(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061164
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 21/15 20060101AFI20220411BHJP
B60R 19/34 20060101ALI20220411BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
B62D21/15 B
B60R19/34
F16F7/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020168982
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】玉井 良清
【テーマコード(参考)】
3D203
3J066
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB16
3D203BB43
3D203CA23
3D203CA26
3D203CA29
3D203CA36
3D203CA43
3D203CA45
3D203CA73
3D203CA86
3D203CB04
3D203CB39
3D203DA22
3J066AA01
3J066AA23
3J066AA29
3J066BA04
3J066BC10
3J066BF02
3J066BF07
(57)【要約】
【課題】衝突荷重が入力して軸圧壊する際に、衝突エネルギーの吸収効果が向上し、かつ、生産コストが大きく上昇することのない自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1を有する車体の製造方法は、自動車用衝突エネルギー吸収部品1を製造する部品製造工程S1と、自動車用衝突エネルギー吸収部品1を取り付けて車体を組み立てる車体組立工程S3とを備え、部品製造工程S1は、ハット断面部材を用いて形成された筒状部材3と、筒状部材3におけるコーナー部7cを含む部分の外面に0.2mm以上3mm以下の隙間11を空けて配設される筒状部材3より強度の低い材質からなる塗膜形成部材5とを有する塗装前部品2を製造する塗装前部品製造工程S1-1と、隙間11に電着塗装によって塗膜13を形成する塗膜形成工程S1-2とを備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法であって、
前記自動車用衝突エネルギー吸収部品を製造する部品製造工程と、該部品製造工程で製造された前記自動車用衝突エネルギー吸収部品を車体の前部又は後部に取り付けて車体を組み立てる車体組立工程とを備え、
前記部品製造工程は、
天板部と縦壁部を有するハット断面部材を用いて形成された筒状部材と、該筒状部材より強度の低い材質からなり、前記筒状部材における前記天板部と前記縦壁部を連結するコーナー部を含む部分の外面に0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設されて塗膜を形成するための塗膜形成部材と、を有する塗装前部品を製造する塗装前部品製造工程と、
該塗装前部品における少なくとも前記隙間に、電着工程で電着塗装による塗料層を形成し、これに続く塗料焼付処理で前記塗料層を熱硬化させて塗膜を形成する塗膜形成工程と、を備えたことを特徴とする自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法に関し、特に、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊する衝突エネルギー吸収効果の高い自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突エネルギー吸収性能を向上させる技術として、自動車部品の形状・構造・材料等の最適化など多くの技術が存在する。さらに、近年では、閉断面構造を有する自動車部品の内部断面全体に樹脂(発泡樹脂など)を発泡させて充填することで、該自動車部品の衝突エネルギー吸収性能の向上と軽量化を両立させる技術が数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サイドシル、フロアメンバー、ピラー等のハット断面部品の天板方向を揃えフランジを重ねて内部に閉鎖空間を形成した構造の自動車用構造部材において、その内部断面全体に発泡充填材を充填することにより、重量増を抑制しつつ該自動車用構造部材の曲げ強度、ねじり剛性を向上させ、車体の剛性及び衝突安全性を向上させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ハット断面部品を対向させてフランジ部を合わせたピラー等の閉断面構造の内部空間全体に高剛性発泡体を充填するに際し、該高剛性発泡体の充填および発泡による圧縮反力により高剛性発泡体を固定し、振動音の伝達を抑制する防振性の向上を図るとともに、強度、剛性、衝突エネルギー吸収性能を向上させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献3は、複数の繊維層を積層したCFRP製の補強材を熱硬化性接着剤で金属部材の表面に接着したものであり、接着後に金属部材と補強材の線膨張係数差によって熱硬化性接着剤に生じる残留剪断応力を緩和させるために、補強材の本体部から端縁に向けて徐々に厚さが減少する残留剪断応力緩和部からなる構造を有した金属-CFRP複合材が開示されている。
【0006】
さらに特許文献4には、軸方向からの入力荷重により入力端側から逐次圧壊を起こす筒状断面のFRP製エネルギー吸収部と、これに連なりFRPで形成されて車体部品と接合される支持部と、からなるフロントサイドメンバーを備え、前記エネルギー吸収部はフロントサイドメンバーの長手方向とそれに直角な方向とに等分に強化繊維が配向され、前記支持部は等方性を持って強化繊維が配向された一体成形が可能な自動車部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-240134号公報
