(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059897
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】水性熱硬化性樹脂組成物及び硬化膜
(51)【国際特許分類】
C08G 63/00 20060101AFI20220407BHJP
C07C 69/54 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
C08G63/00
C07C69/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167781
(22)【出願日】2020-10-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】森脇 佑也
(72)【発明者】
【氏名】松田 知也
(72)【発明者】
【氏名】浅田 耕資
(72)【発明者】
【氏名】呑海 克
(72)【発明者】
【氏名】中川 浩気
(72)【発明者】
【氏名】前尾 佳嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 成寿
(72)【発明者】
【氏名】竹中 直巳
【テーマコード(参考)】
4H006
4J029
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB46
4J029AB02
4J029AB04
4J029AC02
4J029AE12
4J029HA01
4J029HA02
4J029JE092
4J029JF371
4J029KC04
4J029KE02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エステル交換反応を熱硬化反応とし、優れた物理的性能を有する塗膜を得ることができる水性熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位、及び/又は、下記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位
(式中、R
1、R
2、R
3は、同一又は異なって、水素、アルキル基、カルボキシル基、アルキルエステル基等。R
4は、主鎖の原子数が50以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基、アミド基、ウレタンからなる群より選択される1又は2以上の官能基を有していてもよく、側鎖を有していてもよい脂肪族、脂環族又は芳香族アルキレン基。R
5は、炭素数50以下のアルキル基。n
1は1~10。)を有する重合体を含有するエマルション樹脂粒子(A)、水性ポリオール樹脂(B)及びエステル交換触媒(C)を含有することを特徴とする水性熱硬化型樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又は、上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位
【化1】
n1:1~10
(式中、R
1、R
2,R
3は、同一又は異なって、水素、アルキル基、カルボキシル基、アルキルエステル基又は下記R
4-[COOR
5]n
1で表される構造。
R
4は、主鎖の原子数が50以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基、アミド基、ウレタンからなる群より選択される1又は2以上の官能基を有していてもよく、側鎖を有していてもよい脂肪族、脂環族又は芳香族アルキレン基。
R
5は、炭素数50以下のアルキル基。
上記一般式(1)で表される化合物は、R
4-[COOR
5]n
1基が下記一般式(1-1)のラクトン構造であってもよい。)
【化2】
(Rxは、分岐鎖を有していてもよい炭素数2~10の炭化水素基)
を有する重合体を含有するエマルション樹脂粒子(A)、
水性ポリオール樹脂(B)及び
エステル交換触媒(C)
を含有することを特徴とする水性熱硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
水性ポリオール樹脂(B)は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂をアミン中和したものである請求項1記載の水性熱硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の樹脂組成物を、硬化したものであることを特徴とする硬化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性熱硬化性樹脂組成物及び硬化膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、エステル交換反応を硬化反応とする熱硬化性樹脂組成物についての検討を行っている(特許文献1、2)。最近の検討によって、エステル交換反応を硬化反応とすることで、一般的に知られているメラミン樹脂やポリイソシアネート化合物を使用した硬化と同等の硬化性能を確保することができることが明らかになりつつある。
【0003】
一方、このような熱硬化性樹脂組成物の水性化は重要な課題の一つである。すなわち、塗料や接着剤の分野においては、環境負荷の低減という観点から、多くの分野で水性化が図られている。このような水性の熱硬化型塗料においては、一般的に、メラミン樹脂やブロックイソシアネート化合物を硬化剤として使用することが行われている。
【0004】
上述した特許文献2においても、エステル交換反応を硬化反応とする水性熱硬化性樹脂組成物が開示されている。このような組成物でも一定の効果は得られる。しかし、このような水性熱硬化性樹脂組成物によって得られた硬化物の物性においても、より優れた性能が求められていた。
【0005】
特許文献3においては、複層塗膜の形成にエステル交換を硬化反応とする熱硬化性樹脂組成物を使用することが記載されている。しかし、特許文献3においては、エステル交換反応によって硬化する水性塗料については、実質的な記載がなされていない。
【0006】
特許文献4においては、エステル交換反応を硬化反応とする溶剤系塗料を使用する複層塗膜の形成について記載がなされている。しかし、水性塗料をエステル交換反応を硬化反応とする熱硬化性樹脂組成物とすることについて記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6398026号公報
【特許文献2】国際公開2019/069783
【特許文献3】国際公開2019/203100
【特許文献4】特開2001-316637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記に鑑み、エステル交換反応を熱硬化反応し、優れた物理的性能を有する塗膜を得ることができるような水性熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、
t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又は、下記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位
【0010】
【化1】
n1:1~10
(式中、R
1、R
2,R
3は、同一又は異なって、水素、アルキル基、カルボキシル基、アルキルエステル基又は下記R
4-[COOR
5]n
1で表される構造。
R
4は、主鎖の原子数が50以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基、アミド基、ウレタンからなる群より選択される1又は2以上の官能基を有していてもよく、側鎖を有していてもよい脂肪族、脂環族又は芳香族アルキレン基。
R
5は、炭素数50以下のアルキル基。
上記一般式(1)で表される化合物は、R
4-[COOR
5]n
1基が下記一般式(1-1)のラクトン構造であってもよい。)
【0011】
【化2】
(Rxは、分岐鎖を有していてもよい炭素数2~10の炭化水素基)
を有する重合体を含有するエマルション樹脂粒子(A)、
水性ポリオール樹脂(B)及び
エステル交換触媒(C)
を含有することを特徴とする水性熱硬化型樹脂組成物である。
【0012】
上記水性ポリオール樹脂(B)は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂をアミン中和したものであることが好ましい。
【0013】
本発明は、上述した樹脂組成物を、硬化したものであることを特徴とする硬化膜でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、良好な硬化性能を有し、かつ、硬化後の塗膜が優れた物理的性能を有するような水性熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル基」とは、「メタクリロイル基」又は「アクリロイル基」を意味するものである。
本発明は、特定の構造単位を必須とするアクリル樹脂を含有するエマルション樹脂粒子(A)、及び、水性ポリオール樹脂(B)を含有することを特徴とするものである。すなわち、一般的に水溶性塗料で使用されている水溶性のポリオール樹脂(B)に対して、エステル交換反応によって水酸基との反応を生じるようなアルキルエステル基を有するアクリル樹脂を、エマルション樹脂粒子(A)の形態で使用することによって、優れた硬化性能及び硬化後の塗膜の性能に優れる水性熱硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【0016】
本発明においては、エマルション樹脂と水性樹脂とを併用することを特徴とするものである。エマルション樹脂と水性樹脂とでは、物理的性能や化学的性能が相違するものである。このため、これらの両方を組み合わせて使用することによって、これらの相乗効果によって、従来の水性熱硬化性樹脂組成物によっては得ることができないような、物理的性能に優れた効果を有する塗膜を得ることができる。
【0017】
更に、水性ポリオール樹脂は、一般的に低分子量であることから低粘度となりチキソ性を有しないが、微粒子が分散しているエマルション樹脂を併用することで、チキソ性を有することが出来る。そのため、粘性制御が容易となり、塗料組成物や接着剤組成物として使用する場合の作業性を得るための適度な粘性を容易に得ることができる点でも好ましい。
【0018】
(エマルション樹脂の樹脂組成)
本発明において使用するエマルション樹脂(A)は、特定の構造単位を少なくとも一部に有す樹脂である。樹脂としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂等を挙げることができるが、アクリル樹脂が特に好ましい。アクリル樹脂原料として汎用的に使用される、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレートのような、(メタ)アクリル酸の1級又は2級アルキル基のアクリル酸エステルは、水酸基とのエステル交換反応性が低いため、好ましくない。なお、上記エマルション樹脂(A)において必須とされるエステル基は、以下で詳述する構造単位に由来するものであるが、上述したような(メタ)アクリル酸の1級又は2級アルキル基のアクリル酸エステルを一部に有するものであっても差し支えない。これらは、エステル交換反応を生じないものであるが、エステル交換反応を阻害するものではないので、これらの構造単位が存在することが本発明の効果を妨げるものではない。
【0019】
本発明のエマルション樹脂において、必須である特定の構造単位は、t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又は、下記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位である。これらの構造は、水酸基及びエステル交換触媒の存在下で、エステル交換反応を生じ、これが本発明の水性熱硬化性樹脂組成物における硬化反応となる。
