IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特開2022-61112ホウ素含有スラグの改質方法及びこれを利用した土木建築用資材の製造方法、並びに改質スラグ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061112
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】ホウ素含有スラグの改質方法及びこれを利用した土木建築用資材の製造方法、並びに改質スラグ
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20220411BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20220411BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
B09B3/00 304A
C04B5/00 Z ZAB
C04B18/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168889
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】井上 陽太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 克美
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭児
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AA43
4D004AB05
4D004BA02
4D004CA29
4D004CA32
4D004CA34
4D004CC11
4D004DA20
4G112JG01
(57)【要約】
【課題】ホウ素含有物質からのホウ素の溶出を、簡便かつ経済的に抑制できる方法を提供する。
【解決手段】改質前スラグの組成に基づく平衡計算により、該スラグが固液共存状態にある所定温度Tでの液相中のホウ素濃度である改質前計算ホウ素濃度Cを算出すること、前記改質前計算ホウ素濃度Cが所定の閾値Cを超える改質前スラグに対し、前記所定温度T以上にある状態で、SiOを30質量%以上含有し、前記所定温度Tにて前記スラグの液相に溶解する改質材を添加してこれを改質し、組成に基づく平衡計算により算出される、固液共存状態にある所定温度Tでの液相中の改質後計算ホウ素濃度Cが前記所定の閾値C以下となる改質スラグを調製すること、及び前記改質スラグを薄層状に流し込み、該薄層の厚み方向中央部における冷却速度が、前記所定温度Tから1000℃まで、10℃/min以上となるように冷却することを含む、ホウ素含有スラグの改質方法を採用する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素含有スラグの改質方法であって、
改質前スラグの組成に基づく平衡計算により、該スラグが固液共存状態にある所定温度Tでの液相中のホウ素濃度である改質前計算ホウ素濃度Cを算出すること、
前記改質前計算ホウ素濃度Cが所定の閾値Cを超える改質前スラグに対し、前記所定温度T以上にある状態で、SiOを30質量%以上含有し、前記所定温度Tにて前記スラグの液相に溶解する改質材を添加してこれを改質し、組成に基づく平衡計算により算出される、固液共存状態にある所定温度Tでの液相中の改質後計算ホウ素濃度Cが、前記所定の閾値C以下となる改質スラグを調製すること、及び、
前記改質スラグを薄層状に流し込み、該薄層の厚み方向中央部における冷却速度が、前記所定温度Tから1000℃まで、10℃/min以上となるように冷却すること
を含む、ホウ素含有スラグの改質方法。
ただし、前記所定の閾値Cは、0.5質量%~1.0質量%の範囲から選ばれる値であり、前記所定温度Tは、前記改質前スラグの粉末X線回折測定結果から算出した該スラグ中に常温で存在するガラス相の割合に、前記平衡計算で算出される固液共存状態における液相の割合が一致する温度±50℃である。
【請求項2】
前記所定温度Tが1100℃~1200℃である、請求項1に記載のホウ素含有スラグの改質方法。
