(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059776
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】金属製屋根部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04D 3/30 20060101AFI20220407BHJP
E04D 3/00 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
E04D3/30 A
E04D3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167582
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【テーマコード(参考)】
2E108
【Fターム(参考)】
2E108AA02
2E108AA05
2E108AS02
2E108BB01
2E108BN05
2E108CC02
2E108GG19
(57)【要約】
【課題】段差部の断面形状を変えることなく、段差部成形時の割れを抑制し、かつ、意匠性を向上する金属製屋根部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る金属製屋根部材1は、山と谷が連続する波形状を有し、前記山の稜線と谷の谷線方向が設置状態で屋根の傾斜方向に平行になるように設置されるものであって、前記山の稜線方向に直交する上方から見て、前記山の稜線に直交して山と谷の連続する方向に蛇行し、設置状態で上側が高く下側が低くなる段差部3を有し、段差部3の蛇行のピッチは、前記波形状の波のピッチと同じであることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山と谷が連続する波形状を有し、前記山の稜線と谷の谷線の方向が設置状態で屋根の傾斜方向に平行になるように設置される金属製屋根部材であって、
前記山の稜線方向に直交する上方から見て、前記山の稜線に直交して山と谷の連続する方向に蛇行し、設置状態で傾斜方向上側が高く下側が低くなる段差部を有し、
該段差部の蛇行のピッチは、前記波形状の波のピッチと同じであることを特徴とする金属製屋根部材。
【請求項2】
請求項1に記載の金属製屋根部材を製造する金属製屋根部材の製造方法であって、
金属板に波形状を形成して波板を成形する波板成形工程と、
該波板成形工程によって成形された波板に、前記段差部を形成する段差部形成工程とを備え、
該段差部形成工程は、前記段差部の上段側となる部位に配置されて、上段側上金型及び段差成形面部を有する上段側下金型からなる上段側金型と、前記段差部の下段側となる部位に配置されて、段差成形面部を有する下段側上金型及び下段側下金型からなる下段側金型とを用いて、
前記波板における段差部の上段側となる部位を、前記上段側金型によって波板の波形状に沿ってクランプすると共に、前記波板における段差部の下段側となる部位を、前記下段側金型によって波板の波形状に沿ってクランプした状態で、
前記上段側金型を上に前記下段側金型を下に相対移動させることで、上段側下金型及び下段側上金型に設けられた段差成形面部によって前記段差部を形成することを特徴とする金属製屋根部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製屋根部材に関し、特に、瓦屋根に類似する外観とするための段差部が設けられた金属製屋根部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の屋根にはメッキ鋼板に波形状の加工を施した波板めっき鋼板が安価で軽量な素材として広く用いられている。
従来、波板めっき鋼板は約30mmピッチの波を有し、その用途は主に倉庫や工場、店舗などの建物で外観の意匠デザインを重要視しないものがほとんどであった。しかし最近ではメッキや塗装樹脂の改善により耐候性が格段に向上し、それに伴って100mm以上のピッチの波を有する波板めっき鋼板の用途が拡大しつつある。
【0003】
また、単純な波形状だけでなく、波形状に交差する段差部を付与したことで瓦屋根のような外観を呈する金属製屋根部材21(
図7参照)も開発されている。
図7に示したものは、山と谷が連続する断面波形状の波板に段差部23を設けたものであって、山の稜線と谷の谷線方向が屋根傾斜方向に平行になるように設置されるものである。
図7のように金属板を加工して瓦屋根のような外観にしたものは、「金属製長尺成形瓦」とも呼ばれ、上記耐候性の向上と相俟って、高級感のある意匠デザインが求められる一般住宅の屋根部材としても広く用いられている。
【0004】
上記のような段差部23を有する金属製屋根部材21(金属製長尺成形瓦)の例が、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されている。
