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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061114
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】組織再生用材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20220411BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220411BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168891
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 穂高
(72)【発明者】
【氏名】寳田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】長塚 仁
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD44
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】骨髄組織から短時間で簡便な処理によりレプチン受容体陽性細胞数が一定以上の骨髄由来間葉系幹細胞を得ることができる組織再生用材料を提供する。
【解決手段】骨髄組織から骨髄由来間葉系幹細胞が分離されてなる組織再生用材料であって、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄組織から骨髄由来間葉系幹細胞が分離されてなる組織再生用材料であって、
レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含むことを特徴とする組織再生用材料。
【請求項2】
骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数が96×10/g以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む請求項1に記載の組織再生用材料。
【請求項3】
前記骨髄由来間葉系幹細胞が、0.5~1.5mg/mLのコラゲナーゼと0.5~1.5mg/mLのディスパーゼを含む緩衝液で骨髄組織を酵素処理して得られたものである請求項1又は2に記載の組織再生用材料。
【請求項4】
骨髄組織から骨髄由来間葉系幹細胞が分離されてなる組織再生用材料の製造方法であって、
骨髄組織に対し、0.5~1.5mg/mLのコラゲナーゼと0.5~1.5mg/mLのディスパーゼを含む緩衝液を用いて36℃以上38℃以下で5分以上30分未満酵素処理する請求項1~3のいずれかに記載の組織再生用材料の製造方法。
【請求項5】
粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであって、
コラゲナーゼ及びディスパーゼを含む粉材(X)と、緩衝液を含む液剤(Y)とを、コラゲナーゼ及びディスパーゼの濃度がそれぞれ0.5~1.5mg/mLとなるように混合して骨髄組織に対して酵素処理することにより、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料を得ることを特徴とする粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、骨髄組織、脂肪組織等に存在し、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞等の間葉系に属する細胞への分化能を有しているため、再生医療等の分野での利用が期待されている。しかしながら、骨髄液に含まれる間葉系幹細胞は、その量が十分ではないため、臨床治療に用いる際には、間葉系幹細胞を培養して増殖する場合があった。
【0003】
例えば、特許文献1には、骨髄液に含まれる細胞を、少なくとも培養面にリン酸カルシウム類を含有する不織布上で培養する、骨髄由来間葉系幹細胞の分離方法が記載されている。これによれば、単純な培養操作で、容易に特定の幹細胞を選択的に分離培養することができるとされている。しかしながら、不織布上で少なくとも数日から1週間程度は培養する必要があるため、その間の感染リスクがあることや培養の維持に費用を要し、更なる改善が望まれていた。
【0004】
一方、特許文献2には、骨基質を主成分とする骨組織部分であって骨髄とは区別される組織である骨質を材料とし、間葉系幹細胞を分離する方法が記載されている。これによれば、間葉系幹細胞を効率的に分離することができるため、容易に大量の間葉系幹細胞を調製することができるとされている。しかしながら、特許文献2で得られる骨質由来の間葉系幹細胞と、骨髄由来の間葉系幹細胞の細胞群は異なるため、骨質からレプチン受容体陽性細胞を必ずしも効率的に得られる訳ではなかった。また、骨質を材料とする場合、骨組織部分を乳鉢等で粉砕する手間がかかるため、簡便かつ効率的な間葉系幹細胞の分離方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2018/097198号
【特許文献2】特開2015-39307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、骨髄組織から短時間で簡便な処理によりレプチン受容体陽性細胞数が一定以上の骨髄由来間葉系幹細胞を得ることができる組織再生用材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、骨髄組織から骨髄由来間葉系幹細胞が分離されてなる組織再生用材料であって、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含むことを特徴とする組織再生用材料を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数が96×10/g以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含むことが好適な実施態様であり、前記骨髄由来間葉系幹細胞が、0.5~1.5mg/mLのコラゲナーゼと0.5~1.5mg/mLのディスパーゼを含む緩衝液で骨髄組織を酵素処理して得られたものであることが好適な実施態様である。
