(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059888
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形体ならびに前記ポリアミド樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220407BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220407BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220407BHJP
C08G 69/04 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L1/02
C08K7/02
C08G69/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167770
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】友利 剛士
(72)【発明者】
【氏名】野口 彰太
(72)【発明者】
【氏名】連 康一
(72)【発明者】
【氏名】中井 美穂
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001EA06
4J001EB08
4J001EC08
4J001EE21E
4J001EE25E
4J001EE25F
4J001EE35E
4J001EE35F
4J001FA03
4J001FB03
4J001FC03
4J001FD01
4J001GA14
4J001JA05
4J001JA08
4J001JC10
4J002AB012
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002EC046
4J002EJ036
4J002FA042
4J002FD012
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形体の機械的特性や熱寸法安定性、重合時の払い出しに優れたポリアミド樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリアミド(A)100質量部、セルロース繊維(B)0.1~50質量部、下記一般式(1)で示されるフルオレン系化合物(C)0.1~30質量部を含有するポリアミド樹脂組成物。
(式(1)中、環Zは芳香族炭化水素環、R
1およびR
2は置換基、Xはアミノ基または[(OR
3)
n-Y]基であり、Yは、ヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基、R
3はアルキレン基をである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド(A)100質量部と、セルロース繊維(B)0.1~50質量部と、下記一般式(1)で示されるフルオレン系化合物(C)0.1~30質量部とを含有するポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、環Zは芳香族炭化水素環、R
1およびR
2は置換基、Xはアミノ基または[(OR
3)
n-Y]基(前記式中、Yは、ヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基、R
3はアルキレン基、nは0以上の整数を示す。kは0~4の整数、mは0以上の整数、pは1以上の整数を示す。)
【請求項2】
下記式で示されるMD方向における線膨張係数減少率(CTER)の値が0<CTERである請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
CTER=(CTE0-CTE)/CTE0
(上記式中、CTEは、ポリアミド樹脂組成物のMD方向における線膨張係数(ppm/℃)を示し、CTE0は、前記ポリアミド樹脂組成物からフルオレン系化合物(C)を除いたポリアミド樹脂組成物のMD方向における線膨張係数(ppm/℃)を示す。)
【請求項3】
フルオレン系化合物(C)が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化2】
(上記一般式(2)中、Z、R
1、R
2、R
3、n、k、m、pは上記一般式(1)の場合と同一である。)
【請求項4】
フルオレン系化合物(C)が、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび/または9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンである請求項1~3いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
セルロース繊維(B)の平均繊維径が10μm以下である請求項1~4いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド(A)を構成するモノマーと、セルロース繊維(B)と、フルオレン系化合物(C)とを混合して重合反応をおこなう工程を含む請求項1~5いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形体ならびに前記ポリアミド樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリアミドの強化材としてセルロース繊維が用いられている。セルロース繊維には、樹木から得られるものや、稲、綿、ケナフ、バガス、アバカ、麻等の非木材資源から得られるものや、微生物が生産するバクテリアセルロース等があり、セルロース繊維は地球上に非常に多量に存在する。セルロース繊維は機械的特性に優れており、これを樹脂中に含有させることにより、樹脂組成物の特性を向上させる効果が期待される。
【0003】
熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を含有させる方法としては、特許文献1に、ポリアミドを構成するモノマーとセルロース繊維とを混合して重合反応をおこなって得たポリアミド樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1のポリアミド樹脂組成物は、樹脂中におけるセルロース繊維の分散性は未だ不十分であり、セルロース繊維による補強効果を完全に発揮しているとはいえず、使用用途が限定されていた。また、重合時の樹脂組成物の溶融粘度が高く、払い出し性が不良であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2011/126038号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであって、従来のセルロース繊維を含有したポリアミド樹脂組成物よりも、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性に優れ、さらに、重合時の払い出しに優れたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ポリアミドを構成するモノマーとセルロース繊維と特定のフルオレン系化合物とを混合して重合反応をおこなうことにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
<1>ポリアミド(A)100質量部と、セルロース繊維(B)0.1~50質量部と、下記一般式(1)で示されるフルオレン系化合物(C)0.1~30質量部とを含有するポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、環Zは芳香族炭化水素環、R
1およびR
2は置換基、Xはアミノ基または[(OR
3)
n-Y]基(前記式中、Yは、ヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基、R
3はアルキレン基、nは0以上の整数を示す。kは0~4の整数、mは0以上の整数、pは1以上の整数を示す。)
<2>下記式で示されるMD方向における線膨張係数減少率(CTER)の値が0<CTERである<1>に記載のポリアミド樹脂組成物。
