IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060137
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】クリヤー塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/06 20060101AFI20220407BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220407BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220407BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220407BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220407BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
C09D201/06
C09D7/63
C09D7/61
C09D133/00
C09D175/04
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040977
(22)【出願日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2020167442
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】北村 直孝
(72)【発明者】
【氏名】真田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】下城 綾子
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038DG262
4J038GA03
4J038GA06
4J038JC38
4J038KA03
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA02
4J038NA03
4J038PA18
(57)【要約】
【課題】 良好な塗膜外観を有し、かつ、良好な抗菌抗ウイルス性能を有する塗膜を形成することができる塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 銀含有抗菌抗ウイルス剤およびバインダー樹脂を含むクリヤー塗料組成物であって、上記クリヤー塗料組成物の硬化塗膜を水中に24時間浸漬した場合の銀溶出量が硬化塗膜の表面積1cmあたり0.0008~0.003mg/1Lであり、上記クリヤー塗料組成物の硬化塗膜の20°鏡面光沢度が150以上であり、上記バインダー樹脂がアニオン性樹脂を含む、クリヤー塗料組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有抗菌抗ウイルス剤およびバインダー樹脂を含むクリヤー塗料組成物であって、
前記クリヤー塗料組成物の硬化塗膜を水中に24時間浸漬した場合の銀溶出量が、硬化塗膜の表面積1cmあたり0.0008~0.003mg/1Lであり、
前記クリヤー塗料組成物の硬化塗膜の20°鏡面光沢度が140以上であり、
前記バインダー樹脂が、アニオン性樹脂を含む、
クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
前記銀含有抗菌抗ウイルス剤は、銀塩および銀錯体のうち1種またはそれ以上を含む、
請求項1記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項3】
前記銀塩および銀錯体のうち1種またはそれ以上は、カルボン酸銀、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、フッ化銀、塩化銀、塩素酸銀、クロム酸銀、シアン化銀、臭化銀、臭素酸銀、ヨウ化銀またはヨウ素酸銀である、
請求項2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項4】
前記銀含有抗菌抗ウイルス剤は、さらに窒素含有化合物を含む、請求項2または3記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項5】
前記アニオン性樹脂が、水酸基および酸基のうち少なくとも1種を有する樹脂の水分散体を含む、請求項1~4いずれかに記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項6】
前記アニオン性樹脂が、水酸基含有樹脂水分散体および水分散性ポリイソシアネートを含む、
請求項1~5いずれかに記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項7】
前記水酸基含有樹脂水分散体が、アクリル樹脂エマルションである、
請求項6記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項8】
前記クリヤー塗料組成物がさらに硫黄化合物を含み、
前記硫黄化合物は、チオウレア系化合物、メルカプトトリアジン系化合物および無機硫黄化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、
請求項1~7いずれかに記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項9】
被塗物に、請求項1~8いずれかに記載のクリヤー塗料組成物を塗装し、クリヤー塗膜を形成する工程を包含する、クリヤー塗膜の形成方法であって、
前記クリヤー塗膜を水中に24時間浸漬した場合の銀溶出量が、硬化塗膜の表面積1cmあたり0.0008~0.003mg/1Lであり、
前記クリヤー塗膜の20°鏡面光沢度が140以上である、
クリヤー塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリヤー塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工業製品、建築材料、大型構造物などの多くの物品の表面には、表面保護、意匠性、機能性の付与を目的として塗膜を形成することが行われている。さらに近年において、このような物品の表面上に形成される塗膜に抗菌抗ウイルス性能を付与する方法の検討が行われつつある。塗膜に抗菌抗ウイルス性能を付与する手法として、例えば、塗料組成物に抗ウイルス剤を含める方法が挙げられる。
【0003】
特開2018-024633号公報(特許文献1)には、銀、亜鉛、銅金属イオンが合成ゼオライトに充填されている抗微生物性材料およびこれを含む塗料が記載される。この抗微生物性材料は、あらゆる塗料に用いることができると記載される。
【0004】
また特許第6534273号明細書(特許文献2)には、抗菌性ポリウレタンフォームの製造方法であって、ポリオール、有機イソシアネート、ウレタン触媒、発泡剤、および抗菌剤を含む原料を反応させる工程を含み、前記抗菌剤は、25℃の水溶解度が銀原子換算で飽和水溶液100g中0.01~0.8gである銀化合物を含むことを特徴とする、前記抗菌性ポリウレタンフォームの製造方法、が記載される(請求項1)。特許文献2には、この製造方法によって良好な抗菌性を発揮する抗菌性ポリウレタンフォームを製造することができると記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-024633号公報
【特許文献2】特許第6534273号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような、銀、亜鉛、銅金属イオンが合成ゼオライトに充填されている抗微生物性材料を塗料に含めることによって、抗微生物性能などを付与することができると考えられる。一方で、塗料組成物に上記材料などを加える場合は、形成される塗膜の外観などが変化することがあり、目的とする塗膜外観を得ることができない場合があることが判明した。
【0007】
特許文献2に記載される製造方法では、発泡剤が用いられたポリウレタンフォーム(発泡体)の製造方法である。そして特許文献2の製造方法によって、銀化合物が本来有する抗菌スペクトルに基づいた抗菌性が発揮されるポリウレタンフォームを製造することができると記載される。このように特許文献2に記載されるのは発砲体であり、本開示が目的とするクリヤー塗膜とは構成が異なる。
【0008】
本発明は、所望する塗膜外観を有し、かつ、良好な抗菌抗ウイルス性能を有する塗膜を形成することができる塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
銀含有抗菌抗ウイルス剤およびバインダー樹脂を含むクリヤー塗料組成物であって、
上記クリヤー塗料組成物の硬化塗膜を水中に24時間浸漬した場合の銀溶出量が、硬化塗膜の表面積1cmあたり0.0008~0.003mg/1Lであり、
上記クリヤー塗料組成物の硬化塗膜の20°鏡面光沢度が140以上であり、
上記バインダー樹脂が、アニオン性樹脂を含む、
クリヤー塗料組成物。
[2]
上記銀含有抗菌抗ウイルス剤は、銀塩および銀錯体のうち1種またはそれ以上を含む、
[1]のクリヤー塗料組成物。
[3]
上記銀塩および銀錯体のうち1種またはそれ以上は、カルボン酸銀、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、フッ化銀、塩化銀、塩素酸銀、クロム酸銀、シアン化銀、臭化銀、臭素酸銀、ヨウ化銀またはヨウ素酸銀である、
[2]のクリヤー塗料組成物。
[4]
上記銀含有抗菌抗ウイルス剤は、さらに窒素含有化合物を含む、[2]または[3]のクリヤー塗料組成物。
[5]
上記アニオン性樹脂が、水酸基および酸基のうち少なくとも1種を有する樹脂の水分散体を含む、[1]~[4]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[6]
上記アニオン性樹脂が、水酸基含有樹脂水分散体および水分散性ポリイソシアネートを含む、[1]~[5]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[7]
上記水酸基含有樹脂水分散体が、アクリル樹脂エマルションである、[6]のクリヤー塗料組成物。
[8]
上記クリヤー塗料組成物がさらに硫黄化合物を含み、
上記硫黄化合物は、チオウレア系化合物、メルカプトトリアジン系化合物および無機硫黄化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、
[1]~[7]いずれかのクリヤー塗料組成物。
[9]
被塗物に、上記クリヤー塗料組成物を塗装し、クリヤー塗膜を形成する工程を包含する、クリヤー塗膜の形成方法であって、
上記クリヤー塗膜を水中に24時間浸漬した場合の銀溶出量が、硬化塗膜の表面積1cmあたり0.0008~0.003mg/1Lであり、
上記クリヤー塗膜の20°鏡面光沢度が140以上である、
