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特開2022-60738透明膜の形状測定方法、及び膜付き物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060738
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】透明膜の形状測定方法、及び膜付き物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20220408BHJP
   G01B 11/06 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
G01B11/24 D
G01B11/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168393
(22)【出願日】2020-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆義
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB01
2F065BB22
2F065CC01
2F065FF51
2F065FF61
2F065GG04
2F065GG07
2F065GG23
2F065HH13
2F065HH17
2F065JJ03
2F065JJ09
2F065JJ26
2F065NN06
2F065QQ01
2F065QQ24
2F065QQ26
(57)【要約】
【課題】干渉画像を利用した透明膜の形状測定方法の測定精度を向上させる。
【解決手段】基材の表面に設けられた透明膜の形状測定方法は、画像取得工程と、輝度取得工程と、形状推定工程とを備えている。画像取得工程では、それぞれ50nm以上異なる3つの特定波長の単色光を独立して透明膜に照射して、透明膜からの反射光により生成される干渉画像を取得する。輝度取得工程では、干渉画像から特定波長における各輝度の測定値を取得する。形状推定工程では、各輝度の測定値に基づく輝度パラメータを、透明膜の屈折率に基づいて予め作成した、透明膜の膜厚と、輝度パラメータの理論値との関係を示す理論モデルと比較することにより、透明膜の膜厚を推定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に設けられた透明膜の表面形状及び膜厚の少なくとも一方を測定する透明膜の形状測定方法であって、
それぞれ50nm以上異なる3以上の特定波長の単色光を独立して又は同時に前記透明膜に照射して、前記透明膜からの反射光により生成される干渉画像を取得する画像取得工程と、
前記干渉画像から3以上の前記特定波長における各輝度の測定値を取得する輝度取得工程と、
前記各輝度の測定値に基づく輝度パラメータを、前記透明膜の屈折率に基づいて予め作成した、前記透明膜の膜厚と、前記輝度パラメータの理論値との関係を示す理論モデルと比較することにより、前記透明膜の膜厚を推定する形状推定工程とを備えることを特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
前記画像取得工程において、前記特定波長の単色光を独立して前記透明膜に照射するとともに、各単色光の反射光により生成される前記干渉画像を独立して取得することを特徴とする請求項1に記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記特定波長は、
600nm以上650nm以下の第1波長(R)と、
500nm以上550nm以下の第2波長(G)と、
400nm以上450nm以下の第3波長(B)とを含む請求項1又は請求項2に記載の形状測定方法。
【請求項4】
基材と、前記基材の表面に設けられた透明膜と、前記透明膜の表面に設けられた誘電体多層膜とを備える膜付き物品の製造方法であって、
前記基材の表面に前記透明膜を形成する透明膜形成工程と、
前記透明膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、
前記透明膜の表面に、前記透明膜の膜厚の測定値に基づいて設計した層構造の前記誘電体多層膜を形成する誘電体多層膜形成工程とを備え、
請求項1~3のいずれか一項に記載の形状測定方法を用いて前記膜厚測定工程を行うことを特徴とする膜付き物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明膜の表面形状及び膜厚の少なくとも一方の形状を測定する透明膜の形状測定方法、並びに膜付き物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板ガラスなどの基材の上に膜を設けた膜付き物品が知られている。膜付き物品に設けられた膜の表面形状及び膜厚は、例えば、共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した膜表面の高さプロファイルと、基材の厚さとから求めることができる。共焦点レーザー顕微鏡を用いた測定方法は、膜表面の高さプロファイルを短時間に高精度で得られる点において優れている。しかしながら、測定対象となる膜がアンチグレア膜などの透明膜である場合、膜が透明であること、及び膜と基材との間の屈折率の差に起因して、膜表面の高さプロファイルを正確に測定することはできない。
