(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059750
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】工作機械用コレットチャック
(51)【国際特許分類】
B23B 23/00 20060101AFI20220407BHJP
B23B 31/20 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
B23B23/00 A
B23B31/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167535
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】中川 利基
(72)【発明者】
【氏名】緒方 房充
【テーマコード(参考)】
3C032
3C045
【Fターム(参考)】
3C032BB13
3C032JJ01
3C032JJ11
3C045FE08
(57)【要約】
【課題】 シリンダ等の駆動装置を用いることなく、ワークの姿勢保持を可能とする工作機械用コレットチャックを提供する。
【解決手段】
コレットチャック1は、内周面22bの前端部にテーパ部23を有する円筒状本体11と、本体11のテーパ部23に対応するテーパ部26を外周面の前端部に有し、本体11内を後方に相対移動することでテーパ部26が縮径してワークWを保持する円筒状コレット12と、コレット12内に前後移動可能に配されて、ワークWの後端部W1がコレット12内に挿入された際にワークWとともに本体11内を移動してコレット12を後方に相対移動させる当金13とを備えている。本体11の内周面22bは、ワークWの後端部W1の軸線A2と同心の軸線を有している。コレット12は、本体11の内周面22bと同心に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸によって回転するワークに向かって前進後退する軸の前端部に取り付けられてワークの後端部を保持する工作機械用コレットチャックであって、
内周面の前端部にテーパ部を有する円筒状本体と、本体のテーパ部に対応するテーパ部を外周面の前端部に有し、本体内を後方に相対移動することでテーパ部が縮径してワークを保持する円筒状コレットと、コレット内に前後移動可能に配されて、ワークの後端部がコレット内に挿入された際にワークとともに本体内を移動してコレットを後方に相対移動させる当金とを備えており、
本体の内周面は、ワークの後端部の軸線と同心の軸線を有し、コレットは、本体の内周面と同心に形成されていることを特徴とする工作機械用コレットチャック。
【請求項2】
ワークの後端部の軸線は、主軸の回転中心に対して偏心して形成されていることを特徴とする請求項1の工作機械用コレットチャック。
【請求項3】
本体に設けられた底壁とコレットに設けられた底壁との間に、コレットを前方に付勢する弾性体が設けられている請求項1または2の工作機械用コレットチャック。
【請求項4】
本体に設けられた底壁とコレットに設けられた底壁との間に、コレットの前方への移動を規制するストッパが設けられている請求項3の工作機械用コレットチャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械においてワークを保持するコレットチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤などの工作機械において、加工中心に対して偏心したワークを旋削する場合、特許文献1に示されているように、主軸端に設けられた偏心センタと心押軸に設けられた偏心センタとで支持する保持機構が使用されることがある。この保持機構では、偏心センタは回転中心からずれた位置を支持することになり、ワークを回転中心に保持する能力はない為、チャックの保持力でワークの姿勢を保つことになるが、加工負荷によりワークの姿勢が保持できないことがある。その対策として対向主軸を用いたダブルドライブとして、シリンダ等の駆動装置を用いることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の保持機構において、シリンダ等の駆動装置を用いることなく、ワークの姿勢保持を可能とすることが望まれている。
【0005】
この発明の目的は、シリンダ等の駆動装置を用いることなく、ワークの姿勢保持を可能とする工作機械用コレットチャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による工作機械用コレットチャックは、主軸によって回転するワークに向かって前進後退する軸の前端部に取り付けられてワークの後端部を保持する工作機械用コレットチャックであって、内周面の前端部にテーパ部を有する円筒状本体と、本体のテーパ部に対応するテーパ部を外周面の前端部に有し、本体内を後方に相対移動することでテーパ部が縮径してワークを保持する円筒状コレットと、コレット内に前後移動可能に配されて、ワークの後端部がコレット内に挿入された際にワークとともに本体内を移動してコレットを後方に相対移動させる当金とを備えており、本体の内周面は、ワークの後端部の軸線と同心の軸線を有し、コレットは、本体の内周面と同心に形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
