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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061026
(43)【公開日】2022-04-15
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 11/10 20060101AFI20220408BHJP
   F16H 3/083 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
F16D11/10 Z
F16H3/083
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021163385
(22)【出願日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】20200101.2
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521432580
【氏名又は名称】エックストラック リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トルステン オブライエン
(72)【発明者】
【氏名】益田 大治郎
(72)【発明者】
【氏名】ジョン マーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ポール ポムフレット
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ゴスティック
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー ラスブリッジ
【テーマコード(参考)】
3J056
3J528
【Fターム(参考)】
3J056AA03
3J056BE30
3J056CA02
3J056CC03
3J056CC08
3J056CC12
3J056GA05
3J056GA13
3J528EA30
3J528FC32
3J528FC42
3J528FC47
3J528GA10
(57)【要約】
【課題】複雑さを回避するドッグ・クラッチを備える駆動力伝達装置を提供すること。
【解決手段】駆動力伝達装置が、回転軸の周りで回転するように、また、ドッグ歯車組立体とドッグ・リングとの間でトルクが伝達され得る係合状態とトルクが伝達され得ない係脱状態との間で相対的軸方向調整をするように構成された、ドッグ歯車組立体及びドッグ・リングを備える。ドッグ歯車組立体は、ドッグ歯車、延長位置と格納位置との間でドッグ歯車に対して移動するように構成された格納式ドッグ組立体、及び、格納式ドッグ組立体の移動を制御する制御要素を含む。ドッグ・リングは、複数の第1のドッグを備え、ドッグ歯車組立体は、複数の第2のドッグを備え、第2のドッグは、係合状態において第1のドッグと係合し、係脱状態において第1のドッグから係脱される。第2のドッグは、ドッグ歯車に取り付けられた複数の固定ドッグと、格納式ドッグ組立体を備える複数の格納式ドッグとを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドッグ・クラッチを備える駆動力伝達装置であって、前記ドッグ・クラッチが、
ドッグ歯車組立体、及び、
ドッグ・リング
を備え、
前記ドッグ歯車組立体及び前記ドッグ・リングが、回転軸の周りで回転するように、また、前記ドッグ歯車組立体と前記ドッグ・リングとの間でトルクが伝達され得る係合状態とトルクが伝達され得ない係脱状態との間で相対的軸方向調整をするように構成され、
前記ドッグ歯車組立体が、
ドッグ歯車、
延長位置と格納位置との間で前記ドッグ歯車に対して移動するように構成された格納式ドッグ組立体、及び、
前記格納式ドッグ組立体の移動を制御する制御要素
を含み、
前記ドッグ・リングが、複数の第1のドッグを備え、前記ドッグ歯車組立体が、複数の第2のドッグを備え、前記第2のドッグが、前記係合状態において前記第1のドッグと係合して前記ドッグ・リングと前記ドッグ歯車組立体との間でトルクを伝達するように構成され、且つ、前記係脱状態において前記第1のドッグから係脱されるように構成され、
前記第2のドッグが、前記ドッグ歯車に取り付けられた複数の固定ドッグと、前記格納式ドッグ組立体を備える複数の格納式ドッグとを含み、各格納式ドッグが、第1のドッグと係合したときに前記ドッグ・リングにトルクを伝達するように構成されたトルク駆動面と、第1のドッグと係合したときに前記格納位置に向かう前記格納式ドッグ組立体の移動を強いるように構成されたカム面とを有し、
それにより、前記ドッグ・リングと前記ドッグ歯車組立体との間の相対的回転が、係合された前記第1のドッグを係合された前記格納式ドッグの前記カム面上で摺動させて、前記格納位置に向かう前記格納式ドッグ組立体の移動を強いる、駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記格納式ドッグ組立体が、延長位置と格納位置との間で前記ドッグ歯車に対して軸方向運動するように構成され、前記制御要素が、前記格納式ドッグ組立体の軸方向運動を制御する、請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記固定ドッグ及び前記格納式ドッグが、前記格納式ドッグ組立体が前記延長位置にあるときに、前記ドッグ歯車から実質的に等距離に軸方向に延在する、請求項2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記格納式ドッグ組立体が、前記格納式ドッグ組立体が前記延長位置にあるときには前記格納式ドッグと前記第1のドッグとの間でトルクが伝達され得るように構成され、且つ、前記格納式ドッグ組立体が前記格納位置にあるときには前記格納式ドッグと前記第1のドッグとの間でトルクが伝達され得ないように構成される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記トルク駆動面が、前記ドッグ・クラッチの横断面に対して実質的に垂直である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記カム面が、前記ドッグ・クラッチの横断面に対して鋭角θで傾けられ、前記鋭角θが、0°よりも大きく且つ90°未満であり、場合により、前記角度θが、1°~85°、又は場合により5°~85°、又は場合により10°~50°、又は場合により20°~40°の範囲内である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記格納式ドッグが、非対称であり、且つ、対で配置され、前記トルク駆動面が、格納式ドッグの各対の外側面を含み、前記カム面が、格納式ドッグの各対の内側面を含む、請求項1から6までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項8】
