可能性もあった。
【0037】
そこで、実施形態に係る板厚制御方法では、実際の噛み込み荷重に即した今パスの噛み込み側端部の変形抵抗kfを、予め構築した予測モデルによって予測する。更に、前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗に加えて、板材Sの材料特性や前パスの噛み抜け荷重等を入力変数に加えることにより、噛み込み荷重の予測精度を向上させる。そして、その予測結果を用いてロール開度を計算することにより、材料ごとのロール開度を適切に設定可能とした。なお、「今パス」とは板厚制御対象の圧延パスを指し、「前パス」とは板厚制御対象の圧延パスの一つ前の圧延パスを指す。
【0038】
実施形態に係る板厚制御方法では、以下の表1に示すような説明変数を学習データとして用いて、板材Sの前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗に対する、板材Sの今パスの噛み込み側端部の変形抵抗の予測モデルを構築し、その予測結果を上記式(2)の変形抵抗kfとして用いる。そして、上記(1)に基づいて、ロール開度を算出する。
【0039】
【表1】
【0040】
上記の表1において、「説明変数」とは、予測モデルの学習の際に入力する入力変数のことを、「区分」とは説明変数の属性のことを示している。また、「区分:成分」とは、板材Sに含まれる実績の成分量のことを示している。
【0041】
図3は、表1の説明変数のより具体的な一例を示しており、縦軸が説明変数の項目、横軸が各説明変数の効果、すなわち予測モデルの精度に対する影響度を示している。同図に示した説明変数のうち、「スラブ寸法_長、スラブ寸法_幅、スラブ寸法_厚」は、表1の「スラブ寸法」に対応している。また、「圧延命令寸法_長、圧延命令寸法_幅、圧延命令寸法_厚」は、表1の「圧延寸法」に対応している。また、「スラブ実貫重量」は、表1の「重量」に対応している。
【0042】
また、図3に示した説明変数のうち、「ベンダー圧力設定_上、ベンダー圧力設定_下」は、表1の「ベンダー圧力設定」に対応している。また、「下WR_径」は、表1の「WR径」に対応している。また、「前パス出側厚エッジ」は、表1の「出側厚」に対応している。
【0043】
以下、実施形態に係る板厚制御方法の具体的な処理手順について説明する。板厚制御方法では、モデル生成ステップと、予測ステップと、ロール開度設定ステップと、を行う。なお、上記のステップのうち、モデル生成ステップは、予め一度のみ実施すればよい。すなわち、モデル生成ステップによって一旦予測モデルを生成した後は、板厚制御方法として予測ステップおよびロール開度設定ステップのみを実施すればよい。また、実施形態に係る板厚制御方法の各ステップは、前記した情報処理装置51のCPU513が主体となって実行される。
【0044】
モデル生成ステップでは、板材Sの前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗を入力変数とし、板材Sの今パスの噛み込み側端部の変形抵抗を出力変数として、過去の前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗およびそれに対する過去の今パスの噛み込み側端部の変形抵抗から、予測モデルを生成する。
【0045】
なお、モデル生成ステップでは、入力変数として、前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗に加えて、板材の材料特性および前パスの噛み抜け荷重を用いてもよい。前記した「板材Sの材料特性」としては、例えば前記した表1および図3に示した、板材Sの寸法、温度、実績成分および圧延設定等が挙げられる。
【0046】
また、モデル生成ステップでは、例えば回帰森、回帰木、ランダムフォレスト、DBM(Deep Boltzmann Machine)、ニューラルネットワーク(特にディープラーニング)、勾配ブースティング、勾配ブースティング回帰木(Extreme Gradient Boosted Trees Regressor with early stopping)、勾配ブースティング回帰木のAVG Blender、Elastic Net回帰等の機械学習の手法により、予測モデルを生成する。予測モデルの学習方法としては、回帰森を用いることが好ましい。
【0047】
続いて、予測ステップでは、モデル生成ステップで生成した予測モデルに対して、圧延対象の板材Sの前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗を入力することによって、圧延対象の板材について今パスの噛み込み側端部の変形抵抗を予測する。
【0048】
続いて、ロール開度設定ステップでは、予測ステップで予測した今パスの噛み込み側端部の変形抵抗に基づいて、板材Sがワークロール11間に噛み込まれる際のロール開度を設定する。ロール開度設定ステップでは、具体的には、上記式(2)によって噛み込み荷重P0を算出した後、上記式(1)によってロール開度を算出する。
【0049】
〔実施例〕
本発明に係る板厚制御方法の実施例について、図4図7を参照しながら説明する。
【0050】
図4は、従来手法(実績データからの単純回帰によって変形抵抗を計算する手法)を実施した際の、板材Sの端部の変形抵抗(以下、「端部変形抵抗」という)の予測精度を示すグラフである。同図において、横軸は端部変形抵抗の実績値、縦軸は従来手法により計算した端部変形抵抗の計算値である。同図に示すように、従来手法における標準偏差σは、「10.7%」であった。
【0051】
