(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059851
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】締め付け装置用のジョー、締め付け装置および締め付け方法
(51)【国際特許分類】
E21B 17/043 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
E21B17/043
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167713
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】岩井 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 誠二
(72)【発明者】
【氏名】濱岡 均
【テーマコード(参考)】
2D129
【Fターム(参考)】
2D129AB01
2D129BA03
2D129EC06
(57)【要約】
【課題】油井管等の鋼管やカップリング外面の疵を抑制でき、スリップを生じさせずにねじの締め付けを安定的に行え、しかも締め付けの繰り返しによる変形が生じ難い、締め付け装置用のジョーを提供する。
【解決手段】鋼管の管端ねじとカップリングとの締付けを行なう締付け装置において鋼管またはカップリングを保持するチャック12に装着され、締付けの際に鋼管またはカップリングを把持するジョー13は、少なくとも鋼管またはカップリングに密着する面を含む部分が、引張強さ35~65MPa、伸び300~550%である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の管端ねじとカップリングとの締付けを行なう締付け装置において前記鋼管または前記カップリングを保持するチャックに装着され、前記締付けの際に前記鋼管または前記カップリングを把持するジョーであって、
少なくとも前記鋼管または前記カップリングに密着する面を含む部分が、引張強さ35~65MPa、伸び300~550%であることを特徴とする締め付け装置用のジョー。
【請求項2】
前記鋼管または前記カップリングに密着する面に溝を有さないことを特徴とする請求項1に記載の締め付け装置用のジョー。
【請求項3】
耐熱温度が80℃以上の材料で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の締め付け装置用のジョー。
【請求項4】
前記鋼管または前記カップリングとの接触面積が17.160mm2以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の締め付け装置用のジョー。
【請求項5】
厚みが10~15mmであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の締め付け装置用のジョー。
【請求項6】
前記鋼管または前記カップリングの外径が7インチ以上の場合に、前記鋼管または前記カップリングに密着する面が平面、または前記鋼管または前記カップリングの長手方向中央部の位置の曲率半径以上の曲率半径を有する曲面であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の締め付け装置用のジョー。
【請求項7】
前記鋼管または前記カップリングの外径が2-3/8インチ~6-5/8インチの場合に、前記鋼管または前記カップリングの長手方向中央部の位置の曲率半径Rpに対して、前記鋼管または前記カップリングに密着する面の曲率半径Rjが、
Rp≦Rj≦(Rp+10mm)
で表される条件を満たすことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の締め付け装置用のジョー。
【請求項8】
管端ねじを有する鋼管およびカップリングの一方を保持する第1のチャックと、
前記鋼管および前記カップリングの他方を保持する第2のチャックと、
前記第2のチャックを回転させる回転機構とを有し、
前記カップリングと前記管端ねじとを適合させ、前記第2のチャックを回転させることにより、前記鋼管の前記管端ねじと前記カップリングとを螺合させて締付けを行なう締め付け装置であって、
前記第1のチャックまたは前記第2のチャックは、
前記鋼管または前記カップリングを把持する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の前記ジョーと、
前記ジョーを固定する固定治具と、
