(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060554
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220407BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220407BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20220407BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220407BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/0567
H01M4/587
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028363
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2018505389の分割
【原出願日】2017-02-23
(31)【優先権主張番号】P 2016055699
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社エンビジョンAESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 謙次
(57)【要約】
【課題】サイクル特性が良好な非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池であって、正極活物質はLiNi
xCo
yMn
zO
2(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)で示される層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下の非水電解液を用いて形成される、非水電解液二次電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池であって、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下の非水電解液を用いて形成される、非水電解液二次電池。
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池であって、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
前記非水電解液中のメチレンメタンジスルホン酸エステルの含有量が、溶媒に対して5.0質量%を超えない非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質は黒鉛系活物質材料を含む、請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記負極は、前記負極活物質より平均粒径の小さい微細黒鉛系材料をさらに含む、請求項3に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)が1~15μmの範囲にある、請求項4に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記微細黒鉛系材料の含有率が、前記負極活物質に対して0.1~6.0質量%の範囲にある、請求項4又は5に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記負極は、さらに導電助剤を含み、
前記微細黒鉛系材料の含有率が、前記導電助剤に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にある、請求項4から6のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
前記導電助剤の含有率が、前記負極活物質に対して0.1~3.0質量%の範囲にある、請求項7に記載の非水電解液二次電池。
【請求項9】
前記導電助剤は、平均粒子径(D50)が10~100nmの範囲にある非晶質炭素粒子、又はナノカーボン材料からなる、請求項7又は8に記載の非水電解液二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質の平均粒子径(D50)が10~30μmの範囲にある、請求項1から9のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質は、天然黒鉛、又は天然黒鉛を非晶質炭素で被覆したものからなる、請求項1から10のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項12】
リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池の製造方法であって、
正極を形成する工程と、
負極を形成する工程と、
非水電解液を形成する工程と、
前記正極、前記負極および前記非水電解液を外装体に収容する工程を有し、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
前記非水電解液は、メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下である、非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項13】
加温下、充電状態で保持する工程をさらに含む、請求項12に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項14】
前記負極活物質は黒鉛系活物質材料を含む、請求項12又は13に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項15】
前記負極は、前記負極活物質より平均粒径の小さい微細黒鉛系材料をさらに含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項16】
前記負極は、さらに導電助剤を含み、
前記微細黒鉛系材料の含有率が、前記導電助剤に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にある、請求項15に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池であるリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、充放電サイクル特性に優れるため、携帯電話やノート型パソコン等の小型のモバイル機器用の電源として広く用いられている。また、近年では、環境問題に対する配慮と省エネルギー化に対する意識の高まりから、電気自動車やハイブリッド電気自動車、電力貯蔵分野といった大容量で長寿命が要求される大型電池に対する需要も高まっている。
【0003】
一般に、リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵放出し得る炭素材料を負極活物質として含む負極と、リチウムイオンを吸蔵放出し得るリチウム複合酸化物を正極活物質として含む正極と、負極と正極とを隔てるセパレータと、非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液とで主に構成されている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池の特性改善のために種々の検討が行われている。
【0005】
特許文献1には、非水電解液が特定のフッ素化環状カーボネートを含有し、正極の上限動作電圧がLi/Li+基準にて4.75V以上4.90V以下であることを特徴とする非水電解液二次電池が記載され、高電圧仕様に設計され、高温時のサイクル耐久性に優れ、高いエネルギー密度を有する電池を提供できることが記載されている。この電池の正極活物質としては特定のリチウム遷移金属系化合物(実施例1ではLiNi0.5Mn1.5O4)、負極活物質としては黒鉛粒子(実施例では天然黒鉛系炭素質材料)を用いることが記載されている。電解液には、フッ素化環状カーボネート以外に、1,3-プロパンスルトンやメチレンメタンジスルホネート等の種々の環状スルホン酸エステルを配合してもよいことが記載されている。
【0006】
リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる炭素材料としては、非晶質炭素や黒鉛が用いられ、特に高エネルギー密度が要求される用途では、一般に黒鉛が用いられている。
