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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060907
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】直交集成板および建物
(51)【国際特許分類】
   E04C 2/12 20060101AFI20220408BHJP
   E04B 1/61 20060101ALI20220408BHJP
   E04B 2/90 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
E04C2/12 E
E04B1/61 506A
E04B1/61 503G
E04B1/61 504C
E04B2/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168668
(22)【出願日】2020-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】520387520
【氏名又は名称】株式会社地耐協九州
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】猪野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】猪野 太平
【テーマコード(参考)】
2E002
2E125
2E162
【Fターム(参考)】
2E002NA01
2E002NB01
2E002NC01
2E002PA04
2E002PA09
2E002RA01
2E002RB00
2E002XA03
2E125AA45
2E125AA52
2E125AA56
2E125AB12
2E125AC01
2E125AE16
2E125AG12
2E125AG13
2E125AG16
2E125AG23
2E125BA22
2E125BB08
2E125BB09
2E125BD01
2E125CA04
2E125CA79
2E162CC02
(57)【要約】
【課題】製造あるいは建築コストの低減や軽量化等を実現する直交集成板と直交集成板を提供する。
【解決手段】CLT1は、比較的大きな厚みを有する直方体のパネルであり、厚みが同一の5枚のプライ(3枚の第1プライ2および2枚の第2プライ3)を積層接着することにより製造されている。第1プライ2は、その繊維方向がCLT1の長手方向と一致する比較的長尺のラミナ5を板幅方向に並べ、これらを水性高分子-イソシアネート系等の接着剤で幅はぎしたものである。また、第2プライ3は、その繊維方向がCLT1の長手方向と直交する比較的短尺のラミナ6を板幅方向に並べ、これらを第1プライ2と同様に接着剤で幅はぎしたものである。第1プライ2および第2プライ3を構成するラミナ5,6は、どちらも桐の挽き板である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1のラミナを前記ラミナの板幅方向に並べて接着した第1のプライと、複数の第2のラミナを前記第2のラミナの板幅方向に並べて接着した第2のプライとを、前記第1のラミナの繊維方向と前記第2のラミナの繊維方向とが直交する方向に積層接着してなる直交集成板であって、
前記第1のラミナと前記第2のラミナが桐の挽き板であることを特徴とする直交集成板。
【請求項2】
前記第1のラミナの繊維方向が前記第1のプライの長手方向に対して所定の傾斜角をもって傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載の直交集成板。
【請求項3】
前記傾斜角が45°であることを特徴とする、請求項2に記載の直交集成板。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載の直交集成板を構造材として用いた建物。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直交集成板と基礎とを結合する結合金物であって、
前記基礎に埋設される本体と、前記本体の上方で前記本体と一体に形成された雄ねじ部と、前記雄ねじ部の上方で前記雄ねじ部と一体に形成された軸部と、前記軸部の状端部に略水平方向に貫通したピン孔と、備えたアンカーと、
前記雄ねじ部に螺合するナットと、
前記ピン孔に挿入される係止ピンと、を有することを特徴とする結合金物。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直交集成板と基礎との結合構造であって、
