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特開2022-60628拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物ならびにその施工方法
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  • 特開-拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物ならびにその施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060628
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物ならびにその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/44 20060101AFI20220408BHJP
   E02D 27/42 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
E02D5/44 A
E02D27/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168184
(22)【出願日】2020-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 良弘
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅一
(72)【発明者】
【氏名】幸田 英司
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅樹
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041BA12
2D041BA44
2D041EC00
2D046DA34
(57)【要約】
【課題】地盤中に設置される基礎構造物の引揚抵抗を向上する。
【解決手段】複合基礎構造物は、地盤1に形成される掘削孔3内に構築される柱状体13、および柱状体13の下端部に固定され、柱状体13よりも断面積が大きく、掘削孔3内の底部に設けられる拡底底版12を備える拡底基礎構造体、掘削孔3の壁面に設けられる土留支保工11、拡底基礎構造体が設けられた後の掘削孔4に埋め戻されて締め固められる埋め戻し土砂4、掘削孔3の深さ方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、かつ土留支保工11から放射状に外向きにのび、それぞれが土留支保工11の周囲の外側地盤1に埋設される複数の外側ロックボルト20、ならびに外側ロックボルト20のそれぞれとカップラーを用いて接合され、土留支保工11から内向きにのび、土留支保工11の内側地盤に埋設される複数の内側ロックボルト20を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成される掘削孔内に通される柱状体、および上記柱状体の下端部に固定され、上記柱状体よりも断面積が大きく、上記掘削孔内の底部に設けられる拡底底版を備える拡底基礎構造体、
上記掘削孔の壁面に設けられる土留支保工、
上記拡底基礎構造体が設けられた後の上記掘削孔に埋め戻されて締め固められる埋め戻し土砂、
上記掘削孔の深さ方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、かつ上記土留支保工から放射状に外向きにのび、それぞれが上記土留支保工の周囲の外側地盤に埋設される複数の外側ロックボルト、ならびに
上記外側ロックボルトのそれぞれとカップラーを用いて接合され、上記土留支保工から内向きにのび、上記土留支保工の内側地盤に埋設される複数の内側ロックボルトを備えている、
拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物。
【請求項2】
上記埋め戻し土砂が、上記掘削孔の形成によって排出された土砂にセメントまたはセメントミルクが加えられ、かつ撹拌されたソイルセメント材料である、
請求項1に記載の拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物。
【請求項3】
上記外側ロックボルトが、芯材と、芯材の周囲に充填されるグラウトとによって構成されている、請求項1または2に記載の拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物。
【請求項4】
上記内側ロックボルトが、芯材と、芯材の周囲に巻き付けられた巻付けコンクリートとによって構成されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物。
【請求項5】
上記柱状体および上記拡底底版を備える拡底基礎構造体が、プレキャスト・プレストレストコンクリート構造体である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物。
【請求項6】
上記柱状体および上記拡底底版を備える拡底基礎構造体が、場所打ち鉄筋コンクリート構造体である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物。
【請求項7】
地盤を掘削し、
掘削によって形成される掘削孔の壁面に土留支保工を設置し、
上記土留支保工から放射状に外向きにのびるように、複数の外側ロックボルトを上記土留支保工の周囲の外側地盤に打設し、
上記地盤の掘削、土留支保工の設置、および外側ロックボルトの打設を繰り返すことによって、上記土留支保工の周囲の外側地盤を補強しながら掘削孔を掘り進め、
所定深さに掘られた掘削孔内に、柱状体および上記柱状体の下端部に固定され、上記柱状体よりも断面積が大きい拡底底版を備える拡底基礎構造体を構築し、
上記掘削孔に土砂を埋め戻して締め固め、
カップラーを用いて、上記外側ロックボルトの末端部に、上記土留支保工から内向きにのびる内側ロックボルトを接合し、
上記土砂の埋め戻しと内側ロックボルトの接合を繰り返すことによって、上記土留支保工内の内側地盤を補強しながら掘削孔を埋め戻す、
拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物の施工方法。
【請求項8】
上記掘削孔の壁面に設置される土留支保工のうち、最下端の外側および内側ロックボルトの近傍よりも下側の土留支保工を撤去する、
請求項7に記載の拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物ならびにその施工方法に関し、主として山岳部や山間部のように立地環境が限定されている施工地点に設置される、たとえば鉄塔や橋梁のための複合基礎構造物と、その施工方法に関するものである。なお、本発明の複合基礎構造物は、鉄塔や橋梁の支柱、アバット、その他の建築構造物を地盤に強固に固定するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