【0007】
例えば、特許文献2には、非水電解質二次電池の負極に用いられる炭素材料として、人造黒鉛粒子と天然黒鉛粒子を50:50~80:20(質量比)で混合されたものであって、人造黒鉛粒子は、X線回折パターンにおける(002)面の面間隔d002が0.3354~0.3360nmであり、平均アスペクト比が1~5であり、天然黒鉛粒子は、X線回折パターンにおける(002)面の面間隔d002が0.3354~0.3357nmであり、メジアン径(D50)が10~25μmであり、D50と10%積算径(D10)と90%積算径(D90)の関係が、D90/D50、D50/D10ともに1.6以下であるものが記載されている。このような炭素材料を用いて低温環境下における充電負荷特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とすることが記載されている。
【0008】
特許文献3には、非水電解質二次電池の負極として、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第1の炭素と、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能かあるいは実質的にリチウムイオンを吸蔵しない第2の炭素を含む負極であって、第2の炭素粒子からなる凝集体が第1の炭素の複数の粒子の間隙に主に局在しており、第2の炭素の平均粒子径が第1の炭素の平均粒子径の15%以下であるものが記載されている。このような負極を用いて、充放電サイクルによる合剤層の剥離の防止ができ、高い容量が得られる非水電解質二次電解質を提供することを目的とすることが記載されている。
【0009】
特許文献4には、黒鉛質粒子(A)及び炭素材(B)を含む非水電解液二次電池用負極材であって、黒鉛質粒子(A)は、X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が3.37Å(0.337nm)以下、平均円形度が0.9以上であり、炭素材(B)は、面間隔(d002)が3.37Å(0.337nm)以下、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおけるラマンR値(1360cm-1付近ピーク強度/1580cm-1付近ピーク強度)が0.18~0.7、アスペクト比が4以上、平均粒子径(d50)が2~12μmであり、黒鉛質粒子(A)及び炭素材(B)の総量に対する炭素材(B)の質量割合が0.5~15質量%であるものが記載されている。このような負極材を用いた非水電解液二次電池は、低い不可逆容量、かつ充放電効率に優れた特性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-86221号公報
【特許文献2】特開2009-026514号公報
【特許文献3】特開2012-014838号公報
【特許文献4】特開2012-084519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、サイクル特性が良好な非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池であって、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下の非水電解液を用いて形成される、非水電解液二次電池が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池であって、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
前記非水電解液中のメチレンメタンジスルホン酸エステルの含有量が、溶媒に対して5.0質量%を超えない非水電解液二次電池が提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池の製造方法であって、
正極を形成する工程と、
負極を形成する工程と、
非水電解液を形成する工程と、
前記正極、前記負極および前記非水電解液を外装体に収容する工程を有し、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
前記非水電解液は、メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下である、非水電解液二次電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、サイクル特性が良好な非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による非水電解液二次電池の一例を説明するための断面図である。
【
図2A】関連技術による二次電池の負極内の粒子の分布状態(放電による活物質の収縮時の状態)を説明するための模式図である。
【
図2B】本発明の実施形態による二次電池の負極内の粒子の分布状態(放電による活物質の収縮時の状態)を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態による非水電解液二次電池(リチウムイオン二次電池)は、正極活物質として特定のリチウム含有複合酸化物を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解液を含み、これらの正極、負極、非水電解液は、外装体に収容される。正極と負極との間にセパレータを設けることができる。正極と負極の電極対は複数設けることができる。
【0018】
高エネルギー密度化の点から、正極活物質として、ニッケルを含有するリチウム含有複合酸化物(リチウムニッケル複合酸化物)を用いることが好ましい。しかしながら、ニッケルの含有量が多いリチウム含有複合酸化物を用いると、高い充電率(SOC:state of charge)の領域では電荷移動抵抗が上昇するという傾向がある。そのため、このようなリチウム含有複合酸化物を用いた非水電解液二次電池は十分なサイクル特性が得られない問題がある。
【0019】
本発明者は、この現象と電解液の組成に着目し、鋭意検討した結果、ニッケル含有量が多いリチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いても、サイクル特性の改善された非水電解液二次電池が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明の実施形態の主な特徴は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質を用い、メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下(0.13~0.31mol/L)の非水電解液を用いて電池を形成することにある。
【0021】
メチレンメタンジスルホン酸エステルの含有率が2.0質量%以上であると十分な改善効果が得られ、2.3質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上がさらに好ましい。この含有率は、電解液の粘性や抵抗の増加を抑える点から5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましい。
【0022】
上記のニッケル含有量が多いリチウム含有複合酸化物(上記組成式で示されるもの)は、高SOC領域で相転移が起きる(このような相転移は他のリチウム含有複合酸化物の4.3Vまでの範囲ではみられない)。この相転移が電荷移動抵抗の増大およびサイクル特性の低下に起因していると考えられる(例えば表3の比較例5及び6を参照)。この相転移にともなう膨張収縮により、活物質表面に割れが生じて新生面が出てきやすくなる。この新生面に対してメチレンメタンジスルホン酸エステルの反応性が高く、新生面と反応することで良好な被膜が形成される。この被膜の形成により、活剤の割れや溶媒の分解、アルカリ成分の溶出が抑制され、電荷移動抵抗の増大が抑えられ、結果、サイクル特性が改善されると考えられる。この改善効果は、メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)を用いた場合に特に大きく、他の硫黄系添加剤であるプロパンスルトンでは十分な改善効果が得られない(例えば表3の実施例1と比較例8を参照)。
【0023】
本発明による実施形態は次のように記載することもできる。すなわち、リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池であって、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
