(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059456
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料およびその製造方法、多孔質炭素材料の前駆体、ならびに多孔質炭素材料を用いた電極材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20220406BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20220406BHJP
【FI】
C01B32/05
H01G11/42
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167228
(22)【出願日】2020-10-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 成之
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸治
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA16
4G146AB01
4G146AC10A
4G146AC10B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD23
4G146BA11
4G146BA38
4G146BB04
4G146BC02
4G146BC33B
4G146CB19
4G146CB33
4G146CB35
5E078AA01
5E078AB02
5E078BA13
(57)【要約】
【課題】簡単な作業工程で製造でき、高比表面積で、電解質イオンの出し入れもスムーズに行うことができる多孔質炭素材料、およびその製造方法と、当該多孔質炭素材料を用いた電極材料を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液、またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液と、亜鉛イオンを含む化合物を有機溶媒に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、の合成反応により、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が、0.1<Zn/Cとなされた前駆体を調製し、その後、当該前駆体を焼成し、700℃で焼成した際に検出されるX線回折の回折角度のピークが検出されなくなるまで高温で焼成して多孔質にする多孔質炭素材料の製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液、またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液と、
亜鉛イオンを含む化合物を有機溶媒に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、
の合成反応により、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が、0.1<Zn/Cとなされた前駆体を調製し、
その後、当該前駆体を焼成し、700℃で焼成した際に検出されるX線回折の回折角度のピークが検出されなくなるまで高温で焼成して多孔質にする
ことを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れる前駆体を調製する請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物としてテレフタル酸を用いる請求項1または2に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項4】
亜鉛イオンを含む化合物として酢酸亜鉛を用い、有機溶媒としてNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用いる請求項1ないし3の何れか一に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一に記載の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、
X線回折による回折角度のピーク(2θ)が、31.7°、34.3°、36.2°、47.45°、56.5°(何れのピークも誤差±0.3)に検出されない多孔質炭素材料。
【請求項6】
比表面積が1468m2/g以上となされた請求項5に記載の多孔質炭素材料。
【請求項7】
窒素吸脱着等温線より得られた結果をBJH法により算出して得られる、全比表面積に占めるメソ孔(2~50nm)の比表面積の割合が、22%以上となされた請求項5または6に記載の多孔質炭素材料。
【請求項8】
比表面積が2500m2/g以上となされ、そのうち、メソ孔の比表面積が1400m2/g以上となされた請求項7に記載の多孔質炭素材料。
【請求項9】
焼成することで多孔質炭素材料として調製することができる前駆体であって、
カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液、またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液と、
亜鉛イオンを含む化合物を有機溶媒に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、
の合成反応により得られ、
EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が、0.1<Zn/Cとなされたことを特徴とする多孔質炭素材料の前駆体。
【請求項10】
純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れる請求項9に記載の多孔質炭素材料の前駆体。
【請求項11】
請求項5ないし8の何れか一に記載の多孔質炭素材料を含む電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い比表面積値を得ることができる多孔質炭素材料およびその製造方法と、その多孔質炭素材料を用いた電極材料とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気二重層キャパシタの分極性電極として、表面積が大きく導電性に優れている点から活性炭等の多孔質材料が用いられている。しかし、活性炭は、細孔が複雑に入り組んだ構造であるため、当該活性炭に吸着される電解質イオンの量が少なくなり、容量が有効に発現しなくなる。また、高出力領域において電解質イオンのスムーズな出し入れが困難になるため、高出力領域における容量が不足する。
【0003】
そこで、従来より、このような活性炭に変わるものとして、本発明者等は、三次元網目構造に構成された金属錯体を合成した後、それを焼成することによって、電解質イオンの吸脱着を容易に行うことをできるようにした多孔性金属錯体の焼成体を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の多孔性金属錯体の焼成体の場合、活性炭に替わる電極材料として有効な性能を発揮するものの、本来の性能を発揮させるために幾つかの工夫をすることで、さらに高性能となることの知見を得て、本発明者等は新たな発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、簡単な作業工程で製造でき、高比表面積で、電解質イオンの出し入れもスムーズに行うことができる多孔質炭素材料、およびその製造方法と、当該多孔質炭素材料を用いた電極材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液、またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液と、亜鉛イオンを含む化合物を有機溶媒に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、の合成反応により、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が、0.1<Zn/Cとなされた前駆体を調製し、その後、当該前駆体を焼成し、700℃で焼成した際に検出されるX線回折の回折角度のピークが検出されなくなるまで高温で焼成して多孔質にするものである。
【0008】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れる前駆体を調製するものであってもよい。
【0009】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物としてテレフタル酸を用いるものであってもよい。
【0010】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、亜鉛イオンを含む化合物として酢酸亜鉛を用い、有機溶媒としてNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用いるものであってもよい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の多孔質炭素材料は、上記製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、X線回折による回折角度のピーク(2θ)が、31.7°、34.3°、36.2°、47.45°、56.5°(何れのピークも誤差±0.3)に検出されないものである。
【0012】
上記多孔質炭素材料は、比表面積が1468m2/g以上となされたものであってもよい。
【0013】
上記多孔質炭素材料は、窒素吸脱着等温線より得られた結果をBJH法により算出して得られる、全比表面積に占めるメソ孔(2~50nm)の比表面積の割合が、22%以上となされたものであってもよい。
【0014】
上記多孔質炭素材料は、比表面積が2500m2/g以上となされ、そのうち、メソ孔の比表面積が1400m2/g以上となされたものであってもよい。
【0015】