拡底基礎とは、地盤中に設けられる基礎の底部を拡径したものを言い、地盤中に拡底基礎を設けることにより、拡底基礎を含む基礎構造体の支持抵抗力や引揚抵抗力を大幅に増大させることが可能である。現在、最も効率的、かつ大規模に拡底基礎を施工する方法として、ベントナイト液等の安定液やケーシングを使用して掘削地盤の安定を保持しながら、専用の拡底掘削機を用いて地盤を掘削する工法が実施されている。このような施工方法では、大型の施工機械が必要であり、施工地点が、例えば山岳部や山間部のように立地環境が限定されているような場合、具体的には建設資材や専用掘削機の運搬に必要な公共道路や鉄道などのアクセス・ライフラインがないような場合には、施工が不可能である。
【0003】
本発明に関連する既往の特許参考文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-255212公報
【特許文献2】特開平5-179879号公報
【特許文献3】特開昭63-147011号公報
【特許文献4】特開昭52-89202号公報
【0005】
特許文献1は、ケーシングと安定液により鉛直掘削孔壁と拡底孔壁の地盤安定を保持しながら、拡底バケットにより円錐状の拡底部を掘削した後に、鉄筋籠を設置し、トレミー工法により生コンクリートを打設する場所打ちコンクリート拡底杭の構築方法の発明を開示する。特許文献1による構築方法を適用すれば、拡底部の掘削において、ベントナイト等の安定液を使用しているので、孔壁の崩壊リスクも少なく、また、機械掘削であるために地盤の土質変化に対しても幅広く対応が可能である。また、拡底部の掘削に直接、作業員を配置することがないので、施工安全性の危険もない。しかしながら、特許文献1の構築方法では、巨大な掘削機械や、これを吊り上げながら施工する大型クレーンなどが必要とされるので、大型機械を搬入するようなアクセスを有しない山岳部における施工環境では、適用が不可能である。
【0006】
特許文献2は、所定の深さまで鉛直掘削した後に、掘削壁面に水平方向にドリルにより穴をあけて、その外側に管を加圧推進機で圧入するものを開示する。加圧推進機構により管を圧入し管内の土砂を排除することで、基礎穴の底部に複数の拡底掘削部が形成される。管の内側にいかり材を挿入し、いかり材の一端を主柱材側の下端部に接続固定し、コンクリート打設を行う。しかし、特許文献2により構築される底版部は円周方向に連続せず、管と管の間には、現地盤の土砂が残されている。そのために、非連続の拡底部を有する拡底基礎に引揚軸力が発生した場合には、円周方向に連続した本来の拡底基礎の場合の現地盤中に発生するすべり面(土砂破壊面)とはならず、引揚抵抗が低減すると考えられる。また、掘削ドリルや加圧推進機構の機械装置、及び、これらをサポートする動力機械の重量を考慮すると、山岳部の施工環境で可能であるか疑問である。
【0007】
特許文献3の適用対象としている拡底基礎の規模は、深さ100m、鉛直基礎部直径6m、拡底部直径10m、拡底部高さ5mの規模で、支持地盤が岩盤である。拡底基礎を構築する地盤が岩盤であるので、土砂地盤の場合に必要な支保工は不要である。鉛直基礎部の掘削時に逆巻き工法により構築した山留工の鉛直支持を行うために、最下端部から3~4方向に横坑を掘削して複数本のコンクリート梁を上方に積み上げるように構築し、前記山留工の荷重を支持するコンクリート構造体を構築する。その後、山留工支持の構造体相互の間の岩盤を支保工なしで掘削して拡底空間が形成される。しかし、特許文献3の工法では、岩盤内の掘削を支保工なしで実施することになるので、直径10mにもなるドーム状の掘削をロックボルトなどの補助的な支保工なしで施工するリスクは大きい。また、土砂掘削に際しては、小型のバケットを使用するために、大型の楊重クレーンが必要であり、山岳部の施工環境では機械搬入が困難である。また、拡底部が岩盤内にあるような場合に、引揚抵抗の設計手法として、土質力学的にすべり面の設定や、その際の設計引揚抵抗値を算定するための理論的にオーソライズされたものがないために、設計することが困難である。
【0008】
特許文献4は、所定の深さまで土留支保工を設けながら地盤を掘削し、45°~60°の傾斜角で斜下方にドリル削孔してロックボルトを挿入し、地盤空隙部にセメントミルクを注入することにより、円錐状の支保工を施工するものを開示する。斜め方向の支保工の下面の地盤がさらに掘削され,そこに配筋をしてコンクリート打設し鉄筋コンクリート構造体を構築することで,拡底構造体が形成される。しかし、特許文献4による斜下方のロックボルトの先端部は、ロックボルトの内側の打設間隔よりはかなり広がって配置されるために、先端部においてはロックボルトとセメントミルク注入に構築される支保工は、横方向に連続した支保構造体とはならない。そのために地盤の掘削時において、ロックボルト先端部の土砂が肌落ちする危険があり、施工上のリスクを回避できない。
【0009】
基礎構造物に求められている機能は、外部(上部構造物)からの下方への押込み軸力、上方への引揚軸力、水平せん断力、ねじりモーメント、曲げモーメントなどの断面力に対して基礎構造物自身によって構造的に抵抗すること、基礎構造物を介して上記断面力を周囲の地盤に効果的に伝達して、その反力により基礎構造体と地盤の連成作用による抵抗を発揮させることなどである。基礎構造物の構造および地盤の安定性を維持することが基礎構造物には求められる。
【0010】
上記の断面力の中で、上部構造物からの下方への押込み軸力や上方への引揚軸力は、周辺地盤からの地盤反力が重要な役割を果たしている。送電線鉄塔の基礎では、送電線鉄塔や電線に作用する風力により多大な押込み軸力と引揚軸力が作用する。特に送電鉄塔基礎の場合は、引揚軸力が厳しくなる場合が多く、従来、圧倒的な実施例のある拡底部を有しない深礎基礎に比較すると、拡底部を有する拡底基礎は、引揚抵抗の土質力学的な抵抗機構が異なるために、引揚抵抗の増大は著しく効果的である。
【0011】
しかしながら、拡底基礎による最大の引揚抵抗を得るためには、拡底部の上方の地盤を乱すことなく基礎底部の側方に空洞部を掘削して、掘削により構築された拡底空洞部に鉄筋コンクリートの基礎構造体を構築する必要がある。つまり、拡底部を施工するためには、基礎底部において側方掘削して拡底空洞部を構築するために、拡底部上部の土砂を支えるルーフ状(屋根状)と柱状の支保工を仮設構築して、拡底部を掘削する必要がある。基礎拡底部の掘削施工は、一般的に簡易なバックホウや手掘りによることが多く、多大な施工時間と施工コストが必要であり、また劣悪な労働環境に加えて土砂崩壊などの施工リスクの問題がある。
【0012】
一方、大規模建築や橋梁基礎に適用する、大型機械を採用した拡底基礎の構築方法としては、ケーシングや安定液を使用して掘削地盤の安定を保持し、機械的に拡底掘削できるアースドリルやアースオーガーを使用して、効率的かつ安全に拡底基礎を施工する方法がある。これらの施工方法は、拡底部の掘削工程を人力ではなく専用の施工機械により施工するために、経済的、かつ効率的な施工が可能であるが、特殊機械の先行投資が必要である。さらに、山岳部において、このような大規模なアースドリルやアースオーガー、揚重機械を適用した施工は不可能である。山岳部では公道によるアクセスがないことが多く、ヘリコプター、索道、およびモノレールなどの運搬手段を考える必要がある。一方、アクセスが可能な平地における鉄塔基礎の場合、大型掘削機を使用した拡底地盤を効率的に掘削することは可能であるが、掘削を泥水中で施工し、泥水を置換するように底部からトレミーコンクリートを打設する方法で基礎体を構築するために、従来適用されている基礎体の途中にいかり基礎を定着する施工方式は採用できないので、鉄塔基礎の場合には、上記の拡底基礎方式は採用不可能である。
