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特開2022-60937目粗しシート、これを用いた型枠用パネル、及びこの型枠用パネルを用いたコンクリート躯体の製造方法
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  • 特開-目粗しシート、これを用いた型枠用パネル、及びこの型枠用パネルを用いたコンクリート躯体の製造方法 図1
  • 特開-目粗しシート、これを用いた型枠用パネル、及びこの型枠用パネルを用いたコンクリート躯体の製造方法 図2
  • 特開-目粗しシート、これを用いた型枠用パネル、及びこの型枠用パネルを用いたコンクリート躯体の製造方法 図3
  • 特開-目粗しシート、これを用いた型枠用パネル、及びこの型枠用パネルを用いたコンクリート躯体の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060937
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】目粗しシート、これを用いた型枠用パネル、及びこの型枠用パネルを用いたコンクリート躯体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 9/10 20060101AFI20220408BHJP
   E04G 9/04 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
E04G9/10 101A
E04G9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168711
(22)【出願日】2020-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】521531300
【氏名又は名称】バルチップ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597150636
【氏名又は名称】株式会社センエイ
(71)【出願人】
【識別番号】515271515
【氏名又は名称】株式会社本郷コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】特許業務法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 孝文
(72)【発明者】
【氏名】賣豆紀 あきな
(72)【発明者】
【氏名】田中 和也
(72)【発明者】
【氏名】本郷 寛
【テーマコード(参考)】
2E150
【Fターム(参考)】
2E150BA04
2E150KC02
2E150LA32
2E150MA16Z
2E150MA17Z
2E150MA32Z
2E150MA47X
(57)【要約】
【課題】
本発明は、簡易な方法でコンクリート躯体表面を荒らすことが可能であり、目粗しの精度を制御することが可能であり、脱型する際に破損しにくい目粗しシートと、当該目粗しシートを備える型枠用パネルと、当該型枠用パネルを使用したコンクリート躯体の製造方法とを提供することを目的とする。
【解決手段】
マルチフィラメントを用いた織編布と、織編布の少なくとも片面に積層されるシート状の熱可塑性樹脂層とを有しており、前記織編布は前記マルチフィラメントの浮き沈みによる凹凸模様を有し、前記熱可塑性樹脂層を介して前記織編布の凹凸模様を転写することで、コンクリート躯体の表面に凹凸を付形する目粗しシート、それを備える型枠、当該型枠を使用したコンクリート躯体の製造方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメントを用いた織編布と、織編布の少なくとも片面に積層されるシート状の熱可塑性樹脂層とを有しており、
前記織編布は前記マルチフィラメントの浮き沈みによる凹凸模様を有し、
前記熱可塑性樹脂層を介して前記織編布の凹凸模様を転写することで、
コンクリート躯体の表面に凹凸を付形する目粗しシート。
【請求項2】
マルチフィラメントと熱可塑性樹脂層は共にポリオレフィン系樹脂からなる請求項1に記載の目粗しシート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂層の厚みが30~150μmである請求項1又は2に記載の目粗しシート。