【請求項3】
前記改質材が廃ガラスである、請求項1又は請求項2に記載のホウ素含有スラグの改質方法。
【請求項4】
前記改質材がろう石を50質量%以上含有する、請求項1又は請求項2に記載のホウ素含有スラグの改質方法。
【請求項5】
前記改質前スラグのホウ素含有量が0.15質量%を超える、請求項1~4のいずれか1項に記載のホウ素含有スラグの改質方法。
【請求項6】
土木建築用資材の製造方法であって、請求項1~5のいずれか1項に記載のホウ素含有スラグの改質方法により得られたスラグを材料として使用することを特徴とする、土木建築用資材の製造方法。
【請求項7】
ホウ素の含有量が0.15質量%を超えるホウ素含有スラグと、SiOを30質量%以上含有し、前記スラグの組成に基づく平衡計算により算出される、1100℃~1200℃の範囲内にある所定温度Tにて前記スラグの液相に溶解する改質材とを混合してなる改質スラグであって、
前記所定温度Tにおける液相中のホウ素濃度、及びSiO濃度が、それぞれ1.0質量%以下、及び25質量%以上であり、かつ
環境庁告示第46号に定める溶出試験によるホウ素溶出量が1mg/L以下であることを特徴とする改質スラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有スラグの改質方法及びこれを利用した土木建築用資材の製造方法、並びに改質スラグに関する。
【背景技術】
【0002】
工業の発展にともない、各種産業において発生する産業副産物の量も増加の一途を辿っている。近年、地球環境保全の観点から、このような産業副産物の有効利用が行われている。例えば、製鉄所から発生する高炉スラグや製鋼スラグなどの鉄鋼スラグ、火力発電所から発生する石炭灰、及び廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を高温で溶融し冷却・固化した溶融スラグ等は、適正な粒度調整を施された後、路盤材や地盤改良材などの土木建築用資材として再利用されている。
【0003】
産業副産物を再利用する際には、これに含まれる有害物質の環境中への排出を抑制する必要がある。代表的な有害物質としては、カドミウム、水銀、クロム及び鉛等の重金属類が例示できるが、これら重金属類以外に、例えば、フッ素、セレン、ヒ素及びホウ素等についても、環境に悪影響を与える成分として、環境への排出(溶出)が厳しく規制されている。
【0004】
このような環境に悪影響を及ぼす成分のうち、ホウ素の溶出を抑制する方法としては、例えば、ホウ素が含まれる焼却灰に、酸化マグネシウムを粉末状又はスラリー状で添加、混合する方法(特許文献1)、及び火力発電所等から排出される石炭灰を所定期間加湿養生する方法(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-298741号公報
【特許文献2】特開2007-90155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された方法では、ホウ素の溶出抑制材として使用される酸化マグネシウムが高価であること、及び溶出抑制材を添加した混合物(最終生成物)が硬化して比較的高強度の塊状体となるため、これを資材とするための粒度調整に手間がかかることが問題となる。また、特許文献2に記載された方法では、ホウ素の溶出を抑制するために長期間の加湿養生が必要であり、特に、溶出量が多い石炭灰については、所期の溶出量とするためにより長期間の加湿養生を必要とするため、生産性が低いことが問題となる。
【0007】
これに加えて、ホウ素含有物質からのホウ素の溶出を判定する方法としては、特許文献1にも記載されている、環境庁告示第46号に規定される方法が知られているが、試料の作成、試料液の調製、溶出処理及び検液の作成を経て分析を行う必要があり、判定に時間及び手間がかかっていた。このため、ホウ素の溶出を予め判定することなく、全てのホウ素含有物質に対して溶出抑制処理が行われることも多かった。この場合、溶出するホウ素が少量で、本来は溶出抑制処理を行う必要のないホウ素含有物質にまで該処理が行われてしまうため、不経済であった。
【0008】
