(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059682
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】CTGF由来ペプチドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20220407BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220407BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20220407BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220407BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
A61K39/00 H
C12N15/09 Z ZNA
C07K7/06
A61P37/02
A61P13/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167424
(22)【出願日】2020-10-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(72)【発明者】
【氏名】畔上 達彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 尭振
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BB11
4C085CC32
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045CA40
4H045DA20
4H045EA31
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明は、CTGFの発現および機能の亢進による組織の線維化に起因して発症または進行する疾患の予防または治療のためのワクチンの提供を目的とする
【解決手段】本発明は、以下の(a)または(b)のペプチドを含む、CTGF関連線維化疾患の予防または治療用ワクチンである。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のペプチドを含む、CTGF関連線維化疾患の予防または治療用ワクチン。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
【請求項2】
前記(a)および(b)のペプチドに担体タンパク質が融合していることを特徴とする請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
以下の(a)または(b)のペプチド、またはこれらのペプチドと担体タンパク質との融合体を発現し得るベクターを含むCTGF関連線維化疾患の予防または治療用ワクチン。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
【請求項4】
以下の(a)または(b)の単離されたペプチド。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
【請求項5】
請求項4に記載のペプチドをコードする核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CTGF由来の部分ペプチドおよび該部分ペプチドを含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)は、慢性に経過する腎疾患や腎臓の障害を包括的にとらえた疾患概念であり、世界では9.1%(約7億人)がCKDを有し、年間120万人がCKDにより死亡に至ると推測される。CKDは、進行すると、末期腎不全や心血管疾患の発症リスクとなり、患者個々のQOLや生命予後に重大な影響をもたらすのみならず、透析療法等の腎代替療法に要する医療費は国民の医療財源を大きく圧迫する原因となる。一方、CKDに対しては、食事療法やレニンーアンジオテンシン系阻害薬を主体とした降圧治療などを組み合わせた多面的なアプローチが、予防・治療戦略の柱となっているが、世界的にみてもCKDの発症および進展を十分には制御できていない。したがって、新たにCKDに対する予防ならびに治療方法を開発・確立することは、個々の患者の予後を改善するのみならず、医療経済的にも重要であり、喫緊の医療課題であると考えられる。
【0003】
CKDを制圧できない原因として、1) 特異的な治療ターゲットに乏しいこと、2)慢性の経過をとるため服薬アドヒアランスが低下しがちとなる(治療中断の原因となる)ことがあげられる。
【0004】
CKDは、慢性の経過をたどる全ての腎疾患の総称であり、原因は多岐にわたる。したがって、CKD全般を予防・治療するためには、原疾患を標的とするのではなく、最終共通経路(final common pathway)に対してアプローチすることが理想的である。CKDの予防および治療の標的として、最終共通経路である間質線維化が注目される。間質線維化に深く関連するメディエーターとして、TGF-β(transforming growth factor-β)とCTGF(connective tissue growth factor)が代表的であり、実際にこれらを標的とした治療薬の開発研究が行われている。
【0005】
CTGFを標的とした治療薬は現在までに上市されていない。腎疾患を対象としたものでは、モノクローナル抗体(FG-3019)(非特許文献1)とアンチセンスオリゴヌクレオチド(非特許文献2および非特許文献3)が報告されている。特に、FG-3019では、糖尿病性腎症患者を対象とした第I相臨床試験が実施され、尿中アルブミン排泄の低下が示されている(非特許文献1)。しかしながら、第II相臨床試験は早期終了となった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adlerら, Clin J Am Soc Nephrol. 2010; 5: 1420-1428.
【非特許文献2】Yokoiら, J Am Soc Nephrol. 2004; 15: 1430-1440.
【非特許文献3】Ghuaら, M et al. FASEB J. 2007; 21: 3355-3368.
【非特許文献4】Itoら, Kidney Int. 1998; 53: 853-861.
【非特許文献5】Guptaら, Kidney Int. 2000; 58: 1389-1399.
【非特許文献6】Ponticosら, Arthritis Rheum. 2009; 60: 2142-2155.
【非特許文献7】Kodamaら, J Clin Invest. 2011; 121: 3343-3356.
【非特許文献8】Hongら, J Cell Biochem. 2018; 119: 9519-9531.
【非特許文献9】Vainioら, JACC Basic Transl Sci. 2019; 4: 83-94.
【非特許文献10】Makinoら, Arthritis Res Ther. 2017; 19: 134.
【非特許文献11】Sakaiら, Sci Rep. 2017; 7: 5392.
