(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059886
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20220407BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20220407BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20220407BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20220407BHJP
B60W 20/14 20160101ALI20220407BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20220407BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20220407BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20220407BHJP
B60L 7/12 20060101ALI20220407BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/52 ZHV
B60K6/48
B60W10/02 900
B60W20/14
B60L50/16
B60L50/61
B60L9/18 J
B60L7/12 S
F16D48/02 640D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167767
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】上田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】弓削 勝忠
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
【テーマコード(参考)】
3D202
3J057
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB15
3D202BB37
3D202BB51
3D202BB64
3D202BB65
3D202CC04
3D202CC55
3D202CC82
3D202CC83
3D202CC85
3D202CC86
3D202DD01
3D202DD02
3D202DD05
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3D202DD45
3D202EE16
3D202FF02
3D202FF14
3J057BB03
3J057GA80
3J057GB02
3J057GB05
3J057GB06
3J057GB36
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3J057GE07
3J057HH01
3J057JJ01
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
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5H125CB02
5H125CD06
5H125EE05
5H125EE27
5H125EE42
5H125EE52
5H125EE53
5H125FF22
(57)【要約】
【課題】減速運転に移行した際に、即座に電力の回生に対応できるようにする。
【解決手段】第1駆動軸28に駆動力を伝達するエンジン12と、第2駆動軸18に駆動力を伝達する電動機13と、電動機13と第2駆動軸18との間に配置されるクラッチ14と、電動機13の温度の情報を取得する温度情報取得手段15と、電動機13の温度が所定値以上となったときクラッチ14を切断状態とし、車両10が減速状態になったときクラッチ14を接続状態とするクラッチ制御手段51と、電動機13を制御する電動機制御手段53とを備え、電動機制御手段53は、クラッチ14の切断中に電動機13を駆動する力行制御を行い、車両10の減速状態でクラッチ14が接続状態に切り替えられた際に電動機13による回生制御を行うハイブリッド車両。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動軸に駆動力を伝達するエンジンと、
第2駆動軸に駆動力を伝達する電動機と、
前記電動機と前記第2駆動軸との間に配置されるクラッチと、
前記電動機の温度の情報を取得する温度情報取得手段と、
前記電動機の温度が所定値以上となったときクラッチを切断状態とし、車両が減速状態になったときクラッチを接続状態とするクラッチ制御手段と、
前記電動機を制御する電動機制御手段と、
を備え、
前記電動機制御手段は、前記クラッチの切断中に前記電動機を駆動する力行制御を行い、車両の減速状態で前記クラッチが接続状態に切り替えられた際に前記電動機による回生制御を行うハイブリッド車両。
【請求項2】
前記クラッチの切断中に前記所定値を含む第1温度域で、前記電動機を所定の回転数以下で駆動して又は空転状態で回転させる定常モードと、
前記第1温度域の下限よりも低い温度域に設定される第2温度域で、前記車両の車速に応じた回転数で前記電動機を駆動して回転させる車速追従モードと、
を備える請求項1のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記電動機制御手段は、前記車速追従モード中に所定の加速度以上の加速を検出した場合又は所定のアクセル開度を検出した場合は前記定常モードに移行する制御を行う請求項2のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記電動機に電力を供給するバッテリを備え、
前記電動機制御手段は、前記バッテリの電力の残容量が所定残容量未満の場合に前記定常モードを選択する請求項2又は3に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記電動機を冷却する冷却手段を備え、
