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特開2022-59473冷鉄源溶解状況推定方法、冷鉄源溶解状況推定装置、金属精錬炉および溶鉄の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059473
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】冷鉄源溶解状況推定方法、冷鉄源溶解状況推定装置、金属精錬炉および溶鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20220406BHJP
   C21C 5/30 20060101ALI20220406BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C21C5/46 A
C21C5/30 Z
F27D21/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167253
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕美
(72)【発明者】
【氏名】勝山 雅規
(72)【発明者】
【氏名】村井 剛
(72)【発明者】
【氏名】天野 勝太
【テーマコード(参考)】
4K056
4K070
【Fターム(参考)】
4K056AA02
4K056CA02
4K056FA11
4K070AB01
4K070AC05
4K070BD20
4K070BE10
(57)【要約】
【課題】金属精錬炉の操業中にリアルタイムで精錬容器内のスクラップ残存状況を推定する技術を提案する。
【解決手段】金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を炉操業中にリアルタイムで推定する冷鉄源溶解状況推定方法であって、加速度センサを用いて、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定し、前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定する冷鉄源溶解状況推定方法である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を炉操業中にリアルタイムで推定する冷鉄源溶解状況推定方法であって、加速度センサを用いて、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定し、前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定する、冷鉄源溶解状況推定方法。
【請求項2】
前記加速度センサを用いて底吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、測定された前記振動のうち、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした前記浴面振動fおよびその倍音f の、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて前記金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を推定する、ここで、底吹きプルームとは、底吹きガスが形成する浴面の盛り上がりの頂点部を指す、請求項1に記載の冷鉄源溶解状況推定方法。
【請求項3】
前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、測定された前記振動のうち、炉容器の固有振動fおよびその倍音f の、強度の変動に基づいて炉内冷鉄源溶解状況を推定する、ここで、炉容器の固有振動とは、炉内溶融物の浴面全体の振動を指す、請求項1に記載の冷鉄源溶解状況推定方法。
【請求項4】
前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業中の振動を測定し、測定された前記振動のうち、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の前記浴面振動fおよびその倍音f の、強度の変動に基づいて炉内冷鉄源溶解状況を推定する、請求項1に記載の冷鉄源溶解状況推定方法。
【請求項5】
前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材に設置した1個以上の前記加速度センサにより、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定する、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷鉄源溶解状況推定方法。
【請求項6】
前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所のそれぞれ異なる位置、かつ互いに異なる軸方向に設置した2個以上の前記加速度センサにより、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定する、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷鉄源溶解状況推定方法。
