(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060012
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】コバルトフリーの化成皮膜処理液、及び、それを用いた化成皮膜処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/30 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
C23C22/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167973
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 直也
(72)【発明者】
【氏名】金田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高篠 諄史
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026AA12
4K026AA22
4K026BA06
4K026BB03
4K026BB08
4K026BB10
4K026CA13
4K026CA18
4K026CA19
4K026CA32
4K026CA33
4K026CA41
4K026DA03
(57)【要約】
【課題】耐食性及び耐傷性に優れた化成皮膜を形成することができ、良好な液安定性を有するコバルトフリーの化成皮膜処理液、及び、それを用いた化成皮膜処理方法を提供する。
【解決手段】(A)三価クロムイオン、
(B)コロイダルシリカ、
(C)下記(1)~(6)のいずれか一つに記載の二種類のカルボン酸化合物、
(1)シュウ酸化合物とマロン酸化合物、
(2)シュウ酸化合物と酒石酸化合物、
(3)シュウ酸化合物とリンゴ酸化合物、
(4)シュウ酸化合物と酢酸化合物、
(5)酒石酸化合物とクエン酸化合物、
(6)酒石酸化合物とマロン酸化合物、
(D)チタン化合物、及び、
(E)硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上を含有するコバルトフリーの化成皮膜処理液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)三価クロムイオン、
(B)コロイダルシリカ、
(C)下記(1)~(6)のいずれか一つに記載の二種類のカルボン酸化合物、
(1)シュウ酸化合物とマロン酸化合物、
(2)シュウ酸化合物と酒石酸化合物、
(3)シュウ酸化合物とリンゴ酸化合物、
(4)シュウ酸化合物と酢酸化合物、
(5)酒石酸化合物とクエン酸化合物、
(6)酒石酸化合物とマロン酸化合物、
(D)チタン化合物、及び、
(E)硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上
を含有するコバルトフリーの化成皮膜処理液。
【請求項2】
前記三価クロムイオンが、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロム及び酢酸クロムからなる群のうちの一種または二種以上である請求項1に記載のコバルトフリーの化成皮膜処理液。
【請求項3】
前記チタン化合物が、酸化チタン(IV)、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、チタンフッ化アンモニウム、チタンフッ化カリウム、チタンラクテート、シュウ酸チタンカリウムからなる群のうちの一種または二種以上である請求項1または2に記載のコバルトフリーの化成皮膜処理液。
【請求項4】
(F)V、Ce、Mo及びWからなる群のうちの一種または二種以上をさらに含有する請求項1~3のいずれか一項に記載のコバルトフリーの化成皮膜処理液。
【請求項5】
前記化成皮膜処理液の処理対象の金属が、亜鉛または亜鉛合金である請求項1~4のいずれか一項に記載のコバルトフリーの化成皮膜処理液。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のコバルトフリーの化成皮膜処理液を、処理対象の金属の表面に接触させることを含む化成皮膜処理方法。
【請求項7】
前記処理対象の金属が、亜鉛または亜鉛合金である請求項6に記載の化成皮膜処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトフリーの化成皮膜処理液、及び、それを用いた化成皮膜処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄系材料や鉄系部品の防錆方法として亜鉛又は亜鉛合金めっきが広く用いられ、めっき上に保護皮膜を形成させることが一般的である。保護皮膜の一種である化成皮膜処理の分野においては、かつて六価クロメートが多用されていたが、環境問題等の理由により現在は三価クロム化成皮膜処理が主流となっている。この三価クロム化成皮膜処理液には耐食性や耐傷性の向上を目的として、コバルト化合物が含有されているものが一般的である。
【0003】
しかしながら、コバルト化合物は環境への影響が指摘されており、REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)規則の高懸念物質として登録されている。日本国内においても、安全衛生法施行令、特定化学物性障害予防規則によって、コバルトへの対策が強化されている。そのため、今後三価クロム化成皮膜処理液に含有されるコバルト化合物についても使用が制限されるという可能性がある。
【0004】