軸が前進して、ワークの後端部がコレット内に挿入されると、まず、当金がワークに当接し、さらなる軸の前進によって、当金とコレットとが一体で軸の後方へ相対移動する。これにより、コレットのテーパ部が縮径して、ワークの後端部がコレット内に保持される。ここで、コレットは、ワークの後端部の軸線と同心の軸線を有しているので、コレットチャックは、ワークの後端部を確実に保持することができる。こうして、この発明のコレットチャックによると、シリンダ等の駆動装置を用いることなく、ワークの姿勢保持が可能となる。
【0008】
ワークの後端部の軸線は、主軸の回転中心に対して偏心して形成されていることがあり、このような偏心ワークの保持に、上記コレットチャックが特に有効なものになる。コレットチャックは、本体の内周面が外周面に対して偏心させられ、コレットの軸線がワークの後端部の軸線と同心に形成される。偏心ワークを加工する場合に、ワークの保持が十分できずに加工不具合となることがあるが、偏心ワークに対して上記コレットチャックを使用することで、加工負荷に耐えて、ワークの姿勢を保持することができ、加工不具合を防止することができる。
【0009】
本体に設けられた底壁とコレットに設けられた底壁との間に、コレットを前方に付勢する弾性体が設けられていることが好ましい。
【0010】
このようにすると、軸が前進する際、当金がワークに当接した後、弾性体の弾性力に抗して、軸がさらに前進することで、当金とコレットとが一体で本体内を後方へ相対移動し、これにより、ワークがコレットに保持される。この後、軸が後退すると、弾性体が当金およびコレットとを一体で前方へ付勢し、これにより、ワークの保持状態が解除される。こうして、弾性体を使用することで、軸の前進後退だけで、ワークの保持および解除を行うことができる。
【0011】
さらに、本体に設けられた底壁とコレットに設けられた底壁との間に、コレットの前方への移動を規制するストッパが設けられていることが好ましい。
【0012】
このようにすると、弾性体に付勢されたコレットの停止位置が規定され、ワークの保持の解除が確実に行われる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の工作機械用コレットチャックによると、シリンダ等の駆動装置を用いることなく、ワークの姿勢保持が可能となり、これを使用することで、加工不具合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、この発明の工作機械用コレットチャックの1実施形態を示す図であり、軸が前進してワークを保持している状態を示している。
【
図2】
図2は、
図1の状態から軸が後退してワークの保持が解除された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1および
図2を参照して、この発明の工作機械用コレットチャックの1実施形態について説明する。この明細書において、軸がワークに近づく方向を前進(図の左を前)、軸がワークから遠ざかる方向を後退(図の右を後)というものとする。
図1は、軸(3)が前進したワーク保持状態を示し、
図2は、軸(3)が後退したワーク解除状態を示している。
【0016】
この実施形態の工作機械用コレットチャック(1)は、NC旋盤などの工作機械において、心押台のような支持台(2)に前後移動可能に支持された軸(3)の前端部に設けられて、基準軸線(A1)である主軸(図示略)の回転中心に対して偏心している偏心軸線(A2)を有する偏心部(W1)を備えた偏心ワーク(W)を加工するのに適したワーク保持装置であって、軸(3)に取り付けられる円筒状本体(11)と、本体(11)内に移動可能に配された円筒状コレット(12)と、コレット(12)内に配された円柱状当金(13)と、コレット(12)を前方に付勢する圧縮コイルばね(弾性体)(14)と、コレット(12)の前方への移動を規制するストッパ(15)とを備えている。
【0017】
本体(11)は、軸(3)の前端部に固定される円板状底壁(21)と、底壁(21)から前方に伸びる円筒状周壁(22)とを備えている。
【0018】
底壁(21)は、基準軸線(A1)と同心に形成されている。底壁(21)の前面には、基準軸線(A1)から離れた位置に、圧縮コイルばね(14)の後部が嵌め入れられるばね受け用凹部 (21a)が設けられている。
【0019】
周壁(22)は、その外周面(22a)が基準軸線(A1)と同心に形成されており、その内周面(22b)が偏心軸線(A2)と同心に形成されている。周壁(22)の内周面(22b)の前端部には、内周面(22b)と同心で後方に行くにつれて径が小さくなるテーパ部(23)が形成されている。
【0020】
コレット(12)は、その外周面および内周面が偏心軸線(A2)と同心に形成されており、厚肉の円板状底壁(24)と、底壁(24)から前方に伸びる薄肉の円筒状周壁(25)とを備えている。
【0021】