【請求項7】
金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を炉操業中にリアルタイムで推定する冷鉄源溶解状況推定装置であって、
金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉内溶融物精錬中の炉内溶融物の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサと、
前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定する推定装置と、を有する冷鉄源溶解状況推定装置。
【請求項8】
炉体と、
前記炉体または炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉内溶融物精錬中の炉内溶融物の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサと、
前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定する推定装置と、を有する金属精錬炉。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の冷鉄源溶解状況推定方法を用いて、推定した金属精錬容器内の冷鉄源の溶解状況に基づき、精錬方法を決定する、溶鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を推定する方法、その装置および金属精錬炉に関する。また、本発明は、推定された冷鉄源の溶解状況に基づく溶鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製鉄業における冷鉄源(スクラップ)の使用拡大の需要が高まっている。循環型社会の構築のために、鉄源リサイクルは必要不可避であるうえ、昨今のCO削減の需要からもスクラップ使用量増大は不可欠である。スクラップは酸化鉄(Fe)である鉄鉱石と異なり、溶製プロセスに還元工程を要さないためCO排出量の低減が可能であり、高炉-転炉法においても冷鉄源の使用量は増加の一途をたどっている。
【0003】
高炉-転炉法は、原料である鉄鉱石(Fe)を還元剤であるコークス(C源)とともに高炉へ装入、C濃度が4.5-5%程度の溶銑を溶製し、転炉に前記溶銑を装入し不純物成分であるCを酸化除去する製鋼プロセスである。高炉-転炉法でのスクラップ使用時は、転炉へ溶銑を装入する際その一部をスクラップに置き換えている。溶銑をスクラップで薄めるため同等の溶銑量、言い換えれば同等のCO排出量に対する生産量を大きくすることができる。上記のことから、温室効果ガスの排出量の削減と生産活動の維持の両立のためにはスクラップの使用量を増やしていくことが必要不可欠である。
【0004】
一方、スクラップ使用量を増加させていくとその未溶解が操業を阻害する課題となる。一般に転炉への全装入量に対する溶銑の配合比率をHMR(Hot Metal Ratio)と呼ぶ。HMRを減ずるとその分スクラップの使用量が増えるため、吹錬中に多くのスクラップを溶解させなければならなくなる。この時、装入したスクラップ量によっては吹錬時間中に溶解が完了せず炉内に溶け残りが発生することがある。スクラップの溶け残りを確認せぬまま次回の吹錬を開始すると、精錬炉内にはもともと計画していたHMR相当のスクラップに加えて前回吹錬の溶け残りが存在するためスクラップの溶解に不利となる。上記の繰り返しにより、未溶解スクラップ量は吹錬を重ねるごとに大きくなり、熱計算などの吹錬計算の誤差要因となり精錬性が劣位となる。また、排滓時に未溶解のスクラップが炉口から排出され、滓受け台車に落下すると周囲に高温溶融物が飛散するなど非常に危険である。以上のことから、スクラップを使用した操業においてはその未溶解の有無を把握することが重要である。
【0005】
現状スクラップの溶け残りを実測する術は、吹錬終了後に出湯した後の炉内を直接目視するのみである。しかし、高温の炉内をオペレータが直接のぞき込むことそのものが危険な作業のため、スクラップの溶解挙動をセンシングする技術の開発が求められている。
【0006】
上記に関連して、特許文献1では精錬容器のトラニオン軸にトルク検出手段および振動速度検出装置を設置し金属の溶解状態を判定する装置技術が提案されている。この技術は精錬炉内に未溶解金属が存在すると、前記未溶解金属の浴内移動によりトラニオン軸に対し回転方向の重量が作用するため、このトルクの有無を検知することでスクラップの有無を判定しうるという技術である。また、この技術では未溶解金属が溶湯内に残存する際、その金属が浴の循環を妨げるため精錬炉の振動が小さくなる可能性に着目し、炉体振動速度計を用いその振動速度の大小を評価することで未溶解の評価を検討している。また、特許文献2でも未溶解金属が浴の循環を妨げることに着目し、完全溶解後に浴循環が盛んになり炉体振動に低周波成分の振動が観察されるようになり、前記振動の有無を観察すれば未溶解検知が可能であると示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02-179811号公報
【特許文献2】特開平01-184214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。