前記冷却手段は、前記電動機の回転側の部材に設けられた冷媒流通用の第1冷却路を備え、前記力行制御の際に前記第1冷却路に冷媒が供給されることよって、前記回転側の部材が非回転の際よりもその冷却効果が高まる請求項1~4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両のように電動機(モータ)の駆動力によって走行する車両では、電動機と車輪との間にクラッチを配置し、そのクラッチを接続することによって、電動機の回転力を車輪に伝達して車両を駆動するとともに、運転状態によっては車輪の回転力を電動機に伝達して回生エネルギを回収している。そして、車速が電動機の最高回転数に到達したり、電動機の温度が所定の上限温度に到達したりしたときは、クラッチを遮断することによって、電動機に過度の負荷が作用するのを防止している。
【0003】
また、例えば、特許文献1,2には、車両が減速を開始した後、電力回生のために電動機と車輪との間のクラッチを接続する必要がある際に、その接続に先だって、クラッチを挟んで両側の回転数を互いに近づけるように電動機の出力を制御し、その回転数の差が所定値以下になった時にクラッチを接続することでショックを低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-50767号公報
【特許文献2】特開2008-126869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラッチ切断状態の車両が減速運転に移行した場合、電力の回生を少しでも早く開始して減速時の回生エネルギを有効活用したいという要請がある。しかし、上記特許文献1,2では、車両が減速運転に移行した後に電動機の軸の回転数を上昇させて、電動機側の回転数と車輪側の回転数との差が所定値以下になるように制御している。このため、その回転数差が所定値以下になるまで回生を開始することができないという問題がある。このため、回生の開始までの間、減速のエネルギを無駄にしてしまうことになる。減速運転に移行した際には、できる限り早く電力の回生を開始することが求められる。
【0006】
そこで、この発明の課題は、減速運転に移行した際に、即座に電力の回生に対応できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、第1駆動軸に駆動力を伝達するエンジンと、第2駆動軸に駆動力を伝達する電動機と、前記電動機と前記第2駆動軸との間に配置されるクラッチと、前記電動機の温度の情報を取得する温度情報取得手段と、前記電動機の温度が所定値以上となったときクラッチを切断状態とし、車両が減速状態になったときクラッチを接続状態とするクラッチ制御手段と、前記電動機を制御する電動機制御手段とを備え、前記電動機制御手段は、前記クラッチの切断中に前記電動機を駆動する力行制御を行い、車両の減速状態で前記クラッチが接続状態に切り替えられた際に前記電動機による回生制御を行うハイブリッド車両を採用した。
【0008】
ここで、前記クラッチの切断中に前記所定値を含む第1温度域で、前記電動機を所定の回転数以下で駆動して又は空転状態で回転させる定常モードと、前記第1温度域の下限よりも低い温度域に設定される第2温度域で、前記車両の車速に応じた回転数で前記電動機を駆動して回転させる車速追従モードとを備える構成を採用することができる。
【0009】
このとき、前記電動機制御手段は、前記車速追従モード中に所定の加速度以上の加速を検出した場合又は所定のアクセル開度を検出した場合は前記定常モードに移行する制御を行う構成を採用することができる。
【0010】
これらの各態様において、前記電動機に電力を供給するバッテリを備え、前記電動機制御手段は、前記バッテリの電力の残容量が所定残容量未満の場合に前記定常モードを選択する構成を採用することができる。
【0011】
前記電動機を冷却する冷却手段を備え、前記冷却手段は、前記電動機の回転側の部材に設けられた冷媒流通用の第1冷却路を備え、前記力行制御の際に前記第1冷却路に冷媒が供給されることよって、前記回転側の部材が非回転の際よりもその冷却効果が高まる構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、減速運転に移行した際に、即座に電力の回生に対応できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明に係るハイブリッド車両の一例を示す模式図である。
【
図2】電動機の温度とクラッチの制御を示すグラフ図である。
【
図9】この発明の制御を示すフローチャートである。
【
図13】この発明の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る車両制御装置が搭載されたハイブリッド車両10(以下、単に車両10と称する。)を示している。車両10は、前方の車輪(前輪)11aをエンジン12による駆動力で駆動し、後方の車輪(後輪)11bを電動機13(以下、主モータ13という。)のアシスト力で駆動可能とした、4輪駆動のマイルドハイブリッド車である。この車両10に搭載された車両制御装置は、主モータ13による回生エネルギの回収を効率良く行うためのものであって、主モータ13、クラッチ14(以下、主クラッチ14という。)、主モータ13の温度情報を取得する温度情報取得手段15、車速センサ16、電子制御ユニット50等を主要な構成要素としている。この実施形態では、温度情報取得手段15として温度センサ15を採用しているが、センサ以外の他の形態からなる温度情報の取得手段、温度情報の推定手段等を採用してもよい。
【0015】
主モータ13は、後輪11bに通じる第2駆動軸(以下、後輪側車軸と称する)18に駆動力を伝達するように、その後輪側車軸18に併設されている。この主モータ13で、力行時に後輪11bに回転力を与えて、エンジン12による駆動力をアシストする。このアシスト力は、主クラッチ14及び後輪側ディファレンシャル19を介して、後輪側車軸18に伝達される。また、この主モータ13によって、制動時に後輪11bの回転力から回生エネルギ(以下、回生電力という。)を回収する。この主モータ13は、伝達ロスの少ないギアを介して後輪側車軸18に直結されているため、高い回生効率を得ることができる。
【0016】
主クラッチ14は、電動機13と後輪側車軸18との間に配置される。主クラッチ14は、後輪側ディファレンシャル19と後輪側車軸18を介して、主モータ13と後輪11bとの間で回転力の伝達が可能な接続状態と、この伝達が遮断された遮断状態との間で切り替える機能を有している。主クラッチ14は、通常は接続状態となっている。後輪側ディファレンシャル19は、左右後輪11bの回転抵抗に対応して、主モータ13からの駆動アシスト力を左右後輪11bに振り分ける機能を有している。