【特許文献2】特開2000-318075号公報
【特許文献3】特開2017-61068号公報
【特許文献4】特開2005-271875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に開示されている技術によれば、自動車部品の内部に発泡充填材又は発泡体を充填することにより、該自動車部品の曲げ変形に対する強度や衝突エネルギー吸収性能、さらには捻り変形に対する剛性を向上することができ、当該自動車部品の変形を抑制することが可能であるとされている。
【0009】
しかしながら、フロントサイドメンバーやクラッシュボックスのように、自動車の前方又は後方から衝突荷重が入力して軸圧壊する際に、蛇腹状に部品長手方向に座屈変形して衝突エネルギーを吸収する自動車部品に対しては、該自動車部品の内部に発泡充填材や発泡体を単に充填する技術を適用したとしても、衝突エネルギーの吸収性能を向上させることが困難であるという課題があった。
また、発砲樹脂を隙間なく充填するという追加工程が発生し、自動車部品製造における生産コストが上昇するという問題もあった。
【0010】
また、特許文献3、特許文献4に開示されている技術によれば、金属表面にCFRPを接着することで、曲げ耐力を向上することが可能であったり、CFRPそのものの配向性を考慮して部品を一体製造することで、部品組立工数の低減や締結部品の削減による重量増加の削減が可能であったりするとされている。
【0011】
しかしながら、CFRPを変形が伴う軸圧壊部品へ適用しても、CFRPは強度が高い反面、延性が著しく低いため、蛇腹状の変形を開始した途端にCFRPの折れ・破断が発生し、衝突エネルギー吸収性能は向上しない課題があった。また、CFRPはコストが著しく高い課題もあった。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、フロントサイドメンバーやクラッシュボックスのような車体の前方又は後方から衝突荷重が入力して軸圧壊する際に、衝突エネルギーの吸収効果が向上し、かつ、追加の生産工程を少なくでき生産コストが大きく上昇することのない自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、上記課題を解決する方法を鋭意検討し、自動車部品製造の塗装工程で一般的に用いられている電着塗料を活用することによって、発泡樹脂等の充填材を部品断面全体に隙間なく充填するという追加工程を必要とせずに衝突エネルギーの吸収効果を向上させることができるという知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0014】
本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法は、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法であって、前記自動車用衝突エネルギー吸収部品を製造する部品製造工程と、該部品製造工程で製造された前記自動車用衝突エネルギー吸収部品を車体の前部又は後部に取り付けて車体を組み立てる車体組立工程とを備え、前記部品製造工程は、天板部と縦壁部を有するハット断面部材を用いて形成された筒状部材と、該筒状部材より強度の低い材質からなり、前記筒状部材における前記天板部と前記縦壁部を連結するコーナー部を含む部分の外面に0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設されて塗膜を形成するための塗膜形成部材と、を有する塗装前部品を製造する塗装前部品製造工程と、該塗装前部品における少なくとも前記隙間に、電着工程で電着塗装による塗料層を形成し、これに続く塗料焼付処理で前記塗料層を熱硬化させて塗膜を形成する塗膜形成工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する筒状部材が圧縮変形する過程において、該筒状部材の座屈耐力を向上させるとともに、該筒状部材の変形抵抗を低下させることなく蛇腹状に座屈変形を発生させることができる自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体を製造できる。
また、本発明における自動車用衝突エネルギー吸収部品は塗膜形成部材を有するので、自動車部品の製造の塗装工程に一般的に行われている電着塗装を活用して目標とする厚みの塗膜が形成でき、生産コストを大きく上昇させることなく車体の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法を説明するフロー図である。
【
図2】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を示す斜視図である。
【
図3】鋼板の引張強度TSと、鋼板の破断限界曲げ半径と板厚との比、との関係を示すグラフである。
【
図4】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品に塗膜が形成される前の状態を示す斜視図である。
【
図5】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法の説明図である。
【
図6】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その1)。
【
図7】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その2)。
【
図8】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その3)。
【