そこで、本発明は、前述の問題点を解決し、産業副産物のうち、ホウ素含有スラグからのホウ素の溶出を、簡便かつ経済的に抑制できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、ホウ素含有スラグの組成から、平衡計算を利用して、固液共存状態にあるホウ素含有スラグにおける液相中のホウ素濃度を算出し、該ホウ素濃度が所定の閾値以下であるか否かによって、該ホウ素含有スラグからのホウ素溶出量が環境基準を満たすか否かを判定できることを見出した。そして前記ホウ素濃度が所定の閾値以下になるよう改質材を添加してから高速で冷却すれば、ホウ素溶出量が環境基準を満たすスラグに改質できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の実施形態は、ホウ素含有スラグの改質方法であって、改質前スラグの組成に基づく平衡計算により、該スラグが固液共存状態にある所定温度Tでの液相中のホウ素濃度である改質前計算ホウ素濃度Cを算出すること、前記改質前計算ホウ素濃度Cが所定の閾値Cを超える改質前スラグに対し、前記所定温度T以上にある状態で、SiOを30質量%以上含有し、前記所定温度Tにて前記スラグの液相に溶解する改質材を添加してこれを改質し、組成に基づく平衡計算により算出される、固液共存状態にある所定温度Tでの液相中の改質後計算ホウ素濃度Cが前記所定の閾値C以下となる改質スラグを調製すること、及び、前記改質スラグを薄層状に流し込み、該薄層の厚み方向中央部における冷却速度が、前記所定温度Tから1000℃まで、10℃/min以上となるように冷却することを含む、ホウ素含有スラグの改質方法である。ただし、前記所定の閾値Cは、0.5質量%~1.0質量%の範囲から選ばれる値であり、前記所定温度Tは、前記改質前スラグの粉末X線回折測定結果から算出した該スラグ中に常温で存在するガラス相の割合に、前記平衡計算で算出される固液共存状態における液相の割合が一致する温度±50℃である。
【0011】
また、本発明の第2の実施形態は、土木建築用資材の製造方法であって、前述した第1の実施形態に係るホウ素含有スラグの改質方法により得られた改質スラグを材料として使用することを特徴とする、土木建築用資材の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明の第3の実施形態は、ホウ素の含有量が0.15質量%を超えるホウ素含有スラグと、SiOを30質量%以上含有し、前記スラグの組成に基づく平衡計算により算出される、1100℃~1200℃の範囲内にある所定温度Tにて前記スラグの液相に溶解する改質材とを混合してなる改質スラグであって、前記所定温度Tにおける液相中のホウ素濃度、及びSiO濃度が、それぞれ1.0質量%以下、及び25質量%以上であり、かつ環境庁告示第46号に定める溶出試験によるホウ素溶出量が1mg/L以下であることを特徴とする改質スラグである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、産業副産物のうち、ホウ素含有スラグからのホウ素の溶出を、簡便かつ経済的に抑制できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態を詳細に説明するが、本発明は該各実施形態に限定されるものではない。また、以下に述べる作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0015】
本発明者は、上述の課題を解決するための検討の過程で、ホウ素含有スラグからのホウ素溶出量の多寡が、必ずしも該スラグのホウ素濃度の高低と一致しないこと、及び同じ組成を有するホウ素含有スラグであっても、溶融状態からの冷却速度が異なると、異なるホウ素溶出量を示すことを見出した。そこで、これらの原因を解明すべく、ホウ素含有スラグについて、X線回折(XRD)測定結果に基づくガラス相比率の算出、電子線マイクロアナライザ(EPMA)によるホウ素の偏在状態の確認、及び透過型電子顕微鏡付属の電子エネルギー損失分光(TEM-EELS)装置によるガラス相へのホウ素の分配観察を実施した。その結果、ホウ素含有スラグからのホウ素溶出量の多寡には、ガラス相中のホウ素濃度及びガラス相中のホウ素の安定性が大きく影響することが判明した。
後述する本発明の各実施形態は、この知見に基づくものである。