前記基礎の上に略水平方向に広がる向きで載置された第1の直交集成板と、
前記基礎の上方で前記第1の直交集成板の上に略垂直方向に延びる向きで載置された第2の直交集成板と、
前記基礎に埋設される本体と、前記本体と一体に形成された軸部と、前記軸部の上端部に略水平方向に貫通したピン孔と、備えたアンカーと、
前記ピン孔に挿入される係止ピンと、を有し、
前記アンカーの上部が前記第1の直交集成板を貫通して前記第2の直交集成板の下部に挿入され、
前記係止ピンが、前記ピン孔と、前記ピン孔に対応する前記第2の直交集成板の部分に形成された係止孔とに挿入されることを特徴とする結合構造。
【請求項7】
前記アンカーは、前記本体と前記軸部の間に一体に形成された雄ねじ部を更に備え、
前記雄ねじ部に螺合し、前記第1の直交集成板を上方から前記基礎に押圧するナットを更に有することを特徴とする請求項6に記載の結合構造。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の結合構造を用いた建物。
【請求項9】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直交集成板同士を、端面を接触させた状態で接合する直交集成板の接合金物であって、
U字状の切欠をそれぞれ対応する位置に画定する一対の挿入片部と、前記U字の開放側とは反対側で前記一対の挿入片部を連結する連結片部とを備える連結金具と、
前記切欠に挿入される軸部を有する一対のコーチスクリューと、を有することを特徴とする接合金物。
【請求項10】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直交集成板同士を、端面を接触させた状態で接合する直交集成板の接合構造であって、
U字状の切欠をそれぞれ対応する位置に画定する一対の挿入片部と、前記U字の開放側とは反対側で前記一対の挿入片部を連結する連結片部とを備える連結金具と、
前記切欠に挿入される軸部を有する一対のコーチスクリューと、を有し、
前記直交集成板の一方には、他方の直交集成板との間に空隙を形成するリセスが形成され、
前記リセスの底を画定する前記直交集成板の部分に、前記端面と略垂直な方向に前記一対のコーチスクリューの一方がねじ込まれ、
ねじ込まれた前記コーチスクリューに対向する他方の前記直交集成板の部分に、前記端面と略垂直な方向に前記一対のコーチスクリューの他方がねじ込まれ、
前記一対のコーチスクリューの軸部が前記切欠に挿入されるように、前記連結金具が前記リセスに差し込まれていることを特徴とする接合構造。
【請求項11】
請求項10に記載の接合構造を用いた建物。
【請求項12】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直交集成板とカーテンウォールとの固定構造であって、
水平方向に広がる向きに配置された第1の直交集成板と、
前記第1の直交集成板の上方で、前記第1の直交集成板との間に空隙を空けて配置された第2の直交集成板と
前記第1の直交集成板と前記第2の直交集成板の間に固定されるカーテンウォールと、を有し、
前記第1の直交集成板には、前記カーテンウォールの下縁が嵌入するコ字断面形状の保持溝が形成され、
前記第2の直交集成板には、前記カーテンウォールの上縁が係止される係止溝が形成されていることを特徴とする固定構造。
【請求項13】
請求項12に記載の固定構造を用いた建物。
【請求項14】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の直交集成板同士を直行した状態で接合する直交集成板の接合構造であって、
水平方向に広がる向きに配置された第1の直交集成板と、
前記第1の直交集成板の上面又は下面に端面を接触させて配置された第2の直交集成板と、
前記第1の直交集成板と前記第2の直交集成板に挿入されたボルトとを有し、
前記第1の直交集成板と前記ボルト、及び、前記第2の直交集成板と前記ボルトが、エポキシ樹脂系接着剤によって接着されていることを特徴とする接合構造。
【請求項15】
請求項14に記載の接合構造を用いた建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交集成板と直交集成板を用いて建築された建物とに係り、製造あるいは建築コストの低減や軽量化等を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