クリヤー塗膜の形成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗料組成物を用いることによって、20°鏡面光沢度が140以上であり、かつ抗菌抗ウイルス性能を有する、クリヤー塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のクリヤー塗料組成物は、銀含有抗菌抗ウイルス剤およびバインダー樹脂を含む。以下各成分について記載する。
【0012】
バインダー樹脂
本開示のクリヤー塗料組成物はバインダー樹脂を含む。本開示のクリヤー塗料組成物は、上記バインダー樹脂がアニオン性樹脂を含む。バインダー樹脂がアニオン性樹脂を含むことによって、上記クリヤー塗料組成物の硬化塗膜において、抗菌抗ウイルス性能を発揮するのに十分な量の銀を溶出させることができ、これにより良好な抗菌抗ウイルス性能が発揮される利点がある。本開示における「クリヤー塗料組成物の硬化塗膜」とは、クリヤー塗料組成物を塗装し、乾燥または必要に応じた加熱により形成された塗膜を意味する。
【0013】
上記アニオン性樹脂は、水酸基および酸基のうち少なくとも1種を有する樹脂の水分散体を含むのが好ましい。上記樹脂水分散体として、例えば、アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂ディスパージョン、アクリル樹脂溶液、フッ素樹脂エマルション、アクリルシリコーン樹脂エマルション、ウレタン樹脂ディスパージョン、ポリエステル樹脂ディスパージョン、エポキシ樹脂エマルションなどが挙げられる。
【0014】
アクリル樹脂エマルション
アクリル樹脂エマルションは、各種重合性モノマーの重合によって調製することができる。上記重合性モノマーとして、エチレン性不飽和モノマーを用いることができる。エチレン性不飽和モノマーとしては、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーおよびその他のモノマーを混合したものを使用することができる。
【0015】
上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業社製のプラクセルFA-1、プラクセルFA-2、プラクセルFA-3、プラクセルFA-4、プラクセルFA-5、プラクセルFM-1、プラクセルFM-2、プラクセルF
M-3、プラクセルFM-4およびプラクセルFM-5等が挙げられる。なお、本明細書中において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を意味する。
【0016】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、2-エチルプロペン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボン酸モノマーまたはこれらのジカルボン酸モノエステルモノマー等を挙げることができる。カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0017】
その他のモノマーとしては、例えば、下記のエチレン性不飽和モノマーが挙げられる;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマー;
(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のシクロアルキル基含有重合性モノマー;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等のエチレン性不飽和カルボン酸アミノアルキルエステルモノマー;
アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミノアルキルアミドモノマー;
アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のその他のアミド基含有エチレン性不飽和カルボン酸モノマー;
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和脂肪酸グリシジルエステルモノマー;
(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;
スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー。
【0018】
上記その他のモノマーとして、スチレン系モノマーが含むのが好ましい。上記モノマー混合物がスチレン系モノマーを含む場合におけるスチレン系モノマーの含有量は、アクリル樹脂エマルション合成に用いるモノマー混合物の全量に対して、例えば1~10質量%であるのが好ましく、2~8質量%であるのがより好ましい。上記モノマー混合物がスチレン系モノマーを含むことによって、得られる塗膜の光沢および耐水性を良好な範囲で設計することができるなどの利点がある。
【0019】
上記アクリル樹脂エマルションは、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーと、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーと共重合可能な他のモノマーとを含むモノマー混合物を、乳化剤および重合開始剤の存在下で、水性溶媒中で乳化重合することによって、調製することができる。
【0020】
上記乳化重合に用いることができる乳化剤としては、例えば、石鹸、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩等のアニオン系乳化剤、および、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系乳化剤を挙げることができる。
【0021】
乳化剤として、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する界面活性剤(以下、反応性乳化剤という)を用いることもできる。反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基、スルホネート基、硫酸エステル基、および/またはエチレンオキシ基を含み、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有するアニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0022】
乳化剤として市販品を用いてもよい。市販される乳化剤として、例えば、アクアロンHS-10等のアクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製);アクアロンRNシリーズ(第一工業製薬社製);エレミノールJS-2(三洋化成工業社製);ラテムルS-120、S-180A、PD-104等のラテムルシリーズ(花王社製)、およびエマルゲン109P等のエマルゲンシリーズ(花王社製);ニューコール706、707SN等の、ニューコールシリーズ(日本乳化剤社製);アントックス(Antox)MS-2N(2-ソジウムスルホエチルメタクリレート)等の、アントックスシリーズ(日本乳化剤社製);アデカリアソープNE-10(α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシポリオキシエチレン)等の、アデカリアソープシリーズ(ADEKA社製);等を挙げることができる。
【0023】
乳化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。乳化剤を用いる場合における使用量は、重合性モノマー100質量部に対して固形分量として、0.5~10質量部であることが好ましい。
【0024】
アクリル樹脂エマルションの乳化重合による調製において、重合開始剤を用いるのが好ましい。重合開始剤は、熱または還元性物質等によりラジカルを生成してモノマーを付加重合させるものであり、水溶性重合開始剤または油溶性重合開始剤を使用することができる。上記水溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩系開始剤、または、過酸化水素等の無機系開始剤等を挙げることができる。上記油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物等を挙げることができる。これらは1種のみを用いてもよく、または2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0025】
重合開始剤の使用量は、重合に用いるモノマーの全量に対して、0.01~10質量%であることが好ましい。乳化重合における重合温度は例えば30~90℃であり、重合時間は例えば3~12時間である。重合反応時のモノマー濃度は、例えば30~70質量%である。
【0026】
上記アクリル樹脂エマルションはまた、乳化重合の前に、重合性モノマーの混合物、乳化剤および水性媒体を混合して、反応前乳化混合物を調製してもよい。反応前乳化混合物を調製する場合は、反応前乳化混合物および重合開始剤を水性媒体中で混合することによって、乳化重合を行うことができる。
【0027】
アクリル樹脂エマルションは、酸基を有してもよい。アクリル樹脂エマルションが酸基を有する場合は、酸価が5~100mgKOH/gであることが好ましく、5~70mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が上記範囲内であることによって、樹脂エマルションの水中での安定性および塗膜の耐水性のバランスをとることができる。なお、本明細著中において酸価は固形分酸価を表し、JIS K 0070に記載される公知の方法によって測定することができる。
【0028】
アクリル樹脂エマルションは、水酸基を有するのが好ましい。アクリル樹脂エマルションが水酸基を有する場合は、水酸基価が5~200mgKOH/gであることが好ましく、10~150mgKOH/gであることがより好ましい。なお、本明細著中において水酸基価は固形分水酸基価を表し、JIS K 0070に記載される公知の方法によって測定することができる。
【0029】
アクリル樹脂エマルションとして市販のものを使用してもよい。市販のものとしては特に限定されず、例えば、DIC社製バーノックWEシリーズ、ボンコートシリーズ;ヘンケルジャパン社製ヨドゾールADシリーズ;アイカ工業社製ウルトラゾールシリーズ;日本ゼオン社製NIPOLシリーズ;高圧ガス工業社製ペガールシリーズ;などを挙げることができる。
【0030】
アクリル樹脂ディスパージョン
アクリル樹脂ディスパージョンとして、例えば水酸基を有するアクリル樹脂のディスパージョンであるのが好ましい。アクリル樹脂ディスパージョンは、水酸基価が5~200mgKOH/gの範囲内であり、酸価が5~100mgKOH/gの範囲内であり、数平均分子量が1,000~100,000の範囲内であるのが好ましい。このようなアクリル樹脂ディスパージョンは、エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を重合することによって調製することができる。なお本明細書中において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)の測定結果を、ポリスチレン標準として換算した値である。