【0009】
また、上記課題は、骨髄組織から骨髄由来間葉系幹細胞が分離されてなる組織再生用材料の製造方法であって、骨髄組織に対し、0.5~1.5mg/mLのコラゲナーゼと0.5~1.5mg/mLのディスパーゼを含む緩衝液を用いて36℃以上38℃以下で5分以上30分未満酵素処理する組織再生用材料の製造方法を提供することによって解決される。
【0010】
さらに、上記課題は、粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであって、コラゲナーゼ及びディスパーゼを含む粉材(X)と、緩衝液を含む液剤(Y)とを、コラゲナーゼ及びディスパーゼの濃度がそれぞれ0.5~1.5mg/mLとなるように混合して骨髄組織に対して酵素処理することにより、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料を得ることを特徴とする粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットを提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、骨髄組織から短時間で簡便な処理によりレプチン受容体陽性細胞数が一定以上の骨髄由来間葉系幹細胞を得ることができる。こうして得られた骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料は、移植後の細胞の生着が良好であり、骨髄由来の骨・軟骨形成を誘導させることが可能となるため、再生医療の分野に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】コラゲナーゼ濃度とディスパーゼ濃度を変化させてレプチン受容体陽性細胞数を計測した結果を示した図である。
図2】本発明の組織再生用材料をマウスに静脈投与するように用いることを示した図である。
図3】比較例1の組織再生用材料をマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、HE染色した結果(左側)と免疫組織化学的染色した結果(右側)を示した図である。
図4】実施例1の組織再生用材料をマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、HE染色した結果(左側)と免疫組織化学的染色した結果(右側)を示した図である。
図5】比較例1と実施例1の組織再生用材料をそれぞれマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、免疫組織化学的染色した結果を比較した図である(比較例1:左側、実施例1:右側)。
図6】実施例1の組織再生用材料をマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、GFPとRUNX2のモノクローナル抗体を用いて蛍光免疫二重染色した結果を示した図である。
図7】実施例1の組織再生用材料をマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、GFPとOsteocalcineのモノクローナル抗体を用いて蛍光免疫二重染色した結果を示した図である。
図8】比較例1と実施例1の組織再生用材料をそれぞれマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、免疫組織化学的染色して異所性骨周囲の間質を観察した結果を比較した図である(比較例1:左側、実施例1:右側)。
図9】実施例1の組織再生用材料をマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、免疫組織化学的染色して異所性骨周囲の間質を観察した結果(左側)と蛍光免疫二重染色して異所性骨周囲の間質を観察した結果(右側)を示した図である。
図10】実施例1の組織再生用材料をマウスに移植し、背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、GFPとRUNX2のモノクローナル抗体を用いて蛍光免疫二重染色して異所性骨周囲の間質を観察した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の組織再生用材料は、骨髄組織から骨髄由来間葉系幹細胞が分離されてなる組織再生用材料であって、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含むことを特徴とするものである。
【0014】
レプチン受容体陽性細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞等の間葉系に属する細胞への分化において最も有用な細胞と考えられているが、骨髄液に含まれる間葉系幹細胞の量が十分ではないため、レプチン受容体陽性細胞数が一定以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を得ることは困難であった。後述する実施例と比較例との対比から分かるように、コラゲナーゼとディスパーゼの少なくとも一方が特定の濃度範囲を満たさない場合、レプチン受容体陽性細胞数が一定以上とならず、これに対し、コラゲナーゼとディスパーゼが特定の濃度範囲にあることで、レプチン受容体陽性細胞数が一定以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞が得られることが本発明者らの検討により明らかとなった。このように、骨髄組織を酵素処理する条件によりレプチン受容体陽性細胞数が大きく異なることは本発明者らにより初めて確認されたものである。
【0015】