【0017】
主クラッチ14を接続状態とすると、力行時に主モータ13から後輪11bに駆動アシスト力が伝達され、また、制動時に後輪11bの回転力が主モータ13に伝達されて、この主モータ13によって回生電力が回収される。この回生電力は、車両10に搭載されたバッテリ20に充電される。主クラッチ14を遮断状態とすると、主モータ13と後輪11bが切り離された状態となるため、制動時において主モータ13によって回生電力を回収することはできない。
【0018】
バッテリ20には、その充電量を検知する充電量センサ21が設けられている。この充電量センサ21によって検知されたバッテリ20の残容量(残充電量)の情報は、電子制御ユニット50に送られる。
【0019】
温度センサ15は、主モータ13のケーシング13c等に取り付けられており、そのケーシング13c、又は、ケーシング13cのすぐ内側にあるステータ13bの温度を主モータ13の温度の代表値として採用している。ただし、温度センサ15として、主モータ13の他の部分、例えば、主モータ13の近傍を流れる潤滑オイルの温度等のように、他の温度を主モータ13の温度の代表値として取得することもできる。温度センサ15によって検知された主モータ13の温度情報は電子制御ユニット50に送られる。
【0020】
車速センサ16は、車軸等に設けられて車両10の速度を検知する機能を備えている。車速センサ16によって検知された車速情報は、同じく電子制御ユニット50に送られる。
図1に示す車速センサ16の位置は例示であって、その取り付け位置を適宜変更することもできる。
【0021】
エンジン12の駆動力は、トルクコンバータ24、連続可変トランスミッション(Continuously Variable Transmission)25、副クラッチ26、及び、前輪側ディファレンシャル27を介して、前輪11aに通じる第1駆動軸(以下、前輪側車軸と称する)28に伝達される。トルクコンバータ24は、エンジン12の駆動力を連続可変トランスミッション25に伝達する機能を有する。副クラッチ26は、エンジン12と前輪11aとの間で駆動力の伝達が可能な接続状態と、この伝達が遮断された切断状態との間で切り替える機能を有している。前輪側ディファレンシャル27は、左右の前輪11aの回転抵抗に対応して、エンジン12からの駆動力を左右前輪11aに振り分ける機能を有している。
【0022】
また、エンジン12には、副電動機(以下、副モータという)29が併設されている。この副モータ29は、ベルト30によってエンジン12のクランクシャフト31に接続されており、主にエンジン12の始動に利用され、また、副クラッチ26を接続状態とすることによって制動時に回生電力を回収することも可能である。副モータ29は、エンジン12の作動中は、通常はクランクシャフト31によって連れ回される。
【0023】
主モータ13は、固定側の部材と回転側の部材のいずれか一方にコイルが、他方に永久磁石が設けられて、回転側の部材に設けられた出力軸が駆動力によって軸回り回転する原動機の機能を発揮するものである。また、出力軸に車軸側からの回転が入力されることによって回生電力を生じさせ、その回生電力をバッテリ20に充電する発電機の機能を発揮するものである。エンジン12に併設した副モータ29に加え、主モータ13においても電力の回生を行うことで、減速エネルギを回生電力として最大限に回収できるようになる。
【0024】
車両10には、ドライバが操作するブレーキペダル22とアクセルペダル32が備えられている。ブレーキペダル22には、ドライバによるブレーキペダル22の踏み込み力を検知するブレーキセンサ23が設けられている。また、アクセルペダル32には、ドライバによるアクセルペダル32の踏み込み量を検知するアクセルポジションセンサ33が設けられている。ブレーキセンサ23によって検知されたブレーキ情報、及び、アクセルポジションセンサ33によって検知されたアクセル情報は、電子制御ユニット50に送られる
【0025】
電子制御ユニット50は、主クラッチ14及び副クラッチ26の接続及び切断の制御を行うクラッチ制御手段51と、冷却手段40を制御する冷却制御手段52、主モータ13及び副モータ29を制御する電動機制御手段53、及び、エンジン12その他この車両10の制御全般を行う制御手段54を備えている。
【0026】
主クラッチ14に関し、クラッチ制御手段51は、主モータ13の温度が予め設定された閾値(第1温度閾値)以上となった場合にその主クラッチ14を接続状態から切断状態に切り替える。また、主モータ13の温度が予め設定された閾値(第2温度閾値)を下回った場合にその主クラッチ14を切断状態から接続状態に切り替える。第1温度閾値及び第2温度閾値は、運転条件に関わらず一律に定めてもよいが、これをその時点での車速に応じて変化するように設定することも可能である。また、主クラッチ14が短時間で入断を繰り返すハンチングを回避できるならば、第1温度閾値及び第2温度閾値を同一の温度に設定することも可能である。
図2は、その第1温度閾値及び第2温度閾値に基づく主クラッチ14の入断の制御を示している。図中の区間Xが、主モータ13の温度に基づいて、主クラッチ14が切断されている期間である。また、クラッチ制御手段51は、車両10が減速状態になったときは、回生電力を取得するために主クラッチ14を接続状態にする。なお、電力の回生は、副モータ29でも行うことが可能である。
【0027】
電動機制御手段53は、クラッチ制御手段51による主クラッチ14及び副クラッチ26の動作と協働して、主モータ13及び副モータ29の出力を制御する。また、電力の回生を行う場合は、その取得した回生電力をバッテリ20に供給して充電する制御も行う。冷却制御手段52は、冷却手段40による主モータ13の冷却性能を、所定の冷却性能を発揮する第1状態と、その第1状態よりも冷却性能が低い第2状態との間で調整する。なお、副モータ29が冷却手段40を備えている場合は、冷却制御手段52は、副モータ29の冷却性能も調整することができる。また、電動機制御手段53は、主クラッチ14の接続中に加えて、主クラッチ14の切断中にも主モータ13を駆動する力行制御を行い、また、車両10の減速状態で主クラッチ14が接続状態に切り替えられた際に主モータ13による回生制御を行う。
【0028】