【0013】
(1)従来基礎の引揚抵抗能力と圧縮支持抵抗能力
1)基礎構造物の構造形式は、建設地点の地盤土質条件、地盤支持層の位置、地下水位の位置、建設資材の運搬アクセス条件、上部構造の構造形式、基礎構造体に作用する設計荷重、などより選定される。
2)鉄塔基礎の基礎構造形式としては、深礎基礎や逆T字基礎の構造形式が採用されることが多い。本発明の主たる対象としては、従来の深礎基礎および逆T字基礎の両方を対象として、本発明特が考案した拡底部を有することによる発明効果を示すものである。
3)深礎基礎の標準的な形状は、円柱断面で、基礎底面の位置は支持地盤層に到達させることが多く、従って、直径に比して深くなることが多い。円柱断面の直径=D、深礎基礎の深さ=Hとすると、従来の深礎基礎はH/D=8~12の比率となることが多い。
4)深礎基礎の形状が深くなる理由は、引揚抵抗能力と圧縮支持抵抗能力を増大させるためである。深礎基礎の掘削深度が深くなると、地盤掘削量や構造体容積が増大し、さらに深い位置での掘削作業や、鉄筋組立作業、コンクリート打設作業など、施工コストが増大し、施工工期の長くなる。
5)このような状況に対応する構造形式として、基礎底部に拡幅した底板部を有する拡底深礎基礎構造形式が約50年前に提案されて、施工実施例もある。拡底深礎基礎構造は、底板部の接地面積が円柱一般部の断面積に比して2~3倍にもなるので、圧縮支持抵抗能力は大幅に増大する。一方、引揚抵抗能力については、拡幅した底板部の存在により、引揚時の周辺地盤のすべり面が全く異なることにより、大幅な引揚抵抗能力を示す。
6)しかしながら、拡底基礎構造形式を採用するためには、基礎底部に構築する拡底部の構築方法に関する施工上の制約があり、その制約条件を解決するような経済的で安全性を確保できるような施工方法や構造形式がないために、現状では通常の深礎基礎が多く施工されて、拡底深礎基礎の採用は減少する傾向にある。
7)逆T字基礎の標準的な形状は、文字通り逆T字の形状の基礎であり、底部に底板部とその上に円柱あるいは角柱の基礎が接続されて構成されている基礎である。このタイプの基礎は、支持地盤が比較的、浅い位置に存在する場合に採用される基礎構造形式である。
8)逆T字基礎には、通常の逆T字基礎と拡底逆T字基礎がある。この場合でも、拡底逆T字基礎を採用するために、底板部に構築する拡底部の構築方法に関する施工上の制約や施工技術的な困難さがあり、その制約条件を経済的で、かつ安全性を確保できるような施工技術がない。
【0014】
(2)拡底基礎構造の引揚抵抗と施工方法
1)拡底基礎の引揚抵抗力に関しては、引揚時すべり面を拡幅底版部の外側のコーナーからの対数らせん曲線とRankineの受働状態における直線の合成したものであると仮定した、土質力学的理論展開により開発された理論式が適用され、電気学会の送電用鉄塔基礎標準(JEC)に取り入れられている。
2)拡底基礎の引用抵抗能力は、その施工方法に依存して、大幅な引揚抵抗が期待できる、前記の対数らせん曲線とRankine受働状態直線のすべり面が、成立する場合と成立しない場合があることがわかっている。
3)拡底基礎として理想的なすべり面を形成するかどうかのポイントは、(i)拡底基礎の掘削領域設定と掘削方法、および(ii)埋め戻し土砂の締固め度、および、埋め戻し土砂が、元々その周辺に存在する原地盤と同等以上の土質強度特性(粘着力cとせん断抵抗角φ)を有するかどうか、に依存する。
4)掘削領域と掘削方法の分類として、2つの方法がある。掘削領域方法1:拡底底版の幅と等しい直径の円筒形状により、基礎の最下端まで鉛直掘削し、底板部の構築と、その上部に円柱部の構築をし、円柱部の外側と鉛直掘削面との空間に、掘削した土砂を埋め戻す工法で、これを「鉛直掘削埋め戻し工法」と称する。
5)2つ目の方法である、掘削領域方法2:拡底底版の幅よりも短い直径、あるいは円柱部の幅に等しい円筒形状により、基礎の最下端まで掘削し、拡底底板部に必要な空間を基礎最下端部から側方向に掘削して拡底底板部を構築し、円柱部の外側と掘削面との空間に掘削した土砂を埋め戻す工法で、これを「拡底掘削工法」と称する。拡底掘削工法の重要なポイントは、拡底底板部の空洞を掘削する際に、土留支保工などの補助工法を使用して安全に掘削することになるが、拡底底板部周辺の原地盤を緩める、あるいは乱すことはできない。また、拡底底板部は、周方向に連続した拡底底板部の構造体を有する必要がある。
【0015】
(3)拡底底板基礎の引揚抵抗の評価
1)掘削領域方法1の「鉛直掘削埋め戻し工法」の場合で、埋め戻し土砂の締固め度は、一般的に原地盤の締固め度と同等にすることは困難であると考えられている。そのための、埋め戻し土の土質強度特性は低下する。このような場合のすべり面は、原地盤と拡底底板部の側面に沿う、円筒面となる。つまり、引揚抵抗は、すべり面となる境界面におけるせん断法により設計される。具体的には、拡底底板部の側面に沿うすべり面せん断抵抗、この面内の含まれる土塊重量および基礎構造体自重の和となる。
2)一方、掘削領域方法2の「拡底掘削工法」では、埋め戻し土砂の締固め度に大きく左右されることなく、拡底底板部の周囲の原地盤が乱されていない条件下では、すべり面が拡幅底版部の外側のコーナーからの対数らせん曲線とRankineの受働状態における直線の合成したものとなり、引揚抵抗となる土砂の量が一気に増大する。引揚抵抗は拡底底板の突出幅の影響を受けて増減するものの、拡底掘削工法による引揚抵抗は、鉛直掘削埋め戻し工法の3~4倍に増大することが、理論的及び実験的に確認されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような施工環境や設計環境に対して、従来、様々な方法で試みされた方法とは全く異なる施工的な組み合わせを考慮し、特殊な掘削機械装置を使用することなく、また、施工安全性を担保し、経済的な拡底基礎構造体と補強地盤の複合基礎構造物の施工方法を提供することを課題とし、かつ完成の複合基礎構造物として、理論的に考えられる最大の引揚抵抗を有することができるようにすることを課題とする。本発明は、山岳部のような施工環境に限定して、その利点を活用できるものではなく、交通アクセスのある平地や都市部においても、施工環境の制約はなく、また、土質力学的な引揚抵抗機構は発揮できる。
【0017】
特には、施工上の制約環境下においても、従来の拡底基礎構造に比較して、大幅なコストダウンと工期短縮を実現できる、新たな複合基礎構造及びその施工方法を提供することを課題とする。
【0018】
