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特開2022-59579耐火物残存状況推定方法、耐火物残存状況推定装置および金属精錬炉
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  • 特開-耐火物残存状況推定方法、耐火物残存状況推定装置および金属精錬炉 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059579
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】耐火物残存状況推定方法、耐火物残存状況推定装置および金属精錬炉
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20220406BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C21C5/46 A
C21C5/46 Z
F27D21/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155369
(22)【出願日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2020167133
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝山 雅規
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕美
(72)【発明者】
【氏名】村井 剛
(72)【発明者】
【氏名】天野 勝太
【テーマコード(参考)】
4K056
4K070
【Fターム(参考)】
4K056AA02
4K056BA01
4K056FA19
4K070AB16
4K070AB18
4K070BE10
4K070CB10
(57)【要約】
【課題】金属精錬炉の操業中にリアルタイムで精錬容器内の耐火物残存状況を推定する技術を提案する。
【解決手段】金属精錬炉内の耐火物の残存状況を炉操業中にリアルタイムで推定する耐火物残存状況推定方法であって、加速度センサを用いて、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉体の振動を測定し、前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する、耐火物残存状況推定方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属精錬炉内の耐火物の残存状況を炉操業中にリアルタイムで推定する耐火物残存状況推定方法であって、
加速度センサを用いて、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定し、
前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する、
耐火物残存状況推定方法。
【請求項2】
前記加速度センサを用いて底吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、
測定された前記振動のうち、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした前記浴面振動fAまたはその倍音fA nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて前記金属精錬炉内の耐火物残存状況を推定する、
請求項1に記載の耐火物残存状況推定方法。
【請求項3】
前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、
測定された前記振動のうち、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の前記浴面振動fBまたはその倍音fB nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物残存状況を推定する、
請求項1に記載の耐火物残存状況推定方法。
【請求項4】
前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、
測定された前記振動のうち、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動f0またはその倍音f0 nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物残存状況を推定する、
請求項1に記載の耐火物残存状況推定方法。
【請求項5】
前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材に設置した1個以上の前記加速度センサにより、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定する、請求項1~4のいずれか1項に記載の耐火物残存状況推定方法。
【請求項6】
前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材いずれかの箇所のそれぞれ異なる位置、かつ互いに異なる軸方向に設置した2個以上の前記加速度センサにより、
前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定する、請求項1~4のいずれか1項に記載の耐火物残存状況推定方法。
