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特開2022-61017正極材の製造方法およびこれにより製造された正極材を含む正極
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  • 特開-正極材の製造方法およびこれにより製造された正極材を含む正極 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061017
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】正極材の製造方法およびこれにより製造された正極材を含む正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220408BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220408BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220408BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220408BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220408BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220408BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220408BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20220408BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220408BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20220408BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/587
H01M10/0562
H01M10/0525
C01G53/00 A
H01M4/1391
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158007
(22)【出願日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0128223
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100210790
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大策
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ヨンソプ
(72)【発明者】
【氏名】ミン、ホンソク
(72)【発明者】
【氏名】土屋 元
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勇樹
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM11
5H050AA19
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リチウム酸化物系粒子の表面にリチウムイオン伝導体をコーティングする表面改質工程中に使用する有機溶媒をより経済性のある溶媒に代替する、正極材の製造方法およびこれにより製造された正極材を提供する。
【解決手段】水を含む溶媒にリチウム(Li)およびニオブ(Nb)を含むコーティング材原料を投入、混合および溶解させてコーティング液を製造するステップと、リチウム酸化物系粒子の表面に前記コーティング液を噴射してコーティング層を形成するステップと、前記コーティング層を熱処理するステップとを含むことを特徴とする正極材の製造方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水(HO)を含む溶媒にリチウム(Li)およびニオブ(Nb)を含むコーティング材原料を投入、混合および溶解させてコーティング液を製造するステップと、
リチウム酸化物系粒子の表面に前記コーティング液を噴射してコーティング層を形成するステップと、
前記コーティング層を熱処理するステップとを含むことを特徴とする正極材の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒に補助剤がさらに投入され、
前記補助剤は、アンモニア(NH)および界面活性剤の少なくともいずれか1つを含む、請求項1に記載の正極材の製造方法。
【請求項3】
前記補助剤は、溶媒100重量部を基準として0.001~0.30重量部含まれる、請求項2に記載の正極材の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤は、陰イオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤の少なくともいずれか1つを含む、請求項2に記載の正極材の製造方法。
