IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンスター株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060747
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】抗ウイルス用口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20220408BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20220408BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220408BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K8/34
A61Q11/00
A61K8/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168407
(22)【出願日】2020-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 依里香
(72)【発明者】
【氏名】小峰 陽比古
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 順也
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB172
4C083AB242
4C083AB322
4C083AB472
4C083AC101
4C083AC102
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC131
4C083AC132
4C083AC302
4C083AC432
4C083AC691
4C083AC692
4C083AC862
4C083AD211
4C083AD212
4C083AD272
4C083AD282
4C083AD302
4C083AD352
4C083AD532
4C083CC41
4C083EE31
(57)【要約】
【課題】口腔において殺菌剤、殺真菌剤として汎用される塩化セチルピリジニウムは、ウイルスに対しては短時間で効果が発揮できず、口腔や咽喉の粘膜に付着したウイルスを短時間で不活化することができる抗ウイルス用口腔用組成物が所望されている。
【解決手段】塩化セチルピリジニウムを含有し、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコール、およびトレハロースをさらに配合した抗エンベロープウイルス用口腔用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化セチルピリジニウム、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコール、およびトレハロースを含有する抗エンベロープウイルス用口腔用組成物。
【請求項2】
前記塩化セチルピリジニウムを0.01~0.5質量%、前記グリセリンを40~80質量%、前記ソルビトールを5~25質量%、前記エチルアルコールを1~10質量%、前記プロピレングリコールを1~10質量%、前記トレハロースを0.1~1質量%含有する、請求項1に記載の抗エンベロープウイルス用口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス用の口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化セチルピリジニウムなどの第四級アンモニウム塩には、口腔内細菌に対する殺菌作用があり、従来、う蝕や歯周病の予防等の目的で口腔用組成物に使用されている(特許文献1)。また、これら第四級アンモニウム塩は真菌の増殖を妨げることから、従来、防腐を目的として口腔用組成物以外の化粧品、医薬部外品、医薬品組成物に使用されている(特許文献2)。このように、第四級アンモニウム塩は、細菌や真菌等に対しては高い殺菌、増殖抑制効果を示す一方、ウイルスに対する効果が低いことが知られている(非特許文献1)。また、塩化セチルピリジニウムは、ウイルスとの接触時間が15秒程度と短い場合には十分な不活化効果が得られない事が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-239723号公報
【特許文献2】特開2018-39828号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会監修、「JAMT技術教本シリーズ 臨床微生物検査技術教本」丸善出版、2017年3月発行、p.53
【非特許文献2】富田勉他、「消毒剤を含有する市販ハンドソープ及びうがい剤製品の殺菌ウイルス不活化作用」、感染症学雑誌、2018年 Vol.92 No.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ウイルス性の新規感染症が世界的な感染爆発を引き起こした事例が複数発生したことを受け、手指および身の回りの物品のウイルス除去・消毒だけでなく、口腔や咽喉の粘膜に付着したウイルスを日常的に除去、消毒、または不活化することができ、当該部位からの感染を抑制可能な手段が求められている。しかしながら、手指や物品に用いられるグルタラール、フタラール、過酢酸、エチルアルコール、次亜塩素酸ナトリウムなどは抗ウイルス効果が得られる濃度で粘膜に用いることができないため口腔や咽喉粘膜に使用することができる安全性の高い物質であり、かつ口腔や咽喉に製剤が接触又は滞留しうる程度の短時間で抗ウイルス効果を発揮する製剤が所望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、驚くべきことに、塩化セチルピリジニウムを含有する口腔用組成物において、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコールおよびトレハロースをさらに配合することで、抗ウイルス効果を短時間で得ることができることを見出した。
【0007】
本発明は、例えば以下に記載の発明を包含する。
項1.
塩化セチルピリジニウム、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコール、およびトレハロースを含有する抗エンベロープウイルス用口腔用組成物。
項2.
前記塩化セチルピリジニウムを0.01~0.5質量%、前記グリセリンを40~80質量%、前記ソルビトールを5~25質量%、前記エチルアルコールを1~10質量%、前記プロピレングリコールを1~10質量%、前記トレハロースを0.1~1質量%含有する、項1に記載の抗エンベロープウイルス用口腔用組成物。
項3.
前記エンベロープウイルスが、インフルエンザウイルス、ヒトヘルペスウイルス、またはコロナウイルスである、項1または項2に記載の抗エンベロープウイルス用口腔用組成物。
項4.
前記エンベロープウイルスが、インフルエンザウイルス、またはヒトヘルペスウイルスである、項1または項2に記載の抗エンベロープウイルス用口腔用組成物。
項5.
グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコール、およびトレハロースからなる、塩化セチルピリジニウムの抗エンベロープウイルス効果向上剤。
項6.
塩化セチルピリジニウムを含有する口腔用組成物に、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコール、およびトレハロースをさらに配合することを特徴とする、前記塩化セチルピリジニウムの抗エンベロープウイルス効果を向上させる方法。
項7.
