(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059779
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】内燃機関の可変動弁機構
(51)【国際特許分類】
F01L 13/00 20060101AFI20220407BHJP
F01L 1/04 20060101ALI20220407BHJP
F16H 25/12 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
F01L13/00 301G
F01L1/04 D
F16H25/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167586
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博之
【テーマコード(参考)】
3G016
3G018
3J062
【Fターム(参考)】
3G016AA19
3G016BA34
3G016BB22
3G016CA16
3G016CA25
3G016CA28
3G016CA29
3G016CA31
3G016FA36
3G016GA01
3G018AB04
3G018BA03
3G018BA09
3G018BA16
3G018CA09
3G018CA12
3G018CA19
3G018CB05
3G018DA03
3G018DA10
3G018DA14
3G018DA19
3G018DA29
3G018DA83
3G018FA03
3G018FA06
3G018FA07
3G018GA02
3G018GA14
3J062AB32
3J062AC07
3J062BA11
3J062BA12
3J062CC14
(57)【要約】
【課題】可変動弁のために移動するスラスト移動部のスラスト規制機構について、省スペース化、規制荷重の確保及び部品点数の削減を図る。
【解決手段】可変動弁機構1は、一方の係合アーム23を一方のカムレール5に係合させるか又は他方の係合アーム24を他方のカムレール7に係合させるかを選択することにより、選択したカムレール5,7のレールプロフィールに沿ってロッカアーム10がロッカシャフト長方向に所定区間移動して、ロッカアーム10にカム3,4が当接するか又は当接しないかを切り替えるように構成されている。ロッカアーム10の揺動を正常化させる外部荷重機構40が設けられ、スラスト移動部10,20に規制荷重をかけて、レールプロフィール以外によるスラスト移動部の移動を規制するスラスト規制機構30が設けられ、規制荷重として外部荷重が利用されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフト(2)に、所定のカムプロフィールを有するカム(3)と2つのそれぞれ所定のレールプロフィールを有するカムレール(5,7)とが設けられ、
カムシャフト(2)と平行に延びるロッカシャフト(9)に、カム(3)が当接しうるロッカアーム(10)と、2つのカムレール(5,7)に択一的に係合する2つの係合アーム(23,24)を含むリンクアーム(20)とが、別々に揺動可能に、且つ、一緒にスラスト移動部(10,20)としてロッカシャフト長方向に移動可能に支持され、
2つの係合アーム(23,24)を回動させて、一方の係合アーム(23)を一方のカムレール(5)に係合させるか又は他方の係合アーム(24)を他方のカムレール(7)に係合させるかを選択することにより、選択したカムレール(5,7)のレールプロフィールに沿ってロッカアーム(10)がロッカシャフト長方向に所定区間移動して、ロッカアーム(10)に前記カム(3)が当接するか又は当接しないかを切り替えるように構成され、
ロッカアーム(10)にロッカアーム(10)の外部から外部荷重をかけて、ロッカアーム(10)の揺動を正常化させる外部荷重機構(40)が設けられ、
スラスト移動部(S)に規制荷重をかけて、レールプロフィール以外によるスラスト移動部(10,20)の移動を規制するスラスト規制機構(30)が設けられ、規制荷重として外部荷重が利用されていることを特徴とする内燃機関の可変動弁機構。
【請求項2】
スラスト規制機構(30)は、スラスト移動部(10,20)に設けられた被係合部(35,36,37,38)と、被係合部(35,36,37,38)に係合しうるラッチ(31)と、被係合部(35,36,37,38)にラッチ(31)を係合させて荷重をかける外部荷重機構(40)とで構成された請求項1記載の内燃機関の可変動弁機構。