【請求項4】
熱可塑性樹脂層が押出ラミネートによって織編布に積層されてなる請求項1から3のいずれかに記載の目粗しシート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の目粗しシートが合板に貼り付けられた型枠用パネル。
【請求項6】
目粗しシートと合板が接着剤によって貼り付けられた請求項5記載の型枠用パネル。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の型枠用パネルを用いて組まれた型枠にコンクリートを打設し、コンクリート硬化後、目粗しシートが貼り付いた型枠を除去することで、硬化後のコンクリート躯体表面に、目粗しシートの凹凸模様が転写され、凹凸が形成されるコンクリート躯体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート躯体表面に目粗しを行う目粗しシート、これを用いた型枠用パネル、及びこの型枠用パネルを用いたコンクリート躯体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンション等の建築物には、コンクリート製の構造物が用いられる。コンクリート製の構造物の中には、コンクリート製の躯体(以下、コンクリート躯体と称する。)の表面にモルタルを下地として塗布し(以下、モルタル下地と称する。)、その上にタイルが貼り付けられるものがある。
【0003】
硬化後のコンクリート躯体の表面が滑らかな場合、モルタル下地がうまく乗らず、貼り付けたタイルとモルタル下地とが共に剥離し、経年と共に建築物からタイルが剥がれ落ちやすくなるため、非常に危険である。そこで、コンクリート表面とモルタルとの付着力を上げるために、硬化後のコンクリートに高圧洗浄機などで高圧の水を吹き付けて、コンクリート表面を荒らす目粗し工法が行われてきた(特許文献1)。
【0004】
近年では、より簡易な方法として、コンクリート打設時に用いる型枠の内側に凹凸を有するシートを貼り付けて、コンクリート表面に凹凸を型押しする工法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-092216
【特許文献2】特開2006-336229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の工法は、モルタルの付着力の点では良好であるが、作業に手間がかかる、作業者の負担が大きい、コンクリート表面を微細に削ることによって削片が飛散するため現場周辺における配慮する必要がある、対策として養生が必要になる、目粗しの精度がばらつくといった点で問題があった。
【0007】
特許文献2に記載の工法によれば、特別な装置や現場の養生が不要にはなる。しかしながら、施工現場において型枠へシートを貼り付ける作業に手間がかかるという点で、依然として課題があった。また、その他の問題として脱型時にシートの一部が破損し、コンクリート躯体表面に付着したまま残る場合があった。シートが残留すると、後工程において、モルタル下地をコンクリート躯体表面に塗り付ける際に、モルタル下地とコンクリート躯体との付着力が低下する問題があった。また、シートが破損するため、再利用が難しく廃棄する必要があり、経済的な合理性及び環境への配慮の点で問題があった。
【0008】
本発明は、簡易な方法でコンクリート躯体の表面を荒らすことが可能であり、目粗しの精度を制御することが可能であり、脱型する際に破損しにくい目粗しシートと、当該目粗しシートを備える型枠用パネルと、当該型枠用パネルを使用したコンクリート躯体の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、マルチフィラメントを用いた織編布と、織編布の少なくとも片面に積層されるシート状の熱可塑性樹脂層とを有しており、前記織編布は前記マルチフィラメントの浮き沈みによる凹凸模様を有し、前記熱可塑性樹脂層を介して前記織編布の凹凸模様を転写することで、コンクリート躯体の表面に凹凸を付形する目粗しシートによって解決できる。
【0010】
また、上記の課題は、前記目粗しシートが合板に貼り付けられた型枠用パネルによって解決できる。