前記固定治具を介して前記ジョーを前記鋼管または前記カップリングに向けて移動させるシリンダ機構と、
を有することを特徴とする締め付け装置。
【請求項9】
前記第1のチャックは前記鋼管を保持し、前記第2のチャックは前記カップリングを保持することを特徴とする請求項8に記載の締め付け装置。
【請求項10】
前記ジョーは、前記鋼管または前記カップリングの外周に対応するように周方向に複数設けられ、
前記固定治具は、前記ジョーに対応して周方向に複数設けられ、
前記シリンダ機構は、前記複数の固定治具に対応して周方向に複数設けられることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の締め付け装置。
【請求項11】
前記固定治具が前記鋼管または前記カップリングの外径に適合するように、前記シリンダ機構と前記固定治具の間に1または2以上のスペーサが径方向に組み込まれることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の締め付け装置。
【請求項12】
前記鋼管または前記カップリングの外径が7インチ以上の場合に、異なる外径の前記鋼管または前記カップリングに対して同一寸法の前記ジョーを用いることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の締め付け装置。
【請求項13】
管端ねじを有する鋼管およびカップリングの一方を第1のチャックで保持し、前記鋼管および前記カップリングの他方を第2のチャックで保持し、前記カップリングと前記管端ねじとを適合させ、前記第2のチャックを回転させることにより、前記鋼管の前記管端ねじと前記カップリングとを螺合させて締付けを行なう締付け方法であって、
前記第1のチャックまたは前記第2のチャックにおいて、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の前記ジョーを前記鋼管または前記カップリングを把持するように配置し、前記ジョーを固定する複数の固定治具を介してシリンダ機構により前記ジョーを前記鋼管または前記カップリングに向けて移動させ、前記ジョーにより前記鋼管または前記カップリングを把持することを特徴とする締め付け方法。
【請求項14】
前記ジョーは、前記鋼管または前記カップリングの外周に対応するように周方向に複数設けられ、
前記固定治具は、前記複数のジョーに対応して周方向に複数設けられ、
前記シリンダ機構は、前記複数の固定治具に対応して周方向に複数設けられ、
前記複数のシリンダ機構により前記複数の固定治具を介して前記複数のジョーを径方向に移動させ、前記複数のジョーにより前記鋼管または前記カップリングを把持することを特徴とする請求項13に記載の締め付け方法。
【請求項15】
前記固定治具が前記鋼管または前記カップリングの外径に適合するように、前記シリンダ機構と前記固定治具の間に1または2以上のスペーサを径方向に組み込むことを特徴とする請求項13または請求項14に記載の締め付け方法。
【請求項16】
前記鋼管または前記カップリングの外径が7インチ以上の場合に、異なる外径の前記鋼管または前記カップリングに対して同一寸法の前記ジョーを用いることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか一項に記載の締め付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井管の管端ねじとカップリングとの締め付けを行う締め付け装置用のジョー、締め付け装置および締め付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や天然ガスを採掘する井戸(いわゆる油井)で使用する鋼管は油井管と呼ばれており、油井管の製造工場にて管端部のねじ(以下、管端ねじという)にカップリングを締付けた状態で出荷される。油井管の製造工場にてカップリングを締付ける際に用いる締付け装置は、油井管を保持するチャック(以下、パイプチャックという)とカップリングを保持するチャック(以下、カップリングチャックという)とを備えており、パイプチャックによって油井管を所定の位置に保持しつつ、カップリングチャックを回転させることによってカップリングを回転させて螺合する構成になっている。
【0003】
締付けを行なう間は、油井管とパイプチャック、および、カップリングとカップリングチャックの相対的な位置関係は一定である。それぞれのチャックには、油井管やカップリングに当接する複数個の高強度金属製の治具(以下、ジョーという)がキーを介してチャックに固定されており、ジョーが油井管やカップリングに密着して把持する構成になっている。
