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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061132
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】履物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
A43B23/02 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168925
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】302035485
【氏名又は名称】株式会社ワンダーフォー
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敏明
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050AA02
4F050AA11
4F050HA55
(57)【要約】
【課題】 幅方向に伸びる薄い滑り止め要素を設けるという簡単な構造で、高い滑り止め効果が得られる履物を提供する。
【解決手段】着用したときに、足の踵部が接触する踵部分3をアッパー2が有し、アッパー2の踵部分3内面に滑り止め要素9Aが設けられている。アッパー2の踵部分3内面には、トップライン2a付近から下方に向かって内面部材4が延びるように設けられている。トップライン2aより下側であって内面部材4の表面上に幅方向に長い滑り止め要素9Aが熱融着により設けられている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備える履物であって、
前記アッパーの踵部分を含む内面に、トップライン付近から下方に向かって延びるように構成される内面部材を備え、
前記内面部材上に、前記トップラインより下側であって、前記アッパーの踵部分の中央に、幅方向に長いシート状の滑り止め要素が前記トップラインに沿って熱融着により設けられていることを特徴とする、履物。
【請求項2】
着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備える履物であって、
前記アッパーの踵部分がベルト状に構成され、
前記アッパーの踵部分の内面で、該踵部分の中央に、幅方向に長いシート状の滑り止め要素が前記トップラインに沿って熱融着により設けられていることを特徴とする、履物。
【請求項3】
前記滑り止め要素は、透明又半透明である、
請求項1又は2に記載の履物。
【請求項4】
前記滑り止め要素は、シロキサン結合を有するシリコン樹脂からなる、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の履物。
【請求項5】
前記滑り止め要素は、厚みが0.1~1.0mmである、
請求項4記載の履物。
【請求項6】
前記滑り止め要素の高さは、左右両側部分より中央部分の方が高い、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の履物。
【請求項7】
前記滑り止め要素は、幅方向に長い略楕円形状である、
請求項6に記載の履物。
【請求項8】
前記滑り止め要素は、幅50mm~80mm、中央部分の高さ15mm~25mmの大きさである、
請求項7に記載の履物。
【請求項9】
前記滑り止め要素は、幅方向に長い略矩形状である、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の履物。
【請求項10】
前記滑り止め要素は、幅50mm~80mm、高さ5mm~10mmの大きさである、
請求項9に記載の履物。
【請求項11】
着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備え、該アッパーの踵部分を含む内面にトップライン付近から下方に向かって延びるように構成される内面部材を備える履物の製造方法であって、
前記内面部材または前記内面部材となるシート材に、履物の幅方向に伸びる滑り止め要素となるように樹脂を熱融着により設ける工程と、
シート材を打ち抜いて、所定の大きさの前記内面部材として切り出す工程と、
を備えることを特徴とする履物の製造方法。
【請求項12】
着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備え、該アッパーの踵部分がベルト状に構成される履物の製造方法であって、
ベルト状の踵部分または該踵部分となるシート材に、履物の幅方向に伸びる滑り止め要素となるように樹脂を熱融着により設ける工程と、
シート材を打ち抜いて、所定の大きさの前記ベルト状の踵部分として切り出す工程と、