格納式ドッグの各対が、隣接する固定ドッグ間に配置される、請求項7に記載の駆動力伝達装置。
【請求項9】
各格納式ドッグが、前記駆動歯車にあるポケットを貫通する、請求項1から8までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項10】
前記格納式ドッグ組立体が、支持要素を備え、前記格納式ドッグが、前記支持要素に取り付けられ、場合により、前記制御要素が、前記支持要素の移動を制御するように構成される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項11】
前記格納式ドッグが、前記延長位置と前記格納位置との間で互いに独立に移動するように構成され、場合により、前記制御要素が、前記格納式ドッグの移動を制御するように構成される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項12】
前記制御要素が、前記格納式ドッグ組立体を前記延長位置に向かって付勢する弾性バイアス手段を備える、請求項1から11までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項13】
前記制御要素が、前記延長位置と前記格納位置との間での前記格納式ドッグ組立体の移動を制御するように動作可能なアクチュエータを備える、請求項1から11までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項14】
前記ドッグ歯車が、前記格納式ドッグ組立体を収容する凹部を含み、場合により、前記格納式ドッグ組立体を前記凹部内に保持する保持要素をさらに備える、請求項1から13までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項15】
前記第1のドッグが、断面が実質的に三角形であり、且つ、前記ドッグ・リングのそれぞれの端面から軸方向に延在し、前記第1のドッグの頂点が、径方向外方を指し、前記格納式ドッグが、外側面を含み、前記格納式ドッグの前記外側面が、前記ドッグ・リング上の前記第1のドッグと係合するように設計され、且つ、前記第1のドッグの輪郭に対して相補的であり且つ前記第1のドッグの前記三角形の形状に適合するように回転半径に対して鋭角に設定されている輪郭を有し、各格納式ドッグの前記外側面が、第1のドッグと係合したときに前記ドッグ・リングにトルクを伝達するように構成されたトルク駆動面を含む、請求項1から14までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか一項に記載の駆動力伝達装置と、シャフト軸の周りで回転可能な駆動シャフトとを含む伝達システムであって、前記ドッグ歯車組立体及び前記ドッグ・リングが、前記シャフト軸の周りで回転するように構成され、前記ドッグ歯車組立体が、前記駆動シャフトに対して回転可能であり、前記ドッグ・リングが、前記駆動シャフトと共に回転するように構成される、伝達システム。
【請求項17】
前記駆動シャフト及び前記ドッグ・リングが、前記ドッグ・リングと前記駆動シャフトとの間の相対的軸方向運動を可能にし且つ前記ドッグ・リングと前記駆動シャフトとの間の相対的回転を防ぐ相互駆動構造を含み、場合により、前記ドッグ・リングと前記駆動シャフトとの間の相対的軸方向運動を制御するセレクタ機構を含む、請求項16に記載の伝達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達装置に関する。詳細には、しかし排他的にではなく、本発明は、ドッグ・クラッチを備える駆動力伝達装置、及びそのような駆動力伝達装置を含む伝達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドッグ・クラッチは、ドッグ・クラッチが係合されたときには回転駆動力が歯車と駆動シャフトとの間で伝達され、またドッグ・クラッチが係脱されたときには回転駆動力を伝達することなしに歯車が駆動シャフトの周りで自由に回転することができるように、歯車と駆動シャフトとの間の駆動接続を制御するための機構である。駆動シャフトは、変速機のタイプに応じて、変速機の主軸又は副軸であり得る。ドッグ・クラッチは、典型的には、エンジンと車輪との間での駆動力の伝達を制御するために車両において使用される、例えばドッグ変速機である駆動力伝達システムにおいて使用される。
【0003】
従来のドッグ・クラッチが、図1~3に示されている。ドッグ・クラッチは、ドッグ歯車2及びドッグ・リング4を含み、それらは駆動シャフト(図示せず)に取り付けられる。ドッグ歯車2は、駆動シャフトの周りで自由に回転することができるが、ドッグ・リング4は、その内周上に溝の形態をした複数の駆動構造(drive formation)6を有し、それらの駆動構造6は、駆動シャフト上のスプラインの形態をした相補的な駆動構造と係合し、そのため、ドッグ・リング4は、駆動シャフトと一緒に回転することを強制される。駆動構造はまた、ドッグ・リング4が係合位置と係脱位置との間で駆動シャフトに対して軸方向に摺動することを可能にし、係合位置では、ドッグ・リング4は、ドッグ歯車2と係合し、係脱位置では、ドッグ・リング4は、ドッグ歯車2から係脱される。この軸方向運動は、従来、ドッグ・リング4の外周上の径方向フランジ12と係合する、例えばセレクタ・フォークであるセレクタ機構(図示せず)によって制御される。ドッグ歯車2は、駆動力を別の歯車(図示せず)に伝達するために、その外周上に歯車歯14のセットを担持する。
【0004】
ドッグ・リング4は、第1のドッグ8のセットを担持し、ドッグ歯車2は、第2のドッグ10のセットを担持する。第1及び第2のドッグ8、10は、ドッグ・リング4を係合位置まで軸方向に移動させることにより互いに係合させることができ、その結果、トルク及び回転駆動力が、駆動シャフトとドッグ・リング4とドッグ歯車2との間で伝えられる。或いは、ドッグ・リング4は、ドッグ・リング4とドッグ歯車2との間でトルク及び回転駆動力が伝えられないように、係脱位置へ移動させることができる。すると、ドッグ歯車2は、駆動シャフトの周りで自由に回転することができる。
【0005】
従来のドッグ・クラッチの動作が図3a~3fに示されており、これらの図では、ドッグ歯車2及びドッグ・リング4は、概略的に示されており、且つ、動作中のドッグ歯車2及びドッグ・リング4の相対位置を示すために、展開された直線的な図で示されている。
【0006】