上記課題を解決するための本発明に係る多孔質炭素材料の前駆体は、焼成することで多孔質炭素材料として調製することができる前駆体であって、カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液、またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液と、亜鉛イオンを含む化合物を有機溶媒に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、の合成反応により得られ、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が、0.1<Zn/Cとなされたものである。
【0016】
上記多孔質炭素材料の前駆体は、純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れるものであってもよい。
【0017】
上記課題を解決するための本発明の電極材料は、上記多孔質炭素材料を含むものである。
【0018】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物としては、単数または複数のベンゼン環に、単数または複数のカルボキシル基が設けられたものを使用することができる。単数のベンゼン環に、単数または複数のカルボキシル基が設けられた芳香族炭化水素化合物としては、例えば、安息香酸、または、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸、または、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、または、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸等を使用することができる。前駆体の合成や、合成された前駆体の元素比率を考慮すると、ベンゼンジカルボン酸を使用することが好ましく、テレフタル酸を使用することがより好ましい。複数のベンゼン環に、単数または複数のカルボキシル基が設けられた芳香族炭化水素化合物としては、例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4-ビスフェニルジカルボン酸、4,4-スチルルベンジカルボン酸を使用することができる。
【0019】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、アルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物としては、単数または複数のベンゼン環に、単数または複数のアルデヒド基が設けられたものを使用することができる。単数のベンゼン環に、単数または複数のアルデヒド基が設けられた芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンズアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、1,3,5-ベンゼントリカルボアルデヒド、1,2,4-ベンゼントリカルボアルデヒドを使用することができる。複数のベンゼン環に、単数または複数のアルデヒド基が設けられた芳香族炭化水素化合物としては、例えば、2,6-ナフタレンジカルボアルデヒドを使用することができる。
【0020】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物を溶解する有機溶媒としては、例えば、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、メタノール、エタノール、DMSO(ジメチルスルホキシド:C2H6SO)、DMF(ジメチルホルムアミド:C3H7NO)、DMA(ジメチルアセトアミド:C4H9NO)、DEF(N,N-ジエチルホルムアミド)などを用いることができる。これらは、単独溶媒であってもよいし、複数種類を混合した混合溶媒であってもよい。この有機溶媒5~500mlに、上記したカルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物0.05~0.5gを溶解することで、有機リガンド液が調製される。
【0021】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、亜鉛イオンを含む化合物としては、上記有機リガンド液のカルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物、または、アルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物、と配位結合して合成可能な化合物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、酢酸亜鉛、酢酸亜鉛二水和物、硝酸亜鉛六水和物などを使用することができる。
【0022】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、亜鉛イオンを含む化合物を溶解する溶媒としては、上記有機リガンド液に使用されているものと同じものが使用される。この有機溶媒10~200mlに、上記した亜鉛イオンを含む化合物0.1~0.8gを溶解することで、亜鉛イオン溶液が調製される。
