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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060214
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】光学積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/023 20190101AFI20220407BHJP
   C23C 14/56 20060101ALI20220407BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20220407BHJP
   B32B 37/14 20060101ALI20220407BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20220407BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20220407BHJP
【FI】
B32B7/023
C23C14/56 A
C23C14/58 B
B32B37/14 Z
G02B1/11
G02B1/14
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000546
(22)【出願日】2022-01-05
(62)【分割の表示】P 2021117777の分割
【原出願日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2020123317
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 嗣人
(72)【発明者】
【氏名】黄 臻
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克利
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貴久
(72)【発明者】
【氏名】木伏 祐子
(72)【発明者】
【氏名】小林 智明
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れた防汚層を備えた光学積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る光学積層体の製造方法は、プラスチックフィルムと、密着層と、光学機能層と、防汚層とが順に積層されてなる光学積層体の製造方法であって、密着層を形成する密着層形成工程と、光学機能層を形成する光学機能層形成工程と、前記光学機能層の表面をグロー放電処理する表面処理工程と、表面処理された前記光学機能層上に防汚層を形成する防汚層形成工程とを含み、前記グロー放電処理の積算出力は、130W・min/m以上2000W・min/m以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムと、密着層と、光学機能層と、防汚層とが順に積層されてなる光学積層体の製造方法であって、
密着層を形成する密着層形成工程と、
光学機能層を形成する光学機能層形成工程と、
前記光学機能層の表面をグロー放電処理する表面処理工程と、
表面処理された前記光学機能層上に防汚層を形成する防汚層形成工程と、を含み、
前記グロー放電処理の積算出力は、130W・min/m以上2000W・min/m以下である、光学積層体の製造方法。
【請求項2】
前記密着層形成工程および前記光学機能層形成工程において、スパッタリングによって前記密着層および前記光学機能層を形成する、請求項1に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項3】
前記防汚層形成工程において、真空蒸着によって前記防汚層を形成する、請求項1又は請求項2に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項4】
前記密着層形成工程および前記光学機能層形成工程と前記表面処理工程と前記防汚層形成工程とを、減圧下で連続して行う、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項5】
前記密着層形成工程の前に、ハードコート層を形成するハードコート層形成工程を有する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項6】
前記光学機能層は、反射防止層及び選択反射層から選ばれるいずれか1種を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項7】
前記光学機能層が、低屈折率層を備える、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項8】
前記光学機能層形成工程が、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して積層体を形成する工程である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項9】
前記表面処理工程において、前記低屈折率層の表面を処理する、請求項7または請求項8に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項10】
前記低屈折率層が、金属の酸化物を含む、請求項8又は請求項9に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項11】
前記密着層が、金属又は金属酸化物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の光学積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)、タッチパネル、太陽電池等においては、光学積層体として、表面の反射防止用に様々な反射防止フィルムが用いられている。従来、反射防止フィルムとして、透明基板上に高屈折率層と低屈折率層とを順次積層した多層膜を備えた反射防止フィルムが提案されている。こうした反射防止フィルムの最外面には、一般的に、表面の保護、防汚を目的として、防汚層(表面保護層)が形成されている。
【0003】
近年、反射防止フィルム(光学積層体)は、スマートホン、各種操作機器のタッチパネルに多用されている。このことにより、光学積層体の耐摩耗性を向上させることが求められている。
例えば、特許文献1には、防汚層の構成材料に含まれるフッ素量を特定の範囲とすることで、耐摩耗性を向上させた透明基板積層体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、防汚層を形成する前に、被処理基材上の少なくとも片面を前処理し、この前処理した表面に防汚層を成膜する防汚層の形成方法が記載されている。また、特許文献2には、前処理が、高周波放電プラズマ法、電子ビーム法、イオンビーム法、蒸着法、スパッタリング法、アルカリ処理法、酸処理法、コロナ処理法、大気圧グロー放電プラズマ法の何れかであることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成後、酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行い、その後、フッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する、防汚性光学物品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/078313号
【特許文献2】特開2006-175438号公報
【特許文献3】特開2005-301208号公報
【特許文献4】特許第6542970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている透明基板積層体は、摩擦を繰り返すと、耐摩耗性に寄与する未反応物が擦り取られてしまい、高い耐摩耗性が維持できないという課題があった。繰り返し摩擦に対しても高い耐摩耗性が維持できる防汚層を備えた光学積層体が求められていた。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、耐久性に優れた光学積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
【0010】
[1]本発明の第1態様に係る光学積層体の製造方法は、プラスチックフィルムと、密着層と、光学機能層と、防汚層とが順に積層されてなる光学積層体の製造方法であって、
密着層を形成する密着層形成工程と、
光学機能層を形成する光学機能層形成工程と、
下記式(1)で表される表面粗さの変化率が1~25%、または、下記式(2)で表される要素の平均長さの変化率が7~65%となるように、前記光学機能層の表面を処理する表面処理工程と、
表面処理された前記光学機能層上に防汚層を形成する防汚層形成工程と、を含む:
表面粗さの変化率(%)=((Ra2/Ra1)-1)×100(%)・・・式(1)(式(1)中、Ra1は表面を処理する前の光学機能層の表面粗さ(Ra)を示し、Ra2は表面を処理した後の光学機能層の表面粗さ(Ra)を示す。)
要素の平均長さの変化率(%)=((RSm2/RSm1)-1)×100(%)・・・式(2)
(式(2)中、Rsm1は表面を処理する前の光学機能層の要素の平均長さ(RSm)を示し、RSm2は表面を処理した後の光学機能層の要素の平均長さ(RSm)を示す。)
【0011】
[2]本発明の第2態様に係る光学積層体の製造方法は、プラスチックフィルムと、密着層と、光学機能層と、防汚層とが順に積層されてなる光学積層体の製造方法であって、
密着層を形成する密着層形成工程と、
光学機能層を形成する光学機能層形成工程と、
前記光学機能層の表面をグロー放電処理する表面処理工程と、
表面処理された前記光学機能層上に防汚層を形成する防汚層形成工程と、を含み、
前記グロー放電処理の積算出力は、130W・min/m以上2000W・min/m以下である。
【0012】
[3]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、スパッタリングによって前記密着層および前記光学機能層を形成してもよい。
[4]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記防汚層形成工程において、真空蒸着によって前記防汚層を形成してもよい。
[5]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記密着層形成工程および前記光学機能層形成工程と前記表面処理工程と前記防汚層形成工程とを、減圧下で連続して行ってもよい。
【0013】
[6]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記密着層形成工程の前に、ハードコート層を形成するハードコート層形成工程を有してもよい。
[7]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記光学機能層は、反射防止層及び選択反射層から選ばれるいずれか1種を含んでもよい。
[8]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記光学機能層が、低屈折率層を備えてもよい。
【0014】
[9]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記光学機能層形成工程が、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して積層体を形成する工程であってもよい。