【非特許文献12】Chenら, Adv Drug Deliv Rev. 2013; 65: 1357-69.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、CTGFの発現および機能の亢進による組織の線維化に起因して発症または進行する疾患、例えば、アンメット・メディカル・ニーズの高いCKDなどの予防または治療のためのワクチンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、担体タンパク質(例えばKLH)とCTGFの部分配列を含むワクチン製剤を作製し、その効果につき、鋭意検討を行った結果、当該ワクチンが、アデニン投与慢性腎不全マウス、片側尿管結紮(unilateral ureteral obstruction:UUO)腎間質線維化マウスにおいて、CKDならびに腎間質線維化を軽減することを見出した。
本発明者らは、線維化に関与するCTGF部位を含む部分ペプチドであることに加えて、副作用軽減の観点から過剰な細胞性免疫を回避し得るような部分ペプチドをワクチン抗原として選択することとした。鋭意研究の結果、本発明者らは、CTGFの第150番目のアミノ酸から第156番目のアミノ酸からなる7アミノ酸のペプチド(配列番号1:FPRRVKL、この配列はヒトとマウスで共通である。以下「CTGF150-156」とも記載する。)が上記条件に合致する部分ペプチドであることを見出し、本発明にかかるワクチン抗原の調製に成功した。
本発明のワクチンでは、CTGFを標的とするため、TGF-βの有するような多面的な作用に起因する致死性の自己免疫疾患や腫瘍形成の誘導の可能性が極めて低い。また、ワクチンにすることで、これにより標的となる蛋白に対して有効な抗体産生を誘導した場合、少ない投薬回数で長期にわたる治療効果の継続を期待することができ、治療アドヒアランスの向上に貢献することができる。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(5)である。
(1)以下の(a)または(b)のペプチドを含む、CTGF関連線維化疾患の予防または治療用ワクチン。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
(2)前記(a)および(b)のペプチドに担体タンパク質が融合していることを特徴とする上記(1)に記載のワクチン。
(3)以下の(a)または(b)のペプチド、またはこれらのペプチドと担体タンパク質との融合体を発現し得るベクターを含むCTGF関連線維化疾患の予防または治療用ワクチン。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
(4)以下の(a)または(b)の単離されたペプチド。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
(5)上記(4)に記載のペプチドをコードする核酸。
なお、本明細書において「~」の符号は、その左右の値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、CTGFの発現および機能の亢進による組織の線維化に起因して発症または進行する疾患や病態、例えば、CKDなどの予防および/または治療のためのワクチンが提供される。
【0011】
本発明により、過剰な細胞性免疫の惹起による副作用の少ないワクチンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】CTGF
150-156特異的IgG抗体価の経時的変化。CTGF
150-156-KLH融合体およびフロイントアジュバントをマウスに皮下注射投与した後、CTGF
150-156特異的IgG抗体価の経時的変化を評価した結果を示す。n=5、バーは平均値±標準誤差を示す。
【
図2】腎間質線維化に対するCTGF
150-156ワクチンの効果の検討。腎間質線維化モデルの結紮腎のパラフィン切片をMasson-trichrome染色し(A)、線維化面積の割合を算出した(B)。「ビークル」はKLHを、「ワクチン」はCTGF
150-156-KLH融合体を、各々、アジュバントと共に投与した群である(以下の図においても同じ。)。ビークル群およびワクチン接種群共にn=10、p値はunpaired t-検定により算出した。バーは平均値±標準誤差を示す。
【
図3】慢性腎不全モデルにおける、体重減少に対するCTGF
150-156ワクチンの効果の検討。ビークル群およびワクチン接種群に0.2%アデニン含有飼料を給餌した後、1週間毎にマウスの体重を測定した。ビークル群;n=10、ワクチン接種群;n=12、p値はunpaired t-検定により算出した。バーは平均値±標準誤差を示す。
【
図4】慢性腎不全モデルにおける、腎機能障害に対するCTGF
150-156ワクチンの効果の検討。ビークル群およびワクチン接種群に0.2%アデニン含有飼料を3週間給餌させた後、血清クレアチニン濃度、血清尿素窒素濃度および%ナトリウム排泄率を測定した。ビークル群;n=10、ワクチン接種群;n=12、p値はunpaired t-検定により算出した。バーは平均値±標準誤差を示す。
【
図5】慢性腎不全モデルにおける、アルブミン尿に対するCTGF