【0023】
上記有機リガンド液と上記亜鉛イオン溶液との合成反応により、前駆体が調製される。
この際、合成に使用する、カルボキシル基を有する単環芳香族炭化水素化合物またはアルデヒド基を有芳香族炭化水素化合物、亜鉛イオンを含む化合物、溶媒、の各材料として上記したものを選定する。この選定をすることで、得られる前駆体は、純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れる前駆体を調製することができる。例えば、酢酸亜鉛、NMP、テレフタル酸を用いて合成することで、上記5つの回折角度のピークを有し、多孔質ではない鱗片状の前駆体を調製することができる。この前駆体は、比表面積が15m2/g以下となり、多孔質に形成されていない。
【0024】
上記前駆体は、焼成することによって多孔質炭素材料とされる。この際、焼成は、前駆体を700℃で焼成した際に検出されるX線回折の回折角度のピークが検出されなくなるまで、当該前駆体を高温で焼成する。すなわち、上記前駆体は、亜鉛イオン溶液を用いて合成しているので、当該前駆体を700℃程度の温度で焼成すると、前駆体に入り込んでいた酸化亜鉛や亜鉛が、当該前駆体に残ってしまい、長時間焼成しても、回折角度のピークとして検出される。確認したピークは、31.7°、34.3°、36.2°、47.45°、56.5°(何れのピークも誤差±0.3)である。しかし、亜鉛の沸点である907℃以上の温度で焼成させると、酸化亜鉛を分解し、亜鉛を蒸発させることができるので、前駆体に入り込んでいた酸化亜鉛や亜鉛を消失させ、上記したピークも無くなり、当該酸化亜鉛や亜鉛が入り込んでいた跡に、細孔が形成され多孔質になる。この際、亜鉛の沸点である907℃以上で焼成すれば、確実に細孔を形成して多孔質にすることができるが、亜鉛の沸点以下の温度であっても、長時間焼成すれば、酸化亜鉛や亜鉛の入り込んでいた跡に細孔を形成して多孔質にすることができる。850℃以上で焼成した場合は、長時間の焼成で上記したピークを無くし、細孔を形成して多孔質にすることができることが確認できている。したがって、焼成条件としては、酸化亜鉛を分解し、亜鉛を蒸発させることができる条件であれば、特に限定されるものではなく、目安としては、30分~8時間、または前駆体1g当たり3.84時間~61.6時間の焼成を行うことが好ましい。焼成時間が、前駆体1g当たり30時間を超えると、または2時間を超えると、指数関数的またはn次関数(n>1)的に酸化亜鉛や亜鉛が消失し始め、その跡に細孔が形成されることとなるので、850℃以上であれば、前駆体1g当たり30時間以上、または2時間以上焼成すれば、上記したピークを無くすことができる。また、亜鉛の沸点である907℃以上の場合には、上記したピークを無くすことができるだけでなく、上記したピークとして検出されなかった非晶質(アモルファス)な酸化亜鉛や亜鉛も消失させることができるので、これら非晶質な酸化亜鉛や亜鉛が抜けた跡にも細孔を形成することができることとなり、より多孔質にして高非表面積の多孔質炭素材料を得ることができることとなる。
【0025】
また、この焼成の際、前駆体は、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が0.1<Zn/Cとしているので、酸化亜鉛や亜鉛が抜ける際に亜鉛や炭素が消耗されて抜けた跡の空隙が多く形成され、多孔質となる。
【0026】
焼成は、不活性ガス雰囲気(窒素ガスもしくはアルゴンガス雰囲気)にて行うものであってもよい。この際、不活性ガス雰囲気は、0.1~1.0リットル/分のガス流量で焼成雰囲気を置換しながら行うものであってもよい。また、焼成時に所定の温度から5~10℃/分程度の昇温速度で昇温して所定温度にして焼成を行うものであってもよい。さらに、焼成は、減圧雰囲気下で行うものであってもよい。焼成する炉は、炉心管タイプ、ボックス炉、ロータリーキルン炉などを用いることができる。
【0027】
このようにして構成された多孔質炭素材料は、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率を0.1<Zn/Cとした、三次元網目構造で骨格形成がされた前駆体を調製し、この前駆体に取り込まれている酸化亜鉛や亜鉛を、当該酸化亜鉛が分解し、亜鉛が蒸発する温度で、当該酸化亜鉛や亜鉛に関連するX線回折の回折角度のピーク31.7°、34.3°、36.2°、47.45°、56.5°(何れのピークも誤差±0.3)が無くなるまで焼成することにより、酸化亜鉛や亜鉛を消失させ、当該酸化亜鉛や亜鉛が入り込んでいた跡に、細孔を形成して多孔質化を図ることができる。こうすることで、焼成の過程で前駆体の亜鉛イオンが酸化亜鉛を経てから抜け出ることとなり、抜け出た跡に細孔を生じて多孔質化を図ることができることとなる。しかも、酸化亜鉛や亜鉛を消失させることができる高温で焼成するため、余計な不純物等も同時に消失させることができるので、焼成後の水洗の必要も無くすことができ、焼成工程後に得られた焼成体をそのまま使用することができることとなり、簡単な作業工程で多孔質炭素材料を得ることができる。
【0028】