特許文献1の第1図には、「金属板1の幅方向に山部2を一定間隔に5本平行に形成し、・・・(中略)・・・これらを金属板1の長手方向で多数段に例えば6段に金属板の断面形状に沿った平面形状の屈曲4により段差を付した」([従来の技術]参照)「金属製波形長尺瓦」が示されている。
また、特許文献2の
図7には、「屋根の斜面方向に単位形状(山)が5個連なった」([0052]参照)「金属成形瓦」が示されている。
【0005】
上述したような段差部を有する金属製屋根部材の成形方法としては、例えば、
図7に示した金属製屋根部材21の場合、まず予備成形(ロールフォーミングなど)によって波板を成形し、波板にさらに加工を施すことで、波形状に交差した段差部23を形成するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-104853号公報
【特許文献2】特開平11-62116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように予備成形された波板に対して波形状に交差するような段差部23を形成する場合、素材や寸法サイズ、加工条件によっては割れを生じることがある。この点について、
図8~
図10を用いて説明する。
【0008】
図8は、
図7に示した金属製屋根部材21の一部を拡大したものである。
図8(a)は斜視図であり、
図8(b)は山の稜線方向に対して直交する上方(
図8(a)の目視方向、
図8(b)の紙面手前)から見て(以下、上面視とも記載)、段差部23が山の稜線に直交して山と谷の連続する方向(山と谷のピッチの方向)に直線状に連なっている。
図9(a)は
図8(b)のc部周辺の部分拡大図であり、上凸張り出し形状となる部分である。また、
図9(b)はd部周辺の部分拡大図であり、下凸張り出し形状となる部分である。
図10は、
図8(a)におけるB-B断面図であり、段差部23の断面形状を示したものである。
図8~
図10において、屋根傾斜方向における段差部23から棟側を上段5、段差部23から軒側を下段7という。
予備成形された波板に段差部23を形成する際には、上段側となる部位を一対の上段側金型でクランプし、さらに、下段側となる部位を一対の下段側金型でクランプした状態で、上段側金型と下段側金型を相対移動することで段差部23を形成する。
【0009】
このような段差部23の形成時には、山の最上部分における上段5と段差部23をつなぐ屈曲部分(
図8のc部)と、谷の最下部分における下段7と段差部23をつなぐ屈曲部分(
図8のd部)で特に板厚減少が生じ、割れが発生しやすいという課題があった。
この点について、
図9を用いて以下に説明する。
【0010】
図9(a)に示すように、c部は山の稜線(一点鎖線参照)上でかつ段差部の上段側であり、その周辺では段差加工の過程で特に、段差部23の傾斜方向を主として、矢印のようにc部から集中して材料が流れるため、c部での板厚減少は大きくなる。このように板厚減少が大きくなる機構はd部(
図9(b)参照)でも同様である。
上記のように、従来の金属製屋根部材21では、段差加工においてc部、d部は張出しの頂点になるため、集中して板厚減少する割れの危険部位である。
【0011】
一方で、波板に段差部23を追加加工する目的は、瓦屋根に類似する高級感のある意匠デザインとすることである。意匠性の観点では段差部23を視覚的に認識しやすくするのが好ましく、そのために、
図10に示した段差部23の高さhを大きく、傾斜角θを大きく、肩Rを小さくして、より段差部が明瞭な外観にすることが求められていた。
しかしながら、高さhを大きく、傾斜角θを大きく、肩Rを小さくすることは、上述した板厚減少がより大きく生じて割れが発生しやすい。
したがって、高級感の観点で好ましい意匠デザインを指向すると、前述した段差加工での板厚減少がより大きくなり、割れを生じる危険性が高くなるという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、段差部が明瞭で意匠性に優れ、かつ、段差部成形時の割れを抑制できる金属製屋根部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明に係る金属製屋根部材は、山と谷が連続する波形状を有し、前記山の稜線と谷の谷線の方向が設置状態で屋根の傾斜方向に平行になるように設置されるものであって、前記山の稜線方向に直交する上方から見て、前記山の稜線に直交して山と谷の連続する方向に蛇行し、設置状態で傾斜方向上側が高く下側が低くなる段差部を有し、該段差部の蛇行のピッチは、前記波形状の波のピッチと同じであることを特徴とするものである。
【0014】