図9】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その4)。
【
図10】本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その5)。
【
図11】実施例における軸圧壊試験方法を説明する図である。
【
図12】実施例における打撃振動試験方法を説明する図である。
【
図13】実施例における打撃振動試験方法による振動特性評価において固有振動数算出の対象とした振動モードを示す図である。
【
図14】実施例において発明例として用いた試験体の構造を示す図である。
【
図15】実施例において比較例として用いた試験体の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を有する車体の製造方法は、
図1に示すように、自動車用衝突エネルギー吸収部品を製造する部品製造工程S1と、自動車用衝突エネルギー吸収部品を取り付けて車体を組み立てる車体組立工程S3とを備えるものである。
部品製造工程S1で製造される自動車用衝突エネルギー吸収部品は従来にない新規の部品であるため、製造方法の説明に先立って、まず、この自動車用衝突エネルギー吸収部品について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
<自動車用衝突エネルギー吸収部品>
自動車用衝突エネルギー吸収部品1(
図2参照)は、車体の前部又は後部に設けられ、該車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収するものである。
図2に示すように、ハット断面部材を用いて形成された筒状部材3の外面側に塗膜形成部材5を設けており、ハット断面部材と塗膜形成部材5の間の隙間に電着塗料による塗膜13が形成されている。以下、各部材について説明する。
【0019】
≪筒状部材≫
筒状部材3は鋼板等の金属板からなり、天板部7a、縦壁部7b及び天板部7aと縦壁部7bをつなぐコーナー部7cを有するハット断面形状のアウタ部品7(本発明におけるハット断面部材)と、平板状のインナ部品9が、アウタ部品7のフランジ部である接合部10で接合されて筒状に形成されたものである。
このような筒状部材3を有する自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、自動車用衝突エネルギー吸収部品1の軸方向先端に衝突荷重を入力し、筒状部材3が座屈耐力を超えて軸圧壊する過程において、筒状部材3に蛇腹状に座屈変形を繰り返し発生させることで衝突エネルギーを吸収するものである。
【0020】
≪塗膜形成部材≫
塗膜形成部材5は鋼板等の金属板からなり、アウタ部品7の外面側であって、コーナー部7cを含む部分に0.2mm以上3mm以下の隙間11(
図4参照)が形成されるように配置され、接合部12でスポット溶接等により縦壁部7bに接合されている。
塗膜形成部材5は、アウタ部品7の軸方向の全長に亘って設けてもよいが、自動車用衝突エネルギー吸収部品1における蛇腹変形をさせたい範囲にのみ設けるようにしてもよい。
例えば自動車用衝突エネルギー吸収部品1を車体の前部に設置し、前端から軸方向中程までの範囲を蛇腹変形させたい場合には、アウタ部品7のこの範囲に塗膜形成部材5を設ければよい。そして、アウタ部品7における塗膜形成部材5を設けていない部分、例えば軸方向の中程から後端までの範囲は、変形強度を高めるために例えば板厚を厚くしたり軸方向に延びるビード形状を形成したりするようにすればよい。
【0021】
この隙間11には、自動車部品製造の一般的な塗装工程のひとつである電着塗装の際に、電着塗料による塗膜13が形成される(
図2)。電着塗料の種類としては例えば、ポリウレタン系カチオン電着塗料、エポキシ系カチオン電着塗料、ウレタンカチオン電着塗料、アクリル系アニオン電着塗料、フッ素樹脂電着塗料などが挙げられる。電着塗装については後述の部品製造工程S1にて具体的に説明する。
このような塗膜13を形成することで自動車用衝突エネルギー吸収部品1の衝突エネルギー吸収効果が向上する理由について以下に説明する。
【0022】
鋼板等の金属板で形成された筒状部材を有する自動車用衝突エネルギー吸収部品は、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の軸方向先端に衝突荷重が入力し、該筒状部材が座屈耐力を越えて軸圧壊する過程において、該筒状部材は蛇腹状に座屈変形を繰り返し発生させることで衝突エネルギーを吸収する。
【0023】
しかしながら、蛇腹状の曲がり部分は金属板固有の小さな曲げ半径となるため、曲がり部分の外面側に応力が集中して割れが発生しやすく、軸圧壊する過程で曲がり部分に割れが発生してしまうと、衝突エネルギーの吸収効果が著しく低減してしまうものであった。したがって、衝突エネルギーの吸収効果を向上するには、蛇腹形状に座屈変形する筒状部材に発生する割れを防止する必要があった。
【0024】
特に、近年、衝突特性と軽量化の両立を目的として自動車部品に採用されている高強度鋼板は、従来の強度の鋼板に比較して延性が小さいものである。表1及び
図3に示す鋼板引張強度TSと、鋼板の破断限界曲げ半径R(これ以上曲げて半径を小さくすると鋼板が破断する曲げ半径)と板厚tの比(R/t)との関係(下記の参考文献1参照)は、同じ板厚の場合、鋼板の引張強度TSが大きいほど大きな曲げ半径であっても破断が発生しやすいことを示している。
つまり、高強度鋼板を用いた自動車用衝突エネルギー吸収部品が蛇腹状に座屈変形すると、鋼板強度の増加に伴って蛇腹形状の曲がり先端に割れが発生しやすくなるということであり、これは、自動車車体の軽量化のために鋼板のさらなる高強度化を進展させることを阻害する要因ともなっていた。
(参考文献1)長谷川浩平、金子真次郎、瀬戸一洋、「キャビン周りの車体部品の軽量化に貢献する高強度冷間圧延・合金化溶融亜鉛めっき(GA)鋼板」、JFE技報、No.30(2012年8月)、p.6-12.