本発明の組織再生用材料は、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含むものであり、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞等の間葉系に属する細胞へ分化させるために好適に用いることができる。特に、骨髄組織から短時間で簡便な処理により骨髄由来間葉系幹細胞を得ることができるため、本発明の組織再生用材料を移植材料として好適に用いることができる。後述する実施例から明らかなように、本発明の組織再生用材料を移植することにより、移植後の細胞の生着が良好であり、骨髄由来の骨・軟骨形成を誘導させることが可能となるため、再生医療の分野に特に適しており、本発明の組織再生用材料を骨・軟骨形成剤として好適に用いることができる。
【0016】
本発明におけるレプチン受容体陽性細胞数は、フローサイトメトリーにより計測された細胞数であり、骨髄細胞の全細胞数を予め計測し、緩衝液0.2mL中の全細胞数が一定数となるように調製された組織再生用材料における細胞数を表すものである。フローサイトメトリーは、蛍光標識された細胞を含む懸濁液を細管に通し、一定波長のレーザー光を照射して光学的に検出する方法であり、レプチン受容体陽性細胞数を定量的に測定することが可能である。フローサイトメトリーに用いられる装置はフローサイトメーターである。各社から販売されているフローサイトメーターを用い、取扱説明書に従って測定することができる。また、骨髄細胞の全細胞数は、各社から販売されているセルカウンターを用いて定量的に測定することが可能である。セルカウンターとしては、前述のフローサイトメトリーに用いられるフローサイトメーターであってもよいし、細胞が開口部を通る際の電気抵抗の変化を測定することにより細胞数を計測するセルカウンターであってもよいし、オートフォーカスによる顕微鏡画像を画像処理して細胞数を計測するセルカウンターであってもよい。これらセルカウンターは、取扱説明書に従って測定することができる。
【0017】
本発明において、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10未満を示す骨髄由来間葉系幹細胞の場合、生体に生着するには不十分な量となり、組織再生用材料としての使用には適さない。かかる観点から、本発明の組織再生用材料におけるレプチン受容体陽性細胞数としては、5.2×10以上が好ましく、5.5×10以上がより好ましく、5.8×10以上がさらに好ましい。なお、本発明において、レプチン受容体陽性細胞数は、通常、9.9×10以下である。
【0018】
また、本発明の組織再生用材料は、骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数が96×10/g以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含むことが好ましい。骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数が96×10/g未満を示す骨髄由来間葉系幹細胞の場合、生体に生着するには不十分な量となるおそれがある。かかる観点から、骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、100×10/g以上がより好ましく、105×10/g以上がさらに好ましく、110×10/g以上が特に好ましい。なお、本発明において、骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、通常、190×10以下である。
【0019】
本発明の組織再生用材料は、0.5~1.5mg/mLのコラゲナーゼと0.5~1.5mg/mLのディスパーゼを含む緩衝液で骨髄組織を酵素処理することにより好適に得られるものである。本発明者らの検討により、コラゲナーゼとディスパーゼが特定の濃度範囲にあることで、レプチン受容体陽性細胞数が一定以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞が得られることが明らかとなった。後述する実施例と比較例との対比から分かるように、コラゲナーゼ濃度とディスパーゼ濃度の両方が上記濃度範囲を満たさない比較例1、3、4及び5、コラゲナーゼ濃度は上記濃度範囲を満たすがディスパーゼ濃度が上記濃度範囲を満たさない比較例2及び6、ディスパーゼ濃度は上記濃度範囲を満たすがコラゲナーゼ濃度が上記濃度範囲を満たさない比較例7では、いずれもレプチン受容体陽性細胞数が一定以上とならないため、生体に生着するには不十分な量となる。これに対し、コラゲナーゼとディスパーゼが上記濃度範囲にある実施例1では、レプチン受容体陽性細胞数が一定以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を得ることができるため、移植材料として好適に用いることができる。コラゲナーゼ濃度の下限値としては、0.6mg/mLであることが好ましく、0.8mg/mLであることがより好ましく、0.9mg/mLであることがさらに好ましい。一方、コラゲナーゼ濃度の上限値としては、1.4mg/mLであることが好ましく、1.3mg/mLであることがより好ましく、1.2mg/mLであることがさらに好ましい。また、ディスパーゼ濃度の下限値としては、0.6mg/mLであることが好ましく、0.8mg/mLであることがより好ましく、0.9mg/mLであることがさらに好ましい。一方、ディスパーゼ濃度の上限値としては、1.4mg/mLであることが好ましく、1.3mg/mLであることがより好ましく、1.2mg/mLであることがさらに好ましい。
【0020】
前記コラゲナーゼと前記ディスパーゼを含む緩衝液としては、細胞内液等と同等の浸透圧を有するものであれば特に限定されないが、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水、リンゲル液、細胞培養液等を好適に用いることができる。中でも、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、細胞培養液がより好適に用いられる。
【0021】
骨髄組織に対し、前記コラゲナーゼと前記ディスパーゼを含む緩衝液を用いて36℃以上38℃以下で5分以上30分未満酵素処理することが本発明の好適な実施態様である。このように短時間で簡便な処理によりレプチン受容体陽性細胞数が一定以上の骨髄由来間葉系幹細胞を骨髄組織から分離して得ることができる。特に、酵素処理する時間が短時間であることにより、医療現場において酵素処理して組織再生用材料を得て、その場で当該組織再生用材料を移植材料として用いることができる利点を有する。かかる観点から、酵素処理する時間は25分以下であることがより好ましく、20分以下であることがさらに好ましい。