CTER=(CTE
0-CTE)/CTE
0
(上記式中、CTEは、ポリアミド樹脂組成物のMD方向における線膨張係数(ppm/℃)を示し、CTE
0は、前記ポリアミド樹脂組成物からフルオレン系化合物(C)を除いたポリアミド樹脂組成物のMD方向における線膨張係数(ppm/℃)を示す。)
<3>フルオレン系化合物(C)が、下記一般式(2)で表される化合物である<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化2】
(上記一般式(2)中、Z、R
1、R
2、R
3、n、k、m、pは上記一般式(1)の場合と同一である。)
<4>フルオレン系化合物(C)が、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび/または9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンである<1>~<3>いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<5>セルロース繊維(B)の平均繊維径が10μm以下である<1>~<4>いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<6>ポリアミド(A)を構成するモノマーと、セルロース繊維(B)と、フルオレン系化合物(C)とを混合して重合反応をおこなう工程を含む<1>~<5>いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
<7><1>~<5>いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のセルロース繊維を含有したポリアミド樹脂組成物よりも、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性に優れ、さらに、重合時の払い出しに優れたポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ポリアミド樹脂組成物]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A)とセルロース繊維(B)とフルオレン系化合物(C)とを含有する。
【0010】
本発明に用いるポリアミド(A)は、アミノ酸、ラクタム、または、ジアミンとジカルボン酸とから形成されるアミド結合を有する重合体である。
【0011】
アミノ酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸が挙げられる。
【0012】
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムが挙げられる。
【0013】
ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジンが挙げられる。
【0014】
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸が挙げられる。
【0015】
本発明に用いるポリアミド(A)の具体例としては、例えば、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンウンデカミド(ポリアミド611)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1210)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド6T(H))、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリノナメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド9T(H))、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリデカメチレンデカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))が挙げられる。ポリアミド(A)は、これらのポリマーを構成する2種以上のモノマーの共重合体、またはこれらのポリマーから選択される2種以上のポリマーの混合物いずれであってもよい。中でも、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上と、重合時の払い出し性の向上の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12およびこれらの共重合体ならびに混合物からなる群から選択される1種以上のポリアミドが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66およびこれらの共重合体ならびに混合物からなる群から選択される1種以上のポリアミドがより好ましく、ポリアミド6がさらに好ましい。
【0016】
ポリアミド(A)の分子量は特に限定されず、例えば、後述する相対粘度が達成されるような分子量を有していればよい。
【0017】
ポリアミド(A)の相対粘度は、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上と、重合時の払い出し性の向上の観点から、溶媒として96%硫酸を用いて、温度25℃、濃度1g/100mLで測定した場合において、1.5~5.0であることが好ましく、1.7~4.0であることがより好ましい。セルロース繊維を後述のように予めポリアミドに分散させる場合は、セルロース繊維を分散させたポリアミドの相対粘度が上記範囲内であることが好ましい。
【0018】
ポリアミド(A)は、公知の重縮合法、または、さらに固相重合法を併用する方法で製造することができる。
【0019】
本発明に用いるセルロース繊維(B)としては、例えば、木材、稲、綿、ケナフ、バガス、アバカ、麻等の植物に由来するものや、バクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等の生物由来のものや、再生セルロース、セルロース誘導体が挙げられる。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、セルロース繊維(B)を含有することによって、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性を向上させることができる。機械的特性や熱寸法安定性を十分に向上させるには、セルロース繊維を凝集させることなく、樹脂中に均一に分散させることが好ましい。セルロース繊維は、ポリアミドと接するセルロース繊維表面の水酸基が多いほど分散しやすいため、表面積が大きいことが好ましい。このため、セルロース繊維(B)は、できるだけ微細化されたものが好ましい。用いるセルロース繊維としては、最終的に樹脂組成物中に均一に分散できるものであれば、化学的に未変性のものでも、化学的に変性させたものでも、特に限定されない。
【0021】
本発明の樹脂組成物におけるセルロース繊維(B)の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上の観点から、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましく、1~400nmであることが十分に好ましく、5~100nmであることが特に好ましく、20~100nmであることが最も好ましい。一方、平均繊維径の下限は、セルロース繊維の生産性を考慮すると4nm以上とすることが好ましい。なお、後述のようにポリアミド(A)の重合時にセルロース繊維を添加する実施態様において、ポリアミド(A)の溶融重合後や成形体とした場合のセルロース繊維の平均繊維径は、溶融重合や成形によりセルロース繊維に剪断力がかかり、用いたセルロース繊維よりも、小さくなる傾向がある。成形体におけるセルロース繊維(B)の平均繊維径を10μm以下とするには、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を用いればよい。
【0022】