150-156ワクチンの効果の検討。ビークル群およびワクチン接種群に0.2%アデニン含有飼料を3週間給餌させた後、尿中のアルブミン量を測定し、尿中クレアチニン量に対する割合を算出した。ビークル群;n=10、ワクチン接種群;n=12、p値はunpaired t-検定により算出した。バーは平均値±標準誤差を示す。
【
図6】CTGFの第142番目のアミノ酸から第157番目のアミノ酸からなるペプチド(以下「CTGF
142-157」とも記載する。)とCTGF
150-156の細胞性免疫に対する影響の比較。CTGF
142-157またはCTGF
150-156を投与したマウスの血清IgG2c(Th1型:細胞性免疫に関与)抗体価とIgG2b(Th2型:液性免疫に関与)抗体価を測定し、IgG2c/IgG2b比を算出した。N.S.は統計学的有意差が無いことを示す。各グループn=10、バーは平均値±標準誤差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
第1の実施形態は、CTGFの部分アミノ酸配列からなるペプチドまたは当該ペプチドを発現し得るベクターを含むワクチンで、CTGFが関与する組織の線維化に起因して発症または進行する疾患(以下「CTGF関連線維化疾患」とも称する。)の予防または治療用のワクチンである。
CTGFはヒトで349アミノ酸残基(GenPept accession no. NP_001892.1:配列番号3)、マウスで348アミノ酸残基からなり、線維化を促進し、CKDを進展させる(非特許文献4および非特許文献5)。また、CTGFは、線維化に起因する疾患、特に限定はしないが、例えば、肺線維症(非特許文献6)、慢性肝炎・肝硬変(非特許文献7)、心筋症(非特許文献8)、心筋梗塞(非特許文献9)、強皮症(非特許文献10)、腹膜硬化症(非特許文献11)などの発症や進展に寄与する。従って、本実施形態にかかるワクチンは、これらの疾患およびこれらの疾患の発症原因となる線維化の治療および予防のために効果を発揮する。
【0014】
より具体的には、第1の実施形態は、配列番号1で表されるアミノ酸配列(CTGFの第150番目のアミノ酸から第156番目までのアミノ酸からなるペプチドである、FPRRVKL)からなるペプチド、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと実質的に同一のペプチドまたはこれらのペプチドを発現し得るベクターを含む、CTGF関連線維化疾患の予防または治療用のワクチンである
すなわち、第1の実施形態は、以下の(a)または(b)のペプチドを含む、CTGF関連線維化疾患の予防または治療用ワクチンである。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
以下、上記(a)および(b)のペプチドを「本実施形態のペプチド」とも記載する。
【0015】
ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号3で表されるヒトCTGFの一部を分離したペプチドで、CTGFの全長アミノ酸配列中、第150番目から第156番目までのアミノ酸配列部分に相当する。また、「配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと実質的に同一のペプチド」とは、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個(好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド(例えば、CTGFに対して特異的な免疫反応を誘導するペプチド)のことである。
【0016】
アミノ酸の「置換」は、例えば、保存的アミノ酸置換などが好ましい。ここで、「保存的アミノ酸置換」とは、任意のアミノ酸を、当該アミノ酸の側鎖と同様の物理化学的性質の側鎖を有する他のアミノ酸と置換することである。同様の物理化学的性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当業者であれば容易に特定することが可能である。そのようなアミノ酸のグループとして、限定はしないが、例えば、塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループ(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンなど)、酸性側鎖を有するアミノ酸のグループ(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸のグループ(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)などを挙げることができる。また、極性側鎖を有するアミノ酸のグループ(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トリオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸のグループ(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)などを挙げることができる。