鉄塔や橋梁の基礎構造体が基本的に保有すべき役割は、鉄塔や橋梁などの、いわゆる上部構造が受ける様々な外力荷重に対して、構造的な安定性を提供することである。外力荷重は、主に、死荷重や活荷重、風荷重、雪荷重、地震荷重、施工時荷重などである。これら鉄塔あるいは上部工からの荷重により、基礎構造物に対しては、下方への押込み軸力、上方への引揚軸力、水平せん断力、ねじりモーメント、曲げモーメントなどの断面力に対して、基礎構造物自身による構造抵抗、および基礎構造物を介して上記断面力を周囲の地盤に効果的に伝達して、基礎構造物としての構造安定性を維持する。
【0019】
本発明の基礎構造体は、山岳部や山間部において地盤条件をはじめ、施工条件や、経済的条件などの観点から、既に多くの実績のある深礎基礎および逆T字基礎における、土質力学的に引揚抵抗能力、および圧縮抵抗能力を拡大することができる拡底基礎に関するものである。つまり本発明は、既に多くの実績のあるものの、深礎基礎や逆T字基礎における拡底基礎タイプにおいて、従来の施工リスクや施工コストの増大を改善して、引揚抵抗能力と圧縮抵抗能力を大幅に改善できる拡底基礎に関するものである。拡底基礎については、これまでも種々の施工法も含め、提案されてきているが、本発明は、従来の拡底基礎とは全く異なる考えに基づいて、引揚抵抗能力と圧縮抵抗能力の増大を果たしたものである。簡単に言及すると、本発明の拡底基礎の施工過程において、これまでの原地盤と埋め戻し土砂の土質的な不連続境界における弱部に対して、経済的で合理的な地盤補強を行うことにより、従来の破壊すべり面のモードを、大幅に引揚抵抗能力を増大できるような破壊すべり面のモードに変更した、拡底基礎構造体と補強地盤の複合基礎構造物である。
【0020】
拡底基礎構造物において、「拡底掘削工法」を忠実に施工することができれば、埋め戻し土砂の締固め度に大きく左右されることなく、拡底底板部の周囲の原地盤が乱されない状態となる。その場合は、すべり面が拡幅底版部の外側のコーナーからの対数らせん曲線とRankineの受働状態における直線を合成したものとなり、引揚抵抗となる元になる土砂の量が一気に増大する。しかしながら、現実の施工では、拡底底板部の空洞を掘削するにあたり、周囲の原地盤を乱さないで特別の掘削機械を使用せずに簡易な施工法で掘削することは、原地盤のゆるみ発生や崩落する危険があり、また、安全性を重視した場合には専用の特殊掘削機械が必要となり、その場合には施工コストの増大と、施工環境が限定されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明による拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物は、地盤に形成される掘削孔内に構築される柱状体、および上記柱状体の下端部に一体化され、上記柱状体よりも断面積が大きく、上記掘削孔内の地盤底部に設けられる拡底底版を備える拡底基礎構造体、上記掘削孔の側壁面に設けられる土留支保工、上記拡底基礎構造体が構築された後の上記掘削孔に埋め戻されて締め固められる埋め戻し土砂、上記掘削孔の深さ方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、かつ上記土留支保工から放射状に外向きにのび、それぞれが上記土留支保工の周囲の外側地盤に埋設される複数の外側ロックボルト、ならびに上記外側ロックボルトのそれぞれとカップラーを用いて接合され、上記土留支保工から内向きにのび、上記土留支保工の内側地盤に埋設される複数の内側ロックボルトを備えている。
【0022】
この発明による拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物の施工方法は、地盤を掘削し、掘削によって形成される掘削孔の壁面に土留支保工を設置し、上記土留支保工から放射状に外向きにのびるように、複数の外側ロックボルトを上記土留支保工の周囲の外側地盤に打設し、上記地盤の掘削、土留支保工の設置、および外側ロックボルトの打設を繰り返すことによって、土留支保工の周囲の外側地盤を補強しながら掘削孔を掘り進め、所定深さに掘られた掘削孔内に、柱状体および上記柱状体の下端部に一体化され、上記柱状体よりも断面積が大きい拡底底版を備える拡底基礎構造体を構築し、上記掘削孔と拡底基礎構造体との間に土砂を埋め戻して締め固め、カップラーを用いて、上記外側ロックボルトの末端部に、上記土留支保工から内向きにのびる内側ロックボルトを接合し、上記土砂の埋め戻しと内側ロックボルトの接合を繰り返すことによって、上記土留支保工内の内側地盤を補強しながら掘削孔を埋め戻す。
【0023】
地盤を掘削することによって地盤に形成される掘削孔内に、柱状体および拡底底版を備える拡底基礎構造体が設けられる。掘削孔の底部に拡底基礎構造体の拡底底版が設けられ、拡底底版の上方に柱状体が立設される。柱状体は掘削孔に構築されて地表面に至る。拡底底版および柱状体は好ましくはいずれも円柱形であるが、必ずしも円柱形でなくてもよく、少なくともいずれか一方が角柱形であってもよい。柱状体と拡底底版は、例えば鉄筋コンクリートによって一体に形成される。
【0024】
拡底底版は、その断面積(拡底底版が円柱形であれば直径)が柱状体の断面積よりも大きく、拡底基礎構造体は、底部が太く(直径が大きく)、太い底部からそれよりも細い柱状体が上方にのびる全体形状を持つ。拡底底版が、拡底底版上に立設される柱状体よりも大きいので、柱状体が設けられていない範囲の拡底底版の上面範囲が外に露出する。
【0025】
掘削孔は、その孔径(掘削孔の大きさ)が拡底底版の断面積(直径)とほぼ同じかまたはそれよりも少し大きく形成される。一般には、拡底底版の断面形状と同じ断面形状の掘削孔が地盤に形成される。拡底底版を含めて拡底基礎構造体の全体を掘削孔内に収めることができる。
【0026】
拡底基礎構造体の上端部分、すなわち柱状体の上端部分を、掘削孔の開口(地表面)から外にわずかに突出させておくとよい。すなわち、拡底基礎構造体の高さを掘削孔の深さよりも高くする(掘削孔の深さを拡底基礎構造体の全体高さよりもわずかに浅くする)。拡底基礎構造体の柱状体の先端部分や内部に、たとえば鉄塔、橋梁の支柱(脚部)が固定されるので、柱状体の先端部分を地表上に突出させておくことで、この固定作業がやりやすくなる。
【0027】
拡底基礎構造体が設置された後、掘削孔は土砂によって埋め戻されて締め固められる。
【0028】
掘削孔の壁面には土留支保工が設けられる。これによって、掘削孔の周囲の地盤が掘削孔内に崩落することが防止される。
【0029】
この発明によると、上記掘削孔の深さ方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、かつ上記土留支保工から放射状に外向きにのび、上記土留支保工の周囲の外側地盤に埋設される複数の外側ロックボルト、ならびに上記外側ロックボルトのそれぞれとカップラーを用いて接合され、上記土留支保工から内向きにのび、上記土留支保工の内側地盤に埋設される複数の内側ロックボルトが設けられている。複数の外側ロックボルトおよび複数の内側ロックボルトによって、掘削孔の境界面、および拡底基礎構造体の周囲の地盤(土留支保工の外側地盤および土砂が埋め戻されかつ締め固められた土留支保工内の内側地盤)がせん断補強される。すなわち、「拡底基礎構造体」と「補強地盤」とから構成される「複合基礎構造物」が、地盤中に構築される。