主クラッチ14の切断中に所定値(実施形態では、前述の第1温度閾値に相当)を含む第1温度域で、主モータ13を所定の回転数以下で駆動して、又は、空転状態で回転させる定常モードと、第1温度域の下限よりも低い温度域に設定される第2温度域で、車両10の車速に応じた回転数で主モータ13を駆動して回転させる車速追従モードとを備えている。前述の力行制御は、定常モードにおいて主モータ13を必要最小限の回転数で駆動する場合と、車速追従モードにおいて車速に応じた回転数で主モータ13を駆動する場合に相当する。定常モードにおける主モータ13の駆動は、主モータ13の温度を上昇させない程度の小さい回転数に対応した駆動であり、車速に応じた回転数よりも小さい回転数に対応した駆動である。電動機制御手段53は、車速追従モード中に所定の加速度以上の加速を検出した場合は、車速追従モードを解除して定常モードに移行する制御を行う。また、電動機制御手段53は、バッテリ20の電力の残容量が所定残容量未満の場合に、定常モードを選択する制御を行う。加速度は、車両10が備える加速度センサで検出してもよいし、アクセル開度等の情報に基づいて電子制御ユニット50が演算により求めてもよい。
【0029】
(車速追従制御)
この発明の車速追従制御の例を、
図3~
図9を用いて説明する。
【0030】
図3~
図5は、車速追従制御の第1の制御例を示している。
図4中の左側に示すように、ドライバの加速要求によって車速が上昇すると、これに伴って主モータ13の温度も上昇する。この主モータ13の温度(図中の「電動機の温度」)が、第1温度閾値a以上となった場合に、主クラッチ14は切断状態に切り替えられる。第1温度閾値aは、
図2に示したように、主モータ13の温度がそれ以上となった場合に主クラッチ14を接続状態から切断状態に切り替える温度である。ここで、主モータ13の駆動は停止し、その後の回転数(図中の「電動機の回転数」)は、惰性で空転する回転数(図中の「空回し回転数」)で推移する。この状態を定常モードという。主モータ13の駆動が停止し、主モータ13の温度は低下する。
【0031】
ここでは、
図3に示すように、温度の高い方から順に、第1温度閾値a(例えばa=120℃)、第2温度閾値b(例えばb=110℃)、第3温度閾値c(例えばc=105℃)、第4温度閾値d(例えばd=100℃)を規定しており、第1温度閾値a以上を温度域A、第2温度閾値b以上で第1温度閾値a未満を温度域B、第3温度閾値c以上で第2温度閾値b未満を温度域C、第4温度閾値d以上で第3温度閾値c未満を温度域Dと規定している。すなわち、温度域Bは温度域Aの下限よりも低い温度域に設定され、温度域Cは温度域Bの下限よりも低い温度域に設定され、温度域Dは温度域Cの下限よりも低い温度域に設定され、温度域Eは温度域Dの下限よりも低い温度域に設定されている。
【0032】
図4は、車速追従制御を行わない場合の制御を示している。
図4の符号Xで示す定常モードの区間において、主クラッチ14の切断状態で主モータ13のシャフト13aが空転しつつ、主モータ13の温度が低下して第2温度閾値bを下回ると、主モータ13の温度は温度域C(温度域Cは
図3参照)に入る。主モータ13の温度が、第2温度閾値bを下回った場合に、主クラッチ14は切断状態から接続状態に切り替えられる。第2温度閾値bは、
図2に示したように、主モータ13の温度がそれを下回ったら主クラッチ14を切断状態から接続状態に切り替える温度である。ここで、主クラッチ14は切断状態のままで、主モータ13の駆動が開始する。主モータ13の回転数は、車速に対応した回転数に維持されるように制御される。これを以下車速追従制御といい、
図4の符号Yで示す車速追従モードの区間に相当する。車速追従制御は、クラッチ切断状態の車両が減速運転に移行した場合、主モータ13を用いて即座に回生電力の回収を開始できるように、クラッチ切断状態で主クラッチ14を挟んで両側の回転数を互いに近づける制御である。主クラッチ14を挟んで両側の回転数の差が予め決められた所定回転数未満であれば、主クラッチ14を接続した際に車両10に大きなショックを受けることなく回生運転に移行できる。また、車速追従制御を行うことにより、車両10が減速状態に移行した際に即座に主クラッチ14を接続することができるので、電力の回生を開始するまでの時間を短縮し、回生エネルギを効率的に回収できるようになる。
【0033】
しかし、車速追従制御によって、クラッチ切断状態で主モータ13の駆動を一定回転数以上で継続すると、消費電力が大きくなりバッテリ20の電力の残容量を低下させてしまう危惧がある。このため、車速追従制御に移行後、その後も減速することなく加速が続きそうな運転状況の際には車速追従制御を解除する。
【0034】
図5は、車速追従制御を行う場合の制御を示している。
図5では、車速追従制御の開始後、アクセルポジションセンサ33によって取得されたアクセル開度20%以上の状態が、予め決められた所定時間(
図5中に符号Vで示す区間)以上続いた際に、車速追従制御を解除するように設定している。アクセル開度20%以上が所定時間以上続いた際は、以後も加速を継続すると判断できるからである。予め決められた所定時間は、この実施形態では5秒としているが、これを、例えば、10秒等の他の数値とすることができる。また、継続時間に関わらずアクセル開度20%以上を検出した際は車速追従制御を解除するように設定してもよい。その後、車両10が減速状態に移行すれば、主クラッチ14が接続されて電力の回生が開始され、一連の制御が終了する。車速追従制御の解除の対象となるアクセル開度の閾値は、上記の20%には限定されず、例えば15%や25%とする等、他の数値を採用してもよい。また、アクセル開度によらず、加速中の車両10の加速度が、予め決められた所定の加速度以上となった場合に、車速追従制御を解除するようにしてもよい。
【0035】
図6及び
図7は、車速追従制御の第2の制御例を示している。以下、車速追従制御の第1の制御例との差異点を中心に説明する。
図6は車速追従制御を行わない場合の制御を、
図7は車速追従制御を行う場合の制御を示している。
図6において、ドライバが操作するステアリングに設けられた舵角センサ34(
図1参照)によって取得されたハンドル舵角は、直進状態に対応するニュートラル位置(0°)で一定である。
【0036】
図7において、車速追従制御の開始後にハンドル舵角がニュートラル位置に対して一旦60°以上になった後、再びニュートラル状態に戻って予め決められた所定時間(