【0017】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと実質的に同一のペプチドのC末端は、通常カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート(-COO-)の他、当該カルボキシル基は、アミド(-CONH2)やエステル(-COOR)等に化学修飾されていてもよい。ここで、エステル中のRとしては、炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルまたはn-ブチル)、炭素数3~8のシクロアルキル基(例えば、シクロペンチルまたはシクロヘキシル)、炭素数1~6のアリール基(例えば、フェニルまたはα-ナフチル)、フェニル-C1-2アルキル基(例えば、ベンジルまたはフェネチル)、α-ナフチル-C1-2アルキル基(例えば、α-ナフチルメチル)等が挙げられる。C末端以外にもそのペプチド鎖中にカルボキシル基を有するペプチドであって、当該カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本実施形態のペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては上記の各エステルが挙げられる。
【0018】
また、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと実質的に同一のペプチドのN末端は、通常アミノ基(-NH2)であるが、当該アミノ基は、ホルミル基またはアセチル基等の炭素数1~6のアシル基等で化学修飾されていてもよい。その他、N端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したものや、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基またはグアニジノ基など)が適当な官能基(例えば、ホルミル基、メチル基またはアセチル基など)で化学修飾されていても、糖鎖が結合していてもよい。
【0019】
本実施形態のペプチドは、当該技術分野において周知の方法、例えば、遺伝子工学的な方法の他、化学的ペプチド合成法(固相法または液相法)によって製造することができる。
化学的にペプチドを合成する場合、本実施形態のペプチドを構成するペプチドの一部もしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。合成反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーまたは再結晶などを組み合わせて本実施形態のペプチドを単離精製することができる。
また、遺伝子工学的に本実施形態のペプチドを調製する場合は、本実施形態のペプチドをコードするDNA(例えば、配列番号2で表される核酸配列からなるDNA)を含有するベクター(発現ベクター)で宿主細胞を形質転換し、得られた形質転換細胞を培養して培養物から目的のペプチド(本実施形態のペプチド)を単離精製等行ってもよい。
【0020】
さらに、本実施形態のワクチンに含まれるペプチドは、担体タンパク質と結合した融合体であってもよい。「担体タンパク質」とは、ペプチドの免疫原性を高める機能を果たすタンパク質のことで、当業者であれば、所望のものを選択することが可能であり、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、卵白アルブミン(OVA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、牛血清アルブミン(BSA)、サイログロブリン(TG)、免疫グロブリン、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、ジフテリア毒素変異体CRM197、肺炎球菌表面抗原A(PspA)、肺炎球菌表面抗原C(PspC)、肺炎球菌ヒスチジン蛋白A(PhpA)、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs)、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBc)、E型肝炎ウイルスカプシド蛋白(例えばORF (open reading frame)2など)、HIV-1エンベロープ糖蛋白(例えばgp41、gp120およびgp160など)、C型肝炎ウイルスエンベロープ糖蛋白(例えばE1E2、NS3、NS4およびNS5Bなど)、インフルエンザM2蛋白、インフルエンザヘマグルチニン蛋白(HA)、マラリア原虫スポロゾイト表面蛋白質、結核菌Ag85複合蛋白、結核菌熱ショック蛋白(例えばHsp65、Hsp70)、結核菌低分子量分泌蛋白(例えば、初期分泌抗原標的(ESAT)-6、培養濾過蛋白質(CFP)-10)、ヒトパピローマウイルスL1カプシド蛋白、ヒトパピローマウイルス16腫瘍性抗原(例えばE6、E7)、ナイセリア属ヘパリン結合性抗原(NHBA)、髄膜炎菌H因子結合蛋白(fHbp)、髄膜炎菌表面アドヘシンA(NadA)、コレラトキシンBサブユニット(CTB)、無毒変異型易熱性大腸菌毒素(LTB)、ボツリヌス毒素重鎖C末ドメイン(BoHc)、ノロウイルスカプシド蛋白(例えばVP1)、ロタウイルス抗原(例えばVP2、VP4、VP6、VP7)などを挙げることができる。なかでも、担体タンパク質はスカシ貝ヘモシアニン(KLH)であることが好ましい。