塩化セチルピリジニウムを含有する口腔用組成物に、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコール、およびトレハロースをさらに配合することを特徴とする、前記塩化セチルピリジニウムによる抗エンベロープウイルス効果の発現時間を短縮する方法。
【発明の効果】
【0008】
口腔や咽喉粘膜に使用することができ、かつ短時間で抗ウイルス効果を発揮する口腔用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。なお、本発明は口腔用組成物、特に、塩化セチルピリジニウム、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコールおよびトレハロースを含む口腔用組成物等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本発明は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0010】
本発明で用いられる塩化セチルピリジニウムは、組成物全量に対して0.01~0.5質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.02、0.03、0.04.0.05、0.1、0.15、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、又は0.5質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.03~0.4質量%、又は0.05~0.3質量%であることがより好ましい。
【0011】
本発明で用いられるグリセリンは、組成物全量に対して40~80質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限又は下限は、例えば、45、50、55、60、65、70、71、75、又は80質量%であってもよい。例えば、当該範囲は50~70質量%、又は55~65質量%であることがより好ましい。
【0012】
本発明で用いられるソルビトールは、D-ソルビトールが好ましく、組成物全量に対して5~25質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限又は下限は、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、又は24質量%であってもよい。例えば、当該範囲は8~25質量%、又は10~20質量%であることがより好ましい。
【0013】
本発明で用いられるエチルアルコールは、組成物全量に対して1~10質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限又は下限は、例えば、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8.5、9、又は9.5質量%であってもよい。例えば、当該範囲は1.5~7質量%、又は2~5質量%であることがより好ましい。
【0014】
本発明で用いられるプロピレングリコールは、組成物全量に対して1~10質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限又は下限は、例えば、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8.5、9、又は9.5質量%であってもよい。例えば、当該範囲は1.5~7質量%、又は2~5質量%であることがより好ましい。
【0015】
本発明で用いられるトレハロースは、組成物全量に対して0.1~1質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限又は下限は、例えば、0.15.0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、又は0.95質量%であってもよい。例えば、当該範囲0.1~0.6質量%、又は0.2~0.4質量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明の口腔用組成物は抗ウイルス効果を有するので、抗ウイルス用口腔用組成物、又は抗ウイルス剤として好適に使用することができる。なお、本明細書において、「抗ウイルス」には、ウイルスの増殖を抑制すること、ウイルスを不活化すること、ウイルスの感染価を低下すること、ウイルスの感染力を低下すること、ウイルスへの感染を抑制すること、ウイルスを殺菌すること、ウイルスを死滅させること、ウイルスを殺すこと、等が包含される。
【0017】
本発明の口腔用組成物が対象とするウイルスとしては、特に制限されないが、例えばインフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、SARSウイルス、MERSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、マウス白血病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルス等のエンベロープウイルス(エンベロープを有するウイルス)が挙げられ、より好ましくはインフルエンザウイルス、ヒトヘルペスウイルス、コロナウイルスが挙げられる。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、固形組成物、液体組成物でありえる。当該口腔用組成物は、例えば医薬品、医薬部外品として用いることができる。また、本開示の口腔用組成物の形態は、特に限定するものではないが、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、ジェル剤、スプレー剤であることが好ましい。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
【0020】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えば、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8~10、アルキル基の炭素数が13~15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10~18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N-ココイル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N-ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1~5質量%である。
【0021】
また、香味剤として、例えば、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して例えば0.001~1.5質量%配合することができる。
【0022】
また、甘味剤として、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等を用いることができる。これらは、組成物全量に対して例えば0.01~1質量%配合することができる。
【0023】
さらに、湿潤剤として、エチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0024】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。