本発明の樹脂組成物におけるセルロース繊維(B)の平均繊維長は特に限定されないが、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上の観点から、0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、0.8μm以上であることがさらに好ましい。セルロース繊維(B)の平均繊維長の上限値は特に限定されず、平均繊維長は通常、100μm以下であることが好ましく、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上と、重合時の払い出し性の向上の観点から、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。なお、後述のようにポリアミド(A)の重合時にセルロース繊維を添加する実施態様において、ポリアミド(A)の溶融重合後や成形体とした場合のセルロース繊維の平均繊維長は、溶融重合や成形によりセルロース繊維に剪断力がかかり、用いたセルロース繊維よりも、小さくなる傾向がある。成形体におけるセルロース繊維(B)の平均繊維長を0.2μm以上とするには、平均繊維長が0.2μm以上のセルロース繊維を用いればよい。
【0023】
本発明においては、樹脂組成物におけるセルロース繊維(B)の平均繊維径および平均繊維長は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体における平均繊維径および平均繊維長を指す。詳しくは、後述する測定方法によって測定される平均繊維径および平均繊維長を指す。なお樹脂組成物におけるセルロース繊維(B)の平均繊維径は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体における平均繊維径および平均繊維長とほとんど変わらない。
【0024】
セルロース繊維の平均繊維径を10μm以下とするためには、ポリアミドに配合するセルロース繊維として、平均繊維径が10μm以下のものを用いることが好ましい。平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(B)は、セルロース繊維を引き裂くことによってミクロフィブリル化することにより得ることができる。ミクロフィブリル化する手段としては、ボールミル、石臼粉砕機、高圧ホモジナイザー、ミキサー等各種粉砕装置を用いることができる。上記のミクロフィブリル化したセルロース繊維の水分散液の市販品としては、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」や中越パルプ工業社製「ナノフォレスト」が挙げられる。
【0025】
平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(B)としては、微細化セルロースも用いることができる。微細化セルロースは、例えば、N-オキシル化合物と共酸化剤と臭化アルカリ金属を含む水溶液中で、セルロース繊維を酸化させた後、水洗、解繊をおこなうことにより製造することができる。N-オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6-Tetramethylpiperidine-1-oxyl radicalが挙げられ、共酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。反応は、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性の化合物を添加してpHを10付近としてから、pHの変化が見られなくなるまでおこなう。反応温度としては、常温が好ましい。反応後、系内に残存するN-オキシル化合物や共酸化剤や臭化アルカリ金属を除去することが好ましい。水洗方法としては、ろ過や遠心分離による方法が挙げられる。解繊方法としては、上記のミクロフィブリル化する際に挙げた各種粉砕装置による方法が挙げられる。
【0026】
平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(B)として、セルロース繊維を用いた繊維製品の製造工程において、屑糸として出されたセルロース繊維の集合体を用いることもできる。繊維製品の製造工程とは紡績時、織布時、不織布製造時、その他、繊維製品の加工時等が挙げられる。これらのセルロース繊維の集合体は、セルロース繊維がこれらの工程を経た後に屑糸となったものであるため、セルロース繊維が微細化したものとなっている。
【0027】
平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(B)としては、バクテリアが産出するバクテリアセルロースも用いることができる。バクテリアセルロースとしては、例えば、アセトバクター属の酢酸菌を生産菌として産出されたものが挙げられる。植物のセルロースは、セルロースの分子鎖が収束したもので、非常に細いミクロフィブリルが束になって形成されているものであるのに対し、酢酸菌より産出されたセルロースはもともと幅20~50nmのリボン状であり、植物のセルロースと比較すると極めて細い網目状を形成している。バクテリアセルロースは、バクテリアが前記セルロースとともに酢酸を産出するため、酢酸と併存することがある。その場合、溶媒を水に置換して用いることが好ましい。
【0028】
また、セルロース繊維は、セルロース由来の水酸基がいかなる置換基によっても変性されていない未変性のセルロース繊維であってもよいし、またはセルロース由来の水酸基(特にその一部)が変性(または置換)された変性セルロース繊維であってもよい。セルロース由来の水酸基に導入される置換基としては特に限定されず、例えば、親水性の置換基、疎水性の置換基が挙げられる。変性セルロース繊維において、置換基により変性(または置換)される水酸基は、セルロース由来の水酸基のうちの一部であり、その置換度は、0.05~2.0であることが好ましく、0.1~1.0であることがより好ましく、0.1~0.8であることがさらに好ましい。なお、置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を表す。すなわち、「導入された置換基のモル数を、グルコピラノース環の総モル数で割った値」として定義される。純粋なセルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、本発明のセルロース繊維の置換度の理論最大値は3、理論最小値は0である。親水性の置換基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基等が挙げられる。疎水性の置換基としては、例えば、シリルエーテル基、アルキルエーテル基、アルキルエステル基が挙げられる。
【0029】
セルロース繊維(B)は、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上と、重合時の払い出し性の向上の観点から、未変性セルロース繊維、親水性の置換基で変性されたセルロース繊維またはそれらの混合繊維であることが好ましく、未変性セルロース繊維であることがより好ましい。
【0030】
本発明の成形体におけるセルロース繊維(B)のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましく、50以上であることが特に好ましい。アスペクト比を10以上とすることにより、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上と、重合時の払い出し性の向上の観点から、セルロース繊維(B)のアスペクト比の上限値は特に限定されず、当該アスペクト比は、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、セルロース繊維(B)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.1~50質量部とすることが必要であり、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上と、重合時の払い出し性の向上の観点から、0.5~20質量部とすることが好ましく、1~12質量部とすることがより好ましく、1~10質量部とすることがさらに好ましく、1~8質量部とすることが特に好ましく、1~4質量部でとすることが最も好ましい。セルロース繊維の含有量がポリアミド(A)100質量部に対して0.1質量部未満である場合、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性の向上効果が小さくなるため好ましくない。一方、セルロース繊維(B)の含有量がポリアミド(A)100質量部に対して50質量部を超える場合、セルロース繊維(B)を樹脂組成物中に含有させることが困難となったり、溶融樹脂の流動性が悪化するため樹脂組成物の成形性が低下したり、樹脂表面にセルロース繊維が浮き出てしまい表面外観が悪化したりするので好ましくない。