図3a~3cは、ドッグ・リング4が係脱位置からドッグ歯車2と係合されるときの、変速中のドッグ歯車2及びドッグ・リング4の相対位置を示す。図3aでは、ドッグ・リング4は、係脱位置にあり、ドッグ・リング4上の第1のドッグ8は、ドッグ歯車2上の第2のドッグ10から軸方向に離間されている。ドッグ歯車2とドッグ・リング4との間の相対的回転運動が、荷重/方向矢印Aの方向によって示されている。
【0007】
図3bでは、ドッグ・リング4は、係合位置に向かって部分的に変位されており、図3cでは、ドッグ・リング4は、係合位置まで完全に変位されている。ドッグ歯車2とドッグ・リング4との間の相対的回転により、第1及び第2のドッグ8、10のセットは、今や互いに係合して、ドッグ歯車2とドッグ・リング4との間でトルク及び回転駆動力を伝達する。
【0008】
首尾良く係合するために、第1及び第2のドッグ8、10は、図3cに示されるように噛合しなければならない。係合位置に向かうドッグ・リングの軸方向運動中にドッグ歯車2とドッグ・リング4とが正しく位置合わせされない場合、第1及び第2のドッグ8、10は、ドッグ・クラッチが完全に係合される前に互いに接触する可能性があり、それにより変速が遅延又は拒絶されることになり得る。ドッグ間に大きな間隙を設けることは、このリスクを低減し、且つ、ドッグが正しく噛合する可能性を高める。
【0009】
しかし、ドッグ間に大きな間隙を設けることの欠点は、ドッグ・クラッチを通じて伝達されるトルクの方向が逆転されたとき、例えばスロットルが持ち上げられてエンジンブレーキを生じさせるときに、伝達システム内で衝撃荷重を生じさせ得ることである。これは、図3d~3fに示されている。図3dでは、駆動力は、ドッグ・クラッチを通じて第1の方向に伝達されており、荷重の方向は、荷重/運動矢印Aによって示されている。図3e及び3fでは、荷重の方向は逆転されて、図3fに示されるようにドッグ8、10が接触して反対方向のトルクを伝達するまで、ドッグ歯車2及びドッグ・リング4を相反する方向に回転させる。
【0010】
図3dに示された位置から図3fに示された位置へのドッグ歯車2とドッグ・リング4の相対的回転中、伝達システムの構成要素間に実質的な回転速度の差が生じて、ドッグが再係合するときに大きな衝撃荷重をもたらし得る。これは、車両の乗客に対する心地よくないドライブ体験につながる可能性があり、また、伝達システムの摩耗又は損傷を生じさせる可能性がある。
【0011】
したがって、従来のドッグ・クラッチでは、ドッグ間の間隔は、ドッグ・クラッチの係合失敗のリスクを低減することと伝達されるトルクの方向が逆転されたときの駆動力伝達内での衝撃荷重を軽減することとの妥協を提供するように選択される。しかし、そのような妥協は、完全に満足するものであることは決してない。
【0012】
米国特許出願公開第2019/0242442A1号は、上記で説明された欠点に対処することを図る、修正されたドッグ・クラッチを説明している。しかし、米国特許出願公開第2019/0242442A1号で説明されている機構は、複雑であり且つ製造するのに費用がかかり、且つ、動力伝達軸上にカム溝の存在を必要とする。この機構は、既存の従来の伝達システムでの使用に適さない。
【0013】
実全平4-64617は、トルクが逆転されるときにドッグ歯車とドッグ・リングとの相対的回転運動を制限することができる複数の固定ドッグと複数の格納式ドッグとをドッグ歯車が備えるドッグ・クラッチを説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0242442A1号
【特許文献2】実全平4-64617
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記で説明された欠点のうちの1つ又は複数を緩和すると同時に米国特許出願公開第2019/0242442A1号で説明されているドッグ・クラッチの複雑さを回避するドッグ・クラッチを備える駆動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の1つの態様によれば、ドッグ・クラッチを備える駆動力伝達装置であって、ドッグ・クラッチが、
ドッグ歯車組立体、及び、
ドッグ・リング
を備え、
ドッグ歯車組立体及びドッグ・リングが、回転軸の周りで回転するように、また、ドッグ歯車組立体とドッグ・リングとの間でトルクが伝達され得る係合状態とトルクが伝達され得ない係脱状態との間で相対的軸方向調整をするように構成され、
ドッグ歯車組立体が、
ドッグ歯車、
延長位置と格納位置との間でドッグ歯車に対して移動するように構成された格納式ドッグ組立体、及び、
格納式ドッグ組立体の移動を制御する制御要素
を含み、
ドッグ・リングが、複数の第1のドッグを備え、ドッグ歯車組立体が、複数の第2のドッグを備え、第2のドッグが、係合状態において第1のドッグに係合してドッグ・リングとドッグ歯車組立体との間でトルクを伝達するように構成され、且つ、係脱状態において第1のドッグから係脱されることによりそれらがトルクを伝達しないように構成され、
前述の第2のドッグが、ドッグ歯車に取り付けられた複数の固定ドッグと、格納式ドッグ組立体を備える複数の格納式ドッグとを含む、駆動力伝達装置が提供される。
【0017】
1つの実施例では、各格納式ドッグは、第1のドッグと係合したときにドッグ・リングにトルクを伝達するように構成されたトルク駆動面と、第1のドッグと係合したときに格納位置に向かう格納式ドッグ組立体の移動を強いるように構成されたカム面とを有し、それにより、ドッグ・リングとドッグ歯車組立体との間の相対的回転が、係合された第1のドッグを係合された格納式ドッグのカム面上で摺動させて、格納位置に向かう格納式ドッグ組立体の移動を強いる。
【0018】
格納式ドッグ組立体が延長位置にあり、且つ、ドッグ・クラッチが係合状態にある場合、格納式ドッグは、ドッグ・クラッチを通じて伝達される駆動力の方向が逆転するときにドッグ・リングとドッグ歯車組立体との間の相対的回転を制限する。これは、衝撃荷重を軽減し、且つ、運転中のドッグ・クラッチをより滑らか且つより快適なものにする。
【0019】
ドッグ・クラッチが係脱状態から係合状態に変化しているときに、格納式ドッグ組立体は、第1のドッグによって係合されているのならば、ドッグ・クラッチの係合を妨げないように、格納位置へ移動することができる。
【0020】
したがって、ドッグ・クラッチは、変速が拒絶されるリスクを高めることなしに、衝撃荷重を軽減する。
【0021】
1つの実施例では、格納式ドッグ組立体は、延長位置と格納位置との間でドッグ歯車に対して軸方向運動するように構成され、制御要素は、格納式ドッグ組立体の軸方向運動を制御するように構成される。或いは、格納式ドッグ組立体は、例えば径方向又は周方向等における格納式ドッグの移動を通じて延長位置と格納位置との間でドッグ歯車に対して非軸方向運動するように構成され得る。この場合、制御要素は、延長位置と格納位置との間での必要とされる方向における格納式ドッグの移動を制御するように構成される。
