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特開2022-59715オルトフタルアルデヒドの処理方法及び洗浄装置
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  • 特開-オルトフタルアルデヒドの処理方法及び洗浄装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059715
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】オルトフタルアルデヒドの処理方法及び洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20220407BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
B08B3/08 Z
B08B3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167473
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【テーマコード(参考)】
3B201
【Fターム(参考)】
3B201AA46
3B201AB03
3B201BB21
3B201BB92
(57)【要約】
【課題】 オルトフタルアルデヒドを効果的に毒性が低い物質に処理できる方法及び洗浄装置を提供する。
【解決手段】 オルトフタルアルデヒドが付着している領域に、少なくとも過酸化水素を含む処理流体を供給する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトフタルアルデヒドが付着している領域に、少なくとも過酸化水素を含む処理流体を供給することを特徴とするオルトフタルアルデヒドの処理方法。
【請求項2】
前記領域は、区画された空間の内壁面、天井、床であることを特徴とする請求項1に記載のオルトフタルアルデヒドの処理方法。
【請求項3】
前記空間内に霧状の前記処理流体を噴霧して、前記処理流体を供給することを特徴とする請求項2に記載のオルトフタルアルデヒドの処理方法。
【請求項4】
前記処理流体は、過酸化水素の濃度が10質量%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のオルトフタルアルデヒドの処理方法。
【請求項5】
オルトフタルアルデヒドが導入される処理空間を有する洗浄装置であって、
過酸化水素を含む処理流体を貯留する貯留部と、
前記貯留部に貯留された前記処理流体を前記処理空間内に噴出する噴出口を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項6】
前記噴出口は、前記処理流体を霧状にして前記処理空間内に噴出することを特徴とする請求項5に記載の洗浄装置。
【請求項7】
前記処理流体は、過酸化水素の濃度が10質量%以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルトフタルアルデヒドの処理方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い水準での殺菌処理が必要とされる医療機器(特に、内視鏡)の洗浄工程等には、殺菌剤としてグルタルアルデヒド(C582)が使用されていた。しかし、グルタルアルデヒドは、気管支喘息やアレルギー性疾患等の原因となることが知られており、殺菌剤としての使用が問題視されていた。
【0003】
このため、近年では、グルタルアルデヒドに代わる殺菌剤として、オルトフタルアルデヒド(C64(CHO)2)が用いられている。例えば、下記特許文献1には、オルトフタルアルデヒドによる内視鏡の殺菌処理について記載されている。また、下記特許文献2には、オルトフタルアルデヒドを殺菌剤として使用する内視鏡の処理装置や処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-133220号公報
【特許文献2】特許第4969951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、最近では、オルトフタルアルデヒドが使用される環境下で作業を行う作業者に健康被害が発生しているとの報告があり、オルトフタルアルデヒドの有害性が懸念され始めている。このため、作業環境におけるオルトフタルアルデヒドの濃度の許容限界値を規定することが提案されている。
【0006】