を備えることを特徴とする履物の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂を熱溶着により設ける工程は、
樹脂を移動しながら射出する射出装置を用いて、該射出装置を移動させながら前記内面部材または前記ベルト状の踵部分または前記シート材上に、履物の幅方向に伸びる滑り止め要素となるように樹脂を射出して熱融着により設ける工程である、
請求項11又は12に記載の履物の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂を塗布する工程は、前記シート材上に該樹脂を間欠的に射出して、複数の前記滑り止め要素が一定間隔を開けて並ぶように熱融着により塗工する工程である、
請求項11乃至13のいずれか1項に記載の履物の製造方法。
【請求項15】
前記滑り止め要素を塗布する工程は、熱融着の温度が80℃前後である、
請求項11乃至14のいずれか1項に記載の履物の製造方法。
【請求項16】
前記滑り止め要素となる樹脂は、透明又は半透明である、
請求項11乃至15のいずれか1項に記載の履物の製造方法。
【請求項17】
前記滑り止め要素となる樹脂は、シロキサン結合を有するシリコン樹脂である、
請求項11乃至16のいずれか1項に記載の履物の製造方法。
【請求項18】
前記滑り止め要素の厚みが0.1~1.0mmとなるよう、前記シリコン樹脂を塗工する、
請求項17記載の履物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用したときに足の踵部が接触する踵部分を有する履物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から婦人靴や紳士靴の踵部内側には、すべりと呼ばれる天然皮革や合成皮革等のシート部材が使用されているが、踵部が滑って脱げることを、より確実に防止する手段が提案されている(特許文献1,2)。
【0003】
上記特許文献1,2には、靴の踵部分内側の左右の少なくとも一方において、靴の内側を構成する裏革に開口穴を開けて、横長のクッション材をこのクッション材より大きめのカバー部材で覆ったものを、この開口穴から突出させる手段が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、すべりの内側表面に0.1~2.0mmの高さの模様状のアクリル樹脂製の突起を設け、足の踵部の側面に違和感が生じることなく、デザイン性を高めた踵部の滑り止め付き靴が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-41590号公報
【特許文献2】特開2013-48852号公報
【特許文献3】実用新案登録第3198269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の手段は、クッション材が、靴の踵部内側1個所または2個所のみに、いわば局所的に設けられ、かつ、かなり厚い素材が使用されている。したがって、足の踵部の側面に、クッション材が局所的に当るため、違和感が生じる。
【0007】
また、クッション材及びカバー部材の製作、裏革等に開口穴を開ける作業、及びクッション材をカバー部材で覆って踵部分の内側面に縫合する作業等が必要になるため、製造コストが大幅に増大する。さらに、踵の内側面にクッション材が突出するため、靴のデザイン性が損なわれる。
【0008】
また、特許文献3記載のものは、模様状のアクリル樹脂製の突起を踵部分全体に設け、滑り止めを行っているので、構造が複雑である。また、模様の形状に応じて滑り止め効果が一定しないことや、すべり全面に突起があるため滑り止め効果が強すぎる場合があり、靴の脱ぎ履きが困難な場合がある。
【0009】
本発明は、履物の幅方向に長い薄い滑り止め要素を設けるという簡単な構造で、滑り止め効果の高い履物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様にかかる履物は、着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備える履物であって、前記アッパーの踵部分を含む内面に、トップライン付近から下方に向かって延びるように構成される内面部材を備え、前記内面部材上に、前記トップラインより下側であって、前記アッパーの踵部分の中央に、幅方向に長いシート状の滑り止め要素が前記トップラインに沿って熱融着により設けられていることを特徴とする。
【0011】
このようにすれば、滑り止め要素が、樹脂の熱融着により設けられているので非常に薄く構成されており、デザイン性が損なわれないながら、高い滑り止め効果が得られる。また、アッパーの踵部分において、内面部材がトップライン付近から下方に向かって延びるように設けられ、その内面部材にシート状の滑り止め要素がトップラインに沿って熱融着により設けられているので、着用時にアッパーの踵部分が足の踵部にフィットし、違和感がなく、歩行し易く、また、履いたり脱いだりするときに滑り止め要素が邪魔にならない。