【0025】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。
【0026】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0027】
本発明の口腔用組成物には、塩化セチルピリジニウムのみならず、さらに、薬効成分として酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等の非イオン性殺菌剤、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアニオン系殺菌剤、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン系殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、ヒノキチオール、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0028】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。
【0029】
また、本発明の口腔用組成物は、公知の方法または公知の方法から容易に想到する方法により調製することができる。例えば、塩化セチルピリジニウム及び必要に応じてその他の成分等を適宜混合することによって調製することができる。
【0030】
本発明の口腔用組成物を適用する対象は、特に限定はされず、ヒト及び非ヒト哺乳類が好ましく挙げられる。非ヒト哺乳類としては、家畜やペットなどが好ましく、より具体的には例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヒツジ、サル等が挙げられる。また、本発明の口腔用組成物は、特に限定はされないが、上記の通り、塩化セチルピリジニウムがウイルスを短時間で不活化できることから、ウイルスが口腔粘膜又は咽喉粘膜に付着している、抗ウイルス剤を服用することができない、又はうがいや洗口の際に製剤を粘膜に長い時間接触させることができない対象の口腔または咽喉に適用するために、特に適しているということができる。
【0031】
また、本発明は、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコールおよびトレハロース、並びに、塩化セチルピリジニウムを含有することを含む、前記塩化セチルピリジニウムの抗ウイルス効果を高め、感染価を低下させる方法をも包含する。
【0032】
また、本発明は、グリセリン、ソルビトール、エチルアルコール、プロピレングリコールおよびトレハロースからなる、塩化セチルピリジニウムの抗ウイルス効果向上剤をも包含する。
【0033】
本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of.”)。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0034】
以下に実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0035】
<ウイルス感染価測定によるウイルス不活化能試験>
[試験材料・条件等]
以下、表1に本実施例の試験材料および条件を示す。
【表1】
【0036】
[プラーク測定法による抗ウイルス活性値測定]
まず、前記宿主細胞にA型インフルエンザウイルス(H1N1)を感染させ、培養後、遠心分離して得られた上澄み液をウイルス懸濁液とした。次いで、表2に記載の組成物それぞれ0.9mlに、前記ウイルス懸濁液0.1mlを加え試験液とし、室温(25℃)で所定時間静置し、所定時間経過後に薬剤不活性剤で10倍希釈後、EMEMで10倍希釈し反応を停止した。反応停止後の試験液を10^0として、EMEMで10倍希釈系列を作製し、反応停止後の試験液0.1ml当たりのウイルス感染価(PFU(Plaque Forming Unit)/ml)を測定し、試験液1ml当たりのウイルス感染価を算出した。同様の操作を対照サンプルでも行い、対照サンプルのウイルス感染価を算出した。ウイルス感染価に基づいて、以下の式より、抗ウイルス活性値(ウイルス感染価の常用対数値の減少値)を算出した。
【0037】
抗ウイルス活性値 Mv=(対照サンプル3検体のウイルス感染価の常用対数値の平均値)―(試験サンプル3検体のウイルス感染価の常用対数値の平均値)
【0038】
試験の結果を表2に示す。比較例1は、塩化セチルピリジニウムのみの溶液による抗ウイルス効果を示しており、従来知られていた通り、口腔用組成物の使用、又は口腔用組成物が口腔や咽喉粘膜に滞留する時間として想定されうる20秒の作用時間では抗ウイルス効果が認められない。また、表2には示していないが、比較例1の組成物を上記試験方法で300秒間作用させると抗ウイルス効果が認められる。これに対して実施例1の組成物では、同じ濃度の塩化セチルピリジニウムにより、20秒の作用時間において抗ウイルス活性値が2.82となり、対照サンプル(滅菌超純水)に比してウイルスの感染価が低下し、抗ウイルス効果が得られることが示された。
【0039】
【表2】
【0040】
さらに、表4に記載の組成物を常法にて調製し、実施例1と同様の方法で抗ウイルス活性値を測定したところ、実施例2の組成物は、A型インフルエンザウイルス(H1N1)、およびA型インフルエンザウイルス(H3N2)に対して、実施例1と同等の抗ウイルス効果を示した。
【実施例0041】
<ウイルス感染価測定によるウイルス不活化能試験>
[試験材料・条件等]
以下、表3に本実施例の試験材料および条件を示す。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
[TCID50法による抗ウイルス活性値測定]
表4に記載の組成物を常法にて調製した。試験ウイルスは表3に記載の通り、エンベロープありのウイルス、エンベロープなしのウイルスを2種類ずつ使用した。なお、ネコカリシウイルスは、細胞培養が不可能なノロウイルスの代替ウイルスとして広く使用されている。
【0045】
まず、表3に記載の各ウイルスに対応する宿主細胞に試験ウイルスを感染させ、培養後、遠心分離して得られた上澄み液をウイルス懸濁液とした。次いで、表3に記載の通り試験サンプル又は試験サンプル希釈液1mlに、前記ウイルス懸濁液0.1mlを加え試験液とし、室温で所定時間静置し、所定時間経過後に前記中和条件にて反応を停止した。前記試験液1ml当たりのウイルス感染価(TCID50(median tissue culture infectious dose, 50%組織培養感染量)/mL)を算出した。同様の操作を対照サンプルでも行い、対照サンプルのウイルス感染価を算出した。ウイルス感染価に基づいて、以下の式より、抗ウイルス活性値(ウイルス感染価の常用対数値の減少値)を算出した。
【0046】
抗ウイルス活性値 Mv=(対照サンプルのウイルス感染価の常用対数値)―(試験サンプルのウイルス感染価の常用対数値)
【0047】
試験の結果を表5に示す。実施例2の組成物は、エンベロープウイルス(エンベロープを有するウイルス)であるインフルエンザウイルスおよびヒトヘルペスウイルスに対して抗ウイルス効果を示した。一方で、エンベロープを有しないネコカリシウイルスおよびアデノウイルスに対して抗ウイルス効果は認められなかった。
【0048】
【表5】
インフルエンザウイルス及びヒトヘルペスウイルスのウイルス感染価は検出限界以下であった。
【0049】
表6に、本発明の口腔用組成物の処方例を示す。なお各処方の配合量(%)は特に記載のない限り質量%を示す。
【0050】
【表6】