【0004】
ねじの締め付け時には、雌雄のねじの軸心が合致し、所定のトルクターンチャートを経て規定の締め付けトルクで安定して締め付けられる必要があるが、カップリングの締付け時に滑りが生じると、締付け不良となって、油井管の歩留りの低下を招く。そこで、滑りを防止するために、油井管やカップリングに密着する表面(締付け密着面)に爪を有するジョーを使用し、油井管やカップリングに爪を引っ掛けて締付けを行う場合がある。しかし、その場合はジョーの爪に起因する表面疵が油井管やカップリングに発生しやすいという問題がある。すなわち、カップリング外面の疵を抑制することと、スリップを生じさせずにねじの締め付けを安定的に行うことの両立が難しい場合がある。
【0005】
近年、石油資源は、浅い油井(いわゆる浅井戸)で採掘可能な埋蔵量が減少し、高深度の油井(いわゆる深井戸)の掘削が進められている。深井戸においては、高温かつ腐食性の環境にある深奥部から石油資源を採掘するので、表面疵を有する油井管やカップリングを使用すると、表面疵から腐食が進行するおそれがある。また、浅井戸においては、油井の現場で、表面疵によって作業員が怪我をする、あるいは表面疵を起点として亀裂が生じるおそれがある。
【0006】
このため、油井管やカップリングの締付けによる表面疵を防止する技術が検討されている。たとえば、特許文献1には、ウレタンゴムからなり、油井管あるいはカップリングと同一の曲率で円弧状に湾曲するジョーを使用して締付けを行なう技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般的なウレタンゴムを用いたジョーは、締め付けを繰り返すうちに変形しやすく、寿命が短いという問題がある。
【0009】
したがって、本発明は、油井管等の鋼管やカップリング外面の疵を抑制でき、スリップを生じさせずにねじの締め付けを安定的に行え、しかも締め付けの繰り返しによる変形が生じ難い、締め付け装置用のジョーを提供すること、およびそれを用いた締め付け装置および締め付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の[1]~[16]の手段を提供する。
【0011】
[1]鋼管の管端ねじとカップリングとの締付けを行なう締付け装置において前記鋼管または前記カップリングを保持するチャックに装着され、前記締付けの際に前記鋼管または前記カップリングを把持するジョーであって、
少なくとも前記鋼管または前記カップリングに密着する面を含む部分が、引張強さ35~65MPa、伸び300~550%であることを特徴とする締め付け装置用のジョー。
【0012】
[2]前記鋼管または前記カップリングに密着する面に溝を有さないことを特徴とする[1]に記載の締め付け装置用のジョー。
【0013】
[3]耐熱温度が80℃以上の材料で構成されていることを特徴とする[1]または[2]に記載の締め付け装置用のジョー。
【0014】
[4]前記鋼管または前記カップリングとの接触面積が17.160mm2以上であることを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の締め付け装置用のジョー。
【0015】
[5]厚みが10~15mmであることを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の締め付け装置用のジョー。
【0016】
[6]前記鋼管または前記カップリングの外径が7インチ以上の場合に、前記鋼管または前記カップリングに密着する面が平面、または前記鋼管または前記カップリングの長手方向中央部の位置の曲率半径以上の曲率半径を有する曲面であることを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の締め付け装置用のジョー。
【0017】
[7]前記鋼管または前記カップリングの外径が2-3/8インチ~6-5/8インチの場合に、前記鋼管または前記カップリングの長手方向中央部の位置の曲率半径Rpに対して、前記鋼管または前記カップリングに密着する面の曲率半径Rjが、
Rp≦Rj≦(Rp+10mm)
で表される条件を満たすことを特徴とする
[1]から[5]のいずれかに記載の締め付け装置用のジョー。
【0018】
[8]管端ねじを有する鋼管およびカップリングの一方を保持する第1のチャックと、
前記鋼管および前記カップリングの他方を保持する第2のチャックと、
前記第2のチャックを回転させる回転機構とを有し、
