(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060783
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220408BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20220408BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220408BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220408BHJP
G01N 1/36 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 A
B22F3/00 C
B22F3/02 R
G01N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168461
(22)【出願日】2020-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】宇根 康裕
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】横田 和昌
(72)【発明者】
【氏名】水谷 孝之
【テーマコード(参考)】
2G052
4K018
5E062
【Fターム(参考)】
2G052AA11
2G052AD32
2G052AD52
2G052FD11
4K018BA13
4K018BA18
4K018BC12
4K018CA04
4K018CA08
4K018CA11
4K018FA47
4K018GA04
4K018KA45
5E062CD02
5E062CE01
(57)【要約】
【課題】焼結前の成形体における密度分布および割れや欠けの有無を正確に把握可能な磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法の提供。
【解決手段】潤滑剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填して粉末成形体を内部に含む充填済モールドを得る充填工程と、前記充填済モールドの内部から、前記粉末成形体を分離する分離工程と、分離された前記粉末成形体に樹脂を含侵させ、樹脂含有体を得る含侵工程と、を備える、磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填して粉末成形体を内部に含む充填済モールドを得る充填工程と、
前記充填済モールドの内部から、前記粉末成形体を分離する分離工程と、
分離された前記粉末成形体に樹脂を含侵させ、樹脂含有体を得る含侵工程と、
を備える、磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
【請求項2】
前記分離工程が、
前記潤滑剤の少なくとも一部が分解する温度にて、前記充填済モールドを加熱した後、前記充填済モールドの内部から、前記粉末成形体を分離する工程である、
請求項1に記載の磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
【請求項3】
前記充填工程が、
前記潤滑剤を含む前記磁石用粉末を前記モールドへ充填した後、磁場をかけて前記磁石用粉末を配向させ、配向された前記粉末成形体を内部に含む前記充填済モールドを得る工程である、
請求項1または2に記載の磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
【請求項4】
前記充填工程、前記分離工程または前記含侵工程における各操作を、不活性ガス雰囲気内または真空内において行う、請求項1~3のいずれかに記載の磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石用粉末をモールドへ充填し成形体を形成した後、焼結することで磁石を得る磁石製造方法では、従来、焼結前の成形体が意図した通りの性状となっているかを確認することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、成形体を焼結して得られる磁石について密度分布や配向分布を測定することで、焼結前の成形体における密度分布や配向分布を推定し、これが意図した通りのものかを検討することで、製造工程が適正であるかを把握し、工程改良に役立てていた。また、同様に、成形体を焼結して得られる磁石について割れや欠けの有無等を確認することで、焼結前の成形体における割れや欠けの有無等を推定し、製造工程の良否を把握し、工程改良に役立てていた。
【0004】
しかしながら、磁石の性状から、焼結前の成形体の性状を正確に把握することは困難である。例えば、割れや欠けが発生した場合、それが焼結前に生じていたものであるか焼結中に生じたものであるかを、焼結後に得られる磁石の状態から判断することは困難である。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、焼結前の成形体における密度分布および割れや欠けの有無を正確に把握可能な磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は下記(1)~(4)である。