底壁(24)の後面には、圧縮コイルばね(14)の前部が嵌め入れられるばね受け用凹部(24a)が設けられている。底壁(24)には、さらに、ストッパ(15)が相対移動可能に嵌め入れられるストッパ用貫通孔(24b)が設けられている。
【0022】
周壁(25)の外周面の前端部には、本体(11)の周壁(22)に設けられているテーパ部(23)に対応し、後方に行くにつれて径が小さくなるテーパ部(26)が形成されている。周壁(25)のテーパ部(23)よりも後方の部分は、外周部が削られて薄肉とされている。
【0023】
当金(13)は、その後面がコレット(12)の底壁(24)の前面に当接するように配されており、その前面は、コレット(12)のテーパ部(26)の後端近くに位置させられている。
【0024】
圧縮コイルばね(14)は、その後部が本体(11)の底壁(21)のばね受け用凹部(21a)で受けられ、その前部がコレット(12)の底壁(24)のばね受け用凹部(24a)で受けられていることにより、本体(11)とコレット(12)とが互いに離れる方向にその弾性力を作用させている。
図1において、圧縮コイルばね(14)は、圧縮状態にあり、本体(11)に対してコレット(12)を前方に付勢している。
【0025】
ストッパ(15)は、前側の円板状頭部(15a)および後側の円柱状軸部(15b)からなり、軸部(15b)の後端部が本体(11)の前面に固定されている。これに対応して、コレット(12)の底壁(24)のストッパ用貫通孔(24b)は、前側の大径部および後側の小径部からなる段付き状に形成されるとともに、前側の大径部の前後寸法がストッパ(15)の頭部(15a)の前後寸法よりも大きくなされている。これにより、ストッパ(15)は、貫通孔(24b)に案内されて、コレット(12)の底壁(24)に対して前後に相対移動可能とされている。
【0026】
図2に示すワーク(W)の保持の解除に際しては、ストッパ(15)の頭部(15a)の後面がストッパ用貫通孔(24b)の段差面に当接し、これにより、圧縮コイルばね(14)に付勢されたコレット(12)は、その停止位置が規定されるようになされている。
【0027】
上記の工作機械用コレットチャック(1)の動作は、以下のようになる。
【0028】
図2に示すワーク(W)の解除状態(軸(3)の後退動作状態)から軸(3)が前進すると、ワーク(W)の後端部がコレット(12)内に挿入される。軸(3)は、基準軸線(A1)と同心の軸線回りに回転可能とされている。ワーク(W)の後端部は、基準軸線(A1)に対して偏心している偏心軸線(A2)を有する偏心部(W1)となっている。軸(3)の前進に伴い、まず、当金(13)の前面がワーク(W)の後端面に当接し、軸(3)が圧縮コイルばね(14)の弾性力に抗してさらに前進することによって、当金(13)とコレット(12)とが一体で本体(11)に対して後方に相対移動する。この際、コレットチャック(1)は、ワーク(W)の偏心軸線(A2)にコレット(12)の中心軸が一致するように、回転して倣う。これにより、
図1に示す軸(3)の前進動作状態となり、コレット(12)のテーパ部(26)が本体(11)のテーパ部(23)に案内されて縮径し、ワーク(W)の偏心部(W1)の長さの半分以上がコレット(12)内にしっかりと保持されたワーク(W)の保持状態が得られる。こうして、シリンダ等の駆動装置を用いることなく、ワーク(W)の姿勢が保持される。
【0029】
図1に示す軸(3)の前進動作状態から軸(3)が後退すると、本体(11)が軸(3)とともに後退する。コレット(12)は、圧縮コイルばね(14)によって前方に付勢されているので、本体(11)に対して前方に相対移動する。この前方への相対移動は、ストッパ(15)によって停止させられ、その後は、コレット(12)は、本体(11)と一体となって後方に移動する。こうして、ワーク(W)の保持状態が解除される。
【0030】
図1の軸(3)の前進動作状態から
図2の軸(3)の後退動作状態への移動および
図2の軸(3)の後退動作状態から
図1の軸(3)の前進動作状態への移動は、いずれも、シリンダなどの駆動装置を必要とするものではなく、上記の工作機械用コレットチャック(1)を使用することで、軸(3)の前進後退だけで、ワーク(W)の保持および解除を行うことができる。
【0031】
なお、上記の工作機械用コレットチャック(1)は、偏心ワーク(W)を加工するのに適したものであるが、偏心していないワークを保持するようにすることもできる。また、上記の工作機械用コレットチャック(1)は、支持台(2)としての心押台に前進後退可能に設けられた心押軸(3)に取り付けられて使用することができる他、基準軸線(A1)(主軸軸線)方向に前進後退可能な軸であれば、例えば、上下刃物台のいずれか一方など、心押台の心押軸に限らずに使用することができる。
【符号の説明】
【0032】
(1):工作機械用コレットチャック
(3):軸
(11):本体
(12):コレット
(13):当金
(14):圧縮コイルばね(弾性体)
(15):ストッパ
(22a):外周面
(22b):内周面
(23):テーパ部
(26):テーパ部
(W):ワーク
(W1):後端部
(A1):基準軸線
(A2):ワークの後端部の軸線