【0032】
本発明に用いるフルオレン系化合物(C)は、下記一般式(1)で示されるフルオレン系化合物(以下、単に「フルオレン系化合物」という。)である。
【化3】
(上記一般式(1)中、環Zは芳香族炭化水素環、R
1およびR
2は置換基、Xはアミノ基または[(OR
3)
n-Y]基(前記式中、Yは、ヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基、R
3はアルキレン基、nは0以上の整数を示す。kは0~4の整数、mは0以上の整数、pは1以上の整数を示す。)
【0033】
上記一般式(1)において、環Zは芳香族炭化水素環であって、例えば、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ビフェニル環、テルフェニル環、ビナフチル環が挙げられる。中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。2つの環Zは同一の環であってもよいし異なる環であってもよい。
【0034】
置換基R1としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子、炭化水素基、アシル基が挙げられる。置換数kは、0~4の整数であって、0~1であることが好ましく、0であることがより好ましい。なお、2つの置換数kは、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0035】
環Zに置換する置換基R2としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロへキシル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、メトキシ基、エトキシ基、シクロへキシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、メチルチオ基、アセチル基、メトキシカルボニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基が挙げられる。置換数mは、環Zの種類に応じて選択され、0以上の整数であって、0~8であることが好ましく、0~4であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。なお、2つの環Zにおいて、置換数mは、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0036】
上記一般式(1)のXにおいて、R3で示されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基等が挙げられる。なお、nが2以上である場合、アルキレン基の種類は同一のアルキレン基で構成されていてもよいし異なるアルキレン基で構成されていてもよい。また、2つの環Zにおいて、R3の種類は同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0037】
オキシアルキレン基(OR3)の数(付加モル数)nは、0以上であればよく、0~15であることが好ましく、0~10であることがより好ましく、0~5であることがさらに好ましい。なお、置換数pが2以上である場合、置換数nは、環Zに置換する2以上の[(OR3)n-Y]基において、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0038】
Xは、アミノ基または[(OR3)n-Y]基である。Yはヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基である。中でもヒドロキシル基であることが好ましい。なお、一般式(1)において、Yがヒドロキシル基である化合物、およびこれらの化合物のアルキレンオキサイド付加体は、下記一般式(2)で示される。
【0039】
【化4】
(上記一般式(2)中、Z、R
1、R
2、R
3、n、k、m、pは上記一般式(1)の場合と同一である。)
【0040】
Xの置換数pは、1以上であって、1~4であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1~2であることがさらに好ましい。なお、置換数pは、それぞれの環Zにおいて、同一であってもよいし異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0041】
上記一般式(1)または上記一般式(2)において、Xの置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。例えば、環Zがベンゼン環である場合、Xは、フェニル基の2~6位に置換していればよく、4位に置換していることが好ましい
【0042】
フルオレン系化合物としては、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類、9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類、9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類が挙げられる。これらの化合物においては、ヒドロキシル基が、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基に置換した化合物等が含まれる。
【0043】
9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0044】
9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンが挙げられる。
【0045】
9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンが挙げられる。
【0046】
9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレンが挙げられる。
【0047】
フルオレン系化合物(C)は、上記のフルオレン系化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0048】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、フルオレン系化合物(C)を含有することにより、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性が向上し、さらに、重合時の払い出し性を優れたものとすることができる。ポリアミド樹脂組成物にセルロース繊維(B)を含有させるだけでは、得られる成形体は十分な機械的特性や熱寸法安定性が得られず、重合時の払い出し性も十分ではない。また、ポリアミド樹脂組成物にフルオレン系化合物(C)を含有させただけでも、十分な機械的特性や熱寸法安定性は得られない。本発明のポリアミド樹脂組成物は、フルオレン系化合物(C)を含有することにより、流動性が向上されたものとなるので、溶融加工時の加工温度を下げることもでき、溶融加工時の熱劣化を抑制することができる。