本実施形態のペプチドと担体タンパク質は、直接結合していても、リンカー等を介して結合していてもよい。本実施形態のペプチドと担体タンパク質の配置は、いかなる配置であっても良く、例えば、本実施形態のペプチドのN末端またはC末端に担体タンパク質が配置されている構成を例示することができる。本実施形態のペプチドと担体タンパク質との融合体に含まれる当該ペプチドの数は、1個であっても複数であってもよい。
【0021】
本実施形態のペプチドと担体タンパク質とを直接結合する場合、種々の縮合剤、例えば、ジマレイミド化合物、マレイミド活性化合物、カルボジイミド化合物、ジアゾニウム化合物、ジアルデヒド化合物、ジイソシアネート化合物などを用いて、カップリング反応により結合させることができる。これらのカップリング反応は、当業者において周知の技術に基づいて実施することができる。また、本実施形態のペプチドと担体タンパク質を、リンカーペプチドを介して結合させる場合、当該技術分野で公知のリンカーペプチドを使用して容易に実施することができる。リンカーペプチドとしては、例えば、フレキシブルなリンカーとして、GGGGS(配列番号4)配列からなるペプチドやGPGP(配列番号5)などがある。より詳細には、非特許文献12のtable 3に列挙されているようなものを使用することができる。
【0022】
本実施形態のペプチドおよび本実施形態のペプチドと担体タンパク質との融合体(以下「本実施形態の融合体」とも記載する)は、化学的な合成方法の他、融合体(本実施形態のペプチド-担体タンパク質)として、遺伝子工学的に調製してもよい。
まず、担体タンパク質(KLHなど)遺伝子情報は、GenBankなどのデータベースから容易に取得することができる。また、本実施形態のペプチドをコードする核酸配列は、当業者であれば、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする核酸配列を容易にデザインすることができ、そのような核酸配列として、例えば、配列番号2で表される核酸配列を例示することができる。
本実施形態の融合体については、例えば、次のように調製することができる。本実施形態のペプチドおよび担体タンパク質が直接またはリンカーを介して結合した融合体として発現し得るように、読み枠を調整してこれらの核酸配列(本実施形態のペプチドおよび担体タンパク質をコードする核酸配列)からなるDNAを結合したコード化DNA(融合体をコードするDNA)を合成する。合成されたDNAは適当な発現ベクターに挿入し、常法に基づいて、タンパク質を発現し、発現したタンパク質(融合体)を単離精製することができる。
【0023】
本実施形態のペプチドおよび本実施形態の融合体を発現させるための発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pETなど(大腸菌宿主)、pEGF-C、pEGF-Nなど(動物細胞宿主)、pVL1392、pVL1393など(昆虫細胞宿主)、pG-1、Yep13、pPICZなど(酵母細胞宿主)を使用することができる。これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカーおよびプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位およびポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。
【0024】
発現ペプチドまたは融合体を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム、凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的のペプチドまたは融合体を取得することができる。公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法(例えば、GSTタグと共に蛋白質を発現させた場合にはグルタチオンを担体に結合させた樹脂を、Hisタグと共に蛋白質を発現させた場合にはNi-NTA樹脂やCoベースの樹脂を、HAタグと共に蛋白質を発現させた場合には、抗HA抗体結合カラムなどを使用することができる)、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0025】
また、第1の実施形態には、本実施形態のペプチドまたは本実施形態の融合体を発現し得るベクターを含むCTGF関連線維化疾患の予防または治療用ワクチンも含まれる。
ここで使用される発現ベクターとしては、上述のベクターの他、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターなども好適に使用することができる。ワクチンとしての発現ベクターは、本実施形態のペプチドまたは本実施形態の融合体を発現するために必要な要素、例えば、投与対象の生体内で機能し得る、プロモーター(例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTRなどのウイルスプロモーター、βアクチン遺伝子プロモーター等のほ乳類構成タンパク質遺伝子プロモーターなど)の他、ターミネーター領域、必要に応じて、選択マーカー遺伝子などを含んでいてもよい。
【0026】