前記カップリングと前記管端ねじとを適合させ、前記第2のチャックを回転させることにより、前記鋼管の前記管端ねじと前記カップリングとを螺合させて締付けを行なう締め付け装置であって、
前記第1のチャックまたは前記第2のチャックは、
前記鋼管または前記カップリングを把持する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の前記ジョーと、
前記ジョーを固定する固定治具と、
前記固定治具を介して前記ジョーを前記鋼管または前記カップリングに向けて移動させるシリンダ機構と、
を有することを特徴とする締め付け装置。
【0019】
[9]前記第1のチャックは前記鋼管を保持し、前記第2のチャックは前記カップリングを保持することを特徴とする[8]に記載の締め付け装置。
【0020】
[10]前記ジョーは、前記鋼管または前記カップリングの外周に対応するように周方向に複数設けられ、
前記固定治具は、前記ジョーに対応して周方向に複数設けられ、
前記シリンダ機構は、前記複数の固定治具に対応して周方向に複数設けられることを特徴とする[8]または[9]に記載の締め付け装置。
【0021】
[11]前記固定治具が前記鋼管または前記カップリングの外径に適合するように、前記シリンダ機構と前記固定治具の間に1または2以上のスペーサが径方向に組み込まれることを特徴とする[8]から[10]のいずれかに記載の締め付け装置。
【0022】
[12]前記鋼管または前記カップリングの外径が7インチ以上の場合に、異なる外径の前記鋼管または前記カップリングに対して同一寸法の前記ジョーを用いることを特徴とする[8]から[11]のいずれかに記載の締め付け装置。
【0023】
[13]管端ねじを有する鋼管およびカップリングの一方を第1のチャックで保持し、前記鋼管および前記カップリングの他方を第2のチャックで保持し、前記カップリングと前記管端ねじとを適合させ、前記第2のチャックを回転させることにより、前記鋼管の前記管端ねじと前記カップリングとを螺合させて締付けを行なう締付け方法であって、
前記第1のチャックまたは前記第2のチャックにおいて、
[1]から[7]のいずれかに記載の前記ジョーを前記鋼管または前記カップリングを把持するように配置し、前記ジョーを固定する複数の固定治具を介してシリンダ機構により前記ジョーを前記鋼管または前記カップリングに向けて移動させ、前記ジョーにより前記鋼管または前記カップリングを把持することを特徴とする締め付け方法。
【0024】
[14]前記ジョーは、前記鋼管または前記カップリングの外周に対応するように周方向に複数設けられ、
前記固定治具は、前記複数のジョーに対応して周方向に複数設けられ、
前記シリンダ機構は、前記複数の固定治具に対応して周方向に複数設けられ、
前記複数のシリンダ機構により前記複数の固定治具を介して前記複数のジョーを径方向に移動させ、前記複数のジョーにより前記鋼管または前記カップリングを把持することを特徴とする[13]に記載の締め付け方法。
【0025】
[15]前記固定治具が前記鋼管または前記カップリングの外径に適合するように、前記シリンダ機構と前記固定治具の間に1または2以上のスペーサを径方向に組み込むことを特徴とする[13]または[14]に記載の締め付け方法。
【0026】
[16]前記鋼管または前記カップリングの外径が7インチ以上の場合に、異なる外径の前記鋼管または前記カップリングに対して同一寸法の前記ジョーを用いることを特徴とする[13]から[15]のいずれかに記載の締め付け方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、油井管等の鋼管やカップリング外面の疵を抑制でき、スリップを生じさせずにねじの締め付けを安定的に行え、しかも締め付けの繰り返しによる変形が生じ難い、締め付け装置用のジョーを提供することができる。また、このようなジョーを用いた締め付け装置および締め付け方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係るジョーを備えたねじ継手締め付け装置を概略的に示す側面図である。
【
図2】
図1のねじ継手締め付け装置に用いられるカップリングチャックの構造を示す図である。
【
図3】
図1のねじ継手締め付け装置に用いられるカップリングチャックの内側部分を示す写真である。
【
図4】ジョー固定治具を継ぎ足してジョー固定治具の径を調整し、カップリングの径に適合させる手法を説明する図である。
【
図5】パイプまたはカップリングと密着する面が平面状のジョーを示す斜視図である。
【