【請求項3】
スラスト規制機構(30)は、スラスト移動部(10,20)に設けられたラッチと、ラッチに係合しうる被係合部と、ラッチに被係合部を係合させて荷重をかける外部荷重機構(40)とで構成された請求項1記載の内燃機関の可変動弁機構。
【請求項4】
外部荷重機構(40)は、スプリング、電磁ソレノイド又は油圧機構である請求項1、2又は3記載の内燃機関の可変動弁機構。
【請求項5】
外部荷重機構(40)は、コイルスプリングであり、ラッチ(31)は、コイルスプリングの端に取り付けたリテーナが有する突起状のラッチ、コイルスプリングの端に嵌め置いたボール状のラッチ、又は、コイルスプリングの端に取り付けたリテーナに嵌め置いたボール状のラッチである請求項2記載の内燃機関の可変動弁機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバルブを駆動するとともに、その駆動状態を内燃機関の運転状況に応じて変更する可変動弁機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に、
図9に示す内燃機関の可変動弁機構51を提案した(特許文献1)。この可変動弁機構51は、カムシャフト52に、カム53と2つの螺旋溝(カムレール)54,55とが設けられ、カムシャフト52と平行に延びるロッカシャフト56に、ロッカアーム本体57が揺動可能に支持され、ロッカアーム本体57に、ロッカシャフト56と平行に延びるローラ軸58が設けられ、ローラ軸58に、カム53が当接しうるローラ59がロッカシャフト長方向に移動可能に支持され、2つのカムレール54,55に択一的に係入する2つの係入アーム61,62とローラ59の両側面を抱持するローラガイド63(摺接部)とを含むリンクアーム60が、ロッカシャフト長方向に移動可能に設けられている。そして、リンクアーム60全体を回動装置(図示略)により回動させて、一方の係入アーム61を一方のカムレール54に係入させるか又は他方の係入アーム(図示略)を他方のカムレール55に係入させるかを選択することにより、選択したカムレール54,55に従ってリンクアーム60及びローラ59をロッカシャフト長方向に移動させて、該ローラ59に前記カム53が当接するか又は当接しないかを切り替え、ロッカアーム本体57の揺動を変化させる機構である。
【0003】
さらに、上記切替途中に2つの係入アームがいずれのカムレールからも外れるタイミングがあり、そのタイミングで内燃機関の振動等によりリンクアームが無用に移動すると、確実に切替を行うことができなくなることに鑑み、リンクアームに付勢荷重(規制荷重)をかけて係合し、カムレール以外によるリンクアームの移動を規制する係合機構(スラスト規制機構)を設けることも提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-224496号公報
【特許文献2】特開2019-78168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の可変動弁機構51においては、(ロッカアーム本体57とは別部品である)ローラ59の側面を抱持するローラガイド63を、リンクアーム60と共に軸長方向に移動するように設ける必要があったため、構造が複雑であった。また、ロッカアーム本体57はロッカシャフト長方向に移動させず、ロッカアーム本体57に架設したローラ軸58上でローラ59をローラガイド63により移動させるために、ローラ軸58の長さ(ロッカアーム本体57から出た部分の長さ)がローラ幅の2倍以上あるため、ローラに荷重が入力された際にローラ軸がたわみ、機構剛性が低くなる可能性があった。
【0006】
そこで、本出願人は、ロッカアーム本体57に対してローラ59だけをロッカシャフト長方向に移動させるのではなく、ロッカアームをローラと共にロッカシャフト長方向に移動させることにより、ロッカアームとは別部品であるローラガイドを不要にする案を検討している(本出願時において未公開)。
【0007】
また、同検討案に、特許文献2のようなスラスト規制機構を設けることも未公開で検討している。この未公開案は、比較例として後述するように、板ばねを使用するものである。しかし、一般に可変動弁機構の周囲はスペースが限られているため、新たに板ばね用のスペースを確保するのは困難である。また、限られたスペース内で、板ばねの弾性力が不足し、要求規制荷重を満たせない場合がある。また、板ばねの分、部品点数が増加する。
【0008】