【0049】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、フルオレン系化合物(C)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.1~30質量部とすることが必要であり、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性のさらなる向上と、重合時の払い出し性の向上の観点から、0.5~25質量部とすることが好ましく、1~15質量部とすることがより好ましく、1~5質量部とすることがさらに好ましい。フルオレン系化合物(C)の含有量が0.1質量部未満の場合、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性が向上せず、重合時の払い出し性が向上しないので好ましくない。一方、フルオレン系化合物(C)の質量量が30質量部を超える場合、機械的特性、熱寸法安定性および払い出し性の向上効果が飽和し、それ以上の効果発現が見込めないだけでなく、樹脂組成物の成形体は、表面にフルオレン系化合物がブリードアウトして外観が損なわれることや、機械的特性が不十分となるので好ましくない。フルオレン系化合物(C)を複数種併用する場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。
【0050】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、層状珪酸塩、充填材、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、結晶核剤等の添加剤を含有してもよい。
【0051】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形体の機械的特性を示す曲げ強度が、115MPa以上であることが好ましく、120MPa以上であることがより好ましく、125MPa以上であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形体の熱寸法安定性を示す線膨張係数が、75ppm/℃以下であることが好ましく、65ppm/℃以下であることがより好ましく、55ppm/℃以下であることがさらに好ましい。また、従来のセルロース繊維を含有したポリアミド樹脂組成物との熱寸法安定性の向上率を示す、後述する測定方法によって求められるCTERの値は0を超えることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.15以上であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、溶融重合物の払い出し性を示す収率が、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0054】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリアミド(A)の重合時にセルロース繊維およびフルオレン系化合物を添加することにより製造することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法において、詳しくは、ポリアミドを構成するモノマーとセルロース繊維の水分散液とフルオレン系化合物とを混合し、必要に応じて触媒を添加して、重合(例えば溶融重合)をおこない、セルロース繊維とフルオレン系化合物を含有したポリアミド(以下、「ポリアミドX」と略称する。)を作製する。樹脂組成物は、いわゆるペレットの形態を有していてもよい。ポリアミド(A)の重合時とは、ポリアミド(A)を構成するモノマーを用いた重合時だけでなく、ポリアミドを構成し得るプレポリマーを用いた重合時も包含する。
【0055】
ポリアミドXは、例えば、ポリアミド(A)を構成するモノマーまたはプレポリマーとセルロース繊維の水分散液とフルオレン系化合物との混合液を、ミキサー等で攪拌することにより均一な分散液とし、その混合液を加熱し、150~270℃まで昇温させて水を蒸発させつつ溶融重合することにより得ることができる。なお、溶融重合に用いるセルロース繊維の水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で攪拌することにより得ることができる。セルロース繊維の水分散液における固形分量は0.01~50質量%とすることが好ましい。
【0056】
重合効率を高めるため、重合触媒を用いてもよい。重合触媒は、溶融重合前、溶融重合中、精練前、精練中、精練後いずれの工程で添加してもよいが、溶融重合前に添加することが好ましい。重合触媒としては、ポリアミドの溶融重合に通常用いられるものであれば特に限定されない。重合時においては必要に応じてリン酸や亜リン酸等の触媒を添加してもよい。
【0057】
セルロース繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合においては、セルロース繊維の水分散液として、バクテリアセルロースを精製水に浸して溶媒置換したものを用いてもよい。バクテリアセルロースの溶媒置換したものを用いる際には、溶媒置換後、所定の濃度に調整したものを、ポリアミドを構成するモノマーに混合し、上記と同様に重合反応を進行させることが好ましい。
【0058】
上記方法においては、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を水分散液のまま重合反応に供すること、かつ、フルオレン系化合物を添加することになるため、セルロース繊維を分散性が良好な状態で重合反応に供することができる。さらに、重合反応に供されたセルロース繊維は、重合反応中のモノマーや水、フルオレン系化合物との相互作用により、また上記のような温度条件で撹拌することにより、分散性が向上し、繊維同士が凝集することがなく、平均繊維径が小さいセルロース繊維が良好に分散した樹脂組成物を得ることができる。なお、上記方法によれば、重合反応前に添加したセルロース繊維よりも、重合反応終了後に樹脂組成物中に含有されているセルロース繊維の方が、平均繊維径が小さくなることがある。
【0059】
このような方法により、ポリアミド中にセルロース繊維を比較的小さな平均繊維径で凝集させずに均一に分散させることができる。セルロース繊維の存在下に重合させるモノマーは、プレポリマーであってもよい。ここで、プレポリマーとは、モノマーがポリマー化する途中の中間生成物のことである。
【0060】
重合反応時(例えば重合反応前、重合反応中または重合反応後)に、上記した樹脂組成物中に添加されてもよい添加剤を加えてもよい。
【0061】
上記方法においては、セルロース繊維を乾燥させる工程が不要となり、微細なセルロース繊維の飛散が生じる工程を経ずに製造ができるため、操業性よくポリアミドまたはポリアミド樹脂組成物を得ることができる。またモノマーとセルロース繊維を均一に分散させる目的として水を有機溶媒に置換する必要がないため、ハンドリングに優れるとともに製造工程中において化学物質の排出を抑制することができる。
【0062】
溶融重合終了後、得られたポリアミドXは、払い出した後、切断してペレットとすることが好ましい。ペレットのサイズは特に限定されないが、ハンドリングの観点や後述する精練の効率の観点から、直径2~5mm、長さ3~6mmとすることが好ましく、直径3~4mm、長さ4~5mmとすることがより好ましい。
【0063】
ポリアミドXは、未反応のモノマーやオリゴマーを除去するため、90~100℃の水に浸漬して、精練することが好ましい。
【0064】
溶融重合後のポリアミドX、または必要に応じて精練した後のポリアミドXは、さらに重合度を上げるため、不活性ガス流通下または減圧下で、ポリアミドXの融点未満の温度で30分以上加熱して固相重合してもよい。なお、加熱温度が、(ポリアミドXの融点-75℃)未満の場合、反応速度が遅くなる場合があり、ポリアミドXの融点付近では、ポリアミドが融着したり、着色が生じたりする場合がある。
【0065】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、機械的特性および熱寸法安定性に優れ、さらに、重合時の払い出し性に優れた成形体を得ることができる。
【0066】
[成形体]
本発明の成形体は、上記した本発明のポリアミド樹脂組成物を公知の成形方法により成形することで得ることができる。公知の成形方法としては、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形が挙げられる。前記の成形方法により、射出成形してなる成形体や、押出成形してなるフィルムまたはシート(以下、「フィルム等」という)およびこれらのフィルム等またはこれらを延伸したフィルム等から加工してなる成形体や、ブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体や、溶融紡糸して得られるフィラメント(繊維)およびこれを延伸してなるフィラメントを3Dプリンターに介して得られる造形体や、ペレットまたは粉砕物を3Dプリンターに介して得られる造形体等を得ることができる。