【0030】
この発明による拡底基礎構造体と補強地盤の複合基礎構造物の施工方法は、一見、「鉛直掘削埋め戻し工法」に類似しているように見えるが、根本的には異なるものである。つまり、拡底基礎構造体の構築に必要な掘削方法は、掘削の平断面(横断面)が拡底底板の平断面が収まるように地盤を掘削する点では、類似している。しかし、この発明によると、(1)地盤の掘削と、(2)土留支保工の設置と、(3)外側ロックボルトの打設とを繰り返すことにより、掘削孔を掘り進めながら、土留支保工(掘削孔)の周囲の外側地盤を補強するのである。この施工は、掘削用のバックホウ、土留支保工としてのライナープレートあるいは吹付モルタル機械、簡易でコンパクトなロックボルト施工機械(例えば、レッグドリルのようなコンパクトな施工機械)、小型揚重機などの小規模の施工設備や施工機械を用いて施工することが可能である。
【0031】
上述のように、地盤の掘削、土留支保工の設置、および外側ロックボルトの打設を繰り返すことによって、土留支保工(掘削孔)の周囲の外側地盤を補強しながら掘削孔は掘り進められる。その後、掘削孔内に、柱状体および拡底底版を備える拡底基礎構造体が構築される。その後、掘削孔への土砂の埋め戻しおよび締め固めと内側ロックボルトの設置(カップラーを用いて上記外側ロックボルトの末端部に内側ロックボルトを接合すること)とを繰り返すことによって、掘削孔の境界面、および土留支保工(掘削孔)内の内側地盤を補強しながら掘削孔は埋め戻される。これらの施工は小規模の施工設備で容易に施工可能である。
【0032】
従来の「鉛直掘削埋め戻し工法」により拡底基礎を構築した場合、すべり面は、原地盤と拡底底板部の側面に沿う、円筒面となることが、理論的にも実験的にも確認されている。つまり、「鉛直掘削埋め戻し工法」により拡底基礎を構築した場合の引揚抵抗力は、拡底底板部の側面に沿う(1)すべり面に発生するせん断抵抗、そして(2)すべり面と柱状体の間に存在する土塊重量および(3)基礎構造体の自重の和となる。
【0033】
一方、本発明では、土留支保工の境界面、および土留支保工の周囲の外側地盤と土留支保工内の内側地盤が、複数の外側ロックボルトおよび複数の内側ロックボルトによりせん断補強されるために、上記のようなすべり面とはならない。その理由は、(i)埋め戻し土砂と原地盤との掘削境界面が、この境界面を貫通するように設けられる外側ロックボルトおよび内側ロックボルトによりせん断補強されること、(ii)掘削境界面の外側の原地盤(土留支保工の周囲の外側地盤)が外側ロックボルトによりせん断補強されること、および(iii)掘削境界面の内側の埋め戻し土砂(土留支保工内の内側地盤)が内側ロックボルトによってせん断補強されること、である。以上のせん断補強効果により、従来の「鉛直掘削埋め戻し工法」では発生していたせん断すべりは、生ずることはない。これは、あたかも「拡底掘削工法」により拡底底版近傍の原地盤にゆるみ等を発生させないで施工した場合と同じように、すべり面が拡幅底版部の外側のコーナーからの対数らせん曲線とRankineの受働状態における直線の合成したものとなる。これにより、本発明による拡底基礎構造物と補強地盤の複合基礎構造物は、上記の「鉛直掘削埋め戻し工法」により施工した拡底基礎に比べて、引揚抵抗能力が、少なくても3~4倍に増大する。
【0034】
一実施態様では、埋め戻し土砂が、上記掘削孔の形成によって排出された土砂にセメントまたはセメントミルクが加えられ、かつ撹拌されたソイルセメント材料である。通常の埋め戻し土砂に比較して、容易に締固め度を向上させ、また容易に埋め戻し土砂としての地盤強度(一軸圧縮強度)を向上させることが可能となる。その結果、土留支保工の内側地盤に埋設される内側ロックボルトの本数を低減することが可能となる。
【0035】
好ましくは、上記外側ロックボルトが、芯材と、芯材の周囲に充填されるグラウトとによって構成されている。外側ロックボルトによる外側地盤の補強を強化することができる。
【0036】
上記外側ロックボルトの芯材は好ましくは中空に形成され、かつ芯材の中空内に送り込まれたグラウトを外に排出する排出孔を備えている。外側ロックボルトの末端部から芯材の中空内に送り込んだグラウトを排出孔から排出させ、芯材の周囲にグラウトを充填することができる。
【0037】
一実施態様では、内側ロックボルトが、芯材と芯材の周囲に巻き付けられた巻き付けコンクリートとによって構成されている。内側地盤のせん断剛性と強度の増大に寄与するので、内側ロックボルトの本数を低減することができる。
【0038】
他の実施態様では、上記柱状体および上記底版底部を備える拡底基礎構造体が、プレキャスト・プレストレストコンクリート構造体である。基礎構造体の立地環境が山岳部のような建設資材の運搬が困難で運搬コストが多大のような環境下において、基礎建設の主材料であるコンクリートの必要量を低減させることができ、その結果、膨大な運搬費用の低減が可能となる。また、施工現場における鉄筋組立が不要となることや、生コンクリートの現場打設における品質管理の課題解決、また施工現場における施工工期の大幅な短縮などが可能となる。
【0039】
他の実施態様では、上記柱状体および上記拡底底版を備える拡底基礎構造体が、場所打ち鉄筋コンクリート構造体である。基礎構造体の立地環境が平野部のような建設資材の運搬が容易であるような環境下において、基礎建設の主材料であるコンクリートを生コンクリートとして生コンプラントから施工地点まで生コン車で運搬し、型枠設置および配筋後の躯体にトレミー打設やバケット打設により、コンクリート打設を効率的に行うことができる。つまり、基礎構造体の立地環境が平野部や山間部でも建設資材の運搬が可能な地域においては、コンクリートの現場打設により構築する方が、施工コストの観点からは有利となる。
【0040】
通常、ロックボルトを用いた地盤補強は、掘削孔の外側周囲の地盤のみに実施される。補強を必要とする地盤領域が大きい場合には、長尺の外側ロックボルトが必要とされる。本発明の場合は、地盤のせん断補強したい領域は比較的に狭い。ただし、掘削境界面の両側における原地盤と埋め戻し土砂の領域に連続するように補強する必要がある。その施工法においては、掘削時においても、土砂埋め戻し時においても、特別の足場が必要とすることない。また、必要とされる外側ロックボルトの長さが短いので、コンパクトなレグドリル機械で施工することが可能である。つまり、深礎基礎や逆T字基礎が立地する山岳部においても、特別の施工機械を必要とすることなく、拡底掘削のような施工リスクを負うことなく、本発明の複合基礎構造物は、短期間に低コストで構築することができ、従来の深礎基礎や逆T字基礎の引揚抵抗力と比較すると、引揚抵抗力を3~4倍にすることが可能となる。
【0041】
その他の効果
1990年~1999年における鉄塔基礎の全国実施事例の占有率は、深礎基礎が39%、逆T字基礎が49%を占めている。つまり全基礎形式の中で、この両者の基礎形式は全体の88%を占めている。本発明の拡底基礎構造体と補強地盤の複合基礎構造物は、この両方の基礎形式に代えて用いることができる。鉄塔基礎の設計においては支持地盤の立地条件が基礎形式を決める大きな要因である。また、鉄塔基礎に作用するが設計外力としては、引揚力や圧縮支持力が大きな設計上の大きな要因である。