(2)また、本発明に係る金属製屋根部材の製造方法は、上記(1)に記載の金属製屋根部材を製造するものであって、金属板に波形状を形成して波板を成形する波板成形工程と、該波板成形工程によって成形された波板に、前記段差部を形成する段差部形成工程とを備え、該段差部形成工程は、前記段差部の上段側となる部位に配置されて、上段側上金型及び段差成形面部を有する上段側下金型からなる上段側金型と、前記段差部の下段側となる部位に配置されて、段差成形面部を有する下段側上金型及び下段側下金型からなる下段側金型とを用いて、前記波板における段差部の上段側となる部位を、前記上段側金型によって波板の波形状に沿ってクランプすると共に、前記波板における段差部の下段側となる部位を、前記下段側金型によって波板の波形状に沿ってクランプした状態で、前記上段側金型を上に前記下段側金型を下に相対移動させることで、上段側下金型及び下段側上金型に設けられた段差成形面部によって前記段差部を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、段差部の形状を、山の稜線方向に直交する上方から見て(上面視で)、山の稜線に直交して山と谷の連続する方向に、波板の波のピッチと同じピッチで蛇行する形状としたことにより、段差部が明瞭で意匠性に優れ、かつ、段差部成形時の割れを十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態1にかかる金属製屋根部材を説明する説明図であり、
図1(a)は、金属製屋根部材(一部)の斜視図、
図1(b)は
図1(a)に示した金属製屋根部材を上面視した図である。
【
図2】従来の金属製屋根部材を説明する説明図であり、
図2(a)は、金属製屋根部材(一部)の斜視図、
図2(b)は
図2(a)に示した金属製屋根部材を上面視した図である。
【
図3】
図1(b)のa部、b部における材料流れを説明する説明図であり、
図3(a)は上凸張り出し形状の部分(a部)の部分拡大図、
図3(b)は下凸張り出し形状の部分(b部)の部分拡大図である。
【
図4】本発明の実施の形態2にかかる段差部形成工程を説明する説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態2にかかる段差部形成工程に用いる金型の形状を説明する説明図であり、
図5(a)は
図4(a)のC-C断面図、
図5(b)は
図4(a)のD-D断面図である。
【
図6】本発明の実施例1にかかる従来例及び発明例の金属製屋根部材を示すものである。
【
図7】従来の金属製屋根部材の例を示す斜視図である。
【
図8】従来の金属製屋根部材における課題を説明する説明図であり、
図8(a)は、
図7の一部を拡大した斜視図、
図8(b)は
図8(a)に示した金属製屋根部材を上面視した図である。
【
図9】
図8(b)のc部、d部における材料流れを説明する説明図であり、
図9(a)は上凸張り出し形状の部分(c部)の部分拡大図、
図9(b)は下凸張り出し形状の部分(d部)の部分拡大図である。
【
図10】
図8のB-B断面図であり、段差部の屋根傾斜方向の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る金属製屋根部材1は、
図1に示すとおり山と谷が連続する波形状を有し、山の稜線方向が設置状態で屋根の傾斜方向に平行になるように設置されるものであって、山の稜線に直交して山と谷の連続する方向に延在するように形成され、設置状態で傾斜方向上側が高く下側が低くなる段差部3を有するものである。そして、本実施の形態に係る金属製屋根部材1は、段差部3の形状に特徴があるので、これについて
図1、
図2を用いて以下に説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る金属製屋根部材1の一部、
図2は、従来例の金属製屋根部材21の一部を示したものであり、波のピッチ及び山高さHが同じ波板にそれぞれ段差部3、23を設けたものである。
図1(a)は金属製屋根部材1の斜視図、
図1(b)は
図1(a)を上面視した図である。
また、
図2(a)は、金属製屋根部材21の斜視図、
図2(b)は
図2(a)を上面視した図である。
図1(b)、
図2(b)において、波形状の最上部分における山の稜線を一点鎖線、最下部分における谷の谷線を破線で示す。
【0019】
また、
図1の金属製屋根部材1の段差部3(屋根傾斜方向の断面)における高さh、傾斜角θ、肩Rと、
図2の金属製屋根部材21の段差部23における高さh、傾斜角θ、肩Rはそれぞれ同じ(
図10参照)であるが、山の稜線方向に直交する上方から見た(上面視した)ときの形状が異なっている。
すなわち、従来の金属製屋根部材21は、上面視における段差部23の形状が直線状になっているのに対し(
図2(b)参照)、本実施の形態の金属製屋根部材1は、上面視における段差部3の形状が、
図1(b)に示すように、山の稜線に直交して山と谷の連続する方向に一定の蛇行幅Wで蛇行する形状(以下、「蛇行形状」という場合あり)となっている。