【請求項5】
前記コーティング液は、リチウムを1M~10Mの濃度で含み、
ニオブを1M~10Mの濃度で含む、請求項1に記載の正極材の製造方法。
【請求項6】
前記コーティング液に含まれるリチウムおよびニオブのモル比率は、Li/Nb=0.9~1.2である、請求項1に記載の正極材の製造方法。
【請求項7】
コーティング液を製造するステップは、水を含む溶媒にコーティング材原料を投入する投入ステップと、
前記溶媒にコーティング材原料を溶解させる溶解ステップと、
前記溶媒に水酸化物を投入して中和反応させる中和ステップとを含む、請求項1に記載の正極材の製造方法。
【請求項8】
投入ステップにおいて、コーティング材原料と共に過酸化水素(H)が投入されて弱酸性環境になり、
溶解ステップにおいて、溶媒にアンモニア(NH)を投入して強アルカリ性環境を作り、
前記強アルカリ環境でコーティング材原料が溶媒に溶解する、請求項7に記載の正極材の製造方法。
【請求項9】
前記投入されるコーティング材原料は、溶媒の水素イオン濃度の環境に応じて溶解度が変化し、
前記投入される過酸化水素、アンモニア、および水酸化物を用いて前記溶媒の水素イオン濃度が調節される、請求項7に記載の正極材の製造方法。
【請求項10】
投入ステップにおける水素イオン濃度はpH3以下であり、
溶解ステップにおける水素イオン濃度はpH3~pH12であり、
中和ステップにおける水素イオン濃度はpH6~pH8である、請求項7に記載の正極材の製造方法。
【請求項11】
コーティング層を形成するステップにおいて、前記コーティング液は、スプレーコーティング方法によりリチウム酸化物系粒子の表面に噴射されて付着する、請求項1に記載の正極材の製造方法。
【請求項12】
熱処理ステップにおいて、前記熱処理は、300℃~450℃の温度で行われる、請求項1に記載の正極材の製造方法。
【請求項13】
前記請求項1に記載の製造方法により製造されて表面にコーティング層が形成されたリチウム酸化物系粒子を含む正極材と、
固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくともいずれか1つの添加物とを含むことを特徴とする正極。
【請求項14】
前記正極材に含まれるコーティング層の厚さは、3nm~50nmである、請求項13に記載の正極。
【請求項15】
前記正極材は、リチウムと、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)の少なくとも2種以上の元素とを含む、請求項13に記載の正極。
【請求項16】
前記請求項13に記載の正極と、
炭素を含む負極と、
前記正極および負極の間に介在した固体電解質とを含むことを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極材の製造方法およびこれにより製造された正極材を含む正極に関する。より具体的には、本発明は、全固体電池用正極を製造するにあたり、全固体電池の実用化を念頭において正極性能を改善しながら工程の効率性を高める製造方法を提供することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
全固体電池用正極材は、層状型結晶構造のLi(Ni/Co/Mn)Oリチウム酸化物粉末の表面に、LiNbO、LiTi12のようなリチウムイオン伝導体を数nmの厚さに均一にコーティングする表面改質工程を経た後に用いる。特に、LiNbO表面コーティング層は、「空間電荷層メカニズム」によりリチウムイオンの移動抵抗を大幅に低下させて電池容量および出力性能を改善したり、正極複合体層内での酸化物(正極)と硫化物(電解質)との間の異種材料間の化学反応を抑制して寿命を維持させるのに効果がある(K.Takada、「LiNbO-coated LiCoO as cathode material for all solid-state lithium secondary batteries」)。しかし、現在の正極表面コーティング技術は正極および電解質の間の界面抵抗が全固体電池セル全体の抵抗成分において70%以上占めるという問題と、現在の「正極表面コーティング」費用(コーティング原料価格/コーティング工程費)は現在全固体電池の価格構成の20~40%水準という限界性と、を抱えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明によれば、正極材に含まれる既存のリチウム酸化物系粒子の表面にリチウムイオン伝導体をコーティングする表面改質工程中に使用する有機溶媒をより経済性のある溶媒に代替する方法を提供することを目的とする。
【0004】
本発明によれば、水をベースとする溶媒を用いてリチウムイオン伝導体をリチウム酸化物系粒子の表面にコーティングする時、コーティング層の均一性を改善することを目的とする。
【0005】