図6】パイプまたはカップリングと密着する面が円弧状のジョーを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るジョーを備えた締め付け装置を概略的に示す側面図である。
【0030】
締め付け装置100は、例えば、油井管の製造工場にてカップリングを締付ける際に用いるものであり、油井管等の鋼管(以下、パイプという)10を保持するチャック(以下、パイプチャックという)11と、カップリング14を保持するチャック(以下、カップリングチャックという)12とを備えている。締め付け装置100は、パイプチャック11によってパイプ10を所定の位置に保持しつつ、カップリングチャック12によってカップリング14を保持し、カップリングチャック12を回転させることによって、カップリング14と管端ねじとを螺合する構成になっている。
【0031】
なお、符号15はカップリングチャック12を回転させる回転機構であるインバータモータであり、符号16は主軸減速機である。
【0032】
カップリング14としては、例えば、T&Cタイプのねじとして、素管同士を繋ぐ素管より太径のカップリングを用いるものを好適に用いることができる。また、素管同士を繋いで用いるインテグラルタイプのものに用いるフラッシュタイプの雌ねじを有するものであってもよい。
【0033】
カップリングチャック12には、カップリング14に当接するジョー13がキーを介してカップリングチャック12に固定されており、ジョー12がカップリング14に密着して把持する構成になっている。なお、パイプチャック11によりパイプ10を把持する部分にもジョーが設けられている。
【0034】
なお、本実施形態では、カップリングチャック12を回転させてカップリング14と管端ねじとを螺合する構成になっているが、パイプチャック11を回転させる回転機構を設け、パイプチャック11を回転させてカップリング14と管端ねじとを螺合するようにしてもよい。
【0035】
図2はカップリングチャック12の構造を示す図であるが、この図に示すように、カップリングチャック12は、周方向に沿って設けられた複数(本例では6個)のシリンダ機構30を有し、各シリンダ機構30のピストンの先端に金属製のジョー固定治具20が固定されている。シリンダ機構30としては油圧シリンダを用いることができる。ジョー固定治具20は、シリンダ機構30のキー溝にキー20aが挿入された状態で固定されている。ジョー固定治具20の内側面にはキー溝20bが設けられており、キー溝20bにジョー13が固定される。各シリンダ機構30のピストンは、ジョー固定治具20を介してジョー13を径方向に移動可能となっている。
【0036】
図3はカップリングチャック12の内側部分を示す写真である。この写真に示すように、複数のジョー固定治具20は全体が円筒状になるように配置され、フラットな形状の複数のジョー13が、複数のジョー固定治具20が形成する円筒の内面に配置された状態となっている。
【0037】
ジョー13の内側にカップリング14が挿入された状態で、シリンダ機構30に例えば油圧をかけることにより、シリンダ機構30のピストンを進出させてジョー固定治具20を内側に移動させることにより、ジョー13を介してカップリング14が押圧される。すなわち、シリンダ機構30により直接、複数のジョー13を介してカップリング14を押圧することができ、大きな押圧力でジョー13の内面をカップリング14に密着させることができる。
【0038】
カップリング14の径が小さい場合には、ジョー固定治具20のキー溝20bに、より小径のジョー固定治具をスペーサとして径方向に継ぎ足し、ジョー固定治具の径を調整する。例えば、
図4に示すように、ジョー固定治具21、22、23の1または2以上を継ぎ足し、カップリング14の径に適合させることができる。ジョー固定治具21、22、23には、それぞれ、キー21a,22a,23a、およびキー溝21b,22b,23bが設けられており、これらのうち最終的にジョー固定治具として用いられるもののキー溝にジョー13が固定される。
【0039】
なお、パイプチャック11もカップリングチャック12と同様、複数のシリンダ機構と各シリンダ機構のピストンに固定された複数のジョー固定治具を有し、ジョー固定治具の内側面にジョーが固定されている。また、パイプ10の径が小さい場合には、例えば
図4と同様に、より小径のジョー固定治具を継ぎ足し、ジョー固定治具の径を調整することができる。
【0040】
ジョー13は、少なくともパイプ10またはカップリング14に密着する面を含む部分が引張強さ35~65MPa、伸び300~550%である。ジョー13の引張強さおよび伸びとしては、JISK7161に準拠した試験により得られた値が用いられる。