【0003】
特許文献1には、測定対象の透明膜に照明光を照射し、透明膜の表面の反射光と裏面の反射光により生成される干渉画像を利用して透明膜の膜厚を測定する膜厚測定方法が開示されている。干渉画像を利用した膜厚測定方法には、例えば、ハロゲン光源などの光源と、透明膜で発生する干渉画像を取り込む光学顕微鏡とを備える測定装置が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7-003365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される干渉画像を利用して透明膜の膜厚を測定する膜厚測定方法は、測定スポットの平均的な膜厚は測定できるが、表面形状の高さプロファイルは測定できないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、干渉画像を利用した透明膜の形状測定方法の測定精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する透明膜の形状測定方法は、基材の表面に設けられた透明膜の表面形状及び膜厚の少なくとも一方を測定する透明膜の形状測定方法であって、それぞれ50nm以上異なる3以上の特定波長の単色光を独立して又は同時に前記透明膜に照射して、前記透明膜からの反射光により生成される干渉画像を取得する画像取得工程と、前記干渉画像から3以上の前記特定波長における各輝度の測定値を取得する輝度取得工程と、前記各輝度の測定値に基づく輝度パラメータを、前記透明膜の屈折率に基づいて予め作成した、前記透明膜の膜厚と、前記輝度パラメータの理論値との関係を示す理論モデルと比較することにより、前記透明膜の膜厚を推定する形状推定工程とを備える。
【0008】
上記構成によれば、干渉画像を利用した透明膜の表面形状及び膜厚の測定精度を、透明膜以外の膜を対象とした場合の共焦点レーザー顕微鏡により測定した高さプロファイルを用いた方法に近い測定精度まで向上させることができる。
【0009】
上記形状測定方法において、前記画像取得工程において、前記特定波長の単色光を独立して前記透明膜に照射するとともに、各単色光の反射光により生成される前記干渉画像を独立して取得することが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、透明膜に照射する単色光ごとに、得られる干渉画像が鮮明になるように焦点の調整及び単色光の出力の調整を行うことが可能であり、これにより、光学顕微鏡を構成する各レンズに起因する色収差の影響を小さくできる。その結果、高分解能の干渉画像が得られる。
【0011】
上記形状測定方法において、前記特定波長は、600nm以上650nm以下の第1波長(R)と、500nm以上550nm以下の第2波長(G)と、400nm以上450nm以下の第3波長(B)とを含むことが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、測定精度を向上させる効果がより顕著に得られる。
上記課題を解決する膜付き物品の製造方法は、基材と、前記基材の表面に設けられた透明膜と、前記透明膜の表面に設けられた誘電体多層膜とを備える膜付き物品の製造方法であって、前記基材の表面に前記透明膜を形成する透明膜形成工程と、前記透明膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、前記透明膜の表面に、前記透明膜の膜厚の測定値に基づいて設計した層構造の前記誘電体多層膜を形成する誘電体多層膜形成工程とを備え、上記形状測定方法を用いて前記膜厚測定工程を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、干渉画像を利用した透明膜の形状測定方法の測定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】測定対象物の断面図。
図2】測定装置の概略図。
図3】透明膜の膜厚に対する第1輝度、第2輝度、第3輝度の各理論値の変化を示すグラフ。
図4】透明膜の膜厚に対する第1輝度、第2輝度、第3輝度の相対的な変化を示すグラフ。
図5】照射光のスペクトルを示すグラフ。
図6】ハロゲン光源を用いた場合における透明膜の膜厚に対する第1輝度、第2輝度、第3輝度の各理論値の変化を示すグラフ。