【0012】
よって、幅方向に長いシート状の滑り止め要素をトップラインに沿って設けるという簡便な構造で、高い滑り止め効果が得られる。なお、内面部材はアッパーの内面を構成する裏皮と別体で構成してもよく、裏皮を内面部材とすることもできる。
【0013】
また、本発明の別の態様にかかる履物は、着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備える履物であって、前記アッパーの踵部分がベルト状に構成され、前記アッパーの踵部分の内面で、該踵部分の中央に、幅方向に長いシート状の滑り止め要素が前記トップラインに沿って熱融着により設けられていることを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、踵部分がベルト状に構成された履物、例えばサンダルなどにも薄くデザイン性が損なわれず、高い滑り止め効果を有する滑り止め要素を備える履物とでき、上記と同様の効果を得ることができる。
【0015】
また、これらの履物は、前記滑り止め要素が透明又は半透明であることが望ましい。このようにすれば、滑り止め要素が内面部材と一体化し、さらに滑り止め要素が目立たなくなり、より一層デザイン性を損なわない。
【0016】
また、前記滑り止め要素は、シロキサン結合を有するシリコン樹脂を用いることが望ましい。シリコン樹脂を用いることで、上記の構成の滑り止め要素で、非常に高い滑り止め効果を得ることが可能となる。また、滑り止め要素を構成する材料は多数の種類があるところ、本願の発明者らは複数の樹脂について試験を重ねた結果、シリコン樹脂を用いることで、上記の構成でありながら、非常に高い滑り止め効果を得られることを見出した。なお、アクリル樹脂では滑り止め効果が乏しく、また耐久性も低い。
【0017】
また、前記滑り止め要素は、厚みが0.1~1.0mmである。滑り止め要素にシロキサン結合を有するシリコン樹脂を用いることで、従来よりも薄い厚みの滑り止め要素を履き口付近のみに取り付けることで、十分な滑り止め効果を得ることができる。これにより、デザイン性の毀損も抑止することができる。なお、デザイン性や履き心地の観点からでは、0.1~0.5mmの厚みがより好ましい。
【0018】
また、前記滑り止め要素の高さは、左右両側部分より中央部分の方が高い構成である。このような形状とすることで、踵背面の中央部分の滑り止め効果を側面よりも高めることができる。また、前記滑り止め要素は、幅方向に長い略楕円形状であってもよい。その場合、前記滑り止め要素は、幅50mm~80mm、中央部分の高さ15mm~25mm程度の大きさとすることが望ましい。このようにすれば、十分な滑り止め効果を得ることができる。
【0019】
また、前記滑り止め要素は、幅方向に長い略矩形状の構成である。この構成であっても、十分に高い滑り止め効果を得ることができる。その場合、前記滑り止め要素は、幅50mm~80mm程度、高さ5mm~10mm程度の大きさとすることもできる。このようにすれば、十分な滑り止め効果を得ることができる。
【0020】
本発明の一の態様にかかる履物の製造方法は、着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備え、該アッパーの踵部分を含む内面にトップライン付近から下方に向かって延びるように構成される内面部材を備える履物の製造方法であって、前記内面部材または前記内面部材となるシート材に、履物の幅方向に伸びる滑り止め要素となるように樹脂を熱融着により設ける工程と、シート材を打ち抜いて、所定の大きさの前記内面部材として切り出す工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
このようにすれば、簡単な工程で、薄く滑り止め効果の高い滑り止め要素を備える履物を製造することができる。また、予め滑り止め要素を内面部材に熱融着しているので、履物を製造した後に滑り止め部材を取り付ける場合に比べて、滑り止め要素の取付けが簡単になり、製造工程を簡略化することができる。
【0022】
また、製造後に別途テープ状などの滑り止め部材を取り付けると、どうしても一定の厚さの滑り止め要素が必要となるところ、樹脂を射出して熱溶着により塗工することにより、滑り止め要素を薄く構成することができ、かつ、十分な滑り止め効果を得ることができる。またデザイン性を損なわない履物とできる。なお、樹脂を熱融着により設ける工程とシート材を打ち抜いて内面部材として切り出す工程は、いずれを先に行う工程とすることもできる。
【0023】