【0020】
【化3】
n1:1~10
(式中、R
1、R
2,R
3は、同一又は異なって、水素、アルキル基、カルボキシル基、アルキルエステル基又は下記R
4-[COOR
5]n
1で表される構造。
R
4は、主鎖の原子数が50以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基、アミド基、ウレタンからなる群より選択される1又は2以上の官能基を有していてもよく、側鎖を有していてもよい脂肪族、脂環族又は芳香族アルキレン基。
R
5は、炭素数50以下のアルキル基。
上記一般式(1)で表される化合物は、R
4-[COOR
5]n
1基が下記一般式(1-1)のラクトン構造であってもよい。)
【0021】
【化4】
(Rxは、分岐鎖を有していてもよい炭素数2~10の炭化水素基)
【0022】
上記一般式におけるR5は、炭素数が50以下のアルキル基であるが、より好ましくは炭素数1~20の範囲内であり、更に好ましくは、1~10の範囲内であり、更に好ましくは、1~6の範囲内である。最も好ましくは、1~4の範囲内である。このような範囲内とすることで、硬化反応を好適に進行させることができる点で好ましいものである。
上記アルキル基としては特に限定されず、メチル基、エチル基、ベンジル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等の、公知のアルキル基を有するものを使用することができる。
【0023】
上記一般式(1)で表される単量体は、1級又は2級アルキルエステルを有するものであることが好ましい。このような単量体に由来する1級又は2級アルキルエステル基は、水酸基との反応を生じやすく、このため本発明の目的を充分に達成することができる。
【0024】
このような化合物は、不飽和結合による重合反応によって重合体を得ることができる。このようにして得られた重合体は、エステル交換反応を硬化反応とする熱硬化型樹脂組成物に使用した場合、不飽和結合の重合に基づいて形成された主鎖と、アルキルエステル基とが連結基を介して離れて存在している。このため、アルキルエステル基が比較的自由に動くことができる。このため、アルキルエステル基と水酸基とが近づきやすくなり、エステル交換の反応性が向上する。このようにエステル交換反応の反応性が向上することで、短時間硬化や硬化温度の低下を実現することができ、エステル交換反応による熱硬化型樹脂組成物の有用性を高めることができる。
【0025】
上記一般式(1)で表される化合物においては、以下で詳述する金属化合物触媒を使用した場合、1級、2級のアルキルエステル基のほうがより高いエステル交換反応性を示す。したがって、1級、2級のアルキルエステル基を使用することが特に好ましい。更に水性化を図るために、塩基性化合物を使用する場合、酸触媒の不触媒となることから3級のアルキルエステル基よりも好ましい。
【0026】
上記観点から、上記一般式(1)で表される構造においては、t-ブチル基を有さないことが好ましいものであるが、上述した問題を生じない範囲でt‐ブチル基を有することは差し支えない。
【0027】
また、上記アルキルエステル基がラクトン基となる場合も本発明に包含される。このようなラクトン基のエステル基も本発明のエステル交換反応を生じることができ、硬化反応に利用することができる。このような化合物は上記(1-1)の化学構造を有するものである。
【0028】
上記一般式(1)で表される構造としてより具体的には、例えば、イタコン酸エステル、2-メチレングルタル酸エステル、下記一般式(2)
【0029】
【化5】
n
2:1~10
(式中、R
6は、H又はメチル基。
R
7は、主鎖の原子数が48以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基及び/又はアミド基を有していてもよく、側鎖を有していてもよいアルキレン基。
R
8は、炭素数50以下のアルキル基。)
で表される化合物が例示できる。上記一般式(2)で表される化合物は(メタ)アクリル酸の誘導体であり、(メタ)アクリル酸又はその誘導体を原料として使用する公知の合成方法によって得ることができる。
【0030】
上記R7の主鎖の原子数は、40以下であることがより好ましく、30以下であることが更に好ましく、20以下であることが更に好ましい。R7の主鎖に含まれてもよい原子としては特に限定されず、炭素原子のほかに酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子等を有するものであってもよい。更に具体的には、R7の主鎖中には、アルキル基のほかにエーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基、チオエーテル基、スルホン酸エステル基、チオエステル基、シロキサン基等を有するものであってもよい。
【0031】
上記一般式(2)で表される構造として更に具体的には、例えば、下記一般式(3)で表される化合物等を挙げることができる。
【0032】
【化6】
(式中、R
20は、炭素数1~50のアルキル基。
R
21は、主鎖の原子数が44以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基及び/又はアミド基を有していてもよく、側鎖を有していてもよいアルキレン基。
R
22は、H又はメチル基。
R
23は、炭素数50以下のアルキル基。
R
24は、H又はメチル基。
n
7は、0又は1。
n
8は、1又は2。)
【0033】
上記一般式(3)で表される化合物は、分子中に不飽和結合を有するマロン酸エステルやアセト酢酸エステル等の活性アニオンを生じる化合物と、アルキルエステル基を有する不飽和化合物との反応によって合成された化合物である。
【0034】
すなわち、マロン酸エステルやアセト酢酸エステルは、カルボキシ炭素に挟まれたメチレン基を有しており、このメチレン基はアニオン化されやすく、アニオン反応を容易に生じるものとして広く知られている。このようなマロン酸エステルやアセト酢酸エステルのアルキル基中に不飽和結合を有する化合物(例えば、マロン酸やアセト酢酸と、以下で「水酸基含有単量体」として詳述する水酸基を有する不飽和単量体とのエステル化合物)を、不飽和基を有するアルキルエステル化合物と反応させることによって、不飽和基とアルキルエステル基の両方を有する化合物を合成することができる。
【0035】
このような構造を有する化合物は、広く汎用される原料を用いてアルキルエステル基のみを容易に変更でき、結果、硬化反応性を容易に調整できる。また、活性メチレン基への反応率を変えることでも硬化反応性を調整できるという点で特に好ましいものである。
【0036】
上記反応で使用する「不飽和基を有するアルキルエステル化合物」として使用できる化合物は特に限定されず、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、メチレンマロン酸アルキルエステル、不飽和基を有するラクトン化合物(例えば、γ-クロトノラクトン、5,6-ジヒドロ-2H-ピラン-2-オン)等を使用することができる。
【0037】
当該反応は、塩基性条件下で行うことができ、例えば、アルカリ金属塩とクラウンテーテル存在下での有機溶媒中での反応等によって行うことができる。
このような合成反応の一例を以下に示す。
【0038】
【0039】
また、上記一般式(2)で表されるアルキルエステル化合物は、この化合物に対応したカルボン酸のエステル化によって得ることもできる。
すなわち、下記一般式(2-2)で表されるような化合物は、上記一般式(2)で表されるアルキルエステル化合物に対応したカルボン酸である。
【0040】
【化8】
n
1:1~10
(式中、R
1、R
2,R
3は、同一又は異なって、水素、アルキル基、カルボキシル基、アルキルエステル基又は下記R
4-[COOH]n
1で表される構造。
R
4は、主鎖の原子数が50以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基、アミド基、ウレタンからなる群より選択される1又は2以上の官能基を有していてもよく、側鎖を有していてもよい脂肪族、脂環族又は芳香族アルキレン基。)
【0041】
上記一般式(1-3)で表される化合物として、公知の化合物が存在している。このような公知の化合物を通常のエステル化反応(例えば、目的とするアルキルエステルのアルキル基に対応したアルコールとの反応)を行うことによって、本発明の不飽和基含有エステル化合物とすることもできる。
【0042】
以上に例示した方法で合成することができる化合物の具体的な化学構造の例を以下に示す。なお、本発明は以下で例示する化合物に限定されるものではない。
【0043】
【化9】
(上記一般式中、Rは、炭素数50以下のアルキル基を表す)
【0044】
上記一般式で表される化合物においても、一般式におけるRは、炭素数が50以下のアルキル基であるが、より好ましくは炭素数1~20の範囲内であり、更に好ましくは、1~10の範囲内であり、更に好ましくは、1~6の範囲内である。最も好ましくは、1~4の範囲内である。このような範囲内とすることで、硬化反応を好適に進行させることができる点で好ましいものである。
【0045】
(一般式(31)で表される官能基及び不飽和基を有する化合物)
上記一般式(1)又は(2)で表される化合物は、下記一般式(31)で表される官能基及び不飽和基を有する化合物であってもよい。
【0046】
【0047】
n=0~20
R31は、炭素数50以下のアルキル基。
R33は、水素又は炭素数10以下のアルキル基。
【0048】
すなわち、一般式(1)で表される化合物において、COOR5基が上記一般式(31)で表されるような構造を有するものであってもよい。
【0049】
上記一般式(31)で表されるエステル基は、理由は不明であるが、エステル交換反応の反応性が高い。このため、当該官能基を有するエステル化合物を樹脂成分の一部又は全部として使用することで、従来以上に優れた硬化性能を有する水性熱硬化性樹脂組成物とすることができる。
【0050】
(一般式(31)の構造について)
上記一般式(31)の構造は、α置換カルボン酸エステル骨格を基本とするものである。
一般式(31)において、nは0~20である。
nの下限は、1であることがより好ましい。nの上限は5であることがより好ましい。
更に、上記一般式(31)においてnの値が異なる複数の成分の混合物であってもよい。この場合nの平均値navは、0~5であることが好ましい。navの下限は、1であることがより好ましい。navの上限は3であることがより好ましい。navの測定は、NMR分析によって行うことができる。さらに、nの値についてもNMR分析によって測定することができる。
【0051】
nは、0であってもよいが、0を超える値であるほうが、より反応性が高い水性熱硬化性樹脂組成物を得ることができる点で好ましい。
すなわち、nが1以上であるほうが、より低い温度での硬化を図ることができ、これによって本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0052】
上記一般式(31)において、R31としては炭素数50以下の任意のアルキル基を使用することができ、1級、2級、3級のいずれであってもよい。
【0053】
上記官能基(31)を有する化合物は、目的とする化合物の構造に対応したカルボン酸又はカルボン酸塩化合物に下記一般式(32)の構造を有するカルボニル基のα位に活性基Xが導入されたエステル化合物を、反応させることで得ることができる。
【0054】
【化11】
(式中、Xは、ハロゲン、水酸基を表す)
【0055】
これを一般式で表すと以下のようになる。
【0056】