【0022】
骨髄組織は、骨の内部から好適に採取することができる。例えば、骨を切断して、骨の内部を緩衝液等で洗い流すことにより骨髄組織を採取する方法が挙げられる。より簡便に行う観点から、前記コラゲナーゼと前記ディスパーゼを含む緩衝液で骨の内部を洗い流すことにより骨髄組織を採取する方法が好適に採用される。骨の種類としては、骨髄組織が含まれる骨であれば特に限定されず、大腿骨、脛骨、腓骨、顎骨、上腕骨等が挙げられ、中でも大腿骨又は脛骨が好適に用いられ、大腿骨がより好適に用いられる。
【0023】
上記説明したように、本発明では短時間で簡便な処理により骨髄由来間葉系幹細胞を得ることができるため、医療現場において酵素処理して組織再生用材料を得て、その場で当該組織再生用材料を移植材料として用いることも可能である。かかる観点から、粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであって、コラゲナーゼ及びディスパーゼを含む粉材(X)と、緩衝液を含む液剤(Y)とを、コラゲナーゼ及びディスパーゼの濃度がそれぞれ0.5~1.5mg/mLとなるように混合して骨髄組織に対して酵素処理することにより、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料を得ることを特徴とする粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであることが本発明の実施態様の一つである。また、粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであって、コラゲナーゼを含む粉材(X)と、0.5~1.5mg/mLのディスパーゼを含む緩衝液を含む液剤(Y)とを、コラゲナーゼの濃度が0.5~1.5mg/mLとなるように混合して骨髄組織に対して酵素処理することにより、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料を得ることを特徴とする粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであることも本発明の実施態様の一つである。さらに、粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであって、ディスパーゼを含む粉材(X)と、0.5~1.5mg/mLのコラゲナーゼを含む緩衝液を含む液剤(Y)とを、ディスパーゼの濃度が0.5~1.5mg/mLとなるように混合して骨髄組織に対して酵素処理することにより、レプチン受容体陽性細胞数が5.0×10以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料を得ることを特徴とする粉材(X)と液剤(Y)とからなる組織再生用材料キットであることも本発明の実施態様の一つである。
【0024】
本発明の組織再生用材料は、ヒトだけでなく、ヒト以外の哺乳動物に対しても好適に用いることができる。本発明の組織再生用材料を骨、軟骨、血管、脂肪細胞等の組織の再生を目的とする部位に対して直接投与するように用いてもよいし、静脈注射により投与するように用いてもよい。特に、短時間で簡便な処理により骨髄由来間葉系幹細胞を得ることができるため、医療現場において酵素処理して組織再生用材料を得て、その場で当該組織再生用材料を投与するように用いてもよく、滅菌処理や再手術等を行わずに当該組織再生用材料を投与できる利点を有する。投与する際に、他の医薬を併用しても構わない。例えば、骨欠損部位に対してBMP-2を投与しつつ、本発明の組織再生用材料を投与するように用いることも好適な実施態様である。また、本発明の組織再生用材料を培養して投与するように用いることも好適な実施態様であり、さらに本発明の組織再生用材料を分化させてから投与するように用いることも好適な実施態様である。本発明では、短時間で簡便な処理によりレプチン受容体陽性細胞数が一定以上を示す骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料が得られるため、再生医療や実験等において幅広い応用が可能となる。
【実施例0025】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0026】
[試薬]
(1)10×PBS(Phosphate Buffer Saline)
NaCl(1370mM)80g、KCl(27mM)2g、NaHPO(81mM)11.5g、及びKHPO(14.7mM)2gを滅菌水で1Lにメスアップして調製した。
(2)1×PBS
上記(1)10×PBSを滅菌水で10倍希釈した。
【0027】
[実験動物]
7週齢雌性GFPトランスジェニックマウス(C57BL/6-Tg(CAG-EGFP))と7週齢雌性同系野生型マウス(C57BL/6J)を使用した。
【0028】
[骨髄細胞の全細胞数]
採取された骨髄細胞の細胞数を、セルカウンター(TC20TM 全自動セルカウンター、BIO RAD)でカウントした。計測方法は下記のとおりである。シャーレ状に流し出した骨髄細胞が含まれたDigestion Bufferから10μLを採取し、同量のトリパンブルー(Trypan Blue #1450021、BIO RAD)で染色を行い、直ちに前記セルカウンターを用いて10μL中の細胞数の計測を行った。ここから得られた情報を元に、骨髄細胞の全細胞数を算出した。
【0029】
[レプチン受容体陽性細胞数]
実施例及び比較例において、酵素処理後の骨髄細胞をフローサイトメーター(和研薬株式会社製「MACSQuant Analyzer 10」)を用いてレプチン受容体陽性細胞数を計測した。
【0030】
[組織再生用材料の移植]
野生型マウス(C57BJ/6)にX線照射装置(株式会社日立メディコ製「MBR-1520R」)を用いて総量10GyのX線照射を行い、27G注射器により0.5mL/匹で組織再生用材料を経尾静脈投与した。
【0031】
[IBM(不溶性骨基質)の移植]