本発明の目的は以上に述べた目的に制限されない。本発明の目的は以下の説明でより明らかになり、特許請求の範囲に記載の手段およびその組み合わせで実現されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、水(HO)を含む溶媒にリチウム(Li)およびニオブ(Nb)を含むコーティング材原料を投入、混合および溶解させてコーティング液を製造するステップと、リチウム酸化物系粒子の表面に前記コーティング液を噴射してコーティング層を形成するステップと、前記コーティング層を熱処理するステップとを含むことを特徴とする正極材の製造方法を提供する。
【0007】
前記溶媒に補助剤がさらに投入され、前記補助剤は、アンモニア(NH)および界面活性剤の少なくともいずれか1つを含むものであってもよい。
【0008】
前記補助剤は、溶媒100重量部を基準として0.001~0.30重量部含まれるものであってもよい。
【0009】
前記界面活性剤は、陰イオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤の少なくともいずれか1つを含むものであってもよい。
【0010】
前記コーティング液は、リチウムを1M~10Mの濃度で含み、ニオブを1M~10Mの濃度で含むものであってもよい。
【0011】
前記コーティング液に含まれるリチウムおよびニオブのモル比率は、Li/Nb=0.9~1.2であってもよい。
【0012】
コーティング液を製造するステップは、水を含む溶媒にコーティング材原料を投入する投入ステップと、前記溶媒にコーティング材原料を溶解させる溶解ステップと、前記溶媒に水酸化物を投入して中和反応させる中和ステップとを含むものであってもよい。
【0013】
投入ステップにおいて、コーティング材原料と共に過酸化水素(H)が投入されて弱酸性環境になり、溶解ステップにおいて、溶媒にアンモニア(NH)を投入して強アルカリ性環境を作り、前記強アルカリ環境でコーティング材原料が溶媒に溶解するものであってもよい。
【0014】
前記投入されるコーティング材原料は、溶媒の水素イオン濃度の環境に応じて溶解度が変化し、前記投入される過酸化水素、アンモニア、および水酸化物を用いて前記溶媒の水素イオン濃度が調節されるものであってもよい。
【0015】
投入ステップにおける水素イオン濃度はpH3以下であり、溶解ステップにおける水素イオン濃度はpH3~pH12であり、中和ステップにおける水素イオン濃度はpH6~pH8であってもよい。
【0016】
コーティング層を形成するステップにおいて、前記コーティング液は、スプレーコーティング方法によりリチウム酸化物系粒子の表面に噴射されて付着するものであってもよい。
【0017】
熱処理ステップにおいて、前記熱処理は、300℃~450℃の温度で行われるものであってもよい。
【0018】
本発明によれば、前記請求項1に記載の製造方法により製造されて表面にコーティング層が形成されたリチウム酸化物系粒子を含む正極材と、固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくともいずれか1つの添加物とを含むことを特徴とする正極を提供する。
【0019】
前記正極材に含まれるコーティング層の厚さは、3nm~50nmであってもよい。
【0020】
前記正極材は、リチウムと、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)の少なくとも2種以上の元素とを含むものであってもよい。
【0021】
本発明によれば、前記正極と、炭素を含む負極と、前記正極および負極の間に介在した固体電解質とを含むことを特徴とする全固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、正極材に含まれる既存のリチウム酸化物系粒子の表面にリチウムイオン伝導体をコーティングする表面改質工程中に使用する有機溶媒をより経済性のある溶媒に代替する方法を提供することができる。
【0023】
本発明によれば、水をベースとする溶媒を用いてリチウムイオン伝導体をリチウム酸化物系粒子の表面にコーティングする時、コーティング層の均一性を改善することができる。
【0024】
本発明の効果は以上に述べた効果に限定されない。本発明の効果は以下の説明において推論可能なすべての効果を含むことが理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の正極材を製造する工程を簡単に示す図である。
図2】本発明の正極材の製造方法に関するフローチャートを示す図である。
図3】実施例1で製造された正極材の表面をオージェ電子分光法(AES)により観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴および利点は、添付した図面に関連する以下の好ましい実施例を通じて容易に理解されるであろう。しかし、本発明はここで説明される実施例に限定されず、多の形態で具体化されてもよい。むしろ、ここで紹介される実施例は開示された内容が徹底かつ完全になるように、そして通常の技術者に本発明の思想が十分に伝達できるようにするために提供されるものである。
【0027】