針葉樹(杉、桧、唐松等)のラミナ(挽き板)を板幅方向に並べてなるプライを複数形成し、これらプライを繊維方向が直交するように積層接着してなる直交集成板(以下、CLT(Cross Laminated Timber)と記す)が知られている。CLTは、強度、断熱性、遮音性、施工性等に優れ、床や壁の下地として採用される他、構造躯体等の建築用構造部材としても用いられている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-105700号公報
【特許文献2】特開2020-70645号公報
【特許文献3】特許第6384933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のCLTに対しては、以下に述べる問題が指摘されていた。すなわち、杉や桧が植林から伐採までに長い年月を必要とするため、これらを素材とするCLTは住宅用建材として用いるには高価となる。また、杉や桧はその比重が比較的大きいため、杉や桧を用いたCLTも重量が大きくなる。これにより、CLTの建築現場等への運搬や建築時の取り扱いが困難となり、隣接するCLTを高強度の連結金具で連結する必要がある他、更に建築物の重量が大きくなって基礎の負担も大きくなる。また、杉等のラミナを使用したCLTでは表面にトゲが形成されやすく、建物内側には壁紙、タイル等の仕上げを施す必要があり、建築コストや工数が更に上昇する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、建築コストの低減と建物の軽量化を実現する直交集成板とこの直交集成板を用いて建築された建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の直交集成板は、複数の第1のラミナを前記ラミナの板幅方向に並べて接着した第1のプライと、複数の第2のラミナを前記第2のラミナの板幅方向に並べて接着した第2のプライとを、前記第1のラミナの繊維方向と前記第2のラミナの繊維方向とが直交する方向に積層接着してなる直交集成板であって、
前記第1のラミナと前記第2のラミナが桐の挽き板である。
これにより、建築コストの低減と軽量化を実現することができる。また、桐の成長速度は杉等に比べて早いため、建材として使用することで耕作放棄地の有効利用が実現できるだけでなく、大気中の二酸化炭素を吸収することで地球の温暖化も抑制できる。
【0007】
好適には、前記第1のラミナの繊維方向が前記第1のプライの長手方向に対して所定の傾斜角をもって傾斜している。これにより、比較的短尺のラミナを素材として利用することができ、製造コストの更なる低減を図ることができる。
【0008】
好適には、前記傾斜角が45°である。これにより、第1のプライと第2のプライとを同一品とすることができるため、製造に要する工数やコストを更に低減させることができる。
【0009】
本発明の建物は、上記直交集成板を用いる。これにより、内装に壁紙、タイル等の仕上げを行う必要がなくなることも相俟って、建築コストを在来工法に比べて遙かに低減させることができる。また、桐を素材とする直交集成板が軽量であることから、運搬コストの大幅な低減や建築現場での取り扱いの容易化も実現できる。
【0010】
本発明の結合金物は、上記直交集成板と基礎とを結合する結合金物であって、
前記基礎に埋設される本体と、前記本体の上方で前記本体と一体に形成された雄ねじ部と、前記雄ねじ部の上方で前記雄ねじ部と一体に形成された軸部と、前記軸部の状端部に略水平方向に貫通したピン孔と、備えたアンカーと、
前記雄ねじ部に螺合するナットと、
前記ピン孔に挿入される係止ピンと、を有する。
これにより、直交集成板と基礎との結合を容易にすることができる。
【0011】
本発明の結合構造は、上記直交集成板と基礎との結合構造であって、
前記基礎の上に略水平方向に広がる向きで載置された第1の直交集成板と、
前記基礎の上方で前記第1の直交集成板の上に略垂直方向に延びる向きで載置された第2の直交集成板と、
前記基礎に埋設される本体と、前記本体と一体に形成された軸部と、前記軸部の上端部に略水平方向に貫通したピン孔と、備えたアンカーと、
前記ピン孔に挿入される係止ピンと、を有し、
前記アンカーの上部が前記第1の直交集成板を貫通して前記第2の直交集成板の下部に挿入され、
前記係止ピンが、前記ピン孔と、前記ピン孔に対応する前記第2の直交集成板の部分に形成された係止孔とに挿入される。
これにより、直交集成板と基礎との結合を容易にすることができる。
【0012】
好適には、前記アンカーは、前記本体と前記軸部の間に一体に形成された雄ねじ部を更に備え、
前記雄ねじ部に螺合し、前記第1の直交集成板を上方から前記基礎に押圧するナットを更に有する。
