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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060281
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】カボス精油からなる睡眠改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/752 20060101AFI20220407BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 31/01 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 31/015 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20220407BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20220407BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220407BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220407BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
A61K36/752
A61P25/20
A61K31/01
A61K31/015
A61K8/31
A61Q13/00 100
A61K8/92
A61K8/9789
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
C11B9/00 A
A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022016049
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(74)【代理人】
【識別番号】100106769
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信輔
(72)【発明者】
【氏名】周 蘭西
(72)【発明者】
【氏名】釼持 久典
(72)【発明者】
【氏名】金子 秀
(57)【要約】
【課題】安全で副作用がなく睡眠の質を向上するとともに、起床時の疲労回復感を向上させ、快適でスムーズな起床を誘導できる睡眠改善剤を提供することである。
【解決手段】カボス精油からなる睡眠改善剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カボス精油からなる睡眠改善剤。
【請求項2】
前記カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の睡眠改善剤。
【請求項3】
睡眠改善効果が、睡眠の質向上、ストレス低減、または快適起床誘導効果によって示されることを特徴とする請求項1又は2に記載の睡眠改善剤。
【請求項4】
快適起床誘導効果が、起床時の眠気低減、疲労回復感の向上および翌朝の最後の覚醒から起床までの時間である離床潜時時間短縮、のいずれか1つ以上によって示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の睡眠改善剤。
【請求項5】
嗅覚を介し摂取することで、摂取者に睡眠改善効果をもたらすことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の睡眠改善剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の睡眠改善剤を含有する睡眠改善用香料組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の睡眠改善剤又は請求項6に記載の香料組成物が配合された睡眠改善用香粧品又は飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カボス精油からなる睡眠改善剤、さらに当該改善剤を含有し睡眠改善効果を有する飲食物もしくは日用品、雑貨類に関する。
【背景技術】
【0002】
深夜労働や交代勤務に従事する人が増え、すべての事に24時間対応が迫られる「24時間社会」が浸透している。こうした生活スタイルや周辺環境も大きく変化する中で、ストレスや不安等から不眠に悩む人、睡眠の質に不満を持つ人が増えている。
また、加齢に伴い浅い眠りによる睡眠時間の短縮に悩む高齢者のみならず、若い世代で不眠を訴える者も多く、不眠を始めとする睡眠障害は全世代的な問題と言っても過言ではない。
【0003】
近年では睡眠障害は、昼間の眠気、高血圧、高血糖、うつ病等の個人の健康問題を超えて、日中の眠気に起因する事故、作業能率の低下など事件・事故、経済損失を言及される程に大きな社会問題に発展している。