このような問題に対し、種々のコバルトフリーの化成皮膜処理液が研究・開発されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6216936号公報
【特許文献2】特許第6085831号公報
【特許文献3】特表2019-515143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
めっきを保護するための化成皮膜には、良好な耐食性や耐傷性を有することが望まれ、また、当該化成皮膜を形成するための処理液は良好な安定性を有することも望まれている。このような観点から、従来の化成皮膜処理液には更なる開発の余地がある。
【0007】
本発明は、耐食性及び耐傷性に優れた化成皮膜を形成することができ、良好な液安定性を有するコバルトフリーの化成皮膜処理液、及び、それを用いた化成皮膜処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)三価クロムイオン、(B)コロイダルシリカ、(C)所定の二種類のカルボン酸化合物、(D)チタン化合物、及び、(E)硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上を含有するコバルトフリーの化成皮膜処理液を用いることで、上記課題が解決されることを見出した。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、
(A)三価クロムイオン、
(B)コロイダルシリカ、
(C)下記(1)~(6)のいずれか一つに記載の二種類のカルボン酸化合物、
(1)シュウ酸化合物とマロン酸化合物、
(2)シュウ酸化合物と酒石酸化合物、
(3)シュウ酸化合物とリンゴ酸化合物、
(4)シュウ酸化合物と酢酸化合物、
(5)酒石酸化合物とクエン酸化合物、
(6)酒石酸化合物とマロン酸化合物、
(D)チタン化合物、及び、
(E)硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上
を含有するコバルトフリーの化成皮膜処理液である。
【0010】
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液は一実施形態において、前記三価クロムイオンが、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロム及び酢酸クロムからなる群のうちの一種または二種以上である。
【0011】
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液は別の一実施形態において、前記チタン化合物が、酸化チタン(IV)、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、チタンフッ化アンモニウム、チタンフッ化カリウム、チタンラクテート、シュウ酸チタンカリウムからなる群のうちの一種または二種以上である。
【0012】
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液は更に別の一実施形態において、(F)V、Ce、Mo及びWからなる群のうちの一種または二種以上をさらに含有する。
【0013】
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液は更に別の一実施形態において、前記化成皮膜処理液の処理対象の金属が、亜鉛または亜鉛合金である。
【0014】
本発明は別の一側面において、本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液を、処理対象の金属の表面に接触させることを含む化成皮膜処理方法である。
【0015】
本発明の化成皮膜処理方法は、前記処理対象の金属が、亜鉛または亜鉛合金である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐食性及び耐傷性に優れた化成皮膜を形成することができ、良好な液安定性を有するコバルトフリーの化成皮膜処理液、及び、それを用いた化成皮膜処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<コバルトフリーの化成皮膜処理液>
本発明の実施形態に係るコバルトフリーの化成皮膜処理液は、(A)三価クロムイオン、(B)コロイダルシリカ、(C)所定の二種類のカルボン酸化合物、(D)チタン化合物、及び、(E)硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上を含有する。化成皮膜処理液が所定の二種類のカルボン酸、チタン化合物及びコロイダルシリカを含有することで良好な耐食性、耐傷性が得られる。また、化成皮膜処理液がチタン化合物を含有することでシリカ層の緻密化もしくは厚膜化が起こると考えられ、クロムを特定の組み合わせのカルボン酸でキレートさせることにより緻密なクロム皮膜が得られることによる耐食性、耐傷性の向上や液の安定性が向上する。
【0018】
<被処理金属>
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液で化成皮膜を形成する被処理金属(処理対象の金属)としては、亜鉛、または、亜鉛ニッケル合金、亜鉛鉄合金、錫亜鉛合金、亜鉛ダイカスト等の亜鉛合金が挙げられる。処理対象の金属は、例えば、鉄系材料や鉄系部品などの金属基材の表面に形成された、これらのめっきであってもよい。
【0019】
<三価クロムイオン>