【0041】
ジョー13の強度は、ジョー13の寿命と滑りに影響し、35~65MPaの範囲でこれらを両立させることができる。強度が35MPaより低いと締め付けを繰り返すことにより、パイプやカップリングに密着する面の変形が生じやすく、寿命が短くなってしまう。例えば、寿命としては、締め付けの繰り返し回数が200回以上(パイプまたはカップリングの締め付け本数が200本以上)であることが求められるが、強度が35MPaより低いとそれを満たすことが困難となる。一方、65MPaを超えると荷重を受けた際の変形量が不十分でパイプ10またはカップリング14に対し十分な面積を密着させることができず、把持力不足となり滑りが発生してしまう。
【0042】
ジョー13の伸びは滑りに影響し、伸びが300%より小さい場合は荷重を受けた際の変形量が不十分でパイプ10またはカップリング14に対し十分な面積を密着させることができず、把持力不足となり滑りが発生してしまう。滑りの観点からは伸びに上限はないが、上述の強度を満足させると伸びの上限は500%となる。
【0043】
ジョー13の材料を特許文献1のような汎用のウレタンゴムとした場合は、引張強さが27MPa程度と低いため、パイプやカップリングに密着する面が変形しやすく寿命が短い。また、ジョー13の材料を硬質ウレタンゴム(商品名:BOCA)とした場合は、引張強さが94MPa程度と高いため寿命が長くなるが、伸びが小さく滑りが発生してしまう。上記強度および伸びの範囲を満たす材料としては耐熱ウレタンゴム(商品名:NOR)を挙げることができる。
【0044】
寿命を長くする観点から、ジョー13を構成する材料の耐熱温度が80℃以上であることが好ましい。耐熱温度が80℃より低いと、締め付け時の滑りでの摩擦熱により変質し硬化しやすくなるが、耐熱温度を80℃以上とすることにより摩擦熱による変質が生じ難く、締め付けの繰り返し回数で3000回以上(パイプまたはカップリングの締め付け本数で3000本以上)とさらに長寿命化することができる。なお、耐熱温度とは、比較的短時間で、何度まで耐え得るかという最高限界温度を指し、耐熱老化試験等により測定される。耐熱老化試験とは、材料を、規定温度で規定時間加熱した後に、物性を測定し、その測定値と、加熱する前の物性との変化の大小で、耐熱性を評価する試験をいう。測定する物性は、引張り強さ、切断時の伸び、引張り応力、硬さなどがある。
【0045】
ジョー13としては、例えば、
図5に示すように、パイプ10またはカップリング14と密着する面が平面状のものを用いることができる。
図5のジョー13は、端面に10~20°の角度をつけて、溝に対しての着脱を容易にしている。また、ジョー13は、
図6に示すように、パイプ10またはカップリング14と密着する面が円弧状のものであってもよい。
【0046】
ジョー13の厚みは10~15mmであることが好ましい。ジョー13の厚みが薄すぎると、パイプ10またはカップリング14が金属製のジョー固定部20に接触して、パイプ10またはカップリング14に表面疵が発生しやすくなる。また厚すぎると変形が生じ難くなる。ジョー13の厚みは、パイプ10またはカップリング14に密着する面の厚みをいう。ジョー13の厚みは、ノギスにより測定された値である。
【0047】
ジョー13は、パイプ10やカップリング14に密着する面に溝を有さないことが好ましい。この場合の溝は、従来の金属製のジョーのパイプまたはカップリングに密着する面に意図的に形成されていた溝と同様の、深さが0.5~2.0mmの溝をいう。従来用いられていた金属製のジョーは、パイプまたはカップリングに密着する面に意図的に溝を作ることにより、パイプやカップリングにエッジを食い込ませて滑りを防止させていたが、その場合はパイプやカップリングに必ず疵が発生してしまうという問題があった。それに対し、本実施形態ではジョー13は、引張強さ35~65MPa、伸び300~550%という柔らかい材質のものが用いられているため、パイプ10やカップリング14に密着する面に溝を設けなくても滑りは生じ難い。むしろ、パイプ10やカップリング14に密着する面に溝があると、その溝からジョーが摩耗・変形し、寿命が低下してしまう。また、溝部はパイプ10やカップリング14と接触しないため、接触面積が低下し、把持力が低下してしまう。
【0048】
また、ジョー13のパイプ10またはカップリング14との接触面積は17.160mm2以上であることが好ましい。これにより、把持力を確保しやすくなり、滑りを抑制する効果を大きくすることができる。