[10]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記表面処理工程において、前記低屈折率層の表面を処理してもよい。
[11]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、前記低屈折率層が、金属の酸化物を含んでもよい。
【0015】
[12]本発明の第3態様に係る光学積層体は、透明基材と、密着層と、光学機能層と、防汚層とが順に積層されてなる光学積層体であって、前記防汚層は、防汚性材料を蒸着させた蒸着膜からなる。
[13]上記態様に係る光学積層体は、前記光学機能層は、反射防止層及び選択反射層から選ばれるいずれか1種を含んでもよい。
【0016】
[14]上記態様に係る光学積層体は、前記光学機能層が、低屈折率層を備えてもよい。
[15]上記態様に係る光学積層体は、前記光学機能層が、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された積層体からなってもよい。
[16]上記態様に係る光学積層体は、前記防汚層が、前記低屈折率層に接して設けられていてもよい。
[17]上記態様に係る光学積層体は、前記密着層が、金属または金属の酸化物を含んでもよい。
【0017】
[18]上記態様に係る光学積層体は、前記防汚性材料が、フッ素系有機化合物を含んでもよい。
[19]上記態様に係る光学積層体は、前記透明基材と前記密着層との間に、更にハードコート層を備えてもよい。
[20]本発明の第4態様に係る物品は、上記態様に係る光学積層体を備える。
【0018】
[21]本発明の第5態様に係る光学積層体の製造方法は、上記態様に係る光学積層体の製造方法であって、前記光学機能層の一面側に、真空蒸着によって防汚性材料を蒸着させた蒸着膜からなる前記防汚層を形成する防汚層形成工程を有する。
[22]上記態様に係る光学積層体の製造方法は、スパッタリングによって前記光学機能層を形成する光学機能層形成工程を有し、前記光学機能層形成工程と前記防汚層形成工程とを、減圧下で連続して行ってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐久性に優れた防汚層を備えた光学積層体の製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の光学積層体の一例を示した断面図である。
図2】本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
図3】本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
図4】本実施形態の光学積層体の製造方法に用いることができる製造装置の一例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
[光学積層体]
図1は、本実施形態の光学積層体の一例を説明するための断面図である。
図1に示すように、本実施形態の光学積層体101は、透明基材11と、密着層13と、光学機能層14と、防汚層15とが順に積層されてなるものである。
密着層13は、密着を発現させる層である。
光学機能層14は、光学機能を発現させる層である。光学機能とは、光の性質である反射と透過、屈折をコントロールする機能であり、例えば、反射防止機能、選択反射機能、レンズ機能などが挙げられる。
光学機能層14は、反射防止層及び選択反射層から選ばれるいずれか1種を含むことが好ましい。反射防止層、選択反射層、防眩層としては、公知のものを用いることができる。反射防止層、選択反射層、防眩層は、いずれも単層であっても良く、複数の層の積層体であってよい。
【0023】
図2は、本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
図2に示す光学積層体102は、透明基材11と、ハードコート層12と、密着層13と、光学機能層14と、防汚層15とが順に積層されてなるものである。
密着層13は、密着を発現させる層である。
光学機能層14は、光学機能を発現させる層である。光学機能とは、光の性質である反射と透過、屈折をコントロールする機能であり、例えば、反射防止機能、選択反射機能レンズ機能などが挙げられる。
光学機能層14は、反射防止層及び選択反射層から選ばれるいずれか1種を含むことが好ましい。反射防止層及び選択反射層としては、公知のものを用いることができる。反射防止層及び選択反射層は、いずれも単層であっても良く、複数の層の積層体であってよい。
【0024】
図3は、本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
図3に示す光学積層体10は、図2に示す光学積層体102における光学機能層14として、反射防止層が設けられているものである。光学機能層14(反射防止層)は、図2に示すように、低屈折率層14bと高屈折率層14aとが交互に積層された積層体からなる。図2に示す光学機能層14は、透明基材11側から順に、ハードコート層12、密着層13、高屈折率層14a、低屈折率層14b、高屈折率層14a、低屈折率層14b、防汚層15がこの順に積層されたものである。したがって、防汚層15は、光学機能層14の有する低屈折率層14bに接している。
【0025】
透明基材11は、可視光域の光を透過可能な透明材料から形成されればよい。例えば、透明基材11として、プラスチックフィルムが好適に用いられる。プラスチックフィルムの構成材料の具体例としては、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、が挙げられる。
【0026】
なお、本発明でいう「透明材料」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、使用波長域の光の透過率が80%以上の材料であることをいう。
また、本実施形態において「(メタ)アクリル」は、メタクリル及びアクリルを意味する。
【0027】
光学特性を著しく損なわない限りにおいて、透明基材11には補強材料が含まれていても良い。補強材料は、例えば、セルロースナノファイバー、ナノシリカ等である。特に、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が、補強材料として、好適に用いられる。具体的には、トリアセチルセルロース(TAC)基材が、補強材料として、好適に用いられる。
また、透明基材11には、無機基材であるガラスフィルムを用いることもできる。
【0028】
プラスチックフィルムがTAC基材であると、その一面側にハードコート層12を形成したとき、ハードコート層12を構成する成分の一部が浸透してなる浸透層が形成される。その結果、透明基材11とハードコート層12との密着性が良好になるとともに、互いの層間の屈折率差に起因した干渉縞の発生を抑制できる。
【0029】
透明基材11は、光学的機能および/または物理的機能が付与されたフィルムであっても良い。光学的および/または物理的な機能を有するフィルムの例としては、偏光板、位相差補償フィルム、熱線遮断フィルム、透明導電フィルム、輝度向上フィルム、バリア性向上フィルムなどが挙げられる。
【0030】
透明基材11の厚みは、特に限定されないが、例えば、25μm以上であることが好ましい。透明基材11の膜厚は、40μm以上であることがより好ましい。
透明基材11の厚みが25μm以上であると、基材自体の剛性が確保され、光学積層体10に応力が加わっても皺が発生し難くなる。また、透明基材11の厚みが25μm以上であると、透明基材11上にハードコート層12を連続的に形成しても、皺が生じにくく製造上の懸念が少なく好ましい。透明基材11の厚みが40μm以上であると、より一層皺が生じにくく、好ましい。
【0031】
製造時において、ロールで実施する場合、透明基材11の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、600μm以下であることがより好ましい。透明基材11の厚みが1000μm以下であると、製造途中の光学積層体10および製造後の光学積層体10をロール状に巻きつけやすく、効率良く光学積層体10を製造できる。また、透明基材11の厚みが1000μm以下であると、光学積層体10の薄膜化、軽量化が可能となる。透明基材11の厚みが600μm以下であると、より効率良く光学積層体10を製造できるとともに、より一層の薄膜化、軽量化が可能となり、好ましい。
【0032】
透明基材11は、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化等のエッチング処理および/または下塗り処理が施されていてもよい。これらの処理が予め施されていることで、透明基材11の上に形成されるハードコート層12との密着性を向上させることができる。また、透明基材11上にハードコート層12を形成する前に、必要に応じて、透明基材11の表面に対して溶剤洗浄、超音波洗浄等を行うことにより、透明基材11の表面を除塵、清浄化させておくことも好ましい。
【0033】
ハードコート層12としては、公知のものを用いることができる。ハードコート層12は、バインダー樹脂のみからなるものであってもよいし、バインダー樹脂とともに、透明性を損なわない範囲でフィラーを含むものであってもよい。フィラーとしては、有機物からなるものを用いてもよいし、無機物からなるものを用いてもよいし、有機物および無機物からなるものを用いてもよい。
【0034】
ハードコート層12に用いられるバインダー樹脂としては、透明性のものが好ましく、例えば、紫外線、電子線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。
【0035】
ハードコート層12のバインダー樹脂に用いる電離放射線硬化型樹脂としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等を挙げることができる。
また、2以上の不飽和結合を有する電離放射線硬化型樹脂である化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、イソボロニルジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能化合物等を挙げることができる。なかでも、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)及びペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)が好適に用いられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。また、電離放射線硬化型樹脂として、上述した化合物をPO(プロピレンオキサイド)、EO(エチレンオキサイド)、CL(カプロラクトン)等で変性したものも使用できる。
【0036】
ハードコート層12のバインダー樹脂に用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂及びゴム又はエラストマー等を挙げることができる。上記熱可塑性樹脂は、非結晶性で、かつ有機溶媒(特に複数のポリマー、硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶であることが好ましい。特に、透明性および耐候性という観点から、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類等)等が好ましい。
【0037】
ハードコート層12のバインダー樹脂に用いる熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂(かご状、ラダー状などのいわゆるシルセスキオキサン等を含む)等を挙げることができる。