前記非水電解液中のメチレンメタンジスルホン酸エステルの含有量が、溶媒に対して5.0質量%を超えない非水電解液二次電池。
【0024】
非水電解液中のメチレンメタンジスルホン酸エステルは、電池の製造時(例えばエージング工程時)に反応して活物質表面に被膜を形成し得るが、製造後の電池の非水電解液中に存在して、サイクル中に反応して被膜を形成してもよい。このような観点から、電池の製造後(例えばエージング工程後)において、非水電解液中のメチレンメタンジスルホン酸エステルの含有量は溶媒に対して0.01質量%以上であってもよく、さらに0.05質量%以上であってもよく、0.1質量%以上にすることもでき、電解液の粘性や抵抗の増加を抑える点から5.0質量%を超えないことが好ましく、4.0質量%以下がより好ましい。製造後(例えば、エージング工程後)の電池の非水電解液中にメチレンメタンジスルホン酸エステルを含有することにより、電池の使用時(充放電サイクル中)において、活物質表面に割れが生じて新生面が出た場合に、そこに被膜を形成することができ、結果、良好なサイクル特性を得ることができる。
【0025】
上記の正極を用いた二次電池の負極は、高エネルギー密度の点から、負極活物質として黒鉛系活物質材料を含むことが好ましい。導電性を向上する点から、さらに導電助剤を含むことが好ましい。
【0026】
サイクル特性をさらに向上する観点から、この負極は、負極活物質より平均粒径の小さい微細黒鉛系材料を含むことが好ましい。この微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は1~15μmの範囲にあることが好ましい。
【0027】
負極活物質の粒子に対して適度なサイズの微細黒鉛系粒子を適量添加することで、微細黒鉛系粒子が負極活物質粒子間の導電経路の形成および保持に関与し、充放電サイクルにおける負極活物質粒子間の導電経路の切れが抑制され、導電経路が保持されやすくなり、結果、サイクル特性の向上に寄与することができる。
【0028】
前記負極活物質の平均粒子径Da(D50)に対する前記微細黒鉛系材料の平均粒子径Db(D50)の比Db/Daが0.2~0.7の範囲にあることが好ましい。
【0029】
この微細黒鉛系材料の含有率は、導電助剤に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあることが好ましい。また、この微細黒鉛系材料の含有率は、負極活物質に対して0.1~6.0質量%の範囲にあることが好ましい。この導電助剤の含有率は、負極活物質に対して0.1~3.0質量%の範囲にあることが好ましい。
【0030】
この微細黒鉛系材料は鱗片状粒子であることが好ましく、負極活物質が球形化黒鉛粒子であることが好ましい。
【0031】
本発明の実施形態による非水電解液二次電池は、次の好適な構成をとることができる。
【0032】
(正極)
正極は、集電体と、この集電体上に形成された正極活物質層を含む構造を有することが好ましい。
【0033】
(正極活物質)
正極活物質としては、前記の層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を用いることが好ましい。正極活物質層は、このリチウム複合酸化物以外の他の活物質を含んでいてもよいが、エネルギー密度の点から、このリチウムニッケル複合酸化物の含有率は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0034】
正極活物質のBET比表面積(窒素吸着法による77Kでの測定に基づく)は、0.1~1m2/gの範囲にあることが好ましく、0.3~0.5m2/gがさらに好ましい。正極活物質の比表面積が過度に小さい場合は、粒径が大きいため、電極作製時のプレス時やサイクル時に割れが生じやすくなり、特性劣化が顕著になる傾向があり、電極の高密度化も困難になる。逆に、比表面積が過度に大きい場合は、活物質に接触させる導電助剤の必要量が増大し、結果、高エネルギー密度化が困難になる。正極活物質の比表面積が、上記の範囲にあることにより、エネルギー密度とサイクル特性の観点から、優れた正極を得ることができる。
【0035】
正極活物質の平均粒径は、0.1~50μmが好ましく、1~30μmがより好ましく、2~25μmがさらに好ましい。ここで、平均粒径は、レーザ回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒径(メジアン径:D50)を意味する。正極活物質の比表面積が前述の範囲にあり、且つ平均粒径が上記の範囲にあることにより、エネルギー密度とサイクル特性の観点から、優れた正極を得ることができる。
【0036】
正極活物質層は、次のようにして形成することができる。まず、正極活物質、結着剤及び溶媒(さらに必要により導電助剤)を含むスラリーを調製し、これを正極集電体上に塗布し、乾燥し、必要によりプレスすることにより形成することができる。正極作製時に用いるスラリー溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いることができる。
【0037】
(正極用結着剤)
正極用の結着剤としては、特に制限されるものではないが、通常正極用の結着剤として使用できるものを用いることができる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。ポリフッ化ビニリデン(PVdF)以外の結着剤としては、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。
【0038】
正極用の結着剤の含有量は、トレードオフの関係にある結着力とエネルギー密度の観点から、正極活物質に対して1~25質量%の範囲にあることが好ましく、2~20質量%の範囲がより好ましく、2~10質量%の範囲がさらに好ましい。
【0039】
(正極用導電助剤)
正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電助剤を添加してもよい。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラックが挙げられる。導電助剤の活物質層中の含有量は、正極活物質に対して1~10質量%の範囲に設定できる。
【0040】
(正極活物質層)
正極を構成する正極活物質層(集電体は含まない)の空孔率は、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。空孔率が高い(すなわち電極密度が低い)と、接触抵抗や電荷移動抵抗が大きくなる傾向があるため、このように空孔率を低くすることが好ましく、結果、電極密度も高めることができる。一方、空孔率が低すぎると(電極密度が高すぎると)、接触抵抗は低くなるが、電荷移動抵抗が高くなったり、レート特性が低下したりするため、ある程度の空孔率を確保することが望ましい。この観点から、空孔率は10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、15%以上に設定してもよい。
【0041】
空孔率とは、活物質層の全体としての見かけの体積のうち、活物質や導電助剤などの粒子が占める体積を引いた残りの体積の占める割合を意味する(下記式を参照)。よって、活物質層の厚さと単位面積当たりの質量、活物質や導電助剤などの粒子の真密度から、計算により求めることができる。
空孔率=(活物質層の見かけ体積-粒子の体積)/(活物質層の見かけの体積)
【0042】
なお、上記式中の「粒子の体積」(活物質層に含まれる粒子の占める体積)は下記式で計算できる。
粒子の体積=
(活物質層の単位面積当たりの重量×活物質層の面積×その粒子の含有率)÷粒子の真密度
ここで、「活物質層の面積」は、集電体側とは反対側(セパレータ側)の平面の面積をいう。
【0043】
正極活物質層の厚みは特に限定されるものではなく、所望の特性に応じて適宜設定することができる、例えばエネルギー密度の観点からは厚く設定することができ、また出力特性の観点からは薄く設定することができる。正極活物質層の厚みは、例えば10~250μmの範囲で適宜設定でき、20~200μmが好ましく、40~180μmがより好ましい。
【0044】
(正極集電体)
正極用の集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金などを用いることができる。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。特にアルミニウム箔を好適に用いることができる。