【0016】
[ホウ素含有スラグの改質方法]
本発明の第1の実施形態に係るホウ素含有スラグの改質方法(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、改質対象とするホウ素含有スラグ(以下、「改質前スラグ」と記載することがある)の組成に基づく平衡計算により、該スラグが固液共存状態にある所定温度Tでの液相中のホウ素濃度である改質前計算ホウ素濃度Cを算出することを含む。
【0017】
改質前スラグとしては、製鉄所から発生する高炉スラグや製鋼スラグなどの鉄鋼スラグ、及び廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を高温で溶融し冷却・固化した溶融スラグ等の各種スラグ等が挙げられる。なお、生成時に溶融状態であるものについては、溶融状態にある間に改質を行ってもよい。
【0018】
改質前計算ホウ素濃度Cの算出は、改質前スラグの組成に基づいて平衡計算を行い、該スラグが固液共存状態にある所定温度Tにおいて、液相側に存在するホウ素の濃度を求めることで行う。
平衡計算に用いる改質前スラグの組成は、該スラグについて、蛍光X線(XRF)分析等により定量したものを使用できる。また、所定の条件で生成したホウ素含有スラグの分析結果に基づいて、該条件の変化から予想されるホウ素含有スラグの組成を使用してもよい。
平衡計算では、まず、所定温度Tを次のように決定する。すなわち、改質前スラグの組成から、該スラグが固液共存状態にある温度範囲を算出すると共に、該温度範囲内の各温度における液相の割合を算出する。また、前記改質前スラグの粉末X線回折測定結果から、該スラグ中に常温で存在するガラス相の割合を算出する。ここで、本明細書における「常温」とは、特に冷却又は加熱を行わない温度を意味し、概ね5℃~35℃程度の温度のことをいう。そして、前記ガラス相の割合に前記液相の割合が一致する温度を求め、該温度±50℃の範囲内から所定温度Tを決定する。このとき、該所定温度Tを1100℃~1200℃とすることで、平衡計算から算出される液相の割合及びその組成を、改質前スラグ中に常温で存在するガラス相の割合及びその組成により近いものとすることができ、後述する改質材添加の要否を、より高精度で判定できるため好ましい。
次いで、前記所定温度T及び改質前スラグの組成から、該所定温度Tにおいて液相側に存在するホウ素の濃度を算出し、これを改質前計算ホウ素濃度Cとする。
【0019】
算出された改質前計算ホウ素濃度Cは、実際の改質前スラグ中に常温で存在するガラス相中のホウ素濃度に対応する。そこで、第1実施形態では、上述の知見に基づき、改質前計算ホウ素濃度Cが所定の閾値Cを超える改質前スラグは、ホウ素の溶出量が環境基準を超える虞があると判断し、後述する改質処理を経て再利用ないし最終処分を行うこととする。
【0020】
ここで、前記所定の閾値Cは、0.5質量%~1.0質量%の範囲から選ばれる値とする。前記閾値Cを1.0質量%以下の値とすることで、ガラス相中に含まれるホウ素の安定性が低い場合でも、改質前スラグから実際に溶出するホウ素の量が環境基準を超えることを効果的に防止できる。前記閾値Cは、0.8質量%以下の値とすることが好ましい。他方、前記閾値を0.5質量%以上の値とすることで、実際に溶出するホウ素の量が環境基準を満たす改質前スラグに対し、不必要な改質処理を実施してしまう可能性を小さくできる。前記閾値Cは、0.6質量%以上の値とすることが好ましい。
前記所定の閾値Cの決定に際しては、改質前スラグ中に常温で存在するガラス相中のホウ素の安定性を考慮して、該スラグから溶出するホウ素の量が環境基準を超えない範囲とすればよい。例えば、改質前スラグが、溶融物を冷却・固化して得られたスラグである場合、急冷により得られたものは、ガラス中のホウ素の安定性が高く溶出しにくいため、前記閾値Cは比較的大きく設定できる。反対に、溶融状態から徐冷により得られた改質前スラグでは、ホウ素が溶出し易いため、前記閾値Cを比較的小さく設定する。溶融状態にある改質前スラグについて閾値Cを設定する場合には、通常の操業条件における冷却速度等を考慮して該閾値Cを設定すればよい。
【0021】
