(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060906
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】AlNウィスカー分散樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220408BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20220408BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20220408BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20220408BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/04
C09K5/14 E
C01B21/072 B
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168667
(22)【出願日】2020-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】520299474
【氏名又は名称】株式会社U-MAP
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将太
(72)【発明者】
【氏名】西谷 健治
(72)【発明者】
【氏名】前田 孝浩
【テーマコード(参考)】
4J002
5F136
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002CD001
4J002CP031
4J002DG016
4J002FA066
4J002FD206
4J002GQ00
5F136FA51
5F136FA53
5F136FA63
5F136FA64
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】 少ない分散量でありながら高い熱伝導率を与えるAlN粒子を分散させた樹脂成形体の提供。
【解決手段】AlNからなる単結晶ウィスカーの粒子を熱硬化性樹脂に分散混合させた樹脂成形体であって、D50での粒子の長径が3μm以上、1~10W/m・Kの熱伝導率を呈することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlNからなる単結晶ウィスカーの粒子を熱硬化性樹脂に分散混合させた樹脂成形体であって、
前記単結晶ウィスカーは六方晶ウルツ鉱型構造であって、D50での前記粒子の長径が3μm以上、1~10W/m・Kの熱伝導率を呈することを特徴とするAlNウィスカー分散樹脂成形体。
【請求項2】
前記粒子の体積率が20%以下であることを特徴とする請求項1記載のAlNウィスカー分散樹脂成形体。
【請求項3】
前記粒子のD50でのアスペクト比を5以上とすることを特徴とする請求項2記載のAlNウィスカー分散樹脂成形体。
【請求項4】
シート形状を有し、厚さ方向に対する面方向の熱伝導率を大とするように、前記粒子を配向させて分散していることを特徴とする請求項3記載のAlNウィスカー分散樹脂成形体。
【請求項5】
前記厚さ方向の熱伝導率を2W/m・K以下とするように前記粒子を配向させていることを特徴とする請求項4記載のAlNウィスカー分散樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム(AlN)からなるウィスカーを分散させた樹脂成形体に関し、特に、熱伝導率を維持しつつAlNウィスカーの分散量を減じたAlNウィスカー分散樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)は高い熱伝導性を有する絶縁体であることから、電子デバイスなどの絶縁性の放熱部材として利用されている。例えば、これを焼結させたAlN焼結体は、シリコン(Si)に近い熱膨張係数を有するため、シリコンを用いた半導体装置の放熱板や基板として好適である。一方、AlN粒子を分散させた樹脂成形体のような粒子分散複合材料の利用も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、熱伝導性と成形加工性とを兼ね備えた樹脂成形体として、AlN単結晶粒子が融着して繊維状になった異方性形状のAlNフィラーを等方性形状の粒子とともに含有する樹脂成形体を開示している。エポキシ樹脂やシリコン樹脂のような熱硬化性樹脂からなる樹脂成形体において、AlNフィラー100重量部に対して、等方性形状の粒子100重量部以上、及び、熱硬化性樹脂40重量部以上として、1W/m・K以上の高い熱伝導率を得られるとしている。このような高い熱伝導率を得られる理由として、成形体中の異方性形状のAlNフィラーが等方性形状の粒子の存在により、成形加工中に折れ曲がりの少ない状態で存在できるため、熱伝導経路が確保されやすくなると説明している。
【0004】
また、特許文献2では、不純物の混入を抑えて熱伝導性の低下を抑えたAlNウィスカーを含むエポキシ樹脂やシリコン樹脂からなる樹脂組成物を開示している。外形のアスペクト比を5以上としたAlNウィスカーを切断せず樹脂組成物中に均一に分散して存在するように剪断応力を小さくしつつミキサー等の混練機で混合して含むことで、ウィスカー同士を接触し易くして熱伝導パス(熱伝導経路)を確保し、熱伝導性の向上が図られることを述べている。かかるAlNウィスカーは、長軸に垂直方向の断面における面積の平均が0.1μm2~50μm2、当該ウィスカーの高さの平均が10μm~50mmであって、樹脂組成物100においてウィスカー及び樹脂部の重量比(配合比)は5~60%程度であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-235842号公報