図7】ハロゲン光源を用いた場合における透明膜の膜厚に対する第1輝度、第2輝度、第3輝度の相対的な変化を示すグラフ。
図8】膜厚測定の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1に示すように、形状測定方法の測定対象物10は、基材11と、基材11の主面に設けられた透明膜12とを備えている。
【0016】
基材11は、第1主面11aと第1主面11aの反対側に位置する第2主面11bを有する透明又は不透明の基板である。基材11の厚みは特に限定されるものではなく、機械的物性等を考慮して適宜、設定できる。基材11の厚みは、例えば、0.05mm以上、10mm以下の範囲である。
【0017】
基材11の材質としては、例えば、ガラス、樹脂が挙げられる。ガラスとしては、例えば、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、石英ガラス等の公知のガラスを用いることができる。また、化学強化ガラス等の強化ガラスやLAS系結晶化ガラス等の結晶化ガラスを用いることもできる。
【0018】
ガラスとしては、アルミノシリケートガラスであることが好ましく、アルミノシリケートガラスは、質量%で、SiO:50~80%、Al:5~25%、B:0~15%、NaO:1~20%、KO:0~10%を含有することがより好ましい。樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びエポキシ樹脂が挙げられる。
【0019】
透明膜12は、1種類の組成の材質からなる単層の膜である。透明膜12としては、凹凸面によって光を散乱させるアンチグレア膜、回折格子やフレネルレンズ等を構成する膜が挙げられる。
【0020】
アンチグレア膜としては、例えば、SiO、Al、ZrO、及びTiOから選ばれる少なくとも一種の酸化物により構成される膜が挙げられる。アンチグレア膜は、例えば、マトリックス前駆体、及びマトリックス前駆体を溶解する液状媒体を含むコーティング剤を基材11の第1主面11aに塗布し、加熱することにより形成できる。コーティング剤に含まれるマトリックス前駆体としては、例えば、シリカ前駆体、アルミナ前駆体、ジルコニア前駆体、チタニア前駆体等の無機前駆体が挙げられる。
【0021】
透明膜12の膜厚は特に限定されるものではないが、例えば、10nm以上10μm以下の範囲である。また、透明膜12は、表面が凹凸面であるアンチグレア膜のように部位ごとに膜厚が変化するものであってもよいし、膜厚が一定のものであってもよい。
【0022】
透明膜12は、例えば、400nm以上700nm以下の波長域の光の平均透過率が50%以上である。
次に、図2に基づいて、本実施形態の形状測定方法に用いる測定装置20について説明する。
【0023】
測定装置20は、特定の照明光を出力する光源21と、測定対象物10の透明膜12で発生する干渉画像を取得する光学顕微鏡22とを備えている。
光源21は、照明光として、第1~第3波長の単色光を独立して又は同時に出力できる装置である。第1波長の単色光は、第1波長にピークを形成するスペクトルを有する単色光を意味する。第2波長の単色光及び第3波長の単色光も同様である。また、第1~第3波長の単色光を同時に出力するとは、第1~第3波長にピークを形成するスペクトルを有する照明光を出力することを意味する。本実施形態では、第1~第3波長が特定波長に相当する。
【0024】
第1~第3波長は、それぞれ50nm以上異なる波長であり、60nm以上異なる波長であることが好ましく、70nm以上異なる波長であることがより好ましい。
第1~第3波長は、透明膜12の光学膜厚の測定レンジに応じて、当該測定レンジ内の膜厚の差が干渉画像の色差としてより大きく表れるように選択することが好ましい。光学膜厚は透明膜12の屈折率と膜厚との積で定義される。第1~第3波長を高波長側に設定した場合には、光学膜厚が厚い測定レンジにおける光学膜厚の差が干渉画像の色差としてより大きく表れやすく、第1~第3波長を低波長側に設定した場合には、光学膜厚が薄い測定レンジにおける光学膜厚の差が干渉画像の色差としてより大きく表れやすい。例えば、光学膜厚測定レンジが0~850nmである場合には、400~600nmの範囲内に第1~第3波長を設定することが好ましく、光学膜厚測定レンジが100~950nmである場合には、450~650nmの範囲内に第1~第3波長を設定することが好ましい。
【0025】
第1~第3波長の単色光は、例えば、RGBの三色の単色光である。この場合、第1波長は、400nm以上450nm以下の波長であり、第1波長の単色光は、青の単色光である。第2波長は、500nm以上550nm以下の波長であり、第2波長の単色光は、緑の単色光である。第3波長は、600nm以上650nm以下の波長であり、第3波長の単色光は、赤の単色光である。