各図面を説明するにあたり、類似の参照符号を類似の構成要素について使った。添付した図面において、構造物の寸法は本発明の明確性のために実際より拡大して示したものである。第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使われるが、前記構成要素は前記用語によって限定されてはならない。前記用語は1つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ使われる。例えば、本発明の権利範囲を逸脱することなく、第1構成要素は第2構成要素と名付けられてもよく、同様に、第2構成要素も第1構成要素と名付けられてもよい。単数の表現は文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。
【0028】
本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合、これは、他の部分の「真上に」ある場合のみならず、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下部に」あるとする場合、これは、他の部分の「真下に」ある場合のみならず、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。
【0029】
他に明示されない限り、本明細書で使われた成分、反応条件、ポリマー組成物および配合物の量を表現するすべての数字、値および/または表現は、このような数字が本質的に異なるものの中でこれらの値を得るのに発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、すべての場合、「約」という用語によって修飾されることが理解されなければならない。また、本記載において数値範囲が開示される場合、このような範囲は連続的であり、他に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までのすべての値を含む。さらに、このような範囲が整数を指し示す場合、他に指摘されない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含むすべての整数が含まれる。
【0030】
本明細書において、範囲が変数について記載される場合、前記変数は、前記範囲の記載された終了点を含む記載範囲内のすべての値を含むことが理解されるであろう。例えば、「5~10」の範囲は、5、6、7、8、9、および10の値だけでなく、6~10、7~10、6~9、7~9などの任意の下位範囲を含み、5.5、6.5、7.5、5.5~8.5および6.5~9などのような記載範囲の範疇に妥当な整数間の任意の値も含むことが理解されるであろう。また、例えば、「10%~30%」の範囲は、10%、11%、12%、13%などの値と30%までを含むすべての整数だけでなく、10%~15%、12%~18%、20%~30%などの任意の下位範囲を含み、10.5%、15.5%、25.5%などのように記載された範囲の範疇内の妥当な整数間の任意の値も含むことが理解されるであろう。
【0031】
本発明は、正極材の製造方法およびこれにより製造された正極材を含む正極に関する。以下、図1および図2を参照して、本発明の正極材の製造方法について説明し、その後、前記製造方法により製造された正極材を含む正極を説明する。
【0032】
正極材の製造方法
本発明の水(HO)を含む溶媒にリチウム(Li)およびニオブ(Nb)を含むコーティング材原料を投入、混合および溶解させてコーティング液を製造するステップと、リチウム酸化物系粒子の表面に前記コーティング液を噴射してコーティング層を形成するステップと、前記コーティング層を熱処理するステップとを含むことを特徴とする。
【0033】
以下、図1および図2を参照して、各ステップ別に説明する。
【0034】
コーティング液製造ステップS1
水(HO)を含む溶媒にリチウム(Li)およびニオブ(Nb)を含むコーティング材原料を投入、混合および溶解させてコーティング液を製造するステップである。
【0035】
前記溶媒は、好ましくは、純粋な水(HO)のみを含む。
【0036】
本発明は、コーティング液の溶媒として水のみを使用することにより、全固体電池の工程単価を低下させることに目的がある。そのため、溶媒として水を使用した時の問題を改善し、結果として、性能に優れた正極を製造する方法を提供することに窮極的な目的がある。
【0037】
前記コーティング材原料は、リチウムイオンの移動抵抗を低下させる物質を含むが、リチウム(Li)およびニオブ(Nb)を含み、好ましくは、水酸化リチウム(LiOH)およびニオブ酸(Nb・3HO)を含む。
【0038】
前記コーティング材原料は、有機溶媒にはよく溶解するものの水には溶解しない特徴がある。そのため、コーティング材原料の円滑な溶解のために、前記溶媒には補助剤がさらに投入される。
【0039】
前記補助剤は、アンモニア(NH)および界面活性剤の少なくともいずれか1つを含み、好ましくは、アンモニアおよび界面活性剤をすべて含む。この時、前記補助剤は、溶媒100重量部を基準として0.001重量部~0.3重量部含まれることが好ましく、より好ましくは0.01重量部~0.1重量部含まれる。