【0038】
ハードコート層12は、有機樹脂と無機材料を含んでいても良く、有機無機ハイブリッド材料でもよい。一例としては、ゾルゲル法で形成されたものが挙げられる。無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアが挙げられる。有機材料としては、例えば、アクリル樹脂が挙げられる。
ハードコート層12に含まれるフィラーは、防眩性、後述する光学機能層14との密着性、アンチブロッキング性の観点から、光学積層体10の用途に応じて種々のものを選択できる。具体的には、例えば、シリカ(Siの酸化物)粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子、有機微粒子など公知のものを用いることができる。
【0039】
ハードコート層12は、例えば、バインダー樹脂と、フィラーとしてのシリカ粒子および/またはアルミナ粒子とを含むものであってもよい。ハードコート層12中に、フィラーとしてシリカ粒子および/またはアルミナ粒子が分散されていることで、ハードコート層12の表面に微細な凹凸を形成できる。これらシリカ粒子および/またはアルミナ粒子は、ハードコート層12の光学機能層14側の表面に露出していてもよい。この場合、ハードコート層12のバインダー樹脂と、光学機能層14とが、強く接合される。このため、ハードコート層12と光学機能層14との密着性が向上し、ハードコート層12の硬度が高くなるとともに、光学積層体10の耐擦傷性が良好となる。
【0040】
ハードコート層12のフィラーの平均粒子径は、例えば、800nm以下、好ましくは780nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。当該サイズのフィラーとして、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子等が好適に用いられる。フィラーの粒子径が当該範囲内とすると、光学積層体10全体のヘイズ値は2%以下となる。ヘイズが2%以下の光学積層体10は透明度が高く、いわゆるクリア型の反射防止フィルムとなる。
【0041】
ハードコート層12のフィラーの平均粒子径は、例えば、0.5μm以上でもよい。当該サイズのフィラーとして、例えば、アクリル樹脂等の有機微粒子が好適に用いられる。フィラーの粒子径が当該範囲内とすると、光学積層体10全体のヘイズ値は2%超となる。ヘイズが2%超の光学積層体10は防眩性を有し、いわゆるアンチグレア(AG)型の反射防止フィルムとなる。この場合においても、フィラーの平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。
ハードコート層12に含有されるフィラーとして、ハードコート層12に強靭性を付与するために、光学特性を損なわない範囲で、各種補強材を用いることが出来る。補強材としては、例えば、セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0042】
ハードコート層12の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。ハードコート層12の厚みは、100μm以下であることが好ましい。ハードコート層12の厚みが0.5μm以上であると、十分な硬度が得られるため、製造上のひっかき傷が発生し難くなる。また、ハードコート層12の厚みが100μm以下であると、光学積層体10の薄膜化、軽量化が可能となる。また、ハードコート層12の厚みが100μm以下であると、製造途中の光学積層体10が曲がった際に発生するハードコート層12のマイクロクラックが生じにくく、生産性が良好となる。
【0043】
ハードコート層12は、単一の層であってもよく、複数の層が積層されたものであってもよい。また、ハードコート層12には、例えば、紫外線吸収性能、帯電防止性能、屈折率調整機能、硬度調整機能など公知の機能が更に付与されていてもよい。
また、ハードコート層12に付与される機能は、単一のハードコート層中に付与されていてもよいし、複数の層に分割して付与されていてもよい。
【0044】
密着層13は、有機膜である透明基材11またはハードコート層12と、無機膜である光学機能層14との密着を良好にさせるために形成する層である。図3に示す光学積層体10では、ハードコート層12と光学機能層14との間に、密着層13が備えられている。密着層13は、ハードコート層12と光学機能層14とを密着させる機能を有する。密着層13は、酸素欠損状態の金属酸化物もしくは金属からなるものであることが好ましい。酸素欠損状態の金属酸化物とは、化学量論組成よりも酸素数が不足した状態の金属酸化物をいう。酸素欠損状態の金属酸化物としては、例えば、SiOx、AlOx、TiOx、ZrOx、CeOx、MgOx、ZnOx、TaOx、SbOx、SnOx、MnOxなどが挙げられる。また、金属としては、Si、Al、Ti、Zr、Ce、Mg、Zn、Ta、Sb、Sn、Mn、Inなどが挙げられる。密着層13は、例えば、SiOxにおけるxが、0を超え2.0未満であるものであってもよい。また、密着層は複数種の金属または金属酸化物の混合物から形成されていても良い。
密着層の厚みは、透明性と光学機能層との密着性を維持し、良好な光学特性を得る観点から、0nm超え20nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることが特に好ましい。
【0045】
光学機能層14は、反射防止機能を発現させる積層体である。図3に示す光学機能層14は、密着層13側から順に高屈折率層14aと低屈折率層14bとが交互に積層された合計4層の積層体である。高屈折率層14aと低屈折率層14bの層数は、特に限定されるものではなく、高屈折率層14aおよび低屈折率層14bの層数は、任意の層数とすることができる。
【0046】
図3に示す光学積層体10では、光学機能層14が、低屈折率層14bと高屈折率層14aとが交互に積層された積層体からなるものであるため、防汚層15側から入射した光が光学機能層14によって拡散される。したがって、防汚層15側から入射した光が、一方向に反射されることを防止する反射防止機能が得られる。
【0047】
低屈折率層14bは、例えば、金属の酸化物を含む。低屈折率層14bは、入手の容易さとコストの点からSiの酸化物を含んでもよく、SiO(Siの酸化物)等を主成分とした層であることが好ましい。SiO単層膜は、無色透明である。本実施形態において、低屈折率層14bの主成分とは、低屈折率層14b中に50質量%以上含まれる成分であることを意味する。
低屈折率層14bが、Siの酸化物を主成分とした層である場合、50質量%未満の別の元素を含んでも良い。Siの酸化物とは別の元素の含有量は、好ましくは10%以下である。別の元素としては、例えば、耐久性向上の目的でNa、硬度向上の目的でZr、Al、またはN、耐アルカリ性向上の目的で、Zr、Alを含有できる。
【0048】
低屈折率層14bの屈折率は、好ましくは1.20~1.60であり、より好ましくは1.30~1.50である。低屈折率層14bに用いられる誘電体としては、フッ化マグネシウム(MgF、屈折率1.38)などが挙げられる。
【0049】
高屈折率層14aの屈折率は、好ましくは2.00~2.60であり、より好ましくは2.10~2.45である。高屈折率層14aに用いられる誘電体としては、五酸化ニオブ(Nb、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)、酸化ジルコニウム(ZrO、屈折率2.2)などが挙げられる。
高屈折率層14aに導電特性を付与したい場合、例えば、ITO、酸化インジウム酸化亜鉛(IZO)を選択できる。
【0050】
光学機能層14は、例えば、高屈折率層14aとして五酸化ニオブ(Nb、屈折率2.33)からなるものを用い、低屈折率層14bとしてSiOからなるもの用いることが好ましい。
【0051】
低屈折率層14bの膜厚は、1nm以上200nm以下の範囲であればよく、反射防止機能を必要とする波長域に応じて適宜選択される。
高屈折率層14aの膜厚は、例えば、1nm以上200nm以下であればよく、反射防止機能を必要とする波長域に応じて適宜選択される。
高屈折率層14aおよび低屈折率層14bの膜厚は、それぞれ光学機能層14の設計に応じて適宜選択できる。
例えば、密着層13側から順に、5~50nmの高屈折率層14a、10~80nmの低屈折率層14b、20~200nmの高屈折率層14a、50~200nmの低屈折率層14bとすることができる。
【0052】
光学機能層14を形成している層のうち、防汚層15側には、低屈折率層14bが配置されている。光学機能層14の低屈折率層14bが防汚層15と接している場合、光学機能層14の反射防止性能が良好となるため、好ましい。
【0053】
防汚層15は、光学機能層14の最外面に形成され、光学機能層14の汚損を防止する。また、防汚層15は、タッチパネル等に適用する際に、耐摩耗性によって光学機能層14の損耗を抑制する。
本実施形態の防汚層15は、例えば、防汚性材料を蒸着させた蒸着膜からなる。本実施形態では、防汚層15は、光学機能層14を構成する低屈折率層14bの一面に、防汚性材料としてフッ素系有機化合物を真空蒸着することによって形成される。本実施形態では、防汚性材料が、フッ素系有機化合物を含むため、より一層耐摩擦性および耐アルカリ性の良好な光学積層体10となる。
【0054】
防汚層15を構成するフッ素系有機化合物としては、フッ素変性有機基と、反応性シリル基(例えば、アルコキシシラン)とからなる化合物が好ましく用いられる。市販品としては、オプツールDSX(ダイキン株式会社製)、KY-100シリーズ(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0055】
防汚層15を構成するフッ素系有機化合物として、フッ素系有機化合物としては、フッ素変性有機基と、反応性シリル基(例えば、アルコキシシラン)とからなる化合物を用い、防汚層15に接する光学機能層14の低屈折率層14bとして、SiOからなるものを用いた場合、フッ素系有機化合物の骨格であるシラノール基とSiOと間でシロキサン結合が形成される。このため、光学機能層14と防汚層15との密着性が良好となり、好ましい。
【0056】
防汚層15の光学厚みは、1nm以上、20nm以下の範囲であればよく、好ましくは3nm以上、10nm以下の範囲である。防汚層15の厚みが1nm以上であると、光学積層体10をタッチパネル用途などに適用した際に、耐摩耗性を十分に確保できる。また、防汚層15の厚みが20nm以下であると、蒸着に要する時間が短時間で済み、効率よく製造できる。
【0057】
防汚層15の表面粗さRaは、光学積層体の用途や構成によって異なる。例えば、光学積層体が防眩機能を持たない透明な反射防止層(クリア型の反射防止フィルム)である場合は、防汚層15の表面粗さRaは、例えば3nm以上であることが好ましい。上限は特に制限はないが、例えば耐擦傷性の点からは9nm以下であることが好ましい。他方、光学積層体が防眩機能を持つ反射防止層(AG型の反射防止フィルム)である場合は、防汚層15の表面粗さRaは、例えば10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。なお、ここでいう防汚層15の表面粗さRaは、耐擦傷性試験を行う前の値である。
【0058】
防汚層15の要素の平均長さRSmは、光学積層体の用途や構成によって異なる。例えば、光学積層体が防眩機能を持つ反射防止層(AG型の反射防止フィルム)である場合は、防汚層15の要素の平均長さRSmは、例えば、59nm以上であることが好ましく、92nm以下であることがより好ましい。なお、ここでいう防汚層15の要素の平均長さRSmは、耐擦傷性試験を行う前の値である。
