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  • 特開-すべり軸受用銅合金およびすべり軸受 図1
  • 特開-すべり軸受用銅合金およびすべり軸受 図2
  • 特開-すべり軸受用銅合金およびすべり軸受 図3
  • 特開-すべり軸受用銅合金およびすべり軸受 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059922
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】すべり軸受用銅合金およびすべり軸受
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20220407BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20220407BHJP
   F16C 9/04 20060101ALI20220407BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
C22C9/04
F16C33/12 Z
F16C9/04
F16C17/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167814
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners 特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】姉川 雅樹
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA02
3J011DA01
3J011KA02
3J011LA04
3J011MA12
3J011NA01
3J011PA10
3J011QA20
3J011SB02
3J011SB03
3J011SB04
3J011SB05
3J011SB15
3J011SB20
3J033AA05
3J033AB04
3J033GA07
(57)【要約】
【課題】黄銅系のすべり軸受用銅合金の特性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】本発明のすべり軸受用銅合金およびすべり軸受は、26wt%以上かつ28wt%以下のZnと、4wt%以上かつ5wt%以下のAlと、1wt%以上かつ3wt%以下のNiと、1wt%以上かつ2wt%以下のSiと、1wt%以上かつ3wt%以下のFeと、を含有し、残部が不可避不純物とCuからなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
26wt%以上かつ28wt%以下のZnと、
4wt%以上かつ5wt%以下のAlと、
1wt%以上かつ3wt%以下のNiと、
1wt%以上かつ2wt%以下のSiと、
1wt%以上かつ3wt%以下のFeと、を含有し、
残部が不可避不純物とCuからなるすべり軸受用銅合金。
【請求項2】
Cu-Zn系合金のマトリクス内に、前記マトリクスより硬いAl-Ni-Si-Fe系化合物が存在する、
請求項1に記載のすべり軸受用銅合金。
【請求項3】
前記不可避不純物以外に、CrおよびMnを含まない、
請求項1または請求項2に記載のすべり軸受用銅合金。
【請求項4】
26wt%以上かつ28wt%以下のZnと、
4wt%以上かつ5wt%以下のAlと、
1wt%以上かつ3wt%以下のNiと、
1wt%以上かつ2wt%以下のSiと、
1wt%以上かつ3wt%以下のFeと、を含有し、
残部が不可避不純物とCuからなるすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄銅系のすべり軸受用銅合金およびすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
CuおよびZnを含む黄銅系の合金を利用したすべり軸受が知られている。例えば、従来、Al,Si,Zn,Cuからなる合金がすべり軸受に使用されている。すべり軸受は、潤滑油中で荷重が作用した状態で繰り返し使用されるため、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐疲労性、耐腐食性等の特性がよくなるように、組成が調整される。