(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059666
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】CLTを用いた既存建物の耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
E04G23/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167389
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】古市 理
(72)【発明者】
【氏名】石川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】穴田 志穂
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 英一
(72)【発明者】
【氏名】調 浩朗
(72)【発明者】
【氏名】豊島 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】相馬 智明
(72)【発明者】
【氏名】梅森 浩
(72)【発明者】
【氏名】中本 博幸
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA02
2E176AA03
2E176BB28
2E176BB36
(57)【要約】
【課題】既存建築物の床版や壁をCLTに置換することで建物の全体重量を軽減し、耐震性能を向上させる耐震構造を開発する。
【解決手段】既存スラブを解体して既存の梁に設けられた線材と、CLT版の木口面に植設されたボルトが、対向して突出する接合部で充填材を介して接合されている耐震補強構造。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の躯体を有する建物の床を、CLT版を用いて改修した耐震補強構造であって、
既存スラブを解体して既存の梁に設けられた線材とCLT版の木口面に植設されたボルトを配置した接合部に、充填材を充填して接合していることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
CLT版は、既存梁の側面に取り付けた仮受用ブラケットの上に位置していることを特徴とする請求項1記載の耐震補強構造。
【請求項3】
既存躯体が鉄筋コンクリートであり、線材がスラブ筋であって、該スラブ筋は上下複数段に露出しており、その間に立面視でボルトが空き重ね状態に配されていることを特徴とする請求項1又は2記載の耐震補強構造。
【請求項4】
既存の躯体を有する建物の壁を、CLT版を用いて改修した耐震補強構造であって、
同一面内に設置された複数のCLT版で1枚の耐震壁が構成され、
各CLT版は、上側の木口面又は下側の木口面に植設されたボルトと既存躯体に打設したアンカーを対向して突出させて、充填材で充填した接合部で接合されていることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項5】
隣接するCLT版の木口部の接合部は、上下反対側にあることを特徴とする請求項4記載の耐震補強構造。
【請求項6】
隣接するCLT版は、表面から打設された線状の接合具で接合されていることを特徴とする請求項4又は5記載の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の耐震補強に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
既存建築物をリノベージョンやコンバージョン等で再利用する際、竣工した時期や前の用途などの要因で耐震改修を行う必要がある。近年、市街地の既存建築物の耐震化を促進する政策がすすめられており、既存建築物の耐震化や、免震化を効率的に実施する技術の開発が行われている。
耐震補強として、建物の積載荷重を軽量化して建築物に対する地震による入力を低減させる方法や、ブレースなどを用いて建物の構造強度を補強する方法がある。ほかに、免震装置などを採用する方法などがある。
【0003】
特許文献1(特開2017-214710号公報)には、デパートなどの非居住空間用途の大型建物を、居住用の個室を備えた建物に用途変更を伴う既存建物の改築工法として、既存建物の外面に面しない居室に採光面を設けるに当たり、当該採光面側に屋上スラブから少なくとも当該居室が属する階の1つ上のスラブまで貫通する採光空間を設けて、居住用の建築物に改修する方法が提案されている。