(1)潤滑剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填して粉末成形体を内部に含む充填済モールドを得る充填工程と、
前記充填済モールドの内部から、前記粉末成形体を分離する分離工程と、
分離された前記粉末成形体に樹脂を含侵させ、樹脂含有体を得る含侵工程と、
を備える、磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
(2)前記分離工程が、
前記潤滑剤の少なくとも一部が分解する温度にて、前記充填済モールドを加熱した後、前記充填済モールドの内部から、前記粉末成形体を分離する工程である、
上記(1)に記載の磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
(3)前記充填工程が、
前記潤滑剤を含む前記磁石用粉末を前記モールドへ充填した後、磁場をかけて前記磁石用粉末を配向させ、配向された前記粉末成形体を内部に含む前記充填済モールドを得る工程である、
上記(1)または(2)に記載の磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
(4)前記充填工程、前記分離工程または前記含侵工程における各操作を、不活性ガス雰囲気内または真空内において行う、上記(1)~(3)のいずれかに記載の磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、焼結前の成形体における密度分布および割れや欠けの有無を正確に把握可能な磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について説明する。
本発明は、潤滑剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填して粉末成形体を内部に含む充填済モールドを得る充填工程と、前記充填済モールドの内部から、前記粉末成形体を分離する分離工程と、分離された前記粉末成形体に樹脂を含侵させ、樹脂含有体を得る含侵工程と、を備える、磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法である。
このような磁石製造工程の評価用サンプルの製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0009】
<充填工程>
本発明における充填工程について説明する。
本発明の充填工程では、初めに、潤滑剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填する。
【0010】
潤滑剤としては、例えば実質的に圧縮成形しないPLP(Press Less Process)磁石を製造する際に用いる従来公知の潤滑剤を用いることができる。
潤滑剤として、例えばステアリン酸亜鉛、脂肪酸エステル、オレイン酸アミド等を用いることができる。
【0011】
磁石用粉末としては、例えばPLP磁石を製造する際に用いる従来公知の磁石用粉末を用いることができる。
磁石用粉末として、例えば希土類系(ネオジム系、サマリウムコバルト系)、フェライト系、アルニコ系などを用いることができる。
【0012】
磁石用粉末は、磁石原料である母合金を物理的に粉砕し、あるいは溶解した母合金を回転ロール上に噴射し、超急冷することにより微細な結晶組織を持つ薄帯を得て、この薄帯を150μm以下程度に粉砕して、粉末状の磁石用粉末を得ることができる。
【0013】
潤滑剤と磁石用粉末との混合比は特に限定されないが、例えば磁石用粉末100質量部に対して、潤滑剤を0.05~0.3質量部混合することができる。
【0014】
潤滑剤と磁石用粉末とを混合した後、モールドへ充填する。
モールドは金属製であっても、非金属製であってもよい。例えばカーボン製であることが好ましい。特に本発明の製造方法によってPLP磁石製造工程の評価用サンプルを得る場合、カーボン製のモールドを用いることが好ましい。
また、モールドの形状等は特に限定されない。
【0015】
潤滑剤と磁石用粉末とを混合し、モールドへ充填することで、モールド内で粉末成形体が形成される。
粉末成形体を内部に有するモールドを、充填済モールドとする。
【0016】
ここで、潤滑剤と磁石用粉末とをモールドへ充填した後、磁場(パルス磁場等)をかけて前記磁石用粉末を配向させることが好ましい。プレス(圧縮成形)をする場合、モールド内で磁石用粉末を配向させながらプレスしてもよいし、配向終了後に磁石用粉末をモールド内でプレスしてもよい。
このように、モールドへ充填した後または充填しながら磁石用粉末に磁場をかけ配向(例えばラジアル配向)させた場合、本発明の製造方法によって得られる評価用サンプルは配向している。したがって、焼結前の成形体の密度分布およびや割れや欠けの状態に加えて、配向状態を把握することができる。
