(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059749
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ペースト状接合材組成物及び接合体
(51)【国際特許分類】
B23K 35/22 20060101AFI20220407BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220407BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220407BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20220407BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20220407BHJP
C22C 9/06 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
B23K35/22 310B
B22F1/02 B
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B23K35/26 310A
B23K35/14 Z
C22C9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167534
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 孝之
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA02
4K018BA04
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ペースト形状を有した接合材であって、当該接合材を用いた接合体が耐熱性に優れ、接合方法も従来のリフロー装置での使用が可能で、しかも、接合体に空隙等の不具合が発生しない接合が可能な、ペースト状接合材及び当該接合材を用いた接合体を提供する。
【解決手段】低融点金属粒子と高融点金属粒子を含有するペースト状接合材組成物であって、当該高融点金属粒子が金属不活性化剤にて処理された状態でペースト状接合材組成物に含有されていることを特徴とするペースト状接合材組成物。好ましくは、前記低融点金属粒子が鉛フリーはんだ合金であり、前記高融点金属粒子がCu、Ni、Cu-Ni合金、及びCu-Co合金の群より選ばれる1種以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点金属粒と高融点金属粒子を含有するペースト状接合材組成物であって、当該高融点金属粒子が金属不活性化剤にて処理された状態でペースト状接合材組成物に含有されていることを特徴とするペースト状接合材組成物。
【請求項2】
請求項1記載のペースト状接合材組成物に含有する低融点金属粒子が鉛フリーはんだ合金であることを特徴とするペースト状接合材組成物。
【請求項3】
請求項1及び請求項2記載のペースト状接合材組成物に含有する高融点金属粒子がCu、Ni、Cu-Ni合金、及びCu-Co合金の群より選ばれる1種以上であることを特徴とするペースト状接合材組成物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載のペースト状接合材組成物を用いて形成されたことを特徴とする接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状の接合材に関し、電子部品等の接合に用いられるペースト状接合材組成物、及び当該ペースト状接合材組成物を用いた接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子にはシリコン(Si)が多く用いられている。近年では、特性の良さが認められていたがコスト等問題で普及が遅れていたシリコンカーバイト(SiC)等の素材が普及し始めている。
そして、これらの半導体の接合材料として高温での接合信頼性を有する鉛が80%以上含有している高温鉛はんだ材や銀又は銅の微粒子を用いた焼結タイプの接合材が検討されている。
しかし、高温鉛はんだ材は環境負荷の問題、銀又は銅の微粒子を用いた焼結タイプの接合材はコストや技術確立の課題を有している。
【0003】
一方、従来の拡散接合方法ははんだ粒子と金属粒子を混合してペースト状等の形状に加工し、リフロー炉等で溶融させて接合する方法が検討されている。
しかし、従来のはんだ粒子と金属粒子、及びフラックスと混合するはんだペーストでは、製造工程途中やはんだ付け工程中ではんだ粒子や金属粒子が酸化してはんだ粒子や金属粒子の不ヌレが発生する場合があり、また、接合層に金属粒子の拡散が急速に進むこにより母材へのなじみが不足することもあるため、それに起因してはんだ接合体内部に空隙や酸化膜の層が形成され、金属元素や組成の拡散が進まず、接合後にははんだ接合体内部に金属間化合物が均一に形成されないという問題が残存している。
【0004】
そこで、特許文献1及び特許文献2のような接合方法が提案されている。
特許文献1では、半導体チップとCu配線との間の接合層に、Cu配線側にはCu3Snの金属間化合物を、半導体チップ側には(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物の2層構造をなす接合層を設けることにより、従来の鉛フリーはんだ材料と同等の価格で耐熱性を有する接合を提供するという技術の開示がなされている。
特許文献2では、拡散はんだ接合を形成するためのはんだプリフォームに関し、はんだ