【0057】
上記一般式において、一般式(33)で表される原料として使用することができる化合物は、上述した反応を生じることができるカルボン酸又はカルボン酸誘導体であれば任意のカルボン酸に対して行うことができる。カルボン酸誘導体としては、YがOM(カルボン酸塩)、OC=OR(酸無水物)、Cl(酸塩化物)等を挙げることができる。上記Y=OMのカルボン酸塩である場合、カルボン酸塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩、亜鉛塩等を挙げることができる。なお、重合体の単量体として使用する場合は、不飽和基を有する化合物を一般式(33)で表される化合物として使用することができる。
【0058】
上記一般式(32)で表される化合物としては、目的とする一般式(31)で表される構造に対応した骨格を有する化合物とすることができる。
【0059】
また、上記一般式(32)で表される化合物は、その製造方法を特に限定されるものではない。上記一般式(32)で表される化合物のうち、n=0の化合物は、α位にXで表される活性基を有する化合物であり、各種αヒドロキシ酸、αハロゲン化カルボン酸を挙げることができる。具体的には、クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸エチル、ブロモ酢酸メチル、ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸t-ブチル、2-クロロプロピオン酸メチル、グリコール酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等を挙げることができる。
【0060】
上記一般式(32)で表される化合物のうち、n=1以上の化合物については、以下にその製造方法の一例を示す。
なお、以下に示す内容は製造方法の一例であり、本発明においては以下の製造方法によって得られた化合物に限定されるものではない。
【0061】
例えば、α位にハロゲンを有するカルボン酸、その塩又はその誘導体と、α位にハロゲン又は水酸基を有するカルボン酸アルキルエステルとの反応によって得ることができる。これを一般式で表すと、下記のようなものとなる。
【0062】
【0063】
α位にハロゲンを有するカルボン酸、その塩又はその誘導体としては、カルボン酸のアルカリ金属塩(カリウム塩、ナトリウム塩等)、酸無水物、酸クロライド等を挙げることができる。上記一般式(34)であらわされる化合物として具体的には、クロロ酢酸ナトリウム等を使用することができる。
【0064】
α位にハロゲン又は水酸基を有するカルボン酸アルキルエステルとしては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、乳酸、等のα置換カルボン酸化合物のアルキルエステルを挙げることができる。上記アルキルエステルのアルキル基は特に限定されず、炭素数1~50のアルキル基であればよい。
このようなアルキル基は、1~3級のいずれであってもよく、具体的にはメチル基、エチル基、ベンジル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等を挙げることができる。
【0065】
上記反応においては、X1とX2とを別種のものとすることが好ましい。これらを別種の官能基として反応性が相違するものとし、X1が未反応で残存するよう官能基の組み合わせを選択することが好ましい。具体的には、X1がブロモ基、X2がクロロ基の組み合わせが特に好ましい。
【0066】
また、上記反応において2種の原料の混合比を調整することで,nの値を調整することができる。上記反応においては、一般に相違するnを有する複数種の化合物の混合物として得られる。上記一般式(32)で表される化合物は精製することで、nが特定の値を有するもののみを使用してもよいし、nの値が相違する複数種の化合物の混合物であってもよい。
【0067】
上記一般式(31)で表される化学構造は、上記一般式(32)で表される化合物を、各種カルボン酸化合物と反応させることで形成させることができる。したがって、「カルボン酸基を有する化合物」として、不飽和基を有するカルボン酸を使用すれば、上記一般式(31)で表される官能基及び重合性不飽和基を有する化合物を得ることができる。
【0068】
具体的には例えば、上記一般式(32)で表される化合物を(メタ)アクリル酸と反応させると、下記一般式(36)で表される化合物が得られる。
【0069】
【化14】
(式中、R
31は、炭素数50以下のアルキル基。
R
32は、水素又はメチル基。
R
33は、水素又はメチル基。
nは、1~20)
【0070】
上記一般式(36)で表される化合物におけるR1は、炭素数50以下であれば、1級、2級、3級のいずれであってもよい。但し、1級又は2級であることがより好ましく、1級であることが最も好ましい。
【0071】
(下記一般式(41)で表される官能基及び/又は下記一般式(42)で表される官能基、並びに、不飽和基を有する化合物)
上記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(41)で表される官能基及び/又は下記一般式(42)で表される官能基、並びに、不飽和基を有する化合物であってもよい。
【0072】
【0073】
【化16】
(上記一般式(41)、一般式(42)のいずれにおいても、R
41は炭素数50以下のアルキル基。
R
42は、一部に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい炭素数50以下のアルキレン基)
【0074】
すなわち、一般式(1)で表される化合物において、COOR5基が上記一般式(41)で表されるような構造及び/又は一般式(42)で表されるような構造を有するものであってもよい。
【0075】
上記一般式(41)、(42)におけるR41基は、一部に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい炭素数50以下のアルキレン基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、またはベンゼン環、シクロへキシル環のような環状構造を含んでいてもよい(炭素鎖1~50)。なかでも、原料が安価であり、反応性において優れる点でエチレン基であることが特に好ましい。
【0076】
上記一般式(41)で表される構造を有する化合物としては、例えば、下記一般式(43)で表される化合物を挙げることができる。
【0077】
【化17】
(式中、R
1は炭素数50以下のアルキル基。
R
2は、一部に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい炭素数50以下のアルキレン基。
R
3は、水素又はメチル基。)
【0078】
上記一般式(43)で表されるエステル化合物のうち、下記一般式(45)で表されるエステル化合物がより好ましい。
【0079】
【0080】
上記一般式(41)で表される官能基を有するエステル化合物の製造方法としては特に限定されないが、アルキルエステル基とカルボキシル基とを有する化合物に対して、エポキシ化合物を反応させる方法を挙げることができる。これを一般式で表すと下記のような反応となる。
【0081】
【0082】
上記反応において、使用するアルキルエステル基とカルボキシル基とを有する化合物は、例えば、下記反応のような、酸無水物とアルコールとの反応で製造することができる。
【0083】
【0084】
上記一般式(52)で表される反応における原料である酸無水物としては特に限定されず、例えば、環状構造を持つコハク酸無水物、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、安息香酸無水物、イタコン酸無水物等の各種二塩基酸の無水物を使用することができる。上記一般式(52)で表される反応は周知の一般的な反応であり、その反応条件などは一般的な条件によって行うことができる。
【0085】
なお、上記一般式(51)で表される合成方法において使用されるアルキルエステル基とカルボキシル基とを有する化合物は、上記一般式(52)の方法で得られたものに限定されず、その他の方法で得られたものであっても差し支えない。
【0086】
上記一般式(51)で表される合成方法においては、エポキシ化合物を必須成分として使用する。上記エポキシ化合物は、不飽和二重結合及びエポキシ基を有するものであれば、特に限定されず、任意のものを使用することができる。
【0087】
上述した反応で使用することができるエポキシ化合物としては、公知の任意のものを挙げることができ、例えば、グリシジルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0088】
例えば、エピクロルヒドリンを使用すれば、これをフェノール化合物、カルボン酸化合物、水酸基含有化合物等と反応させることで、種々の骨格を有する化合物に対してエポキシ基を導入することができる。このような任意のエポキシ化合物に対して、上述した反応を行うことで、上述した一般式(41)で表される官能基を有する化合物を得ることができる。このような反応の一般式を以下に示す。
【0089】
【0090】
上記カルボキシル基及び不飽和基を有するヒドロキシカルボン酸としては、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。
【0091】
更に、上述したエポキシ化合物は、環状エポキシ化合物であってもよい。
すなわち、環状エポキシ化合物をエポキシ化合物として使用した場合、下記反応によって、一般式(52)で表される構造を有する化合物を得ることができる。
【0092】
【0093】
上述した一般式に使用することができる脂環式エポキシ化合物としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、3´,4´-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等を挙げることができる。
【0094】
上述した下記一般式(41)で表される官能基及び/又は下記一般式(42)で表される化合物、並びに、不飽和基を有する化合物の具体的なものとしては、以下の一般式で表される化合物などを挙げることができる。
【0095】
【0096】
以上に例示した方法で合成することができる一般式(1)で表される化合物の具体的な化学構造の例を以下に示す。なお、本発明は以下で例示する化合物に限定されるものではない。
【0097】
【化24】
(上記一般式中、R
41は、炭素数50以下のアルキル基を表す。
R
42,R
43は、それぞれ水素又はメチル基を表す)
【0098】
上記一般式で表される化合物においても、一般式におけるR41は、炭素数が50以下のアルキル基であるが、より好ましくは炭素数1~20の範囲内であり、更に好ましくは、1~10の範囲内であり、更に好ましくは、1~6の範囲内である。最も好ましくは、1~4の範囲内である。このような範囲内とすることで、硬化反応を好適に進行させることができる点で好ましいものである。
【0099】
上記エマルション樹脂粒子(A)は、t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位、上記一般式(1)で表される構造単位のいずれにも該当しない構造単位を有するものであってもよい。
この場合、使用することができる構造単位としては、特に限定されず、以下に例示するものを使用することができる。
上記重合体において使用可能なその他のモノマーとしては特に限定されず、重合可能な不飽和基を有する単量体であれば任意のものを使用することができる。使用できる単量体を以下に例示する。
【0100】
エチレン、プロピレンもしくはブテン-1のような、種々のα-オレフィン類;
塩化ビニルもしくは塩化ビニリデンのような、フルオロオレフィンを除く、種々のハロゲン化オレフィン類;
