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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060340
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20220407BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020282
(22)【出願日】2022-02-14
(62)【分割の表示】P 2021553349の分割
【原出願日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2020148461
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岩井 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 真吾
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕子
(57)【要約】
【課題】粘弾性及び耐熱性が向上し、スラリー粘度が低く、吐出性及び成形加工性の高い熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】シリコーンポリマーと熱伝導性無機フィラーを含む熱伝導性シリコーン組成物であり、無機フィラーは、BET比表面積(m2/g)/平均粒子径(μm)の比:Xが0.1以上であり、無機フィラーは R11SiR12 x(OR13)3-x(但し、R11は炭素数1~4の1価の脂肪族炭素水素基、炭素数6-30の1価の芳香族炭化水素基等、R12はメチル基等、R13は炭素数1-4の炭化水素基等)で表される有機シラン化合物を含む第1の表面処理剤等による表面処理剤と、動粘度が1000mm2/s以下の加水分解性基を有しないシリコーンポリマーを含む第2の表面処理剤による表面処理がされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂であるシリコーンポリマーと熱伝導性無機フィラーを含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記熱伝導性無機フィラーが、下記式(1)で示されるBET比表面積と平均粒子径の比:Xが0.1以上であり、
X=ABET/d50 (1)
但し、ABETはBET比表面積(m/g)、d50は熱伝導性無機フィラーの平均粒子径(μm)
前記熱伝導性無機フィラーは、R11SiR12 (OR133-x(但し、R11は炭素数1~4の1価の脂肪族炭素水素基、炭素数6~30の1価の芳香族炭化水素基、下記化学式(1)、化学式(2)、化学式(3)、又は化学式(4)で表される1価の置換基である。
14 15 3-ySiOR16(C2n (1)
[(R13O)3-z12 Si](C2n16(C2n (2)
[(R13O)3-z12 SiO]16 (3)
[(R13O)3-z12 Si]17 (4)
但し、
12はメチル基又はフェニル基であり、同じであっても異なっていても良い。
13は炭素数1~4の炭化水素基であり、同じであっても異なっていても良い。
14は炭素数1~4の炭化水素基又はフェニル基であり、2重結合を含んでも良い。
15はメチル基又はフェニル基である。
16は(R18 SiO)の2価のポリシロキサンであり。
17は炭素数1~4の2価の脂肪族炭素水素基、又は炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基である。
18はメチル基及びフェニル基から選ばれる少なくとも一つである。
x=0~2、y=1~3、z=0~3、n=1~4の整数、m=1~20の整数、p=0又は1
で表される有機シラン化合物を含む第1の表面処理剤による表面処理と、
動粘度が1000mm/s以下の加水分解性基を有しないシリコーンポリマーを含む第2の表面処理剤による表面処理がされており、
前記第1及び第2の表面処理剤は、組成物にする前に前記熱伝導性無機フィラーの表面に加熱処理されていることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂のシリコーンポリマー100質量部に対して、前記第1と第2の表面処理をした熱伝導性無機フィラーは100~10000質量部含む請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性無機フィラー100質量部に対し、前記第1の表面処理剤は0.1~50質量部付与されている請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性無機フィラー100質量部に対し、前記第2の表面処理剤は0.1~50質量部付与されている請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記式(1)で示されるXの上限値は500以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記第1の表面処理剤のR11は炭素数1~4の脂肪族炭素水素基又は炭素数6~30 の芳香族炭化水素基である請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性無機フィラーは、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、及び水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一つの無機粒子である請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、グリース、パテ、ゲル及びゴムから選ばれる少なくとも一つである請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましく、それに伴い発熱量も膨大になっている。