例えば、特許文献1においては、硬質物が形成されるように、MnおよびSiを含む黄銅ですべり軸受が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-108608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Al,Si,Zn,Cuからなる従来のすべり軸受用銅合金は、比較的高負荷の軸受等に使用されているが、より高負荷で使用された場合に、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐疲労性等の特性が不充分になる場合があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、黄銅系のすべり軸受用銅合金の特性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すべり軸受用銅合金は、26wt%以上かつ28wt%以下のZnと、4wt%以上かつ5wt%以下のAlと、1wt%以上かつ3wt%以下のNiと、1wt%以上かつ2wt%以下のSiと、1wt%以上かつ3wt%以下のFeと、を含有し、残部が不可避不純物とCuからなる。
【0006】
以上のすべり軸受用銅合金は、黄銅のベースに硬質物であるAl-Ni-Si-Fe系化合物が存在する合金である。一方、従来のAl,Si,Zn,Cuからなる従来のすべり軸受用銅合金には、一般に硬質物は存在しない。前者のすべり軸受用銅合金は、後者のすべり軸受用銅合金と比較して、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐疲労性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1Aはすべり軸受の構成を示す図、図1Bはすべり軸受10の表面の画像、図1Cは比較例にかかるすべり軸受の表面の画像である。
図2図2A図2Bはすべり軸受の製造方法を示す図である。
図3図3Aは焼付試験の説明図、図3Bは疲労強度試験の試験片を示す図である。
図4】摩耗試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)すべり軸受の構成:
(2)すべり軸受の製造方法:
(3)特性試験:
(3-1)焼き付き荷重:
(3-2)疲労強度:
(3-3)摩耗深さ:
(3-4)耐腐食性:
(4)他の実施形態:
【0009】
(1)すべり軸受の構成:
本発明の一実施形態は、例えば、ピストンピン用ブシュとして実現される。図1Aは、内燃機関用のピストンヘッド1とコンロッド3と、これらを連結するピストンピン2を模式的に示している。ピストンヘッド1は略円柱形の外形でありその側面に円柱状の穴である挿通穴1aが形成されている。挿通穴1aの中心軸はピストンヘッド1の側面に垂直な方向を向いており、挿通穴1aはピストンヘッド1を貫通している。
【0010】
コンロッド3の端部は、挿通穴3aが形成されている。挿通穴3aの中心軸はコンロッド3が延びる方向と垂直な方向を向いている。コンロッド3の端部をピストンヘッド1の内側に配置させた状態でピストンピン2を挿通穴1a,3aに挿通することで、ピストンヘッド1とコンロッド3とを連結することができる。当該連結の際に、コンロッド3とピストンピン2との間に介在するピストンピン用ブシュが、本発明の一実施形態にかかるすべり軸受10である。
【0011】
すべり軸受10は、図1Aに示すように円筒形の部材である。すべり軸受10の外径は、挿通穴3aの内径より僅かに大きく、挿通穴3aに圧入されている。すべり軸受10の内径はピストンピン2の外径より僅かに大きい。すべり軸受10がコンロッド3とピストンピン2との間に介在する状態でピストンヘッド1とコンロッド3とが連結され、コンロッド3の図示されない端部に連結されたクランクシャフトが回転すると、コンロッド3が回転をピストンピン2に伝達し、ピストンヘッド1が往復運動する。この際、すべり軸受10から見るとコンロッド3は揺動し、当該揺動における荷重を受けてすべり軸受10と相手材とが摺動する。
【0012】
本実施形態においてすべり軸受10は、26wt%以上かつ28wt%以下のZnと、4wt%以上かつ5wt%以下のAlと、1wt%以上かつ3wt%以下のNiと、1wt%以上かつ2wt%以下のSiと、1wt%以上かつ3wt%以下のFeと、を含有し、残部が不可避不純物とCuからなる。
【0013】
このため、すべり軸受10は、Cu-Zn系のマトリクスの中にAl-Ni-Si-Fe系化合物が存在する合金によって形成される。図1Bは、本実施形態にかかるすべり軸受10の表面の画像である。当該画像に示された表面をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で測定することにより、図1Bにおいて薄いグレーで表現された部分(例えば、符号Mt)はCu-Zn系のマトリクスであり、濃いグレーで表現された部分(例えば、符号H)はAl-Ni-Si-Fe系化合物であることが確認されている。