しかも、このようにして構成された多孔質炭素材料は、元々、三次元網目構造で骨格形成された前駆体から、酸化亜鉛や亜鉛の部分を消失させて、当該酸化亜鉛や亜鉛が入り込んでいた跡に、細孔を形成しているため、細孔が規則正しく形成された多孔質炭素材料となる。したがって、電極材料として使用すれば、電解質イオンの出し入れをスムーズに行うことができることとなり、静電容量の高い高性能な電極材料とすることができる。また、このようにして形成される細孔は、上記酸化亜鉛や亜鉛が抜けた跡に形成されるものが多くなるため、IUPACで定義されるメソ孔(2~50nm)を多く形成できることとなり、全比表面積に占めるメソ孔の比表面積の割合を22%以上にすることができる。したがって、電解質イオンの出し入れを、よりスムーズに行うことができることとなる。さらに、このメソ孔は、亜鉛の沸点以上で、かつ、上記した長時間の焼成を行うことで、指数関数的またはn次関数(n>1)的に酸化亜鉛や亜鉛を消失させて、その跡に細孔を形成することができるので、比表面積を2500m2/g以上とし、そのうち、メソ孔の比表面積を1400m2/g以上とした超高性能な多孔質炭素材料を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本発明によると、カルボキシル基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液、またはアルデヒド基を有する芳香族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解してなる有機リガンド液と、亜鉛イオンを含む化合物を有機溶媒に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、の合成反応により、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が0.1<Zn/Cとなされた前駆体を調製し、その後、当該前駆体を焼成し、700℃で焼成した際に検出されるX線回折の回折角度のピークが検出されなくなるまで高温で焼成して多孔質にすることで、焼成時に酸化亜鉛や亜鉛を消失させ易くすることができ、酸化亜鉛や亜鉛が入り込んでいた跡に、細孔を形成して多孔質化を図った多孔質炭素材料を得ることができる。このようにして構成された多孔質炭素材料は、三次元網目構造で骨格形成された規則正しい前駆体の構造から酸化亜鉛や亜鉛を消失させて当該酸化亜鉛や亜鉛の跡に細孔を形成した高比表面積の多孔質炭素材料となるため、スムーズな電解質イオンの出し入れを可能にして静電容量の高い高性能な電極材料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法に使用する前駆体および純ケイ素の粉末X線回折の回折データを示すグラフである。
【
図2】本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法に使用する前駆体と、この製造方法によって得られた多孔質炭素材料のそれぞれの窒素吸脱着等温曲線を示すグラフであって、(a)は1時間焼成の実施例および比較例、(b)は5時間焼成の実施例および比較例を示している。
【
図3】本発明に係る多孔質炭素材料の粉末X線回折の回折データを示すグラフである。
【
図4】本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法に使用する前駆体の電子顕微鏡写真である。
【
図5】本発明に係る多孔質炭素材料を使用した電極試験片による静電容量、および活性炭を使用した電極試験片による静電容量の測定試験の結果を示すグラフである。
【
図6】本発明に係る多孔質炭素材料を使用した電極試験片による各電流値での静電容量と、活性炭を使用した電極試験片による各電流値での静電容量との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0032】
[実施例1-3、比較例1-3]
(前駆体の調製)
酢酸亜鉛・二水和物をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解させたものを亜鉛イオン溶液として調製した。
テレフタル酸をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解させたものを有機リガンド液として調製した。
質量比にて、テレフタル酸/酢酸亜鉛・二水和物=3.0となるように、上記亜鉛イオン溶液と、上記有機リガンド液とを混合し、合成反応により前駆体を得た。
【0033】
(前駆体のZn/Cの元素比率)
上記した前駆体の調製方法を複数回繰り返して複数の前駆体a~fを調製し、下記装置によりEDS分析を行い、前駆体のZn/Cの元素比率を求めた。結果を表1に示す。
測定機種:JEM-2100F(日本電子株式会社製)
測定条件:加速電圧200kV
【0034】
【0035】
(前駆体の粉末X線回折)
上記の方法でそれぞれ調製したうちの2つの前駆体を使用し、各前駆体を、高純度化学社製の純ケイ素と混ぜ合わせ、これら混合物の粉末約0.02gを、サンプルホルダーに乗せて整地し、回折を行った。純ケイ素のみの回折も行い、純ケイ素のピーク位置に対して、前駆体のピークがどこに出るのかを特定した。測定機種、測定条件などは下記の通りである。結果を