特許文献1および2に記載の技術は、ともに、着目すべき周波数の具体性が薄く実用に難がある。実操業においては炉使用回数が増えるごとに炉内の形状は耐火物の損耗や、炉内の地金付きなどにより時々刻々と変化する。また、異なる炉を使用すればスクラップ溶解に関連して発生する振動の周波数ピーク位置も当然ながら異なる。炉体振動計をスクラップ溶解有無の検知に用いるためには、様々な状況において観察すべき周波数ピークを特定したうえでモニタリングする必要がある。
【0009】
本発明では、金属精錬炉の操業中にリアルタイムで精錬容器内のスクラップ残存状況を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決すべく、種々実験を重ねた結果、観察する周波数ピークを特定したうえで、その強度と周波数変動を用いて、冷鉄源の溶解有無を推定できることを知見した。つまり、炉内スクラップ残存状況に応じ、底吹きガスによる転炉炉内溶鉄撹拌中の底吹プルームと最近接炉体壁とを振動端とした固有振動、ないし、底吹きガスおよび上吹きガスの両方による転炉炉内溶鉄撹拌中の容器内の固有振動あるいは上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の固有振動の強度および周波数が変動することに着目した。本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明の冷鉄源溶解状況推定方法は、金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を炉操業中にリアルタイムで推定する冷鉄源溶解状況推定方法であって、加速度センサを用いて、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定し、前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定するものである。
【0012】
なお、本発明にかかる冷鉄源溶解状況推定方法は、
(a)前記加速度センサを用いて底吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、測定された前記振動のうち、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした前記浴面振動fおよびその倍音f の、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて前記金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を推定すること、ここで、底吹きプルームとは、底吹きガスが形成する浴面の盛り上がりの頂点部を指す、
(b)前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、測定された前記振動のうち、炉容器の固有振動fおよびその倍音f の、強度の変動に基づいて炉内冷鉄源溶解状況を推定すること、ここで、炉容器の固有振動とは、炉内溶融物の浴面全体の振動を指す、
(c)前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業中の振動を測定し、測定された前記振動のうち、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の前記浴面振動fおよびその倍音f の、強度の変動に基づいて炉内冷鉄源溶解状況を推定すること、
(d)前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材に設置した1個以上の前記加速度センサにより、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定すること、
(e)前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所のそれぞれ異なる位置、かつ互いに異なる軸方向に設置した2個以上の前記加速度センサにより、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定すること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明の冷鉄源溶解状況推定装置は、金属精錬炉内の冷鉄源の溶解状況を炉操業中にリアルタイムで推定する冷鉄源溶解状況推定装置であって、金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉内溶融物精錬中の炉内溶融物の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサと、前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定する推定装置と、を有するものである。
【0014】
上記課題を有利に解決する本発明の金属精錬炉は、炉体と、前記炉体または炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉内溶融物精錬中の炉内溶融物の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサと、前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定する推定装置と、を有するものである。