半導体等の発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性シリコーングリース、シートなどが使われている。特許文献1には、ベースポリマーと混合した際のスラリー粘度の上昇を抑え、吐出性や成形加工性を改善するために、熱伝導性無機フィラーの表面に長鎖アルキル基を有するシランカップリング剤を処理する方法が提案されている。しかし、比表面積が大きく、かつ、粒子径が小さい粒子に対しては、このような長鎖アルキル基を有するシランカップリング剤を処理するだけでは、その粘度上昇を抑える効果が不十分な場合が多く、さらにスラリー粘度を下げて吐出性、加工性が改善することが望まれている。この問題点を解決する方法として、特許文献2~4には、ポリマー型のカップリング剤を用いてフィラー表面とポリマーとの親和性を上げる提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3290127号公報
【特許文献2】特開平10-045857号公報
【特許文献3】特開2000-256558号公報
【特許文献4】特開2009-221310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術の分子量の大きいポリマー型の表面処理剤は、比表面積が大きく、平均粒径が小さい無機フィラーの表面への濡れ性が低い場合があり、表面との反応性に劣ることがある。さらにポリマー型表面処理剤においては、表面と反応しない加水分解性官能基が残存して、複合材料として成形した後の物性に悪影響を与える場合がある。このような問題により、前記従来技術は、粘弾性及び耐熱性に問題があった。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、熱伝導性無機フィラーに対して多重表面処理を行うことにより、粘弾性及び耐熱性が向上した熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、マトリックス樹脂であるシリコーンポリマーと熱伝導性無機フィラーを含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記熱伝導性無機フィラーが、下記式(1)で示されるBET比表面積と平均粒子径の比:Xが0.1以上であり、
X=ABET/d50 (1)
但し、ABETはBET比表面積(m/g)、d50は熱伝導性無機フィラーの平均粒子径(μm)
前記熱伝導性無機フィラーは、R11SiR12 (OR133-x(但し、R11は炭素数1~4の1価の脂肪族炭素水素基、炭素数6~30の1価の芳香族炭化水素基、下記化学式(1)、化学式(2)、化学式(3)、又は化学式(4)で表される1価の置換基である。
14 15 3-ySiOR16(C2n (1)
[(R13O)3-z12 Si](C2n16(C2n (2)
[(R13O)3-z12 SiO]16 (3)
[(R13O)3-z12 Si]17 (4)
但し、
12はメチル基又はフェニル基であり、同じであっても異なっていても良い。
13は炭素数1~4の炭化水素基であり、同じであっても異なっていても良い。
14は炭素数1~4の炭化水素基又はフェニル基であり、2重結合を含んでも良い。
15はメチル基又はフェニル基である。
16は(R18 SiO)の2価のポリシロキサンであり。
17は炭素数1~4の2価の脂肪族炭素水素基、又は炭素数6~30の2価の芳香族炭化水素基である。
18はメチル基及びフェニル基から選ばれる少なくとも一つである。
x=0~2、y=1~3、z=0~3、n=1~4の整数、m=1~20の整数、p=0又は1
で表される有機シラン化合物を含む第1の表面処理剤による表面処理と、
動粘度が1000mm/s以下の加水分解性基を有しないシリコーンポリマーを含む第2の表面処理剤による表面処理がされており、
前記第1及び第2の表面処理剤は、組成物にする前に前記熱伝導性無機フィラーの表面に加熱処理されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性無機フィラーは、前記式(1)で示されるBET比表面積と平均粒子径の比:Xが0.1以上であり、第1の表面処理と、第2の表面処理剤による表面処理がされていることにより、熱伝導性シリコーン組成物の粘弾性及び耐熱性を向上できる。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、スラリー粘度が低く、吐出性及び成形加工性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明の一実施例における試料の耐熱性試験(屈曲性試験)の測定方法を示す説明図である。
図2図2は同、耐熱性試験(屈曲性試験)の測定写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明者らは、熱伝導性無機フィラー(以下、無機フィラー又は無機粒子ともいう。)に対して、まず表面との反応性に優れる特定のシランカップリング剤を用いて第1の表面処理を行い、さらに動粘度が1000mm/s以下の加水分解性基を有しない硬化性もしくは非硬化性のシリコーンポリマーで第2の表面処理をすることにより、熱伝導性シリコーン組成物の粘弾性及び耐熱性を向上する特徴を示すことを見出した。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、スラリー粘度が低く、吐出性及び成形加工性を高くすることができる。この現象は特にその比表面積が大きく、粒子径が小さい熱伝導性フィラーについて顕著な効果が得られることが明らかになった。本発明において多重表面処理とは、複数回の表面処理をいう。