【0014】
本実施形態において、26wt%以上かつ28wt%以下のZnとCuとによってCu-Zn系のマトリクスが形成されるが、当該マトリクスは比較的軟質である。一方、マトリクスの中に形成されるAl-Ni-Si-Fe系化合物は、マトリクスより硬い。従って、本実施形態にかかるすべり軸受10は、Cu-Zn系のマトリクスに硬質のAl-Ni-Si-Fe系化合物が存在する合金である。
【0015】
(2)すべり軸受の製造方法:
本実施形態にかかるすべり軸受10は、上述の組成の原材料を、円筒形の部材に加工することで製造される。具体的には、Znが26wt%以上かつ28wt%以下、Alが4wt%以上かつ5wt%以下、Niが1wt%以上かつ3wt%以下、Siが1wt%以上かつ2wt%以下、Feが1wt%以上かつ3wt%以下、残部がCuとなるように各原材料が用意される。
【0016】
用意された各原材料は溶融され、押し出し加工用のビレットが製造される。図2Aは、取り鍋L内の溶融材料が型Moに入れられ、鋳造によってビレットBとして製造される様子を模式的に示している。本実施形態においては、当該ビレットBが押出装置にセットされ、熱間押出加工が行われる。図2Bは、押出装置5の例を示す図である。押出装置5は、コンテナC,ダミーブロックDb,ダイスDc,ステムS,マンドレルMを備えている。
【0017】
ビレットBは、加熱された状態でコンテナC内にセットされる。本実施形態において、ダイスDcは円柱状の貫通穴を有している。マンドレルMは円柱状の外形であり、マンドレルMの外径はダイスDcの貫通穴の内径より小さい。本実施形態においては、マンドレルMの端部がダイスDcの貫通穴の内側に存在する状態でステムSをダイスDc側に移動させることでビレットBが押し出され、筒状の管材Bcが製造される。
【0018】
本実施形態において、管材Bcの外径および内径はすべり軸受10の外径および内径より僅かに大きい。そこで、本実施形態においては、管材Bcを軸方向に垂直な方向に切断した後、表面加工が行われることによってすべり軸受10が製造される。
【0019】
また、すべり軸受10を構成する合金において、Zn,Al,Ni,Si,Feを除く残部はCuであるが、当該残部には不可避不純物も含まれ得る。不可避不純物は、例えば、Mg,Ni,Ti,B,Pb,Mn,S,Cr,Fe,C,O等であり、精錬やスクラップ等において混入する不純物である。不可避不純物の含有量は、全体で1.0wt%以下である。なお、本実施形態において、Cu以外に意図的に加えられる元素は、Zn,Al,Ni,Si,Feである。従って、CrおよびMnは意図的に加えられておらず、含有していたとしても、不可避不純物として含有する程度である。
【0020】
(3)特性試験:
すべり軸受10またはすべり軸受10を構成する軸受用銅合金の特性を評価するため、焼き付き荷重、疲労強度、摩耗深さ、耐腐食性が測定された。焼き付き荷重の測定は、上述のすべり軸受10と同一の製造法で製造された円筒形のピストンピン用ブシュについて実施された。他の測定は、上述のすべり軸受10と同様の製造条件で製造された円筒形の素材から切り出したサンプルについて実施された。サンプルは、比較例、実施例1~3の4サンプルである。各サンプルの組成(wt%)は、表1に示された通りである。
【表1】
【0021】
表1において、残部の質量%はBal.と表記されている。表1に示したように、比較例は、Cu-Zn系の銅合金にAlとSiを含有する合金である。当該合金の表面においては、Cu-Zn系以外の相は明示的に観察されない。このため、比較例は、Cu-Zn系のマトリクス内に硬質物が存在しないサンプルとして本実施形態にかかる合金と比較される。図1Cは、比較例にかかるすべり軸受の表面の画像である。比較例においても、当該画像に示された表面がEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で測定された。比較例においては、図1Cに示されるように一様なマトリクスMtが観測されるが、図1Bに現れているような硬質物は観測されない。
【0022】
実施例1~実施例3は、表1に示された組成の合金であり、各サンプルにおける同一の元素を比較した場合において、濃度の最小値の小数第1位を切り捨てた値~濃度の最大値の小数第1位を切り上げた値が、請求項における各元素の濃度である。例えば、実施例1~実施例3のZnに着目すると、濃度の最小値は実施例1の26.3%であり、濃度の最大値は実施例3の27.7%である。従って、前者の小数第1位を切り捨てた26%~後者の小数第1位を切り上げた28%がZnの濃度の範囲である。
【0023】
(3-1)焼き付き荷重:
図3Aは、焼き付き荷重を測定するための試験機の説明図である。具体的には、図3Aに示すように、試験軸H(ハッチング)とコンロッドRを用意する。コンロッドRの貫通穴には内周に実施例1~実施例3のすべり軸受Ps(黒色)が装着されている。この試験において、試験軸Hの直径dは42mmであり、試験軸Hの軸方向における軸受Psの長さLは170mmである。また、すべり軸受Psの厚さは2.8mmである。
【0024】
当該試験機を利用し、試験軸Hの軸方向におけるコンロッドRの両外側において試験軸Hを揺動させた。さらに、図3Aに示すように、コンロッドRの長さ方向に荷重を作用させた。さらに、コンロッドRに装着された軸受Psと試験軸Hとの間には、約100℃のエンジンオイル(10W-30)を給油した。試験の過程において、荷重は0kN、3kN、6kN・・・と3kNステップで増加させる。各荷重は10分間維持された後に3kN増加される。すなわち、荷重が一定の状態で10分間揺動回転され、10分経過すると荷重が既定の大きさだけ大きくなるようにして試験が行われた。
【0025】
本実施形態においては、以上の試験機によって焼き付き荷重を測定した。ここで、焼き付き荷重は、予め決められた温度(焼付きが生じたと想定された温度)に達したときの荷重である。温度は、軸受PsやコンロッドRに取り付けた温度センサ等によって測定可能である。
【0026】
表1に示されるように、比較例の焼き付き荷重の平均値は9kN,実施例1~実施例3の焼き付き荷重の平均値は21,18,22.5kNであった。このように、実施例1~実施例3は、比較例よりも2倍以上、焼き付き荷重が大きい。当該焼き付き荷重の差異は、硬質物であるAl-Ni-Si-Fe系化合物に起因すると考えられる。
【0027】
すなわち、比較例において、Cu-Zn系のマトリクスに硬質物は存在していない。一方、実施例1~実施例3においては、Cu-Zn系のマトリクスに硬質物が存在している。このため、すべり軸受用銅合金がすべり軸受10として製造され、ピストンピンと同等の負荷が作用した場合に、実施例1~実施例3であれば、Al-Ni-Si-Fe系の硬質物によって比較例よりも耐焼き付き性が向上したと考えられる。
【0028】
(3-2)疲労強度:
油圧サーボ型疲労試験機を用いて疲労試験を行った。図3Bに示す試験片を使用し、室温で20Hzの正弦波で107回の疲労強度(疲労限度)を測定した。図3Bは、疲労試験が測定されたサンプルの形状を示している(数値の単位はmm)。なお、厚さは1.5mmである。
【0029】
以上の測定の結果、表1に示されるように、比較例の疲労強度は150MPa以下、実施例1,実施例3の疲労強度は175MPa以上、実施例2の疲労強度は200MPa以上であることが確認された。このように、実施例1~実施例3のいずれにおいても、比較例より疲労強度が大きい。一般に、Cu合金においては、Niを含むことにより固溶強化される。実施例1~実施例3にはマトリクス内にNiが存在するが、比較例においてNiは存在しない。従って、実施例1~実施例3は固溶強化によって疲労強度が向上したとも考えられる。
【0030】
(3-3)摩耗深さ:
摩耗深さは、ブロックオンリング試験によって測定された。すなわち、上述のすべり軸受10と同様の製造条件で製造された直方体のブロックが形成され、当該ブロックによってブロックオンリング試験が行われた。ブロックオンリング試験機の模式図を図4に示す。図4は、摩耗試験に使用した試験機を説明する模式図である。摩耗試験は、潤滑油としてのエンジンオイル(10W-30)Fに一部が浸漬した状態で円柱状の相手材Aを回転させるとともに、相手材Aに所定の静荷重が作用するように試験片Tを相手材Aに接触させることにより行った。試験片Tは、すべり軸受10を構成するすべり軸受用銅合金と同一条件で形成し、平面板状とした。相手材Aは、すべり軸受10が軸受けするピストンピン2と同等の材料、すなわち、焼き入れ処理を行ったSCM415H(クロムモリブデン鋼)で形成した。
【0031】
相手材Aの回転軸方向における試験片Tの長さ(図4の奥行き方向の長さ)を10mm、幅Wを20mm、厚さDを2~4mmとした。相手材Aの直径は40mmとした。摺動部における相手材Aの試験片Tに対する相対移動速度が0.5m/sとなるように、相手材Aの回転速度を制御した。また、静荷重を90Nとし、試験時間を15分、温度を100℃とした。以上の条件で摩耗試験を行った後に、表面粗さ計によって試験片Tにおける相手材Aとの摺動部の深さのプロフィールを計測した。そして、深さのプロフィールにおける平坦部(非摩耗部)と最深部との深さの差を摩耗深さとして計測した。摩耗深さは、幅方向の複数の位置について測定された深さの平均値である。
【0032】