スチレン、α-メチルスチレンもしくはビニルトルエンのような、種々の芳香族ビニル化合物;N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドもしくはN-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドのような、種々のアミノ基含有アミド系不飽和単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートのような、種々のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、tert-ブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、ピロリジニルエチル(メタ)アクリレートもしくはピペリジニルエチル(メタ)アクリレートのような、種々のアミノ基含有単量体;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸もしくはフマル酸のような、種々のカルボキシル基含有単量体類;グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アリルグリシジルエーテルのような、種々のエポキシ基含有単量体;マレイン酸、フマル酸もしくはイタコン酸のような、各種のα、β-不飽和ジカルボン酸と、炭素数が1~18である一価アルコールとのモノ-ないしはジエステル類;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、メチルジメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、メチルジエトキシシリルプロピルビニルエーテル、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランもしくはγ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランのような、種々の加水分解性シリル基を含有する単量体;
ふっ化ビニル、ふっ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレンもしくは、ヘキサフルオロプロピレンのような、種々のふっ素含有α-オレフィン類;またはトリフルオロメチルトリフルオロビニルエーテル、ペンタフルオロエチルトリフルオロビニルエーテルもしくはヘプタフルオロプロピルトリフルオロビニルエーテルのような、各種のパーフルオロアルキル・パーフルオロビニルエーテルないしは(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(ただし、アルキル基の炭素数は1~18の範囲内であるものとする。)などのような種々のフッ素原子含有単量体;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、n-ペンチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、n-オクチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、クロロメチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテルもしくはフェニルエチルビニルエーテルのような、種々のアルキルビニルエーテルないしは置換アルキルビニルエーテル類;
シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルもしくはメチルシクロヘキシルビニルエーテルのような、種々のシクロアルキルビニルエーテル類;ビニル-2,2-ジメチルプロパノエート、ビニル-2,2-ジメチルブタノエート、ビニル-2,2-ジメチルペンタノエート、ビニル-2,2-ジメチルヘキサノエート、ビニル-2-エチル-2-メチルブタノエート、ビニル-2-エチル-2-メチルペンタノエート、ビニル-3-クロロ-2,2-ジメチルプロパノエートなどをはじめ、さらには、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニルもしくはラウリン酸ビニル、C9 である分岐脂肪族カルボン酸ビニル、C10である分岐脂肪族カルボン酸ビニル、C11である分岐脂肪族カルボン酸ビニルまたはステアリン酸ビニルのような、種々の脂肪族カルボン酸ビニル;あるいはシクロヘキサンカルボン酸ビニル、メチルシクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニルもしくはp-tert-ブチル安息香酸ビニルのような、環状構造を有するカルボン酸のビニルエステル類などを挙げることができる。
【0101】
また、上記重合体は、水酸基含有単量体に由来する構造を一部に有するものであってもよい。この場合、エマルション樹脂が水酸基とアルキルエステル基の両方を有する樹脂となる。
水酸基含有単量体としては、特に限定されず、以下のものを挙げることができる。
2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテルもしくは6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテルのような、種々の水酸基含有ビニルエーテル類;またはこれら上掲の各種のビニルエーテルと、ε-カプロラクトンとの付加反応生成物;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル(メタ)アリルエーテル、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アリルエーテルもしくは6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アリルエーテルのような、種々の水酸基含有アリルエーテル;またはこれら上掲の各種のアリルエーテルと、ε-カプロラクトンとの付加反応生成物;
あるいは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートもしくはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートのような、種々の水酸基含有(メタ)アクリレート類;またはこれら上掲の各種の(メタ)アクリレートと、ε-カプロラクトンの付加反応主成分などである。
【0102】
また、単量体としての水酸基含有単量体は、直接水酸基を有するものではなく、分子数5以上の連結鎖を介して水酸基を有するものとした場合には、水酸基が樹脂中で動きやすくなるため、反応を生じやすいという点で好ましい。
【0103】
本発明のエマルション樹脂は、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又は、上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位のエステル基が5重量%以上、より好ましくは10重量%以上の割合で樹脂中に存在することが好ましい。このような割合でエステル基が存在することで、水酸基とのエステル交換反応を良好に進行させることができるため、好ましい。
【0104】
エマルション樹脂は、乳化剤によって樹脂が水中にエマルション粒子として存在した状態のものを指す。このようなエマルション粒子は、一般に乳化重合によって得ることができる。乳化重合に際して使用される乳化剤としては特に限定されず、一般的なものを使用することができる。また、その他の方法で得られた樹脂を乳化剤によって水性媒体中に分散させたものであってもよい。
【0105】
上記アニオン性の反応性乳化剤としては、例えば、(メタ)アリル基、(メタ)アクリル基、プロペニル基、ブテニル基などの重合性不飽和基を有するスルホン酸化合物のナトリウム塩やアミン塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。得られる塗膜が耐水性に優れていることから、中でも、重合性不飽和基を有するスルホン酸化合物のアンモニウム塩が好ましい。該スルホン酸化合物のアンモニウム塩の市販品としては、例えば、ラテムルS-180A(花王社製、商品名)アクアロンKH10(第一工業製薬、商品名)等を挙げることができる。
また、ノニオン性の反応性乳化剤としては、例えば、(メタ)アリル基、(メタ)アクリル基、プロペニル基、ブテニル基などの重合性不飽和基を有し、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加したもの等がある。
【0106】
また、上記重合性不飽和基を有するスルホン酸化合物のアンモニウム塩の中でも、重合性不飽和基とポリオキシアルキレン基を有する硫酸エステル化合物のアンモニウム塩がさらに好ましい。上記重合性不飽和基とポリオキシアルキレン基を有する硫酸エステル化合物のアンモニウム塩の市販品としては、例えば、アクアロンKH-10(第一工業製薬社製、商品名)、SR-1025A(旭電化工業社製、商品名)等を挙げることができる。
【0107】
上記乳化剤の濃度は、使用するするラジカル重合性不飽和単量体の総量を基準にして、通常0.1~10質量%、特に1~5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0108】
反応性乳化剤を使用した乳化重合によって得られた乳化樹脂は、乳化剤が樹脂中に取り込まれているため、乳化剤が存在することによって生じる不都合が生じないという利点を有する。このため、乳化剤の存在が問題となるような用途においては、このような方法で得られた乳化樹脂を使用することが好ましい。
【0109】
上記反応性乳化剤以外の乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のノニオン系乳化剤;アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸等のナトリウム塩、アンモニウム塩等のアニオン系乳化剤等を挙げることができ、さらに、1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤、1分子中に該アニオン性基と重合性不飽和基を有する反応性アニオン性乳化剤等も使用することができる。また高分子乳化剤、4級アンモニウムなども使用することができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0110】
上記乳化剤の使用量は、上記不飽和カルボン酸又は酸無水物変性ポリオレフィンの固形分質量100質量部に対して、通常30質量部以下であり、特に0.5~25質量部の範囲内であることが好ましい。
上記エマルション樹脂(A)は、その粒径を特に限定されるものではないが、平均粒子径の上限が10μm以下であることが好ましい。上記上限は、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下が更に好ましい。
【0111】
本発明は、エマルション樹脂と水性樹脂とを併用するものであることは上述した通りである。一般にエマルション樹脂は高分子量となり、水性樹脂は、エマルション樹脂に比べると、低分子量の樹脂となる。そして、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、一般に分子量が相違する2種の樹脂が混在する形となる。これらは加熱時においても、完全に混和するのではなく、海島状態等の状態で分離を生じると推測される。そして、このようなそれぞれの樹脂が接している界面において、架橋反応が生じ、硬化物を得ることができる。エマルション樹脂(A)が上述したような高分子量のものであると、塗膜の性能が良好なものとなる点で特に好ましい。
【0112】