【0045】
(負極)
負極は、集電体と、この集電体上に形成された負極活物質層を含む構造を有することが好ましい。この負極活物質層は、負極活物質と結着剤を含み、導電性を高める点から導電助剤を含むことが好ましい。また、サイクル特性を高める点から微細黒鉛系材料をさらに含むことが好ましい。
【0046】
(負極活物質)
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な負極用の活物質材料であれば特に限定されないが、黒鉛系材料、非晶質炭素(例えば易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素)等の炭素系活物質材料を好適に用いることができる。この炭素系活物質材料としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として通常使用されるものを用いて調製することができる。黒鉛系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛を用いることができ、材料コストの観点から安価な天然黒鉛が好ましい。非晶質炭素としては、例えば、石炭ピッチコークス、石油ピッチコークス、アセチレンピッチコークス等を熱処理して得られるものが挙げられる。
【0047】
負極活物質として黒鉛系材料、特に天然黒鉛を用いる場合、この黒鉛系材料を非晶質炭素で被覆することができる。非晶質炭素で黒鉛系材料の粒子の表面を被覆する方法は、通常の方法に従って行うことができる。例えば、粒子表面にタールピッチ等の有機物を付着させ熱処理する方法や、ベンゼン、キシレン等の縮合炭化水素等の有機物を用いた化学気相成長法(CVD法)やスパッタ法(例えばイオンビームスパッタ法)、真空蒸着法、プラズマ法、イオンプレーティング法等の成膜法を用いることができる。黒鉛系材料の粒子が非晶質炭素で被覆されていることにより、黒鉛系材料の粒子と電解液との副反応を抑制でき、充放電効率が向上し、反応容量を増大することができ、また黒鉛系材料の粒子の硬度を高くすることができる。
【0048】
負極活物質の平均粒子径は、充放電効率や入出力特性等の観点から、2~40μmの範囲内にあることが好ましく、5~30μmの範囲内にあることがより好ましく、10~30μmの範囲内にあることがさらに好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径:D50)を意味する。
【0049】
負極活物質のBET比表面積(窒素吸着法による77Kでの測定に基づく)は、充放電効率や入出力特性の観点から、0.3~10m2/gの範囲内にあることが好ましく、0.5~10m2/gの範囲内がより好ましく、0.5~7.0m2/gの範囲内がさらに好ましい。
【0050】
負極活物質のメジアン径D50に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50は1.5以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。負極活物質の粒度分布がシャープであると、均質な負極を形成でき、得られた二次電池の充放電特性を向上することができる。
【0051】
ここで、粒子径D90は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値90%での粒子径を意味し、メジアン径D50は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径を意味する。
【0052】
負極活物質の粒子は、球形化された(非鱗片状)粒子が好ましく、その平均粒子円形度が0.6~1の範囲にあることが好ましく、0.86~1の範囲がより好ましく、0.90~1の範囲がさらに好ましく、0.93~1の範囲が特に好ましい。球形化処理は通常の方法で行うことができる。このような負極活物質粒子は、原料コストを抑えながら高容量化を図る観点から、球形化された天然黒鉛粒子が好ましく、一般に入手できる球形化処理された天然黒鉛材料を用いることができる。
【0053】
粒子円形度は、粒子像を平面上に投影した場合において、粒子投影像と同一の面積を有する相当円の周囲長lと、粒子投影像の周囲長Lとの比:l/Lで与えられる。
【0054】
平均粒子円形度は、市販の電子顕微鏡(例えば、(株)日立製作所製の走査式電子顕微鏡、商品名:S-2500)を用いて次のようにして測定できる。まず、電子顕微鏡により粒子(粉末)の倍率1000倍の像を観察し、その像の平面上への投影像の周囲長Lを求める。そして、観察された粒子の投影像と同一面積を有する相当円の周囲長lを求める。周囲長lと粒子投影像の周囲長Lとの比:l/Lを任意の50個の粒子に対して求め、その平均値を平均粒子円形度とする。なお、このような測定は、フロー式粒子像分析装置を用いて実施することもできる。例えば、ホソカワミクロン(株)販売の粉体測定装置(商品名:FPIA-1000)を用いて粒子円形度を測定しても、ほぼ同じ値が得られる。
【0055】
負極活物質の円形度が高いと、負極活物質粒子間に空隙ができやすく、微細黒鉛系材料が均一に分散配置されやすくなり、サイクル特性の向上に寄与できる。また粒子間の空隙の形成により電解液が流れやすくなり、出力特性の向上に寄与できる。また、負極活物質として天然黒鉛を用いた場合、天然黒鉛は人造黒鉛に比べて電極作成時のプレスにより特定の配向を有しやすいが、球形化により配向がランダムになり、出力特性の向上に寄与できる。
【0056】
負極活物質と微細黒鉛系材料と導電助剤は、公知の混合方法で混合することができる。必要に応じて、所望の効果を損なわない範囲で他の活物質材料を混合してもよい。
【0057】
負極活物質として黒鉛系材料を用いる場合、負極活物質全体(微細黒鉛系材料は含まない)に対する黒鉛系材料の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。負極活物質は黒鉛系材料のみで構成できる。
【0058】
(微細黒鉛系材料)
本発明の実施形態による非水電解液二次電池の負極は、負極活物質と、微細黒鉛系材料と、導電助剤と、結着剤を含むことが好ましい。この微細黒鉛系材料は、負極活物質の粒子に接する粒子、又は負極活物質の粒子に接した導電助剤の粒子に接する粒子を含み、その微細黒鉛系材料の粒子(以下「微細黒鉛系粒子」ともいう)を介して負極活物質粒子間に導電経路が形成できる。
【0059】
この負極における微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さいことが好ましく、さらに1~15μmの範囲にあることが好ましい。この負極における微細黒鉛系材料の含有量は、導電助剤に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあることが好ましい。
【0060】
このような負極を用いることにより、非水電解液二次電池(リチウムイオン二次電池)のサイクル特性を向上することができる。これは、負極活物質の粒子に対して適度なサイズの微細黒鉛系粒子を適量添加することで、微細黒鉛系粒子が負極活物質粒子間の導電経路の形成および保持に関与し、充放電サイクルにおける負極活物質粒子間の導電経路の切れが抑制され、導電経路が保持されやすくなるためと考えられる。
【0061】
また、充放電サイクルにおける導電経路の確保のためにはそれに応じた多くの導電助剤が必要であるが、微細黒鉛系材料を添加することにより、導電助剤の量を抑えることができ、その結果、導電助剤(特に表面積が大きいものや表面に官能基を有するもの)に起因する電解液分解によるガス発生を抑えることができ、また導電助剤の多量添加に起因する剥離強度や容量の低下も防止できる。さらに、微細黒鉛系材料は容量を有するため、添加による容量低下を抑えることができる。また、微細黒鉛系材料は導電性に優れるため、低抵抗の導電パスを形成でき、サイクル特性向上に寄与することができる。
【0062】
カーボンブラックやケッチェンブラック等の導電助剤(特に1次粒子径が数十ナノオーダーの導電助剤)は、凝集性が高く、負極活物質粒子間に均一に分散させることが困難であり、導電経路のネットワークにムラが生じやすい。このような微細な導電助剤粒子で形成された導電経路は、サイクル初期の導電性は有効ではあるが、充放電サイクルが繰り返されるに従って、例えば負極活物質の体積変化(膨張、収縮)に起因して、導電経路の切れが生じやすく、急激な抵抗上昇、容量低下が発生する場合がある。さらに、導電助剤の微粒子が負極活物質粒子間の隙間を埋めてしまい、電解液の流路も切断される場合があった。これに対して、微細黒鉛系粒子は、その粒径が比較的大きいため、分散性に優れ、導電経路のネットワークのムラが抑えられ、負極活物質粒子間の隙間の充填も抑えることができる。結果、充放電サイクル中に導電経路や電解液流路の切れが起きにくくなり、抵抗上昇や容量劣化を抑えることができる。