【0017】
配向状態は、本発明の製造方法によって得られた評価用サンプルについて、X線極点測定を行うことで把握することができる。
X線極点測定とは、試料の表面に角度を変えてX線を照射し、得られた回析ピーク強度を解析することで特定の結晶粒の方位を測定する方法である。この手法によって、磁石結晶粒の配向方向を調査できる。
【0018】
<分離工程>
本発明における分離工程について説明する。
本発明の分離工程では、充填済モールドの内部から、粉末成形体を分離する。
充填済モールド内の粉末成形体の強度が高い場合、具体的には、充填済モールド内の粉末成形体の強度が高い場合、具体的には例えば100kg/cm2以上である場合、充填済モールドから、その内部の粉末成形体を容易に分離することができる。なお、ここでいう粉末成形体の強度は、アムスラー型油圧式試験機を用いてプレス方向に圧力を加えた場合に粉末成形体が圧壊する強度を意味する。
【0019】
充填済モールド内の粉末成形体の充填密度が高いと、その強度が高くなる傾向がある。具体的には粉末成形体の充填密度が3.4~4.0g/ccであることが好ましい。
【0020】
また、充填済モールド内の粉末成形体と混合する潤滑剤の量が少ないと、粉末成形体の強度が高くなる傾向がある。具体的には磁石用粉末100質量部に対して、潤滑剤を0~0.05質量部となると、粉末成形体の強度が高くなる傾向がある。
【0021】
分離工程において、潤滑剤の少なくとも一部が分解する温度にて、充填済モールドを加熱した後、充填済モールドからその内部の粉末成形体を分離することが好ましい。
充填済モールド内の粉末成形体の強度が低い場合、具体的には、充填済モールド内の粉末成形体の強度が100kg/cm2未満である場合、充填済モールドを、潤滑剤の少なくとも一部が分解する温度にて加熱した後、充填済モールドからその内部の粉末成形体を分離することが好ましい。
充填済モールドを、潤滑剤の少なくとも一部が分解する温度にて加熱すると、充填済モールド内の粉末成形体がわずかに収縮するため、充填済モールドから、その内部の粉末成形体を容易に分離することができる。
【0022】
充填済モールドを加熱する場合の加熱温度は、潤滑剤の少なくとも一部が分解する温度であれば限定されないが、加熱温度は400~650℃とすることが好ましく、600℃程度とすることがより好ましい。650℃を超えると、以上になると収縮が始まるため、好ましくない。一方、400℃未満であると、圧粉体の強度が不十分となる。
【0023】
<含侵工程>
本発明における含侵工程について説明する。
本発明の含侵工程では、粉末成形体に樹脂を含侵させる。
粉末成形体に含侵させる樹脂は特に特に限定されない。エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂を用いることができる。
【0024】
樹脂は粘度が250mPa・s以下であるものが好ましい。
【0025】
樹脂として低粘度エポキシ樹脂を用いることが好ましい。低粘度エポキシ樹脂の具体例としてコニシ社製、E205が挙げられる。
当該エポキシ樹脂は、粘度が120~180mPa・sの主剤および粘度が5~25mPa・sの硬化剤を混合してなるものを用いることが好ましく、このような主剤と硬化剤とを3:1(質量部)で混合してなるものを用いると、より好ましい。
【0026】
このような本発明の製造方法によって、焼結前の成形体における密度分布および割れや欠けの有無を正確に把握可能な磁石製造工程の評価用サンプルを得ることができる。
また、本発明の製造方法における充填工程が、前記潤滑剤を含む前記磁石用粉末を前記モールドへ充填した後、磁場をかけて前記磁石用粉末を配向させ、配向された前記粉末成形体を内部に含む前記充填済モールドを得る工程である好適態様である場合、本発明の製造方法の好適態様によって得られる評価用サンプルは配向しているため、焼結前の成形体の密度分布およびや割れや欠けの状態に加えて、配向状態を把握することができる。
【0027】
前記充填工程、前記分離工程または前記含侵工程における各操作(好ましくはこれら全ての工程における全ての操作)を、不活性ガス雰囲気内または真空内において行うと、好ましい態様の磁石製造工程の評価用サンプルを得ることができる。
【0028】
上記のような本発明の製造方法によって得られた磁石製造工程の評価用サンプルによって磁石製造工程を評価することができる。
このような磁石製造工程の評価方法によれば、焼結前の成形体における密度分布および割れや欠けの有無を正確に把握することができる。
また、本発明の製造方法における充填工程が、前記潤滑剤を含む前記磁石用粉末を前記モールドへ充填した後、磁場をかけて前記磁石用粉末を配向させ、配向された前記粉末成形体を内部に含む前記充填済モールドを得る工程である場合、そのような好適態様の本発明の製造方法によって得られる評価用サンプルによって磁石製造工程を評価する評価方法によれば、焼結前の成形体の密度分布およびや割れや欠けの状態に加えて、配向状態を把握することができる。