【0031】
上記エチレン性不飽和モノマーとしては、上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマー、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーおよびその他のモノマーを混合したものを使用することができる。
【0032】
アクリル樹脂ディスパージョンは、無溶媒または適当な有機溶媒の存在下において上記モノマー混合物の重合反応を行い、水中に滴下、混合し、必要に応じて過剰な溶媒を除去することによって調製することができる。
重合反応において、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤として例えば、ラジカル重合開始剤として当技術分野において用いられる開始剤を使用することができる。重合開始剤の具体例として、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシドおよびクメンハイドロパーオキシド等の有機過酸化物、アゾビスシアノ吉草酸およびアゾイソブチロニトリル等の有機アゾ化合物等が挙げられる。
【0033】
重合反応は、例えば80~140℃の温度で行うことができる。重合反応時間は、重合温度および反応スケールに応じて適宜選択することができ、例えば1~8時間で行うことができる。重合反応は、当業者に通常行われる操作で行うことができる。例えば、加熱した有機溶媒中に、エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物および重合開始剤を滴下することにより重合を行うことができる。重合に用いることができる有機溶媒は、特に限定されないが、沸点が60~250℃程度のものが好ましい。好適に用いることができる有機溶媒として、例えば、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、メチルエーテルアセテートのような非水溶性有機溶媒;およびテトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、ジオキサン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、N-メチルピロリドン、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートのような水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0034】
重合により得られたアクリル樹脂に中和剤を加えて、アクリル樹脂に含まれる酸基の少なくとも一部を中和してもよい。この工程により、アクリル樹脂に対して水分散性を良好に付与することができる。中和剤は水分散性樹脂組成物を調製する際にその中に含まれる酸基を中和するために一般的に用いられているものであれば特に限定されない。例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびジメチルエタノールアミンのような有機アミン、および水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムのような無機塩基類が挙げられる。これら中和剤は単独で使用してもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0035】
必要に応じて中和したアクリル樹脂に対して水を混合するか、または水中にアクリル樹脂を混合することにより、アクリル樹脂ディスパージョンを調製することができる。アクリル樹脂ディスパージョンの調製において、必要に応じて、中和剤の添加前または水分散後に、過剰な有機溶媒を除去してもよい。
【0036】
上記アクリル樹脂ディスパージョンは、水酸基価が5~200mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。また、上記アクリル樹脂ディスパージョンは、酸価が5~100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。アクリル樹脂ディスパージョンの水酸基価および/または酸価が上記範囲内であることによって、得られる塗膜の物理的強度を良好な範囲に確保することができる利点がある。なお、本明細書中において、酸価および水酸基価は、いずれも固形分換算での値を示し、JIS K 0070に準拠した方法により測定された値である。
【0037】
アクリル樹脂ディスパージョンとして市販のものを使用してもよい。市販のものとしては特に限定されず、例えば、MACRYNAL VSM6299/42WA等のMACRYNALシリーズ(Surface Specialties社製)、バイヒドロールA2470等のバイヒドロールシリーズ(住化コベストロウレタン社製)、バーノックWD-551等のバーノックシリーズ(DIC社製)、NeoCryl XK-555等のNeoCrylシリーズ(DSM社製)等を挙げることができる。
【0038】
アクリル樹脂溶液
アクリル樹脂溶液は、例えば、酸基含有アクリル樹脂を、必要に応じて中和して、水性媒体中に溶解・分散させことによって調製することができる。アクリル樹脂は、例えば上述のような当業者に知られた手法により調製することができる。アクリル樹脂溶液に含まれるアクリル樹脂が、酸基含有アクリル樹脂である場合は、酸価が5~100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。
【0039】
アクリル樹脂溶液として市販のものを使用してもよい。市販のものとしては特に限定されず、例えば、ウォーターゾールシリーズ(DIC社製)等を挙げることができる。
【0040】
フッ素樹脂エマルション
フッ素樹脂エマルションは、例えば、界面活性剤の存在下において、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むモノマーを重合することによって、調製することができる。フッ素樹脂エマルションの好ましい調製例として、例えば、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むモノマーを水性分散重合して含フッ素重合体粒子の水性分散液を製造する工程、および、含フッ素重合体粒子の水性分散液中で、エチレン性不飽和モノマーを、含フッ素重合体粒子にシード重合して、フッ素樹脂エマルションを得る工程、を包含する方法が挙げられる。
【0041】
上記フルオロオレフィンは、特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VdF)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン等の非パーフルオロオレフィン;が挙げられる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)の具体例として、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)等が挙げられる。
【0042】
また、フルオロオレフィンとして、官能基含有フルオロオレフィンモノマーも使用することができる。官能基含有フルオロオレフィンが有する官能基として、例えば、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸塩基、カルボン酸塩基、エポキシ基等が挙げられる。
【0043】
これらは1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。また、フルオロオレフィンと共重合可能な非フッ素系モノマーを併用してもよい。
【0044】
上記含フッ素重合体粒子の調製に用いられる界面活性剤として、フッ素系界面活性剤および非フッ素系界面活性剤のいずれも用いることができる。フッ素系界面活性剤として、アニオン性フッ素系界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤として、例えば、C-H結合とC-F結合とを有する疎水基と、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基およびこれらの塩等の親水基とを有する部分フッ素化界面活性剤を好適に用いることができる。非フッ素系界面活性剤として、アニオン性非フッ素系界面活性剤が好ましい。非フッ素系界面活性剤として、例えば、不飽和二重結合基を含む疎水基と、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基およびこれらの塩等の親水基とを有する界面活性剤を好適に用いることができる。このような非フッ素系界面活性剤の具体例として、例えば、アクアロンHS-10(第一工業製薬社製)等が挙げられる。また、必要に応じて、当業者において通常用いられる、上記以外の界面活性剤を含んでもよい。
【0045】
上記含フッ素重合体粒子は、上記界面活性剤の存在下で水性分散重合を行なうことによって調製することができる。重合温度は特に制限はなく、重合開始剤の種類に応じて選択することができる。重合温度は、例えば40~120℃であるのが好ましく、50~100℃であるのがさらに好ましい。重合において、モノマーの供給は連続的であっても逐次供給してもよい。
【0046】
重合開始剤としては、水溶性ラジカル重合開始剤が好適に用いることができる。水溶性ラジカル重合開始剤の具体例として、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等が好ましく、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが特に好ましい。
【0047】
次いで、得られた含フッ素重合体粒子の水性分散液中で、エチレン性不飽和モノマーを、含フッ素重合体粒子にシード重合することによって、フッ素樹脂エマルションを好適に調製することができる。シード重合方法として、例えば、含フッ素重合体粒子の水性分散液に、エチレン性不飽和モノマーを加えて、含フッ素重合体粒子(シード粒子)を核としてエチレン性不飽和モノマーを水性分散重合させる方法が挙げられる。エチレン性不飽和モノマーとして、上述のモノマーを用いることができる。
【0048】
シード重合において、必要に応じて界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤として、上述の界面活性剤を好適に用いることができる。界面活性剤を用いる場合の使用量は、例えば、媒体である水の全量に対して0.01~5質量%であるのが好ましい。
【0049】
フッ素樹脂エマルションとして、市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、ダイキン工業社製ゼッフルシリーズ等が挙げられる。
【0050】
アクリルシリコーン樹脂エマルション
アクリルシリコーン樹脂エマルションは、例えば、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーおよび他のエチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を重合することによって調製することができる。