【0067】
上記記載の成形方法の中でも、射出成形が好ましい。射出成形としては、一般的な射出成形のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。射出成形機としては、特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物特にポリアミドの融点以上とすることが好ましく、「融点+100℃」未満とすることが好ましい。なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いるポリアミド樹脂組成物は十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いる樹脂組成物の水分率は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
【0068】
本発明のポリアミド樹脂組成物の射出成形条件としては、シリンダー温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上とすることが好ましく、190~270℃とすることがより好ましく、金型温度を「樹脂組成物の融点-20℃」以下とすることが好ましい。成形温度が低すぎると成形体にショートが発生する等成形性が不安定になったり、得られる成形体の表面光沢度が失われたりすることがある。一方、成形温度が高すぎるとポリアミド樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、表面光沢度が低下したりする要因となる場合がある。
【0069】
本発明の成形体は、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性に優れているので、各種自動車部品、電気、電子部品に好適に用いることができる。自動車部品としては、例えば、インストルメントパネルでのスピードメーター、タコメーター、燃料計、水温計、距離計等の各種計器類、カーステレオ、ナビゲーションシステム、エアコン周りの各種スイッチ、ボタン、センターコンソールでのシフトレバー、サイドブレーキの握り部、ドアトリム、アームレスト、ドアレバーが挙げられる。電気、電子部品としては、例えば、パソコン周辺の各種部品および筐体、携帯電話部品および筐体、その他OA機器部品が挙げられる。
【実施例0070】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0071】
A.測定方法
(1)試験片中のセルロース繊維の平均繊維径および平均繊維長
後述の(2)で得られた多目的試験片A型を試験片として用いた。
試験片から、凍結ウルトラミクロトームを用いて厚さ100nmの切片を採取し、OsO4(四酸化オスミウム)で切片染色を実施後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-1230)を用いて観察をおこなった。電子顕微鏡画像からセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さおよび長手方向の長さを測定した。このとき、垂直方向の長さのうち最大のものを繊維径とした。同様にして10本のセルロース繊維(単繊維)の繊維径および繊維長を測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維径および平均繊維長とした。なお、セルロース繊維の繊維径および平均繊維長が大きいものについては、ミクロトームにて10μmの切片を切り出したものか、試験片をそのままの状態で、実体顕微鏡(OLYMPUS SZ-40)を用いて観察をおこない、得られた画像から上記と同様にして繊維径および繊維長を測定し、平均繊維径および平均繊維長を求めた。
【0072】
(2)機械的特性(曲げ強度)
十分に乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製 NEX110-12E)を用いて射出成形し、ISO規格3167に準拠した多目的試験片A型を得た。射出成形の条件は、樹脂温度250℃、金型温度70℃、保圧30~100MPa、射出速度10~150mm/s、冷却時間20秒とした。
得られた多目的試験片の曲げ強度を、ISO178準拠の3点支持曲げ法(支点間距離:64mm、試験速度:2mm/分、試験雰囲気:23℃、50%RH、絶乾状態)にて測定した。曲げ強度を以下の基準に従って評価した。
◎:125MPa≦曲げ強度(最良);
○:120MPa≦曲げ強度<125MPa(良);
△:115MPa≦曲げ強度<120MPa(実用上問題なし);
×:曲げ強度<115MPa(実用上問題あり)。
【0073】
(3)熱寸法安定性(線膨張係数)
(2)で得られた試験片を、射出成形時の樹脂の流動方向(MD方向)が長手方向になるように、10mm×4mm×4mmtに切り出した。そのサンプルのMD方向の線膨張係数を、JIS K 7197に基づき、TA Instruments社製のTMA2940 Thermomechanical Analyzerを用いてスタンダード膨張プローブで測定した。窒素流通で50mN荷重をかけ、10℃から150℃まで5℃/min昇温で測定するものとする。このとき、20~150℃の領域での平均値を算出する(n=3)。線膨張係数は、以下の基準を以下の基準に従って評価した。
◎:55ppm/℃≧線膨張係数(最良);
○:65ppm/℃≧線膨張係数>55ppm/℃(良);
○:75ppm/℃≧線膨張係数>65ppm/℃(実用上問題なし);
×:線膨張係数>75ppm/℃(実用上問題あり)。
【0074】
(4)機械的特性(CTER)
実施例1~16においては、フルオレン系化合物を含有させない以外は同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
得られた十分に乾燥した樹脂組成物を用いて、(2)と同様の操作をおこなって得た、多目的試験片A型から、(3)と同様の操作をおこなって、切り出したサンプルを得て、CTE0(ppm/℃)とした。
上記(3)で求めた線膨張係数をCTE(ppm/℃)とし、下記式から、CTERの値を求めた。
CTER=(CTE0-CTE)/CTE0
(上記式中、CTEは、ポリアミド樹脂組成物のMD方向における線膨張係数(ppm/℃)を示し、CTE0は、前記ポリアミド樹脂組成物からフルオレン系化合物(C)を除いたポリアミド樹脂組成物のMD方向における線膨張係数(ppm/℃)を示す。)
CTERを以下の基準に従って評価した。
◎:0.15≦CTER(最良);
○:0.10≦CTER<0.15(良);
△:0<CTER<0.10(実用上問題なし);
×:CTER≦0(実用上問題あり)。
【0075】
(6)収率(払い出し性)
溶融重合物を窒素圧0.7MPaで押出し、投入したモノマーから計算される理論収量に対して、回収した樹脂組成物の収率を算出した。収率を以下の基準に従って評価した。
◎:90%≦収率(最良);
○:85%≦収率<90%(良);
△:80%≦収率<85%(実用上問題なし);
×:収率<80%(実用上問題あり)。
【0076】
(7)総合評価
実施例1~16について、機械的特性および熱寸法安定性の評価結果に基づいて、総合的に評価した。
◎:上記した特性についての全ての評価結果が◎であった;
○:上記した特性についての全ての評価結果のうち、最も低い評価結果が○であった;
△:上記した特性についての全ての評価結果のうち、最も低い評価結果が△であった;
×:上記した特性についての全ての評価結果のうち、最も低い評価結果が×であった。
【0077】
B.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0078】
(1)ポリアミドのモノマー成分
・ε-カプロラクタム:宇部興産社製
・ポリアミド66塩(ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の等モル塩、ポリアミドプレポリマー)