プリフォーム内に一定の間隔以上で金属間化合物を予め分散させた状態ではんだプリフォームを製造し、はんだ付け工程に於いてはんだプリフォームが溶解してはんだ接合を形成する際に金属間化合物が素早く接合層全体に拡散、安定化するためのはんだプリフォームに製造に関する技術が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1では接合層に2種の金属間化合物を形成させるために、特許文献2でもはんだプリフォーム中に予め金属間化合物を形成する必要が有り、接合材の製造方法自体やはんだ付け工程が煩雑になるという課題を有していた。
【0006】
また、特許文献2ははんだプリフォームに含有する金属粒子の酸化膜に起因する不ヌレの解消が不十分であり、また、はんだプリフォームという形状であるため、接合対象や接合条件に制限があるため、はんだペーストのように汎用的に使用可能ではんだ接合体も耐熱性に優れ、安価な接合材や当該接合材を用いた接合方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-155761号公報
【特許文献2】特開2020-518457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑み、ペースト形状を有した接合材であって、当該接合材を用いた接合体が耐熱性に優れ、接合方法も従来のリフロー装置での使用が可能で、しかも、接合体に空隙等の不具合が発生しない接合が可能なペースト状接合材及び当該接合材を用いた接合体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題解決の為、ペースト形状をなす接合材に於いて同接合材に含有する拡散を目的とする金属粒子の酸化が発生しない方法を検討した結果、当該金属粒子を予め特定の金属不活性化剤で処理することにより、ペースト状接合材の製造工程並びに当該接合材を用いた接合工程に於いて、金属粒子の酸化が抑制でき、接合時に接合体内部で金属粒子が不ヌレ等を発生することなく拡散し、金属間化合物を迅速に形成することに加え、反応速度を下げて母材へのなじみ優先させることが可能なことを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペースト状接合材組成物並びに当該接合材を用いた接合体は、接合時に接合体内部に存在する金属粒子の不ヌレ等により発生するボイドの不具合が少なく、接合後の接合体内部に金属間化合物が広範囲に存在しているため、耐熱性にも優れ、しかも、従来のはんだ材と大差ないコストにて提供可能なため、パワー半導体をはじめとする耐熱性が必要な接合用途に広く応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の接合材組成物を用いて接合した銅試験片の接合面断面写真。
【
図2】比較例1の接合材組成物を用いて接合した銅試験片の接合面断面写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の接合材組成物は、基本組成としてはんだ粒子及び/又は融点の低い金属粒子、及び融点の高い金属粒子及びフラックスより構成されていることを特徴としている。
なお、本発明の接合材組成物の構成成分である融点の低い金属粒子とは鉛フリーはんだ合金を例とする融点が400℃以下の金属及び合金(以下、低融点金属粒子と記載)を指し、融点の高い金属粒子とは融点が400℃を超える金属及び合金(以下、高融点金属粒子と記載)を指す。
【0013】
本発明の接合材組成物に用いることのできる低融点金属粒子は、本発明の効果を有する範囲に於いて組成や粒径に制限はなく、はんだ合金粒子の組成ではSn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Cu-Ni系等の鉛フリーはんだ組成等が例示でき、融点の低い金属粒子ではSnが例示できる。
また、夫々の粒子の粒径は、JIS規格Z3284-2付属書Aに記載の粒径サイズが好ましい。
更に、配合量としては、接合材組成全体を100とした場合、10~90質量%が好ましい。
【0014】
また、本発明の接合材組成物に用いることのできる高融点金属粒子は、本発明の効果を有する範囲に於いて、はんだ接合体内部に金属間化合物が形成されるものであれば組成や粒径、形状に制限はない。
そして、当該金属粒子の組成は、Cu、Ni、Cu-Ni合金、Cu-Co合金等が例示でき、粒径では0.1μm~100μm、形状では球状、不定形等が例示できる。
更に、配合量としては、接合材組成物の組成全体を100とした場合、0.1~70質量%が好ましい。
そして、粒径や形状および組成の異なる金属粒子を複数種、接合材組成物中に用いても構わない。
【0015】
一方、金属粒子を処理する成分や方法は、本発明の効果を有する範囲に於いて制限はなく、金属不活化効果を有する金属不活性化剤であれば問題ない。
金属不活性化剤としては、市販の金属不活性化剤で良く、トリアゾール系、イミダゾール系、及びチアジアゾール系が例示でき、含有するはんだ粉末の融点より高い融点を有する金属不活性化剤が好ましい。
配合量に関しても、本発明の効果を有する範囲に於いて制限はないが、含有量が多くなるとはんだ接合後にはんだ接合体内部やはんだ接合体の周囲に当該金属不活性化剤又は当該金属不活性化剤に由来する成分が残存し、不具合を発生する可能性があるため、少ない方が好ましい。具体的な量としては、フラックス組成に含有される溶剤成分を100とした場合、0.1質量%以下が好ましい。
また、処理の方法に特段の制限はなく、金属粒子表面に金属不活性化剤が被覆され、はんだ接合工程まで金属粒子の酸化を防止並びに抑制ができれば構わない。
【0016】