【0063】
また、導電経路を構成する微細黒鉛系粒子にもSEI膜が形成され、均一に分散した微細黒鉛系粒子のSEI膜がリチウムイオンの移動経路としても機能でき、特性向上に寄与できると考えられる。
【0064】
負極活物質粒子間の導電経路の形成において、負極活物質の粒子に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に直接接してもよいし、負極に含まれている導電性粒子(例えば導電助剤粒子や他の微細黒鉛系粒子)を介して負極活物質の他の粒子に電気的に接続する導電経路が形成されていてもよい。例えば、負極活物質の粒子に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した導電助剤の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接することができる。また、負極活物質の粒子に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した他の微細黒鉛系粒子に接してもよい。
【0065】
また、負極活物質粒子間の導電経路の形成において、負極活物質の粒子に接した導電助剤の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に直接接してもよいし、負極に含まれている導電性材料の粒子(例えば導電助剤粒子や他の微細黒鉛系粒子)を介して負極活物質の他の粒子に電気的に接続する導電経路が形成されていてもよい。例えば、負極活物質の粒子に接した導電助剤の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した導電助剤の他の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接することができる。また、負極活物質の粒子に接した導電助剤の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した他の微細黒鉛系粒子に接してもよい。
【0066】
図2A及び
図2Bは、充放電サイクルを繰り返した後の放電時(活物質収縮時)の負極内の粒子の分布状態を説明するための模式図であり、
図2Aは微細黒鉛系材料が無添加の場合、
図2Bは微細黒鉛系材料が添加された場合を示す。図中の符号11は負極活物質粒子、符号12は導電助剤粒子、符号13は微細黒鉛系粒子を示す。
図2Aにおいては、充放電サイクル後の放電時の活物質収縮により、導電経路が切断されているのに対して、
図2Bにおいては、微細黒鉛系粒子13を介して矢印に沿った導電経路が保持されていることが示されている。図中では、微細黒鉛系粒子が負極活物質粒子に直接接触しているが、負極活物質粒子に接触している導電助剤粒子やその二次粒子に接触していてもよい。
【0067】
微細黒鉛系材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛系材料を用いることができる。黒鉛系材料としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として通常使用されるものを用いて調製することができる。
【0068】
微細黒鉛系材料は、適度な黒鉛化度を有しながら不純物が少なく電気抵抗が低く、サイクル特性等の電池性能の向上に有利な観点から、人造黒鉛が好ましい。一般に入手できる通常の人造黒鉛を適用することができる。
【0069】
人造黒鉛の物性は、原料の種類、製造時の焼成温度、雰囲気ガスの種類や圧力等に依存し、これらの製造条件を調整することにより、所望の微細黒鉛系材料を得ることができる。例えばコークス(石油系コークス、石炭系コークス等)、ピッチ(石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コールタールピッチ等)等の易黒鉛化性炭素を2000~3000℃、好ましくは2500℃以上の高温で熱処理して黒鉛化した人造黒鉛が挙げられる。2種以上の易黒鉛化炭素を用いて黒鉛化したものも挙げられる。
【0070】
また、ベンゼンやキシレン等の炭化水素をCVD法(化学気相成長法)により熱分解し、天然黒鉛又は人造黒鉛からなる基材の表面に蒸着させ、非晶質炭素で被覆されたものを用いることができる。
【0071】
微細黒鉛系材料の含有量は、導電助剤に対して等量から10倍量(質量比)の範囲に設定できる。十分な添加効果を得る点から、微細黒鉛系材料の含有量は導電助剤に対して等量以上が好ましく、1.5倍量以上がより好ましく、2倍量以上がさらに好ましい。ガス発生や剥離強度低下を抑える点から、10倍量以下が好ましく、8倍量以下がより好ましく、7倍量以下がさらに好ましい。
【0072】
負極活物質に対する微細黒鉛系材料の含有率は0.1~6.0質量%の範囲にあることが好ましい。負極活物質に対する微細黒鉛系材料の含有率は、十分な添加効果を得る観点から0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、ガス発生や剥離強度低下を抑える点から6.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下がさらに好ましい。なお、「負極活物質に対する微細黒鉛系材料の含有率」(質量%)は、微細黒鉛系材料の質量をA、負極活物質の質量をBとすると、100×A/Bで求められる。
【0073】
この微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さいことが好ましく、さらに1~15μmの範囲にあることが好ましい。
【0074】
微細黒鉛系材料のメジアン粒子径が適度に小さいことにより、単位重量あたりの粒子数が増加するため、少量の添加で接触点が増加し、導電経路の形成に有利な効果を得ることができる。また、微細黒鉛系材料の粒子が負極活物質の粒子より小さいことにより、負極活物質の粒子間や間隙に微細黒鉛系材料の粒子が配置されやすくなり、導電経路の形成に有利な効果を得ることができる。さらに、剥離強度への影響を小さくすることができる。
【0075】
このような観点から、微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)は、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)は負極活物質の平均粒子径(D50)より小さいことが好ましく、負極活物質の平均粒子径(D50)であるDaに対する前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)であるDbの比Db/Daが0.7以下がより好ましく、0.67以下がさらに好ましい。
【0076】
一方、微細黒鉛系材料の粒子径が小さくなりすぎると、比表面積が増大して電解液分解によるガス発生が生じやすくなったり、充放電サイクル時の導電経路が切れやすくなったりするため、微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)は、1μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、微細黒鉛系材料のBET比表面積(窒素吸着法による77Kでの測定に基づく)は、45m2/g以下が好ましく、20m2/g以下がより好ましく、Db/Daは0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。十分な接触点を形成する観点から、微細黒鉛系材料のBET比表面積は、1m2/gより大きいことが好ましく、4m2/g以上がより好ましい。
【0077】
導電助剤が粒子状の場合、微細黒鉛系材料の粒子径は導電助剤の粒子径より大きいことが好ましい。導電助剤が繊維状の場合、微細黒鉛系材料の粒子径は導電助剤の平均直径より大きいことが好ましい。充放電サイクルの結果、放電時において負極活物質の収縮により負極活物質粒子間の隙間が大きくなり、微細な導電助剤による導電経路が切れる状態となっても、比較的大きなサイズを有する微細黒鉛系材料の存在によって導電経路を保持することが可能になる。
【0078】
微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50は1.5より大きいことが好ましく、1.65以上がより好ましい。比較的シャープな粒度分布を有する負極活物質に、比較的小粒子径でブロードな粒度分布を有する微細黒鉛系材料を添加することにより、充填率を向上でき、高い密度の混合物が得ることができる。