【0040】
前記界面活性剤は、水を溶媒として用いたコーティング液をリチウム酸化物系粒子10にコーティングする時、コーティング均一性の低下を抑制するために使用する。前記コーティング不均一は、エタノールなどの有機溶媒と比較して高い表面張力を有する水を溶媒として用いることにより発生する根本的な限界であり、本発明では、これを克服するために、最適な界面活性剤を導入することが必須である。
【0041】
前記界面活性剤は、陰イオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。この時、前記界面活性剤として陽イオン界面活性剤は除外させることが好ましいが、前記陽イオン界面活性剤は、水素イオン濃度(pH)の環境に応じて電荷の物性が変化したり、または溶媒の表面張力を敏感に調節することが困難になりうるからである。特に、電荷の物性の変化幅が大きい場合、正極材表面の物性改質材料と反応したり、残留物を生成させることがあるため、このような点を勘案して界面活性剤の種類を選択しなければならない。
【0042】
前記陰イオン界面活性剤は、親水性分子環に硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、カルボン酸塩のような陰イオン群を含むことができるが、代表的に、硫酸塩としては、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルナフタレン硫酸ナトリウム、およびアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどが含まれ、リン酸塩としては、リン酸塩化リン酸塩、リン酸塩化エタノールアミン、リン酸塩化塩、およびスフィンゴミエリンなどが含まれてもよい。
【0043】
前記非イオン性界面活性剤は、親水性環内に電荷のない構造形態を有するが、親水性グループ内の酸素が水素結合で含有されたものが一般的であり、代表的には、ポリソルベート系、ソルビタン系、フェニルエーテル系、およびポリエチレングリコール系などが含まれてもよいし、一例として、ポリオキシエチレンジスチレン化ポリエチレンを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明では、非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。これは、リチウム酸化物系粒子10またはコーティング層20の表面上に前記界面活性剤が吸着されても表面電荷の変化が最も少ないからである。これにより、正極材の表面で遷移金属の拡散などによる副反応を抑制することができ、コーティング液に溶解してコーティング層20に形成されるリチウム酸化ニオブ(LiNbO)の後の結晶化工程時にも、原子価の変形による結晶成長阻害の可能性も少なくなる。
【0045】
前記界面活性剤は、フェニルエーテル系非イオン性界面活性剤を使用することが最も好ましい。
【0046】
前記混合は、時間0.5h~4hの間、温度50℃~70℃で行われることが好ましい。
【0047】
本発明のコーティング液製造ステップS1は、水を含む溶媒にコーティング材原料を投入する投入ステップS1-1と、前記溶媒にコーティング材原料を溶解させる溶解ステップS1-2と、前記溶媒に水酸化物を投入して中和反応させる中和ステップS1-3とにさらに区分される。
【0048】
前記区分される各ステップにより投入される補助剤または反応の影響で溶媒の水素イオン濃度が変化可能である。
【0049】
本発明は、前記各ステップ別に水素イオン濃度を最適に調節し、反応時間および反応温度などの変数を微細に制御することを特徴とする。
【0050】
投入ステップS1-1
水を含む溶媒にコーティング材原料を投入するステップである。
【0051】
前記溶媒は、過酸化水素(H)を含むことができ、前記溶媒は、好ましくは、弱酸性の環境を有する。この時、溶媒の水素イオン濃度はpH3以下になる。
【0052】
コーティング材原料は、水に完全に溶解するリチウムおよびニオブを含む原料を使用し、好ましくは、水酸化リチウムとニオブ酸を使用することがより好ましい。投入する原料の量は、リットルあたりの元素のモル比を意味するモル濃度(M)を基準として、リチウム元素、ニオブ元素それぞれ0.05M~0.3Mを投入することが好ましく、より好ましくは0.1M~0.2Mの溶液濃度で製造される。
【0053】
溶解ステップS1-2
溶媒にコーティング材原料を溶解させる溶解ステップである。
【0054】
本発明では、溶媒にコーティング材原料を円滑に溶解させるために、アンモニア(NH)を投入して強アルカリ性環境を作る。前記のように溶媒の環境を強アルカリ性環境に調節する理由は、実質的に、本発明の溶媒は、水をベースとし、操作なしにニオブ酸を含むコーティング材原料を水に溶解させることが困難であるからである。
【0055】
前記溶媒の水素イオン濃度はpH3~pH12となるように調節することが好ましく、さらに好ましくはpH8~pH11となるように調節する。前記のように溶媒の水素イオン濃度が強アルカリ性環境に調節されてこそ、コーティング材原料が溶媒に円滑に溶解できる。