【0010】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、シリコーンポリマーと熱伝導性無機フィラーを含む熱伝導性シリコーン組成物であって、前記熱伝導性無機フィラーは、下記式(1)で示されるBET比表面積と平均粒子径の比:Xが0.1以上である。
X=ABET/d50 (1)
但し、ABETはBET比表面積(m/g)、d50は熱伝導性無機フィラーの平均粒子径(μm)
前記式(1)で示されるBET比表面積と平均粒子径の比:Xは、熱伝導性無機フィラーの表面の凹凸を加味している。Xが0.1以上は、無機フィラーの比表面積が大きく、平均粒径が小さく、本発明の多重表面処理が効果を奏する。Xは500以下が好ましく、より好ましくは0.1~100であり、さらに好ましくは0.1~50である。なお、マトリックス樹脂と第2の表面処理剤のシリコーンポリマーは、同一であってもよいし、別であってもよい。
【0011】
また、異なったX値の無機フィラーを複数種類併用することもできる。この場合は、Xの平均値が0.1以上であればよい。
【0012】
前記式(1)で示されるBET比表面積と平均粒子径の比:Xが0.1以上であり、第1の表面処理剤がR11SiR12 (OR133-x(但し、R11,R12,R13の定義は前記と同じ)の有機シラン化合物又は有機シロキサン含有有機シラン化合物である。これにより、粘弾性特性および耐熱性が向上した熱伝導性シリコーン組成物が得られる。
【0013】
熱伝導性無機フィラーは、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、及び水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一つの無機粒子であるのが好ましい。これらの無機フィラーは熱伝導性を高くできる。
【0014】
本発明の第1の表面処理剤は、第1の表面処理剤が、R11SiR12 (OR133-x(但し、R11,R12,R13の定義は前記と同じ)の有機シラン化合物又は有機シロキサン含有有機シラン化合物(シランカップリング剤ともいう。)である。シランカップリング剤は、一例としてメチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン(n-,iso-を含む),ブチルトリメトキシシラン(n-,iso-を含む),ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルエチルトリエトキシシラン、フェニルプロピルトリメトキシラン、ナフチルトリメトキシシラン、アントラセニルトリメトキシラン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、両末端トリメトキシシリルポリシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルポリシロキサンオリゴマー、片末端トリメトキシシリルエチルポリジメチルシロキサンオリゴマー等がある。シランカップリング剤は、一種又は二種以上混合して使用することができる。前記において、表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。これにより、無機フィラーの表面との反応性に優れる表面処理ができる。
【0015】
シランカップリング剤は予め熱伝導性無機フィラーと混合し、必要により加熱して前処理しておく。加熱は第2の表面処理時に行ってもよい。第1の表面処理は、無機フィラーに第1の表面処理剤をそのままの状態で振りかけ混合する乾式処理と、第1の表面処理剤を溶剤と混合して振りかけ混合し、溶剤を揮発させて除去する湿式処理がある。処理操作からは乾式処理が好ましい。熱伝導性無機フィラー100質量部に対し、シランカップリング剤は0.1~20質量部付与するのが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。さらに処理反応を完結する目的で、80~180℃で1~24時間加熱する工程を含んでもよい。
【0016】
本発明の第2の表面処理剤は、動粘度が1000(mm/s)以下の加水分解性基を有しないシリコーンポリマーである。動粘度はメーカーカタログ等に記載されているが、ウベローデ粘度計により測定した25℃における動粘度である。一例として、両末端ビニルジメチルシリルポリジメチルシロキサン(動粘度350mm/s)、両末端トリメチルシリルポリ(ビニルメチルジメチル)シロキサン(動粘度750mm/s)、両末端トリメチルシリルポリジメチルシロキサン(動粘度300mm/s)、ポリ(フェニルメチルジメチル)ポリシロキサン(動粘度125mm/s)、両末端ジメチル水素シリルポリジメチルシロキサン(動粘度100mm/s)などがある。
【0017】
熱伝導性無機フィラー100質量部に対し、前記第2の表面処理剤は0.1~30質量部付与するのが好ましく、より好ましくは1~20質量部付与する。これにより、熱伝導性シリコーン組成物のスラリー粘度が低く、吐出性及び成形加工性を高くできる。第2の表面処理剤による表面処理は、ヘンシェルミキサー等の高速撹拌装置を用いて乾式処理を行うことが望ましい。この第2の表面処理は、第1の表面処理の後、同じ表面処理装置で続けて表面処理操作をしても良いし、第1の表面処理を行った無機フィラーを新たに装置に投入し、第2の表面処理剤を投入しても良い。高速回転による表面処理において加熱、減圧操作を同時に行っても良い。さらに処理反応を完結する目的で、80~180℃で1~24時間加熱する工程を含んでもよい。この加熱処理は、保存安定性の点から望ましい。