【0011】
また、上記の課題は、前記型枠用パネルを用いて組まれた型枠にコンクリートを打設し、コンクリート硬化後、目粗しシートが貼り付いた型枠を除去することで、硬化後のコンクリート躯体表面に、目粗しシートの凹凸模様が転写され、凹凸が形成されるコンクリート躯体の製造方法によって解決できる。
【0012】
上記の目粗しシート、型枠用パネル又はコンクリート躯体の製造方法において、マルチフィラメントと熱可塑性樹脂層は共にポリオレフィン系樹脂からなることが好ましい。熱可塑性樹脂層の厚みが30~150μmであることも好ましい。熱可塑性樹脂層が押出ラミネートによって織編布に積層されてなることも好ましい。上記型枠用パネルは目粗しシートと合板が接着剤によって貼り付けられていることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な方法でコンクリート躯体表面を荒らすことが可能であり、目粗しの精度を制御することが可能であり、脱型する際に破損しにくい目粗しシートと、当該目粗しシートを備える型枠用パネルと、当該型枠用パネルを使用したコンクリート躯体の製造方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】目粗しシートの一実施形態を示す概略図。
図2図1の目粗しシートを利用したコンクリート施工時の断面を模式的に示した図。
図3】ひずみ追従性試験で使用した供試体の構成の構成を示す図である。
図4】完全にタイルが剥離するまでの伸び率Tを求める際に使用するグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の目粗しシート(以下、単にシートと称することがある。)と当該目粗しシートを使用してコンクリート躯体を製造する方法の一実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、施工内容などに応じてその構成を適宜変更することができる。
【0016】
図1及び図2に目粗しシートの一実施形態を示す。本実施形態の目粗しシート1は、図1に示したように、マルチフィラメントを用いた織編布2に熱可塑性樹脂層3を積層することで形成される。詳しくは後述するが、本実施形態の目粗しシート1では、一方の面に熱可塑性樹脂層3が配置され、さらに他方の面に防護層7が配置されている。図2の例では、熱可塑性樹脂層3と防護層7とを積層したマルチフィラメント4の織編布2からなる目粗しシート1は、防護層7が合板8に対向するようにして、接着剤6により、合板8に対して目粗しシート1が固定されて型枠用パネルなしている。そして、型枠としてコンクリートを打設する際には、熱可塑性樹脂層3の面に接するようにコンクリート5が充填される。
【0017】
マルチフィラメントとしては、公知の製造方法により形成された延伸糸を使用することができる。マルチフィラメントは低繊度の単糸を多数(例えば、30~200本)合わせて糸にしたものである。マルチフィラメントを用いた織編布は強度としなやかさを持ち、取り扱い性に優れる。また、マルチフィラメントは各単糸がバラバラにならないよう束ねた状態で撚られているため、断面は略円型であり、マルチフィラメントを用いた織編布は扁平な糸を用いた織編布に比べ表面が凹凸になりやすく、目粗しシートとして最適である。
【0018】
上記マルチフィラメントを構成する主原料は、特に限定されず、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂から適宜選択してよいが、特にポリオレフィン系樹脂を用いることが望ましい。ポリオレフィン系樹脂は比重が小さく、織編布を軽くて、丈夫なシートに仕上げることができる。また、後述の理由から熱可塑性樹脂層はポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、押出ラミネートにより織編布と熱可塑性樹脂層を強固に接着させようとするならば、マルチフィラメントも共にポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、若しくはメタロセン触媒により製造されたエチレン・α‐オレフィン共重合体などのポリエチレン系樹脂;又はポリプロピレン、プロピレン‐エチレンブロック共重合体、若しくはプロピレン‐エチレンランダム共重合体などのポリプロピレン系樹脂等が用いられる。これらは単独又は2種以上混合して用いてもよい。これらのうち、延伸効果により高強力が得られる、ポリプロピレンが好ましい。