そこで、本発明の課題は、可変動弁のために移動するスラスト移動部のスラスト規制機構について、省スペース化、規制荷重の確保及び部品点数の削減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
カムシャフト(2)に、所定のカムプロフィールを有するカム(3)と2つのそれぞれ所定のレールプロフィールを有するカムレール(5,7)とが設けられ、
カムシャフト(2)と平行に延びるロッカシャフト(9)に、カム(3)が当接しうるロッカアーム(10)と、2つのカムレール(5,7)に択一的に係合する2つの係合アーム(23,24)を含むリンクアーム(20)とが、別々に揺動可能に、且つ、一緒にスラスト移動部(10,20)としてロッカシャフト長方向に移動可能に支持され、
2つの係合アーム(23,24)を回動させて、一方の係合アーム(23)を一方のカムレール(5)に係合させるか又は他方の係合アーム(24)を他方のカムレール(7)に係合させるかを選択することにより、選択したカムレール(5,7)のレールプロフィールに沿ってロッカアーム(10)がロッカシャフト長方向に所定区間移動して、ロッカアーム(10)に前記カム(3)が当接するか又は当接しないかを切り替えるように構成され、
ロッカアーム(10)にロッカアーム(10)の外部から外部荷重をかけて、ロッカアーム(10)の揺動を正常化させる外部荷重機構(40)が設けられ、
スラスト移動部(S)に規制荷重をかけて、レールプロフィール以外によるスラスト移動部(10,20)の移動を規制するスラスト規制機構(30)が設けられ、規制荷重として外部荷重が利用されていることを特徴とする内燃機関の可変動弁機構。
【0010】
ここで、ロッカアームの揺動の正常化とは、ロッカアームが異常挙動(例えば、高回転域でのジャンプやバウンス、ロストモーションなど)を伴った揺動をしないように、該異常挙動を抑制してロッカアームが正常に揺動するようにすることをいう。
【0011】
[作用]
規制荷重として外部荷重が利用されていることにより、スラスト規制機構で規制荷重を発生させるための新たな部品及び該部品用の新たなスペースが不要になる。また、外部荷重機構はそのためのスペースが確保されていて、外部荷重の設定可能範囲が広いので、これを規制荷重として利用することにより要求規制荷重を容易に満たすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可変動弁のために移動するスラスト移動部のスラスト規制機構について、省スペース化と部品点数削減が可能になり、規制荷重を容易に満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は実施例1の可変動弁機構を前側(正面側)からみた斜視図である。
【
図2】
図2は同機構を後側(背面側)からみた斜視図である。
【
図3】
図3(a)は同機構のロッカアームとリンクアーム(スラスト移動部)の斜視図、(b)は同ロッカアームの荷重受け部及び被係合部の斜視図、(c)は同ロッカアームをローラの位置で切断した断面図である。
【
図4】
図4(a)は
図5におけるIVa-IVa断面図、(b)は
図5におけるIVb-IVb断面図である。
【
図5】
図5(a)はスラスト移動部が移動して第一カムがローラに当接するときの正面図、(b)はスラスト移動部が移動して第二カムがローラに当接するときの正面図である。
【
図6】
図6は実施例に使用するラッチの例を示し、(a)は突起状のラッチの一部破断正面図、(b)はボール状のラッチの一部破断正面図、(c)は別のボール状のラッチの一部破断正面図である。
【
図7】
図7は実施例2の可変動弁機構を示し、(a)はスラスト移動部が移動して第一カムがローラに当接するときの正面図、(b)はスラスト移動部が移動して第二カムがローラに当接するときの正面図である。
【
図8】
図8は比較例の可変動弁機構を示し、(a)は前側からみた斜視図、(b)は後側からみた斜視図である。
【
図9】
図9は従来例の可変動弁機構を示し、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.ロッカアームとリンクアーム
ロッカアームは、カムが当接しうるローラを回転可能に備えるものが好ましい。ローラの数は、1つでも複数でもよいが、左右バランス上は左右2つが好ましい。
ロッカアームは、複数のバルブを駆動するものでもよいし、1つのバルブを駆動するものでもよい。