【0018】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、シリコーンポリマー100質量部に対して、前記第1と第2の表面処理をした熱伝導性無機フィラーは100~10000質量部含むことが好ましく、より好ましくは300~5000質量部であり、さらに好ましくは500~900質量部である。これにより、熱伝導性を高くできる。熱伝導率は1~30W/m・Kが好ましく、より好ましくは1.2~10W/m・Kであり、さらに1.5~5W/m・Kが好ましい。
【0019】
熱伝導性シリコーン組成物は、グリース、パテ、ゲル及びゴムから選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。これらの材料は、半導体などの発熱体と放熱体との間に介在させるTIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【0020】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法は、マトリックス樹脂であるシリコーンポリマーと前記第1と第2の表面処理後の熱伝導性無機フィラーを混合し、必要により硬化させて得る。グリース、パテなどの液状物は硬化させないものもある。硬化させる場合は、硬化触媒を加える。シート成形など、成形する場合は、混合と硬化の間に成形工程を入れる。シート成形されていると電子部品等へ実装するのに好適である。前記熱伝導性シートの厚みは0.2~10mmの範囲が好ましい。
【0021】
硬化組成物とする場合は、下記組成のコンパウンドが好ましい。
A マトリックス樹脂成分
下記(A1)(A2)を含む。(A1)+(A2)で100質量部とする。
(A1)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン
(A2)架橋成分:1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、前記A1成分及び第1、第2の表面処理剤に含まれるアルケニル基1モルに対して、0.5~2.0モルの量。
第2の表面処理剤にケイ素原子に結合した水素原子を含む場合はその量も本計算に入れる事が好ましい。
前記(A1)(A2)成分以外に反応基を持たないオルガノポリシロキサンを含んでもよい。
B 熱伝導性無機フィラー
前記第1と第2の表面処理をした熱伝導性無機フィラー:100~10000質量部
C 硬化触媒
硬化触媒は、(1)付加反応触媒の場合は白金系金属触媒:マトリックス樹脂成分に対して質量単位で0.01~1000ppmの量、(2)有機過酸化物触媒の場合はマトリックス樹脂成分に対して質量単位で0.5~30質量部である。
D その他添加剤:硬化遅延剤、着色剤等;任意量
【0022】
以下、各成分について説明する。
(1)ベースポリマー成分(A1成分)
ベースポリマー成分は、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンは本発明のシリコーンゴム組成物における主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個有する。粘度は25℃で10~1000000mPa・s、特に100~100000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。
【0023】
具体的には、下記一般式(化5)で表される1分子中に2個以上かつ分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用する。側鎖はアルキル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサンである。25℃における粘度は10~1000000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0024】
【化5】
式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、kは0又は正の整数である。ここで、R1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。Rのアルケニル基としては、例えば炭素原子数2~6、特に2~3のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。一般式(5)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する整数である。
【0025】
A1成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3~30個、好ましくは、3~20個程度有するオルガノポリシロキサンを併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10~1000000mPa・s、特に100~100000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0026】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記一般式(化6)で表される分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1~3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、(例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として)、少なくとも1個有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって、上記でも述べた通り25℃における粘度が10~1,000,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0027】