なお、作業員の安全性確保等のために、作業空間の十分な換気を行う等の対策が取られている場合がある。しかしながら、有害性の懸念がある物質を単に室外に排出するというのは好ましくなく、今後オルトフタルアルデヒドについても排出規制等が規定されることが考えられる。そこで、オルトフタルアルデヒドを効果的に処理できる方法や装置が期待され始めている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、オルトフタルアルデヒドを効果的に毒性が低い物質に処理できる方法及び洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のオルトフタルアルデヒドの処理方法は、
オルトフタルアルデヒドが付着している領域に、少なくとも過酸化水素を含む処理流体を供給することを特徴とする。
【0009】
本発明者は、オルトフタルアルデヒドが過酸化水素と接触すると、より人体に対する毒性が低い物質に処理できることを見出した。この処理の作用については、「発明を実施するための形態」にて、実験結果によって確認される。なお、本明細書において「毒性」とは、特に断りがない限りは人体に対する毒性をいう。
【0010】
上記方法とすることで、オルトフタルアルデヒドをより毒性が低い物質に処理することができる。また、過酸化水素を含む気体、又は液体である処理流体は、小さな隙間等にも入り込めるため、部材の隙間や材料の内部にまで入り込んだオルトフタルアルデヒドを効果的に毒性が低い物質に処理することができる。
【0011】
なお、上記処理方法において、
前記領域は、区画された空間の内壁面、天井、床であっても構わない。
【0012】
また、上記処理方法は、
前記空間内に霧状の前記処理流体を噴霧して、前記処理流体を供給する方法であっても構わない。
【0013】
内視鏡の洗浄は、洗浄完了後の内視鏡を清浄な状態で維持しつつ、適切な管理を維持する必要があることや、専用の殺菌剤を用いる等の理由から、専用の殺菌処理室で専用の洗浄装置によって行われるのが一般的である。
【0014】
洗浄が完了した直後の内視鏡は、乾燥や拭き取りが不十分だと洗浄装置の取り出し作業や運搬の際に、殺菌剤が垂れて、床にオルトフタルアルデヒドが付着してしまう場合がある。そして、オルトフタルアルデヒドは、グルタルアルデヒド等と比較して揮発性が低いものの、床にこぼれたり、壁に飛び散ったりすると、僅かに揮発して空間内を漂う。
【0015】
そこで、上記方法とすることで、空間の内壁面、天井、床に付着しているオルトフタルアルデヒドをより毒性が低い物質に処理すると共に、空間内を漂っているオルトフタルアルデヒドも同様に、過酸化水素を接触させて処理することができる。また、処理流体を直接吹きかけることや、手やノズルを入れることが困難な、狭い隙間に入り込んだオルトフタルアルデヒドをも同様に処理することができる。
【0016】
上記処理方法において、
前記処理流体は、過酸化水素の濃度が10質量%以下であっても構わない。
【0017】
過酸化水素は、酸化力が強く、金属粉や有機物等と反応して発熱して発火する場合があり、人の皮膚に付着すると火傷してしまうおそれもある。そこで、処理流体に含まれる過酸化水素の濃度が、上記の濃度範囲内となるように調整されることで、より安全にオルトフタルアルデヒドの処理を行うことができる。
【0018】
本発明の洗浄装置は、
オルトフタルアルデヒドが導入される処理空間を有する洗浄装置であって、
過酸化水素を含む処理流体を貯留する貯留部と、
前記貯留部に貯留された前記処理流体を前記処理空間内に噴出する噴出口を備えることを特徴とする。
【0019】
上記洗浄装置において、
前記噴出口は、前記処理流体を霧状にして前記処理空間内に噴出するものであっても構わない。
【0020】
上記洗浄装置において、
前記処理流体は、過酸化水素の濃度が10質量%以下であっても構わない。
【0021】
上記構成とすることで、洗浄装置が有する処理空間の壁面や床面、さらには、空間内に漂っているオルトフタルアルデヒドを処理することができる。
【0022】
また、上述した内容と同様に、処理流体に含まれる過酸化水素の濃度が、上記の濃度範囲内となるように調整されることで、より安全な洗浄装置とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オルトフタルアルデヒドを効果的に毒性が低い物質に処理できる方法及び洗浄装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】洗浄装置の模式的な全体斜視図である。
図2図1の洗浄装置を上方から見たときの図面である。
図3】オルトフタルアルデヒド(OPA)が付着した床に過酸化水素水を供給する態様の一例を模式的に示す図面である。