【0025】
【0026】
これに対し、本実施の形態の自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、衝突時に筒状部材3が蛇腹形状に座屈変形する際の曲げ部において金属板と金属板との間に物を介在させ挟んで圧縮することで、曲げ部の曲げ半径を大きくし、曲がり先端の割れを防止するものである。
ここで、金属板と金属板との間に介在する物としては、部品の重量増を避けるために可能な限り軽量なものが好ましく、さらに、従来例の発泡樹脂等のように部品製造においてコストの掛る材料や工程の追加を要するものではなく、従来の自動車部品製造ラインのまま製造できるものが好ましい。そこで本発明は、自動車部品製造で一般的に行われている電着塗装の塗料を活用することとした。
【0027】
また、筒状部材3において衝突エネルギーを吸収する能力が高い部位は、天板部7aと縦壁部7bをつなぐコーナー部7cであるが、コーナー部7cはアウタ部品7をプレス成形する際に、最も加工を受けやすく加工硬化する部位でもあり、加工硬化によって延性がさらに低下している。よってコーナー部7cにおける蛇腹形状の曲がり部分が特に割れが発生しやすい部位である。
【0028】
そこで、本実施の形態の自動車用衝突エネルギー吸収部品1では、アウタ部品7のコーナー部7cを含む外面側に、該外面との間に0.2mmから3mmの隙間11(
図4参照)が生じるように塗膜形成部材5を設けることで、電着塗装時に隙間11に電着塗料が入り込んで所定の厚みを有する塗料層を形成できるようにした。塗料層は電着塗装の焼付工程で硬化して隙間11に定着して塗膜13(
図2参照)となる。
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、衝突時に筒状部材3が座屈変形した際、蛇腹形状の曲げ部の外側に塗膜13が介在することで曲げ半径を大きくして割れの発生を抑制することができるので、衝突エネルギー吸収効果が向上する。
なお、塗膜13の適切な厚みが0.2mmから3mmであることについては、後述する実施例で説明する。
【0029】
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1における塗膜13は、振動を吸収する制振材としても機能する。
例えば、軸圧壊させて衝突エネルギーを吸収する部品であるフロントサイドメンバーとして自動車用衝突エネルギー吸収部品1を用いる場合においては、該フロントサイドメンバーに搭載される自動車エンジンの振動を塗膜13が吸収し、制振性が向上する。この制振性向上の効果についても後述する実施例にて説明する。
【0030】
上述したように、塗膜形成部材5は、電着塗装時に所定厚みの塗膜13を形成させることを目的とし強度を要求されないため、アウタ部品7及びインナ部品9に比べて強度が低く、板厚が薄いものがよい。さらに言えば、強度が高すぎると円滑な蛇腹変形を阻害することになるため、例えば440MPa級以下の鋼板等が好ましい。
次に、上記自動車用衝突エネルギー吸収部品1を有する車体の製造方法の各工程(
図1参照)について以下に説明する。
【0031】
<部品製造工程>
部品製造工程S1は、自動車用衝突エネルギー吸収部品1(
図2参照)を製造するものであり、筒状部材3に塗膜形成部材5を設けた塗装前部品2(
図4参照)を製造する塗装前部品製造工程S1-1と、塗装前部品2に塗膜13を形成する塗膜形成工程S1-2を備えている。各工程について
図1、
図4及び
図5を用いて説明する。
図5(a)は塗装前部品製造工程S1-1で製造される塗装前部品2の断面図であり、
図5(b)は塗膜形成工程S1-2で塗装前部品2に塗膜13が形成された部品(自動車用衝突エネルギー吸収部品1)の断面図である。
【0032】
≪塗装前部品製造工程≫
塗装前部品製造工程S1-1は、アウタ部品7及びインナ部品9が接合部10で接合されてなる筒状部材3の外面側に塗膜形成部材5を設けた塗装前部品2(
図4参照)を製造する工程である。
図5(a)に示すように、アウタ部品7のコーナー部7cを含む範囲の外側に、アウタ部品7の外面との間に0.2mm~3mmの隙間11を空けて塗膜形成部材5を設置し、縦壁部7bの外面にスポット溶接等により接合する(接合部12)。
アウタ部品7とインナ部品9の接合及びアウタ部品7と塗膜形成部材5の接合は、どちらを先に行ってもよい。
【0033】
≪塗膜形成工程≫
塗膜形成工程S1-2は、塗装前部品製造工程S1-1で製造された塗装前部品2の隙間11に塗膜13を形成させる工程である。塗装前部品2に、自動車部品の製造過程で一般的に行われている電着塗装が施されることで、隙間11に塗膜13が形成される。