【0059】
防汚層15は、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0060】
蒸着によって形成された防汚層15は、光学機能層14と強固に結合し、空隙が少なく緻密である。これにより、本実施形態の防汚層15は、防汚性材料の塗布など従来の方法によって形成された防汚層とは異なる特性を示す。
【0061】
例えば、本実施形態のクリア型の光学積層体10の防汚層15は、以下の特性を有する。
(1)スチールウールを500回水平往復運動させることによる擦傷性試験後の水に対する接触角差が12°以下である。
(2)スチールウールを500回水平往復運動させることによる擦傷性試験後の水に対する接触角が109°以上である。
【0062】
(3)ウェス(不織布ワイパー)を4000回往復させることによる擦傷性試験後の水に対する接触角が108°以上である。
(4)スチールウールを500回水平往復運動させることによる擦傷性試験前後のSCI(Specular Component Include、正反射光を考慮に入れた反射色の測定方法)による下記式(3)で示されるL*a*b*値の変化量(ΔE値)が、3.0以下である。
【0063】
【数1】
(式(3)中、L0、a0、b0は、擦傷性試験前の値であり、L1、a1、b1は、擦傷性試験後の値である。)
【0064】
(5)スチールウールを500回水平往復運動させることによる擦傷性試験前後のSCE(Specular Component Exclude、正反射光を考慮に入れない反射色の測定法)による下記式(4)で示されるL*a*b*値の変化量(ΔE値)が、0.5以下である。
【0065】
【数2】
(式(4)中、L0、a0、b0は、擦傷性試験前の値であり、L1、a1、b1は、擦傷性試験後の値である。)
【0066】
(6)濃度0.1mol/LのNaOH溶液(液温55℃)に4時間浸漬後の蛍光X線分析法(XRF)によって測定したフッ素残存率が70%以上である。
【0067】
(7)超音波洗浄試験後の蛍光X線分析法(XRF)によって測定したフッ素残存率が79%以上である。
【0068】
また例えば、本実施形態のAG型の光学積層体10の防汚層15は、以下の特性を有する。
(1)ウェス(不織布ワイパー)を4000回往復させることによる擦傷性試験後に、X線光電子分光測定器(ESCA)によって測定したフッ素残存率が78%以上である。
(2)濃度0.1mol/LのNaOH溶液(液温55℃)に4時間浸漬後の蛍光X線分析法(XRF)によって測定したフッ素残存率が90%以上である。
(3)超音波洗浄試験後の蛍光X線分析法(XRF)によって測定したフッ素残存率が77%以上である。
【0069】
蒸着によって形成した本実施形態の防汚層15を備えた光学積層体10は、塗布によって形成した防汚層と比較して、空隙が少なく緻密に形成されている。また、本実施形態の光学積層体10では、防汚層15が、防汚層15と接する低屈折率層14bに対して強固に接合している。したがって、本実施形態の光学積層体10は、可視光透過性に優れ、繰り返し摩擦に対して高い耐摩耗性を維持できるとともに、耐アルカリ性に対しても高い耐性を維持できる。
【0070】
[光学積層体の製造方法]
図3に示す本実施形態の光学積層体10は、例えば、以下に示す方法により製造できる。
本実施形態では、光学積層体10の製造方法の一例として、ロール状に巻き付けられた透明基材11を用いて光学積層体10を製造する場合を例に挙げて説明する。
まず、ロール状に巻き付けられた透明基材11を巻き出す。そして、公知の方法により透明基材11上にハードコート層12となる材料を含むスラリーを塗布し、ハードコート層12となる材料に対応する公知の方法により硬化させる。このことにより、ハードコート層12を形成する(ハードコート層形成工程)。その後、表面にハードコート層12の形成された透明基材11を、公知の方法によりロール状に巻き取る。
【0071】
次に、ハードコート層12上に、密着層13を形成する密着層形成工程、および光学機能層14を形成する光学機能層形成工程を行う。その後、光学機能層14上に防汚層15を形成する防汚層形成工程を行う。本実施形態では、光学機能層形成工程の前に、ハードコート層12の表面を処理する第1表面処理工程を行ってから、密着層形成工程および光学機能層形成工程を行うことが好ましい。また、本実施形態では、光学機能層形成工程の後に、光学機能層14の表面を処理する第2表面処理工程を行ってから、防汚層形成工程を行うことが好ましい。
【0072】
本実施形態の光学積層体10の製造方法において、第1表面処理工程と密着層形成工程と光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程とは、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行うことが好ましい。第1表面処理工程と密着層形成工程と光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程を、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行う場合、例えば、スパッタリング装置として特許文献4に記載された薄膜形成装置を備えた装置などを用いることができる。
【0073】
本実施形態の光学積層体の製造方法に用いることができる製造装置としては、具体的には、図4に示す製造装置20が挙げられる。
図4に示す製造装置20は、ロール巻き出し装置4と、前処理装置2Aと、スパッタリング装置1と、前処理装置2Bと、蒸着装置3と、ロール巻き取り装置5とを備えている。図4に示すように、これらの装置4、2A、1、2B、3、5は、この順に連結されている。図4に示す製造装置20は、ロールから基材を巻き出し、連結された装置(図4では、前処理装置2A、スパッタリング装置1、前処理装置2B、蒸着装置3)を連続して通過させた後に巻き取ることにより、基材上に複数層を連続的に形成するロールトゥロール方式の製造装置である。
【0074】
ロールトゥロール方式の製造装置を用いて光学積層体10を製造する場合、製造途中の光学積層体10の搬送速度(ラインスピード)は、適宜設定することができる。搬送速度は、例えば、0.5~20m/minとすることが好ましく、0.5~10m/minとすることがより好ましい。
【0075】
<ロール巻き出し装置>
図4に示すロール巻き出し装置4は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー34と、チャンバー34内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(図4においては1つ)と、チャンバー34内に設置された巻き出しロール23およびガイドロール22を有する。図4に示すように、チャンバー34は、スパッタリング装置1のチャンバー31と前処理装置2Aを介して連結されている。
巻き出しロール23には、表面にハードコート層12の形成された透明基材11が巻き付けられている。巻き出しロール23は、所定の搬送速度で、表面にハードコート層12の形成された透明基材11を、前処理装置2Aに供給する。
【0076】
<前処理装置2A>
図4に示す前処理装置2Aは、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー32と、キャンロール26と、複数(図4では2つ)のガイドロール22と、プラズマ放電装置42とを有する。図4に示すように、キャンロール26と、ガイドロール22と、プラズマ放電装置42は、チャンバー32内に設置されている。図4に示すように、チャンバー32は、スパッタリング装置1のチャンバー31と連結されている。
【0077】
キャンロール26およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、ロール巻き出し装置4から送られたハードコート層12が形成された透明基材11を搬送し、ハードコート層12の表面が処理された透明基材11をスパッタリング装置1に送り出す。
プラズマ放電装置42は、図4に示すように、キャンロール26の外周面と所定の間隔で離間して対向配置されている。プラズマ放電装置42は、気体をグロー放電により電離させる。気体としては、安価かつ不活性で光学特性に影響を及ぼさないものが好ましく、例えば、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス等を使用できる。気体としては、質量が大きく化学的に安定であり、入手も容易であるため、アルゴンガスを用いることが好ましい。
本実施形態では、プラズマ放電装置42として、アルゴンガスを高周波プラズマによりイオン化するグロー放電装置を用いることが好ましい。
【0078】
<スパッタリング装置>
図4に示すスパッタリング装置1は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー31と、チャンバー31内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(図4においては2つ)と、成膜ロール25と、複数(図4では2つ)のガイドロール22と、複数(図4に示す例では4つ)の成膜部41とを有する。図4に示すように、成膜ロール25と、ガイドロール22と、成膜部41は、チャンバー31内に設置されている。図4に示すように、チャンバー31は、前処理装置2Bのチャンバー32と連結されている。
【0079】
成膜ロール25およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、前処理装置2Aから送られた表面が処理されたハードコート層12の形成された透明基材11を搬送し、ハードコート層12上に、密着層13および光学機能層14の形成された透明基材11を前処理装置2Bに供給する。
図4に示すスパッタリング装置1では、成膜ロール25上を走行する透明基材11のハードコート層12上に、スパッタリングによって密着層13が積層され、その上に高屈折率層14aと低屈折率層14bが交互に積層されて、光学機能層14が形成される。
【0080】
成膜部41は、図4に示すように、成膜ロール25の外周面と所定の間隔で離間して対向配置され、成膜ロール25を囲むように複数設けられている。成膜部41の数は、密着層13と、光学機能層14を形成している高屈折率層14aと低屈折率層14bとの合計積層数に応じて決定される。密着層13および光学機能層14を形成している高屈折率層14aと低屈折率層14bの合計積層数が多いために、隣接する成膜部41間の距離を確保しにくい場合には、チャンバー31内に成膜ロール25を複数設け、各成膜ロール25の周囲に成膜部41を配置してもよい。成膜ロール25を複数設ける場合、必要に応じてさらにガイドロール22を設置してもよい。成膜ロール25と成膜部41が設けられたチャンバー31を複数台連結してもよい。また、隣接する成膜部41間の距離を確保しやすくするために、成膜ロール25の直径を適宜変更してもよい。
【0081】
各成膜部41には、それぞれ所定のターゲット(不図示)が設置されている。ターゲットには、公知の構造により、電圧が印加されるようになっている。本実施形態では、ターゲットの近傍に、ターゲットに所定の反応性ガスおよびキャリアガスを所定の流量で供給するガス供給部(不図示)と、ターゲットの表面に磁場を形成する公知の磁場発生源(不図示)とが設けられている。
【0082】
ターゲットの材料、および反応性ガスの種類および流量は、成膜部41と成膜ロール25との間を通過することによって透明基材11上に形成される密着層13、高屈折率層14a、低屈折率層14bの組成に応じて適宜決定される。例えば、SiOからなる層を形成する場合、ターゲットとしてSiを用い、反応性ガスとしてOを用いる。また、例えば、Nbからなる層を形成する場合、ターゲットとしてNbを用い、反応性ガスとしてOを用いる。