【0049】
本実施形態では、パイプ10またはカップリング14の曲率Rpに対して、ジョー13のパイプまたはカップリングに密着する面の曲率Rjを変化させる必要はなく、異なる外径のパイプ10またはカップリング14に対して同一寸法のジョーを共用することができる。特に、パイプ10やカップリング14の外径が7インチ以上の場合は、このように異なる外径のパイプ10またはカップリング14に対して同一寸法のジョーを共用することが容易である。この場合には、ジョー13は、
図5に示すようなパイプ10またはカップリング14に密着する面が平面のものや、パイプやカップリングの長手方向中央部の位置の曲率半径以上の曲率半径を有する円弧状の曲面のものであってよい。これは、外径7インチ以上のパイプやカップリングの場合は、ジョー13のパイプ10またはカップリング14に密着する面が締め付け前に平面や曲率半径が大きい円弧状の曲面であっても、ジョー13が締め付け力を受けた際に変形し、パイプ10またはカップリング14にならって接管し、十分な接触面積を確保できるためである。
【0050】
一方、パイプ10やカップリング14の外径2-3/8インチ~6-5/8インチと細い場合には、パイプ10またはカップリング14の長手方向中央部の位置の曲率半径Rpに対して、ジョー13のパイプまたはカップリングに密着する面の曲率半径Rjが、Rp≦Rj≦(Rp+10mm)で表される条件を満たすことが好ましい。これにより、ジョー13とパイプ10またはカップリング14との接触面積を十分に確保することができ、滑りを抑制する効果をより大きくすることができる。
【0051】
次に、このように構成されたねじ継手締め付け装置100の作用・効果について説明する。
ねじ継手締め付け装置100においては、パイプチャック11によってパイプの所定の位置を保持し、カップリングチャック12によってカップリング14を保持する。そして、パイプ10の管端ねじをカップリング14に適合させた状態でインバータモータ15によりカップリングチャック12を回転させることにより、パイプ10の管端ねじとカップリング14とを螺合させる。
【0052】
このとき、パイプチャック11によるパイプ10の保持、およびカップリングチャック12によるカップリング14の保持は、ジョー13をパイプ10およびカップリング14に密着させることにより行われる。
【0053】
ジョー13としては、少なくともパイプ10またはカップリング14に密着する面を含む部分が引張強さ35~65MPa、伸びが300~550%のものを用いる。これにより、パイプ10またはカップリング14に対し十分な面積を密着させることができ、ジョー13とパイプ10またはカップリング14との間の滑りや、それに起因して発生するパイプ10またはカップリング14の表面疵やカップリング14の塗装剥がれを抑制することができる。また、ジョー13の引張強度および伸びをこのように規定することにより、パイプやカップリングに密着する面の変形が生じ難くなり、ジョー13として汎用のウレタンゴムを用いた場合よりも寿命を長くすることができる。例えば、締め付けの繰り返し回数が500回以上(パイプまたはカップリングの締め付け本数が500本以上)の寿命を達成することができる。
【0054】
また、ジョー13を構成する材料の耐熱温度を80℃以上とすることにより、摩擦熱により変質し硬化し難く、締め付けの繰り返し回数で3000回以上(パイプまたはカップリングの締め付け本数で3000本以上)とさらに長寿命化することができる。
【0055】
ジョー13のパイプ10またはカップリング14との接触面積を17.160mm2以上とすることにより、十分な把持力を得やすくなる。さらに、ジョー13のパイプ10やカップリング14に密着する面に溝を有さないことにより、溝からジョーの摩耗・変形が生じて寿命が低下することや、接触面積の低下により把持力が低下することを防止することができる。
【0056】
また、複数のシリンダ機構30により直接、円周状に複数設けられたジョー13を介してカップリング14の外周面を押圧して密着させるので、大きな押圧力(クランプ力)を得ることができ、ジョー13とカップリング14との間の滑りを一層効果的に抑制することができる。パイプ10に対しても同様に複数のシリンダ機構によりジョー13を大きな押圧力で密着させることができる。
【0057】
すなわち、従来は、パイプやカップリングに対し、モーター回転を偏芯軸ピニオンに伝達してチャックを開閉させる間接的な方式によりジョーを密着させていたが、上記のような複数のシリンダ機構を用いて直接クランプする方式を用いることにより、従来の約1.6倍の押圧力(クランプ力)を得ることができる。このため、ジョー13とパイプ10またはカップリング14との間の滑りを抑制する効果を一層高くすることができる。