そこで、催眠薬、抗不安薬、睡眠薬や睡眠導入剤といった従来の医療用医薬品とは別に、一時的な不眠症状に使用される一般用医薬品の睡眠改善薬、あるいは寝つきの悪さや眠りの浅さ等の改善効果を謳った機能性表示食品の需要が一層拡大し、睡眠改善を標榜する医薬品や飲食品の開発に関心が高まっている。
睡眠改善は、不眠をもたらすストレス症状の低減、寝つきの良さの改善、睡眠持続時間の改善、熟睡度の改善、目覚めの良さの改善など、様々な観点からのアプローチが試みられている。
【0004】
医薬として処方される催眠薬や睡眠導入剤には、長期使用に伴う副作用や依存性の問題が指摘されていることから、体調に影響のない安全な睡眠改善剤のニーズが高まっており、紅茶中の特定成分や花・柑橘類の精油といった天然物由来成分を含む睡眠改善剤が提案されている。
【0005】
特許文献1は、紅茶に含まれる香気成分の3,7-ジメチル-1,5(E),7-オクタトリエン-3-オール(別名:ホトリエノール)を有効成分として含有する睡眠改善剤を提案している。
特許文献2は、ハマナスの花弁の香りを呈する、揮発性有機化合物のみを含む睡眠改善用水溶液を提案している。
特許文献3は、ヒノキ由来のサイプレス油およびラベンダー油を含有する睡眠改善用香料組成物を提案している。
【0006】
特許文献4は、ラベンダー油またはラバンジン油と、ネロリ油、オレンジ油、レモン油およびマンダリン油からなる群から選ばれる少なくとも2種以上の精油と、ホップ油、ユーカリ油、アンブレット・シード油、緑茶油、およびジャスミン油からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の精油を組み合わせた睡眠補充又は導入用精油組成物を提案している。
特許文献5は、ダイダイ等のミカン科に属する植物より得られる精油を含有する睡眠改善用の皮膚外用剤を提案している。
【0007】
非特許文献1では、ベルガモット精油を使ったアロマテラピーが、特に女性や不安度の高い人の睡眠の質を向上させる点に言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/059808号
【特許文献2】特開2015-81227号公報
【特許文献3】特開2011-51970号公報
【特許文献4】特開2000-355545号公報
【特許文献5】特開2011-37721号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】武田ひとみ、「アロマテラピーの嗅覚刺激と触刺激が睡眠の質に及ぼす影響」、アロマテラピー学雑誌、Vol. 17、No. 1、 2016、第24-30頁
【非特許文献2】後藤良恵・徳田正樹・山本展久、「カボスを使った水産物の高品質化に関する研究II」、大分県産業科学技術センター、平成30年度研究報告
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
柑橘類の精油にはリラックス効果、リフレッシュ効果があることが古くから知られているため、睡眠への波及効果を期待し、睡眠改善剤への応用が広く検討されている。
しかし、実際の効果の有無は柑橘精油の種類により異なっており、依然として個々の検証が必要である。
また、実際に睡眠改善効果が確認されている柑橘精油であっても、その具体的効果の多くは寝つきの良さや睡眠時間、熟睡度など主に入眠時から睡眠中の状態を改善するものであり、起床時の心理状態や行動について有意な改善効果をもたらすものはなかった。
【0011】
本発明の目的は、安全で副作用がなく睡眠の質を向上するとともに、起床時の疲労回復感を向上させ、快適でスムーズな起床を誘導できる睡眠改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、就寝時にカボス精油の香気を、睡眠障害者に吸入させることにより、睡眠の質向上、特に起床時の眠気低減、疲労回復、離床潜時時間の短縮に関して有意な改善効果がみられ、快適な起床が誘導されたことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕カボス精油からなる睡眠改善剤。
〔2〕カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られるものであることを特徴とする前記の睡眠改善剤。
〔3〕睡眠改善効果が、睡眠の質向上、ストレス低減、または快適起床誘導効果によって示されることを特徴とする前記の睡眠改善剤。
【0014】
〔4〕快適起床誘導効果が、起床時の眠気低減、疲労回復感の向上および翌朝の最後の覚醒から起床までの時間である離床潜時時間短縮、のいずれか1つ以上によって示されることを特徴とする、前記の睡眠改善剤。
〔5〕嗅覚を介し摂取することで、摂取者に睡眠改善効果をもたらすことを特徴とする前記の睡眠改善剤。
〔6〕前記の睡眠改善剤を含有する香料組成物。
〔7〕前記の睡眠改善剤又は前記の香料組成物が配合され、睡眠改善効果をもたらす香粧品又は飲食品。
【発明の効果】
【0015】
カボス精油を吸入又は経口摂取することにより、睡眠改善効果、具体的には睡眠の質の向上、特に快適起床誘導効果である起床時の眠気および疲労感が有意に改善され、とりわけ起床時から離床時までの時間(離床潜時時間)が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】PSQI-J総合得点変化量を示すグラフである。