【0026】
光源21としては、例えば、LEDなどのダイオード、レーザー光源が挙げられる。
光源21は、光ケーブル23を介して光学顕微鏡22に接続されている。光ケーブル23の両端部には、光源21から照射された照明光を平行光にするコリメーターレンズ24が取り付けられている。
【0027】
光学顕微鏡22は、測定対象物10が載置される保持テーブル30と、光路上に配置されるハーフミラー31、対物レンズ32、及び結像レンズ33と、干渉画像を取得する光検出器34とを備えている。
【0028】
ハーフミラー31は、光ケーブル23を通じて照射された各単色光を保持テーブル30の方向に反射するとともに、保持テーブル30上に載置された測定対象物10からの反射光を通過させるための部材である。対物レンズ32は、ハーフミラー31からの照明光を測定対象物10の面に集光し、その反射像を拡大するためのレンズである。結像レンズ33は、透明膜12の表面の反射光と基材11との界面の反射光とにより生成される干渉画像を結像する。
【0029】
光検出器34は、干渉による輝度の空間的な変動を画像として取得する。具体的には、第1~第3波長の単色光の2次元の輝度画像として干渉画像を個々に画像データ化する。光検出器34としては、例えば、CCD固体撮像素子、フォトダイオードアレイ、MOSイメージセンサ、CMOSイメージセンサが挙げられる。
【0030】
次に、本実施形態の形状測定方法について説明する。
まず、調整工程として、光学顕微鏡22の保持テーブル30に、反射率が既知の測定サンプルを設置する。測定サンプルとしては、透明膜12を設けていない基材11を用いることが好ましい。
【0031】
調整工程では、第1補正情報として、光源21から第1波長の単色光を照射した場合における光学顕微鏡22の面内の輝度分布、及び画素ごとの単色光の出力と光検出器34の画像素子出力との関係情報を取得する。同様に、第2補正情報及び第3補正情報として、第2波長の単色光を照射した場合、及び第3波長の単色光を照射した場合における光学顕微鏡22の面内の輝度分布、及び画素ごとの単色光の出力と光検出器34の画像素子出力との関係情報をそれぞれ取得する。
【0032】
調整工程の後、光学顕微鏡22の保持テーブル30に、透明膜12が上側を向くように測定対象物10を載置した状態として、以下に記載する画像取得工程、輝度取得工程、及び形状推定工程順に行う。
【0033】
(画像取得工程)
画像取得工程では、光源21から第1波長の単色光を照射する。測定対象物10の透明膜12の表面の反射光と基材11との界面の反射光とにより生成される干渉画像を確認し、その干渉画像が鮮明になるように焦点を調整するとともに、第1波長の単色光の出力を調整する。調整後の干渉画像を第1干渉画像として取得する。
【0034】
次いで、光源21から第2波長の単色光を照射する。測定対象物10の透明膜12の表面の反射光と基材11との界面の反射光とにより生成される干渉画像を確認し、干渉画像が鮮明になるように焦点を調整するとともに、第2波長の単色光の出力を調整する。調整後の干渉画像を第2干渉画像として取得する。
【0035】
次いで、光源21から第3波長の単色光を照射する。測定対象物10の透明膜12の表面の反射光と基材11との界面の反射光とにより生成される干渉画像を確認し、干渉画像が鮮明になるように焦点を調整するとともに、第3波長の単色光の出力を調整する。調整後の干渉画像を第3干渉画像として取得する。
【0036】
光源21としてレーザー光源を用いた場合には、画像取得工程において、振動機構(図示略)を用いて光ケーブル23を振動させることが好ましい。レーザー光源からのレーザー光を直接、光学顕微鏡22に導入すると、レーザー光が有する干渉性の強いコヒーレンス特性により、取得される干渉画像にスペックルと呼ばれるぎらつきが発生する場合がある。光ケーブル23を、画像素子の露出時間より短い時間で、空間的及び時間的に周期性をもたないように振動させることで、干渉画像に発生するスペックルを抑制できる。調整工程においても、同様に光ケーブル23を振動させてもよい。
【0037】
(輝度取得工程)
輝度取得工程では、第1干渉画像から、任意の測定座標の輝度を取得し、取得した輝度を、調整工程において取得した第1補正情報を用いて補正することにより、測定座標の第1輝度L1を算出する。同様にして、第2干渉画像から、測定座標の輝度を取得し、取得した輝度を、調整工程において取得した第2補正情報を用いて補正することにより、測定座標の第2輝度L2を算出する。また、第3干渉画像から、測定座標の輝度を取得し、取得した輝度を、調整工程において取得した第3補正情報を用いて補正することにより、測定座標の第3輝度L3を算出する。以下、輝度取得工程にて取得した第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3をそれぞれ、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の測定値と記載する。