【請求項7】
金属精錬炉の炉内の耐火物の残存状況を炉操業中にリアルタイムで推定する耐火物残存状況推定装置であって、
金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉操業時の炉内溶融物の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサと、
前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する推定装置と、
を有する耐火物残存状況推定装置。
【請求項8】
炉体と、
前記炉体または炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉操業時の炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定する加速度センサと、
前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する推定装置と、
を有する金属精錬炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属精錬炉内の耐火物の残存状況を推定する方法、その装置および金属精錬炉に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の製鋼工程は、高炉から出銑した銑鉄を(以下、「溶銑」という。)を溶銑予備処理工程で硫黄、リン等の不純物を除去した後、転炉において精錬を行うことにより溶銑に含まれる炭素を除去し、微量成分を添加し、所定の溶鋼とする工程である。製鋼工程において用いられる転炉の炉内には、高温の溶鉄から転炉の炉体を保護するために耐火物が積まれている。かかる耐火物は、転炉が操業している間に起こる様々な要因により、全体的な損耗、局所的な損耗、脱落等を生じる。このため、製鋼工程において、転炉の炉内に残存している耐火物の残存状況をリアルタイムで把握することがきわめて重要となる。
【0003】
炉内の耐火物損耗状態を測定する方法として、耐火物に対して測定光を照射することにより炉内の2次元形状を測定する測定手段と、移動手段によって、炉内で移動させつつ複数回測定することにより炉内の3次元形状を求め、求めた3次元形状に基づいて耐火物の損耗状態を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、多くの労力及び時間を要することなく、耐火物の溶損箇所を検出可能な溶融金属収容容器の検査方法が提案されている(例えば、特許文献2)。この溶融金属収容容器の検査方法は、複数の撮影手段を利用して鉄皮全体の熱画像を撮影するステップと、撮影ステップにおいて測定された鉄皮全体の熱画像から鉄皮全体の温度分布関数の極大値を算出し、算出された極大値が所定値以上である場合、前記耐火物が溶損している可能性があると判断し、所定の情報を出力するステップとを含んでいる。
【0005】
さらに、耐火物の劣化状態をリアルタイムで連続的に耐火物厚みを検出することができる耐火物の厚み検出方法が提案されている(例えば、特許文献3)。この耐火物の厚み検出方法は、熱電素子のもつ発電機能とその特性に着目し、熱間で使用される炉または容器の耐火物で構成された壁に設置し、該炉または容器を熱間で使用して発電させ、そのときの電力量の値に基づき、耐火物の劣化状況をリアルタイムで連続的に耐火物厚みを検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-052555号公報
【特許文献2】特開2016-056398号公報
【特許文献3】特開2008-275203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。すなわち、特許文献1に記載された炉内耐火物損耗状態の測定方法は、転炉の炉内に測定機器を挿入する、ないし転炉の炉口に測定機器を近づけなければならないという不都合を有する。また、上記炉内耐火物損耗状態の測定方法は、炉内が空の状態で測定を行わなければならないため、転炉の操業中にリアルタイムで転炉の炉内に残存する耐火物の残厚を測定することは不可能である。
【0008】
また、特許文献2に記載された溶融金属収容容器の検査方法は、サーモビュアが取鍋の鉄皮全体の熱画像を撮影し、耐火物検査装置がサーモビュアによって測定された鉄皮全体の熱画像から鉄皮全体の温度分布関数の極大値を算出し、算出された極大値が所定値以上である場合、耐火物が溶損している可能性があると判断する。このため、上記溶融金属収容容器の検査方法は、溶融金属収容容器の操業中にリアルタイムで容器内に存在する耐火物の状況を把握することができないという不都合を有する。
【0009】