【0022】
一実施例では、固定ドッグ及び格納式ドッグは、格納式ドッグ組立体が延長位置にあるときに、ドッグ歯車から実質的に等距離に軸方向に延在する。これは、固定ドッグ及び格納式ドッグが同等にドッグ・クラッチを通じてトルクを伝達することが可能であることを保証する。
【0023】
一実施例では、格納式ドッグ組立体は、格納式ドッグ組立体が延長位置にあるときには格納式ドッグと第1のドッグとの間でトルクが伝達され得るように構成され、且つ、格納式ドッグ組立体が格納位置にあるときには格納式ドッグと第1のドッグとの間でトルクが伝達され得ないように構成される。
【0024】
一実施例では、各格納式ドッグは、第1のドッグと係合したときにドッグ・リングにトルクを伝達するように構成されたトルク駆動面と、第1のドッグと係合したときに格納位置に向かう格納式ドッグ組立体の移動(場合により、軸方向運動)を強いるように構成されたカム面とを有する。
【0025】
ドッグ・クラッチの係合中に第1のドッグがカム面と係合すると、格納式ドッグと第1のドッグとの間の相対的回転は、格納式ドッグがドッグ歯車組立体に対するドッグ・リングの回転を妨げないように、格納式ドッグを格納位置に向かって変位させる。これは、格納式ドッグがドッグ・クラッチの係合を妨げないことを確実にするのに役立つ。しかし、格納式ドッグが延長位置にある場合、格納式ドッグは、トルク駆動面と第1のドッグとの係合により、トルク/駆動力を伝達することができる。
【0026】
場合により、一実施例では、トルク駆動面は、ドッグ・クラッチの横断面に対して実質的に垂直であり、ドッグ・クラッチが駆動力/トルクを伝達することを可能にする。
【0027】
一実施例では、カム面は、ドッグ・リングとドッグ歯車組立体との相対的回転が格納式ドッグを格納位置に向かって動かすように、ドッグ・クラッチの横断面に対して傾けられる。一般に、カム面は、誤差を考慮にいれて、効果的であり且つ従来技術とは異なる鋭角θでドッグ・クラッチの横断面に対して傾けられる。一実施例では、カム面は、0°よりも大きく且つ90°未満である鋭角θでドッグ・クラッチの横断面に対して傾けられる。場合により、角度θは、1°~85°、又は場合により5°~85°、又は場合により10°~50°、又は場合により20°~40°の範囲内である。
【0028】
一実施例では、格納式ドッグは、非対称であり、且つ、対で配置され、この場合、トルク駆動面は、格納式ドッグの各対の外側面を含み、カム面は、格納式ドッグの各対の内側面を含む。各対を形成する格納式ドッグは、場合により、延長位置と格納位置との間で協動するように相互接続される。
【0029】
一実施例では、格納式ドッグは、隣接する固定ドッグ間に配置される。場合により、格納式ドッグの各対は、隣接する固定ドッグの対間に配置される。
【0030】
一実施例では、各格納式ドッグは、場合により回転軸に実質的に平行な方向に、駆動歯車にあるポケットを貫通する。ポケットは、格納式ドッグを支持して、格納式ドッグが延長位置と格納位置との間で移動することを可能にするが、駆動歯車に対する格納式ドッグの他のいかなる移動をも防ぐことができる。
【0031】
一実施例では、格納式ドッグ組立体は、支持要素を備え、格納式ドッグは、支持要素に取り付けられる。この実施例では、格納式ドッグは、延長位置と格納位置との間で協動する。
【0032】
場合により、一実施例では、制御要素は、支持要素の移動を制御するように構成される。したがって、制御要素は、延長位置と格納位置との間での全ての格納式ドッグの協動を制御する。
【0033】
別の実施例では、格納式ドッグは、延長位置と格納位置との間で互いに独立に移動するように構成される。場合により、一実施例では、制御要素は、格納式ドッグの軸方向運動を個別に制御するように構成され得る。
【0034】
一実施例では、制御要素は、格納式ドッグ組立体を延長位置に向かって付勢する弾性バイアス手段を備える。例えば、制御要素は、ばね、例えば波形ばね、つる巻きばね、若しくはBelvilleワッシャ、又はゴム・ブロックなどのエラストマ要素を含むことができ、或いは、制御要素は、空気ばねを含むことができる。
【0035】
代替的な一実施例では、制御要素は、延長位置と格納位置との間での例えば軸方向における格納式ドッグ組立体の移動を制御するように動作可能なアクチュエータを備える。アクチュエータは、例えば、格納式ドッグ組立体の位置が例えばコンピュータ制御システムによって直接制御されることを可能にする、機械式、電気式、又は液圧式のアクチュエータであってよい。
【0036】
一実施例では、ドッグ歯車は、格納式ドッグ組立体を収容する凹部を含んで、コンパクトな組立体を提供する。
【0037】
場合により、一実施例では、ドッグ・クラッチは、格納式ドッグ組立体を凹部内に保持する保持要素、例えば保持リングをさらに備える。
【0038】
本発明の別の態様によれば、本発明の先の記述のうちのいずれか1つによる駆動力伝達装置と、シャフト軸の周りで回転可能な駆動シャフトとを含む伝達システムであって、ドッグ歯車組立体及びドッグ・リングが、シャフト軸の周りで回転するように構成され、ドッグ歯車組立体が、駆動シャフトに対して回転可能であり、ドッグ・リングが、駆動シャフトと共に回転するように回転される、伝達システムが提供される。伝達システムは、例えば、エンジンと車輪との間で駆動力を伝達する、車両の駆動力伝達システムの一部であり得る。
【0039】
一実施例では、駆動シャフト及びドッグ・リングは、ドッグ・リングと駆動シャフトとの間の相対的軸方向運動を可能にし且つドッグ・リングと駆動シャフトとの間の相対的回転を防ぐ、相互駆動構造を含む。
【0040】
場合により、一実施例では、伝達システムは、係合状態と係脱状態との間でのドッグ・リングと駆動シャフトとの間の相対的軸方向運動を制御する、セレクタ機構を含む。
【0041】
次に、実例として、添付の図面を参照しながら、本発明の幾つかの実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】従来のドッグ・クラッチの一部を形成するドッグ歯車及びドッグ・リングの前方からの等角図である。
図2】従来のドッグ・クラッチの一部を形成するドッグ歯車及びドッグ・リングの後方からの等角図である。
図3a】ドッグ・クラッチの動作中のドッグ歯車とドッグ・リングとの相対位置を示す、従来のドッグ・クラッチの展開された直線的な概略図である。
図3b】ドッグ・クラッチの動作中のドッグ歯車とドッグ・リングとの相対位置を示す、従来のドッグ・クラッチの展開された直線的な概略図である。
図3c】ドッグ・クラッチの動作中のドッグ歯車とドッグ・リングとの相対位置を示す、従来のドッグ・クラッチの展開された直線的な概略図である。
図3d】ドッグ・クラッチの動作中のドッグ歯車とドッグ・リングとの相対位置を示す、従来のドッグ・クラッチの展開された直線的な概略図である。