また、エマルションをTgの高い組成/水性樹脂をTgの低い柔らかい組成にすることもでき、更にその逆も可能である。これにより硬化膜にTgの違う海島構造を作ることができる。
更にエマルション樹脂を合成するときに事前に架橋させた状態で合成することもできる。これは乳化重合時に複数の不飽和二重結合をもつジアクリレートを加えて乳化重合することなどで得られる。これらを調整することで目的とする破断応力、伸び率を持つ硬化膜を得ることが出来る。
【0113】
上記水性ポリオール樹脂(B)は、水酸基を有し、水性媒体中に溶解又は分散させることができる重合体であれば特に限定されず、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらのなかでも、アクリルポリオール、ポリエステルポリオールが特に好ましく、アクリルポリオールが最も好ましい。
【0114】
水性ポリオール樹脂(B)は、水性媒体中に溶解又は分散させることができるものであることが好ましく、具体的には、カルボキシル基などの酸基を有し、中和することによって、水性媒体中に溶解又は分散させることができることが好ましい。
【0115】
上記水性ポリオール樹脂(B)として使用することができるアクリルポリオールとしては特に限定されず、例えば、水酸基価20~200の範囲内のものであることが好ましい。上記下限は、30であることがより好ましく、40であることが最も好ましい。アクリルポリオール中に水酸基を導入する場合に使用することができる水酸基含有単量体としては、上述したエマルション樹脂において例示した水酸基含有単量体を挙げることができる。
【0116】
このような方法において、酸基を有する単量体として使用することができるものは特に限定されず、樹脂種に応じて、使用することができるモノマーを選択することができる。例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β-カルボキシエチルアクリレート等の不飽和基含有カルボン酸化合物、トルエンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート等を挙げることができる。
【0117】
更に、重合開始剤や連鎖移動剤として、カルボキシル基を生じるようなものを使用し、これらの成分に由来する構造によって分子中にカルボキシル基を導入したものであってもよい。このような開始剤や連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、ジコハク酸ペルオキシド、3-メルカプトプロピオン酸などを挙げることができる。
【0118】
上記酸基を有する単量体としては、下記一般式で表される化合物を使用することがより好ましい。
【0119】
【0120】
(式中、R101、R102,R103は、同一又は異なって、水素、アルキル基、カルボキシル基、アルキルエステル基又は下記R104-COOHで表される構造。
R104は、主鎖の原子数が50以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基、アミド基、ウレタンからなる群より選択される1又は2以上の官能基を有していてもよく、側鎖を有していてもよい脂肪族、脂環族又は芳香族アルキレン基。)
【0121】
上記化合物を使用すると、酸基が存在することによるエステル交換反応への悪影響を生じることがなく、良好な硬化性を有する水性熱硬化性樹脂組成物を得ることができる点で特に好ましい。
【0122】
上記化合物としては、
【0123】
【化26】
(式中、R
105は、H又はメチル基。
R
106は、主鎖の原子数が48以下であり、主鎖中にエステル基、エーテル基及び/又はアミド基を有していてもよく、側鎖を有していてもよいアルキレン基。)
で表される(メタ)アクリル酸誘導体であることが更に好ましい。このような化合物としてより具体的には、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸や2-アクリロイルオキシブチルコハク酸等を挙げることができる。
【0124】
上記重合体においてこのような酸基は、樹脂酸価が5~200の範囲となるように導入することが好ましい。上記酸価の下限は10であることが好ましく、15であることが更に好ましい。上記酸価の上限は120であることが好ましく、80であることが更に好ましい。酸価が低い場合、中和を行っても水への溶解が難しくなる場合がある。酸価が高すぎる場合は高粘度となりハンドリング性などに問題を生じる場合がある。
【0125】
上記アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、モルホリン等の2級アミン;プロピルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等の1級アミン;アンモニアなどの4級アンモニウム等を挙げることができる。
【0126】
上記アミン化合物は特に限定されないが、3級アミンが望ましい。アンモニアの場合、焼き付け後の黄変性や、1級、2級アミンの場合、カルボン酸との反応が並行しておこる点で好ましくない。
【0127】
上記アミン化合物を使用する場合の使用量は、上記不飽和カルボン酸又は酸無水物変性ポリオレフィン中のカルボキシル基に対して通常0.1~1.5モル当量の範囲内であることが好ましい。
【0128】
上記水性ポリオール樹脂(B)として使用できるアクリルポリオール樹脂は、上述した単量体にくわえて、その他の単量体を使用するものであってもよい。当該その他の単量体としては特に限定されず、上述したエマルション樹脂(A)において例示した単量体を使用することができる。
また、上記アクリルポリオール樹脂が、t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又は、上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位を一部に有するものであってもよい。さらに、(メタ)アクリル酸の1級又は2級アルキルエステルも、上記水性ポリオール樹脂のその他の単量体として使用することができる。
【0129】
上記水性ポリオール樹脂(B)は、その分子量を特に限定されるものではないが、重量平均分子量が3000~100000の範囲内のものであることが好ましい。上記下限は、4000 であることがより好ましく、5000 であることが更に好ましい。上記上限は、60000であることがより好ましく、30000であることが更に好ましい。なお、重量平均分子量の測定方法は、以下の実施例に記載した方法によるものである。
【0130】
上述した方法で水性化する場合、通常の溶液重合等の方法で樹脂を得た後、水及びアミン化合物を添加して撹拌することによって、行うことができる。
【0131】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、エマルション樹脂粒子(A)と、水性ポリオール樹脂(B)とを、1:9~9:1の割合(重量比)で混合して使用することが好ましい。
更に、エマルション樹脂粒子(A)の配合量の下限は、2:8であることがより好ましく、3:7であることが更に好ましい。エマルション樹脂粒子(A)の配合量の上限は、8:2であることがより好ましく、7:3であることが更に好ましい。
【0132】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、さらに、エステル交換触媒(C)を含有する。これによって、エステル交換を生じさせることができ、樹脂組成物を硬化させることができる。
(エステル交換触媒(C))
本発明の水性熱硬化型樹脂組成物は、エステル交換触媒(C)を含有するものである。すなわち、エステル基と水酸基との間のエステル交換反応を効率よく生じさせ、充分な熱硬化性を得るために、エステル交換触媒(C)を配合する。
【0133】
上記エステル交換触媒(C)としては、エステル交換反応を活性化させることができるものとして公知の任意の化合物を使用することができる。
具体的には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、燐酸又はスルホン酸、ヘテロポリ酸などのような種々の酸性化合物;LiOH、KOH又はNaOH、アミン類、ホスフィン類などのような種々の塩基性化合物;PCO、酸化マグネシウム、酢酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート、酸化亜鉛、酢酸鉛、酢酸マンガン、酢酸銅、酢酸ニッケル、酢酸パラジウム、アルミニウムイソプロピレート、アルミナ、ジルコニウムアセチルアセトナート、酸化ジルコニウム、塩化鉄、塩化コバルト、塩化パラジウム、ジチオカルバミン酸亜鉛、三酸化アンチモン、テトライソプロピルチタネート、酸化チタン、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、モノブチル錫オキサイドまたはモノブチル錫酸などのような種々の金属化合物;テトラメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、水酸化テトラメチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウムメチルカルボナートなどの4級アンモニウム塩等、テトラブチルホスホニウムブロミド、水酸化テトラブチルホスホニウムなどのホスホニウム塩等、1,8‐ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン‐7などの強塩基等を挙げることができる。また、光や熱によって酸を発生させる光応答性触媒、熱潜在性触媒も使用することができる。更に、亜鉛クラスター触媒(例えば、東京化成工業株式会社製のZnTAC24(商品名)等を使用することもできる。
更に、上述した化合物のうち、2種以上を併用して使用するものであってもよい。
【0134】
本発明においては、エステル交換触媒として金属化合物触媒を使用することが最も好ましい。当該金属化合物触媒は、金属種の選定や、その他の化合物との併用等によって、エステル交換反応性を得ることができる。更に、樹脂組成との組み合わせによって、適宜、必要な性能を得ることができる点で好ましい。
【0135】
上記金属化合物触媒は、亜鉛、スズ、チタン、アルミ、ジルコニウム及び鉄からなる群より選択される少なくとも1の金属元素を含む化合物(C-1)であることが好ましい。このような化合物は、好適なエステル交換反応性を有する点で好ましい。これらの中でも、亜鉛、スズ、ジルコニウムが特に優れたエステル交換反応性を有する点で好ましいものである。
【0136】
上記金属化合物としては、アニオン成分として、金属アセチルアセトネートを使用すると、同種金属化合物よりも優れたエステル交換能が得られる傾向がある点で好ましい。例えば、亜鉛アセチルアセトネートやジルコニウムアセチルアセトネートは、特に好適に使用することができる。特に、ジルコニウムアセチルアセトネートは、極めて良好な触媒性能を発揮するものである。
【0137】
上記金属化合物を触媒として使用する場合、更に、有機リン化合物、尿素、アルキル化尿素、スルホキシド化合物、ピリジン及びピリジン誘導体からなる群より選択される少なくとも1の化合物(C-2)を併用すると、触媒性能が向上する点でより好ましい。
これらの化合物を併用することで活性化された金属化合物を使用すると、上述した硬化開始温度及びゲル分率を得ることができる点で特に好ましいものである。
【0138】
このような効果が得られる作用は明らかではないが、金属化合物に化合物(C-2)が配位することで、触媒活性を向上させているものと推測される。したがって、化合物(C-2)としては、金属化合物に配位することができるような化合物を選択することが好ましい。
【0139】