【特許文献2】特開2016-145120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、アスペクト比の高いAlNウィスカーをその長さ方向にランダムな方向を向くように樹脂成形体中に分散させることで、AlNウィスカー同士の単位体積当たりの接触密度を高めることができて、その分散量が少量であっても、樹脂成形体に高い熱伝導性を付与することができる。また、分散量を一定に抑えることで、特に、シート成形体の可撓性のような、樹脂成形体の機械的性質を維持できることになる。
【0007】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱伝導率を維持しつつAlNウィスカーの分散量を減じたAlNウィスカー分散樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による樹脂成形体は、AlNからなる単結晶ウィスカーの粒子を熱硬化性樹脂に分散混合させた樹脂成形体であって、前記単結晶ウィスカーは六方晶ウルツ型構造であって、D50での前記粒子の長径が3μm以上、1~10W/m・Kの熱伝導率を呈することを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、AlNからなる粒子を少ない分散量で樹脂に与えつつ高い熱伝導率を得られ、熱硬化性樹脂の機械的性質を維持できるのである。
【0010】
上記した発明において、前記粒子の体積率が20%以下であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、AlNからなる粒子を少ない分散量で樹脂に与え、熱硬化性樹脂の機械的性質を維持できるのである。
【0011】
上記した発明において、前記粒子のD50でのアスペクト比を5以上とすることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、AlNからなる粒子を少ない分散量で樹脂に与えつつより高い熱伝導率を得られ、熱硬化性樹脂の機械的性質を維持できるのである。
【0012】
上記した発明において、シート形状を有し、厚さ方向に対する面方向の熱伝導率を大とするように、前記粒子を配向させて分散していることを特徴としてもよい。また、前記厚さ方向の熱伝導率を2W/m・K以下とするように前記粒子を配向させていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、AlNからなる粒子を少ない分散量で樹脂に与えつつ高い熱伝導率を得られ、シート成形体としての破断強度などの機械的性質を高め得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による1実施例における樹脂成形体の断面図である。
【
図2】樹脂成形体の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】製造試験で得られた樹脂成形体の断面の電子顕微鏡写真である。
【
図4】樹脂成形体の粒子の体積分率と熱伝導率との関係を示すグラフである。
【
図5】樹脂成形体に含有される粒子の長径の度数分布のグラフである。
【
図6】樹脂成形体に含有される粒子のアスペクト比の度数分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な一例としての樹脂成形体について、
図1を用いて説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施例における樹脂成形体10は樹脂2の内部にAlNからなる粒子1を分散させた樹脂成形体である。特に、粒子1の体積率を20%以下とした上で、熱伝導率を1~10W/m・Kとする。このような熱伝導率を得るために、粒子1はAlNの単結晶ウィスカーからなり、かかる粒子の長径をD50で3μm以上としている。
【0016】
粒子1は、単結晶ウィスカーからなるので多結晶体に比べて熱伝導率が高い。また、粒子1は、その長径をD50で3μm以上と比較的大きくすることで粒子1同士での接触箇所を多くすることができる。そのため、上記したように体積率20%以下と少ない量で粒子1が分散されていても、粒子1同士の接触による熱伝導経路を多く確保でき、樹脂成形体10として高い熱伝導率を維持することができる。なお、粒子1としては、純度の高い単結晶ウィスカーを用いることで、不純物の多い単結晶体に比べても熱伝導率を高くでき、体積率を低下させ得て好ましい。また、粒子1として用いる単結晶ウィスカーは、その結晶構造を六方晶のウルツ鉱型構造としており、c軸方向と垂直に(0002)面が位置することが好ましい。このような単結晶ウィスカーは、熱伝導率として120~320W/m・Kを得ることができる。
【0017】
また、粒子1は、D50でのアスペクト比を5以上とすることが好ましい。上記したように粒子1同士の接触箇所を多くすることができ、これによっても樹脂成形体10としての熱伝導率を維持しつつ、体積率を低下させ得る。
【0018】
なお、樹脂成形体10として得られる熱伝導率について上限値を10W/m・Kと定めたが、これによって粒子1のアスペクト比を極端に大きくすることを防止している。アスペクト比が極端に大きいと製造途中に粒子1を折損させるなど破損させやすくして微粉末を増加させてしまい、D50での長径を維持できず、却って熱伝導率を低下させてしまうためである。
【0019】
次に、樹脂成形体10の製造方法について
図2を用いて説明する。
【0020】