【0019】
マルチフィラメントの繊度は、特に制限されるものではないが、300~3,000デシテクス(以下、dtと記載する。)の範囲であることが好ましく、500~2,000dtの範囲であることがより好ましい。繊度が300dt未満では織編布としての機械的特性が不充分となる場合があること、織編布にしたときの表面の凹凸が不十分になる場合がある点で好ましくない。また、3,000dtを超えると柔軟性が不足する場合があり好ましくない。マルチフィラメントに施す撚りは適宜選択されるが、15~200回/mの範囲であることが好ましく、15回/m未満では単糸がバラバラになりやすい上に、織編布にしたとき表面の凹凸が不足しやすくなる場合があるので好ましくない。また、撚り回数が200回/mを超えると柔軟性を損なう上に、押出ラミネートでは熱可塑性樹脂層がマルチフィラメントに絡みにくく十分な接着が得られにくいことがある。
【0020】
上記マルチフィラメントを織編成し織編布を形成する。本実施形態のシートでは織編布を構成するマルチフィラメントが規則的に浮き沈みを繰り返すことで、マルチフィラメント同士が交わり、重なり合っている。このマルチフィラメントの浮き沈みによる凹凸模様を利用して、コンクリート躯体表面に凹凸を付形する。マルチフィラメントを織布にする場合の織組織としては、平織、綾織、絡み織、又は模紗織などが挙げられる。マルチフィラメントを編布にする場合の編組織としては、横編み、縦編みいずれでもよく、具体的にはトリコット編、ミラニーズ編、又はラッセル編などが挙げられる。
【0021】
織編布では、表面に十分な高低差をもった凹凸模様があり、凹凸模様の配置ができるだけ均一であり、織編布の伸び縮みが少なく熱可塑性樹脂層の積層が容易であることが望ましい。このため、どちらかといえば、編布よりも織布の方が好ましい。
【0022】
織編布の織目又は編目が大きく開いた粗いメッシュにしてしまうと、織目部分又は編目部分で熱可塑性樹脂層が破れやすくなってしまう場合がある。また、織編布と熱可塑性樹脂層の接着強度が確保しにくくなる場合がある。粗いメッシュを目粗しシートとして使用すると、織目部分又は編目部分にコンクリートが過度に食い込み、硬化後にコンクリートから取り外すことが難しくなる場合もある。そのため織編布は、平織又は綾織の組織とし、タテ糸又はヨコ糸の少なくとも一方が空隙を埋めるように織られていることが特に好ましい。例えば、コンクリートに転写される凸部の間隔が0.5mm~5mmの範囲であることが好ましく、織物にする場合の打込密度は10~30本/2.54cmの範囲であることが好ましく、より好ましくは14~22本/2.54cmの範囲である。打込密度は、コンクリートに転写される凹凸の間隔に影響し、打設したコンクリートにタイルを貼り付けた際のタイルの剥落抵抗にも影響すると考えられる。かかる観点からも上記打込密度の範囲にあることが好ましい。
【0023】
本実施形態の目粗しシートでは、上記マルチフィラメントからなる織編布に対して、シート状の熱可塑性樹脂層が積層されている。熱可塑性樹脂層は、織編布の片面に設けられた層であって、目粗しするコンクリートと接触させる層をいう。織編布の凹凸模様を転写する上で、織編布と直接コンクリートが接するようにしてしまうと、コンクリートにマルチフィラメントの繊維が食い込み、コンクリートから剥がすこと自体が困難になる。コンクリートから剥がすことができたとしても繊維がコンクリート側に残置され、コンクリート躯体としての品質低下、後工程でタイルを貼り付ける際に不良を引き起こす原因となる。また、コンクリートから剥がす過程で繊維が破損する上に、コンクリート片が繊維内に残るため目粗しシートの再利用が難しくなってしまう。さらに、細い繊維の集合体であるマルチフィラメントを硬化前のコンクリート表面に当てることでコンクリートの水分を吸水し、コンクリートの硬化を阻害してしまう可能性もある。
【0024】