【0079】
(2)セルロース繊維
・KY100G:ダイセルファインケム社製 セリッシュKY100G、平均繊維径が125nmの未変性のセルロース繊維が10質量%含有されたもの。
・KY100S:ダイセルファインケム社製 セリッシュKY100S、平均繊維径が140nmの未変性のセルロース繊維が25質量%含有されたもの。
・KY110N:ダイセルファインケム社製 セリッシュKY110N、平均繊維径が125nmの未変性のセルロース繊維が15質量%含有されたもの。
【0080】
・バクテリアセルロース(未変性セルロース)
0.5質量%グルコース、0.5質量%ポリペプトン、0.5質量%酵母エキス、0.1質量%硫酸マグネシウム7水和物からなる組成の培地50mLを、200mL容三角フラスコに分注し、オートクレーブで120℃、20分間蒸気滅菌した。これに試験管斜面寒天培地で生育させたGluconacetobacter xylinus (NBRC 16670)を1白金耳接種し、30℃で7日間静置培養した。7日後、培養液の上層に白色のゲル膜状のバクテリアセルロースが生成した。
得られたバクテリアセルロースをミキサーで破砕後、水で浸漬、洗浄を繰り返すことにより、水置換をおこない、平均繊維径が60nmのバクテリアセルロースが4.1質量%含有されたものを調製した。
【0081】
・屑糸
不織布の製造工程において屑糸として出されたセルロース繊維の集合体に、精製水を加えてミキサーで攪拌し、平均繊維径が120nmのセルロース繊維が3質量%含有された水分散液を調製した。
【0082】
・TEMPO触媒酸化セルロース繊維(セルロース由来の水酸基の一部が親水性の置換基で変性されたセルロース繊維):
漂白後の針葉樹由来の未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)を、TEMPO 780mgおよび臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mLに添加し、パルプが均一に分散するまで撹拌した。そこに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように加えることで酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するため、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターにより濾過してパルプを分離し、十分に水洗することで酸化されたパルプを得た。上記の工程で得られた酸化パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、平均繊維径が10nmのTEMPO触媒酸化セルロース繊維が1.0質量%含有された水分散液を調製した。
なお、TEMPO触媒酸化セルロース繊維を1H-NMR、13C-NMR、FT-IR、中和滴定で分析したところ、セルロース由来の水酸基の一部がカルボキシル基で置換されており、その置換度は0.3であることを確認した。
【0083】
・エーテル変性セルロース繊維(セルロース由来の水酸基の一部が疎水性の置換基で変性されたセルロース繊維):
針葉樹漂白クラフトパルプ(王子製紙社製、固形分25%)600gに水19.94kg添加し、固形分濃度が0.75質量%の水懸濁液を調製した。得られたスラリーの機械的解繊処理をビーズミル(アイメックス社製 NVM-2)を用いておこない、セルロース繊維を得た(ジルコニアビーズ直径1mm、ビーズ充填量70%、回転数2000rpm、処理回数2回)。遠心分離管一本あたりに、得られたセルロース繊維水分散液100gを入れ、遠心分離(7000rpm、20分)をおこない、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。遠心分離管一本あたりに、アセトン100gを加えて、よく撹拌し、アセトン中に分散させ、遠心分離をおこない、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。上記の操作をさらに二回繰り返し、固形分5質量%のセルロース繊維アセトンスラリーを得た。
撹拌羽根を備えた四つ口1Lフラスコに、得られたセルロース繊維アセトンスラリーをセルロース繊維の固形分が5gになるように投入した。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を500mL、トルエンを250mL加え、撹拌しながらセルロース繊維をNMP/トルエン中に分散させた。冷却器を取り付け、窒素雰囲気下、分散液を150℃に加熱し、分散液中に含まれるアセトン、水分をトルエンとともに留去した。その後分散液を40℃まで冷却し、ピリジン15mL、ヘキサメチルジシラザン(シリルエーテル化剤)25gを添加して窒素雰囲気下90分反応させ、エーテル変性セルロース繊維のNMP分散液を調製した。
得られたエーテル変性セルロース繊維のNMP分散液を遠心分離機によりセルロース繊維を沈殿させ水置換した。これを3回繰り返し、水で調製し、平均繊維径が100nmのエーテル変性セルロース繊維が1.0質量%含有された水分散液を調製した。
なお、エーテル変性セルロース繊維を1H-NMR、13C-NMR、FT-IRで分析したところ、セルロース由来の水酸基の一部が疎水性のシリルエーテル基で置換されており、その置換度は0.3であることを確認した。
【0084】
(3)フルオレン系化合物
・BPEF 東京化成工業社製、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン
・BPF 東京化成工業社製、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン
【0085】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100Gを用いて、これに精製水を加えてミキサーで撹拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。このセルロース繊維の水分散液66.67質量部と、ε-カプロラクタム100質量部と、BPEF5質量部を、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合した。続いて、この混合分散液を重合装置に投入後、撹拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.5MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で樹脂組成物をストランド状に払い出し、切断して、セルロース繊維をポリアミドに配合したポリアミドXのペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥し、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0086】
実施例2~4、比較例16,17
表1のBPEFの含有量になるように、用いるBPEFの配合量を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0087】
実施例5、6
フルオレン系化合物を表1のフルオレン系化合物に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0088】
実施例7~12
用いるセルロース繊維の分散液を表1に記載のセルロース繊維の分散液に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0089】
実施例13~15
表1のセルロース繊維の含有量になるように、用いるセリッシュKY100Gの配合量を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0090】
実施例16