第1実施形態は、改質前計算ホウ素濃度Cが所定の閾値Cを超える改質前スラグに対し、前記所定温度T以上にある状態で、SiOを30質量%以上含有し、前記所定温度Tにて前記スラグの液相に溶解する改質材を添加してこれを改質し、組成に基づく平衡計算により算出される、固液共存状態にある前記所定温度Tでの液相中の改質後計算ホウ素濃度Cが、前記所定の閾値C以下となる改質スラグを調製することを含む。これにより、改質前スラグの組成を変更し、所定温度Tにおける液相中の計算ホウ素濃度、すなわち改質後計算ホウ素濃度Cを、閾値C以下とする。
なお、改質材の選定に当たっては、前記所定温度Tにて、添加した改質材が前記スラグの液相中に溶解する質量の割合((溶解した改質材の質量)/(添加した改質材の質量)×100)が10%以上であること目安にできる。実際の操業では、改質材の添加は所定温度T以上で行なわれることが多い。一般的に、高温ほど前記スラグの液相量は多くなり、改質材の前記スラグへの溶解度も高くなるので、実際の操業では、改質材を高い歩留まりで前記スラグに溶解させることができる。
【0022】
改質材添加時の改質前スラグの温度は、常温にある改質前スラグを加熱して所定温度T以上としてもよく、溶融状態で生成した改質前スラグを温度調節して所定温度T以上としてもよい。前記所定温度T以上の改質前スラグは、溶融状態又は固液共存状態となり、液相を含むものとなる。この状態における液相の割合は、50質量%以上とすることが、高い流動性を示し、後述する改質材による改質が迅速に進行する点で好ましい。
【0023】
改質前スラグに添加する改質材としては、SiO含有量が30質量%以上であり、前記改質前スラグの液相に溶解するものを用いる。これにより、改質スラグからのホウ素の溶出を効果的に抑制できる。改質材中のSiO含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。前述した改質後計算ホウ素濃度Cは、改質スラグ中に常温で存在するガラス相中のホウ素濃度に対応する。そして、ガラス相中のホウ素濃度が低いホウ素含有スラグが、ホウ素の溶出量が十分に少なく、環境基準値ないし自主基準値を満たすものとなる。したがって、改質材の添加によって、これが改質前スラグの液相に溶解してスラグの液相範囲が広がり、改質後計算ホウ素濃度Cが所定の閾値C以下となることで、ガラス相中のホウ素濃度が低下し、改質スラグからのホウ素の溶出が抑制される。
改質材としては、廃ガラスやろう石を用いることができる。一般に、結晶質SiOの融点は1700℃以上であるが、廃ガラス中のSiOを初めとする各成分は結晶化していないため、高温のスラグに添加した際に溶融し、液相中に容易に溶解する。また、ろう石も、Alを10質量%以上含んでいることで、結晶質SiOを主成分とする珪砂よりも融点が低下していると考えられ、これによりスラグの液相に容易に溶解する。
改質材の形状は特に限定されないが、改質を迅速に行う点で、粉末状ないし粒子状とすることが好ましい。また、改質材の添加による改質前スラグの温度低下を抑制するために、改質材は予め加熱しておくことが好ましい。
改質前スラグに改質材を添加した後は、撹拌や流動を行うことが、改質が均一かつ迅速に進行する点で好ましい。
【0024】
なお、前述の平衡計算により算出される改質前計算ホウ素濃度Cが、所定の閾値C以下となった改質前スラグは、改質材を添加することなく、他の試験及び処理を経て再利用又は最終処分を行うことができる。
【0025】
第1実施形態は、調製された液相を含む改質スラグを薄層状に流し込み、該薄層の厚み方向中央部における冷却速度が、前記所定温度Tから1000℃まで、10℃/min以上となるように冷却する。
改質スラグを薄層状に流し込むことで、該改質スラグ全体を高速で冷却することができ、生成するガラス相中に含まれるホウ素の安定性が高まるとともに、生産性が向上する。薄層の厚みは、高い冷却速度を得る点で、70mm以下とすることが好ましく、50mm以下とすることがより好ましい。他方、薄層の厚みは、冷却に要する面積を抑える点で、5mm以上とすることが好ましい。
その際には、1000℃までの冷却速度を10℃/min以上とすることで、生成するガラス相中に含まれるホウ素の安定性が高まり、改質スラグからのホウ素の溶出が抑制される。前記冷却速度は、20℃/min以上とすることが好ましく、30℃/min以上とすることがより好ましい。