【0051】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーとは、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和モノマーである。アルコキシシリル基として、炭素数1~14のアルコキシシリル基が好適である。炭素数1~14のアルコキシシリル基を構成するケイ素原子には、炭素数1~14のアルコキシル基が1~3個結合することができる。上記アルコキシル基は、特に酸性の環境において加水分解されてシラノール基を形成しやすい。上記シラノール基が脱水結合することにより、シロキサン結合を形成して架橋したり高分子量化したりするので、得られる塗膜の造膜性、耐ブロッキング性および耐温度変化性が向上し、特に、優れた耐候性、耐温水性を得ることができる利点がある。
【0052】
上記アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーは、炭素数1~14のアルコキシシリル基を含有するエチレン性不飽和モノマーであれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリブトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジメトキシメチルシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシジメチルシリルプロピル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルメトキシジメチルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0053】
上記アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーのうち、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、ビニルトリメトキシシランまたはビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0054】
上記モノマー混合物中に含まれるアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーの量は、モノマー混合物100質量部に対して、下限0.1質量部上限3質量部の範囲内であるのが好ましい。
【0055】
上記モノマー混合物は、さらに、炭素数1~14のアルコキシシラン化合物を含有してもよい。上記アルコキシシラン化合物を含むと、得られる塗膜に優れた耐候性、耐水性を与えることができる。上記アルコキシシラン化合物としては特に限定されず、例えば、テトラメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、エトキシトリエチルシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これらのうち、テトラメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0056】
上記アルコキシシラン化合物は、上記モノマー混合物100質量部に対し、0.1~10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0057】
上記モノマー混合物は、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーに加えて、他のエチレン性不飽和モノマーを含む。エチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、上述のエチレン性不飽和モノマーを用いることができる。
【0058】
上記モノマー混合物は、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーおよび他のエチレン性不飽和モノマーを含み、他のエチレン性不飽和モノマーが、メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選択される1種またはそれ以上を含むのが好ましい。
【0059】
アクリルシリコーン樹脂エマルションは、上記モノマー混合物を、必要に応じた乳化剤および重合開始剤の存在下で、当業者に知られた手法により重合させることによって、調製することができる。乳化剤および重合開始剤として、当業者に知られた乳化剤および重合開始剤を用いることができる。
【0060】
ポリウレタン樹脂ディスパージョンおよびポリエステル樹脂ディスパージョン
ポリウレタン樹脂ディスパージョンは、例えば、ポリオール化合物と、分子内に活性水素基と親水基を有する化合物と、有機ポリイソシアネート、必要により鎖伸長剤および重合停止剤を用いて調製されるポリウレタン樹脂を、水中に分散させることによって調製することができる。ポリエステル樹脂ディスパージョンとして、例えば、ポリエステルポリオールと呼ばれる、1分子中に2個以上の水酸基を有するポリエステル樹脂のディスパージョンを好適に用いることができる。ポリウレタン樹脂ディスパージョン、ポリエステル樹脂ディスパージョンとして、市販品を用いてもよい。
【0061】
エポキシ樹脂エマルション
エポキシ樹脂エマルションは、例えば、1分子中にエポキシ基を2個以上有する液状または固形のエポキシ樹脂を、乳化剤を用いてに乳化・分散させることによって調製することができる。エポキシ樹脂として、例えば、数平均分子量が約370~4000、エポキシ当量が約185~2000のものが好適に用いることができる。エポキシ樹脂エマルションは、固形分が約40~60重量%であるのが好ましい。上記エポキシ樹脂エマルションの調製に用いることができるエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、あるいはこれらを変性したものなどが挙げられる。上記エポキシ樹脂エマルションの調製に用いることができる乳化剤として、上述の乳化剤を適宜用いることができる。
【0062】
水分散性ポリイソシアネート
本実施態様の好ましい1例として、上記アニオン性樹脂が、水酸基含有樹脂水分散体および水分散性ポリイソシアネートを含む態様が挙げられる。この態様において、水分散性ポリイソシアネートは、水酸基含有樹脂水分散体に対して硬化剤として機能する。水分散性ポリイソシアネートは、水分散性を有するポリイソシアネート化合物であって、水性媒体に添加したときに分離することなく分散させることができるポリイソシアネート化合物をいう。水分散性ポリイソシアネートは、必要に応じて、親水基を有する親水性化合物によって変性されたものであってもよい。上記親水基は、イオン性の親水基であってもよく、ノニオン性の親水基であってもよい。
【0063】
上記水分散性ポリイソシアネートに含まれるポリイソシアネート化合物は、本発明の範囲を逸脱しない限り特に限定されない。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート(MXDI)等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族のポリイソシアネート;およびそのビュレットタイプ、ヌレートタイプ、トリメチロールプロパン(TMP)アダクトタイプ等の多量体を挙げることができる。これらの2以上のポリイソシアネートの混合物であってもよい。
【0064】
好ましくは、ポリイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネートおよび/または脂環族のポリイソシアネートであり、より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)および/またはイソホロンジイソシアネート(IPDI)である。このようなポリイソシアネート化合物は、芳香族系のイソシアネート化合物と比べて反応性が低く、水等の水性媒体との副反応を抑制できる。
【0065】
本発明の範囲を逸脱しない範囲で、所望によりポリイソシアネート鎖を変性してもよく、更に、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基によって架橋反応が生じてもよい。多量体であるポリイソシアネート化合物は、3官能以上であることから、複数のイソシアネート基のうち少なくとも1つを変性してもよく、また、少なくとも2つのイソシアネート基により架橋反応が生じてもよい。
【0066】
水分散性のポリイソシアネート化合物として、市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、アクアネート105、アクアネート130、アクアネート200およびアクアネート210(東ソー社製);バイヒジュール304、バイヒジュール305、バイヒジュール3100、バイヒジュール401-70、バイヒジュールXP2451/1、バイヒジュールXP2655(住化コベストロウレタン社製);タケネートWD-725、タケネートWD-726およびタケネートWD-730(三井化学社製);デュラネートWB40-100、デュラネートWT20-100、デュラネートWE50-100(旭化成社製)などが挙げられる。
【0067】
上記アニオン性樹脂が、水酸基含有樹脂水分散体および水分散性ポリイソシアネートを含む場合における、水分散性ポリイソシアネートの含有量は、水分散性ポリイソシアネート(B)が有するイソシアネート基と、水酸基含有樹脂水分散体が有する水酸基との当量比(NCO/OH)が0.5~3.0の範囲内となる量であるのが好ましく、1.0~2.0の範囲内となる量であるのがより好ましい。当量比(NCO/OH)が上記範囲内となる量であることによって、クリヤー塗料組成物の硬化反応性を良好な範囲で確保することができる利点がある。なお、上記当量比は、いずれも固形分換算したものである。
【0068】
ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物、アジリジン化合物
本実施態様の好ましい他の1例として、上記アニオン性樹脂が、酸基含有樹脂水分散体と、ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物およびアジリジン化合物のうち少なくとも1種と、を含む態様が挙げられる。この態様において、ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物およびアジリジン化合物のうち少なくとも1種は、酸基含有樹脂水分散体に対して硬化剤として機能する。
【0069】