これにより、直交集成板と基礎との結合を強固なものとすることができる。
【0013】
本発明の建物は、上記結合構造を用いる。これにより、建築コストを抑えることができる。
【0014】
本発明の接合金物は、上記直交集成板同士を、端面を接触させた状態で接合する直交集成板の接合金物であって、
U字状の切欠をそれぞれ対応する位置に画定する一対の挿入片部と、前記U字の開放側とは反対側で前記一対の挿入片部を連結する連結片部とを備える連結金具と、
前記切欠に挿入される軸部を有する一対のコーチスクリューと、を有する。
これにより、直交集成板同士の接合を容易にすることができる。
【0015】
本発明の接合構造は、上記直交集成板同士を、端面を接触させた状態で接合する直交集成板の接合構造であって、
U字状の切欠をそれぞれ対応する位置に画定する一対の挿入片部と、前記U字の開放側とは反対側で前記一対の挿入片部を連結する連結片部とを備える連結金具と、
前記切欠に挿入される軸部を有する一対のコーチスクリューと、を有し、
前記直交集成板の一方には、他方の直交集成板との間に空隙を形成するリセスが形成され、
前記リセスの底を画定する前記直交集成板の部分に、前記端面と略垂直な方向に前記一対のコーチスクリューの一方がねじ込まれ、
ねじ込まれた前記コーチスクリューに対向する他方の前記直交集成板の部分に、前記端面と略垂直な方向に前記一対のコーチスクリューの他方がねじ込まれ、
前記一対のコーチスクリューの軸部が前記切欠に挿入されるように、前記連結金具が前記リセスに差し込まれている。
これにより、直交集成板同士の接合を容易にすることができる。
【0016】
本発明の建物は、上記接合構造を用いる。これにより、建築コストを抑えた建物を提供することができる。
【0017】
本発明の固定構造は、上記直交集成板とカーテンウォールとの固定構造であって、
水平方向に広がる向きに配置された第1の直交集成板と、
前記第1の直交集成板の上方で、前記第1の直交集成板との間に空隙を空けて配置された第2の直交集成板と
前記第1の直交集成板と前記第2の直交集成板の間に固定されるカーテンウォールと、を有し、
前記第1の直交集成板には、前記カーテンウォール下縁が嵌入するコ字断面形状の保持溝が形成され、
前記第2の直交集成板には、前記カーテンウォールの上縁が係止される係止溝が形成されている。
これにより、直交集成板とカーテンウォールとの固定を容易にすることができる。
【0018】
本発明の建物は、上記固定構造を用いる。これにより、建築コストを抑えることができる。
【0019】
本発明の接合構造は、上記直交集成板同士を直行した状態で接合する直交集成板の接合構造であって、
水平方向に広がる向きに配置された第1の直交集成板と、
前記第1の直交集成板の上面又は下面に端面を接触させて配置された第2の直交集成板と、
前記第1の直交集成板と前記第2の直交集成板に挿入されたボルトとを有し、
前記第1の直交集成板と前記ボルト、及び、前記第2の直交集成板と前記ボルトが、エポキシ樹脂系接着剤によって接着されている。
これにより、直交集成板同士を直行した状態で容易に接合することができる。
【0020】
本発明の建物は、上記接合構造を用いる。これにより、建築コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、建築コストの低減と建物の軽量化を実現する直交集成板とこの直交集成板を用いて建築された建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るCLTの斜視図である。
図2】CLTの分解斜視図である。
図3】実施形態に係る建物の斜視図である。
図4】建物の縦断面図である。
図5】建物の1階部分の横断面図である。
図6】構造耐力壁の横断面図である。
図7】カーテンウォールの正面図である。
図8図4中A部の拡大断面図である。
図9図5中B部の拡大断面図である。
図10】連結金具の斜視図である。
図11】2枚の第3CLTの連結手順を示す拡大断面図である。
図12図4C部の拡大断面図である。
図13図4D部の拡大断面図である。
図14】カーテンウォールの取付状態を示す要部拡大縦断面図である。
図15】CLTの変形例を示す分解斜視図である。
図16図4中A部の変形例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、図1から図14を用いて詳細に説明する。なお、本願において、直方体状の板の方向を言うときには、板が形成する直方体の直行する3辺のうち最も長い辺の方向を「長手方向」、次に長い辺の方向を「板幅方向」、最も短い辺の方向を「板厚方向」と呼ぶものとする。