ロッカアームは、直接バルブを駆動するものでもよいし、間接的にバルブを駆動するものでもよい。次に説明する実施例は後者の一態様として、ロッカアームとしての第一ロッカアームが第二ロッカアームを押圧し、第二ロッカアームを介して間接的にバルブを駆動するものである。
リンクアームは、特に限定されないが、上記ロッカアームが備える左右2つのローラの間に配設されたものが好ましい。
【0015】
2.カムレールと係合アーム
カムレールと係合アームとの係合としては、特に限定されないが、カムレールとしての溝に係合アームが係入する態様、カムレールとしての突条に係合アームが係合する態様等を例示できる。
【0016】
3.ロッカアームに前記カムが当接しないときの態様
ロッカアームに前記カムが当接しないときの態様としては、ロッカアームに別のカムも当接しない態様、ロッカアームに別のゼロリフトの円カムが当接する態様、ロッカアームに別のノーズプロフィールのカムが当接する態様を例示できる。次に説明する実施例は、第一ロッカアームに第一カムが当接しないときは、第一ロッカアームに別のノーズプロフィールの第二カムが当接し、第一ロッカアームに第二カムが当接しないときは、第一ロッカアームに別のノーズプロフィールの第一カムが当接する態様である。
【0017】
4.外部荷重機構
外部荷重機構としては、特に限定されないが、スプリング、電磁ソレノイド、油圧機構等を例示できる。スプリングとしては、特に限定されないが、コイルスプリング、ねじりコイルばね、板ばね等を例示できる。
外部荷重機構を設ける位置も、特に限定されない。
【0018】
5.スラスト規制機構
スラスト規制機構としては、特に限定されないが、次の(1)又は(2)の態様を例示できる。
(1)スラスト規制機構が、スラスト移動部に設けられた被係合部と、被係合部に係合しうるラッチと、被係合部にラッチを係合させて荷重をかける外部荷重機構とで構成された態様。その荷重は規制荷重であり外部荷重でもある。
(2)スラスト規制機構が、スラスト移動部に設けられたラッチと、ラッチに係合しうる被係合部と、ラッチに被係合部を係合させて荷重をかける外部荷重機構とで構成された態様。その荷重は規制荷重であり外部荷重でもある。
【0019】
ラッチの形状及び構造は特に限定されない。例えば、外部荷重機構がコイルスプリングである場合、ラッチとしては、コイルスプリングの端に取り付けたリテーナが有する突起状のラッチ、コイルスプリングの端に嵌め置いたボール状のラッチ、コイルスプリングの端に取り付けたリテーナに嵌め置いたボール状のラッチ等を例示できる。
【実施例0020】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の構造、形状、数等は例示であり、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0021】
<実施例1>
図1~
図6に示す実施例1の可変動弁機構1は、
カムシャフト2に、所定のカムプロフィールを有するカム3と2つのそれぞれ所定のレールプロフィールを有するカムレール5,7とが設けられ、
カムシャフト2と平行に延びるロッカシャフト9に、カム3が当接しうるロッカアーム10と、2つのカムレール5,7に択一的に係合する2つの係合アーム23,24を含むリンクアーム20とが、別々に揺動可能に、且つ、一緒にスラスト移動部10,20としてロッカシャフト長方向に移動可能に支持され、
2つの係合アーム23,24を回動させて、一方の係合アーム23を一方のカムレール5に係合させるか又は他方の係合アーム24を他方のカムレール7に係合させるかを選択することにより、選択したカムレール5,7のレールプロフィールに沿ってロッカアーム10がロッカシャフト長方向に所定区間移動して、ロッカアーム10に前記カム3が当接するか又は当接しないかを切り替えるように構成され、
ロッカアーム10にロッカアーム10の外部から外部荷重をかけて、ロッカアーム10の揺動を正常化させる外部荷重機構40が設けられ、
スラスト移動部10,20に規制荷重をかけて、レールプロフィール以外によるスラスト移動部10,20の移動を規制するスラスト規制機構30が設けられ、規制荷重として外部荷重が利用されていることを特徴とする。
【0022】
カムシャフト長方向と、ロッカシャフト長方向と、ローラ軸長方向は、いずれも
図1での左右方向であって同一である。そこで、以下では、前側から見た
図1で左に向かう方向を軸長方向d1といい、右に向かう方向を軸長方向d2という。また、左、右というときは、
図1での左、右をいう。後側から見た
図2は、
図1とは左右が反対に表れる。
【0023】
[カム等]