特許文献2(特開2015-190120号公報)には、建物の屋上階及び外壁を残して、建物の下層部より上方の階である中層部、上層部に設けられている床スラブの一部又は全部を撤去し、建物の重量を低減して、建物に生じる地震力を低減させる耐震改修方法が開示されている。
特許文献3(特許第5575561号公報)には、柱および梁によって画成された構面内に、棒状の木質材料の内部に長手方向に沿って金属製の芯材が組み込まれた複数本の補強部材を、斜め格子状に配置し、それぞれの両端部を柱または梁に連結した軽量な補強部材を用いて耐震性能を向上させる耐震構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-214710号公報
【特許文献2】特開2015-190120号公報
【特許文献3】特許第5575561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、既存建築物の床版や壁をCLTに置換することで建物の全体重量を軽減し、耐震性能を向上させる耐震構造を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.既存の躯体を有する建物の床を、CLT版を用いて改修した耐震補強構造であって、
既存スラブを解体して既存の梁に設けられた線材とCLT版の木口面に植設されたボルトを配置した接合部に、充填材を充填して接合していることを特徴とする耐震補強構造。
2.CLT版は、既存梁の側面に取り付けた仮受用ブラケットの上に位置していることを特徴とする1.記載の耐震補強構造。
3.既存躯体が鉄筋コンクリートであり、線材がスラブ筋であって、該スラブ筋は上下複数段に露出しており、その間に立面視でボルトが空き重ね状態に配されていることを特徴とする1.又は2.記載の耐震補強構造。
4.既存の躯体を有する建物の壁を、CLT版を用いて改修した耐震補強構造であって、
同一面内に設置された複数のCLT版で1枚の耐震壁が構成され、
各CLT版は、上側の木口面又は下側の木口面に植設されたボルトと既存躯体に打設したアンカーを対向して突出させて、充填材で充填した接合部で接合されていることを特徴とする耐震補強構造。
5.隣接するCLT版の木口部の接合部は、上下反対側にあることを特徴とする4.記載の耐震補強構造。
6.隣接するCLT版は、表面から打設された線状の接合具で接合されていることを特徴とする4.又は5.記載の耐震補強構造。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】耐震補強構造(短辺側 CLT床版とRC梁の接合)の例を示す図
【
図5】耐震補強構造(長辺側 CLT床版とRC梁の接合)の例を示す図
【
図6】耐震補強構造20(既存RC躯体とCLT壁版の取り付け図)を示す図
【
図7】耐震補強構造30A(既存S梁とCLT版の取り付け図)を示す図
【
図8】耐震補強構造30B(既存S梁とCLT版の取り付け図)を示す図
【
図9】耐震補強構造30C(既存S梁とCLT版の取り付け図)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、RC造や鉄骨造の既存建物の床版あるいは壁をCLT版に改修することによって、躯体重量を軽量化して耐震改修した建物に適用される耐震補強構造である。
本発明は、既存建物をリノベーションやコンバージョン等で再利用する際に、改正された建築基準などに合わせた耐震改修を行う際に適用される。本発明は、耐震性に加えて、建築空間に木質の風合いを付加し意匠性も向上することができる。
本発明は、床版の接合あるいは壁版の接合を簡略化した、補強構造である。
【0009】
床の補強構造においては、既存の梁に設けられている線材(鉄筋やボルトなど)とCLT側に設けたボルトを接合部で接合したものである。
線材は、例えば既存のRC梁に設けた配筋(既存のスラブ主筋又はあと施工アンカーなど)や既存の鉄骨梁に設けた(既設、又は、新設)ボルトである。
既存のRC梁では、既存のスラブ主筋とCLT側に設けたボルトを重ね配筋して接合することができる。接合部にコンクリートを打設する際に、CLT版を仮受けする仮受け用ブラケットやアングル材を型枠として利用することができる。
既存建物の床版を撤去して、CLT版の床に置き換えることで、建物の床面積を保ちつつ、躯体の重量を軽減している。