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液の構成成分である三価クロムイオンの供給源としては、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロム、酢酸クロム等の三価クロム塩、及び、クロム酸や重クロム酸等の六価クロムを還元剤により三価に還元した三価クロム等の三価クロム化合物が利用できる。三価クロムの化合物であれば、上記以外の物質でも三価クロムの供給源として利用できる。これら三価クロム化合物は一種または二種以上を使用することができる。
【0020】
三価クロムイオンの濃度は、0.01~100g/Lが好ましく、0.01~20g/Lがより好ましく、0.05~10g/Lであるのが更により好ましく、0.05~5g/Lであるのが更により好ましい。三価クロムイオンの濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、良好な耐食性及び耐傷性が得られる。三価クロムイオンの濃度が0.01g/Lより低下すると耐食性及び耐傷性の低下を招き、100g/Lを超えるとコストメリットの観点から好ましくない。
【0021】
<コロイダルシリカ>
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液の構成成分であるコロイダルシリカは、球状コロイダルシリカであってもよく、鎖状コロイダルシリカであってもよく、球状コロイダルシリカと鎖状コロイダルシリカとを両方用いてもよい。球状コロイダルシリカは通常のものを使用することができる。鎖状コロイダルシリカは、一次粒子が数個から数十個鎖状に結合したものである。鎖状コロイダルシリカは直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。鎖状コロイダルシリカの粒子サイズについては、径3~30nmで、長さ30~500nmの粒子であってもよい。球状コロイダルシリカ、鎖状コロイダルシリカは、公知のものを用いることができ、市販品のコロイダルシリカとして入手することができる。鎖状コロイダルシリカの具体例としては日産化学工業(株)のスノーテックスUP(固形分20質量%)、スノーテックスOUP(固形分15質量%)が挙げられ、球状コロイダルシリカの具体例としては日産化学工業(株)スノーテックスXS(固形分20質量%)、スノーテックスCXS(固形分14質量%)、スノーテックスOXS(固形分10質量%)、スノーテックスS(固形分30質量%)、スノーテックスOS(固形分20質量%)、スノーテックスC(固形分20質量%)、スノーテックス30(固形分30質量%)、スノーテックスO(固形分20質量%)、日揮触媒化成(株)のカタロイドSI-30(固形分30質量%)、カタロイドSI-550(固形分20質量%)が挙げられる。コロイダルシリカとしては、特に、鎖状コロイダルシリカであるのが好ましい。鎖状コロイダルシリカを用いることで、効率的かつ緻密なシリカ層を形成することができ耐食性及び耐傷性が良好となる。
【0022】
コロイダルシリカの濃度(SiO2の濃度)は、0.1~60g/Lが好ましく、0.1~30g/Lがより好ましく、1~30g/Lであるのが更により好ましい。コロイダルシリカの濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、良好な耐食性及び耐傷性が得られる。コロイダルシリカの濃度が0.1g/Lより低下すると耐食性及び耐傷性の低下を招き、60g/Lを超えるとコストメリットの観点から好ましくない。
【0023】
<二種類のカルボン酸化合物>
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液の構成成分である二種類のカルボン酸化合物の供給源は、下記(1)~(6)のいずれか一つである。
(1)シュウ酸化合物とマロン酸化合物、(2)シュウ酸化合物と酒石酸化合物、(3)シュウ酸化合物とリンゴ酸化合物、(4)シュウ酸化合物と酢酸化合物、(5)酒石酸化合物とクエン酸化合物、(6)酒石酸化合物とマロン酸化合物。
【0024】
上記(1)~(6)の二種類のカルボン酸化合物の組み合わせにより、良好な皮膜形成をしつつ、処理液の安定性向上が得られる。また、反応速度の異なるカルボン酸を組み合わせることで反応ムラの低減ができ、均一な外観が得られやすくなる。
【0025】
二種類のカルボン酸化合物の合計濃度は、0.01~100g/Lが好ましく、0.1~50g/Lがより好ましく、1~30g/Lであるのが更により好ましい。二種類のカルボン酸化合物の合計濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、良好な耐食性及び耐傷性が得られ、液安定性が良好となる。二種類のカルボン酸化合物の合計濃度が0.01g/Lより低下すると耐食性及び耐傷性、さらには液安定性の低下を招き、100g/Lを超えるとコストメリットの観点から好ましくない。
【0026】
<チタン化合物>
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液の構成成分であるチタン化合物の供給源としては、酸化チタン(IV)、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、チタンフッ化アンモニウム、チタンフッ化カリウム、チタンラクテート、シュウ酸チタンカリウム等が利用できる。これらチタン化合物は一種または二種以上を使用することができる。チタン化合物の供給源としては、チタンフッ化アンモニウム、チタンラクテート、シュウ酸チタンカリウムがより好ましい。
【0027】