本実施形態のワクチンは、1または複数種類のアジュバント、フロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント、アルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム)、水中油型エマルジョン(例えば、AS03、MF59(登録商標)、RibiTM、ProvaxTM)、モノホスホリルリピッドA(MPL)、カリウムミョウバン、サポニン(例えば、QS2、QS21、ISCOM (immunostimulatory complex))を含むアジュバント(例えば、AS01(QS2、MPLおよびリポソームを含む)、AS02(スクアレン、MPLおよびQS21を含む)、AS04(MPLおよび水酸化アルミニウムを含む)、AS15(MPL、QS21、CpG、リポソームを含む)、RC-529(MPLアナログ)、E6020(lipid Aアナログ))、毒素(例えば、mutant CT(無毒変異型コレラトキシン)、mutant LT(無毒変異型易熱性大腸菌毒素)、百日咳毒素)、フラジェリン、核酸成分から成るアジュバント(CpG oligodeoxynucleotide、サイクリックdi-GMP、サイクリック di-AMP、poly(I:C)、Ampligen)、イミダゾキノリン(例えば、イミキモドやR-848)、ムラミルジペプチド、トレハロースジベヘン酸(例えば、CAF01)、SAF、Ribi、Liposome、Biodegradable microsphere、サイトカイン(例えば、インターフェロンガンマ, インターロイキン1, インターロイキン2, インターロイキン12)、シクロデキストリン、バイオポリマー(Advax、Inulin polymer、Hemozoin、heme polymer)、キトサン、ノバソームまたは非イオン性ブロックコポリマーまたはDEAEデキストラン、鉱油または植物油等を含むことができる。また、医薬上許容される担体を含んでいてもよい。医薬上許容される担体は、ワクチン接種される動物の健康に悪影響を及ぼさない化合物であることが必要である。医薬上許容される担体は、例えば、無菌水またはバッファーである。
本実施形態のワクチン製剤は、通常の能動免疫法で投与することができ、注射により投与する全身性ワクチンでも、注射によらず経口または経鼻投与等により投与する粘膜誘導型ワクチンでもあってもよい。
【0027】
本実施形態のワクチンを製剤化する際、ワクチン抗原と共に薬学的に許容できる公知の安定剤、防腐剤、酸化防止剤等を製剤化してもよい。安定剤としてはゼラチン、デキストラン、ソルビトール等が挙げられる。防腐剤としてはチメロサール、βプロピオラクトン等が挙げられる。酸化防止剤としてはαトコフェロール等を挙げることができる。
【0028】
本実施形態のワクチンの投与量は、投与対象の年齢や体重等により適宜決定することができるが、薬学的に有効な量のワクチン抗原の量である。薬学的に有効な量とは、そのワクチン抗原に対する免疫反応を誘導するのに必要な抗原量をいう。例えば、1回のワクチン抗原投与量数μg以上数10mg以下で1日1回~数回投与し、1週間から数週間間隔でトータル数回、例えば1回~5回投与してもよい。
【0029】
第2の実施形態は、以下の(a)または(b)の単離されたペプチド(すなわち、単離された本実施形態のペプチド)である。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記(a)のペプチドと同一の免疫原性を有するペプチド
また、第2の実施形態には、本実施形態のペプチドと担体タンパク質との融合体も含まれる。さらに、第2の実施形態には、本実施形態のペプチド、または本実施形態のペプチドと担体タンパク質との融合体をコードする核酸も含まれる。
本実施形態のペプチドおよび本実施形態の担体タンパク質に関する記載であって、第1の実施形態で記載された内容は、第2の実施形態においても適用される。
【0030】
第3の実施形態は、本実施形態のワクチン(またはワクチン製剤)を患者に投与することを含む、CTGF関連線維化疾患の予防および/または治療方法である。
ここで「治療」とは、すでにCTGF関連線維化疾患を発症した患者において、その病態の進行および悪化を阻止または緩和することを意味し、これによってCTGF関連線維化疾患の進行および悪化を阻止または緩和することを目的とする処置のことである。
また、「予防」とは、CTGF関連線維化疾患を発症するおそれがある患者について、その発症を予め阻止することを意味し、これによってCTGF関連線維化疾患の発症を予め阻止することを目的とする処置のことである。
【0031】
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。
以下に実施例を示すが、本実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0032】
1.材料と実験方法
1-1.動物
オスのC57BL/6Jは、CLEA Japan, Inc.(Tokyo, Japan)から購入し、標準的な12時間-12時間の明暗周期下、不断給餌および不断給水の条件で飼育した。全ての実験は、慶應義塾動物実験規定に従って行われ、慶應義塾動物実験委員会によって承認された(承認番号:18088-0)。
【0033】
1-2.CTGFワクチンの調製