後述する実施例1と比較例1の組織再生用材料をそれぞれ上記「組織再生用材料の移植」に記載の方法にしたがってマウスに移植し、骨髄生着期間として28日間設けた。その後、マウスの背部皮下にIBM(Insoluble Bone Matrix)を150mgとBMP-2(PEPRO TECH社製)を10μg移植し、強制的に背部皮下に異所性の骨組織を誘導させた。なお、IBMは、脱水したラットの大腿骨と脛骨を粉砕機により粉砕して0.5MのHClで脱灰したものを使用した。背部皮下への移植から28日後、マウスを屠殺し、背部皮下の異所性骨組織を摘出してホルマリン固定、EDTA脱灰後、通法にしたがって組織切片を作成した。
【0032】
[ヘマトキシリン(HE)染色]
得られた上記組織切片をキシレンにて脱パラフィンし、100%から70%エタノール(100%、90%、80%、70%の順)、及び精製水を用いて再水和後、HE染色を行った。70%から100%エタノール(70%、80%、90%、100%の順)、及びキシレンを用いて脱水・透徹を行った後、Entellan(Millipore Corporation製)にて封入し、システム生物顕微鏡(Olympus社製「BX53」)により組織学的観察を行った。
【0033】
[免疫組織化学的染色]
得られた上記組織切片の脱パラフィン後、室温(25℃)で30分間0.3%過酸化水素メタノール溶液にて内因性ペルオキシダーゼをブロックし、精製水で洗浄した。抗体として、GFP(abcam)、RUNX2(abcam)、Osteocalcine(abcam)のモノクローナル抗体を用い、システム生物顕微鏡(Olympus社製「BX53」)により観察を行った。陰性対照は二次抗体のみで行い、すべて陰性であった。
【0034】
[蛍光免疫二重染色]
GFP(abcam)、RUNX2(abcam)、Osteocalcine(abcam)のモノクローナル抗体を用いて、蛍光免疫二重染色を行った。各抗体の希釈はTBS(Tris Buffered Saline)で行った。二次抗体反応終了後、対比染色としてDAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindole)1μg/mlを3分間反応させた。洗浄後にFluorescence mounting medium(Dako社製)で封入し、オールインワン蛍光顕微鏡(Keyence社製「BZ700」)で観察した。
【0035】
実施例1
[Digestion Buffer]
Collagenase Type IV(ライフテクノロジーズ社製、17104-019)10mg、及びDispase(ライフテクノロジーズ社製、17105-041)10mgをHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLに溶解させて調製した。
【0036】
[組織再生用材料]
GFPトランスジェニックマウス(約18.9g)を安楽死させ、大腿骨と脛骨を採取した。大腿骨1本の重量は約0.052gであった。大腿骨の両端をブレードで切断し、シャーレに入れた。1mLシリンジ(21G針)を用いてDigestion Buffer4mLを骨の両側から流すことにより、骨髄組織をシャーレ上に流し出した。上述のとおりに骨髄細胞の全細胞数を算出したところ、1.0×10cellsであった。シャーレ上のDigestion Bufferを15mLのチューブ(A)に回収した。シャーレ上に残った骨髄組織を新たなDigestion Buffer2mLで洗い、チューブ(A)に回収した。37℃のウォータバスに10分間チューブ(A)を静置して酵素処理を行った。チューブ(A)を転倒混和し、氷上に2分間静置した。溶け残った骨髄組織を沈殿させて、上清を新たな15mLチューブ(B)に入れて氷上で保管した。新たなDigestion Buffer4mLをチューブ(A)に入れて、37℃のウォータバスに10分間チューブ(A)を静置して酵素処理を行った。チューブ(A)を転倒混和し、チューブ(A)とチューブ(B)を1500rpmで5分間遠心した。アスピレーターで上清を取り除き、Cell Lysis Buffer(NHCl(150mM)、NaHCO(10mM)、EDTA2Na(1mM))を1mLずつチューブ(A)とチューブ(B)を加え、ピペッティングにて懸濁後、チューブ(A)とチューブ(B)の中身をチューブ(A)の方にまとめた。1分後、2%FBS(Thermo Fisher Science社製、Fetal Bovine Serum)/PBSを5mL加えて懸濁後、1500rpmで5分間遠心した。アスピレーターで上清を取り除き、0.1M PBS/HBSSで希釈し、約1.0×10cells/0.2mLに調製して組織再生用材料を得た。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、6.0×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、115.4×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。また、マウスの背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、組織学的解析を行った結果を図4、5(右側)、6、7、8(右側)、9及び10にそれぞれ示す。
【0037】
比較例1
実施例1において、Digestion Bufferの代わりにHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLを使用した以外は実施例1と同様に組織再生用材料を調製した。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、0.3×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、5.8×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。また、マウスの背部皮下に異所性骨組織を誘導させて得られた組織切片について、組織学的解析を行った結果を図3、5(左側)及び8(左側)にそれぞれ示す。
【0038】
比較例2