【0026】
第1実施形態は、改質前スラグのホウ素含有量が0.15質量%を超える場合に好適に適用し得る。ホウ素含有量が0.15質量%を超えるスラグは、ホウ素の溶出判定試験において不合格となることが多いが、第1実施形態により、ホウ素の溶出を抑えて環境基準値ないし自主基準値を満たすものとすることができるためである。
【0027】
[土木建築用資材の製造方法]
本発明の第2の実施形態に係る土木建築資材の製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、前述した第1実施形態に係るホウ素含有スラグの改質方法により得られた改質スラグを材料として使用することを特徴とする。
【0028】
第2実施形態では、ホウ素溶出が環境基準を満たすホウ素含有物質の粒度を、路盤材や地盤改良材等の土木建築資材の用途に応じて調整することが好ましい。粒度調整の例として、ホウ素含有物質を路盤材に用いる場合に、ホウ素含有物質を40mm以下となるように破砕ないし篩い分けすることが挙げられる。
【0029】
[ホウ素含有改質スラグ]
本発明の第3実施形態に係る改質スラグ(以下、単に「第3実施形態」と記載することがある)は、ホウ素が0.15質量%を超えるホウ素含有スラグと、SiOを30質量%以上含有し、前記スラグの組成に基づく平衡計算により算出される、1100℃~1200℃の範囲内にある所定温度Tにて前記スラグの液相に溶解する改質材とを混合してなる改質スラグであって、前記所定温度Tにおける液相中のホウ素濃度、及びSiO濃度が、それぞれ1.0質量%以下、及び25質量%以上であり、かつ環境庁告示第46号に定める溶出試験によるホウ素溶出量が1mg/L以下であることを特徴とする。
【0030】
前述したとおり、ホウ素含有量が0.15質量%を超えるスラグは、ホウ素の溶出量が多く、ホウ素の溶出判定試験において不合格となることが多い。しかし、上述した第1実施形態により改質処理されたものについては、ホウ素の溶出が抑制され、環境基準値ないし自主基準値を満たすものとすることができる。前記改質処理の効用は、ホウ素含有量が0.16質量%以上のスラグにおいてより大きく、0.18質量%以上のスラグにおいてさらに大きく、0.20質量%以上のスラグにおいて顕著に大きく、享受することができる。
【0031】
第3実施形態における平衡計算の条件等については、第1実施形態で説明したものを採用できる。第3実施形態に係る改質スラグにおいて、前記所定温度Tにおける液相中のSiO濃度が25質量%以上であれば、ホウ素の溶出量が少ないものとなる。このSiO濃度は、30質量%以上であるとさらに好ましい。
【0032】
第3実施形態は、環境庁告示第46号に定める溶出試験によるホウ素溶出量が1mg/L以下である。含有するホウ素の量が多いにもかかわらず、溶出するホウ素の量が少ないことから、第3実施形態は、土木建築用資材等として再利用可能なスラグの範囲を拡大できる点で有用である。前記ホウ素溶出量は、0.9mg/L以下であることが好ましく、0.8mg/L以下であることがより好ましい。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
ホウ素含有スラグとして、表1に示す組成を有するスラグを準備した。このスラグは、金属製錬工程で常態的に発生するものである。なお、表1に示すスラグの組成は、普段の操業条件から推定したものである。
【0035】
【表1】
【0036】
この組成を熱力学平衡計算ソフトウェアFactSage7.2に入力し、前記スラグが固液共存状態にある温度範囲内である1150℃を所定温度Tとして、該温度における液相組成を計算した。FactSage7.2のデータベースには、FToxideを用いた。スラグのホウ素溶出判定の閾値Cは、普段の操業時の冷却速度を考慮して、0.8質量%とした。
【0037】
算出された改質前計算ホウ素濃度Cは1.4質量%であり、閾値Cを超えるものであった。このスラグのホウ素溶出量を、環境庁告示第46号に定める溶出試験により測定したところ、自主基準値を超えるホウ素の溶出が確認された。なお、自主基準値はそれぞれの用途により公に定められる基準値と同じか、それよりも低く設定できる。公に定められる基準値としては、例えば、環境庁告示第46号によれば1mg/Lである。