【0042】
従来の深礎基礎や逆T字基礎で、引揚力に抵抗するために、基礎の直径や基礎深さを増大することにより、自重を増大させ、また、せん断抵抗面積の増大を行うことにより、引揚抵抗の増大を図っていた。しかし、このような対処方法では、基礎構造本体の体積の増大、掘削容積の増大、掘削深さの増大することになり、施工コストと施工工期の増大する結果となっていた。
【0043】
このような背景のもと、本発明による複合基礎構造物を現在最も鉄塔基礎として普及している、深礎基礎や逆T字基礎に代えて用いることにより、基礎形状のサイズダウンや、施工コスト、施工工期の短縮に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】拡底基礎構造体と補強地盤とを含む複合基礎構造物の縦断面図である。
図2】外側ロックボルトの詳細を示す縦断面図である。
図3】内側ロックボルトの詳細を示す縦断面図である。
図4】複合基礎構造物の施工の様子を示す。
図5】複合基礎構造物の施工の様子を示す。
図6】複合基礎構造物の施工の様子を示す。
図7】複合基礎構造物の施工の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は本発明によるコンクリート拡底基礎構造体と周囲の補強地盤からなる、いわゆる拡底基礎構造体と補強地盤の複合基礎構造物を示している。複合基礎構造物は、原地盤1を地表面2からほぼ垂直に掘削することによって形成される掘削孔3の壁面(土壁)に設けられる土留支保工11と、掘削孔3の底に設置される拡底底版12と、拡底底版12の上面に固定され、拡底底版12上に立設される柱状体13と、掘削孔3の深さ方向のほぼ中間部分において土留支保工11の外面および内面のそれぞれから外向きおよび内向きにのびる複数の外側ロックボルト20および内側ロックボルト30と、掘削孔3(土留支保工11)と拡底底版12および柱状体13との隙間を埋める埋め戻し土砂4とによって構成される。拡底底版12と柱状体13の組が「拡底基礎構造体」である。外側ロックボルト20および内側ロックボルト30によって地盤が補強される(補強地盤)。
【0046】
掘削孔3は円柱形に形成され、円柱形の掘削孔3内に、高さの低い円柱形の拡底底版12および高さの高い円柱形の柱状体13が設置される。掘削孔3、拡底底版12および柱状体13の形状は円柱形に限られずたとえば角柱形であってもよい。掘削孔3は、拡底底版12の直径とほぼ同じまたは少し大きい直径を持ち、拡底底版12は掘削孔3内にすっぽりと収められて拡底底版12の底面が掘削孔3の底面に接地する。拡底底版12の上面に立設される柱状体13は拡底底版12よりも小さい直径を持ち、拡底底版12の上面の中央に立設される。
【0047】
掘削孔3の周囲の壁面に設けられる土留支保工11は、たとえばライナープレートまたは吹付モルタル(または吹付コンクリート)によって構成され、周辺の原地盤1が掘削孔3に向けて崩壊するのを防止する。掘削孔3の壁面(側壁地盤)とライナープレートとの間にモルタルを充填してもよい。掘削孔3が円柱形であれば土留支保工11は円筒形に施工される。
【0048】
土留支保工11から外向きおよび内向きにそれぞれのびる外側ロックボルト20および内側ロックボルト30は、土留支保工11を貫通するように一直線上に設けられる。外側、内側ロックボルト20、30は、図1に示すように掘削孔3の深さ方向(上下方向)に間隔をあけて複数設けられるとともに、円周方向にも等角度をあけて複数設けられる。外側、内側ロックボルト20、30によって、原地盤1と埋め戻し土砂4の境界面、原地盤1および埋め戻し土砂4の地盤が補強されることにより、後述するように従来のすべり面とは異なる新たなすべり面40が規定され、その結果、引揚抵抗力の著しい向上が図られる。外側、内側ロックボルト20、30の詳細な構造およびすべり面40の詳細は後述する。
【0049】
図1に示す柱状体13は、従来の深礎基礎に相当するコンクリート構造物である。拡底底版12が拡底基礎に相当する部分である。柱状体13と掘削境界面(土留支保工11)の外側と内側に貫通するように施工された外側,内側ロックボルト20,30を含めたものを本発明の複合基礎構造物と称してもよい。
【0050】
図1に示された拡底基礎構造体および補強地盤の複合基礎構造物の引揚抵抗力が従来の深層基礎あるいは逆T字基礎において算定される引揚抵抗力に比較して大幅に向上することができる根拠について説明する。
【0051】
(A)従来の柱状体+拡底底版の場合
従来の柱状体および拡底底版の施工方法では、まず拡底底版の幅(直径)と同等、あるいは若干広めの幅(直径)で、基礎構造体(従来の柱状体および拡底底版)を構築するために地盤を掘削する地盤の掘削と土留支保工の設置とが交互に行われる。所定の深さまで地盤を掘削した後、基礎構造体(柱状体および拡底底版)が掘削によって地盤に形成された掘削孔に構築される。その後,基礎構造体と土留支保工との隙間に、埋め戻し土砂が埋め戻される。
【0052】
このように、従来の施工方法により拡底底版を有する深礎基礎や逆T字基礎を構築した場合に、図1に示すような引揚力50が作用した場合には、原地盤と埋め戻し土砂との境界面において、すべりが発生することが、理論解析や模型実験などにより証明されている。その主たる原因は、埋め戻し土砂を、原地盤と同様の締固め土とすることが困難であること,また掘削境界面は、根本的に土質的に不連続面であるために、境界面上のせん断抵抗が原地盤のせん断抵抗よりも低下することが原因であると考えられている。
【0053】
引揚力が作用することによってすべり面が原地盤と埋め戻し土砂の境界面で発生した場合の引揚抵抗力は、(i)すべり面で発生するせん断抵抗力、(ii)拡底底板部と柱状体との断面積差分上にある埋め戻し土砂の重量、および(iii)基礎構造体の自重、の和となる。
【0054】
(B)本発明の柱状体+拡底底版+せん断補強ロックボルトの場合
本発明の場合の地盤の掘削形状については、従来の形状と同等である。しかし、掘削の過程で土留支保工11の内側から設計的に必要カ所に土留支保工11から外側に向かって外側ロックボルト20を施工する。地盤1の掘削、土留支保工11の設置、外側ロックボルト20の施工を繰り返すことにより、足場等の仮設なしでこれらの施工が可能である。一方、埋め戻し時においては、外側ロックボルト20の末端部に設けた長ナットを用いたナット接合により,土留支保工11から内側に向かう内側ロックボルト30を接合する。この作業も,土砂4の埋め戻しと、内側ロックボルト30の接合を交互に実施することにより、足場等の仮設なしで施工が可能である。
【0055】