【0024】
<実施形態の構成>
(CLT)
本実施形態のCLT(直交集成板)1は、図1に示すように比較的大きな厚み(図示例では、150mm)を有する直方体のパネルであり、厚みが同一の5枚のプライ(3枚の第1プライ2および2枚の第2プライ3)を積層接着することにより製造されている。図2にも示すように、第1プライ2は、その繊維方向がCLT1の長手方向と一致する比較的長尺のラミナ5を板幅方向に並べ、これらを水性高分子-イソシアネート系等の接着剤で幅はぎしたものである。また、第2プライ3は、その繊維方向がCLT1の長手方向と直交する比較的短尺のラミナ6を板幅方向に並べ、これらを第1プライ2と同様に接着剤で幅はぎしたものである。第1プライ2および第2プライ3を構成するラミナ5,6は、どちらも桐の挽き板である。
【0025】
CLT1はいわゆる5層5プライであり、第1プライ2と第2プライ3とを交互に積層し、加圧状態で接着することで製造されている。CLT1は、プレーナ加工(カンナ掛け)やサンダー加工等が施されることにより、その表面が平滑に仕上げられている。なお、プレーナ加工やサンダー加工は、CLT1の組立後ではなく、ラミナ5,6やプライ2,3の時点で行われてもよい。桐を素材とする本実施形態のCLT1は、杉等のラミナを使用したCLTに比べ、同一寸法での重量が2/3~1/2程度に抑えられている。
【0026】
(建物)
図3図4に示すように、建物10は陸屋根を有する2階建ての家屋であり、その本体が直方体形状を呈している。建物10には、上述したCLT1と幅および厚みが同一であるが、長さが異なる第1CLT11~第3CLT13が構成部材として用いられている。すなわち、1階の床板21およびデッキ22と、2階の床板23および跳ね出しのバルコニー24とがどちらも長尺の第1CLT11によって形成され、屋根25が第1CLT11より短尺の第2CLT12によって形成され、1階および2階の壁の一部が第2CLT12より更に短尺(CLT1と同一長さ)の第3CLT13によって形成されている。なお、バルコニー24の外縁には全周にわたって手すり26が設置され、手すり26とバルコニー24との間にはガラス板27が取り付けられている。
【0027】
図4に示すように、建物10は、コンクリート基礎30を介し、地盤31に埋設された樹脂ブロック32によって支持されている。樹脂ブロック32は、特許文献(特許第4967105号公報)等に記載されたものと同等品で、再生プラスチックを素材としている。
【0028】
図5に示すように、建物10の1階外周は、第3CLT13の他、他の構造耐力壁(第1構造耐力壁41~第3構造耐力壁43)、開口44から構成されている。図6(a)~(c)に示すように、第1構造耐力壁41は2枚の鋼板41aで断熱パネル41bを挟んだ断熱鋼板パネル、第2構造耐力壁42はガラスブロック、第3構造耐力壁43は2枚の構造パネル43aで断熱材43bを挟んだ断熱構造パネルである。また、開口44には、図3に示すように、デッキ22やバルコニー24に出入りするためのドア45,46が設置される他、カーテンウォール47等が取り付けられる。
【0029】
カーテンウォール47は、図7に示すように、アルミ型材で組み立てられた窓枠50と、窓枠50の上下に保持された嵌め殺しのガラス窓51,52と、窓枠50の上下方向中間部に保持された引き違いのガラス窓53とからなっている。
【0030】
図8に示すように、第1CLT11及び第3CLT13は、結合金物によって基礎に結合される。コンクリート基礎30には複数本のアンカー61の本体が所定の間隔で埋設され、締結部材であるナット62や段付ピン63により、これらアンカー61に第1CLT11および第3CLT13が固定されている。アンカー61は、コンクリート基礎30から上方に突き出た部分の中間に形成された雄ねじ部61aと、雄ねじ部61aの上方に延設された若干小径の軸部61bと、軸部61bの上端部に略水平方向に貫通したピン孔61cとを有している。アンカー61の設置は、本願の出願人が特許第6137394号又は特願2019-97420において提案しているアンカーホルダーを用いることで、アンカー61を精度よく配置することができ、第1CLT11及び第3CLT13の設置を容易に行うことができる。
【0031】
一方、第1CLT11には、アンカー61に対応する位置に、アンカー61が挿通される貫通孔11aが穿設されている。また、第3CLT13には、アンカー61が挿入される底付孔(アンカー孔)13aと、ナット62を避けるための逃げ孔13bと、段付ピン(係止ピン)63が嵌挿される段付き孔(係止孔)13cとを有している。上述した段付ピン63は、第3CLT13の段付き孔13cに嵌合する大径段部63aと、アンカー61のピン孔61cに嵌合する小径段部63bとを有している。