【0038】
次いで、溶融状態にあるスラグ(温度1400℃)に、改質材として廃ガラスを添加し、撹拌して改質スラグを調製した。改質スラグの組成に基づいて、平衡計算により算出された、所定温度T(1150℃)における改質後計算ホウ素濃度Cは0.7質量%であり、閾値C(0.8質量%)以下となった。次いで、厚さ20mmの鉄板上に、改質スラグを厚さ50mmの薄層状に流し込み、1000℃までの冷却速度を30℃/minとして冷却し、凝固させた。凝固したスラグを鉄板上で3時間ほど静置し、完全に凝固した後スラグを採取し、40mm以下となるように破砕した。破砕したスラグからのホウ素溶出量を、環境庁告示第46号に定める溶出試験により測定したところ、自主基準値以下であることが確認された。
【0039】
[実施例2]
改質材として、ろう石と生石灰とを質量比100:8で混合したものを使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るホウ素含有スラグの改質方法を行った。改質スラグからのホウ素溶出量を、環境庁告示第46号に定める溶出試験により測定したところ、自主基準値以下であることが確認された。
【0040】
[比較例1]
改質材の添加効果を確認するため、改質材を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るホウ素含有スラグの改質方法を行った。改質スラグからのホウ素溶出量を、環境庁告示第46号に定める溶出試験により測定したところ、自主基準値を超えるホウ素の溶出が確認された。
【0041】
[比較例2]
冷却速度によるホウ素溶出量の変化を確認するため、1250℃から1000℃までの温度範囲における、薄層の厚み方向中央部の冷却速度を5℃/minと遅くした以外は実施例2と同様にして、比較例2に係るホウ素含有スラグの改質方法を行った。改質スラグからのホウ素溶出量を、環境庁告示第46号に定める溶出試験により測定したところ、自主基準値を超えるホウ素の溶出が確認された。
【0042】
[比較例3]
改質後計算ホウ素濃度Cを、閾値Cを超える1.1質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例3に係るホウ素含有スラグの改質方法を行った。改質スラグからのホウ素溶出量を、環境庁告示第46号に定める溶出試験により測定したところ、自主基準値を超えるホウ素の溶出が確認された。
【0043】
各実施例、比較例及び参考例の処理条件及びホウ素溶出量の判定結果を、まとめて表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から、改質前計算ホウ素濃度Cが所定の閾値Cを超えるホウ素含有スラグに、平衡計算により算出される所定温度Tでの液相中のホウ素濃度が閾値C以下となるように改質材を添加し、1000℃までの冷却速度を10℃/min以上とした実施例によるスラグは、ホウ素溶出量の実測値が自主基準値以下となり、ホウ素の溶出が抑制されたことが判る。これに対し、溶融状態で改質材を添加しなかった比較例1によるスラグは、高速で冷却した場合でもホウ素溶出量が多いままであることが判る。
【0046】
また、実施例2と比較例2との対比からは、改質後計算ホウ素濃度Cが閾値C以下となるように改質したスラグであっても、溶融状態から徐冷した場合には、ホウ素溶出量が多くなることが判る。この結果から、第1実施形態において、溶融状態からの冷却速度が遅い改質前スラグについて改質の要否を判定する際には、ガラス相中に含まれるホウ素の安定性が低いことを考慮して、閾値Cを低めに設定する必要があるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、ホウ素含有スラグからのホウ素の溶出を、簡便かつ経済的に抑制できる方法が提供される。このため、ホウ素の溶出量が環境基準を満たすホウ素含有スラグに対して不要な溶出抑制処理を行わずに済む点、ホウ素の溶出量が環境基準を超えることのみを理由として再利用ができなかったホウ素含有物質の再利用が可能となる点、及び同じ理由により最終処分時に別途処置が必要であったホウ素含有物質について、該処置を省略して簡便に最終処分が可能となる点で、本発明は有用なものである。