以下に、電着塗装について概説しながら本工程について説明する。
【0034】
一般的に自動車の部品には、防錆性等を高めるために、鋼板に対して電着塗装が施される。
電着塗装の際には、電着によって鋼板に塗料層を形成させる処理と乾燥炉(オーブン)等によって塗料層を硬化させる処理が施される。以下に電着塗装の一例を説明し、本実施の形態の塗膜形成工程S1-2との対応を示す。
【0035】
一般的な電着塗装ではまず、車体部品に対し、前処理として脱脂、水洗や化成処理などの表面処理が行われ、表面処理が行われた車体部品はその後、電着塗料が入った電着槽に浸漬させて、被塗物(車体部品)を陰極、電着塗料を陽極にして通電することで、鋼板表面に電着塗料による塗料層が形成される(カチオン電着塗装)。
電着槽内における通電によって表面に電着塗料の塗料層が形成された車体部品は、その後の水洗などの処理を経て高温の乾燥炉(オーブン)に運ばれ、焼付処理によって塗料層を硬化させる。
【0036】
本実施の形態における塗装前部品製造工程S1-1で製造された塗装前部品2(
図5(a)参照)も、上述した電着槽に浸漬されると、電着塗料が隙間11に入り込み、その後の通電によって塗料層が形成される。本実施の形態における自動車用衝突エネルギー吸収部品1に用いられる電着塗料は、主に内板(内装)用に使用される軟質の電着塗料を想定している。
【0037】
塗装前部品2は、塗料層が形成された後に焼付処理を経て塗料層が硬化し、隙間11に所定厚みの塗膜13が定着する(
図5(b)参照)。通常の電着塗装では、鋼板の表面に0.05mm程度の塗膜が形成されるが、本実施の形態においては塗装前部品2におけるアウタ部品7の外面側に塗膜形成部材5を設けたことにより、
図2及び
図5(b)に示すような0.2mm以上3mm以下の厚みをもった塗膜13を形成させることができる。
以上のように、塗装前部品2に塗膜13を形成することで、自動車用衝突エネルギー吸収部品1が製造される。
【0038】
なお、塗膜13は隙間11内の全領域に亘って中実状態で形成されるのが好ましいが、隙間11の一部に空隙が存在した状態で塗膜13が形成される場合も考えられ、このような場合であっても塗膜13のない場合に比較して本発明の効果を奏することができるので、隙間11の一部に空隙が存在する場合を排除するものではない。
【0039】
<車体組立工程>
車体組立工程S3は、部品製造工程S1で製造された自動車用衝突エネルギー吸収部品1を車体の前部又は後部に取り付けて車体を組み立てるものである。
【0040】
自動車用衝突エネルギー吸収部品1が取り付けられた車体には、前述した電着塗装の他、耐候性や意匠性等を高めるために、中塗り塗装、上塗りベース塗装、上塗りクリア塗装が施される。これらは主に静電塗装と呼ばれる帯電した塗料をスプレー等で被塗物に噴射する方法で行われており、中塗り塗装は電着塗装面の粗度隠蔽や光線透過抑制、上塗りベース塗装及び上塗りクリア塗装は着彩等の意匠性や耐久性などの機能を有するものである。
中塗り塗装、上塗りベース塗装及び上塗りクリア塗装に使用される塗料の例としてはポリエステル-メラミン系塗料、アクリルーメラミン系塗料、アクリルーポリエステルーメラミン系塗料、アルキド・ポリエステルメラミン系塗料などが挙げられる。
また、自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、車体にスポット溶接、レーザ溶接等により接合して組み付けるとよく、その際に接合部品の塗装を予め剥離する、あるいは、塗装前にシールして塗料の付着を防止するとよい。
【0041】
以上のように、本実施の形態で説明した自動車用衝突エネルギー吸収部品1を有する車体の製造方法によれば、筒状部材3に塗膜形成部材5を設けたことで、自動車部品製造の塗装工程で一般的に行われている電着塗装の際に、筒状部材3と塗膜形成部材5との間の隙間11に電着塗料による塗膜13が形成されるので、生産コストを大きく上昇させることなく衝突エネルギーの吸収効果が高い自動車用衝突エネルギー吸収部品1を製造することができる。
【0042】
本実施の形態では、
図5に断面図を示したような、アウタ部品7の縦壁部7bに塗膜形成部材5の接合部12を設け、天板部7a、コーナー部7c及び縦壁部7bの一部の外面に亘って塗膜13を形成する自動車用衝突エネルギー吸収部品1を例示したが、本発明はこれに限るものではない。
例えば