【0056】
しかし、コーティング材原料が溶媒に溶解しても水素イオン濃度および反応温度などで微細な調節に失敗する場合、局部的に再析出反応が起こり、酸化ニオブ(Nb)沈殿物が発生する。
【0057】
前記沈殿物は、非常に安定した物質で、正極および固体電解質の界面で抵抗として作用しうるため、毎ステップの工程ごとに水素イオン濃度、反応温度および反応時間を好ましい範囲内に調節しなければならない。
【0058】
中和ステップS1-3
溶媒に水酸化物を投入して中和反応させるステップである。
【0059】
前記水酸化物の投入により溶媒の水素イオン濃度はpH6~pH8に調節されることが好ましい。前記水酸化物は、好ましくは、水酸化リチウムを含むが、この時、前記水酸化物は、溶媒の環境が酸性に変化しないようにゆっくり中和させる役割を果たすだけでなく、後に生成されるコーティング層20に直接的な原料を提供する。
【0060】
前記中和反応が完全に行われた後、コーティング材原料が完全に溶媒に溶解したコーティング液を得ることができる。
【0061】
前記コーティング液は、リチウムを1M~10Mの濃度で含み、ニオブを1M~10Mの濃度で含む。
【0062】
前記コーティング液に含まれるリチウムおよびニオブのモル比率は、好ましくは、Li/Nb=0.9~1.2である。さらに好ましくは、モル比率は、Li/Nb=1.0~1.1である。
【0063】
コーティング層20形成ステップS2
リチウム酸化物系粒子10の表面にコーティング液を噴射してコーティング層20を形成するステップである。
【0064】
本発明において、前記コーティング液の噴射、コーティング層20の形成およびコーティング層20の乾燥は同時に行われることを特徴とする。すなわち、コーティング層20形成ステップにおいて、コーティング液の噴射およびコーティング層20の形成と同時に、迅速に乾燥によって溶媒の揮発が進行してこそ、熱加水分解反応による均一なコーティング層20の形成が可能になる。
【0065】
図1を参照すれば、リチウム酸化物系粒子10の表面にコーティング層20が形成されていることが分かる。
【0066】
前記リチウム酸化物系粒子10は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物などを含むことができるが、これらに限定されず、全固体電池技術分野における正極に適用されるリチウム酸化物系物質はすべて使用可能である。
【0067】
前記コーティング液は、好ましくは、コーティング液の噴射、コーティングおよび乾燥が同時に行われるスプレーコーティング方法によりリチウム酸化物系粒子10の表面に噴射されて付着する。
【0068】
本発明において、コーティングおよび乾燥が行われるコーティング層20形成ステップにおける環境は、60℃~150℃および0.20m/min~0.60m/minの風量で行われることが好ましい。また、前記噴射は、好ましくは、速度2g/min~20g/minの速度で行われることが好ましい。これは、比重1.0g/cm、沸点100℃、および蒸発潜熱500cal/g以上を有する水の性質を考慮したものであって、工程の種類によって変更可能である。
【0069】
熱処理ステップS3
リチウム酸化物系粒子10の表面に形成されたコーティング層20を熱処理して、図1のようにコーティング層20の結晶化を進行させて結晶性コーティング層21を得るステップである。
前記熱処理は、300℃~450℃の温度で行われることが好ましい。
【0070】
正極材
本発明は、前記のような製造方法により正極材を得ることができる。
【0071】
前記正極材は、コア(core)にリチウム酸化物系粒子10を含み、シェル(shell)にコーティング層20が形成されたコア-シェル形態を有することを特徴とする。この時、前記正極材に含まれるコーティング層の厚さは、5nm~50nmになることが好ましい。
【0072】
本発明の正極材は、リチウムと、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)の少なくとも2種以上の元素とを含むことを特徴とする。
【0073】
正極
本発明の正極は、本発明の正極材および添加物を含む。
【0074】
前記添加物は、固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくともいずれか1つを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0075】
全固体電池
本発明の全固体電池は、正極と、炭素を含む負極と、前記正極および負極の間に介在した固体電解質とを含むことを特徴とする。
【0076】
本発明において、前記固体電解質の種類について特に限定せず、これは、全固体電池技術分野において完全に使用される物質であれば十分である。
【0077】
前記負極は、固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくともいずれか1つをさらに含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0078】