【0079】
ここで、D90は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値90%での粒子径を意味し、D50は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径)を意味する。
【0080】
微細黒鉛系材料の粒子は、負極活物質の粒子より平均粒子円形度が低いことが好ましく、その平均粒子円形度が0.86未満であることが好ましく、0.85以下であることがより好ましく、0.80以下であることがさらに好ましい。例えば、平均粒子円形度が0.5以上0.86未満の黒鉛粒子、または平均粒子円形度が0.6~0.85の範囲にある黒鉛粒子を用いることができる。例えば、鱗片状粒子を好適に用いることができる。
【0081】
負極活物質の粒子として、球形化された粒子(非鱗片状の粒子)を用い、微細黒鉛系材料の粒子として、負極活物質粒子より円形度の低い粒子(例えば鱗片状の粒子)を用いる(好ましくは、さらに混合比率、粒度分布等を上記の通りに制御する)ことにより、負極活物質粒子間に微細黒鉛系粒子が均一に分散して埋まることができ、負極活物質粒子及び微細黒鉛系粒子を高密度に充填することが可能になる。その結果、電解液が十分に浸透しながら、粒子間の接点が十分に形成され、導電経路の切れが防止されるため、サイクル時の抵抗上昇が抑えられ、容量が低下しにくくなる。
【0082】
(負極用導電助剤)
導電助剤としては、リチウムイオン二次電池の導電助剤として通常使用される炭素材料を用いることができ、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック等の導電性の非晶質炭素;カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の導電性のナノカーボン材料が挙げられる。導電助剤としては、使用される非晶質炭素としては、導電性が高く、黒鉛化度が低いもの(例えばR値:ID/IGが0.18以上0.7以下のもの)が使用できる。IDはラマンスペクトルの1300~1400cm-1付近のDバンドのピーク強度であり、IGはラマンスペクトルの1500~1600cm-1付近のGバンドのピーク強度である。
【0083】
負極活物質に対する導電助剤の含有率は0.1~3.0質量%の範囲にあることが好ましい。負極活物質に対する導電助剤の含有率は、十分な導電経路を形成する観点から0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、導電助剤の過剰な添加に起因する電解液分解によるガス発生や剥離強度の低下、容量の低下を抑える点から3.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。なお、「負極活物質に対する導電助剤の含有率」(質量%)は、導電助剤の質量をA、負極活物質の質量をBとすると、100×A/Bで求められる。
【0084】
導電助剤の平均粒子径(一次粒子径)は10~100nmの範囲にあることが好ましい。導電助剤の平均粒子径(一次粒子径)は、導電助剤の過度な凝集を抑えて負極中に均一に分散させる観点から10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、十分な数の接触点が形成でき、良好な導電経路を形成する観点から100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。導電助剤が繊維状の場合は、平均直径が2~200nm、平均繊維長が0.1~20μmのものが挙げられる。
【0085】
ここで、導電助剤の平均粒子径は、メジアン径(D50)であり、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径を意味する。
【0086】
(負極の作製方法)
本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池用負極としては、例えば、負極集電体上に、上述の負極活物質と微細黒鉛系材料と導電助剤とさらに結着剤を含む負極活物質層を設けたものを用いることができる。
【0087】
負極の作製は、一般的なスラリー塗布法で形成することができる。例えば、負極活物質、微細黒鉛系材料、結着剤および溶媒を含むスラリーを調製し、これを負極集電体上に塗布し、乾燥し、必要に応じて加圧することで、負極集電体上に負極活物質層が設けられた負極を得ることができる。負極スラリーの塗布方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、ディップコーティング法が挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を集電体として形成して、負極を得ることもできる。
【0088】
(負極用結着剤)
負極用の結着剤としては、特に制限されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。スラリー溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や水を用いることができる。水を溶媒として用いる場合、さらに増粘剤として、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコールを用いることができる。
【0089】
この負極用の結着剤の含有率は、トレードオフの関係にある結着力とエネルギー密度の観点から、負極活物質に対する含有率として0.5~30質量%の範囲にあることが好ましく、0.5~25質量%の範囲がより好ましく、1~20質量%の範囲がさらに好ましい。
【0090】
(負極集電体)
負極集電体としては、特に制限されるものではないが、電気化学的な安定性から、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、モリブデン、タングステン、タンタルおよびこれらの2種以上を含む合金を用いることができる。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0091】
(非水電解液)
非水電解液としては、1種又は2種以上の非水溶媒に、リチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
【0092】
非水溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;γ-ブチロラクトンなどのγ-ラクトン;1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテルが挙げられる。これらの非水溶媒のうちの1種を単独で、または2種以上の混合物を使用することができる。
【0093】
非水溶媒に溶解させるリチウム塩としては、特に制限されるものではないが、例えばLiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiN(CF3SO2)2、リチウムビスオキサラトボレートが挙げられる。これらのリチウム塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。また、非水系電解質としてポリマー成分を含んでもよい。リチウム塩の濃度は、0.8~1.2mol/Lの範囲に設定することができ、0.9~1.1mol/Lが好ましい。
【0094】
電解液中には、負極表面に良質なSEI(Solid Electrolyte Interface)膜を形成し、安定的に維持させるために、添加剤として電極保護膜形成剤を加えてもよい。SEI膜には、電解液の反応性(分解)を抑制する効果、及びリチウムイオンの挿入・脱離に伴う脱溶媒和を促進し、負極活物質の物理的な構造劣化を抑制する効果などがある。このような良質なSEI膜の形成、維持のための電極保護膜形成剤としては、例えば、スルホ基を有する化合物;フルオロエチレンカーボネート等のフッ素化炭酸エステル;ビニレンカーボネート等の不飽和環状炭酸エステル;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン化合物(環状モノスルホン酸エステル);メチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが挙げられる。電極保護膜形成剤を添加剤として電解液中に含む場合、添加剤の電解液中の含有量(溶媒に対する質量比率)は、十分な添加効果を得る点から0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、電解液の粘性や抵抗の増加等の低下を抑える点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。正極の電荷移動抵抗の低減し、電池のサイクル特性の改善のために添加するメチレンメタンジスルホン酸エステルは、負極表面にSEI膜を形成することができるため、他の電極保護膜形成剤との合計量が10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、4質量%以下がさらに好ましい。