【0032】
1階部分の組み立てにあたり、作業者は、コンクリート基礎30の上面に気密パッキン65を設置した後、貫通孔11aにアンカー61を進入させながら、床板21となる第1CLT11を気密パッキン65の上に載置する。次に作業者は、アンカー61に座金66を嵌め、雄ねじ部61aに螺合する2つのナット62(すなわち、緩み止めのダブルナット)を締結することにより、第1CLT11をコンクリート基礎30に強固に固定する。その後、作業者は、底付孔13aにアンカー61を進入させながら第1CLT11の上に第3CLT13を載置する。次に作業者は、第3CLT13の段付き孔13cに段付ピン63を打ち込み、段付ピン63の小径段部63bをアンカー61のピン孔61cに嵌入させ、第3CLT13を第1CLT11上に強固に固定する。
【0033】
図9に示すように、隣接して配置された2枚の第3CLT13は、接合金物によって接合される。接合金物は、連結金具71と2本の六角コーチスクリュー(コーチスクリュー)75とを有する。連結金具71は合金鋼の鍛造成型品であり、図10に示すように、一対の挿入片部72,73を連結片部74で連結した略コ字断面形状を呈している。挿入片部72,73は、先端に向けて厚みが少なくなる傾斜面72a,73aを対向する面(コ字の内側)に有するとともに、六角コーチスクリュー75の軸部75aが進入するU字状の切欠72b,73bを備えている。なお、連結金具71は、製造コストが高い鍛造成型品に代えて、鋼板のプレス成型品であってもよい。
【0034】
図11(a)に示すように、一方の(図11(a)中、右側の)第3CLT13には、連結金具71の幅と略同一幅のリセス13dが所定の間隔で形成される。また、六角コーチスクリュー75は、両第3CLT13の相対向する位置(リセス13dが形成された位置)にねじ込まれているが、頭部75bとねじ込み面との間には連結金具71の挿入片部72,73の厚み分の間隙Sが設けられている。間隙Sにおいて、頭部75bと第3CLT13の端面との間の距離が、連結金具71の板厚よりも狭いことが好ましい。例えば、連結金具71の板厚を5mmとした場合、頭部75bと第3CLT13の端面の間の距離を3mmとすることが好ましい。
【0035】
2枚の第3CLT13を連結する場合、作業者は、図11(a)に示すように、これら第3CLT13を床等に並べ、リセス13d内に連結金具71を挿入する。すると、2枚の第3CLT13が若干ずれていても、挿入片部72,73の先端が六角コーチスクリュー75の頭部75bとねじ込み面との間隙Sに進入する。この状態で、作業者がハンマー等の打撃具77で連結金具71を打ち込むと、挿入片部72,73の傾斜面72a,73aによって対向する六角コーチスクリュー75の頭部75bがリセス13dの中心側に向かって駆動される。これにより、六角コーチスクリュー75がねじ込まれた2枚の第3CLT13は、頭部75bとともに互いに接近する方向に移動し、図11(b)に示すように、連結金具71の打ち込みが完了した時点で連結される。上記のように、頭部75bと第3CLT13の端面との間の距離を連結金具71の板厚よりも狭くすることで、連結金具71、六角コーチスクリュー75及び第3CLT13を強固に結合することができる。その後、作業者は、リセス13dに埋木78を打ち込んで連結作業を終了する。
【0036】
図12に示すように、2階の床板23となる第1CLT11は、全ねじのボルト81により、1階および2階の壁となる第3CLT13と結合されている。第1CLT11にはボルト81が挿通される貫通孔11eが所定の間隔で穿設され、両第3CLT13には貫通孔11eに対応する位置にボルト81が挿入される底付孔13eがそれぞれ穿設されている。
【0037】
2階部分の組み立てにあたり、作業者は、エポキシ樹脂系接着剤をボルト81に塗布し、これを1階側の第3CLT13の底付孔13eに押し込む。次に作業者は、貫通孔11eにボルト81を進入させながら、1階側の第3CLT13の上に床板23の第1CLT11を載置する。その後、作業者は、底付孔13eにボルト81を進入させながら、2階側の第3CLT13を降下させて作業を終了する。
【0038】
図13に示すように、屋根25となる第2CLT12は、全ねじのボルト82によって2階の壁となる第3CLT13と結合されている。第2CLT12にはボルト82が挿入される底付孔12aが所定の間隔で穿設され、第3CLT13には底付孔12aに対応する位置に底付孔13fが穿設されている。
【0039】