図5は、本発明に係る板厚制御方法(以下、「本発明手法」という)を実施した際の、板材Sの端部変形抵抗の予測精度を示すグラフである。同図において、横軸は端部変形抵抗の実績値、縦軸は本発明手法の予測モデルによって予測した端部変形抵抗の予測値である。同図に示すように、従来手法における標準偏差σは、「3.8%」であった。従って、本発明手法を用いることにより、端部変形抵抗の予測精度が向上することがわかる。
【0052】
続いて、図6は、本発明の実施例であり、従来手法を用いた場合の噛み込み荷重と、本発明手法を用いた場合の噛み込み荷重とを比較したグラフである。同図に示すように、従来手法を用いた場合の噛み込み荷重は「4211ton」であるのに対し、本発明手法を用いた場合の噛み込み荷重は「4612ton」であった。従って、本発明手法を用いることにより、従来手法よりも、ロール開度を0.29mm閉め込むことが可能となる。
【0053】
続いて、図7は、従来手法を用いた場合の板材Sの端部の板厚と、本発明手法を用いた場合の板材Sの端部の板厚とを比較したグラフである。同図において、横軸は板材Sの長さ(板材Sの端部からの距離)、縦軸は板材Sの板厚である。また、同図の実線のグラフは、圧延後にレーザ板厚計で計測した板材Sの実績の板厚である。同図に示すように、ロール開度を0.29mm閉め込むことにより、板材Sの端部の板厚をより小さく制御することが可能となる。
【0054】
以上説明した実施形態に係る板厚制御方法および板厚算出装置によれば、板材Sの圧延中のロール開度設定において、材料ごとに異なる端部荷重の挙動を予測し、その予測結果に基づいて、ロール噛み込み時におけるロール開度を適切な値に設定することができる。すなわち、実施形態に係る板厚制御方法および板厚算出装置によれば、前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗、板材Sの材料特性および前パスの噛み抜け荷重により、ロール開度の補正量(変形抵抗kf)を学習するようにしたため、成分系や温度、寸法ごとに細かい指示を行うことなく、精度よく適切なロール開度の設定を行うことができ、板材Sの板厚不良を削減することが可能となる。また、本発明に係る板材Sの製造方法によれば、板厚不良のない優れた板材Sを製造することができる。
【0055】
以上、本発明に係る板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0056】
例えば実施形態に係る板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置では、上記式(2)の変形抵抗kfを予測モデルによって予測していたが、噛み込み荷重P0自体を予測してもよい。
【0057】
また、実施形態に係る板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置では、「前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗」を入力変数とし、「今パスの噛み込み側端部の変形抵抗」を出力変数として、予測モデルの学習を行っていたが、上記以外の入力変数および出力変数を組み合わせて学習を行ってもよい。
【0058】
例えば実施形態に係る板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置では、前記板材の前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗を入力変数とし、前記板材の今パスの噛み込み荷重を出力変数として、過去の前記前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗およびそれに対する過去の前記今パスの噛み込み荷重から生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記前パスの噛み抜け側端部の変形抵抗を入力することによって、圧延対象の板材について前記今パスの噛み込み荷重を予測してもよい。
【0059】
また、実施形態に係る板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置では、前記板材の前パスの噛み抜け荷重を入力変数とし、前記板材の今パスの噛み込み側端部の変形抵抗を出力変数として、過去の前記前パスの噛み抜け荷重およびそれに対する過去の前記今パスの噛み込み側端部の変形抵抗から生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記前パスの噛み抜け荷重を入力することによって、圧延対象の板材について前記今パスの噛み込み側端部の変形抵抗を予測してもよい。
【0060】
また、実施形態に係る板厚制御方法、板材の製造方法および板厚制御装置では、前記板材の前パスの噛み抜け荷重を入力変数とし、前記板材の今パスの噛み込み荷重を出力変数として、過去の前記前パスの噛み抜け荷重およびそれに対する過去の前記今パスの噛み込み荷重から生成された予測モデルに対して、圧延対象の板材の前記前パスの噛み抜け荷重を入力することによって、圧延対象の板材について前記今パスの噛み込み荷重を予測してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 板厚制御装置
10 圧延機
11 ワークロール
12 バックアップロール
20 油圧シリンダ
30 ロードセル
50 板厚制御部
51 情報処理装置
52 入力装置
53 出力装置
511 RAM
512 ROM
512a 制御プログラム
513 CPU
60 サーボアンプ
70 サーボ弁
S 板材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7