図2に示すように、まず、粒子1として所定形状のAlNからなる単結晶ウィスカーを用意し、溶融した熱硬化性樹脂と混合して分散させ、複合樹脂材料を得る(混合:S1)。このとき、単結晶ウィスカーからなるアスペクト比の大きな粒子1の破損を抑制するように混合する。例えば、ボールミルなどの高い剪断力を付与するような装置は使用せず、付与される剪断力の比較的小さい攪拌装置を用いたり、手作業による攪拌を行ったりして混合させる。なお、上記したように体積分率を20%以下とするように粒子1を含ませているため、粒子同士が絡むことを減じて、破損を抑制できる。
【0021】
次いで、複合樹脂材料を真空引きしつつ所定形状に成形加工する(成形:S2)。真空引きするのは粒子1と樹脂2とを密着させて空気等のガス成分を排除し、得られる樹脂成形体10の熱伝導率の低下を抑制するためである。例えば、真空引きしながら焼成して熱硬化性樹脂を硬化させて成形することができる。
【0022】
以上によって、上記したような樹脂成形体10を得ることができる。
【0023】
[製造試験]
次に、実際にシート状の樹脂成形体を作製した結果について、
図3乃至
図6を用いて説明する。
【0024】
まず、アルミナ板にアルミニウムと他の金属との混合物を載せ、加熱炉に装入した。炉内をアルゴン雰囲気としてから加熱し、所定の加熱温度に到達後に窒素を炉内に導入し保持した。これによってアルミニウムを窒化させて析出させ、結晶成長させた。その後2日間かけて徐冷し、白い棉状のAlNウィスカーを得た。加熱炉から取り出されたアルミナ板上のAlNウィスカーは、ピンセットを用いて手作業で回収し、又は、有機溶媒中に分散して吸引ろ過によって回収し、必要に応じて分級された。このような製造方法により純度の高いAlN単結晶ウィスカーを得ることができた。
【0025】
得られたAlNウィスカーを溶融させた熱硬化性のシリコン樹脂とともに容器に計り入れて攪拌した。攪拌装置によって攪拌した他、さらに手作業でも攪拌した。つまり、AlNウィスカーは破損を防止するように攪拌され、シリコン樹脂に分散された。
【0026】
撹拌されたAlNウィスカーとシリコン樹脂との複合樹脂材料を、コーターを用いてポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene, PTFE)板上に一方向に塗布し、500μm厚さのシート状体に成形した。
【0027】
ついで、PTFE板ごと定温乾燥機内に装入し、真空引きして減圧下で焼成した。焼成においては、160℃で3時間の加熱条件とした。これにてシート状の樹脂成形体10を得ることができた。
【0028】
図3に示すように、このようにして製造された樹脂成形体10について、断面を電子顕微鏡にて観察した。AlNウィスカーによる粒子がその長手方向を複合樹脂材料の塗布された方向(同図において紙面左右方向)に向けて配向されていることが判る。
【0029】
図4に示すように、AlNウィスカーの体積分率を変化させたときの樹脂成形体10の熱伝導率について測定した。「シート成形方向」(上記した複合樹脂の塗布された方向)の熱伝導率は、AlNウィスカーの体積分率を5%、10%、20%としたいずれにおいても1~10W/m・Kの範囲内であり、体積分率を高くすると熱伝導率も向上する傾向にあった。ところで、体積分率を20%よりも大きくすると、体積分率の増加に対して熱伝導率の増加を鈍化させ得る。つまり、上記した熱伝導率には、体積分率の増加による効果以外に、粒子1の長径の大きさによる粒子1同士の接触箇所の増加の効果が含まれていることを推定できる。一方、配向の結果、シート状体の樹脂成形体10の「厚さ方向」の熱伝導率はAlNウィスカーの体積分率を変化させてもほとんど変化せず、いずれも2W/m・K以下であった。好ましくは、1W/m・K未満とする。
【0030】
さらに、測定に用いた樹脂成形体10に含まれるAlNウィスカーの詳細について調査するため、大気中で樹脂成形体10を加熱して樹脂成分を揮発させた。加熱温度は、例えば、600~800℃の範囲内とすることで、樹脂だけを揮発させてAlNウィスカーを反応させないようにできる。残存したAlNウィスカーについてその粒子のアスペクト比及び長径を調査し、粒子数基準での度数(頻度)分布を100分率でまとめた。
【0031】
図5に示すように、長径はD50で18μmであった。このように、長径をD50で3μm以上とすることで、樹脂成形体10に1~10W/m・Kの熱伝導率を付与できた。なお、製造過程における粒子同士の絡みなどによるAlNウィスカーの破損も想定され得たが、体積分率を20%以下とすることでそのような破損をほとんど生じなかったものと考えられる。なお、AlNウィスカーの長径をD50で3μm以上と定めたことについては、3μm以上の長い粒子の体積分率、すなわち数密度を一定以上にすることである。つまり、AlNウィスカー同士の接触箇所の数密度とAlNウィスカー1本で熱伝導させる距離とを長径を大とする粒子によって向上させ、これによって熱伝導率を向上させることができたと考えられる。
【0032】
図6に示すように、アスペクト比はD50で5であった。このようにアスペクト比を5以上とすることで上記した熱伝導率の向上に寄与したものと考えられる。なお、アスペクト比の高いAlNウィスカーを主面に平行な面方向に配向分散させたことで、樹脂成形体10はシート体としての破断強度に優れるものになったものと考えられる。
【0033】
以上のように、体積分率で20%以下の少ない量でAlNウィスカーを分散させても、1~10W/m・Kの高い熱伝導率を得ることができた。
【0034】
ここまで本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0035】
1 粒子
2 樹脂
10 樹脂成形体