【0095】
(セパレータ)
正極と負極との間にはセパレータを設けることができる。このセパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリイミド等からなる多孔性フィルムや織布、不織布を用いることができる。
【0096】
(電池の形状および構造)
電池形状としては、円筒形、角形、コイン型、ボタン型、ラミネート型が挙げられる。ラミネート型の場合、正極、セパレータ、負極および非水電解液を収容する外装体としてラミネートフィルムを用いることが好ましい。このラミネートフィルムは、樹脂基材と、金属箔層、熱融着層(シーラント)を含む。この樹脂基材としては、ポリエステルやナイロンが挙げられ、この金属箔層としては、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン箔が挙げられる。熱溶着層の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性高分子材料が挙げられる。また、樹脂基材層や金属箔層はそれぞれ1層に限定されるものではなく2層以上であってもよい。汎用性やコストの観点から、アルミニウムラミネートフィルムが好ましい。
【0097】
正極と負極とこれらの間に配置されたセパレータは、ラミネートフィルム等からなる外装容器に収容され、電解液が注入され、封止される。複数の電極対が積層された電極群が収容された構造とすることもできる。
【0098】
正極および負極の作製において、集電体上に活物質層を形成するための装置としては、ドクターブレードや、ダイコータ、グラビアコータ、転写方式、蒸着方式などの様々な塗布方法を実施する装置や、これらの塗布装置の組み合わせを用いることが可能である。活物質の塗布端部を精度良く形成するためには、ダイコータを用いることが特に好ましい。ダイコータによる活物質の塗布方式としては、大別して、長尺の集電体の長手方向に沿って連続的に活物質を形成する連続塗布方式と、集電体の長手方向に沿って活物質の塗布部と未塗布部を交互に繰り返して形成する間欠塗布方式の2種類があり、これらの方式を適宜選択することができる。
【0099】
本発明の実施形態による非水電解液二次電池(リチウムイオン二次電池)の一例(ラミネート型)の断面図を
図1に示す。
図1に示すように、本例のリチウムイオン二次電池は、アルミニウム箔等の金属からなる正極集電体3と、その上に設けられた正極活物質を含有する正極活物質層1とからなる正極、及び銅箔等の金属からなる負極集電体4と、その上に設けられた負極活物質を含有する負極活物質層2とからなる負極を有する。正極および負極は、正極活物質層1と負極活物質層2とが対向するように、不織布やポリプロピレン微多孔膜などからなるセパレータ5を介して積層されている。この電極対は、アルミニウムラミネートフィルムからなる外装体6、7で形成された容器内に収容されている。正極集電体3には正極タブ9が接続けられ、負極集電体4には負極タブ8が接続され、これらのタブは容器の外に引き出されている。容器内には電解液が注入され封止される。複数の電極対が積層された電極群が容器内に収容された構造とすることもできる。
【0100】
(電池の製造プロセス)
以上に説明した構造を有する電池は、次のようにして形成することができる。
まず、セパレータを介して積層された正極および負極を容器内に収容し、次いで電解液を入れた後、真空含浸を行う。電解液をより十分にしみ込ませるために、真空状態にする前に一定時間放置してもよいし、加圧してもよい。
【0101】
真空含浸の後、外装体の融着されていない開口部分を真空状態で融着して仮封止を行う。
【0102】
この仮封止の後に加圧することが好ましい。この加圧により、電解液のしみ込みを促進できる。一対の押し圧板に電池を挟み込み、容器の外側から圧力をかけることで加圧することができる。加圧した状態(例えば2~6N・m)で所定の時間(例えば10時間以上、好ましくは18時間以上、プロセスの効率化の点から好ましくは30時間以下)放置することが好ましい。
【0103】
次に、仮封止の状態でプレ充電を行う。充電と放電を所定の回数繰り返してもよい。プレ充電の状態で所定の時間(10~60分程度)維持することが好ましい。プレ充電時の圧力は制限されないが、プレ充電の前に加圧をしていた場合は、その加圧時の圧力より低く設定できる(例えば0.2~0.6N・m程度で押さえ)。
【0104】
次に、仮封止部を開放して、ガス抜きを行う。その後、必要に応じて再度、真空含浸、仮封止、プレ充電を行ってもよい。
【0105】
次に、本封止を行う。この後、ロールがけを行って容器の表面を均一にすることができる。
【0106】
次に、電池を充電し、続いて充電した状態で、加温下(例えば35~55℃、好ましくは40~50℃)、所定の時間(例えば7日以上、好ましくは7~30日、より好ましくは10~25日)、放置することによりエージングを行う。このエージング処理の間に、電解液に添加したメチレンメタンジスルホン酸エステルは、正極表面に被膜を形成することができる。この被膜の形成により、相転移による活剤の割れや溶媒の分解、アルカリ成分の溶出が抑制されると推測でき、結果、サイクル特性を向上できる。
【0107】
その後、放電し、必要に応じて充放電処理(RtRc処理)を行い、所望の電池を得ることができる。
【実施例0108】
以下、実施例を挙げて本発明の好適な実施形態についてさらに説明する。
【0109】
(実施例1)
負極活物質として高円形度の球形化された天然黒鉛(平均粒子径(D50)15μm)を用意し、微細黒鉛系材料(以下「微細黒鉛」という)として鱗片状の人造黒鉛(平均粒子径(D50)10μm)を用意した。また、導電助剤として、平均粒子径(D50)100nm以下の微細粒子(カーボンブラック)を用意した。
【0110】
前述の測定方法により、この天然黒鉛の平均粒子円形度は0.86以上であり、鱗片状の微細黒鉛の平均粒子円形度より高いことを確認した。また、市販のレーザ回折・散乱方式粒子径分布測定装置を用いて、負極活物質(天然黒鉛)のD90/D50は1.3以下であり、微細黒鉛(鱗片状人造黒鉛)のD90/D50は1.65以上であることを確認した。
【0111】
微細黒鉛系材料の添加量は、負極活物質に対して2.0質量%(導電助剤に対する質量比:約6.7)とした。導電助剤の添加量は、負極活物質に対して0.3質量%とした。
【0112】
負極活物質(天然黒鉛)と微細黒鉛系材料(鱗片状人造黒鉛)と導電助剤を上記の質量比率で混合し、この混合物とカルボキシルメチルセルロース(増粘剤)の1.0wt%水溶液とを混合してスラリーを調製した。これにスチレン-ブタジエン共重合体(結着剤)を混合した。結着剤の添加率は、負極活物質に対して2.0質量%とした。
【0113】
このスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗工し、塗布膜を乾燥し、同様にもう一方の面にもスラリーを塗工し、乾燥した。その後、塗布膜(負極塗布膜)の密度が1.5g/cm3になるようロールプレスし、所定の形状に加工し、130×69.0mmの負極シートを得た。
【0114】
一方で、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(正極活物質)と、ポリフッ化ビニデン(結着剤)を、N-メチル-2‐ピロリドンに分散させてスラリーを調製した。このスラリーをアルミニウム箔の片面に塗工し、塗布膜を乾燥し、同様にもう一方の面にもスラリーを塗工し、乾燥した。その後、塗布膜(正極塗布膜)の密度が3.0g/cm3になるようにロールプレスし、所定の形状に加工し、125×65.5mmの正極シートを得た。
【0115】
これらの正極シート5枚と負極シート6枚とを、厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介して交互に積層した。正極用の引き出し電極、負極用の引き出し電極を設けた後、この積層体をラミネートフィルムで包み、融着していない開口部から電解液を注入した。