図3e】ドッグ・クラッチの動作中のドッグ歯車とドッグ・リングとの相対位置を示す、従来のドッグ・クラッチの展開された直線的な概略図である。
図3f】ドッグ・クラッチの動作中のドッグ歯車とドッグ・リングとの相対位置を示す、従来のドッグ・クラッチの展開された直線的な概略図である。
図4】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ歯車及びドッグ・リングの前方からの等角図である。
図5】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ歯車及びドッグ・リングの後方からの等角図である。
図6a】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、第1のドッグ・クラッチの動作を示す展開された直線的な概略図である。
図6b】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、第1のドッグ・クラッチの動作を示す展開された直線的な概略図である。
図6c】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、第1のドッグ・クラッチの動作を示す展開された直線的な概略図である。
図6d】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、第1のドッグ・クラッチの動作を示す展開された直線的な概略図である。
図6e】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、第1のドッグ・クラッチの動作を示す展開された直線的な概略図である。
図7】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、第1のドッグ・クラッチの組立分解等角図である。
図8】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ歯車の等角前面図である。
図9】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ歯車の等角後面図である。
図10】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、格納式ドッグ組立体の等角前面図である。
図11】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、格納式ドッグ組立体の等角後面図である。
図12】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ・リングの等角図である。
図13】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、制御要素の等角図である。
図14】本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチを示す図であって、保持要素の等角図である。
図15】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、第2のドッグ・クラッチの組立分解等角図である。
図16】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ歯車の前方からの等角図である。
図17】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ歯車の後方からの等角図である。
図18】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、ドッグ・リングの等角図である。
図19】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、保持要素の前面等角図である。
図20】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、保持要素の後面等角図である。
図21】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、格納式ドッグのセットの前面等角図である。
図22】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、格納式ドッグのセットの後面等角図である。
図23】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、ばねのセットの等角図である。
図24】本発明の一実施例による第2のドッグ・クラッチを示す図であって、保持要素のセットの等角図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の一実施例による第1のドッグ・クラッチ20を備える駆動力伝達装置が、図4から14に示されている。第1のドッグ・クラッチ20は、ドッグ歯車組立体22及びドッグ・リング24を含み、それらは回転駆動シャフト26に取り付けられる。駆動シャフト26は、変速機のタイプに応じて、変速機の主軸又は副軸であり得る。回転駆動シャフト26は、ハブ28を担持し、ハブ28は、その外周上に、例えばスプライン又は他の構造である複数の第1の駆動構造30を有する。第1の駆動構造30は、ドッグ・リング24の内周上の例えば溝又は他の構造である相補的な第2の駆動構造32と係合する。第1及び第2の駆動構造は、ドッグ・リング24を強制的に駆動シャフト26と共に回転させるが、ドッグ・リング24と駆動シャフト26との間の相対的軸方向運動を可能にする。この軸方向運動は、ドッグ・リング24の外周上の径方向フランジ34と係合する例えばセレクタ・フォークであるセレクタ機構33によって制御される。ドッグ歯車組立体22は、別の歯車(図示せず)に駆動力を伝達するための歯車歯35のセットを担持する。
【0044】
この実施例では、ドッグ歯車組立体22は、駆動構造を有していない駆動シャフト26の無地部26aに取り付けられ、且つ、駆動シャフト26に対して自由に回転するように構成される。場合により、ドッグ歯車組立体22は、駆動シャフト26に対する自由回転を可能にする軸受(図示せず)に取り付けられ得る。ドッグ歯車組立体22は、ドッグ歯車36と、格納式ドッグ組立体38と、この実施例では波形ばねを含む制御要素40と、この実施例では渦巻保持リングを含む保持要素42と、を含む。
【0045】