内燃機関のシリンダヘッド又はカムキャリア(図示略)に、カムシャフト2が挿通しているとともに回転可能に支持されている。カムシャフト2には、軸長方向d1側から軸長方向d2側へ順に、駆動カムとしての第一カム3及び第二カム4と、カムレールとしての第二カムレール7、円環カムレール6及び第一カムレール5と、再び駆動カムとしての第一カム3及び第二カム4とが、並んで設けられている。
【0024】
2つの第一カム3は、断面形状が円形のベース円と、ベース円から突出した相対的に低リフトかつ広作用角のノーズとからなり、主に低速回転域で使用されるものである。
2つの第二カム4は、断面形状が円形のベース円と、ベース円から突出した相対的に高リフトかつ狭作用角のノーズとからなり、主に高速回転域で使用されるものである。
【0025】
円環カムレール6は、リンクアーム20を軸長方向d1,d2に移動しないように係止するための溝であって、軸長方向にずれない円環状の溝である。
【0026】
第一カムレール5は、リンクアーム20を軸長方向d1に移動させるための螺旋溝であって、円環カムレール6よりも軸長方向d2側に設けられている。第一カムレール5は、その基端から所定の位置までは、カムシャフト2の回転方向の反対方向に軸長方向d1,d2にずれることなく延びており、該所定の位置からは、カムシャフト2の回転方向の反対方向に進むに従い軸長方向d1側に進む螺旋状に延びて円環カムレール6に合流している。この螺旋状に延びる部分は、第一及び第二カム3,4のベース円作用時に、第一係合アーム23の先端部が係合する位相に設けられている。
【0027】
第二カムレール7は、リンクアーム20を軸長方向d2に移動させるための螺旋溝であって、円環カムレール6よりも軸長方向d1側に設けられている。第二カムレール7は、その基端から所定の位置までは、カムシャフト2の回転方向の反対方向に軸長方向d1,d2にずれることなく延びており、該所定の位置からは、カムシャフト2の回転方向の反対方向に進むに従い軸長方向d2側に進む螺旋状に延びて円環カムレール6に合流している。この螺旋状に延びる部分は、第一及び第二カム3,4のベース円作用時に、第二係合アーム24の先端部が係合する位相に設けられている。
【0028】
[第一ロッカアーム]
シリンダヘッドのカムサポートには、カムシャフト2と平行に延びるロッカシャフト9が挿通している。互いに離間した2つの壁27,28の間において、ロッカシャフト9には第一ロッカアーム10が、ロッカシャフト周方向に揺動可能に、且つ、軸長方向d1,d2に移動可能に支持されている。
【0029】
第一ロッカアーム10は、
図3等に示すように、左ロッカアーム11と右ロッカアーム12の下部間が連結部13により隔てられて連結された2連型ロッカアームである。左右の各ロッカアーム11,12は、ロッカシャフト9に外嵌されて上記のとおり支持された基部14と、基部14から前へ延び軸長方向に離間した一対の側壁部17,17と、一対の側壁部17,17の下部間を連結する底部18とを含む。
【0030】
さらに、左右の各ロッカアーム11,12は、一対の側壁部17,17の間に架け渡されたローラ軸15と、ローラ軸15にニードルローラを介してローラ軸周方向に回転可能に軸着されたローラ16とを含んでいる。ローラ16は、一対の側壁部17,17の間に、ローラ回転を許容する最小限のクリアランスをおいて挟まれている。よって、ローラ16は、各ロッカアーム11,12に対しては軸長方向に実質的に相対移動しないように位置決めされており、ロッカアーム10と共に軸長方向に移動する。
【0031】
[リンクアーム]
リンクアーム20は、
図3等に示すように、筒状基部22と、筒状基部22から正面視で軸長方向に互いに離間し、側面視でV字をなするように、前方へ突出した第一係合アーム23及び上方へ突出した第二係合アーム24とを含み構成されている。
【0032】
筒状基部22は、左右のロッカアーム11,12の基部14,14の間に、リンクアーム20の回動を許容するクリアランスをおいて挟まれた状態で、ロッカシャフト9にロッカシャフト周方向に回動可能に外嵌されている。よって、リンクアーム20は、第一ロッカアーム10に対しては軸長方向に実質的に移動不能であり、第一ロッカアーム10と共に軸長方向に移動可能である。
【0033】
第一係合アーム23は、その先端部が第一カムレール5ないし円環カムレール6に係合(本例では係入)可能に形成されている。
第二係合アーム24は、その先端部が第二カムレール7ないし円環カムレール6に係合(本例では係入)可能に形成されている。
【0034】