【化6】
式中、Rは互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。Rは互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、l,mは0又は正の整数である。ここで、Rの一価炭化水素基としては、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
【0028】
また、Rの一価炭化水素基としても、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、上記R1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。Rのアルケニル基としては、例えば炭素数2~6、特に炭素数2~3のものが好ましく、具体的には前記式(化5)のRと同じものが例示され、好ましくはビニル基である。l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0029】
(2)架橋成分(A2成分)
本発明のA2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものであり、この成分中のSiH基とA成分中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2~1000、特に2~300程度のものを使用することができる。
【0030】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも分子鎖非末端(分子鎖途中)でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記一般式(化5)のRと同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0031】
A2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記構造のものが例示できる。
【化7】
【0032】
上記の式中、Rは互いに同一又は異種のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、水素原子であり、少なくとも2つは水素原子である。Lは0~1,000の整数、特には0~300の整数であり、Mは1~200の整数である。
【0033】
(3)触媒成分(C成分)
C成分の触媒成分はヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。
【0034】
(4)熱伝導性無機フィラー(B成分)
前記のとおりである。
(5)その他添加剤
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機顔料を添加しても良い。
【実施例0035】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各物性の測定方法は次のとおりである。
【0036】
<動粘度>
動粘度はメーカーカタログ等に記載されているが、ウベローデ粘度計により測定した25℃における動粘度である。
<BET比表面積>
熱伝導性フィラーの各メーカーのカタログ値を使用した。なお、比表面積とは、ある物体について単位質量あたりの表面積または単位体積あたりの表面積のことである。比表面積分析は、粉体粒子表面に吸着占有面積の判った分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量からBETの式を用いて試料の比表面積を求める。
<平均粒子径>
平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)とした。この測定器としては、例えば堀場製作所製社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。
<せん断粘度>
せん断粘度はレオメーターHAAKE MARSIII(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)を用いて、直径(φ)10mmのパラレルプレート、ギャップ:1.0mm、温度:23℃、せん断速度:1.0(1/s)の条件で測定した。
<熱伝導率>
熱伝導性グリースおよび熱伝導性シリコーンシートの熱伝導率はDynTIM(メンター・ジャパン(株)製)を用いて25℃で測定した。
<熱伝導性シリコーングリースの耐熱性試験>
2枚のスライドガラスに厚さ1.0mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のスペーサーを入れ、熱伝導性シリコーングリースの試料約1.0gを挟み、クリップで固定する。所定の温度の恒温オーブン中に保持し、一定時間後に試料の状態を観察した。グリース状を保っているものをA、粘性が上がって流れにくくなっているものをB、硬化して流れなくなっているものをCとした。試験数3で行った。
<熱伝導性シリコーンシートの耐熱性試験:屈曲性試験>