図4】オルトフタルアルデヒド(OPA)が付着した内壁面、天井、床に過酸化水素水を供給する態様の一例を模式的に示す図面である。
図5A】GC/MSによる分析の結果を示すグラフである。
図5B】GC/MSによる分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のオルトフタルアルデヒドの処理方法及び洗浄装置について、図面を参照して説明する。なお、洗浄装置に関して、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0026】
[洗浄装置]
まず、初めに、本発明のオルトフタルアルデヒドの処理方法の実施態様の一例である、洗浄装置1の構成について説明する。ただし、本発明のオルトフタルアルデヒドの処理方法は、洗浄装置に利用される場合に限定されない。
【0027】
図1は、洗浄装置1を模式的に示す全体斜視図であり、図2は、図1の洗浄装置1を上方から見たときの図面である。なお、図2においては、処理空間10の構造を確認しやすいように、蓋14が図示されていない。図1及び図2に示すように、本実施形態の洗浄装置1は、洗浄対象物を入れる処理空間10と、オルトフタルアルデヒドを含む殺菌剤を霧状にして噴出する第一噴出口11aと、過酸化水素の水溶液であるオキシドールを霧状にして噴出する第二噴出口11b、洗浄の開始や停止を操作する操作部13とを備える。
【0028】
また、洗浄装置1は、図1に示すように、オルトフタルアルデヒドを含む殺菌剤を入れた第一ボトル12aと、オキシドールを入れた第二ボトル12bが所定の位置にセットされる。なお、本実施形態の洗浄装置1は、二つのボトルを装着する構成であるが、殺菌剤とオキシドールをそれぞれ貯留する貯留部としてのタンクを備え、それぞれのタンクの注入口から殺菌剤とオキシドールを注ぎ込むような構成であってもよい。
【0029】
本実施形態における処理空間10は、洗浄対象物である内視鏡が載置され、蓋14が閉じられることで、区画された空間が形成される。また、図2に示すように、処理空間10の底を構成する底板は、噴出される殺菌剤やオキシドールが処理空間10内に溜まらないように、複数の排水穴10aが設けられている。
【0030】
第一噴出口11aは、処理空間10内に洗浄対象の内視鏡が入れられて蓋14が閉められた後、操作部13によって洗浄処理が開始されると、第一ボトル12aに貯留されているオルトフタルアルデヒドを含む殺菌剤を、処理空間10に向けて供給する。言い換えれば、第一噴出口11aは、オルトフタルアルデヒドを含む殺菌剤を内視鏡に対して噴出する。
【0031】
第二噴出口11bは、処理空間10から洗浄済みの内視鏡が取り出されて蓋14が閉じられた後、操作部13で所定の操作が行われると、処理空間10に向けてオキシドールを霧状にして供給する。言い換えれば、第二噴出口11bは、オキシドールを霧状にして処理空間10内に噴出する。
【0032】
なお、第一噴出口11a及び第二噴出口11bは、霧状ではなく、例えば、水鉄砲のように目標箇所を目掛けて噴出させる構成や、シャワーのように噴出させる構成であっても構わない。
【0033】
上記構成とすることで、洗浄装置1は、内視鏡の洗浄処理後の処理空間10における、オルトフタルアルデヒドが残存している領域にオキシドールを供給することができる。そして、処理空間10に残存しているオルトフタルアルデヒドは、拡散するように供給されたオキシドールに含まれる過酸化水素と接触して、より毒性が低い物質に処理される。
【0034】
本実施形態の洗浄装置1の第二噴出口11bから噴出される処理流体は、薬局で市販されている、過酸化水素の濃度が3質量%のオキシドールとしたが、過酸化水素が含まれる流体であれば他の物質を採用してもよい。
【0035】
ただし、上述したように、高濃度の過酸化水素は、酸化力が強く、金属粉や有機物等と反応して発熱して発火する場合があり、人の皮膚に付着すると火傷してしまうおそれもある。したがって、第二噴出口11bから噴出される処理流体は、過酸化水素の濃度が15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
[別実施態様]
本発明のオルトフタルアルデヒドの処理に関し、上述の洗浄装置1とは異なる実施態様について説明する。
【0037】
図3は、オルトフタルアルデヒド(OPA)が付着した床に処理流体を供給する態様の一例を模式的に示す図面である。図3に示すように、本実施態様は、部屋2の床にこぼしたオルトフタルアルデヒドを処理するために、オルトフタルアルデヒドが付着した床にピペット20で処理流体を直接滴下する態様である。
【0038】