図7中に符号Wで示す区間)以上続いた際に、車速追従制御を解除するように設定している。ハンドル舵角が一旦60°になった後、ニュートラル状態に戻って予め決められた所定時間以上続いた際は、例えば、交差点内を右左折等で旋回して通過し終え、あるいは、カーブを通過し終え、その後は加速を開始すると判断できるからである。予め決められた所定時間は、この実施形態では10秒としているが、これを、例えば、15秒等の他の数値とすることができる。その後、車両10が減速状態に移行すれば、主クラッチ14が接続されて電力の回生が開始され、一連の制御が終了する。ここで、車速追従制御の解除の対象となるハンドル舵角の閾値は、上記の60°には限定されず、例えば50°や70°とする等、他の数値を採用してもよい。また、ニュートラル状態は、0°には限定されず、例えば、0°~5°とするなど幅を持たせてもよい。ハンドル舵角は、左右の操舵方向に対していずれも絶対値(正の値)で示している。
【0037】
図8は、車速追従制御の第3の制御例を示している。以下、同様に車速追従制御の第1の制御例、第2の制御例との差異点を中心に説明する。
図8において、車速追従上限回転数とは、車速追従制御において、クラッチ切断状態で主モータ13を回転させることができる最大の回転数である。この車速追従上限回転数を超える回転数で車速追従制御は行わない。車速追従上限回転数は、通常は、主モータ13に許容される最大の回転数に設定される。
【0038】
図8において、主モータ13の回転数が車速追従上限回転数以上になった後、予め決められた所定時間(
図8中に符号Zで示す区間)以上続いた際に、車速追従制御を解除するように設定している。主モータ13の回転数が車速追従上限回転数以上になった後、その状態が所定時間以上続いた際は、その後も高車速での走行が続くと判断できるからである。予め決められた所定時間は、この実施形態では5秒としているが、これを、例えば、10秒等の他の数値とすることができる。その後、車両10が減速状態に移行すれば、主クラッチ14が接続されて電力の回生が開始され、一連の制御が終了する。
【0039】
この制御のフローチャートを
図9に示す。ステップS1で制御を開始する。この前段で、主モータ13(以下、フローチャートでは電動機と記載)の温度の情報を取得され、電動機の温度が第1温度閾値a以上であると判別された後に主クラッチ14が切断され、その後、定常モードを経て車速追従モードに移行するものとする。ステップS2において、車速追従モードに移行し(車速追従モードON)、ステップS3ではアクセル開度の情報が取得される。ここで、「アクセル開度≧20%」が5秒以上継続していると判別されれば、ステップS5へ移行し、車速追従モードは解除される(車速追従モードOFF)。そして、ステップS6へ移行して制御を終了する。ステップS4で、アクセル開度が20%未満、又は、「アクセル開度≧20%」が5秒以上継続していないと判別されれば、ステップS7へ移行する。
【0040】
ステップS7では、電動機の回転数の情報が取得され、続くステップS8では、「電動機の回転数<車速に対応する回転数」の状態が、5秒以上継続しているかどうかが判別される。5秒以上継続していればステップS9へ移行し、車速追従モードは解除される(車速追従モードOFF)。そして、ステップS10へ移行して制御を終了する。ステップS8で、5秒以上継続していないと判別されれば、ステップS11へ移行する。
【0041】
ステップS11では、ハンドル舵角の情報が取得され、続くステップS12では、車速追従モード開始後、「ハンドル舵角≧60°」の状態からニュートラル位置に戻ったかどうかが判別される。そのような履歴があればステップS13へ移行し、車速追従モードは解除される(車速追従モードOFF)。そして、ステップS14で、車速追従モードの解除状態が10秒継続しているかどうかが判別される。車速追従モードの解除状態が10秒継続していれば、ステップS15へ移行して車速追従モードが設定され(車速追従モードON)、ステップS16で制御を終了する。ステップS14で、車速追従モードの解除状態が10秒以上継続していないと判別されれば、ステップS17へ移行して制御を終了する。
【0042】
ところで、この実施形態の主モータ13の構成は、
図10に示すように、ケーシング13c内に挿通された出力軸としてのシャフト13aと、そのシャフト13aとともに軸回りに回転するロータ13d、ロータ13dの外周に設けられたステータ13b等を備えている。シャフト13a及びロータ13dは回転側の部材であり、ケーシング13c及びステータ13bは固定側の部材である。
【0043】
主モータ13には、冷却手段40が備えられている。冷却手段40は、主モータ13の各部部品を冷却することで、その温度上昇を抑える又は温度を低下させる機能を有している。冷却手段40は、
図1及び
図10に示すように、主モータ13を構成する各部部材を冷却するために、冷却媒体(以下、冷媒という)を通過させる冷却路42を有している。冷媒には流体、特に、水や油等の液体を用いるのが一般的である。冷却路42には、ポンプ41によって冷媒が供給される。ポンプ41は、バッテリ20からの電力により駆動される。
【0044】
冷却路42は、冷媒を送り出すポンプ41から主モータ13までの間に、ロータ13d及びシャフト13a等で構成される回転側の部材に設けられる第1冷却路42aと、ケーシング13c及びステータ13b等で構成される固定側の部材に設けられる第2冷却路42bの2系統を有している。また、冷却路42は、主モータ13からポンプ41までの間に戻り路42cを有している。第1冷却路42aは、シャフト13aの軸端に開口してその軸の内部を軸方向に伸びる軸方向通路42dと、その軸方向通路42dから半径方向に分岐してシャフト13aの周面に開口する半径方向通路42eとを有している。また、第1冷却路42aは、適宜ロータ13d側にも適宜の冷媒用の通路を有していてもよい。冷媒は、軸方向通路42d及び半径方向通路42eを通ってシャフト13aを冷却するとともに、シャフト13aの周面の開口から外径方向に吐出され、ロータ13dを冷却する。このため、主モータ13の出力軸が回転していれば、冷媒が広く分散して主モータ13全体を効率よく冷却することができる。第2冷却路42bは、ステータ13bの上部において、ケーシング13cに設けた貫通孔42fを通じてケーシング13c内に通じている。このため、冷媒は、ステータ13bの上部からケーシング13c内に流下して、主にステータ13bを冷却する。