チタン化合物の濃度は、0.01~100g/Lが好ましく、0.01~20g/Lがより好ましく、0.05~10g/Lであるのが更により好ましく、0.05~5g/Lであるのが更により好ましい。チタン化合物の濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、良好な耐食性及び耐傷性が得られ、液安定性が良好となる。チタン化合物の濃度が0.01g/Lより低下すると耐食性及び耐傷性、さらには液安定性の低下を招き、100g/Lを超えるとコストメリットの観点から好ましくない。
【0028】
<硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオン>
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液の構成成分である硫酸イオン、硝酸イオン及び、塩化物イオンの供給源としては、硫酸、硝酸、塩酸や、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が利用できる。硫酸クロム、硝酸クロム等のクロム化合物に含有される各種アニオンも供給源として利用できる。硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンの化合物であれば、上記以外の物質も硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンの供給源として利用できる。硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンは、一種または二種以上を使用することができる。硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンの供給源としては、硝酸、硝酸ナトリウム、硫酸、硫酸ナトリウム、塩酸、塩化ナトリウムがより好ましい。
【0029】
硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上の濃度は、0.1~100g/Lが好ましく、1~50g/Lであるのがより好ましく、1~30g/Lであるのが更により好ましい。硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上の濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜を形成でき、良好な耐食性及び耐傷性が得られる。硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上の濃度が0.1g/Lより低下すると耐食性及び耐傷性の低下を招き、100g/Lを超えるとコストメリットの観点から好ましくない。
【0030】
<その他の成分>
本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液は、その他の成分として、V(例えば、酸化バナジウム(III)、酸化バナジウム(IV)、酸化バナジウム(V)、塩化バナジウム(III)、塩化バナジル(V)、硫酸バナジル、バナジン酸アンモン、または、バナジン酸カリウム等)、Ce(例えば、塩化セリウム、硫酸セリウム(III)、硫酸セリウム(IV)、硝酸二アンモニウムセリウム、シュウ酸セリウム等)、Mo(例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、七モリブデン酸六アンモニウム、または、モリブデン酸等)、W(例えば三酸化タングステン、タングステン酸カルシウム、タングステン酸ナトリウム、または、フッ化タングステン等)等を含有してもよい。V、Ce、Mo及びWは耐食性及び耐傷性を向上させる。これらの成分の含有量は0.001~100g/Lが好ましく、0.01~50g/Lがより好ましい。
【0031】
<化成皮膜処理方法>
次に、本発明のコバルトフリーの化成皮膜処理液を用いた化成皮膜処理方法について詳述する。本発明の化成皮膜の形成は、例えば表面にめっきが形成された金属基材(処理対象の金属)を化成皮膜処理液に浸漬させる。これにより、処理対象の金属の表面に化成皮膜処理液を接触させて、処理対象の金属の表面に化成皮膜を形成することができる。また、浸漬以外でもよく、例えば、化成皮膜処理液を用いた塗布や吹き付け工程によって、処理対象の金属の表面に化成皮膜処理液を接触させて、処理対象の金属の表面に化成皮膜を形成してもよい。
【0032】
化成皮膜処理液による処理温度は、10~80℃の範囲が好ましく、10~50℃の範囲がより好ましく、20~50℃の範囲が更により好ましい。処理温度が10℃より低い場合は化成皮膜の反応速度が低下し、80℃より高い場合は蒸発による処理液面の低下が生じるため好ましくない。
【0033】
化成皮膜処理液による処理時間は、5~600秒の範囲が好ましく、5~120秒の範囲がより好ましく、10~120秒の範囲が更により好ましい。処理時間が5秒より短い場合は化成皮膜の形成が不十分となり、600秒より長い場合は被処理金属の表面が白くボケるといった外観不良が発生しやすくなるため好ましくない。
【0034】
化成皮膜処理液のpHは、0.5~6.0の範囲が好ましく、0.5~5.0の範囲がより好ましく、1.5~5.0の範囲が更により好ましい。pHが0.5より低い場合は被処理金属の表面が粗面化しやすく、6.0より高い場合は皮膜化成速度が低下するとともに処理液に沈殿が生じやすくなるため好ましくない。なお、化成皮膜処理液のpH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸の無機酸や、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニア水のアルカリを用いることができる。