図2】OSA-MA因子得点変化量の比較を示すグラフである。
図3】活動量計で測定した入眠潜時時間(3a)、睡眠効率(3b)、中途覚醒回数(3c)、離床潜時時間(3d)の変化を示したグラフである。
図4】ストレススコアの変化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔1〕睡眠改善剤
(1)有効成分
本発明の睡眠改善剤は、カボス精油を有効成分として含有する。
ミカン科ミカン属のカボス (Citrus sphaerocarpa)は、まろやかな酸味とさわやかな香りを特長とする大分県特産の香酸柑橘(薬味や風味付けのために用いられる柑橘類)である。
本発明に用いられるカボス精油は、カボスの主として果皮を原料として、圧搾法や水蒸気蒸留法を用いて採取することができる(詳しくは、特許庁公報「周知慣用技術集(香料)第I部 香料一般」、平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁を参照)。なお、カボス精油の採取方法は、上記したものに限定されるものではない。
【0018】
カボス果皮の精油成分は、リモネン74.8%、ミルセン17.6%、γ-テルピネン3.2%、α-ピネン0.83%の順に多く、この4種類で 96%以上を占めている(非特許文献2)。
一方、同じミカン科ミカン属のベルガモットの果皮を圧搾して得られるベルガモット精油には、酢酸リナリル38~44%、リナロール20~30%、他にアンスラニル酸メチルとリモネン等が含まれる。
また、ミカン科ミカン属ダイダイの花から水蒸気蒸留によって得られる精油(Neroli oil)は、リナロールで30~40%を占め、他にリモネン、β-オシメン、ネロリドール、酢酸リナリル、α-テルピネオールなどである。
このように、同じミカン科ミカン属植物から採取される精油であっても、植物の種類ごとに構成成分や組成が異なるため、香調が相違し、香気成分が精神(メンタル)面に与える影響も異なることが十分に予想される。
【0019】
(2)睡眠改善
本発明は睡眠改善剤であり、「睡眠改善」とはストレス感を軽減し睡眠を質的に改善することを意味する。
具体的には、覚醒から入眠に至る時間の短縮(寝つき悪さの改善)、中途覚醒時間の短縮、睡眠効率の改善、起床時の眠気、夢みの良さの改善、起床時の疲労回復感の向上、睡眠時間に対する満足感のうち1以上、好ましくは2以上の減少が改善されることを指す。また、ストレス症状の緩和に基づく、睡眠の質の向上も指す。
【0020】
本発明において、「中途覚醒」とは、入眠から起床に至るまでの間に目が覚める状態を指し、睡眠時の中途での覚醒後、再度入眠するまでの目が覚めている時間の積算時間を「中途覚醒時間」とする。
また、「睡眠効率」とは、睡眠中における実質的な睡眠を意味し、入眠から起床までの時間(総就床時間)に対する、睡眠中の中途覚醒を除いた睡眠時間(総睡眠時間)の割合を示す値である。つまり、中途覚醒時間が長いと睡眠効率は低下する。例えば、老人の睡眠障害の多くは、早期覚醒や夜中に何度も覚醒し、その後再度入眠できない中断型睡眠障
害であり、その場合は睡眠効率が低下している状態である。
本発明において「快適起床」とは、起床時の眠気および疲労回復感の向上のうちいずれか、好ましくは両方が改善され、さらに離床潜時時間が短縮された状態を指す。
ここで「離床潜時時間」とは、目が覚めた後、寝床から起き上がるまでの時間、すなわち、翌朝最後の覚醒時刻から起き上がる時刻までに要する時間を指す。
【0021】
(3)睡眠改善剤の摂取方法
本発明の睡眠改善剤の摂取方法は、睡眠改善剤の有効成分であるカボス精油を鼻孔から吸入するか、口腔内で摂取又は皮膚からの吸収によって体内に取り込まれる方法であれば特に制限されない。
具体的には、ディフューザーやネブライザー(蒸気や超音波を利用した拡散機や霧化機)、アロマテラピー用キャンドル等により空間中に人為的に香気を蒸散させ主に鼻孔から吸入する方法の他、衣類や皮膚、頭髪等に使用する香粧品や飲食品を始めとする経口組成物等から自然に揮散される香気を吸入する方法が挙げられる。
超音波ディフューザーを使用する場合は、容器内の水の量に対し0.05~0.15%程度(水100mlに対し2~3滴程度)カボス精油を添加し、活動時間帯は玄関やレストルーム、リビングやオフィス、キッチン等、主たる活動場所で安定な台の上、もしくは床の上に、就寝時は足元や枕元に設置し、スイッチを入れ、蒸気とともに精油の香気を噴霧させる。
【0022】
〔2〕香料組成物
本発明の睡眠改善剤は、単独で香粧品や飲食品に添加することもできるが、香粧品用、飲食品用の他の香料素材と組み合わせて香料組成物として使用することもできる。
他の香料素材としては、天然香料、合成香料を問わず広く採用することができ、例えば特許庁公報「周知慣用技術集(香料)第II部 食品用香料」(平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁)、「周知慣用技術集(香料)第III部 香粧品用香料」(平成13(2001)年6月発行、日本国特許庁)に記載された香料が例示される。