【0045】
第1冷却路42aと第2冷却路42bとの分岐点には、冷媒供給調整手段43が設けられているので、第1冷却路42aと第2冷却路42bに供給される冷媒の比率を調整することができる。例えば、第1冷却路42aと第2冷却路42bに供給される冷媒の流量の比率を、0:100、25:75、50:50、75:25、100:0といったように任意の数値に設定することができる。この実施形態では、冷媒供給調整手段43として三方弁を採用しているが、分岐点よりも下流側の第1冷却路42a、及び、分岐点よりも下流側の第2冷却路42bのそれぞれに弁体の開度を調整できる流量調整弁を設けてもよい。
【0046】
なお、詳細は図示していないが、副モータ29も主モータ13と同様な構成とでき、また、冷却手段についても主モータ13と同様に、冷却路に冷媒を流通させる構成のものを備えることができる。
【0047】
上記の車速追従制御では、力行制御の際に、冷却手段40の第1冷却路42aに冷媒が供給されることよって、主モータ13の回転側の部材であるシャフト13a及びロータ13d側から、主モータ13の全体に冷媒が行き渡りやすい。このため、力行制御時以外、特に、シャフト13aの非回転の際よりもその冷却効果が高まるという効果が期待できる。また、定常モードにおいてもシャフト13aが回転している限りにおいて、そのシャフト13a等の回転による冷媒の飛散エリアの拡大が期待できる。
【0048】
(冷却制御)
つぎに、この発明の冷却制御の例を、
図3及び
図11~
図13を用いて説明する。この冷却制御は、前述の車速追従制御に付加して行うことができるし、車速追従制御とは独立して行うこともできる。
【0049】
図3中の左側に示すように、ドライバの加速要求によって車速が上昇すると、これに伴って主モータ13の温度も上昇する。この主モータ13の温度(図中の「電動機の温度」)が、第1温度閾値a以上となった場合に、主クラッチ14は切断状態に切り替えられる。第1温度閾値aは、
図2に示したように、主モータ13の温度がそれ以上となった場合に主クラッチ14を接続状態から切断状態に切り替える温度である。ここで、主モータ13の駆動は停止し、その後の回転数(図中の「電動機の回転数」)は、惰性で空転する回転数(図中の「空回し回転数」)で推移する。主モータ13の駆動が停止し、主モータ13の温度は低下する。第1温度閾値a、第2温度閾値b、第3温度閾値c、第4温度閾値d、及び、温度域A、温度域B、温度域C、温度域D、温度域Eについては、前述の通りである。
【0050】
ここで、主クラッチ14の切断とともに、冷却条件1の下で冷却手段40による冷却が開始する。冷却条件1は、
図11の図表(マップ)の最上段に示す温度域A、B(温度域A、Bは
図3も参照)での冷却手法である。冷却条件1では、第1冷却路吐出フラグ1が立っていることから、第2冷却路42bに加えて第1冷却路42aによる冷却が併用され、冷却性能が高められる。主モータ13のシャフト13aが空転していることから冷媒が広範囲に飛散し、効率的な冷却が可能である。
【0051】
ここで、第1冷却路42aと第2冷却路42bの両方に冷媒が供給される状態を、冷却性能の第1状態と規定する。実施形態では、この第1状態が最も冷却性能が高い状態に位置付けている。ただし、第1冷却路42aと第2冷却路42bに供給される冷媒の流量の比率によってその冷却性能は増減するが、どのような比率の時に最も効率的な冷却性能を発揮するかは、主モータ13の形式や仕様、冷却手段40の構成によって異なる。また、第1冷却路42aと第2冷却路42bに供給される冷媒の流量の比率を、100:0、50:50、0:100と限定的にしか調整できない冷媒供給調整手段43を採用している場合もある。このため、ここでは、少なくとも第1冷却路42aと第2冷却路42bの両方に冷媒を供給した場合を、冷却性能が最も高い第1状態と規定した。なお、第1状態が、冷却手段40が有する性能の中で冷却性能が最も高い状態であることに限定するものではない。
【0052】
主モータ13のシャフト13aが空転しつつ、主モータ13の温度が低下して第2温度閾値bを下回ると、主モータ13の温度は温度域Cに入る。主モータ13の温度が、第2温度閾値bを下回った場合に、主クラッチ14は切断状態から接続状態に切り替えられる。第2温度閾値bは、
図2に示したように、主モータ13の温度がそれを下回った主クラッチ14を切断状態から接続状態に切り替える温度である。ここで、主クラッチ14は切断状態のままで、主モータ13の駆動が開始する。主モータ13の回転数は、車速に対応した回転数に維持されるように制御され、車速追従制御が行われる。車速追従制御の下では、冷却手段40による冷却が冷却条件2に移行する。冷却条件2は、
図11の2段目に示す温度域Cでの冷却手法である。冷却条件2では、第1冷却路吐出フラグ1と電動機回転フラグ1が立っており、第2冷却路吐出フラグは0であることから、第1冷却路42aのみによる冷却が行われ、主モータ13のシャフト13aが車速に追従する回転数で駆動力によって回転する。冷却条件2は、2系統の冷却路42のうち第1冷却路42aのみを用いるものであり、第1冷却路42aと第2冷却路42bの両方を用いた第1状態よりも冷却性能が制限された冷却制限状態である。
【0053】
車速追従制御を行うと、主モータ13が駆動力で回転することから、主モータ13の温度は上昇しやすい状況であるが、上記の冷却条件2の冷却によって、主モータ13の温度は、第1温度閾値aよりも低い状態に維持されるので、減速運転に移行した際の電力の回生に備えることができる。
図3中の右端に示すように減速運転に移行すると、クラッチ接続状態となって電力の回生が開始される。冷却手段40による主モータ13への冷却は、主モータ13の温度が第3温度閾値cを超えるまで停止することができる。
【0054】
すなわち、この制御では、
図11に示すように、クラッチ切断状態において冷却手段40は、例えば、第2温度閾値b以上の所定値を含む第1温度域(温度域A,Bに相当)では冷却条件1を採用し、第1冷却路42a及び第2冷却路42bの両方に冷媒を供給して主モータ13を回転させている。このとき、実施形態では主モータ13の回転は空転であるが、これを駆動で回転させてもよい。また、第1温度域(温度域A,Bに相当)の下限よりも低い温度域に設定された第2温度域(温度域Cに相当)では冷却条件2を採用し、第1冷却路42aに冷媒を供給するとともに第2冷却路42bを遮断して冷媒の供給を停止し、主モータ13を回転させている。このとき、実施形態では主モータ13の回転は駆動による回転であるが、これを空転で回転させてもよい。さらに、第2温度域(温度域Cに相当)の下限より低い温度域に設定された第3温度域(温度域Dに相当)では冷却条件3を採用し、第1冷却路42aと第2冷却路42bの両方に冷媒を供給して、主モータ13の回転を停止している。また、第3温度域(温度域Dに相当)の下限より低い温度域に設定された第4温度域(温度域Eに相当)では冷却条件4を採用し、第1冷却路42aを遮断して冷媒の供給を停止するとともに第2冷却路42bに冷媒を供給して、主モータ13の回転を停止している。