さらに、特許文献3に記載された耐火物の厚み検出方法は、転炉の操業中にリアルタイムで転炉の炉内に残存する耐火物の厚みを測定することができるが、転炉の炉体に無数の測定用素子を設置しなければならない。このため、耐火物の厚み検出方法は、必要な素子、部材の導入及びこれらの維持をしなければならず、負担が大きいという問題点があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、金属精錬炉の操業中に炉内に存在する耐火物の残存状況をリアルタイムで推定することができる耐火物残存状況推定方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記課題を解決すべく、種々実験を重ねた結果、金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉体の振動に着目し、金属精錬炉に設置された加速度センサを用いて炉内溶融物の撹拌中において加速度センサの設置個所の浴面振動に起因する炉体の振動を測定し、測定された固有振動の強度および振動数の変動に基づいて耐火物の残存状態をリアルタイムで容易に推定できることを知見した。つまり、炉内に存在する耐火物の残存状況に応じ、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした浴面振動に起因する炉体の振動、底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる浴面振動に起因する炉体の振動、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動に起因する炉体の振動の強度および周波数が変動することに着目した。本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0012】
上記課題を有利に解決する本発明の耐火物残存状況推定方法は、金属精錬炉内の耐火物の残存状況を炉操業中にリアルタイムで推定する耐火物残存状況推定方法であって、加速度センサを用いて、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定し、前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定するものである。
【0013】
なお、本発明にかかる耐火物残存状況推定方法は、
(a)前記加速度センサを用いて底吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、
測定された前記振動のうち、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした前記浴面振動fAまたはその倍音fA nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて前記金属精錬炉内の耐火物残存状況を推定すること、
(b)前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、
測定された前記振動のうち、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の前記浴面振動fBまたはその倍音fB nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物残存状況を推定すること、
(c)前記加速度センサを用いて底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する炉操業時の振動を測定し、
測定された前記振動のうち、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動f0またはその倍音f0 nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物残存状況を推定すること、
(d)前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材に設置した1個以上の前記加速度センサにより、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定すること、
(e)前記金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材いずれかの箇所のそれぞれ異なる位置、かつ互いに異なる軸方向に設置した2個以上の前記加速度センサにより、前記金属精錬炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定すること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0014】
上記課題を有利に解決する本発明の耐火物残存状況推定装置は、金属精錬炉の炉内の耐火物の残存状況を炉操業中にリアルタイムで推定する耐火物残存状況推定装置であって、金属精錬炉の炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉操業時の炉内溶融物の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサと、前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する推定装置と、を有するものである。
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明の耐火物残存状況推定装置は、炉体と、前記炉体または炉体外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉操業時の炉内溶融物の浴面振動に起因する振動を測定する加速度センサと、前記加速度センサによって測定された前記振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する推定装置と、を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、底吹きガスによる底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした浴面振動、底吹きガスおよび上吹きガスによる上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動、あるいは底吹きガスおよび上吹きガスによる金属精錬炉内溶融物の浴面振動が変動することに着目することで、金属精製炉の操業中にリアルタイムで耐火物の残存状況を推定することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の金属精錬炉の概略図である。