図1に示す。
測定機種:X線回折装置SmartLab SE(株式会社リガク社製)
測定条件:測定角度の範囲は2θ=2°~60°
スキャンスピード10°/min
X線源;Cu(Kα)
【0036】
図1の結果から、調製された前駆体は、純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れることが確認できた。また、前駆体のピークを測定する際、当該前駆体に混合した純ケイ素のピークと、純ケイ素のみを測定したピークとが大きくずれることもなかった。
【0037】
(前駆体の焼成)
上記の方法で調製した前駆体を複数個に分け、それぞれを異なる条件で焼成して多孔質炭素材料を得た。
【0038】
上記前駆体の焼成条件は、窒素ガス雰囲気にて、ガス流量0.2リットル/分、室温25℃から昇温速度10℃/分で昇温し、700℃到達後、その温度で1時間の焼成を行った場合(比較例1)と5時間焼成を行った場合(比較例2)、同じく昇温し、850℃到達後、その温度で1時間の焼成を行った場合(比較例3)と5時間焼成を行った場合(実施例1)、同じく昇温し、1000℃到達後、その温度で1時間焼成を行った場合(実施例2)と5時間焼成を行った場合(実施例3)についてそれぞれ焼成を行い、それぞれの多孔質炭素材料を得た。
【0039】
(窒素吸脱着測定(比表面積/細孔分布測定))
上記の方法で調製した前駆体および多孔質炭素材料のそれぞれを200℃で24時間減圧乾燥させ、室温雰囲気中で前駆体および多孔質炭素材料に吸着した水分を脱着させた後、当該前駆体および多孔質炭素材料のそれぞれの粉末0.02gをサンプル管に入れ、液体窒素雰囲気下で比表面積/細孔分布測定装置(BELLSORP-miniII:マイクロトラックベル株式会社製)によって窒素吸脱着等温曲線を測定した。また、同装置の解析プログラム(I型(ISO9277)BET自動解析)により比表面積を算出した。さらに、得られた窒素吸脱着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法により処理してIUPACで定義されているメソ孔(2~50nm)のサイズの比表面積を算出した。また、全比表面積に占めるメソ孔の比表面積の割合を算出した。前駆体および活性炭(クラレケミカル社製:YP50F)のデータと合わせて結果を表2および
図2に示す。なお、
図2は、1時間焼成した比較例1、比較例3、実施例2と(
図2(a))、5時間焼成した比較例2、実施例1、実施例3と(
図2(b))に分けて表示した。
【0040】
【0041】
(焼成体の粉末X線回折)
上記の方法で調製した多孔質炭素材料のそれぞれの粉末約0.02gを、サンプルホルダーに乗せて整地し、回折を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。結果を
図3に示す。
測定機種:X線回折装置SmartLab SE(株式会社リガク社製)
測定条件:測定角度の範囲は2θ=2°~60°
スキャンスピード10°/min
X線源;Cu(Kα)
【0042】
(電子顕微鏡写真)
上記の方法で調製した前駆体の形状を電子顕微鏡で撮影した。撮像の測定条件は、下記の通りとした。結果を
図4に示す。
測定機種:JSM-6010LA(日本電子株式会社製)
測定条件:加速電圧15kV、ワーキングディスタンス11mm、スポットサイズ30測定倍率:10000倍
【0043】
以上の結果から、前駆体の状態では、多孔質になっておらず、比表面積も15m2/gと小さく、無細孔であることが確認できるが、焼成することにより、多孔質化して比表面積が増加していることが確認できる。また、焼成温度が低いと酸化亜鉛や亜鉛などの元素が残存するが、亜鉛の沸点である907℃を超える1000℃度で焼成すると、1時間で多孔質化した高比表面積の多孔質炭素材料を得ることができることが確認できた。亜鉛の沸点である907℃よりも低い700℃では5時間焼成しても多孔質化することができなかったが、850℃の場合は、1時間では多孔質化することが難しかったが、5時間焼成した場合は、多孔質化して比表面積を増加させることができることが確認できた。つまり、亜鉛の沸点以下の温度の場合であっても、850℃位の温度であれば、長時間焼成した場合には、酸化亜鉛や亜鉛を消失させて多孔質化した高比表面積の多孔質炭素材料を得ることができることが確認できた。また、1000℃で5時間焼成した場合、比表面積が飛躍的に増大することが確認できた。これは、X線回折の回折角度のピークとしては現れないが、前駆体中に存在する非晶質な酸化亜鉛や亜鉛が、当該酸化亜鉛や亜鉛の沸点を超える温度での長時間の焼成によって指数関数的またはn次関数(n>1)的に処理されて消失し、その跡に細孔が形成されてさらに多孔質化したことにより、比表面積が飛躍的に増大したものと推測される。
【0044】
(三電極法による電極試験片の作製)
実施例3で得られた多孔質炭素材料を活物質として用い、当該活物質と、導電助剤(アセチレンブラック)と、結着剤(PVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂))とを、8:1:1の重量比で混練した。この混練物をチタンメッシュに塗布乾燥させて電極試験片を調製した。この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成した。