実施例1で得られたセルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液66.67質量部と、ポリアミド66塩100質量部と、BPEF5質量部とを、均一な溶液となるまでミキサーで撹拌、混合した。続いて、この混合溶液を230℃で撹拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、さらに1時間重合をおこなった。重合が終了した時点で樹脂組成物をストランド状に払い出し、切断して、セルロース繊維をポリアミドに配合したポリアミドXのペレットを得た。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥し、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。ポリアミド66塩は、ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の等モル塩であって、ポリアミドプレポリマーである。
【0091】
実施例17
表1のBPEFの含有量になるように、用いるBPEFの配合量を変更する以外は、実施例16と同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0092】
比較例1
ε-カプロラクタムを重合装置に投入後、撹拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.5MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で樹脂をストランド状に払い出し、切断して、ポリアミド6のペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥し、乾燥したPA6樹脂のペレットを得た。
【0093】
比較例2
ポリアミド66塩を230℃で撹拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、さらに1時間重合をおこなった。重合が終了した時点で樹脂をストランド状に払い出し、切断して、ポリアミド66のペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥し、乾燥したポリアミド66樹脂のペレットを得た。
【0094】
比較例3
ε-カプロラクタムと、BPEF5質量部とを重合装置に投入後、撹拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.5MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で樹脂をストランド状に払い出し、切断して、ポリアミド6のペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で精練した後、乾燥して、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0095】
比較例4
ポリアミド66塩と、BPEF5質量部とを230℃で撹拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、さらに1時間重合をおこなった。重合が終了した時点で樹脂をストランド状に払い出し、切断して、ポリアミド66のペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥し、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0096】
比較例5
実施例1で得られたセルロース繊維の水分散液66.67質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合した。続いて、この混合分散液を重合装置に投入後、撹拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.5MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で樹脂組成物をストランド状に払い出し、切断して、セルロース繊維をポリアミドに配合したポリアミドXのペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥し、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0097】
比較例6~11
用いるセルロース繊維の分散液を表1に記載のセルロース繊維の分散液を変更する以外は、比較例5と同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0098】
比較例12~14、18
表1のセルロース繊維の含有量になるように、用いるセリッシュKY100Gの配合量を変更する以外は、比較例5と同様の操作をおこない、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。
【0099】
比較例15
実施例1で得られたセルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液66.67質量部と、ポリアミド66塩100質量部とを、均一な溶液となるまでミキサーで撹拌、混合した。続いて、この混合溶液を230℃で撹拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、さらに1時間重合をおこなった。重合が終了した時点で樹脂組成物をストランド状に払い出し、切断して、セルロース繊維をポリアミドに配合したポリアミドXのペレットを得た。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥し、乾燥したポリアミドXのペレットを得た。ポリアミド66塩は、ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の等モル塩であって、ポリアミドプレポリマーである。
【0100】
比較例19
実施例1で得られたセルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム2質量部と、BPEF5質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合した。続いて、この混合分散液を重合装置に投入後、撹拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.5MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で樹脂組成物をストランド状に払い出そうとしたが、セルロース繊維の含有量が高かったため、ペレットを得ることができなかった。
【0101】
実施例1~17および比較例1~19で得られたポリアミド樹脂組成物の樹脂組成および評価結果を表1に示す。
【0102】
【0103】
実施例1~17のポリアミド樹脂組成物は、フルオレン系化合物を配合せずに重合した従来のポリアミド樹脂組成物よりも、得られる成形体の機械的特性や熱寸法安定性が向上し、さらに重合時の払い出し性が向上した。
実施例1~6、7~12、13~15、16~17のポリアミド樹脂組成物と、それぞれ、比較例5、6~11、12~14、15のポリアミド樹脂組成物と対比することにより、重合時にフルオレン系化合物を添加することにより、機械的特性や熱寸法安定性が向上し、さらに、払い出し性が向上することがわかる。
比較例1、2のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維およびフルオレン系化合物を用いなかったため、曲げ強度が低く、線膨張係数が高かった。
比較例3、4のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維を用いなかったため、曲げ強度が低く、線膨張係数が高かった。
比較例16のポリアミド樹脂組成物は、フルオレン系化合物の含有量が少なかったため、曲げ強度、CTERおよび収率が低かった。
比較例17のポリアミド樹脂組成物は、フルオレン系化合物の含有量が多かったため、曲げ強度およびCTERが低かった。
比較例18のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維の含有量が少なかったため、曲げ強度が低く、線膨張係数が高かった。
比較例19のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維の含有量が多かったため、ペレットを得ることができなかった。