【0083】
本実施形態では、成膜速度の高速化の観点から、スパッタ法として、マグネトロンスパッタ法を用いることが好ましい。
なお、スパッタ法は、マグネトロンスパッタ法に限定されるものではなく、直流グロー放電または高周波によって発生させたプラズマを利用する2極スパッタ方式、熱陰極を付加する3極スパッタ方式などを用いてもよい。
【0084】
スパッタリング装置1は、密着層13および光学機能層14となる各層を成膜した後に、光学特性を測定する測定部としての光学モニター(不図示)を備える。これにより、形成された密着層13および光学機能層14の品質を確認できる。スパッタリング装置1が、例えば、2つ以上のチャンバーを有する場合、各チャンバー内に光学モニターを設置することが好ましい。
【0085】
光学モニター(不図示)としては、例えば、幅方向にスキャン可能な光学ヘッドにより、ハードコート層12上に形成された密着層13および光学機能層14の幅方向の光学特性を測定するものが挙げられる。このような光学モニターが備えられている場合、例えば、光学特性として反射率のピーク波長を測定し、光学厚みに換算することにより、密着層13および光学機能層14の幅方向の光学厚み分布を測定できる。光学モニターを用いて光学特性を測定することにより、リアルタイムでスパッタ条件を調整しながら、最適な光学特性を有する密着層13および光学機能層14を備える光学積層体10を形成できる。
【0086】
<前処理装置2B>
図4に示す前処理装置2Bは、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー32と、キャンロール26と、複数(図4では2つ)のガイドロール22と、プラズマ放電装置42とを有する。図4に示すように、キャンロール26と、ガイドロール22と、プラズマ放電装置42は、チャンバー32内に設置されている。図4に示すように、チャンバー32は、蒸着装置3のチャンバー33と連結されている。
【0087】
キャンロール26およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、スパッタリング装置1から送られた光学機能層14までの各層が形成された透明基材11を搬送し、光学機能層14の表面が処理された透明基材11を蒸着装置3に送り出す。
プラズマ放電装置42としては、例えば、前処理装置2Aと同様のものを用いることができる。プラズマ放電装置42は、気体をグロー放電により電離させる。気体としては、安価かつ不活性で光学特性に影響を及ぼさないものが好ましく、例えば、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス等を使用できる。アルゴンガス又は酸素ガスは、光学機能層14の表面に与える影響が大きい。特に、質量の大きいアルゴンガスを用いると、光学機能層14の表面粗さRa又は要素の平均長さRSmを調整しやすい。
【0088】
<蒸着装置>
図4に示す蒸着装置3は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー33と、チャンバー33内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(図4においては1つ)と、複数(図4では4つ)のガイドロール22と、蒸着源43と、加熱装置53とを有する。図4に示すように、ガイドロール22と、蒸着源43は、チャンバー33内に設置されている。チャンバー33は、ロール巻き取り装置5のチャンバー35と連結されている。
【0089】
蒸着源43は、隣接する2つのガイドロール22間を略水平に搬送されている、光学機能層14の表面が処理された透明基材11と、対向して配置されている。蒸着源43は、防汚層15となる材料からなる蒸発ガスを、光学機能層14上に供給する。蒸着源43の向きは、任意に設定できる。
加熱装置53は、防汚層15となる材料を蒸気圧温度に加熱する。加熱装置53としては、抵抗加熱方式、ヒーター加熱方式、誘導加熱方式、電子ビーム方式で加熱するものなどを用いることができる。抵抗加熱方式では、防汚層15となる防汚性材料を収容する容器を抵抗体として通電加熱する。ヒーター加熱方式では、容器の外周に配置したヒーターで容器を加熱する。誘導加熱方式では、外部に設置した誘導コイルから電磁誘導作用によって容器又は防汚性材料を加熱する。
【0090】
図4に示す蒸着装置3は、蒸着源43で蒸発させた蒸着材料を所定の位置に導く案内板(不図示)と、蒸着により形成された防汚層15の厚みを観察する膜厚計(不図示)と、チャンバー33内の圧力を測定する真空圧計(不図示)と、電源装置(不図示)とを備えている。
案内板は、蒸発させた蒸着材料を、所望の位置に導くことができれば如何なる形状であってもよい。案内板は、必要でなければ備えなくとも差し支えない。
真空圧計としては、例えば、イオンゲージなどを用いることができる。
電源装置としては、例えば、高周波電源などが挙げられる。
【0091】
<ロール巻き取り装置>
図4に示すロール巻き取り装置5は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー35と、チャンバー35内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(図4においては1つ)と、チャンバー35内に設置された巻き取りロール24およびガイドロール22とを有する。
巻き取りロール24には、表面に防汚層15までの各層の形成された透明基材11(光学積層体10)が巻き付けられている。巻き取りロール24およびガイドロール22は、所定の巻き取り速度で、光学積層体10を巻き取る。
必要に応じ、キャリアフィルムも用いても良い。
【0092】
図4に示す製造装置20に備えられている真空ポンプ21としては、例えば、ドライポンプ、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、スパッタイオンポンプ、ゲッターポンプなどを用いることができる。真空ポンプ21は、各チャンバー31、32、33、34、35において、所望の減圧状態を作り出すために適宜選択し、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0093】
真空ポンプ21は、スパッタリング装置1のチャンバー31と蒸着装置3のチャンバー33の双方を所望の減圧状態に維持できればよく、製造装置20における真空ポンプ21の設置位置および数は特に限定されない。また、図4に示す製造装置20では、ロール巻き出し装置4と前処理装置2Aとスパッタリング装置1と前処理装置2Bと蒸着装置3とロール巻き取り装置5とが、連結されている。このため、真空ポンプ21は、チャンバー31、32、33、34、35にそれぞれ設置されていてもよいし、スパッタリング装置1のチャンバー31と蒸着装置3のチャンバー33の双方を所望の減圧状態に維持できるのであれば、チャンバー31、32、33、34、35のうち、一部のチャンバーにのみ設置されていてもよい。
【0094】
次に、図4に示す製造装置20を用いて、第1表面処理工程と密着層形成工程および光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程を、製造途中の光学積層体10を減圧下の状態に維持したまま連続して行う方法について、説明する。
まず、ロール巻き出し装置4のチャンバー34内に、表面にハードコート層12の形成された透明基材11が巻き付けられた巻き出しロール23を設置する。そして、巻き出しロール23およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、表面にハードコート層12の形成された透明基材11を、前処理装置2Aに送り出す。
【0095】
次に、前処理装置2Aのチャンバー32内で、密着層13および光学機能層14の形成される表面に対する前処理として、第1表面処理工程を行う。本実施形態では、ハードコート層12の形成された透明基材11に対して第1表面処理工程を行う。
第1表面処理工程では、キャンロール26およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、ハードコート層12の形成された透明基材11を搬送しながら、キャンロール26上を走行するハードコート層12の表面を処理する。
【0096】
ハードコート層12の表面処理方法としては、例えば、グロー放電処理、プラズマ処理、イオンエッチング、アルカリ処理などを用いることができる。これらの中でも、大面積処理が可能であるため、グロー放電処理を用いることが好ましい。グロー放電処理は、例えば、0.1~10kwhの処理強度で行うことができる。
ハードコート層12の表面に対して、グロー放電処理を行うことにより、ハードコート層12の表面がナノレベルで粗面化されるとともに、ハードコート層12の表面に存在する結合力の弱い物質が除去される。その結果、ハードコート層12と、ハードコート層12上に形成される光学機能層14との密着性が良好となる。
【0097】
次に、スパッタリング装置1のチャンバー31内で、密着層形成工程および光学機能層形成工程を行う。具体的には、成膜ロール25およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、ハードコート層12の形成された透明基材11を搬送しながら、成膜ロール25上を走行するハードコート層12上に、密着層13および光学機能層14を形成する。
【0098】
本実施形態では、各成膜部41に設置するターゲットの材料、またはガス供給部から供給する反応性ガスの種類および流量を変化させてスパッタリングすることによって、密着層13を形成し、その上に高屈折率層14aと低屈折率層14bとを交互に積層する。すなわち、密着層形成工程と光学機能層形成工程は、スパッタリング装置1内で連続して行われる。このことにより、密着層13と反射防止層である光学機能層14とを形成する。
【0099】
密着層13としてSiO膜を成膜する場合、シリコンターゲットを用いて、酸素ガスとアルゴンガスの混合ガス雰囲気による反応性スパッタリングにより形成することが好ましい。
密着層13と高屈折率層14aと低屈折率層14bとをスパッタリングによって連続して積層する場合、密着層13の成膜時と高屈折率層14aの成膜時と低屈折率層14bの成膜時とでターゲットの材料を変えて成膜してもよい。また、例えば、1種類の材料をターゲットとして用い、スパッタリング時の酸素(反応性ガス)流量を変えることによって、ターゲット材料からなる層とターゲット材料の酸化物からなる層とを交互に形成し、密着層13と高屈折率層14aと低屈折率層14bとしても良い。
【0100】
密着層13および光学機能層14を形成するためのスパッタリング時の圧力は、スパッタする金属により異なるが、2Pa以下であってもよく、1Pa以下であることが好ましく、0.6Pa以下であることがより好ましく、0.2Pa以下であることが特に好ましい。スパッタリング時の圧力が1Pa以下の減圧下の状態であると、成膜分子の平均自由工程が長くなり、成膜分子のエネルギーが高いまま積層されるため、緻密でより良好な膜質となる。
【0101】
その後、ハードコート層12上に密着層13および光学機能層14の形成された透明基材11を、成膜ロール25およびガイドロール22の回転によって、前処理装置2Bに送り出す。
次に、前処理装置2Bのチャンバー32内で、防汚層15の形成される表面に対する前処理として、第2表面処理工程を行う。本実施形態では、光学機能層形成工程によって得られた光学機能層14の形成された透明基材11を、大気に触れさせることなく、減圧下の状態に維持したまま連続して第2表面処理工程を行う。