また、上記蛇行形状の蛇行のピッチは、波形状の波のピッチと同じになっており、山の最上部分で最も上段側に蛇行し、谷の最下部分で最も下段側に蛇行する形状になっている。
【0020】
段差部3の形状を上記のようにすることで、従来例に比べて段差加工での板厚減少が緩和できる。板厚減少が緩和される理由について、
図3を用いて以下に説明する。
【0021】
図3(a)は
図1(b)のa部周辺の部分拡大図であり、上凸張り出し形状となる部分である。また、
図3(b)はb部周辺の部分拡大図であり、下凸張り出し形状となる部分である。
図3(a)に示すように、段差部3はa部において湾曲しているので、段差加工の過程で矢印のように、a部のみならずa部の両側を含む湾曲部全体から段差部3の傾斜方向に材料が流れる。これにより、材料流れがa部に集中しないので、a部の板厚減少は緩和される。このように板厚減少が緩和される機構はb部(
図3(b)参照)でも同様である。
【0022】
また、上述した本実施の形態の金属製屋根部材1においては、屋根傾斜方向の断面における段差部3の断面形状(高さh、傾斜角θ、肩R(
図10参照))を変える必要がないので、明瞭で高級感のある外観意匠を損なうことがない。
【0023】
さらには、外観上、段差部3、23における上段側の山の最上部分と下段側の谷の最下部分との距離に関し、従来例の金属製屋根部材21(X
0)(
図2(a))よりも本実施の形態の金属製屋根部材1(X)(
図1(a))の方が長い(X
0<X)ので、断面が同じ山高さHの波板であっても、本実施の形態の金属製屋根部材1の方が波の起伏が大きく見える。これによって、段差部3がよりくっきりと強調され、視覚的な高級感がさらに向上する。
【0024】
以上のように、本実施の形態においては、上面視における段差部3の形状を、波板の波のピッチと同じピッチで蛇行する形状としたことで、段差部3の断面形状を変えることなく、段差部3成形時の割れを抑制し、かつ、段差部3がより明瞭に視認できるようになり意匠性も向上する。
【0025】
[実施の形態2]
本実施の形態では、実施の形態1で説明した金属製屋根部材1を製造する製造方法について説明する。
本実施の形態にかかる金属製屋根部材1の製造方法は、波板を成形する波板成形工程と、波板成形工程によって成形された波板に段差部3を形成する段差部形成工程とを備えたものである。各工程について、以下に具体的に説明する。
【0026】
<波板成形工程>
波板成形工程は、平板の金属板に山と谷が連続する波形状を形成して波板を成形する工程である。
本工程は、断面形状が所定の波形状となる波板を成形できればよく、成形方法を限定するものではないが、例えば、平板の金属板を表面がバレル方向に波状である一対のロールの間を通過させながら徐々に目的の断面形状にするロールフォーミング等によって行う。
ロールフォーミングでは、複数段のロールを組み合わせて構成された一連のロールセットに、金属板を順に通過させることで断面形状が波形に加工され、加工前の金属板の板厚がほぼ維持された波板を成形することができる。
【0027】
<段差部形成工程>
段差部形成工程は、波板成形工程によって成形された波板に、波板の山の稜線方向に直交して山と谷の連続する方向に蛇行する段差部3を形成する工程である。まずは、本工程に用いる金型について、
図4、
図5を用いて以下に説明する。
【0028】
図4は、段差部形成工程において、
図1(a)に示した金属製屋根部材1のA-A断面に相当する部分の成形過程を示す図である。
図5(a)は、
図4(a)のC-C断面図、
図5(b)は、
図4(a)のD-D断面図である。
図5において、金型の形状を分かりやすくするため波板の図示を省略している。
段差部形成工程は、
図4に示すように、波板8(紙面手前から奥に波形状)における段差部3の上段側となる部位に配置される上段側金型9と、段差部3の下段側となる部位に配置される下段側金型11とを用いて行われる。
【0029】
上段側金型9は、段差部3の上段側となる部位の上方に配置される上段側上金型13と下方に配置される上段側下金型15からなり、上段側上金型13と上段側下金型15は、
図5(a)に示すように、波板成形工程によって成形された波板8の波形状に対応した形状のクランプ面部13a、15aを有している。
【0030】
下段側金型11は、段差部3の下段側となる部位の上方に配置される下段側上金型17と下方に配置される下段側下金型19からなり、下段側上金型17と下段側下金型19は、上段側上金型13及び上段側下金型15と同様に、波板成形工程によって成形された波板8の波形状に対応した形状のクランプ面部17a、19aを有している。
【0031】
また、下段側上金型17は、
図5(b)に示すように、実施の形態1で説明した段差部3に対応した形状の段差成形面部17bを有している。同様に、上段側下金型15も段差部3に対応した形状の段差成形面部15bを有している。上段側上金型13及び下段側下金型19においても、それぞれ段差成形面部15b、17bに対応する形状の面を有しており、各金型を所定の位置に配置したとき、上段側金型9及び下段側金型11を上面視すると、その隙間は