熱可塑性樹脂層に用いる樹脂については、使用する主原料に特に制限はなく、マルチフィラメントを構成する素材と同様の熱可塑性樹脂から適宜選択してもよい。なかでも熱可塑性樹脂層に用いる樹脂は、織編布を構成するマルチフィラメントに用いる樹脂と親和性の高い樹脂であることが好ましい。本実施形態の目粗しシートはコンクリートが硬化した後、コンクリート躯体の表面から剥がす必要がある。その際に織編布と熱可塑性樹脂層の剥離強度が弱いと、条件によっては、織編布と熱可塑性樹脂層の間でシートが剥離してしまう場合がある。高い親和性を得るには樹脂の系統が同じであることが好ましく、マルチフィラメントと熱可塑性樹脂層は共に同系統の樹脂であることが好ましい。また、目粗しシートをコンクリート躯体表面から剥がす際には、コンクリートが熱可塑性樹脂層に強固に付着しないことが望まれる。このような点から、熱可塑性樹脂層は疎水性であることが好ましい。また、織編布の凹凸模様をコンクリート躯体の表面に転写させるためには、熱可塑性樹脂層が織編布の凹凸模様に添うようしなやかさを備えるものであることが好ましい。さらにコンクリートは強いアルカリ性であるため、コンクリート面に接する熱可塑性樹脂層は耐アルカリ性を有することが好ましい。これらの観点から熱可塑性樹脂層に用いる樹脂はポリオレフィン系樹脂が好ましい。コンクリート躯体の表面からシートを剥がす際、熱可塑性樹脂層は伸縮性がある方が破れてにくく破片が残りにくいため、より好ましくはポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを含むと良い。
【0025】
目粗しシートを構成する樹脂には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、無機充填剤、架橋剤、発泡剤、核剤等の通常用いられる添加剤を配合してもよい。
【0026】
熱可塑性樹脂層の積層は、押出ラミネート法、カレンダー法、コーティング法、浸漬法など公知の方法で行ってよい。織編布の凹凸模様が熱可塑性樹脂層の表面に反映されている必要があり、また、熱可塑性樹脂層は織編布の凹凸模様に添うように積層できることが求められる。そのため熱可塑性樹脂層は押出ラミネート法により積層することが好ましい。
【0027】
押出ラミネート法は、基材に対して熱可塑性樹脂を、溶融状態でフィルム状に押し出して、冷却圧着させて積層する方法である。押出ラミネート法によれば、溶解樹脂を基材に食い込ませるだけでなく、溶融樹脂と基材との親和性を利用して層間を接着し、積層することができる。熱可塑性樹脂層を高い圧力をもって基材に食い込ませて積層すると、織編布の凹凸模様を損なうことになるため、溶融樹脂と基材との親和性も併用して積層することが好ましい。押出ラミネート法による積層によれば、織編布に対して溶解樹脂が適度に食い込むため、マルチフィラメントが完全には固定されずに、マルチフィラメントに自由度が残った状態で、目粗しシートが形成される。目粗しシートはコンクリート面に凹凸を付形するものであるが、目粗しシートの凹凸模様が必要以上にコンクリートに食い込むと、硬化後に目粗しシートを取り外すことが難しくなるし、シートがコンクリート面に引っ張られ、条件によっては、シートが破損する場合もある。マルチフィラメントの自由度が残っていれば、凹凸模様がコンクリートに食い込んだとしても、マルチフィラメントが変形することでシートの破損を回避できる可能性がある。
【0028】
熱可塑性樹脂層の厚みは特に制限されるものではない。しかし、熱可塑性樹脂層の厚みが厚すぎると、条件によっては、織編布の凹凸模様を目粗しシートの表面に反映することが難しくなることがある。また、厚みが薄すぎると、条件によっては、熱可塑性樹脂層と織編布との間で十分な接着が得られにくくなることがあるし、熱可塑性樹脂層が破損しやすくなることがある。そのため、熱可塑性樹脂層の厚みは30~150μm程度とすることが好ましい。
【0029】