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明の溶鉄の製造方法は、上記いずれかの冷鉄源溶解状況推定方法を用いて、推定した金属精錬容器内の冷鉄源の溶解状況に基づき、精錬方法を決定するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、底吹きガスによる転炉炉内溶鉄撹拌中の底吹プルームと最近接炉体壁とを振動端とした炉内溶融物の浴面振動、ないし、底吹きガスおよび上吹きガスの両方による転炉炉内溶鉄撹拌中の容器内の炉内溶融物の浴面全体の固有振動あるいは上吹きガス衝突部の外周を振動端とした炉内溶融物の周方向の浴面振動の強度および周波数が変動することに着目することで、金属精錬炉操業中にリアルタイムで冷鉄源の未溶解の発生有無を推定することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の原理を確認するための転炉を模した水モデル装置の概略図であって、(a)は、垂直断面図を示し、(b)は、底吹きガスの配置を表す模式底面図を示す。
図2】上記水モデル装置で用いた模擬スクラップ(冷鉄源)の形状を表す斜視図であって、(a)は、板状屑に相当し、(b)は、角棒状屑に相当する。
図3】加速度センサで測定した、底吹きガス吹込み時の浴面振動スペクトルを示すグラフであって、(a)は、板状屑を模した模擬スクラップを用いた場合を示し、(b)は、角棒状屑を模した模擬スクラップを用いた場合を示す。
図4】加速度センサで測定した、底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる浴面振動スペクトルを示すグラフであって、(a)は、板状屑を模した模擬スクラップを用いた場合を示し、(b)は、角棒状屑を模した模擬スクラップを用いた場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の詳細を以下に説明する。なお、以下の実施形態では、加速度センサをトラニオンのトラニオン軸に設置しているが、炉内溶鉄(炉内溶融物)の浴面振動を間接的に測定することができる場所であれば加速度センサは炉体ないし炉体内外に設けられた複数の周辺部材、たとえば、トラニオンのトラニオンリングやトラニオン軸、傾動軸受け、傾動装置などのいずれの個所に設置されていてもよい。また、複数設置し、測定する加速度の方向も、個々の加速度センサで異なっていてもよい。まず、本発明にかかる冷鉄源溶解状況推定方法および装置について説明する。
【0019】
<実施の形態1>
第一の実施形態では、転炉底吹き羽口からの底吹きガスによる炉内溶鉄の撹拌中にトラニオン軸に設置した1個の加速度センサによってセンサ設置位置、すなわちトラニオン軸の振動を測定する。測定された振動のうち、炉内溶鉄(炉内溶融物)の浴面振動を冷鉄源の溶解の推定に用いる。この際、下記数式1の(1)式に示す、底吹プルームと最近接炉体壁とを振動端とした炉内溶鉄浴面の固有振動fおよびその倍音f の、強度および周波数の変動に着目する。ここで、底吹プルームとは、底吹きガスが形成する浴面の盛り上がりの頂点部をいう。また、(1)式中、gは重力加速度、πは円周率、Lは浴面位置での底吹プルームと最近接炉壁間との距離、Hは浴深を表す。底吹きガスのみの撹拌では未溶解のスクラップは炉底に堆積し動かない。このとき堆積したスクラップの隙間を底吹きガスが通過するため、底吹きガス流路が限定される。また、見かけの浴深Hが浅くなる。その結果、炉内にスクラップが堆積していないときと比べ前記底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした固有振動fおよびその倍音f は、強度が増大し、かつ周波数のピーク位置が低周波側へシフトする。そこで、この強度変化および周波数変化を検知することで炉内スクラップの残存の度合いを推定することができる。
【0020】
【数1】
【0021】
<実施の形態2>
第二の実施形態では、転炉底吹き羽口からの底吹きガス並びに上吹きランスからの上吹きガスによる炉内溶鉄の撹拌中に、トラニオン軸に設置した1個の加速度センサによってセンサ設置位置、すなわちトラニオン軸の振動を測定する。測定された振動のうち、炉内溶鉄(炉内溶融物)の浴面振動を冷鉄源の溶解の推定に用いる。この際、下記数式2の(2)式に示す、円筒容器内浴面の固有振動fおよびその倍音f の、強度および周波数の変動に着目する。ここで、(2)式中、πは円周率、gは重力加速度、κは定数、Dは炉内径、Hは浴深を表す。底吹きガスと上吹きガスによる撹拌を受けるとき、炉内のスクラップは浴内を流動する。そのため、炉内溶融物は固液2相流となり、見かけの粘性が上昇して、前記固有振動の加振力(振動の強度)が低下する。スクラップの溶解に応じ、加振力は上昇していくため、これを検知することで炉内スクラップ残存の有無を推定することができる。
【0022】
【数2】
【0023】
<実施の形態3>