以下、本発明を具体的な実施例を通じてさらに詳しく説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらによって限定されるものではない。
【0079】
実施例1
過酸化水素を含む水100重量部を基準として、ニオブ酸40重量部を投入し、水素イオン濃度がpH10となるようにアンモニアを投入して混合する。以後、水酸化リチウムを投入して中和反応を進行させた後、反応を終了した。以後、リチウムおよびニオブをモル比率1:1で含むコーティング液を製造した。
【0080】
前記製造されたコーティング液をリチウム酸化物系粒子が含まれた転動流動層スプレーコーター装置(Powrex社のMP-01)の内部に噴射させた。この時、140℃の温度および0.40m/minの風量でリチウム酸化物系粒子を循環させる間に、前記コーティング液を4g/minの速度で5nmの厚さとなるように噴射した。
【0081】
以後、コーティングが完了した正極材を350℃の温度で熱処理してコーティング層を結晶化させ、前記コーティング層を含む正極材を、導電材、バインダーと共に溶媒に投入および混合し、15mg/cm水準のローディング量を有する薄膜正極を製造した。この時、前記コーティング層が形成された正極材をオージェ電子分光法(AES)により図3のように観察したが、コーティングが均一に行われたことを確認することができる。
【0082】
また、黒鉛活物質、固体電解質、およびバインダーを溶媒に投入および混合し、コーティングして負極を製造した。以後、前記負極および正極を直径13mmのディスク状に打ち抜き、電極の間に固体電解質粉末を投入して、全固体電池評価セルを組立てた。
【0083】
実施例2
前記実施例1の水100重量部を基準として、ニオブ酸およびアンモニアと共に非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンジスチレン化ポリエチレン)を0.125重量部追加的に投入したことを除けば、前記実施例1と同様の過程で正極材を製造し、全固体電池評価セルを組立てた。
【0084】
実施例3
前記実施例1の水100重量部を基準として、ニオブ酸およびアンモニアと共に非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル系)を0.125重量部追加的に投入したことを除けば、前記実施例1と同様の過程で正極材を製造し、全固体電池評価セルを組立てた。
【0085】
実施例4
前記実施例1の水100重量部を基準として、ニオブ酸およびアンモニアと共に陰イオン界面活性剤(アルキルナフタレン硫酸ナトリウム)を0.125重量部追加的に投入したことを除けば、前記実施例1と同様の過程で正極材を製造し、全固体電池評価セルを組立てた。
【0086】
実施例5
前記実施例1の水100重量部を基準として、ニオブ酸およびアンモニアと共に陰イオン界面活性剤(アルキルポリオキシエチレン硫酸塩)を0.125重量部追加的に投入したことを除けば、前記実施例1と同様の過程で正極材を製造し、全固体電池評価セルを組立てた。
【0087】
比較例1
リチウム酸化物系粒子上に別のコーティング液をコーティングしないことを除けば、前記実施例1と同様の過程で全固体電池評価セルを組立てた。
【0088】
比較例2
溶媒を水の代わりにエタノールを用いたことを除けば、前記実施例1と同様の過程で全固体電池評価セルを組立てた。
【0089】
比較例3
前記実施例1の水100重量部を基準として、ニオブ酸およびアンモニアと共に陽イオン界面活性剤(アルキルベンジルメチルアンモニウム塩)を0.125重量部追加的に投入したことを除けば、前記実施例1と同様の過程で正極材を製造し、全固体電池評価セルを組立てた。
【0090】
比較例4
前記実施例1の水100重量部を基準として、ニオブ酸およびアンモニアと共に両性界面活性剤(アルキルカルボキシベタイン)を0.125重量部追加的に投入したことを除けば、前記実施例1と同様の過程で正極材を製造し、全固体電池評価セルを組立てた。
【0091】
実験例(DC-IR)
前記実施例1~実施例6、比較例1~比較例4の全固体電池評価セルに対して放電容量およびDC-IRの数値を測定し、結果を下記表1に示した。
【表1】
【0092】
前記表2の結果をみると、水を溶媒として適用する実施例1が、エタノールを溶媒として適用する比較例2に比べて放電容量に優れていることが分かる。
【0093】
本発明のコーティング液を適用しないリチウム酸化物系粒子を正極材として適用して製造された全固体電池評価セル(比較例1)は、放電容量が低く、また、抵抗値が非常に高いことが分かる。
【0094】
さらに、陰イオン界面活性剤および非イオン界面活性剤を適用したコーティング液を用いる場合、他の界面活性剤を適用する時より放電容量に優れ、抵抗値が低いことが分かる。特に、コーティング液に非イオン界面活性剤を適用する場合、最も低い抵抗値を示すことを確認することができる。
【符号の説明】
【0095】
10:リチウム酸化物系粒子
20:コーティング層
21:結晶性コーティング層
図1
図2
図3