目粗しシートの引張強さ又は引裂強さは、特に制限されるものではなく、極端に高い必要もない。しかし、目粗しシートは、コンクリート硬化後、コンクリート躯体の表面から剥がす必要がある。シートの破損を確実に防ぐ点では引張強さや引裂強さはある程度高い方が好ましい。これらが低いとコンクリート躯体表面から剥がす際に、条件によっては目粗しシートが破れて、コンクリート躯体に残ってしまうことも想定される。後述するように、目粗しシートを合板に貼り付けて用いる場合においては、目粗しシートにシワが入る場合がある。シートを剥がす際に、皺の部分には応力が集中し、シートが破れやすくなる。本実施形態の目粗しシートは、マルチフィラメントの織編布を用いるものであり、高い引張強さを持たせることができる。これにより、上記の破れの問題を解消することができる。また、目粗しシートの引張強さが高ければ、目粗しシートを全面的に接着することで型枠の反りを抑える効果も得られる。また、上記のように押出ラミネート法により熱可塑性樹脂層を積層すれば、高い引裂強さを維持することもできる。例えば、JIS L 1096による引張強さは、1,000~5,000N/5cm、JIS L 1096 A-1法(シングルタング法)による引裂強さは50~1,000Nにすることができる。
【0030】
上記のようにして得られた目粗しシートは、製造するコンクリートの形状に合わせて組んだ型枠に貼り付けて使用してよい。型枠の材料は、特に制限されず、木製、樹脂製又は金属製のいずれであっても構わないが、目粗しが必要なコンクリートを打設する際に用いる型枠には合板が用いられることが多く、目粗しシートは合板を用いた型枠に貼り付けることが好ましい。目粗しシートと型枠は、釘、タッカー、接着剤、粘着テープなどを用いて施工現場で貼り付けることもできる。この場合、施工現場で型枠の寸法に合わせてシートを裁断し、シートを貼り付ける作業が必要になる。さらに、シートの全面を型枠に対して、十分に接着させることが困難な場合が多く、部分的にシートと型枠とが接着されず、シートにシワが入りやすい。シートにシワが入ると、このシワ模様が製造されたコンクリートに転写されてしまうおそれがある。また、シートと型枠との接着が部分的な接着に留まると、コンクリート硬化後にシートを取り外す際、接着部分の近傍に応力が集中し、シートが破損しやすくなるため、確実にシートを再利用できるとは限らない。
【0031】
シワの発生は、上記のような問題を生じさせるため、目粗しシートと型枠とを接着する際には、接着面が全体的に均一に接着された状態となるようにすることが好ましい。接着面を全体的に均一に接着するには、ロールコーター等を用いて接着面全体に接着剤を配置して接着することが好ましい。そのため、シートは、型枠材料(主に合板)の段階で予め接着させて型枠用パネルとし、型枠用パネルを施工現場に持ち込んで型枠を組む方が好ましい。予めシートと合板とが接着されていれば現場で接着作業を行う必要がなく、効率的に施工を進めることも可能になる。
【0032】
上記接着剤としては、公知のものを使用することができる。接着剤は、水溶性接着剤若しくは水性エマルジョン接着剤のような水性接着剤、又は溶剤タイプの接着剤等いずれであってもよく、シートと合板との接着性をみて適宜選択され得る。また、塗布量についてもそれらの種類や接着性の観点から適宜選択され得る。
【0033】
目粗しシートと合板とを接着剤で貼り付けて型枠用パネルにする場合、目粗しシートにおいて織編布の熱可塑性樹脂層が配置された面の反対側の面に、別途、熱可塑性樹脂からなる防護層を設けることが好ましい。接着剤は、使用するもの種類又は条件によっては、織編布に接触すると多くが織編布に染み込み、十分な接着が得られないことがある。防護層を設けることによって、織編布への染み込みを防ぎ、より均一に接着剤を配置することができる。防護層は熱可塑性樹脂層と同じ構成にすることが好ましい。表裏の構成が異なる場合、条件によっては、カールが生じることがある。カールは接着不良の原因にもなる。防護層は熱可塑性樹脂層と同じ構成とすることにより、カールが生じることを防ぐことができる。
【0034】
防護層を設ける場合は、シートは、防護層に適用された接着剤を介して合板に固定される。防護層の表面には、防護層と接着剤との接着性をより高める目的で表面にコロナ放電処理をすることが好ましい。これによって、熱可塑性樹脂層とコンクリート躯体の接着力に比して、シートと合板との接着力が大きくなるようにすることができる。このような構成によれば、例えば、コンクリートが硬化した後に、型枠に対してシートが貼り付いた状態で、コンクリート躯体から型枠とシートとを一体として除去することが可能になる。
【0035】
目粗しシートを用いてコンクリートを施工する際には、目粗しシートを取り付けた型枠を用いる点を除けば、通常のコンクリートの施工方法と同様にして施工することができる。コンクリートが硬化した後に、目粗しシートが貼り付いた型枠を除去することで、硬化後のコンクリートの表面には目粗しシートの凹凸模様の転写により、凹凸が形成される。