第2表面処理工程では、キャンロール26およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、光学機能層14までの各層が形成された透明基材11を搬送しながら、キャンロール26上を走行する光学機能層14の表面に、放電処理を行う。
【0102】
光学機能層14の表面処理方法としては、例えば、グロー放電処理、プラズマ処理、イオンエッチング、アルカリ処理などを用いることができる。これらの中でも、大面積処理が可能であるため、グロー放電処理を用いることが好ましい。グロー放電処理は、Oガス又はアルゴンガスの雰囲気下で行うことが好ましい。これらのガスを用いると、光学機能層14の表面粗さの調整が容易になる。
光学機能層14の表面に放電処理を行うと、光学機能層14の表面がエッチングされ、光学機能層14の表面の粗さが変化する。光学機能層14の表面の粗さRaは、放電処理の際の積算出力を適切な範囲とすることにより、制御できる。放電処理の際の積算出力は、130W・min/m以上2000W・min/m以下である。本実施形態において、積算出力とは、放電処理の際に、光学機能層14に照射されたグロー放電出力と照射時間の積を、単位面積当たりで除した値である。
【0103】
放電処理の条件は、適宜設定できる。放電処理の条件を適切に設定することで、光学機能層14と、その上に形成される防汚層15との密着性が良好となり、より一層耐摩擦性および耐アルカリ性の良好な光学積層体10が得られる。
放電処理後の光学機能層14の表面の粗さRa及び要素の平均長さRSmは、光学機能層14の下に設けられているハードコート層12の表面粗さ要素の平均長さによって異なる。
また、放電処理後の光学機能層14の表面粗さRa及び要素の平均長さRSmは、光学機能層14の上に形成される防汚層15の表面粗さRa及び要素の平均長さRSmに影響する。
【0104】
第2表面処理工程では、下記式(1)で表される表面粗さの変化率が1~25%となるように、光学機能層の表面を処理する。特にクリア型の反射防止フィルムの場合にこの条件で光学機能層の表面を処理する。例えば、放電処理の際の積算出力は、表面粗さの変化率に影響を及ぼすパラメータの一つである。
表面粗さの変化率(%)=((Ra2/Ra1)-1)×100(%)・・・式(1)(式(1)中、Ra1は表面を処理する前の光学機能層の表面粗さ(Ra)を示し、Ra2は表面を処理した後の光学機能層の表面粗さ(Ra)を示す。)
【0105】
第2表面処理工程は、式(1)で表される表面粗さの変化率が、5%~25%となるように行うことが好ましく、8%~25%となるように行うことがより好ましく、8%~20%となるように行うことがさらに好ましく、8%~15%となるように行うことが一層好ましく、10%~14%となるように行うことがなお一層好ましい。式(1)で表される表面粗さの変化率が1%以上であると、第2表面処理工程を行うことによる光学機能層14と防汚層15との密着性向上効果が顕著となる。また、式(1)で表される表面粗さの変化率が、25%以下であると、光学機能層14の厚みが適切であるため、光学機能層14上に厚みの均一な防汚層15が形成される。
【0106】
また第2表面処理工程では、下記式(2)で表される要素の平均長さの変化率が7~65%となるように、光学機能層の表面を処理する。特にAG型の反射防止フィルムの場合にこの条件で光学機能層の表面を処理する。例えば、放電処理の際の積算出力は、要素の平均長さに影響を及ぼすパラメータの一つである。
要素の平均長さの変化率(%)=((RSm2/RSm1)-1)×100(%)…式(2)
(式(2)中、RSm1は表面を処理する前の光学機能層の要素の平均長さ(RSm)を示し、RSm2は表面を処理した後の光学機能層の要素の平均長さ(RSm)を示す。)
【0107】
第2表面処理工程は、式(2)で表される要素の平均長さ(RSm)の変化率が、11%~62%となるように行うことが好ましく、11%~45%となるように行うことがより好ましく、11%~17%となるように行うことがさらに好ましい。式(2)で表される要素の平均長さの変化率が上記範囲内であると、第2表面処理工程を行うことによる光学機能層14と防汚層15との密着性向上効果が顕著となる。また、式(2)で表される要素の平均長さの変化率が、所定値以下であると、光学機能層14の厚みが適切であるため、光学機能層14上に厚みの均一な防汚層15が形成される。
【0108】
本実施形態において、光学機能層14の表面粗さ(Ra)は、以下に示す方法により測定できる。原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて、光学機能層14の表面の面積1μmの範囲における表面粗さRaを測定する。表面粗さ(Ra)は、JIS B0601(ISO4287)に準拠して測定する。また要素の平均長さ(RSm)は、原子間力顕微鏡を用いて、光学機能層14の表面の面積0.5μmの範囲で測定する。要素の平均長さ(RSm)も、JIS B0601(ISO4287)に準拠して測定する。
【0109】
その後、光学機能層14の表面が処理された透明基材11を、キャンロール26およびガイドロール22の回転によって、蒸着装置3に送り出す。
次に、蒸着装置3のチャンバー33内で、防汚層形成工程を行う。本実施形態では、第2表面処理工程によって得られた光学機能層14の表面が処理された透明基材11を、大気に触れさせることなく、減圧下の状態に維持したまま連続して防汚層形成工程を行う。防汚層形成工程では、ガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、光学機能層14の表面が処理された透明基材11を搬送しながら、光学機能層14の表面に蒸着源43を蒸着する。
【0110】
本実施形態では、例えば、防汚層15となるフッ素系有機化合物からなる防汚性材料を、加熱装置53によって蒸気圧温度に加熱し、得られた蒸発ガスを減圧環境下において蒸着源43から供給し、表面が処理された光学機能層14に付着させ、防汚層15を真空蒸着によって形成する。
防汚層15の真空蒸着を行う際の圧力は、例えば、0.05Pa以下であることが好ましく、0.01Pa以下であることがより好ましく、0.001Pa以下であることが特に好ましい。真空蒸着を行う際の圧力が、0.05Pa以下の減圧下の状態であると、成膜分子の平均自由工程が長く、蒸着エネルギーが高くなるため、緻密でより良好な防汚層15が得られる。
【0111】
以上の方法により、スパッタリングによって形成された密着層13および光学機能層14上に、真空蒸着によって防汚層15が形成された光学積層体10が得られる。
【0112】
その後、防汚層15までの各層が形成された透明基材11(光学積層体10)を、ガイドロール22の回転によって、ロール巻き取り装置5に送り出す。
そして、ロール巻き取り装置5のチャンバー35内で、巻き取りロール24およびガイドロール22の回転によって、光学積層体10を巻き取りロール24に巻き付ける。
【0113】
本実施形態では、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを、減圧下で連続して行うことが好ましい。特に、図4に示す製造装置20を用いる本実施形態の製造方法のように、光学積層体10をロールトゥロール方式で巻重体として連続的に製造する場合には、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを、減圧状態を維持したままインラインで連続して行うことがより好ましい。インラインとは、光学機能層形成工程において形成した光学機能層14を大気に触れさせることなく、防汚層形成工程を行うことを意味する。光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを減圧下で連続して行うことにより、防汚層15を形成する前に、光学機能層形成工程において形成した光学機能層14上に、自然酸化膜が生成されることが抑制される。また、ロールを巻き取る際の異物などのコンタミネーションが、光学機能層14上に付着して、光学機能層14と防汚層15との密着性を阻害することを防止できる。したがって、光学機能層形成工程後、光学機能層14までの各層の形成された透明基材11を減圧状態のチャンバーから取り出し、その後、再びチャンバー内に設置して減圧下で防汚層形成工程を行う場合と比較して、光学機能層14と防汚層15との密着性が良好で、透明性に優れる光学積層体が得られる。
【0114】
また、本実施形態の光学積層体10の有する防汚層15は、蒸着膜であるため、例えば、塗布法により形成した防汚膜と比較して、高い耐摩耗性及び耐液性が得られる。これは、以下に示す理由によるものと推定される。すなわち、塗布法により形成した防汚膜中には、塗料に含まれている溶剤に起因する空隙が存在している。これに対し、蒸着膜には、溶剤に起因する空隙が存在しない。このため、蒸着膜は、塗布法により形成した防汚膜と比較して、高密度であり、高い耐摩耗性や耐アルカリ性が得られるものと推定される。
【0115】
本実施形態の光学積層体10の製造方法は、密着層13を形成する密着層形成工程と、高屈折率層14aと低屈折率層14bとを交互に積層することにより光学機能層14を形成する光学機能層形成工程と、光学機能層14の表面を処理する第2表面処理工程と、表面処理された光学機能層14上に防汚層15を形成する防汚層形成工程とを含む。このため、光学機能層14と、光学機能層14上に形成された防汚層15との密着性が良好であり、より一層摩擦性および耐アルカリ性の良好なものとなる。
【0116】
特に、第2表面処理工程において、式(1)で表される表面粗さの変化率が1~25%となるように、光学機能層の表面を処理した場合、光学機能層14の表面が適切な粗さに変化し、かつ、エッチングされることにより表面が活性化されるため、光学機能層14上に形成される防汚層15との反応性が向上するため好ましい。また第2表面処理工程において、式(2)で表される要素の平均長さの変化率が7~65%となるように光学機能層の表面を処理した場合も同様である。
また、本実施形態の光学積層体10の製造方法では、ロールトゥロール方式で光学積層体10を連続して形成でき、かつ、高精度で膜厚をコントロールできるため、光学機能層形成工程において、スパッタリングによって光学機能層14を形成することが好ましい。
【0117】
本実施形態において、第1表面処理工程と光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程を、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行う場合、各製造工程に支障のない範囲であれば、例えば、スパッタリング装置と蒸着装置とで、チャンバー内の減圧条件が異なっていても構わない。
【0118】
本実施形態においては、密着層形成工程、光学機能層形成工程、防汚層形成工程のいずれか1つ以上の工程において、経時的に成膜結果を測定器により測定し、その結果を後工程にあたる製造工程の条件にフィードバックすることが好ましい。このことにより、光学積層体全体の特性を最適化しやすくなり、光学積層体の面内での特性を均一にできる。また、測定器により同一工程における製造条件のフィードバックを行うこともできる。この場合、その工程で成膜された層が、均一で安定した特性を有するものとなる。
【0119】
本実施形態においては、光学機能層形成工程と防汚層形成工程との間に第2表面処理工程を行う場合を例に挙げて説明したが、第2表面処理工程は必要に応じて行えばよく、行わなくてもよい。第2表面処理工程を行わない場合においても、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを、減圧下で連続して行うことが好ましい。