リンクアーム20は、図示しない回動装置により回動する。回動装置としては、筒状基部22の背面を押圧する電磁ソレノイドを用いた装置や、筒状基部22の内面を押圧する油圧駆動ピン(ロッカシャフト9内の油圧により駆動される)を用いた装置、電動モータを用いた装置等を例示できる。
【0035】
[スラスト移動部]
第一ロッカアーム10とリンクアーム20が、一緒にスラスト移動するスラスト移動部である。
【0036】
[外部荷重機構]
外部荷重機構40は、本実施例では、ロッカアームの高回転域でのジャンプやバウンスを抑制して、ロッカアームが正常に揺動するようにするものであって、コイルスプリングからなる。コイルスプリングは、圧縮状態で配され、下端がシリンダヘッド又はカムキャリア(図示略)に支持され、上端が第一ロッカアーム10の揺動端側である前側の部位(本実施例では連結部13から前へ延ばした荷重受け部19)を弾発力で押圧して上向きの荷重をかける。この外部荷重機構40は、次のスラスト規制機構の荷重発生手段を兼ねている。
【0037】
[スラスト規制機構]
スラスト規制機構30は、外部荷重機構40のコイルスプリングと、該コイルスプリングの上端に設けられたラッチ31と、第一ロッカアーム10の一部(本実施例では荷重受け部19)に形成された、ラッチ31が択一的に係合(本実施例では係入)しうるV溝状の左右に並ぶ第一被係合部35及び第二被係合部36とから構成されている。スラスト移動部10,20が第一カムレール5に沿って軸長方向d1に移動し、ローラ16に第一カム3が当接する位置まで移動した時又はその直後に、第一被係合部35にラッチ31が係合するように配置されている。また、スラスト移動部10,20が第二カムレール7に沿って軸長方向d2に移動し、ローラ16に第二カム4が当接する位置まで移動した時又はその直後に、第二被係合部36にラッチ31が係入するように配置されている。
【0038】
ラッチ31は、例えば
図6(a)~(c)に示すいずれでもよい。
(a)は、コイルスプリングの端に取り付けたリテーナ32が有する突起状のラッチ31である。
(b)は、コイルスプリングの端に嵌め置いたボール状のラッチ31である。
(c)は、コイルスプリングの端に取り付けたリテーナ33に嵌め置いたボール状のラッチ31である。
【0039】
[第二ロッカアーム]
第二ロッカアーム45はローラロッカアームであって、長さ方向基端部がピボット46で支持され、長さ方向中間部にローラ47が回転可能に軸着され、長さ方向先端部にバルブVを押圧するパッド部が形成されている。第二ロッカアーム45は第一ロッカアーム10の下方に2つ並んで設けられ、それぞれのローラ47が、揺動する第一ロッカアーム10の下面により押圧される。この押圧により第二ロッカアーム45は揺動し、バルブVを押圧する。
【0040】
以上のように構成された実施例1の可変動弁動作を説明する。
[1]内燃機関の低回転時
図4(b)に2点鎖線で示すように、リンクアーム20を軸周方向他方r1に回動させると、第一係合アーム23の先端部が第一カムレール5に係合し、第二係合アーム24の先端部が円環カムレール6から退出する。前記のとおり、第一カムレール5の螺旋状に延びる部分はベース円作用時に第一係合アーム23が係合する位相にあるので、
図5(a)に示すように、リンクアーム20はカムシャフト2の回転に伴いベース円作用時に第一カムレール5に沿って軸長方向d1に移動し、第一ロッカアーム10を押して同様に移動させる。その結果、2つのローラ16は2つの第一カム3が当接する(且つ第二カム4が当接しない)位置に移動し、第一係合アーム23が円環カムレール6に入ることでリンクアーム20の左右方向位置が保持される。
【0041】
上記のとおり、この移動完了と同時又は直後に、スラスト規制機構30のラッチ31が第一被係合部35に係合して、スラスト移動部10,20に規制荷重をかけ、レールプロフィール以外の原因(例えば内燃機関の振動等)によるスラスト移動部10,20の移動を規制する。
【0042】
そして、第一カム3によりローラ16が押圧されて第一ロッカアーム10が揺動し、さらに第二ロッカアーム45が揺動し、バルブVが2本同時に、低リフトかつ広作用角でバルブリフトされる。この動弁モードは、主に低回転域で使用される。
【0043】
[2]内燃機関の高回転時
図4(b)に実線で示すように、リンクアーム20を軸周方向一方r2に回動させる。このリンクアーム20の回動により、第二係合アーム24の先端部が第二カムレール7に係合し、第一係合アーム23の先端部が円環カムレール6から退出する。前記のとおり、第二カムレール7の螺旋状に延びる部分はベース円作用時に第二係合アーム24が係合する位相にあるので、