耐震補強したCLTの表面を仕上げ面とすることができるので、改修後は建築空間内に木質感が付与される。
【0010】
壁の補強構造においては、梁などの既存躯体に設けたアンカーとCLT側に設けたボルトを重ね配筋して接合したものである。新設のアンカーを設けることなく、既存の壁体の鉄筋を用いることもできる。
既存建物の壁の改修においては、CLT版を既存壁に付加あるいは置き換えることで、CLTの剛性を建物に付加して耐震性が向上している。
床同様に、壁面も耐震補強したCLTの表面を仕上げ面とすることができるので、改修後は建築空間内に木質感が付与される。
【0011】
図にしたがって本発明の実施形態を説明する。
図1は、RC造の既存躯体11を有する建物1に対して耐震補強構造を施した耐震改修建築物の例を示し、(a)正面縦断面図、(b)側面縦断面図である。
床スラブをCLT版に改修した耐震補強構造10と壁をCLT版に改修した耐震補強構造20が示されている。図示では、耐震補強構造10が2、3階に設置され、耐震補強構造20が2列設置されている。補強構造は、全体に施すこともでき、部分的に施すこともできる。
【0012】
図2は、1階と地中梁伏図を示している。
1階から上階に向けて耐震補強を行う壁面を耐震補強構造20として示している。改修しない壁部分を既存梁13として示している。本改修では1階床を構成するスラブは改修せずに既存スラブ12としている。
【0013】
図3は、1階壁と2階梁伏図を示している。
床補強である耐震補強構造10は、2階床の大部分に設置される。
壁補強である耐震補強構造20は、
図2と同様の箇所に設置される。
【0014】
図4に耐震補強構造10を示す。床短辺側のCLT版とRC梁の接合部の構造を示す。
既存梁13に接合されている既存スラブを除去し、CLT版2に置換するものである。 既存梁13とCLT版2との間に接合部6を設けて両者を結合する。
接合部6は、既存梁13から伸びるスラブ筋41を接合部6の幅程度の長さに残し、一方、CLT版に挿入したボルト51の頭を接合部6の幅程度の長さ分飛び出させて、スラブ筋41とボルト51を交差させて配置する。接合部6にはグラウトなどのセメント系材料を充填材61として充填する。
【0015】
スラブ筋41は上下に配置された主筋を残し、ボルト51は、スラブ筋41と異なる高さに設けて、スラブ筋41とボルト51は空き重ね状態に配置されることとなる。
接合部に鉄筋が空き重ね状態に配置された状態で、充填材で固められるので、強固な結合状態が完成する。
既存梁13にL型の仮受け用ブラケット71を取り付けて、この仮受けブラケット71の上にCLT版の端部を載せて、接合部6分の隙間が生ずるように仮セットする。仮受け用ブラケット71は型枠を兼用する。
仮受け用ブラケット71は、既存梁13に貫通孔73を穿ち、この貫通孔73に通しボルト72を通して、仮受け用ブラケット71を固定する。
【0016】
図5は床長辺側の耐震補強構造10が示されている。床長辺側のCLT版とRC梁の接合部の構造である。
図4に示される床短辺側の耐震補強構造と同様に、既存梁13とCLT版2の端部24には隙間があって、スラブ筋41とボルト51が高さ違いに配置された空き重ね状態に配置されており、充填材で固められている。
この長辺側では、接合部6の下部に型枠7を設けて、型枠の下面をサポート74で支えて、充填材61を充填する。
【0017】
図6に壁補強である耐震補強構造20を示す。(a)立面構造図、(b)接合部横断面図、(c)接合部縦断面図である。
図示は、既存壁18に併設する形でCLT版を取り付けたものである。ただし、既存壁を取り壊してCLT版に置換することもできる。また、新たに、CLT壁を設けることもできる。
【0018】
既存躯体11の上下の既存梁13の間に複数のCLT版2(2a、2b、2c、2d・・)を建て込んで、耐震補強構造20を構成する。CLT版2の上側又は下側を短くして、接合部6を形成する。CLT版2の接合部6側にボルト52を植設して、頭が接合部に飛び出すようにする。
既存梁13側から接合部6に向けて、あと施工アンカー42を設けて、ボルト52の頭部があと施工アンカー42と重なるように配置される。このような状態で充填材61を充填して接合部6を硬化させて、耐震補強構造20を形成する。
【0019】
接合部横断面を示す図(b)には、既存壁18に沿わせてCLT版2を設けた状態が示されている。既存梁13の上面に、右側に寄せて既存壁18が設けられており、空いている左側にCLT版の壁が新設されている。既存梁13からあと施工アンカー42を立ち上げる。CLT版2の下端側には長いボルト52が植設されており、あと施工アンカー42の間に配置されている。