上述の洗浄装置1は、病院等の専用の洗浄室内に配置されて使用される。そして、このような洗浄室では、洗浄処理が完了して洗浄装置1から洗浄処理済みの内視鏡を取り出す際や運搬する際に、内視鏡に付着しているオルトフタルアルデヒドが飛び散ったり、床に垂れてしまうことがある。また、上述したような洗浄装置1に、殺菌剤が入ったボトルをセットする際に、誤って殺菌剤が床にこぼれたり、垂れてしまうこともある。
【0039】
そこで、図3に示すように、オルトフタルアルデヒドが垂れてしまった領域に、ピペット20で処理流体を滴下することで、当該オルトフタルアルデヒドを過酸化水素によって、より毒性が低い物質に処理することができる。
【0040】
本実施態様によれば、ピペット20で必要最小限の処理流体を滴下する処理であるため、部屋2中に過酸化水素が充満してしまうことがなく、人の出入りを禁止することもなく、簡単に処理することができる。
【0041】
なお、本実施態様では、ピペット20で処理流体をオルトフタルアルデヒドが付着している領域に滴下する方法を説明したが、当該領域に過酸化水素を供給できる方法であれば、他の方法を採用しても構わない。
【0042】
図4は、オルトフタルアルデヒド(OPA)が付着した内壁面、天井、床に過酸化水素水を供給する態様の一例を模式的に示す図面である。図4に示すように、例えば、定期的に天井や壁も含めた洗浄室全体を処理するために、所定の時間の間だけ人の立ち入りを禁止し、過酸化水素水を霧状にして噴出する噴出部30を備える加湿器3によって部屋2中に過酸化水素を散布して処理しても構わない。
【0043】
また、過酸化水素の供給は、過酸化水素を含む処理流体に浸したモップや雑巾等で拭き取るような方法であっても構わない。当該方法によれば、モップや雑巾が拭き取るようにして内壁面、天井、床の表面のオルトフタルアルデヒドを除去すると共に、拭った場所に過酸化水素を含む処理流体が供給される。これにより、内壁面、天井、床の内部に染み込んで拭き取れなかったオルトフタルアルデヒドが、供給された処理流体に含まれる過酸化水素によって、より毒性が低い物質に処理される。
【0044】
以下、過酸化水素によるオルトフタルアルデヒドの処理作用の検証実験について説明する。
【0045】
[実験1]
過酸化水素によるオルトフタルアルデヒドの処理作用を確認する検証実験を行った。
【0046】
(実施例1-1)
アルミホイルに、ジョンソンエンドジョンソン社製のディスオーパ消毒液(0.55%)からなる殺菌剤を10μL滴下して、2時間の自然乾燥を行った後、市販されているオキシドールと同等の濃度である3質量%の過酸化水素水を滴下した試験体を実施例1-1とした。
【0047】
(比較例1-1)
自然乾燥を行った後、過酸化水素水を滴下しなかった点を除けば、実施例1-1と同様の方法で得られたサンプルを比較例1-1とした。
【0048】
(検証方法)
実施例1-1及び比較例1-1のそれぞれのサンプルに対して、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)による分析を行った。具体的には、以下の手順で行った。まず、各サンプルをGC/MSヘッドスペース用スクリューバイアル瓶(ジーエルサイエンス社製:1030-51096)に収容した。次に、このバイアル瓶を60℃で15分間保持することでサンプルを加熱し、SPMEファイバー(PDMS/DVB 65μm径:スペルコ社製)に5分間吸着させた。そしてこのSPMEファイバーを用いて、GC/MS(日本電子社製、JMS-Q1500GC)による分析を行った。
【0049】
GC/MSの分析条件は以下の通りである。
使用カラム:アジレント・テクノロジー社製、DB-624(60m×0.25mm×1.4μm)
カラム温度:40℃で5分保持。その後3℃/分で240℃まで昇温し、240℃で15分保持
キャリアガス:ヘリウム
注入方法:スプリットレス
【0050】
(結果)
図5Aは、比較例1-1(過酸化水素水の滴下なし)の、GC/MSによる分析の結果を示すグラフであり、図5Bは、実施例1-1の(過酸化水素水の滴下あり)の、GC/MSによる分析の結果を示すグラフである。図5Aに示すように、過酸化水素水を滴下しなかった場合は、オルトフタルアルデヒドの存在を示すピークが現れた。
【0051】
これに対し、図5Bに示すように、過酸化水素水を滴下した場合は、オルトフタルアルデヒドの存在を示す破線で示す部分のピークが消え、オルトフタルアルデヒドよりも毒性が低いフタリド(C862)の存在を示すピークが現れた。
【0052】
以上より、オルトフタルアルデヒドは、過酸化水素と接触することで、より毒性が低い物質に処理されることが確認された。