CTGFの部分ペプチド(配列番号1)は、Eurofins Genomics(Tokyo, Japan)で合成し、クロスリンカー、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Thermo Fisher Scientific Inc., Waltham, Massachusetts, USA)を介して、KLHタンパク質に連結させた。抗原特異的な免疫応答増強のための油中水滴型エマルジョンを作製するために、20μgのCTGF-KLH抗原(100μL水溶液中)を100μLのフロイントアジュバント(抗原容量と等量)(Sigma-Aldrich Japan, Tokyo, Japan)と混合した。最初の免疫には完全フロイントアジュバント(Complete Freund's adjuvant:CFA)を用い、次回以降の免疫では、不完全フロイントアジュバント(Incomplete Freund's adjuvant:IFA)を使用した。
【0034】
1-3. 免疫プロトコール
オスのC57BL/6Jマウスを2つのグループに分けた。各グループのマウスに、CTGFワクチン(20μgのCTGF-KLH抗原およびフロイントアジュバント;総量200μL/マウス)またはビークル(20μgのKLHおよびフロイントアジュバント;総量200μL/マウス)を、2週間毎に3回(6、8、10週齢)皮下注射した。
【0035】
1-4.腎間質線維化モデル
6週齢、8週齢、10週齢時にCTGFワクチンまたはビークルで免疫した、12週齢のオスのC57BL/6Jマウスに、三種混合麻酔下(ドミトール0.75mg/kg、ミダゾラム4mg/kg、ベトルファール5mg/kg)にて開腹し、左尿管を5-0絹糸にて2重に結紮し、片側尿管結紮(unilateral ureteral obstruction:UUO)を施した。UUOを施したC57BL/6Jマウスは、腎間質線維化モデルとして使用し、UUO施行後7日後に結紮腎の間質線維化を定量解析した。
【0036】
1-5.慢性腎不全モデル
6週齢、8週齢、10週齢時にCTGFワクチンまたはビークルで免疫した、12週齢のオスのC57BL/6Jマウスに、3週間、0.2wt%アデニンを含む飼料を給餌し、慢性腎不全モデルとして使用した。
【0037】
1-6.抗体価の評価
血清IgG抗体価は、ELISA法で評価した(n=5/グループ)。96-マイクロウェルプレート(Immulon 1B;Thermo Fisher Scientific Inc.)の各ウェルを、1.0μgのCTGF部分ペプチド結合ウシ血清アルブミン(BSA)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。その後、血清サンプルを添加する前に、プレートを1時間、ブロッキングバッファー(Tween 20および1wt% BSAを含むリン酸バッファー;PBST)でインキュベートした。血清は、ブロッキングバッファーで希釈(2倍連続希釈)し、各ウェルに添加して、2時間、25℃でインキュベートした。プレートをPBSTで洗浄後、ヤギ抗マウスIgG抗体(1:5,000希釈率)(SouthernBiotech, Birmingham, Alabama, USA)を各ウェルに添加し、プレートを1.5時間、25℃でインキュベートした。抗原抗体反応は、TMB Microwell peroxidase substrate system(Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc., Gaithersburg, Maryland, USA)を用いて可視化し、450 nm(OD450)における吸光度を測定した。エンドポイントタイターは、ネガティブコントロールよりも0.1ユニット高いOD450を示す最終希釈率として示した。
【0038】
1-7.光学顕微鏡解析(腎間質線維化モデル)
UUO後の結紮腎を摘出し、4wt%パラホルムアルデヒドで固定した後、パラフィンブロックに包埋した(n=10/グループ)。パラフィン切片は、Masson-trichromeで染色した。画像解析ソフト(Photoshop,Adobe Inc.,San Jose, California, USA)を用いて、線維化面積の割合を算出した。
【0039】
1-8.生化学的検討(慢性腎不全モデル)
0.2wt%アデニン含有飼料を3週間給餌した後、代謝ケージを利用して、尿サンプルを採取した。尿アルブミンを使用説明書(Albuwell M; Exocell Inc., Philadelphia, Pennsylvania, USA)に従い、直接競合ELISA法で測定した。尿クレアチニン、血清クレアチニン、血清尿素窒素は酵素法で測定した。血清ナトリウム、尿ナトリウムは電極法で測定した。
【0040】
1-9.光学顕微鏡解析(慢性腎不全モデル)
0.2wt%アデニン含有飼料を3週間給餌した後、左の腎臓を摘出し、4wt% パラホルムアルデヒドで固定した後、パラフィンブロックに包埋した(n=10-12/グループ)。パラフィン切片は、Masson-trichromeで染色した。画像解析ソフト(Photoshop,Adobe Inc.,San Jose, California, USA)を用いて、線維化面積の割合を算出した。
【0041】
1-10.CTGF142-157とCTGF150-156のワクチン抗原としての効果の比較