【0116】
電解液としては、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比3:6:1(EC:DEC:EMC)で混合したものに、電解質塩としてリチウム塩(LiPF6)を濃度1.0mol/Lとなるように溶解し、添加剤としてメチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)を溶媒に対する含有率が2.4質量%となるように添加したものを用いた。
【0117】
電解液の注入後、真空含浸処理を行い、次いで真空状態で仮封止(仮融着)を行った。続いて、一対の押し圧板で外部から加圧した状態で放置した。その後、加圧の圧力を弱め、押さえた状態でプレ充電を行った。
【0118】
プレ充電の後、放置した後、仮封止部分を開口し、ガス抜きを行った。その後、2回目の真空含浸処理を行い、次いで真空状態で仮封止を行った。続いて、仮封止部分を本封止(融着)した。
【0119】
次に、外装容器を形成するラミネートフィルム表面のロールがけを行った後、エージングのための本充電を行った。続いて、45℃で19日間放置することによりエージングを行った。
【0120】
エージングを行った後、所定の条件で放電、充電、放電の順で充放電処理(RtRc処理)を行った。
【0121】
以上のようにして作製したリチウムイオン二次電池について、充放電サイクル試験(Cycle-Rate:1C、温度:25℃、上限電圧:4.15V、下限電圧:2.5V)を行い、300サイクル後及び500サイクル後の容量維持率を求めた。結果を表1~2に示す。
【0122】
また、交流インピーダンス測定(SOC100%、4.15V)を行い、Cole-Coleプロットの円弧から、電荷移動抵抗(エージング後、500サイクル後)を求めた。等価回路のフィッティングにより正極と負極の抵抗成分を分離でき、電荷移動抵抗の主成分は正極であることが分かった。測定結果を表1及び3に示す。
【0123】
(実施例2)
添加剤(MMDS)の含有率を3.2質量%にした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表1~2に示す。
【0124】
(比較例1)
添加剤(MMDS)及び微細黒鉛を用いなかった以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0125】
(比較例2)
添加剤(MMDS)の含有率を1.6質量%にし、微細黒鉛を用いなかった以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0126】
(比較例3)
添加剤(MMDS)の含有率を1.6質量%にした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表1~2に示す。
【0127】
(比較例4)
正極活物質をNCM811に代えてNCA(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物:LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)を用い、添加剤をMMDSに代えてVC(ビニレンカーボネート)を用い、その含有率を1.5質量%にした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0128】
(比較例5)
正極活物質をNCM811に代えてNCM523(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)を用い、添加剤をMMDSに代えてVCを用い、その含有率を1.5質量%にした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0129】
(比較例6)
添加剤をMMDSに代えてVCを用い、その含有率を1.5質量%にした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0130】
(比較例7)
正極活物質をNCM811に代えてNCAを用い、添加剤をMMDSに代えてPS(1,3-プロパンスルトン)を用い、その含有率を2.0質量%にした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0131】
(比較例8)
添加剤をMMDSに代えてPSを用い、その含有率を2.0質量%にした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0132】
【0133】
比較例3と実施例1、2との対比から明らかなように、添加剤含有率が2.0質量%より低い比較例3に対して2.0質量%以上の実施例1及び2は、500サイクル後の電荷移動抵抗が低く、それに伴い容量維持率(サイクル特性)が高いことがわかる。
【0134】
【0135】
添加剤(MMDS)及び微細黒鉛の両方を用いない比較例1の容量維持率は、25サイクル後で既に95%を下まわり、サイクル特性が著しく低かった。
【0136】
このような比較例1と比較例2との対比から明らかなように、添加剤(MMDS)を用いると、容量維持率(サイクル特性)が向上することが分かる。
【0137】
また、比較例2と比較例3との対比から明らかなように、さらに負極に微細黒鉛を用いることにより、容量維持率(サイクル特性)がより一層向上することが分かる。
【0138】
また、比較例3と実施例1、2との対比から明らかなように、添加剤(MMDS)の含有率が2.0以上であると、容量維持率(サイクル特性)がさらに向上することがわかる。
【0139】
【0140】
比較例4~8の電荷移動抵抗の測定結果から明らかなように、正極活物質としてNCM811を用いた比較例6及び8は、他の正極活物質(NCA、NCM523)を用いた比較例4、5及び7に比べて、電荷移動抵抗が著しく高いことがわかる。そして、これらの比較例6及び8と実施例1とを対比すると明らかなように、MMDS以外の添加剤(VC、PS)では、十分な抵抗低減効果が得られないことがわかる。
【0141】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0142】
この出願は、2016年3月18日に出願された日本出願特願2016-55699を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池であって、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
前記負極は、前記負極活物質としての黒鉛系活物質材料と、前記負極活物質より平均粒径の小さい微細黒鉛系材料を含み、
前記負極活物質は、その粒子が球形化された粒子からなり、前記微細黒鉛系材料は、前記負極活物質の粒子より平均粒子円形度の低い粒子からなり、
前記負極活物質の平均粒子円形度が0.86~1の範囲にあり、前記微細黒鉛系材料の平均粒子円形度が0.86未満であり、
メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下の非水電解液を用いて形成される、非水電解液二次電池。
リチウムイオンを吸蔵放出できる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極と、リチウムイオンを含有する非水電解液と、外装体を含む非水電解液二次電池の製造方法であって、
正極を形成する工程と、
負極を形成する工程と、
非水電解液を形成する工程と、
前記正極、前記負極および前記非水電解液を外装体に収容する工程を有し、
前記正極活物質は、下記組成式:
LiNixCoyMnzO2
(0.7≦x≦0.9、0.05≦y≦0.2、0.05≦z≦0.15、x+y+z=1)
で示される、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、
前記負極を形成する工程は、前記負極活物質としての黒鉛系活物質材料と、前記負極活物質より平均粒径の小さい微細黒鉛系材料を混合し、得られた混合物を含むスラリーを形成し、前記スラリーを集電体に塗布し、乾燥して活物質層を形成する工程を含み、
前記負極活物質は、その粒子が球形化された粒子からなり、前記微細黒鉛系材料は、前記負極活物質の粒子より平均粒子円形度の低い粒子からなり、
前記負極活物質の平均粒子円形度が0.86~1の範囲にあり、前記微細黒鉛系材料の平均粒子円形度が0.86未満であり、
前記非水電解液を形成する工程は、メチレンメタンジスルホン酸エステルを含有し、その含有率が溶媒に対して2.0質量%以上5.0質量%以下である非水電解液を形成する、非水電解液二次電池の製造方法。