第三の実施形態では、転炉底吹き羽口からの底吹きガス並びに上吹きランスからの上吹きガスによる炉内溶鉄の撹拌中に、トラニオン軸に設置した1個の加速度センサによってセンサ設置位置、すなわちトラニオン軸の振動を測定する。測定された振動のうち、炉内溶鉄(炉内溶融物)の浴面振動を冷鉄源の溶解の推定に用いる。この際、下記数式3の(3)式に示す、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした浴面の周方向の固有振動fおよびその倍音f の、強度の変動に着目する。ここで、(3)式中、gは重力加速度、πは円周率、Lは上吹きガス衝突部の直径(噴流衝突径)、Hは浴深を表す。特に、上吹きガスによる撹拌を受けるとき、炉内のスクラップは浴内を流動する。そのため、炉内溶融物は固液2相流となり、見かけの粘性が上昇して、前記固有振動の加振力(振動の強度)が低下する。スクラップの溶解に応じ、加振力は上昇していくため、これを検知することで炉内スクラップ残存の有無を推定することができる。
【0024】
【数3】
【0025】
<実施の形態4>
第四の実施形態では、前記冷鉄源溶解状況推定方法を転炉での吹錬に組み込む際の指針を示す。本実施形態では転炉を利用した予備処理工程への適用について説明する。
【0026】
転炉予備処理時のプロセスフローは、(1)スクラップ装入、(2)溶銑装入、(3)脱Si吹錬、(4)脱Si後のスラグの中間排滓、(5)脱りん吹錬、(6)出湯と進行する。プロセス上、途中でスラグの排滓を行っているのは、脱Si処理後の低塩基度のスラグが炉内に大量に残っているためである。脱りん処理では、スラグを高塩基度に保つ必要があり、低塩基度スラグの残留は、塩基度確保に必要な石灰量が増加するためである。上記プロセスにおいて、次吹錬の指令を出す時間的余裕確保の観点から、工程(4)の中間排滓時、遅くとも、工程(5)の脱りん吹錬の前半期に冷鉄源の未溶解有無の判断を下す必要がある。次吹錬への指示が間に合わない場合、次吹錬で用いるスクラップの投入量等は未溶解スクラップが存在していない前提のままとなるため、吹錬計算の誤差増大や操業性の悪化を招く。
【0027】
工程(4)の中間排滓の際、プロセスの実行上は転炉を傾動する前に、スラグ中に懸濁した流鉄を沈降させるため底吹きガス撹拌を行い待機する時間をとっている。この待機中に底吹プルームと最近接炉体壁とを振動端とした固有振動fおよびその倍音f の、強度および周波数を観察することで、投入した冷鉄源が完全に溶解している否か判別できる(第一の実施形態)。また、吹錬のチャージ間隔に余裕がある場合は、工程(5)の脱りん吹錬の前半期に円筒容器内の固有振動fおよびその倍音f の、振動の強度の変動、または、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動の固有振動fおよびその倍音f の、強度の変動を観察することによっても、スクラップ未溶解の有無の判定をすることが可能である(第二、第三の実施形態)。
【0028】
<冷鉄源溶解状況推定装置>
本発明にかかる冷鉄源溶解状況推定装置は、上記冷鉄源溶解状況推定方法に用いて、好適な装置であって、金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉内溶融物精錬中の炉内溶融物の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサと、その加速度センサによって測定された炉内溶融物の浴面振動の強度および周波数のうちいずれかの変動に基づいて冷鉄源の溶解状況を推定する推定装置と、を有する。
【0029】
冷鉄源溶解状況推定装置は、たとえば、転炉の操業状況を管理するプロセスコンピュータから、転炉の操業状況を受け取る。冷鉄源溶解状況推定装置は、冷鉄源の溶解状況を推定する指示を外部から受け取った場合、たとえば上記実施の形態1ないし実施の形態3のうちから、最適な冷鉄源溶解状況推定方法を選択する。そして、推定した冷鉄源溶解状況を出力し、または、プロセスコンピュータに送ることが好ましい。得られた、冷鉄源溶解状況に応じ、たとえば、第四の実施形態の工程(5)の処理時間を延ばして、冷鉄源の溶解を図ったり、次吹錬の工程(3)に熱源を投入したりして、冷鉄源の溶解を図るなどの対策を施すことができる。
【0030】
<金属精錬炉>
本発明にかかる金属精錬炉は、転炉等の精錬炉の炉体と、上記冷鉄源溶解状況推定装置とを有するものである。
【0031】
<溶鉄の製造方法>
本発明にかかる溶鉄の製造方法は、上記冷鉄源溶解状況推定方法を用いて、推定した金属精錬容器内の冷鉄源の溶解状況に基づき、精錬方法を決定するものである。
たとえば、上記第四の実施形態に記載の予備処理工程を例にとれば、工程(4)の中間排滓の際、プロセスの実行上は転炉を傾動する前に、スラグ中に懸濁した流鉄を沈降させるため底吹きガス撹拌を行い待機する時間をとっている。この待機中に底吹プルームと最近接炉体壁とを振動端とした固有振動fおよびその倍音f の、強度および周波数を観察することで、投入した冷鉄源が完全に溶解している否か判別できる(第一の実施形態)。このとき、冷鉄源が完全に溶解していれば、以降の工程は通常通り行う。一方、冷鉄源が未溶解であれば、次工程の工程(5)の脱燐処理時間を延ばしたり、熱源を投入して冷鉄源の溶解を図ったりする対応をとる。また、未溶解の冷鉄源量から、次回の予備処理において、工程(3)の脱Si吹錬時に投入すべき熱源の量を修正した吹錬計画に反映することができる。
【0032】