【0023】
香料組成物として使用する場合、当該組成物中の睡眠改善剤の含有量は0.01~90質量%の範囲が好ましい。
本発明の睡眠改善剤はそのまま或いは他の香料素材と組み合わせた香料組成物として、必要に応じてエタノール、プロピレングリコール、グリセリン、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等の溶剤に溶解して各種の香粧品、飲食品に添加できる。
さらに、一般的に用いられる乳化剤や賦形剤を添加し、常法に従って製剤化して乳化香料、粉末香料として使用することもできる。
【0024】
本発明の睡眠改善剤は、付加的成分として、酸化防止剤、食塩、糖類、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、発色剤、pH調整剤など、香粧品や飲食品に一般的に使用される各種の添加剤を必要に応じて適宜配合しても良い。
【0025】
〔3〕香粧品
香粧品の例としては、フレグランス製品(香水、オードパルファム、ボディーコロンなど)、スキンケア化粧料(化粧水、乳液、クリーム、口紅、ファンデーション、洗顔料、
石鹸、ボディーシャンプー、ボディーケア製品、入浴剤、制汗デオドラント剤など)、ヘアケア化粧料(シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアートリートメント、ヘアオイル、ヘアトニック、育毛剤、ヘアカラーリング剤、ヘアスタイリング剤、パーマネント剤など)、衣類用洗剤、衣類用柔軟剤、衣類用仕上げ剤、各種洗浄剤(繊維用、皮革用、硬質表面用、住居用、家庭用、トイレ用、お風呂用など)、芳香消臭剤、香りつきトイレットペーパー 、ワックス剤、アロマオイルのような家庭用製品が挙げられる。
香粧品中に使用する場合、香粧品中の睡眠改善剤の含有量は0.0001%以上が好ましく、睡眠改善剤をそのままアロマオイル等として使用することもできる。
【0026】
〔4〕経口組成物
経口組成物の例としては、飲料、菓子類、加工食品、乳製品、風味調味料、粉末飲料や粉末スープ等の加工食品、口腔衛生剤などが挙げられるが、より具体的には下記のものを挙げることができる。
【0027】
飲料の例としては、清涼飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、無果汁飲料、果汁入り飲料、炭酸飲料、酒類、 栄養ドリンク等が挙げられる。
菓子類の例としては、ゼリー、ババロア、ムース、ケーキ、キャンディー、ビスケット、クッキー、チョコレート、ガム、ラムネ菓子、タブレット、アイスクリーム、シャーベット、アイスキャンディー等が挙げられる。
【0028】
加工食品の例としては、マヨネーズ、ドレッシング、つゆ、たれ、スナック類(ポテトチップス、揚あられ類、かりんとう、ドーナッツ)、調理冷凍食品(麺類等)等が挙げられる。
乳製品等の例としては、アイスクリーム類、ヨーグルトなどが挙げられる。
【0029】
口腔衛生剤の例としては、歯磨、洗口剤、うがい薬、口中清涼剤、口臭防止剤などが挙げられる。
経口組成物中に使用する場合、当該組成物中の睡眠改善剤の含有量は0.000001~0.1%質量%の範囲が好ましい。
【実施例0030】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
〔1〕試験の概要
(1)試験に使用した試験品
カボス精油は、小川香料おおいた佐伯農場株式会社製のカボス精油を購入し使用した。本製品は、大分県産カボスの果皮から水蒸気蒸留法で抽出した精油(リモネン65%、ミルセン21%、γ-テルピネン6%、α-ピネン1.3%)である。
プラセボにはイオン交換水を用いた。試験に用いた試験品1と試験品2を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
(2)試験方法
(a)被験者対象者
不眠の自覚症状がある30歳以上46歳未満の男女12名(男女各6名ずつ)を被験者対象者とし、被験者を第1群と第2群に分けた。
【0034】
(b)試験内容
試験品は水道水100mlを入れた超音波噴霧式ディフューザーの容器に3滴(0.1ml)、滴下し、当該ディフューザーを枕元から1m以内、かつ枕元より高い場所に設置した

就寝前1時間から就寝後2時間の計3時間ディフューザーを稼働し、噴霧されたミストを自然呼吸下で被験者に吸入させた。これを試験品1と試験品2につきそれぞれ1週間継続した。
【0035】
試験は1群と2群間クロスオーバー試験とし、第1群は1日目~7日目に試験品1、8日目~14日目に試験品2の順番で、第2群はその逆の順番で試験を行った。
各試験品の睡眠改善効果の評価には、主観評価として「ピッツバーグ質問票日本語版(Pittsburgh sleep quality index-J(PSQI-J))」及び「OSA睡眠質問票MA版(OSA sleep inventory MA version)」の2種類の睡眠アンケートを用いた。
【0036】
また、客観的評価として小型活動量計を用いた睡眠時活動測定も行った。