【0053】
[実験2]
過酸化水素によるオルトフタルアルデヒドの処理作用と、オゾンや紫外線によるオルトフタルアルデヒドの処理作用の比較実験を行った。
【0054】
(実施例2-1)
シート材に、ジョンソンエンドジョンソン社製のディスオーパ消毒液(0.55%)からなる殺菌剤を10μL滴下して、2時間の自然乾燥を行った後、市販されているオキシドールと同等の濃度である3質量%の過酸化水素水を10μL滴下したサンプルを実施例2-1とした。
【0055】
(実施例2-2)
自然乾燥を行った後、市販されているオキシドールと同等の濃度である3質量%の過酸化水素水を25μL滴下した点を除けば、実施例2-1と同様の方法で得られたサンプルを実施例2-2とした。
【0056】
(実施例2-3)
シート材に、10μLのジョンソンエンドジョンソン社製のディスオーパ消毒液(0.55%)からなる殺菌剤と、負荷としての10μLの6g/Lのウシ血清アルブミンとを混合した溶液を滴下して、2時間の自然乾燥を行った後、市販されているオキシドールと同等の濃度である3質量%の過酸化水素水を10μL滴下したサンプルを実施例2-3とした。
【0057】
(実施例2-4)
自然乾燥を行った後、市販されているオキシドールと同等の濃度である3質量%の過酸化水素水を25μL滴下した点を除けば、実施例2-2と同様の方法で得られたサンプルを実施例2-2とした。
【0058】
(比較例2-1)
自然乾燥を行った後、3質量%の過酸化水素水を10μL滴下する代わりに、60分間、オゾン濃度が10ppm(CT積:600ppm・Min)の環境で、燻蒸処理した点を除けば、実施例2-1と同様の方法で得られたサンプルを比較例2-1とした。
【0059】
(比較例2-2)
自然乾燥を行った後、3質量%の過酸化水素水を10μL滴下する代わりに、222nmの紫外光を光量5000mJ/cm2で照射した点を除けば、実施例2-1と同様の方法で得られたサンプルを比較例2-2とした。
【0060】
シート材は、東リ社製のTS3523耐薬品性ビニル床シートを使用した。
【0061】
(検証方法)
実施例2-1、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4、比較例2-1及び比較例2-2のそれぞれのサンプルに対して、実験1と同じ検証方法で、GC/MSによる分析を行った。
【0062】
(比較方法)
GC/MSによる分析で得られたクロマトグラムの、データの増加率(スロープ)が一定のレベル以上となった時点から、ピークを跨いでデータの減少率が一定のレベル以下となった時点までの範囲で積分した値であるピーク面積を測定する。
【0063】
さらに、自然乾燥を行って各処理を行う前のサンプルで測定したときのピーク面積をSp、各処理を行った後のサンプルを測定したときのピーク面積をSaと定義する。そして、(Sp-Sa)/Spで求められる値を除去率と定義し、この値で処理効果を比較する。この除去率は、値が大きい程、処理対象物(本実験ではオルトフタルアルデヒド)がより処理されていることを示す。
【0064】
(結果)
それぞれの除去率は、表1のようになった。
【0065】
【表1】
【0066】
上記の結果より、過酸化水素水の滴下では、オルトフタルアルデヒドがほぼ99%以上処理できており、オゾンによる燻蒸や紫外光の照射よりも効果的にオルトフタルアルデヒドを処理できていることがわかる。
【0067】
オゾンや紫外光による処理でも、ある程度のオルトフタルアルデヒドの処理効果が得られているが、シート材の内部にはオゾンや紫外光が到達しにくく、一部のオルトフタルアルデヒドが処理されずに残存してしまう。このため、オルトフタルアルデヒドの一部が処理されず、比較例2-1と比較例2-2は、実施例2-1から実施例2-4のいずれに対しても除去率が低くなっている。
【0068】
また、過酸化水素水の滴下による処理は、負荷(本実験では、ウシ血清アルブミン)の有無の影響をほとんど受けないことが確認された。
【0069】
以上より、オルトフタルアルデヒドが付着している領域に、過酸化水素を含む処理流体を供給することで、オルトフタルアルデヒドを十分に処理できていることが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1 : 洗浄装置
2 : 部屋
3 : 加湿器
10 : 処理空間
10a : 配水穴
11a : 第一噴出口
11b : 第二噴出口
12a : 第一ボトル
12b : 第二ボトル
13 : 操作部
14 : 蓋
20 : ピペット
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B