ドッグ・リング24は、第1のドッグ44のセットを担持し、ドッグ歯車組立体22は、第2のドッグ46のセットを担持し、第2のドッグ46は、ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との間で回転駆動力及びトルクを伝達するために、第1のドッグ44と係合可能である。この実施例では、第1のドッグ44及び第2のドッグ46は、断面が実質的に三角形であり、且つ、ドッグ・リング24及びドッグ歯車36のそれぞれの端面48、49から軸方向に延在する。この実施例では、第1のドッグ44の頂点は、径方向外方を指し、第2のドッグ46の頂点は、径方向内方を指す。したがって、第1及び第2のドッグ44、46は、ドッグのそれぞれの面がドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との間でトルク及び回転駆動力を伝達することを可能にする、相補的な形状を有する。しかし、第1及び第2のドッグ44、46は、代替的な断面形状(例えば、正方形、台形、等)を有してもよい。
【0046】
第2のドッグ46のセットは、ドッグ歯車36の端面49から軸方向に延在する複数の固定ドッグ46aと、格納式ドッグ組立体38の一部を構成する複数の格納式ドッグ46bとを含む。格納式ドッグ46bは、環状支持要素50に取り付けられ、環状支持要素50は、この実施例では、例えば鋼鉄で作られた環状リングを含む。しかし、環状支持要素50は、他の材料で作られてもよく、且つ、異なる形状を有してもよい。格納式ドッグ46bは、環状支持要素50からドッグ・リング24に向かって軸方向に(即ち、駆動シャフト26の回転軸Zに対して平行な方向に)延在する。場合により、固定ドッグ及び格納式ドッグは、図6aに示されるように、格納式ドッグ組立体が延長位置にある時に、ドッグ歯車から実質的に等しい距離Dだけ軸方向に延在する。
【0047】
この実施例では、格納式ドッグ組立体38は、ドッグの4つの対51で配置されている8つの格納式ドッグ46bを含む。格納式ドッグ46bは、ドッグ歯車36を軸方向に貫通するポケット52と位置合わせされ、且つ、延長位置と格納位置との間で環状支持要素50と共に軸方向に移動するように構成されており、延長位置では、格納式ドッグ46bは、ドッグ歯車36の端面49を越えて軸方向に延在し、格納位置では、格納式ドッグ46bは、ドッグ歯車36の端面49と実質的に同一平面に又は端面49の下方に位置決めされる。格納式ドッグ46bは、延長位置にあるときに、ドッグ・リング24上に設けられた第1のドッグ44と係合することができる。格納式ドッグ46bは、格納位置にあるときには、第1のドッグ44と係合することができない。
【0048】
ドッグ歯車36に対する格納式ドッグ組立体38の軸方向位置は、制御要素40によって制御され、制御要素40は、この実施例では、環状の波形ばねを含む弾性制御要素である。或いは、制御要素40は、多数の異なる形態を取ることができる。例えば、制御要素40は、皿ばね若しくは空気ばねなどの異なる弾性要素を含むことができ、又は、制御要素40は、空気圧的に、機械的に、若しくは電磁的に制御され得るアクチュエータを含むことができる。
【0049】
この実施例では、制御要素40は、環状支持要素50と保持要素42との間で軸方向に圧縮される弾性制御要素を含む。格納式ドッグ組立体38、制御要素40、及び保持要素42は全て、ドッグ歯車36の後面56に設けられた環状凹部54内に収容される。保持要素42は、環状凹部54の内方に面する周囲に設けられた溝58と係合する。弾性制御要素40は、格納式ドッグ組立体38を延長位置に向かって軸方向に付勢し、延長位置では、格納式ドッグ46bは、ドッグ・リング24上の第1のドッグ44と係合することができる。
【0050】
上述の通り、格納式ドッグ46bは、図10及び11に示されるように対51で配置される。この実施例では、格納式ドッグ46bの各対は、1対の隣接する固定ドッグ46a間に配置される。この実施例では、各対51を構成する2つの格納式ドッグ46bは、互いの鏡像であり、また、それぞれの個々の格納式ドッグ46bは、非対称である。各対51を構成する格納式ドッグ46bは、それぞれ、外側面62及び内側面64を含み、各対の内側面64は、互いに向かって内方に面する。外側面62は、ドッグ・リング24上の第1のドッグ44と係合するように設計され、且つ、第1のドッグ44の輪郭に対して相補的である輪郭を有し、この輪郭は、この実施例では、第1のドッグ44の三角形の形状に適合するように回転半径に対して鋭角に設定されている。各格納式ドッグ46bの外側面62は、第1のドッグ44と係合したときにドッグ・リング24にトルクを伝達するように構成されたトルク駆動面を含む。
【0051】
各格納式ドッグ46bの内側面64は、第1のドッグと係合したときに格納位置に向かう格納式ドッグ組立体の軸方向運動を強いるように構成されたカム面68を含む。この実施例では、カム面68は、図6aに示されるように、ドッグ・クラッチの横断面に対して(用語「横断面」は、この文脈では駆動シャフト26の回転軸Zに対して垂直な平面を意味する)鋭角θに傾けられた勾配付き表面を含む。0°よりも大きく且つ90°未満である鋭角θ。場合により、鋭角θは、1°~85°の範囲内であり、又は場合により5°~85°、又は場合により10°~50°、又は場合により20°~40°、例えば約30°である。対照的に、各格納式ドッグ46bの外側面62は、ドッグ・クラッチの横断面に対して実質的に垂直である。
【0052】
次に、図6aから6eを参照しながら、ドッグ・クラッチの動作について説明する。図6aから6cは、ドッグ・リング24が、図6aに示された係脱状態から、図6bに示された部分的係合状態を経て、図6cに示された完全係合状態まで軸方向に移動される、変速状況を示す。矢印Aは、ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との相対的回転、及び/又は伝達される荷重/トルクの方向を示す。これらの図では、ドッグ・リング24とドッグ・リング組立体22との相対的回転は、明瞭さ及び理解し易さのために直線運動として表されており、ここでは、例えば、右手方向は、時計方向の回転又はトルクを表し、左手方向は、反時計方向の回転又はトルクを表す。
【0053】
図6aでは、ドッグ・リング24は、ドッグ歯車組立体22から軸方向Xに分離されている。したがって、ドッグ・クラッチは、係脱状態にあり、荷重/トルクは、ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との間で伝達されない。ドッグ・リング24は、ドッグ歯車組立体22に対して左に(例えば、反時計方向に)回転している。
【0054】
図6bでは、ドッグ・リング24は、ドッグ歯車組立体22に向かって(即ち、係合状態に向かって)軸方向に移動されている。しかし、第1及び第2のドッグ44、46は、まだ完全には係合しておらず、そのため、この段階では、ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との間でトルクは直接伝達されない。