【0120】
本実施形態においては、前処理装置2Aと、スパッタリング装置1と、前処理装置2Bと、蒸着装置3と、ロール巻き出し装置4と、ロール巻き取り装置5とを備えている図4に示す製造装置20を用いて、ロールトゥロール方式で光学積層体10を連続的に製造する場合を例に挙げて説明したが、光学積層体10を製造する製造装置は、図4に示す製造装置20に限定されない。
例えば、前処理装置2Aおよび前処理装置2Bを含まず、ロール巻き出し装置4と、スパッタリング装置1と、蒸着装置3と、ロール巻き取り装置5とが、この順に連結された製造装置を用いてもよい。
【0121】
図4に示す製造装置20には、蒸着装置3のチャンバー33と前処理装置2Bのチャンバー32との間に、防汚層15の形成される光学機能層14の表面を洗浄するための前処理室(不図示)が設けられていてもよい。
図4に示す製造装置20には、蒸着装置3のチャンバー33とロール巻き取り装置5のチャンバー35との間に、防汚層15までの各層が形成された透明基材11の冷却および/または検査を行うための後処理室(不図示)が設けられていてもよい。
【0122】
図4に示す製造装置20には、ロール巻き出し装置4とスパッタリング装置1との間に、透明基材11の表面にハードコート層12を形成するためのハードコート層形成装置が設けられていてもよい。この場合、光学機能層14と防汚層15だけでなく、ハードコート層12も、ロールトゥロール方式で連続的に製造でき、好ましい。
【0123】
本実施形態においては、スパッタリング装置を用いて光学機能層形成工程を行い、蒸着装置を用いて防汚層形成工程を行う場合を例に挙げて説明したが、第2表面処理工程を行わない場合には、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを同じ装置(1つのチャンバー内)で行ってもよい。
【0124】
本実施形態の光学積層体10に於いて、透明基材の光学機能層などが形成された面と対向する面に、必要に応じて各種の層を設けてもよい。例えば、他の部材との接着に用いられる粘着剤層が設けられていても良い。また、この粘着剤層を介して他の光学フィルムが設けられていても良い。他の光学フィルムとしては、例えば偏光フィルム、位相差補償フィルム、1/2波長板、1/4波長板として機能するフィルムなどが挙げられる。
【0125】
また、透明基材の対向する面に、反射防止、選択反射、防眩、偏光、位相差補償、視野角補償又は拡大、導光、拡散、輝度向上、色相調整、導電などの機能を有する層が直接形成されていても良い。
また、光学積層体の形状は、平滑な形状であってもよいし、モスアイ、防眩機能を発現するナノオーダーの凹凸構造を有する形状でもよい。また、レンズ、プリズムなどのマイクロからミリオーダーの幾何学形状であっても良い。形状は、例えば、フォトリソグラフィーとエッチングの組み合わせ、形状転写、熱プレス等によって形成できる。本実施形態においては、蒸着等により成膜するため、基材に例えば凹凸形状がある場合でも、その凹凸形状を維持できる。
【0126】
本実施形態の物品は、例えば液晶表示パネル、有機EL表示パネルなど、画像表示部の表示面に上述した光学積層体10を設けたものである。これにより、例えば、スマートホンや操作機器のタッチパネル表示部に対して、高い耐摩耗性および耐アルカリ性を付与することができ、耐久性に優れた、実使用に好適な画像表示装置を実現できる。
【0127】
また、物品としては画像表示装置に限定されず、例えば本実施形態の光学積層体が表面に設けられた窓ガラスやゴーグル、太陽電池の受光面、スマートホンの画面やパーソナルコンピューターのディスプレイ、情報入力端末、タブレット端末、AR(拡張現実)デバイス、VR(仮想現実)デバイス、電光表示板、ガラステーブル表面、遊技機、航空機や電車などの運行支援装置、ナビゲーションシステム、計器盤、光学センサーの表面など光学積層体10が適用可能なものであれば、どのようなものでもよい。
【0128】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、ハードコート層12に代えて、アンチグレア層を形成したり、柔軟性を有するソフトコート層など、必要に応じて任意の機能層を付加したりすることができる。これらは積層されていても良い。
【実施例0129】
本発明の効果を検証した。
尚、以下の実施例および比較例で作成される光学積層体は、反射防止フィルムとして機能する一例であり、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
【0130】
(実施例1~5、比較例2、比較例4)
まず、平均粒径50nmのシリカ粒子(フィラー)の含有量が樹脂組成物(バインダー樹脂)の固形分全体に対し、28質量%である光硬化性の樹脂組成物を準備した。樹脂組成物は、表1に示すように、シリカ粒子、アクリレート、レベリング剤、及び光重合開始剤を溶剤に溶解させて調製した。
【0131】
【表1】
【0132】
SR610:ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール鎖の平均分子量600
CN968:ポリエステル骨格を有する6官能脂肪族ウレタンアクリレート
Irgacure184:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン
【0133】
<ハードコート層形成工程>
透明基材11として厚さ80μm、長さ3900mのロール状のTACフィルムを用意し、TACフィルム上に表1に示す光硬化性の樹脂組成物をグラビアコーターによって塗布し、光を照射して硬化させ、厚み5μmのハードコート層12を形成した。
【0134】
次に、ロールトゥロール方式で、以下に示す方法により、ハードコート層12の形成された透明基材11上に、密着層13と光学機能層14と防汚層15とをこの順で連続的に製造し、実施例1~5、比較例2、比較例4の光学積層体(反射防止フィルム)を作成した。
製造装置としては、図4に示す製造装置20を用いた。また、ラインスピードは2m/minとした。第1表面処理工程と密着層形成工程と光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程を、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行った。
【0135】
<第1表面処理工程>
次に、ハードコート層12に対して、グロー放電処理の処理強度を4000W・min/mにして、グロー放電処理を行った。
【0136】
<密着層形成工程および光学機能層形成工程>
グロー放電処理後のハードコート層12上に、圧力1.0Pa以下のチャンバー内で、スパッタリングにより厚み5nmのSiOxからなる密着層13を成膜し、密着層上に厚み15nmのNb膜(高屈折率層)、厚み38nmのSiO膜(低屈折率層)、厚み30nmのNb膜(高屈折率層)、および厚み102nmのSiO膜(低屈折率層)からなる光学機能層14(積層体)を成膜した。
【0137】
<第2表面処理工程>
光学機能層14の表面にグロー放電処理を行った。グロー放電は、まずチャンバー内の圧力を2×10-5Paとした後に、リニアイオンソース内からチャンバー内に800sccmでアルゴンガスを導入し、チャンバー内の圧力を0.4Paとした。グロー放電の電圧、電流値、処理時間によってグロー放電の積算出力を調整した。
【0138】
実施例1~3については、グロー放電処理の積算出力を326W・min/mとした。
実施例4については、グロー放電処理の積算出力を760W・min/mとした。
実施例5については、グロー放電処理の積算出力を1086W・min/mとした。
比較例2については、グロー放電処理の積算出力を3260W・min/mとした。
比較例4については、グロー放電処理の積算出力を109W・min/mとした。
【0139】
また、下記式(1)で表される表面粗さの変化率を表2に示す。
表面粗さの変化率(%)=((Ra2/Ra1)-1)×100(%)・・・式(1)(式(1)中、Ra1は表面を処理する前の光学機能層の表面粗さ(Ra)を示し、Ra2は表面を処理した後の光学機能層の表面粗さ(Ra)を示す。)
【0140】
<防汚層形成工程>
次に、光学機能層14上に、蒸着チャンバー内圧力0.01Pa以下、蒸着温度230℃、ラインスピード2.0m/min、フッ素を有する有機化合物であるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物(KY-1901、信越化学工業株式会社製)からなる防汚層15を蒸着によって形成した。得られた防汚層15の光学膜厚を表2に示す。
その後、ロール状に巻き取り、実施例1~5、比較例2、比較例4の光学積層体(反射防止フィルム)を得た。
【0141】
【表2】
【0142】
(比較例1)
実施例1同様にして光学機能層形成工程まで行った後、第2表面処理工程を行わずに防汚層形成工程を行って、光学機能層14上に防汚層15を形成したこと以外は、実施例1同様にして、比較例1の光学積層体(反射防止フィルム)を作製した。
【0143】
(比較例3)
実施例1と同様にして光学機能層形成工程まで行った後、ハードコート層12と密着層13と光学機能層14の形成されたTACフィルムを巻き取って製造装置から取り出し、ロールトゥロール方式の塗布装置(コーター)に設置した。その後、大気圧下で、ハードコート層12と密着層13と光学機能層14の形成されたTACフィルムを巻き出し、ラインスピード20m/minで、グラビアコーターを用いて光学機能層14のSiO膜(低屈折率層)上に防汚剤を塗布した。
【0144】
防汚剤としては、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物(KY-1901、信越化学工業株式会社製)を、フッ素溶剤(フロリナートFC-3283:スリーエムジャパン株式会社製)を用いて濃度0.1質量%に希釈したものを用いた。防汚剤は、乾燥後の厚みが表2に示す膜厚となるように塗布した。
【0145】
得られた実施例1~5、比較例1~4の光学積層体(反射防止フィルム)について、以下に示す方法により、それぞれ防汚層の表面の粗さRaを調べた。その結果を表2に示す。
【0146】
(防汚層の表面粗さRaの測定)
光学積層体を巻き取った各ロールの長さ方向中央の位置かつロール幅方向中央の位置から、50mm×50mmの測定サンプルを切り出した。サンプルの表面を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)(商品名SPA400、NanoNaviII;日立株式会社製)を用いて観察し、面積1μmの範囲における表面粗さRaを測定した。測定はサンプル上の3か所で行い、その平均値を測定値とした。
【0147】
防汚層の表面粗さRaはその下の光学機能層の表面粗さRaの影響を受ける。特に、蒸着により形成された防汚層では、塗布法により形成した防汚層のように塗料に含まれている溶剤に起因する空隙が存在せず、高密度に形成されるため、塗布法により形成した防汚層に比べてその下の光学機能層の表面粗さRaの影響が大きい。光学機能層の表面はグロー放電処理を行って表面粗さが大きくなり、その影響を受けて防汚層の表面粗さが大きくなる。また、光学機能層が大気に触れる場合、光学機能層の上に自然酸化膜が形成され、グロー放電処理による表面の粗面化効果が小さくなるのに対して、光学機能層及び防汚層が大気に触れることなく形成されている場合にはそのような影響は受けない。また、実施例1と比較例1との表面粗さの差はグロー放電処理の有無に起因する。
【0148】
(実施例6~8、比較例5~8)