【0036】
本実施形態の目粗しシートは、織編布の一方の面に熱可塑性樹脂層を配置し、織編布の他方の面に防護層を配置した構成である。目粗しシートは、織編布と熱可塑性樹脂層とを備えていれば、防護層を省略してもよいし、その他の層を備える構成としてもよい。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
<目粗しシート作製>
ポリプロピレン製マルチフィラメント(繊度760dt、合糸本数120本、100m/回撚り)をタテ糸及びヨコ糸に用いて、打込密度18×20本/2.54cmで平織に織成し織布を得た。次いで、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(リアクター型TPO)80重量%、及び線状低密度ポリエチレン20重量%の混合物を用意し、上記織布の両面に、押出ラミネート法によりそれぞれ厚み70μmの厚さで積層した。その後、片面にコロナ放電処理を行い、図1及び図2に示した構成を有するシートaを得た。シートaは以下の物性を備えていた。JIS L 1096による引張強さは、タテ2,160N/5cm、ヨコ2,332N/5cmであった。JIS L 1096 A-1法(シングルタング法)による引裂強さはタテ180N、ヨコ150Nであった。
【0039】
[比較例1]
市販のポリプロピレン/ポリエチレン製サーマルボンド不織布(目付:200g/m)を用意し、これをシートbとした。
【0040】
[比較例2]
ダイリップに溝が付形された丸ダイを用いてポリプロピレンをインフレーション法により成形し、片面に長手方向に沿って凹凸が形成されたポリプロピレン製フィルム(目付60g/m)を作製し、これをシートcとした。
【0041】
<試験1:目粗し試験>
木製の型枠(300mm×360mm×100mm)を用意し、実施例1、比較例1、比較例2に示すシートを底面に敷設した。次いで上面よりコンクリートを打ち込んだ。材齢5日目に脱型し、材齢12日目に各シートを剥がした。目粗し状態及び施工性を3段階で評価した結果を表1に記す。
【表1】
【0042】
実施例1:シート1を剥がしたコンクリートの表面にはシートaの織物状の凹凸模様が転写されており、均一な凹凸で目粗し状態になっていた。シートの取り付け、取り外しも容易であり、取り外した後のシートaをみても、コンクリートの付着はほとんどなかった。
比較例1:シートbを剥がしたコンクリートの表面には繊維片が多く付着していた。シートbが硬化前のコンクリートの水分を吸水したことでコンクリート表面が十分に硬化せず、脆く崩れやすかった。
比較例2:シートcを剥がしたコンクリートの表面にはシートcによるストライプ状の凹凸模様が転写されていた。型枠に対してシワの無い状態でシートcを敷設し、固定することが難しく、シートcに一部シワが入ったままコンクリートを打ち込んだため、そのシワ模様もコンクリートに転写されていた。取り外した後のシートcへのコンクリートの付着はほとんどなかった。
【0043】
<試験2:合板貼り合わせ試験>
針葉樹合板に対して、水性エマルジョン接着剤(コニシ株式会社製ボンドCVC360H/硬化剤NV)をロールコーターで塗布し、実施例1及び比較例2のシートをそれぞれ載せて圧締し、外気温で1週間養生して貼着し、合板とシートとを一体化させた型枠用パネルを得た。なお、実施例1のシートに関しては、シートaのコロナ放電処理面と合板が対向するように貼着した。得られた型枠用パネルについて、合板の日本農林規格(平成26年農林水産省告示303号)による1類浸漬剥離試験と島津製作所製オートグラフAG5000Aを用いて180度剥離接着強さ試験(試験片幅:25mm、引張速度:200mm/min)を行った。得られた結果を表2に示す。
【表2】
【0044】
実施例1:実施例1のシートaを貼着した型枠用パネルでは、1類浸漬剥離試験で外観の異常はなかった。180度剥離接着強さ試験も針葉樹合板の材料が破壊に至ることによる数値であり、十分な剥離強さを示した、
比較例2:比較例2のシートcを貼着した型枠用パネルについては、1類浸漬剥離試験において外観の異常はなかった。180度剥離接着強さ試験では、シートcがすぐにちぎれる状態で、同様に計測できる状態ではなかった。