このように、本発明の施工方法により拡底底版を有する深礎基礎や逆T字基礎を構築した場合に、図1に示すような引揚力50が作用した場合の抵抗メカニズムを以下に示す。まず、すべり面であるが、従来のような原地盤と埋め戻し土砂との境界面がすべり面となることはない。それは、原地盤と埋め戻し土砂の境界面および、境界面の外側と内側の土砂は、貫通した外側ロックボルト20および内側ロックボルト30による地盤せん断補強の存在により、少なくても原地盤以上のせん断抵抗と締固め度を得ることができるためである。その状態は、あたかも、「拡底掘削工法」により施工した拡底底版部の拡底部分のみを、周囲の地盤を乱さないで、掘削施工した場合と同等であると考えられる。そのために、この場合のすべり面は、図1の符号40の一点鎖線に示すように、拡底底版12から地表面2に向かって広がるように形成される。より詳細には、すべり面40は、拡底底版12の上面外縁から斜め上方に広がる対数らせん曲線とRankine受働土圧作用時の直線とから構成されるすり鉢状の形態となる。このすべり面40の形成に関しては、理論的な誘導が行われていて、電気学会から出版されている「送電用支持物設計標準」(JEC-127)や、電気協同研究会から出版されている「送電用鉄塔基礎の設計」に、引揚抵抗力の設計法として記述されている。また、模型実験、あるいは周辺地盤に対して弾塑性構成則を適用したFEM解析により、「拡底掘削工法」による破壊すべり面や引揚抵抗力が上記の設計法で妥当であることが証明されている。
【0056】
従来の深礎基礎や逆T字基礎に対して、本発明による複合岸構造物へのプロセスを実行することにより、上記のすべり面40が適用でき、またすべり面40に沿ったせん断抵抗力が引揚抵抗として算定できるために、周囲の地盤条件や基礎構造物の形状により変動するものの、引揚抵抗力としては、従来の3~4倍になるものと考えられる。
【0057】
次に、本発明の掘削境界面および、その内側と外側の地盤に対して実施する地盤のせん断補強について説明する。図2は外側ロックボルト20の構造を詳細に示す縦断面図である。掘削境界面の近傍の土砂のせん断補強を行うために、図2に示すように、土留支保工11の内側(掘削孔3内)から、例えばレッグドリルのようなコンパクトな削孔ドリル(図示略)を使用して、土留支保工11の外側に向かって横向きに(掘削孔3(土留支保工11)の周面から法線方向外向きに)原地盤1を削孔する。削孔ドリルにはロックボルト芯材21が装着される。ロックボルト芯材21は中空異形ネジ付き鉄筋などが適用され、その先端には削孔のためのビット22が装着されている。ビット22が回転することによって原地盤1は横向きに掘り進められる。所定の位置まで原地盤1を削孔した後に、ロックボルト芯材21の末端からグラウト23をロックボルト芯材21内に圧入する。ロックボルト芯材21は中空であり、その周面には複数の小さい吐出孔24があけられている。ロックボルト芯材21内に圧入されたグラウト23はロックボルト芯材21の周面の吐出孔24から外に押し出され、ロックボルト芯材21の周囲に充填される。ロックボルト芯材21とその周囲のグラウト23とによって構成される外側ロックボルト20が掘削孔3の周辺地盤(掘削境界面(土留支保工11)の外側地盤)に設けられ、周辺地盤がせん断補強される。
【0058】
外側ロックボルト20のロックボルト芯材21の末端部分は、土留支保工11の内側(掘削孔3内)にわずかにのびている。グラウト23が所定の強度発現した後に、土留支保工11の内側にのびる外側ロックボルト20のロックボルト芯材21に支圧板15が取り付けられ、支圧板15を介して長ナット(カップラーナット)16がロックボルト芯材21の末端部分の周囲に締め付けられる。なお、長ナット16は、以下に説明する内側ロックボルト30を施工する際の、接合(カップリング)ナットの役目をする。
【0059】
図3は、内側ロックボルト30の構造を、図2を用いて説明した外側ロックボルト20の構造とともに示す縦断面図である。掘削境界面の外側の地盤に対する外側ロックボルト20によるせん断補強が所定の範囲で実施された後、内側ロックボルト30は施工される。
【0060】
図3に示すように、内側ロックボルト30は、ロックボルト芯材(異形ねじ付き鉄筋など)31とロックボルト芯材31の周囲に設けられる巻付けコンクリート32とから構成される。内側ロックボルト30の施工は、内側ロックボルト30を施工しやすくするために、埋め戻し土砂4によって掘削孔3を埋め戻しつつ、すなわち埋め戻し土砂4によって足場を形成しながら行われる。内側ロックボルト30は、その一端において巻付けコンクリート32からロックボルト芯材31の一部が外に突出しており、図3に示すように、外に飛び出しているロックボルト芯材31の一端が、長ナット16にねじ込められる(接合される)。これによって外側ロックボルト20と内側ロックボルト30とは土留支保工11の外側および内側を結ぶ方向に一直線上に設置される。内側ロックボルト30は、ロックボルト芯材31のみでよい場合もあるが、ロックボルト芯材31に巻付けコンクリート32を巻き付けて一体とした柱状体を使用するとよい。この場合は、内側ロックボルト30のせん断剛性として、ロックボルト芯材31のせん断剛性と巻付けコンクリート32のせん断剛性が、地盤せん断補強に寄与する。
【0061】
内側ロックボルト30による地盤のせん断補強は、従来の削孔を前提とした施工方法とは異なるが、内側ロックボルト30の施工後に、埋め戻し土砂4の締固めを行いながらの土砂埋め戻しを行うことにより、埋め戻し土砂4のせん断補強は確実に実施することができる。最終的には、掘削境界面を含む、その外側と内側の地盤がせん断補強されることとなる。
【0062】
なお、ロックボルトは地盤や岩盤の補強において、施工実績が多く報告されているが、本発明のように長ナット(カップラーナット)16を掘削境界面の外側と内側に地盤のせん断補強に適用した事例はない。
【0063】
ここで、本発明による外側、内側ロックボルト20、30による地盤のせん断補強の効果について、標準的な地盤を例として、数値的な比較試算例を示す。本発明により、必要とされる外側、内側ロックボルト20、30の緒元を求めるのは、設計な行為である。ここでは、典型的な地盤において、代表的な外側、内側ロックボルト20、30によるせん断補強を実施した場合のせん断補強効果を試算する。
【0064】
まず、原地盤1における土砂に発生するせん断応力度状態は、Mohr-Coulomb の式で記述される。土中のせん断応力τは、地盤の粘性応力C、土中直応力σ、内部摩擦角φにより次式で示される。
【0065】
土中のせん断応力τ=C+σtanφ・・・式1
【0066】
ここで土中直応力σは、静止土圧係数Ko、土の単位体積重量γ、および対象地盤深さhを用いて、以下の式によって表される。
【0067】
土中直応力σ=Koγh・・・式2
【0068】
したがって、式1および式2から、土中のせん断応力τは、以下の式によって表される。
土中のせん断応力τ=C+Koγhtanφ・・・式3
【0069】
ここで、地盤の土質特性については、以下に示すような、標準的なデータを適用する。
【0070】
地盤特性データ:地盤の粘着応力:C=10kN/m2, 内部摩擦角:φ=26度, 単位体積重量:γ=17.7 kN/m3, 対象地盤深さ:h=10m, 静止土圧係数:Ko=0.4
【0071】
上記の地盤特性データを式3に適用すると、地盤深さ10mにおける原地盤1のみの土中のせん断応力τは以下のとおりとなる。
【0072】
原地盤1のみの土中のせん断応力τ=10+0.4x17.7x10xtan26 = 44.5 kN/m2となる。ここに得られたせん断応力τは、Mohr-Coulomb の破壊式により求められたもので、土中10mにおける土がせん断破壊する限界のせん断応力を示している。