以上の測定の結果、表1に示されるように、比較例における摩耗深さの平均値は14.1μm、実施例1~実施例3のそれぞれで5.2μm、6.6μm、5.5μmであった。このように、実施例1~実施例3においては、摩耗深さが比較例の1/2よりも小さい。当該摩耗深さの差異は、硬質物であるAl-Ni-Si-Fe系化合物に起因すると考えられる。
【0033】
すなわち、比較例において、Cu-Zn系のマトリクスに硬質物は存在していない。一方、実施例1~実施例3においては、Cu-Zn系のマトリクスに硬質物が存在している。このため、実施形態にかかるすべり軸受用銅合金がすべり軸受として利用された場合、Al-Ni-Si-Fe系の硬質物が存在することによりマトリクスの摩耗を防ぎ、この結果、比較例よりも耐摩耗性が向上したと考えられる。
【0034】
(3-4)耐腐食性:
耐腐食性の評価は、オイルが入れられた容器の中にサンプルを浸漬して密閉し、加熱した後、試験前後の重量を測定することによって実施された。なお、本例において、サンプルは長さ20mm、幅10mm、厚さ2~4mmの板である。また、試験時間は8時間であり、温度は230℃であり、油はエンジンオイルが利用された。腐食度合は(浸漬後のサンプルの重量-浸漬前のサンプルの重量)/浸漬前のサンプルの表面積、で表した。値が大きいほど腐食が進行している事を表している。表1に示されるように、比較例、実施例1~実施例3の、高温環境下での耐腐食性は、どれも0.1より小さく、良好であった。
【0035】
以上のような特性試験により、本実施形態にかかるすべり軸受用銅合金は、硬質物が存在していないCu-Zn系のすべり軸受用銅合金と高温環境下での耐腐食性が同等であることがわかる。一方、実施例1~実施例3は、比較例よりも焼き付き荷重が大きく、疲労強度が大きく、耐摩耗性が高い。従って、実施例1~実施例3は、高温の油腐食環境下において高負荷が作用する用途、例えば、ピストンピン用ブシュに適したすべり軸受用銅合金であると言える。
【0036】
さらに、本実施形態にかかる実施例1~実施例3は、不可避不純物以外に、CrおよびMnを含まない。従って、本実施形態においては、硬質物としてMn-Si系化合物やCr系の化合物を利用しているのではない。一方、Cu-Zn系のマトリクスにMnやCrが存在することにより、これらの元素によって形成される硬質物を利用して耐摩耗性等を向上する技術が存在する。例えば、特許文献1には、Cu-Zn系のマトリクス内にMnやSiを含有する構成にすることで形成された硬質物を利用して耐摩耗性を向上させる技術が開示されている。
【0037】
しかし、図2Bに示すような熱間押出加工等で利用される部材には、CrやMnと反応しやすい部材が多い。例えば、CrやMnを含むビレットBを図2Bに示す熱間押出加工で押し出す場合、CrやMnが当該熱間押出加工に利用されるダイスDcと反応し、熱間押出加工が困難になりやすい。しかし、本実施形態にかかるすべり軸受用銅合金は、不可避不純物としてCrおよびMnが含有される可能性はあるが、CrおよびMnは意図的には加えられない。従って、本実施形態にかかる組成のビレットBは、容易に熱間押出で加工することができる。
【0038】
そして、本実施形態においては、ビレットBを熱間押出加工によって管材Bcを製造するため、鋳巣や欠陥を抑えながら、高い寸法精度で管材Bcを製造することができる。このため、管材Bcを切断し、表面加工することですべり軸受10を形成する際に発生する取り代を抑えることができ、製造コストを抑制することができる。
【0039】
(4)他の実施形態:
前記実施形態においては、本発明のすべり軸受用銅合金によってすべり軸受10を形成した例を示したが、本発明のすべり軸受用銅合金によって他の摺動部材を形成してもよい。例えば、本発明の銅合金によってトランスミッション用のギヤブシュやターボチャージャー用軸受等を形成してもよい。
【0040】
また、すべり軸受10を製造する方法は、上述の熱間押出加工に限定されず、他の種々の方法であってよい。例えば、鋳造によってビレットを製造し、熱間押出加工と引抜加工とを併用して当該ビレットを加工して管材Bcを製造しても良い。また、鋳造によって製造されたビレットを、引抜加工によって加工して管材Bcを製造しても良い。さらに、連続鋳造によって管材Bcを製造しても良い。さらに、連続鋳造と引抜加工とを併用して管材Bcを製造しても良い。むろん、これらの製造方法や、上述の図2A図2Bに示す製造方法の過程で矯正工程が行われ、熱処理や残留応力等で生じた歪み等が低減されても良い。
【符号の説明】
【0041】
1…ピストンヘッド、1a…挿通穴、2…ピストンピン、3…コンロッド、3a…挿通穴、5…押出装置、10…軸受、B…ビレット、Bc…管材、C…コンテナ、D…ダイス、H…試験軸、L…取り鍋、M…マンドレル、Mo…型、Ps…軸受、R…コンロッド、S…ステム、d…直径
図1
図2
図3
図4