【0045】
(電極試験片の容量測定)
上記で調製したそれぞれの電極試験片の活物質重量あたり、50mA/gとなるように定電流を流して、参照電極に対して電位を0~0.8Vまで充電し、到達後、0.8~0Vまで放電し、その放電電気量から静電容量を算出した。静電容量は、電気化学計測器(VSP300 Biologic社製)を用いて測定した。また、比較対象として、実施例3で得られた多孔質炭素材料を、活性炭(クラレケミカル社製:YP50F)に変更して調製した電極試験片を用いて同様の測定を行った。その結果を表3および
図5に示す。
【0046】
【0047】
(電気容量維持率の測定)
上記の容量測定を、50、100、200、500、1000、2000、5000mA/gでそれぞれ行い、各電流密度における容量をプロットした。結果を
図6に示す。
【0048】
以上の結果から、本発明に係る多孔質炭素材料は、電極材料として、従来の活性炭を大きく上回る静電容量を得ることができ、電極材料として非常に高性能であることが確認できた。
【0049】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解してなる有機リガンド液と、
酢酸亜鉛をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、
の合成反応により、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が、0.1<Zn/Cとなされ、純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れる前駆体を調製し、
その後、当該前駆体を焼成し、700℃で焼成した際にX線回折によって31.7°、34.3°、36.2°、47.45°、56.5°(何れのピークも誤差±0.3)に検出される酸化亜鉛や亜鉛の回折角度の回折ピーク(2θ)が検出されなくなるまで高温で焼成して多孔質にする
ことを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、
X線回折による回折角度のピーク(2θ)が、31.7°、34.3°、36.2°、47.45°、56.5°(何れのピークも誤差±0.3)に検出されず、窒素吸脱着等温線より得られた結果をBJH法により算出して得られる、全比表面積が2500m
2
/g以上となされ、そのうち、メソ孔の比表面積が1400m
2
/g以上となされた多孔質炭素材料。
【請求項3】
焼成することで多孔質炭素材料として調製することができる前駆体であって、
テレフタル酸を有機溶媒NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解してなる有機リガンド液と、
酢酸亜鉛をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、
の合成反応により得られ、
EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が、0.1<Zn/Cとなされ、純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れることを特徴とする多孔質炭素材料の前駆体。
【請求項4】
請求項2に記載の多孔質炭素材料を含む電極材料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
以上述べたように、本発明によると、テレフタル酸をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解してなる有機リガンド液と、酢酸亜鉛をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解してなる亜鉛イオン溶液と、の合成反応により、EDS分析による亜鉛元素/炭素元素の比率が0.1<Zn/Cとなされ、純ケイ素の回折角度のピーク(2θ)が28.2°、47.12°、55.9°に測定される条件で、X線回折した際、9.92°、11.47°、11.88°、16.52°、24.25°(何れのピークも誤差±0.3°)に相当する少なくとも5つの回折角度のピークが現れる前駆体を調製し、その後、当該前駆体を焼成し、700℃で焼成した際にX線回折によって31.7°、34.3°、36.2°、47.45°、56.5°(何れのピークも誤差±0.3)に検出される酸化亜鉛や亜鉛の回折角度の回折ピーク(2θ)が検出されなくなるまで高温で焼成して多孔質にすることで、焼成時に酸化亜鉛や亜鉛を消失させ易くすることができ、酸化亜鉛や亜鉛が入り込んでいた跡に、細孔を形成して多孔質化を図った多孔質炭素材料を得ることができる。このようにして構成された多孔質炭素材料は、炭素元素に対して亜鉛元素を所定量以上含む前記前駆体の構造から酸化亜鉛や亜鉛を消失させて当該酸化亜鉛や亜鉛の跡に細孔を形成した高比表面積の多孔質炭素材料となるため、スムーズな電解質イオンの出し入れを可能にして静電容量の高い高性能な電極材料とすることができる。