上記有機リン化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスホン酸、有機ホスフィンオキシド、有機ホスフィン化合物並びにこれらの種々のエステル、アミド及び塩を挙げることができる。エステルは、アルキル、分岐アルキル、置換アルキル、二官能性アルキル、アルキルエーテル、アリール、及び置換アリールのエステルであってよい。アミドは、アルキル、分岐アルキル、置換アルキル、二官能性アルキル、アルキルエーテル、アリール、及び置換アリールのアミドであってよい。
【0140】
これらのなかでも、ホスホン酸エステル、リン酸アミド及び有機ホスフィンオキシド化合物からなる群より選択される少なくとも1の化合物であることが特に好ましい。これらの有機リン化合物を使用すると、エステル交換触媒機能が最も良好なものとなる。さらに具体的には、トリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリシクロヘキシルホスフィンオキシド、などの、有機ホスフィンオキシド化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド、トリス(N,N-テトラメチレン)リン酸トリアミド等のリン酸アミド化合物、トリフェニルホスフィンスルフィド、トリブチルホスフィンスルフィド、トリオクチルホスフィンスルフィド等の有機ホスフィンスルフィド化合物、等を好適に使用することができる。
【0141】
上記アルキル化尿素としては、特に限定されず、尿素、ジメチル尿素、ジメチルプロピレン尿素等を挙げることができる。なお、ジメチルプロピレン尿素等のように、環状構造を有するものであってもよい。
【0142】
上記アルキル化チオ尿素としては、特に限定されず、ジメチルチオ尿素等を挙げることができる。
上記スルホキシド化合物としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等を挙げることができる。
【0143】
上記ピリジン誘導体としては、キノリン、イソキノリン、ニコチン酸エステル等を挙げることができる。
【0144】
本発明のエステル交換触媒は、化合物(C-1)と化合物(C-2)とを(C-1):(C-2)=100:1~1:100(重量比)の割合で含有することが好ましい。このような割合で配合することで、特に好適な結果を得ることができる。上記下限は、50:1であることがより好ましく、10:1であることがさらに好ましい。上記上限は、1:50であることがより好ましく、1:10であることがさらに好ましい。
【0145】
上記化合物(C-1)は、反応を生じさせる際の反応系中の反応に関与する化合物の量に対して、0.01~50重量%の割合で含有させることが好ましい。
上記化合物(C-2)は、反応を生じさせる際の反応系中の反応に関与する化合物の量に対して、0.01~50重量%の割合で含有させることが好ましい。
【0146】
更に、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物においては、酸触媒を使用しなくても良好な硬化反応を生じさせることができることから、塩基性化合物を添加した水性熱硬化性樹脂組成物とすることができる点でも好ましい。
【0147】
すなわち、顔料分散剤等の添加剤としてアミン化合物が使用される場合がある。更に、塗料を水性化する場合は、樹脂中にカルボン酸基、スルホン酸基等の酸基を導入し、これをアミン化合物等で中和して水溶化することが広く行われている。この場合、酸性触媒と併用することは困難であった。このことは、エステル交換触媒を硬化反応とする熱硬化性樹脂組成物の水性化の妨げとなる問題であった。本発明においては、塩基性条件下でも硬化させることができる。
【0148】
更に、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物においては、酸触媒を使用しなくても良好な硬化反応を生じさせることができることから、塩基性化合物を添加した熱硬化性樹脂組成物とすることができる点でも好ましい。
【0149】
すなわち、顔料分散剤等の添加剤としてアミン化合物が使用される場合がある。更に、塗料を水性化する場合は、樹脂中にカルボン酸基、スルホン酸基等の酸基を導入し、これをアミン化合物等で中和して水溶化することが広く行われている。この場合、酸性触媒と併用することは困難であった。このことは、エステル交換触媒を硬化反応とする熱硬化性樹脂組成物の水性化の妨げとなる問題であった。本発明においては、塩基性条件下でも硬化させることができるため、水性化を図ることができる。
【0150】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、上記(A)(B)に該当しないような、水酸基及び/又はアルキルエステル基を合計2以上有する化合物を併用して使用するものであってもよい。
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、水酸基とアルキルエステル基とのエステル交換によて硬化するものである。したがって、水酸基及び/又はアルキルエステル基を合計2以上有する化合物が含まれると、これらが反応に関与することで、塗膜物性を調整することができる点で好ましい。このような化合物としては、特に限定されず、水酸基及び/又はアルキルエステル基を合計2以上有する化合物であれば、任意の化合物を使用することができる。
【0151】
本発明の水性熱硬化性組成物は、上記(A)(B)の成分に加えて、更に、塗料や接着剤の分野において一般的に使用されるその他の架橋剤を併用して使用するものであってもよい。使用できる架橋剤としては特に限定されず、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シラン化合物等を挙げることができる。また、ビニルエーテル、アニオン重合性単量体、カチオン重合性単量体、ラジカル重合性単量体等を併用するものであってもよい。これらの併用した架橋剤の反応を促進させるための硬化剤を併用するものであってもよい。
【0152】
なお、上述したその他架橋剤は必須ではなく、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物はこれを含有しないものであっても、良好な硬化性を得ることができる点で好ましいものである。
【0153】
上記架橋剤がポリイソシアネート化合物及び/又はメラミン樹脂である場合、樹脂成分(A)と架橋剤との合計量に対する配合量(すなわち、(架橋剤量)/(架橋剤量+樹脂成分量)が0.01~50重量%であることが好ましい。このような配合量の範囲であることで、エステル交換反応による硬化反応と他の硬化剤による硬化反応とを同時に生じさせるという点で好ましい。
上記下限は、0.01重量%であることがより好ましく、1重量%であることが更に好ましい。上記上限は、30重量%であることがより好ましく、20重量%であることが更に好ましい。
【0154】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性塗料、熱硬化性接着剤等の分野において好適に使用することができる。
【0155】
熱硬化性塗料として使用する場合は、上述した各成分以外に、塗料分野において一般的に使用される添加剤を併用するものであってもよい。例えば、レベリング剤、消泡剤、着色顔料、体質顔料、光輝性顔料等、顔料分散剤、レオロジーコントロール剤、UV吸収剤、 増粘剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤、分散剤、色分かれ防止剤、基材湿潤剤、スリップ剤等の塗料用添加剤をさらに含有するものであってもよい。並びにそれらの任意の組み合わせを併用してもよい。
【0156】
顔料を使用する場合、樹脂成分の合計固形分100重量%を基準として、好ましくは合計で1~500重量%の範囲で含むことが好ましい。上記下限はより好ましくは3重量%であり、更に好ましくは5重量部である。上記上限はより好ましくは400重量%であり、更に好ましくは300重量%である。
【0157】
上記着色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等、並びにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0158】
上記体質顔料としては、例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等が挙げられ、硫酸バリウム及び/又はタルクが好ましく、そして硫酸バリウムがより好ましい。
【0159】
上記光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム(蒸着アルミニウムを含む)、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタン又は酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタン又は酸化鉄で被覆された雲母、ガラスフレーク、ホログラム顔料等、並びにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。上記アルミニウム顔料には、ノンリーフィング型アルミニウム及びリーフィング型アルミニウムが含まれる。
【0160】
上記着色顔料は、顔料分散樹脂により分散された状態で、水性熱硬化性樹脂組成物に配合されることが好ましい。着色顔料の量は、顔料の種類等によって変化しうるが、一般には、顔料分散樹脂中に含まれる樹脂成分の固形分100質量部に対して、好ましくは約0.1~約300質量部、そしてより好ましくは約1~約150質量部の範囲内である。
【0161】
上記増粘剤としては、例えば、ケイ酸塩、金属ケイ酸塩、モンモリロナイト、コロイド状アルミナ等の無機系増粘剤;(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、ポリアクリル酸ソーダ等のポリアクリル酸系増粘剤;1分子中に親水性部分と疎水性部分を有し、水性媒体中において、上記疎水性部分が塗料中の顔料やエマルション粒子の表面に吸着する、上記疎水性部分同士が会合する等により増粘作用を示す会合型増粘剤;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の繊維素誘導体系増粘剤;カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等のタンパク質系増粘剤;アルギン酸ソーダ等のアルギン酸系増粘剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルベンジルエーテル共重合体等のポリビニル系増粘剤;プルロニックポリエーテル、ポリエーテルジアルキルエステル、ポリエーテルジアルキルエーテル、ポリエーテルエポキシ変性物等のポリエーテル系増粘剤;ビニルメチルエーテル-無水マレイン酸共重合体の部分エステル等の無水マレイン酸共重合体系増粘剤;ポリアマイドアミン塩等のポリアマイド系増粘剤等、並びにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0162】
上記ポリアクリル酸系増粘剤は市販されており、例えば、ロームアンドハース社製の「ACRYSOLASE-60」、「ACRYSOLTT-615」、「ACRYSOLRM-5」(以上、商品名)、サンノプコ社製の「SNシックナー613」、「SNシックナー618」、「SNシックナー630」、「SNシックナー634」、「SNシックナー636」(以上、商品名)等が挙げられる。
【0163】
また、上記会合型増粘剤は市販されており、例えば、ADEKA社製の「UH-420」、「UH-450」、「UH-462」、「UH-472」、「UH-540」、「UH-752」、「UH-756VF」、「UH-814N」(以上、商品名)、ロームアンドハース社製の「ACRYSOLRM-8W」、「ACRYSOLRM-825」、「ACRYSOLRM-2020NPR」、「ACRYSOLRM-12W」、「ACRYSOLSCT-275」(以上、商品名)、サンノプコ社製の「SNシックナー612」、「SNシックナー621N」、「SNシックナー625N」、「SNシックナー627N」、「SNシックナー660T」(以上、商品名)等が挙げられる。