【0055】
冷却条件2,3,4は、いずれも冷却性能の最大状態である冷却条件1よりも冷却性能が制限された冷却制限状態である。また、ポンプ41を停止して冷媒の供給を全て停止し、主モータ13の回転を停止させた状態が、冷却手段40による冷却性能の最小状態である。すなわち、この制御では、冷却制御手段52は、主クラッチ14の切断中に冷却性能を第1状態よりも制限された冷却制限状態とし、その冷却制限状態を、主モータ13の温度が高いほど第1状態に近くなるように制御することで、減速状態への移行時に電力の回生に即座に対応できるようにしている。
【0056】
他の制御例として、例えば、冷却制御手段52は、冷却手段40による冷却性能が、バッテリ20の電力の残容量が高いほど冷却制限状態が第1状態に近くなるように制御する手法を採用することができる。
【0057】
図12は、バッテリ20の電力の残容量に基づいた3つの図表(マップ)を示している。上段は電力の残容量が高い高残容量時の冷却マップを、下段は電力の残容量が低い低残容量時の冷却マップを、中段は電力の残容量がその中間の中残容量時の冷却マップをそれぞれ示している。高残容量時は、例えば、電力の残容量が第1所定容量p以上と規定でき、低残容量時は、例えば、電力の残容量が第2所定容量r(p>r)未満と規定できる。このとき、中残容量時は、電力の残容量が所定容量r以上、所定容量p未満と規定できる。第1所定容量pは、例えば、満充電容量の75%、第2所定容量rは、例えば、満充電容量の25%等とすることができる。ここで、中残容量時の冷却マップは、バッテリ20の電力の残容量に基づかない制御の例である
図5と同じものを採用している。
【0058】
図12の3つのマップを比較すると、第1冷却路42aの活用に関し、高残容量時は、冷却条件1~4の全てにおいて、第1冷却路42aに冷媒を供給しているのに対し、中残容量時は、冷却条件1~3においてのみ第1冷却路42aに冷媒を供給し、低残容量時は、冷却条件1~2においてのみ第1冷却路42aに冷媒を供給するようにして、電量の残容量が小さくなるにつれて、第1冷却路42aを活用する運転条件を縮小している。これは、電力の残容量が少ないほど、第1冷却路42aの活用機会を限定することで、バッテリ20に残る電力を温存することを目的としている。
【0059】
また、
図12の3つのマップを比較すると、第2冷却路42bの活用に関し、高残容量時は、冷却条件3においてのみ第2冷却路42bに冷媒を供給しない設定としているのに対し、中残容量時は、冷却条件2においてのみ第2冷却路42bに冷媒を供給しない設定とし、低残容量時は、冷却条件1と4においてのみ第2冷却路42bに冷媒を供給しない設定としている。すなわち、電量の残容量が小さくなるにつれて、第2冷却路42bを活用する運転条件を縮小して、バッテリ20に残る電力を温存することを目的としている。ただし、高残容量時において、冷却条件3と冷却条件4との比較では、より高い温度域を対象とする冷却条件3では主モータ13の回転を第2冷却路42bの活用よりも優先し、冷却条件3よりも低い温度域を対象とする冷却条件4では、主モータ13の回転に代えて第2冷却路42bの活用を採用している。また、中残容量時において、冷却条件2と冷却条件3との比較では、より高い温度域を対象とする冷却条件2では主モータ13の回転を第2冷却路42bの活用よりも優先し、冷却条件2よりも低い温度域を対象とする冷却条件3では、主モータ13の回転に代えて第2冷却路42bの活用を採用している。さらに、低残容量時において、冷却条件1と冷却条件2との比較では、より高い温度域を対象とする冷却条件1では主モータ13の回転を第2冷却路42bの活用よりも優先し、冷却条件1よりも低い温度域を対象とする冷却条件2では、主モータ13の回転に代えて第2冷却路42bの活用を採用している。また、冷却条件4では、第2冷却路42bの活用を停止している。実施形態では、バッテリ20の残容量に応じて3つの冷却マップを設定したが、この冷却マップの数は自由に設定できる。例えば、バッテリ20の残容量に応じて2つの冷却マップを設定してもよいし、4つ以上の冷却マップを設定してもよい。
【0060】
上記の各態様からなる制御において、電動機制御手段53が、主クラッチ14の切断中に、主モータ13の温度が高いほど、その主モータ13の回転数を高くなるようにする制御を付加することができる。このように主モータ13の温度が高いほど主モータ13の回転数を高くする制御を付加することで、主モータ13の温度が高いほど冷媒の飛散範囲が広くなり、主モータ13の温度が高い時ほどその冷却性能を高めることができる。
【0061】
この冷却制御のフローチャートを
図13に示す。ステップS101で制御を開始し、ステップS102で主モータ13(以下、フローチャートでは電動機と記載)の温度の情報を取得する。ステップS103で、電動機の温度が、第1温度閾値a以上であれば、主クラッチ14(以下、フローチャートではクラッチと記載)が切断される。電動機の温度が、第1温度閾値a未満であれば、前行程に戻って処理が繰り返される。ステップS104でクラッチが切断され、ステップS105で再度、電動機の温度が取得される。ステップS106でクラッチの切断が継続していなければ、ステップS102に戻って処理が繰り返される。ステップS106でクラッチの切断が継続していれば、ステップS107で電動機の温度が判別される。ここで、電動機の温度が第2温度閾値b以上であれば、ステップS108に移行してバッテリの残容量の情報が取得される。続くステップS109では、バッテリの残容量に応じて冷却マップが選択される。ステップS110では、その選択された冷却マップにおいて、電動機の温度に応じた冷却条件(この場合は冷却条件1が該当)にて、電動機の冷却が開始される。その後、ステップS105に戻って処理を繰り返す。一方、ステップS107で電動機の温度が第2温度閾値b未満であれば、ステップS121に移行する。