【0038】
(形状推定工程)
形状推定工程では、まず、透明膜12の膜厚と、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の各理論値との関係を表す理論モデルを作成する。理論モデルは、測定対象物10の透明膜12の屈折率とフレネルの式とを用いることにより作成できる。
【0039】
図3及び図4は、透明膜12の屈折率が1.44であり、第1波長638nm、第2波長520nm、第3波長445nmである場合について、透明膜12の膜厚と、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の各理論値との関係を示したグラフである。
【0040】
図3のグラフは、透明膜12の膜厚に対する第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の各理論値の変化曲線を示している。図3に示すように、この場合の第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の各理論値は、透明膜12の膜厚が増加するにしたがって周期的に増減している。また、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の各理論値は、透明膜12の膜厚が厚くなるにしたがって、位相のずれが大きくなっている。
【0041】
図4のグラフは、透明膜12の膜厚に対する第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の相対的な変化を示している。具体的には、第2輝度L2を第1輝度L1で除した第1相対値r1(=L2/L1)を縦軸とし、第3輝度L3の理論値を第1輝度L1の理論値で除した第2相対値r2(=L3/L1)を横軸としたグラフに、透明膜12の膜厚ごとの第1相対値及び第2相対値により特定される点をプロットしたものである。各プロットの横の数値は、当該プロットに対応する膜厚(nm)である。
【0042】
図4に示すように、第1相対値及び第2相対値により特定される点は、膜厚が厚くなるにしたがって、螺旋状に連続的かつ規則的に変化する。理論モデルは、第1相対値r1及び第2相対値r2からなる輝度パラメータと、透明膜12の膜厚との間の相関関係を表すモデルである。輝度パラメータは、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の相対的な関係を示している。
【0043】
次に、理論モデルを用いて、輝度取得工程にて取得された、測定座標の第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の各測定値から、透明膜12の測定座標の膜厚を推定する。
詳述すると、測定座標の第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の各測定値から、輝度パラメータの測定値を算出する。そして、理論モデルを構成する輝度パラメータの理論値のうち、輝度パラメータの測定値に最も近い輝度パラメータの理論値を求め、その輝度パラメータの理論値により特定される膜厚を、測定座標の膜厚と推定する。輝度パラメータの理論値と輝度パラメータの測定値とが近いとは、第1相対値r1及び第2相対値r2を縦軸及び横軸とする二次元座標上における距離が近いことを意味する。
【0044】
理論モデルを用いて測定座標の膜厚を推定する際には、透明膜12の形状に基づいて、測定座標に隣接する画素の情報による重み付けを行ってもよい。例えば、膜厚が一定又は連続的に変化する透明膜12であるとする。そして、測定座標P1の膜厚を推定した後、測定座標P1に隣接する測定座標P2の膜厚を連続して推定する際に、理論モデルを構成する輝度パラメータの理論値の中に、輝度パラメータの測定値に最も近い輝度パラメータの理論値が2点以上、存在したとする。この場合、先に推定されている測定座標P1の膜厚を参照して、輝度パラメータの測定値に最も近い輝度パラメータの理論値のそれぞれにより特定される膜厚のうち、測定座標P1の膜厚に近い膜厚を、測定座標P2の膜厚と推定する。
【0045】
また、透明膜12の表面形状を推定する場合には、推定した透明膜12の厚みと基材11の厚みとから透明膜12の高さプロファイルを求め、求めた高さプロファイルから透明膜12の表面形状を推定する。透明膜12の表面形状の推定は省略してもよい。
【0046】
本実施形態の形状測定方法は、例えば、基材11に設けられた透明膜12の上に更に誘電体多層膜が設けられた膜付き物品の製造方法に適用できる。