【0164】
上記顔料分散樹脂としては、アクリル系顔料分散樹脂を使用することが好ましい。より具体的には、例えば、重合性不飽和モノマーを、親水性有機溶剤の存在下で、重合開始剤により重合することにより得られたアクリル樹脂を挙げることができる。
【0165】
上記重合性不飽和モノマーとしては、上述した樹脂の合成において例示した化合物を挙げることができ、適宜組み合わせて用いられうる。
上記顔料分散樹脂は、水に溶解するか、又は分散できる樹脂であることが好ましく、具体的には、好ましくは10~100mgKOH/g、そしてより好ましくは20~70mgKOH/gの水酸基価と、好ましくは10~80mgKOH/g、そしてより好ましくは20~60mgKOH/gの酸価とを有する。
【0166】
上記重合に用いられる上記親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert-ブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル系有機溶剤;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert-ブチルエーテル等のジエチレングリコールエーテル系有機溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系有機溶剤;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のジプロピレングリコールエーテル系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、3-メトキシブチルアセテート等のエステル系有機溶剤等、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0167】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、上記樹脂及び顔料分散樹脂の固形分質量の合計を基準として、顔料分散樹脂を、固形分で、好ましくは5~70質量%、そしてより好ましくは7~61質量%含むことが好ましい。上記範囲は、水性熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性と、本発明の着色塗料組成物を用いて形成される着色塗膜の仕上がり性、耐水性、中研ぎ性等との観点から好ましい。
【0168】
上記水性熱硬化性樹脂組成物を適用することができる被塗物としては、特に制限されず、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体の外板部;自動車部品;携帯電話、オーディオ機器、等の家庭電気製品、建築材料、家具、接着剤、フィルムやガラスのコーティング剤等、様々な例を挙げることができる。また、高温短時間硬化によって塗膜を形成するプレコートメタル、金属缶への塗装を挙げることもできる。更に、電着塗料、接着剤、パーティクルボード等への使用も挙げることができる。
【0169】
上記水性熱硬化性樹脂組成物は、電着塗料組成物として使用することもできる。電着塗料としては、カチオン電着塗料とアニオン電着塗料とを挙げることができるが、これらのいずれとすることもできる。
【0170】
上記被塗物は、上記金属材料及びそれから成形された車体等の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理等の表面処理が施されたものであってもよく、また、塗膜を有する被塗物であってもよい。
上記塗膜を有する被塗物としては、基材に所望により表面処理を施し、その上に下塗り塗膜が形成されたもの等を挙げることができる。特に、電着塗料によって下塗り塗膜が形成された車体が好ましく、カチオン電着塗料によって下塗り塗膜が形成された車体がより好ましい。
【0171】
上記被塗物は、上記プラスチック材料、それから成形された自動車部品等のプラスチック表面に、所望により、表面処理、プライマー塗装等がなされたものであってもよい。また、上記プラスチック材料と上記金属材料とが組み合わさったものであってもよい。
【0172】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、モノコートによる塗装において使用することができる。具体的には、例えば、光輝性顔料を含有するメタリック調のモノコート塗膜の形成に使用することもできる。さらに、プレコートメタル用塗料、飲食品用缶等の缶塗装用、各種接着剤用途などにおいて好適に使用することができる。なお、プレコートメタル用、缶塗装用途等の、高温短時間硬化を行うことがあるが、このような加熱が必要な用途においても、好適に使用することができる。
【0173】
上記水性熱硬化性樹脂組成物の塗装方法としては、特に制限されず、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装等が挙げられ、エアスプレー塗装、回転霧化塗装等が好ましい。塗装に際して、所望により、静電印加してもよい。上記塗装方法により、上記水性塗料組成物からウェット塗膜を形成することができる。
【0174】
上記ウェット塗膜は、加熱することにより硬化させることができる。当該硬化は、公知の加熱手段、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉により実施することができる。上記ウェット塗膜は、好ましくは約80~約180℃、より好ましくは約100~約170℃、そしてさらに好ましくは約120~約160℃の範囲の温度で、好ましくは約10~約60分間、そしてより好ましくは約15~約40分間加熱することにより硬化させることができる。また、80~140℃での低温硬化にも対応することができる点で好ましいものである。
【0175】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、ウェットオンウェットでの複層塗膜形成方法に使用することもできる。この場合、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物からなる塗料を塗装した後、硬化を行わない状態でその上に別の塗料組成物を塗装し、これらの2層の塗膜を同時に焼き付けることによって複層塗膜を形成する方法等を挙げることができる。また、このような塗装方法においては、3層以上の複層塗膜として、そのうち少なくとも1の層を本発明の水性熱硬化性樹脂組成物によって形成するものであってもよい。
【0176】
なかでも、水性ベース塗装→乾燥→溶剤クリヤー塗装→加熱硬化、という工程でのウェットオンウェットによる複層塗膜の形成に使用する水性ベース塗料として、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物を好適に使用することができる。
【0177】
本発明の水性熱硬化性樹脂組成物を上記ウェットオンウェットによる複層塗膜の形成に使用する場合、溶剤クリヤー塗装に使用する塗料は、エステル交換反応による硬化系であってもよいし、メラミン硬化、イソシアネート硬化等のその他の硬化系であってもよい。
【0178】
なかでも、溶剤クリヤー塗装において、エステル交換反応を硬化反応とする溶剤クリヤー塗料を使用するものが好ましい。このような溶剤クリヤー塗料を使用すると、ベース塗膜とクリヤー塗膜との硬化反応が同一であることから、相互の塗膜成分が混じりあうことで硬化反応を阻害することがない。更に、層間において、ベース塗膜成分とクリヤー塗膜成分との間で反応を生じるため、良好な密着性を得ることができる点でも好ましい。
【0179】
このような複層塗膜の形成にエステル交換を硬化反応とする溶剤クリヤー塗料を使用する場合、その塗料組成は特に限定されず、上述した「t-ブチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又は、上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位」並びに水酸基を有するような樹脂組成を含有するものであることが好ましい。
【0180】
ベース塗膜とクリヤー塗膜の両方においてエステル交換反応を硬化反応とする複層塗膜形成方法においては、いずれか一方にのみ、エステル交換触媒を配合すれば、双方の層を同時に硬化させることができる点で好ましい。
【0181】
なお、このようなウェットオンウェットによる硬化反応において、水性熱硬化性樹脂組成物においては、エステル交換触媒を配合していないものの、ウェットオンウェットで複層塗膜を形成し、他の塗膜層からエステル交換触媒が移動して硬化反応が進行する場合も、本発明における水性熱硬化性樹脂組成物に包含される。
【0182】
更に、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、第1の水性塗料塗装→乾燥→第2の水性塗料塗装→加熱硬化という工程による、水性/水性タイプのウェットオンウェット塗装によって複層塗膜を形成する方法に使用することもできる。この場合、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、第1の水性塗料に使用しても、第2の水性塗料に使用しても、両方に使用してもよい。更に、同様の方法で3層以上の複層塗膜を形成するものであってもよい。
【0183】
なお、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、塗料分野において使用する場合は平滑性や耐水性・耐酸性等の性能を有する充分な硬化性能が必要とされる。
一方、接着剤や粘着剤等の分野において使用する場合は、塗料において要求されるほどの高い硬化性能は必要とされない。本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、塗料として使用できるレベルのものとすることが可能であるが、このような水準に到達しない組成物であっても、接着剤や粘着剤等の分野においては使用できる場合がある。
【0184】
本発明は、上述した熱硬化型樹脂組成物を三次元架橋することによって形成されたことを特徴とする硬化膜である。
このような硬化膜は、塗料・接着剤として使用することができるような充分な性能を有したものである。
上記硬化膜は、上述した複層塗膜の形成方法によって形成された硬化膜も包含するものである。
【0185】
本発明の熱硬化型樹脂組成物は、上記成分に加えて、更に、塗料や接着剤の分野において一般的に使用されるその他の架橋剤を併用して使用するものであってもよい。使用できる架橋剤としては特に限定されず、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シラン化合物等を挙げることができる。また、ビニルエーテル、アニオン重合性単量体、カチオン重合性単量体、ラジカル重合性単量体等を併用するものであってもよい。これらの併用した架橋剤の反応を促進させるための硬化剤を併用するものであってもよい。
【実施例0186】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお文中の部は重量を表す。
【0187】
(モノマーの合成例)
合成例1
無水コハク酸180部、メタノール173部を4つ口フラスコに入れ60~70℃で無水コハク酸を溶解させる。NMRで無水コハク酸のピークが消えたことを確認し、60℃以上でメタノールを減圧除去し、コハク酸モノメチルを生成した。