屋根部分の組み立てにあたり、作業者は、接着剤をボルト82に塗布し、これを2階側の第3CLT13の底付孔13fに押し込む。次に作業者は、底付孔12aにボルト82を進入させながら、第3CLT13の上に屋根25の第2CLT12を降下させて作業を終了する。
【0040】
図14に示すように、2階のカーテンウォール47は、その窓枠50が第1CLT11(2階の床板23)と第2CLT12(屋根25)とによって保持されている。第1CLT11の上面には窓枠50の下縁が嵌り込むコ字断面形状の保持溝11fが形成され、第2CLT12の端部には窓枠50の上縁が係止される係止溝12bが形成されている。
【0041】
カーテンウォール47は、構造耐力壁ではないため、建物10の建築終了段階(上棟時)で取り付けられる。取り付けにあたり、作業者は、図14中に二点鎖線で示すように、カーテンウォール47の下縁を保持溝11fに斜めにあてがった後、直立させて上縁を係止溝12bに嵌め込むことで取り付けを終了する。カーテンウォール47は、第1CLT11及び第2CLT12に、既存の結合手段によって結合してもよい。なお、カーテンウォール47は、本実施形態の構造に限られるものではなく、例えば全体を引き違いサッシのガラス窓等にしてもよい。
【0042】
本実施形態の建物では、桐を素材とする安価なCLTを使用するため、建築コストを在来工法に比べて遙かに(例えば、1/10程度に)低減させることができる。また、桐を素材とするCLTが軽量であることから、運搬コストの大幅な低減や建築現場での取り扱い容易化も実現できる。さらに、桐の成長速度が杉等に比べて早いため、建材として大量に使用することで耕作放棄地の有効利用が実現できるだけでなく、大気中の二酸化炭素を吸収することで地球の温暖化も抑制できる。加えて、桐は、難燃性、調湿性、断熱性に優れているため、表面仕上げ処理を施すことにより、内装工事および外装工事が不要になり、更に建築コストを低減させることができる。このように、本願発明は、従来、構造材としては用いられなかった桐を構造材として用いることで、上記のように様々な効果を得るものである。
【0043】
(CLTの変形例)
変形例では、図15に示すように、繊維方向がCLT1の長手方向に対して45°傾斜するラミナ5を板幅方向に並べた第1プライ2と、繊維方向がラミナ5の繊維方向と直交するラミナ6を板幅方向に並べた第2プライ3とを交互に積層接着してCLT1を製造する。これにより、ラミナ5,6として比較的短尺のものを採用できるだけでなく、第2プライ3が第1プライ2を反転させたもの(すなわち、第1プライ2と第2プライ3とが同一品)となる。その結果、実施形態のCLTに比べ、素材となる第1プライ2(第2プライ3)の製造や管理が容易になり、CLT1の製造に要するコストや工数も低減される。
【0044】
(アンカーの変形例)
図16は、図8に対応し、第1CLT11及び第3CLT13をコンクリート基礎30に結合する構造の変形例を示している。本変形例においては、図8に示すものとは異なり、段付ピン63を上下に3本配置し、ナット62(図8参照)を不要としている。これにより、更に容易に第1CLT11及び第3CLT13をコンクリート基礎30に結合することができる。なお、段付ピン63の数は3本に限られず、必要とされる強度に応じて設定することができる。
【0045】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれに限られるものではない。例えば、上記実施形態は、本発明を陸屋根を有する2階建ての家屋に適用したものであるが、1階建てや3階以上の家屋を始め、倉庫や工場等の他の用途の建物にも適用できる。その他、CLTの具体的製造方法や建物の具体的構成、各部材の接合方法等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、家屋を始め、倉庫や工場等の建築に効果的に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 CLT(直交集成板)
2 第1プライ
3 第2プライ
5,6 ラミナ
10 建物
11 第1CLT
11a 貫通孔
11f 保持溝
12 第2CLT
12b 係止溝
13 第3CLT
13a 底付孔(アンカー孔)
13c 係止孔
13d リセス
30 コンクリート基礎
47 カーテンウォール
61 アンカー
61c ピン孔
63 段付ピン
71 連結金具
72 挿入片部
72a 傾斜面
75 六角コーチスクリュー(ねじ部材)
75b 頭部
S 間隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16