図2】本発明の原理を確認するための転炉を模した水モデル装置の概略図であって、(a)は、垂直断面図を示し、(b)は、底吹きガスの配置を表す模式平面図を示す。
図3】加速度センサで測定した、底吹きガス吹込み時の浴面振動スペクトルを示すグラフであって、発泡スチロール厚み0mm(無)の場合と、発泡スチロール厚み15mmの場合とを示す。
図4】加速度センサで測定した、底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる浴面振動スペクトルを示すグラフであって、発泡スチロール厚み0mm(無)の場合と、発泡スチロール厚み15mmの場合とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の詳細を以下に説明する。なお、本実施形態では、金属精錬炉として溶鉄を精錬する転炉を適用した場合を例にしているが、鉄皮内部に耐火物を有する金属精錬炉であれば、その用途により本発明の制限を受けるものではない。また、以下の実施形態では、加速度センサをトラニオンのトラニオン軸に設置しているが、炉内溶鉄(炉内溶融物)の浴面振動を間接的に測定することができる場所であれば加速度センサは炉体ないし炉体外に設けられた複数の周辺部材、たとえば、トラニオンのトラニオンリング、傾動軸受け、傾動装置などのいずれの個所に設置されていてもよい。また、複数設置し、測定する加速度の方向も、個々の加速度センサで異なっていてもよい。まず、本発明にかかる耐火物残存状況推定方法および装置について説明する。
【0019】
<金属精錬炉>
図1は、本発明の耐火物残存状況推定方法が適用される金属精錬炉の概略図である。
図1に示すように、本実施形態の金属精錬炉100は、鉄製の炉体101を備えている。具体的には、金属精錬炉100は、炉体101と、炉体101または炉体101外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉操業時の、すなわち炉内溶融物精錬中の炉内溶融物102の浴面振動に起因する振動を測定する加速度センサ105と、加速度センサ105によって測定された振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する推定装置108とを備えている。炉体101の内壁には、高温の炉内溶融物102から炉体101を保護するために耐火物103が炉体101の内壁に沿って設けられている。
【0020】
炉体101の外壁面には、炉体101に突設された複数のトラニオン軸141と、炉体101を囲うリング状のトラニオンリング(図示省略)と、によって構成されたトラニオン104が設けられている。複数のトラニオン軸141のうちの少なくとも1つのトラニオン軸には、トラニオン軸141の軸方向151の振動を測定する加速度センサ105が取り付けられている。加速度センサ105は、例えば半導体式のセンサであり、トラニオン軸141の軸方向151の振動を測定することにより、炉内溶融物精錬中の炉内溶融物102の浴面振動に起因する振動を測定する。
【0021】
本実施形態のように、加速度センサ105を金属精錬炉100の炉体101外に設けられたトラニオン104のトラニオン軸141に設置することで、炉体101ないし炉体101内に加速度センサを設置する構成と比べて、加速度センサを冷却するための冷却装置等の設置が不要となり、金属精錬炉の構成を簡略化することができる。
【0022】
本実施形態の金属精錬炉100は、加速度センサ105が炉体101の外側に取り付けられている点に技術的特徴を有する。本実施形態の金属精錬炉100は、加速度センサ105が炉体101内に取り付けられていない。このため、加速度センサ105は、炉体101の内部に存在する高温の炉内溶融物102から直接的に熱を受けることがなく、高温とならない。なお、本実施形態の金属精錬炉100において、加速度センサ105は、炉体101の外部であって、例えば、以下の実施の形態1~4において測定される浴面振動が伝わる複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられていればよい。
【0023】
また、加速度センサ105には推定装置108が接続されており、この推定装置108は、加速度センサ105によって測定された振動の強度および周波数のうちいずれか一または二の変動に基づいて耐火物の残存状況を推定する。なお、推定装置の具体的な構成については後に詳述する。
【0024】
<実施の形態1>