ヒドラジド化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジド、20~100個のヒドラジド基を有するポリアクリル酸のポリヒドラジド、ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、ジトリヒドラジン-トリアジン、トリヒドラジン-トリアジン、チオカルボヒドラジド、N,N’-ジアミノグアニジン、2-ヒドラジノピリジン-5-カルボン酸ヒドラジド、3-クロル-2-ヒドラジノピリジン-5-カルボン酸ヒドラジド、6-クロル-2-ヒドラジノピリジン-4-カルボン酸ヒドラジド、2,5-ジヒドラジノピリジン-4-カルボン酸、1,4-ジヒドラジノベンゾール、1,3-ジヒドラジノベンゾール、2,3-ジヒドラジンナフタリン、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等が挙げられる。この中でも、入手容易性の点でアジピン酸ジヒドラジドが、また水溶性が高い点で1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントインを用いることが好ましい。
【0070】
カルボジイミド化合物としては、変性ポリカルボジイミド化合物が挙げられる。変性ポリカルボジイミド化合物は、1分子中に少なくとも2個のカルボジイミド基を有し、炭素数4以上のモノアルコキシ基で片側末端を封鎖されたポリアルキレンオキサイドユニットを有しているものである。変性ポリカルボジイミド化合物1分子中に含まれる上記カルボジイミド基の量は、少なくとも2個であり、反応効率を考慮して、20個以下であることが好ましい。1分子中に2つ以上のカルボジイミド基を有する化合物として、具体的には、カルボジライトV-02-L2(多価カルボジイミド、日清紡ケミカル株式会社製)、カルボジライトE-01(多価カルボジイミド、日清紡ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0071】
アジリジン化合物としては、例えば、ビスフェニルメタン-ビス、4,4’-N,N’-エチレン尿素等が挙げられる。1分子中に2つ以上のアジリジン基を有する化合物として、具体的には、ケミタイトDZ-22E(2価アジリジン、株式会社日本触媒製)等が挙げられる。
【0072】
本開示のクリヤー塗料組成物における他の1態様として、上記バインダー樹脂がカチオン性樹脂である場合が挙げられる。カチオン性樹脂として、カチオン性アクリル樹脂が好適に用いることができる。
【0073】
カチオン性アクリル樹脂は、例えば、分子内に複数のオキシラン環および複数の水酸基を有するアクリル共重合体と、アミンとの開環付加反応によって調製することができる。より具体的には、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートと、ヒドロキシル基含有アクリルモノマー(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリルエステルと、ε-カプロラクトンとの付加生成物)と、その他のアクリル系および/または非アクリルモノマーとを共重合することによって、カチオン性アクリル樹脂を調製することができる。
【0074】
上記その他のアクリル系モノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0075】
上記非アクリルモノマーとしては特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル等を挙げることができる。
【0076】
上記グリシジル(メタ)アクリレートに由来するオキシラン環を有するアクリル共重合体は、共重合体中のオキシラン環の全部を1級アミン、2級アミン、3級アミン酸塩との反応させることによって開環し、カチオン性アクリル樹脂とすることができる。
【0077】
カチオン性アクリル樹脂は、アミノ基を有するアクリルモノマーを他のモノマーと共重合することによって直接合成する方法によって調製することもできる。上記方法では、上記グリシジル(メタ)アクリレートの代わりにN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジ-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有アクリルモノマーを使用し、このアミノ基含有アクリルモノマーと、上記ヒドロキシル基含有アクリルモノマー、並びに、上記他のアクリル系および/または上記非アクリル系モノマーとを共重合することによって、カチオン性アクリル樹脂を調製することができる。
【0078】
上記方法によって得られたカチオン性アクリル樹脂は、必要に応じて、ハーフブロックジイソシアネート化合物との付加反応によってブロックイソシアネート基を導入し、自己架橋型カチオン性アクリル樹脂とすることもできる。
【0079】
上記カチオン性アクリル樹脂は、エマルションの形態であってよい。エマルション形態の1態様として、上記カチオン性アクリル樹脂および架橋剤を含む態様が挙げられる。架橋剤として、例えば、ブロックイソシアネート、メラミン樹脂等を挙げることができる。上記ブロックポリイソシアネートは、2以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック剤で保護した化合物である。
【0080】
上記ポリイソシアネートとしては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0081】
上記ブロック剤としては特に限定されず、例えば、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;フェノール、パラ-t-ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類等を挙げることができる。オキシム類およびラクタム類のブロック剤は低温で解離するため、樹脂硬化性の観点からより好ましい。
【0082】
カチオン性アクリル樹脂および架橋剤を含むエマルション形態である場合において、架橋剤の含有量は、カチオン性アクリル樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、樹脂固形分量として10~60質量部の範囲内であるのが好ましい。
【0083】
本開示のクリヤー塗料組成物においては、上記バインダー樹脂を用いることによって、抗菌抗ウイルス性、クリヤー性および光沢性が良好であるクリヤー塗膜を形成することができる利点がある。上記クリヤー塗料組成物に含まれるバインダー樹脂(アニオン性樹脂)は、水酸基含有樹脂水分散体および水分散性ポリイソシアネートを含むのがより好ましく、そして、上記水酸基含有樹脂水分散体がアクリル樹脂エマルションであるのがさらに好ましい。また、他の1態様として、上記バインダー樹脂が、アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂ディスパージョンおよびアクリル樹脂溶液から選択される1種またはそれ以上を含むのが好ましい。
【0084】
銀含有抗菌抗ウイルス剤
本開示のクリヤー塗料組成物は銀含有抗菌抗ウイルス剤を含む。上記銀含有抗菌抗ウイルス剤は、銀として、銀塩および銀錯体のうち1種またはそれ以上を含むのが好ましい。
【0085】
上記銀塩および銀錯体のうち1種またはそれ以上は、カルボン酸銀、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、フッ化銀、塩化銀、塩素酸銀、クロム酸銀、シアン化銀、臭化銀、臭素酸銀、ヨウ化銀またはヨウ素酸銀であるのが好ましい。
【0086】
上記銀塩および銀錯体のうち1種またはそれ以上は、カルボン酸銀であるのがさらに好ましい。本明細書において「カルボン酸銀」は、カルボン酸の銀塩、カルボン酸の銀錯体のいずれかまたは両方を意味する。
【0087】
上記カルボン酸の銀塩、カルボン酸の銀錯体を構成するカルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸のいずれであってもよい。
モノカルボン酸として、例えば炭素数2~18のモノカルボン酸が挙げられる。ジカルボン酸として、例えば炭素数2~18のジカルボン酸が挙げられる。トリカルボン酸として、例えば炭素数6~18のトリカルボン酸が挙げられる。テトラカルボン酸として、例えば炭素数7~18のテトラカルボン酸が挙げられる。これらは、必要に応じて置換基を有してもよい。置換基として例えば、水酸基、アミド基、エステル基、アセチル基、ケトン基、スルホ基などが挙げられる。
【0088】
炭素数2~18のモノカルボン酸の具体例として、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸などの、炭素数2~18の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの、炭素数7~18の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸などの、炭素数7~18の芳香族モノカルボン酸;アセチルグリシン、アセトキシ酢酸、メトキシ酢酸、ピルビン酸、グリコール酸などの、炭素数2~18の脂肪族モノカルボン酸の置換誘導体;サリチル酸などの、炭素数7~18の芳香族モノカルボン酸の置換誘導体;などが挙げられる。
【0089】
炭素数2~18のモノカルボン酸としてさらに、アミノ酸およびその誘導体を用いることもできる。アミノ酸およびその誘導体として、例えば、グリシン、N-アセチルグリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0090】
炭素数2~18のジカルボン酸の具体例として、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリデカンニ酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルコハク酸、テトラメチルコハク酸、フマル酸などの、炭素数2~18の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの、炭素数8~18の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、3,4’-ジカルボキシビフェニルおよび4,4’-ジカルボキシターフェニル、ルチジン酸などの、炭素数7~18の芳香族ジカルボン酸;リンゴ酸、酒石酸などの、炭素数2~18の脂肪族ジカルボン酸の置換誘導体;などが挙げられる。
【0091】
炭素数2~18のジカルボン酸としてさらに、アミノ酸およびその誘導体を用いることもできる。アミノ酸およびその誘導体として、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0092】
炭素数6~18のトリカルボン酸の具体例として、例えば、3-カルボキシメチルグルタル酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、cis-プロペン-1,2,3-トリカルボン酸などの、炭素数6~18の脂肪族トリカルボン酸;1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸、1,2,3-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸などの、炭素数6~18の脂環式トリカルボン酸;ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸など)、ナフタレントリカルボン酸、3,4,4’-ベンゾフェノントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルエーテルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルトリカルボン酸、2,3,2’-ビフェニルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルメタントリカルボン酸などの、炭素数8~18の芳香族トリカルボン酸;上記トリカルボン酸の置換誘導体;および、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸ナトリウムなどのカルボン酸誘導体;などが挙げられる。