【0062】
ステップS121では、再度電動機の温度が判別される。ここで、電動機の温度が第3温度閾値c以上であれば、ステップS122に移行してバッテリの残容量の情報が取得される。続くステップS123では、バッテリ20の残容量に応じて冷却マップが選択される。ステップS124では、その選択された冷却マップにおいて、電動機の温度に応じた冷却条件(この場合は冷却条件2が該当)にて、電動機の冷却が開始される。その後、ステップS125でその時点での運転状態が減速走行かどうかが判別される。減速状態の判別は、例えば、車速センサ16からの速度の情報によって行うことができ、あるいは、ブレーキペダル22やアクセルペダル32の操作量に基づいて電子制御ユニット50が減速状態であることを推定することも可能である。運転状態が減速走行でなければ、ステップS121に戻って処理を繰り返す。運転状態が減速走行であれば、ステップS126へ移行してクラッチが接続される。クラッチの接続により電力の回生が開始して、ステップS127で制御の処理が終了する。一方、ステップS121で電動機の温度が第3温度閾値c未満であれば、ステップS131に移行する。
【0063】
ステップS131では、再度電動機の温度が判別される。ここで、電動機の温度が第4温度閾値d以上であれば、ステップS132に移行してバッテリ20の残容量の情報が取得される。続くステップS133では、バッテリの残容量に応じて冷却マップが選択される。ステップS134では、その選択された冷却マップにおいて、電動機の温度に応じた冷却条件(この場合は冷却条件3が該当)にて、電動機の冷却が開始される。その後、ステップS135でその時点での運転状態が減速走行かどうかが判別される。運転状態が減速走行でなければ、ステップS131に戻って処理を繰り返す。運転状態が減速走行であれば、ステップS136へ移行してクラッチが接続される。クラッチの接続により電力の回生が開始して、ステップS137で制御の処理が終了する。一方、ステップS131で電動機の温度が第4温度閾値d未満であれば、ステップS142に移行する。
【0064】
ステップS142では、バッテリの残容量の情報が取得される。続くステップS143では、バッテリ20の残容量に応じて冷却マップが選択される。ステップS144では、その選択された冷却マップにおいて、電動機の温度に応じた冷却条件(この場合は冷却条件4が該当)にて、電動機の冷却が開始される。その後、ステップS145でその時点での運転状態が減速走行かどうかが判別される。運転状態が減速走行でなければ、前段に戻ってステップS145の処理を繰り返す。運転状態が減速走行であれば、ステップS146へ移行してクラッチが接続される。クラッチの接続により電力の回生が開始して、ステップS147で制御の処理が終了する。
【0065】
上記の実施形態では、冷媒が供給される冷却路42を2系統として、その2系統の冷却路42を切り替えることで冷却手段40の冷却性能を可変とする構成としたが、これ以外にも、例えば、冷却路42の系統の数に関わりなく、冷媒を送り出すポンプ41の出力を増減させることで冷却手段40の冷却性能を可変としてもよい。
【0066】
前述の車速追従制御において、この冷却制御を付加することで、例えば、電動機の温度が、第3温度閾値c(例えば、c=105℃)以上、且つ、第2温度閾値b(例えば、b=110℃)以下の温度域Cである場合は、回転する第1冷却路42aを通じて効率的な冷却を行い早期の温度低下を図る。さらに、車速が、例えば、60km/h以上の運転状態では、回生電力によって減速エネルギの大きい回収量を見込むことができる。このため、このような温度域Cにあり、且つ、車速が一定以上の高車速域で仮に減速状態に移行した際に大きな回生電力が見込める運転状態では、電動機の回転数を車速に応じた車軸の回転数と合わせた回転数、あるいは、それに近い回転数で空回ししておき、減速状態に移行した際に即座にクラッチを繋げるようにすることで、素早く回生運転を開始することができる。一般に、高車速域での車速追従モードの維持は、消費電力が大きいという問題があるが、定常モードの維持であれば消費電力は比較的小さいので、回転する第1冷却路42aを通じての効率的な冷却で、温度低下を促進することができる。すなわち、定常モードにおいて冷媒の吐出方向を回転させるためだけに必要なシャフト13aの回転数は、それほど大きくなくてもよいので、バッテリ20の電力の残容量が少ない場合にも、電動機の冷却を継続できる。
【0067】
上記の実施形態で説明したハイブリッド車両10及びその制御装置の構成、制御マップ、制御フローのフローチャート等は、いずれもこの発明を説明するための単なる例示に過ぎず、主モータ13による電力の回生の開始、すなわち、減速エネルギの回収の開始をできる限り早くするというこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、上記の構成要素、制御マップ、制御フロー等に適宜変更を加えることができる。また、上記においては、車軸直結式型の主モータ13を後輪11b側のみに設けた車両10に基づいてこの発明を説明したが、主モータ13がエンジン12を設けた側とは別の車軸に設けられていれば、例えば、主モータ13が前輪11a側及び後輪11b側の両方に設けられた車両10や、主モータ13を前輪11a側のみに設けた車両10に対しても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 ハイブリッド車両(車両)
11a 前輪(車輪)
11b 後輪(車輪)
12 エンジン
13 電動機(主モータ)
14 クラッチ(主クラッチ)
15 温度情報取得手段(温度センサ)
16 車速センサ
18 後輪側車軸(第2駆動軸)
19 後輪側ディファレンシャル
20 バッテリ
21 充電量センサ
22 ブレーキペダル
23 ブレーキセンサ
24 トルクコンバータ
25 連続可変トランスミッション
26 副クラッチ
27 前輪側ディファレンシャル
28 前輪側車軸(第1駆動軸)
29 副電動機(副モータ)
30 ベルト
31 クランクシャフト
32 アクセルペダル
33 アクセルポジションセンサ
40 冷却手段
41 ポンプ
42 冷却路
42a 第1冷却路
42b 第2冷却路
42c 戻り路
43 冷媒供給調整手段
50 電子制御ユニット
51 クラッチ制御手段
52 冷却制御手段
53 電動機制御手段
54 制御手段