コハク酸モノメチル190部、グリシジルメタクリレート205部、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、重合禁止剤を加え90℃で10時間以上反応させモノマーAを得た。
【0188】
合成例2
エチレングリコールモノアセトアセタートモノメタクリラート54部、メチルアクリレート43部、炭酸カリウム33部、18-クラウン-6エーテル2部、テトラヒドロフラン97部を混合し、50℃で3時間撹拌した。反応終了後、シクロヘキサンと水を投入し、水洗した。有機層は飽和塩化アンモニウム水溶液で中和後、2度水洗し、得られた有機層を減圧下濃縮し、モノマーBを得た。
【0189】
合成例3
クロロ酢酸メチル90部、炭酸カリウム130部、ジメチルホルムアミド250部を混合し、混合液に対し、メタクリル酸78部を30~40℃で滴下した。滴下終了後、トリエチルアミン8部を投入し、50℃で4時間撹拌した。反応終了後、水500部で水洗した。有機層にトルエン300部を投入し、水300部で4度水洗した。得られた有機層を減圧下蒸留し、モノマーCを得た。
【0190】
(エマルションの合成例)
合成例4
n-ブチルメタアクリレート(共栄社化学(株)品:ライトエステルNB)350部、4-ヒドロキシブチルアクリレート25部、スチレン125部をモノマー混合液とし、開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(富士フィルム和光純薬(株) V-501)15部、アデカリアソープSR-3025 60部(ADEKA(株))、イオン交換水140部を加え、ホモミキサーを用いて室温で1時間乳化後、イオン交換水を140部加え、モノマー乳化液を調整した。攪拌可能なフラスコにイオン交換水を440部及びモノマー乳化液の内50部を入れ、窒素封入しながら、残りのモノマー乳化液を滴下し重合を行った。この時の重合温度は75℃とした。滴下は3時間で行い、更に75℃で熟成を5時間行い、エマルションAを得た。
【0191】
合成例5
n-ブチルメタアクリレート(共栄社化学(株)品:ライトエステルNB)200部、モノマーA 150部、4-ヒドロキシブチルアクリレート25部、スチレン125部をモノマー混合液とし、開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(富士フィルム和光純薬(株) V-501)15部、アデカリアソープSR-3025 60部(ADEKA(株))、イオン交換水140部を加え、ホモミキサーを用いて室温で1時間乳化後、イオン交換水を140部加え、モノマー乳化液を調整した。攪拌可能なフラスコにイオン交換水を440部及びモノマー乳化液の内50部を入れ、窒素封入しながら、残りのモノマー乳化液を滴下し重合を行った。この時の重合温度は75℃とした。滴下は3時間で行い、更に75℃で熟成を5時間行い、エマルションBを得た。
【0192】
合成例6
n-ブチルメタアクリレート(共栄社化学(株)品:ライトエステルNB)150部、モノマーA 150部、4-ヒドロキシブチルアクリレート25部、スチレン125部、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸(共栄社化学(株)品:ライトエステルHO-MS(N)) 50部をモノマー混合液とし、開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(富士フィルム和光純薬(株) V-501)15部、アデカリアソープSR-3025 60部(ADEKA(株))、イオン交換水140部を加え、ホモミキサーを用いて室温で1時間乳化後、イオン交換水を140部加え、モノマー乳化液を調整した。攪拌可能なフラスコにイオン交換水を440部及びモノマー乳化液の内50部を入れ、窒素封入しながら、残りのモノマー乳化液を滴下し重合を行った。この時の重合温度は75℃とした。滴下は3時間で行い、更に75℃で熟成を5時間行い、エマルションCを得た。
【0193】
合成例7
合成例6のモノマーAをモノマーBへ変更し、同様の合成方法にてエマルションDを得た。
【0194】
合成例8
合成例6のモノマーAを2-メチレングルタル酸ジメチルへ変更し、同様の合成方法にてエマルションE を得た。
【0195】
合成例9
合成例6のモノマーAをモノマーCへ変更し、同様の合成方法にてエマルションF を得た。
【0196】
(水性アクリルポリオールの合成例)
合成例10
n-ブチルメタアクリレート(共栄社化学(株)品:ライトエステルNB)245部、4-ヒドロキシブチルアクリレート160部、スチレン75部、メタクリル酸 20部をモノマー混合液とし、開始剤として1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂(株) パーオクタO)25部をブチルグリコールに溶解し開始剤溶液とした。撹拌可能なフラスコにブチルグリコールを500部入れ、窒素封入しながら、モノマー溶液および開始剤溶液を滴下した。この時の重合温度を100℃とした。滴下は2時間で行い、更に100℃で熟成を4時間行い、重量平均分子量13500、分散度1.67の水性アクリルポリオールAを得た。
【0197】
合成例11
n-ブチルメタアクリレート(共栄社化学(株)品:ライトエステルNB)200部、4-ヒドロキシブチルアクリレート160部、スチレン75部、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸(共栄社化学(株)品:ライトエステルHO-MS(N)) 65部をモノマー混合液とし、開始剤として1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂(株) パーオクタO)25部をブチルグリコールに溶解し開始剤溶液とした。撹拌可能なフラスコにブチルグリコールを500部入れ、窒素封入しながら、モノマー溶液および開始剤溶液を滴下した。この時の重合温度を100℃とした。滴下には2時間で行い、更に100℃で熟成を4時間行い、重量平均分子量21100、分散度2.13の水性アクリルポリオールBを得た。
【0198】
Mn(数平均分子量),Mw(重量平均分子量)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した、ポリスチレン換算分子量の値である。カラムはGPC KF-804L(昭和電工(株)製)、溶剤はテトラヒドロフランを使用した。
【0199】
(触媒の分散)
ブチルグリコール100部、MBTO(モノブチルスズオキサイド)25部、ガラスビーズ(アイメックス製:AIMEXビーズNo.1510)100部を混合し、分散機(LAU製:DAS-H200K)を用い30分間処理し、触媒分散液を得た。
【0200】
(水性アクリルポリオールとエマルションの硬化膜の調整)
水性アクリルポリオール120部、触媒分散液15部、ジメチルエタノールアミン4.5~9部、イオン交換水300部を加え水性樹脂液を得た。得られた水性樹脂液へ攪拌を行いながら、エマルションを100部加えた。得られた調整液をアプリケーターを用いてWETで400μmの塗膜を作成し、150℃×30分焼き付け、及びゲル分率を測定した。
【0201】
【0202】
比較例、実施例1~6
調整液を、アプリケーターを用いてWETで400μmの塗膜を作成し、150℃で30分焼き付けを行った。その後、ゲル分率を測定した。
【0203】
ゲル分率は、実施例で得られた皮膜をソックスレーを用いてアセトン還流中で30分間溶解を行い、皮膜の残存重量%をゲル分率として測定した。
ゲル分率は0~60%を実用に耐えられないものとして×とした。
ゲル分率は60~80%を実用に耐えるものとして○とした。
ゲル分率は80~100%を性能が優れているものとして◎とした。
【0204】
(黒色顔料分散液の調整)
黒色顔料(カーボンブラック:ラーベン5000UIII)17部、水100部、分散剤(共栄社化学(株)品:フローレンGW-1500)8.5部、消泡剤(共栄社化学品 アクアレンHS-01) 0.6部の混合物にガラスビーズ(粒径1.5-2.0mm)100部加え、ラウンドシェイカーで2時間分散させ顔料分散液を作製した。
【0205】
(モノコートの硬化膜の調整)
水性アクリルポリオールB60部、触媒分散液7.5部、ジメチルエタノールアミン3部、黒色顔料分散液 11部、イオン交換水80部を加え水性樹脂液を得た。得られた水性樹脂液へ攪拌を行いながら、エマルションCを50部加え、イオン交換水で粘度調整を行った。膜厚0.8μmのダル鋼鈑上に、得られた調整液をエアスプレーによって、乾燥膜厚が15μmになるように塗装し、80℃×10分間乾燥し、塗膜を形成した。その後、塗膜を150℃×30分間焼き付け硬化させた。
【0206】
(クリヤー塗料の調整)
2-エチルヘキシルメタアクリレート(共栄社化学(株)品:ライトエステルEH)100部、モノマーA 150部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学(株)品:ライトエステルHO-250(N))125部、スチレン125部をモノマー混合液とし、開始剤として1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂(株) パーオクタO)25部を芳香族炭化水素(T-SOL100)に溶解し開始剤溶液とした。
撹拌可能なフラスコに芳香族炭化水素(T-SOL 100)240部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 250部を入れ、窒素封入しながら、モノマー溶液および開始剤溶液を滴下した。この時の重合温度を105℃とした。滴下には2時間で行い、更に100℃で熟成を4時間行い、ポリマー液を得た。
ポリマー液100部に触媒分散液7.5部を加え、芳香族炭化水素(T-SOL 100)とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにて粘度調整を行い、クリヤー塗料を得た。
【0207】
(ウェットオンウェットの硬化膜の調整)
水性アクリルポリオールB60部、触媒分散液7.5部、ジメチルエタノールアミン3部、黒色顔料液 11部、イオン交換水80部を加え水性樹脂液を得た。得られた水性樹脂液へ攪拌を行いながら、エマルションCを50部加え、イオン交換水で粘度調整を行った。膜厚0.8μmのダル鋼鈑上に、得られた調整液をエアスプレーによって、乾燥膜厚が15μmになるように塗装し、80℃×10分間乾燥し、ベース塗膜を形成した。その後、クリヤー塗料を乾燥膜厚が20μになるようにエアスプレー塗装を行いクリヤー塗膜を形成した。5分間室温放置後、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を150℃×30分間焼き付け硬化させた。
評価結果を下記表2に示す。
【0208】
【0209】
塗膜状態
焼付け後の塗膜を目視にて表面状態を観察した。
◎ : 光沢があり、表面状態が滑らかなもの
○ : 僅かにユズ肌が見られるもの
△ : ユズ肌、ワキが見られ、光沢が無いもの
× : 光沢が無く、表面の凹凸、ユズ肌、ワキが酷いもの
【0210】
キシレンラビング
焼き付け後の塗板に、キシレンを染み込ませた薬方ガーゼで10回擦った。キシレンを乾燥後、表面状態を目視で観察した。
◎:全く変化が無かったもの
〇:僅かにキズが付いたもの
△:僅かに溶解したもの
×:表面が白化、溶解したもの
【0211】
耐酸性試験
焼付け後の塗板に、40%の硫酸水溶液を一滴垂らし、50℃にて1時間放置後、硫酸水をふき取り、研磨剤にて表面を軽く研磨しその状態を観察した。
◎:全く変化が無かったもの
○:僅かに硫酸の輪郭が見られたもの
△:塗膜が劣化し、白化したもの
×:塗膜を分解し、明らかに塗膜内部まで浸食したもの
【0212】
上記表2の結果から、本発明の水性熱硬化性樹脂組成物は、モノコートにおいても、多層塗膜の形成においても、好適に使用することができ、良好な性能を有する塗料組成物として使用することができる。