【0073】
次に、外側ロックボルト20(ロックボルト芯材21およびグラウト23の組み合わせ)による、地盤深さ10mにおける発生可能な抵抗せん断応力を求める。まず、ロックボルト芯材21の抵抗せん断力Qsは、ロックボルト芯材21の断面積Asとせん断応力τsの積(Qs=As×τs)で求められる。また、ロックボルト芯材21周辺に充填されるグラウト23の抵抗せん断力Qgは、グラウト23の断面積Agとグラウト23のせん断応力τgの積(Qg=Ag×τg)で求められる。
【0074】
外側ロックボルト20の抵抗せん断応力は、ロックボルト芯材21の抵抗せん断力Qsとグラウト23の抵抗せん断力Qgを加算したもの(Qs+Qg)と考えることができる。外側ロックボルト20の特性が、ロックボルト芯材21の断面積As=350mm2, ロックボルト芯材21のせん断応力τs=150N/mm2, グラウト23の直径D=200mm, グラウト23のせん断応力τg=3N/mm2である場合、以下の値が算出される。
【0075】
外側ロックボルト20の総抵抗せん断力Qs + Qg = 350x150 + 3.14x200x200/4x3 = 146.7 kN
【0076】
外側ロックボルト20の上下方向の間隔(縦施工ピッチ)が1.5m、外側ロックボルト20の周方向の間隔(横施工ピッチ)が1.5mとすると、複数の外側ロックボルト20による平均の抵抗せん断応力τrb は (Qs + Qg)/(1.5x1.5) = 65.2 kN/m2となる。
【0077】
外側ロックボルト20による平均抵抗せん断応力τrb=65.2kN/m2であり、一方、外側地盤の破壊せん断応力τ=44.5kN/m2であった。このことは、外側ロックボルト20のせん断補強により、地盤の抵抗せん断応力が約2倍以上に向上したことを意味している。
【0078】
一方、内側ロックボルト30についても同様に平均せん断抵抗応力τrbを算出することができる。内側の埋め戻し土砂4については、原地盤とは異なり、締固めが低下するために、土質の内部摩擦角度φ=20度になると考えられるので、内側の地盤の破壊せん断応力τ=35.8kN/m2となる。つまり内側ロックボルト30のせん断補強により、地盤の抵抗せん断応力が約2倍以上に向上する。
【0079】
本発明による拡底基礎構造体と補強地盤の複合基礎構造物を施工する方法を、図4図7により説明する。
【0080】
図4を参照して、拡底基礎構造体を施工する所定の位置において、拡底底版12の平面(横断面)形状に一致するか、あるいは多少大きめの平面形状で、地表面2から下方に原地盤1を掘削する。原地盤1を鉛直に掘削することによって形成される掘削孔3への地盤崩壊を防止するために土留支保工(ライナープレートまたは吹付モルタル)11が掘削孔3の壁面に設けられる。土留支保工11の設置と原地盤1の掘削とを交互におこなうことによって、地盤崩壊を防止しながら掘削孔3が次第に深く掘り進められる。
【0081】
図5を参照して、所定の深さまで掘削を終えた後、外側ロックボルト20の施工を開始する。外側ロックボルト20は、図2で説明した要領で施工する。外側ロックボルト20の施工にあたっては、外側ロックボルト20の施工時の足場として、掘削底面を活用することができるために、別途の足場が不要である。すなわち、原地盤1の掘削、土留支保工11の設置、外側ロックボルト20の施工が交互に実施される。特別の施工機械を使用する必要はない。複数の外側ロックボルト20は土留支保工11から放射状に外向きにのびて土留支保工11の外側地盤に埋設される。
【0082】
図6を参照して、外側ロックボルト20の施工は、設計的に必要とされる区間で終了する。外側ロックボルト20の施工区間を超えると、外側ロックボルト20を施工せずに、所定の位置まで原地盤1の掘削と土留支保工11の設置とが交互に実施される。次に形成された掘削孔3内に拡底底版12および柱状体13を備える拡底基礎構造体が設置される。拡底基礎構造体12、13は、深礎基礎や逆T字基礎の形式にとらわれることなく、基本的に基礎底部に拡底底版12を有していればよい。また、拡底基礎構造体12、13は基本的にコンクリート材料を使用したRC構造やプレストレストコンクリート構造など、構造形式の制限はない。また、構築方法においても、場所打ちコンクリートでもプレキャストコンクリートでも、施工方法の制限はない。
【0083】
図7を参照して、拡底基礎構造体12、13を施工した後、掘削孔3(土留支保工11と拡底基礎構造体12、13との隙間)に掘削した土砂4を埋め戻し、かつ締め固める。図3を用いて説明したように、掘削孔3に埋め戻される土砂4の上面を足場にしながら内側ロックボルト30が設置される。複数の内側ロックボルト30は土留支保工11から内向きにのび,土留支保工11の内側地盤(埋め戻し土砂4)に埋設される。外側・内側ロックボルト20、30の施工区間は、設計的に必要とされる掘削境界面をせん断補強する区間である。拡底底版12の上面縁部は、すべり面40(図1参照)が形成される出発点である必要があるために、最下端部の外側・内側ロックボルト20、30の近傍よりも下側の土留支保工11については、基本的に撤去しながら、土砂4の埋め戻しと締固めを行う。
【0084】
図3を用いて説明したように、内側ロックボルト30は、外側ロックボルト20の施工時に設けた長ナット(カップラーナット)16にロックボルト芯材31をねじ込む(接合する)ことで、設置される。上述したように、内側ロックボルト30を設置するときの足場には埋め戻し土砂4の上面が用いられ、特別の足場架設は必要ない。土砂4の埋め戻し作業と、内側ロックボルト30の設置作業を交互に行うことで、あらかじめ設けられている外側ロックボルト20と一直線上に内側ロックボルト30が設けられ、かつ掘削孔3が土砂4によって次第に埋め戻されていく。
【0085】
なお、埋め戻し土砂4に関しては、基本的に掘削孔3を形成するために原地盤1を掘削したときに排出された掘削土砂を用いるが、掘削によって排出された土砂にセメントまたはセメントミルクを加え、撹拌して製造するソイルセメント材料を使用してもよい。ソイルセメント材料を用いることにより、せん断強度の向上、一軸圧縮強度の向上、せん断剛性や圧縮剛性の向上を容易に図ることができる。内側ロックボルト30を用いた地盤補強にプラス効果が働き、本発明のすべり面40がより確実に理論上の形態に近づくことになる。
【0086】
最終的に、図1に示すように本発明による拡底基礎構造体と補強地盤の複合基礎構造物が完成する。外側、内側ロックボルト20、30の仕様、外側、内側ロックボルト20、30の施工ピッチおよび施工範囲については、設計的事項である。
【符号の説明】
【0087】
1 原地盤
2 地表面
3 掘削孔
4 埋め戻し土砂
11 土留支保工
12 拡底底版部
13 柱状体
16 長ナット
20 外側ロックボルト
21 ロックボルト芯材
23 グラウト
24 吐出孔
30 内側ロックボルト
31 ロックボルト芯材
32 巻き付けコンクリート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7