非特許文献1には、CTGFの142番目から157番目までの16アミノ酸からなるペプチド(CTGF142-157:RLPSPDCPFPRRVKLP、配列番号6)を抗原として作製したモノクローナル抗体(FG-3019)が開示されている。そこで、本実施形態にかかるペプチド(CTGFの150番目から156番目までのアミノ酸からなるペプチド;CTGF150-156)とCTGF142-157をワクチン抗原として使用した場合の効果の差異、特に細胞性免疫の誘導能の差異について検討した。
オスのC57BL/6Jマウスに、6週齢、8週齢、10週齢時に、各CTGFワクチン(CTGF142-157またはCTGF150-156)20μg(100μL)とフロイントアジュバント(初回は完全フロイントアジュバント、2回目および3回目は不完全フロイントアジュバントを100μL)を、皮下注射投与した。その後、抗原に対する血清IgG2c抗体価とIgG2b抗体価を評価した。
【0042】
2.結果
2-1.CTGFペプチド(配列番号1)特異的抗体の誘導
オスのC57BL/6Jマウスに、6週齢、8週齢、10週齢時に、CTGFワクチン(CTGF
150-156)20μg(100μL)とフロイントアジュバント(初回は完全フロイントアジュバント、2回目および3回目は不完全フロイントアジュバントを100μL)を、皮下注射投与した。その後、抗原に対する血清IgG抗体価の経時的推移を評価した。1回目の免疫終了時点では抗体価は測定感度以下であったが、2回目の接種後に抗体価はわずかに上昇し、3回目の投与終了後にさらに高い抗体価を示した。抗体価は最終免疫8週後にピークに達し、緩やかに減弱するものの免疫20週後の時点でも高抗体価が持続していた(
図1を参照。)。
【0043】
2-2.腎間質線維化モデルを用いた解析
オスのC57BL/6Jマウスに、6週齢、8週齢、10週齢時に、CTGFワクチン(CTGF
150-156)20μg(100μL)とフロイントアジュバント(初回は完全フロイントアジュバント、2回目および3回目は不完全フロイントアジュバントを100μL)を、皮下注射投与した。その後、12週齢時に、片側尿管結紮(UUO)を施し、UUO施行7日後に結紮した側の腎臓を採取した。採取した腎組織を、Masson Trichrome染色で処理し、線維化面積を定量解析した(線維化部分はアニリン青により青く染色される。)。
CTGFワクチン接種群では、KLHのみを投与したビークル接種群と比較して、腎間質線維化が有意に軽減した(
図2を参照。)。
【0044】
2-3.慢性腎不全モデルを用いた解析
2-3-1.体重減少の抑制
オスのC57BL/6Jマウスに、6週齢、8週齢、10週齢時に、CTGFワクチン(CTGF
150-156)20μg(100μL)とフロイントアジュバント(初回は完全フロイントアジュバント、2回目および3回目は不完全フロイントアジュバントを100μL)を、皮下注射投与した。その後、12週齢から、3週間0.2wt%アデニン食を給餌させ、慢性腎不全の発症を誘導した。
慢性腎不全による体重減少は、KLH+フロイントアジュバントを接種したビークル群と比較して、ワクチン接種群で軽度であった(
図3を参照。)。
【0045】
2-3-2.腎機能障害の軽減
オスのC57BL/6Jマウスに、6週齢、8週齢、10週齢時に、CTGFワクチン(CTGF
150-156)20μg(100μL)とフロイントアジュバント(初回は完全フロイントアジュバント、2回目および3回目は不完全フロイントアジュバントを100μL)を、皮下注射投与した。その後、12週齢から、3週間0.2%アデニン食を給餌させ、慢性腎不全の発症を誘導した。
腎機能障害のマーカーである血清クレアチニンと尿素窒素は、KLH+フロイントアジュバントを接種したビークル群と比較して、ワクチン接種群で有意に低値であった(
図4を参照。)。また、%ナトリウム排泄率(FENa)は尿細管間質障害を反映するが、同様にワクチン接種群で低値であった(
図4を参照。)。
【0046】
2-3-3.尿アルブミン排泄の抑制
オスのC57BL/6Jマウスに、6週齢、8週齢、10週齢時に、CTGFワクチン(CTGF
150-156)20μg(100μL)とフロイントアジュバント(初回は完全フロイントアジュバント、2回目および3回目は不完全フロイントアジュバントを100μL)を、皮下注射投与した。その後、12週齢から、3週間0.2wt%アデニン食を給餌させ、慢性腎不全の発症を誘導した。
尿中アルブミン排泄量は、KLH+フロイントアジュバントを接種したビークル群と比較して、ワクチン接種群で有意に低値であった(
図5を参照。)。
【0047】
2-4.CTGF142-157とCTGF150-156の細胞性免疫に対する影響の比較
CTGF142-157またはCTGF150-156を投与したマウスの抗原特異的な血清IgG2c(Th1型:細胞性免疫に関与)抗体価とIgG2b(Th2型:液性免疫に関与)抗体価を測定した。いずれのペプチドを投与した場合も、IgG2b(Th2型)が有意であった。CTGF142-157投与群とCTGF150-156投与群におけるIgG2c抗体価とIgG2b抗体価の比を比較したところ、本実施形態にかかるCTGF150-156を投与した群における血清中の抗原特異的IgG2c/IgG2b値の方がCTGF142-157群の値よりも低い傾向が見られた。従って、本実施形態にかかるペプチドは、CTGF142-157よりも細胞性免疫の誘導を低く抑える可能性が示唆される。
本実施形態のワクチンは、CTGF関連線維化疾患(例えば、慢性腎臓病)の病態の予防および治療効果を有している。従って、本発明は、医療分野における利用が期待される。