【0035】
化成皮膜処理を行う際、あらかじめ被処理金属の脱脂、活性化、表面調整を行うことで、被処理金属の外観、耐食性及び塗装密着性を向上させることが可能である。脱脂に関しては被処理金属により適した工程がある。亜鉛めっきや亜鉛合金めっきに関してはめっき後に硝酸活性、有機酸活性等、めっき後に必要に応じて適した活性処理を行い、その後、化成皮膜処理を行うことが適している。亜鉛ダイカストに関しては脱脂や必要に応じて活性処理を行い、その後に保護皮膜形成処理を行うことが適している。これらの前処理に関しては、各被処理金属に応じて適宜行うことで本発明における化成皮膜処理の性能を引き出すことが可能である。
【0036】
化成皮膜処理後に、ケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうちの一種以上を含有するコーティング剤にて後処理を行っても良い。これらコーティング剤に特に限定はなくアクリル樹脂、オレフィン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート等の樹脂類やケイ酸塩、コロイダルシリカ等を成分とするコーティング剤を用いても良い。これらの樹脂濃度は、0.01~800g/Lが好ましいが、適切な濃度は樹脂の種類により異なる。コーティング剤としては、具体的には、コスマーコート(商品名、関西ペイント(株))、ハイシール272(商品名、日本表面化学(株))、ストロンJコート(商品名、日本表面化学(株))、トライナーTR-170(商品名、日本表面化学(株))、フィニガード(商品名、Coventya社)等が挙げられる。アクリル樹脂としては、具体的には、ヒロタイト(商品名、日立化成(株))、アロセット((株)日本触媒)等があり、オレフィン樹脂については、フローセン(商品名、住友精化(株))、PES(商品名、日本ユニカー(株))、ケミパール(商品名、三井化学(株))、サンファイン(商品名、旭化成(株))等が挙げられる。
【実施例0037】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0038】
(実施例1~155、比較例1~18)
試験片として、表1に記載の被処理金属を準備した。めっき膜厚はいずれのめっきも8~10μmとした。このうち、被処理金属No.1とNo.3とは、めっき後に水洗、硝酸活性化(硝酸67.5%を5mL/L、室温、5秒)の後、水洗した。被処理金属No.2は、めっき後に水洗、活性化(日本表面化学(株)製2C079を6mL/L、室温、5秒)の後、水洗した。
次に、当該被処理金属を表2-1~表2-6の液組成を有する化成皮膜処理液に浸漬し、化成処理後に水洗し、乾燥を行った。処理温度、処理pH及び処理時間を表3-1~表3-5に示す。pHの調整は、硫酸、硝酸、塩酸から選択される適切な酸及び水酸化ナトリウムにより行った。
【0039】
なお、実施例154及び155については、実施例3と同様にして化成皮膜を形成した後の被処理金属を水洗し、コーティング処理を行い、乾燥した。実施例154のコーティング処理にはハイシール272(日本表面化学(株)製、ポリアクリル樹脂型コーティング剤)、実施例155のコーティング処理にはストロンJコート(日本表面化学(株)製、水分散型シリカ型コーティング剤)を使用した。
【0040】
このようにして化成皮膜を形成した被処理金属について、以下のように耐食性試験、耐傷性試験、外観試験及び液安定性を実施した。
(耐食性試験)
耐食性試験は、化成皮膜を形成した被処理金属に対して、JIS Z 2731に従う塩水噴霧試験を行った。
【0041】
(耐傷性試験)
耐傷性試験は、化成皮膜を形成した被処理金属に対して、まず、振とう培養機(高崎科学器機(株)製、回転速度150rpm、5分間振とう)により被処理金属表面に傷をつけた後、JIS Z 2731に従う塩水噴霧試験を行った。
【0042】
耐食性試験及び耐傷性試験の評価は、それぞれ以下の基準による。
A:360時間白錆発生無し
B:240時間白錆発生無し
C:168時間白錆発生無し
D:72時間白錆発生無し
E:48時間白錆発生
F:24時間白錆発生
【0043】
(外観試験)
外観試験は、化成皮膜を形成した被処理金属に対して、目視により評価した。評価基準を以下に示す。
A:均一な処理外観
B:やや不均一な外観
C:不均一な外観
【0044】
(液安定性)
建浴後72時間後の建浴液(化成皮膜処理液)の安定性を目視により評価した。評価基準を以下に示す。
A:建浴時と比較し変化なし
B:やや濁りあり
C:濁りまたは沈殿あり
以上の試験について、評価結果を表3-1~表3-5に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
以上の結果から、(A)三価クロムイオン、(B)コロイダルシリカ、(C)本発明の実施形態に係る所定の二種類のカルボン酸化合物、(D)チタン化合物、及び、(E)硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンからなる群のうちの一種または二種以上を含有するコバルトフリーの化成皮膜処理液により化成皮膜を形成することにより、優れた耐食性及び耐傷性、さらには良好な外観が得られることが確認された。また、当該コバルトフリーの化成皮膜処理液の液安定性が良好となることが確認された。
なお、比較例1、7、13は、耐食性、耐傷性、外観、液安定性が良好であったが、硝酸コバルト6水和物を含有する液組成No.52の化成皮膜処理液(すなわち、コバルトフリーではない化成皮膜処理液)を用いたものである。