誘電体多層膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された構造を有する。高屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、窒化珪素等が挙げられる。低屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、フッ化マグネシウムが挙げられる。誘電体多層膜を構成する各誘電体層の物理膜厚及び材質、並びに誘電体層の層数に関しては、誘電体多層膜の種類(光学特性)に応じて設計される。誘電体多層膜の種類としては、例えば、反射防止膜、ハーフミラー、バンドパスフィルタが挙げられる。
【0047】
誘電体多層膜を有する膜付き物品の製造方法は、まず、透明膜形成工程として、基材11の第1主面11aに透明膜12を形成する。次いで、膜厚測定工程として、本実施形態の形状測定方法を用いて、基材11に形成された透明膜12の膜厚を測定する。その後、誘電体多層膜形成工程として、測定された透明膜12の膜厚に基づいて、所望の光学特性が得られるように誘電体多層膜の層構造を設計した後、透明膜12の上に設計した層構造の誘電体多層膜を形成する。誘電体多層膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法等の公知の成膜方法を用いて、透明膜12の表面に形成することができる。
【0048】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の形状測定方法では、それぞれ50nm以上異なる第1~第3波長の単色光を出力できる光源21を用いている。これにより、ハロゲン光源などの従来の膜厚測定方法に適用されている光源を用いた場合と比較して、透明膜12の膜厚の測定精度が向上する。
【0049】
図5は、本実施形態の光源21からの照射される各単色光のスペクトルA~Cと、ハロゲン光源からの照射光のスペクトルDを示す。ハロゲン光源からの照射光は、高波長域の光の出力と比較して、低波長域の光の出力が弱い。
【0050】
図6及び図7は、ハロゲン光源を照射した場合に得られる干渉画像から取得される検出波長638nm(第1波長)の第1輝度L1、検出波長520nm(第2波長)の第2輝度L2、検出波長445nm(第3波長)の第3輝度L3の各理論値と、透明膜12の膜厚との関係を示したグラフである。ハロゲン光源は、低波長域の光の出力が弱いため、図6に示すように、透明膜12の膜厚の変化に対する第3輝度L3の変化幅が小さくなる。これにより、図7に示すように、第1相対値r1及び第2相対値r2を縦軸及び横軸とする二次元座標上において、輝度パラメータが取り得る範囲が狭くなる。
【0051】
これに対して、図4に示すように、第1~第3波長の単色光を出力できる光源21を用いた場合には、図7に示すハロゲン光源を用いた場合と比較して、上記二次元座標上において、輝度パラメータが取り得る範囲が広くなる。これにより、二次元座標上における輝度パラメータの位置を特定する際の分解能が向上し、その結果、二次元座標上における輝度パラメータの位置の比較に基づく膜厚の推定精度が向上する。
【0052】
実際に、同じ測定対象物10の同じ測定線上に位置する各測定座標における透明膜12の膜厚について、本実施形態の光源21であるレーザー光源及び図4に示す理論モデルを用いた実施例の推定結果、並びにハロゲン光源及び図7に示す理論モデルを用いた比較例の推定結果を図8に示す。また、参考例として、同じ測定対象物10の透明膜12の表面に膜厚一定の金属膜を形成した状態として、共焦点レーザー顕微鏡を用いて金属膜表面の高さプロファイルを測定した。その結果を、図8に重ねて示す。
【0053】
図8に示すように、実施例の推定結果は、参考例である共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した高さプロファイルと良い一致を示した。実施例の結果と参考例の結果との相関係数は、「0.90」であった。これに対して、比較例の結果と参考例の結果との相関係数は、「0.53」であった。
【0054】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)基材11の表面に設けられた透明膜12の形状測定方法は、画像取得工程と、輝度取得工程と、形状推定工程とを備えている。画像取得工程では、それぞれ50nm以上異なる3つの特定波長の単色光を独立して透明膜12に照射して、透明膜12からの反射光により生成される干渉画像を取得する。輝度取得工程では、干渉画像から特定波長における各輝度の測定値を取得する。形状推定工程では、各輝度の測定値に基づく輝度パラメータを、透明膜12の屈折率に基づいて予め作成した、透明膜12の膜厚と、輝度パラメータの理論値との関係を示す理論モデルと比較することにより、透明膜12の膜厚を推定する。
【0055】