【0058】
さらに、カップリングチャック12およびパイプチャック11は、カップリング14やパイプ10の径が小径になった場合に、シリンダ機構の内側に設けられるジョー固定治具を1または2以上継ぎ足すことにより適合させることが可能であり、カップリング14やパイプ10の径が変化しても容易に対応可能である。
【0059】
さらにまた、ジョー13はパイプ10またはカップリング14に対する密着性が良好であるため、パイプ10またはカップリング14と同一の曲率で円弧状に湾曲するジョーをサイズごとに作製することなく、ジョー13とパイプ10またはカップリング14との間の滑りを抑制する効果を得ることができる。このため、同一寸法のジョー13を複数のサイズのパイプ10またはカップリングに対して共用することができる。特に、パイプ10やカップリング14の外径が7インチ以上の場合は、このように異なる外径のパイプ10またはカップリング14に対して同一寸法のジョーを共用することが効果的である。これにより、予備品として確保するジョー13の数を削減することができ、また、パイプ10またはカップリング14の曲率に対応した専用のジョーの設計費、リードタイムを削減できる効果を得ることができる。また、ジョー13の形状に関しても、
図5のように平面形状のものや、パイプやカップリングの長手方向中央部の位置の曲率半径以上の曲率半径を有する円弧状の曲面のもので高い密着性が得られる。
【0060】
パイプ10やカップリング14が、外径2-3/8インチ~6-5/8インチの細いものの場合には、ジョー13のパイプ10またはカップリング14に密着する面が平面では、17.160mm2以上の好ましい接触面積を確保しにくい場合もある。この場合には、パイプ10またはカップリング14の曲率半径Rpに対して、ジョー13のパイプまたはカップリングに密着する面の曲率半径Rjが、Rp≦Rj≦(Rp+10mm)で表される条件を満たすことが好ましい。これにより、ジョー13とパイプ10またはカップリング14との接触面積を十分に確保することができ、ジョー13とパイプ10またはカップリング14との間の滑りをより効果的に抑制することができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、これらはあくまで例示に過ぎず、制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【実施例0062】
以下、実施例について説明する。
ここでは、表1に記載された種々のサイズの鋼管に対し、表1に示す材質および特性のジョーを用いたチャックにより締め付け実験を行った。表1の「ジョー形状」は、鋼管と密着する面の形状を示し、鋼管サイズが7インチより小さいものについては、鋼管の長手方向中央部の位置の曲率半径Rpに対して、ジョーの鋼管と密着する面の曲率半径Rjが、Rp≦Rj≦(Rp+10mm)を満たす円弧状、鋼管サイズが7インチよりも大きいものについては、ジョーの鋼管接触面の曲率半径Rjが鋼管の長手方向中央部の位置の曲率半径Rp以上の円弧状、またはフラット形状とした。表1の本発明例1~5はジョーとして引張強さ35~65MPa、伸び300~550%を満たす耐熱ウレタンゴム(NORウレタン)を用いたものであり、比較例1、2は、ジョーとして引張強さ35~65MPaを満たさない汎用ウレタンゴム(通常ウレタン)を用いたものである。なお、引張強さおよび伸びはJISK7161に準拠した試験により得られた値である。
【0063】
実験結果を併せて表1に示す。なお、実験結果における「工具寿命」は、ジョーの密着する面が変形するまでの締め付けの繰り返し回数(鋼管の締め付け本数)を表す。
【0064】
表1に示すように、ジョーとしてNORウレタンを用いた本発明例1~5は、チャック疵および滑りが生じず、工具寿命も400回以上であった。一方、ジョーとして通常ウレタンを用いた比較例1,2では、チャック疵および滑りは生じなかったが、工具寿命が150以下と低いものとなった。
【0065】
また、本発明例のうち、鋼管サイズが7インチより大きい本発明例3~5に用いたジョーを、7インチ以上の他のサイズの鋼管に用いて同様の実験を行った結果、3つ以上のサイズの鋼管について、チャック疵および滑りがなく、工具寿命が400回以上となった。このことから、同一のジョーを異なる外径の鋼管に共用可能であることが確認された。
【0066】