さらに、ストレス症状の評価には、意識アンケートとして「SCL(ストレスチェックリスト)30」を用いた。
睡眠アンケートと意識アンケートは、試験1日目(事前検査)、8日目、15日目に実施した。
活動量は1日目~15日目まで入浴時以外は体にマイクロタグを装着し計測した。
試験のアウトラインを表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
ここで、睡眠改善効果の判定に使用した各評価手段について説明する。
睡眠アンケートのうち「ピッツバーグ質問票(PSQI-J)」は、睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難、睡眠薬の使用、日中の活動障害といった7種類の下位尺度から構成される質問票で、回答の合計点により睡眠の質の評価(睡眠の総評)を行うものである。合計得点が高いほど睡眠が障害されていると判断でき、医療分野では睡眠障害のスクリーニングにも用いられている。
【0039】
睡眠アンケートのうち「OSA睡眠質問票MA版」は、第1因子:起床時眠気、第2因子:入眠と睡眠維持、第3因子:夢み、第4因子:疲労回復、第5因子:睡眠時間の5因子計16項目の質問から構成される質問票である。
起床時の睡眠感を評価する心理尺度であり、各因子とも得点が高いほど良好な状態であることが示されるが、PSQI-Jのように睡眠障害のスクリーニングに用いるものではない。
【0040】
意識アンケートの「ストレスチェックリスト(SCL)は、1980年に日大の桂等がストレス状態を簡便にチェックする目的で作成されたものであり、自律神経失調症状を中心とした30問から成る問診表である。簡便に実施できることからストレスチェックの第一次スクリーニング法として有用である。
5点以下が正常、10点以下は軽度ストレス、20点以下はストレス、21点以上は強度ストレスと判定する。すなわち、該当数が多いほど得点が高くなり、ストレス症状が強いと判断する。
【0041】
睡眠時活動測定は、マイクロタグ式の活動量計(アコーズ社製、MTN-220)を設置したバンドを入浴時以外は腹部に装着し、入眠時、睡眠中、起床時の状態に関わる活動量を体の動きから計測するものである。
本発明では入眠潜時時間(眠るまでの時間)、離床潜時時間(起きるまでの時間)、睡眠効率(総睡眠時間/総就床時間)、中途覚醒回数(10分以上起きていた回数)を計測対象とした。
【0042】
計測データの収集と解析は、キッセイコムテック社製の睡眠基礎研究用解析ソフトウェア「Sleep Sign(登録商標)」を用いて行った。
入眠潜時時間、離床潜時時間、中途覚醒回数は数値の低下、睡眠効率は数値の上昇により状態が良好になったと判断する。
【0043】
〔実施例1〕(ピッツバーグ質問票による睡眠の質的変化の評価)
図1に、プラセボおよびカボス精油の各投与期間前後でのPSQI-J総合得点変化量(被験者全体の平均値)を示す。
結果を考察すると、プラセボでは投与期間後のPSQI-Jの総合得点の低下はわずかであったが、カボス精油のでは投与期間後のPSQI-Jの総合得点が大きく低下した。すなわち睡眠障害が改善されたことがわかる。
これらの結果より、睡眠の質向上に対するカボス精油の有効性が確認された。
【0044】
〔実施例2〕(OSA睡眠質問票MA版による睡眠感の改善度評価)
図2に、カボス精油及びプラセボ各々の、試験前後でのOSA睡眠質問票MA版の各因子(OSA-MA因子)の得点変化量(被験者全体の平均値)を示す。
図2より、第1~5の全ての因子において、カボス精油の方がプラセボよりも得点上昇が大きく、特に第1因子:起床時眠気、第4因子:疲労回復では有意に上昇したことがわかる。
これは、カボス精油の香気が睡眠感を全体的に改善するだけでなく、起床時の眠気低減、および疲労回復に対する満足感向上において、特に顕著な効果を発揮することを示している。
【0045】
〔実施例3〕(活動量計による睡眠・起床に関する変数評価)
図3に、カボス精油及びプラセボそれぞれの試験期間前後での、活動量計で測定された各変数の平均値を示す。
図3a、3b、3cの結果より、カボス精油の試験前後で入眠潜時時間、中途覚醒回数の数値は有意に低下し、睡眠効率は有意に上昇したことがわかる。
これらは、カボス精油の香気により睡眠の状態が有意に改善されたことを示している。
また、図3dの離床潜時時間の有意な短縮は、実施例2に関する図3で示された、起床時の眠気低減、および疲労回復に対する満足感向上の効果により快適な起床が誘導されたことを裏付けるものである。
【0046】
〔実施例4〕(SCL30によるストレス症状の評価)
図4に、ストレスチェックリストを用いて得られた、プラセボおよびカボス精油各々の
、試験前後でのストレススコアの変化量(被験者全体の平均値)を示す。
図4より、カボス精油試験前後でストレススコアが有意に低下しており、カボス精油の香気によりストレス症状が改善されたことが確認できた。
これらの結果から、カボス精油の香気にはストレスを低減し睡眠の質を改善することに加え、起床時の眠気を低減し、疲労回復の満足感を向上させることにより、快適な起床を誘導する効果があることが確認された。
図1
図2
図3
図4