【0093】
炭素数7~18のテトラカルボン酸の具体例として、例えば、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などの、炭素数7~18の脂肪族テトラカルボン酸;2-カルボキシメチル-1,3,4-シクロペンタントリカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸などの、炭素数7~18の脂環式テトラカルボン酸;ベンゼンテトラカルボン酸(ピロメリット酸など)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、フランテトラカルボン酸などの、炭素数8~18の芳香族テトラカルボン酸;上記テトラカルボン酸の置換誘導体;および、エチレンジアミン酢酸などのカルボン酸誘導体;などが挙げられる。
【0094】
上記カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。上記カルボン酸は、分子内または分子間無水物であってもよい。また上記カルボン酸は、塩形態であってもよい。
【0095】
上記カルボン酸は、フマル酸、アセチルグリシン、アセトキシ酢酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フタル酸、トリメリット酸、ルチジン酸またはピロメリット酸であるのが好ましい。上記カルボン酸である場合は、良好なクリヤー塗膜を形成することができるクリヤー塗料組成物を得ることができる利点がある。
【0096】
上記銀含有抗菌抗ウイルス剤は、必要に応じてさらに窒素含有化合物を含んでもよい。なお本開示でいう「窒素含有化合物」は、カルボン酸基を有するもの(例えばアミノ酸など)は含まないものとする。上記窒素含有化合物は、イミダゾール環含有化合物であるのがより好ましい。本開示においてイミダゾール環含有化合物とは、イミダゾール環構造を有する化合物およびその誘導体を意味する。イミダゾール環含有化合物の具体例として、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-アミノ-1-メチル-2-イミダゾリン-4-オン、2,2,5,5-テトラアルキルイミダゾリン-4-オンなどが挙げられる。
【0097】
上記銀含有抗菌抗ウイルス剤は、銀、酸化銀、硝酸銀などの銀化合物、カルボン酸などの酸成分、および必要に応じた窒素含有化合物を、水性媒体中で混合することによって調製することができる。これらの成分の混合順序は、特に制限されるものではなく、例えば、酸成分および窒素含有化合物を水性媒体中で混合し、次いで銀化合物を加えて混合してもよく、また、上記銀化合物および窒素含有化合物を水性媒体中で混合し、次いで、カルボン酸などの酸成分を加えて混合してもよい。上記水性媒体として、水、水および親水性有機溶媒(例えばアルコールなど)の混合物、などが挙げられる。上記混合において、必要に応じてpH調整剤を用いてもよい。pH調整剤として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物などが挙げられる。
【0098】
上記銀含有抗菌抗ウイルス剤として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、J-ケミカル社製AGアルファ(商標)シリーズが挙げられる。
【0099】
上記クリヤー塗料組成物中に含まれる上記銀含有抗菌抗ウイルス剤の量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、塗膜中の有効成分量としてAg換算で0.02~1質量部の範囲内であるのが好ましく、0.03~0.5質量部の範囲内であるのがより好ましく、0.03~0.2質量部の範囲内であるのが特に好ましい。上記クリヤー塗料組成物中に上記銀含有抗菌抗ウイルス剤が上記範囲の量で含まれることによって、得られる塗膜のクリヤー性および光沢性を確保しつつ、良好な抗菌抗ウイルス性を得ることができる利点がある。
【0100】
なお、本開示において、抗菌性とは、菌を不活性化する性質をいい、例えば、JIS Z 2801の抗菌活性値により評価することができる。また、抗ウイルス性とは、ウイルスを不活性化する性質をいい、例えば、JIS R 1756(2020)の抗ウイルス活性値により評価することができる。
【0101】
硫黄化合物
本開示のクリヤー塗料組成物は、上記成分に加えて、硫黄化合物を含んでもよい。上記クリヤー塗料組成物に硫黄化合物が含まれることによって、クリヤー塗料組成物の耐候性がより向上する利点がある。本開示において、硫黄化合物を含むクリヤー塗料組成物は、例えば屋外塗装用塗料組成物などの、より良好な耐候性が求められる用途に好適に用いることができる利点がある。
【0102】
上記硫黄化合物として、例えば、チオウレア系化合物、メルカプトトリアジン系化合物、無機硫黄化合物などがあげられる。上記硫黄化合物は1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。上記硫黄化合物は、チオウレア系化合物およびメルカプトトリアジン系化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのがより好ましい。
【0103】
チオウレア系化合物として、例えば、チオウレア、1-メチルチオウレア、1,3-ジメチルチオウレア、1,3-ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、1,3-ジイソプロピルチオウレア、エチレンチオウレア、1,3-ジフェニルチオウレア、トリブチルチオウレア、1,3-ジブチルチオウレア、テトラメチルチオウレア、1-フェニルチオウレアなどがあげられる。
【0104】
メルカプトトリアジン系化合物として、例えば、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-メトキシ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジエチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-シクロヘキサンアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-フェニルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、およびこれらのアルカリ金属塩(モノアルカリ金属塩、ジアルカリ金属塩、トリアルカリ金属塩など)があげられる。塩を構成するアルカリ金属として、例えば、ナトリウム、カリウムなどがあげられる。これらの中でも、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジンモノナトリウム塩、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジントリナトリウム塩を用いるのがより好ましい。
【0105】
無機硫黄化合物として、例えば、チオ硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化アンモニウムなどがあげられる。これらの中でもチオ硫酸ナトリウムを用いるのがより好ましい。
【0106】
上記硫黄化合物として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、三協化成社製サンチオールシリーズ、ジスネットシリーズなどがあげられる。
【0107】
上記クリヤー塗料組成物が硫黄化合物を含む場合は、クリヤー塗料組成物中に含まれる上記硫黄化合物の量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、塗膜中の有効成分量として0.04~0.50質量部の範囲内であるのが好ましく、0.08~0.25質量部の範囲内であるのがより好ましい。上記クリヤー塗料組成物中に上記硫黄化合物が上記範囲の量で含まれることによって、得られる塗膜の抗菌性、ウイルス性、クリヤー性および光沢性を確保しつつ、良好な耐候性を得ることができる利点がある。
【0108】
他の成分等
本開示のクリヤー塗料組成物は、上記成分に加えて、目的、用途に応じて、他の成分を必要に応じて含んでもよい。他の成分として例えば、顔料、樹脂粒子、上記以外の樹脂エマルション、樹脂成分、分散剤、硬化触媒、粘性調整剤、造膜助剤、そして塗料組成物において通常用いられる添加剤(例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤、防錆剤等)等が挙げられる。これらの成分は、本開示の塗料組成物が有する諸物性を損なわない態様で添加することができる。
【0109】
上記クリヤー塗料組成物は、必要に応じて有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒として、例えば、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、メチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、ジオキサン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(酢酸ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、N-メチルピロリドン、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネート等が挙げられる。これらの有機溶媒は、アニオン性樹脂などの調製において用いた有機溶媒であってもよく、クリヤー塗料組成物の調製において別途加えたものであってもよい。
【0110】
上記クリヤー塗料組成物は、粘性調整剤を含んでもよい。粘性調整剤として、例えば、ウレタン型粘性調整剤(例えば、ADEKA社製アデカノールUHシリーズ、サンノプコ社製NOPALLシリーズ等)、ポリアマイド型粘性調整剤(例えば、楠本化成社製ディスパロンシリーズ等)、ワックス型粘性調整剤(例えば、BYK社製AQUATIXシリーズ等)、ウレア型粘性調整剤(例えば、BYK社製 BYK-410、415、420、425等)等が挙げられる。粘性調整剤として、ウレタン型粘性調整剤、ワックス型粘性調整剤等を用いるのがより好ましい。
【0111】