上記構成によれば、干渉画像を利用した透明膜の表面形状及び膜厚の測定精度を、透明膜以外の膜を対象とした場合の共焦点レーザー顕微鏡により測定した高さプロファイルを用いた方法に近い測定精度まで向上させることができる。
【0056】
(2)画像取得工程において、第1~第3波長の単色光を独立して透明膜12に照射している。そして、第1波長の単色光の反射光により生成される第1干渉画像、第2波長の単色光の反射光により生成される第2干渉画像、及び第3波長の単色光の反射光により生成される第3干渉画像を独立して取得している。
【0057】
上記構成によれば、透明膜12に照射する単色光ごとに、得られる干渉画像が鮮明になるように焦点の調整及び単色光の出力の調整を行うことが可能であり、これにより、光学顕微鏡22を構成する各レンズに起因する色収差の影響を小さくできる。その結果、高分解能の干渉画像が得られる。
【0058】
(3)第1波長、第2波長、及び第3波長は、RGBに相当する3色の光の波長である。
上記構成によれば、上記(1)の効果がより顕著に得られる。
【0059】
(4)輝度パラメータは、第1輝度L1に対する第2輝度L2及び第3輝度L3の各相対値r1,r2である。
上記構成によれば、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3をそのまま輝度パラメータとして用いた場合と比較して、輝度パラメータの次元数を減らすことができる。これにより、理論モデルと比較して膜厚を推定する作業が容易になる。
【0060】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第1~第3波長の単色光を独立して透明膜12に照射して、第1反射画像、第2反射画像、及び第3反射画像を独立して取得することに代えて、第1~第3波長の単色光を含む照射光の反射光により生成される合成干渉画像を取得してもよい。この場合、合成干渉画像から抽出した第1~第3波長の輝度をそれぞれ第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の測定値とする。
【0061】
・輝度パラメータは、第2輝度L2に対する第1輝度L1及び第3輝度L3の相対値であってもよいし、第3輝度L3に対する第1輝度L1及び第2輝度L2の相対値であってもよい。
【0062】
・輝度パラメータは、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の関係を示すものであればよく、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3の間の相対値に限定されない。例えば、第1輝度L1、第2輝度L2、第3輝度L3をそのまま輝度パラメータとして用いてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、特定波長の数が3である場合について説明したが、特定波長の数は4以上であってもよい。この場合、特定波長の数の変更に応じて、輝度パラメータを構成する輝度の数も同様に変更する。
【0064】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)前記輝度パラメータは、前記各輝度のうちのいずれか一つの輝度に対する、その他の輝度の相対値である前記形状測定方法。
【0065】
(ロ)基材の表面に設けられた透明膜の表面形状及び膜厚の少なくとも一方を測定する形状測定方法であって、それぞれ50nm以上異なる第1~第3波長の単色光を独立して又は同時に前記透明膜に照射して、前記透明膜からの反射光により生成される干渉画像を取得する画像取得工程と、前記干渉画像から前記第1波長の輝度、前記第2波長の輝度、及び前記第3波長の輝度の測定値を取得する輝度取得工程と、前記第1波長の輝度、前記第2波長の輝度、及び前記第3波長の輝度の前記測定値に基づく輝度パラメータを、前記透明膜の屈折率に基づいて予め作成した、前記透明膜の膜厚と、前記輝度パラメータの理論値との関係を示す理論モデルと比較することにより、前記透明膜の膜厚を推定する形状推定工程とを備えることを特徴とする形状測定方法。
【0066】
(ハ)前記画像取得工程において、前記第1~第3波長の単色光を独立して前記透明膜に照射し、前記第1波長の単色光の反射光により生成される第1反射画像と、前記第2波長の単色光の反射光により生成される第2反射画像と、前記第3波長の単色光の反射光により生成される第3反射画像とを取得し、前記輝度取得工程において、前記第1反射画像から前記第1波長の輝度を取得し、前記第2反射画像から前記第2波長の輝度を取得し、前記第3反射画像から前記第3波長の輝度を取得する前記形状測定方法。
【符号の説明】
【0067】
10…測定対象物
11…基材
12…透明膜
20…測定装置
21…光源
22…光学顕微鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8