本発明の別の態様にかかる履物の製造方法は、着用したときに足の踵部が接触する踵部分を具備するアッパーとソールとを備え、該アッパーの踵部分がベルト状に構成される履物の製造方法であって、ベルト状の踵部分または該踵部分となるシート材に、履物の幅方向に伸びる滑り止め要素となるように樹脂を熱融着により設ける工程と、シート材を打ち抜いて、所定の大きさの前記ベルト状の踵部分として切り出す工程と、を備えることを特徴とする。
【0024】
このようにすれば、比較的簡単な工程で、薄く滑り止め効果の高い滑り止め要素を備えた踵部分がベルト状に構成された履物を製造することができる。なお、樹脂を熱融着により設ける工程とシート材を打ち抜いてベルト状の踵部分として切り出す工程は、いずれを先に行う工程とすることもできる。
【0025】
また、これらの履物の製造方法は、前記樹脂を熱溶着による設ける工程が、樹脂を移動しながら射出する射出装置を用いて、該射出装置を移動させながら前記内面部材または前記ベルト状の踵部分または前記シート材上に、履物の幅方向に伸びる滑り止め要素となるように樹脂を射出して熱融着により設ける工程であることが望ましい。
【0026】
このようにすれば、滑り止め要素の塗工がよりスムーズになり、履物の製造工程をより簡略化できる。また、多量の履物を製造する場合に非常に好適である。
【0027】
また、これらの履物の製造方法は、前記樹脂を塗布する工程は、前記シート材上に該樹脂を間欠的に射出して、複数の前記滑り止め要素が一定間隔を開けて並ぶように熱融着により塗工する工程であることが望ましい。
【0028】
このようにすれば、打ち抜き後に内面部材やベルト状の踵部分となるシート材に、滑り止め要素を間隔をあけて塗工し、その後にシート材を打ち抜いて内面部材やベルト状の踵部分を作成するため、複数の履物を製造する際、製造工程をさらに簡略化することができる。
【0029】
また、前記滑り止め要素を塗布する工程は、熱融着の温度が80℃前後が好適である。また、これらの履物の製造方法は、前記滑り止め要素となる樹脂は、透明又は半透明であることが望ましい。
【0030】
また、前記滑り止め要素となる樹脂は、シロキサン結合を有するシリコン樹脂であることが望ましい。そして、シロキサン結合を有するシリコン樹脂を用いることで、前記滑り止め要素の厚みが0.1~1.0mmとなるよう前記シリコン樹脂を塗工することで、薄い厚みながら十分な滑り止め効果を得ることができる。なお、デザイン性や履き心地の観点からでは、0.1~0.5mmの厚みがより好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる履物は、デザイン性を損なわず、滑り止め効果の高い履物とできる。また、本発明にかかる履物の製造方法は、デザイン性を損なわず、滑り止め効果の高い履物を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明にかかる履物の実施の形態1を示し、図1(a)は靴全体を示す斜視図、図1(b)は前記靴の踵部分内側を前側から見た斜視図、図1(c)は滑り止め要素の正面図である。
図2】本発明にかかる履物の実施の形態2を示し、図2(a)は靴全体を示す斜視図、図2(b)は前記靴の踵部分内側を前側から見た斜視図、図2(c)は滑り止め要素の正面図である。
図3図3(a)~(c)は実施の形態2について試験結果の説明図である。
図4】滑り止め要素の別の例を示す斜視図である。
図5図5(a)~(c)はそれぞれ本発明が適用される靴の一例を示す図である。
図6】本発明にかかる履物の製造方法における樹脂の塗工工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態にかかる履物を図面に基づき説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0034】
<実施の形態1>
【0035】
図1は本発明に係る履物の実施の形態1の靴を示し、図1(a)は靴全体を示す斜視図、図1(b)は前記靴の踵部分内側を前側から見た斜視図、図1(c)は滑り止め要素の正面図である。
【0036】
図1(a)(b)(c)に示すように、本実施の形態1の婦人靴1は、アッパー2の踵部分3の中央に内面部材4が設けられ、その左右両側部分が前方に向けて延びている。つまり、内面部材4は、アッパー2の踵部分3の中央に設けられている。
【0037】
アッパー2は、踵部分3を除き、トップライン2a(履き口)において表皮5と裏皮6との上縁部が互いに内部に折り込まれる状態で結合されている。踵部分3においては、裏皮6に代えて、内面部材4が設けられ、上縁部が内部に折り込まれる状態で結合されている。なお、裏皮6の左右部分は、内面部材4が設けられている部分では、トップライン2aの位置で、裏皮6の一部である紐状部分にて相互に結合されている。
【0038】