上記クリヤー塗料組成物は、必要に応じて密着性付与剤を含んでもよい。密着性付与剤として、例えば、エポキシシランカップリング剤などのシランカップリング剤などが挙げられる。例えばエポキシシランカップリング剤を用いる場合において、クリヤー塗料組成物中に含まれるエポキシシランカップリング剤の量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して0.01~5質量部であるのが好ましい。
【0112】
クリヤー塗料組成物の製造方法およびクリヤー塗膜
本開示のクリヤー塗料組成物は、上記成分をそれぞれ当業者に知られた方法によって混合することによって、調製することができる。塗料組成物の調製方法は、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。例えば、ニーダーまたはロール等を用いた混練混合手段、または、サンドグラインドミルまたはディスパー等を用いた分散混合手段等の、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。
【0113】
上記クリヤー塗料組成物は、1液型であってもよく、主剤および硬化剤からなる2液型であってもよく、主剤および添加剤(例えば密着性付与剤など)からなる2液型であってもよい。上記クリヤー塗料組成物が例えば2液型である場合における、2液の混合時期については、使用前に2液を混合して通常の塗装方法により塗装してもよい。また、2液混合ガンでそれぞれの液をガンまで送液し、ガン先で混合する方法で塗装してもよい。
【0114】
上記クリヤー塗料物を被塗物に塗装して硬化させることによって、被塗物上に塗膜を形成することができる。被塗物を構成する基材として、例えば、金属基材、プラスチック基材およびこれらの複合基材、そして、木、石材、ガラス、布、コンクリート、窯業系材料等が挙げられる。金属基材として、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属およびこれらの金属を含む合金等が挙げられる。金属基材は、亜鉛、銅、クロム等のメッキが施されていてもよく、また、クロム酸、リン酸亜鉛またはジルコニウム塩等の表面処理剤を用いた表面処理が施されていてもよい。プラスチック基材として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらのプラスチック基材は、必要に応じてプライマー塗装が施されていてもよい。
【0115】
上記クリヤー塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアスプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。上記スプレー塗装においては、必要に応じて2液混合ガンを用いてもよい。これらは被塗物に応じて適宜選択することができる。
【0116】
クリヤー塗料組成物の塗装は、塗膜形成後の膜厚が例えば20~150μm、より好ましくは30~100μmとなるように行われるのが好ましい。クリヤー塗料組成物の硬化温度は、20℃~150℃の範囲内であるのが好ましく、20℃~100℃の範囲内であるのがより好ましい。硬化時間は、硬化温度に応じて適宜選択することができ、例えば10分~7日の間であってよい。
【0117】
本開示において、上記クリヤー塗料組成物を塗装して形成される硬化塗膜(クリヤー塗膜)は、24時間浸漬した場合の銀溶出量が、硬化塗膜の表面積1cmあたり0.0008~0.003mg/1Lであり、硬化塗膜(クリヤー塗膜)の20°鏡面光沢度が140以上であることを条件とする。上記銀溶出量は、0.0009~0.0025mg/1Lであるのが好ましく、0.001~0.002mg/1Lであるのがより好ましい。
【0118】
なお本明細書における「クリヤー塗膜」とは、クリヤー塗料組成物によって形成される塗膜が、この塗膜の下層が認識される程度に可視光透過性を有している状態を意味する。なお本開示におけるクリヤー塗膜は、ヘーズ値が4.0以下であるのが好ましく、2.0以下であるのがより好ましい。
クリヤー塗膜のヘーズ値の測定は、例えば、クリヤー塗料組成物をガラス板上に塗装して、クリヤー塗膜を有する試験体を調製し、ヘーズメーターNDH2000(日本電色製)を用いて測定することができる。
【0119】
上記硬化塗膜(クリヤー塗膜)において、24時間浸漬した場合の銀溶出量が、硬化塗膜の表面積1cmあたり0.0008~0.003mg/1Lであることによって、抗菌抗ウイルス性能を発揮するのに十分な量の銀を溶出させることができ、これにより良好な抗菌抗ウイルス性能が発揮される利点がある。本開示のクリヤー塗料組成物においては、上記バインダー樹脂および上記銀含有抗菌抗ウイルス剤を組み合わせて用いることによって、硬化塗膜(クリヤー塗膜)における銀の溶出を確保することができる利点がある。
【0120】
上記クリヤー塗料組成物を塗装して形成される硬化塗膜(クリヤー塗膜)の20°鏡面光沢度が140以上であることによって、クリヤー塗膜による光沢感が強く感じられ、良好な塗膜外観を有するクリヤー塗膜であるということができる。20°鏡面光沢度は、一般に20゜グロス(Gs(20゜))といわれる指標であり、塗膜面に入射角20度の光源からの光を照射してその鏡面反射光束を測定することによって得られる値である。上記20°鏡面光沢度は、JIS K 5600-4-7(鏡面光沢度)の規定に従って測定することができる。20°鏡面光沢度の測定には、例えばコニカミノルタ社製MULTI GLOSS 268 PLUSなどの光沢計を用いて測定することができる。
【0121】
本開示のクリヤー塗料組成物は、上記バインダー樹脂および上記銀含有抗菌抗ウイルス剤を組み合わせて用いることによって、抗菌抗ウイルス性塗膜において一般的に求められる抗菌抗ウイルス性能および塗膜強度に加えて、透明性(クリヤー性能)および良好な光沢度が達成されるという利点がある。抗菌抗ウイルス性能を有する塗膜を形成することを目的とした場合において、塗料組成物に加えることができる抗ウイルス剤として、例えば、チタンを含む光触媒、銀担持ゼオライト、4級アンモニウム塩類などがある。これらの成分は一般に、優れた抗菌抗ウイルス性能を発揮することができるといわれている。しかしながら、本開示のようにクリヤー塗料組成物中にこれらの成分を含めて塗膜を形成したところ、クリヤー性能、安定性、光沢度、抗菌抗ウイルス性などにおいて、1つまたは複数の性能が劣ることが、本発明者らの実験により判明した。これは、クリヤー塗膜の組成、そして、クリヤー塗膜において求められる機能などにも関連すると考えられる。
【0122】
上記技術的課題を解決することを目的として、本発明者らは実験を行った。これらの実験の結果、上記バインダー樹脂成分と、上記銀含有抗菌抗ウイルス剤を組み合わせて用いることによって、抗菌抗ウイルス性能および塗膜強度に加えて、透明性(クリヤー性能)および良好な光沢度が達成されることを実験により見出した。クリヤー塗料組成物によって形成されるクリヤー塗膜は一般に、被塗物の最表面に塗装されることから、一般的な塗膜物性に加えて、透明性(クリヤー性能)および良好な光沢度は重要な指標となる。本開示のクリヤー塗料組成物は、上述の構成により、抗菌抗ウイルス性能と、これらのクリヤー塗膜における性能とを両立することができたことを特徴とする。このような性能を両立することができた理由として、理論に拘束されるものではないが、上記バインダー樹脂と上記銀含有抗菌抗ウイルス剤を組み合わせて用いることによって、形成されたクリヤー塗膜において、抗菌抗ウイルス性能の発揮に必要とされる銀溶出量を確保することができ、そして、上記バインダー樹脂と上記銀含有抗菌抗ウイルス剤の組み合わせがクリヤー性能および光沢度を阻害しないためであると考えられる。
【0123】
上記クリヤー塗料組成物は、例えば、各種の医療設備、食品支給設備、教育環境設備、車両設備、屋外施設および設備、商業施設、公共設備、ハウジング設備、金融機関・公共案内のタッチパネル等、そして、これらの壁面、床面などに対して、塗装することができる。
【実施例0124】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0125】
実施例1
1Lの金属製容器に、バーノックWE-306(水酸基含有アクリル樹脂エマルション、DIC社製、樹脂固形分45%)60.0部、水道水25.5部を添加して、ディスパーにて撹拌した。次いでTEGO Formex800(エボニック社製消泡剤)0.1部、BYK-307(ビックケミー社製表面調整剤)0.3部、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックス、ビックケミー社製)2.2部、CF-04(J-ケミカル社製抗菌抗ウイルス剤水溶液)2.5部、バイヒジュール3100(住化コベストロウレタン社製イソシアヌレート化合物)4.5部を順次添加しディスパーで十分撹拌をして、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.040質量部となる量であった。
【0126】
実施例2
1Lの金属製容器に、ウォーターゾールS-745(酸基含有アクリル樹脂溶液、DIC社製、樹脂固形分40%)78.0部、水道水18.0部を添加して、ディスパーにて撹拌した。次いでTEGO Formex800(エボニック社製消泡剤)0.1部、BYK-307(ビックケミー社製表面調整剤)0.3部、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックス、ビックケミー社製)2.2部、CF-04(J-ケミカル社製抗菌抗ウイルス剤水溶液)2.6部、KBM-403(信越化学工業社製シランカップリング剤)1.0部を順次添加しディスパーで十分撹拌をして、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.042質量部となる量であった。
【0127】
実施例3
1Lの金属製容器に、水酸基含有アクリル樹脂バーノックWE-306(DIC社製)60.0部、水道水25.5部を添加して、ディスパーにて撹拌した。次いでTEGO Formex800(エボニック社製消泡剤)0.1部、BYK-307(ビックケミー社製表面調整剤)0.3部、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックス、ビックケミー社製)2.2部、CF-04(J-ケミカル社製抗菌抗ウイルス剤水溶液)5.0部、バイヒジュール3100(住化コベストロウレタン社製イソシアヌレート化合物)4.5部を順次添加しディスパーで十分撹拌をして、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.079質量部となる量であった。
【0128】
実施例4
1Lの金属製容器に、バーノックWE-306(水酸基含有アクリル樹脂エマルション、DIC社製、樹脂固形分45%)60.0部、水道水25.5部を添加して、ディスパーにて撹拌した。次いでTEGO Formex800(エボニック社製消泡剤)0.1部、BYK-307(ビックケミー社製表面調整剤)0.3部、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックス、ビックケミー社製)2.2部、CF-04(J-ケミカル社製抗菌抗ウイルス剤水溶液)2.5部、バイヒジュール3100(住化コベストロウレタン社製イソシアヌレート化合物)4.5部、およびサンチオールN-1(三協化成社製耐候変色防止剤)1%水溶液3.3部を順次添加しディスパーで十分撹拌をして、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.040質量部となる量であった。