そして、本発明のペースト状接合材組成物のフラックスに用いることができる有機酸は、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はないが、ジカルボン酸やカルボン酸が好ましく、ジカルボン酸としてマロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等が、カルボン酸として安息香酸、乳酸、シユウ酸、ギ酸、酢酸等が例示できる。
本発明のはんだペースト組成物用フラックス組成物に用いることができる溶剤は、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はないが金属不活性化剤を溶解できるものが好ましく、アルコール類やグリコール類が例示できる。
更に、本発明のペースト状接合材組成物のフラックスには、適宜、酸化防止剤、バインダー、ロジン等の樹脂成分等を含有させることができる。
また、本発明のペースト状接合材組成物のフラックスに用いることができる各成分の配合量も本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はなく、接合材として印刷特性等の作業性が良い範囲が好ましい。
【0017】
本発明のペースト状接合材組成物を用いて接合体を形成させる場合、本発明の効果を有する範囲に於いて制限はなく、実施例に記載したように加圧焼成装置を用いる方法や無加圧での方法、例えば従来のリフロー方式、オーブンでの加熱方式、やギ酸雰囲気下、減圧雰囲気下等の接合方法が例示できる。
【実施例0018】
以下、本発明について実施例を基に詳細に説明する。
〔金属粒子の処理〕
1)トリアゾール系金属不活性化剤として、株式会社ADEKA社製アデカスタブCDA-1(CDA-1)0.1gをN-メチルー2-ピロリドン(NMP)を15g計量後に混合し、均一に溶解させ、処理液とする。
2)Ni含有量が5.5atm%(5.1質量%)Cu-5.5Ni合金粒子(平均粒径(約6μm)10gをガラス製サンプル瓶に計量した後、CDA-1とNMP処理液5gを加え、密栓し、室温にて静置した。
3)2)を65時間放置した後、CDA-1とNMP処理液をろ過にて取り去り、Cu-5.5Ni金属粒子を乾燥し、処理を終了する。
(実施例1に用いる金属粒子とした。)
4)次に、比較例1に使用する金属粒子に関して、Cu-5.5Ni合金粒子(平均粒径(約10μm)10gをガラス製サンプル瓶に計量した後、NMP5gを加え、密栓し、室温にて静置した。
5)4)を65時間放置した後、NMP液をろ過にて取り去り、Cu-5.5Ni金属粒子を乾燥し、コート処理を終了する。
(比較例1に用いる金属粒子とした。)
〔はんだペースト組成物の作製〕
表1に示す成分準備し、通常のはんだペーストの通常製法にて本発明並びに比較品の測定用接合材ペースト組成物の試料を夫々作製した。
・はんだ粒子:株式会社日本スペリア社製SN100CType6粉末
・アジピン酸(活性剤)、デカノール(溶剤)、イソボルニルシクロヘキサノール
(バインダー)は市販のものを用いた。
【0019】
【0020】
〔評価試料の作製〕
本発明のペースト状接合材組成物である実施例1と比較対象の比較例1のペースト状接合材組成物を準備し、10mmΦ銅試験片上に直径約5mm、膜厚100μmになるように各はんだペースト組成物を塗布した後、130℃のホットプレート上に60秒間試料を放置して予備乾燥させる。その後、5mmΦ銅試験片を予備乾燥が終了したはんだペースト組成物の上に塗布域と銅試験片が重なるように静置させる。
その後、明昌機工株式会社製シンタリング装置HTM-3000を用いて、下記シンタリング条件にて接合を行い、測定試料を作製した。
(シンタリング条件)
・荷重:5MPa、シンタリング温度:250℃、焼成時間:5分間、N2雰囲気
【0021】
〔評価〕
作製した試料は、「JIS Z 3198-5はんだ継手の引張およびせん断試験方法」に準拠し、シェア強度を測定した。
具体的には、株式会社エー・アンド・デイ製テンシロン万能材料試験機を用いて、下記条件にて、シェア強度を測定した。
・シェア速度:6mm/分、室温(20℃~25℃)
また、接合状態を日本電子株式会社製JSM-5700走査型電子顕微鏡を用いて接合断面の観察を行い接合状態を評価した。
シェア強度の結果を表2に、断面観察の結果を
図1、
図2に示す。
【0022】
【0023】
表2に示す通り、本発明のペースト状接合材組成物を用いて接合した試料は、比較例1に比べ1.5倍以上の高いシェア強度を有しており、はんだ接合体が比較例に比べ緻密で均一であることが想定でき、高い信頼性が期待できる。
また、
図1及び
図2より、本発明のペースト状接合材組成物を用いて接合した試料は、接合層に空隙が極めて少ないことがわかった。
このことは、本発明のペースト状接合材組成物に含有される金属粒子がはんだ接合工程まで酸化されることなく保たれ、金属粒子の酸化による不ヌレは発生しなかったことに加え、処理剤である金属不活性化剤が殆ど残存していないことを示している。
これに対して、比較例1は接合層に多くの空隙が見られ、不ヌレ等が発生して接合状態が不完全であったことがわかる。
このように本発明のペースト状接合材組成物を用いて接合した接合体は、ボイドが少なく金属間化合物が接合層全体に広く形成され、良好な接合体を形成している。
そして、接合体に広く分布する金属間化合物は主な組成がCu
6Sn
5又は(Cu,Ni)
6Sn
5であるため、融点が400℃以上と高温であることから耐熱性にも優れ、高い信頼性が期待できる。
本発明のペースト状接合材及び当該ペースト状接合材組成物を用いて接合した接合体は耐熱性に優れた接合層を安価で提供可能なため、パワーモジュールの接合や従来の電子部品接合に加え、半導体の接合に広く応用が期待できる。