図1に示すように、長さ100mm、幅20mm、厚さ2mmのシリコーン樹脂シート1を作製し、所定の温度、時間で熱処理した後、このシリコーン樹脂シート1を水平にして保持部2で保持する。シリコーン樹脂シート1のL1=40mm部分は出し、L2=60mm部分は保持する。シリコーン樹脂シート1’は保持部2から垂れた状態を示す。保持部2の先端から自重で垂れたシリコーン樹脂シート1’の先端部分を通る漸近線と、保持部2からの水平線との屈曲角度θを測定する。熱処理の初期は直角に垂れるので90°曲がるが、硬化劣化が進むと曲がらなくなるので0°に近づく。すなわち、角度θの高いほうが耐熱性は高い。屈曲性試験は試験数3の平均値とした。耐熱性は空気中所定の温度で一定時間処理した後の屈曲角度θ(°)とした。
図2は同、耐熱性試験(屈曲性試験)の測定写真である。
【0037】
<原料>
実施例、比較例で使用した原料は次のとおりである。
A マトリックス樹脂(ベースオイル)
(A-1)ポリ(フェニルメチルジメチル)シロキサン:粘度125mm/s
(A-2)両末端トリメチルシリルポリジメチルシロキサン:粘度300mm/s
(A-3a)2液付加硬化型ジメチルシリコーン(a液):白金触媒を添加したビニル官能性ジメチルシリコーンポリマー:粘度1000mPa・s
(A-3b)2液付加硬化型ジメチルシリコーン(b液):ビニル官能性ジメチルシリコーンポリマーとSiH官能性ジメチルシリコーンポリマーの混合物:粘度1000mPa・s
B 熱伝導性無機フィラー
(B-1)破砕状αアルミナ:BET比表面積5.2m/g、平均粒径2.10μm、X=2.476
(B-2)微粉αアルミナ:BET比表面積6.7m/g、平均粒径0.27μm、X=24.815
(B-3)真球状溶融アルミナ:BET比表面積0.2m/g、平均粒径38.0μm、X=0.005
C 第1の表面処理剤
(C-1)メチルトリメトキシシラン:分子量136.2
(C-2)フェニルトリメトキシシラン:分子量198.29
(C-3)デシルトリメトキシシラン:分子量262.5
D 第2の表面処理剤
(D-1)ポリ(フェニルメチルジメチル)シロキサン:粘度125mm/s
(D-2)両末端トリメチルシリルポリジメチルシロキサン:粘度300mm/s
【0038】
(実施例1)
<熱伝導性無機フィラーの第1表面処理>
破砕状アルミナLS243(BET比表面積(ABET)5.2m/g、平均粒子径(d50)2.2μm、X=2.476(B-1)を150.0g、第1の表面処理剤としてメチルトリメトキシシラン(分子量=136.2)(C-1)1.0gを用いて、ワンダークラッシャーWC-3(大阪ケミカル株式会社製)により乾式表面処理を行った。
<熱伝導性無機フィラーの第2表面処理>
前記第1の表面処理後の熱伝導性無機フィラーに、第2の表面処理剤としてポリ(フェニルメチルジメチル)シロキサン:粘度125mm/s(D-1)を1.0g添加し、ワンダークラッシャーWC-3(大阪ケミカル株式会社製)を用いて表面処理を行った。この2重処理粉体を120℃、6時間加熱処理を行い、2重表面処理熱伝導性フィラーを得た。
<熱伝導性コンパウンド実施例>
上記実施例に従い調整した熱伝導性フィラーを使用し、表1に示す組成で、自転公転ミキサー(マゼルスターKK-400W、クラボウ(株)製)を用いて混合することにより、熱伝導性コンパウンドを得た。得られた熱伝導性コンパウンドのせん断粘度、熱伝導率を測定した。耐熱試験の結果も示す。
【0039】
(実施例2~6、比較例1~7)
表1に示す組成とした以外は実施例1と同様に実施した。条件と結果を表1にまとめて示す。なお質量は、マトリックス樹脂を100gとしたときの質量(g)とした。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から明らかとおり、第1と第2の表面処理を行った実施例1では第2の表面処理を行わなかった比較例1と比較して、その熱伝導性フィラーの含有量がほぼ等しく、熱伝導率も等しいにも関わらずせん断粘度が約10分の1という低い値であった。耐熱特性についても、実施例1は比較例1に比べて優れていた。同様に、実施例2と比較例2の比較により、本発明による組成物の優位性が確認された。また、実施例3~5においても本発明の効果が確認された。比較例3では第2の表面処理だけで、第1の表面処理がないと本発明に示す効果が得られないことが確かめられた。比較例4、5においては、第1の表面処理剤について、シランカップリング剤として炭素数10の炭化水素基のものを用いると、第2の表面処理を行っても耐熱性が劣ることが確認された(比較例4は第2の表面処理無し、比較例5は第2の表面処理有り)。さらに、比較例6,7においては、平均粒径が大きく、比表面積が小さい熱伝導性無機フィラー(上記Xの値が0.005)を用いた場合、本発明の効果が得られないことが確認された。
【0042】
(実施例7)
<熱伝導性シリコーンシート実施例・比較例>
表2に示す組成に従い混合物を作成した。離型処理をしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで上記混合組成物を挟み込み、ロールプレス機にて厚み2.0mmのシート状に成形し、100℃、30分加熱硬化し、シリコーンゲルシートを成形した。得られた熱伝導性シリコーンゲルシートの硬化後のアスカーC硬度、熱伝導率を測定した。屈曲性に関する耐熱試験の結果も示す。
【0043】
(実施例8~10、比較例8~9)
表2に示す組成とした以外は実施例7と同様に実施した。条件と結果を表2にまとめて示す。なお質量は、マトリックス樹脂を100gとしたときの質量(g)とした。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から明らかとおり、第1と第2の表面処理を行った実施例7~10は、第2の表面処理を行わなかった比較例8~9と比較して、耐熱特性が優れていた。
以上の結果から、各実施例の粘弾性及び耐熱性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。
【符号の説明】
【0047】
1,1’ 熱伝導シリコーンシート
2 保持部
θ 屈曲角度
図1
図2