図6に示すように、縦壁部7bがわずかであって天板部7a及びコーナー部7cを主体とする外面に塗膜を形成するようにしてもよい。
また、前述したように、衝突時に特に割れが発生しやすいコーナー部7cの外面に塗膜を形成するようにすれば衝突エネルギー吸収効果の向上が期待できるため、
図7に示すようにコーナー部7cを主体とする外面に塗膜13を形成するようにしてもよい。このとき、二つの塗膜形成部材5を用いて天板部7aと縦壁部7bにそれぞれ接合部12を設けてもよいし(
図7(a))、一つの塗膜形成部材5を用いて、天板部7aの中央に接触または接合させ、縦壁部7bに接合部12を設けてもよい(
図7(b))。
【0043】
また、
図8に示すように、縦壁部7b及びコーナー部7cの外面に塗膜13を形成するようにしてもよい。
図7と同様に、二つの塗膜形成部材5を用いて天板部7aと縦壁部7bにそれぞれ接合部12を設けてもよいし(
図8(a))、一つの塗膜形成部材5を用いて、天板部7aの中央に接触または接合させ、縦壁部7bに接合部12を設けてもよい(
図8(b))。
さらに、
図9に示すようなハット断面型の塗膜形成部材5をアウタ部品7とインナ部品9と合わせて接合部10で接合するようにしてもよい。
【0044】
また、本実施の形態の自動車用衝突エネルギー吸収部品1ではハット断面形状のアウタ部品7と平板形状のインナ部品9からなる筒状部材3を例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、
図10に例を示すハット断面部材を対向させてフランジ部を合わせてなるような筒状部材にも適用可能である。
図10(a)は、対向したハット断面部材のそれぞれに
図6に示した態様の塗膜形成部材5を設けた例である。同様に、
図10(b)は
図7(a)に示した態様、
図10(c)は
図8(a)に示した態様、
図10(d)は
図9に示した態様の塗膜形成部材5を設けた例である。
なお、
図10においては、アウタ部品7については
図5~
図9と同じ符号を付し、インナ部品9についてはアウタ部品7に対応する符号を付している。
また、
図10ではアウタ部品7とインナ部品9が同形状のハット断面部材である例を示したが、インナ部品9はアウタ部品7と異なる形状のハット断面部材であってもよい。
また、一方のアウタ部品またはインナ部品が塗膜形成部材5により塗膜13を有し、他方のインナ部品またはアウタ部品が従来の塗膜形成部材のないハット断面部材や山折れ部材でも良い。
【実施例0045】
本発明の中間製造部品である自動車用衝突エネルギー吸収部品1は新規の部品であるため、その衝突エネルギー吸収効果を確認する実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0046】
本実施例では、本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1を試験体とし、軸圧壊試験による衝突エネルギーの吸収特性の評価と、打撃振動試験における周波数応答関数の測定と固有振動数の算出による制振特性の評価を行った。
【0047】
軸圧壊試験においては、
図11に示すように、筒状部材3を有する試験体21の軸方向に試験速度17.8m/sで荷重を入力して試験体長(試験体21の軸方向長さL
0)を200mmから120mmまで80mm軸圧壊変形させたときの荷重とストローク(軸圧壊変形量)の関係を示す荷重-ストローク曲線を測定するとともに、高速度カメラによる撮影を行い変形状態と筒状部材3における破断発生の有無を観察した。さらに、測定した荷重-ストローク曲線から、ストロークが0~80mmまでの吸収エネルギーを求めた。
【0048】
一方、打撃振動試験においては、
図12に示すように、吊り下げた試験体21に加速度センサー(小野測器製:NP-3211)をアウタ部品7の天板部7a内側のエッジ付近に取り付け、インパクトハンマ(小野測器製:GK-3100)で試験体21のアウタ部品7の縦壁部7b内側を打撃加振し、加振力と試験体21に発生した加速度をFFTアナライザ(小野測器製:CF-7200A)に取り込み、周波数応答関数を算出した。ここで、周波数応答関数は、5回の打撃による平均化処理とカーブフィットにより算出した。そして、算出した周波数応答関数により振動モード解析を行い、同一モードにおける固有振動数を求めた。
図13に、対象とした振動モードの例を示す。
【0049】
図14に、塗膜13が形成された自動車用衝突エネルギー吸収部品1(
図2及び
図5(b))である試験体21の構造及び形状を示す。