実施例1において、Collagenase Type IV(ライフテクノロジーズ社製、17104-019)10mgのみをHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLに溶解させてDigestion Bufferを調製した以外は実施例1と同様に組織再生用材料を調製した。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、1.0×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、19.2×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0039】
比較例3
実施例1において、Dispase(ライフテクノロジーズ社製、17105-041)20mgのみをHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLに溶解させてDigestion Bufferを調製した以外は実施例1と同様に組織再生用材料を調製した。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、2.4×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、46.2×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0040】
比較例4
実施例1において、Collagenase Type IV(ライフテクノロジーズ社製、17104-019)1mg、及びDispase(ライフテクノロジーズ社製、17105-041)2mgをHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLに溶解させてDigestion Bufferを調製した以外は実施例1と同様に組織再生用材料を調製した。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、4.6×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、88.5×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0041】
比較例5
実施例1において、Collagenase Type IV(ライフテクノロジーズ社製、17104-019)2mg、及びDispase(ライフテクノロジーズ社製、17105-041)1mgをHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLに溶解させてDigestion Bufferを調製した以外は実施例1と同様に組織再生用材料を調製した。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、1.2×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、23.1×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0042】
比較例6
実施例1において、Collagenase Type IV(ライフテクノロジーズ社製、17104-019)10mg、及びDispase(ライフテクノロジーズ社製、17105-041)20mgをHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLに溶解させてDigestion Bufferを調製した以外は実施例1と同様に組織再生用材料を調製した。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、3.8×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、73.1×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0043】
比較例7
実施例1において、Collagenase Type IV(ライフテクノロジーズ社製、17104-019)20mg、及びDispase(ライフテクノロジーズ社製、17105-041)10mgをHBSS(Thermo Fisher Science社製、14175-095)10mLに溶解させてDigestion Bufferを調製した以外は実施例1と同様に組織再生用材料を調製した。大腿骨1本(約0.052g)あたりのレプチン受容体陽性細胞数は、3.6×10であった。すなわち、大腿骨1gあたりのレプチン受容体陽性細胞数は、69.2×10/gであった。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0044】
【表1】
【0045】
比較例1と実施例1とを対比した図3~5の結果から、比較例1では骨芽細胞、軟骨細胞、骨細胞のいずれもGFP陰性であることが確認され、実施例1では異所性骨と異所性軟骨においてGFP陽性の骨髄由来骨芽細胞、軟骨細胞及び骨細胞が確認されており、移植後の細胞の生着が良好であった。なお、比較例1と実施例1のいずれもGFP陽性の炎症細胞が確認された。また、図6の結果から、GFP陽性の骨髄由来細胞においてRUNX2の発現が確認され、図7の結果から、GFP陽性の骨髄由来細胞においてOsteocalcineの発現が確認され、実施例1のGFP陽性細胞は骨髄由来骨細胞と軟骨細胞であることが確認された。また、異所性骨周囲の間質を観察した図8の結果から、比較例1では間質細胞はGFP陰性であったが、実施例1では異所性骨周囲の間質細胞にGFP陽性細胞が多数存在していることが確認された。そして、図9及び10の結果から、間質に存在するGFP陽性の骨髄由来細胞においてRUNX2の発現が確認されており、異所性骨周囲の間質におけるGFP陽性細胞は、RUNX2陽性の骨髄由来の骨前駆細胞であることが確認された。以上のことから、レプチン受容体陽性細胞数が一定以上の骨髄由来間葉系幹細胞を含む組織再生用材料を移植することにより、移植後の細胞の生着が良好であり、骨髄由来の骨・軟骨形成を誘導させることが可能となることが分かる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10