上部の既存梁13側では、CLT端部が既存梁に接触しており、特に、ボルト接合などは行われていない。ただし、独立したCLT壁などを設ける場合は、上下にあと施工アンカーとボルトによる強固な接合を構築することができる。
【0020】
隣接するCLT版2a、2bの合わせ部の結合状態を図(c)に示す。接合部の平面が上の図であり、縦断面が下の図である。
CLT版2a、2bの表面側から、他方のCLT版の側面に向けて線状の接合具(釘やボルトなど)53を打ち込んで、互いに強固に結合して複数のCLT版が一体化した耐震補強構造20が形成されている。
【0021】
図示に基づいて説明した耐震補強構造10及び耐震補強構造20は、一例であって、本発明は、既存梁とCLT版との間に間隔を開け、既存の配筋やあと施工アンカーとCLT版の端部から延出するように植設したボルトが重なるように配置して、グラウトなどで充填した耐震補強構造である。
この耐震補強構造を設けることにより、躯体荷重を軽量化することができ、床面積を必要以上に少なくすることなく、耐震補強改修をすることができ、既存の建物を有効に再利用することが可能になる。
CLTの外面を意匠に利用することにより、意匠用の仕上げ加工を省略することもできる。
【0022】
図7に、既存梁に鉄骨を用いた既存建物の床を、CLT床版に改修した耐震補強構造30Aの例を示す。CLT版2と既存の鉄骨梁14の接合部の構造が
図7に示されている。
鉄骨梁14は、上下のフランジ15とウェヴ16からなるH型鋼である。フランジ15に載っていたコンクリート製の既存スラブを除去し、CLT版2に置換するものである。鉄骨梁14とCLT版2との間に接合部6を設けて両者を結合する。
接合部6は、鉄骨梁14の上のフランジ15にスタッドボルト43を設ける一方、CLT版に挿入したボルト51が接合部6に飛び出ており、スタッドボルト43とボルト51の間に鉄筋62が配置されている。接合部6にはグラウトなどのセメント系材料を充填材61として充填する。
【0023】
鉄骨梁14のフランジ15に設けるスタッドボルト43は、既存の床スラブに埋設されていたものを残置させることもできる。また、フランジ15の上に新たに設置することもできる。
図7の図示ではCLT版2の木口面からボルト51が接合部6に飛び出ている。このボルト51とスタッドボルト43を回線するように鉄筋62を配置して、鉄骨梁14とCLT版2が結合される。
図示では、ボルト51とスタッドボルト43が離れているが、両者が重なるように配置することもできる。
施工において、鉄骨梁14のフランジ15の端面17にL型アングル材75を取り付けて、L型アングル材75にCLTの端部を載せて、接合部6の幅の分の間隔を設けて仮セットする。L型アングル材75は型枠を兼用する。この隙間に、コンクリートを充填して耐震補強構造30Aを形成する。
L型アングル材75は、溶接などによって取り付けることができる。
【0024】
図8に、既存梁に鉄骨を用いた既存建物の床をCLT床版に改修した耐震補強構造30Bの例を示す。
図7に示す耐震補強構造30Aとの相違は、鉄骨梁14のフランジ15の上でCLT版2の先端を受けているので、アングル材を必要としないことである。他は、共通するので、省略する。
【0025】
図9に、既存梁に鉄骨を用いた既存建物の床をCLT床版に改修した耐震補強構造30Cの例を示す。
図7に示す耐震補強構造30Aとの相違は、フランジ15よりアングル材76の受け面77が下になるようにフランジ15の端面17にアングル材76を取り付けたことである。アングル材76の受け面を下げることによって、厚いCLT版を使用することができ、床荷重を大きくすることができる。あるいは、床面のレベルを下げて、室内高を高くすることができる。他は、共通するので、省略する。
【符号の説明】
【0026】
1 建物
11 既存躯体
12 既存スラブ
13 既存梁
14 鉄骨梁
15 フランジ
16 ウェヴ
17 端面
18 既存壁
2 CLT版
21 木口面
24 端部
3 床
41 スラブ筋
42 あと施工アンカー
43 スタッドボルト
51、52 ボルト
53 線状の接合具
6 接合部
61 充填材
62 鉄筋
7 型枠
71 仮受用ブラケット
72 ボルト
73 貫通孔
74 サポート
75、76 L型アングル材
77 受け面
8 耐震壁
10、20、30A、30B、30C 耐震補強構造