【0055】
しかし、ドッグ・リング24上の第1のドッグ44のうちの1つは、格納式ドッグ組立体38の格納式ドッグ46bのうちの1つと係合している。ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との間の相対的回転により、第1のドッグ44は、係合した格納式ドッグ46bのカム面68上を摺動させられて、格納式ドッグ組立体38をこの実施例では圧縮波形ばねである制御要素40の力に逆らって格納位置に向かって軸方向内方に押し込む。これは、ドッグ・リング24がドッグ歯車組立体22に対して回転し続けることを可能にする。第1のドッグ44と格納式ドッグ46bとの間の接触の結果として、少量のトルクが、ドッグ・リング24と格納式ドッグ組立体38との間で伝達され得る。
【0056】
図6cでは、第1のドッグ44は、格納式ドッグ46bを通り越えて回転しており、格納式ドッグ組立体38が制御要素40の影響下で延長位置に戻ることを可能にしている。第1のドッグ44は、今や固定ドッグ46aと係合して、固定ドッグ46aがドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との間でトルク/回転駆動力を伝達することを可能にする。
【0057】
図6d及び6eは、ドッグ・クラッチが係合状態にあり、また、例えばドッグ・クラッチを通じて伝達されるトルクが順方向駆動からエンジンブレーキに変化するようにスロットルが閉じられたときに車両において起こり得るような、ドッグ・クラッチを通じた駆動力/トルク伝達の方向の変化が存在する状況を示す。
【0058】
図6d(上記で説明された図6cと同一である)では、ドッグ・リング24上の第1のドッグ44は、ドッグ歯車組立体22上の固定された第2のドッグ46aと係合されて、ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との間で(その逆も同様に)駆動力/トルクを伝達する。この実例では、ドッグ・リング24は、ドッグ歯車組立体22に対して左に(反時計方向に)トルクを伝達している。
【0059】
伝達されるトルクの方向が逆転する場合、例えばスロットルが閉じられた場合又はエンジンブレーキ中、ドッグ・リング24は、図6dに示されるように、ドッグ歯車組立体22に対して反対方向に回転する。この実例では、ドッグ・リング24は、ドッグ歯車組立体22に対して右に(時計方向に)回転する。
【0060】
ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との相対的回転は、制御要素40により延長位置へ付勢される格納式ドッグ組立体38によって制限される。ドッグ・リング24は、第1のドッグ44が今や延長位置にある格納式ドッグ46bの駆動面と係合するまで、短い距離(即ち、小さな角度)にわたって回転することができるのみである。すると、ドッグ・クラッチは、回転駆動力/トルクを反対方向に伝達することができる。ドッグ・リング24は、ドッグ歯車組立体22と再係合する前に小さい距離にわたってのみ回転するので、伝達システムの2つの部品の相対的回転速度の変化は、ほんの少しであり、トルクの円滑な逆転をもたらす。
【0061】
他方では、変速中、固定された第2のドッグ46a間の比較的大きな間隙により、変更が拒絶されるリスクも小さくなる。格納式の第2のドッグ46bは、第1のドッグによって係合されたときに引っ込むことができるので、変速を妨げる又は阻止することなく、第1のドッグ44が固定された第2のドッグ46aと係合するまでドッグ・リング24がドッグ歯車組立体22に対して回転し続けることを可能にする。
【0062】
さらに、図6bに示されるように、係合された格納式ドッグ46bのカム面68上を第1のドッグ44が摺動するときに、格納式ドッグ組立体38は、格納位置に向かって(矢印Xの方向に)押される。この運動は、格納式ドッグ組立体38にバイアス力を働かせる動作部材40(波形ばね)によって対抗される。これにより、格納式ドッグ組立体38は、回転方向とは反対の方向(矢印Aの反対方向)において、カム表面68を介して第1のドッグ44に力を働かせる。第1のドッグ44と格納式ドッグ46bとの間の接触の結果として、少量のトルクが、ドッグ・リング24と格納式ドッグ組立体38との間で伝えられる。したがって、ドッグ・リング24とドッグ歯車組立体22との相対的回転速度は、第1のドッグ44が固定された第2のドッグ46aと係合する前に格納式ドッグ組立体38によって低下され、それにより、係合の衝撃が軽減される。
【0063】
本発明の第2の実施例によるドッグ・クラッチ120を備える駆動力伝達装置が、図15から24に示されている。ドッグ・クラッチ120は、ドッグ歯車組立体122及びドッグ・リング124を含み、それらは回転駆動シャフト126に取り付けられる。回転駆動シャフト126は、ハブ128を担持し、ハブ128は、その外周上に、例えばスプライン又は他の構造である複数の第1の駆動構造130を有する。スプライン130は、ドッグ・リング124の内周上の例えば溝又は他の構造である相補的な第2の駆動構造132と係合する。第1及び第2の駆動構造は、ドッグ・リング124を強制的に駆動シャフト126と共に回転させるが、ドッグ・リング124と駆動シャフト126との間の相対的軸方向運動を可能にする。この軸方向運動は、ドッグ・リング124の外周上の径方向フランジ134と係合する例えばセレクタ・フォークであるセレクタ機構133によって制御される。ドッグ歯車組立体122は、別の歯車(図示せず)に駆動力を伝達するために、その外周上に歯車歯135のセットを担持する。
【0064】
ドッグ歯車組立体122は、駆動構造を有していない駆動シャフト126の無地部126aに取り付けられ、且つ、駆動シャフト126に対して自由に回転するように構成される。
【0065】
ドッグ歯車組立体122は、ドッグ歯車136と、格納式ドッグ組立体138と、この実施例では複数のつる巻きばね140’を含む制御要素140と、この実施例では複数のボルト142’を含む保持要素142と、を含む。
【0066】
ドッグ・リング124は、第1のドッグ144のセットを担持し、ドッグ歯車組立体122は、第2のドッグ146のセットを担持し、第2のドッグ146は、ドッグ・リング124とドッグ歯車組立体122との間で回転駆動力及びトルクを伝達するために、第1のドッグ144と係合可能である。この実施例では、第1及び第2のドッグ144、146は、断面が実質的に三角形であり、且つ、ドッグ・リング124及びドッグ歯車組立体122のそれぞれの端面から軸方向に延在する。この実施例では、第1のドッグ144の頂点は、径方向外方を指し、第2のドッグ146の頂点は、径方向内方を指す。したがって、第1及び第2のドッグ144、146は、ドッグのそれぞれの面がドッグ・リング124とドッグ歯車組立体122との間でトルク及び回転駆動力を伝達することを可能にする、相補的な形状を有する。しかし、第1及び第2のドッグは、代替的な断面形状(例えば、正方形、台形、等)を有してもよい。