第一の実施形態では、転炉底吹き羽口106からの底吹きガスによる炉内溶鉄(炉内溶融物102)の撹拌中にトラニオン軸141に設置した1個の加速度センサ105によってセンサ設置位置、すなわちトラニオン軸141の振動を測定する。測定された振動のうち、炉内溶鉄(炉内溶融物102)の浴面振動を耐火物103の残存状況の推定に用いる。この際、下記数式1の(1)式に示す、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした炉内溶鉄浴面の固有振動fAおよびその倍音fA nの、強度および周波数の変動に着目する。ここで、底吹きプルームとは、底吹ガスが形成する浴面の盛り上がりの頂点部をいい、最近接炉体壁とは、底吹きプルームから最も近い距離にある炉体壁(炉体の内壁)をいう。また、(1)式中、gは重力加速度、πは円周率、LAは底吹プルームと最近接炉体壁との距離、Hは浴深を表す。炉内の耐火物103の全体的な損耗が進行すると、底吹プルームと最近接炉体壁とを振動端とした固有振動fAおよびその倍音fA nは、強度は増大し、周波数のピーク位置が高周波側にシフトすることから、これを検知することで耐火物103の全体的な損耗の度合を推定することができる。なお、上記実施形態では、浴面振動fAおよびその倍音fA nの両方の強度および周波数の変動を検知する構成としたが、浴面振動fAまたはその倍音fA nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動を検知する構成としてもよい。この場合にも、耐火物103の全体的な損耗の度合を推定することが可能である。
【0025】
【数1】
【0026】
<実施の形態2>
第二の実施形態では、転炉底吹き羽口106からの底吹ガスならびに上吹ランス107からの上吹きガスによる炉内溶鉄(炉内溶融物102)の撹拌中に、トラニオン軸141に設置した1個の加速度センサ105によってセンサ設置位置、すなわちトラニオン軸141の振動を測定する。測定された振動のうち、炉内溶鉄(炉内溶融物102)の浴面振動を測定する。この際、下記数式2の(2)式に示す、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動fBおよびその倍音fB nの、強度の変動に着目する。ここで、上吹きガス衝突部とは、火点とも呼び、噴流衝突径、すなわち上吹きガスの衝突による浴面の凹部をいう。また、(2)式中、gは重力加速度、πは円周率、LBは上吹きガス衝突部の直径(噴流衝突径)、Hは浴深を表す。炉内耐火物103の全体的な損耗が進行すると、上吹きガス衝突部の外周と最近接炉体壁とを振動端とした周方向の浴面振動の強度は増大し、周波数はそのピーク位置が低周波側にシフトすることから、これを検知することで耐火物103の全体的な損耗の度合を推定することができる。なお、上記実施形態では、浴面振動fBおよびその倍音fB nの両方の強度および周波数の変動を検知する構成としたが、浴面振動fBまたはその倍音fB nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動を検知する構成としてもよい。この場合にも、耐火物103の全体的な損耗の度合を推定することが可能である。
【0027】
【数2】
【0028】
<実施の形態3>
第三の実施形態では、転炉底吹き羽口106からの底吹ガスならびに上吹ランス107からの上吹きガスによる炉内溶鉄(炉内溶融物102)の撹拌中に、トラニオン軸141に設置した1個の加速度センサ105によってセンサ設置位置、すなわちトラニオン軸141の振動を測定する。測定された振動のうち、炉内溶鉄(炉内溶融物102)の浴面振動を耐火物103の残存状況の推定に用いる。この際、下記数式3の(3)式に示す、炉内溶鉄の浴面振動f0およびその倍音f0 nの、強度および周波数の変動に着目する。ここで、(3)式中、πは円周率、gは重力加速度、κは定数、Dは炉内径、Hは浴深を表す。炉内耐火物103の全体的な損耗が進行すると、炉内溶鉄の浴面振動f0およびその倍音f0 nは、強度は増大し、周波数はそのピーク位置が低周波側にシフトすることから、これを検知することで耐火物103の全体的な損耗の度合を推定することができる。なお、上記実施形態では、浴面振動f0およびその倍音f0 nの両方の強度および周波数の変動を検知する構成としたが、浴面振動f0またはその倍音f0 nの、強度および周波数のうちいずれか一または二の変動を検知する構成としてもよい。この場合にも、耐火物103の全体的な損耗の度合を推定することが可能である。
【0029】
【数3】
【0030】
<実施の形態4>
上記の実施の形態以外にも、例えばトラニオン104のトラニオン軸141に2個以上の加速度センサ105を設置する構成としてもよい。2個以上の加速度センサ105をそれぞれ異なる位置、かつ互いに異なる軸方向に設置し、各々の加速度センサ105の測定結果を比較することで、耐火物103の局所的な損耗や脱落の度合及び位置を推定することが可能である。
【0031】
<耐火物残存状況推定装置>
本発明にかかる耐火物残存状況推定装置は、上記耐火物残存状況推定方法に用いた、好適な装置であって、金属精錬炉100の炉体101ないし炉体101外に設けられた複数の周辺部材のいずれかの箇所に取り付けられ、炉内溶融物精錬中の炉内溶融物102の浴面振動に起因する設置個所の振動を測定する加速度センサ105と、その加速度センサ105によって測定された炉内溶融物102の浴面振動の強度および周波数のうちいずれかの変動に基づいて耐火物103の残存状況を推定する推定装置108と、を有する。
【0032】
耐火物残存状況推定装置(推定装置108)は、たとえば、転炉の操業状況を管理するプロセスコンピュータから、転炉の操業状況を受け取る。耐火物残存状況推定装置(推定装置108)は、耐火物103の残存状況を推定する指示を外部から受け取った場合、上記実施の形態1ないし実施の形態4に基づき、最適な耐火物残存状況推定方法を選択する。そして、推定した耐火物残存状況を出力し、または、プロセスコンピュータに送ることが好ましい。得られた、耐火物残存状況に応じて、耐火物の補充を図るなどの対策を施すことができる。
【実施例0033】