つまり、踵部分3においては、内面部材4が、裏皮6に代えて、表皮5に結合され、裏皮としての機能を果たしている。よって、踵部分3では、内面部材4がトップライン2a付近から下方に向かって延びるように設けられ、内面部材4の左右の前縁部は、二列のステッチ7によって縫製により、裏皮6に結合されている。内面部材4の下縁部分は、裏皮6と同様に、中敷き8の下側に折り込まれている。
【0039】
なお、本実施形態においては、内面部材4と裏皮6が別体で構成されているが、裏皮6全体を内面部材として構成することもできる。その場合、裏皮6が内面部材となり、図1におけるステッチ7や内面部材4と裏皮6との境界がない構成となる。
【0040】
内面部材4上には、幅方向に長い略楕円形状の、一定厚さ(0.1~0.5mm程度)の滑り止め要素9Aがトップライン2aに沿って熱融着により接着されている。滑り止め要素9Aは、シロキサン結合を有するケイ素99%のシリコン樹脂で、幅W1が80mm程度、中央部分の高さH1が20mm程度である。つまり、滑り止め要素9Aの高さは、左右両側部分より中央部分の方が高くなっており、左右側端部に向かって徐々に高さが低くなっている。
【0041】
滑り止め要素9Aは、内面部材4上に熱融着により一体に接着されているので、内面部材4を取り付けることで、滑り止め要素9Aが所定の位置に取り付けられる。すなわち、内面部材4の中央部分が踵部分3の略中央に位置するように、踵部分3の中央に対して左右対称になるように設けられるので、滑り止め要素9Aも踵部分3の中央に対して左右対称になるように設けられる。
【0042】
なお、滑り止め要素9Aは有色でもよいが、半透明又は透明にすれば、婦人靴1とされた状態で、滑り止め要素9Aが目立たないようにすることができる。よって、半透明又は透明にすれば、滑り止め要素9Aを異物と認識させることがなく、見栄えを損なうことがない。
【0043】
婦人靴1を履く場合においては、内面部材4が設けられ、滑り止め要素9Aが薄い樹脂で形成され、踵部のトップライン下方に横長に配されているのみであるため、アッパー2の踵部分の内面側に滑り止め要素9Aがあっても、スムーズに婦人靴1を履くことができる。また、足の踵部が、滑り止め要素9Aを挟んで踵部分3にフィットするので、アッパー2の踵部分3の内面側に部分的に設けた滑り止め要素9Aで大きな滑り止め効果が得られる。
【0044】
そして、婦人靴1を履いた状態では、滑り止め要素9Aが足の踵部に常時接触するため、歩行中に、足の踵部の上下動を規制し、脱げにくくする。よって、婦人靴1を履いている状態では、足の踵部が滑り止め要素9Aに常時接触し、踵部分3が足の踵部にフィットして一体感が生じ、違和感を少なくして、歩行することができる。
【0045】
また、婦人靴1を脱ぐ場合には、履き口付近に横長の薄い滑り止め要素9Aが接触しているだけであるので、スムーズに婦人靴1を脱ぐことができる。なお、滑り止め要素9Aを内面部材全体に設けてしまうと、婦人靴1を脱ぎ履きする際に靴下の引っかかりが強く、靴下を残してしまうなどスムーズな脱ぎ履きができない。
【0046】
また、アッパー2の内側に薄い滑り止め要素9Aが設けられているだけであるので、婦人靴1のアッパー2の外側面が膨らんだりすることはなく、通常の婦人靴と変わりない外観が得られる。また、滑り止め要素9Aにシロキサン結合を有するシリコン樹脂からなるため、履き口付近に横長の薄い滑り止め要素であっても、十分な滑り止め効果を得ることができる。また、履き口付近に横長の薄い滑り止め要素であるためデザイン性を損なわず、また耐久性も高いものとなる。
【0047】
次に、婦人靴1の製造方法について説明する。
まず、内面部材4となる大判のシート材10に、シロキサン結合を有するシリコン樹脂を移動しながら射出する射出装置100を用いて、一定の大きさを有する滑り止め要素9Aを一定間隔を開けて熱融着により塗工する(図6(a)参照)。製造時において、滑り止め要素9Aを大判シート材(内面部材4)に接着する熱融着温度は、80℃前後である。なお、樹脂の塗工にかえて、予め切断した薄い樹脂シートなどをシート材に配置し、これをプレスなどにより熱融着して滑り止め要素を設けることも考えられる。
【0048】
それから、滑り止め要素9Aの周囲を打ち抜いて、大判シート材から取り出し、所定の形状の内面部材4とする。なお、この工程と上記の工程は、順序を逆とし、大判シート材から内面部材4を打ち抜いて取り出し、その後に、内面部材4に滑り止め要素を熱融着によって塗工することもできる。
【0049】
そして、滑り止め要素9Aが熱融着された内面部材4の左右前縁を、アッパー2の踵部分3の内面となる部分に縫製により取り付ける。これにより、滑り止め要素9Aが熱融着された内面部材4は裏皮6の一部となる。
【0050】
この内面部材4を含む裏皮6と、別途形成された表皮5とを、表面となる側を接触させて重ね合わせて結合する。この結合後に裏返すことで、上縁部が結合されたアッパー2となる。