図5(b)に示すように、リンクアーム20はカムシャフト2の回転に伴いベース円作用時に第二カムレール7に沿って軸長方向d2に移動し、第一ロッカアーム10を押して同様に移動させる。その結果、2つのローラ16は2つの第二カム4が当接する(且つ第一カム3が当接しない)位置に移動し、第二係合アーム24が円環カムレール6に入ることでリンクアーム20の左右方向位置が保持される。
【0044】
上記のとおり、この移動完了と同時又は直後に、スラスト規制機構30のラッチ31が第二被係合部36に係合して、スラスト移動部10,20に規制荷重をかけ、レールプロフィール以外の原因(例えば内燃機関の振動等)によるスラスト移動部10,20の移動を規制する。
【0045】
そして、第二カム4によりローラ16が押圧されて第一ロッカアーム10が揺動し、さらに第二ロッカアーム45が揺動し、バルブVが2本同時に、高リフトかつ狭作用角でバルブリフトされる。規制荷重としても利用される外部荷重機構により、ロッカアーム10,45は、高回転域でのジャンプやバウンスが抑制され、正常に揺動する。この動弁モードは、主に高回転域で使用される。
【0046】
本実施例によれば、規制荷重として外部荷重が利用されていることにより、スラスト規制機構30で規制荷重を発生させるための新たな部品及び該部品用の新たなスペースが不要になる。また、外部荷重機構40はそのためのスペースが確保されていて、外部荷重の設定可能範囲が広いので、これを規制荷重として利用することにより要求規制荷重を容易に満たすことができる。すなわち、スラスト規制機構30について省スペース化と部品点数削減が可能になり、規制荷重を容易に満たすことができる。
【0047】
<実施例2>
次に、
図7に示す実施例2は、内燃機関のシリンダヘッド又はカムキャリアに左の壁27と右側の壁28を設けて、スラスト移動部10,20の一方への移動を規制することで、スラスト規制機構の被係合部を(実施例1でのV溝状に対して)片斜面状の第一被係合部37及び第二被係合部38とした点において、実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0048】
すなわち、
図7(a)に示すように、スラスト移動部10,20が軸長方向d1に移動したときに、第一ロッカアーム10が左の壁27に当たって該移動が規制され、スラスト規制機構30のラッチ31が片斜面状の第一被係合部37に係合して逆方向への移動を規制するとともに、スラスト移動部10,20に規制荷重をかける。
また、
図7(b)に示すように、スラスト移動部10,20が軸長方向d2に移動したときに、第一ロッカアーム10が右の壁28に当たって該移動が規制され、スラスト規制機構30のラッチ31が片斜面状の第二被係合部38に係合して逆方向への移動を規制するとともに、スラスト移動部10,20に規制荷重をかける。
【0049】
本実施例によっても、実施例1と同様の効果が得られる。
【0050】
<比較例>
次に、
図8に示す比較例の可変動弁機構は、[発明が解決しようとする課題]で説明したとおり、本出願人が本発明前に検討した未公開案である。この比較例のスラスト規制機構70は、リンクアーム20の筒状基部22に形成された逃がし穴を挿通する支持脚を介して、ロッカシャフト9にボルト34で取り付けられた板バネ71と、板バネ71の左端部に設けられた凸状の左ラッチ72と、板バネ71の右端部に設けられた凸状の右ラッチ73と、左ラッチ72が係入しうるように左ロッカアーム11の基部14に形成された凹状の左キャッチ74と、右ラッチ73が係入しうるように右ロッカアーム12の基部14に形成された凹状の右キャッ75とから構成されている。第一ロッカアーム10の荷重受け部19には、前記実施例のような被係合部は形成されておらず、外部荷重機構40のコイルスプリングの上端が当接している。その他は、実施例1と共通である。
【0051】
しかし、一般に可変動弁機構の周囲はスペースが限られているため、比較例のように新たに板ばね用のスペースを確保するのは困難である。また、限られたスペース内で、板ばねの弾性力が不足し、要求規制荷重を満たせない場合がある。また、板ばねの分、部品点数が増加する。
【0052】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
(1)スラスト規制機構30において、第一ロッカアーム10の一部(例えば荷重受け部19)の方にラッチを設け、ラッチに係合しうる被係合部を外部荷重機構の方に設けること。