<実施例1>
水モデルを用いて、本発明の原理を確認した。ここで、水モデルを用いたのは、下記理由による。溶鋼は水に比べて重いが粘性も大きく、溶鋼と水とは動粘度がほぼ同じである。したがって、相似形の容器を用いることで無次元数であるレイノルズ数を一致させることができる。あわせて、いわゆる、修正フルード数を用いることで、水モデルにより、重力と慣性力および粘性力に関し、溶鋼の流動を再現できることによる。
【0034】
図2に用いた水モデル装置200の概要を示す。図2(a)は垂直断面図であり、(b)は平面図である。本実施例では、底吹き羽口206およびトラニオン軸204を有する転炉を模した円筒容器201の内壁に、模擬耐火物203として耐火物を模した発泡スチロールを設置した後、溶鉄を模した水202を円筒容器201に入れて底吹きガスにて円筒容器201内の撹拌を行った。底吹きガスとして、圧縮空気を15.7L/min吹き込み、容器内の撹拌を行うこととした。円筒容器201は内径φ350mm、底吹き羽口206はP.C.D(ピッチ円直径)170mmとなる円周上にφ2mmの孔を4か所設けた。ここで、トラニオン軸204に加速度センサ205を1個設置して、軸方向251における浴面振動を測定する(図2)。なお、上記底吹きガスにより水202の内部には、気泡261が形成される。
【0035】
容器内残留する耐火物が振動へ与える影響を見るため、浴面振動の計測に際して、円筒容器201の内壁に設置する模擬耐火物203である発泡スチロールの厚さを変更(0mm、15mm)し、発泡スチロールの厚さの変更に伴う浴面振動の変化を計測し、各耐火物の全体的な損耗を模擬した。実験結果を図3に示す。図3は、加速度センサ205で測定した、底吹きガス吹込み時の浴面振動スペクトルを示すグラフであって、発泡スチロール厚さ0mm(無)の場合と、発泡スチロール厚さ15mmの場合とを示す。図3からも明らかなように、発泡スチロールの厚さを減少させると、底吹きプルームと最近接炉体壁とを振動端とした固有振動fAおよびその倍音fA nの強度が増大し、周波数のピーク位置が低周波側へシフトした。以上に着目すれば、固有振動fAおよびその倍音fA nの検知により耐火物の全体的な消耗の度合を推定することができる。
【0036】
<実施例2>
実施例1と同様、図2に示す水モデル装置200を用い、底吹き羽口206およびトラニオン軸204を有する転炉を模した円筒容器201の内壁に、模擬耐火物203である発泡スチロールを設置した後、溶鉄を模した水202を円筒容器201に入れて底吹きガス及び上吹きガスにて円筒容器201内の撹拌を行った。本実施例では、上吹きランス207として、出口径φ6.6mmのものを用い、浴面からの距離HL=160mmから、上吹きガス流量を300L/minとした噴流271を上記浴面に噴き付けた。また、底吹きガスとして、圧縮空気を15.7L/min吹込み、容器内の撹拌を行う。円筒容器201は内径φ350mm、底吹き羽口206はP.C.D(ピッチ円直径)170mmとなる円周上にφ2mmの孔を4か所設けた。ここで、トラニオン軸204に加速度センサ205を1個設置し振動を測定する。
【0037】
容器内残留する耐火物が振動へ与える影響を見るため、浴面振動の計測に際して、円筒容器201の内壁に設置する模擬耐火物203である発泡スチロールの厚さを変更(0mm、15mm)し、発泡スチロールの厚さの変更に伴う浴面振動の変化を計測し、各耐火物の全体的な損耗を模擬した。実験結果を図4に示す。図4は、加速度センサ205で測定した、底吹きガスおよび上吹きガスによって引き起こされる浴面振動スペクトルを示すグラフであって、発泡スチロール厚み0mm(無)の場合と、発泡スチロール厚み15mmの場合とを示す。図4からも明らかなように、発泡スチロールの厚さを減少させると、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動fBおよびその倍音fB nの強度が増大し、周波数のピーク位置が低周波側へシフトした。以上に着目すれば、上吹きガス衝突部の外周を振動端とした周方向の浴面振動fBおよびその倍音fB nの検知により耐火物の全体的な消耗の度合を推定することができる。
【0038】
<実施例3>
実施例2の装置、実験条件にて得た振動スペクトルのうち、円筒容器201内の水202の浴面振動(浴面全体の固有振動)f0およびその倍音f0 nは、図4に示すとおり、発泡スチロールの厚さを減少させると、その強度が増大し、周波数のピーク位置が低周波側へシフトすることから、これを検知することで耐火物の残存の有無を推定することができる。以上に着目すれば、円筒容器201内の水202の浴面振動(浴面全体の固有振動)f0およびその倍音f0 nの検知により耐火物の全体的な消耗の度合を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明にかかる耐火物残存状況推定技術によれば、リアルタイムで金属精錬中の耐火物の残存状況が推定できるので、金属精錬炉の安定操業に寄与し、産業上有用である。
【符号の説明】
【0040】
100 金属精錬炉
101 炉体
102 炉内溶融物
103 耐火物
104 トラニオン
141 トラニオン軸
105 加速度センサ
151 軸方向
106 転炉底吹き羽口
107 上吹きランス
108 推定装置
200 水モデル装置
201 円筒容器
202 水
203 模擬耐火物(発泡スチロール)
204 トラニオン軸
205 加速度センサ
251 軸方向
206 底吹き羽口
261 気泡
207 上吹きランス
271 噴流
図1
図2
図3
図4