【0129】
比較例1
1Lの金属製容器に、水酸基含有アクリル樹脂バーノックWE-306(DIC社製)60.0部、水道水25.5部を添加して、ディスパーにて撹拌した。次いでTEGO Formex800(エボニック社製消泡剤)0.1部、BYK-307(ビックケミー社製表面調整剤)0.3部、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックス、ビックケミー社製)2.2部、CF-04(J-ケミカル社製抗菌抗ウイルス剤水溶液)0.8部、バイヒジュール3100(住化コベストロウレタン社製イソシアヌレート化合物)4.5部を順次添加しディスパーで十分撹拌をして、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.013質量部となる量であった。
【0130】
比較例2
1Lの金属製容器に、水酸基含有アクリル樹脂バーノックWE-306(DIC社製)60.0部、水道水25.5部を添加して、ディスパーにて撹拌した。次いでTEGO Formex800(エボニック社製消泡剤)0.1部、BYK-307(ビックケミー社製表面調整剤)0.3部、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックス、ビックケミー社製)2.2部、ゼオミックHD10N(シナネンゼオミック社製、ゼオライト担持型抗菌抗ウイルス剤)2.5部、バイヒジュール3100(住化コベストロウレタン社製イソシアヌレート化合物)4.5部を順次添加しディスパーで十分撹拌をして、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.119質量部となる量であった。
【0131】
比較例3
1Lの金属製容器に、アクリル樹脂ウォーターゾールS-745(DIC社製)78.0部、水道水18.0部を添加して、ディスパーにて撹拌した。次いでTEGO Formex800(エボニック社製消泡剤)0.1部、BYK-307(ビックケミー社製表面調整剤)0.3部、AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックス、ビックケミー社製)2.2部、ゼオミックHD10N(シナネンゼオミック社製、ゼオライト担持型抗菌抗ウイルス剤)2.6部、KBM-403(信越化学工業社製シランカップリング剤)1.0部を順次添加しディスパーで十分撹拌をして、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.125質量部となる量であった。
【0132】
比較例4
撹拌機、冷却器、窒素導入管及び温度計を備えた反応槽に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとから合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂702部、ビスフェノールA269部、ダイマー酸108部、メチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)190部を仕込み、ベンジルジメチルアミン1部存在下、エポキシ当量1270になるまで117℃で反応させた。その後、アミノエチルエタノールアミンのケチミン化合物(73質量%MIBK溶液)255部を加え、117℃で1時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分75%になるまで希釈し、数平均分子量2400、アミン当量1184のエポキシ系ポリアミン樹脂を得た。さらに酢酸を加え、中和率20.0%(樹脂のアミン基に対する中和率)となるようにし、イオン交換水を加え希釈した。その後、固形分が40質量%となるまで減圧下でMIBK及び水の混合物を除去し、カチオン性エポキシ系ポリアミン樹脂エマルションを調製した。
得られたエマルション2960部に、ディスパーで撹拌しながら、水道水1000部、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(DPnB)118部を加えた後、さらに、ディスパー撹拌しながら、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(EO20mol)(新中村化学社製 商品名「AT-20E」)392部、CF-04(J-ケミカル社製抗菌抗ウイルス剤水溶液)296部を加え、10分間撹拌し、クリヤー塗料組成物を得た。
上記クリヤー塗料組成物を用いて形成される塗膜における銀含有抗菌抗ウイルス剤の含有量は、バインダー樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、有効成分量としてAg換算で0.125質量部となる量であった。
【0133】
上記実施例および比較例で調製したクリヤー塗料組成物を用いて、下記評価試験を行った。
【0134】
銀溶出量
ICP発光分光分析装置を用いて銀溶出量評価を行った。具体的には下記手順により行った。
各実施例および比較例で得られた塗料組成物を、ガラス板(縦50mm、横50mm、厚さ2mm)上にはけを用いて塗装し、室温で7日乾燥し、膜厚45μmのクリヤー塗膜を有する試験片を作成した。
次いで、試験片を、イオン交換水12ml(水温25℃)中に、塗装面が上面となりそして塗装面が完全に浸漬する状態で、24時間浸漬した。
イオン交換水中から上記試験片を引き上げ、試験片を浸漬したイオン交換水中に含まれる、硬化塗膜の表面積1cmあたりの銀の溶出量(mg/1L)を、ICP発光分光分析装置(ICPE-9000、島津製作所社製)を用いて、誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定した。測定結果を下記表に示す。
【0135】
抗ウイルス性評価
抗ウイルス性評価試験は、JIS R 1756「ファインセラミック-可視光応答型光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」の規定に準じて行った。
各実施例および比較例で得られた塗料組成物を、ガラス板(縦50mm、横50mm、厚さ2mm)上にはけを用いて塗装し、室温で7日乾燥し、膜厚45μmのクリヤー塗膜を有する試験片を作成した。
得られた試験片に対して、バクテリオファージQβ液を試料に滴下してフィルムで被覆し、24時間静置した。その後、試験片に残存するバクテリオファージを大腸菌に感染させ一晩静置し、その後、感染能力を保持しているウイルス数を測定することにより、抗ウイルス活性値を求めた。抗ウイルス活性値の値が高いほど(絶対値が高い程)、抗ウイルス性に優れると評価される。
得られた結果について、下記基準により評価した。

○:抗ウイルス活性値が2以上である
×:抗ウイルス活性値が2未満である
【0136】
抗菌性評価
抗菌性評価試験は、JIS Z 2801の規定に準じて行った。
各実施例および比較例で得られた塗料組成物を、ガラス板(縦50mm、横50mm、厚さ2mm)上にはけを用いて塗装し、室温で7日乾燥し、膜厚45μmのクリヤー塗膜を有する試験片を作成した。
次いで、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus、NBRC12732)を生菌数1.4×10/mLで含む試験菌液を用いて評価試験を行った。試験片上のクリヤー塗膜に対して、試験菌液0.4mlを接種し、接種した塗膜表面にポリエチレンフィルムを被せて密着させ、温度35℃、相対湿度90%の条件で24時間培養した。
標準試料(ブランク)として、塗膜を有しないガラス板(縦50mm、横50mm、厚さ2mm)を用いた。
24時間培養後の菌数を測定し、標準試料(ブランク)の培養後菌数の対数値:Uから試験片の培養後菌数の対数値:Aを減じた数を抗菌活性値:Rとした(R=U-A)。
得られた結果について、下記基準により評価した。

○:抗菌活性値が2以上である
×:抗菌活性値が2未満である
【0137】
光沢度の測定(20°グロス)
各実施例および比較例で得られた塗料組成物を、ガラス板(厚さ2mm)上に6milアプリケーターを用いて塗装し、室温で7日乾燥し、膜厚45μmのクリヤー塗膜を有する試験片を作成した。得られた試験片を、白黒隠ぺい紙の黒部分の上におき、20°光沢度を、JIS K 5600-4-7(鏡面光沢度)の規定に従って測定した。測定には、MULTI GLOSS 268 PLUS(コニカミノルタ社製)を用いた。得られた結果を下記表に示す。
【0138】
ヘーズ値の測定
上記光沢値の測定で用いた試験片を用いて、ヘーズメーターNDH2000(日本電色製)を用いてヘーズを測定した。得られた結果を下記表に示す。ヘーズ値が小さいほど塗膜の透明性(クリヤー性)が高いことを意味する。
【0139】
耐候性試験
基材としてアルミニウム板を用い、その上に2液型水性塗料(日本ペイント社製ニッペクリンカラーU水性ホワイト)をエアスプレーで乾燥膜厚50μmに塗装し、1日乾燥し、下地塗膜を得た。この下地塗膜上に各実施例および比較例で得られた塗料組成物を、6milアプリケーターを用いて塗装し、室温で7日乾燥し、膜厚45μmのクリヤー塗膜を有する試験片を作成した。得られた試験片を、JIS K 5600-7-7に記載のキセノンランプ法に従って、スーパーキセノンウェザーメーターSX-120(スガ試験機社製)で促進耐候性試験を実施した。試験時間は1000時間とし、試験時間経過後の塗膜外観をLab表色系にて数値化した。色差計は色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR―400)を用いた。試験前の色相を基準として、試験後の色相との差(ΔE)を評価した。

○:3>ΔE
○△:7>ΔE≧3
△:ΔE≧7
【0140】
【表1】
【0141】
実施例のクリヤー塗料組成物を用いて形成したクリヤー塗膜はいずれも、良好な抗菌性および抗ウイルス性を有しており、そして透明性(クリヤー性)および光沢性に優れていることが確認された。
比較例1は、銀溶出量が少なく本開示の範囲に満たない例である。この例では、良好な抗菌抗ウイルス性能を得ることができなかった。
比較例2、3は、ゼオライト担持型抗菌抗ウイルス剤を用いた例である。これらの例では塗膜の高光沢度が低く、また、ヘーズ値が高く透明性が低いことが確認された。
比較例4は、バインダー樹脂としてカチオン性エポキシ系ポリアミン樹脂を用いた例である。この例では、銀溶出量が少なく、抗菌抗ウイルス性能を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本開示のクリヤー塗料組成物を用いることによって、光沢度が高くそして抗菌抗ウイルス性能を有するクリヤー塗膜を形成することができる。本開示のクリヤー塗料組成物は、抗菌抗ウイルス性能の付与が求められる各種被塗物に対して好適に塗装することができる。