実施例6~8、比較例5~8は、ハードコートの構成を変えた点が実施例1~5、比較例1~3と異なる。実施例6~8、比較例5~8では、ハードコート層形成工程を行わず、市販品(大日本印刷株式会社製)のフィルムを用いた。ハードコート層は、平均粒子径2μmのフィラーを有するアクリル系樹脂組成物の硬化物である。ハードコート層の膜厚は3μmであった。当該ハードコート層を厚み80μmのTAC(透明基材)上に積層した。そして、実施例6~8、比較例5及び6は、当該ハードコート層に対し、第1表面処理工程、密着層形成工程、光学機能層形成工程、第2表面処理工程及び防汚層形成工程を順に行った。比較例7は、第2表面処理工程を行わなかった。比較例8は、第2表面処理工程を行わず、防汚層を比較例3と同様に、塗布法により形成した。
【0149】
第2表面処理工程においてグロー放電処理を行ったそれぞれの例の積算出力は以下である。
実施例6、8については、グロー放電処理の積算出力を1086W・min/mとした。
実施例7については、グロー放電処理の積算出力を1629W・min/mとした。
比較例5については、グロー放電処理の積算出力を3260W・min/mとした。
比較例6については、グロー放電処理の積算出力を109W・min/mとした。
【0150】
また、これらの実施例及び比較例では、下記式(2)で表される要素の平均長さの変化率を測定した。
要素の平均長さの変化率(%)=((RSm2/RSm1)-1)×100(%)・・・式(2)(式(2)中、RSm1は表面を処理する前の光学機能層の要素の平均長さ(RSm)を示し、RSm2は表面を処理した後の光学機能層の要素の平均長さ(RSm)を示す。)
【0151】
(防汚層の要素の平均長さRSmの測定)
光学積層体を巻き取った各ロールの長さ方向中央の位置かつロール幅方向中央の位置から、50mm×50mmの測定サンプルを切り出した。サンプルの表面を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)(商品名SPA400、NanoNaviII;日立株式会社製)を用いて測定し、ハードコート層に含まれる防眩機能を発現するためのフィラーの影響を受けない上面視に於ける直線を3か所選定し、当該3か所の直線に於ける実際の凹凸から面積0.5μmの範囲における要素の平均長さRSmを平均値として算出した。これらの例の結果を表3にまとめる。
【0152】
【表3】
【0153】
(実施例9~12、比較例9~12)
実施例9~12、比較例9~12は、ハードコートの構成を変えた点が実施例1~5、比較例1~3と異なる。実施例9~12、比較例9~12では、ハードコート層形成工程を行わず、市販品(大日本印刷株式会社製)のフィルムを用いた。ハードコート層は、平均粒子径2μmのフィラーを有するアクリル系樹脂組成物の硬化物である。ハードコート層の膜厚は5μmであった。当該ハードコート層を厚み60μmのTAC(透明基材)上に積層した。そして、実施例9~12、比較例9及び10は、当該ハードコート層に対し、第1表面処理工程、密着層形成工程、光学機能層形成工程、第2表面処理工程及び防汚層形成工程を順に行った。比較例11は、第2表面処理工程を行わなかった。比較例12は、第2表面処理工程を行わず、防汚層を比較例3と同様に、塗布法により形成した。
【0154】
第2表面処理工程においてグロー放電処理を行ったそれぞれの例の積算出力は以下である。
実施例9、12については、グロー放電処理の積算出力を1086W・min/mとした。
実施例10については、グロー放電処理の積算出力を1629W・min/mとした。
実施例11については、グロー放電処理の積算出力を543W・min/mとした。
比較例9については、グロー放電処理の積算出力を3260W・min/mとした。
比較例10については、グロー放電処理の積算出力を109W・min/mとした。
これらの例の結果を表4にまとめる。
【0155】
【表4】
【0156】
また、上記の実施例及び比較例の光学積層体(反射防止フィルム)について、それぞれ特性を調べた。その結果を以下の表に示す。特性測定に用いた試験片は、光学積層体を巻き取ったロールの長さ方向略中央付近から切り出したものである。
【0157】
【表5】
【0158】
【表6】
【0159】
【表7】
【0160】
【表8】
【0161】
【表9】
【0162】
【表10】
【0163】
(1)接触角(防汚性)
(1-1)純水に対する接触角測定試験
全自動接触角計DM-700(協和界面化学株式会社製)を用い、以下の条件で楕円フィッティング法によって測定した。蒸留水をガラスシリンジに入れて、その先端にステンレス製の針を取り付けて、光学積層体(試験片)に純水を滴下した。
純水の滴下量:2.0μL
測定温度:25℃
純水を滴下して4秒経過後の接触角を、試験片表面の任意の6か所で測定し、その平均値を純水接触角とした。
【0164】
(1-2)オレイン酸、n-ヘキサデカン、ジヨードメタン(試薬)に対する接触角測定試験
全自動接触角計DM-700(協和界面化学株式会社製)を用い、以下の条件で楕円フィッティング法によって測定した。上記の各試薬をガラスシリンジに入れて、その先端にステンレス製の針を取り付けて、光学積層体(試験片)に各試薬をそれぞれ滴下した。
各試薬の滴下量:2.0μL
測定温度:25℃
各試薬を滴下して4秒経過後の接触角を、試験片表面の任意の10か所で測定し、その平均値をオレイン酸、n-ヘキサデカン、ジヨードメタンのそれぞれの接触角とした。
【0165】
(2)フッ素量測定試験
光学積層体(試験片)のフッ素量(cps:単位時間当たりのカウント数)を測定した(洗浄前フッ素量(初期状態のフッ素量))。
【0166】
フッ素量の測定には、X線光電子分光測定器(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis、ESCA)(PHI5000 VersaProb*eIII、アルバック・ファイ株式会社製)、および蛍光X線分析法(X-ray fluorescence analysis、XRF)(EDX-8000、株式会社島津製作所製)を用いた。X線光電子分光測定器および蛍光X線分析法によって求めたフッ素値(cps)は、初期状態はn=3、耐アルカリ試験後はn=15測定して得た結果から算出した平均値である。
【0167】
(3)耐アルカリ性試験
光学積層体(試験片)の光学特性を測定した(処理前サンプル)。
次に、濃度0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(試薬)を調整した。
そして、光学積層体(試験片)に、内径38mmの円筒状部材を密着させ、その中に試薬を滴下し、ガラス板で上面開口に蓋をした。そして、液温55℃に保って4時間静置後、各試験片を蒸留水で洗浄し、処理後サンプルを得た。
【0168】
(3-1)光学特性測定(色相変化)
上述した処理前サンプルおよび処理後サンプルの裏面を透明テープで黒色アクリル板に貼着し、裏面反射を無くした。そして、光学特性を測定した。
光学測定には、積分球分光測色計(SP-64:X-rite株式会社製)を使用した。設定は、D65光源、10°とし、処理前サンプルおよび処理後サンプルのSCI(Specular Component Include、正反射光を考慮に入れた反射色の測定方法)による上記式(2)で示されるL*a*b*(CIE1976に準拠)値の変化量であるΔE値を算出した。
(3-2)アルカリ溶液によるフッ素残留量測定試験
上述した(2)の試験と同様にして、ESCA又はXRFを用いてアルカリ溶液による処理後サンプルのフッ素量(cps)を測定し、処理後サンプルのフッ素の残存率(%)を算出した。
【0169】
(4)スチールウールを用いた擦傷性試験
JIS L0849に準拠した摩擦試験機I形を用いて、光学積層体(試験片)の表面に沿って、摩擦体を水平往復運動させ、試験片を得た。
摩擦体としてスチールウール(ボンスター株式会社製 #0000番)を用いた。試験設定は、荷重1000g/cm、ストローク75mm、速度7mm/sとした。表に摩擦体の水平往復回数を示す。
【0170】
(4-1)接触角
上述した(1-1)の試験と同様にして、摩擦後の試験片の接触角を測定し、摩擦前と500回水平往復運動(実施例6~12、比較例5~12は100回水平往復運動)させた摩擦後の試験片の接触角差を求めた。試験は摩擦後30分以内に実施した。
(4-2)光学特性測定(色相変化)
上述した(3-1)の試験と同様にして、摩擦前と500回水平往復運動(実施例6~12、比較例5~12は100回水平往復運動)させた摩擦後の試験片のSCIによるΔL値の変化量であるΔE値を算出した。
また、上述した(3-1)の試験と同様にして、摩擦前と500回水平往復運動(実施例6~12、比較例5~12は100回水平往復運動)させた摩擦後の試験片のSCE(Specular Component Exclude、正反射光を考慮に入れない反射色の測定法)による上記式(3)で示されるL値の変化量であるΔE値を算出した。
【0171】
(5)ウェス(不織布ワイパー)を用いた擦傷性試験
摩擦体としてウェス(不織布ワイパー)(ベンコットリントフリーCT-8、旭化成工業株式会社製)を用いたほかは、スチールウールを用いた擦傷性試験と同様にして擦傷性試験を実施した。試験設定は、荷重250g/cm、ストローク25mm、速度50mm/sとした。表に摩擦体の水平往復運動回数を示す。
(5-1)接触角
上述した(1-1)の試験と同様にして、摩擦後の試験片の接触角を測定し、摩擦前と4000回水平往復運動させた摩擦後の試験片の接触角差を求めた。試験は摩擦後30分以内に実施した。
【0172】
(5-2)フッ素残留量測定試験
上述した(2)の試験と同様にして、ESCAを用いてウェスを用いた水平往復運動を4000回行った後の処理後サンプルのフッ素量(cps)を測定し、処理後サンプルのフッ素の残存率(%)を算出した。
【0173】
(6)超音波洗浄試験
フッ素系溶剤(フロリナートFC-3283:スリーエムジャパン株式会社製)を容器に入れ、光学積層体(試験片)を浸漬させて、超音波洗浄機(USK-5R、アズワン社製)を用い、40KHz、240Wで10分間超音波を印加した。その後、上記フッ素系溶剤を用いて試験片を洗い流した。そしてXRFを用いて超音波洗浄後サンプルのフッ素量(cps)を測定し、洗浄後サンプルのフッ素の残存率(%)を算出した。
【0174】
表2~表4に示すように、光学機能層14の表面を処理する表面処理工程と、表面処理された光学機能層14上に防汚層15を形成する防汚層形成工程とを行った実施例1~5の光学積層体は、表面処理工程を行わなかった比較例1と比較して、耐アルカリ試験のフッ素の残留率高く、色相変化ΔEも5以下と小さく、耐アルカリ性が良好であることが確認できた。
また、実施例1~5の光学積層体は、比較例1および2と比較して、ウェス(不織布ワイパー)を用いた擦傷性試験での接触角差が14以下と小さく、フッ素の残留率が高かった。
実施例1~5の光学積層体は、比較例1および2と比較して、耐アルカリ性試験での色相変化が小さく、フッ素の残留率が高かった。
【0175】
実施例1~5の光学積層体は、比較例3と比較して、ウェス(不織布ワイパー)を用いた擦傷性試験での接触角差が14以下と小さく、かつ、耐アルカリ性試験での色相変化が小さく、フッ素の残存率が高かった。
【符号の説明】
【0176】
10、101、102…光学積層体
11…透明基材
12…ハードコート層
13…密着層
14…光学機能層
14a…高屈折率層
14b…低屈折率層
15…防汚層
20…製造装置
1…スパッタリング装置
2A、2B…前処理装置
3…蒸着装置
4…ロール巻き出し装置
5…ロール巻き取り装置
20…製造装置
21…真空ポンプ
22…ガイドロール
23…巻き出しロール
24…巻き取りロール
25…成膜ロール
26…キャンロール
31、32、33、34、35…チャンバー
41…成膜部
42…プラズマ放電装置
43…蒸着源
53…加熱装置
図1
図2
図3
図4