試験体21は、アウタ部品7とインナ部品9とがスポット溶接により接合された筒状部材3を有し、塗膜形成部材5がアウタ部品7の縦壁部7bの外面に接合されている。アウタ部品7と塗膜形成部材5の間には塗膜13が形成されている。
【0050】
図14には天板部7aと塗膜形成部材5の間の隙間11を3mmとした例を示したが、本実施例では隙間11を2mm、1mm、0.2mmとした試験体21も用意し、隙間11内に形成される塗膜13の厚みを変えながら試験を行った。
【0051】
さらに比較例として、
図15に示すような筒状部材3及び塗膜形成部材5を有し、塗膜13が形成されていない隙間11のみの試験体31を用意し、発明例と同様に軸圧壊試験及び打撃振動試験を行った。
表2に、発明例である試験体21及び比較例である試験体31の構造及び塗膜の各条件及び試験体重量、さらに、軸圧壊試験を行ったときの吸収エネルギーの算出結果と、打撃振動試験により求めた固有振動数の結果を示す。
【0052】
【0053】
発明例1~発明例5はいずれも、塗膜形成部材5と塗膜13を備えた試験体21(
図14)を用いたものであり、アウタ部品7及び塗膜形成部材5の強度(材質)や塗膜13の厚みを変化させたものである。
一方、比較例1~比較例4は、塗膜形成部材5を備えるが、塗膜13が形成されていない試験体31(
図15)を用いたものであり、アウタ部品7の強度(材質)及び板厚やアウタ部品7と塗膜形成部材5間の隙間11を変化させたものである。
比較例5は、塗膜形成部材5を備えずに塗膜13を形成させたものである。
比較例6は、試験体21と同様に塗膜形成部材5と塗膜13を備えるものであるが、塗膜形成部材5の材質(780MPa級)がアウタ部品7及びインナ部品9の材質(590MPa級)の強度を上回るものである。
【0054】
表2に示す試験体重量は、塗膜形成部材5を有し、かつ、塗膜13が形成されているもの(発明例1~発明例5、比較例6)についてはアウタ部品7、インナ部品9、塗膜形成部材5及び塗膜13の各重量の総和であり、塗膜13がないもの(比較例1~比較例4)についてはアウタ部品7、インナ部品9及び塗膜形成部材5の各重量の総和である。また、塗膜形成部材5を有さず、塗膜13が形成されているもの(比較例5)はアウタ部品7、インナ部品9及び塗膜13の各重量の総和である。
【0055】
比較例1は、試験体重量1.08kgfであり、吸収エネルギーは6.5kJであった。さらに、固有振動数は155Hzであった。
【0056】
比較例2は、比較例1に対してアウタ部品7の板厚と、アウタ部品7及び塗膜形成部材5間の隙間を変更したものであり、試験体重量は1.19kgf、吸収エネルギーは7.0kJであり、比較例1より増加した。固有振動数は175Hzであった。
【0057】
比較例3は、アウタ部品7を980MPa級の高強度鋼板としたものであり、試験体重量は1.08kgfであった。吸収エネルギーは8.1kJであり、比較例2よりもさらに増加したが、筒状部材3に破断が発生した。固有振動数は155Hzであった。
【0058】
比較例4は、アウタ部品7を1180MPa級の高強度鋼板としたものであり、試験体重量は1.09kgfであった。吸収エネルギーは8.5kJであり、比較例3よりもさらに増加したが、筒状部材3に破断が発生した。固有振動数は155Hzであった。
【0059】
比較例5は、アウタ部品7を1180MPa級の高強度鋼板とし、塗膜形成部材5を設置せずに塗膜13を成膜させたものであり、塗膜13の厚みは従来と同様に0.05mmであった。試験体重量は0.96kgfであり、吸収エネルギーは8.7kJと比較例4より増加したが、筒状部材3に破断が発生した。固有振動数は195Hzであった。
【0060】
比較例6は、塗膜形成部材5の材質がアウタ部品7及びインナ部品9(筒状部材3)の材質の強度を上回るものであり、さらに3mmの厚みの塗膜13が形成されたものである。
試験体重量は1.28kgfであり、吸収エネルギーは8.1kJと比較例2よりも増加したが、筒状部材3が蛇腹状とならず不均一な変形が発生した。固有振動数は350Hzであった。
【0061】
発明例1は、アウタ部品7を鋼板強度590MPa級の鋼板とし、塗膜13の厚みが3mmである試験体21を用いたものである。
発明例1における吸収エネルギーは、11.1kJであった。塗膜13を形成していない同一材質の比較例1における吸収エネルギー(=6.5kJ)に比べて大幅に向上し、筒状部材3に破断は発生しなかった。その上、アウタ部品7を980MPa級の高強度鋼板とした比較例3(=8.1kJ)や1180MPa級の比較例4(=8.5kJ)と比較しても大幅に向上した。