【0051】
このようにして、裏皮6の踵部分に、内面部材4が位置するアッパー2が製造される。内面部材4は、アッパー2の内側(裏皮6)に予め左右対称に縫い付けられているので、内面部材4は、裏皮6の一部としてアッパー2と一体となっている。
【0052】
それから、周知の靴型にアッパー2を被せて、アッパー2の形を整え、アッパー2の下部に靴底を接合し、婦人靴1とされる。
【0053】
このように製造すれば、アッパー2を構成する裏皮6の踵部分に内面部材4が縫い付けられ、その内面部材4に滑り止め要素9Aが接着されているので、アッパー2を取り付けるだけで、内面部材4や滑り止め要素9Aも一緒にアッパー2に取り付けられることになる。よって、製造工程を簡略化することができる。
【0054】
<実施の形態2>
図2は本発明に係る靴の実施の形態2を示し、図2(a)は靴全体を示す斜視図、図2(b)は前記靴の踵部分内側を前側から見た斜視図、図2(c)は滑り止め要素の正面図である。
【0055】
図2(a)(b)(c)に示すように、本発明に係る靴の実施の形態2である婦人靴11は、実施の形態1の婦人靴1と同様に、アッパー2の踵部分3に、不織布などからなる内面部材4が踵中央部分から前方に向けて延びるように、左右対称に設けられている。
【0056】
そして、内面部材4上に熱融着により設けられている滑り止め要素9B(シリコン樹脂)が、幅方向に長い略矩形状である点で実施の形態1と異なっている(図6(b)参照)。滑り止め要素9Bは、幅W2が60mm程度、高さH2が10mm程度である。
【0057】
なお、この婦人靴11を製造する場合、上記した婦人靴1の製造工程と同様であるが、滑り止め要素となる形状が細長い矩形状となるように樹脂を塗布する。また、これと異なる履物、例えば図5(b)のサンダルに滑り止め要素を適用する場合は、上記と同様に大判シート材に樹脂を塗布した後に、打ち抜く際に、内面部材4を細長いベルト状に打ち抜いて、サンダルのストラップの内面にこれを貼り付けることとする。
【0058】
(試験内容及び試験結果)
次に、この婦人靴11を用いて、滑り止め効果等を確かめるため試験を行った。この婦人靴11を履いて歩行したところ、P1,P2,P3(図3(a)(b)(c)参照)の3箇所において、着用者の足の踵部からの力(接触圧)が靴側に作用していることが判明した。特に、両側のP1,P3の2箇所に力が最も作用しており、これらの部分で滑り止め要素9Bと足の踵部とがピタッと接触して踵がずれないようになっている。
【0059】
力が作用するP1~P3の3箇所に対応してシート状の滑り止め要素9Bを部分的に設けているだけであるので、従来技術(特許文献3)のように全面に滑り止め(突起)が施している場合と比べて、滑り止め要素9Bを細く小さくすることができ、見栄えを損ねることがない。
【0060】
また、P1~P3の3箇所のうち足の踵部と婦人靴11との接触が最も弱いのはP2の箇所であった。婦人靴11の場合は、P2の箇所の接触が弱いことから、接触性を高めるために、一定高さの矩形状の滑り止め要素9Bよりも、P2の箇所で高さが高くなる楕円形状の滑り止め要素9Aの方が、形状面からはより適していると考えられる。
【0061】
(その他)
本発明は、前述した実施の形態のほか、次に例示するように、適宜変更して実施することも可能である。
【0062】
(i)滑り止め要素9A,9Bは幅方向に長い略楕円形状や略矩形状としているが、本発明はそれに限定されない。滑り止め要素は、前述したようにP2の箇所で高さを高くすることが望ましいことから、例えば図4に示すように、中央部分において上方に突出する山形状の滑り止め要素9Cとすることもできる。
【0063】
(ii)内面部材4の左右前縁部は縫製より裏皮6に取り付けているが、接着剤、両面テープ等の他の手段で取り付けるようにしてもよい。
【0064】
(iii)滑り止め要素9A~9Cには、材料として、シリコン樹脂が好適であるが、滑り止め効果が十分であれば、エラストマー、弾性ゴムや他の合成樹脂材を用いることも考えられる。
【0065】
(iv)本発明が適用される履物には、着用したときに、足の踵部が接触する踵部分をアッパーが有する靴であればよく、靴の種類に特に制限がなく、前述したような婦人靴21(図5(a)参照)のほか、婦人サンダル22(図5(b)参照)、紳士靴23(図5(c)参照)等にも適用することができる。なお、図5(a)~(c)において、9は滑り止め要素である。
【符号の説明】
【0066】
1 婦人靴
2 アッパー
2a トップライン
3 踵部
4 内面部材
5 表皮
6 裏皮
7 ステッチ
9,9A,9B,9C 滑り止め要素
10 シート材
21 婦人靴
22 婦人サンダル
23 紳士靴
100 射出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6