図5(b)に示すように、蛇行する形状となっている。
上段側金型9及び下段側金型11はこの状態でそれぞれ波板8をクランプするとともに、波板8の板面に対して垂直方向に相対移動できる。
【0032】
次に、上記のような上段側金型9及び下段側金型11を用いて段差部3を形成する方法について
図4を用いて説明する。
まず、波板8における段差部3の上段側となる部位を、上段側金型9のクランプ面部13a、15aによって波板8の波形状に沿ってクランプすると共に、波板8における段差部3の下段側となる部位を、下段側金型11のクランプ面部17a、19aによって波板8の波形状に沿ってクランプする(
図4(a)参照)。
【0033】
上記のように上段側金型9及び下段側金型11で波板8をクランプした状態で、上段側金型9を上方向に下段側金型11を下方向に相対移動させる(
図4(b)参照)。
【0034】
さらに上段側金型9と下段側金型11を移動させて、段差部3の高さに相当する距離を相対移動させることで、上段側下金型15の段差成形面部15bと下段側上金型17の段差成形面部17bの間の隙間に段差部3が形成される(
図4(c)参照)。
【0035】
以上のように、本実施の形態における金属製屋根部材1を製造する製造方法においては、実施の形態1で説明した上面視の形状が波板の波のピッチと同じピッチで山の稜線方向に直交して山と谷の連続する方向に蛇行する形状である段差部3を有する金属製屋根部材1を製造することができる。
【実施例0036】
本発明の金属製屋根部材の効果を確認する実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
本実施例では、段差部3、23を段差加工する前の波板の素材として、樹脂塗装したZn合金メッキ鋼板で、板厚が0.3mmt、波のピッチ=135mm、山高さH=30mmの同一の波形鋼板を用いた。
【0037】
従来例1として、上面視で(山の稜線方向に対して直交する上方から見て)直線の段差部23を波板に成形した。
また、発明例1~3として、上面視で蛇行形状の段差部3を、蛇行幅を変更(3mm、6mm、9mm)してそれぞれ波板に成形した。いずれも、段差部3、23の断面形状(
図10参照)は高さh=15mm、傾斜角θ=70度、肩R=5mmRとした。
【0038】
図6に、上記従来例1及び発明例1~3の形状を示す。
図6(a-1)、
図6(a-2)は従来例1の上面図と斜視図、
図6(b-1)、
図6(b-2)は発明例1の上面図と斜視図、
図6(c-1)、
図6(c-2)は発明例2の上面図と斜視図、
図6(d-1)、
図6(d-2)は発明例3の上面図と斜視図である。
【0039】
また、表1に、従来例1及び発明例1~3において段差部3、23を段差加工した後の板厚減少率の測定結果を示す。
板厚減少率は、従来例では
図2のc部とd部のそれぞれ10ヶ所の板厚を測定して平均し、発明例では
図1のa部とb部のそれぞれ10ヶ所の板厚を測定して平均し、波板素材の板厚との比から求めた。
【0040】
【0041】
表1に示すように、発明例1~3はいずれも従来例1に比べて板厚減少が抑制されている。また、従来例1>発明例1>発明例2>発明例3の順で板厚減少率が小さくなっており、段差部3の蛇行幅が大きくなるほど、板厚減少率が小さくなった。
【0042】
また、
図6に示した各斜視図を比較すると、外観上の段差部3、23における上段側の山の最上部分と下段側の谷の最下部分との距離が、従来例1(X
0)<発明例1(X
1)<発明例2(X
2)<発明例3(X
3)の順で大きくなる。
これによって、同じ山高さHの波板を用いていても、比較例1に比べて発明例1~3の方が金属製屋根部材1の波の起伏が大きく見え、さらに、蛇行幅が大きくなるにつれてその効果も大きくなることを示している。金属製屋根部材1の波の起伏が大きく見えると、金属製屋根部材1を建築物の屋根に施工したときに段差部3を明瞭に認識できるので、意匠性(高級感)が向上して良好となる。
【0043】
すなわち、本発明に従うことで板厚減少が抑制され、より安定した段差加工を可能にするだけでなく、波板の起伏(波板加工の深さ)がより大きく見える効果が得られ、高級感が増す。
本実施例では、段差部3、23を段差加工する前の波板の素材として、樹脂塗装したフェライト系ステンレス鋼板で、板厚が1.0mmt、波のピッチ=210mm、山高さH=37mmの同一の波形鋼板を用いた。
表2に示すように、発明例4~6はいずれも従来例2に比べて板厚減少が抑制されている。また、従来例2>発明例4>発明例5>発明例6の順で板厚減少率が小さくなっており、段差部3の蛇行幅が大きくなるほど、板厚減少率が小さくなった。
この結果より、実施例2においても、実施例1と同様の効果が得られることが示された。