【0045】
<試験3:コンクリート躯体の作製>
上記実施例1のシートaを貼着した型枠用パネルを用いて型枠を組んで、コンクリートを打設し、材齢7日目まで養生した。硬化したコンクリートから型枠を除去し、コンクリート躯体を作製した。
【0046】
コンクリート躯体の表面にはシートaの凹凸模様が転写されており、明らかな凹凸が形成され、目粗し状態になっていた。凹凸は均一であった。脱型は特別困難なことはなく、脱型後のシートaをみても、コンクリートの付着がほとんどなく、型枠は再利用できる状態であった。また、シートaそのものにも破損はなく、シート1も繰り返し使用できる状態にあった。シートaを用いて製造した材齢58日目のコンクリート躯体に下地モルタルを塗り、モルタルでタイルを貼り付けたが、貼り付け作業やタイルの接着性に問題はなかった。
【0047】
<試験4:ひずみ追従性試験>
鋼製の型枠(100mm×400mm×100mm)と、当該型枠の長手方向における二側面をなす型枠部材を実施例1のシートaを貼着した型枠用パネルに組み換えた型枠とを用意した。それぞれの型枠に対して、コンクリート(水セメント比47%、呼び強度33N/mm)を打設した。その翌日、硬化したコンクリートからそれぞれの型枠を除去して、模様のない角柱状の供試体と、シートaの凹凸模様が転写された角柱状の供試体aとを得た。材齢57日目における模様のない供試体に対して超高圧洗浄による目粗しを施し、目粗しが施された角柱状の供試体bを得た。超高圧洗浄は、模様のない供試体の長手方向に延在する対向する二側面に対して行った。
【0048】
図3に示すように供試体aの凹凸模様面及び供試体bの目粗し面に対して、それぞれモルタルを塗って、それぞれの供試体に対して複数枚のタイルを貼着した。タイルの貼着する位置は次のようにした。モルタルを塗った面における短手方向の中心に鉛直線を想定し、当該鉛直線に沿って複数枚のタイルを貼着した。図3に示すように、供試体の一方の面に計5枚のタイルを貼着し、供試体の他方の面に計5枚のタイルを貼着した。タイルを貼着する位置は、下端のタイルの縁が、供試体の下端から72.5mmの位置となり、上端のタイルの縁が、供試体の上端から72.5mmの位置となり、各タイルの間に5mmの間隔が空くようにした。タイルの形状は、45mm×45mmの正方形である。タイルを貼り付けた後、材齢83日まで養生し、供試体aの二面にタイルを貼り付けた角柱状の供試体a´と、供試体bの二面にタイルを貼り付けた角柱状の供試体b´を得た。
【0049】
ひずみゲージを、図3に示すように、供試体の長手方向及び短手方向における中心位置に取り付け、上記供試体a´と供試体b´に対し、JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に基づいて、ひずみ追従試験を行った。コンクリートのひずみ測定は、株式会社東京測定研究所製ひずみゲージPL-60-11を用いて測定した。タイルのひずみ測定は、同社PFL-10-11を用いて測定し、同社ひずみレコーダーDC204Rを用いて記録した。得られた結果を表3に示す。なお、「ひずみ伝達率α」は、コンクリートひずみに対するタイルひずみの比を示す。「完全にタイルが剥離するまでの伸び度T」は、タイルひずみが減少に転じた点から、タイルが完全に剥離する点までのタイルひずみ-コンクリートひずみ曲線とコンクリートひずみ軸の間の面積(図4斜線部分)を示す。
【表3】
【0050】
実施例1のシートaを用いて得られた供試体a´は、超高圧洗浄による目粗しを施した供試体b´に比して、完全にタイルが剥離するまでの伸び度Tが約5倍高く、タイルが剥落するまでに多くのエネルギーを要する。すなわち、実施例1のシートaによる目粗しは、超高圧洗浄による目粗しに比して、タイルの剥落抵抗が得られやすい。完全にタイルが剥離するまでの伸び度Tが150,000以上、特に200,000以上になった理由としては実施例1のシートaによって形成されたコンクリートの凹凸が適度な深さ、間隔でかつ均一であることによるものと推察される。
【符号の説明】
【0051】
1 目粗しシート
2 織編布
3 熱可塑性樹脂層
4 マルチフィラメント
5 コンクリート
6 接着剤
7 防護層
8 合板

図1
図2
図3
図4