発明例1の試験体重量(=1.28kgf)は比較例1(=1.08kgf)、比較例3(=1.08kgf)及び比較例4(=1.09kgf)よりも増加しているが、吸収エネルギーを試験体重量で除した単位重量当りの吸収エネルギーは8.7kJ/kgfであり、比較例1(=6.0kJ/kgf)、比較例3(=7.5kJ/kgf)及び比較例4(=7.8kJ/kgf)よりも向上した。
また、発明例1における固有振動数は430Hzであり、比較例1、比較例3及び比較例4(=155Hz)よりも大幅に上昇した。
【0062】
発明例2は、発明例1と同一材質を用いて、塗膜13の厚みを2mmとしたものである。
試験体重量は1.21kgfであり、発明例1(=1.28kgf)よりも軽量となった。
発明例2における吸収エネルギーは9.0kJであり、同一形状でアウタ部品の板厚が厚い比較例2における吸収エネルギー(=7.0kJ)に比べても向上した。筒状部材3に破断は発生しなかった。
さらに、発明例2における単位重量当たりの吸収エネルギーは7.4kJ/kgfであり、比較例2(=5.9kJ/kgf)よりも向上した。
また、発明例2における固有振動数は、340Hzであり、比較例2(=175Hz)よりも大幅に上昇した。
【0063】
発明例3は発明例2と同様に塗膜13の厚みを2mmとしたものであり、塗膜形成部材5の鋼板強度を440MPa級としたものである。
塗膜形成部材5の鋼板強度がアウタ部品の鋼板強度を超える780MPa級である比較例6では筒状部材3に破断が生じたが、発明例3では比較的均一な蛇腹形状であった。
また、発明例3の吸収エネルギーは9.5kJであり、比較例6(=8.1kJ)と比べて向上した。
【0064】
発明例4は、アウタ部品7を鋼板強度1180MPa級の高強度鋼板としたもので、塗膜13の厚みを1mmとしたものである。
発明例4における吸収エネルギーは11.2kJであり、筒状部材3に破断は発生しなかった。アウタ部品7に同一素材の鋼板を用いて、破断が生じていた比較例4(=8.5kJ)よりも大幅に向上した。
また、発明例4における試験体重量は発明例1よりも軽量の1.17kgfであり、さらに、単位重量当たりの吸収エネルギー(=9.6kJ/kgf)は、発明例1(=8.7kJ/kgf)及び比較例4(=7.8kJ/kgf)よりも向上した。
さらに、発明例4における固有振動数は、310Hzであり、比較例4(=155Hz)よりも大幅に上昇した。
【0065】
発明例5は、発明例4と同一素材のものにおいて、塗膜13の厚みを通常のラミネート鋼板におけるラミネートと同程度である0.2mmとしたものであり、試験体重量は1.10kgfであった。
発明例5における吸収エネルギーは10.7kJ、単位重量あたりの吸収エネルギーは9.7kJ/kgfであり、塗膜形成部材5を備えずに0.05mmの塗膜を形成した比較例5(=9.1kJ/kgf)と比べて向上した。
また、比較例5は筒状部材に破断が生じたが、発明例5は破断が生じなかった。
さらに、発明例5における固有振動数は280Hzであり、比較例5(=195Hz)よりも上昇した。
【0066】
なお、表中に記載はないが、アウタ部品7と塗膜形成部材5の隙間を4mm以上にした場合、すなわち、4mm以上の厚みの塗膜13を形成させた場合には、電着塗装の焼付処理で十分な乾燥を行うことができなかった。よって、本発明における塗膜13の適切な厚みを0.2mm~3mmとした。
【0067】
以上より、本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、軸方向に衝突荷重が入力して軸圧壊する場合において、重量の増加を抑えつつ衝突エネルギーの吸収効果を効率良く向上でき、かつ、衝撃を加えたときの固有振動数が上昇して制振性を向上できることが示された。
【0068】
なお、固有振動数が上昇することにより制振性が向上する理由は、以下のとおりである。
上述するフロントサイドメンバーのような衝突部材である筒状部材3の固有振動数が、当該部材に搭載されるエンジンの振動の周波数範囲に入ると、共振して振動が大きくなる。
例えば、エンジンが通常走行の高回転域である4000rpmで回転すると、クランクシャフトは同じ回転数で回り、4サイクルエンジンでは2回転に1回爆発して振動するため、振動の周波数は4気筒エンジンで133Hz、6気筒エンジンで200Hz、8気筒エンジンで267Hzとなる。
従って、発明例1~5の約280Hz以上の固有振動数であれば、上記の共振を確実に防ぐことができて制振性が向上するわけである。