【0067】
第2のドッグ146のセットは、ドッグ歯車136の端面147から軸方向に延在する複数の固定ドッグ146aと、格納式ドッグ組立体138の一部を構成する複数の格納式ドッグ146bとを含む。格納式ドッグ146bは、互いに分離され、且つ、環状支持要素150からドッグ・リング124に向かって軸方向に(即ち、駆動シャフト126の回転軸Zに対して平行な方向に)延在する。
【0068】
この実施例では、格納式ドッグ組立体138は、ドッグの4つの対151で配置されている8つの格納式ドッグ146bを含む。各格納式ドッグ146bは、ドッグ歯車136を軸方向に貫通するそれぞれのポケット152と位置合わせされ、且つ、延長位置と格納位置との間で軸方向に移動するように構成されており、延長位置では、格納式ドッグ146bは、ドッグ歯車136の端面147を越えて軸方向に延在し、格納位置では、格納式ドッグ146bは、ドッグ歯車136の端面と実質的に同一平面に又は端面の下方に位置決めされる。格納式ドッグ146bは、延長位置にあるときに、ドッグ・リング124上に設けられた第1のドッグ144と係合することができる。格納式ドッグ146bは、格納位置にあるときには、第1のドッグ144と係合することができない。
【0069】
格納式ドッグ146bは、環状支持要素150によって支持され、環状支持要素150は、この実施例では、例えば鋼鉄で作られた環状リングを含む。しかし、環状支持要素150は、他の材料で作られてもよく、且つ、異なる形状を有してもよい。制御要素140は、つる巻きばね140’のセットを含み、これらのつる巻きばね140’は、格納式ドッグ146bと環状支持要素150との間で圧縮され、且つ、格納式ドッグ146bを延長位置に向かって付勢する軸方向力を提供する。環状支持要素150は、保持要素142によりドッグ歯車136に取り付けられ、保持要素142は、この実施例では、環状支持要素150にあるボルト穴153を貫通してドッグ歯車136の後面156にあるねじ付きボア155に係合する複数のボルト142’を含む。
【0070】
ドッグ歯車136に対する格納式ドッグ146bの軸方向位置は、制御要素140によって制御され、制御要素140は、この実施例では、複数のつる巻きばね140’を含む。或いは、制御要素140は、多数の異なる形態を取ることができる。例えば、制御要素140は、空気ばねなどの異なる弾性要素を含むことができ、又は、制御要素140は、空気圧的に、機械的に、若しくは電磁的に制御され得る1つ又は複数のアクチュエータを含むことができる。
【0071】
この実施例では、制御要素140、環状支持要素150、及び保持要素142は全て、ドッグ歯車136の後面156に設けられた環状凹部154内に収容される。つる巻きばね140’は、格納式ドッグ146bを延長位置に向かって軸方向に付勢し、延長位置では、格納式ドッグ146bは、ドッグ・リング124上の第1のドッグ144と係合することができる。
【0072】
上述の通り、格納式ドッグ146bは、図15、21、及び22に示されるように対151で配置される。この実施例では、各対151を構成する2つの格納式ドッグ146bは、互いの鏡像であり、また、それぞれの個々の格納式ドッグ146bは、非対称である。各対151を構成する格納式ドッグ146bは、どちらも外側縁部162及び内側縁部164を含み、各対の内側縁部164は、互いに向かって内方に面する。外側縁部162は、ドッグ・リング124上の第1のドッグ144と係合するように設計され、且つ、この実施例では第1のドッグ144の三角形の形状に適合するように回転半径に対して鋭角に設定されている相補的な輪郭を有する。各格納式ドッグ146bの外側面162は、第1のドッグと係合したときにドッグ・リングにトルクを伝達するように構成されたトルク駆動面166を含む。
【0073】
各格納式ドッグ146bの内側面164は、第1のドッグと係合したときに格納位置に向かう格納式ドッグ組立体の軸方向運動を強いるように構成されたカム面168を含む。この実施例では、カム面168は、ドッグ・クラッチの横断面に対して(用語「横断面」は、この文脈では駆動シャフト126の回転軸Zに対して垂直な平面を意味する)鋭角に傾けられた勾配付き表面を含む。対照的に、各格納式ドッグ146bの外側面162は、ドッグ・クラッチの横断面に対して実質的に垂直である。
【0074】
第2のドッグ・クラッチの動作は、図6aから6eを参照しながら上記で説明された第1のドッグ・クラッチの動作に似ている。唯一の大きな違いは、格納式ドッグ146bが第1のドッグによって係合されたときに延長位置と格納位置との間で互いに独立して軸方向に移動することができることである。
【0075】
上記で説明された第1のドッグ・クラッチと同様に、第2のドッグ・クラッチでは、第1のドッグ144は、制御要素140(つる巻きばね)の力により、延長位置に向かって付勢される。第1のドッグ144と格納式ドッグ146bとの間の接触の結果として、少量のトルクが、ドッグ・リング124と格納式ドッグ組立体138との間で伝達される。したがって、ドッグ・リング124の相対的回転速度は、第1のドッグ144が固定された第2のドッグ146aと係合する前に格納式ドッグ組立体138によって低下され、それにより、係合の衝撃が軽減される。
【0076】
第1及び第2のドッグ・クラッチの様々な修正が可能であり、そのうちの幾つかを次に説明する。
【0077】
上記で説明された2つの実施例では、格納式ドッグ組立体38、138を軸方向に付勢する制御要素40、140は、それぞれ波形ばね及びつる巻きばねであったが、他のタイプの弾性部材(ゴム・ブロック等)及びアクチュエータが、代替的に使用され得る。
【0078】
さらに、上記の2つの実施例では、円形の外周面を有する環状部材が、ドッグ・リング24、124として使用される。或いは、ドッグもまた駆動シャフトと回転され、駆動シャフトに対して軸方向に摺動可能であり、ドッグ歯車組立体の第2のドッグ44、46、144、146と係合及び係脱するために軸方向に移動可能であるドッグを有し、また、駆動シャフトのトルク及び回転をドッグ歯車組立体22、122に伝達するためにドッグが互いに係合するのであれば、異なる外周形状を有する(例えば、径方向駆動構造を有する)摺動ドッグが使用されてもよく、又は、ドッグ歯車組立体22、122に隣接する別の歯車が使用されてもよい。
【0079】
例えば径方向又は周方向等における運動を通じて延長位置と格納位置との間でドッグ歯車に対して非軸方向運動するように格納式ドッグ組立体を構成することも可能である。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【外国語明細書】