また、たとえば、吹錬のチャージ間隔に余裕がある場合は、工程(5)の脱りん吹錬の前半期に円筒容器内の固有振動fおよびその倍音f の、振動の強度の変動、または、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動の固有振動fおよびその倍音f の、強度の変動を観察することによっても、スクラップ未溶解の有無の判定できる(第二、第三の実施形態)。このとき、冷鉄源が完全に溶解していれば、以降の工程は通常通りに行う。一方、冷鉄源が未溶解であれば、脱燐吹錬後半の時間を延ばして冷鉄源の溶解を図ることができる。また、工程(5)の脱燐吹錬が終了して、出湯後に金属精錬炉内に残る冷鉄源量を推定し、同一金属精錬炉による次回の予備処理において、残留冷鉄源の溶解に必要な熱量を吹錬計算に加えて、精錬の精度向上を図ることができる。このようにして、推定された冷鉄源の溶解状況に基づき、精錬方法を決定することで、精度よく、また、安全に溶鉄を製造することができる。
【実施例0033】
<実施例1>
水モデルを用いて、本発明の原理を確認した。ここで、水モデルを用いたのは、下記理由による。溶鋼は水に比べて重いが粘性も大きく、溶鋼と水とは動粘度がほぼ同じである。したがって、相似形の容器を用いることで無次元数であるレイノルズ数を一致させることができる。あわせて、いわゆる、修正フルード数を用いることで、水モデルにより、重力と慣性力および粘性力に関し、溶鋼の流動を再現できることによる。
【0034】
図1に用いた水モデル装置100の概要を示す。図1(a)は垂直断面図であり、(b)は底面図である。本実施例では、底吹き羽口6およびトラニオン4軸を有する転炉を模した円筒容器1に、溶鉄を模した水2とスクラップを模したアクリル樹脂の模擬スクラップ3を合計で17kg入れた。底吹きガスとして、圧縮空気を15.7L/min吹き込み、容器内の撹拌を行うこととした。円筒容器1は内径φ350mm、底吹き羽口6はP.C.D(ピッチ円直径)170mmとなる円周上にφ2mmの孔を4か所設けた。ここで、トラニオン4軸に加速度センサ5を1個設置して、振動を測定する(図1)。なお、模擬スクラップ3としたアクリル樹脂は板状のもの(図2(a))と角棒状のもの(図2(b))の2種類について計測を実施し、形状因子の有無を確認した。
【0035】
容器内残留スクラップ量が振動へ与える影響を見るため、円筒容器1へ装入する水2の一部分の重量をアクリル製模擬スクラップ3に置き換え、銑配比率HMR=水重量/(水重量+スクラップ重量)毎の振動の変化を計測し各溶解段階を模擬した。実験結果を図3に示す。図3は、振動スペクトルに与えるHMR比率の影響を示す。図3(a)は板状屑を模した場合を示し、図3(b)は角棒状屑を模した場合を示す。HMR=100%、つまり、未溶解スクラップ無し時に比べ、HMRを減じた水準では、模擬スクラップの形状によらず、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした固有振動fおよびその倍音f の強度が増大し、周波数のピーク位置が低周波側へシフトした。以上に着目すればfおよびその倍音f の検知によりスクラップの溶解の有無を推定することができる。
【0036】
<実施例2>
実施例1と同様、図1に示す水モデル装置100を用い、底吹き羽口6およびトラニオン4軸を有する転炉を模した円筒容器1に、溶鉄を模した水2とスクラップを模したアクリル樹脂の模擬スクラップ3を合計で17kg入れた。本実施例では、上吹きランス7として、出口径φ6.6mmのものを用い、浴面からの距離HL=160mmからの上吹きガス流量を300L/minとした。また、底吹きガスとして、圧縮空気を15.7L/min吹込み、容器内の撹拌を行う。円筒容器1は内径φ350mm、底吹き羽口6はP.C.D(ピッチ円直径)170mmとなる円周上にφ2mmの孔を4か所設けた。ここで、トラニオン4軸に加速度センサ5を1個設置し振動を測定する。実施例1と同様、HMRを変更することでスクラップの溶解を模擬する。実験結果を図4に示す。図4は、振動スペクトルの与えるHMR比率の影響を示す。図4(a)は板状屑を模した場合を示し、図4(b)は角棒状屑を模した場合を示す。図4に示す通り、HMRを減少させると、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動fおよびその倍音f は、形状によらず強度が低下することから、これを検知することでスクラップの溶解の有無を推定することができる。
【0037】
<実施例3>
実施例2の装置、実験条件にて得た振動スペクトルのうち、円筒容器内液体の浴面全体の固有振動fおよびその倍音f は、図4に示すとおり、模擬スクラップ3の形状によらず、HMRの上昇とともに、強度は増大することから、これを検知することでスクラップの溶解の有無を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかる冷鉄源溶解状況推定技術によれば、リアルタイムで金属精錬中の冷鉄源の溶解状況が推定できるので、金属精錬の安定操業に寄与し、産業上有用である。
【符号の説明】
【0039】
100 水モデル装置
1 円筒容器
2 水
3 模擬スクラップ(アクリル)
4 トラニオン
5 加速度センサ
51 振動方向
6 底吹き羽口
61 気泡
7 上吹きランス
71 噴流
図1
図2
図3
図4